(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】回転霧化頭型塗装機および静電塗装装置
(51)【国際特許分類】
B05B 3/10 20060101AFI20240826BHJP
B05B 5/04 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B05B3/10 B
B05B5/04 A
(21)【出願番号】P 2023186913
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】505056845
【氏名又は名称】アーベーベー・シュバイツ・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】ABB Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】Bruggerstrasse 66, 5400 Baden, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 勝
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-136832(JP,A)
【文献】特開2000-070769(JP,A)
【文献】特開2001-149820(JP,A)
【文献】国際公開第2019/035473(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/033155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 3/10
B05B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮エアを動力源とするエアモータと、
前記エアモータの軸線に沿って前後方向に延びた状態で回転自在に支持され、前端部が前記エアモータから突出した中空な回転軸と、
前記回転軸内を通って前記回転軸の前記前端部まで延びたフィードチューブと、
前記回転軸の前記前端部に取付けられ、カップ状に拡開する外周面と前記フィードチューブから供給された塗料を拡散する内周面と前端に位置して塗料を放出する放出端縁とを有する回転霧化頭と、
前記回転霧化頭の外周側に設けられた円筒状のシェーピングエアリングと、
前記回転霧化頭の外周側に設けられ、前記放出端縁から放出された塗料に向けて第1シェーピングエアを噴出する第1シェーピングエア噴出部と、
を備えてなる回転霧化頭型塗装機において、
前記シェーピングエアリングの内筒面は、少なくとも前記回転霧化頭の前記外周面と対面する前側部分が均等な内径寸法に形成され、
前記第1シェーピングエア噴出部は、前記回転霧化頭の前記外周面
の前側部分と前記シェーピングエアリングの前記内筒面との間に環状の隙間として形成され、
前記回転霧化頭の前記外周面
の前記前側部分と前記シェーピングエアリングの前記内筒面との間の径方向の隙間寸法は、0.1~1.0mmに設定され、
前記シェーピングエアリングの前端部は、前記回転霧化頭の前記放出端縁から後側に0.1~10.0mmの位置に配置され、
前記シェーピングエアリングの前記前端部の径方向の幅寸法は、2mm以下に設定され、
前記シェーピングエアリングの外筒面は、前記シェーピングエアリングの前記前端部から後側に向けて拡開するテーパ角度が前記軸線に対して25°以下に設定されていることを特徴とする回転霧化頭型塗装機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転霧化頭型塗装機において、
前記回転霧化頭の前記外周面のうち、前記シェーピングエアリングの前記内筒面と対面する
前記前側部分は、前記放出端縁から後側に向けて縮径する方向の角度が0~10°に設定されていることを特徴とする回転霧化頭型塗装機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転霧化頭型塗装機において、
前記シェーピングエアリングは、前記第1シェーピングエア噴出部よりも径方向の外側に位置して前記回転霧化頭を取囲んで配置され、前記放出端縁から放出された塗料に向けて第2シェーピングエアを噴出する第2シェーピングエア噴出部を備え、
前記第2シェーピングエア噴出部は、前記シェーピングエアリングの前記前端部から後側に向けて拡開するテーパ角度が25°の仮想テーパ面の内側に配置されていることを特徴とする回転霧化頭型塗装機。
【請求項4】
請求項3に記載の回転霧化頭型塗装機において、
前記第1シェーピングエアの噴出量と前記第2シェーピングエアの噴出量とを制御するシェーピングエア制御装置を備え、
前記シェーピングエア制御装置は、前記回転霧化頭から放出された塗料の噴霧パターンが小径化するように、前記第1シェーピングエアの噴出量と前記第2シェーピングエアの噴出量との割合を制御することを特徴とする回転霧化頭型塗装機。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の回転霧化頭型塗装機を備えた静電塗装装置であって、
前記回転霧化頭から放出される塗料に高電圧を印加する高電圧発生器と、
前記回転霧化頭型塗装機が取り付けられた塗装機移動手段と、
前記塗装機移動手段を制御する移動手段制御装置と、
を備え、
前記移動手段制御装置は、前記放出端縁から塗装対象の塗装面までの塗装距離が90~150mmに保持されるように、前記塗装機移動手段を制御することを特徴とする静電塗装装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のボディを塗装するのに好適に用いられる回転霧化頭型塗装機および静電塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のボディを塗装する場合には、塗料の塗着効率、塗装仕上りが良好な回転霧化頭型塗装機が用いられている。この回転霧化頭型塗装機は、圧縮エアを動力源とするエアモータと、エアモータの軸線に沿って前後方向に延びた状態で回転自在に支持され、前端部がエアモータから突出した中空な回転軸と、回転軸内を通って回転軸の前端部まで延びたフィードチューブと、回転軸の前端部に取付けられ、カップ状に拡開する外周面とフィードチューブから供給された塗料を拡散する内周面と前端に位置して塗料を放出する放出端縁とを有する回転霧化頭と、回転霧化頭の外周側に設けられた円筒状のシェーピングエアリングと、回転霧化頭の外周側に設けられ、放出端縁から放出された塗料に向けて第1シェーピングエアを噴出する第1シェーピングエア噴出部と、第1シェーピングエア噴出部よりも径方向の外側に位置して回転霧化頭を取囲んで配置され、放出端縁から放出された塗料に向けて第2シェーピングエアを噴出する第2シェーピングエア噴出部と、を備えている(特許文献1)。
【0003】
回転霧化頭型塗装機を用いた塗装では、被塗装物に対する塗着効率を向上させることによる塗料の使用量の削減、塗装ブース等の設備の簡素化による二酸化炭素の排出量の削減、塗装ブースのメンテナンス費用の削減等の効果が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転霧化頭型塗装機を用いた塗装では、回転霧化頭の放出端縁から放出された塗料粒子に向け、第1シェーピングエア噴出部から第1シェーピングエアを噴出し、第2シェーピングエア噴出部から第2シェーピングエアを噴出している。これにより、回転霧化頭から噴霧された塗料粒子は、整流状態になると共に、均一な膜厚分布が得られる噴霧パターンに成形される。
【0006】
しかし、回転霧化頭型塗装機(回転霧化頭)から被塗装物までの塗装距離は、回転霧化頭と被塗装物との接触防止や塗装機への汚れ防止を考慮して設定される。このような塗装距離では、シェーピングエアによる塗料粒子の直進性が低下する傾向がある。このために、塗料粒子は、被塗装物の表面を流れる空気流によって広範囲に運ばれて被塗装物(塗装面)に到達しないから、塗着効率が低下してしまう。
【0007】
そこで、シェーピングエアの流量を増やすことが考えられるが、この場合には、被塗装物の表面に沿って流れる塗料粒子が増えてしまう。これにより、回転霧化頭から放出された塗料粒子は、シェーピングエアによって生じた乱れの影響を受けることになり、乱れた流れに誘導されて被塗装物まで到達できなくなり、塗着効率が低下してしまう。
【0008】
さらに、高い塗着効率を得るための対策として、塗装距離を短くする方法がある(至近距離塗装、近接塗装等と呼ばれる)。この方法は、シェーピングエアに搬送される塗料粒子の直進性を高めることができるから、塗着効率を向上することができる。しかし、回転霧化頭から噴霧された塗料粒子の一部は、回転霧化頭の回転による遠心力の影響や、回転霧化頭の半径方向に射出されていることや、回転霧化頭の後方から噴出されるシェーピングエアの乱れに巻き込まれることで、被塗装物まで到達できていないのが現状である。
【0009】
上述した課題を踏まえた上で、塗着効率を低下させる要因となる被塗装物に到達しない塗料粒子の量を大幅に減らすためには、第1に、塗装距離を短くして塗料粒子の直進性を高める、第2に、塗料粒子の飛散を減らすために塗装条件を変更する(例えば、回転霧化頭の回転数を下げる、シェーピングエアの流量を少なくする、塗料の流量を少なくする)、等が考えられる。
【0010】
まず、塗装距離を短くした場合には、被塗装物に対する塗着効率は向上するが、シェーピングエアの乱れが残存しているから、周囲に飛散して被塗装物に到達しない塗料粒子が一定量残ってしまうという問題がある。
【0011】
次に、塗料粒子の飛散を減らすために塗装条件、例えば、回転霧化頭の回転数を下げ過ぎたり、シェーピングエアの流量を少なくし過ぎたりした場合には、回転霧化頭から噴霧される塗料の粒子径が大きくなる傾向が有り、塗装(塗膜)の品質が低下してしまう。これに対し、粒子径が大きくなった塗料粒子を小さくするためには、塗料の粘度を下げる方策がある。しかし、塗料の粘度を下げた場合には、塗膜が垂れ易くなるために塗料の調整が非常に難しくなる。また、塗料の流量を少なくした場合には、塗料の噴霧パターンの幅が小さくなるために、塗装機1台当たりの生産性が下がってしまうという問題がある。
【0012】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、塗着効率を向上できるようにした回転霧化頭型塗装機および静電塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、圧縮エアを動力源とするエアモータと、前記エアモータの軸線に沿って前後方向に延びた状態で回転自在に支持され、前端部が前記エアモータから突出した中空な回転軸と、前記回転軸内を通って前記回転軸の前記前端部まで延びたフィードチューブと、前記回転軸の前記前端部に取付けられ、カップ状に拡開する外周面と前記フィードチューブから供給された塗料を拡散する内周面と前端に位置して塗料を放出する放出端縁とを有する回転霧化頭と、前記回転霧化頭の外周側に設けられた円筒状のシェーピングエアリングと、前記回転霧化頭の外周側に設けられ、前記放出端縁から放出された塗料に向けて第1シェーピングエアを噴出する第1シェーピングエア噴出部と、を備えてなる回転霧化頭型塗装機において、前記シェーピングエアリングの内筒面は、少なくとも前記回転霧化頭の前記外周面と対面する前側部分が均等な内径寸法に形成され、前記第1シェーピングエア噴出部は、前記回転霧化頭の前記外周面の前側部分と前記シェーピングエアリングの前記内筒面との間に環状の隙間として形成され、前記回転霧化頭の前記外周面の前記前側部分と前記シェーピングエアリングの前記内筒面との間の径方向の隙間寸法は、0.1~1.0mmに設定され、前記シェーピングエアリングの前端部は、前記回転霧化頭の前記放出端縁から後側に0.1~10.0mmの位置に配置され、前記シェーピングエアリングの前記前端部の径方向の幅寸法は、2mm以下に設定され、前記シェーピングエアリングの外筒面は、前記シェーピングエアリングの前記前端部から後側に向けて拡開するテーパ角度が前記軸線に対して25°以下に設定されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗着効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る回転霧化頭型塗装機を示す断面図である。
【
図3】シェーピングエアリングの前端部の幅寸法を2mm以下に設定した場合の空気の流れを示す説明図である。
【
図4】シェーピングエアリングの前端部の幅寸法を2mmよりも大きく設定した場合の空気の流れを比較例として示す説明図である。
【
図5】第1の変形例による第2シェーピングエア噴出部を示す断面図である。
【
図6】第2の変形例による第2シェーピングエア噴出部を示す断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る回転霧化頭型塗装機を示す構成図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る静電塗装装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る回転霧化頭型塗装機および静電塗装装置を、添付図面に従って詳細に説明する。
【0017】
図1ないし
図4は、本発明の第1の実施形態を示している。回転霧化頭型塗装機には、噴霧する塗料に高電圧を印加して塗装を行う静電塗装機と、塗料に高電圧を印加することなく塗装を行う非静電塗装機とが存在している。これから述べる実施形態では、塗料に高電圧を直接的に印加する直接帯電式の静電塗装機として構成された回転霧化頭型塗装機を例に挙げて説明する。非静電塗装機に適用した場合でも、シェーピングエアの流れについては同様の効果を得ることができる。
【0018】
図1において、本発明の第1の実施形態に係る回転霧化頭型塗装機1は、高電圧発生器(図示せず)により塗料に高電圧を直接的に印加する直接帯電式の静電塗装機として構成されている。回転霧化頭型塗装機1は、例えば塗装用ロボットのアーム(図示せず)の先端に取付けられている。回転霧化頭型塗装機1は、後述のハウジング2、エアモータ3、回転軸4、フィードチューブ5、回転霧化頭6、シェーピングエアリング7、第1シェーピングエア噴出部8、第2シェーピングエア噴出部9を含んで構成されている。
【0019】
ハウジング2は、筒状体として形成され、塗装用ロボットのアームの先端に取付けられている。ハウジング2の内周側には、エアモータ3を収容するためのモータ収容部(図示せず)が前側に向けて開口している。ここで、モータ収容部は、円形の段付き穴からなり、その中心に前後方向に延びた軸線O-Oを有している。この軸線O-Oは、エアモータ3、回転軸4、回転霧化頭6の回転軸(中心軸)となっている。さらに、ハウジング2の前側には、シェーピングエアリング7が設けられている。
【0020】
エアモータ3は、ハウジング2内に軸線O-O上に設けられている。エアモータ3は、圧縮エアを動力源として回転軸4および回転霧化頭6を、例えば、3k~100krpmの高速で回転するものである。エアモータ3は、ハウジング2のモータ収容部に取付けられた段付円筒状のモータケース3Aと、モータケース3Aの後側に回転可能に設けられたタービンと、モータケース3Aに設けられ回転軸4を回転可能に支持するエア軸受(いずれも図示せず)と、を備えている。タービンは、供給されるタービンエアの流量に応じて回転数、即ち、回転霧化頭6の回転数が制御される。
【0021】
回転軸4は、エアモータ3の軸線O-Oと同軸に前後方向に延びた状態で、エア軸受を介して回転自在に支持されている。回転軸4は、中空な筒体として形成され、後部がタービンの中央に一体的に取付けられ、前部4Aがモータケース3Aから突出している。回転軸4の前部4Aには、回転霧化頭6が取付けられている。
【0022】
フィードチューブ5は、回転軸4内を通って回転軸4の前部4Aまで延びている。フィードチューブ5の前側は、回転軸4の前部4Aから突出して回転霧化頭6内に延在している。フィードチューブ5の後端側は、ハウジング2の中央位置に固定的に取付けられている。
【0023】
フィードチューブ5は、同軸に配置された2重管として形成されている。この2重管の中央の流路が塗料流路5Aとなり、外側の環状流路が洗浄流体流路5Bとなっている。また、塗料流路5Aと洗浄流体流路5Bは、それぞれ、塗料、洗浄流体(シンナ、エア等)の供給源(図示せず)に接続されている。これにより、フィードチューブ5は、塗装作業を行うときに塗料流路5Aから回転霧化頭6に向けて塗料を供給する。一方、フィードチューブ5は、付着塗料の洗浄作業を行うときに洗浄流体流路5Bから回転霧化頭6に向けて洗浄流体を供給する。なお、フィードチューブは、1本の流路を塗料と洗浄流体との両方で切換えて使用する構成としてもよい。
【0024】
回転霧化頭6は、フィードチューブ5から供給された塗料を微粒化して噴霧する。回転霧化頭6は、後側の取付部6Aが回転軸4の前部4Aに取付けられている。回転霧化頭6は、エアモータ3によって回転軸4と一緒に高速回転される。
【0025】
回転霧化頭6は、取付部6Aから前側に向けカップ状に拡開する外周面6Bと、前側に向け漏斗状に拡開することによりフィードチューブ5から供給された塗料を薄膜化しつつ拡散する塗料薄膜化面をなす内周面6Cと、を備えている。また、内周面6Cの前端は、回転霧化頭6の回転時に内周面6Cで拡散された塗料を放出する放出端縁6Dとなっている。
【0026】
一方、回転霧化頭6の内側には、内周面6Cの奥部(取付部6A寄り)に位置して円板状のハブ部材6Eが設けられている。このハブ部材6Eは、フィードチューブ5から供給された塗料を内周面6Cに円滑に導くことができる。さらに、回転霧化頭6の外周面6Bのうち、放出端縁6D側の前側部分6Fは、後述するシェーピングエアリング7の内筒面7Aと径方向で対面している。
【0027】
ここで、回転霧化頭6の前側部分6Fの形状について詳述する。
図2に示すように、前側部分6Fは、前後方向で均等な外径寸法を有した形状(シェーピングエアリング7の内筒面7Aとの隙間寸法が一定になる形状)が好ましい。この場合、前側部分6Fの前端となる放出端縁6Dとの境界位置を点P1とすると、前側部分6Fは、この点P1を通って軸線O-Oと平行に延びた直線Aに沿って形成されるのが好ましい。一方、前側部分6Fは、後側に向けて縮径する方向への傾斜(テーパ形状)が所定の角度範囲で許容されている。具体的には、点P1を通って傾斜した直線B(二点鎖線)は、直線Aに対する角度αが10°以内に設定されている。即ち、放出端縁6Dから後側に向けて縮径する方向の前側部分6Fの角度αは、下記数1のように設定されている。
【0028】
【0029】
回転霧化頭6は、エアモータ3によって高速回転された状態でフィードチューブ5から塗料が供給される。これにより、回転霧化頭6は、塗料を内周面6C(塗料薄膜化面)で薄膜化しつつ拡散し、放出端縁6Dから遠心力によって微粒化した無数の塗料粒子として噴霧する。
【0030】
シェーピングエアリング7は、回転霧化頭6の外周側に設けられている。シェーピングエアリング7は、段付きの円筒状に形成され、回転霧化頭6を取り囲むようにハウジング2の前側に設けられている。シェーピングエアリング7は、内筒面7Aと、前側に位置する前外筒面7Bと、後側に位置する後外筒面7Cと、前外筒面7Bと後外筒面7Cとの間の段差部7Dと、最前部に位置する前端部7Eと、を備えている。
【0031】
内筒面7Aは、回転霧化頭6の外周面6Bの外径寸法よりも大きな内径寸法を有し、この内径寸法をもって前後方向に延びた均等な内径寸法の円筒面として形成されている。内筒面7Aは、前側部分が外周面6Bの周囲に隙間をもって重なっている。従って、外周面6Bと内筒面7Aとの間には、後述の第1シェーピングエア噴出部8が形成されている。
【0032】
ここで、
図2を参照して回転霧化頭6の外周面6Bの前側部分6Fとシェーピングエアリング7の内筒面7Aとの間の径方向の隙間寸法について詳述する。この隙間寸法は、内筒面7Aと前端部7Eとの角部(境界部)を点P2とすると、この点P2と回転霧化頭6の点P1との間の径方向の寸法aとして表すことができる。この隙間寸法aは、下記数2のように設定されている。
【0033】
【0034】
これにより、第1シェーピングエア噴出部8の噴出口を隙間寸法aに絞ることができ、第1シェーピングエア噴出部8から噴出される第1シェーピングエアの噴出方向、収束性等を良好にすることができる。なお、第1シェーピングエア噴出部としては、シェーピングエアリングの内筒面から内側に延びる仕切板を周方向に間隔をもって多数枚設けることにより、周方向に連なる多数個のスリットまたは四角孔として形成することもできる。この場合でも、周方向に連続するスリットまたは四角孔からなるシェーピングエアリングの内筒面は、回転霧化頭の外周面と対面する部分が均等な内径寸法に形成されている。
【0035】
また、シェーピングエアリング7の前端部7E(点P2と点P3との間)は、回転霧化頭6の放出端縁6D(点P1)よりも寸法bだけ後側の位置に配置されている。この寸法bは、下記数3のように設定されている。
【0036】
【0037】
このように、シェーピングエアリング7の前端部7Eを、回転霧化頭6の放出端縁6Dよりも0.1~10.0mmの範囲で後側に配置したことにより、回転霧化頭6の端部付近において乱れが少ない空気流を作ることができる。これにより、回転霧化頭6から放出された塗料粒子の流れを安定させることができ、塗着効率を向上することができる。また、回転霧化頭6の放出端縁6Dから放出された塗料が前端部7Eに付着するのを防ぐことができる。
【0038】
さらに、シェーピングエアリング7の前端部7Eの径方向の幅寸法は、前外筒面7Bと前端部7Eとの角部(境界部)を点P3とすると、点P2と点P3との間の径方向の寸法cとなる。この幅寸法cは、下記数4のように設定されている。幅寸法cの下限値は、シェーピングエアリング7の前端部7Eの加工精度、機械的剛性等によって決まる。
【0039】
【0040】
ここで、回転霧化頭6が回転すると、回転霧化頭6の外周面の接線方向に空気の流れ(旋回流)が発生する。本願の発明者が鋭意検討した結果、回転霧化頭6の近くに前端部7Eによって広い端面が存在すると、
図4に示すように、旋回流の一部がシェーピングエアリング101の外筒面101Aに沿って後方に流れることが分かった。具体的に説明すると、シェーピングエアリング101の前端部101Bの幅寸法が2mmよりも大きく設定されている場合には、前端部101Bの近傍の空気が旋回流に持ち去られてしまう。これにより、前端部101Bの前側近傍の圧力が低下するから、旋回流の一部は、
図4中に矢示で示すように、コアンダ効果によって、シェーピングエアリング101の外筒面101A側に沿って後側に流れるようになる。この
図4の説明図では、シェーピングエアを噴出していない。
【0041】
図4の空気の流れは、前方へ塗料粒子を搬送する塗装時の流れと逆になる。従って、逆向きの空気の流れに抗して塗料粒子を前方に供給できるように、シェーピングエアの流量を増やす必要がある。しかし、シェーピングエアの流量を増やした場合、被塗装物の付近を流れる空気流の流速に影響を与えてしまい、塗着効率の低下を招いてしまう。
【0042】
これに対し、本実施形態のように、前端部7Eの幅寸法cを2mm以下に設定した場合には、前端部7Eの前側近傍に大きな空気溜りが形成されないから、前端部7Eの前側の圧力低下を抑制することができる。これにより、シェーピングエアリング7の前外筒面7B側に沿った後側への空気の流れを抑制し、
図3中に矢示で示すように、径方向(放射方向)に空気が流れるようにすることができる。即ち、塗料粒子の逆向きの流れを抑制できるから、シェーピングエアの流量を少なくして被塗装物付近の空気流を抑えることができ、塗料粒子の塗着効率を向上することができる。前端部7Eの前側近傍の空気溜りを抑制するためには、前端部7Eの幅寸法cは、できるだけ小さい値であることが好ましい。一方、前端部7Eの機械的な強度等を考慮すると、前端部7Eの幅寸法cは、2mm以下の範囲内で大きい値であることが好ましい。前端部7Eの幅寸法cは、これら両方の特性を考慮して、2mm以下の範囲内で適宜設定される。
【0043】
シェーピングエアリング7の外筒面となる前外筒面7Bは、前端部7Eから後側に向けて拡開して(直径寸法が大きくなるように)形成されている。具体的には、前外筒面7Bは、点P3を通って軸線O-Oと平行をなすように前後方向に延びた直線Cに対し、テーパ角度βをもったテーパ面として形成されている。前外筒面7Bのテーパ角度βは、下記数5のように設定されている。
【0044】
【0045】
このように、前外筒面7Bのテーパ角度βを、直線C(軸線O-O)に対して25°以下に設定した場合、換言すると、前外筒面7Bのテーパ角度βを小さくして軸線O-Oに近づけた構成では、回転霧化頭6の回転により生じた旋回流が巻き込む空気を少なくすることができ、塗料粒子を後側に流す逆向きの流れを抑制することができる。このため、テーパ角度βは、25°以下であればよく、例えば0°でもよい。但し、テーパ角度βが小さくなるに従って、前外筒面7Bの厚さが全体的に薄くなり、機械的な強度が低下する。前外筒面7Bのテーパ角度βは、これら両方の特性を考慮して、25°以下の範囲内で適宜設定される。
【0046】
第1シェーピングエア噴出部8は、回転霧化頭6の外周側に設けられている。第1シェーピングエア噴出部8は、放出端縁6Dから放出された塗料に向けて第1シェーピングエアを噴出する。第1シェーピングエア噴出部8は、回転霧化頭6の外周面6Bとシェーピングエアリング7の内筒面7Aとの間に円環状の隙間として形成されている。これにより、第1シェーピングエア噴出部8は、前方に障害物がない状態となるから、第1シェーピングエアを安定的に噴出することができる。第1シェーピングエア噴出部8は、第1シェーピングエア供給路8A等を介して第1のシェーピングエア源(図示せず)に接続されている。
【0047】
シェーピングエアリング7の内筒面7Aは、均等な内径寸法に形成されている。一方、回転霧化頭6の外周面6Bの前側部分6Fの角度αは、0~10°の範囲に形成されている。第1シェーピングエア噴出部8は、前後方向に概ね均等な隙間をもって形成されている。また、第1シェーピングエア噴出部8の噴出口の隙間寸法aは、0.1~1.0mmに絞られている。これにより、第1シェーピングエア噴出部8では、空気が層流状態で流れ、噴出方向、収束性等が整った状態の第1シェーピングエアを塗料粒子に噴き付けることができる。
【0048】
第2シェーピングエア噴出部9は、第1シェーピングエア噴出部8よりも径方向の外側に位置して回転霧化頭6を取囲んで配置されている。第2シェーピングエア噴出部9は、回転霧化頭6の放出端縁6Dから放出された塗料に向けて第2シェーピングエアを噴出する。第2シェーピングエア噴出部9は、シェーピングエアリング7の段差部7Dに周方向に並んで開口した多数個の孔によって形成されている。第2シェーピングエア噴出部9は、第2シェーピングエア供給路9A等を介して第2のシェーピングエア源(図示せず)に接続されている。なお、第2シェーピングエア噴出部9を廃止し、第1シェーピングエア噴出部8からのみシェーピングエアを噴出する構成としてもよい。
【0049】
ここで、点P3を通って軸線O-Oと平行をなすように前後方向に延びた直線Cに対して後側に向けて拡開する仮想テーパ面Dを設ける。また、仮想テーパ面Dは、直線Cに対するテーパ角度γが25°に設定されている。この上で、第2シェーピングエア噴出部9は、仮想テーパ面Dの内側(軸線O-Oに近い位置)に配置されている。これにより、回転霧化頭6の周囲の空気は、前外筒面7Bに沿って後側に流れようとするコアンダ効果に抗して、径方向(放射方向)に流すことができるから、シェーピングエアの流量を少なくして被塗装物付近の空気流を抑えることができ、塗料粒子の塗着効率を向上することができる。
【0050】
本実施形態による回転霧化頭型塗装機1は、上述の如き構成を有するもので、次に、この回転霧化頭型塗装機1を用いて塗装作業を行うときの動作について説明する。
【0051】
まず、エアモータ3のタービンにタービンエアを供給し、エアモータ3によって回転軸4と回転霧化頭6を高速で回転する。この状態で、塗料供給源からの塗料がフィードチューブ5の塗料流路5Aを通じて回転霧化頭6に供給される。これにより、回転霧化頭6は、供給された塗料を、塗料粒子として噴霧する。
【0052】
この場合、回転霧化頭6は、エアモータ3、回転軸4等を介して高電圧発生器に接続されているから、回転霧化頭6の表面を流れる塗料は、高電圧に印加されている。これにより、回転霧化頭6から噴霧された塗料粒子、即ち、帯電塗料粒子は、アースに接続された自動車のボディ等の被塗装物に向けて飛行し、その塗装面に塗着することができる。
【0053】
一方、回転霧化頭6の放出端縁6Dから放出された塗料粒子は、第1シェーピングエア噴出部8から噴出された第1シェーピングエアおよび第2シェーピングエア噴出部9から噴出された第2シェーピングエアが後側から噴き付けられることにより、噴霧パターンを良好な形状に整えることができる。
【0054】
ここで、塗着効率は、噴霧した塗料に対する塗装面に付着した塗料の割合のことである。特許文献1に開示された回転霧化頭型塗装機を用いた場合でも、各種の塗装条件を適宜設定することによって、塗着効率は、ある程度まで高めることができる。一例を挙げると、表2中の従来例1に示すように、従来技術の回転霧化頭型塗装機で静電塗装を行う場合には、塗着効率を例えば70~80%程度に高めることができる。一方、表4中の従来例2に示すように、従来技術の回転霧化頭型塗装機で非静電塗装を行う場合には、塗着効率は、静電塗装での塗着効率よりも低下し、例えば66%となる。しかし、回転霧化頭6から噴霧された塗料粒子は、その一部が被塗装物の塗装面に到達することなく周囲に飛散してしまう。このために、従来例1,2の回転霧化頭型塗装機では、塗着効率をこれ以上高めることが難しかった。
【0055】
そこで、本願の発明者は、回転霧化頭型塗装機の構造面から塗着効率の変化を検討した。回転霧化頭型塗装機の構造面は、例えばシェーピングエアリング(SAリング)7の前端部7Eの幅寸法c、シェーピングエアリング7の外形テーパ角度β、第1シェーピングエア噴出部(第1SA噴出部)8の隙間寸法aである。本願の発明者は、構造面の条件が異なる複数の回転霧化頭型塗装機について、塗着効率をそれぞれ測定した。その測定結果を以下の表1および表2に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
表1、表2を参照して、本発明の主題となる塗着効率を高めるために必要となる回転霧化頭型塗装機1の構造面の条件について説明する。
【0061】
回転霧化頭6の先端周辺では、塗料粒子の乱れが生じるために、被塗装物の方向に向かわない塗料粒子が存在する。また、被塗装物の塗装面では、この塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子が存在する。これらの塗装に寄与しない塗料粒子を極限まで少なくすることにより、塗着効率を高めることができる。
【0062】
従来例1として示した現行の回転霧化頭型塗装機の塗装条件と、この塗装条件によって得られた結果について説明する。表2に示す従来例1では、シェーピングエアリング(SAリング)の前端部の幅寸法cを6~8mm、シェーピングエアリングの外形テーパ角度βを30~60°に設定しており、第1シェーピングエア噴出部(第1SA噴出部)は、存在しない。また、回転霧化頭の放出端縁から後側に向けて縮径する方向の外周面の角度αを45°、回転霧化頭の放出端縁からシェーピングエアリングの前端部が後退した寸法bを11mm、回転霧化頭の回転数を20~40krpm、シェーピングエア(SA)の流量を300~400Nl/min、塗装距離を200mm、印加電圧を-80kVに設定している。これにより、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「非常に多い」になり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「非常に多い」になっている。この結果、塗着効率が70~80%に留まっている。
【0063】
なお、被塗装物に向かわない塗料粒子の量と、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量は、「なし」(測定できない程に微量)、「少ない」、「多い」、「非常に多い」の4段階で判定している。
【0064】
これに対し、本発明の実施例1の回転霧化頭型塗装機1では、表1に示すように、塗装条件として、シェーピングエアリング(SAリング)7の前端部7Eの幅寸法cを2mm、シェーピングエアリング7の外形テーパ角度βを22°、第1シェーピングエア噴出部(第1SA噴出部)8の隙間寸法aを0.1~1.0mm、回転霧化頭6の放出端縁6Dから後側に向けて縮径する方向の前側部分6F(外周面)の角度αを0°、回転霧化頭6の放出端縁6Dからシェーピングエアリング(SAリング)7の前端部7Eが後退した寸法bを4mmに設定している。また、回転霧化頭6の回転数を20krpm、シェーピングエア(SA)の流量を100~300Nl/min、塗装距離を100mm、印加電圧を-60kVに設定している。このとき、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「なし」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、実施例1では、塗着効率を従来例1に比べて10%以上高めることができ、例えば塗着効率を98%以上とすることができる。
【0065】
表1には、実施例1の塗装条件に設定した場合の塗着効率しか記載していない。本発明はこれに限らず、回転霧化頭型塗装機1の塗装条件として、シェーピングエアリング7の前端部7Eの幅寸法cを2mm以下、回転霧化頭6の前側部分6F(外周面)の角度αを0~10°、シェーピングエアリング7の後退寸法bを0.1~10.0mm、シェーピングエアリング7の外形テーパ角度βを25°以下、塗装距離を90~110mm、印加電圧を-50kV以上に設定した場合も、実施例1と同様に塗着効率を高めることができ、例えば塗着効率を98%以上とすることができる。
【0066】
この理由は、第1シェーピングエアを、回転霧化頭6とシェーピングエアリング7の内筒面7Aとの隙間の第1シェーピングエア噴出部8から噴出させるようにすることで、第1シェーピングエア噴出部8の前方に障害物がない構造にし、回転霧化頭6の前側部分6Fをシェーピングエアリング7の内筒面7Aと平行(均一な隙間)にしたことにある。これにより、回転霧化頭6の周囲の空気流の乱れが抑えられ、第1シェーピングエアの流量を増大することなく、シェーピングエアの流れを安定化することができる。即ち、シェーピングエアの流量を増大させたときに、被塗装物の表面を流れる気流により生じる塗料粒子の未塗着を抑制することができる。
【0067】
この上で、シェーピングエアリング7の前端部7Eの幅寸法cを2mm、シェーピングエアリング7の外形テーパ角度βを22°としたことにより、コアンダ効果により塗料粒子が後方へ流れる現象も抑えることができる。また、第1シェーピングエア噴出部8の隙間寸法aを0.1~1.0mm、回転霧化頭6の前側部分6Fの角度αを0°、シェーピングエアリング7の後退寸法bを4mmに設定したことにより、第1シェーピングエアを安定化しつつ、流速を速めて塗料粒子を被塗装物に向けることができる。
【0068】
次に、本願の発明者は、シェーピングエアリング7の前端部7Eの幅寸法c、回転霧化頭6の前側部分6F(外周面)の角度α、シェーピングエアリング7の後退寸法b、シェーピングエアリング7の外形テーパ角度βの値を変更した場合について、それぞれの塗着効率を調べた。その結果を、表1、表2中の比較例1~12に示す。まず、比較例1,2では、実施例1の各塗装条件のうち、シェーピングエアリング(SAリング)7の前端部7Eの幅寸法cを変更している。幅寸法cを4mmに変更した比較例1の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「少ない」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば95%となる。また、幅寸法cを6mmに変更した比較例2の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「多い」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば90%となる。
【0069】
比較例3~5では、実施例1の各塗装条件のうち、シェーピングエアリング7の外形テーパ角度βを変更している。外形テーパ角度βを35°に変更した比較例3の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「少ない」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば95%となる。また、外形テーパ角度βを45°に変更した比較例4の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「少ない」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば93%となる。さらに、外形テーパ角度βを55°に変更した比較例5の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「多い」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば90%となる。
【0070】
比較例6~8では、実施例1の各塗装条件のうち、第1シェーピングエア噴出部(第1SA噴出部)8の隙間寸法aを変更している。隙間寸法aを1.1mmに変更した比較例6の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「少ない」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば95%となる。また、隙間寸法aを1.2mmに変更した比較例7の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「多い」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば92%となる。さらに、隙間寸法aを1.5mmに変更した比較例8の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「非常に多い」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば88%となる。
【0071】
比較例9,10では、実施例1の各塗装条件のうち、回転霧化頭6の前側部分6F(外周面)の角度αを変更している。角度αを10°に変更した比較例9の場合、この10°は、高塗着効率を得ることができる角度αの範囲にあるが、角度αを10°に変更したことにより隙間寸法aが1.2mmとなっている。このために、比較例9の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「多い」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば92%となる。また、角度αを15°に変更した比較例10の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「非常に多い」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば88%となる。
【0072】
比較例11,12では、実施例1の各塗装条件のうち、シェーピングエアリング(SAリング)7の後退寸法bを変更している。後退寸法bを15mmに変更した比較例11の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「少ない」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば96%となる。また、後退寸法bを20mmに変更した比較例12の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「多い」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率は、実施例1よりも低下し、例えば93%となる。
【0073】
構造面の塗装条件を変更した比較例1~12の結果を見ると、塗着効率は、ある程度の値(例えば95%程度)までは高めることができる。しかし、比較例1~12では、いずれの塗着効率も、実施例1よりも低下している。このため、実施例1に示す多くの塗装条件を同時に満たすときが、いずれかの塗装条件を満たさないときに比べて、塗着効率を高めることができることが分かる。
【0074】
次に、本発明の回転霧化頭型塗装機1を制御面の塗装条件を変更して使用した場合について、塗着効率を調べた。その結果を表3中の実施例2~13に示す。このとき、回転霧化頭型塗装機1の制御面は、例えば回転霧化頭6の回転数、シェーピングエア(SA)の流量、回転霧化頭6から被塗装物の塗装面までの塗装距離、印加電圧である。まず、実施例2~4では、実施例1の各塗装条件のうち、回転霧化頭6の回転数を変更している。回転数を25krpmに変更した実施例2の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「少ない」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率が96%となる。また、回転数を35krpmに変更した実施例3の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「多い」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率が95%となる。さらに、回転数を45krpmに変更した実施例4の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「多い」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率が93%となる。
【0075】
実施例5~7では、実施例1の各塗装条件のうち、シェーピングエア(SA)の流量を変更している。第1シェーピングエアの流量を400Nl/minに変更した実施例5の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「なし」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「少ない」となっている。この結果、塗着効率が96%となる。また、第1シェーピングエアの流量を500Nl/minに変更した実施例6の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「なし」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「多い」となっている。この結果、塗着効率が95%となる。さらに、第1シェーピングエアの流量を600Nl/minに変更した実施例7の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「なし」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「多い」となっている。この結果、塗着効率が92%となる。
【0076】
実施例8~10では、実施例1の各塗装条件のうち、塗装距離を変更している。塗装距離を130mmに変更した実施例8の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「なし」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「少ない」となっている。この結果、塗着効率が96%となる。また、塗装距離を150mmに変更した実施例9の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「なし」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「少ない」となっている。この結果、塗着効率が94%となる。さらに、塗装距離を200mmに変更した実施例10の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「なし」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「多い」となっている。この結果、塗着効率が90%となる。
【0077】
実施例11~13では、実施例1の各塗装条件のうち、印加電圧を変更している。印加電圧を-40kVに変更した実施例11の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「なし」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率が97%となる。また、印加電圧を-30kVに変更した実施例12の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「少ない」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「なし」となっている。この結果、塗着効率が92%となる。さらに、印加電圧を0kV(非静電)に変更した実施例13の場合、被塗装物に向かわない塗料粒子の量が「少ない」となり、被塗装物の塗装面に沿って流れて付着しない塗料粒子の量が「多い」となっている。この結果、塗着効率が85%となる。
【0078】
制御面の塗装条件を変更した実施例2~13の結果を見ると、静電塗装を行う実施例2~12では、塗着効率は、90%以上を確保することができる。このため、静電塗装を行う実施例2~12では、静電塗装を行う従来例1に比べて、塗着効率を例えば10%以上高めることができることが分かる。また、非静電塗装を行う実施例13でも、従来例2の塗装機で非静電塗装を行うときに比べて、塗着効率を高めることができる。このため、例えば使用塗料の粘度や被塗装物の形状等に応じて、制御面の塗装条件が実施例1とは異なる場合であっても、実施例1~13の回転霧化頭型塗装機1を用いたときには、従来例1,2の塗装機を用いたときに比べて、塗着効率を高めることができる。即ち、実施例1の回転霧化頭型塗装機1のように、構造面の塗装条件を所定の値に設定することによって、それ以外の構造を有する塗装機を用いた場合に比べて、塗装効率を向上できることが分かる。
【0079】
次に、本発明の回転霧化頭型塗装機1を用いて非静電塗装を行った場合について、塗着効率を調べた。その結果を表4中の実施例14,15に示す。ここで、本発明の実施例14,15の回転霧化頭型塗装機1では、構造面の塗装条件は、実施例1と同じ条件とした。また、従来例2の回転霧化頭型塗装機では、構造面の塗装条件は、従来例1と同じ条件とした。それ以外の塗装条件として、実施例14,15では、回転霧化頭6の回転数を20krpm、第1シェーピングエア(SA)の流量を100Nl/min、第2シェーピングエア(SA)の流量を500Nl/minとしている。また、従来例2では、第1シェーピングエア(SA)の流量を300Nl/min、第2シェーピングエア(SA)の流量を100Nl/minとしている。それ以外の塗装条件は、実施例14と同じである。なお、実施例14,15および従来例2では、塗料の吐出量を300cc/min、塗装機の移動速度(ロボット速度)を500mm/secとしている。実施例14,15および従来例2では、印加電圧を0kVに設定しており、非静電塗装を行った場合の結果を示している。
【0080】
実施例14および従来例2では、塗装距離を100mmに設定している。従来例2では、塗着効率は例えば66%となる。これに対し、実施例14では、塗着効率を従来例2に比べて10%以上高めることができ、塗着効率を例えば83%とすることができる。また、実施例15では、実施例14に比べて塗装距離を短く設定しており、塗装距離は60mmに設定している。実施例15では、実施例14よりも塗着効率が高くなり、塗着効率は例えば86%となる。これらの結果に示すように、実施例14,15の回転霧化頭型塗装機1のように、非静電塗装を行う場合でも、構造面の塗装条件を所定の値に設定することによって、それ以外の構造を有する従来例2の塗装機を用いた場合に比べて、塗装効率を高めることができることが分かる。
【0081】
かくして、本実施形態によれば、シェーピングエアリング7の内筒面7Aは、回転霧化頭6の外周面6Bと対面する前側部分が均等な内径寸法に形成されている。また、第1シェーピングエア噴出部8は、回転霧化頭6の外周面6B(前側部分6F)とシェーピングエアリング7の内筒面7Aとの間に環状の隙間として形成されている。この上で、回転霧化頭6の前側部分6Fとシェーピングエアリング7の内筒面7Aとの間の径方向の隙間寸法aは、0.1~1.0mmに設定されている。シェーピングエアリング7の前端部7Eは、回転霧化頭6の放出端縁6Dから後側に0.1~10.0mmの位置に配置されている。シェーピングエアリング7の前端部7Eの径方向の幅寸法cは、2mm以下に設定されている。シェーピングエアリング7の前外筒面7Bは、シェーピングエアリング7の前端部7Eから後側に向けて拡開するテーパ角度βが軸線O-Oに対して25°以下に設定されている。第2シェーピングエア噴出部9は、シェーピングエアリング7の前端部7Eから後側に向けて拡開するテーパ角度が25°の仮想テーパ面Dの内側に配置されている。
【0082】
従って、シェーピングエアリング7の内筒面7Aが均等な内径寸法に形成され、回転霧化頭6の外周面6Bの前側部分6Fの角度αが0~10°の範囲に形成されるから、第1シェーピングエア噴出部8は、前後方向に均等な隙間をもって形成されている。また、第1シェーピングエア噴出部8は、その噴出口の隙間寸法aが0.1~1.0mmに絞られているから、噴出方向、収束性等が整った状態の第1シェーピングエアを塗料粒子に噴き付けることができる。
【0083】
また、シェーピングエアリング7の前端部7Eは、回転霧化頭6の放出端縁6Dよりも0.1~10.0mmの範囲で後側に配置しているから、回転霧化頭6から放出された塗料粒子の流れを安定させることができ、塗着効率を向上することができる。さらに、回転霧化頭6の放出端縁6Dから放出された塗料が前端部7Eに付着するのを防ぐことができる。
【0084】
また、シェーピングエアリング7の前端部7Eの幅寸法cを2mm以下に設定しているから、前端部7Eの前側近傍での大きな空気溜りの形成を防止することができる。即ち、前端部7Eの前側の圧力低下を抑えることで、低圧領域に向かって塗料粒子が逆向きに流れるのを防止できる。これにより、第1シェーピングエア、第2シェーピングエアの流量を少なくすることで、被塗装物付近の空気流を安定させることができ、塗料粒子の塗着効率を向上することができる。
【0085】
また、シェーピングエアリング7の前外筒面7Bのテーパ角度βを、軸線O-Oと平行な直線Cに対して25°以下に設定し、軸線O-Oに近づけた構成としている。これにより、回転霧化頭6の回転により生じた旋回流が巻き込む空気を少なくすることができ、塗料粒子を後側に流す逆向きの流れを抑制することができる。しかも、空気中に舞った塗料粒子は、この逆向きの流れ(乱流)に巻き込まれないから、回転霧化頭6やシェーピングエアリング7に塗料が付着するのを防止することができる。
【0086】
さらに、第2シェーピングエア噴出部9は、直線Cに対するテーパ角度γが25°に設定された仮想テーパ面Dの内側(軸線O-Oに近い位置)に配置している。これにより、回転霧化頭6の周囲の空気は、前外筒面7Bに沿って後側に流れようとするコアンダ効果に抗して、径方向(放射方向)に流すことができるから、シェーピングエアの流量を少なくして被塗装物付近の空気流を抑えることができ、塗料粒子の塗着効率を向上することができる。
【0087】
この結果、回転霧化頭型塗装機1の塗着効率を向上することができる。また、回転霧化頭6の回転数、シェーピングエアや塗料の流量等の塗装条件を変更する必要がないから、1台の回転霧化頭型塗装機1が塗装する範囲を維持することで、生産性を維持しつつ、塗着効率を向上することができる。
【0088】
なお、第1の実施形態では、シェーピングエアリング7は、前外筒面7Bと後外筒面7Cとの間に段差部7Dを有し、第2シェーピングエア噴出部9は、段差部7Dに周方向に並んで開口した多数個の孔として形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、
図5に示す第1の変形例のように構成してもよい。即ち、第1の変形例による第2シェーピングエア噴出部11は、シェーピングエアリング7に周方向に並んで配置され、先端が回転霧化頭6の前側部分6Fの周囲で内筒面7Aに開口している。これにより、第2シェーピングエア噴出部11から噴出される第2シェーピングエアを、第1シェーピングエア噴出部8から噴出される第1シェーピングエアに合流させることができ、シェーピングエアの流速を早めることができる。この結果、高速のシェーピングエアによって高い粘度の塗料でも微粒化することができ、塗装の仕上がり品質を向上することができる。この第1の変形例は、後述する第2、第3の実施形態にも同様に適用することができる。
【0089】
また、
図6に示す第2の変形例のように構成してもよい。即ち、第2の変形例による第2シェーピングエア噴出部21は、シェーピングエアリング7の内筒面7Aに、第1シェーピングエア噴出部8の後側に開口するスリットとして形成されている。これにより、第2シェーピングエア噴出部21は、第1の変形例による第2シェーピングエア噴出部11と同様に、第2シェーピングエアを、第1シェーピングエア噴出部8から噴出される第1シェーピングエアに合流させることができ、シェーピングエアの流速を早めることができる。この結果、第2シェーピングエア噴出部21は、シェーピングエアリング7の前端部7Eを径方向に厚くすることなく設けることができるから、塗着効率の向上と塗装の仕上がり品質の向上とを両立することができる。また、表5中の実施例16,17に示すように、第2シェーピングエア噴出部21が第1シェーピングエア噴出部8の噴出口付近まで延びる場合には、回転霧化頭6の外周面6Bの前側部分6Fの角度αは、10°よりも大きい値でもよい。即ち、第1シェーピングエア噴出部8から、空気が層流状態で流出するのであれば、角度αは10°よりも大きくてもよい。この第2の変形例は、後述する第2、第3の実施形態にも同様に適用することができる。
【0090】
【0091】
さらに、第1の実施形態では、回転霧化頭型塗装機1として、回転霧化頭6に供給される塗料に高電圧を直接的に印加する直接帯電式の静電塗装機を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、ハウジングの外周位置に高電圧を放電する外部電極を有し、この外部電極からの放電によって回転霧化頭から噴霧された塗料粒子に高電圧を印加する間接帯電式の回転霧化頭型塗装機に適用する構成としてもよい。さらに、本発明は、塗料に高電圧を印加することなく塗装を行う非静電塗装機にも適用することができる。
【0092】
次に、
図7は本発明の第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、第1シェーピングエアの噴出量と第2シェーピングエアの噴出量とを制御するシェーピングエア制御装置を備え、シェーピングエア制御装置は、回転霧化頭から放出された塗料の噴霧パターンが小径化するように、第1シェーピングエアの噴出量と第2シェーピングエアの噴出量との割合を制御することにある。なお、第2の実施形態では、前述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0093】
図7において、第2の実施形態による回転霧化頭型塗装機31は、第1の実施形態による回転霧化頭型塗装機1と同様に、ハウジング2、エアモータ3、回転軸4、フィードチューブ5、回転霧化頭6、シェーピングエアリング7、第1シェーピングエア噴出部8、第2シェーピングエア噴出部9と、を含んで構成されている。この上で、第2の実施形態による回転霧化頭型塗装機31は、後述のシェーピングエア制御装置34を備えている。
【0094】
第1シェーピングエア噴出部8は、第1シェーピングエア供給路8A等を介して第1のシェーピングエア源(第1のSA源)32に接続されている。また、第2シェーピングエア噴出部9は、第2シェーピングエア供給路9A等を介して第2のシェーピングエア源(第2のSA源)33に接続されている。そして、第1のシェーピングエア源32と第2のシェーピングエア源33とは、シェーピングエア制御装置34によってシェーピングエアの噴出量が制御されている。
【0095】
シェーピングエア制御装置34は、第1シェーピングエア噴出部8から噴出される第1シェーピングエアの流量(噴出量)と第2シェーピングエア噴出部9から噴出される第2シェーピングエアの流量(噴出量)とを制御する。具体的には、シェーピングエア制御装置34は、回転霧化頭6から放出された塗料の噴霧パターンが小径化するように、第1シェーピングエアの噴出量と第2シェーピングエアの噴出量との割合を制御する。
【0096】
ここで、シェーピングエア制御装置34が第1シェーピングエアの噴出量と第2シェーピングエアの噴出量とを制御するときの割合の一例について述べる。例えば、大きな噴霧パターン(大パターン)で塗装を行う場合、シェーピングエア制御装置34は、回転霧化頭6の直径寸法が70mm、回転数が20krpm、塗料噴霧量が250cc/minの条件で、第1シェーピングエアの噴出量を300Nl/minとし、第2シェーピングエアの噴出量を50Nl/minとする。即ち、大パターンでは、第1シェーピングエアの噴出量と第2シェーピングエアの噴出量との割合を6:1とすることにより、回転霧化頭6から放出された塗料の噴霧パターンを小径化することができる。
【0097】
また、大パターンよりも小さな噴霧パターン(小パターン)で塗装を行う場合、シェーピングエア制御装置34は、回転霧化頭6の直径寸法が70mm、回転数が20krpm、塗料噴霧量が150cc/minの条件で、第1シェーピングエアの噴出量を50Nl/minとし、第2シェーピングエアの噴出量を400Nl/minとする。即ち、小パターンでは、第1シェーピングエアの噴出量と第2シェーピングエアの噴出量との割合を1:8とすることにより、回転霧化頭6から放出された塗料の噴霧パターンを小径化することができる。
【0098】
かくして、このように構成された第2の実施形態による回転霧化頭型塗装機31においても、第1の実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。特に、第2の実施形態による回転霧化頭型塗装機31は、シェーピングエア制御装置34によって第1シェーピングエア噴出部8からの第1シェーピングエアの噴出量と第2シェーピングエア噴出部9からの第2シェーピングエアの噴出量との割合を制御することができる。従って、回転霧化頭6から放出された塗料の噴霧パターンを小径化することができる。これにより、噴霧塗料が周囲に飛散するのを抑えることができ、塗着効率を向上することができる。
【0099】
次に、
図8は本発明の第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、回転霧化頭から放出される塗料に高電圧を印加する高電圧発生器と、回転霧化頭型塗装機が取り付けられた塗装機移動手段と、塗装機移動手段を制御する移動手段制御装置と、を備え、移動手段制御装置は、放出端縁から塗装対象の塗装面までの塗装距離が90~150mmに保持されるように、塗装機移動手段を制御することにある。なお、第3の実施形態では、前述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0100】
図8において、第3の実施形態による静電塗装装置41は、第1の実施形態による回転霧化頭型塗装機1と、後述の塗装用ロボット43、ロボット制御装置44と、を備えている。回転霧化頭型塗装機1は、ハウジング2、エアモータ3、回転軸4、フィードチューブ5、回転霧化頭6、シェーピングエアリング7、第1シェーピングエア噴出部8、第2シェーピングエア噴出部9と、後述の高電圧発生器42を含んで構成されている。
【0101】
高電圧発生器42は、ハウジング2に設けられている(点線で図示)。高電圧発生器42は、例えば、コッククロフト回路により構成され、電源装置(図示せず)から供給される電圧を-60~-120kVに昇圧する。そして、高電圧発生器42の出力側は、例えば、エアモータ3に電気的に接続され、これにより、高電圧発生器42は、回転軸4を介して回転霧化頭6に高電圧を印加し、回転霧化頭6から放出される塗料に高電圧を印加する。
【0102】
塗装機移動手段としての塗装用ロボット43は、例えば、支持台43A上に自在に動作するアーム43Bを有している。アーム43Bの先端には、回転霧化頭型塗装機1が取り付けられている。塗装用ロボット43は、後述するロボット制御装置44からの制御信号に従ってアーム43B等を動作する。塗装機移動手段としては、多関節式のロボット以外、例えば、往復動のみを行う移動手段等を用いることもできる。
【0103】
移動手段制御装置としてのロボット制御装置44は、塗装ロボットを制御する。ロボット制御装置44は、回転霧化頭型塗装機1を構成する回転霧化頭6の放出端縁6Dから塗装対象となる被塗装物45の塗装面45Aまでの塗装距離L等を制御し、塗着効率を向上する。具体的には、ロボット制御装置44は、高電圧発生器42によって回転霧化頭6から放出される塗料に高電圧を印加した状態で、塗装距離Lが90~150mmに保持されるように塗装用ロボット43を制御する。このように、塗装距離Lを90~150mmに保持した状態で塗装を行った場合には、例えば、塗着効率を95%程度まで向上することができる。
【0104】
ここで、塗装距離Lが上限値150mmよりも大きい場合には、被塗装物45との間に形成される電気力線が弱まって塗着効率が低下する(例えば、塗着効率は80%程度になる)。一方、塗装距離Lが下限値90mmよりも小さい場合には、塗着効率の低下は生じないが、被塗装物45に接近したことによって高電圧異常が多発し、ライン停止が発生する虞がある。このために、塗装距離Lの下限値は、90mmに設定されている。
【0105】
かくして、このように構成された第3の実施形態による静電塗装装置41は、回転霧化頭6から放出される塗料に高電圧を印加する高電圧発生器42と、回転霧化頭型塗装機1が取り付けられた塗装用ロボット43と、塗装用ロボット43を制御するロボット制御装置44と、を備えている。そして、ロボット制御装置44は、回転霧化頭6の放出端縁6Dから被塗装物45の塗装面45Aまでの塗装距離Lが90~150mmに保持されるように、塗装用ロボット43を制御する構成としている。このように、ロボット制御装置44によって塗装用ロボット43を制御した場合には、被塗装物45の塗装面45Aに対する塗着効率を向上することができる。
【0106】
なお、第3の実施形態では、回転霧化頭型塗装機1として、回転霧化頭6に供給される塗料に高電圧を直接的に印加する直接帯電式の静電塗装機を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、ハウジングの外周位置に高電圧を放電する外部電極を有し、この外部電極からの放電によって回転霧化頭から噴霧された塗料粒子に高電圧を印加する間接帯電式の回転霧化頭型塗装機に適用する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1,31 回転霧化頭型塗装機
3 エアモータ
4 回転軸
4A 前部
5 フィードチューブ
6 回転霧化頭
6B 外周面
6C 内周面
6D 放出端縁
6F 前側部分
7 シェーピングエアリング
7A 内筒面
7B 前外筒面(外筒面)
7E 前端部
8 第1シェーピングエア噴出部
9,11,21 第2シェーピングエア噴出部
34 シェーピングエア制御装置
41 静電塗装装置
42 高電圧発生器
43 塗装用ロボット(塗装機移動手段)
44 ロボット制御装置(移動手段制御装置)
45 被塗装物(塗装対象)
45A 塗装面
a 隙間寸法
b 後退寸法
c 幅寸法
α 回転霧化頭の外周面の前側部分の角度
β 前外筒面のテーパ角度
γ 仮想テーパ面のテーパ角度
L 塗装距離
【要約】
【課題】 塗着効率を向上できるようにする。
【解決手段】 シェーピングエアリング7の内筒面7Aは、均等な内径寸法に形成する。第1シェーピングエア噴出部8を環状の隙間として形成した上で、この隙間寸法aは、0.1~1.0mmに設定する。シェーピングエアリング7の前端部7Eは、回転霧化頭6の放出端縁6Dから後側に0.1~10.0mmの位置に配置する。前端部7Eの径方向の幅寸法cは、2mm以下に設定する。シェーピングエアリング7の前外筒面7Bは、後側に向けて拡開するテーパ角度βを軸線O-Oに対して25°以下に設定する。
【選択図】
図1