(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】振動膜噴霧器における液体の存在を検出する方法
(51)【国際特許分類】
A61M 11/00 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
A61M11/00 D
(21)【出願番号】P 2023523154
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(86)【国際出願番号】 EP2021078627
(87)【国際公開番号】W WO2022079249
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-06-13
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511148433
【氏名又は名称】ヴェクトュラ・デリヴァリー・ディヴァイスィズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーティン・フーバー
(72)【発明者】
【氏名】マニュアル・フレイ
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン・ラッシャー
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・シュヴェントナー
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・コルプ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・ホフマン
(72)【発明者】
【氏名】ヤニック・ウィーサー
(72)【発明者】
【氏名】ジョナス・トリンクハウス
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-502742(JP,A)
【文献】特表2014-530736(JP,A)
【文献】国際公開第2019/234586(WO,A1)
【文献】特開2020-054847(JP,A)
【文献】特開2014-083446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・空気入口開口部およびエアロゾル出口開口部を有するチャネルと、
・振動器および膜を備えるエアロゾル発生器と、
・前記膜に流体接続される、エアロゾル化される液体のための貯蔵器と、
・前記チャネル内のエアロゾルの存在を検出するための光学センサと、
・(i)前記膜が振動し、前記チャネル内にエアロゾルを生成するように、前記振動器を動作させるためのドライバ信号を提供し、かつ1Hzから100Hzの周波数で前記ドライバ信号の振幅を変調し、(ii)前記光学センサから出力信号を受け取り、かつ前記出力信号を復調し、(iii)前記復調された出力信号に基づいて、エアロゾルが前記チャネル内に存在するかどうかを決定し、かつ(iv)エアロゾルが存在しないと決定した場合、前記振動器の動作を停止させるように構成されたコントローラと、
を備える吸入デバイス。
【請求項2】
前記光学センサは、赤外線領域で動作する、請求項1に記載の吸入デバイス。
【請求項3】
前記光学センサは、前記チャネルの両側に配置された発光器および検出器を備える、請求項1または2に記載の吸入デバイス。
【請求項4】
前記コントローラは、約10Hzなど、5Hzから40Hzの周波数で前記ドライバ信号の前記振幅を変調するように構成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項5】
前記コントローラは、(i)前記エアロゾル発生器および/または前記膜の共振周波数を決定するために周期的に走査を実施し、(ii)走査の間の期間に相当する走査周波数で前記出力信号を復調し、かつ(iii)前記復調された出力信号に基づいて、エアロゾルが前記チャネル内に存在するかどうかを決定するように構成される、請求項1から4のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項6】
前記コントローラは、前記変調されたドライバ信号と前記出力信号との間の位相差を決定し、それにより、前記エアロゾルの速度を決定するように構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項7】
空気およびエアロゾルの流量を
、20L/minの最大流量に制限する可変の流れ制限器をさらに備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項8】
前記吸入デバイスは、前記チャネル内の圧力を測定するためのセンサと、可変強度の光を放出できる信号送りデバイスと、をさらに備え、前記コントローラは、(i)前記測定された圧力を表す信号を受け取り、(ii)前記測定された圧力が、目標圧力から遠く偏移するほど、前記信号送りデバイスに、より低い強度の光を放出させるように構成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項9】
前記チャネルは、前記膜と前記光学センサとの間に、5cm
3未満の内部容積を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項10】
前記チャネルは、前記吸入デバイスの残りの部分から取外し可能である構成要素の一部である、請求項1から9のいずれか一項に記載の吸入デバイス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の吸入デバイスを動作させる方法であって、
a)前記膜が振動し、エアロゾルを前記チャネル内に生成するように、前記振動器を動作させるためのドライバ信号を提供し、かつ1Hzから100Hzの周波数で前記ドライバ信号の振幅を変調するステップと、
b)前記光学センサから出力信号を受け取り、かつ前記出力信号を同じ周波数で復調するステップと、
c)前記復調された出力信号に基づいて、エアロゾルが前記チャネル内に存在するかどうかを決定するステップと、
d)ステップc)において、エアロゾルが存在しないと決定された場合、前記振動器の動作を停止させるステップと、
を含む方法。
【請求項12】
前記ドライバ信号の前記振幅が、約10Hzなど、5Hzから40Hzの周波数で変調される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ドライバ信号の前記振幅は、正弦波、鋸歯状波、または方形波を用いて変調される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)において、前記エアロゾル発生器および/または前記膜の共振周波数を決定するために、走査を周期的に実施するステップと、ステップb)において、
走査の間の期間に相当する走査周波数で前記出力信号を復調するステップと、ステップc)において、前記復調された出力信号に基づいて、エアロゾルが前記チャネル内に存在するかどうかを決定するステップと、をさらに含む、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記変調されたドライバ信号と前記出力信号との間の位相差を測定し、かつそれにより前記エアロゾルの速度を決定するステップをさらに含む、請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動膜噴霧器に関し、詳細には、膜と接触する液体の存在を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用吸入治療のためのエアロゾルは、概して、エアロゾル化が可能な液体(多くは水)に溶かされたまたは懸濁された有効成分を含む。肺の中に深く達するために、約5μmの小滴寸法を有するエアロゾルの小滴を均一に分散させることが必要である。
【0003】
振動膜噴霧器は、このようなエアロゾルを生成するためのデバイスの一タイプである。これらのデバイスは、圧電素子などの振動器を備え、この振動器は、膜(時には、メッシュまたは開口プレートと呼ばれる)の振動を引き起こすために、超音波周波数で励起される。膜は、通常、1μmから10μmの直径を有する多数の孔を有する。貯蔵器は、液体の薬物製剤を膜に供給する。膜の振動は、孔を介して、液体のエアロゾル小滴の形成および放出を生ずる。
【0004】
液体の貯蔵器が空になった後、振動膜噴霧器を動作し続けると、膜に亀裂が入るまたは膜を破損させるおそれがある。したがって、貯蔵器に液体が存在することおよび/または膜と接触する液体が存在することを高い信頼性で検出できることが重要である。噴霧器が、液体を使い切ったことを検出したとき、自動的に振動器をオフにすることができ、かつ/または治療セッションの終了を患者に示すことができる。
【0005】
1つの手法は、単に、貯蔵器内に液体が存在することまたは液体の量を測定することである。例えば、特許文献1は、貯蔵器内の液体の量が、圧電センサ、光学センサ、導電率センサ、またはひずみ計により感知される噴霧器を開示する。しかし、これは、センサと液体との間の接触を必要とし、それは問題を生ずる可能性がある。
【0006】
代替的な手法では、膜の振動特性(例えば、共振周波数、電力消費量など)は、通常、膜が乾いているときと比較して、液体と接触しているときには全く異なることを利用する。例えば、特許文献2は、電気的パラメータ(圧電素子への電流など)の検出された値を記憶されている値と比較することにより、液体が存在するかどうかを決定する噴霧器を開示する。特許文献3は、膜、振動器、および流体貯蔵器を備えるエアロゾル送達デバイスを開示する。デバイスは、複数の異なる振動周波数で振動器を動作させ、またセンサは、各周波数における振動器の電気的パラメータを測定する。デバイスは、周波数に対する電気的パラメータの値の依存性に基づいて、膜と接触しているかつ/または流体貯蔵器における流体の存在を検出する。しかし、異なる膜の間の変動および/またはその耐用年数にわたる膜の変化は、これらの方法が、膜が乾燥したことを検出するのに失敗する可能性がある。噴霧器が、貯蔵器内に液体が存在するかどうかを正しく決定しない場合、液体を使い切った後に膜の振動を継続することもあり得る、または液体がまだ残っている間に振動器をオフにするおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2006/0255174号明細書
【文献】米国特許出願公開第2006/0102172号明細書
【文献】国際公開第2015/091356号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2006/102178号明細書
【文献】国際公開第2013/042002号パンフレット
【文献】国際公開第2017/192778号パンフレット
【文献】欧州特許出願公開第2724741号明細書
【文献】国際公開第2013/098334号パンフレット
【文献】国際公開第2008/058941号パンフレット
【文献】米国特許第9027548号明細書
【文献】国際公開第2012/046220号パンフレット
【文献】国際公開第2015/193432号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、液体が貯蔵器内に存在するか、かつ/または膜と接触しているかどうかを高い信頼性で検出するための向上させた方法がなお求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、エアロゾル化すべき液体を使い切ったときを決定するための改良された方法を確認した。具体的には、本発明者らは、光散乱を使用して、エアロゾルが噴霧器内に存在しないことを検出することにより、高い信頼性で、膜と接触している液体が存在しないことを検出できることを認識した。したがって、第1の態様において、本発明は吸入デバイスを提供し、吸入デバイスは、
・空気入口開口部およびエアロゾル出口開口部を有するチャネルと、
・振動器および膜を備えるエアロゾル発生器と、
・膜に流体接続される、エアロゾル化される液体のための貯蔵器と、
・チャネル内のエアロゾルの存在を検出するための光学センサと、
・(i)膜が振動し、チャネル内にエアロゾルを生成するように、振動器を動作させるためのドライバ信号を提供し、(ii)センサから出力信号を受け取り、(iii)出力信号に基づいて、エアロゾルがチャネル内に存在するかどうかを決定し、かつ(iv)エアロゾルが存在しないと決定した場合、振動器の動作を停止させるように構成されたコントローラと、
を備える。
【0010】
エアロゾル発生器は、振動器および/または膜が取り付けられる支持部材を備えることができる。振動器は、環状の圧電素子とすることができる。支持部材は、中空の管状部分の形態のトランスデューサとすることができ、管状部分は、圧電素子が取り付けられる、第1の端部のまたは第1の端部の近くのフランジと、膜が中にまたは上に取り付けられる第2の端部と、を有する。代替的に、支持部材は、本質的に、平坦な環体またはディスクを備えることができ、特に、膜および/または圧電素子は、支持部材の両側に取り付けることができる。
【0011】
光学センサは、電磁スペクトルの赤外線領域で動作することができる。光学センサは、チャネルの両側に位置する発光器および検出器を備えることができ、検出器は、チャネルを横断するエアロゾルを通って送られる発光器からの光を検出する。
【0012】
コントローラは、(i)1Hzから100Hzの周波数でドライバ信号の振幅を変調し、(ii)同じ周波数で、出力信号を復調し、かつ(iii)復調された出力信号に基づいて、エアロゾルがチャネル内に存在するかどうかを決定するように構成され得る。変調周波数は、例えば、約10Hz、20Hz、または30Hzなど、2Hzから70Hz、または3Hzから55Hz、または5Hzから40Hz、とすることができる。コントローラは、正弦波、鋸歯状波、または方形波を用いて、膜の振動の振幅を変調するように構成することができる。
【0013】
コントローラは、(i)エアロゾル発生器および/または膜の共振周波数を決定するために周期的に走査を実施し、その間は、膜は低減されたレートでエアロゾルを生成し、(ii)0.5sなど、走査の間の期間に相当する2Hzなどの走査周波数で出力信号を復調し、かつ(iii)復調された出力信号に基づいて、エアロゾルがチャネル内に存在するかどうかを決定するように構成され得る。
【0014】
コントローラは、ドライバ信号と出力信号との位相差を決定し、それにより、エアロゾルが光学センサを通過するときの速度を決定するように構成することができる。
【0015】
吸入デバイスは、可変の流れ制限器をさらに備えることができ、流れ制限器は、約15L/minなど、約20L/min、または18L/minの最大流量に、空気およびエアロゾルの流量を制限する。吸入デバイスは、チャネル内の圧力を測定するための圧力センサ、および可変強度の光を放出できる信号送りデバイスをさらに備えることができ、またコントローラは、(i)測定された圧力を表す信号を受け取り、かつ(ii)測定された圧力が、目標圧力から遠く偏移するほど、信号送りデバイスに、より低い強度の光を放出させるように構成され得る。
【0016】
チャネルは、例えば、約1.5cm3などの0.5cm3から3cm3、または1cm3から2cm3など、5cm3未満の内部容積を、膜と光学センサとの間に有することができる。チャネルは、デバイスの残りの部分から取外し可能な構成要素の一部である、またはこの一部を備えることができる。
【0017】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による吸入デバイスを動作させる方法を提供し、その方法は、
a)膜が振動し、エアロゾルをチャネル内に生成するように、振動器を動作させるためのドライバ信号を提供するステップと、
b)光学センサから出力信号を受け取るステップと、
c)出力信号に基づいて、エアロゾルがチャネル内に存在するかどうかを決定するステップと、
d)ステップc)において、エアロゾルが存在しないと決定された場合、振動器の動作を停止させるステップと、
を含む。
【0018】
方法は、ステップa)において、ドライバ信号の振幅を、1Hzから100Hzに周波数で変調するステップと、ステップb)において、出力信号を同じ周波数で復調するステップと、ステップc)において、復調された出力信号に基づいて、エアロゾルがチャネル内に存在するかどうかを決定するステップと、をさらに含むことができる。変調周波数は、例えば、約10Hz、20Hz、または30Hzなど、2Hzから60Hz、または3Hzから50Hz、または5Hzから40Hzとすることができる。コントローラは、正弦波、鋸歯状波、または方形波を用いて、膜の振動の振幅を変調するように構成することができる。
【0019】
方法は、ステップa)において、エアロゾル発生器および/または膜の共振周波数を決定するために、走査を周期的に実施するステップと、ステップb)において、走査周波数で出力信号を復調するステップと、ステップc)において、復調された出力信号に基づいて、エアロゾルがチャネル内に存在するかどうかを決定するステップと、をさらに含むことができる。
【0020】
方法は、エアロゾルがチャネル内に存在する場合、ドライバ信号と出力信号との間の位相差を決定し、それにより、エアロゾルが光学センサを通過するときの速度を決定するステップをさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】
図1の噴霧器のためのエアロゾル発生器を示す図である。
【
図3A】本発明による噴霧器のベースユニットおよびマウスピース構成要素の一方の側面からの斜視図である。
【
図3B】本発明による噴霧器のベースユニットおよびマウスピース構成要素の他方の側面からの斜視図である。
【
図4】光学センサの領域における
図3の噴霧器の横断面図である。
【
図5】光学センサの主な構成要素、およびチャネルの関連領域を示す図である。
【
図6A】エアロゾルが存在する場合の光学的なエアロゾル検出システムの動作原理を示す図である。
【
図6B】エアロゾルが存在しない場合の光学的なエアロゾル検出システムの動作原理を示す図である。
【
図7】貯蔵器が空になったときの、検出器からのシミュレートされた出力信号を時間の関数として示す図である。
【
図8】ドライバ信号の振幅変調の原理を示す図である。
【
図9A】変調されたドライバ信号を用いて、貯蔵器が空になったときの、検出器からのシミュレートされた出力信号を時間の関数として示す図である。
【
図9B】復調された後の
図9Aからの出力信号を示す図である。
【
図10A】
図9に類似したグラフを示すが、シミュレートされた外部ノイズが出力信号に加えられた状態の図である。
【
図10B】
図9に類似したグラフを示すが、シミュレートされた外部ノイズが出力信号に加えられた状態の図である。
【
図11A】ドライバ信号のさらなる変調を行わない、周波数走査前、周波数走査中、および周波数走査後の検出器からの出力信号を時間の関数として示す図である。
【
図11B】ドライバ信号のさらなる変調を行った、周波数走査前、周波数走査中、および周波数走査後の検出器からの出力信号を時間の関数として示す図である。
【
図12】ドライバ信号の変調および検出器から得られた出力信号を示し、それらの間の位相差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
小滴により散乱された光(または他の電磁放射)の量を測定することによって、エアロゾルの存在を検出する噴霧器が知られている。例えば、特許文献4は、半透明な壁を備えるマウスピース、光送信器、および一方は送信された光用で、他方は散乱された光用の2つの光受信器を備える噴霧器を開示する。適切な較正を用いて、マウスピース内のエアロゾルの密度を、受信器からの出力信号から決定することができる。送信器は、断続的に動作することができる。送信器がオンのときの信号から、送信器がオフのときに得られた信号を減算することにより、周囲光の影響が低減され得る。特許文献4は、この方法が、ジェット噴霧器または振動膜噴霧器で使用できることを開示する。特許文献4は、膜が乾燥したときを決定する問題について述べていない。
【0023】
特許文献5は、散乱された光の量を測定することにより、光源および光学センサを使用してエアロゾルの密度を決定する噴霧器を開示する。噴霧器はまた、エアロゾル発生器がスイッチオンされることとエアロゾルが光学センサにより検出されることとの間の時間遅延を測定することにより、エアロゾルの速度を決定する。エアロゾル発生器から光学センサまでの距離が分かっているので、速度を計算することができる。エアロゾル発生器は、平均電力を、したがって、出力レートを変調するために、一連の短いパルスでスイッチオンおよびオフすることができる。噴霧器は、ジェット噴霧器、加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)または振動膜噴霧器とすることができる。特許文献5は、膜が乾燥したときを決定する問題について述べていない。
【0024】
特許文献6は、投与量が送達されたことを検証するために、吸入チャネル内の小滴の存在を測定および検出する光学的なエアロゾルセンサを備える噴霧器を開示する。LED源は、小滴により散乱または吸収されかつ光検出器により検出される光を放出する。複数の光源および複数の検出器を使用して、エアロゾルの噴煙(plume)の、断面および長さを含む形状を決定し、排出された質量を推定することができる。しかし、噴霧器は、いつ膜が乾燥したかを決定するために、検出された光信号を使用することはない。そうではなくて、噴霧器は、膜の共振周波数の変化を監視する。
【0025】
吸入チャネル内にエアロゾルがないことを検出することにより、膜と接触している液体が存在しないことを高い信頼性で検出するために、このタイプの光学センサを使用できるということは、以前には認識されていなかった。本発明の文脈において、「光学センサ」という用語は、可視光または赤外線光などの光を検出するセンサを意味する。同様に、「光学信号」などは、可視光と赤外線光との両方を含む。
【0026】
図1は、振動膜噴霧器デバイスの拡大図を示しており、この振動膜噴霧器デバイスは、特許文献7および8で詳細に述べられている。デバイスは、ベースユニット、マウスピース構成要素、およびエアロゾルヘッドの3つの部分を備える。ベースユニット100は、1つまたは複数の空気入口開口部、空気出口開口部102、マウスピース構成要素200を受け入れるための溝103、および1つまたは複数のキーロック部材104を有する。マウスピース構成要素200は、ベースユニット100の空気出口開口部102に取付け可能な空気入口開口部201と、エアロゾル発生器301を受け入れるための側方開口部202と、エアロゾル出口開口部203と、を有する。チャネル205は、空気入口開口部201からエアロゾル出口開口部へと延びる。マウスピース構成要素200は、ベースユニット100の溝103の中に挿入可能である。エアロゾルヘッド300は、エアロゾル発生器301と、エアロゾル発生器301の上端と流体接触する、エアロゾル化される液体薬物製剤のための充填チャンバ302と、ベースユニット100のキーロック部材104と相補的な1つまたは複数のキーロック部材303と、を備える。蓋304は、充填チャンバ302を閉じ、かつ使用中における液体の汚染または流出を阻止する。
【0027】
ベースユニット100、マウスピース200およびエアロゾルヘッド300は、互いに取外し可能に接続することができる。デバイスは、マウスピース200を、ベースユニット100の溝103の中に挿入し、次いで、マウスピース200の上にエアロゾルヘッド300を配置し、かつエアロゾルヘッドおよびベースユニットに対する軽度の圧力により、エアロゾルヘッド300のキーロック部材303を、ベースユニット100の相補的な部材104と係合させることにより組み立てられる。エアロゾル発生器301は、キーロック部材と係合したとき、エアロゾル発生器301がマウスピース200の側方開口部202の中に挿入されるように、エアロゾルヘッド300内に配置される。こうすることは、エアロゾル発生器301とマウスピース内の側方開口部202との間に、ならびにベースユニット100の空気出口開口部102とマウスピース200の空気入口開口部201との間に気密な接続を生成する。ベースユニット100、マウスピース200およびエアロゾルヘッド300は、これらのステップを逆にすることにより、分離することができる。
【0028】
ベースユニット100は、1つまたは複数の凹部106を有することができ、凹部の位置は、溝103にまたは溝103の近くにあることができ、またマウスピース200は、1つまたは複数の位置決め部材204を有することができる。ベースユニットの凹部は、マウスピース200の位置決め部材204と相補的である(すなわち、受け入れるような形状をしている)。この文脈において、凹部は、くぼみ(例えば、へこみ、ピット、空洞部、空隙、切欠きなど)であり、その「負」の形状は、位置決め部材の「正」の形状(それは、フランジ、突起部、ノーズ、隆起、または同様のものとすることができる)に対して相補的なものである。このような凹部および位置決め部材は共に、マウスピースをベースユニットに正しく位置決めするように働く。凹部106および位置決め部材204は、マウスピース200を、1つの特定の方法で、ベースユニット100の凹部106の中に挿入できるだけであることを確実にするように非対称であり得る。こうすることは、デバイスは、互いに対するマウスピース200およびベースユニット100の位置および方向付けが正しくなるように組み立てられることを保証する。ベースユニットは、プリント回路板(PCB)などのコントローラを含み、コントローラは、噴霧器の動作を制御する。
【0029】
図2は、エアロゾル発生器(特許文献9で詳細に述べられる)を示す。エアロゾル発生器は、振動器、すなわち、圧電素子308、トランスデューサ本体306、および膜309を備える。トランスデューサ本体306は、例えば、ステンレス鋼、チタンまたはアルミニウムなどから作られ、またエアロゾル化される液体を収容する空洞部307を囲む。充填チャンバ302の内側は円錐形であり、したがって、液体は、重力下で、トランスデューサ本体306の上流端306aの中に流入し、空洞部307の中へと下がる。充填チャンバ302および空洞部307は共に、エアロゾル化される液体のための貯蔵器を形成する。
【0030】
膜309は、トランスデューサ本体306の下流端306bに位置する。膜における孔は、電鋳またはレーザ穴開けにより形成することができ、開口部は、通常、約1μmから約10μmの範囲にある。膜の振動がない場合、圧力のバランス、孔の形状、および膜に使用される材料の性質は、液体が膜を通って浸出しないようにする。しかし、膜の振動は、孔を通るエアロゾルの小滴の形成および放出を生ずる。膜は、プラスチック、シリコン、セラミック、またはより好ましくは金属から作ることができ、また接着、ろう付け、圧着またはレーザ溶接などの様々な手段により、エアロゾル発生器301の下流端306b上に、または下流端306bの中に固定することができる。任意選択で、膜は、少なくとも部分的に、その中心領域にドームを形成し、それは、初期のエアロゾルの小滴の噴流を発散させて、小滴が融合する危険を低減する。
【0031】
圧電素子308は、好ましくは、環状の単層または多層のセラミックであり、圧電素子308は、縦モードで、トランスデューサ本体306を振動させる。ドライバ回路は、ドライバ信号を生成し、ドライバ信号は、圧電素子を励起して、通常、50kHz~200kHzの範囲の周波数で膜309を振動させる。ドライバ信号の周波数は、エアロゾル発生器の共振周波数からの固定されたオフセットであるように、例えば、共振周波数未満の500Hzなどに選択され得る。圧電素子を励起することは、トランスデューサ本体306の対称軸に平行な方向に、微小な縦変位および/または変形を生じさせる。トランスデューサ本体306は、応力集中ゾーン306cとして働く比較的大きな壁厚を備える圧電素子308に近い領域と、変形増幅ゾーンとして働く比較的低い壁厚を有するその下流の領域306dと、を有する。この構成では、圧電素子308により生ずるトランスデューサ本体306の振動または変形は増幅される。圧電素子308は、応力集中ゾーン306cのレベルに、または応力集中ゾーン306cに隣接して位置することが好ましい。変形増幅ゾーン306dにおけるトランスデューサ本体306の内径は、応力集中ゾーン306cにおけるものと同じとすることができ、したがって、壁厚の差は、異なる外径に対応する。代替的に、トランスデューサ306の外径は、一定にすることができ、一方、内径が2つのゾーンの位置において異なる。
【0032】
噴霧器が動作されると、膜309によってエアロゾルが生成され、かつチャネル205の中へと放出され、チャネル205で、空気入口開口部201から到来する(ベースユニットの空気入口および空気出口開口部102を介する)空気と混合される。空気およびエアロゾルは、次いで、チャネル205に沿って流れ、マウスピースのエアロゾル出口開口部203を通って流出し、患者の気道に流入する。したがって、チャネル205は、患者に、空気およびエアロゾルのための通路を提供する吸入チャネルである。
【0033】
図3Aおよび
図3Bは本発明による噴霧器のベースユニット100およびマウスピース構成要素200のいずれかの側面からの斜視図である。噴霧器は、本質的に、
図1で示されたものと同じであるが、ベースユニットが、チャネル205の最も狭い部分において、エアロゾル発生器の位置の下流の溝103の両側に、窓401、402を有する点が異なる。窓401、402は、レンズであるような形にすることができる。
【0034】
図4は、下流に向いている、すなわち、マウスピースのエアロゾル出口開口部の方向の噴霧器のこの部分の断面図を示す。
図5は、光学センサの基本の構成要素を示す簡略化した図であり、説明用として、チャネル205の断面とは別に、ベースユニットの他の部品およびマウスピースが除去されている。U字形のブラケット403は、この領域における溝103のベースおよび側部を形成する。窓401、402は、ブラケット403に取り付けられる。赤外(IR)光放出ダイオードなどの発光器404は、窓401の一方の後部に位置し、フォトダイオードなどの検出器405は、他方の窓402の後部に位置する。発光器および検出器は、それぞれ、PCB406、407に取り付けられる。これらの構成要素の組合せは、光学センサを形成する。それらは、標準の電子構成要素とすることができ、また例えば、940nmなど、同じIR波長範囲で動作するように選択される。窓は、例えば、ポリカーボネートなど、この範囲において、IR放射に対して透過性のある材料から作られる。窓は、IR放射には透過性があるが、可視光などの他の波長を通さないIRフィルタとして働く材料から作ることができる。チャネル205はまた、例えば、ポリプロピレンなど、IR放射に対して透過性のある材料からも作られる。
【0035】
代替的に、可視光など、電磁スペクトルの異なる部分で動作する発光器および検出器を使用することも可能である。しかし、赤外線を使用することは、いくつかの利点を有する。まず、それは、エアロゾルにより強く吸収されることであり、第2に、見えないため、患者の気を散らすことがない。特許文献8で述べられるように、噴霧器が、吸入が最適なレートに近づいたとき、強度を増加させる光を用いてマウスピースを照明することにより患者をガイドする場合、これは特に重要である。
【0036】
図6は、光学的なエアロゾル検出システムの基本動作を示す概略図である。検出器からの出力信号は、エアロゾルの密度に依存する。エアロゾル10が、エアロゾル発生器301によって作られたとき、エアロゾル10は、患者の吸入によりチャネル205に沿って引き出されて、発光器404と、チャネルの反対側にある検出器405と、の間の領域内に入る。発光器404からの放射20は、エアロゾル10により散乱され、
図6Aで示されるように、その一部だけが、検出器405により受け取られる。貯蔵器内の液体を使い切ったとき、エアロゾルはもはや生成されず、したがって、検出器により受け取られる放射量は増加する(
図6B)。代替的に、検出器は、送られた光に代えて、散乱光を受け取るように配置することもできる。例えば、検出器が、ほぼ180°で散乱された光を受けるように発光器の隣に、またはほぼ90°で散乱された光を受けるようにチャネルの上部もしくは底部に存在することもできる。
【0037】
図7は、貯蔵器が空になるときを時間の関数として、(光の強度を表す無次元単位で)検出器からのシミュレートされた出力信号のグラフを示す。t=0において、貯蔵器にわずかな液量が残っている、すなわち、治療は、ほぼ完了している。この時点で、エアロゾルは、チャネル内に存在し、光を検出器から離れて散乱させており、したがって信号は低い。貯蔵器が空になると、チャネル内のエアロゾルの量は減少し、検出器の信号は増加する。信号は、電子的構成要素からの固有のノイズにより変動する(これは、約20msと40msの間で明らかである)、しかし、外部のノイズ源(例えば、周囲光における変動)は、このシミュレートされたデータに含まれていない。約t=75msにおいて、チャネル内には非常にわずかなエアロゾルがあるに過ぎないため、信号は水平化し始める。約t=150ms後に、検出器信号は、最大に達し、この時点で、チャネル内にエアロゾルはなくなる。閾値(ここでは2710)が事前設定される。検出器信号が閾値30を超えたとき、コントローラは、貯蔵器が空であると決定する。
【0038】
実際には、検出器は、例えば、太陽光または室内光など、周囲の背景にあるIR放射を拾うことになり、それは信号にノイズを付加する。さらに、発光器および/または検出器の近くのチャネルの内側におけるエアロゾル小滴の堆積、または患者によって保持されたときの、ベースユニットに対するマウスピースの方向のわずかな変化など、他の外部のノイズ源もある。エアロゾルがまだチャネル内に存在している間に、ノイズが、検出器信号を閾値レベルに達するようにする可能性があり、したがって、エアロゾル発生器の早過ぎるスイッチオフを生ずることになり得る。さらに、例えば、PCB上に半田付けされたときの発光器および検出器の方向付けなど、異なる噴霧器間でわずかな相違があり得る、または例えば、治療の間に噴霧器を殺菌するために、繰り返して加熱を受ける結果としてなど、時間経過と共にチャネル(特に窓)の光学特性にわずかな変化を生ずる可能性がある。エアロゾルがチャネル内に存在するかどうかを決定するための閾値は、事前設定されるので、これらの影響を補償することができない。これはまた、貯蔵器がいつ空になったかの誤った決定を生ずる可能性がある。
【0039】
本発明者らは、これらの影響をなくす、または少なくとも実質的に低減するための方法を特定しており、したがって、信号対ノイズ比は高められ、また空であることを検出する方法の感度および信頼性が向上する。これは、
図8で概略的に示されるように、ドライバ信号40の振幅を変調することにより達成される。変調45は、正弦波として示されているが、例えば、鋸歯状波または方形波など、任意の種類の周期信号とすることができる。ドライバ信号40の振幅は、比較的低周波数で変調することができ、例えば、約10Hz、20Hz、または30Hzなど、約2Hzから70Hz、または3Hzから55Hz、または5Hzから40Hzなどの1Hzから100Hzの範囲にあるのが適切である。しかし、主電源による光源からの主電源周波数における光強度の変動から生ずるノイズが導入されるのを回避するために、主電源の電圧周波数(通常、50Hzまたは60Hzである)を使用するべきではない。
図8は、例示のため、変調45の約15倍の周波数を有するドライバ信号40を示しているが、実際には、ドライバ信号周波数は、通常、変調周波数の10000倍に近い。
【0040】
ドライバ信号の変調は、膜からのエアロゾル出力レートにおける対応する変調を生成する。これは、次いで、チャネルにおけるエアロゾル密度の、したがって、検出器からの出力信号における変調を生成する。変調は、ドライバ信号に対して情報を追加し、それは、検出器からの出力信号を介して運ばれる。この付加された情報は、噴霧器の耐用年数にわたって、周囲のIR放射、チャネルの内部の小滴の堆積、混合チャネルの光学特性における生成変動および変化などの外部の影響を受けない。
【0041】
ドライバ信号の振幅の変調は、エアロゾルの出力レートを減少させる必要がなく、それは、ドライバ信号の振幅の実効値は、変調しないものと同じであり得るからである。言い換えると、振幅が変調中に低減されたときのより低いエアロゾル出力は、変調中に振幅が増加したときのより高いエアロゾル出力によってバランスをとられる。
【0042】
図9Aは、
図7と同様のグラフを示すが、ドライバ信号が75Hzの周波数で変調されている。ドライバ信号の変調は、検出器信号において対応する変調を生成する。約t=150msにおいて、検出器信号は水平状態に達し、その時点で、チャネル内には非常にわずかなエアロゾルがあるだけである。t=225ms後に、エアロゾルが残っていない、すなわち貯蔵器が空であるため、変調は消える。
図7と同様に、検出器信号を閾値30と比較することにより、貯蔵器がいつ空になったかを決定することができる。
【0043】
検出器からの出力信号は、例えば、デジタル信号処理により、またはアナログフィルタにより(例えば、検出器PCB上の電子構成要素を用いて)、復調することができる。
図9Bは、
図9Aから復調された信号を示す。y軸は、出力信号が、どのように緊密に時間の関数として変調に対応するかの無次元測定値である。エアロゾルが比較的高い密度で、すなわち、約150msまで存在するとき、復調信号は、かなり高い。次いで、エアロゾル密度が減少すると、復調された信号は減少する。約225ms後に、エアロゾルは存在せず、したがって、出力信号にもはや変調はない。この時点で、復調された信号は、一定の最小値に達する。復調された信号における閾値30はまた、貯蔵器が空であることを決定するために使用することができ、この場合、550が適切な値である。
【0044】
前に述べたように、
図9においてシミュレートされたデータにおいて、外部の影響は含まれず、また閾値を用いることにより、
図9Aから、貯蔵器が空になるときを簡単に決定することになる。しかし、実際には、信号対ノイズ比を大幅に低減する可能性のある外部ノイズのいくつかの発生源が存在し、したがって、貯蔵器が空になるときを決定するこの方法をかなり困難に、または信頼できないものにする。
【0045】
図10Aは、
図9Aと同様のものであるが、背景の光密度における変動(それは、検出器信号の変動を生ずる)、およびチャネル内にエアロゾル小滴が堆積する影響など、シミュレートされた外部ノイズをさらに含む。治療の過程で、より多くの小滴が堆積されるので、堆積された小滴により散乱される光量が徐々に増加し、したがって、送られた光が減少する。光は、その後に、堆積された小滴がより大きな小滴へと融合するので増加することになり、それは、散乱性が低く、またさらに重力下で、チャネルの底部へと移動して下がり、したがって、それらは、もはや送られた光の経路にはない。したがって、
図9Aとは異なり、貯蔵器が空であるかどうかは、
図10Aから明確ではない。
【0046】
図10Bは、
図10Aから復調された信号を示す。復調された信号は、変調周波数にはない外部ノイズに影響されないので、信号は、
図9Bのものと同様である。復調された信号は、向上された信号対ノイズ比を有し、したがって、貯蔵器が空になる時点は、
図9Bのように、550の値を有する閾値30を適用することにより決定することができる。したがって、ドライバ信号を変調することは、エアロゾルにより散乱されたIR放射の量に対してより正確な情報を生ずる。これは、空であることを検出する方法の感度および信頼性を高めるだけではなく、エアロゾル密度の決定も容易にする。
【0047】
いくつかの振動するメッシュ噴霧器において、エアロゾル発生器の共振周波数は、治療の過程中に、例えば、貯蔵器内の液体の量が減少すると変化する可能性がある。ドライバ信号の周波数は、エアロゾル発生器の共振周波数に依存する、またはそれに従って選択することができる。結果として、エアロゾル発生器の動作全体を通して、共振周波数を、例えば、0.5秒ごとに周期的に測定する必要があり得る。通常、共振周波数を決定するために、共振が生ずる範囲にわたって、一連の様々な周波数で膜を振動させることにより、走査が行われる。しかし、これらの周波数の大部分は、最適な駆動周波数ではないため、走査の期間中は、エアロゾルの出力レートが低減するのは避けられず、それには、通常約50msを要する可能性がある。
図11Aは、0.5sの期間にわたる検出器信号を示す。走査は、約t=100msから150msまで行われ、エアロゾル出力レートをほとんどゼロに低下させる。検出器信号は、この時間中は実質的に高い。したがって、共振周波数を決定するための走査プロセスは、本質的に、ドライバ信号の方形波タイプの変調を行うが、この場合、450msの通常の出力の後に50msの低いエアロゾル出力が続く。0.5sごとに走査を行うことは、2Hzの走査周波数に相当する。
【0048】
図11Bは、
図11Aと同様のグラフを示し、図では、ドライバ信号はさらに、37Hzで変調される。エアロゾル出力レートは、走査中、本質的にゼロなので、約100msから150msの検出器信号において、変調は見ることができない。
【0049】
上記で述べられた振幅変調に代えて、または
図11Bで示されたこの振幅変調に加えて、走査からの固有の変調を使用することもできる。当然ではあるが、周波数および波形は、走査のパラメータによって固定される。特に、走査周波数は、全体的なエアロゾル出力レートを低下させないために、かなり低くする必要がある。したがって、走査変調は、限定されたサンプリングレートを有し、それは、そこから得ることのできる情報を低減する。
【0050】
ドライバ信号の変調はまた、エアロゾルの速度および体積流量を測定するために使用することができる。エアロゾルが膜から光学センサまで移動するために要する時間は、ドライバ信号と検出器からの出力信号との間の位相差を測定することにより決定することができる。この位相差は、ドライバ信号と検出器信号とを相互相関させることにより得ることができる。エアロゾルの速度は、次いで、計算された時間および膜と光学センサとの間の分かっている距離から得られる。流量は、エアロゾル速度と、分かっているチャネルの幾何形状と、から計算することができる。
【0051】
図12は、ドライバ信号の鋸歯状変調50および得られた検出器信号60を示し、かつそれらの間の位相差を示す。位相差は、互いに対する信号をシフトし、かつその信号間で最も重複が存在する位置を計算するアルゴリズムを用いて決定することができる。これは、多数のピークから位相差を連続的に決定する。したがって、それは、各信号における単一のピークの間の位相差を単に測定することよりも、さらにロバストであるが、それは、例えば、チャネル内に何らかの乱れがある場合など、位相差が、わずかに変化し得るためである。
【0052】
エアロゾル速度を決定するために位相差を用いることは、エアロゾルの生成が中断されず、したがって、出力レートが低減されないという利点を有する。これは、特許文献5の方法とは対照的なものであり、その方法では、エアロゾル発生器は、ドライバ信号に一連の短いバーストを作成するために繰り返してスイッチオンおよびオフされるが、それは、各バーストの開始と、エアロゾルの小滴が光学センサに達すると光学信号が減少する時間と、の間の時間遅延を測定するためである。
【0053】
本発明は、例えば、特許文献10~12で述べられるタイプなど、多くの振動膜噴霧器において使用することができる。これらのタイプの噴霧器では、膜は、圧電素子上に直接取り付けられる、または膜および圧電素子がその上に取り付けられる環状の平坦な支持部材を有する(上記で述べられた管状のトランスデューサ本体とは対照的に)。しかし、本発明は、いくつかの理由で、特許文献7および8で述べられたタイプの噴霧器において特に有利である。
【0054】
まず、このタイプの噴霧器は、一定の低流量を用いて、一方向にだけ動作するように設計される。これを達成するために、噴霧器は、高圧下よりも低圧下において、流れのより制限の少ない可変の流れ制限器を有することができる。したがって、患者が、強く、または急速過ぎる吸入を行うようにする場合(すなわち、圧力をかけすぎる場合)、流れは、流量が増加しないように制限される。噴霧器は、患者が、約15L/minなど、約10L/minから20L/min、または約12L/minから18L/minなどの約20L/minを超えない吸入流量で、マウスピースを介して、空気および/またはエアロゾルを吸入できるように構成され得る。代替的に、または加えて、噴霧器は、患者に、望ましい吸入流量で吸入できるようにするためになど、視覚的、可聴的、または触覚的なフィードバックもしくはガイダンスを提供することができる。具体的には、噴霧器は、マウスピースを光で照明することにより、患者に吸入努力のフィードバックを提供することができ、光は、吸入が最適なレートに接近すると強度が増す。これらは共に、患者が一定の低流量で吸入するようにガイドする。噴霧器は、呼吸で作動させることができ、また弁(例えば、ベースユニットの空気出口開口部のすぐ上流になど)を有することができ、弁は、各吸入の開始および終了時にそれぞれ開閉し(例えば、事前に設定された吸入時間の後になど)、したがって、患者が、マウスピースの中に吐き出すことができないようにする。これは、流れが、一方向に、すなわち、エアロゾル出口開口部の方向に限ることを保証する。
【0055】
第2に、チャネルは、小さな内部容積を有し、またエアロゾルの層流を生成するように形成される。膜と光学センサとの間のチャネルの内部容積は、例えば、約1.5cm3など、0.5cm3から3cm3または1cm3から2cm3などの5cm3未満とすることができる。対照的に、いくつかの振動メッシュ噴霧器は、大きな内部容積を備える吸入チャネル、またはエアロゾルが収集されるチャンバを有する。例えば、エアロゾルを連続的に生成する噴霧器は(呼吸で作動されるのとは対照的に)、患者が吐出する間に生成されるエアロゾルを、消耗されないように、保管するための大容量が必要となり得る。膜と光学センサとの間に大きな容積を有する吸入チャネルは、エアロゾル密度における変調のための低域通過フィルタとして有効に働くことになる。変調周波数(約10Hz)は、大きなチャンバを通過させるには高すぎて、「連続的な」エアロゾル密度へと平均化されることになる。結果的に、変調は、検出器からの出力信号において観察されないことになる。小容積のチャネルを通って光学センサを過ぎるエアロゾルの一定の、低速の層流は、エアロゾルの蓄積を阻止する。エアロゾルがチャネル内に蓄積した場合、エアロゾル密度の変調は検出可能ではない。さらに、層流は、チャネル内のエアロゾルの堆積を低減し、したがって、光学信号のノイズ源を低減する。
【0056】
最後に、チャネルは、噴霧器の残りの部分から取外し可能なマウスピース構成要素の一部であり、したがって、IRおよび/または可視放射に対して透過性の材料から容易に作ることができる。
【0057】
低速な一方向の流量と、別の構成要素である小さなチャネルと、の組合せは、チャネル内のエアロゾルから生ずる変調された光学信号を測定することにより、膜上に液体が存在するかどうかを決定する方法に対して理想的なものである。
【符号の説明】
【0058】
10 エアロゾル
20 放射
30 閾値
40 ドライバ信号
45 変調
50 鋸歯状変調
60 検出器信号
100 ベースユニット
102 空気出口開口部
103 溝
104 キーロック部材
106 凹部
200 マウスピース構成要素
201 空気入口開口部
202 側方開口部
203 エアロゾル出口開口部
204 位置決め部材
205 チャネル
300 エアロゾルヘッド
301 エアロゾル発生器
302 充填チャンバ
303 キーロック部材
304 蓋
306 トランスデューサ本体
306a 上流端
306b 下流端
306c 応力集中ゾーン
306d 変形増幅ゾーン
307 空洞部
308 圧電素子
309 膜
401 窓
402 窓
403 U字形のブラケット
404 発光器
405 検出器
406 PCB
407 PCB