(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】油脂組成物、及び飲食品
(51)【国際特許分類】
A23D 9/007 20060101AFI20240826BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A23D9/007
A23D9/00 506
A23D9/00 504
(21)【出願番号】P 2022563854
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2021042740
(87)【国際公開番号】W WO2022107897
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020193293
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】藤浪 紗栄
(72)【発明者】
【氏名】上山 幹子
(72)【発明者】
【氏名】富田 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶
(72)【発明者】
【氏名】志田 政憲
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-321156(JP,A)
【文献】特開昭62-198352(JP,A)
【文献】米国特許第04701335(US,A)
【文献】米国特許第03957837(US,A)
【文献】国際公開第2020/148963(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂組成物であって、
前記油脂組成物が、ヒドロキシメチルフルフラールと、メチオナールと、フェニルエタナールと、エタノールと、を含み、
前記油脂組成物中の前記ヒドロキシメチルフルフラールの含量が100ppm以上7000ppm以下であり、
前記油脂組成物中の前記メチオナールの含量が1ppm以上
300ppm以下であり、
前記油脂組成物中の前記フェニルエタナールの含量が5ppm以上150ppm以下であり、
前記油脂組成物中の前記エタノールの含量が1000ppm以上15000ppm以下であり、
前記油脂組成物の、10℃における固体脂含量が10%以下である、
油脂組成物。
【請求項2】
前記油脂組成物中の前記フェニルエタナールの含量が7ppm以上140ppm以下である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂組成物中の前記エタノールの含量が1100ppm以上14000ppm以下である、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
前記ヒドロキシメチルフルフラールに対する前記エタノールの質量比が0.30以上100.00以下である、請求項1から3のいずれかに記載の油脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の油脂組成物を含む、飲食品。
【請求項6】
可塑性油脂組成物である、請求項5に記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物、及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種飲食品の嗜好性を高めるための調味料として、風味油が知られる。風味油とは、油脂に所望の風味を付与した液状の油脂であり、風味の付与のために各種素材が用いられる(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-68657号公報
【文献】特開2008-92916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来知られていない風味が付与された風味油に対するニーズがある。
【0005】
本発明者らは、従来十分に検討されていない風味として、重厚感、香ばしさ、及び雑味の少なさに着目した。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、良好な重厚感、及び香ばしさを有し、雑味が抑制された油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、油脂に対して所定の成分を配合することで上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 油脂組成物であって、
前記油脂組成物が、ヒドロキシメチルフルフラールと、メチオナールと、フェニルエタナールと、エタノールと、を含み、
前記油脂組成物中の前記ヒドロキシメチルフルフラールの含量が100ppm以上7000ppm以下であり、
前記油脂組成物中の前記メチオナールの含量が1ppm以上であり、
前記油脂組成物の、10℃における固体脂含量が10%以下である、
油脂組成物。
【0009】
(2) 前記油脂組成物中の前記フェニルエタナールの含量が7ppm以上140ppm以下である、(1)に記載の油脂組成物。
【0010】
(3) 前記油脂組成物中の前記エタノールの含量が1100ppm以上14000ppm以下である、(1)又は(2)に記載の油脂組成物。
【0011】
(4) 前記ヒドロキシメチルフルフラールに対する前記エタノールの質量比が0.30以上100.00以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の油脂組成物。
【0012】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の油脂組成物を含む、飲食品。
【0013】
(6) 可塑性油脂組成物である、(5)に記載の飲食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な重厚感、及び香ばしさを有し、雑味が抑制された油脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0016】
<油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、油脂に諸成分を配合することで得られる組成物であり、以下の要件を全て満たす。
(要件1)油脂組成物は、ヒドロキシメチルフルフラールと、メチオナールと、フェニルエタナールと、エタノールと、を含む。
(要件2)油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量は、100ppm以上7000ppm以下である。
(要件3)油脂組成物中のメチオナールの含量は、1ppm以上である。
(要件4)油脂組成物の、10℃における固体脂含量は、10%以下である。
【0017】
本発明者らは、意外にも、上記(要件1)に規定される4成分の組み合わせが、油脂に対して、良好な重厚感及び香ばしさを付与することを見出した。
さらに、油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量が上記(要件2)を満たすように調整することで重厚感が特に良好となること、及び、油脂組成物中のメチオナールの含量が上記(要件3)を満たすように調整することで香ばしさが特に良好となることを見出した。
【0018】
本発明において「重厚感」とは、どっしりとして厚みのある、重厚感を有する飲食品(牛肉、赤ワイン等)を思い起こさせる風味を意味する。
このような風味は、通常、油脂組成物を口に含んだ後、比較的長時間(例えば、口に含んだ時点から10秒以上)持続する。
【0019】
本発明において「香ばしさ」とは、軽めの香りを有し、焦がし醤油を思い起こさせる風味を意味する。
このような風味は、通常、油脂組成物を口に含んですぐ(例えば、口に含んだ時点から3秒以内)に感じられる。
【0020】
本発明において「雑味」とは、油脂組成物や飲食品の風味として違和感のある風味(ビリビリと感じる苦味、強すぎるアルコールや草のような香り等)を意味する。
本発明の油脂組成物は、このような雑味が認められないか、又は抑制されている。
【0021】
油脂組成物の重厚感、香ばしさ、及び雑味のそれぞれは、実施例に示した方法で評価される。
【0022】
本発明において「10℃における固体脂含量」は、基準油脂分析法(公益社団法人日本油化学会)の「2.2.9-2013 固体脂含量(NMR法)」に準じて測定する。
「10℃における固体脂含量が10%以下である油脂組成物」とは、10℃において油脂組成物が、通常、液状であることを意味する。
【0023】
本発明の油脂組成物の、10℃における固体脂含量は、好ましくは3%以下である。
【0024】
以下、本発明の油脂組成物の詳細について説明する。
【0025】
(ヒドロキシメチルフルフラール)
本発明の油脂組成物は、ヒドロキシメチルフルフラール(化学式:C6H6O3)を含む。なお、ヒドロキシメチルフルフラールのIUPAC名は5-(ヒドロキシメチル)-2-フルアルデヒドである。
ヒドロキシメチルフルフラールは、バターやカラメルを連想させる香気を有することが知られる。
【0026】
本発明の油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量は、100ppm以上7000ppm以下である。
本発明の油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量が100ppm以上であると、十分な重厚感を奏することができる。本発明の油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量が7000ppm以下であると、好ましくない風味(苦味等)が生じることを抑制できる。
上記範囲内において、油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量が高いほど、重厚感を高めやすい傾向にある。
【0027】
油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量の下限値は、重厚感を高めやすいという観点から、好ましくは500ppm以上、より好ましくは2500ppm以上である。
【0028】
油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量の上限値は、雑味を抑制しやすいという観点から、好ましくは6000ppm以下である。
【0029】
本発明におけるヒドロキシメチルフルフラールは、合成品でもよく、ヒドロキシメチルフルフラールをその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0030】
油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、ヒドロキシメチルフルフラールの濃度が1ppm、100ppm、1000ppm、10000ppmである4点の標準試料を作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量126(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量126(分子イオン)のピーク面積をカウントする。
上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量を特定する。
【0031】
(メチオナール)
本発明の油脂組成物は、メチオナール(化学式:C4H8OS)を含む。なお、メチオナールのIUPAC名は3-(メチルスルファニル)プロパナールであり、別名として、3-(メチルチオ)プロピオンアルデヒド、3-(メチルメルカプト)プロピオンアルデヒド、3-(メチルチオ)プロパナール、又は、4-チアペンタナルとも呼ばれる。
メチオナールは、ロースト臭やトースト臭を有することが知られる。
【0032】
本発明の油脂組成物中のメチオナールの含量は、1ppm以上である。
本発明の油脂組成物中のメチオナールの含量が1ppm以上であると、十分な香ばしさを奏することができる。
上記範囲内において、油脂組成物中のメチオナールの含量が高いほど、香ばしさを高めやすい傾向にある。
【0033】
油脂組成物中のメチオナールの含量の下限値は、香ばしさを高めやすいという観点から、好ましくは2ppm以上、より好ましくは4ppm以上である。
【0034】
油脂組成物中のメチオナールの含量の上限値は、雑味を抑制しやすいという観点から、好ましくは300ppm以下、より好ましくは180ppm以下である。
【0035】
本発明におけるメチオナールは、合成品でもよく、メチオナールをその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0036】
油脂組成物中のメチオナールの含量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、メチオナールの濃度が0.01ppm、1ppm、10ppm、1000ppmである4点の標準試料を作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量104(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量104(分子イオン)のピーク面積をカウントする。
上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中のメチオナールの含量を特定する。
【0037】
(フェニルエタナール)
本発明の油脂組成物は、フェニルエタナール(化学式:C8H8O)を含む。なお、フェニルエタナールのIUPAC名は2-アセトアルデヒドであり、別名として、ヒアシンチン、α-トルアルデヒド、α-トルイルアルデヒド、ベンゼンエタナール、2-フェニルアセトアルデヒド、2-フェニルエタナール、ベンゼンアセトアルデヒド、又は、フェニルアセトアルデヒドとも呼ばれる。フェニルエタナールは、はちみつ、バラ、草等を連想させる香気を有することが知られる。
【0038】
本発明の油脂組成物中のフェニルエタナールの含量が高いほど、香ばしさを高めやすい傾向にある。
【0039】
油脂組成物中のフェニルエタナールの含量の下限値は、香ばしさを高めやすいという観点から、好ましくは7ppm以上、より好ましくは15ppm以上である。
【0040】
油脂組成物中のフェニルエタナールの含量の上限値は、雑味を抑制しやすいという観点から、好ましくは140ppm以下、より好ましくは90ppm以下である。
【0041】
本発明におけるフェニルエタナールは、合成品でもよく、フェニルエタナールをその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0042】
油脂組成物中のフェニルエタナールの含量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、フェニルエタナールの濃度が1ppm、10ppm、100ppm、1000ppmである4点の標準試料を作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量120(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量120(分子イオン)のピーク面積をカウントする。
上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中のフェニルエタナールの含量を決定する。
【0043】
(エタノール)
本発明の油脂組成物は、エタノール(化学式:C2H5OH)を含む。
【0044】
本発明の油脂組成物中のエタノールの含量が高いほど、本発明の効果が奏されやすく、重厚感、及び香ばしさに優れ、かつ雑味が抑制された油脂組成物が得られやすい傾向にある。
【0045】
油脂組成物中のエタノールの含量の下限値は、本発明の効果が奏されやすいという観点から、好ましくは1100ppm以上、より好ましくは3000ppm以上である。
【0046】
油脂組成物中のエタノールの含量の上限値は、雑味を抑制しやすいという観点から、好ましくは14000ppm以下、より好ましくは10000ppm以下である。
【0047】
本発明におけるエタノールは、合成品でもよく、エタノールその一部に含む飲食品や抽出物等であってもよい。
【0048】
油脂組成物中のエタノールの含量は、ガスクロマトグラフィーのSPME(固相マイクロ抽出)を用いて、外部標準法と呼ばれる以下の方法で特定する。
まず、エタノールの濃度が100ppm、1000ppm、10000ppm、20000ppmである4点の標準試料を作製する。これらをガスクロマトグラフィーに供し、イオン質量45(分子イオン)のピーク面積をカウントし、検量線を作成する。また、リテンションタイムも記録する。
次いで、測定対象である油脂組成物をガスクロマトグラフィーに供し、標準試料と同様のリテンションタイムにおけるイオン質量45(分子イオン)のピーク面積をカウントする。
上記のように得られたカウント数を検量線に当てはめ、油脂組成物中のエタノールの含量を決定する。
【0049】
(各成分の比率)
本発明の油脂組成物においては、各成分の比率が下記を満たしていてもよい。
【0050】
本発明の効果が奏されやすいという観点から、ヒドロキシメチルフルフラールに対するエタノールの質量比(エタノール/ヒドロキシメチルフルフラール)の下限値は、好ましくは0.30以上、より好ましくは1.00以上、さらに好ましくは1.30以上であってもよい。
【0051】
雑味を抑制しやすいという観点から、ヒドロキシメチルフルフラールに対するエタノールの質量比(エタノール/ヒドロキシメチルフルフラール)の上限値は、好ましくは100.00以下、より好ましくは50.00以下、さらに好ましくは10.00以下であってもよい。
【0052】
(油脂)
油脂としては、通常、食用油脂が用いられる。このような油脂としては、植物性油脂、動物性油脂、合成油脂、加工油脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせた調合油として用いてもよい。
【0053】
植物性油脂としては、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、ヤシ油、カカオ脂、パーム油、パーム核油及び藻類油等が挙げられる。
【0054】
動物性油脂としては、魚油(マグロ、サバ、イワシ、カツオ、ニシン等に由来する油脂)、豚脂、牛脂、乳脂、羊脂等が挙げられる。
【0055】
合成油脂としては、中鎖脂肪酸油、ジアシルグリセロール等が挙げられる。
【0056】
加工油脂としては、上記の油脂に対して所望の処理を施した油脂であってもよい。このような処理としては、分別(例えば分別乳脂低融点部、パームスーパーオレイン等の分別油)、硬化、エステル交換反応等が挙げられる。油脂に対しては、1又は2以上の処理を施してもよい。
【0057】
通常、植物性油脂よりも動物性油脂の方が優れた重厚感等を有することが知られる。しかし、本発明によれば、油脂として植物性油脂のみを用いた場合であっても、動物性油脂を用いた場合と同等以上の重厚感等を有する油脂組成物が得られ得る。
【0058】
10℃における固体脂含量が10%以下である油脂組成物が得られやすいという観点から、油脂組成物に配合する油脂は液状油が好ましい。
液状油としては、例えば、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米ぬか油、小麦胚芽油、等が挙げられる。
【0059】
(その他の成分)
本発明の油脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、飲食品等に配合される公知の食品及び食品添加物を配合できる。
食品としては、例えば、糖類、茶葉、野菜、果物、香辛料、酵母、酵母エキス等が挙げられる。
食品添加物としては、例えば、乳化剤、酸化防止剤、シリコーン、色素、香料、ビタミン類等が挙げられる。
【0060】
上記のような食品及び食品添加物の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。このような食品及び食品添加物を本発明の油脂組成物とともに配合することで、例えば、風味や色調の調整効果、酸化劣化の抑制効果、機能の向上効果等を奏し得る。
【0061】
本発明の効果を奏しやすいという観点から、本発明の油脂組成物は、水分を実質的に含まないか、水分を全く含まないことが好ましい。
本発明において「油脂組成物が水分を実質的に含まない」とは、水分の含量が、油脂組成物全体に対して0.5質量%以下であることを意味する。
本発明において「油脂組成物が水分を全く含まない」とは、水分の含量が、油脂組成物全体に対して0.0質量%であることを意味する。
本発明において「水分」とは水(H2O)を意味する。
なお、本発明における油脂組成物の水分は、「基準油脂分析試験法2.1.3.4-2013 水分(カールフィッシャー法)」により測定することができる。
【0062】
本発明の効果を奏しやすいという観点から、本発明の油脂組成物は、上記4成分(ヒドロキシメチルフルフラール、メチオナール、フェニルエタナール、及びエタノール)及び油脂からなり、その他の成分を含まなくともよい。
【0063】
<油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物は、各成分を、撹拌機等を用いて適宜混合撹拌することで得られる。成分の混合順序等は特に限定されない。
【0064】
上記のとおり、上記4成分(すなわち、ヒドロキシメチルフルフラール、メチオナール、フェニルエタナール、及びエタノール)は、合成品(市販の試薬又は香気成分等)や、各成分をその一部に含む飲食品や抽出物等として油脂組成物に配合し得る。
【0065】
また、上記4成分としては、上記4成分を全て含む食品を使用してもよい。このような食品としては、例えば、酒(日本酒、焼酎、ワイン、ビール、ウィスキー、ウォッカ等)、みりん、味噌、醤油、醤油粕、麹、塩麹、甘酒、酒粕、みりん粕、奈良漬け、はちみつ、砂糖、牛肉、じゃがいも、トマト、チーズ、コーヒー、コーヒー粕、そば、チョコレート等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
上記食品は、未加工の状態でそのまま使用してもよく、加工(加熱等)してから使用してもよい。例えば、上記食品を油脂中に浸漬後、加熱及びろ過等をすることで、本発明の油脂組成物を得ることができる。
【0066】
<油脂組成物の性質>
本発明の油脂組成物は、良好な重厚感、及び香ばしさを有し、雑味が抑制されている。油脂組成物の重厚感、香ばしさ、及び雑味の有無や程度は、実施例に示した方法によって特定される。
【0067】
<油脂組成物の用途>
本発明の油脂組成物の用途は特に限定されず、従来知られる風味油の代替物等として使用したり、任意の調味料(従来知られる風味油等)と組み合わせて使用したりすることができる。
【0068】
本発明の油脂組成物は、任意の飲食品に配合でき、該組成物を配合された飲食品等に対し、雑味が抑制された良好な風味(重厚感、香ばしさ)を付与できる。
したがって、本発明は、本発明の油脂組成物を含む飲食品も包含する。
【0069】
本発明の油脂組成物を配合し得る飲食品等としては、特に限定されないが、油脂を使用して作製する各種惣菜(フライ食品等)、製菓、製パン等が挙げられる。
また、本発明の油脂組成物は、可塑性油脂組成物、フライ油、食用油脂、香味食用油、水中油型乳化物(濃縮乳、ホイップクリーム、マヨネーズ等)、粉末油脂、ドレッシング等の油脂を含む食品の原料としても使用することができる。
上記のうち、本発明の油脂組成物を配合する飲食品としては、可塑性油脂組成物が好ましい。
【0070】
(可塑性油脂組成物)
本発明における「可塑性油脂組成物」とは、具体的には、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等が挙げられる。
本発明において「可塑性」とは、油脂組成物に固体脂が配合されており、かつ、適度な柔軟性を持ち、形を変えられる性質を有することを意味する。
【0071】
可塑性油脂組成物の形態としては、特に限定されないが、水相を実質的に含まない形態や、水相を含む形態が挙げられる。
本発明において、「水相を実質的に含まない」とは、水分(揮発分を含む。)の含有量が、可塑性油脂組成物に対して0.5質量%以下であることを意味する。
【0072】
水相を実質的に含まない可塑性油脂組成物としては、ショートニング(特に、日本農林規格を満たすもの)が挙げられる。
【0073】
水相を含む可塑性油脂組成物としては、各種のタイプ(油中水型、水中油型、油中水中油型、及び水中油中水型)の可塑性油脂組成物が挙げられる。水相を含む可塑性油脂組成物としては、油中水型(マーガリン等)が好ましい。
水相を含む可塑性油脂組成物において、油相の含有量は、好ましくは60質量%以上99.4質量%以下、より好ましくは65質量%以上98質量%以下である。
水相を含む可塑性油脂組成物において、水相の含有量は、好ましくは0.6質量%以上40質量%以下、より好ましくは2.0質量%以上35質量%以下である。
【0074】
本発明の油脂組成物を可塑性油脂組成物に配合する場合、本発明の油脂組成物の配合量は特に限定されない。
例えば、本発明の油脂組成物の含有量は、可塑性油脂組成物に対して、好ましくは1質量%以上50質量%以下、より好ましくは1質量%以上30質量%以下である。
【0075】
本発明の油脂組成物を可塑性油脂組成物に配合する場合、可塑性油脂組成物には、通常、本発明の油脂組成物とともに固体状油脂が配合される。これらの混合物を急冷捏和することにより可塑性油脂組成物が得られる。
【0076】
可塑性油脂組成物中の飽和脂肪酸含量は、好ましくは20.0質量%以上50.0質量%以下、より好ましくは30.0質量%以上50.0質量%以下である。
飽和脂肪酸含量がこの範囲であると、可塑性油脂組成物を配合した食品を喫食した際、飽和脂肪酸が口中に残り、本発明の油脂組成物が分散された状態であっても、重厚感、香ばしさを感じやすく、雑味を感じにくい。
可塑性油脂組成物中の飽和脂肪酸含量を上記範囲にするための油種は限定されないが、例えば、植物性油脂(菜種油(キャノーラ油)、大豆油、コーン油、ヤシ油、カカオ脂、パーム油、パーム核油等)、動物性油脂(魚油(マグロ、サバ、イワシ、カツオ、ニシン等に由来する油脂)、豚脂、牛脂、乳脂、羊脂等)が挙げられる。また、これらの油脂に対して処理(分別、硬化、エステル交換等)を施した加工油脂を用いてもよい。上記の油脂のうち、本発明の効果を奏しやすいという観点から、パーム系油脂(パーム油、パーム分別軟質油、パーム分別軟質部のエステル交換油脂)が好ましい。
【0077】
可塑性油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量の下限値は、本発明の効果を奏しやすいという観点から、好ましくは30ppm以上である。
可塑性油脂組成物中のヒドロキシメチルフルフラールの含量の上限値は、本発明の効果を奏しやすいという観点から、好ましくは1500ppm以下である。
【0078】
可塑性油脂組成物中のメチオナールの含量の下限値は、本発明の効果を奏しやすいという観点から、好ましくは0.05ppm以上である。
可塑性油脂組成物中のメチオナールの含量の上限値は、本発明の効果を奏しやすいという観点から、好ましくは2.5ppm以下である。
【0079】
可塑性油脂組成物中のフェニルエタナールの含量の下限値は、本発明の効果を奏しやすいという観点から、好ましくは0.5ppm以上である。
可塑性油脂組成物中のフェニルエタナールの含量の上限値は、本発明の効果を奏しやすいという観点から、好ましくは30ppm以下である。
【0080】
可塑性油脂組成物中のエタノールの含量の下限値は、本発明の効果を奏しやすいという観点から、好ましくは60ppm以上である。
可塑性油脂組成物中のエタノールの含量の上限値は、本発明の効果を奏しやすいという観点から、好ましくは3500ppm以下である。
【0081】
(可塑性油脂組成物の製造方法)
本発明の可塑性油脂組成物は、公知の方法により製造することができる。
例えば、本発明の可塑性油脂組成物は、構成成分を適宜加熱及び混合した後、冷却混合機(コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等)により急冷捏和することで得ることができる。
また、必要に応じて、冷却混合機に不活性ガス(窒素ガス等)を吹き込んだり、急冷捏和後に熟成(テンパリング)したりしてもよい。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
<試験1:油脂組成物の作製及び評価>
以下の方法で油脂組成物を作製し、その風味を評価した。
【0084】
(油脂組成物の作製)
表1~5の「油脂」の項に示す油脂に対し、各成分を各表に示す濃度となるように混合及び撹拌し、実施例及び比較例の油脂組成物を作製した。
【0085】
本例で用いた「菜種油」(キャノーラ油)、及び「米ぬか油」は、いずれも10℃における固体脂含量が3%以下である油脂である。
【0086】
表1~5中、「ヒドロキシメチルフルフラール」、「メチオナール」、「フェニルエタナール」、及び「エタノール」の各項に示す数値の単位は「ppm」である。
【0087】
表1~5中、「EtOH/HMF」とは、各組成中のヒドロキシメチルフルフラールに対するエタノールの質量比を示す。
【0088】
なお、「比較例1-1」の油脂組成物は菜種油のみからなり、「比較例1-7」の油脂組成物は豚脂のみからなる。
【0089】
(油脂組成物の評価)
得られた油脂組成物について、重厚感、香ばしさ、及び雑味のそれぞれを、以下に基づき官能評価を行った。その結果を表1~5中の「評価」の項に示す。
【0090】
なお、官能評価(各種風味の評価)は、下記のように選抜されたパネルによって行った。
パネル候補に対し、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、旨味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準臭覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判定された20名をパネルとして選抜した。
また、評価を実施するにあたり、パネル全体で討議し、各評価項目の特性に対してすり合わせを行って、各パネルが共通認識を持つようにした。また、官能評価におけるパネルの偏りを排除し、評価の精度を高めるために、サンプルの試験区番号や内容はパネルに知らせず、ランダムに提示した。
【0091】
[評価方法]
各油脂組成物(1g)を口に含んだ際に、3種類の風味(本発明において定義される「重厚感」、「香ばしさ」、及び「雑味」)のそれぞれについて、風味を感じるかを各パネル(計20名)に回答させ、その回答結果に基づき、以下の評価基準で評価した。
なお、各評価基準において「◎+」は最も良い結果を示し、「×」は最も劣る結果を示す。各評価項目において「○」以上であれば、十分に良好な結果であると判断した。
【0092】
[評価基準(重厚感)]
◎+:20名中、17名以上が重厚感を感じると回答した。
◎ :20名中、13名以上16名以下が重厚感を感じると回答した。
○ :20名中、9名以上12名以下が重厚感を感じると回答した。
△ :20名中、5名以上8名以下が重厚感を感じると回答した。
× :20名中、4名以下が重厚感を感じると回答した。
【0093】
[評価基準(香ばしさ)]
◎+:20名中、17名以上が香ばしさを感じると回答した。
◎ :20名中、13名以上16名以下が香ばしさを感じると回答した。
○ :20名中、9名以上12名以下が香ばしさを感じると回答した。
△ :20名中、5名以上8名以下が香ばしさを感じると回答した。
× :20名中、4名以下が香ばしさを感じると回答した。
【0094】
[評価基準(雑味)]
◎+:20名中、17名以上が雑味を感じないと回答した。
◎ :20名中、13名以上16名以下が雑味を感じないと回答した。
○ :20名中、9名以上12名以下が風味を感じないと回答した。
△ :20名中、5名以上8名以下が雑味を感じないと回答した。
× :20名中、4名以下が雑味を感じないと回答した。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
表1~4に示されるとおり、本発明の要件を全て満たす油脂組成物は、重厚感、及び香ばしさに優れ、かつ雑味が少なかった。
【0101】
油脂組成物に含まれるフェニルエタナールの含量が7ppm以上140ppm以下である場合や、油脂組成物に含まれるエタノールの含量が1100ppm以上14000ppm以下である場合、重厚感、及び香ばしさが特に優れ、かつ雑味がより少ない傾向にあった。
【0102】
他方で、表5に示されるとおり、本発明の要件のうちいずれか又は全てを満たさない油脂組成物は、重厚感、及び香ばしさのいずれか又は両方が劣っていたり、強い雑味が感じられたりした。
【0103】
<試験2:惣菜の作製及び評価-1>
上記試験1で作製した油脂組成物を使用し、惣菜(フライ)を作製し、その風味を評価した。
【0104】
(フライの作製)
各油脂組成物をフライ油として使用し、市販の冷凍コロッケを180℃で3分間油ちょうし、コロッケ(フライに相当する。)を作製した。
【0105】
なお、本試験で使用した油脂組成物を表6の「油脂組成物」の項に示す。例えば、「実施例2-1」は、「実施例1-8」で得られた油脂組成物を使用したことを意味する。
【0106】
(フライの評価)
得られたフライについて、試験1と同様に重厚感、香ばしさ、及び雑味のそれぞれを評価した。その結果を表6中の「評価」の項に示す。
【0107】
【0108】
表6に示されるとおり、本発明の要件を全て満たす油脂組成物は、フライの作製に用いても、その良好な風味を維持していた。
【0109】
なお、上記各油脂組成物を使用して、フライの代わりに、他の惣菜(炒飯、カレールー、大豆ハンバーグ、及びスープ)を作製したところ、フライにおける結果と同様の結果が得られた。
【0110】
<試験3:可塑性油脂組成物(ショートニング)の作製>
パーム油(88.0質量%)に、「実施例1-12」で得られた油脂組成物(12.0質量%)を配合し、常法に従い急冷捏和し、「可塑性油脂組成物1」を得た。
パーム油(98.0質量%)に、「実施例1-12」で得られた油脂組成物(2.0質量%)を配合し、常法に従い急冷捏和し、「可塑性油脂組成物2」を得た。
【0111】
「可塑性油脂組成物1」及び「可塑性油脂組成物2」の組成を表7に示す。
【0112】
【0113】
<試験4:惣菜の作製及び評価-2>
上記試験3で作製した可塑性油脂組成物を使用し、惣菜(大豆ハンバーグ)を作製し、その風味を評価した。
【0114】
(大豆ハンバーグの作製)
表8の配合(質量%)に基づき、以下の方法で大豆ハンバーグを作製した。
(1)粒状大豆たん白に水を浸漬させた。
(2)塩、香辛料、馬鈴薯でんぷんを均一に混ぜ合わせた。
(3)上記(1)の粒状大豆たん白、大豆カード、可塑性油脂組成物1若しくは2、又はパーム油を混ぜ合わせた。
(4)80gに成型し、コンベクションオーブンで、195℃、10分間焼成した。
【0115】
なお、表8の「大豆カード」は表9の配合(質量%)に基づき、以下の方法で作製した。
(1)粉末状大豆たん白及びメチルセルロースを混ぜ合わせ、菜種油を加えてフードプロセッサーで均一に撹拌した。
(2)撹拌しながら水(冷水)を徐々に入れ、乳化させた。
(3)冷蔵庫で30分以上、冷却した。
【0116】
(大豆ハンバーグの評価)
得られた大豆ハンバーグについて、試験1と同様に、重厚感、香ばしさ、及び雑味のそれぞれを評価した。評価の際には、可塑性油脂組成物の代わりにパーム油を使用した「参考例1」を比較対象に設定した。その結果を表8中の「評価」の項に示す。
【0117】
【0118】