(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】リニアモータおよび工作機械
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20240826BHJP
H02K 33/00 20060101ALI20240826BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
H02K41/03
H02K33/00 Z
H02K9/19 B
(21)【出願番号】P 2024507869
(86)(22)【出願日】2023-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2023003352
【審査請求日】2024-02-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185719
【氏名又は名称】北原 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】河本 道生
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮太
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-102487(JP,A)
【文献】特開2015-177590(JP,A)
【文献】特開2016-171669(JP,A)
【文献】特開2004-328921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
H02K 33/00
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に用いられるリニアモータであって、
複数の磁石が第1方向に並べて設けられている磁石板と、
前記磁石板に対して前記第1方向にスライド可能に構成されたスライダとを備え、
前記スライダは、
スライダコアと、
コイルと、
前記磁石板と対向するように前記第1方向に並べて前記スライダコアに設けられている複数のティースとを含み、
前記複数のティースは、
最も外側に位置するティースであって、前記コイルが巻かれていない第1ティースと、
前記コイルが巻かれている第2ティースとを含み、
前記
スライダには、前記磁石板の表面と平行でかつ前記第1方向と直交する第2方向に貫通
するように、かつ、前記第1方向および前記第2方向と直交する第3方向から見たときに前記第1ティースと重なるように複数の貫通孔が形成されて
おり、
複数の前記貫通孔は、
第1貫通孔と、
前記第1貫通孔よりも前記磁石板から離れた位置に形成されている第2貫通孔とを含み、
前記第2方向から見た場合における前記第1貫通孔の面積は、前記第2方向から見た場合における前記第2貫通孔の面積よりも大きく、
前記第1貫通孔は、前記第1方向から見たときに、前記コイルと重なっており、
前記第2貫通孔は、前記第1方向から見たときに、前記コイルと重なっていない、リニアモータ。
【請求項2】
前記
複数の貫通孔の内部は、物体が存在しない空間である、請求項1に記載のリニアモータ。
【請求項3】
前記リニアモータは、さらに、前記
第1貫通孔を通るように配管されている冷却配管を備える、請求項1に記載のリニアモータ。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のリニアモータと、
ワークまたは工具を回転可能に保持するための主軸とを備え、
前記リニアモータは、前記主軸の位置を移動するために用いられている、工作機械。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のリニアモータと、
ワークを載置するためのテーブルとを備え、
前記リニアモータは、前記テーブルを駆動するために用いられている、工作機械。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のリニアモータと、
部材を搬送するためのローダとを備え、
前記リニアモータは、前記ローダを駆動するために用いられている、工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リニアモータおよび工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2014-042423号公報(特許文献1)は、リニアモータに関する発明を開示している。当該リニアモータは、固定子として機能する界磁部と、可動子として機能する電機子とを備える。電機子は、コアと、ティースと、コイルとを有する。コアは、電機子の本体を成す部材である。電機子は、コイルに電流を流すことで電磁誘導作用に伴う駆動力を発生させ、界磁部上を移動する。
【0003】
ティースは、長手方向に並べてコアの下部に設けられている。長手方向における両端のティースには、テーパ部が形成されている。これにより、特許文献1に開示されるリニアモータは、直線運動時に生じる振動(コギング)を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
長手方向における両端のティースにおいてテーパ部を形成するだけでは、コギングを十分に低減することは難しい。したがって、リニアモータの駆動時に生じるコギングを低減するための新たな技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例では、工作機械に用いられるリニアモータが提供される。上記リニアモータは、複数の磁石が第1方向に並べて設けられている磁石板と、上記磁石板に対して上記第1方向にスライド可能に構成されたスライダとを備える。上記スライダは、スライダコアと、コイルと、上記磁石板と対向するように上記第1方向に並べて上記スライダコアに設けられている複数のティースとを含む。上記複数のティースは、最も外側に位置するティースは、上記コイルが巻かれていない第1ティースと、上記コイルが巻かれている第2ティースとを含む。上記第1ティースには、上記磁石板の表面と平行でかつ上記第1方向と直交する第2方向に貫通している貫通孔が形成されている。
【0007】
本開示の一例では、上記貫通孔の内部は、物体が存在しない空間である。
【0008】
本開示の一例では、上記リニアモータは、さらに、上記貫通孔を通るように配管されている冷却配管を備える。
【0009】
本開示の一例では、上記貫通孔は、上記第1方向から見たときに、上記コイルと重なっている。
【0010】
本開示の一例では、上記第1ティースには、複数の上記貫通孔が形成されている。
【0011】
本開示の一例では、複数の上記貫通孔は、第1貫通孔と、上記第1貫通孔よりも上記磁石板から離れた位置に形成されている第2貫通孔とを含む。上記第2方向から見た場合における上記第1貫通孔の面積は、上記第2方向から見た場合における上記第2貫通孔の面積よりも大きい。
【0012】
本開示の他の例では、工作機械が提供される。上記工作機械は、上記リニアモータと、ワークまたは工具を回転可能に保持するための主軸とを備える。上記リニアモータは、上記主軸の位置を移動するために用いられている。
【0013】
本開示の他の例では、工作機械が提供される。上記工作機械は、上記リニアモータと、ワークを載置するためのテーブルとを備える。上記リニアモータは、上記テーブルを駆動するために用いられている。
【0014】
本開示の他の例では、工作機械が提供される。上記工作機械は、リニアモータと、部材を搬送するためのローダとを備える。前記リニアモータは、前記ローダを駆動するために用いられている。
【0015】
本発明の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解される本発明に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施の形態に従うリニアモータを斜め方向から表わす斜視図である。
【
図3】
図2に示されるIII-III線に沿ったスライダの断面図である。
【
図5】
図4に示されるV-V線に沿ったスライダの断面図である。
【
図6】
図4に示されるVI-VI線に沿ったスライダの断面図である。
【
図7】変形例1に従うスライダをZ軸方向から表した図である。
【
図8】
図7に示されるVIII-VIII線に沿ったスライダの断面図である。
【
図9】XZ平面における補助ティースの断面図である。
【
図10】XZ平面における補助ティースの断面図である。
【
図11】補助ティースに貫通孔を形成していないリニアモータを駆動した際における推力の推移と、補助ティースに貫通孔を形成していないリニアモータを駆動した際における推力の推移とを示す図である。
【
図12】工作機械の装置構成の一例を示す図である。
【
図13】工作機械の装置構成の他の例を示す図である。
【
図14】工作機械の装置構成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0018】
<A.リニアモータ100>
まず、
図1を参照して、リニアモータ100の概要について説明する。
図1は、実施の形態に従うリニアモータ100を斜め方向から表わす斜視図である。
【0019】
図1に示されるように、リニアモータ100は、磁石板10と、スライダ50とを含む。
【0020】
磁石板10は、固定子として機能する。磁石板10には、複数の磁石12が並べられている。説明の便宜のために、以下では、磁石12が並べられている方向をX軸方向(第1方向)とも称する。磁石板10の表面と平行でかつX軸方向と直交する方向をY軸方向(第2方向)とも称する。X軸方向およびY軸方向の両方に直交する方向をZ軸方向(第3方向)とも称する。
【0021】
複数の磁石12の各々は、X軸方向において所定の間隔を空けて磁石板10上に配置されている。磁石12の各々は、永久磁石である。磁石12の各々は、隣接する磁石12と極性が反対になるように磁石板10上に設けられている。一例として、一の磁石12の表面がN極で、当該一の磁石12の裏面がS極であったとする。この場合、当該一の磁石12の隣に配置されている磁石12については、表面がS極で、裏面がN極となる。
【0022】
スライダ50は、可動子として機能する。スライダ50は、複数のコイル52を有する。複数のコイル52は、X軸方向に並べてスライダ50に設けられている。コイル52の各々は、スライダ50に形成されている後述のティース53(
図3参照)に長円状に巻かれている。
【0023】
複数のコイル52は、複数の磁石12と対向するようにスライダ50に設けられている。異なる言い方をすれば、複数のコイル52は、Z軸方向から見て複数の磁石12と重なるようにスライダ50に設けられている。
【0024】
スライダ50は、複数のコイル52に交流電流を印加することにより発生する磁場を複数の磁石12に作用させることで推力を受け、磁石板10上をX軸方向にスライドする。交流電流は、たとえば、コイル52に電気的に接続される電源(図示しない)から供給される。
【0025】
<B.コギングの低減方法>
次に、
図2および
図3を参照して、スライダ50がX軸方向に移動する際にリニアモータ100に生じるコギングを低減する方法について説明する。
図2は、Z軸方向からスライダ50を表わした図である。
図3は、
図2に示されるIII-III線に沿ったスライダ50の断面図である。
【0026】
上述のスライダ50は、スライダコア51を含む。スライダコア51は、スライダ50の本体を成す部材である。
【0027】
スライダコア51には、複数のティース53が形成されている。ティース53の各々は、スライダコア51の下面(すなわち、磁石板10との対向面)から磁石板10に向けて突き出ている。異なる言い方をすれば、複数のティース53は、上述の磁石板10と対向しており、Z軸方向から見て磁石板10と重なるようにスライダコア51に形成されている。また、ティース53の各々は、Y軸方向に延在している。
【0028】
ティース53は、X軸方向の最も外側に位置するティースであって、コイル52が巻かれていない補助ティース53A(第1ティース)と、補助ティース53Aの内側に位置するティースであって、コイル52が巻かれているコイル用ティース53B(第2ティース)とを含む。コイル用ティース53Bには、コイル52が長円状に巻かれている。
【0029】
補助ティース53Aには、Y軸方向に貫通している貫通孔55が形成されている。コイル52が補助ティース53Aに設けられることで、交流電流をコイル52に印加した際に生じる磁束の変化が滑らかになる。結果として、リニアモータ100の駆動時に生じるコギングを低減することができる。
【0030】
好ましくは、貫通孔55の内部は、物体が存在しない空間である。異なる言い方をすれば、貫通孔55の内部には、気体のみが存在する。何らかの物体が貫通孔55の内部に設けられないことで、スライダコア51を軽量化することができる。
【0031】
また、貫通孔55は、X軸方向から見たときに、コイル52と少なくとも一部において重なっている。貫通孔55がコイル52の近傍に形成されることで、交流電流をコイル52に印加した際に生じる磁束の変化がより滑らかになる。結果として、リニアモータ100の駆動時に生じるコギングをさらに低減することができる。
【0032】
なお、
図2および
図3には、補助ティース53AがX軸方向における両端の補助ティース53Aに形成されている例が示されているが、貫通孔55は、X軸方向の一方側の補助ティース53Aにのみ形成されていてもよい。この場合、貫通孔55は、X軸方向の他方側の補助ティース53Aには形成されない。
【0033】
また、
図3には、貫通孔55の断面形状が長方形である例が示されているが、貫通孔55の断面形状は、任意である。貫通孔55の断面形状は、たとえば、長方形以外の多角形であってもよいし、円形であってもよい。
【0034】
<C.スライダ50>
次に、
図4~
図6を参照して、上述のスライダ50についてさらに詳細に説明する。
図4は、スライダ50をZ軸方向から表わした図である。
図5は、
図4に示されるV-V線に沿ったスライダ50の断面図である。
図6は、
図4に示されるVI-VI線に沿ったスライダ50の断面図である。
【0035】
スライダ50は、その外観を成す筐体60を有する。筐体60は、たとえば、樹脂製である。筐体60の内部には、スライダコア51と、複数のコイル52と、冷却配管56と、固定用部材58とが収容されている。
【0036】
スライダコア51は、たとえば、電磁鋼板で構成されている。また、スライダコア51には、上述のティース53が形成されている。
【0037】
冷却配管56は、スライダコア51の上面(すなわち、磁石板10との対向面とは反対側の面)に設けられる。より具体的には、スライダコア51の上面には、複数の溝が形成されている。各溝は、X軸方向において等間隔に形成される。また、各溝は、Y軸方向に延在している。冷却配管56は、スライダコア51の上面に形成されている各溝に沿って蛇行するように配管される。
【0038】
冷却配管56は、冷媒の流入口と、冷媒の流出口とを有する。当該流入口と当該流出口とは、冷却器(図示しない)に繋げられている。冷媒は、冷却配管56の流入口から冷却配管56の流出口まで流れ、スライダ50を冷却する。流出口に到達した冷媒は、冷却器に送られ、冷やされる。その後、冷やされた冷媒は、冷却配管56の流入口に再び送られる。このように、冷媒は、スライダコア51の上面を循環することでスライダ50から排熱する。冷媒は、たとえば、水などを含む液体である。
【0039】
冷却配管56は、たとえば、熱伝導性の良い金属管で構成される。一例として、冷却配管56は、銅管で構成されてもよいし、アルミニウム管で構成されてもよいし、ステンレス鋼管で構成されてもよい。
【0040】
なお、
図5には、冷却配管56の断面形状が円形である例が示されているが、冷却配管56の断面形状は、任意である。冷却配管56の断面形状は、たとえば、多角形であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0041】
また、コイル用ティース53Bには、Y軸方向に延在している貫通孔Hが形成されている。貫通孔Hには、固定用部材58が挿入される。固定用部材58には、Z軸方向においてねじ穴が形成されているとともに、スライダコア51にはZ軸方向に対して固定用部材58のねじ穴と連通する貫通孔Hが形成されている。
【0042】
固定用部材58の形状は、任意である。一例として、固定用部材58の形状は、直方体形状の角材であってもよいし、円柱形状であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0043】
固定用部材58は、スライダコア51とは異なる種類の部材で構成される。一例として、スライダコア51が積層鋼鈑で構成されているのに対して、固定用部材58は、積層鋼鈑以外の金属で構成される。一例として、固定用部材58は、鉄で構成されてもよいし、その他の種類の金属で構成されてもよい。
【0044】
<D.変形例1>
次に、
図7および
図8を参照して、変形例1に従うスライダ50Aについて説明する。
図7は、変形例1に従うスライダ50AをZ軸方向から表した図である。
図8は、
図7に示されるVIII-VIII線に沿ったスライダ50Aの断面図である。
【0045】
上述の
図2および
図3の例では、貫通孔55の内部には、何らの物体も設けられていなかった。これに対して、本変形例に従うスライダ50Aにおいては、貫通孔55の内部に何らかの物体が設けられる。これにより、貫通孔55の内部のスペースを有効活用することができる。その他の点に関しては上述の通りであるので、以下ではそれらの説明については繰り返さない。
【0046】
一例として、本変形例に従うスライダ50Aは、貫通孔55を通るように配管されている冷却配管54を含む。貫通孔55内の空間が冷却配管54の経路として活用されることで、コギングを低減しつつ、スライダ50Aを冷却することができる。また、熱の発生に伴うリニアモータ100の性能の低下が抑制される。さらに、貫通孔55の内部の空間が冷却配管54の経路に活用されることで、スライダ50AがX軸方向において大型化することを防ぐことができる。
【0047】
冷却配管54は、冷媒の流入口と、冷媒の流出口とを有する。当該流入口と当該流出口とは、冷却器(図示しない)に繋げられている。冷媒は、冷却配管54の流入口から冷却配管54の流出口まで流れ、磁石12およびコイル52を冷却する。流出口に到達した冷媒は、冷却器に送られ、冷やされる。その後、冷やされた冷媒は、冷却配管54の流入口に再び送られる。このように、冷媒は、スライダ50A内を循環することで磁石12およびコイル52から熱を集める。冷媒は、たとえば、水などを含む液体である。
【0048】
冷却配管54は、たとえば、熱伝導性の良い金属管で構成される。一例として、冷却配管54は、銅管で構成されてもよいし、アルミニウム管で構成されてもよいし、ステンレス鋼管で構成されてもよい。
【0049】
なお、
図8には、冷却配管54の断面形状が円形である例が示されているが、冷却配管54の断面形状は、任意である。冷却配管54の断面形状は、たとえば、多角形であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0050】
以下では、冷却配管54の配管経路の内、Y軸方向に延在している配管経路を経路54Yと称し、X軸方向に延在している配管経路を経路54Xと称する。
【0051】
冷却配管54の経路54Xは、スライダコア51の側面を通るように配管されている。より具体的には、冷却配管54の経路54Xは、Y軸方向における複数の磁石12の端部と、Y軸方向における複数のコイル52の端部とを冷却するように配管されている。異なる言い方をすれば、冷却配管54の経路54Xは、Y軸方向における複数の磁石12の端部と、Y軸方向におけるコイル52の端部とに重なるように配管されている。これにより、冷却配管54の経路54Xは、コイル52の端部だけでなく、磁石12の端部を冷却することができ、効率的な冷却を実現することができる。結果として、発生した熱に伴うリニアモータ100の性能の低下が抑制される。
【0052】
冷却配管54の経路54Yは、貫通孔55を通るように配管されている。冷却配管54の経路54Yは、X軸方向から見たときに、コイル52と重なっている。
【0053】
<E.変形例2>
次に、
図9を参照して、変形例2に従うスライダ50Bについて説明する。
図9は、XZ平面における補助ティース53Aの断面図である。
【0054】
上述の
図2および
図3の例では、1つの補助ティース53Aに対して、1つの貫通孔55が形成されていた。これに対して、本変形例では、1つの補助ティース53Aに対して複数の貫通孔55が形成されている。
図9の例では、1つの補助ティース53Aに対して、2つの貫通孔55A1,55A2が形成されている。貫通孔55A1,55A2が補助ティース53Aに設けられることで電気的に対称性が高まり、各相の誘起電圧のバランスが良くなる。その結果、スライダ50Bの推力における4次成分や8次成分が小さくなり、コギングをさらに低減することができる。
【0055】
貫通孔55A2(第2貫通孔)は、貫通孔55A1(第1貫通孔)よりも磁石板10から離れた位置に形成されている。一例として、Z軸方向における貫通孔55A2と磁石板10との間の距離は、Z軸方向における貫通孔55A1と磁石板10との間の距離よりも長い。
【0056】
また、貫通孔55A1と貫通孔55A2との位置関係は、任意である。一例として、貫通孔55A1は、X軸方向から見たときに、コイル52と重なっている。一方で、貫通孔55A2は、X軸方向から見たときに、コイル52と重なっていない。
【0057】
なお、貫通孔55A1の形状と貫通孔55A2の形状とは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0058】
また、貫通孔55A1のサイズと貫通孔55A2のサイズとは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
図9の例では、Y軸方向から見た場合における貫通孔55A1の面積は、Y軸方向から見た場合における貫通孔55A2の面積よりも大きい。一方で、X軸方向における貫通孔55A1の長さは、X軸方向における貫通孔55A2の長さと同じである。これにより、リニアモータ100のコギングをさらに低減することができる。
【0059】
<F.解析結果>
次に、
図10および
図11を参照して、補助ティース53Aに貫通孔55を設けることがコギングの低減には有効であるとの発見に繋がった解析結果について説明する。
【0060】
図10は、XZ平面における補助ティース53Aの断面図である。
図10には、トポロジー解析により最適化された貫通孔55B1,55B2,55B3の断面形状が示されている。
【0061】
図11は、補助ティース53Aに貫通孔を形成していないリニアモータ100を駆動した際における推力の推移と、補助ティース53Aに貫通孔55B1,55B2,55B3を形成していないリニアモータ100を駆動した際における推力の推移とを示す図である。
【0062】
図11に示されるグラフの横軸は、時間を表わす。時間の単位は、たとえば、秒(S)で表わされる。
【0063】
図11に示されるグラフの縦軸は、X軸方向の一方側に対するリニアモータ100の推力を表わす。推力の単位は、たとえば、ニュートン(N)で表わされる。
【0064】
図11には、解析結果R1,R2が示されている。解析結果R1は、補助ティース53Aに貫通孔を形成していないリニアモータ100を駆動した際における推力の推移を示す。解析結果R2は、補助ティース53Aに貫通孔55B1,55B2,55B3を形成していないリニアモータ100を駆動した際における推力の推移を示す。各解析の際には、リニアモータ100が同条件で駆動された。
【0065】
解析結果R1,R2に示される波形の脈動は、リニアモータ100のコギングの大きさを表わす。これに関して、解析結果R1においては、推力の最大値と推力の最小値との差は、「ΔN1」であった。一方で、解析結果R2においては、推力の最大値と推力の最小値との差は、「ΔN2」であった。「ΔN2」は、「ΔN1」の約35%に相当する。このように、補助ティース53Aに貫通孔55B1,55B2,55B3を設けることでリニアモータ100のコギングが低減されることが確認された。
【0066】
<G.リニアモータ100の応用例>
次に、
図12~
図14を参照して、上述のリニアモータ100の応用例について説明する。リニアモータ100は、たとえば、工作機械内の様々な部品を駆動するために用いられ得る。
【0067】
ここでいう「工作機械」とは、ワークを加工する機能を備えた種々の装置を包含する概念である。工作機械200は、横形のマシニングセンタであってもよいし、立形のマシニングセンタであってもよい。あるいは、工作機械200は、旋盤であってもよいし、付加加工機であってもよいし、その他の切削機械や研削機械であってもよい。
【0068】
リニアモータ100が工作機械内で使用される場合には、固定子として機能する磁石板10が工作機械内の不動部品に取り付けられる。一方で、可動子として機能するスライダ50は、工作機械内における駆動対象の部品に取り付けられる。この場合、ボルトが駆動対象の部品を通されるとともに、当該ボルトは、スライダ50内に形成されている上述の固定用部材58に形成されているねじ穴に嵌められる。これにより、駆動対象の部品がスライダ50に固定される。
【0069】
(G1.主軸)
まず、
図12を参照して、リニアモータ100を主軸の駆動に応用する例について説明する。
図12は、工作機械200の装置構成の一例を示す図である。
【0070】
リニアモータ100は、たとえば、ワークまたは工具を回転可能に保持するための主軸250の位置を移動するために用いられる。主軸250は、ワークを回転するためのワーク主軸であってもよいし、工具を回転するための工具主軸であってもよい。
【0071】
説明の便宜のために、以下では、主軸250を基準とする座標系をX'軸,Y'軸およびZ'軸で表わす。X'軸、Y'軸およびZ'軸は、互いに直交している。
【0072】
図12に示されるように、工作機械200は、制御部200Aと、駆動部240Aと、主軸250とを含む。
【0073】
制御部200Aは、たとえば、CNC(Computer Numerical Control)装置である。CNC装置は、少なくとも1つの集積回路によって構成される。集積回路は、たとえば、少なくとも1つのCPU(Central Processing Unit)、少なくとも1つのMPU(Micro Processing Unit)、少なくとも1つのASIC(Application Specific Integrated Circuit)、少なくとも1つのFPGA(Field Programmable Gate Array)、またはそれらの組み合わせなどによって構成される。制御部200Aは、加工プログラムなど各種プログラムを実行することで駆動部240Aの動作を制御する。
【0074】
駆動部240Aは、主軸250を駆動するための機構である。駆動部240Aの装置構成は、任意である。駆動部240Aは、単体の駆動ユニットで構成されてもよし、複数の駆動ユニットで構成されてもよい。
図12の例では、駆動部240Aは、モータドライバ241A~241Cと、リニアモータ242A~242Cと、エンコーダ243A~243Cとで構成されている。リニアモータ242A~242Cの各々は、上述のリニアモータ100に対応する。
【0075】
モータドライバ241Aは、主軸250のX'軸方向における駆動を制御する。モータドライバ241Aは、制御部200Aから制御信号の入力を受け、当該制御信号に応じた電流をリニアモータ242Aに出力する。
【0076】
より具体的には、制御部200Aは、目標位置を含む制御信号をモータドライバ241Aに逐次的に出力する。モータドライバ241Aは、エンコーダ243Aのフィードバック信号から主軸250の実位置を算出し、当該実位置と当該目標位置との差分が小さくなるようにリニアモータ242Aに電流を出力する。これにより、モータドライバ241Aは、X'軸方向の任意の位置に主軸250を移動する。
【0077】
モータドライバ241Bは、主軸250のY'軸方向における駆動を制御する。モータドライバ241Bは、制御部200Aから制御信号の入力を受け、当該制御信号に応じた電流をリニアモータ242Bに出力する。
【0078】
より具体的には、制御部200Aは、目標位置を含む制御信号をモータドライバ241Bに逐次的に出力する。モータドライバ241Bは、エンコーダ243Bのフィードバック信号から主軸250の実位置を算出し、当該実位置と当該目標位置との差分が小さくなるようにリニアモータ242Bに電流を出力する。これにより、モータドライバ241Bは、Y'軸方向の任意の位置に主軸250を移動する。
【0079】
モータドライバ241Cは、主軸250のZ'軸方向における駆動を制御する。モータドライバ241Cは、制御部200Aから制御信号の入力を受け、当該制御信号に応じた電流をリニアモータ242Cに出力する。
【0080】
より具体的には、制御部200Aは、目標位置を含む制御信号をモータドライバ241Cに逐次的に出力する。モータドライバ241Cは、エンコーダ243Cのフィードバック信号から主軸250の実位置を算出し、当該実位置と当該目標位置との差分が小さくなるようにリニアモータ242Cに電流を出力する。これにより、モータドライバ241Cは、Z'軸方向の任意の位置に主軸250を移動する。
【0081】
(G2.テーブル)
次に、
図13を参照して、リニアモータ100をテーブルの駆動に応用する例について説明する。
図13は、工作機械200の装置構成の他の例を示す図である。
【0082】
リニアモータ100は、たとえば、工作機械内に設けられているテーブル260を駆動するために用いられる。テーブル260は、加工対象のワークを載置するための台である。
【0083】
図13に示されるように、工作機械200は、制御部200Aと、駆動部240Bと、テーブル260とを含む。
【0084】
駆動部240Bは、テーブル260を駆動するための機構である。駆動部240Bの装置構成は、任意である。駆動部240Bは、単体の駆動ユニットで構成されてもよし、複数の駆動ユニットで構成されてもよい。
図13の例では、駆動部240Bは、モータドライバ241D,241Eと、リニアモータ242D,242Eと、エンコーダ243D,243Eとで構成されている。リニアモータ242D,242Eの各々は、上述のリニアモータ100に対応する。
【0085】
モータドライバ241Dは、テーブル260のX'軸方向における駆動を制御する。モータドライバ241Dは、制御部200Aから制御信号の入力を受け、当該制御信号に応じた電流をリニアモータ242Dに出力する。
【0086】
より具体的には、制御部200Aは、目標位置を含む制御信号をモータドライバ241Dに逐次的に出力する。モータドライバ241Dは、エンコーダ243Dのフィードバック信号からテーブル260の実位置を算出し、当該実位置と当該目標位置との差分が小さくなるようにリニアモータ242Dに電流を出力する。これにより、モータドライバ241Dは、X'軸方向の任意の位置にテーブル260を移動する。
【0087】
モータドライバ241Eは、テーブル260のY'軸方向における駆動を制御する。モータドライバ241Eは、制御部200Aから制御信号の入力を受け、当該制御信号に応じた電流をリニアモータ242Eに出力する。
【0088】
より具体的には、制御部200Aは、目標位置を含む制御信号をモータドライバ241Eに逐次的に出力する。モータドライバ241Eは、エンコーダ243Eのフィードバック信号からテーブル260の実位置を算出し、当該実位置と当該目標位置との差分が小さくなるようにリニアモータ242Eに電流を出力する。これにより、モータドライバ241Eは、Y'軸方向の任意の位置にテーブル260を移動する。
【0089】
(G3.ローダ)
次に、
図14を参照して、リニアモータ100をローダの駆動に応用する例について説明する。
図14は、工作機械200の装置構成の他の例を示す図である。
【0090】
リニアモータ100は、たとえば、部材を搬送するためのローダ270を駆動するために用いられる。当該部材は、加工前または加工後のワークであってもよいし、工具であってもよい。
【0091】
図14に示されるように、工作機械200は、制御部200Aと、駆動部240Cと、ローダ270とを含む。
【0092】
駆動部240Cは、ローダ270を駆動するための機構である。駆動部240Cの装置構成は、任意である。駆動部240Cは、単体の駆動ユニットで構成されてもよし、複数の駆動ユニットで構成されてもよい。
図14の例では、駆動部240Cは、モータドライバ241F,241G,241Hと、リニアモータ242F,242G,242Hと、エンコーダ243F,243G,243Hとで構成されている。リニアモータ242F,242G,242Hの各々は、上述のリニアモータ100に対応する。
【0093】
モータドライバ241Fは、ローダ270のX'軸方向における駆動を制御する。モータドライバ241Fは、制御部200Aから制御信号の入力を受け、当該制御信号に応じた電流をリニアモータ242Fに出力する。
【0094】
より具体的には、制御部200Aは、目標位置を含む制御信号をモータドライバ241Fに逐次的に出力する。モータドライバ241Fは、エンコーダ243Fのフィードバック信号からローダ270の実位置を算出し、当該実位置と当該目標位置との差分が小さくなるようにリニアモータ242Fに電流を出力する。これにより、モータドライバ241Fは、X'軸方向の任意の位置にローダ270を移動する。
【0095】
モータドライバ241Gは、ローダ270のY'軸方向における駆動を制御する。モータドライバ241Gは、制御部200Aから制御信号の入力を受け、当該制御信号に応じた電流をリニアモータ242Gに出力する。
【0096】
より具体的には、制御部200Aは、目標位置を含む制御信号をモータドライバ241Gに逐次的に出力する。モータドライバ241Gは、エンコーダ243Gのフィードバック信号からローダ270の実位置を算出し、当該実位置と当該目標位置との差分が小さくなるようにリニアモータ242Gに電流を出力する。これにより、モータドライバ241Gは、Y'軸方向の任意の位置にローダ270を移動する。
【0097】
モータドライバ241Hは、ローダ270のZ'軸方向における駆動を制御する。モータドライバ241Hは、制御部200Aから制御信号の入力を受け、当該制御信号に応じた電流をリニアモータ242Hに出力する。
【0098】
より具体的には、制御部200Aは、目標位置を含む制御信号をモータドライバ241Hに逐次的に出力する。モータドライバ241Hは、エンコーダ243Hのフィードバック信号からローダ270の実位置を算出し、当該実位置と当該目標位置との差分が小さくなるようにリニアモータ242Hに電流を出力する。これにより、モータドライバ241Hは、Z'軸方向の任意の位置にローダ270を移動する。
【0099】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
10 磁石板、12 磁石、50 スライダ、50A スライダ、50B スライダ、51 スライダコア、52 コイル、53 ティース、53A 補助ティース、53B コイル用ティース、54 冷却配管、54X 経路、54Y 経路、55 貫通孔、55A1 貫通孔、55A2 貫通孔、55B1 貫通孔、55B2 貫通孔、55B3 貫通孔、56 冷却配管、58 固定用部材、60 筐体、100 リニアモータ、200 工作機械、200A 制御部、240A 駆動部、240B 駆動部、240C 駆動部、241A モータドライバ、241B モータドライバ、241C モータドライバ、241D モータドライバ、241E モータドライバ、241F モータドライバ、241G モータドライバ、241H モータドライバ、242A リニアモータ、242B リニアモータ、242C リニアモータ、242D リニアモータ、242E リニアモータ、242F リニアモータ、242G リニアモータ、242H リニアモータ、243A エンコーダ、243B エンコーダ、243C エンコーダ、243D エンコーダ、243E エンコーダ、243F エンコーダ、243G エンコーダ、243H エンコーダ、250 主軸、260 テーブル、270 ローダ。
【要約】
工作機械に用いられるリニアモータ(100)は、複数の磁石(12)が第1方向に並べて設けられている磁石板(10)と、磁石板(10)に対して第1方向にスライド可能に構成されたスライダ(50)とを備える。スライダ(50)は、スライダコア(51)と、コイル(52)と、磁石板(10)と対向するように第1方向に並べてスライダコア(51)に設けられている複数のティース(53)とを含む。複数のティース(53)は、最も外側に位置するティース(53)は、コイル(52)が巻かれていない第1ティース(53A)と、コイル(52)が巻かれている第2ティース(53B)とを含む。第1ティース(53A)には、磁石板(10)の表面と平行でかつ第1方向と直交する第2方向に貫通している貫通孔(55)が形成されている。