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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】パルス渦電流システム用受信機
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/00 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
G01B7/00 101F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023579733
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 EP2022067770
(87)【国際公開番号】W WO2023280640
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】21184293.5
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505056845
【氏名又は名称】アーベーベー・シュバイツ・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】ABB Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】Bruggerstrasse 66, 5400 Baden, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ズラタンスキ、マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ダファミ、パルハム
(72)【発明者】
【氏名】ソーベル、ヤール
(72)【発明者】
【氏名】ビーク、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン、ヤン
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-500215(JP,A)
【文献】特表2003-503683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0168016(US,A1)
【文献】国際公開第2013/047521(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料の物体(1)に誘導される渦電流により発生される変化電磁場を検知するように構成されている、パルス渦電流PECシステム(10)用の受信機(3)であって、前記受信機が、
導電性の受信機コイル(20)と、
高電圧受信機チャネルHVRC(23)と、
低電圧受信機チャネルLVRC(22)と、
前記受信機コイル(20)と前記LVRC(22)との間に接続されている過電圧保護装置OVP(21)と、を備え、前記OVPが、
バイアス回路(B)と、
前記受信機コイル(20)と前記バイアス回路(B)との間に接続されているダイオード(D)と、
前記バイアス回路(B)と前記LVRC(22)との間に接続されているコンデンサ(C)と、を備え、
前記バイアス回路(B)が、前記受信機コイル(20)に誘起される電圧に依存して前記ダイオード(D)を順バイアス又は逆バイアスするためにバイアス閾値をもたらすように構成されており、
前記コンデンサ(C)が、前記LVRCが前記バイアス回路(B)のバイアス電圧又は電流を捕捉することを防止するように構成されている、受信機(3)。
【請求項2】
前記ダイオード(D)が無線周波数RFダイオードである、請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記ダイオード(D)が、順バイアス時、例えば1Ωなどの0.5~1.5Ωの範囲内で、最大2Ωの直列インピーダンスの絶対値を有する、請求項1に記載の受信機。
【請求項4】
前記ダイオード(D)が、順バイアス時、前記LVRC(22)の入力インピーダンスの絶対値の最大10分の1の直列インピーダンスの絶対値を有する、請求項1に記載の受信機。
【請求項5】
前記バイアス回路(B)が、前記ダイオード(D)が直列インピーダンスの前記絶対値を有するようなバイアス閾値をもたらすように構成されている、請求項3又は4に記載の受信機。
【請求項6】
PECシステム(10)であって、
電磁場内に配置された導電性材料の物体(1)に渦電流を誘導する変化電磁場を発生するように構成されている送信機(2)と、
請求項1又は2に記載の受信機(3)と、を備える、PECシステム(10)。
【請求項7】
請求項6に記載のPECシステム(10)により前記物体(1)の厚さ(d)を決定する方法であって、前記方法が、
前記送信機(2)により、前記物体(1)に渦電流を誘導すること(S1)と、
前記受信機(3)により、誘導(S1)された前記渦電流により発生された前記変化電磁場により前記受信機コイル(20)に誘起された電圧を時間の関数として測定すること(S2)と、ここで、
前記バイアス回路(B)によりもたらされたバイアス閾値(V)より大きい、前記受信機コイル(20)に誘起された誘起電圧について、前記OVP(21)は前記誘起電圧が前記LVRC(22)により捕捉されることを防止し、
前記バイアス閾値(V)より小さい、前記受信機コイル(20)に誘起された誘起電圧について、前記OVP(21)は前記誘起電圧が前記LVRCにより捕捉されることを許可するものであり、
前記電圧の測定(S2)に基づいて、前記物体(1)の厚さ(d)を決定すること(S3)と、を備える、方法。
【請求項8】
前記厚さ(d)が、0.5mm未満であり、例えば、0.4mmから0.2mmなどの0.5mmから0.1mmまでの範囲内である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ダイオード(D)が、順バイアス時、最大1V、例えば0.5~0.9Vの範囲内、の電圧降下を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記バイアス閾値(V)が、順バイアス時の前記ダイオード(D)の電圧降下より少なくとも20%大きい、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示は、電磁場内に配置された導電性材料の物体に渦電流を誘導する変化電磁場を発生するように構成されている送信機と、渦電流により発生された変化電磁場を検知するように構成されている受信機とを備える、パルス渦電流(PEC:Pulsed Eddy Current)システム用の受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]例えば米国特許5,059,902号に記載されているようなPECは、電気抵抗率、非鉄金属シートの厚さ、およびエッジ位置などの力学量の測定に応用されることに成功している。
【0003】
[0003]本方法は、送信機コイルのDC電流を使用して測定下でプレートに静磁場を生成することにより働く。磁場は、その後、電流を止めることで急激に取り除かれ、好適な負荷抵抗に磁気エネルギーを付与する。電流遮断から生じた第1のパルスが測定され、その積分はプレートとコイルとの間の距離を決定するために使用され得る。
【0004】
[0004]送信機コイルの電流が減衰した後、印加された磁場の急激な変化によりプレートに誘導される渦電流の測定を開始することが可能になる。プレートにおける渦電流の急激な減衰を要因とする磁場の変化は、プレートの抵抗率と厚さとを推定するために測定および分析され得る小信号を誘起することができる。
【0005】
[0005]渦電流信号の測定は、渦電流減衰からのmV信号を測定するために専用設計された、個別の受信機コイルと個別の測定受信機チャネル(RC)とを使用して、通常行われる。送信機電流の遮断から生じる初期パルスは数百ボルトになることがあり、このため、渦電流測定チャネルは、一種の過電圧保護装置(OVP:Over Voltage Protection)をも含まねばならない。
【0006】
[0006]渦電流減衰の最初期部分は、厚さから独立しており、プレートの抵抗率の測定値を得るために使用され得る。後の部分は、シートの抵抗率を厚さで割ったものに依存する。抵抗率とシート抵抗とを計算した後、プレートの厚さが、例えば米国特許6,661,224号に記載されているように、推定され得る。
【発明の概要】
【0007】
[0007]送信機電流遮断から生じる初期パルスは数百ボルトになり得る一方で、渦電流減衰の後の部分は低電圧(LV)信号を生ずるmV範囲内にあるため、2つの受信チャネルが使用される。それらは低利得の高電圧受信チャネル(HVRC:High-Voltage Receiving Channel)および高利得の低電圧受信チャネル(LVRC:Low-Voltage Receiving Channel)であり、LVRCはOVPにより初期パルスから保護されている。受信機コイルからのパルスが測定されているとき、時間的に適正な時点において、LV信号をLVRCの入力に提示し(典型的には)十分な利得で増幅するために、OVP回路が阻止状態から通過状態に切り替えられる。
【0008】
[0008]OVP回路を単純なソリッドステート(solid-state)直列スイッチで実装することは、例えば厚さが少なくとも0.5mmあるプレートなどの比較的厚い物体の厚さの測定においては十分に機能する。残念ながら、物体の厚さが減少するにつれ、測定を行うことは次第に難しくなる。特に、
1)信号対雑音比が減少し、低雑音高分解能の受信機が必要となる。
【0009】
2)LV信号減衰が短くなり、抵抗率の情報を取得および抽出することが難しくなる。これにはコイルシステムとより大きい帯域幅を有する関連したフロントエンド(front-end)とが必要となる。
【0010】
3)OVP回路が、無視可能な切替トランジェント(switching transients)を伴って理想的なスイッチに可能な限り近似した挙動をする必要がある。切替トランジェントが長いとLV信号が隠れてしまう場合があり、抵抗率および厚さの情報をそこから抽出することが不可能になる。
【0011】
[0009]本発明の目的は、例えば0.5mm未満の厚さを有するより薄い物体の厚さの測定をも容易にするOVPを含む、改善されたPEC受信機を提供することである。
【0012】
[0010]本発明の一態様によれば、導電性材料の物体に誘導される渦電流により発生される変化電磁場を検知するように構成されている、パルス渦電流(PEC)システム用の受信機が提供される。受信機は、導電性の受信機コイルと、高電圧受信機チャネル(HVRC)と、低電圧受信機チャネル(LVRC)と、受信機コイルとLVRCとの間に接続された過電圧保護装置(OVP)とを備える。OVPは、バイアス回路Bと、受信機コイルとバイアス回路との間に接続されたダイオードDと、バイアス回路とLVRCとの間に接続されたコンデンサCとを備える。
【0013】
[0011]本発明の他の態様によれば、電磁場内に配置された導電性材料の物体に渦電流を誘導する変化電磁場を発生するように構成されている送信機と、本開示の受信機の一実施形態とを備える、PECシステムが提供される。
【0014】
[0012]本発明の他の態様によれば、本開示のPECシステムの一実施形態により物体の厚さを決定する方法が提供される。上記方法は、送信機により、渦電流を物体に誘導することを備える。上記方法は、受信機により、誘導された渦電流により発生された変化電磁場により受信機コイルに誘起された電圧を時間の関数として測定することも備え、ここで、バイアス回路によりもたらされるバイアス閾値より大きい受信機コイルに誘起された誘起電圧について、OVPは誘起電圧がLVRCにより捕捉されることを防止し、バイアス閾値より小さい受信機コイルに誘起された誘起電圧について、OVPは誘起電圧がLVRCにより捕捉されることを許可する。上記方法は、電圧の測定値に基づいて、物体の厚さを決定することも備える。
【0015】
[0013]本発明の他の態様によれば、コンピュータ実行可能コンポーネントが制御装置に備わる処理回路で実行されるとき、PECシステムの制御装置に本開示の方法の一実施形態を行わせるためのコンピュータ実行可能コンポーネントを備えるコンピュータプログラム製品が提供される。
【0016】
[0014]OVPは初期電圧スパイクからLVRCを保護するために使用され、LVRCが安定した方法で渦電流により誘起された低い電圧(mV範囲)を測定できるようにする。バイアス回路により、受信機コイルに誘起される低い電圧(バイアス閾値、例えばバイアス電圧、未満)に対して、ダイオードは順バイアスされ、したがってLVRCが導通し受信機コイルからの信号を検知し測定できるようにする一方で、より高い電圧(バイアス閾値超)に対して、ダイオードは逆バイアスされ、したがって誘起電圧を阻止する。バイアス回路によりもたらされるバイアス閾値を適切に選択することで、受信機コイルからの信号が好適な閾値未満であるときにのみダイオードが導通し、したがってLVRCをより高い信号から保護することが保証され得る。したがってOVPは切替トランジェントがないまたはごく僅かしかない状態で動作し、その結果トランジェントが、存在しないか、または標準的な半導体スイッチを使用するときより少なくとも大幅に小さくなる。ダイオードの順バイアス時の低い直列インピーダンスおよび逆バイアス時の高い直列インピーダンスは、本出願の要件のために、その阻止状態において理想的な開回路として挙動し、その導通状態において理想的な短絡回路として挙動することに近似するOVP回路に対応する。
【0017】
[0015]直流(DC)阻止コンデンサの機能は、DCでありしたがってコンデンサにより阻止される、例えばバイアス電圧またはバイアス電流などのバイアスを、LVDCが捕捉することを防止することである。
【0018】
[0016]任意の態様の任意の特徴は、適切である場合、他の任意の態様に適用されてもよいことに留意されたい。同様に、任意の態様の任意の利点が他の任意の態様に適用できる。同封される実施形態の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な開示内容、添付される従属請求項、および図面から明らかであろう。
【0019】
[0017]一般に、特許請求の範囲で使用される用語は全て、本明細書で別段に明示的に定義されない限りは、技術分野でのそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「1つ(a/an/the)の要素(element)、装置(apparatus)、構成要素(component)、手段(means)、ステップ(step)など」への言及は全て、別段に明示的に述べられていない限り、要素、装置、構成要素、手段、ステップなどの少なくとも1つの例を意味することとして公然と解釈されるべきである。本明細書に開示される任意の方法のステップは、明示的に述べられていない限り、開示される正確な順番通りに行われる必要はない。本開示の異なる特徴/構成要素への「第1の」「第2の」などの使用は、特徴/構成要素を他の類似した特徴/構成要素から区別することが単に意図され、特徴/構成要素に何らかの順番または階層を付与するものではない。
【0020】
[0018]添付図面を参照して、例として、実施形態が説明される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のPECシステムの実施形態の概略ブロック図。
図2】本発明の受信機の実施形態の概略回路図。
図3】本発明におけるLV受信機チェーンの実施形態の概略回路図。
図4】本発明におけるLV受信機チェーンの他の実施形態の概略回路図。
図5】本発明のいくつかの実施形態における制御装置の概略ブロック図。
図6】本発明のいくつかの実施形態における方法の概略フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[0019]次に、特定の実施形態が示される添付図面を参照して、以下により完全に実施形態が説明される。しかし、本開示の範囲内において、多数の異なる形態の他の実施形態が可能である。むしろ、本開示が徹底的で完全となり本開示の範囲を当業者に完全に伝達するように、例として、以下の実施形態が提供される。本明細書全体を通して、同様の番号は同様の要素を意味する。
【0023】
[0020]図1は、典型的にはアルミニウムなどの非鉄導電性材料のプレート(板金または条片とも呼ばれ得る)である、物体1の厚さdを測定するために配置されたPECシステム10の実施形態を示し、物体は第1(ここでは下)の側4aと第2(ここでは上)の側4bとを有する。図において、プレートの形態の物体1は、図の平面に垂直な長手方向軸を有する。
【0024】
[0021]PECシステム10は、送信機2と受信機3とを備える。図において、いくつかの実施形態において好まれるように、送信機2と受信機3の両方、それぞれ具体的にはそれらの送信機コイルと受信機コイルとは、物体1の同じ側に配置されている。しかし、他のいくつかの実施形態において、受信機コイルは送信機コイルに対して物体1の反対側に配置されていてもよい。
【0025】
[0022]PECシステム10は、例えば図で破線により示されるように、制御信号を介して送信機2と受信機3とを制御するための制御装置6を備えていてもよい。制御装置は個別のデバイスとして形成されていてもよく、または送信機および/もしくは受信機と部分的にもしくは完全に一体化していてもよい。制御装置6は、例えば、送信機および受信機から離隔して配置される中央制御デバイスと、送信機および/または受信機と一体化した分散制御デバイスとを備えていてもよい。
【0026】
[0023]図2は受信機3の実施形態を示す。受信機3は、送信機電流の遮断から生じた変化電磁場により、およびその後の物体1での渦電流の減衰により誘導されて、受信機電流が形成され得る、受信機コイル20を備える。受信機電流は、典型的には信号を(電圧に関わらず)常時受信するHVRC23と、予め決められた閾値より高い電圧を信号が有しているとき、OVP21によりその信号から保護されるLVRC22とを備えるRCへの信号としての出力である。OVP21は受信機コイル20とLVRC22との間に接続されている。信号に対して、物体1の特性を決定するためにHVRC23およびLVRC22により電圧測定が行われてもよい。LVRC中の比較的低い(mV範囲)電圧の測定を容易にするために増幅器がLVRCと接続されていてもよい。
【0027】
[0024]図3は受信機3のLV受信機チェーンの実施形態を示す。OVP21は受信機コイル20とLVRC22との間に接続されている。OVPは、少なくとも1つのバイアス回路Bと、受信機コイル20とバイアス回路Bとの間に接続された少なくとも1つのダイオードDと、バイアス回路BとLVRC22との間に接続された少なくとも1つのコンデンサCとを備える。図3の実施形態において、OVP21は、受信機コイル20の正極端子に接続されている正側回路と、受信機コイルの負極端子に接続されている負側回路とを備える。正側回路および負側回路の各々は、バイアス回路Bと、受信機コイル20とバイアス回路Bとの間に接続されたダイオードDと、バイアス回路BとLVRC22との間に接続されたコンデンサCとを備える。負側回路のダイオードDは正側回路のダイオードDに反平行であることに留意されたい。
【0028】
[0025]バイアス回路Bは、受信機コイル20に誘起される電圧に依存してダイオードDを順バイアスまたは逆バイアスするために、例えばバイアス電圧V(図3の例ではV+またはV-)またはバイアス電流により、バイアス閾値をもたらすように構成されている。バイアス閾値は、例えば、バイアス電圧V+またはV-の絶対値|V|に加え、ダイオードDにわたる任意の電圧降下の絶対値であってもよい。受信機コイル20に誘起された電圧の絶対値がバイアス閾値より大きいとき、ダイオードDは逆バイアスされ、その後OVP21は誘起電圧がLVRC22により捕捉されることを防止する。受信機コイル20に誘起された電圧の絶対値がバイアス閾値より小さいとき、ダイオードDは順バイアスされ、その後OVP21は誘起電圧がLVRC22により捕捉されることを許可する。典型的には、負側回路のバイアス回路Bによりもたらされたバイアス閾値は、正側回路のバイアス回路Bによりもたらされたバイアス閾値と同一であり、例えばバイアス電圧Vの絶対値である(ダイオードDの任意の電圧降下に対して場合により調節される)。
【0029】
[0026]図4は受信機3のLV受信機チェーンの他の実施形態を示す。この実施形態において、OVP21は受信機コイル20の1つの端子(正極または負極)にのみ接続されている。正側回路と負側回路の両方を有していないことを除き、図3の実施形態に関する検討は図4の実施形態とも関連する。
【0030】
[0027](図3もしくは図4または他の任意の実施形態に従う)OVP21の実施形態に関わらず、少なくとも1つのダイオードDは、好ましくは、その導通(順バイアス)状態と阻止(逆バイアス)状態との間の切り替えが極めて速く、逆も同様である。ダイオードDは、例えば無線周波数(RF:radio frequency)ダイオードであってもよい。
【0031】
[0028]本発明のいくつかの実施形態において、ダイオードDは、順バイアス時、理想的な短絡回路に近似して機能するために低い直列インピーダンスまたは抵抗を有し、例えば、1Ωなどの0.5~1.5Ωの範囲内で、例えば、最大2Ωの直列インピーダンスの絶対値を有する。同一の理由で、追加的にまたは代替的に、本発明のいくつかの実施形態において、ダイオードDは、順バイアス時、LVRC22の入力インピーダンスの絶対値の最大10分の1の直列インピーダンスの絶対値を有する。同様に、逆バイアス時に理想的な開回路に近似して機能するために、ダイオードDは、例えば500fFの、小型直列コンデンサとして主に挙動してもよい。いくつかの実施形態において、バイアス回路Bは、ダイオードDが直列インピーダンスの上記絶対値を有するようなバイアス閾値をもたらすように構成されている。追加的にまたは代替的に、バイアス回路Bは、1~3Vの範囲内の、バイアス電圧Vの手段によるバイアス閾値、例えばバイアス電圧の絶対値、をもたらすように構成されている。
【0032】
[0029]好ましくは、所望のバイアス閾値をもたらすためにバイアス電圧Vまたはバイアス電流の必要な絶対値を減らすべく、順バイアス時のダイオードDの電圧降下は、最大1V、例えば0.5~0.9Vの範囲内、などのように比較的低いべきである。本発明のいくつかの実施形態において、バイアス閾値は、順バイアス時のダイオードDの電圧降下より少なくとも20%(すなわち1.2倍)大きい。
【0033】
[0030]図5は本開示の制御装置6の実施形態を概略的に示す。制御装置6は処理回路61、例えば中央処理装置(CPU)、を備える。処理回路61は1つまたは複数のマイクロプロセッサ形態の処理装置を備えていてもよい。しかし、計算能力を有する他の好適なデバイス、例えば特定用途向け集積回路(ASIC:application specific integrated circuit)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、またはコンプレックスプログラマブルロジックデバイス(CPLD)など、が処理回路61に備えられていてもよい。処理回路61は、1つまたは複数の記憶装置、例えばメモリ、のデータストレージ62に保存された1つまたは複数のコンピュータプログラムまたはソフトウェア(SW)63を実行するように構成されている。記憶装置は、本明細書で論じられるように、コンピュータプログラム製品62を記憶装置に保存されるSW63と共にコンピュータ実行可能コンポーネントとして形成するコンピュータ可読手段とみなされ、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フラッシュメモリ、他のソリッドステートメモリ、もしくはハードディスク、またはそれらの組み合わせの形態であってもよい。処理回路61は、必要に応じて、ストレージ62にデータを保存するようにも構成されていてもよい。制御装置6は本開示の方法の一実施形態を行うように構成されていてもよい。
【0034】
[0031]図6は本開示の方法のいくつかの実施形態を示す。上記方法は、本開示のPECシステム10の実施形態により、物体1の厚さdを決定するためのものである。上記方法は、送信機2により、渦電流を物体1に誘導することS1を備える。そして、受信機3により、上記方法は誘導S1された渦電流により発生された変化電磁場により受信機コイル20に誘起された電圧を時間の関数として測定することS2を備える。バイアス回路Bによりもたらされた(例えばバイアス電圧Vにより表される)バイアス閾値より大きい、受信機コイル20に誘起された電圧(例えばその絶対値)について、OVP21は誘起電圧がLVRC22により捕捉されることを防止する(すなわちダイオードDが阻止する)。(例えばバイアス電圧Vにより表される)バイアス閾値より小さい、受信機コイル20に誘起された電圧(例えばその絶対値)について、OVP21は誘起電圧がLVRCにより捕捉されることを許可する(すなわちダイオードDが導通する)。その後、電圧の測定S2に基づいて、物体1の厚さdが決定S3される。
【0035】
[0032]本発明のいくつかの実施形態において、厚さdは0.5mm未満であり、例えば、0.4mmから0.2mmなどの0.5mmから0.1mmまでの範囲内である。本発明の実施形態はより厚い物体にも使用可能であり得るが、先行技術に対する本発明の利点は薄い物体1に対してより顕著である。本発明の実施形態は、少なくとも0.1mm程度に小さく、時にはさらに小さい、厚さdに対して好都合には使用され得る。
【0036】
[0033]本開示は主にいくつかの実施形態を参照して上記に説明されている。しかし、当業者によって容易に理解されるように、上記に開示される実施形態以外の他の実施形態が、添付の特許請求の範囲により定義される本開示の範囲内で同様に可能である。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[1] 導電性材料の物体(1)に誘導される渦電流により発生される変化電磁場を検知するように構成されている、パルス渦電流PECシステム(10)用の受信機(3)であって、前記受信機が、
導電性の受信機コイル(20)と、
高電圧受信機チャネルHVRC(23)と、
低電圧受信機チャネルLVRC(22)と、
前記受信機コイル(20)と前記LVRC(22)との間に接続されている過電圧保護装置OVP(21)と、を備え、前記OVPが、
バイアス回路(B)と、
前記受信機コイル(20)と前記バイアス回路(B)との間に接続されているダイオード(D)と、
前記バイアス回路(B)と前記LVRC(22)との間に接続されているコンデンサ(C)と、を備え、
前記バイアス回路(B)が、前記受信機コイル(20)に誘起される電圧に依存して前記ダイオード(D)を順バイアス又は逆バイアスするためにバイアス閾値をもたらすように構成されており、
前記コンデンサ(C)が、前記LVRCが前記バイアス回路(B)のバイアス電圧又は電流を捕捉することを防止するように構成されている、受信機(3)。
[2] 前記ダイオード(D)が無線周波数RFダイオードである、[1]に記載の受信機。
[3] 前記ダイオード(D)が、順バイアス時、例えば1Ωなどの0.5~1.5Ωの範囲内で、最大2Ωの直列インピーダンスの絶対値を有する、[1]又は[2]に記載の受信機。
[4] 前記ダイオード(D)が、順バイアス時、前記LVRC(22)の入力インピーダンスの絶対値の最大10分の1の直列インピーダンスの絶対値を有する、[1]から[3]のいずれか一項に記載の受信機。
[5] 前記バイアス回路(B)が、前記ダイオード(D)が直列インピーダンスの前記絶対値を有するようなバイアス閾値をもたらすように構成されている、[3]又は[4]に記載の受信機。
[6] PECシステム(10)であって、
電磁場内に配置された導電性材料の物体(1)に渦電流を誘導する変化電磁場を発生するように構成されている送信機(2)と、
[1]から[5]のいずれか一項に記載の受信機(3)と、を備える、PECシステム(10)。
[7] [6]に記載のPECシステム(10)により前記物体(1)の厚さ(d)を決定する方法であって、前記方法が、
前記送信機(2)により、前記物体(1)に渦電流を誘導すること(S1)と、
前記受信機(3)により、誘導(S1)された前記渦電流により発生された前記変化電磁場により前記受信機コイル(20)に誘起された電圧を時間の関数として測定すること(S2)と、ここで、
前記バイアス回路(B)によりもたらされたバイアス閾値(V)より大きい、前記受信機コイル(20)に誘起された誘起電圧について、前記OVP(21)は前記誘起電圧が前記LVRC(22)により捕捉されることを防止し、
前記バイアス閾値(V)より小さい、前記受信機コイル(20)に誘起された誘起電圧について、前記OVP(21)は前記誘起電圧が前記LVRCにより捕捉されることを許可するものであり、
前記電圧の測定(S2)に基づいて、前記物体(1)の厚さ(d)を決定すること(S3)と、を備える、方法。
[8] 前記厚さ(d)が、0.5mm未満であり、例えば、0.4mmから0.2mmなどの0.5mmから0.1mmまでの範囲内である、[7]に記載の方法。
[9] 前記ダイオード(D)が、順バイアス時、最大1V、例えば0.5~0.9Vの範囲内、の電圧降下を有する、[7]又は[8]に記載の方法。
[10] 前記バイアス閾値(V)が、順バイアス時の前記ダイオード(D)の電圧降下より少なくとも20%大きい、[7]から[9]のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6