(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】セッターと敷板とからなる焼成治具
(51)【国際特許分類】
F27D 3/12 20060101AFI20240826BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
F27D3/12 S
C04B35/64
(21)【出願番号】P 2024525057
(86)(22)【出願日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2023022079
(87)【国際公開番号】W WO2024034257
(87)【国際公開日】2024-02-15
【審査請求日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2022126551
(32)【優先日】2022-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有馬 峻
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117207(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/204061(WO,A1)
【文献】特開2018-193274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セッターと、このセッターが戴置される敷板とからなる焼成治具であって、
前記セッターは、少なくとも一部にメッシュ状部位を含むセラミックスシートであり、ここで前記メッシュ状部位は、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部で構成される第1線条部層、および、前記第1線条部の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部で構成される第2線条部層を含み、前記第1線条部層と前記第2線条部層とが一体的に形成された部位であり、
(1)前記敷板の前記セッターが戴置される側の面上の前記メッシュ状部位と対向する所定の領域には、摺動防止部が設けられており、
(2)前記摺動防止部の上方に配される部分を包含する前記第1線条部層の所定の領域にて、前記第1線条部の平均幅をD(mm)とし、
JIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される前記摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とするとき、
5≦Rzjis/D≦100の関係を満たす、
焼成治具。
【請求項2】
20≦Rzjis/D≦80(ただし、RzjisおよびDは上記の定義に従う。)の関係を満たす、
請求項1に記載の焼成治具。
【請求項3】
5(μm)≦Rzjis≦25(μm)(ただし、Rzjisは上記の定義に従う。)の関係を満たす、
請求項1または2に記載の焼成治具。
【請求項4】
セッターと、このセッターが戴置される敷板とからなる焼成治具を製造する方法であって、
少なくとも一部にメッシュ状部位を含むセラミックスシートである前記セッターを得る工程であって、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部で構成される第1線条部層と、前記第1線条部の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部で構成される第2線条部層とを一体的に形成することによって前記メッシュ状部位を得ることを含む工程、
および、
前記敷板の前記セッターが戴置される側の面上の前記メッシュ状部位と対向する所定の領域に、ブラスト加工で凹凸を形成することによって摺動防止部を設ける工程であって、前記摺動防止部の上方に配される部分を包含する前記第1線条部層の所定の領域にて、前記第1線条部の平均幅をD(mm)とし、JIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される前記摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とするとき、5≦Rzjis/D≦100の関係を満たす工程
を含む、製造方法。
【請求項5】
前記敷板の前記セッターが戴置される側の面上の前記メッシュ状部位と対向する所定の1つまたは複数の領域に前記摺動防止部が設けられており、
前記セッターが前記敷板に戴置されたとき、前記1つまたは複数領域の各々が前
記セッターの周縁近傍に対応するように前記摺動防止部が配置されている、
請求項1または2に記載の焼成治具。
【請求項6】
前記敷板の前記セッターが戴置される側の面上の前記摺動防止部が設けられた所定の領域にて、
JIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される前記摺動防止部の10点平均粗さをRzjisとし、
JIS B0601:2001に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される前記摺動防止部の最大高さをRzとするとき、
1.2≦Rz/Rzjis≦3の関係を満たす、
請求項1または2に記載の焼成治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セッターと敷板とからなる焼成治具に関する。本発明は、より具体的には、セッターとこのセッターが戴置される敷板とからなり、セッターの摺動が効果的に防止され得る焼成治具に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス製の電子部品やガラスを焼成するときには、被焼成物を棚板等とも称されるセラミックスシートのセッター上に載置して焼成を行うことが一般的である。このようなセッターを用いる焼成プロセスでは、多数の被焼成物を同時に焼成する高い生産効率が要求される。そのため、焼成用の敷板または焼成用ラック等と称される部材上にセッターが戴置された焼成治具を用い、複数のセッターを所定間隔で積層させた多段組みの形態で焼成が行われている。
【0003】
セラミックス製セッターに関する従来の技術としては、例えば、窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスより作られ、且つ表裏を貫通する多数の穴を持つ多孔板からなる加熱成型加工用セッターや、被焼成物を載置する表面側及び裏面側に少なくとも凹凸形状が付与されているとともに、開口部が形成されているセラミック焼成用窯道具板などが知られている。また、被焼成物の急速な加熱及び冷却を行うときにセッターに割れ等が発生することを防止するための技術として、セラミックス製の複数の第1線条部と、これと交差するセラミックス製の複数の第2線条部とを有するセラミックス格子体であって、第1線条部と第2線条部とが特定の接触形態を有するものが開示されている(一例として特許文献1参照)。
【0004】
一方、敷板等と称される焼成治具として、例えば、中央側に中空部を有する枠体と、枠体の中空部に架け渡され、中空部で互いに交差する複数の架橋部とを備え、枠体と架橋部とが一体成型されることを特徴とする焼成治具が開示されている。この焼成治具によれば、セラミックス製品の焼成による製造の生産性が向上することが報告されている。
また、他の敷板等と称される焼成治具として、特許文献2には、被焼成物が積載される平板状セッターを配置するように構成された焼成用ラックであって、表面に平板状セッターが配置されるとともに開口部を有する枠体と、枠体の中心を通過して枠体間を伸びる柱部と、枠体と柱部によって囲まれた複数の囲繞部と、囲繞部の中心から枠体又は柱部に向けて伸びる複数の副柱部とを備える焼成用ラックが開示されている。この焼成用ラックによれば、積載する平板状セッターの面内温度分布のムラを低減し得ることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-193274号公報
【文献】国際公開2021/033375号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなセラミックス製セッターと敷板(焼成用ラック)とは、
図1に例示するように、焼成の際に、各々の敷板の上にセッターを載せ、さらに各々のセッターの上に被焼成物が配された状態で多段組みとして積層されることが多い。
図1において、Sはセッターであり、Pは多段積みで積層された敷板であり、Cは被焼成物であり、各々の敷板上にセッターが戴置され、その上に被焼成物が配されている。多段積みとして積層されたセラミックス製セッターと敷板との組み合わせを、その多段積みの状態のまま保管し、さらには搬送することを要する場合もある。そのような積層操作の際や、多段積みの状態のまま搬送する際に、僅かな斜度や振動(すなわち水平方向や上下方向の動作)によりセッターが敷板上で摺動すると、セッターの破損・落下、およびセッターに配置された被焼成物の変形や損傷、焼成の不具合、電子部品等の微細な被焼成物のセッターからの落下などにつながる恐れがある。そのため、セラミックス製セッターと敷板との組み合わせの積層操作時や、それらの多段積み状態での搬送時において、セッターが敷板上で容易に摺動しない良好なハンドリング性が求められている。しかし、そのような摺動を十分に防止し得る技術はこれまで開発されていなかった。
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、セラミックス製セッターと敷板との組み合わせからなる焼成治具であって、それらの積層操作時や、多段積み状態での搬送時において、僅かな斜度や振動(水平方向や上下方向の動作)によりセッターが敷板上で容易に摺動しないような良好なハンドリング性を有する焼成治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、少なくとも一部にいわゆるメッシュ状の部位を含むセラミックスシートであるセッターと、このセッターが戴置される敷板とからなる焼成治具において、敷板の前記セッターが戴置される側の面上のメッシュ状部位と対向する所定の領域に摺動防止部を設け、かつ、この摺動防止部の上方に配される部分を包含する第1線条部層の所定の領域における第1線条部の平均幅をD(mm)とし、JIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とするとき、Rzjis/Dが特定範囲内になるように設計することによって、セッターの敷板上での移動に対する摩擦抵抗が大きくなるため、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することが可能になると同時に、敷板上に戴置されるセッターの破損・落下およびセッター上に配置される被焼成物の変形や損傷を効果的に抑制することができ、ひいてはセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性が大幅に向上することを見出し、本発明に係る焼成治具を完成させた。
【0009】
従って、本発明の典型的な一態様は、以下のとおりである:
セッターと、このセッターが戴置される敷板とからなる焼成治具であって、
前記セッターは、少なくとも一部にメッシュ状部位を含むセラミックスシートであり、ここで前記メッシュ状部位は、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部で構成される第1線条部層、および、前記第1線条部の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部で構成される第2線条部層を含み、前記第1線条部層と前記第2線条部層とが一体的に形成された部位であり、
(1)前記敷板の前記セッターが戴置される側の面上の前記メッシュ状部位と対向する所定の領域には、摺動防止部が設けられており、
(2)前記摺動防止部の上方に配される部分を包含する前記第1線条部層の所定の領域にて、前記第1線条部の平均幅をD(mm)とし、
JIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される前記摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とするとき、
5≦Rzjis/D≦100の関係を満たす、
焼成治具。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るセッターとそれが戴置される敷板とからなる焼成治具によれば、敷板上の所定の領域に摺動防止部を設けると共に、第1線条部層の所定の領域における第1線条部の平均幅をD(mm)に対する摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(JIS B0601:1994に従って測定)の比率を特定範囲内に設定することによって、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することが可能になると同時に、敷板上に戴置されるセッターの破損・落下およびセッター上に配置される被焼成物の変形や損傷を効果的に抑制することができ、ひいてはセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性が大幅に向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、セラミックス製セッターと敷板(焼成用ラック)との多段組みによる公知の積層形態を例示する図である。
【
図2】
図2は、本発明による焼成治具におけるセッターのメッシュ状部位の一実施形態を例示する図である。
【
図3】
図3は、本発明による焼成治具におけるセッターと敷板との組み合わせの一実施形態を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明による焼成治具におけるセッターのメッシュ状部位の第1線条部と敷板の摺動防止部との関係の一実施形態を説明する図である。
【
図5】
図5は、本発明による焼成治具におけるセッターのメッシュ状部位の第1線条部と敷板の摺動防止部との関係の別の一実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る焼成治具において敷板と組み合わせられるセッターは、少なくとも一部にメッシュ状部位を含むセラミックスシートであって、このメッシュ状部位は、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部で構成される第1線条部層、および、第1線条部の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部で構成される第2線条部層を含み、第1線条部層と第2線条部層とが一体的に形成された部位であるセラミックスシートである。当該セッターは、このようなメッシュ状部位を少なくとも一部に含む限りは、特に限定されない。セッターのメッシュ状部位以外の部位は、いかなる公知のセッターの構造が採用されてもよい。一実施形態において、全体が一体的に形成されたメッシュ状のセラミックスシート焼結体であるセッターを用いてもよい。
【0013】
ここで、第1線条部層と第2線条部層とが「一体的に形成された」メッシュ状の焼結体であることは、第1線条部層を構成する線条群と第2線条部層を構成する線条群とが、それらの接触箇所にて一体的な構造を成すように焼成・連結されて、容易に分離できないように形成されていることを意味する。一態様において、第1線条部層と第2線条部層とは、第1線条部層を構成する線条群と第2線条部層を構成する線条群とが、それらの接触箇所にて一体的な構造を成すように焼成・連結されて、容易に分離できないように形成されており、かつ、第1線条部層と第2線条部層とが、あるいは各線条部層の異なる部分同士が単一の組成から形成されていてよい。他の一態様において、第1線条部層と第2線条部層とは、第1線条部層を構成する線条群と第2線条部層を構成する線条群とが、それらの接触箇所にて一体的な構造を成すように焼成・連結されて、容易に分離できないように形成されており、かつ、第1線条部層と第2線条部層とが、あるいは各線条部層の異なる部分同士が異なる複数の組成から形成されていてよい。
【0014】
図2に、セッターのメッシュ状部位の一実施形態が例示されている。
図2において、メッシュ状部位1は、略一定の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部2で構成される第1線条部層、およびこの第1線条部2の各条の上に接してこれを交差するように略一定の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部3で構成される第2線条部層を含む。両線条部2、3の交差角度は適宜設定され得るが、例えば第1線条部2に対して第2線条部3の交差角度を約90度とすることができる。あるいは、第1線条部2に対する第2線条部3の交差角度を90度±10度の範囲で変更させることもできる。第1線条部2および第2線条部3の断面形状は、特に限定されないが、図示されているように略円形または略楕円形であってよい。第1線条部2および第2線条部3の断面形状は、略円形、略楕円形以外に、略矩形等の略多角形、あるいはこれらの一部が直線状に切断された形状を採り得る。
【0015】
セラミックスシートのメッシュ状部位の複数条の第1線条部および複数条の第2線条部のセラミックス原料粉は、特に限定されず、種々のセラミックス素材を含んでいてよい。セラミックス原料粉として用いられるセラミックス素材の例としては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、酸化マグネシウム(MgO)、ムライト(3Al2O3-2SiO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ホウ素(B4C)、コージェライト(MgO/Al2O3/SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)、二硼化チタン(TiB2)などの1種または2種以上の組み合わせが挙げられる。また、これらのセラミックス素材の1種または2種以上の組み合わせである原料粉を用いて製造された焼結体も自ずと、これらの素材から生じ得る組成を有することになる。一実施形態によるセラミックスシートのメッシュ状部位において、第1線条部層と第2線条部層とが、あるいは各線条部層の異なる部分同士が単一の組成から形成されていてよい。他の一実施態様によるセラミックスシートのメッシュ状部位において、第1線条部層と第2線条部層とが、あるいは各線条部層の異なる部分同士が異なる複数の組成から形成されていてよい。一実施形態において、全体が単一種の材料で一体的に形成されたメッシュ状のセラミックスシート焼結体であるセッターを用いてもよい。このようなセッターを用いることにより、セラミックスシート全体の強度が非常に高くなり、またセッターの効率的な製造にもつながる。
【0016】
メッシュ状部位がセラミックスシートの一部を占める場合のメッシュ状部位以外の部位のセラミックス原料粉は、特に限定されず、上述されたメッシュ状部位の原料粉と同じであっても異なっていてもよい。セラミックスシートのメッシュ状部位以外の部位が存在する場合のその原料粉は、これと接するメッシュ状部位の原料粉と同じであることが好ましい。また、好ましい一実施形態において、メッシュ状部位とメッシュ状部位以外の部位とは一体的に形成されたセラミックスシート燒結体であってよい。メッシュ状部位とメッシュ状部位以外の部位とが一体的に形成された燒結体を構成すると共に、両者の原料粉が同じであれば、セラミックスシート全体の強度が高められると共に、焼成時の加熱・冷却の熱履歴(膨張・収縮の繰り返し)による接合強度の低下が防止され得る。
【0017】
セラミックスシートのメッシュ状部位は、一実施形態において、第1線条部と第2線条部とのいずれの交差部にても、第1線条部の断面が直線部と該直線部の両端部を端部とする凸形の曲線部とから構成される形状を有しており、第2線条部の断面が円形又は楕円形の形状を有しており、しかも、交差部の縦断面視で、第1線条部における凸形の曲線部の頂部と第2線条部における円形又は楕円形における下向きに凸の頂部のみが接触している構成(いわゆる点接触の構成)を有することができる。
【0018】
またセラミックスシートのメッシュ状部位は、他の一実施形態において、第1線条部の断面が、第1線条部と第2線条部との交差部以外の部位にて、直線部と、該直線部の両端部を端部とする凸形の曲線部とから構成される形状を有しており、前第2線条部の断面が、交差部以外の部位にて、円形又は楕円形の形状を有しており、かつ第1線条部と第2線条部とが、それぞれ一点のみではなく、面で接触した交差部を成している構成を備えることができる。この構成は、上記のいわゆる点接触に対して面接触の構造と称され得る。
【0019】
このような面接触による上記構造例の下位概念に相当する一実施形態において、セラミックスシートのメッシュ状部位は、第1線条部の断面が、第1線条部と第2線条部との交差部以外の部位にて、直線部と、該直線部の両端部を端部とする凸形の曲線部とから構成される形状を有しており、前第2線条部の断面が、交差部以外の部位にて、円形又は楕円形の形状を有しており、しかも、第2線条部の平面視での投影像が、交差部にて、幅方向外方に向けて湾曲膨出した形状になっており、それによって交差部における投影像の幅が、交差部以外の部位における投影像の幅よりも大きくなっている構成を有することができる。
【0020】
またセラミックスシートのメッシュ状部位は、更なる他の一実施形態において、第1線条部の断面が、第1線条部と第2線条部との交点以外の部位において、直線部と該直線部の両端部を端部とする凸形の曲線部とから構成される形状を有しており、第2線条部の断面が、第1線条部と第2線条部との交点以外の部位において、円形又は楕円形の形状を有しており、この焼結体は平面視での輪郭の少なくとも一部に直線辺部を有しており、第1線条部および第2線条部とこの直線辺部(外辺)とがそれぞれ独立に10度以上170以下の角度で(すなわち非直角である角度を含む幅広い角度範囲にて)交わっている構造を備えていてよい。
【0021】
またセラミックスシートのメッシュ状部位は、更なる他の一実施形態において、複数の第1線条部および複数の第2線条部に加えて、第1線条部と第2線条部とが交差することで画成される四辺形の対角線上を通るセラミックス製の複数の第3の線条部とを有し、第1線条部、第2線条部及び第3の線条部によって画成される複数の三角形の貫通孔が形成されている板状のセラミックス構造体であってよい。
【0022】
メッシュ状部位がセラミックスシートの一部を占める場合のメッシュ状部位以外の部位は、特に限定されないが、例えば、微細な気孔を多数設けたセラミックス板状体(板状体の異なる領域で異なる気孔径/異なる気孔密度を有するものを含む)や、メッシュ以外の形状で第1線条部層(支持体層)および第2線条部層が配置されたシート(一例としてはいわゆる簀子状のシート)等が挙げられる。
【0023】
本発明に係る焼成治具における敷板は、そこに戴置されるセッターとの間で以下の関係を満たす限りは、特に限定されない:
(1)前記敷板の前記セッターが戴置される側の面上の前記メッシュ状部位と対向する所定の領域には、摺動防止部が設けられており、
(2)前記摺動防止部の上方に配される部分を包含する前記第1線条部層の所定の領域にて、前記第1線条部の平均幅をD(mm)とし、
JIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される前記摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とするとき、
5≦Rzjis/D≦100の関係を満たす。
なお、後述の実施形態におけるD1およびD2は、いずれも上記Dの定義に包含されるものであり、また後述の実施形態におけるRzjis1およびRzjis2は、いずれも上記Rzjisの定義に包含されるものである。
【0024】
この敷板の形状は、少なくともセッターが戴置される可能性がある領域においてその上面の基部(基準面)が平面をなしており、セッターの全体が収容され得る外周を有すると共にセッターが安定して戴置され得る限りは特に限定されない。敷板の形状は、例えば、略円形、略楕円形、略矩形等の多角形などの平板状であってよい。敷板の基材部(以降、敷板の摺動防止部以外の部分を指す)の厚みは、少なくともセッターが戴置される可能性がある領域において、特に限定されないが、例えば1mm以上50mm以下であってよく、または2mm以上30mm以下であってよい。敷板の基材部の厚みは、少なくともセッターが戴置される可能性がある領域において、敷板全体で同一の厚みであってよいし、一部において厚みの変化があってもよい。また、敷板の少なくとも一部に周壁やリブを備えていてよい。敷板はその周囲の全体に周壁やリブを備えていてもよい。また、敷板は、多段積みによる焼成の際のハンドリング性や通気性の確保の観点から、その底部の一部に(通常は周縁近傍の複数の箇所に)脚部を備えていてよい。あるいは、敷板は、そのような脚部の代わりに頂部の一部に(通常は周縁近傍の複数の箇所に)支持柱を備えていてよい。敷板には、焼成プロセスの際の通気性を保持するため、通常、単数個のあるいは複数個に分かれた開口部(中空部)が形成されていることが好ましい。通気性の観点から、敷板の周縁近傍以外の過半部が開口部であることも好ましい。同様の観点から、敷板の開口部は、特に限定されないが、敷板の外縁によって形成される平面内の面積に対して60%以上、70%以上、または80%以上を占めていることが好ましい。また、同様の観点から、敷板の開口部の面積は、特に限定されないが、敷板に戴置されるセッターの面積の70%以上、80%以上または90%以上であることも好ましい。
【0025】
敷板のセッターが戴置される側の面上のメッシュ状部位と対向する所定の領域には、セッターの摺動を防止するための摺動防止部が設けられている。本明細書における「摺動防止」とは、敷板のセッターが戴置される側の面上のメッシュ状部位と対向する所定の領域に物理的に摺動を防止・抑制し得る機能を与えることによって、敷板のセッターが戴置される側の面上の所定の領域がこの機能を与えられていない平面で形成されていると仮定した場合に当該平面上にセッターを戴置したときの摺動に対する摩擦抵抗と比べて、より大きい摩擦抵抗を与えるいかなる事象をも指す意図である。摺動防止部は、通常、敷板(基材部)の面上に形成された略連続的な凹凸形状で構成され、それによって物理的に摺動を防止・抑制し得る機能が与えられる部位を指すが、これに限定されない。例えば、摺動防止部は、敷板(基材部)の面上にて、所定の面積内に形成された略連続的な凹凸形状と、別の位置の所定の面積内に形成された略連続的な凹凸形状とが、一定のまたは一定でない所定の間隔で配設されているものであってもよい。
【0026】
敷板のセッターが戴置される側の面上の「所定の領域」は、メッシュ状部位の少なくとも一部と対向する位置を含む領域である限り特に限定されず、この領域は1個であっても複数個(例えば、2個以上10個以下)であってもよい。すなわち、セッターにおけるメッシュ状部位の配置やメッシュの形状設計などの諸要素に対応させて、敷板の面上の「所定の領域」を適宜決定することができる。1つまたは分離された複数(2つもしくは3つ以上もしくは4つ以上もしくは5つ以上)の所定の領域のそれぞれに、摺動防止部が設けられていてよい。分離された複数の所定の領域に摺動防止部が設けられている場合、各領域の摺動防止部の面積は同じであっても異なっていてもよい。敷板のセッターが戴置される側の面上のメッシュ状部位と対向する全ての位置を含む領域に摺動防止部を設けてもよい。敷板のセッターが戴置される側の面上の略全体に摺動防止部を設けてもよい。
【0027】
図3に、本発明による焼成治具におけるセッターと敷板との組み合わせの一実施形態を示す。本発明による焼成治具のセッターおよび敷板のいずれも
図3の形態に限定されるわけではなく、これは単なる一例である。
図3において、4は焼成治具(敷板とセッターの組み合わせからなる)、5はセッター(セラミックスシート)、6は敷板、7は枠体(敷板の基材部)、8は中空部(開口部)、9は周壁部(リブ)、10は脚部、11は摺動防止部を示す。焼成治具4の一部材であるセッター5は、略一定間隔で一方向に延伸する第1線条部で構成された第1線条部層、および略一定間隔でこれと略直行して一方向に延伸する第2線条部で構成された第2線条部層からなるメッシュ状部位で全体的に形成されている。焼成治具4の他方の部材である敷板6は、中空部8を有する略矩形の板状体である枠体7から構成されており、その周囲全体に直立した周壁部9が形成されていると共に、矩形の四隅の各々に多段積み用の脚部10を備えている。周壁部(リブ)9は、周囲全体を形成する構成として例示されているが、周囲の一部であってもよい。敷板6の枠体7の上面は、セッター5の周縁部の全体が戴置可能な平面をなすと同時に、周壁部9は、セッター5が敷板6の枠体7に戴置される際にセッター5の周縁部の全体が周壁部まで所定の間隔を有するように形成されている。敷板6の枠体7の各辺の面上の所定の位置に、それぞれ摺動防止部(略連続的な凹凸形状)11が形成されている。セッター5が敷板6の枠体7に戴置されるとき、枠体7の各辺の面上で、セッター5の全体をなすメッシュ状部位が複数の摺動防止部11の少なくとも一部の上に配置されて、摺動に対する防止・抑制性能が付与される。このようなセッター5と敷板6との組み合わせである焼成治具4の複数個を縦方向に積層することによって、多段積みの焼成治具を形成することができる。このような多段積みでは、中空部8に加えて、複数の脚部10の間において、また周壁部が周囲の一部に形成されている場合はそれらの間において、通気性が確保され、効率的な焼成プロセスが実施され得る。
【0028】
図3に一例として示されているように、敷板のセッターが戴置される側の面上のメッシュ状部位と対向する所定の複数領域の各々に摺動防止部(典型的には略連続的な凹凸形状)が設けられており、セッターが敷板に戴置されたとき、敷板の当該複数領域の各々がセッターの周縁近傍に対応するように摺動防止部が配置されていることは、本発明による焼成治具の好ましい一実施形態である。摺動防止部と第1線条部との後述の関係を満たすと共に、このような配置形態を採用することによって、セッターが敷板上により安定して戴置され、セッターの敷板上での摺動を効果的に防止・抑制することが可能になる。
また、この効果をより確実に享受するために、敷板上の摺動防止部が設けられた領域の総面積は、対向するセッター面の全体の面積の0.004%以上であることが好ましく、0.2%以上であることがより好ましく、0.5%以上であることが更により好ましい。一方、敷板製造時の不良品発生率の低減や敷板とセッターとを多段積みした状態で効率よく被焼成物を焼成させる観点から、この割合は、15%以下であってよく、典型的には10%以下であってよい。
【0029】
図4に、本発明による焼成治具におけるセッターと敷板との組み合わせの一実施形態を示す。本図は、セッターが敷板に戴置された状態である。ここで、12はセッターのメッシュ状部位の第1線条部、13は敷板(基材部)、14は敷板上の所定の領域に形成された摺動防止部(敷板上の所定の領域に複数の摺動防止部が形成されている場合はそのうちの1つ)を示す。本図において、セッターが敷板に戴置されたとき、摺動防止部14として略連続的に形成された凹凸形状の微小な突起群のうちの1つ以上(通常は図示されているように突起群のうちの複数)が第1線条部12に接触している。
なお、
図4(及び後述の
図5)にて、摺動防止部14の凹凸形状の微小な突起群は、説明の都合上からの一例として、各々隣りの突起と接触した状態のものとして描かれているが、これに限定されない。
【0030】
図4に示されるように、摺動防止部14の上方に配される第1線条部層の所定の領域にて第1線条部12の平均幅をD
1(mm)とし、敷板13上のメッシュ状部位と対向する所定の領域に設けられた摺動防止部14についてJIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部14の10点平均粗さをRzjis
1(μm)とするとき、D
1(mm)に対するRzjis
1(μm)の比率が5以上でありかつ100以下である、すなわち5≦Rzjis
1/D
1≦100の関係が満たされる。
【0031】
ここで、第1線条部12は、通常、一定の幅を有して一方向に延伸されるように設計されているが、その幅は、焼成に供される成形体の形成プロセスおよび焼成プロセスに起因する微小な誤差を生じ得る。このような第1線条部の幅の誤差を考慮して、第1線条部12の平均幅をD1と定義する(後述する別の実施形態における平均幅をD2についても同様である)。すなわち、所定領域内で、第1線条部の設計方向に対して垂直な方向における、敷板の上面に平行な平面視にて第1線条部の幅の任意の5箇所の平均を、平均幅D1と定義する。
また、摺動防止部14の10点平均粗さRzjis1(μm)測定のためのレーザー顕微鏡を用いた観察は、例えば、レーザー顕微鏡として(株)キーエンス製「VK-8710」を採用し、撮影倍率200倍でスキャンされた断面曲線を観察対象として測定を行う(後述する別の実施形態における平均幅をRzjis2についても同様である)。
【0032】
このように、第1線条部層の所定の領域にて第1線条部の平均幅をD(mm)とし、敷板上のメッシュ状部位と対向する所定の領域に設けられた摺動防止部についてJIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とするとき、5≦Rzjis/D≦100の関係が満たされることによって、セッターの敷板上での摺動に対する十分かつ適切な程度の摩擦抵抗が付与されることになる。これにより、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することが可能になると同時に、敷板上に戴置されるセッターの破損・落下およびセッター上に配置される被焼成物の損傷を効果的に抑制することができ、ひいてはセラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性が大幅に向上し得るという意外かつ優れた効果が得られる。
【0033】
好ましい実施形態において、上述の所望の諸効果をより高める観点から、第1線条部層の所定の領域にて第1線条部の平均幅をD(mm)とし、敷板上のメッシュ状部位と対向する所定の領域に設けられた摺動防止部についてJIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とするとき、Rzjis/Dの範囲は、5≦Rzjis/D≦95、5≦Rzjis/D≦90、5≦Rzjis/D≦85、5≦Rzjis/D≦80、5≦Rzjis/D≦75、5≦Rzjis/D≦70、5≦Rzjis/D≦65、5≦Rzjis/D≦60、5≦Rzjis/D≦55、5≦Rzjis/D≦50、10≦Rzjis/D≦100、10≦Rzjis/D≦95、10≦Rzjis/D≦90、10≦Rzjis/D≦85、10≦Rzjis/D≦80、10≦Rzjis/D≦75、10≦Rzjis/D≦70、10≦Rzjis/D≦65、10≦Rzjis/D≦60、10≦Rzjis/D≦55、10≦Rzjis/D≦50、15≦Rzjis/D≦100、15≦Rzjis/D≦95、15≦Rzjis/D≦90、15≦Rzjis/D≦85、15≦Rzjis/D≦80、15≦Rzjis/D≦75、15≦Rzjis/D≦70、15≦Rzjis/D≦65、15≦Rzjis/D≦60、15≦Rzjis/D≦55、15≦Rzjis/D≦50、20≦Rzjis/D≦100、20≦Rzjis/D≦95、20≦Rzjis/D≦90、20≦Rzjis/D≦85、20≦Rzjis/D≦80、20≦Rzjis/D≦75、20≦Rzjis/D≦70、20≦Rzjis/D≦65、20≦Rzjis/D≦60、20≦Rzjis/D≦55、20≦Rzjis/D≦50、25≦Rzjis/D≦100、25≦Rzjis/D≦95、25≦Rzjis/D≦90、25≦Rzjis/D≦85、25≦Rzjis/D≦80、25≦Rzjis/D≦75、25≦Rzjis/D≦70、25≦Rzjis/D≦65、25≦Rzjis/D≦60、25≦Rzjis/D≦55、または25≦Rzjis/D≦50であってよい。
【0034】
他の好ましい実施形態において、上述の所望の諸効果をより高める観点から、敷板上のメッシュ状部位と対向する所定の領域に設けられた摺動防止部についてJIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とするとき、Rzjisの範囲は、1≦Rzjis≦30(以降にてRzjisの単位であるμmの表記を省略する。)、1≦Rzjis≦25、1≦Rzjis≦20、1≦Rzjis≦18、1≦Rzjis≦16、3≦Rzjis≦30、3≦Rzjis≦25、3≦Rzjis≦20、3≦Rzjis≦18、3≦Rzjis≦16、5≦Rzjis≦30、5≦Rzjis≦25、5≦Rzjis≦20、5≦Rzjis≦18、5≦Rzjis≦16、7≦Rzjis≦30、7≦Rzjis≦25、7≦Rzjis≦20、7≦Rzjis≦18、7≦Rzjis≦16、10≦Rzjis≦30、10≦Rzjis≦25、10≦Rzjis≦20、10≦Rzjis≦18、または10≦Rzjis≦16であってよい。
【0035】
図5に、本発明による焼成治具におけるセッターと敷板との組み合わせの別の一実施形態を示す。本図は、セッターが敷板に戴置された状態である。ここで、15はセッターのメッシュ状部位の第1線条部、16は敷板(基材部)、17は敷板上の所定の領域に形成された摺動防止部(敷板上の所定の領域に複数の摺動防止部が形成されている場合はそのうちの1つ)を示す。本図において、セッターが敷板に戴置されたとき、摺動防止部として略連続的に形成された凹凸形状の微小な突起群のうちの1つ以上(通常は図示されているように突起群のうちの複数)が第1線条部15に接触している。
【0036】
図5に示されるように、摺動防止部17の上方に配される第1線条部層の所定の領域にて第1線条部15の平均幅をD
2(mm)とし、敷板16上のメッシュ状部位と対向する所定の領域に設けられた摺動防止部17について、JIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部17の10点平均粗さをRzjis
2(μm)とし、JIS B0601:2001に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部の最大高さをRz(μm)とするとき、5≦Rzjis
2/D
2≦100(あるいは上述のいずれかの好ましい範囲)の関係だけでなく、Rzjis
2(μm)に対するRz(μm)の比率が1.1以上でありかつ10以下である、すなわち、1.1≦Rz/Rzjis
2≦10の関係の関係も満たされる。好ましい一実施形態において、この比率は1.2≦Rz/Rzjis
2≦3であってよい。
なお、摺動防止部17の最大高さRz(μm)測定のためのレーザー顕微鏡を用いた観察は、Rzjis
1およびRzjis
2と同様に、例えば、レーザー顕微鏡として(株)キーエンス製「VK-8710」を採用し、撮影倍率200倍でスキャンされた断面曲線を観察対象として測定を行う。
【0037】
このように、第1線条部層の所定の領域にて第1線条部の平均幅をD(mm)とし、敷板上のメッシュ状部位と対向する所定の領域に設けられた摺動防止部についてJIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とし、JIS B0601:2001に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部の最大高さをRz(μm)とするとき、5≦Rzjis/D≦100(あるいは上述のいずれかの好ましい範囲)の関係に加えて、1.1≦Rz/Rzjis≦10の関係が満たされることによって、摺動防止部の凹凸形状の平均的な粗さに対して極度に突出した高さの凹凸形状の存在が排除され、セッターの敷板上での摺動を十分に防止することが可能になると共に、敷板上に戴置されるセッターの破損・落下およびセッター上に配置される被焼成物の損傷をより高度に抑制することができる。これによって、セラミックス製品の焼成治具としてのハンドリング性がさらに飛躍的に向上し得る。
【0038】
好ましい実施形態において、上述の所望の諸効果をより高める観点から、第1線条部層の所定の領域にて第1線条部の平均幅をD(mm)とし、敷板上のメッシュ状部位と対向する所定の領域に設けられた摺動防止部についてJIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とし、JIS B0601:2001に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される摺動防止部の最大高さをRz(μm)とするとき、Rz/Rzjisの範囲は、1.1≦Rz/Rzjis≦10、1.2≦Rz/Rzjis≦10、1.3≦Rz/Rzjis≦10、1.4≦Rz/Rzjis≦10、1.5≦Rz/Rzjis≦10、1.6≦Rz/Rzjis≦10、1.7≦Rz/Rzjis≦10、1.8≦Rz/Rzjis≦10、1.9≦Rz/Rzjis≦10、2≦Rz/Rzjis≦10、1.1≦Rz/Rzjis≦7、1.2≦Rz/Rzjis≦7、1.3≦Rz/Rzjis≦7、1.4≦Rz/Rzjis≦7、1.5≦Rz/Rzjis≦7、1.6≦Rz/Rzjis≦7、1.7≦Rz/Rzjis≦7、1.8≦Rz/Rzjis≦7、1.9≦Rz/Rzjis≦7、2≦Rz/Rzjis≦7、1.1≦Rz/Rzjis≦5、1.2≦Rz/Rzjis≦5、1.3≦Rz/Rzjis≦5、1.4≦Rz/Rzjis≦5、1.5≦Rz/Rzjis≦5、1.6≦Rz/Rzjis≦5、1.7≦Rz/Rzjis≦5、1.8≦Rz/Rzjis≦5、1.9≦Rz/Rzjis≦5、2≦Rz/Rzjis≦5、1.1≦Rz/Rzjis≦3、1.2≦Rz/Rzjis≦3、1.3≦Rz/Rzjis≦3、1.4≦Rz/Rzjis≦3、1.5≦Rz/Rzjis≦3、1.6≦Rz/Rzjis≦3、1.7≦Rz/Rzjis≦3、1.8≦Rz/Rzjis≦3、1.9≦Rz/Rzjis≦3、または2≦Rz/Rzjis≦3であってよい。
【0039】
セッターおよび摺動防止部を備えた敷板の製造方法
以降にて、セッターおよび摺動防止部を備えた敷板の製造方法を説明するが、これらは非限定的な一例として理解されるべきである。
【0040】
上述のとおり、セッターのメッシュ状部位以外の部位(存在する場合)は、いかなる公知のセッターの構造が採用されてもよいし、また、メッシュ状部位とそれ以外の部分は、いかなる公知の手法で組み合わせてもよく、あるいは両者が一体的に形成されたセラミックスシート焼結体としてもよい。従って、以降では、セッターのメッシュ状部位の製造方法に焦点を当てて説明する。
セッターのメッシュ状部位を製造するためのセラミックス原料粉の例は、上述されたとおりである。原料ペースト中のセラミックス原料粉の質量割合は、ペースト全体の質量に対して、通常20質量%以上85質量%以下であってよく、30質量%以上75質量%以下であることが好ましい。
【0041】
原料ペーストに用いられるセラミックス原料粉の平均粒径は、通常0.1~20μmの範囲であってよく、好ましくは0.2~10μmの範囲であってよい。ここでのセラミックス原料粉の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による体積累積中位径 (D50)の値である。セラミックス原料粉の平均粒径が上記範囲内であることによって、焼成後の構造的な強度・安定性が増大し、崩壊の可能性が低減された焼結体を得ることが可能になる。
【0042】
メッシュ状部位の第1線条部層および第2線条部層の前駆体である成形体を作成するための原料ペーストの媒体としては、通常、水が用いられる。水以外の媒体としては、アルコール、アセトン及び酢酸エチルなども用いられる。これらの媒体を2種類以上混合してもよい。原料ペーストにおける媒体の質量割合は、ペースト全体の質量に対して、通常10質量%以上60質量%以下であってよく、15質量%以上55質量%以下であることが好ましい。
【0043】
メッシュ状部位の第1線条部層および第2線条部層の前駆体である成形体を作成するための原料ペーストは、任意選択で公知のいずれかの焼結助剤を適当量で含んでいてよい。また、原料ペーストは公知のいずれかの結合剤を含んでよい。原料ペーストにおける結合剤の質量割合は、原料ペーストの全質量に対して、例えば0質量%以上40質量%以下であってよく、1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0044】
原料ペーストの粘度は、線条塗工体の塗布時の温度において高粘度であることが、線条塗工体を首尾よく製造し得る点から好ましい。原料ペーストの粘度は、特に限定されないが、塗布時の温度(典型的には約25℃等の室温)において1.5MPa・s以上5.0MPa・s以下であることが好ましい。ここでの原料ペーストの粘度は、コーンプレート型回転式粘度計又はレオメーターを用いて、回転数0.3rpmにて測定開始後4分時の測定値を指す。原料ペーストには、粘性調整剤として、公知のいずれかの増粘剤、凝集剤、チクソトロピック剤などを含有させることができる。
【0045】
メッシュ状部位の第1線条部層および第2線条部層の前駆体である成形体を得るための吐出装置からの吐出量を安定させるため、原料ペーストは、例えば、公知のいずれかの可塑剤、潤滑剤、分散剤、沈降抑制剤、pH調整剤などを含んでもよい。
【0046】
このようにして得られた原料ペーストを吐出装置から平坦な基板上に吐出することによって、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条塗工体を形成する。第1線条塗工体はメッシュ状部位の第1線条部に対応するものである。
吐出装置としては、例えば小型押し出し機や印刷機などの公知の種々の装置を用いることができる。これらの吐出装置は、典型的に、ノズルを有するディスペンサを備えていてよい。第1線条塗工体が吐出された後、第1線条塗工体に含まれている媒体を除去して乾燥させ、粘度を高める操作を行うことができる。媒体除去操作後の第1線条塗工体における媒体の割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下にまで低減されていてよい。
【0047】
次いで原料ペーストを用いて、第1線条塗工体の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条塗工体を形成する。第2線条塗工体は、メッシュ状部位の第2線条部に対応するものである。第2線条塗工体を形成するための原料ペーストは、第1線条塗工体を形成するための原料ペーストと同一であっても異なっていてよいが、線条塗工体形成の効率性、ならびに、生産するセラミックスシート焼結体の構造および物性の一体性の観点から、同一であることがより好ましい。
【0048】
成形体として形成される複数条の第1線条塗工体および複数条の第2線条塗工体の具体的な形状は、上述した種々のメッシュ状部位の所望の形状に適合させるように構築することができる。
【0049】
追加の一実施形態において、原料ペーストを用いて、第2線条塗工体の各条の上に接して第1線条塗工体および第2線条塗工体と交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第3線条塗工体を任意選択的に形成してもよい。任意選択の第3線条塗工体を形成するための原料ペーストは、第1/第2線条塗工体を形成するための原料ペーストと同一であっても異なっていてよいが、線条塗工体形成の効率性、ならびに、生産するメッシュ状部位の構造および物性の一体性の観点から、同一であることがより好ましい。
【0050】
このようにして得られた複数条の第1線条塗工体および複数条の第2線条塗工体を含む成形体を基板(成形体の形成作業台)から剥離して焼成治具(焼成炉)内に配置し、焼成することによって、目的とするメッシュ状部位が得られる。焼成により、複数条の第1線条部で構成される第1線条部層、および複数条の第2線条部で構成される第2線条部層を含むメッシュ状部位は、通常、各部材の接着剤による物理的結合を含まない一体的な構造物である焼結体として構築される。
【0051】
メッシュ状部位を得るための焼成プロセスは、必要に応じて、大気雰囲気中(大気圧下)で行ってもよいし、例えば窒素などの不活性ガスによる加圧下にて行ってもよい。焼成温度は、セラミックス素材の原料粉の種類に応じて適切な温度を選択すればよい。焼成時間に関しても同様である。焼成温度の非限定的な例としては、500℃以上、800℃以上、または1000℃以上であってよく、4000℃以下、3500℃以下、または3000℃以下であってよい。焼成時間の非限定的な例としては、30分以上、1時間以上または2時間以上であってよく、24時間以下、12時間以下、または6時間以下であってよい。
【0052】
敷板の基材部(摺動防止部以外)およびその上に設けられる摺動防止部を製造するためのセラミックス原料粉および添加剤は、セッターのメッシュ状部位について上述された事項の中から同様に適宜選択され得る。例えば、敷板のセラミックス原料粉は、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、酸化マグネシウム(MgO)、ムライト(3Al2O3-2SiO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ホウ素(B4C)、コージェライト(MgO/Al2O3/SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2TiO5)、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)、二硼化チタン(TiB2)などの1種または2種以上の組み合わせであってよい。
【0053】
敷板の基材部(摺動防止部以外)とその上に設けられる摺動防止部とは、同じ原料(すなわち同じセラミックス原料粉および添加剤の混合物を含む原料)から形成されていても、異なる原料から形成されていてもよい。敷板の基材部とその上に設けられる摺動防止部とは、焼成時の加熱、冷却(つまり膨張、収縮)や、セッターおよび被焼成物の荷重などによる摺動防止部の脱粒または剥離を防止・抑制する観点から、同じ原料から形成されていることがより好ましい。
【0054】
敷板の摺動防止部の形成方法は、その10点平均粗さRzjisと第1線条部の平均幅Dとの上述された関係が満足される限りは特に限定されず、敷板(基材部)の面上に略連続的な凹凸形状を形成し得る公知のいずれのプロセスも採用することができる。摺動防止部の形成方法の典型例としては、敷板の基材部とその上に設けられる摺動防止部とが同じ原料から形成されている場合には、焼成物である敷板(基材部)の面上に対するブラスト加工(ブラスト処理)や、敷板の基材部とその上に設けられる摺動防止部とが異なる原料から形成されている場合には、無機物質のスプレー(溶射)による凹凸形状の形成プロセスなどが挙げられる。被焼成物の焼成プロセスによる加熱とその後の冷却の繰り返しや、セッターおよび被焼成物の荷重等に起因する摺動防止部の脱粒または剥離を十分に防止・抑制する観点から、ブラスト加工がより好ましい。
【0055】
通常、ブラスト加工は、焼成物の敷板(基材部)の表面の所定領域に対して、粒子状のメディア(投射材)をノズルから投射することにより行うことができる。
例えば、ノズルの吐出径は0.5mm以上10.0mm以下であってよく、好ましくは0.75mm以上8.5mm以下であってよい。メディアの粒径は1.0μm以上1000μm以下であってよく、好ましくは2.0μm以上800μm以下であってよい。メディアの投射量は10g/分以上3000g/分以下であってよく、好ましくは25g/分以上2750g/分以下であってよい。また、メディアの吐出圧力は0.005MPa以上0.5MPa以下であってよく、より好ましくは0.01MPa以上0.1MPa以下であってよい。メディアの材質の例としては、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、鉄、アルミ、亜鉛、ガラス、スチール及びボロンカーバイトが挙げられる。メディアのモース硬度は4以上であってよく、好ましくは5.5以上、または6.0以上であってよい。
敷板上の所望の領域に選択的にブラスト加工を行うために、マスキングを用いることも好ましい。
【0056】
無機物質のスプレー(溶射)に用いられる無機物質の種類は、特に限定されないが、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化チタン(チタニア)、酸化クロム(クロミア)、酸化マグネシウム(マグネシア)、またはこれらの混合物などの金属酸化物であるセラミックス材を挙げることができる。
スプレー(溶射)のプロセスとしては、公知のいずれかの手法・条件から適宜選択することができる。コールドスプレー(低温溶射法)も採用され得る。また、フレーム溶射、プラズマ溶射、高速フレーム(ガス)溶射などのいずれの手法も採用され得る。
【実施例】
【0057】
セッターとしてのメッシュ状セラミックスシート1の製造
(1)線条塗工体形成用のペーストの調製
平均粒径0.8μmの3モル%イットリア添加部分安定化ジルコニア粉65.3部と、水系結合剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(平均重合度:30万g/mol)5.0部と、可塑剤として、グリセリン2.5部と、ポリカルボン酸系分散剤(分子量12000)1.1部と、水26.1部とを混合し、脱泡してペーストを調製した。ペーストの粘度は25℃において2.3MPa・sであった。
(2)線条塗工体の形成
前記のペーストを原料とし、直径0.8mmの断面円形ノズルを有するディスペンサを用いて樹脂基板上に線条第1塗工体を形成した。次いでドライヤーを用いて線条第1塗工体に熱風を吹き付け水を除去して線条第1塗工体を乾燥させた。乾燥後の線条第1塗工体の水の含有量は10%であった。引き続き線条第1塗工体に交差する線条第2塗工体を形成した。両線条塗工体の交差角度は90度とした。ドライヤーを用いて線条第2塗工体に熱風を吹き付け水を除去して線条第2塗工体を乾燥させた。乾燥後の線条第2塗工体の水の含有量は8%であった。これらの操作によって、垂直に交差した第1線条体と第2線条体からなる格子状前駆体を得た。
(3)焼成工程
乾燥後の格子状前駆体を樹脂基板から剥離した後、大気焼成炉内に載置した。この焼成炉内で脱脂及び焼成を行い、ジルコニア製のメッシュ状セラミックスシート1を得た。焼成温度は1450℃とし、焼成時間は3時間とした。得られたメッシュ状セラミックスシート1においては、第1線条部と第2線条部(それぞれ断面形状は上下方向が僅かに短い略楕円形である)とは、それらの交差部において点接触していた。得られたメッシュ状セラミックスシート1における第1線条部の幅W1は800μm、第2線条部の幅W2は800μmであった。交差部における、第1線条部の幅W1aは880μm、第2線条部の幅W2aは820μmであった。第1線条部のピッチP1は400μm、第2線条部のピッチP2は400μmであった。また、メッシュ状セラミックスシート1における貫通孔の寸法(目開き寸法)は0.4mm□であり、貫通孔の面積は0.16mm2であった。メッシュ状セラミックスシート1における各線条部と辺部との角度は45°であり、第1線条部と第2線条部との交差角は90°であった。メッシュ状セラミックスシート1のサイズは、縦200mm×横200mmであった。
本シートについて上記された第1線条部の幅W1(800μm=0.8mm)は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製、商品名「VHX-5000」)を用いて、第1線条部の設計方向に対して垂直な方向における、敷板の上面に平行な平面視にて第1線条部の幅の任意の5箇所の値を測定したときの、その平均幅Dの値である。
【0058】
セッターとしてのメッシュ状セラミックスシート2の製造
直径0.2mmのノズルを有するディスペンサを用いた以外は上記同様のプロセスによって、垂直に交差した第1線条体と第2線条体からなる格子状前駆体を得た後、上記同様の焼成条件にてジルコニア製のメッシュ状セラミックスシート2を得た。メッシュ状セラミックスシート2における第1線条部の幅W1は200μm(上記測定方法による平均幅D=0.2mm)、第2線条部の幅W2は200μmであった。交差部における、第1線条部の幅W1aは220μm、第2線条部の幅W2aは205μmであった。第1線条部のピッチP1は200μm、第2線条部のピッチP2は200μmであった。また、メッシュ状セラミックスシート2における貫通孔の寸法(目開き寸法)は0.2mm□であり、貫通孔の面積は0.04mm2であった。メッシュ状セラミックスシート2における各線条部と辺部との角度は45°であり、第1線条部と第2線条部との交差角は90°であった。メッシュ状セラミックスシート2のサイズは、縦200mm×横200mmであった。
【0059】
敷板1の製造
原料として、アルミナを65質量部、シリカを35質量部にバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を含む混合材料を用いて前駆体となる成形体を得た後、焼成温度1700℃、焼成時間4時間の焼成条件にて、縦220mm×横220mm×厚み2mmの矩形状の敷板1を得た。敷板1の中央に縦180mm×横180mmの矩形状の開口部を設けると共に、敷板1の周縁全体に高さ3mm、頂部幅7mmの矩形状の周壁部を設け、これによって敷板1の開口部と周壁部との間に幅13mmの矩形状の平面部を設けた。すなわち、この開口部の全体および矩形状の平面部のうちの幅10mmの領域の上に縦200mm×横200mmの上記メッシュ状セラミックスシートが戴置されるとき、敷板の全周にわたり、メッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにこれらの寸法取りを行った。
敷板の矩形状の平面部以外の部分にマスキングを施し、敷板の平面部に対してブロワブラスト装置(株式会社不二製作所製、LDQ-3(AB))を用いて、吐出径12mmのノズルから、白色電融アルミナ♯60を0.5MPaの吐出圧力で60秒間投射することで、ブラスト加工による粗化処理を行い、摺動防止部を形成した。これによって、セッターが戴置される平面部の全体において摺動防止部の10点平均粗さRzjisが18μmである敷板1を得た。摺動防止部の10点平均粗さRzjisは、レーザー顕微鏡として(株)キーエンス製「VK-8710」を用い、撮影倍率200倍でスキャンされた断面曲線を観察対象として測定を行った。
【0060】
敷板2の製造
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを10μmとした以外は、敷板1と同様の手順により敷板2を得た。
【0061】
敷板3の製造
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを12μmとした以外は、敷板1と同様の手順により敷板3を得た。
【0062】
敷板4の製造
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを14μmとした以外は、敷板1と同様の手順により敷板4を得た。
【0063】
敷板5の製造(下記比較例1での使用のための製造)
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを0.5μmとした以外は、敷板1と同様の手順により敷板5を得た。
【0064】
敷板6の製造(下記比較例2での使用のための製造)
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを24μmとした以外は、敷板1と同様の手順により敷板6を得た。
【0065】
敷板2aの製造
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを10μmとし、更に摺動防止部の最大高さRzが12μm(Rz/Rzjis=1.2)となるように調整した以外は、敷板1と同様の手順により敷板2aを得た。
最大高さRz(JIS B0601:2001)は、10点平均粗さRzjis(JIS B0601:1994)と同様に、レーザー顕微鏡として(株)キーエンス製「VK-8710」を用い、撮影倍率200倍でスキャンされた断面曲線を観察対象として測定を行った(以降の敷板2b~2eについても同様)。
【0066】
敷板2bの製造
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを10μmとし、更に摺動防止部の最大高さRzが20μm(Rz/Rzjis=2)となるように調整した以外は、敷板1と同様の手順により敷板2bを得た。
【0067】
敷板2cの製造
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを10μmとし、更に摺動防止部の最大高さRzが30μm(Rz/Rzjis=3)となるように調整した以外は、敷板1と同様の手順により敷板2cを得た。
【0068】
敷板2dの製造
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを10μmとし、更に摺動防止部の最大高さRzが10μm(Rz/Rzjis=1)となるように調整した以外は、敷板1と同様の手順により敷板2dを得た。
【0069】
敷板2eの製造
ブラスト加工の条件を適宜変更することで摺動防止部の10点平均粗さRzjisを10μmとし、更に摺動防止部の最大高さRzが50μm(Rz/Rzjis=5)となるように調整した以外は、敷板1と同様の手順により敷板2eを得た。
【0070】
実施例1
上記敷板1(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:18μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート1(第1線条部の平均幅D:0.8mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は22,5であった。
【0071】
実施例2
上記敷板2(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:10μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は50であった。
【0072】
実施例3
上記敷板1(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:18μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は90であった。
【0073】
実施例4
上記敷板3(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:12μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート1(第1線条部の平均幅D:0.8mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は15であった。
【0074】
実施例5
上記敷板4(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:14μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は70であった。
【0075】
比較例1
上記敷板5(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:0.5μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は2.5であった。
【0076】
比較例2
上記敷板6(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:24μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は120であった。
【0077】
実施例6
上記敷板2a(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:10μm;摺動防止部の最大高さRz:12μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は50、比率Rz/Rzjisは1.2であった。
【0078】
実施例7
上記敷板2b(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:10μm;摺動防止部の最大高さRz:20μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は50、比率Rz/Rzjisは2であった。
【0079】
実施例8
上記敷板2c(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:10μm;摺動防止部の最大高さRz:30μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は50、比率Rz/Rzjisは3であった。
【0080】
参考例1
上記敷板2d(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:10μm;摺動防止部の最大高さRz:10μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は50、比率Rz/Rzjisは1であった。
【0081】
参考例2
上記敷板2e(敷板上の摺動防止部の10点平均粗さRzjis:10μm;摺動防止部の最大高さRz:50μm)に、敷板の全周にわたりメッシュ状セラミックスシートの端部と矩形状の周壁部との間に3mmの間隙が付与されるようにメッシュ状セラミックスシート2(第1線条部の平均幅D:0.2mm)をセッターとして戴置した。この戴置の状態において、比率Rzjis(μm)/D(mm)は50、比率Rz/Rzjisは5であった。
【0082】
メッシュ状セラミックスシート移動開始角度の測定試験
上記実施例1~5、比較例1~2、実施例6~8および参考例1~2にて得られた敷板およびその上に戴置されたメッシュ状セラミックスシートのセッターの組み合わせからなる焼成治具の片端部をゆっくりと上昇させていき、メッシュ状セラミックスシートが敷板上で摺動を始めた際の敷板の傾き角度(°)を測定し、これをシート傾斜時の移動開始角度と定義した。本試験の角度測定機器として、アイリス株式会社製の商品名「アズワン」型番BB01Bの角度計を用いた。
【0083】
メッシュ状セラミックスシート振動時保持時間の測定試験
上記実施例1~5、比較例1~2、実施例6~8および参考例1~2にて得られた敷板およびその上に戴置されたメッシュ状セラミックスシートのセッターの組み合わせからなる焼成治具を振動試験機にセットし、レベル10の強度で振動させ、メッシュ状セラミックスシートが敷板上で3mm摺動するまでの時間(秒)を測定し、これをシート振動時の保持時間と定義した。60Hzの振動試験機として、SINFONIA TECHNOLOGY社製の商品名「VIBRATORY PACKER,TYPE VP-40」を用いた。
【0084】
メッシュ状セラミックスシート振動時の破損の程度の観察試験
上記実施例1~5、比較例1~2、実施例6~8および参考例1~2にて得られた敷板およびその上に戴置されたメッシュ状セラミックスシートのセッターの組み合わせからなる焼成治具を振動試験機にセットし、レベル10の強度で60秒間にわたり継続的に振動させ、振動を停止した後のシートの外観を観察した。60秒間の振動完了前にシートが敷板から落下した場合は、その時点で試験を終了した。
シートの破損の程度は、以下の基準で判断した。
〇(良好):シートの全体において破損は発見されなかった。
△(中程度):シートの一部に傷が見られた。
×(不良):シートの広範な箇所もしくは全体に傷が見られたか、または振動完了前にシートが敷板から落下した。
【0085】
上記実施例1~5、比較例1~2、実施例6~8および参考例1~2についてのシート傾斜時の移動開始角度、シート振動時の保持時間、およびシート振動時の破損の程度の測定・観察結果を、摺動防止部の10点平均粗さRzjis(μm)、第1線条部の平均幅D(mm)および比率Rzjis/Dの値と共に、表1(実施例1~5および比較例1~2)ならびに表2(実施例6~8および参考例1~2)に示した。
【0086】
【表1】
注:
・実施例3では、60秒間の振動完了後に、摺動防止部との接触によりメッシュ状セラミックスシートの表面の一部に傷が発生したことが観察された。
・比較例1では、60秒間の振動完了前に、メッシュ状セラミックスシートが敷板から落下した。
【0087】
【0088】
これらの結果から、本発明に係る焼成治具によって、メッシュ状部位を含むセラミックスシートであるセッターの敷板上での摺動を十分に防止すると共に、セッターの破損を効果的に防止することが可能になることが分かった。
【0089】
なお、本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1].
セッターと、このセッターが戴置される敷板とからなる焼成治具であって、
前記セッターは、少なくとも一部にメッシュ状部位を含むセラミックスシートであり、ここで前記メッシュ状部位は、所与の間隔で配置された各条が一方向に延伸された複数条の第1線条部で構成される第1線条部層、および、前記第1線条部の各条の上に接してこれと交差するように所与の間隔で配置された、各条が一方向に延伸された複数条の第2線条部で構成される第2線条部層を含み、前記第1線条部層と前記第2線条部層とが一体的に形成された部位であり、
(1)前記敷板の前記セッターが戴置される側の面上の前記メッシュ状部位と対向する所定の領域には、摺動防止部が設けられており、
(2)前記摺動防止部の上方に配される部分を包含する前記第1線条部層の所定の領域にて、前記第1線条部の平均幅をD(mm)とし、
JIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される前記摺動防止部の10点平均粗さをRzjis(μm)とするとき、
5≦Rzjis/D≦100の関係を満たす、
焼成治具。
[2].
20≦Rzjis/D≦80(ただし、RzjisおよびDは上記の定義に従う。)の関係を満たす、
上記[1]項に記載の焼成治具。
[3].
5(μm)≦Rzjis≦25(μm)(ただし、Rzjisは上記の定義に従う。)の関係を満たす、
上記[1]または[2]項に記載の焼成治具。
[4].
前記摺動防止部がブラスト加工による凹凸で構成されている、上記[1]~[3]項のいずれか1項に記載の焼成治具。
[5].
前記敷板の前記セッターが戴置される側の面上の前記メッシュ状部位と対向する所定の1つまたは複数の領域に前記摺動防止部が設けられており、
前記セッターが前記敷板に戴置されたとき、前記1つまたは複数領域の各々が前記状セッターの周縁近傍に対応するように前記摺動防止部が配置されている、
上記[1]~[4]項のいずれか1項に記載の焼成治具。
[6].
前記敷板の前記セッターが戴置される側の面上の前記摺動防止部が設けられた所定の領域にて、
JIS B0601:1994に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される前記摺動防止部の10点平均粗さをRzjisとし、
JIS B0601:2001に従い、レーザー顕微鏡を用いた観察によって測定される前記摺動防止部の最大高さをRzとするとき、
1.2≦Rz/Rzjis≦3の関係を満たす、
上記[1]~[5]項のいずれか1項に記載の焼成治具。
【符号の説明】
【0090】
C:被焼成物
S:セッター
P:多段積みで積層された敷板
M:多段積みの焼成治具(上記符号C、S、P、Mは公知例を示す
図1に関する。)
1:メッシュ状部位
2:第1線条部
3:第2線条部
4:焼成治具(セッターと敷板の組み合わせ)
5:セッター
6:敷板
7:枠体(敷板の基材部)
8:中空部(開口部)
9:周壁部(リブ)
10:脚部
11:摺動防止部
12:第1線条部
13:敷板(基材部)
14:摺動防止部
D
1:第1線条部の平均幅
Rzjis
1:摺動防止部の10点平均粗さ(JIS B0601:1994)
15:第1線条部
16:敷板(基材部)
17:摺動防止部
D
2:第1線条部の平均幅
Rzjis
2:摺動防止部の10点平均粗さ(JIS B0601:1994)
Rz:摺動防止部の最大高さ(JIS B0601:2001)