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特許7543419組換えウイルスベクター、それを含む免疫組成物及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】組換えウイルスベクター、それを含む免疫組成物及び用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20240826BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240826BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240826BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240826BHJP
   C12N 15/863 20060101ALI20240826BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
A61K35/76
A61K39/00 H
A61P35/00
C12N15/863 Z
C12N15/12
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022549503
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(86)【国際出願番号】 CN2020075677
(87)【国際公開番号】W WO2021163874
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-10-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520108660
【氏名又は名称】ヴァクディアグン バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】VACDIAGN BIOTECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】230-230A, A2 Building, Biobay, No.218 Xinghu Street, Suzhou Industrial Park, Suzhou, Jiangsu 215123, China
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】シュー,ジエンチン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】スン,ジアハオ
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-511136(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209053(WO,A1)
【文献】特表2006-514549(JP,A)
【文献】国際公開第2020/024922(WO,A1)
【文献】特表2013-527753(JP,A)
【文献】CONLON, KC et al.,Cytokines in the Treatment of Cancer,Journal of Interferon & Cytokine Research,2019年,Vol. 39, No. 1,pp. 6-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトカインをコードするポリヌクレオチドを含む組換えウイルスベクターであって、前記サイトカインはヒトIL-7、ヒトIL-15、ヒトIL-21、およびヒトGM-CSFであり、前記ヒトIL-7のコーディング核酸配列は配列番号5に示されるとおりであり、前記ヒトIL-15のコーディング核酸配列は配列番号1に示されるとおりであり、前記ヒトIL-21のコーディング核酸配列は配列番号7に示されるとおりであり、前記ヒトGM-CSFのコーディング核酸配列は配列番号3に示されるとおりである、前記組換えウイルスベクター。
【請求項2】
前記ヒトIL-15のアミノ酸配列は配列番号2に示されるとおりである、請求項1に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項3】
前記ヒトGM-CSFのアミノ酸配列は配列番号4に示されるとおりである、請求項1又は2に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項4】
前記ヒトIL-7のアミノ酸配列は配列番号6に示されるとおりである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項5】
前記ヒトIL-21のアミノ酸配列は配列番号8に示されるとおりである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項6】
前記サイトカインをコードするポリヌクレオチドの核酸配列は配列番号15に示されるとおりであり、前記ポリヌクレオチドにコードされたアミノ酸配列は配列番号16に示されるとおりである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項7】
前記ウイルスベクターはワクシニアウイルスベクターである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項8】
前記ワクシニアウイルスベクターが、複製型ワクシニアウイルスベクター、又は、非複製型ワクシニアウイルスベクターである、請求項7に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項9】
前記複製型ワクシニアウイルスベクターが、ワクシニアウイルスTiantan株である、請求項8に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項10】
前記ワクシニアウイルスTiantan株が、752-1株である、請求項9に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項11】
前記非複製型ワクシニアウイルスベクターが、ワクシニアウイルス弱毒化ワクチンアンカラ株(Modified Vaccinia Ankara、MVA)である、請求項8に記載の組換えウイルスベクター。
【請求項12】
予防及び/又は治療有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の組換えウイルスベクターと、薬学的に許容される担体とを含む、免疫組成物。
【請求項13】
予防及び/又は治療有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の組換えウイルスベクターと、薬学的に許容される担体とを含む、抗腫瘍ワクチン。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の組換えウイルスベクター、請求項12に記載の免疫組成物又は請求項13に記載の抗腫瘍ワクチンと、その取扱説明書とを含む、キット。
【請求項15】
腫瘍の治療及び/又は予防薬物の製造における、請求項1~11のいずれか1項に記載の組換えウイルスベクター、請求項12に記載の免疫組成物又は請求項13に記載の抗腫瘍ワクチンの使用。
【請求項16】
前記腫瘍は悪性腫瘍である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記悪性腫瘍は乳がん又は結腸がんである、請求項16に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学及び免疫学の分野に属する。具体的には、本発明は、組換えウイルスベクター、それを含む免疫組成物及び用途に関し、特に、様々な腫瘍の予防及び/又は治療に用いる抗腫瘍ワクチンの製造に使用できる組換えウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍生物学及び免疫学の発展に伴い、腫瘍免疫療法は大きな進歩を遂げ、現在は腫瘍治療の発展において大きな方向性になってきている。特に、PD-1/PD-L1免疫療法が大きな成功を収めるのに伴い、腫瘍免疫療法の開発は現在腫瘍治療の新たな標的として注目を浴びている。
【0003】
抗腫瘍ワクチンは、腫瘍に対する体内の特異的免疫応答を刺激して、多くの活性化免疫細胞を生成させることにより、腫瘍細胞を殺し腫瘍細胞の成長を阻害して、腫瘍成長を低減又は阻害する効果を得る。現在、抗腫瘍ワクチンの開発も腫瘍免疫療法の研究において重点な方向性となっている。
【0004】
関連の研究によると、細胞傷害性(CD8+)T細胞とヘルパー(CD4+)T細胞が腫瘍拒絶反応において重要な役割を果たすことが判明した。そのため、抗腫瘍ワクチンの殆どは細胞の特異的T細胞応答を誘導することを目的としている。腫瘍細胞が腫瘍抗原を合成するプロセスで、分解されたポリペプチドがMHCクラスI分子によって腫瘍細胞の表面に提示されてCD8+T細胞を活性化させる。MHCクラスII分子は樹状細胞、B細胞、マクロファージを含み、主に特殊な抗原提示細胞(APC)の表面に存在し、CD4+T細胞によって認識される。腫瘍細胞が分泌した又は腫瘍溶解で放出された外因性タンパク質はAPCによって捕捉される。APC内では、抗原がポリペプチドフラグメントに処理されてMHCクラスII分子によってCD4+細胞に提示される。活性化された抗原特異的CD8+細胞は最終的に細胞傷害性T細胞になり、腫瘍細胞を溶解する。
【0005】
腫瘍特異的抗原としては強い免疫原性を有し、腫瘍細胞によって発現されるが、正常な細胞では発現されないというのが望ましい。しかし、腫瘍抗原の殆どは、効果的な免疫応答を誘導するのに十分な免疫原性を備えず、腫瘍抗原の多くはある程度において正常な組織でも発現されるため、生体内の免疫寛容が生じる。したがって、これらの腫瘍抗原は免疫原性が弱いという固有の特徴を有しており、抗腫瘍ワクチンの設計段階では生体の免疫寛容という障壁を乗り越え、腫瘍抗原に対する免疫応答を活性化させる必要がある。
【0006】
抗腫瘍ワクチンは、主に、全細胞ワクチン、タンパク質ワクチン、ポリペプチドワクチン、ウイルスワクチン、樹状細胞ワクチンに分けられる。DNAワクチンとRNAワクチンは本質的には分子ワクチンであり、使用する発現系が違うだけである。
【0007】
細胞ワクチン:これまでに、腫瘍抗原と臨床上の関連性が十分に解明されていないため、全細胞が抗腫瘍ワクチンとして使用され、これで知られていない腫瘍抗原で免疫系を活性化させることができる。マウス腫瘍モデルでは、接種した腫瘍からマウスを保護するために、放射線で不活性化させた腫瘍細胞でマウスを免疫するのが一般的である。しかし、腫瘍細胞ワクチンの投与時間を腫瘍細胞接種1週間後に繰り下げると、ワクチンはマウスを保護する能力を失う。腫瘍細胞ワクチンは臨床治療の反応が鈍いため、特殊な腫瘍抗原を持たない腫瘍患者の再発の予防のみに適用される。進行期患者を対象とする臨床試験で良い効果はあまり得られなかった。近年、腫瘍抗原の認識と解析技術の進歩、特に、T細胞が抗原を認識するメカニズムへの理解が深まるにつれて、腫瘍抗原ワクチンは細胞ワクチンに代わって腫瘍免疫療法に定着していると言える。
【0008】
ポリペプチドとタンパク質ワクチン:T細胞の認識するMHC分子の表面の抗原ポリペプチドエピトープが一般に7~12のアミノ酸であるため、抗原ポリペプチドと免疫アジュバントを混合すれば生体内で空のMHC分子にロードするという目的は果たせる。これまでに、ポリペプチドに基づくワクチンの殆どはMHCクラスI抗原拘束性ポリペプチドである。ポリペプチドワクチンの使用にはいくつかの制限がある。使用されるポリペプチドワクチンは患者のMHCクラスI抗原分子に適合しなければならず、いわゆる個別化の問題がある。しかし患者によってMHCクラスI分子のサブタイプが違うため、使用される腫瘍抗原ポリペプチドの配列も異なり、これは腫瘍抗原ポリペプチドの臨床応用に大きな難題をもたらしている。
【0009】
組換え分子ワクチン:腫瘍抗原タンパク質ワクチンを用いると上記の難題を克服できるが、タンパク質だけを使うと対象の免疫応答を活性化できない。霊長類動物を用いる試験研究では最良の免疫効果を得るには腫瘍タンパク質と強力な免疫原性タンパク質を共有結合する必要があることが判明した。弱い抗原で効果的な免疫応答を誘導するためには、免疫アジュバントと併用して、免疫系を活性化させるための非特異的シグナルを提供する必要があり、免疫アジュバントの多くは多かれ少なかれ毒性を持っているため臨床では用いられないので、抗原タンパク質ワクチンの殆どは組換え形態で出現している。
【0010】
組換え形態で腫瘍タンパク質の免疫原性を高める方法とは、組換えにより腫瘍抗原とGM-CSFやインターロイキンなどのサイトカインから融合タンパク質を形成させることである。弱い腫瘍抗原と、細菌、又はウイルス抗原、又はジフテリア毒素やシュードモナス外毒素などの毒素との組換えが腫瘍抗原の抗原性を明らかに高め、腫瘍抗原に対するDCの貪食及び提示を促進することができ、効果が認められる。しかし、腫瘍抗原と毒素と単独の組換えでは、今までに満足のいく効果が得られなかった。
【0011】
樹状細胞ワクチン:T細胞が媒介する有効な免疫応答では、T細胞は抗原をナイーブT細胞に提示して、ナイーブT細胞に感作させる必要があり、感作させたTリンパ球が再刺激を受ける。T細胞が媒介する有効な腫瘍免疫を開始させるには、体内のあらゆる部位の腫瘍抗原ポリペプチドがT細胞によって認識される必要がある。そのため、抗原の提示は効果的な免疫応答を得るための重要なステップである。ワクチンから刺激される免疫応答は、主に、APCによる効果的な抗原の初期処理と更なる提示に依存している。
【0012】
インターロイキン7(Interleukin7、IL-7)は骨髄と胸腺間質細胞が分泌する造血成長因子である。角化細胞、樹状細胞、肝細胞、神経細胞、上皮細胞からも生成されるが、正常なリンパ球はIL-7を分泌しない。IL-7が造血幹細胞のリンパ系前駆細胞への分化を促進する。B細胞、T細胞、NK細胞など、リンパ系のあらゆる細胞の増殖を刺激することもできる。特定の段階のB細胞の成熟、T細胞及びナチュラルキラー細胞(Natural Killer Cell、NK細胞)の生存、発達、均衡にとって特に重要である。
【0013】
インターロイキン15(Interleukin15、IL-15)は、ウイルス感染後に単核貪食細胞から分泌産生される。その構造はインターロイキン2(Interleukin2、IL-2)に似ており、IL-15はIL-2/IL-15受容体β鎖(CD122)と共有受容体γ鎖(CD132)複合体に結合することでシグナルを伝達する。当該サイトカインはT細胞及びNK細胞の活性化と増殖を調節する。抗原が存在しない場合は、IL-15はメモリーT細胞を維持する生存シグナルを提供できる。IL-15に関する前臨床試験では、CD8+T細胞の抗腫瘍効果を高められることが示されている。また、IL-15はワクチンアジュバントとして、ワクチンの免疫原性を高めることもできる。
【0014】
インターロイキン21(Interleukin21、IL-21)は、活性化されたCD4+T細胞から分泌産生され、免疫系の様々な細胞を調節できる役割を果たす。IL-21は持続的にCD8+T細胞の応答を増加させることで抗腫瘍効果を実現できる(Journal of Immunology.173(2):900-9)。IL-21は慢性ウイルス感染の抑制にも重要な役割を果たす。HIV感染者において、IL-21はHIV特異的細胞傷害性T細胞の応答(Blood.109(9):3873-80.)及びNK細胞の機能(Journal of Leukocyte Biology.87(5):857-67.)を高めることができる。
【0015】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage colony-stimulating factor、GM-CSF)は、コロニー刺激因子2(colony-stimulating factor2、CSF2)とも呼ばれ、マクロファージ、T細胞、肥満細胞、NK細胞、内皮細胞、線維芽細胞から分泌産生される単量体糖タンパク質である。GM-CSFは、幹細胞を刺激して様々な顆粒球と単球を生成させ、多くのマクロファージを急速に活性化させ増殖させて、抗感染効果を実現するなど、様々な機能を有する。アムジェン社(Amgen)によって開発されたGM-CSFを使用する腫瘍溶解性ウイルス療法は、FDAによって黒色腫の治療への使用が承認された。
【発明の概要】
【0016】
そこで、本発明は、腫瘍抗原の免疫原性を高め、腫瘍特異的免疫応答を刺激して、根本的に腫瘍を治癒するために、複数の免疫関連サイトカインを1つの組換えウイルスベクターに共同で発現させることにより、ワクチンの免疫効果を高め、サイトカインの抗腫瘍効果を発揮させることを課題とする。
【0017】
本発明の目的は、様々な腫瘍の予防及び/又は治療に用いる抗腫瘍ワクチンの製造に利用できる組換えウイルスベクターを提供することである。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記組換えウイルスベクターは、サイトカインをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0019】
本発明の目的を達成するために下記の用語を次のとおりに定義する。
【0020】
「サイトカイン(cytokine、CK)」とは、刺激で免疫細胞(例えば、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞)とある非免疫細胞(内皮細胞、表皮細胞、線維芽細胞など)に合成及び分泌された、幅広い生物学的活性を有する一連の小分子タンパク質を指す。サイトカインは一般に対応の受容体に結合して細胞の成長、分化及び効果を制御し、免疫応答を調節する。サイトカインは免疫原、有糸分裂促進因子又は他の刺激物質が様々な細胞を誘導して生成させる低分子量の可溶性タンパク質で、先天性免疫と適応免疫、血球の生成、細胞成長、APSC多能性細胞に対する調節、損傷組織の修復など様々な機能を有する。サイトカインはインターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子スーパーファミリー、コロニー刺激因子、ケモカイン、成長因子などに分けられる。本発明の実施形態において、前記サイトカインはIL-7、IL-15、IL-21、GM-CSFから1つ又は複数選ばれる。本発明の一実施形態において、前記IL-15はヒトIL-15であり、好ましくは、前記ヒトIL-15のアミノ酸配列は配列番号2に示されるとおりであり、好ましくは、それをコードする核酸配列は配列番号1に示されるとおりである。本発明の一実施形態において、前記GM-CSFはヒトGM-CSFであり、好ましくは、前記ヒトGM-CSFのアミノ酸配列は配列番号4に示されるとおりであり、好ましくは、それをコードする核酸配列は配列番号3に示されるとおりである。本発明の一実施形態において、前記IL-7はヒトIL-7であり、好ましくは、前記ヒトIL-7のアミノ酸配列は配列番号6に示されるとおりであり、好ましくは、それをコードする核酸配列は配列番号5に示されるとおりである。本発明の一実施形態において、前記IL-21はヒトIL-21であり、好ましくは、前記ヒトIL-21のアミノ酸配列は配列番号8に示されるとおりであり、好ましくは、それをコードする核酸配列は配列番号7に示されるとおりである。本発明の好ましい実施形態において、前記サイトカインはヒトIL-15、ヒトGM-CSF、ヒトIL-7、ヒトIL-21を含み、好ましくは、前記サイトカインをコードするポリヌクレオチドの核酸配列は配列番号15に示されるとおりであり、好ましくは、それをコードするアミノ酸配列は配列番号16に示されるとおりである。
【0021】
「腫瘍抗原」とは、腫瘍が発生又は進行する過程で新たに出現し又は過剰に発現される抗原性物質を指す。腫瘍抗原は、腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原、組織分化抗原、プロトオンコウイルス抗原、がん精巣抗原(cancer-testis antigen、CT抗原)などを含むが、これらに限定されない。
【0022】
「腫瘍特異的抗原」(Tumor-Specific Antigen、TSA)とは腫瘍細胞だけで発現され、正常な細胞では発現されない抗原性物質を指す。例えば、変異した抗原、特に、ras、p53などのがん原遺伝子とがん抑制遺伝子の変異産物である。
【0023】
「腫瘍関連抗原」(Tumor-Associated Antigen、TAA)とは、腫瘍細胞及び一部の正常な細胞において発現される抗原性物質を指す。
【0024】
好ましくは、前記ウイルスベクターはワクシニアウイルスベクターであり、好ましくは複製型ワクシニアウイルスベクターであり、例えば、ワクシニアウイルスTiantan株であり、例えば、752-1株であり、又は、非複製型ワクシニアウイルスベクターであり、例えば、ワクシニアウイルス弱毒化ワクチンアンカラ株(Modified Vaccinia Ankara、MVA)である。
【0025】
本発明の更なる目的は、予防及び/又は治療有効量の本発明に係る組換えウイルスベクターと、薬学的に許容される担体とを含む免疫組成物を提供することである。
【0026】
本発明の更なる目的は、予防及び/又は治療有効量の本発明に係る組換えウイルスベクターと、薬学的に許容される担体とを含む抗腫瘍ワクチンを提供することである。
【0027】
本発明の更なる目的は、本発明に係る組換えウイルスベクターと、免疫組成物又は抗腫瘍ワクチンと、その取扱説明書とを含むキットを提供することである。
【0028】
本発明は、さらに、腫瘍の治療及び/又は予防薬物又はワクチンの製造における、本発明に係る組換えウイルスベクター、免疫組成物又は抗腫瘍ワクチンの用途を提供する。好ましくは、前記腫瘍は悪性腫瘍である。より好ましくは、前記悪性腫瘍は乳がん又は結腸がんである。
【0029】
本発明は、さらに、それを必要とする被験者に、予防及び/又は治療有効量の本発明に係る組換えウイルスベクター、免疫組成物又は抗腫瘍ワクチンを投与することを含む腫瘍を治療及び/又は予防する方法を提供する。好ましくは、前記腫瘍は悪性腫瘍であり、より好ましくは、前記悪性腫瘍は乳がん又は結腸がんである。
【0030】
本発明に係る組換えウイルスベクターは、腫瘍特異的免疫応答を刺激して、腫瘍細胞の成長を効果的に阻害し、腫瘍患者の生存期間を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳しく説明する。
図1図1は、サイトカインをコードする配列を備えるシャトルベクターpSC65CYのプラスミドマップである。
図2図2は、サイトカインをコードする配列を備えるシャトルベクターpSC65CYの二重酵素消化同定の結果図である。
図3図3は実施例5におけるヒトGM-CSFの活性測定結果である。
図4図4は実施例6におけるヒトIL-21の活性測定結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、実施例を用いて本発明の一層の説明を行う。なお、実施例は、本発明を限定するではなく、本発明の更なる説明に供するものに過ぎない。
【0033】
特段の定義がない限り、本明細書で使用する科学技術用語は当業者が一般的に理解しているのと同じ意味である。実験又は実際の使用でここに記されるものに似にている又は同じ方法と材料を使用してもよいが、本明細書では材料と方法の説明を提供する。矛盾が生じる場合は、本明細書の定義に準拠する。また、材料、方法とその例は、限定を加えるのではなく、説明に供するものである。
【0034】
実施例1:シャトルベクターpSC65CYの構築
ヒトサイトカインのアミノ酸とその核酸配列は全てNCBIデータベースから提供される。ヒトサイトカインIL-15(NM_000585.4、核酸配列は配列番号1参照、アミノ酸配列は配列番号2参照)、GM-CSF(NM_000758.3、核酸配列は配列番号3参照、アミノ酸配列は配列番号4参照)、IL-7(NM_000880.3、核酸配列は配列番号5参照、アミノ酸配列は配列番号6参照)、IL-21(NM_001207006.2、核酸配列は配列番号7参照、アミノ酸配列は配列番号8参照)の配列から終止コドンを除去して直列に接続させ、各サイトカインの核酸配列の間には当業者に熟知されるP2A核酸配列が介在し(核酸配列は配列番号9に示され、アミノ酸配列は配列番号10に示され、内因性プロテアーゼ切断部位は、融合タンパク質を効果的に切断して、活性のあるサイトカインモノマーを形成することができる。文献「Kim JH,Lee S-R,Li L-H,Park H-J,Park J-H,et al.(2011)High Cleavage Efficiency of a 2A Peptide Derived from Porcine Teschovirus-1 in Human Cell Lines,Zebrafish and Mice.PLoS ONE 6(4):e18556.」を参照する)、最後に、マーカーをスクリーニングするために当業者に熟知される緑色蛍光タンパク質核酸発現配列EGFP(核酸配列は配列番号11参照、アミノ酸配列は配列番号12参照)と直列に接続させて、最終的に4重サイトカイン核酸発現配列CY(核酸配列は配列番号13参照、アミノ酸配列は配列番号14参照)を形成させた。蘇州金唯智公司が合成した配列を、分子クローニング技術によりシャトルベクターpSC65(addgene、カタログ番号30327)上のXho IとBam HI制限部位の間に挿入して、4つのサイトカインを発現できるシャトルベクターpSC65CY(プラスミドマップは図1参照)を構築し、配列決定で正しいと判定したらウエアハウスに入れた。制限エンドヌクレアーゼEcoR VでベクターpSC65CY(酵素消化系は表1参照)を同定し、酵素消化同定の結果図は図2であった。
【0035】
【表1】
【0036】
実施例2:組換えワクシニアウイルスベクターrvv-CYの構築
143B細胞において組換えワクシニアウイルスベクターを得、方法は具体的に次のとおりである。初日に、6ウェル細胞培養プレート(JET、TCP-010-006)に1×106/ウェルで143B細胞(ATCC(登録商標)CRL-8303)をプレーティングし、37℃下で二酸化炭素セルインキュベーターにおいて一晩インキュベートした。翌日に、0.05MOI(即ち、5×104PFU(プラーク形成単位)/ウェル)でワクシニアウイルス野生株752-1を加え(北京生物制品研究所により提供)、その後、37℃二酸化炭素セルインキュベーターに入れて2時間インキュベートし、その間にシャトルベクター/トランスフェクション試薬複合体を調製した。シャトルベクターは実施例1に得たpSC65CYで、トランスフェクション試薬はTurbofect(Thermo Fisher Scientific、R0531)であり、トランスフェクション用量と複合方法についてはトランスフェクション試薬取扱書を参照できる。複合系が出来上がったら、143B細胞上清を2mL/ウェルの2%ウシ胎児血清(FBS)含有DMEM維持培地に取り替え、その後、シャトルベクター/トランスフェクション試薬複合体を加えた。48時間トランスフェクションした後、上清を除去して、細胞を回収し、0.5mLの維持培地において再懸濁させ、凍結-融解を3回繰り返し、その後、組換え細胞溶解物を新しい143B細胞(50μg/mLBrdU含有)に加え、37℃下で1~2日インキュベートした。その間に細胞の病変を観察し、ウイルスプラークの数(20プラーク未満/ウェル)が好適になったら、シングルプラークの精製を行った。
【0037】
シングルプラークの精製:
蛍光顕微鏡下において緑色蛍光を発現するウイルスプラークを観察し、マークを付けた。
【0038】
上清を除去して、各ウェルから充分に分散していた緑色蛍光プラークをいくつか選び、それぞれ、0.5mLの維持培養液を含むEpチューブに移した。
【0039】
ウイルスを含むEpチューブを振盪して均一に混合させ、凍結-融解(-80℃冷蔵庫で約5分間、室温約2分間)を3回繰り返し、最後に振盪して均一に混合させ、-80℃下で冷凍保存した。
【0040】
シングルプラークの精製を、純度が100%になるまで少なくとも6回繰り返した。
【0041】
実施例3:組換えワクシニアウイルスベクターrvv-CYの増幅と滴定
実施例2において構築された組換えワクシニアウイルスベクターrvv-CY、ワクシニアウイルス野生株(rvv-WT)を、それぞれ、Vero細胞(ATCC(登録商標)CCL-81)において増幅させ、増幅方法は次のとおりである。
前日に、密集度が100%の単層Vero細胞(1×107細胞/シャーレ)を用意し、10シャーレ分であった。
【0042】
上清を除去して、維持培地に取り替え、増幅用のワクシニアウイルスを細胞(0.01PFU/細胞)に接種し、37℃インキュベーターにおいて2~3日インキュベートし、観察により明らかな細胞病変が見られた。
【0043】
細胞をかき集め、1800gで5分間遠心分離して、上清を除去した。
【0044】
5mLの維持培地において再懸濁させ、氷上において超音波細胞破砕装置で超音波処理し、超音波条件としては、50Wで、5秒間の超音波と5秒の間隔を15分間続けた。
【0045】
凍結-融解(-80℃冷蔵庫で約5分間、室温約2分間)を2回繰り返し、最後に振盪して均一に混合させた。
クラスII生物学的安全キャビネットにおいて1mL/管で1.5mL遠心管に分注し、-80℃下で冷凍保存した。
【0046】
感染力価を測定するために、増幅させたワクシニアウイルスをVero細胞において滴定し、方法は具体的に次のとおりである。
前日に、24ウェルプレートに、3×105/ウェルで、100%のコンフルエンスに達するVero細胞を用意した。
【0047】
上清を除去して、各ウェルには、細胞が乾燥するのを防ぐために、200μLの維持培養液を追加した。
【0048】
100μLの被検ワクシニアウイルスに900μLの維持培地を加えて、10倍希釈で101、102、103、…、109倍と連続希釈した。なお、希釈する時は、濃度が低くなるため、低い濃度に希釈するたびにピペットチップを交換すべきである。
【0049】
ウイルスの低い濃度のほうから(109、108、…104)24ウェルプレートに加え、各ウェルは400μLの希釈液とし、2連ウェルで、6つの希釈倍数に対して連続的に測定した。追加済みの24ウェルプレートを37℃セルインキュベーターに入れて2日間インキュベートした。
【0050】
顕微鏡下においてウイルスプラークを数え、20を超えれば、20+と記す。計数可能な20以下のプラークの数の2連ウェルの平均×2.5(1000μL/400μL)×ウェルの対応の希釈倍数を、組換えウイルスの力価(PFU/mL)とした。
【0051】
ワクシニアウイルスベクターの力価滴定結果は表2に示すとおりである。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例4:サイトカインの発現測定
実施例3において、ワクシニアウイルス野生型rvv-wt及び組換えワクシニアウイルスrvv-CYに感染されたvero細胞の上清をそれぞれ得、ELISA法で感染上清におけるサイトカインの含有量を測定した。ヒトIL-7(カタログ番号SEK11821)、ヒトIL-15(カタログ番号SEK10360)、ヒトGM-CSF(カタログ番号SEK10015)測定用のELISAキットは北京義翹神州社から購入した。ヒトIL-21(カタログ番号88-8218)測定用のELISAキットはサーモフィッシャーサイエンティフィック社から購入した。測定方法はキットの取扱説明書を参照した。ウイルス感染上清から測定した各サイトカインの含有量を表3に示す。測定結果がいずれも検出限界未満(<0.01ng/mL)であることから、ワクシニアウイルス野生型rvv-wt感染上清にサイトカインが発現されていないことが判明した。これに対し、製造されたサイトカイン核酸配列を備える組換えワクシニアウイルスrvv-CYの場合はいずれも各サイトカインの発現が測定され、ヒトGM-CSFの分泌量が144.6ng/mLのレベルに達しており最多で、他のサイトカインの分泌量がほぼ同じで、1~6ng/mLのレベルに集中していた。
【0054】
【表3】
【0055】
実施例5:サイトカインヒトGM-CSFの活性測定
完全RPMI-1640培地(10%ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(PS)、2ng/mLヒトIL-3)においてTF-1細胞(ATCC(登録商標)CRL-2003)を対数期まで培養し、125gで10分間遠心分離して細胞を回収し、無血清RPMI-1640培地で再懸濁させ、再び遠心分離して細胞を回収し、完全RPMI-1640培地で1×105の細胞/mLに希釈し、充分に均一に混合させて、96ウェルプレートに加え、各ウェルは100μL(1×104の細胞)であった。
【0056】
ヒトGM-CSF標準物質(近岸タンパク提供、カタログ番号CC79)を2倍勾配で段階的に希釈し、低い濃度のほうからそれぞれ96ウェルプレートに加え、ブランク対照を設け、各濃度では2連ウェルとし、合わせて12の勾配とした。37℃×5%CO2インキュベーターに入れて96時間培養した。
【0057】
その後、96ウェルプレートの各ウェルに10μLのCCK-8(MCE社、カタログ番号HY-K0301)試薬を加えて、インキュベーターに戻して引き続き2~4時間培養し、マイクロプレートリーダーでOD450を測定した。
【0058】
図3の測定結果に示されるように、実施例3において製造されたサイトカイン核酸配列を備える組換えワクシニアウイルスrvv-CY感染上清において分泌されたヒトGM-CSFは活性(半数効果濃度(EC50)は4.2ng/mL)を有しており、ヒトGM-CSF標準物質(EC50は2.8ng/mL)と同等であった。
【0059】
実施例6:サイトカインヒトIL-21の活性測定
完全RPMI-1640培地(10%ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(PS))においてMino細胞(ATCC(登録商標)CRL-3000)を対数期まで培養し、125gで遠心分離して細胞を回収し、完全培地で2×105個/mLに希釈した。
【0060】
ヒトIL-21標準物質(北京義翹神州提供、カタログ番号10584-HNAE)を96ウェルプレートにおいて2倍勾配で段階的に希釈し、ブランク対照を設け、合わせて12の勾配とし、各ウェルは100μLとし、希釈した後に均一に混合した細胞50μL(1×104の細胞)を加え、各ウェルは合計で150μLの液体とした。96ウェルプレートを37℃×5%CO2インキュベーターに入れて6~7日培養した。
【0061】
培養を終えた96ウェルプレートの各ウェルに10μLのCCK-8試薬(MCE社、カタログ番号HY-K0301)を加えて、インキュベーターに戻して引き続き4~8時間培養し(色の変化に応じて時間を決定する)、マイクロプレートリーダーでOD450を測定した。
【0062】
図4の測定結果に示されるように、実施例3において製造されたサイトカイン核酸配列を備える組換えワクシニアウイルスrvv-CY感染上清において分泌されたヒトIL-21は活性(EC50は1.1ng/mL)を有しており、ヒトIL-21標準物質(EC50は7ng/mL)と同等であった。
【0063】
実施例5と実施例6の結果は、製造されたサイトカイン核酸配列を備える組換えワクシニアウイルスrvv-CYが、生物学的活性を有するサイトカインを正しく発現できることを示していた。
【0064】
実施例7:腫瘍治療実験
蘇州大学動物実験センターから6~8週齢の雌BALB/cマウスを20匹購入し、蘇州大学動物実験センターのSPF飼育室において飼育した。0日目に、全てのマウスに腫瘍細胞CT26(ATCC(登録商標)CRL-2638)を皮下接種し、接種量は1×105細胞/匹で、その後、ランダムに2群に分けた。腫瘍細胞接種後の1日目、14日目及び28日目に、マウスに、それぞれ、実施例3において製造された組換えウイルスベクターrvv-CY又は対照ワクシニアウイルスベクター野生株rvv-WTを接種した。また、相応的に、腫瘍細胞接種後の1日目、14日目及び28日目に、ワクシニアウイルス群のマウスに、実施例3において製造されたワクシニアウイルスベクターを前脛骨筋に接種した(ワクチン接種計画の詳細は表4参照)。接種後に連続的に観察し腫瘍の成長状況を測定した。次の算式で腫瘍体積を計算した。
腫瘍体積(mm3)=長さ×幅2/2。
【0065】
マウスの腫瘍体積が2000mm3を超えると、マウスを殺した。
【0066】
【表4】
【0067】
ワクシニアウイルスベクターワクチンrvv-CY治療群のマウスは対照群のマウスより全生存期間が明らかに長かった。結果は、ワクシニアウイルスベクターワクチンrvv-CYが、発現腫瘍にかかっているマウスの生存を延長できることを示していた。
【0068】
本発明ではある程度説明しているものの、本発明の趣旨と範囲を逸脱することなく、各条件を適切に変更したりできることは自明である。なお、本発明は前記実施形態に限定されず、特許請求の範囲と、その各要素を同等に置き換えたものに準拠する。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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