IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大豊精機株式会社の特許一覧

特許7543506プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法
<>
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図1
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図2
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図3
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図4
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図5
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図6
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図7
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図8
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図9
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図10
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図11
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図12
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図13
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図14
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図15
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図16
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図17
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図18
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図19
  • 特許-プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20240826BHJP
   B21D 5/01 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D5/01 C
B21D5/01 M
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023141108
(22)【出願日】2023-08-31
【審査請求日】2023-10-16
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207816
【氏名又は名称】大豊精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新美 早百合
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩満
(72)【発明者】
【氏名】門間 義明
(72)【発明者】
【氏名】小坂田 宏造
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-039327(JP,A)
【文献】特開2009-248092(JP,A)
【文献】特開2014-004618(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125723(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00 - 24/00
B21D 5/01
B21D 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形装置を用いたプレス成形方法であって、
天板部と前記天板部に対して所定回転方向に傾斜した斜壁部とを備える予備成形品に対して、前記天板部を固定した状態で、前記天板部から前記斜壁部の先端面までの前記斜壁部の長さに相当する前記斜壁部の板長が縮小する方向の力である圧縮力を前記斜壁部の先端面に加えながら、前記斜壁部を前記所定回転方向に曲げる特定曲げ工程を含み、
さらに、板材を前記所定回転方向に曲げて前記予備成形品を成形する予備曲げ工程を含み、
前記特定曲げ工程は、前記予備成形品から、前記天板部、前記天板部から湾曲した肩R部、及び前記天板部から前記肩R部を介して連続する縦壁部を備えるプレス成形品を成形するために、前記天板部を固定した状態で、前記斜壁部の先端面に前記圧縮力を加えながら、前記斜壁部を前記所定回転方向に曲げて前記肩R部及び前記縦壁部を成形する工程であり、
前記プレス成形装置は、
前記天板部に対応する頂面、前記肩R部に対応する肩面、及び前記縦壁部に対応する側壁面を有する金型部材と、
前記頂面に対向するように、前記頂面の所定方向の一方側に配置された押さえ部材と、
前記側壁面に対向し、前記縦壁部に対応する突き当て部材と、
前記突き当て部材を前記所定方向に交差する方向に移動させる駆動装置と、
を備え、
前記突き当て部材のうち前記縦壁部の先端位置に対応する位置には、前記金型部材に向けて突出した突出部が形成され、
前記特定曲げ工程では、
前記予備成形品の前記天板部が前記頂面と前記押さえ部材とにより挟み込まれた状態で、且つ前記突出部の前記所定方向の一方側の面である押圧面に前記斜壁部の先端面が当接した状態で、前記駆動装置が前記突き当て部材を前記側壁面に向けて移動させる、
プレス成形方法。
【請求項2】
前記金型部材のうち前記突出部に対応する部分には、前記突出部が進入可能な逃がし部が形成され、
前記特定曲げ工程では、
前記予備成形品の前記天板部が前記頂面と前記押さえ部材とにより挟み込まれた状態で、且つ前記突出部の前記押圧面に前記斜壁部の先端面が当接した状態で、前記駆動装置が前記突き当て部材を前記側壁面に向けて移動させ、前記突出部を前記逃がし部に進入させる、
請求項に記載のプレス成形方法。
【請求項3】
前記予備曲げ工程では、前記斜壁部の先端面が前記所定方向の他方側を向くように、前記斜壁部の先端部を前記所定回転方向に曲げる、
請求項に記載のプレス成形方法。
【請求項4】
前記特定曲げ工程では、前記斜壁部の先端面に加わる平均圧力が前記斜壁部の降伏応力に達するように、前記圧縮力が前記斜壁部の先端面に加えられる、
請求項1~の何れか一項に記載のプレス成形方法。
【請求項5】
前記予備成形品には、前記圧縮力により圧縮される圧縮代が設けられており、
前記特定曲げ工程が実行される前の前記斜壁部の板長は、前記特定曲げ工程が実行された後の前記斜壁部の板長よりも大きい、
請求項1に記載のプレス成形方法。
【請求項6】
前記板材には、前記圧縮力により圧縮される圧縮代が設けられており、
前記斜壁部の板長は、前記肩R部及び前記縦壁部の板長よりも大きい、
請求項1~3の何れか一項に記載のプレス成形方法。
【請求項7】
天板部及び前記天板部に対して傾斜した斜壁部を備える予備成形品から、前記天板部、前記天板部から湾曲した肩R部、及び前記天板部から前記肩R部を介して連続する縦壁部を備えるプレス成形品を成形するプレス成形装置であって、
前記天板部に対応する頂面、前記肩R部に対応する肩面、及び前記縦壁部に対応する側壁面を有する金型部材と、
前記頂面に対向するように、前記頂面の所定方向の一方側に配置された押さえ部材と、
前記側壁面に対向し、前記縦壁部に対応する突き当て部材と、
前記突き当て部材を前記所定方向に交差する方向に移動させる駆動装置と、
を備え、
前記突き当て部材のうち前記縦壁部の先端位置に対応する位置には、前記金型部材に向けて突出した突出部が形成され、
前記突出部は、前記斜壁部を曲げて前記肩R部及び前記縦壁部を成形する際に、前記突出部の前記所定方向の一方側の面である押圧面が、前記斜壁部の先端面に当接するように形成されている、
プレス成形装置。
【請求項8】
前記駆動装置は、
前記予備成形品の前記天板部が前記頂面と前記押さえ部材とで挟み込まれた状態で、且つ前記斜壁部の先端面が前記突出部の前記押圧面に当接した状態で、前記突き当て部材を前記側壁面に向けて移動させ、
前記突出部の前記押圧面は、前記突き当て部材の移動に伴い、前記斜壁部の先端面に対して、前記天板部から前記斜壁部の先端面までの前記斜壁部の長さに相当する前記斜壁部の板長が縮小する方向に力を加えるように形成されている、
請求項に記載のプレス成形装置。
【請求項9】
前記金型部材のうち前記突出部に対応する部分には、前記突出部が進入可能な逃がし部が形成されており、
前記駆動装置は、
前記予備成形品の前記天板部が前記頂面と前記押さえ部材とで挟み込まれた状態で、且つ前記斜壁部の先端面が前記突出部の前記押圧面に当接した状態で、前記突き当て部材を前記側壁面に向けて移動させ、前記突出部を前記逃がし部に進入させる、
請求項に記載のプレス成形装置。
【請求項10】
前記突き当て部材は、カムドライバの移動に連動して移動するカムスライダである、
請求項7~9の何れか一項に記載のプレス成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形方法として、例えば特開2014-4618号公報には、曲げ加工により断面がコの字形状の成形品を製造する方法が開示されている。このプレス成形方法は、金属素材をパンチとパッドで押圧した状態で、ダイを下降させて金属素材を曲げ成形する押し曲げ工程と、押し曲げ工程の後、ダイを斜め下方でパンチに近づく方向に移動して金属素材を曲げ成形する寄せ曲げ工程とを含んでいる。寄せ曲げ工程は、金属素材の幅方向先端をダイの縦壁と接触させながら行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-4618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記加工方法は、例えば、板曲げにおいて問題となる曲げのスプリングバックの抑制を実現するものではない。曲げ成形を含むプレス成形において、従来から曲げのスプリングバックの抑制が望まれている。本発明の目的は、工程の複雑化を抑制しつつ、曲げのスプリングバックを抑制することができるプレス成形方法、プレス成形装置、及び成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のプレス成形方法は、プレス成形装置を用いたプレス成形方法であって、天板部と前記天板部に対して所定回転方向に傾斜した斜壁部とを備える予備成形品に対して、前記天板部を固定した状態で、前記天板部から前記斜壁部の先端面までの前記斜壁部の長さに相当する前記斜壁部の板長が縮小する方向の力である圧縮力を前記斜壁部の先端面に加えながら、前記斜壁部を前記所定回転方向に曲げる特定曲げ工程を含む。
【0006】
本発明のプレス成形装置は、天板部及び前記天板部に対して傾斜した斜壁部を備える予備成形品から、前記天板部、前記天板部から湾曲した肩R部、及び前記天板部から前記肩R部を介して連続する縦壁部を備えるプレス成形品を成形するプレス成形装置であって、前記天板部に対応する頂面、前記肩R部に対応する肩面、及び前記縦壁部に対応する側壁面を有する金型部材と、前記頂面に対向するように、前記頂面の所定方向の一方側に配置された押さえ部材と、前記側壁面に対向し、前記縦壁部に対応する突き当て部材と、前記突き当て部材を前記所定方向に交差する方向に移動させる駆動装置と、を備え、前記突き当て部材のうち前記縦壁部の先端位置に対応する位置には、前記金型部材に向けて突出した突出部が形成され、前記突出部は、前記斜壁部を曲げて前記肩R部及び前記縦壁部を成形する際に、前記突出部の前記所定方向の一方側の面である押圧面が、前記斜壁部の先端面に当接するように形成されている。
【0007】
本発明の成形方法は、成形装置を用いて板材を曲げる成形方法であって、前記成形装置が、前記板材に対して前記板材の板長を縮小させる方向(縮小方向)に圧縮力を加えながら、曲げの回転軸線が前記板材の縮小方向に交差する方向に延びるように、前記板材を所定回転方向に曲げる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプレス成形方法によれば、斜壁部の先端面に圧縮力を加えながら斜壁部を曲げることで、斜壁部の曲げ部分の応力分布において、圧縮応力領域(曲げ内側部分)の圧縮応力が増大し、引張応力領域(曲げ外側部分)の引張応力が低下する。引張応力が低下することで、斜壁部の曲げ部分に発生する曲げモーメントは低下し、スプリングバック量も低下する。つまり、本発明のプレス成形方法によれば、スプリングバックは抑制される。また、斜壁部に対して「曲げ」と「圧縮力の付与」とが同時に(1工程で)行われることで、工程の複雑化も抑制することができる。また、本発明のプレス成形装置によれば、曲げ成形中に突出部が斜壁部の先端面に当接する構成であることから、上記特定曲げ工程を実行することが可能となる。したがって、上記方法と同様の効果が発揮される。
【0009】
本発明の成形方法によれば、曲げにより発生する板内の不均一な応力分布を均一な応力分布に近づけることができ、スプリングバックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の板材、予備成形品、及びプレス成形品の概念図である。
図2】本実施形態のプレス成形方法のフローチャートである。
図3】本実施形態のプレス成形装置(予備曲げ工程)の構成図である。
図4】本実施形態のプレス成形装置(予備曲げ工程)の動きを説明するための概念図である。
図5】本実施形態のプレス成形装置(予備曲げ工程)の動きを説明するための概念図である。
図6】本実施形態のプレス成形装置(特定曲げ工程)の構成図である。
図7】本実施形態のプレス成形装置(特定曲げ工程)の部分拡大概念図である。
図8】本実施形態のプレス成形装置(特定曲げ工程)の動きを説明するための概念図である。
図9】本実施形態のプレス成形装置(特定曲げ工程)の部分拡大概念図である。
図10】本実施形態のプレス成形装置(特定曲げ工程)の動きを説明するための概念図である。
図11】本実施形態のプレス成形装置の変形態様の概念図である。
図12】本実施形態のプレス成形装置の変形態様の概念図である。
図13】本実施形態の予備成形品の別例の概念図である。
図14】本実施形態のプレス成形装置(予備曲げ工程)の動きを説明するための概念図である。
図15】従来のプレス成形品の応力状態を説明するための概念図である。
図16】本実施形態のプレス成形品の応力状態を説明するための概念図である。
図17】本実施形態のプレス成形品の変形を説明するための概念図である。
図18】本実施形態で用いられる板材の形状の一例を示す平面図である。
図19】本実施形態を説明するための概念図である。
図20】本実施形態のプレス成形品の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の一実施形態であるプレス成形装置1A及びプレス成形方法を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【0012】
本実施形態のプレス成形方法は、図1に示すように、プレス成形装置を用いて、板材80から、予備成形品81を経て、プレス成形品9を成形する方法である。板材80は、板状の金属素材やワークともいえる。予備成形品81は、天板部811と、天板部811に対して所定回転方向に傾斜した斜壁部812と、を備えている。斜壁部812は、天板部811から湾曲して連続する部分ともいえる。斜壁部812は、所定回転方向の回転軸線に沿って見る視点(すなわち図1の視点)において、湾曲した部分(「曲げ部分」ともいう)と、直線状の部分とを含んでいる。「斜壁部812の板長」とは、図1に示すように、天板部811から斜壁部812の先端面812bまでの斜壁部812の長さに相当する。斜壁部812の板長は、所定回転方向の回転軸に沿って見る視点(図1の視点)において、斜壁部812の長手方向の長さともいえる。予備成形品81は、中間成形物ともいえる。プレス成形品9は、天板部811と、天板部811から湾曲した肩R部92と、天板部811から肩R部92を介して連続する縦壁部93と、を備えている。なお、予備成形品81の天板部とプレス成形品9の天板部とは、同様の位置の部分であるため、説明において「天板部811」と記載する。
【0013】
天板部811と斜壁部812との為す角度(鈍角)は、天板部811と縦壁部93との為す角度(例えば90度)よりも大きい。換言すると、斜壁部812の天板部811に対する曲げ角度(鋭角)は、縦壁部93の天板部811に対する曲げ角度(例えば90度)よりも小さい。このように、本実施形態のプレス成形方法では、プレス成形装置が、板材80に対して予備的に曲げ成形を加えて予備成形品81を成形し、さらに予備成形品81に対して特殊な曲げ成形(後述する特定曲げ工程)を加えることで、プレス成形品9を成形する。図2に示すように、本実施形態のプレス成形方法は、予備曲げ工程S1及び特定曲げ工程S2を含んでいる。
【0014】
(予備曲げ工程)
図3に示すように、予備曲げ工程S1で用いられるプレス成形装置1は、駆動装置10と、パンチ2と、ダイ3と、押さえ部材4と、支持装置5と、を備えている。パンチ2は、駆動装置10により、上下方向に移動可能に構成されている。駆動装置10は、例えばコンピュータ又はECUで構成された制御装置(図示略)により制御される。パンチ2は、加工面(下面)として、天板部811に対応する頂面2yと、頂面2yの左右に位置し、斜壁部812に対応する肩面2zと、を含んでいる。
【0015】
ダイ3は、パンチ2に対向するように配置されている。ダイ3は、パンチ2の下方に配置されている。ダイ3は、2つのダイ部材31、32で構成されている。各ダイ部材31、32には、斜壁部812に対応する傾斜面3aが形成されている。傾斜面3aは、パンチ2の肩面2zに対向するように配置されている。
【0016】
押さえ部材4は、パンチ2の頂面2yに対向するように配置されている。押さえ部材4は、パンチ2の下方に配置されている。押さえ部材4は、2つのダイ部材31、32の間に配置されている。押さえ部材4の加工面(上面)は、天板部811に対応している。押さえ部材4は、予備曲げ工程S1が実行される前に、板材80が載置される部分といえる。
【0017】
支持装置5は、押さえ部材4を支持する装置である。支持装置5は、押さえ部材4の下方に配置されている。支持装置5は、押さえ部材4を、下方に移動可能に支持している。支持装置5は、押さえ部材4の下方への移動に対して、上向きの力を付与する。支持装置5は、例えば、エアシリンダ又は油圧シリンダ等の流体シリンダ、あるいはスプリング等を含んで構成されている。支持装置5が例えばスプリングである場合、スプリングは、押さえ部材4に直接的又は間接的に当接し、押さえ部材4の下方への移動に対して、スプリングの縮み量及びばね定数に応じた上向きの力を押さえ部材4に付与する。
【0018】
図3に示すように、予備曲げ工程S1において、板材80は、押さえ部材4の上に配置される。板材80は、両方の傾斜面3aの上方にまで延びている。続いて、図4に示すように、駆動装置10によりパンチ2が下方に移動し、頂面2yが板材80に当接する。板材80は、パンチ2と押さえ部材4とで挟まれる。続いて、図5に示すように、駆動装置10により、パンチ2は、支持装置5の力を受けながら、板材80及び押さえ部材4とともに下方に移動する。パンチ2の下方への移動に伴い、板材80の中央部分は下方に移動する。これにより、パンチ2の下方への移動に伴い、板材80の左右の端部は、傾斜面3aに沿うように曲げられる。
【0019】
最終的に、板材80の左右の各端部は、パンチ2の肩面2zと傾斜面3aとに挟まれて、予備成形品81の斜壁部812となる。板材80の左右方向の中央部分は、パンチ2の頂面2yと押さえ部材4とに挟まれて、予備成形品81の天板部811となる。予備成形品81の斜壁部812は、天板部811に対して所定回転方向に傾斜している。本実施形態において、予備成形品81の左側の斜壁部812は、天板部811に対して時計回りに傾斜している。また、予備成形品81の右側の斜壁部812は、天板部811に対して反時計回りに傾斜している。
【0020】
このように、予備曲げ工程S1は、プレス成形装置1により、板材80を所定回転方向に曲げて予備成形品81を成形する工程である。予備曲げ工程S1では、板材80の曲げ角度が90°未満になるように、すなわち曲げ角度が鋭角(0<曲げ角度<90°)となるように、板材80が所定回転方向に曲げられる。
【0021】
(特定曲げ工程)
図6に示すように、特定曲げ工程S2で用いられるプレス成形装置1Aは、駆動装置10Aと、パンチ(「金型部材」に相当する)2Aと、押さえ部材4Aと、支持装置51、52と、カムスライダ(「突き当て部材」に相当する)71、72と、カムドライバ73、74と、を備えている。パンチ2Aは、支持装置51を介して支持部材11に接続されている。パンチ2Aは、カムドライバ73、74の間に配置されている。
【0022】
図6及び図7に示すように、パンチ2Aは、本体部21Aと、本体部21Aの左右の各側面に形成された肩部22Aと、を備えている。右側の肩部22Aは、本体部21Aの下端部の右側面から右方に膨らんでいる。左側の肩部22Aは、本体部21Aの下端部の左側面から左方に膨らんでいる。各肩部22Aは、本体部21Aの下端部から突出している。
【0023】
パンチ2Aは、加工面として、プレス成形品9の天板部811に対応する頂面2aと、プレス成形品9の肩R部92に対応する肩面2bと、プレス成形品9の縦壁部93に対応する側壁面2cと、を備えている。パンチ2Aは、1つの頂面2a、一対の肩面2b、及び一対の側壁面2cを備えている。頂面2aは、本体部21Aの下面である。頂面2aは、天板部811に対応した形状に形成されている。
【0024】
一方の肩面2bは頂面2aの左端から連続して形成され、他方の肩面2bは頂面2aの右端から連続して形成されている。各肩面2bは、対応する肩部22Aの下端部の表面、すなわち肩部22Aの下端部の湾曲している部分で構成されている。各肩面2bは、肩R部92に対応して曲面状に形成されている。各側壁面2cは、対応する肩部22Aの側面で構成されている。各側壁面2cは、縦壁部93に対応して面状に形成されている。右側の側壁面2cは、右側の肩部22Aの側面であって、右側の肩面2bから連続して上方に延びている。左側の側壁面2cは、左側の肩部22Aの側面であって、左側の肩面2bから連続して上方に延びている。
【0025】
各肩部22Aは、本体部21Aの下端部の側面から突出している。したがって、パンチ2Aの左右の各側面には、肩部22Aと本体部21Aとによって、逃がし部20が形成されている。パンチ2Aの各側面には、突出部70に対応する位置(側壁面2cの上方)に、中央に向けて凹んだ部分(すなわち逃がし部20)が形成されている。
【0026】
押さえ部材4Aは、パンチ2Aに対向するように配置されている。押さえ部材4Aは、パンチ2Aの下方に配置されている。押さえ部材4Aは、カムスライダ71、72の間に配置されている。押さえ部材4の加工面(上面)は、天板部811に対応した形状に形成されている。押さえ部材4Aは、特定曲げ工程S2が実行される前に、予備成形品81が載置される部分といえる。
【0027】
支持装置51は、パンチ2Aと支持部材11との間に配置され、パンチ2Aを上方に移動可能に支持している。支持装置51は、例えばスプリング又は流体シリンダ等を含んで構成されている。支持装置51は、パンチ2Aが支持部材11に接近しようとした場合に、当該接近を妨げるようにパンチ2Aに力を加える。すなわち、支持装置51は、パンチ2Aが支持部材11に対して相対的に上方に移動しようとすると、パンチ2Aに対して下方に力(例えばばね力)を加える。支持装置52も、支持装置5、51同様、例えばスプリング又は流体シリンダ等を含んで構成されている。支持装置52は、押さえ部材4Aを下方に移動可能に支持している。
【0028】
カムスライダ71、72は、互いに対向配置されている。カムスライダ71は押さえ部材4Aの右側に配置され、カムスライダ72は押さえ部材4Aの左側に配置されている。各カムスライダ71、72には、斜面7aが形成されている。
【0029】
各カムドライバ73、74は、対応するカムスライダ71、72を移動させるための部材である。各カムドライバ73、74は、対応するカムスライダ71、72の上方に、上下方向に移動可能に配置されている。カムドライバ73、74は、支持部材11に接続されている。カムドライバ73は、カムスライダ71に対応し、パンチ2Aの右側に配置されている。カムドライバ74は、カムスライダ72に対応し、パンチ2Aの左側に配置されている。各カムドライバ73、74には、斜面7aに対応する斜面7bが形成されている。
【0030】
カムスライダ71は、自身の斜面7aとカムドライバ73の斜面7bとが当接した状態で、カムドライバ73が下方に移動することで、押さえ部材4Aに接近する方向(左方)に移動する。カムスライダ72は、自身の斜面7aとカムドライバ74の斜面7bとが当接した状態で、カムドライバ74が下方に移動することで、押さえ部材4Aに接近する方向(右方)に移動する。
【0031】
カムスライダ71には、押さえ部材4Aから離間する方向(右方)にカムスライダ71を付勢するスプリング(図示略)が設けられている。同様に、カムスライダ72には、押さえ部材4Aから離間する方向(左方)にカムスライダ72を付勢するスプリング(図示略)が設けられている。各カムドライバ73、74は、スプリングの力に打ち勝って、対応するカムスライダ71、72を移動させる。カムスライダ71、72は、カムドライバ73、74との当接状態が解除されると、初期位置に向けて、互いに離間する方向に移動する。カムスライダ71、72は、カムドライバ73、74と当接していない状態では、スプリングにより所定の初期位置に戻される。なお、カムスライダ71、72への付勢力の付与は、スプリングに限らず、他の付勢部材又は付勢装置であってもよい。
【0032】
図6及び図7に示すように、各カムスライダ71、72のパンチ2A側の側面71a、72aには、パンチ2Aの肩部22Aに対応する突き当て面7zが形成されている。突き当て面7zは、プレス成形品9の肩R部92及び縦壁部93に対応するように形成されている。突き当て面7zは、各カムスライダ71、72の側面から窪んだ(凹んだ)形状になっている。各側面71a、72aには、突き当て面7zに隣り合う位置(図6における上方)に、パンチ2A側に突出した突出部70が形成されている。換言すると、突き当て面7zの端部のうち、肩R部92とは反対側の端部(上端部)に隣り合う位置には、対向するカムスライダ71、72に向けて突出した突出部70が形成されている。各突出部70は、対応する側面71a、72aのうち、プレス成形品9の縦壁部93の先端位置に対応する位置に形成されている。突き当て面7zと突出部70は、カムスライダ71、72の側面71a、72aに凹部を形成しているといえる。
【0033】
駆動装置10Aは、パンチ2A及び押さえ部材4Aの少なくとも一方を上下方向(所定方向)に移動させ、カムスライダ71、72を左右方向(所定方向に交差する方向)に移動させる装置である。本実施形態の駆動装置10Aは、支持部材11を上下方向に移動させる装置である。駆動装置10Aは、支持部材11を上下方向に移動させることで、パンチ2Aを上下方向に移動させ、カムスライダ71、72を左右方向に移動させる。駆動装置10Aは、特定曲げ工程S2を実行するように構成されている。
【0034】
図6に示すように、特定曲げ工程S2の実行前に、予備成形品81は、斜壁部812が天板部811に対してパンチ2A側(上方)に配置されるように、押さえ部材4Aの上に配置される。天板部811が押さえ部材4Aの上に配置され、斜壁部812が浮いている状態となる。
【0035】
図8に示すように、駆動装置10Aは、パンチ2Aを下方に移動させ、パンチ2Aと予備成形品81とを当接させる。パンチ2Aは、予備成形品81及び押さえ部材4Aを押圧しながら下方に移動させる。押さえ部材4Aが最下点に到達すると、支持部材11が下方に移動しても、支持装置51が縮み、パンチ2Aは下方に移動しない。つまり、この状態で、予備成形品81は、位置決めされる。本例では、予備成形品81が位置決めされた際、各カムスライダ71、72と斜壁部812とは当接していない。
【0036】
支持部材11の下方への移動とともに、カムドライバ73、74も下方に移動する。各カムドライバ73、74は、対応するカムスライダ71、72に当接して、対応するカムスライダ71、72を予備成形品81に接近する方向に移動させる。図8に示すように、予備成形品81が位置決めされた状態で、パンチ2Aの肩部22Aとカムスライダ71、72の突き当て面7zとが対向し、パンチ2Aの逃がし部20とカムスライダ71、72の突出部70とが対向している。
【0037】
カムスライダ71、72のさらなる移動に伴い、斜壁部812の先端部812aは、突き当て面7zに当接し、突き当て面7zに沿って突出部70に向かって曲げられる。図9に示すように、カムスライダ71、72の移動に伴い、斜壁部812の先端面812bは、突出部70の突き当て面7z側に位置する押圧面70aに当接する。
【0038】
この状態でカムスライダ71、72がパンチ2Aに接近すると、斜壁部812が曲げられることで斜壁部812の先端面812bが上方に移動しようとするが、押圧面70aがその移動を妨げる。つまり、斜壁部812の先端面812bは、突出部70の押圧面70aから下方に押圧されているといえる。このように、斜壁部812が曲げられる際、斜壁部812の先端面812bには、斜壁部812の板長が縮小する方向(この例では下方)の力が加わっている。この力を「圧縮力」と称する。斜壁部812が曲げられる際、斜壁部812の先端面812bには、斜壁部812の先端面812bに垂直な方向に押圧力(すなわち圧縮力)が加わっている。なお、先端面812bに加わる平均圧力を「端圧」と称する。
【0039】
圧縮力は、斜壁部812の先端面812bに垂直な方向の力といえる。あるいは、圧縮力は、斜壁部812の先端部812aの板長方向圧縮側の力といえる。以下、成形後の斜壁部812(例えば肩R部92及び縦壁部93)を「フランジ」ともいう。
【0040】
例えば、斜壁部812を曲げている最中に、斜壁部812の曲げ部分に降伏応力を発生させる圧縮力が先端面812bに加わる。これにより、例えば図20に示すように、伸びフランジにおける先端部812aでは、曲げによる斜壁部812の板厚の減少が抑制される。伸びフランジの先端部(先端部812a)は、縮みフランジやストレートフランジとは異なり、曲げにより板厚が減少しやすい。しかしながら、本方法によれば、先端部812aの板厚の減少が抑制される。特定曲げ工程S2において、プレス成形装置1Aは、先端面812bに、降伏を生じさせる圧縮力を加えながら斜壁部812を曲げることで、伸びフランジにおいて、斜壁部812の板厚の減少を抑制しながら、斜壁部812を所定回転方向に曲げる。圧縮力が降伏に対応する力よりも小さい場合も、伸びフランジの周方向の引張応力が低くなり、くびれの発生は遅くなる。また、圧縮力を加えることで、ボイドやクラックの進行を抑制することができる。なお、曲げにより、縮みフランジ及び直線曲げ部においては、板厚が増大し、板長方向に圧縮応力場となる。この為、縮みフランジでは周方向の圧縮応力が減少し、形状変形が抑制される。板長方向に伸びる弾性回復が生じるが大きな寸法差は生じない。直線曲げでは板長方向に伸びる弾性回復が生じるが大きな寸法差は生じない。
【0041】
伸びフランジ、縮みフランジ、及びストレートフランジ等のフランジの形状にかかわらず、斜壁部812の曲げ部分に圧縮方向の降伏応力を加えながら、斜壁部812を曲げることで、実際に斜壁部812(フランジ)の板長は縮小する。この場合、プレス成形品9の板長は、予備成形品81の板長よりも小さくなる。つまり、板材80又は予備成形品81には、目標とするプレス成形品9の形状に応じて、圧縮代が設けられている(図18参照)。
【0042】
図10に示すように、最終的に、予備成形品81は、カムスライダ71、72とパンチ2Aと押さえ部材4Aとで挟み込まれて、プレス成形品9となる。この際、各カムスライダ71、72の突出部70は、パンチ2Aの対応する逃がし部20内に進入した状態となっている。
【0043】
このように、特定曲げ工程S2は、プレス成形装置1Aが、斜壁部812の先端面812bに圧縮力を加えながら、斜壁部812を所定回転方向に曲げる工程である。一例として、特定曲げ工程S2は、先端面812bへの圧縮力(降伏応力に達する力)の付加により、斜壁部812の板厚の減少を抑制しながら又は斜壁部812の板厚を増大させながら、斜壁部812を所定回転方向に曲げる工程である。この例の特定曲げ工程S2は、先端面812bへの圧縮力(降伏応力に達する力)の付加により、斜壁部812の板長を縮小させながら、斜壁部812を所定回転方向に曲げる工程である。
【0044】
(まとめ)
本実施形態のプレス成形方法は、プレス成形装置1Aを用いたプレス成形方法であって、天板部811と天板部811に対して所定回転方向に傾斜した斜壁部812とを備える予備成形品81に対して、天板部811を固定した状態で、斜壁部812の先端面812bに圧縮力を加えながら、斜壁部812を所定回転方向に曲げる特定曲げ工程S2を含んでいる。なお、圧縮力は、板材に降伏を生じさせない大きさの力でもよい。
【0045】
本実施形態のプレス成形方法は、予備曲げ工程S1と、特定曲げ工程S2と、を含んでいる。予備曲げ工程S1は、板材80を所定回転方向に曲げて予備成形品81を成形する工程である。特定曲げ工程S2は、予備成形品81からプレス成形品9を成形するために、天板部811を固定した状態で、斜壁部812の先端面812bに圧縮力を加えながら、斜壁部812を所定回転方向に曲げて肩R部92及び縦壁部93を成形する工程である。
【0046】
プレス成形装置1Aは、金型部材2A(例えばパンチ2A)と、押さえ部材4Aと、突き当て部材71、72(例えばカムスライダ71、72)と、駆動装置10Aと、を備えている。金型部材2Aは、天板部811に対応する頂面2a、肩R部92に対応する肩面2b、及び縦壁部93に対応する側壁面2cを有している。押さえ部材4Aは、頂面2aに対向するように、頂面2aの下方(所定方向の一方側)に配置されている。突き当て部材71、72は、側壁面2cに対向し、縦壁部93に対応している。駆動装置10Aは、突き当て部材71、72を左右方向(所定方向に交差する方向)に移動させる。突き当て部材71、72のうち縦壁部93の先端位置に対応する位置には、金型部材2Aに向けて突出した突出部70が形成されている。特定曲げ工程S2では、予備成形品81の天板部811が頂面2aと押さえ部材4Aとにより挟み込まれた状態で、且つ突出部70の下端面(所定方向の一方側の端面)である押圧面70aに斜壁部812の先端面812bが当接した状態で、駆動装置10Aが突き当て部材71、72を側壁面2cに向けて移動させる。
【0047】
金型部材2Aのうち突出部70に対応する部分には、突出部70が進入可能な逃がし部20が形成されている。特定曲げ工程S2では、予備成形品81の天板部811が頂面2aと押さえ部材4Aとにより挟み込まれた状態で、且つ突出部70の押圧面70aに斜壁部812の先端面812bが当接した状態で、駆動装置10Aが突き当て部材4Aを側壁面2cに向けて移動させ、突出部70を逃がし部20に進入させる。
【0048】
本実施形態のプレス成形装置1Aにおいて、突出部70は、斜壁部812を曲げて肩R部92及び縦壁部93を成形する際に、押圧面70aが斜壁部812の先端面812bに当接するように形成されている。突出部70の押圧面70aは、突き当て部材71、72の移動(金型部材2Aへの接近)に伴い、斜壁部812の先端面812bに対して、斜壁部812の板長が縮小する方向に力(すなわち圧縮力)を加えるように形成されている。本実施形態の突き当て部材71、72は、カムドライバ73、74の移動に連動して移動するカムスライダ71、72である。
【0049】
(変形態様)
特定曲げ工程S2で用いられるプレス成形装置1Aの構成は、上記実施形態に限らず、図11に示すような構成であってもよい。このプレス成形装置1Aも、金型部材2Aと、押さえ部材4Aと、突き当て部材71と、押さえ部材4Aを移動させる駆動装置(図示略)と、を備えている。図11(a)は、予備成形品81の天板部811が金型部材2Aの頂面2aと押さえ部材4Aとで挟まれて固定された状態を表している。図11(b)は、突き当て部材71が左方に移動して、斜壁部812の先端部812aと突き当て面7zとが当接した状態を表している。図11(c)は、突き当て部材71がさらに左方に移動して、斜壁部812が曲がり、先端面812bが突出部70の押圧面70aに当接した状態を表している。図11(d)は、突き当て部材71がさらに左方に移動して、先端面812bに端圧が加わった状態で斜壁部812が曲げられた状態を表している。また、図11(d)は、突出部70が逃がし部20に進入し、斜壁部812が肩面2b及び側壁面2cと突き当て面7zとに挟まれて、肩R部92及び縦壁部93に変形した状態を表している。
【0050】
また、特定曲げ工程S2で用いられるプレス成形装置1Aは、図12に示すような構成であってもよい。このプレス成形装置1Aも、金型部材2Aと、押さえ部材4Aと、突き当て部材71と、突き当て部材71を移動させる駆動装置(図示略)と、を備えている。この例の場合、押さえ部材4Aは、天板部811に対応する頂面41に加えて、さらに、肩R部92の少なくとも一部に対応する肩押さえ面42を備えている。また、突き当て部材71は、左方に移動する際、下方にも移動する。つまり、突き当て部材71は、金型部材2Aに対して相対的に斜方に移動する。
【0051】
図12の例では、圧縮力による板長の縮小を考慮して、板材80又は予備成形品81に圧縮代が設けられている。本実施形態のプレス成形方法では、斜壁部812が圧縮されながら曲げられることで、目標の形状(肩R部92及び縦壁部93)に成形される。板材80又は予備成形品81の板長は、特定曲げ工程S2での圧縮量(縮小量)に対応した圧縮代を含み、目標の形状の板長よりも特定曲げ工程S2での圧縮量の分だけ大きい。図12の二点鎖線の矢印は、圧縮しない場合の先端面812bの軌跡を示し、実線の矢印は圧縮した場合の先端面812bの軌跡を示している。板長の縮小量は、圧縮代に相当する。このように板材80又は予備成形品81に圧縮代を設けて、圧縮代だけ圧縮させながら曲げることは、本開示のすべての実施形態に適用することができる(例えば図6図11図13図14の実施形態)。目標の形状の板長に対して圧縮代を設けて、圧縮代だけ圧縮しながら曲げて目標の形状を成形することは、圧縮により板材80内又は予備成形品81内に降伏応力を発生させながら曲げることに相当する。
【0052】
このように、本開示技術の1つとして、特定曲げ工程S2では、斜壁部812の先端面812bに加わる平均圧力(端圧)が斜壁部812の降伏応力に達するように、圧縮力が斜壁部812の先端面812bに加えられる。また、予備成形品81には、圧縮力により圧縮される圧縮代が設けられており、特定曲げ工程S2が実行される前の斜壁部812の板長は、特定曲げ工程S2が実行された後の斜壁部812(肩R部92及び縦壁部93)の板長よりも大きい。本実施形態において、板材80には、圧縮力により圧縮される圧縮代が設けられており、斜壁部812の板長は、肩R部92及び縦壁部93の板長よりも大きい。
【0053】
また、図13に示すように、予備曲げ工程S1において、先端面812bが突出部70の押圧面70aに対向するように、すなわち先端面812bが押圧面70aのある方向を向くように、斜壁部812の先端部812aが所定回転方向に曲げられてもよい。この処理を端部曲げ処理という。押圧面70aと先端面812bは、上下方向(所定方向)に対向する。このように、斜壁部812の形状は、例えば、縦壁部93等の形状(伸びフランジの形状)に応じて変えてもよい。予備曲げ工程S1では、斜壁部812の先端面812bが下方(所定方向の他方側)を向くように、プレス成形装置が、斜壁部812の先端部812aを所定回転方向に曲げる。
【0054】
端部曲げ処理の一例として、図14に示すように、プレス成形装置1Bは、プレス成形装置1の構成においてダイ3をダイ3Bに交換したものである。ダイ3Bは、ダイ部材31B、32Bを備えている。各ダイ部材31B、32Bは、傾斜面3aから上方に延びる側面3bを備えている。端部曲げ処理では、各ダイ部材31B、32Bの側面3bとパンチ2の側面との間に、斜壁部812の先端部812aが挟まれるように、プレス成形が実行される。つまり、予備曲げ工程S1が実行されると、同時に端部曲げ処理も実行される。これにより、板材80の両端部は所定回転方向に曲げられて斜壁部812となり、且つ斜壁部812の先端部812aがさらに所定回転方向に曲げられる。図14の例では、斜壁部812の先端部812aは、パンチ2の側面に沿うように延びている。端部曲げ処理によれば、特定曲げ工程S2の際に、突出部70の押圧面70aと斜壁部812の先端面812bとが当接しやすく、より効率的に先端面812bに圧縮力を加えることができる。なお、ダイの交換に合わせてパンチも交換してもよい。
【0055】
(本実施形態の効果)
本実施形態のプレス成形方法によれば、斜壁部812の先端面812bに圧縮力を加えながら斜壁部812を曲げることで、斜壁部812の曲げ部分の応力分布において、圧縮応力領域(曲げ内側部分)の圧縮応力が増大し、引張応力領域(曲げ外側部分)の引張応力が低下する。引張応力が低下することで、斜壁部812の曲げ部分に発生する曲げモーメントは低下し、スプリングバック量も低下する。つまり、本実施形態のプレス成形方法によれば、スプリングバックは抑制される。また、斜壁部812に対して「曲げ」と「圧縮力の付与」とが同時に(1工程で)行われることで、工程の複雑化も抑制することができる。また、本実施形態のプレス成形装置1Aによれば、曲げ成形中に突出部70が斜壁部812の先端面812bに当接する構成であることから、上記特定曲げ工程S2を実行することが可能となる。したがって、上記方法と同様の効果が発揮される。
【0056】
また、圧縮力が斜壁部812の降伏応力に対応する力である場合(換言すると、端圧が降伏応力に達した場合)、曲げによる斜壁部812の板厚の減少を抑制しながら又は斜壁部812の板厚を増大させながら、曲げ成形が実行される。このため、くびれの発生は、従来の成形方法よりも遅くなる。また、たとえくびれが発生しても、板内での圧縮応力の増大により破壊ひずみが増大し、成形性は改善される。つまり、くびれが生じてもボイドが大きくなること及びクラックが進むことが防がれ、ワレの発生を遅らせることができる。以下、降伏応力に対応する圧縮力を「降伏圧縮力」ともいう。
【0057】
先端面812bに降伏圧縮力が加わる特定曲げ工程S2によれば、肩R部92が塑性圧縮され、曲げ変形中に板内で不均一であった応力が均一な圧縮応力に近づき、除荷されても応力が均一に低下し、残留応力が低減される。このため、スプリングバックは抑制される。理論上、除荷により残留応力は0に近づく。
【0058】
従来のように圧縮力を加えずに板材を曲げると、図15に示すように、板内の応力分布では、曲げ外側部分に引張応力が分布し、曲げ内側部分に圧縮応力が分布する。プレス成形装置1Aにより板材に負荷がかかった状態(すなわち除荷前)では、板材に対して応力分布に応じたモーメントMが加わっている。これが除荷されると、モーメントMとは反対方向のモーメントが加わり、スプリングバックが発生する。一方、板材に降伏圧縮力を加えながら板材を曲げると、図16に示すように、理論上、板材の曲げ外側部分に対しても圧縮応力が分布し、すべての領域で圧縮応力が分布するようになる。これにより、除荷された後も、図16の応力状態において応力分布を示す直線が中央の点線に向かって移動するだけで、モーメントは発生せず、スプリングバックは発生しない。端圧(先端面812bに加わる平均圧力)が降伏応力になると、理論上、スプリングバックは0になる。なお、圧縮力が降伏圧縮力よりも小さい場合でも、図15における曲げ外側部分の引張応力を低下させることができ、モーメントMを小さくすることができる。つまり、この場合の除荷後のスプリングバックは、曲げる際に圧縮力を加えない場合と比較して、小さくなる。圧縮代はなくてもよい。このように、板材の所定の端面に圧縮力を加えながら板材を曲げることで、曲げ外側部分の応力分布を圧縮側に近づけることができ、スプリングバックを抑制することができる。本実施形態によれば、曲げにより発生する板内の不均一な応力分布を、均一な応力分布に近づけることができる。均一な応力分布の状態は、例えば図16に示すように、曲げ部分のすべての領域で(内周縁から外周縁まで)圧縮応力が分布している状態といえる。換言すると、均一な応力分布の状態は、曲げ部分の応力分布がすべて圧縮応力となっている状態(引張応力が発生していない状態)ともいえる。なお、本実施形態の効果については、図17も参照できる。
【0059】
また、図18に示すように、曲げる前の板材(80)の形状が湾曲している場合が考えられる。この例では、板材の右端部が右側に膨らんでおり、板材の左端部が右側に窪んでいる。このような形状の板材を所定回転方向(回転軸が前後方向に延びる)に曲げることも想定される。例えば、縮みフランジでは比較的シワが発生しやすく、伸びフランジでは比較的ワレが発生しやすい(図20参照)。しかしながら、本実施形態によれば、複雑な形状の板材であっても、板材に圧縮力を付加しながら曲げることで、シワやワレも抑制することができる。図18の例では、点線で示すように、板材の板長(左右方向)に対して圧縮代が設けられている。点線で表される寸法が、プレス成形品の正寸寸法となる。本実施形態のように板材を圧縮しながら曲げることで、複雑な形状の板材であっても、スプリングバックだけでなく、シワやワレも抑制することができる。
【0060】
このように本実施形態のプレス成形方法によれば、ワレの抑制及びスプリングバックの抑制が可能となる。また、しゃくれ、天板部811のひねり、及び曲げで生じる縮みフランジシワの抑制も可能となる。さらに降伏圧縮力が板材の端面に加えることで、当該端面の凹凸が平滑化される。本実施形態によれば、ワレ(破壊)の抑制、曲げのスプリングバックの抑制、シワの抑制、端面性状の改善、及び成形精度の向上が可能となる。本実施形態のプレス成形方法及びプレス成形装置1Aによれば、工程の複雑化を抑制しつつ、スプリングバックの抑制、天板部のひねりの抑制、シワの抑制、ワレの抑制、及び残留応力の低減を実現することができる。
【0061】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、金型部材2Aに逃がし部20が形成されていなくてもよい。例えば、特定曲げ工程S2において、突出部70が金型部材2Aに当接する位置又は当接する直前の位置で、縦壁部93が形成されるようにプレス成形装置が構成されてもよい。しかしながら、上記実施形態のように、逃がし部20が存在することで、金型部材2Aと突き当て部材71、72との間に斜壁部812(縦壁部93)をより確実に挟むことができ、縦壁部93の成形精度を高めることができる。
【0062】
本実施形態における装置の金型等の配置の上下は、反対であってもよい。プレス成形時に成形対象物に当接する複数の部材は、適宜、それぞれ金型部材(パンチ、ダイ、パッド等)と呼ぶことができる。本発明は、製品形状の複雑化にも対応できる。縦壁部93は、フランジとも呼ばれる。また、例えば天板部811、91には、溝形状や凹凸形状が形成されていてもよい。本発明のプレス成形方法又はプレス成形装置によれば、金属車両部品、例えばロアアーム、アクスルビーム、及び内装部品等も精度良く製造することができる。本発明は、あらゆる曲げ成形に応用できる。また、本実施形態の金型による成形は、閉塞曲げ、又は閉塞カム曲げともいえる。本発明のプレス成形方法は、閉塞されたスペースで予備成形品81の先端に圧力を加えながら曲げる(カム曲げする)工程を含むともいえる。本実施形態のプレス成形方法は、端圧閉塞カム曲げ工法と呼ぶことができる。また、板の厚みを示す方向は板厚方向と呼ばれることがあり、板厚方向に直交する方向は板の長さ方向と呼ばれることがある。
【0063】
本開示の技術は、下記のように記載することもできる。本開示の成形方法は、成形装置を用いて板材(例えば80、81)を曲げる成形方法であって、成形装置が、板材に対して板材の板長を縮小させる方向に圧縮力を加えながら、曲げの回転軸線が板材の縮小方向(圧縮力の力の方向)に交差する方向に延びるように、板材を所定回転方向に曲げることを特徴とする。これにより、曲げ塑性変形により板材に発生する不均一な応力を、均一な圧縮応力に近づけることができ、上記のようにスプリングバック等を抑制することができる。図19に示すように、所定回転方向の回転中心を示す回転軸線(仮想直線)は、縮小方向(圧縮方向ともいえる)に交差する方向に延びている。換言すると、板材の曲げの中心線は、縮小方向に交差する方向に延びている。板長は、板材の板厚方向に直交する方向の長さといえる。また、成形装置は、プレス成形装置に限らず、例えばロボットアーム等を利用する装置であってもよい。例えば、ロボットアームで板材を把持し、板長を縮小させながら板材を曲げてもよい。このように、各種成形装置が、降伏に対応する圧縮力により板材の板長を縮小させながら、板材を所定回転方向に曲げてもよい。板材の板長を縮小させながら、すなわち板材に圧縮の降伏応力を付与しながら、板材を曲げることで、より確実に、曲げにより発生する板内の不均一な応力分布を均一な応力分布に近づけることができる。これにより、精度良くスプリングバックの発生を抑制することができる。
【0064】
また、本開示の技術は以下のようにも記載できる。本開示の方法は、成形装置を用いて板材(例えば80、81)を曲げる成形方法であって、成形装置が、板材の所定の端面(例えば先端面812b)に対して、板材の板長が縮小する方向である圧縮方向の力で且つ板材に降伏応力を発生させる力である圧縮力(すなわち降伏圧縮力)を与えながら、曲げの回転軸線が圧縮方向に交差する方向に延びるように、板材を所定回転方向に曲げることを特徴とする。これによっても、上記同様の効果が発揮される。なお、板材の所定の端面は、先端面812bに限らない。
【0065】
また、本開示の技術は以下のようにも記載できる。本開示の方法は、板材を曲げるために成形装置を用いた成形方法であって、曲げ塑性変形により前記板材に発生する不均一な応力を、均一な圧縮応力に近づけるように、前記成形装置が、前記板材に対して、板長が縮小する方向の力を与えながら、前記板材を所定回転方向に曲げることを特徴とする(第1形態)。第1形態の成形方法において、前記成形装置は、前記板材の所定の端面に対して、降伏を生じる圧縮力を与えながら、前記板材を前記所定回転方向に曲げる(第2形態)。第1形態又は第2形態の成形方法において、前記板材は、天板部と前記天板部に対して前記所定回転方向に傾斜した斜壁部とを備える予備成形品であり、前記成形装置は、前記天板部を固定した状態で、前記斜壁部の先端面に前記斜壁部の板長が縮小する方向の力を加えながら、前記斜壁部を前記所定回転方向に曲げる。
【符号の説明】
【0066】
1A…プレス成形装置、10A…駆動装置、2A…パンチ(金型部材)、20…逃がし部、2a…頂面、2b…肩面、2c…側壁面、70…突出部、70a…押圧面、71、72…カムスライダ(突き当て部材)、4A…押さえ部材、80…板材、81…予備成形品、811…天板部、812…斜壁部、812a…先端部、812b…先端面、9…プレス成形品、92…肩R部、93…縦壁部。
【要約】
【課題】工程の複雑化を抑制しつつ、スプリングバックを抑制することができるプレス成形方法を提供する。
【解決手段】本発明は、プレス成形装置1Aを用いたプレス成形方法であって、天板部811と天板部811に対して所定回転方向に傾斜した斜壁部812とを備える予備成形品81に対して、天板部811を固定した状態で、天板部811から斜壁部812の先端面812bまでの斜壁部812の長さに相当する斜壁部812の板長が縮小する方向の力である端圧を斜壁部812の先端面812bに加えながら、斜壁部812を所定回転方向に曲げる特定曲げ工程S2を含む。
【選択図】図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20