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  • 特許-農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/14 20060101AFI20240826BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20240826BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240826BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A01G9/14 S
A01G13/02 D
B32B5/18 101
B32B27/32 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023061585
(22)【出願日】2023-04-05
(62)【分割の表示】P 2019103976の分割
【原出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2023083341
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 沙耶香
(72)【発明者】
【氏名】戸▲崎▼ 雄太
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-229407(JP,A)
【文献】特開2019-71848(JP,A)
【文献】特開2012-192595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14
A01G 13/02
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(a)からなる外層と、
ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(c)からなる内層と、
前記外層と前記内層との間に設けられ、1層以上の、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(b)からなる中間層と、
前記内層の、前記外層側とは反対側の表面に設けられた防曇層と
を備え、
前記中間層の少なくとも1層が、前記樹脂材料(b)を発泡させた発泡層であり、
前記内層の、前記外層側とは反対側の表面と、前記発泡層のうち、最も前記内層側に位置する発泡層の、前記内層側の表面との距離が40μm以上であり、
前記内層の、前記外層側とは反対側の表面の最大高さRzが95μm以下であり、
前記発泡層が、直鎖状低密度ポリエチレンを含む前記樹脂材料(a)からなる前記外層と接触していることを特徴とする農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム。
【請求項2】
下記式(1)にて算出する気孔率が5%以上であることを特徴とする請求項1に記載の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム。
気孔率[%]=1-(ρ/ρ) (1)
(ここで、ρは気孔を含む見掛比重、ρは気孔を含まない真比重である。)
【請求項3】
前記気孔率が7.3~22%であることを特徴とする請求項2に記載の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウス、農業用トンネル等の農業用施設に用いられる農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オレフィン系樹脂からなる農業用フィルムが利用されているが、農業用ハウスや農業用トンネルにおいて、昼間に太陽光を浴びて上昇した屋内の気温および地温が、夜間に低下しすぎないように、農業用フィルムに保温性が求められている。
【0003】
例えば、有効成分として複合水酸化物縮合ケイ酸塩が配合された保温剤を含有するポリオレフィン系農業用フィルム(特許文献1参照)や、多数のキャップ状の突起を有する断熱性に優れたキャップフィルムが積層された農業用フィルム(特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-125001号公報
【文献】特開2009-45060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムに防曇機能をもたせるためには、一般に、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムに防曇剤を塗布する必要があるが、上記従来の農業用フィルムにおいては、防曇剤の塗布面における凹凸が大きいため、防曇剤を均一に塗布することが困難であった。
【0006】
また、防曇剤を塗布する代わりに、フィルムに防曇剤を練り込む方法も考えられるが、この場合、フィルムの内面に塗布される防滴剤が親水基を有する界面活性剤であるため、防滴剤がフィルムの表面に噴出して、水分により流出した後は防曇性が消失し、防曇効果を長期間にわたって維持することができない。従って、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを、高い防曇性が要求される内張り天井に適用することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、防曇剤の塗布面における凹凸の形成を抑制することにより、防曇剤を均一に塗布することができるとともに、高い防曇性が要求される内張り天井に使用することが可能な農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(a)からなる外層と、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(c)からなる内層と、外層と内層との間に設けられ、1層以上の、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(b)からなる中間層と、内層の、外層側とは反対側の表面に設けられた防曇層とを備え、中間層の少なくとも1層が、樹脂材料(b)を発泡させた発泡層であり、内層の、外層側とは反対側の表面と、発泡層のうち、最も内層側に位置する発泡層の、内層側の表面との距離が40μm以上であり、内層の、外層側とは反対側の表面の最大高さRzが95μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれは、防曇剤を均一に塗布することができるとともに、高い防曇性が要求される内張り天井に使用することができる農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0012】
<農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム>
図1に示すように、本発明の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1は、太陽光が入射する側の層である外層2と、太陽光が入射する側とは反対側の層である内層3と、外層2と内層3の間に設けられた中間層4と、内層3の表面(外層2側とは反対側の表面)3aに設けられた防曇層(防曇性塗膜)8とを備えており、これらの各層が積層された多層構造からなるものである。
【0013】
なお、強度と取扱性の観点から、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1の厚みは、50~400μmが好ましく、100~300μmがより好ましい。
【0014】
<外層>
外層2は、農業用施設に展設された際には、施設の外側に面する最外層となる。この外層2は、各種顔料が多量に配合され、かつ樹脂材料を発泡させているために強度が不足している中間層3を補強する層であり、かつインフレーション法にて農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1を製造する際に、チューブ状の溶融樹脂を膨張させるための空気が内側から抜けないようにする層であることから、非発泡の層にする。
【0015】
また、外層2は、中間層4の機能(反射、遮光等)を妨げることなく、中間層4の各種顔料が劣化しないように保護する層であることから、光透過性を有する層にする。
【0016】
この外層2は、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(a)からなる層であり、ポリオレフィン系樹脂としては、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1の強度を向上させるとの観点から、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0017】
また、外層2としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレンを主成分とし、従成分としてメルトマスフローレート(MRF)が0.5~2.0g/10分程度異なる高圧法低密度ポリエチレンを配合する組成物を用いることができる。メルトマスフローレートが0.5~2.0g/10分程度異なる樹脂を配合することによって、多層フィルムの梨地度がさらに高めることができる。
【0018】
なお、上記のメルトマスフローレートは、JIS K 7210:1999の規定に準拠して測定することで得られる。
【0019】
また、樹脂材料は、強度および光透過性等を損なわない範囲で、他のポリオレフィン系樹脂や公知の添加剤等を含んでいてもよい。
【0020】
また、外層2の厚みは、10~40μmが好ましく、15~30μmであれば、更に好ましい。厚みが10μm以上であれば、防塵効果が十分され、40μm以下であれば光透過性が良好になる。
【0021】
<内層>
内層3は、農業用施設に展設された際には、施設の内側に面する最内層となる。この内層3は、上述の外層2と同様に、中間層3を補強する層であり、非発泡かつ光透過性を有する層にする。
【0022】
この内層3は、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(c)からなる層であり、ポリオレフィン系樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレンや低密度ポリエチレンが挙げられるが、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1の強度を向上させるとの観点から、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0023】
また、強度を確保するとの観点から、ポリオレフィン系樹脂の密度は0.900~0.930g/cmが好ましく、メルトマスフローレート(MRF)は0.5~3.0g/10分が好ましい。
【0024】
なお、従来のエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する樹脂材料を使用すると、内層3の、外層2側とは反対側の表面3aに凹凸が形成され易くなるため、当該表面3aに防曇層8を設けることが困難になり、好ましくない。
【0025】
また、柔軟性、透明性等を損なわない範囲で、他のポリオレフィン系樹脂や、他の公知の添加剤等を含んでいてもよい。
【0026】
例えば、内層3を形成する樹脂材料(c)は、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1に防曇性を付与するために、防曇剤を含んでいてもよい。防曇剤としては、多価アルコール(ソルビタン系、グリセリン系、ジグリセリン系等)と脂肪酸との部分エステル、またはこれらとアルキレングリコールとの縮合物等が挙げられる。
【0027】
なお、防曇剤の配合量は、ポリオレフィン系樹脂の100質量部に対して、1~5質量部が好ましく、1.2~3質量部がより好ましい。
【0028】
また、樹脂材料(c)は、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1に防霧性を付与するために、防曇剤とともにフッ素系界面活性剤またはシリコーン系界面活性剤を含有してもよい。
【0029】
また、内層3の厚みは、10~40μmが好ましく、15~30μmであれば、さらに好ましい。
【0030】
<中間層>
中間層4は、外層2側から順に、第1中間層5と、第2中間層6と、第3中間層7とを有し、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1に対して保温性及び断熱性を付与するとの観点から、これらの第1~第3中間層5~7の少なくとも1層が、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(b)を発泡させた発泡層により構成されている。
【0031】
第1~第3中間層5~7は、線状低密度ポリエチレンやエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(b)からなる層であり、フィルムの強度や取扱性、及び柔軟性の観点から、ポリオレフィン系樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体を使用することが好ましい。
【0032】
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニル含有量が5~30質量%のものが好ましく、さらに、10~25質量%であることがより好ましい。酢酸ビニル含有量が5質量%以上であれば、後述の防曇層との密着性が良好になる。また、30質量%以下であると得られるフィルムの強度が十分になり、透明性も良好になる。
【0033】
また、エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、メルトマスフローレートが1.2~10g/10分のものを使用することが好ましい。メルトマスフローレートが1.2g/10分以上であれば、低密度ポリエチレンとしてメルトマスフローレートの高いものを使用することができ、また、成形速度を上げることができるため、フィルムを効率よく生産することが可能になる。一方、メルトマスフローレートが10g/10分を超えると、フィルムの形状維持が困難になり、製膜性が悪くなってしまう。
【0034】
また、第1~第3中間層5~7を発泡させる場合は、ポリオレフィン系樹脂を含む樹脂材料(b)を発泡剤で発泡させる。
【0035】
この発泡剤としては、ポリオレフィン系樹脂用の発泡剤として公知のものを用いればよく、例えば、炭酸水素ナトリウム、アゾジカルボンアミド、p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、ヒドラゾジカルボンアミド、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等が挙げられる。例えば、ポリスレンEV306G(三協化成社製)、セルマイク3031T(永和化成社製)、セルマイクMB1061-7(永和化成社製)等の市販品を使用することができる。
【0036】
発泡剤の配合量は、ポリオレフィン系樹脂の100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.3~3質量部がより好ましい。
【0037】
なお、内層3の表面3aの平滑性をより一層向上させるとの観点から、本発明の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1においては、第1中間層5及び第2中間層6の少なくとも一方が発泡層であり、中間層4の、内層3側の層(即ち、第3中間層7)が非発泡層であることが好ましい。
【0038】
また、樹脂材料(b)は、強度や取扱性、及び柔軟性を損なわない範囲で、他のポリオレフィン系樹脂、公知の他の添加剤等を含んでいてもよい。
【0039】
また、中間層4の厚みは、30~100μmが好ましく、40~80μmがより好ましい。中間層4の厚みが30μm以上であれば、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1の引張強度やコシ等の物性を十分に得ることができ、100μm以下であれば、光透過性を十分に得ることができる。なお、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1における良好な物性を確保するとの観点から、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1の全体の厚みを100%とした場合、中間層4の厚みは50~80%の範囲が好ましく、55~75%の範囲がより好ましい。
【0040】
<防曇層>
防曇層8は、フィルムの表面状態を維持(すなわち、曇り(水分)による平滑化を防止)し、散乱性能を維持するためのものであり、熱可塑性樹脂バインダーと無機質コロイドゾル等の防曇剤とにより構成されている。
【0041】
防曇層8に用いられる熱可塑性樹脂バインダーとしては、内層3との間で良好な接着性を示す熱可塑性樹脂であればよく、それ以外の制限は特にない。例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。なお、これらの熱可塑性樹脂バインダーは、通常、水又は水とアルコールなどの水性溶剤に分散させた、水系エマルションとして用いられる。
【0042】
熱可塑性樹脂バインダーの中では、水性ウレタン樹脂、特に水性アクリル変性ウレタン樹脂が好ましい。この水性アクリル変性ウレタン樹脂としては、ポリエステル系アニオン性のものが好ましく、例えば、(イ)ポリエステル系アニオン性の水性ウレタン樹脂の存在下に、(ロ)ヒドロキシ基含有アクリル系化合物を重合させたのち、(ハ)活性イソシアネート化合物を反応させることにより、製造することができる。
【0043】
一方、防曇層8の他の成分として用いられる無機質コロイドゾルとしては、例えば、コロイド状シリカ粒子やコロイド状アルミナ粒子などが挙げられる。コロイド状シリカ粒子は、球状でもアスペクト比の大きなもの、たとえば細長い形状のものでもよい。球状のコロイド状シリカ粒子としては、平均粒径が5~90nm、好ましくは20~80nmのコロイド状シリカ粒子を用いることができる。また、細長い形状のコロイド状シリカ粒子としては、動的光散乱法による測定粒子径(D1ミリミクロン)と窒素ガス吸着法による測定粒子径(D2ミリミクロン)の比D1/D2が5以上であって、D1が40~500nm、電子顕微鏡観察による短径が5~40nmのものを使用することが可能である。このような細長い形状のコロイド状シリカ粒子は公知であり(特開平4-65314号公報)、市販品として入手することができる。
【0044】
また、上記のほか、コロイド状リチウムシリケート粒子などを用いることができる。一方、コロイド状アルミナ粒子としては、平均粒径が5~70nm、好ましくは20~60nmのものが好適である。これらの無機質コロイドゾルは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
また、熱可塑性樹脂バインダーと無機質コロイドゾルとの割合は、固形分重量比で1:9~7:3の範囲にあることが好ましい。熱可塑性樹脂バインダーと無機質コロイドゾルとの割合が、この範囲であれば、防曇層8と内層3との接着力が十分に得られ、良好な防曇性を発揮することができる。
【0046】
内層3の表面3aに防曇層8を形成するには、次に示す方法を用いるのが好ましい。まず、熱可塑性樹脂バインダーと無機質コロイドゾルとを所定の割合で含有する水性エマルション組成物(防曇剤)を調製し、グラビアコーター、リバースロールコーター、エアナイフコーターなどによるコーティング法を用いて、該組成物を内層3の表面3aに塗布する。その後、50~150℃程度の温度で熱風乾燥して、膜厚が0.2~5μm、好ましくは0.5~2μm程度の塗膜を形成すればよい。膜厚が0.2μm以上であれば、防曇性の効果が十分に発揮され、また5μm以下であれば光透過性が良好である。
【0047】
なお、塗膜形成の際、水性エマルション組成物には、所望に応じ、塗布性を向上させる目的でシリコーン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤を含有させることができる。シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーンオイルが好ましく、またフッ素系界面活性剤としては、例えば、フルオロアルキル基やフルオロアルケニル基を含有する界面活性剤が用いられる。これらの界面活性剤の配合量は、通常水性エマルション組成物全量に対し、0.01~1質量%の範囲で選ばれる。
【0048】
また、本発明の目的が損なわれない範囲で、従来、慣用されている乳化剤、分散剤、安定剤、架橋剤などの各種添加成分を含有させることができる。さらに、塗膜の耐候性を高めるために、ヒンダードアミン系の光安定剤や紫外線吸収剤などを含有させることができる。架橋剤を配合すれば、特に塗膜の耐水性を向上させる効果が得られる。架橋剤としてはエポキシ系やアジリジン系のものが例示される。
【0049】
ここで、本発明者らは、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1において、内層3の表面3aの平滑性を確保するための条件を検討したところ、内層3の表面3aの表面粗さ(最大高さRz)を制御することにより、当該表面3aにおける防曇剤の塗布性を向上させることができることを見出した。
【0050】
より具体的には、内層3の表面3aの最大高さRzを95μm以下に設定することにより、内層3の表面3aにおける凹凸の形成を抑制することができるため、当該表面3aにおいて防曇剤を均一に塗布することが可能になる。その結果、内層3の表面3aに防曇層8を設けることが容易になる。
【0051】
また、内層3の表面3aに防曇剤を均一に塗布することができるため、上記従来技術と異なり、防曇剤の練り込みや防滴剤の塗布が不要になる。その結果、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1の防曇性が向上するとともに、高い防曇性が要求される内張り天井に使用することが可能になる。
【0052】
なお、本明細書において「最大高さRz」とは、JIS B 0601:2001に準拠して測定されるものであり、粗さ曲線の中で最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和として求められるものをいう。
【0053】
また、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1の保温性を向上させるとの観点から、下記式(1)にて算出する気孔率が5%以上であることが好ましい。
【0054】
[数1]
気孔率[%]=1-(ρ/ρ) (1)
(ここで、ρは気孔を含む見掛比重、ρは気孔を含まない真比重である。)
【0055】
なお、本明細書において「気孔率」とは、JIS R 2205(耐火れんがの見掛気孔率・吸水率・比重の測定方法)に準拠して測定されるものをいう。
【0056】
また、「気孔を含む見掛比重」、及び「気孔を含まない真比重」とは、JIS K 7222に準拠して測定される比重であるが、本発明の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムは発泡層が外側に現れず閉気孔とみなせるため、JIS K 7222の水中置換法に準拠して測定した比重を用いている。
【0057】
なお、強度を保持するとの観点から、気孔率は60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下が更に好ましい。
【0058】
また、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1においては、フィルムの機械軸(長手)方向(以下、「MD方向」という。)において、破断強さが10N以上30N以下であり、エルメンドルフ強さが10N以上38N以下であることが好ましい。
【0059】
なお、本明細書において「破断強さ」とは、後述の実施例に記載の方法により測定した引張切断強さのことをいい、「エルメンドルフ強さ」とは、JIS K 7128-2に準拠して測定される引裂強さのことをいう。
【0060】
<製造方法>
本発明の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1は、インフレーション法によって製造することが好ましい。
【0061】
具体的には、まず、外層2、内層3、及び中間層4を形成する溶融状態の各樹脂材料(a)~(c)をダイからチューブ状に共押出し、空気の圧力によって内側から膨張させた後、冷却する。この際、第1~第3中間層5~7を形成する溶融状態の樹脂材料(b)の少なくとも1つが、予め上述の発泡層を含む必要がある。
【0062】
なお、各層を構成する溶融樹脂の共押出の方法としては、各溶融樹脂をダイの手前で接触させるダイ前積層法、ダイの内部で接触させるダイ内積層法、およびダイの同心円状の複数のリップから吐出した後に接触させるダイ外積層法が挙げられる。
【0063】
次に、グラビアコーター、リバースロールコーター、エアナイフコーターなどによるコーティング法を用いて、内層3の表面3aに、上述の防曇剤を塗布して乾燥させることにより、内層3の表面3a上に防曇層8を形成し、本発明の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1を製造することができる。
【0064】
<他の形態>
なお、本発明の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムは、図示例のものに限定はされない。例えば、上記実施形態における農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム1においては、中間層4を3層としたが、中間層4は1層以上であればよく、2層であってもよいし、4層以上であってもよい。
【0065】
なお、中間層4は、遮光性が必要な場合は各種顔料を含むことが好ましいが、遮光性が必要とされない場合は各種顔料を含まなくてもよい。
【実施例
【0066】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0067】
農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムの作製に使用した材料を以下に示す。
【0068】
(1)LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン、密度:0.915g/cm、MFR:2.0g/10分(プライムポリマー社製、商品名:SP2020)
(2)EVA:酢酸ビニル単位含有量15質量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体、MFR:1.1g/10分(株式会社NUC製、書品名:NUC-8452D)
(3)発泡剤1:アゾジカルボンアミド(永和化成社製、商品名:ポリスレンEE405F)
(4)発泡剤2:アゾジカルボンアミド(永和化成社製、商品名:ポリスレンEE2275F)
(5)発泡剤3:アゾジカルボンアミド(三協化成社製、商品名:セルマイクセルマイクMB1023)
【0069】
(実施例1)
<農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムの作製>
まず、表1に示す各材料を配合して、表1に示す組成(質量部)を有する実施例1の樹脂材料を用意した。次に、5種5層のインフレーション装置を用いて、外側から内層の樹脂材料、第1中間層の樹脂材料、第2中間層の樹脂材料、第3中間層の樹脂材料、及び外層の樹脂材料となるように、ダイの同心円状の複数のリップから樹脂材料を溶融状態にて共押出し、空気の圧力によって内側から膨張させた後、冷却し、巻き取ることにより、外層の厚みが20μm、中間層の厚みが100~170μm、及び内層の厚みが20μmである、5種5層のフィルムを作製した。
【0070】
次に、アクリル樹脂系エマルション50質量部、アルミナゾル50質量部及びポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤0.5質量部からなる防曇層形成用の塗工液(防曇剤)を調製し、作製したフィルムの外表面(内層の、外層側とは反対側の表面)に、バーコーター♯7を使用して塗工し、50℃で5分間、乾燥することにより、厚みが2μmの防曇層を形成させ、本実施例の農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを作製した。
【0071】
<内層の表面の表面粗さ(最大高さRz)の測定>
JIS B 0601:2001に準拠して、防曇層が形成される前の内層の表面(内層の、外層側とは反対側の表面)の表面粗さ(最大高さRz)を測定した。より具体的には、形状解析レーザー顕微鏡(キーエンス製、商品名:VK-X1000)を用いて、2000μm×2756μmの領域において表面粗さを3回測定し、その平均値をRzとした。以上の結果を表1に示す。
【0072】
<塗布性評価>
上述の防曇層形成用の塗工液を、50℃で5分間、乾燥させた際の塗工面の状態を下記評価基準に従って評価した。以上の結果を表1に示す、
塗工面が乾燥しており、塗布性が優れている:○
塗工面が乾燥しておらず、塗布性が劣っている:×
【0073】
<気孔率の測定>
JIS R 2205に準拠して、上述の式(1)を用いて、作製した農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムの気孔率を測定した。より具体的には、JIS K 7222に準拠して、水中置換法にて気孔を含む見掛比重ρと気孔を含まない真比重ρとを、自動比重計(東洋精機製、商品名:高精度形 D-H100)を用いて測定し、気孔率を求めた。以上の結果を表1に示す。
【0074】
<破断強さの測定>
精密万能試験機(島津製作所製、商品名:オートグラフ AG―500D)を使用して、作製した農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムの長手方向における破断強さを測定した。なお、試験片の測定幅は5mmとし、試験片の中心から両端に向かって正確に10mmの位置に標線を付け、標線間距離を20mmとし、引張試験機に正確に取り付けた。また、試験速度は200±20mm/分とし、試験片が切断した時の力を引張切断強さ(長手方向における破断強さ)とした。以上の結果を表1に示す。
【0075】
<エルメンドルフ強さの測定>
JIS K 6732に準拠して、実施例1で得られたフィルムからエルメンドルフ引裂強さ試験用の試験片(MD方向:76mm、TD方向:63mm)を採取した。次に、デジタルエルメンドルフ・引裂き試験機〔(株)東洋精機製作所、品番:SA-WP〕を用い、JIS K 7128-2に準拠して、上記試験片のエルメンドルフ引裂強さ試験を行い、以下の評価基準に基づいて上記フィルムの強度を評価した。
【0076】
より具体的には、上記試験片を9個採取し、試験温度は23℃とし、該試験片を1時間以上、試験場所に保った。その後、上記試験片を上記デジタルエルメンドルフ・引裂き試験機を用いて引裂強さを測定した。なお、9個の測定値の中から大小それぞれ2個の値を除き、残りの5個の平均値を算出して、エルメンドルフ引裂強さとした。以上の結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2~8)
樹脂材料の組成を表1に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを作製した。
【0078】
そして、上述の実施例1と同様にして、内層の表面の表面粗さ(最大高さRz)の測定、塗布性評価、気孔率の測定、破断強さの測定、及びエルメンドルフ強さの測定を行った。以上の結果を表1~表3に示す。
【0079】
(比較例1~2)
樹脂材料の組成を表2に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムを作製した。
【0080】
そして、上述の実施例1と同様にして、内層の表面の表面粗さ(最大高さRz)の測定、塗布性評価、気孔率の測定、破断強さの測定、及びエルメンドルフ強さの測定を行った。以上の結果を表4に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
表1~表3に示すように、実施例1~実施例8のフィルムにおいては、内層の表面(防曇剤の塗布面)の最大高さRzが95μm以下となっており、内層の表面における凹凸の形成が抑制されているため、防曇剤の塗布性に優れている(すなわち、防曇剤を均一に塗布することできる)ことが分かる。
【0086】
また、実施例1~実施例8のフィルムにおいては、気孔率が5%以上となっているため保湿性が優れており、破断強さとエルメンドルフ強さが共に10N以上となっているため強度も優れることが分かる。
【0087】
一方、表4に示すように、比較例1~2のフィルムにおいては、内層の表面(防曇剤の塗布面)の最大高さRzが95μmよりも大きくなっており、内層の表面において大きな凹凸が形成されているため、防曇剤の塗布性が劣っている(すなわち、防曇剤を均一に塗布することできない)ことが分かる。特に、比較例2においては、第2中間層と第3中間層が発泡層であり、かつ内層がエチレン-酢酸ビニル共重合体を含有する樹脂材料により形成されているため、防曇剤が塗布される内層の表面において大きな凹凸が形成されてしまい、当該表面における防曇剤の塗布性が劣っていることが分かる。
【0088】
また、比較例2においては、破断強さとエルメンドルフ強さが共に10N未満となっているため強度が劣っていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明は、農業用ポリオレフィン系樹脂フィルムに適している。
【符号の説明】
【0090】
1 農業用ポリオレフィン系樹脂フィルム
2 外層
3 内層
3a 内層の、外層側とは反対側の表面
4 中間層
5 第1中間層
6 第2中間層
7 第3中間層
8 防曇層
図1