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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】荷電粒子検出器
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/02 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
H01J49/02 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023135465
(22)【出願日】2023-08-23
【審査請求日】2024-07-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛志
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-027033(JP,A)
【文献】特開2021-197236(JP,A)
【文献】特開平6-150875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード及びカソードを含み、前記カソードに第1電圧が供給され、前記アノードに前記第1電圧よりも低い第2電圧が供給される半導体検出器と、
前記第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である基準電位に接続された導体部と、
前記アノードと前記導体部との間に配置され、前記第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である低電位が印加される保護部と、を備え、
前記保護部は、抵抗体を有する、荷電粒子検出器。
【請求項2】
前記保護部は、前記抵抗体を介して前記低電位が印加される保護電極を更に有する、請求項1に記載の荷電粒子検出器。
【請求項3】
前記低電位は、前記基準電位であり、
前記導体部は、前記基準電位に接続される外周導体と、前記外周導体の内部を挿通する中心導体とを含み、前記半導体検出器と接続されたコネクタを有し、
前記保護部は、前記外周導体に接続されている、請求項1又は2に記載の荷電粒子検出器。
【請求項4】
前記低電位は、前記基準電位であり、
前記導体部は、前記基準電位に接続された外周導体を含み、
前記保護部は、前記外周導体を覆う抵抗膜である、請求項1に記載の荷電粒子検出器。
【請求項5】
前記低電位は、前記基準電位の絶対値よりも高い絶対値の電位であり、前記第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である、請求項1又は2に記載の荷電粒子検出器。
【請求項6】
前記半導体検出器、前記保護部、及び前記導体部を実装する基板を更に備え、
前記半導体検出器は、前記基板の主面に実装され、
前記保護部及び前記導体部は、前記主面とは反対側の裏面に実装される、請求項1又は2に記載の荷電粒子検出器。
【請求項7】
前記半導体検出器、及び前記保護部を実装する基板と、
前記基板を収容する筐体と、を更に備え、
前記導体部は、前記筐体である、請求項1又は2に記載の荷電粒子検出器。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の荷電粒子検出器と、
前記荷電粒子検出器から出力された電気信号を処理する信号処理部と、を備えた分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン、電子などを検出する荷電粒子検出器に関する。本開示に係る荷電粒子検出器は、例えば質量分析に用いられる。
【背景技術】
【0002】
イオン、電子などの荷電粒子を検出する荷電粒子検出器として、荷電粒子の入射に応答して電子を放出する電子増倍素子と、放出された電子を捕獲して電気信号として出力する半導体検出器と、を有する検出器が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の荷電粒子検出器は、半導体検出器としてアバランシェダイオード(AD)を含み、ADに直列にコンデンサが接続されることで、ADの静電容量との合成静電容量を小さくし、ADの高速応答を実現している。
【0003】
放電などによる過電圧から入力回路の素子を保護するための入力保護回路が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の入力保護回路は、ESD保護素子及び抵抗を含んでいる。耐サージ用抵抗を信号経路上に接続することにより、後段の入力回路に過電流が入力することを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-81982号公報
【文献】国際公開第2008/53555号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような荷電粒子検出器では、半導体検出器と基準電位との間において放電が発生し、放電に伴い半導体検出器に瞬間的に大電流が流れる場合がある。このような放電電流は、半導体検出器に悪影響を与える場合がある。
【0006】
半導体検出器への悪影響を防ぐために、特許文献2に記載の入力保護回路を半導体検出器に適用した場合、信号経路上に接続された抵抗が、半導体検出器の時間応答特性に影響を与える場合がある。
【0007】
本開示では、半導体検出器の時間応答特性への影響を抑制し、かつ放電発生時に半導体検出器に悪影響が及ぶことを防ぐことができる荷電粒子検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係る荷電粒子検出器は、アノード及びカソードを含み、カソードに第1電圧が供給され、アノードに第1電圧よりも低い第2電圧が供給される半導体検出器3と、第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である基準電位GNDに接続された導体部と、アノードと導体部との間に配置され、第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である低電位が印加される保護部と、を備え、保護部は、抵抗体を有する。
【0009】
上記荷電粒子検出器では、半導体検出器は、高電圧の逆バイアス電圧が供給されていることから、カソードからアノードに向けて電流が流れる。保護部は、アノードと導体部との間に配置され、かつ第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である低電位が印加されることから、半導体検出器と導体部との間よりも半導体検出器と保護部との間で放電が発生し易くなり、放電電流は、電位の高い半導体検出器から電位の低い保護部に流れる。さらに、保護部は抵抗体を含むことから、放電電流を低減することができる。これにより、放電発生時に半導体検出器に流れる電流が低減され、半導体検出器に悪影響が及ぶことを防ぐことができる。加えて、上記荷電粒子検出器では、抵抗体が信号出力経路の途中に接続されていないため、抵抗体による半導体検出器の時間応答特性の影響を抑制することができる。
【0010】
保護部は、抵抗体を介して低電位が印加される保護電極を更に有してもよい。この場合、保護電極が導体部よりも半導体検出器の近くに位置することから、半導体検出器と導体部との間よりも半導体検出器と保護電極との間で優先的に放電を発生しやすくなり、放電電流は、保護電極に向かって流れ易くなる。これにより、保護電極及び抵抗体を介した放電電流の放電経路を確保し易くなる。
【0011】
低電位は、基準電位であり、導体部は、基準電位に接続される外周導体と、外周導体の内部を挿通する中心導体とを含み、半導体検出器と接続されたコネクタを有し、保護部は、外周導体に接続されていてもよい。この場合、放電電流は、半導体検出器から保護部を経由して、導体部の外周導体を経て基準電位に流れる。一方で、半導体検出器から出力された電気信号(出力信号)は、中心導体によって外部に出力される。これにより、放電電流の放出先として、追加の素子を設ける必要がないため、効率的に放電電流の放電経路を確保できる。
【0012】
低電位は、基準電位であり、導体部は、基準電位に接続された外周導体を含み、保護部は、外周導体を覆う抵抗膜であってもよい。この場合、保護部が抵抗膜であることにより、抵抗体を、例えば、抵抗素子として設ける必要がなく、また、保護電極及び抵抗体と低電位の供給源とを接続する配線が不要となり、放電電流の放電経路を簡易な構成とすることができる。
【0013】
低電位は、基準電位の絶対値よりも高い絶対値の電位であり、第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位であってもよい。この場合、低電位を規定する上での設計の自由度が向上する。
【0014】
半導体検出器、保護部、及び導体部を実装する基板を更に備え、半導体検出器は、基板の主面に実装され、保護部及び導体部は、主面とは反対側の裏面に実装されてもよい。この場合、保護部を、半導体検出器とは反対側の面である裏面に実装することにより、放電発生時に保護部の電位が不安定になることを抑制し、放電電流を、半導体検出器から保護部にむけて、より安全に流すことができる。
【0015】
半導体検出器、及び保護部を実装する基板と、基板を収容する筐体と、を更に備え、導体部は、筐体であってもよい。この場合、放電電流を基板外の筐体に向けて流すことができるため、基板に実装された半導体検出器に悪影響が及ぶことを防ぐことができる。
【0016】
本開示の一側面に係る分析装置は、上述した荷電粒子検出器と、荷電粒子検出器から出力された電気信号を処理する信号処理部と、を備えてもよい。この場合、分析装置では、荷電粒子検出器と同様に、放電発生時に半導体検出器に流れる電流が低減され、半導体検出器に悪影響が及ぶことを防ぐことができる。
【0017】
本開示の荷電粒子検出器は、[1]「アノード及びカソードを含み、前記カソードに第1電圧が供給され、前記アノードに前記第1電圧よりも低い第2電圧が供給される半導体検出器と、前記第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である基準電位に接続された導体部と、前記アノードと前記導体部との間に配置され、前記第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である低電位が印加される保護部と、を備え、前記保護部は、抵抗体を有する、荷電粒子検出器」である。
【0018】
本開示の荷電粒子検出器は、[2]「前記保護部は、前記抵抗体を介して前記低電位が印加される保護電極を更に有する、上記[1]に記載の荷電粒子検出器」であってもよい。
【0019】
本開示の荷電粒子検出器は、[3]「前記低電位は、前記基準電位であり、前記導体部は、前記基準電位に接続される外周導体と、前記外周導体の内部を挿通する中心導体とを含み、前記半導体検出器と接続されたコネクタを有し、前記保護部は、前記外周導体に接続されている、[1]又は[2]に記載の荷電粒子検出器」であってもよい。
【0020】
本開示の荷電粒子検出器は、[4]「前記低電位は、前記基準電位であり、前記導体部は、前記基準電位に接続された外周導体を含み、前記保護部は、前記外周導体を覆う抵抗膜である、上記[1]に記載の荷電粒子検出器」であってもよい。
【0021】
本開示の荷電粒子検出器は、[5]「前記低電位は、前記基準電位の絶対値よりも高い絶対値の電位であり、前記第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である、[1]又は[2]に記載の荷電粒子検出器」であってもよい。
【0022】
本開示の荷電粒子検出器は、[6]「前記半導体検出器、前記保護部、及び前記導体部を実装する基板を更に備え、前記半導体検出器は、前記基板の主面に実装され、前記保護部及び前記導体部は、前記主面とは反対側の裏面に実装される、上記[1]~[5]のいずれかに記載の荷電粒子検出器」であってもよい。
【0023】
本開示の荷電粒子検出器は、[7]「前記半導体検出器、及び前記保護部を実装する基板と、前記基板を収容する筐体と、を更に備え、前記導体部は、前記筐体である、[1]又は[2]に記載の荷電粒子検出器」であってもよい。
【0024】
本開示の分析装置は、[8]「[1]~[7]のいずれかに記載の荷電粒子検出器と、前記荷電粒子検出器から出力された電気信号を処理する信号処理部と、を備えた分析装置」であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本開示によれば、半導体検出器の時間応答特性への影響を抑制し、かつ放電発生時に半導体検出器に悪影響が及ぶことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本実施形態に係る荷電粒子検出器の概略的な構成を説明するための図である。
図2図2は、荷電粒子検出器の概略的な回路図を示す図である。
図3図3(a)は、比較例に係る荷電粒子検出器における放電電流の放電経路を説明するための図である。図3(b)は、本実施形態に係る荷電粒子検出器における放電電流の放電経路を説明するための図である。
図4図4は、荷電粒子検出器における基板の断面図である。
図5図5(a)は、基板を主面側からみた平面図である。図5(b)は、基板を裏面側から見た平面図である。
図6図6(a)は、第1変形例に係る荷電粒子検出器における基板の断面図である。図6(b)は、第2変形例に係る荷電粒子検出器における基板を裏面側からみた平面図である。
図7図7は、第3変形例に係る荷電粒子検出器における基板の断面図である。
図8図8は、第4変形例に係る荷電粒子検出器における基板の断面図である。
図9図9は、分析装置10の概略的な構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[実施形態]
【0028】
図1は、本実施形態に係る荷電粒子検出器1の概略的な構成を説明するための図である。荷電粒子検出器1は、イオン、電子などの荷電粒子を検出する検出器である。荷電粒子検出器1は、電子増倍素子2と、半導体検出器3と、電源部4と、信号出力部5と、保護部6と、を備えている。
【0029】
電子増倍素子2は、イオン、電子などの荷電粒子の入射に応答して電子E1を放出する。電子増倍素子2は、例えばマイクロチャネルプレートである。電子増倍素子2は、荷電粒子が入力面に入射すると、その荷電粒子に応答して電子E1を発生させ、その電子E1をカスケード増倍して出力面から出射する。出射した電子E1は、加速電極(図示しない)によって加速され、フォーカス電極(図示しない)によって集束されたうえで、半導体検出器3に入射する。
【0030】
半導体検出器3は、集束された電子E1を捕獲して出力信号S1として出力する。本実施形態では、半導体検出器3は、アバランシェダイオード(AD)から構成されている。半導体検出器3は、後述する基板の主面に実装されている。ADは、P型半導体層とN型半導体層とが積層された積層構造を含んでいる。半導体検出器3は、アノード3a及びカソード3bを含んでいる。アノード3aは、電子増倍素子2の出力面と対向している。アノード3aは、AD内のP型半導体層側の電極である。電子E1は、アノード3aに入射する。カソード3bは、基板の主面と対向している。カソード3bは、AD内のN型半導体層側の電極である。出力信号S1は、カソード3bから出力される。
【0031】
電源部4は、半導体検出器3を駆動するための第1電圧V1及び第2電圧V2を生成する。図2は、荷電粒子検出器1の概略的な構成を示す回路図である。図2では、電子増倍素子2の図示を省略している。また、図2では、半導体検出器3を、ダイオードとダイオードに並列接続された寄生容量とから構成される等価回路として図示している。図2に示されるように、電源部4は、電源Vccと、電源部Vinと、抵抗R1~R6と、ダイオードD1と、を含んでいる。電源Vccの負極は、抵抗R1の一端と接続されており、電源Vccの正極は、抵抗R4の他端と接続されている。抵抗R1~R4は互いに直列に接続されている。抵抗R2と抵抗R3との間のノードは、抵抗R5を介してアノード3aと接続されている。抵抗R4の他端は、抵抗R6を介してカソード3bと接続されている。
【0032】
電源部4は、電源Vccにおいて数kV~数十kVの高電圧を生成する。本実施形態では、電源部4が電源Vccにおいて正の高電圧を生成する。抵抗R1~R4は、生成された高電圧を分圧し、抵抗R6を介してカソード3bに第1電圧V1を印加すると共に、抵抗R5を介してアノード3aに第2電圧V2を印加する。第1電圧V1は、第2電圧V2よりも高い。第1電圧V1は、例えば10kVであり、第2電圧V2は、例えば9.65kVである。よって、半導体検出器3のアノード3a-カソード3b間には例えば350Vの電圧(逆バイアス)が印加され、半導体検出器3はフローティング動作する。電源部4において、抵抗R5,R6は、半導体検出器3に入力する電流を制限する電流制限抵抗である。ダイオードD1は、抵抗R6と並列に接続されており、カソード3bをサージ電圧などから保護するTVSダイオードである。
【0033】
電源部Vinは、電子増倍素子2の入力面に供給する電圧を生成する。電源部Vinの負極は、電子増倍素子2の入力面(図示省略)に接続され、電源部Vinの正極は、基準電位GNDに接続されている。
【0034】
本実施形態及び変形例において説明する基準電位GNDは、全て共通の基準電位であり、同じ電位である。これにより、各基準電位間において電位差が生じないことから、半導体検出器3が安定して動作する。
【0035】
信号出力部5は、半導体検出器3から出力された出力信号S1を外部に出力する。出力信号S1は、交流信号であり、例えば、所定の周期でHiレベルとLowレベルとを繰り返すパルス波である。図2に示されるように、信号出力部5は、コンデンサC1,C2と、抵抗R7,R8、Reと、信号出力端子51と、を含んでいる。コンデンサC1は、カソード3bと信号出力端子51との間に接続されている。コンデンサC1は、カソード3bから出力される出力信号S1の直流成分をカットして交流信号のみを取り出すカップリングコンデンサである。信号出力端子51には、出力信号S1を測定するためのオシロスコープなどの測定器が接続される。抵抗Reは、インピーダンス整合をするための終端抵抗として、信号出力端子51と基準電位GNDとの間に接続されている。
【0036】
コンデンサC2の一端は、アノード3aと接続されている。コンデンサC2の他端と基準電位GNDとの間には、抵抗R7が接続されている。これにより、アノード3aと基準電位GNDとの間にリターンパスが形成される。半導体検出器3への電子入射が続くと半導体検出器3の電子入射面で電圧降下が発生する。この場合、半導体検出器3から信号出力端子51に出力される出力信号S1には、この電圧降下に起因したDC成分の変動が反映されることになる。そこで、アノード3aと基準電位GNDとの間にコンデンサC2が配置されることにより、出力信号S1に反映されるDC成分の変動がキャンセルされる。また、コンデンサC2は、カソード3bから信号出力端子51に出力される出力信号S1を、リターンパスを介してアノード3aまで低インピーダンスで戻すことを可能にする。抵抗R7は、出力信号S1に反映されるDC成分の変動をより抑制するためのダンピング抵抗である。また、信号出力端子51と基準電位GNDとの間には、抵抗R8が接続されている。抵抗R8は、リターンパスを経由して過電流がアノード3aに流入しないための電流制限抵抗である。
【0037】
保護部6は、半導体検出器3と基準電位GNDとの間において放電が発生した場合に、半導体検出器3に流れる放電電流I1を誘導かつ抑制する。本実施形態では、基準電位GNDは、第2電圧V2よりも低い電位である。図2に示されるように、保護部6は、アノード3aと基準電位GNDとの間に配置されている。保護部6は、保護電極61と、抵抗体62と、を含んでいる。保護電極61は、抵抗体62を介して、基準電位GNDに接続されている。保護電極61は、アノード3aと所定の間隔を空けて配置されている。換言すれば、保護電極61は、半導体検出器3と電気的及び物理的に離間して配置されている。保護電極61は、放電電流I1が保護電極61側に流れるように放電電流I1を誘導する。抵抗体62は、高耐圧の抵抗であり、放電電流I1を低減する。ここで、基準電位GNDを第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である低電位と言い換えると、保護部6には低電位が印加されており、保護電極61には、抵抗体62を介して、低電位が印加されているとみなすことができる。
【0038】
続いて、図3を参照しながら、保護部6を設けることによる効果について説明する。図3(a)は、保護部6を含まない比較例に係る荷電粒子検出器における放電電流I1の放電経路を説明するための図である。半導体検出器3と基準電位GNDとの間において放電が発生した場合に、例えば、アノード3aと基準電位GNDとの間で絶縁破壊が発生し、アノード3aと基準電位GNDとの間が短絡することが想定される。この場合、放電電流I1は、抵抗Re側を起点としてカソード3bから半導体検出器3に流入する。そして、アノード3aから流出した放電電流I1は、アノード3aと基準電位GNDとの間に形成された短絡経路を流れる。例えば、10kVの放電電圧が発生した際に、放電電流I1は、放電電圧の電圧値を抵抗Reの抵抗値(例えば、50Ω)で除算した200Aとなり、半導体検出器3に200Aの大電流が逆バイアス方向に流れることになり、半導体検出器3に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0039】
図3(b)は、本実施形態に係る荷電粒子検出器1における放電電流I1の放電経路を説明するための図である。図3(b)では、半導体検出器3と基準電位GNDとの間よりも半導体検出器3と保護部6との間において放電が発生し易くなる。この場合、例えば、アノード3aと保護電極61との間で絶縁破壊が発生し、アノード3aと保護電極61との間が短絡することが想定される。この場合、放電電流I1は、抵抗Re側を起点としてカソード3bから半導体検出器3に流入する。そして、アノード3aから流出した放電電流I1は、アノード3aと保護電極61との間に形成された短絡経路を流れる。放電電流I1は、保護電極61及び抵抗体62を経て基準電位GNDに流れる。例えば、10kVの放電電圧が発生した際に、抵抗体62の抵抗値が1MΩであれば、放電電流I1は、10mAに低減される。これにより、保護電極61を有しない場合に比べ、半導体検出器3への影響が大幅に小さくなる。
【0040】
続いて、図4及び図5を参照しながら、半導体検出器3及び保護部6の配置構成について説明する。図4は、荷電粒子検出器1における基板7の断面図である。図5(a)は、基板7を主面7a側からみた平面図である。図5(b)は、基板7を裏面7b側から見た平面図である。
【0041】
図4に示されるように、荷電粒子検出器1は、基板7と、導体部8と、を更に備えている。基板7は、主面7aと、主面7aと反対側の裏面7bと、を含んでいる。半導体検出器3は、主面7aに実装されている。保護部6は、裏面7bに実装されている。基板7は、例えば、プリント配線基板である。基板7は、内部に、複数の銅箔層を含んでいる。複数の銅箔層は、基板7の面内方向に沿って二か所に設けられており、それぞれの箇所において、複数の銅箔層は、基板7の厚さ方向に沿って積層されている。複数の銅箔層のうち、主面7aに最も近い一層目の銅箔層と二番目に近い二層目の銅箔層との間では、所定の空間が空いており、その空間において浮遊容量成分が形成されている。一か所目の複数の銅箔層において形成された浮遊容量成分がコンデンサC1を形成し、二か所目の複数の銅箔層において形成された浮遊容量成分がコンデンサC2を形成している。複数の銅箔層のうち、二層目以降の銅箔層間は電気的に接続されているため、浮遊容量が形成されない。
【0042】
図5(a)に示されように、コンデンサC1は、導電性の電極パターンP1においてカソード3bと接続されている。また、コンデンサC1は、電極パターンP2において抵抗R6の一端と接続されている。抵抗R6の他端は、電極パターンP3と接続されている。電極パターンP3は、図2に示される抵抗R4の他端と接続されている。コンデンサC2は、導電性の電極パターンP4においてアノード3aと接続されている。また、コンデンサC2は、電極パターンP5において抵抗R5の一端と接続されている。抵抗R5の他端は、電極パターンP6と接続されている。電極パターンP6は、図2に示される抵抗R2と抵抗R3との間のノードと接続されている。なお、電源部4のうち、抵抗R5、抵抗R6、及びダイオードD1以外の図5(a)に図示していない素子については、基板7上に配置されてもよいし、基板7外に配置されてもよい。
【0043】
図4に示されるように、導体部8は、基板7の裏面7bに実装されている。本実施形態では、導体部8は、コネクタ83から構成されている。コネクタ83は、例えば、SMAジャックである。コネクタ83は、基板7を介して半導体検出器3に接続されている。コネクタ83は、円筒状の外周導体81と、外周導体81の内部を挿通する中心導体82と、を含んでいる。半導体検出器3の中心軸と外周導体81の中心軸とは一致している。中心導体82は、外周導体81の中心軸を通るように設けられている。外周導体81の外面は、基準電位GNDに接続されている。中心導体82の一端は、基板7を介して、コンデンサC1に接続されている。中心導体82の他端は、信号出力端子51に接続されている。コンデンサC1、中心導体82及び信号出力端子51は、半導体検出器3(カソード3b)からの信号を出力する信号出力経路を構成している。
【0044】
保護部6は、基板7の主面7a上のアノード3aと裏面7b上の導体部8とを結ぶ沿面の途中に配置されている。つまり、保護部6は、導体部8よりも半導体検出器3の近くに位置している。具体的には、図5(b)に示されるように、保護電極61は、基板7の外縁に沿って裏面7b上に、導体部8、抵抗R7,R8、及び抵抗体62を囲んで形成されている。抵抗体62の一端は、配線パターンP7を介して保護電極61と接続されており、抵抗体62の他端は配線パターンP8を介して外周導体81に接続されている。これにより、アノード3aと外周導体81との間よりも、アノード3aと保護電極61との間において放電が発生し易くなる。この場合、放電が発生する場合においてアノード3aと保護電極61との間で絶縁破壊が発生し、アノード3aと保護電極61との間が短絡する。そして、保護電極61に誘導された放電電流I1は、抵抗体62によって放電発生時に流れる放電電流量が抑制され、外周導体81を介して基準電位GNDに流れる。
[作用及び効果]
【0045】
上記した荷電粒子検出器1では、半導体検出器3は、高電圧の逆バイアス電圧が供給されていることから、カソード3bからアノード3aに向けて電流が流れる。半導体検出器3と導体部8との間で放電が発生した場合、コンデンサC1の電荷が放電電流I1として半導体検出器3に対して逆バイアスに流れる。保護部6は、アノード3aと導体部8との間に配置され、かつ第2電圧V2の絶対値よりも低い絶対値の電位である低電位が印加されることから、放電電流I1は、電位の高い半導体検出器3から電位の低い保護部6に流れる。さらに、保護部6は抵抗体62を含むことから、放電電流I1を低減することができる。これにより、放電発生時に半導体検出器3に流れる放電電流I1が低減され、半導体検出器3に逆バイアス方向に大電流が流れることによって劣化や破損などの悪影響が及ぶことを防ぐことができる。加えて、荷電粒子検出器1では、抵抗体62が信号出力経路の途中に接続されていないため、半導体検出器3の保護に十分な大きさの抵抗値の抵抗体を採用しながらも、半導体検出器3の時間応答特性(高速応答性)が低下する等の特性への影響を抑制することができる。
【0046】
保護部6は、抵抗体62を介して低電位(基準電位GND)が印加される保護電極61を更に有している。この場合、保護電極61が導体部8よりも半導体検出器3の近くに位置することから、保護電極61が放電を受け易くなり、放電電流I1は、保護電極61に向かって流れ易くなる。これにより、保護電極61及び抵抗体62を介した放電電流I1の放電経路を確保し易くなる。
【0047】
保護部6に印加される低電位は、基準電位GNDであり、導体部8は、基準電位GNDに接続される外周導体81と、外周導体81の内部を挿通する中心導体82とを含み、半導体検出器3と接続されたコネクタ83を有し、保護部6は、外周導体81に接続されている。この場合、放電電流I1は、半導体検出器3から保護部6を経由して、導体部8の外周導体81を経て基準電位GNDに流れる。一方で、半導体検出器3から出力された出力信号S1は、中心導体82によって外部に出力される。これにより、放電電流I1の放出先として、追加の素子を設ける必要がないため、効率的に放電電流I1の放電経路を確保できる。
【0048】
半導体検出器3、保護部6、及び導体部8を実装する基板7を更に備え、半導体検出器3は、基板7の主面7aに実装され、保護部6及び導体部8は、主面7aとは反対側の裏面7bに実装される。この場合、保護部6を、半導体検出器3とは反対側の面である裏面7bに実装することにより、放電発生時に保護部6の電位が不安定になることを抑制し、放電電流I1を、半導体検出器3から保護部6にむけて、より安全に流すことができる。
[変形例]
【0049】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0050】
図6(a)は、第1変形例に係る荷電粒子検出器1Aにおける基板7の断面図である。図6(b)は、第2変形例に係る荷電粒子検出器1Bにおける基板7を裏面7b側からみた平面図である。荷電粒子検出器1Aに含まれる保護部6A、及び荷電粒子検出器1Bに含まれる保護部6Bは、保護電極61を含まない点、及び抵抗体62として抵抗素子ではなく抵抗膜を含んでいる点において、保護部6と相違する。抵抗膜は、例えば、金属酸化物などの無機系材料の粉末及びバインダー(溶着剤、結着剤)を含んでいる。図6(a)に示されるように、保護部6Aでは、外周導体81の外面を覆うように抵抗体62が形成されている。図6(b)に示されるように、保護部6Bでは、導体部8の周囲にいて、裏面7bの一部を覆うように抵抗体62が形成されている。保護部6A及び保護部6Bにおいても、抵抗体62が導体部8よりも半導体検出器3の近くに位置することから、保護部6A及び保護部6Bが放電を受け易くなり、放電電流I1は、抵抗体62によって抑制され、外周導体81を介して基準電位GNDに流れる。また、保護部6A及び保護部6Bが抵抗体62として抵抗膜を含んでいることにより、抵抗体62を、抵抗素子として設ける必要がなく、また、保護電極61及び抵抗体62と低電位の供給源(例えば、基準電位GND)とを接続する配線が不要となり、放電電流I1の放電経路を簡易な構成とすることができる。
【0051】
保護部6の抵抗体62に接続される導体部は、コネクタ83以外から構成されてもよい。図7は、第3変形例に係る荷電粒子検出器1Cにおける基板7の断面図である。荷電粒子検出器1Cは、基板7を収容する導電性の筐体9を更に備えている。筐体9は、基準電位GNDに接続されている。荷電粒子検出器1Cでは、導体部8Aは、筐体9から構成されている。図7の例では、保護電極61は、主面7aに実装されている。これにより、保護電極61が導体部8Aよりも半導体検出器3の近くに位置する。保護電極61は、主面7aから裏面7bにかけて貫通するビアV及び配線パターンP7を介して抵抗体62と接続されてもよい。抵抗体62の他端は、配線パターンP8を介して筐体9と接続されている。この場合、放電電流I1は、筐体9を介して基準電位GNDに流れる。基板7は、図7に示されるように、筐体9の内側面にはめ込まれるように固定されており、裏面7bは、外部に露出してもよい。或いは、筐体9は、底面を含み、底面には開口が形成されていてもよい。そして、基板7は、底面に載置され、コネクタ83が開口を介して外部に露出してもよい。荷電粒子検出器1Cでは、放電電流I1を基板7外の筐体9に向けて流すことができるため、基板7に実装された半導体検出器3への悪影響を確実に防げる。
【0052】
導体部は、コネクタ83及び筐体9に限られない。例えば、荷電粒子検出器1とは別の装置の筐体が導体部であってもよい。別の装置は、例えば、荷電粒子検出器1を真空状態にする真空チャンバであってもよい。或いは、導体部は、荷電粒子検出器1内の部材であって、基準電位GNDに接続された部材であってもよい。いずれの場合も、放電電流I1を基板7外に向けて流すことができる。
【0053】
図8は、第4変形例に係る荷電粒子検出器1Dにおける基板7の断面図である。荷電粒子検出器1Dでは、保護部6が基準電位GNDでなく、低電圧源Vcc2に接続されている点において、荷電粒子検出器1と相違する。抵抗体62の他端は、低電圧源Vcc2に接続されている。保護部6には低電圧源Vcc2から電位が印加されており、保護電極61には、抵抗体62を介して、低電圧源Vcc2から電位が印加されている。低電圧源Vcc2から印加される電位は、第2電圧V2の絶対値よりも低い絶対値の電位であると共に、基準電位GNDの絶対値よりも高い絶対値の電位である。この場合においても、放電電流I1は、電位の高い半導体検出器3から電位の低い保護部6に流れる。また、荷電粒子検出器1Dでは、保護部6に印加する電位を規定する上での設計の自由度が向上する。
【0054】
電源部4は、電源Vccにおいて負の高電圧を生成してもよい。この場合、半導体検出器3のアノード3a-カソード3b間に負の高電圧が印加された状態で、アノード3a-カソード3b間には逆バイアスが印加され、半導体検出器3はフローティング動作する。半導体検出器3のアノード3a-カソード3b間に負の高電圧が印加された場合においても、保護部6には、第2電圧V2の絶対値よりも低い絶対値の電位である低電位が印加されることから、放電電流I1は、電位の高い保護部6から電位の低い半導体検出器3に流れる。
【0055】
実施形態及び変形例において説明した荷電粒子検出器1~1Dは、分析装置に用いられてもよい。図9は、分析装置10の概略的な構成を説明するための図である。分析装置10は、荷電粒子検出器1~1Dと、荷電粒子検出器1~1Dから出力された電気信号(出力信号S1)を処理する信号処理部20と、を備えてもよい。分析装置10は、例えば、質量分析装置である。この場合、信号処理部20は、出力信号S1に基づいて質量スペクトルを生成してもよい。また、分析装置10が質量分析装置である場合、荷電粒子検出器1~1Dが検出する対象はイオンとなる。荷電粒子検出器1~1Dが正・負どちらのイオンを検出するかに応じて、半導体検出器3に印加される電圧の極性が選択されてもよい。例えば、荷電粒子検出器1~1Dが負のイオンを検出する場合は、半導体検出器3のアノード3a-カソード3b間に正の高電圧が印加されてもよい。或いは、荷電粒子検出器1~1Dが正のイオンを検出する場合は、半導体検出器3のアノード3a-カソード3b間に負の高電圧が印加されてもよい。分析装置10では、荷電粒子検出器1~1Dと同様に、放電発生時に半導体検出器3に流れる電流が低減され、半導体検出器3に悪影響が及ぶことを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0056】
1,1A,1B,1C,1D…荷電粒子検出器、10…分析装置、20…信号処理部、3…半導体検出器、3a…アノード、3b…カソード、6,6A,6B…保護部、61…保護電極、62…抵抗体、7…基板、7a…主面、7b…裏面、8,8A…導体部、9…筐体、81…外周導体、82…中心導体、83…コネクタ、GND…基準電位、V1…第1電圧、V2…第2電圧。

【要約】
【課題】導体検出器の時間応答特性への影響を抑制し、かつ放電発生時に半導体検出器に悪影響が及ぶことを防ぐことができる荷電粒子検出器を提供する。
【解決手段】荷電粒子検出器1は、アノード3a及びカソード3bを含み、カソード3bに第1電圧が供給され、アノード3aに第1電圧よりも低い第2電圧が供給される半導体検出器3と、第2電圧よりも低い電位である基準電位GNDに接続された導体部8と、アノード3aと導体部8との間に配置され、第2電圧の絶対値よりも低い絶対値の電位である低電位が印加される保護部6と、を備えている。保護部6は、抵抗体62を有する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9