(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】2つの並列する燃料電池システムを備えた燃料電池設備
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04111 20160101AFI20240826BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240826BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20240826BHJP
F04D 17/12 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
H01M8/04111
H01M8/04 N
H01M8/249
F04D17/12
(21)【出願番号】P 2023543076
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2022051218
(87)【国際公開番号】W WO2022157237
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】102021000329.2
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】202021103104.2
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】522100316
【氏名又は名称】セルセントリック・ゲーエムベーハー・ウント・コー・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・ハール
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ハオスマン
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミーン・ピーク
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-524852(JP,A)
【文献】特開2022-45809(JP,A)
【文献】特表2011-511731(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0003258(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第10203030(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード側およびカソード側の周辺機器と共に少なくとも1つの燃料電池積層体(15、16、17、18)をそれぞれ含む2つの並列する燃料電池システム(13、14)と、1つの共通の空気搬送装置(2)とを備えた燃料電池設備(1)であって、
前記空気搬送装置(2)が2段式に形成されており、両方の段が流体圧縮機(3、4)の形態で形成されており、前記流体圧縮機(3、4)のそれぞれが段ごとに
2つの圧縮機ホイール(8、9、10、11)を有し、一方および他方の前記燃料電池システム(13;14)のための前記圧縮機ホイール(8、9;10、11)が、軸(7)上で少なくとも1つの電気機械(5、6)に対して対称に配置されていることを特徴とする、前記燃料電池設備(1)。
【請求項2】
前記段の各々が、1つの電気
機械(5、6)および2つの圧縮機ホイール(8、10;9、11)を有し、前記2つの圧縮機ホイール(8、10;9、11)が、一方は一方の前記燃料電池システムのために、および他方は他方の前記燃料電池システムのために、前記電気機械(5、6)に対して対称に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池設備(1)。
【請求項3】
前記空気搬送装置(2)の前記両方の段が等圧で動作するよう設計されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の燃料電池設備(1)。
【請求項4】
前記燃料電池システム(13、14)の前記燃料電池積層体(15、16、17、18)が電気的に直列に接続されていることを特徴とする、請求項1、2、または3に記載の燃料電池設備(1)。
【請求項5】
前記燃料電池システム(13、14)の各々が、電気的に直列に接続されている2つの燃料電池積層体(15、16;17、18)を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池設備(1)。
【請求項6】
前記燃料電池システム(13、14)が1つの共通の電気出力分配部を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池設備(1)。
【請求項7】
前記燃料電池システム(13、14)の少なくとも一方の前記少なくとも1つの燃料電池積層体(15、16、17、18)が、フリーホイール・ダイオード(22)に並列に配置されていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の燃料電池設備(1)。
【請求項8】
各々の燃料電池システム(13、14)の前記燃料電池積層体(15、16、17、18)のカソード室(32)からの排気管(33、35、36)と、燃料をアノード室(31)に供給するための少なくとも1つの燃料供給装置(19)とが設けられており、各々の燃料電池システム(13、14)の1つの前記アノード室(31)または複数の前記アノード室(
31)の周囲を未使用の燃料が再循環するための少なくとも1つのアノード回路と、各々の燃料電池システム(13、14)の1つの前記カソード室(32)または複数の前記カソード室(32)を迂回するための少なくとも1つのカソード・バイパス(46)とが設けられており、各々の燃料電池システム(13、14)の前記カソード・バイパス(46)が、給気管(26、27)における弁装置(44)の前方または前記弁装置(44)の領域において前記給気管(26、27)から分岐し、そして排気管(
33)におけるさらなる弁装置(45)の後方または前記弁装置(45)の領域において前記排気管に合流しており、前記カソード室(32)の周囲を流れる空気によって駆動可能なガス噴射ポンプ(47)が前記カソード・バイパス(46)に配置されており、前記ガス噴射ポンプ(47)は吸気側が前記アノード室(31)および/または前記カソード室(32)と切替可能に接続されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の燃料電池設備(1)。
【請求項9】
それぞれの前記アノード回路において、送風機が再循環搬送機(41)として、それぞれの前記燃料電池システム(13、14)の前記排気管(36)における排気タービン(37)によって駆動されることを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池設備(1)。
【請求項10】
前記燃料電池システム(13、14)の各々において、特に一元または二元物質ノズルの形態で形成されている少なくとも1つの加湿器(67、68)が、給気において、第2の圧縮機段の前方および/または後方に配置されていることを特徴とする、請求項2から9のいずれか1項に記載の燃料電池設備(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ少なくとも1つの燃料電池積層体をアノード側およびカソード側の周辺機器と共に含んでいる2つの並列する燃料電池システムを備えた燃料電池設備に関する。またこれらは1つの共通の空気搬送装置を含んでいる。
【背景技術】
【0002】
個々の燃料電池システムは、原則的に従来技術から公知である。例示的な燃料電池システムは、特許文献1から知ることができる。このシステムには、一方では、圧力側を排気側と接続するためのシステム・バイパスが設けられ、他方では、いわゆる吹出弁またはパージ弁を備えた吹出管を介したアノード側とカソード側との間の接続が設けられている。また、この種の燃料電池システムにおいて一般的であるガス/ガス加湿器が示唆されており、この加湿器は、燃料電池のカソード室への給気流をその湿潤な排気流によって加湿する機能を有している。しかし、これらの構成要素は、実際には比較的大型で複雑で高価である。
【文献】DE102009043569A1
【0003】
ところで、比較的大型のシステムの電力供給、例えば、例えばバスまたはトラックのような商用車用の電気駆動システムの出力供給のために、この種の燃料電池システムを2つ並列させて用いることが企図されている場合もある。この場合、これらの燃料電池システムを1つの燃料電池設備へと組み合わせることができ、この燃料電池設備は、2つ以上の比較的小型の燃料電池システム、例えば1台のトラックに必要な出力をもたらす2つの乗用車用燃料電池システムの使用によって比較的簡単に形成される。これは、特にバスでの使用に関し、既にずっと以前から公知であり、一般的である。
【0004】
このような構成の場合に問題なのは、多数の構成部品が2倍必要なことである。これは特に、比較的複雑で大型で出力を消費する空気供給の構成部品に係るものであり、またこのようなシステムにおいて両方の個々の燃料電池システムから必要な電圧を提供するための昇圧コンバータとして必要とされる例えばガルバニック絶縁型DC/DC変換器のような複雑な電気構成部品に係るものである。
【0005】
従来の燃料電池システムでは、空気供給のためにしばしばいわゆる電気ターボチャージャが用いられ、この電気ターボチャージャは、電気機械に対して対称に、一方の側では圧縮機ホイールを、もう一方の側ではタービンを有する。これにより、タービンを介して燃料電池システムの排気から出力を回収できる。ただし重大なのは、電気ターボチャージャの負荷が比較的高く、それに応じて電気ターボチャージャが複雑に構成されなければならないことであり、これは特に電気ターボチャージャのスラスト軸受に係るものであり、というのも一方のタービンホイールと他方の圧縮機ホイールとの間の力の関係が、軸方向の支持への高い荷重を引き起こすからである。さらなる問題は、流体圧縮機のそれ自体は合理的な使用の際の動作挙動にあり、この動作挙動によりしばしば、圧力に対する体積流量の所望の関係を、まったく提供できないかまたはそれぞれの燃料電池システムのための既に圧縮された空気を抜かずには提供できない。これも望ましくなく、特にシステムの全体効率を下げており、なぜなら既に圧縮された空気が、流体圧縮機による圧力と体積流量との所望の関係を調節できるようには利用されないままだからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、ここでの本発明の課題は、少なくとも2つの並列する燃料電池システムを備えた改良された燃料電池設備を提供することにあり、この燃料電池設備は特に空気供給に関して改良されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、この課題は、請求項1の特徴を備えた燃料電池設備によって解決される。有利な形態および展開は、この請求項に従属する下位請求項から明らかになる。
【0008】
2つ以上の並列する燃料電池システムを備えた燃料電池設備が、1つの共通の空気搬送装置を有している。本発明によれば、この空気搬送装置は2段式の空気搬送装置として形成されている。この場合、両方の段が流体圧縮機の形態で実現されており、これらの流体圧縮機はそれぞれは段ごとに圧縮機ホイールを有している。一方および他方の燃料電池システムのための圧縮機ホイールは、軸上で少なくとも1つの電気機械に対して対称に配置されている。その結果、圧縮機ホイールの対称な配置およびその間に配置された電気駆動部によって軸力の非常に良好な均一化が可能になる構成が実現される。摩擦を最小化することができるので、これによって効率を高めることができる。また、さらなる利点として、よりシンプルでより小型のスラスト軸受が可能になる。
【0009】
これに関し、その極めて好都合な一展開によれば、段の各々が、1つの電気駆動機と、それに対して対称に配置された、それぞれ一方および他方の燃料電池システムのための、2つの圧縮機ホイールとを備えていることが企図されている。つまり、この特に好都合な形態では、電気機械に対して対称に配置されたそれぞれ2つの圧縮機ホイールを備えた2つの流体圧縮機が、シーケンシャル・ターボ過給の様式で直列に相前後して接続されている。この構成は、この発案の非常に好適な一形態によれば特に等圧で動作し、これにより、効率的に、かつ既に圧縮された空気を抜く必要がなく、全ての動作点または少なくとも大部分の必要な動作点で両方の燃料電池システムへの良好な空気供給が達成される。この場合、電気機械の一方の側の圧縮機ホイールが2段式のシステムとして一方の燃料電池システムに供給し、電気機械の他方の側の圧縮機ホイールが他方の燃料電池システムの空気供給を担う。
【0010】
燃料電池システムごとに2つの特に等圧で動作する圧縮機段による改良された通常運用だけでなく、この構成は、後ほどさらにより詳しく説明する方法では、例えば、排ガス戻し管、および加湿等を、一方の段の前方にも、もう一方の段の前方にも、したがって両方の段の間に配置できるので、特に、高い柔軟性も可能になる。この場合、第2の段は、第1の段が停止している場合に、例えば、特に後ほどさらにより詳しく説明する役割を担い得ることにより、例えば排ガスを再循環等させることで燃料電池設備の両方の燃料電池システムの原則的な機能性および寿命を良好に保つ。
【0011】
本発明による燃料電池設備の極めて好都合なさらなる一形態によれば、燃料電池システムの燃料電池積層体が直列に接続されている。燃料電池システムのこの電気的な統合は、本発明による燃料電池設備の非常に好都合な一展開によれば、燃料電池システムの各々が2つの燃料電池積層体を有し、これらの燃料電池積層体としてもまた直列に接続されていることにより、パワーエレクトロニクス技術の高価な素子の省略を可能にする。つまり、2つの燃料電池システムにおける例えば4つの燃料電池積層体の直列接続により、比較的高い電圧を得ることができるので、両方の並列する燃料電池システムの電圧を、従来技術で一般的であるように相応に昇圧するのには、出力分配のためのシンプルな1つの共通のユニット、いわゆるパワー・ディストリビューション・ユニット(PDU)で十分であり、高価なガルバニック絶縁型DC/DC変換器は必ずしも必要ない。このDC/DC変換器の省略は、構造空間および費用を節減する。また冷却システムへのこのパワーエレクトロニクス機器の接続を省略でき、これも構造空間および複雑さに関する決定的な利点であり得る。それだけでなくあらゆるDC/DC変換器は、原理上の制約により、やって来る電圧をチョッパ制御することで電圧を相応に変換または調節し得る。これは確かに実際には高い周波数で行われるが、それでもこのようなチョッパ制御された電圧は、上記の直列接続によって達成され得るような一続きの連続的な電圧より、直流構成部品にとって高い負荷を常に意味する。
【0012】
この種の燃料電池設備では2倍存在しなければならず、それに応じて高価で複雑であり、多くのスペースを必要とするパワーエレクトロニクス技術の複雑な素子の省略は、燃料電池積層体の先述の電気直列接続の場合、これらの燃料電池積層体が、その際一定の燃料電池電流により動作できることでも可能になる。この場合、化学量論だけにより、必要な動作点に対応して電圧に影響を及ぼすことができる。このために、空気搬送装置の2段式の空気供給を介し、空気量の増加によって酸素含有量を相応に高めることができる。それだけでなくさらに、カソード側で排ガスを戻すことが可能で、かつ下でさらにより詳しく説明するように有利な一展開に基づいてカソード側から酸素を積極的に吸い出すことも可能であれば、化学量論の変動可能性に大きな広がりが生じる。これで実際の運用には完全に事足りるので、両方の燃料電池システムの先述のパワーエレクトロニクス機器を、先述の非常にシンプルな共通のPDUに取り替えることができる。
【0013】
この場合、燃料電池積層体の少なくとも1つ、特に燃料電池システムの一方の燃料電池積層体が、フリーホイール・ダイオードを1つまたは複数の燃料電池積層体に並列に備えていることで、燃料電池システムの一方が故障した場合にも、この場合には電圧は下がるが、動作が可能であり、したがって例えばこのような燃料電池設備を備えたトラックは、燃料電池設備を相応に点検および/または整備するべく例えば工場にまたは自律運転中にハブに向かうための、少なくとももう1つの緊急機能を提供することができる。
【0014】
本発明による燃料電池設備の非常に有利な一展開では、各々の燃料電池システムの構成が、未使用の燃料、特に水素を再循環させる機能を有するいわゆるアノード回路を有することが企図されていてもよい。水素は、1つの燃料電池積層体の、または燃料電池システムの各々において電気的に直列に接続された2つの燃料電池積層体のアノード室の周囲を再循環させられ、すなわちアノード室の出口から入口へ戻される。このために、燃料電池システムごとに2つの燃料電池積層体の場合、これらの燃料電池積層体は流体的に並列に接続される。このアノード回路を介し、大抵の動作状況では、それ自体は公知の方法で排ガスが新たな水素と混ざり合って再びアノード室に導かれる。また、燃料電池システムの各々が、カソード・バイパス、すなわち例えばカソードに対して並列に形成されている配管を含む。
【0015】
さて、本発明による燃料電池設備の非常に有利なこの展開では、このカソード・バイパスは、給気管における弁装置の前方または弁装置の領域において給気管から分岐しており、さらなる弁装置の後方またはさらなる弁装置の領域において排気管に合流している。この場合、この全ては、システム側において1つまたは複数の燃料電池積層体のカソード室の周囲に構成されていてもよい。それはしかし、また全体的または部分的に燃料電池積層体および/またはそのハウジングと一体化されていてもよい。1つの燃料電池積層体のカソード室または両方の電気的に直列に接続された燃料電池積層体の流体的には並列に接続されたカソード室を、以下では簡略化のため「カソード室」としか呼ばない。これは「アノード室の場合も同様に」行われる。
【0016】
説明した弁装置によって、カソード室を隔絶することができ、本来カソード室へ流れてそこを流通する空気をカソード・バイパスを通して導くことができる。これらの両方の動作状態の混合形式も考えられ、可能であり、しばしば合理的でもある。この場合、カソード室の周囲を流れる空気によって駆動されるガス噴射ポンプがカソード・バイパスに配置されている。つまり、ガス噴射ポンプは、空気がカソード室の周囲を巡って導かれる場合に、推進ジェットとしてのこの空気によって駆動される。ガス噴射ポンプは、吸気側がアノード室ともカソード室ともそれぞれ切替可能に接続されている。それによって、ガスおよび場合によっては液体を、カソード室の体積からと同様にアノード室の体積またはアノード回路からも吸い出すことができる。理想的な場合には、吸い出しがその際に比較的均等に行われることによって、カソード室とアノード室との間の過大な圧力差を回避すると共に膜の損傷を防ぐ。ガス噴射ポンプを備えたカソード・バイパスを介して、アノード室からもカソード室からもそれぞれ選択的または共にガスを吸い出せる可能性によって、多数の新たな適用可能性がもたらされる。
【0017】
それぞれの燃料電池システムの構造的な構成に関して、発案の非常に有利な一形態によれば、アノード回路において、送風機が再循環搬送機として排気管における排気タービンによって駆動されるということがさらに企図されていてもよい。このように、燃料電池設備のそれぞれの燃料電池システムでは、排気中のエネルギーを利用することができる。この場合、多くの従来の燃料電池システムの場合と異なり、このエネルギーは、電気ターボチャージャにおいて給気の圧縮を支援するために利用されるのではなく、アノード回路においてアノード排ガスを再循環させるために利用されるべきである。
【0018】
また、本発明による燃料電池設備の特に好都合な一形態では、燃料電池システムの各々において、特に一元または二元物質ノズルの形態で形成されている少なくとも1つの加湿器が、給気において、第2の圧縮機段の前方および/または後方に配置されていることが企図されている。すなわち加湿器は一元または二元物質ノズルの形でシンプルに形成されていてもよい。この場合、この加湿器は給気において第2の圧縮機段の前方および/または後方に配置されていてもよい。これによって、注入された水、例えば二元物質ノズルからの細かく霧化された水により圧縮も対応して湿潤となり、二元物質ノズルにおいて、本来の水ノズルの周囲を流れる空気によって霧化される。この場合、この霧状の水は、圧縮時に高温になる空気の冷却を促進し、その際に空気中で蒸発するので、この空気が理想的に加湿される。特に対応する加湿器の電気駆動の場合には、燃料電池の動作から独立して加湿を行うことができる。これは、この構成によって省略することができる、はるかにもっと複雑かつ大型かつ高価なガス/ガス加湿器に対するさらなる非常に決定的な利点である。
【0019】
本発明による燃料電池設備のさらなる有利な形態は、以下で図面を参照しながらより詳しく示される実施例からも明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】唯一の添付図面は、ここでは、本発明による燃料電池設備の概略図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面に描画されている燃料電池設備1は、1つの共通の空気搬送装置2を含んでおり、この空気搬送装置2は、ここでは2段に相次いで接続された2つの流体圧縮機3、4の形で形成されている。両方の流体圧縮機3、4の各々が、電気駆動機5、6ならびにそれぞれの電気駆動機5、6と一緒にそれぞれ共通の軸7上に配置された2つの象徴的に図示されている一方のここでは左側の圧縮機ホイール8、9およびもう一方のここでは右側の圧縮機ホイール10、11を含んでいる。吸入空気は、ここに描画されている実施例では、共通の空気フィルタ12を介して第1の段の圧縮機ホイール9、11に至る。空気フィルタ12は、例えば活性炭フィルタとして構成されるかまたは特に活性炭フィルタを含むことによって、燃料電池設備を粒子および粉塵からだけでなく、給気中の望ましくない化学的負荷からも保護することができる。
【0022】
両方の流体圧縮機3、4は、例えば磁力によって支持されていてもよい。流体圧縮機3、4は2段において、つまりその両サイドの各々で直列に相前後して接続されており、等圧で動作する。この構成のうち圧縮機ホイール8、9を有する右側は第1の燃料電池システム13に空気を供給する。圧縮機ホイール10、11を有するもう一方の側は、図面のもう一方の側で同一に構成された燃料電池システム14に供給する。この場合、これら両方の燃料電池システム13、14の各々が2つの燃料電池積層体15、16および17、18を含んでおり、これらの燃料電池積層体は、流体的には、つまり空気および水素の供給に関しては、燃料電池システム13、14の各々の中で互いに並列に接続されており、例えば水素を1つの共通の、しかしここでは重複して描画されてそれぞれに19が付されている水素源から受け取る。この水素源は、特に、多数の圧力ガス貯蔵装置、クライオ貯蔵装置、金属水素化物貯蔵装置、または原理的にはまたオンボード水素生成設備から成る構成として形成することができる。
【0023】
21が付された例示的な、ここでは燃料電池設備1のハイブリッド化のためのバッテリー設備への、概略的に示唆された電気接続によって示唆されているように、電気的には、一方の燃料電池システム13のそれぞれの燃料電池積層体15、16およびもう一方の燃料電池システム14の燃料電池積層体17、18は全てが直列に接続されている。バッテリー電圧が比較的高い場合に燃料電池積層体15、16および17、18へと流れていってそこで電気分解を引き起こすかもしれない電流は、逆流防止ダイオード20によって阻止される。燃料電池システム13、14の少なくとも1つ、しかし好適には両方が、直列に接続された燃料電池積層体15、16および17、18に並列に、22が付されたそれぞれ1つのフリーホイール・ダイオードを備えている。これにより、燃料電池システム13、14の一方を、その故障の場合に緊急動作のためにまたぐことができる。
【0024】
以下では、燃料電池システム14同様にここでは純粋に例示的に、かつ簡略化して描画されている燃料電池システム13の構成をより詳しく取り上げる。これに関し両方の燃料電池システム13、14は、互いに対して同一に形成されており、ここでは鏡面対称に描画されており、両方の燃料電池システム13、14は、カソード側およびアノード側で各々の周辺部品および構成部品、例えば水分離器、アノード回路、カソード回路、およびアノード再循環送風機等を利用している。これらの燃料電池システム13、14は、以下の説明でさらにより詳しく取り上げる1つの共通の水供給システム23を備えることができる。
【0025】
空気搬送装置2において、両方の段の圧縮機ホイール8、10および9、11は対称に構成されており、その間には駆動部としてのそれぞれの電気機械5、6がそれぞれ同じ軸7上で存在している。これによって、それぞれ共通の軸7に軸方向に作用する力が最小化される。これは、一方では摩擦出力損失を低減する一助となり、他方ではスラスト軸受のシンプルで効率的な形態を可能にする。空気は、第1の流体圧縮機3の圧縮機ホイール8、10により、1つの共通の吸引路を介してまたはこれに対して任意的に2つの別々の吸引路を介しても、空気フィルタ12に通して吸引される。
【0026】
圧縮機ホイール8および10からは、圧縮された空気がそれぞれ1つのシーケンシャル・ターボ過給管24、25を介して第2の流体圧縮機4の圧縮機ホイール9および11に至る。そこからは、今ではさらなる程度まで圧縮された給気が、給気管26、27を介して燃料電池システム13、14に至る。つまりこれは、シーケンシャル・ターボ過給である。両方の流体圧縮機3、4は特に等圧で働く。追加的に、それぞれのシーケンシャル・ターボ過給管24、25におけるそれぞれ1つの弁29、30を備えたバイパス管28が設けられており、このバイパス管28によって原理的には、圧縮された空気が段の間で方向転換することができる。
【0027】
以下の説明は、一点鎖線による分離線の右側に描画された燃料電池システム14に基づいてしか行わないので、もう一方の燃料電池システム13でも同一に存在する構成要素であっても、燃料電池システム14の領域でしか符号を付していない。
【0028】
燃料電池システム14は、通常は単セルの積層体である両方の燃料電池積層体17、18を含んでいる。燃料電池積層体17、18は、電気的には直列に、流体的には並列に接続されている。これは、もう一方の燃料電池システム13の燃料電池積層体15、16にも同様に当てはまる。以下に説明する構成部品とは異なり、燃料電池積層体17、18には、電気接続の上記の説明に基づいて、そのための符号も付されている。両方の燃料電池積層体17、18は、それぞれ1つのアノード室31および1つのカソード室32を含んでいる。これらは、両方の燃料電池積層体17、18で同じ符号が付されており、流体的な並列接続によってあたかもそれぞれ1つのアノード室31および1つのカソード室32のように作用する。したがって以下でも、仮にそれぞれ両方をそれによって意味しているとしても、常にアノード室31またはカソード室32についてのみ言及される。
【0029】
カソード室32には、2段式の空気搬送装置2を介して給気管27を通して空気が供給される。排気は排気管33を介して34が付された弁装置に至る。この弁装置34は排気または排ガス戻し弁34とも呼ぶことができる。選択的に、この弁装置34を介して、排気を排気管33から全体的または部分的に排気戻し管35を通してバイパス管28に、そしてそこからシーケンシャル・ターボ過給管24、25に戻すか、または36が付された排気管の部分を通して、後ほどさらにより詳しく説明する排気タービン37に導くことができる。
【0030】
アノード室31には、水素貯蔵装置19からの水素が供給される。この水素は圧力制御および注入装置38を介してアノード室31に至る。水分離器40がそこに配置されていてもよい、39が付された再循環管を備えたアノード回路を介して、アノード室31の出口からの排ガスが次にその入口に戻り、大抵の動作状態では、新たな水素と混ざり合ってアノード室31に流れる。再循環管39には、それ自体は公知の方法で、ガス噴射ポンプ(図示せず)の代替として、またはこれを補完するように、再循環送風機41が配置されていてもよい。この場合、水分離器40には、またはまた代替的に再循環管39の別の領域には、いわゆる吹出弁またはパージ弁43もしくはパージ/ドレン弁を備えた吹出管42が配置されており、この吹出管42を介して、例えば時間に応じて、再循環管39の水素濃度に応じて、またはまた他のパラメータに応じて、再循環管39からのガスが場合によっては水とともに水分離器40から排出される。
【0031】
燃料電池システム14のこの構成では、弁装置34が対応する位置にある状態では、排ガス戻し管35を介して湿潤な排気を全体的または部分的に戻すことによって、燃料電池積層体17、18のカソード室32への給気管27における給気の加湿を支援することが可能になる。これによって、後ほどさらにより詳しく説明する液体水システム23の使用の代替として、または特にこれを補完するように従来のガス/ガス加湿器を省略し得ることに貢献することができる。
【0032】
燃料電池システム14からの圧力エネルギーが弱められて空気圧縮機の駆動を支援する機能を追加的に有する従来の電気ターボチャージャの場合とは異なり、ここではこの圧力を空気搬送装置2のために利用することができない。通常設けられている再循環送風機41の電気駆動部の代わりに、ここでは、カソード室32からの排気が排気管33の部分36に配置された排気タービン37を介して流れる。この排気タービン37は再循環送風機41と、出力を伝達するように連結されており、それがここでは共通の軸の形で示唆されている。これによって、カソード室32の排気に含まれるエネルギーを介して再循環送風機41を駆動することによって、このエネルギーを再び取り戻し、それとともにシステム全体のエネルギー効率を高めることが可能になる。この場合、排気タービン37と再循環送風機41との間の連結が磁力によって行われれば特に好都合である。それによって、一方では水素または水素を含むガス、他方では空気を導いているこれら両方の体積を、互いに対して容易に密封することができる。これは図面では軸の領域の両方の線によって示唆されている。
【0033】
ここに示されている燃料電池システム14の構成にとって有利であるのは、給気管27においても排気管33においても、弁装置44が流れ方向においてカソード室32の前方に、弁装置45が流れ方向においてカソード室32の後方に配置されており、しかもここではそれぞれがカソード室32に比較的近接して配置されていることである。これらの弁装置44、45は好適には、ここに描画されているように3/2方向弁として形成することができる。ただし、基本的にはこれらの弁は、給気管27にも排気管33にも配置されており、またカソード・バイパス46にも配置され得る独立型の弁装置によっても実現することができる。基本的に、大事なことは、弁装置44、45を介してカソード・バイパス46が切替可能となり、しかもカソード室32が閉鎖された状態またはカソード室32を含む体積が閉鎖された状態において切替可能となることである。カソード・バイパス46には、純粋なシステム・バイパスとは異なり、例えばベンチュリ管の様式で形成することができるガス噴射ポンプ47が設けられている。しかし、負圧効果および/または運動量交換によって、カソード室32の周囲を流れる空気から推進ガス流としてガスを吸入できる限り、他のあらゆる種類のガス噴射ポンプ、または噴射装置もしくはジェット・ポンプも同様に考えられる。そのために、ガス噴射ポンプ47は吸気側が吹出管42と接続されており、この吹出管42は、パージ弁43を介して切り替えることによって、再循環管39とガス噴射ポンプ47とを接続することができる。それによって、液体および特にガスをアノード回路から、ひいてはアノード室31からも吸い出すことができる。アノード回路はそれ以外の場合は密閉されるように形成されており、水素供給が停止すると閉鎖された体積を形成するので、これによってアノード回路に負圧を生じさせることができるが、これは後ほどさらに説明する理由から非常に好都合である。
【0034】
また、ガス噴射ポンプ47は吸気側がカソード吸気管48とそこに配置されたカソード吸気弁49を介して、カソード室32と、または弁装置44、45の間に位置するカソード室32を含む体積と接続されている。この場合、カソード吸気管48は、カソード室32の前方にも後方にも、すなわち給気管27または排気管33に合流するように配置することができる。原則的には、燃料電池積層体17、18に直接接続することも考えられ得るが、この接続は、対応する配管27、33からの分岐より技術的にはるかに複雑である。ここでも、ガス噴射ポンプ47を通してカソード・バイパス46に流通している間にカソード吸気弁49を開放することによってカソード室32からガスを吸い出すことができる。その結果、弁装置44、45が閉鎖されると、カソード室32においても負圧を生成することができる。これについても後ほど特に有利な利用に関してさらにより詳しく説明する。
【0035】
排気管33のうち36が付された部分にあるタービン37によって駆動される再循環送風機41は、必要に応じてタービン・バイパス50を介して迂回することもできる。タービン・バイパス50は絞り箇所51を有している。ここでもまた3/2方向弁として形成されている弁装置52を介し、排気が排気タービン37を迂回することができ、その結果、再循環送風機41は駆動されない。逆の場合、すなわち燃料電池システム14の燃料電池17、18に空気が供給されていないときに再循環送風機41を駆動しなければならない場合のために、さらなる弁装置53が設けられており、弁装置53は配管54を介して排気管33の一部分36と接続しており、こうして排気タービン37の領域に空気を直接注入することができる。つまり配管54は「古典的な」システム・バイパスを形成している。
【0036】
既に述べた液体水システム23は好適には、燃料電池システム14から回収される水で満たされ得る。通常、燃料電池システム14は、再循環管39における水分離器40および排気管33の領域におけるさらなる水分離器55を、ここでは可能な限り排気タービン37の前方に備えている。この場合、ここに描画されている燃料電池システム14の実施例では、水分離器40の水がガス噴射ポンプ47およびカソード・バイパス46を介して同様に水分離器55に至る。この代替として、水分離器40から例えば水分離器55に、または直接液体水システム23の水タンク57に至る並列する配管も考えられ得るが、その場合、水タンク57には燃料電池システム14および同様に燃料電池システム13の全ての水分離器40、55の水の全体が集まる。これに関し、描画されている実施例では、水分離器55から出ており56が付されている水管が描画されており、この水管56は、液体水システム23の領域で再び図面に登場しており、57が付された水タンクに合流している。水タンク57の熱交換器58によって示唆されているように、例えば電気加熱を介して水に熱を送ることができる。この熱は、特にフリーホイール・ダイオード22によって、つまりその冷却によって作り出すことができ、ここでは描画されていないさらなるパワーエレクトロニクス構成部品、例えば両方の燃料電池システム13、14の燃料電池積層体15、16、17、18のための共通のPDUの補完的冷却によって作り出すことができる。
【0037】
水タンク57に貯蔵された水の温度は理想的な場合に約80℃なので、水タンク57は水タンク57の不要な急速な冷却を防止するために不図示の断熱材を備えていることが好適である。液体水システム23のここで描画されている実施例では、断熱された水タンク57に、60が付された水処理部が続いており、この水処理部60は対応する水フィルタおよびイオン交換体を有することができる。両方の燃料電池システム13、14から集められた液体水はその後、燃料電池積層体15、16、17、18へと流れる給気の加湿に用いられる。この説明もまた燃料電池システム14の側でしか行わないが、燃料電池システム13でも同様に理解されるべきである。例えば、コモン・レールの様式で圧力水管として形成することができ、水タンク57からの水が水ポンプ59を介して供給される配管61を経て、水が2つの分岐管62、63に供給され、これらの分岐管62、63はそれぞれ64、65が付された弁を介して切替可能に、水をシーケンシャル・ターボ過給管24における加湿器67に、および給気管27における加湿器68に、つまり第2の流体圧縮機4の後方に搬送する。
【0038】
加湿器67、68の各々は、好適には一元物質ノズルまたは二元物質ノズルによって水を霧化する単純な加湿器として形成されている。この加湿器は、例えば電気エネルギーで、したがって燃料電池設備1の動作から独立して動作させることができ、加湿に関して制御することができる。それによって、ここで、動作時に排ガスを戻すことと併せて、複雑な従来のガス/ガス加湿器を不要とすることができる。この液体水システム23の構成は、燃焼機関の駆動部、特にガソリン噴射を伴う燃焼機関でも同様に使用されている。そのため、水ポンプ59、加熱可能な水タンク57、および加湿器67、68といった構成部品は、市場では十分に実証された部品として数多く存在しており、それに応じて安価に入手可能である。
【0039】
カソード・バイパス46と、そこに配置されてカソード室32に対して並列に流れる空気によって駆動され、カソード室32からもアノード室31からも切替可能に吸い出すことができるガス噴射ポンプ47とを備えたこのような燃料電池システム14によって、また燃料電池システム13によってももちろん同様に、これまでの燃料電池システムでは解決できなかった、または同程度には解決できなかった、燃料電池積層体15、16、17、18の単セルの安全性、特に寿命に悪影響を与えていたいくつかの問題を解決することができるという多数の有利な可能性がここでもたらされる。
【0040】
既に言及したように、このような燃料電池システム14はここで運用管理において特別な利点を可能にする。排ガス戻し弁34が相応に調節された状態で、第2の流体圧縮機4の動作時に、その圧縮機ホイール11を利用してカソード室32周囲の排気の再循環を実現することができる。この場合、同時にこの再循環される空気の一部を、カソード・バイパス46を通して、したがってガス噴射ポンプ47を通して流すことができる。これによって、例えば、アノード室31および/またはカソード室32から、これらに対応してパージ弁43またはカソード吸気弁49が開放されているときに、ガスを吸い出すことが可能になる。この場合、様々な用途が考えられる。例えば、事故の場合に、ここでは不図示の好適には燃料電池設備1を備えた有用車両の衝突センサーがこの事故を検知すると、水素供給が停止され得る。流体圧縮機3、4が回転を終えると、残りの体積流量によって、次に、閉鎖されたカソード室32およびアノード回路、それとともにアノード室31からガスを吸い出すことができる。これによって、負荷が取り除かれて流量がゼロまで減らされた際に燃料電池積層体15、16、17、18の(無負荷)電圧を非常に迅速に低下させ、車両の乗客および救助隊に迫る危険を防ぐことができる。同様のことは、緊急停止スイッチまたは検知された燃料電池設備1自体の緊急事態の作動に対する反応にも当てはまる。定置型の燃料電池設備の場合にもこのことを同様に適用できる。
【0041】
さらに、燃料電池積層体15、16、17、18の酸素含有量を低下させることによって、セル電圧を制限することができる。このために、相応量の酸素が欠乏した排気が排ガス戻し弁34および排ガス戻し管35を介して戻され、その際にまた給気の加湿も支援する。この排気が十分でなければ、必要に応じて、給気の一部をカソード・バイパス46およびガス噴射ポンプ47を介して導き、カソード吸気弁49を開放することによってカソード室32から酸素を積極的に吸い出すこともできる。これによって、単セルの電圧がさらにより確実に制御可能に制限される。
【0042】
個々の燃料電池積層体15、16、17、18の化学量論に対し、あたかも下方へと影響を及ぼすこの可能性は、他方で、空気搬送装置2の両方の段によってひっくり返すこともできる。つまりそれにより、比較的多くの酸素を提供すること、したがって燃料電池積層体15、16、17、18の化学量論に対してもう一方の方向に影響を及ぼすことが可能である。つまり、燃料電池設備1で、空気供給を適合させるおよび空気供給に影響を及ぼすことにより、化学量論に大きな影響を及ぼせるというこの可能性は、両方の燃料電池システム13、14の燃料電池積層体15、16、17、18の、上で既に述べた並列の流体接続および電気的な直列接続と共に、複雑なパワーエレクトロニクス機器の省略を可能にする。むしろ、4つの上記の燃料電池積層体15、16、17、18では例えば980個の単セルから成っている燃料電池設備のこの構成の電圧を、化学量論だけによって制御することができる。これはつまり、燃料電池設備1の燃料電池積層体16、16、17、18からの電流が一定であれば、必要な動作点に対応して提供されるおよび必要とされる電圧を、化学量論だけによって調節できること意味する。この場合、酸素含有量の増加も、等圧で動作する両方の流体圧縮機3、4によって実現でき、酸素含有量の減少も、カソード室32の供給の際に、上で説明した排ガスを戻す措置によって、さらにはカソード室32から酸素を含むガスを積極的に吸い出すことによって実現できる。
【0043】
この場合、燃料電池システム14の運用の際の2つの非常に決定的な点は、凍結起動に備えること、いわゆるFSU(Freeze Start Up)準備に関している。アノード室31およびカソード室32の圧力を例えば100ミリバールまで低下可能であることによって、アノード室31においてもカソード室32においても存在する水を蒸発させてガス噴射ポンプ47を介して積極的に吸い出すことが可能である。これを例えば、燃料電池積層体17、18の25~35℃の温度範囲において行うことができる。この場合、温度がより高い場合とは異なり、膜の乾燥がかなりの程度まで防止されるので、燃料電池積層体17、18をその損傷を非常に抑制して乾かすことができる。後に温度が凍結点を下回れば、燃料電池積層体17、18が所望の、または許容可能な基準を超えて凍結することを防止することができる。温度が再び凍結点を超えれば、燃料電池積層体17、18を積極的に起動させずとも、積極的な加湿を行うことができる。というのは、液体水システム27を介して液体水を利用可能であり、この液体水を、例えば特に一元物質ノズルを備えた電動の加湿器として形成することができる加湿器68を介して容易かつ効率的に給気に加えることができるからである。既に言及したように、これを排ガス戻し弁34を介して循環させることによって、膜を一方では十分に湿らせておき、他方では常に凍結起動に備えておくことができる。
【0044】
起動の準備を行うためのこれまで一般的であった方策では、燃料電池システムの起動時にアノード室31において空気/水素の前面が防止される時間を可能な限り長くするようにしている。この前面は、水素がアノード室31から拡散されて空気が浸透されているときに常に生じる。ここで新たな水素が追加的に添加されれば、アノードを相応に損傷させて燃料電池積層体17、18の寿命に極めて不利で重大な影響を与える、この懸念される前面が生じる。ここに描画されている変形実施例における燃料電池システム14は、ここで、このようなエア/エア起動を防止するためのいくつかの可能性を有している。
【0045】
第1の可能性は、カソード室32を相応に真空にすることができることにある。カソード室32に酸素が存在していなければ、アノード側に酸素が存在しており起動時に流入する水素によってこの酸素が押しのけられるときにも、前面はその有害な作用を発揮することができない。このシンプルな可能性では、例えばカソードを継続的に無酸素状態に保つようにしてもよい。そのためには、通常システムにおいて生じる密封時に、例えば10時間毎等にカソード室32を新たに真空にする必要がある。このように繰り返し生じる真空化は、膜が乾燥する可能性があることから膜にとって比較的危険であるので、この手法は、温度が凍結点を上回っており、燃料電池設備1にある一定量の残留湿気がある場合にも安全で確実な起動が可能であるときに、特に上述の膜の加湿と並行して行うことができる。
【0046】
エア/エア起動を回避するための第2の可能性は、燃料電池システム14の停止中にアノード室31にも侵入していた空気を起動前にアノード室31から再び吸い出すこと、すなわちアノード室31を真空にすることにある。このために、空気が搬送され、カソード・バイパス46およびガス噴射ポンプ47を介して流れる。したがって、パージ弁43が開放されると、停止中にアノード室31に侵入していた空気を吸い出すことができる。これによって、起動時に水素が添加される前に、アノード室31において、最終的にはアノード回路においても、その体積中の酸素含有量を少なくとも大幅に減少させることが可能になる。これによっても、損傷を抑制した起動が実現され、燃料電池積層体17、18の寿命を延長することができる。
【0047】
第3の可能性は、窒素、または酸素が欠乏した空気、特に酸素含有量が0%の空気の生成を利用することによって損傷が非常に抑制された起動を実現する。このために、カソード室32周囲の循環が利用される。アノード回路に添加された水素またはそこにまだ存在している残留水素は、パージ弁43が開放されるとガス噴射ポンプ47を介して吸引され、こうして酸素を含んだ空気とともにサイクルに至る。このサイクルは、第2の流体圧縮機4の動作によって維持される。空気は次に、カソード室32周囲を循環するように流れる。この場合、空気は部分的にカソード室32および部分的にカソード・バイパス46を通って流れる。その後、この空気は排気管33および排ガス戻し弁34ならびに排ガス戻し管35を介してシーケンシャル・ターボ過給管24に戻り、そこから圧縮機ホイール11によって動かされて再び給気管27における弁装置44へ戻るように流れる。この運用において水素と空気とが混ざり合うことによって、ここで、例えばアノード室31の触媒において、または、例えばカソード・バイパス46においてガス噴射ポンプ47の後方に配置することができる、このために特別に設けられた不図示の触媒の領域において、水素および酸素の反応が起こる。追加的な触媒の場合、窒素を生成するためにカソード室32に常に流通させなくてもよい。これによって、膜の乾燥が緩和され、その損傷が抑制される。ただし、上記で実施されているように、必要に応じて膜を追加的に湿らせることも可能である。
【0048】
エア/エア起動を回避するための第4の可能性は、ある意味では第2および第3の可能性の組み合わせである。これには、水素をカソード側に添加可能にするための水素添加管が追加的に必要である。この水素添加管は、パージ管42と同様に、またはパージ管42の代替として、カソード・バイパス46におけるガス噴射ポンプ47に接続されている。これによって、水素を予めアノード室31を通り抜けるように流す必要なく、この水素を水素添加管を介して燃料電池システム14のカソード側に添加することが可能になる。このように、カソード室32周囲の回路中のガス噴射ポンプ47の下流の既に上述した触媒によって、空気中の酸素を使用することができる。この空気は次に、弁装置44、45および排ガス戻し弁34によって、圧縮機ホイール11の動作を通してこの回路で自給自足的に再循環される。これは、触媒によって、および水素添加管を介して回路に至った水素によって、元々の空気中の酸素含有量がガス噴射ポンプ47の混合箇所の領域において1体積パーセント未満、特に約0体積パーセントまで低下するまで行われる。したがって、こうして再循環されたガスはほぼ酸素を含んでおらず、基本的に窒素から構成されている。
【0049】
圧縮機ホイール11を介した再循環によってこのガスが同時に暖められ、その結果、触媒での触媒反応が促進されて酸素および水素が効率的に変換される。このためには、約+60~+80℃の温度範囲が理想的である。これによって、触媒転換を非常に良好に制御し、閉鎖された体積内の望ましくない窒素酸化物を回避することができる。この場合、副産物としてのこれらの窒素酸化物は、後にその排出が生じることから望ましくないが、燃料電池積層体17、18を寿命に関して損傷を抑制するように取り扱うことにおいてはそれ以上支障とならないであろう。
【0050】
しばらくして、十分な水素が利用可能であれば、または相応に追加的に添加されれば、酸素が全て使用される。つまり、今では回路全体に酸素含有量が0%まで低下したガスが存在している。この場合、方法に悪影響を与えない二酸化炭素およびいくつかの希ガスを度外視すれば、このガスは基本的に窒素である。回路中に窒素が存在するようになった後、パージ弁43を開放でき、第2の流体圧縮機4を停止させることができる。カソード吸気弁48および/または弁装置44、45が開放される。すると、窒素がパージ管42およびカソード吸気管48および/または給気管27を介して燃料電池積層体17、18に戻るように流れ、その結果、燃料電池積層体17、18が窒素で満たされる。これによって、次回の起動プロセスの際に、エア/エア起動の有害な作用を生じさせることなく、損傷を極めて抑制して起動させることが可能になる。
【0051】
第5の可能性は、水素をシステムに保持するためのこれまで一般的であった方法と組み合わせて、燃料電池システム14の構成においても理想的に使用することができる。この場合、理想的には、周囲の雰囲気中の空気圧に対して低い静的正圧を適用して、アノード室31およびカソード室32の両方の体積が水素で満たされて低い正圧下に保持されることによって、100パーセントに近い水素濃度によるこれらの体積の完全な不活性化が実現される。ここで通常起動の前に、カソード室32に存在する残留水素をガス噴射ポンプ47およびその動作を介して、既に搬送されているもののカソード室32には流入していない給気によって再び除去することができる。これは、燃料電池システム14またはその燃料電池積層体17、18を起動可能にするために、カソード室32の方向に弁装置44を開放し、それによってカソード室32に酸素または酸素を含む空気が侵入する前に、カソード室32から水素を完全に吸い出すことによって行われる。
【0052】
それでもなお時々アノード室31に酸素を与えることによってそこに蓄積したCO中毒を酸化で解消するために、カソード・バイパス46におけるガス噴射ポンプ47を使用して燃料電池積層体17、18を再び真空にすることができる。パージ弁43が開放されると、空気圧縮機が停止した状態で、空気または酸素を含むガスがアノード室31の領域に到達する。この場合原則的には、一酸化炭素から二酸化炭素への酸化は消極的に考えられる。より効率的には、例えば、空気がアノード回路にあふれた後、パージ弁43をまず一度閉鎖した状態で空気搬送装置2またはその段の1つを再び作動させることによって、再循環搬送機31が作動させられる。これによって、ここに描画されている実施例では、送風機の形の再循環搬送機41が排気タービン37を介して駆動される。そうすれば、触媒の回復が短時間、例えば1分間より短い時間で完了する。そして、酸素を含むガスを、パージ弁43を再び開放することによってアノード回路から再び吸い出すことができ、例えば上述の方法でシステムを窒素で満たすことによって次回の起動に備えることができる。
【0053】
この全ては、燃料電池積層体15、16を備えたもう一方の燃料電池システム13に同様に当てはまり、好適には常に両方の燃料電池システム13、14において同時に実施される。