(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】リチウム‐硫黄電池用正極スラリー、これを利用して製造されたリチウム‐硫黄電池用正極及びこれを含むリチウム‐硫黄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1397 20100101AFI20240826BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/137 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/1399 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240826BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240826BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20240826BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240826BHJP
【FI】
H01M4/1397
H01M4/136
H01M4/137
H01M4/1399
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
H01M4/60
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2022545119
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 KR2021012368
(87)【国際公開番号】W WO2022060019
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】10-2020-0121526
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0120228
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ミジン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ウン・キョン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ドンソク・シン
(72)【発明者】
【氏名】クォンナム・ソン
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502459(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0037149(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0068066(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0060262(KR,A)
【文献】国際公開第2016/170768(WO,A1)
【文献】特開2016-134242(JP,A)
【文献】特開2015-219964(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0062955(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム‐硫黄電池用正極を製造するための正極スラリーであって、
前記正極スラリーは、正極活物質、導電材、バインダー及び溶媒を含み、
前記正極スラリーの平均粒径(D
50)に対する前記正極活物質の平均粒径(D
50)の割合が1.5以下であり、
レオメーターを使用し、23℃で0.08%の応力を加えながら1Hzの周波数で測定した前記正極スラリー
の位相角
が50゜以上である
、リチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項2】
前記正極活物質は平均粒径(D
50)が28μmないし60μmである、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項3】
前記正極スラリーは平均粒径(D
50)が20μmないし40μmである、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項4】
前記正極スラリーの平均粒径(D
50)に対する前記正極活物質の平均粒径(D
50)の割合は0.1ないし1.5である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項5】
前記正極スラリーは周波数が1Hzの条件で測定した位相角が50゜ないし70゜である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項6】
前記正極スラリーは23℃及びせん断速度0.25s
‐1の条件で測定した粘度が30ないし80Pa・sである、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項7】
前記正極活物質は硫黄‐炭素複合体を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項8】
前記硫黄‐炭素複合体は、多孔性炭素材及び前記多孔性炭素材の内部及び外部表面の中で少なくとも一部に硫黄を含むものである、請求項7に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項9】
前記多孔性炭素材は、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、炭素ナノチューブ、炭素繊維、黒鉛及び活性炭素からなる群から選択される1種以上を含む、請求項8に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項10】
前記硫黄は、無機硫黄、Li
2S
n(n≧1)、ジスルフィド化合物、有機硫黄化合物及び炭素‐硫黄ポリマー((C
2S
x)
n、x=2.5ないし50、n≧2)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項8又は9に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリー。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを利用して形成された正極活物質層を含むリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウム‐硫黄電池用正極;
負極及び
電解質を含むリチウム‐硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2020年09月21日付韓国特許出願第10‐2020‐0121526号及び2021年9月9日付韓国特許出願第10‐2021‐0120228号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示している全ての内容は本明細書の一部として組み込む。
【0002】
本発明はリチウム‐硫黄電池用正極スラリー、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池用正極及びリチウム‐硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池の活用範囲が携帯用電子機器及び通信機器だけでなく電気自動車(electric vehicle;EV)、電力貯蔵装置(electric storage system;ESS)まで拡大されながら、これらの電源として使用されるリチウム二次電池の高容量化に対する要求が高まっている。
【0004】
幾つかのリチウム二次電池の中で、リチウム‐硫黄電池は硫黄‐硫黄結合(sulfur‐sulfur bond)を含む硫黄系列物質を正極活物質として使用し、リチウム金属、リチウムイオンの挿入/脱挿入が生じる炭素系物質またはリチウムと合金を形成するシリコンやスズなどを負極活物質として使用する電池システムである。
【0005】
リチウム‐硫黄電池において、正極活物質の主材料である硫黄は単位原子あたり低い重さを持ち、資源が豊かで需給が容易であり、安価で、毒性がなく、環境にやさしい物質という長所がある。
【0006】
また、リチウム‐硫黄電池は正極でリチウムイオンと硫黄の変換(conversion)反応(S8+16Li++16e‐→8Li2S)から出る理論放電容量が1,675mAh/gに至って、負極でリチウム金属(理論容量:3,860mAh/g)を使用する場合2,600Wh/kgの理論エネルギー密度を示す。これは現在研究されている他の電池システム(Ni‐MH電池:450Wh/kg、Li‐FeS電池:480Wh/kg、Li‐MnO2電池:1,000Wh/kg、Na‐S電池:800Wh/kg)及びリチウムイオン電池(250Wh/kg)の理論エネルギー密度に比べてとても高い数値を持つため、リチウム‐硫黄電池は電池の高性能化だけでなく経済性及び環境にやさしい特性に対する要求をよく満たすことができる電池として、現在これに対する研究が活発に行われている。
【0007】
リチウム‐硫黄電池用正極は、一般的に正極活物質、導電材、バインダー及び溶媒を含む正極スラリーを正極集電体上に塗布して乾燥させた後、加圧成形する方法で製造される。
【0008】
しかし、リチウム‐硫黄電池の場合、正極スラリーの物性は正極の構成及び電池の性能に大きい影響を及ぼすので、正極スラリーは正極を製造するにあたり特に重要な要素である。
【0009】
ここで、リチウム‐硫黄電池において、正極スラリーの物性を改善するための多様な技術が提案された。
【0010】
一例として、韓国公開特許第2019‐0085874号は、正極スラリーに炭素数1ないし5の低級アルコールを含むことで正極スラリーの分散性を改善することができることを開示している。
【0011】
また、韓国公開特許第2017‐0081840号は、導電材及び溶媒を含む線分散液を製造し、前記線分散液を活物質及びバインダーと混合する段階を通じて正極スラリーを製造することで正極スラリーの分散性とコーティング性を向上させることができることを開示している。
【0012】
これらの特許は、正極スラリーの組成や製造方法を異にすることで正極スラリーの分散性、レオロジー特性などをある程度改善したが、その効果が十分ではない。特に、正極スラリーの物性を改善するために添加剤を導入する場合、リチウム‐硫黄電池の性能が低下される問題がある。よって、高い固形分含量を持ちながら、分散性及び流れ性に優れるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーの開発がさらに必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】韓国公開特許第2019‐0085874号(2019年07月19日)、正極スラリー組成物、これを使用して製造された正極及びこれを含む電池
【文献】韓国公開特許第2017‐0081840号(2017年07月13日)、リチウム二次電池用正極スラリーの製造方法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ここで、本発明者らは前記問題を解決するために多角的に研究した結果、正極活物質と正極スラリーの平均粒径の割合と正極スラリーの位相角を調節する場合、正極スラリーの組成または製造工程の変更がなくてもリチウム‐硫黄電池用正極スラリーの全般的な物性を向上させることができることを確認して本発明を完成した。
【0015】
したがって、本発明の目的は高い固形分含量を持ちながら流れ性及び工程性が向上されたリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを提供することである。
【0016】
また、本発明の他の目的は前記リチウム‐硫黄電池用正極スラリーで製造されたリチウム‐硫黄電池用正極及び前記リチウム‐硫黄電池用正極を含むリチウム‐硫黄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明はリチウム‐硫黄電池用正極を製造するための正極スラリーであって、前記正極スラリーは正極活物質、導電材、バインダー及び溶媒を含み、前記正極スラリーの平均粒径(D50)に対する前記正極活物質の平均粒径(D50)の割合が1.5以下で、前記正極スラリーの1Hzでの位相角は50゜以上であるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを提供する。
【0018】
また、本発明は前記リチウム‐硫黄電池用正極スラリーを利用して形成された正極活物質層を含むリチウム‐硫黄電池用正極を提供する。
【0019】
同時に、本発明は前記リチウム‐硫黄電池用正極を含むリチウム‐硫黄電池を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のリチウム‐硫黄電池用正極スラリーは固形分の含量が高いながら優れる流れ性を示して優れる電気化学的特性を持つリチウム‐硫黄電池用正極の製造ができるようにし、リチウム‐硫黄電池用正極の製造工程の生産性及び経済性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に附合する意味と概念で解釈しなければならない。
【0022】
本発明で使用した用語は、単に特定実施例を説明するために使われたものであって、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は文脈上明らかに違うことを意味しない限り、複数の表現を含む。本発明において、「含む」または「持つ」などの用語は明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性を予め排除しないものとして理解しなければならない。
【0023】
本明細書で使われている用語「平均粒径(D50)」は粒子の粒径分布曲線において、体積累積量が50%に該当する粒径を意味するものであって、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を利用して測定することができる。
【0024】
本明細書で使われている用語「複合体(composite)」とは、2つ以上の材料が組み合わせられて物理的・化学的に相互異なる相(phase)を形成しながらより有効な機能を発現する物質を意味する。
【0025】
リチウム‐硫黄電池は幾つかの二次電池の中で高い理論放電容量及び理論エネルギー密度を持ち、正極活物質の主材料として使われる硫黄は埋蔵量が豊かで低価であり、なお環境にやさしいという利点によって次世代二次電池として脚光を浴びている。
【0026】
このようなリチウム‐硫黄電池の性能は電池を構成する各要素の特徴によって多様に変化することができるが、その中でも電極の構成は電池性能に直接影響を及ぼす。特に、正極を構成するスラリーの固形分濃度及び活物質ローディング量は正極製造の工程性及びそれによって形成される正極の特性に重要な影響を及ぼす。
【0027】
一般に、リチウム‐硫黄電池用正極スラリーの場合、固形分の分散性が低くて正極表面にクラックが発生したり粒子が凝集するなど正極の表面状態を悪化させ、正極活物質のローディング量が増加するほどこのような現象はより加速化する問題があった。
【0028】
このため、従来技術では正極スラリーに添加剤を追加したり、正極スラリーに含まれる一部の組成を個別的に分散させた後で混合したり過量の溶媒を投入して正極スラリーを製造する方法が提案された。しかし、この場合、高分子分散剤のような添加剤は電池内で抵抗として作用して電池性能に悪影響を及ぼし、正極スラリーの固形分濃度が減少して正極に活物質を高容量でローディング(high loading)しにくい限界があり、製造工程側面でも非効率的であるという短所がある。
【0029】
ここで、本発明では正極活物質と正極スラリーとの間の平均粒径の割合を調節して正極スラリーの位相角が一定範囲を満すようにすることで、別途添加剤や製造工程の変更がなくても固形分含量が高いながら流れ性に優れるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを提供する。
【0030】
具体的に、本発明による正極スラリーはリチウム‐硫黄電池用正極を製造するためのもので、前記正極スラリーは正極活物質、導電材、バインダー及び溶媒を含み、前記正極スラリーの平均粒径(D50)に対する前記正極活物質の平均粒径(D50)の割合が1.5以下であり、前記正極スラリーの周波数が1Hzである条件で測定した位相角(phase angle、δ)は50゜以上であることを特徴とする。
【0031】
本発明において、前記正極スラリーの平均粒径は、正極活物質、導電材及びバインダーを溶媒相で混合して、最終的に得られた正極スラリー自体の粒子の大きさを意味する。一般に、正極スラリーの平均粒径は、これに含まれた正極活物質の平均粒径に依存することがあるが、正極スラリーの製造工程の際に分散のために混合する工程によって正極活物質の粒子の大きさは可変されるので、正極スラリーの平均粒径と正極活物質の平均粒径は区別される。
【0032】
本発明によると、正極スラリーに対する正極活物質の平均粒径の割合を特定範囲以下で調節することによって正極活物質の活性化された表面が相対的に少なくて正極活物質、導電材、バインダーの分散性を向上させ、このような正極活物質はバインダーと弱く結合して正極スラリーの弾性を下げながら粘性に該当する流れ性は高めることができるし、これによって、従来に比べて正極スラリー内の最終固形分の含量を増加させることができる。また、正極スラリーの粘度を下げて流れ性を改善し、工程性を向上させることができる。
【0033】
前記正極活物質は、平均粒径(D50)が28ないし60μm、好ましくは30ないし55μm、より好ましくは30ないし50μmである。
【0034】
前記正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極スラリーは平均粒径(D50)が20ないし40μm、好ましくは25ないし40μm、より好ましくは25ないし35μmである。
【0035】
前記正極スラリーの平均粒径(D50)に対する前記正極活物質の平均粒径(D50)の割合は1.5以下、好ましくは0.1ないし1.5、より好ましくは0.2ないし1.5、さらに好ましくは0.5ないし1.5、最も好ましくは1.0ないし1.5である。本発明において、前記正極スラリーの平均粒径に対する前記正極活物質の平均粒径の割合は「正極活物質の平均粒径/正極スラリーの平均粒径」に対応する。前記正極スラリーに対する正極活物質の平均粒径の割合が前述した範囲に該当することによって正極スラリーに含まれる各成分を均一に分散させることができるし、これらが一定水準の凝集状態を表して、正極スラリーが液体のような(liquid like)流れ挙動を持つことができる。
【0036】
上述した正極活物質と正極スラリーの平均粒径(D50)の割合を持つことで本発明による正極スラリーは1Hzでの位相角が50゜以上、好ましくは50ないし70゜である。本発明において、前記位相角は該当技術分野で公知された方法によってレオメーター(rheometer)を使用して周波数が1Hzである条件で測定したものである。前記正極スラリーの位相角が70゜を超えるとコーティングの際に基材からスラリーが流れる恐れがある。
【0037】
また、本発明の正極スラリーは23℃及びせん断速度(shear rate)0.25s‐1の条件で測定した粘度が30ないし80Pa・s、好ましくは32ないし70Pa・s、より好ましくは35ないし60Pa・s、より好ましくは40ないし60Pa・s、最も好ましくは43ないし58Pa・sである。前記正極スラリーの粘度が前記範囲未満の場合、コーティング性が低下されることがあるし、これと逆に前記範囲を超える場合、弾性が高くなって固形分も低くなることがある。
【0038】
本発明による正極スラリーは正極スラリーの組成または製造工程を変更せずに、正極スラリーに対する正極活物質の平均粒径の割合が一定範囲に該当するように調節することによって位相角の条件を満たし、高い固形分を持ちながら凝集性及び流れ性を大きく向上させることができる。
【0039】
以下、本発明による正極スラリーの各成分について説明する。
【0040】
本発明による正極スラリーはリチウム‐硫黄電池のためのものであって、正極活物質として硫黄‐炭素複合体を含む。
【0041】
前記硫黄‐炭素複合体は、多孔性炭素材及び前記多孔性炭素材の内部及び外部表面の中で少なくとも一部に硫黄を含む。リチウム‐硫黄電池で正極活物質として使用される硫黄は単独では電気伝導性がないため炭素材のような伝導性素材と複合化して使用される。これによって、前記硫黄は硫黄‐炭素複合体の形態で含まれる。
【0042】
前記硫黄は硫黄元素(S8)及び硫黄化合物からなる群から選択される1種以上を含むことができる。前記正極活物質は無機硫黄、Li2Sn(n≧1)、ジスルフィド化合物、有機硫黄化合物及び炭素‐硫黄ポリマー((C2Sx)n、x=2.5ないし50、n≧2)からなる群から選択される1種以上を含むことができる。好ましくは、前記硫黄は無機硫黄である。
【0043】
前記硫黄‐炭素複合体は前述した硫黄が均一で安定的に固定されることができる骨格を提供するだけでなく硫黄の低い電気伝導率を補完して電気化学的反応が円滑に行われるように多孔性炭素材を含む。
【0044】
前記多孔性炭素材は一般的に多様な炭素材質の前駆体を炭化させて製造されることができる。前記多孔性炭素材は内部に一定しない気孔を含み、前記気孔の平均直径は1ないし200nm範囲であり、気孔率または孔隙率は多孔性炭素材全体体積の10ないし90%範囲である。もし、前記気孔の平均直径が前記範囲未満の場合気孔の大きさが分子水準に過ぎないため硫黄の含浸が不可能であり、これと逆に前記範囲を超える場合多孔性炭素材の機械的強度が弱化されて電極の製造工程に適用するに好ましくない。
【0045】
前記多孔性炭素材の形態は、球形、棒形、針状、板状、チューブ型またはバルク型で、リチウム‐硫黄電池に通常使われるものであれば制限せずに使われることができる。
【0046】
前記多孔性炭素材は多孔性構造であるか、または比表面積が高いものであって、当業界で通常使われるものであればいずれもかまわない。例えば、前記多孔性炭素材では、グラファイト(graphite);グラフェン(graphene);デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;単一壁炭素ナノチューブ(SWCNT)、多重壁炭素ナノチューブ(MWCNT)などの炭素ナノチューブ(CNT);グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)、活性化炭素ファイバー(ACF)などの炭素繊維;天然黒鉛、人造黒鉛、膨脹黒鉛などの黒鉛及び活性炭素からなる群から選択された1種以上であってもよいが、これに制限されない。好ましくは、前記多孔性炭素材は炭素ナノチューブである。
【0047】
前記硫黄‐炭素複合体において、前記硫黄は前記多孔性炭素材の内部及び外部表面の中で少なくともいずれか1ヶ所に位置し、一例として前記多孔性炭素材の内部及び外部全体表面の100%未満、好ましくは1ないし95%、より好ましくは40ないし96%領域に存在することができる。前記硫黄が前記多孔性炭素材の内部及び外部表面に前記範囲内で存在する時、電子伝達面積及び電解質との濡れ性の面で最大効果を示すことができる。具体的に、前記硫黄が前述した範囲の領域で前記多孔性炭素材の内部及び外部表面に薄くて均一に含浸されるので、充・放電過程で電子伝達接触面積を増加させることができる。もし、前記硫黄が前記多孔性炭素材の内部及び外部全体表面の100%領域に位置する場合、前記多孔性炭素材が完全に硫黄で覆われて電解質に対する濡れ性が落ちるし、接触性が低下して電子伝達を受けることができず、電気化学反応に参加することができなくなる。
【0048】
前記硫黄‐炭素複合体は、硫黄‐炭素複合体100重量%を基準にして前記硫黄を65ないし90重量%、好ましくは70ないし85重量%、より好ましくは72ないし80重量%で含むことができる。前記硫黄の含量が前述した範囲未満の場合、硫黄‐炭素複合体内の多孔性炭素材の含量が相対的に多くなるにつれ比表面積が増加し、正極製造の際にバインダーの含量が増加する。このようなバインダーの使容量増加は、結局正極の面抵抗を増加させて電子移動(electron pass)を防ぐ絶縁体の役目をするようになって電池性能を低下させることができる。これと逆に、前記硫黄の含量が前述した範囲を超える場合、多孔性炭素材と結合できなかった硫黄がそれらどうしで集まったり多孔性炭素材の表面に再湧出されることによって電子を受けにくくなって電気化学的反応に参加することができず、電池容量の損失が発生することがある。
【0049】
前記硫黄‐炭素複合体の製造方法は本発明で特に限定せず、当業界で通常使われる方法が使用されることができる。一例として、前記硫黄と多孔性炭素材を単純混合した後、熱処理して複合化する方法が使われることができる。
【0050】
前記正極活物質は前述した組成以外、遷移金属元素、IIIA族元素、IVA族元素、これらの元素の硫黄化合物、及びこれらの元素と硫黄の合金の中で選択される一つ以上をさらに含むことができる。
【0051】
前記遷移金属元素では、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、AuまたはHgなどが含まれ、前記IIIA族元素では、Al、Ga、In、Tlなどが含まれ、前記IVA族元素ではGe、Sn、Pbなどが含まれる。
【0052】
本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーは、導電性を与えるために導電材を含むことができる。前記導電材は電解質と正極活物質を電気的に連結させて集電体(current collector)から電子が正極活物質まで移動する経路の役目をする物質であって、導電性を持つものであれば制限せずに使用することができる。
【0053】
例えば、前記導電材では、スーパーP(Super‐P)、デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素ナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどの炭素誘導体;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;またはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどの伝導性高分子を単独または混合して使用することができる。
【0054】
本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーは正極集電体に対する付着力を提供するためにバインダーを含むことができる。前記バインダーは正極活物質を正極集電体に維持させ、正極活物質の間を有機的に連結させてこれらの間の結着力をより高めることで、当該業界で公知された全てのバインダーを使用することができる。
【0055】
例えば、前記バインダーはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride、PVdF)またはポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)を含むフッ素樹脂系バインダー;スチレン‐ブタジエンゴム(styrene butadiene rubber、SBR)、アクリロニトリル‐ブチジエンゴム、スチレン‐イソプレンゴムを含むゴム系バインダー;カルボキシメチルセルロース(carboxyl methyl cellulose、CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロースを含むセルロース系バインダー;ポリアルコール系バインダー;ポリエチレン、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系バインダー;ポリイミド系バインダー;ポリエステル系バインダー;及びシラン系バインダー;からなる群から選択された1種、2種以上の混合物または共重合体を使用することができる。
【0056】
本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーは溶媒を含むことができる。前記溶媒は前述した正極活物質、導電材及びバインダーを均一に分散させることができるし、乾燥が容易なものを使用する。
【0057】
例えば、前記溶媒は水系溶媒として水が最も好ましく、このとき、水は蒸溜水(distilled water)、脱イオン水(deionzied water)である。ただし、必ずこれに限定することではなく、必要な場合、水と容易に混合可能な低級アルコールのような有機溶媒が一緒に使われることができる。前記低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノールなどがあり、好ましくはこれらは水と一緒に混合して使われることができる。
【0058】
本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーの製造方法は特に限定されないし、通常の技術者によって公知の方法またはこれを変形する多様な方法が使用可能である。
【0059】
一例として、前記リチウム‐硫黄電池用正極スラリーは、導電材、バインダー及び溶媒を混合して混合物を製造した後、前記混合物に正極活物質を投入し、撹拌して製造されることができるし、このとき、前述したように、前記正極活物質と正極スラリーの平均粒径(D50)の割合が1.5以下の条件を満たすように投入する正極活物質の平均粒径と最終的に製造される正極スラリーの平均粒径を調節することが好ましい。
【0060】
特に、本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーの製造方法の場合、平均粒径を調節した正極活物質を原料で使用することによって最終製造される正極スラリーの平均粒径到達までの工程エネルギーを最小化することができて、工程の経済性及び効率性の側面で有利な利点がある。具体的に、従来方式の場合、正極スラリー製造の際に60W以上の工程エネルギーが必要であったが、本発明の場合、50W以下の工程エネルギーでも充分目的とした正極スラリーの平均粒径に到逹することができて好ましい。
【0061】
前記混合または撹拌は通常の分散装置を使用することができる。一例として、ペーストミキサー(paste mixer)、シェーカー(shaker)、ホモジナイザー(homogenizer)、ペイントシェーカー(paint shaker)、超音波分散機(ultrasonic homogenizer)、ビードミル(bead mill)、ロールミル(roll mill)、アペクスミル(apex mill)、振動ボールミル(vibration ball mill)及びこれらを混用した分散装置を使用することができる。好ましくは、ビードミル、振動ボールミルを使用することができるし、ビードミルを使用する場合、分散媒体としてジルコニアビード(zirconia bead)を使用することができる。
【0062】
このように製造されたリチウム‐硫黄電池用正極スラリーは、正極活物質と正極スラリーの平均粒径(D50)の割合が1.5以下で、前記正極スラリーの1Hzでの位相角は50゜以上を満たすことによって固形分の含量が高いながら凝集性及び流れ性に優れて、正極の電気化学的特性及び製造工程性を大きく向上させることができる効果がある。
【0063】
また、本発明は前記リチウム‐硫黄電池用正極スラリーを含むリチウム‐硫黄電池用正極を提供する。
【0064】
前記正極は正極集電体と前記正極集電体の少なくとも一面に形成された正極活物質層を含み、このとき、前記正極活物質層は本発明のリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを含む。
【0065】
前記正極集電体は正極活物質を支持し、当該電池に化学的変化を引き起こさずに高い導電性を持つものであれば特に制限されるものではない。例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、パラジウム、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、銀などで表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使われることができる。
【0066】
前記正極集電体はその表面に微細な凹凸を形成して正極活物質との結合力を強化させることができるし、フィルム、シート、ホイル、メッシュ、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を使用することができる。
【0067】
前記正極活物質層は前記本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを利用して形成されるもので、正極活物質、導電材及びバインダーを含むことができる。
【0068】
前記正極活物質、導電材及びバインダーの具体的な内容は前述した内容にしたがう。
【0069】
前記正極の製造方法は特に限定されないし、通常の技術者によって公知の方法またはこれを変形する多様な方法が使われることができる。
【0070】
一例として、前記正極は本発明のリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを前記正極集電体の少なくとも一面に塗布することで正極活物質層を形成して製造されるものである。
【0071】
前記塗布方法は本発明で特に限定しないし、例えば、ドクターブレード(doctor blade)、ダイキャスティング(die casting)、コンマコーティング(comma coating)、スクリーンプリンティング(screen printing)などの方法を挙げることができる。また、別途基材(substrate)上に成形した後、プレッシング(pressing)またはラミネーション(lamination)方法によって正極スラリーを正極集電体上に塗布することもできる。
【0072】
前記塗布後、溶媒除去のための乾燥工程を遂行することができる。前記乾燥工程は溶媒を充分に取り除くことができる水準の温度及び時間で遂行し、その条件は溶媒の種類によって変わることがあるので、本発明で特に制限されない。一例として、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線及び電子線などの照射による乾燥法を挙げることができる。乾燥速度は通常応力集中によって正極活物質層に亀裂が生じたり正極活物質層が正極集電体から剥離されない程度の速度範囲内でできるだけ早く溶媒を取り除けるように調整する。
【0073】
さらに、前記乾燥後、集電体をプレスすることで正極内で正極活物質層の密度を高めることもできる。プレス方法としては、金型プレス及びロールプレスなどの方法を挙げることができる。
【0074】
また、本発明は前記リチウム‐硫黄電池用正極を含むリチウム‐硫黄電池を提供する。
【0075】
前記リチウム‐硫黄電池は、正極;負極及びこれらの間に介在される電解質を含み、前記正極として本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極を含む。
【0076】
前記正極は前述した内容にしたがう。
【0077】
前記負極は負極集電体及び前記負極集全体の一面または両面に塗布された負極活物質層を含むことができる。または前記負極はリチウム板金である。
【0078】
前記負極集電体は負極活物質層の支持のためのものであって、正極集電体で説明したとおりである。
【0079】
前記負極活物質層は負極活物質以外に導電材、バインダーなどを含むことができる。このとき、前記バインダーは前述した内容にしたがう。
【0080】
前記導電材は負極活物質と電解質を電気的に連結させて集電体(current collector)から電子が負極活物質まで移動する経路の役目をする物質であって、導電性を持つものであれば制限せずに使用することができる。
【0081】
例えば、前記導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;スーパーP(Super‐P)、デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素ナノチューブ、フラーレンなどの炭素誘導体;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末またはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどの伝導性高分子を単独または混合して使用することができる。
【0082】
前記負極活物質は、リチウム(Li+)を可逆的に挿入(intercalation)または脱挿入(deintercalation)できる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質、リチウム金属またはリチウム合金を含むことができる。
【0083】
前記リチウムイオン(Li+)を可逆的に挿入または脱挿入できる物質は、例えば結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物である。前記リチウムイオン(Li+)と反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成できる物質は、例えば、酸化スズ、窒化チタンまたはシリコンである。前記リチウム合金は、例えば、リチウム(Li)とナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、アルミニウム(Al)及びスズ(Sn)からなる群から選択される金属の合金である。
【0084】
好ましくは前記負極活物質はリチウム金属であってもよく、具体的に、リチウム金属薄膜またはリチウム金属粉末の形態である。
【0085】
前記負極活物質の形成方法は特に制限されないし、当業界で通常使われる層または膜の形成方法を利用することができる。例えば、圧搾、コーティング、蒸着などの方法を利用することができる。また、集電体にリチウム薄膜がない状態で電池を組み立てた後、初期充電によって板金上に金属リチウム薄膜が形成される場合も本発明の負極に含まれる。
【0086】
前記電解質はリチウムイオンを含み、これを媒介にして正極と負極で電気化学的な酸化または還元反応を起こすためのものである。
【0087】
前記電解質はリチウム金属と反応しない非水電解液または固体電解質が可能であるが、好ましくは非水電解質で、電解質塩及び有機溶媒を含む。
【0088】
前記非水電解液に含まれる電解質塩はリチウム塩である。前記リチウム塩はリチウム二次電池用電解液に通常使われるものであれば制限せずに使われることができる。例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiC4BO8、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)2NLi、(SO2F)2NLi、(CF3SO2)3CLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム、リチウムイミドなどが使われることができる。
【0089】
前記リチウム塩の濃度は、イオン伝導率、溶解度などを考慮して適切に決まることができるし、例えば0.1ないし4.0M、好ましくは0.5ないし2.0Mである。前記リチウム塩の濃度が前記範囲未満である場合、電池駆動に適するイオン伝導率の確保が難しく、これと逆に前記範囲を超える場合、電解液の粘度が増加してリチウムイオンの移動性を低下し、リチウム塩自体の分解反応が増加して電池性能が低下することがあるので前記範囲内で適切に調節する。
【0090】
前記非水電解液に含まれる有機溶媒としては、リチウム二次電池用電解液に通常使われるものなどを制限せずに使用することができるし、例えば、エーテル、エステル、アミド、線形カーボネート、環形カーボネートなどをそれぞれ単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0091】
前記エーテル系化合物は非環形エーテル及び環形エーテルを含むことができる。
【0092】
例えば、前記非環形エーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、エチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエチルエーテルからなる群から選択される1種以上が使われることができるが、これに限定されるものではない。
【0093】
一例として、前記環形エーテルは、1,3‐ジオキソラン、4,5‐ジメチル‐ジオキソラン、4,5‐ジエチル‐ジオキソラン、4‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、4‐エチル‐1,3‐ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、2,5‐ジメチルテトラヒドロフラン、2,5‐ジメトキシテトラヒドロフラン、2‐エトキシテトラヒドロフラン、2‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、2‐ビニル‐1,3‐ジオキソラン、2,2‐ジメチル‐1,3‐ジオキソラン、2‐メトキシ‐1,3‐ジオキソラン、2‐エチル‐2‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、テトラヒドロピラン、1,4‐ジオキサン、1,2‐ジメトキシベンゼン、1,3‐ジメトキシベンゼン、1,4‐ジメトキシベンゼン、イソソルビドジメチルエーテル(isosorbide dimethyl ether)からなる群から選択される1種以上が使われることができるが、これに限定されるものではない。
【0094】
前記有機溶媒の中でエステルとしては、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネイト、エチルプロピオネイト、プロピルプロピオネイト、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン、γ‐カプロラクトン、σ‐バレロラクトン及びε‐カプロラクトンからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0095】
前記線形カーボネート化合物の具体的な例では、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート及びエチルプロピルカーボネートからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物などが代表的に使われることができるが、これに限定されるものではない。
【0096】
また、前記環形カーボネート化合物の具体的な例では、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)、1,2‐ブチレンカーボネート、2,3‐ブチレンカーボネート、1,2‐ペンチレンカーボネート、2,3‐ペンチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート及びこれらのハロゲン化物からなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物がある。これらのハロゲン化物では、例えば、フルオロエチレンカーボネート(fluoroethylene carbonate、FEC)などがあり、これに限定されるものではない。
【0097】
前記電解質は前述した電解質塩と有機溶媒以外に添加剤として硝酸または亜硝酸系化合物をさらに含むことができる。前記硝酸または亜硝酸系化合物は、負極であるリチウム金属電極に安定的な被膜を形成し、充放電効率を向上させる効果がある。
【0098】
このような硝酸または亜硝酸系化合物は本発明で特に限定しないが、硝酸リチウム(LiNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、硝酸セシウム(CsNO3)、硝酸バリウム(Ba(NO3)2)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)、亜硝酸リチウム(LiNO2)、亜硝酸カリウム(KNO2)、亜硝酸セシウム(CsNO2)、亜硝酸アンモニウム(NH4NO2)などの無機系硝酸または亜硝酸化合物;メチルニトラート、ジアルキルイミダゾリウムニトラート、グアニジンニトラート、イミダゾリウムニトラート、ピリジニウムニトラート、エチルニトラート、プロピルニトラート、ブチルニトラート、ペンチルニトラート、オクチルニトラートなどの有機系硝酸または亜硝酸化合物;ニトロメタン、ニトロプロパン、ニトロブタン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、ニトロピリジン、ジニトロピリジン、ニトロトルエン、ジニトロトルエンなどの有機ニトロ化合物及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種が可能であり、好ましくは硝酸リチウムを使用する。
【0099】
前記電解質の注入は最終製品の製造工程及び要求物性に応じて、電気化学素子の製造工程中に適切な段階で行われることができる。すなわち、電気化学素子の組み立て前または電気化学素子の組み立て最終段階などで適用されることができる。
【0100】
前記正極と負極の間にはさらに分離膜が含まれることができる。
【0101】
前記分離膜は前記正極と負極を相互分離または絶縁させ、正極と負極の間にリチウムイオンの輸送ができるようにすることで多孔性非伝導性または絶縁性物質からなることができるし、通常リチウム二次電池で分離膜として使われるものであれば特に制限せずに使用可能である。このような分離膜はフィルムのような独立的な部材であってもよく、正極及び/または負極に付加されたコーティング層であってもよい。
【0102】
前記分離膜としては、電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら電解質に対する含湿能力に優れるものが好ましい。
【0103】
前記分離膜は多孔性基材からなることができるが、前記多孔性基材は通常二次電池に使われる多孔性基材であればいずれも使用可能で、多孔性高分子フィルムを単独でまたはこれらを積層して使用することができるし、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布またはポリオレフィン系多孔性膜を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0104】
前記多孔性基材の材質では、本発明で特に限定せず、通常電気化学素子に使われる多孔性基材であればいずれも使用可能である。例えば、前記多孔性基材は、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)などのポリオレフィン(polyolefin)、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutyleneterephthalate)などのポリエステル(polyester)、ポリアミド(polyamide)、ポリアセタール(polyacetal)、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリイミド(polyimide)、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)、ポリエテルスルホン(polyethersulfone)、ポリフェニレンオキサイド(polyphenyleneoxide)、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylenesulfide)、ポリエチレンナフタレン(polyethylenenaphthalate)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、セルロース(cellulose)、ナイロン(nylon)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(poly(p‐phenylene benzobisoxazole)及びポリアリレート(polyarylate)からなる群から選択された1種以上の材質を含むことができる。
【0105】
前記多孔性基材の厚さは特に制限されないが、1ないし100μm、好ましくは5ないし50μmである。前記多孔性基材の厚さ範囲が前述した範囲に限定されるものではないが、厚さが前述した下限より薄すぎる場合は機械的物性が低下して電池使用中に分離膜が容易に損傷されることがある。
【0106】
前記多孔性基材に存在する気孔の平均直径及び気孔率も特に制限されないが、それぞれ0.001ないし50μm及び10ないし95%である。
【0107】
本発明によるリチウム二次電池は一般的な工程である巻取(winding)以外にもセパレーターと電極の積層(lamination、stack)及びフォールディング(folding)工程が可能である。
【0108】
前記リチウム二次電池の形状は特に制限されないし、円筒状、積層型、コイン型など多様な形状にすることができる。
【0109】
また、本発明は前記リチウム二次電池を単位電池で含む電池モジュールを提供する。
【0110】
前記電池モジュールは高温安定性、長いサイクル特性及び高い容量特性などが要求される中大型デバイスの電源として使われることができる。
【0111】
前記中大型デバイスの例では、電池的モーターによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気自動車(electric vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)、プラグ‐インハイブリッド電気自動車(plug‐in hybrid electric vehicle、PHEV)などを含む電気車;電気自転車(E‐bike)、電気スクーター(E‐scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システムなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0112】
以下、本発明を理解しやすくするために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって自明なものであり、このような変形及び修正が添付の特許請求範囲に属することも当然である。
【0113】
実施例及び比較例
[実施例1]
体積が500mlのステンレススラリー容器に導電材として気相成長炭素繊維(vapor grown carbon fiber;VGCF)を5重量%及びバインダーとしてスチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース(SBR/CMC)を4重量%と一緒に水及びジルコニアビードを入れてビードミルで混合した。
【0114】
以後、前記混合物に平均粒径(D50)が45.9μmである硫黄‐炭素複合体(S:CNT=70:30(重量比))91重量%を投入し、48Wで撹拌して平均粒径(D50)が29.9μmであるリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを製造した。この時製造されたリチウム‐硫黄電池用正極スラリーの固形分含量は31%であった。
【0115】
[実施例2]
正極活物質として平均粒径(D50)が34.2μmである硫黄‐炭素複合体を同一含量で使用し、48Wで撹拌して平均粒径(D50)が29.5μmである正極スラリーを製造したことを除いては、前記実施例1と同様に遂行してリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを製造した。この時製造されたリチウム‐硫黄電池用正極スラリーの固形分含量は31%であった。
【0116】
[比較例1]
正極活物質として平均粒径(D50)が51.3μmである硫黄‐炭素複合体を同一含量で使用し、60Wで撹拌して平均粒径(D50)が29.5μmである正極スラリーを製造したことを除いては、前記実施例1と同様に遂行してリチウム‐硫黄電池用正極スラリーを製造した。この時製造されたリチウム‐硫黄電池用正極スラリーの固形分含量は31%であった。
【0117】
実験例1.正極スラリーの物性評価
(1)粘度
実施例及び比較例の正極スラリーに対して粘度を測定した。具体的にレオメーター(Discovery HR‐1、TA instruments Korea)を利用して23℃及び1rpm条件で測定した。この時得られた結果は下記表1に示す。
【0118】
(2)位相角
実施例及び比較例の正極スラリーに対して位相角を測定した。具体的に、レオメーター(Discovery HR‐1、TA instruments Korea)を利用して23℃で0.08%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数スウィーピングしながら測定した。この時得られた結果は下記表1に示す。
【0119】
【0120】
表1を通じて、実施例による正極スラリーの場合、比較例に比べてスラリーの全般的な物性が優れることを確認することができる。
【0121】
一般に、流体の位相角が大きくなるほど流体の凝集性及び流れ性が改善されたと評価するので、表1を参照すれば、実施例1及び2による正極スラリーの場合、比較例1による正極スラリーに比べて大きい位相値を示し、凝集性及び流れ性に優れることが分かる。
【0122】
また、実施例1及び2の正極スラリーは比較例1に比べて低い粘度を持って正極集電体の表面に優れる塗布特性を示すことができることが分かる。
【0123】
これに加え、実施例2及び比較例1を通じて同一な平均粒径を持つ正極スラリーを製造したにもかかわらず、投入した正極活物質の平均粒径の差によって最終製造される正極スラリーの粘度及び位相角が変わることを確認することができる。
【0124】
このような結果から、本発明による正極スラリーは正極活物質と正極スラリーの平均粒径(D50)の割合が1.5以下に該当することによって固形分の含量が高いながら正極スラリーの凝集性、流れ性及び塗布特性を向上させることができることを確認することができる。