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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】臓器モデル固定具
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/34 20060101AFI20240826BHJP
   G09B 23/32 20060101ALI20240826BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
G09B23/34
G09B23/32
G09B9/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024530407
(86)(22)【出願日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2024007888
【審査請求日】2024-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2023032314
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】709002772
【氏名又は名称】株式会社ファソテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】竹内 淳一
(72)【発明者】
【氏名】安楽 武志
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昌巳
【審査官】前地 純一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-532450(JP,A)
【文献】特許第6496096(JP,B1)
【文献】特開2013-076945(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204311(WO,A1)
【文献】特開2017-223850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-29/14
G09B 1/00- 9/56
G09B 17/00-19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体を模擬したシミュレータ内に収容する臓器モデルを吻合するトレーニング用の臓器モデルを固定する固定具において、
第1の臓器モデルを固定する第1の臓器モデル固定部と、第2の臓器モデルを固定する第2の臓器モデル固定部と、
少なくとも何れかの臓器モデル固定部に、弾性体及びダンパー機構とから成る弾性部を備え、臓器モデルを前記弾性体の伸縮方向に引張り又押圧することにより、前記弾性体の弾性変形に伴う伸縮方向の振動の衝撃力を前記ダンパー機構が吸収することを特徴とする臓器モデル固定具。
【請求項2】
第1の臓器モデル固定部または第2の臓器モデル固定部の何れかに、前記弾性部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル固定具。
【請求項3】
前記弾性部の引張応力及び引張りに対する収縮速度は、当該臓器モデルの実際の臓器の周辺組織に対する引張応力及び引張りに対する収縮速度に応じて調整できる調整機構をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル固定具。
【請求項4】
前記弾性部の弾性応力及び押圧に対する膨張速度は、当該臓器モデルの実際の臓器の周辺組織に対する弾性応力及び押圧に対する膨張速度に応じて調整できる調整機構をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の臓器モデル固定具。
【請求項5】
前記弾性部の引張応力及び引張りに対する収縮速度は、当該臓器モデルの実際の臓器に延設した部位に対する引張応力及び引張りに対する収縮速度に応じて調整できる調整機構をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル固定具。
【請求項6】
前記トレーニングは、前立腺全摘除術における尿道膀胱吻合トレーニングであり、
第1の臓器モデルと第2の臓器モデルが、それぞれ膀胱を模擬した臓器モデルと尿道を模擬した臓器モデルであり、
前記弾性部の引張応力及び引張りに対する収縮速度を、実際の膀胱の周辺組織に対する引張応力及び引張りに対する収縮速度に応じて調整でき、前記弾性部の弾性応力及び押圧に対する膨張速度を、実際の膀胱の周辺組織に対する弾性応力及び押圧に対する膨張速度に応じて調整できる調整機構をさらに備えることを特徴とする請求項3又は4に記載の臓器モデル固定具。
【請求項7】
前記トレーニングは、胃全摘除術における消化管再建術トレーニングであり、
第1の臓器モデルと第2の臓器モデルが、それぞれ食道を模擬した臓器モデルと空腸を模擬した臓器モデルで、各臓器モデルのそれぞれのチューブの長さが実物より短いことを特徴とする請求項5に記載の臓器モデル固定具。
【請求項8】
前記弾性部の弾性力及び前記衝撃力は、医師の経験的な触感に応じて調整されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の臓器モデル固定具。
【請求項9】
前記臓器モデル固定部は、ヒンジを有する可動部を備え、前記可動部が前記臓器モデルの内面を係止して固定することを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル固定具。
【請求項10】
前記臓器モデル固定部は、棒状部材を備え、前記棒状部材に前記臓器モデルが挿通され前記臓器モデルを固定することを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体を模擬したシミュレータに臓器モデルを固定するための固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡下手術は、傷跡が小さく、術後の回復も早いことから、消化器や泌尿器などの手術において多く行われている。しかしながら、腹腔鏡下手術は手術難易度が高く、執刀医の技術の差が出やすいという問題がある。
また、開腹手術や腹腔鏡手術では届きにくかった部位にも到達できる、手振れが補正されるなどの利点を有することから、近年、ロボット支援手術が全国的に増加している。
そこで、このような腹腔鏡下手術やロボット支援手術の手技トレーニングを効果的に行う技術が望まれている。
【0003】
本発明者らは既に、手技トレーニングを効果的に行う技術として、多様でリアルな手技トレーニングができ、かつ収納や持ち運びが容易な組立式の腹腔シミュレータを提案している(特許文献1を参照)。これは、体腔内の全てを精巧に再現するのではなく、トレーニング内容に合わせて、適切な臓器モデル固定具を配置し、かつ、トレーニングに必要な範囲で体腔内を精巧に再現するものであり、これによれば、容易に、多様かつリアルな手技トレーニングが可能である。
【0004】
一方、ロボット手術の大部分を占める前立腺がんの尿道膀胱再建術について、臓器モデルを用いたトレーニングを行うためには、切除後に残された臓器を引っ張って吻合する手技を再現できることが必要である。臓器が引っ張られた状態を再現するためには、臓器モデルの材質や厚み、長さなどを調整することも重要であるが、実際の手術において、鉗子等を用いてある臓器を引っ張った際の引張応力や、臓器を放した際の収縮の程度や速度は、当該臓器自体によるものだけではなく、当該臓器と繋がる他の臓器などの周辺組織による影響も少なくはない。そして、周辺組織による影響を加味した構成とするためには、臓器モデルの材質等を工夫するだけでは限界がある。他方、臓器モデルを用いたトレーニングは、繰り返し行うことが効果的であるため、臓器モデルを低コストで作製するニーズも存在する。
そこで、手術の対象となる臓器だけではなく、当該臓器の周囲の組織構造による影響を再現し、かつ、低コストで臓器モデルを作製可能な臓器モデル固定具が望まれている。
【0005】
臓器の周囲の組織構造を再現する技術としては、弾性変形可能な軟素材からなる対象部材と、当該対象部材に連なる連結体と、当該連結体を変位させる駆動装置とを備えた軟素材の弾性変形機構において、連結体は弾性変形可能な軟素材からなり、対象部材よりもヤング率が大きく設定される弾性変形機構が知られている(特許文献2を参照)。これは、連結体の変位により対象部材を弾性変形させる場合に、対象部材の状態に拘らず、対象部材に外力を付与したときに当該外力の大きさに応じて対象部材を弾性的に変位させるとするものである。しかしながら、特許文献2の軟素材の弾性変形機構は、モータを駆動することで対象部材を弾性変形させるものであり、簡易な構造ではなく、作製コストが高額となるという問題がある。
【0006】
例えば、前立腺がんの手術においては、膀胱と尿道を繋げて再建するが、実際の手技においては、膀胱の一部を引っ張りながら尿道と繋げる必要がある。かかる手技に着目したトレーニング用装置としては、臓器モデルを保持するアーム部材に、臓器モデルに対する直交三軸方向の圧縮力又は引張力を測定する力センサと、センサによる測定値に基づいて外科処置における手技を評価する評価手段を備える医療シミュレータが知られている(特許文献3を参照)。
しかしながら、特許文献3の医療シミュレータは、臓器モデルに対する圧縮力や引張力を測定することはできるが、当該臓器の周囲の組織構造による影響を再現するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第7101320号公報
【文献】特開2014-52480号公報
【文献】国際公開パンフレット2017/204311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる状況に鑑みて、本発明は、臓器モデルの周辺組織の構造から生じる引張応力又は弾性応力を再現した臓器モデル固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明の臓器モデル固定具は、人体を模擬したシミュレータ内に収容する臓器モデルを吻合するトレーニング用の臓器モデルを固定する固定具において、第1の臓器モデルを固定する第1の臓器モデル固定部と、第2の臓器モデルを固定する第2の臓器モデル固定部と、少なくとも何れかの臓器モデル固定部に、弾性体及びダンパー機構とから成る弾性部を備え、臓器モデルを弾性体の伸縮方向に引張り又押圧することにより、弾性体の弾性変形に伴う伸縮方向の振動の衝撃力をダンパー機構が吸収する。
臓器モデルは、軟質の樹脂で形成される。臓器モデル自体の弾性力と併せて、弾性部が設けられることにより、第1の臓器モデルと第2の臓器モデルを吻合するトレーニングにおいて、臓器モデルの周辺組織の構造から生じる引張応力や引張りに対する収縮速度をより正確に再現できる。
弾性部を構成する弾性体やダンパー機構については、公知のバネやダンパーが用いられる。弾性部を適宜調整可能な構成とし、或いは、部材を付け替え可能な構成とする等により、ユーザのニーズに合わせた調整が可能となる。弾性部は、第1の臓器モデル固定部と第2の臓器モデル固定部の何れか一方のみに設けられてもよいし、双方に設けられてもよい。また、本発明の臓器モデル固定具には、第1の臓器モデル固定部及び第2の臓器モデル固定部以外に臓器モデル固定部が設けられてもよい。3つ以上の臓器モデル固定部が設けられる場合は、3つ以上の臓器モデル固定部に、それぞれ弾性部が設けられてもよい。更に、各固定部に設けられる弾性部は複数でもよい。
なお、「引張り」と「押圧」については、1つの固定部に「引張り」と「押圧」の何れか一方に対応した弾性部が設けられることでもよいし、1つの固定部に逆方向に機能する複数の弾性部が設けられることでもよい。また、1つの固定部に1種類の弾性部が設けられる場合であっても、力が加えられる向きによって、引張り力や押圧力となる場合が存在するという意味も含む趣旨である。
【0010】
本発明の臓器モデル固定具は、第1の臓器モデル固定部または第2の臓器モデル固定部の何れかに、弾性部が設けられたことでもよい。弾性部は、必ずしも双方の固定部に設けられる必要はなく、何れか一方の固定部に弾性部が設けられていれば、十分にリアルなトレーニングが可能である場合も存在するからである。
【0011】
本発明の臓器モデル固定具の弾性部の引張応力及び引張りに対する収縮速度は、当該臓器モデルの実際の臓器の周辺組織に対する引張応力及び引張りに対する収縮速度に応じて調整できる調整機構をさらに備えることが好ましい。
例えば、平均的なヒトを基準として、臓器や臓器の周囲の組織から生じる引張応力又は弾性応力を再現したとしても、ヒトの臓器には個人差があり、臓器の周囲の組織から生じる引張応力又は弾性応力についても個人差がある。そこで、調整機構を備えることにより、当該臓器モデルの実際の臓器の周辺組織に対する引張応力及び引張りに対する収縮速度に応じて、弾性部における引張応力及び引張りに対する収縮速度を調整できる。調整機構としては、例えば、臓器モデルを保持する部材を2つに分離し、2つの部材の一方に長孔、他方に雌螺子部を設け、2つの部材の組み合わせ位置を無段階に変化させ、螺子を用いて固定できる構造とすることができる。かかる構造であれば、ユーザは固定位置の微調整ができるため、臓器モデルの一部を鉗子等で把持して、引っ張った状態から把持状態を解除すると、実際の臓器を放したときと同様に収縮する位置を模索して調整できる。例えば、前立腺がんの尿道膀胱再建術のトレーニングにおいて、切除後に残された臓器を引っ張って吻合する手技をリアルに再現できる。
【0012】
本発明の臓器モデル固定具において、弾性部の弾性応力及び押圧に対する膨張速度は、当該臓器モデルの実際の臓器の周辺組織に対する弾性応力及び押圧に対する膨張速度応じて調整できる調整機構をさらに備えることでもよい。これにより、臓器モデル自体の弾性力と併せて、臓器モデルの周辺組織の構造から生じる弾性応力や押圧に対する膨張速度をより正確に再現できる。
【0013】
本発明の臓器モデル固定具の弾性部の引張応力及び引張りに対する収縮速度は、当該臓器モデルの実際の臓器に延設した部位に対する引張応力及び引張りに対する収縮速度に応じて調整できる調整機構をさらに備えることでもよい。
例えば、胃全摘除術のトレーニングにおいて、切除後に残された食道と空腸を吻合する際に、食道と小腸を臓器モデルにして正確に再現しようとすると、小腸が長くなりコストが高額となる。本発明の臓器モデル固定具を用いることで、小腸全体を再現しなくても、空腸の一部を再現した空腸モデルを臓器モデル固定部に取り付けることで、空腸を引っ張りながら食道と吻合する手技をリアルに再現できる。
【0014】
本発明の臓器モデル固定具において、トレーニングは、前立腺全摘除術における尿道膀胱吻合トレーニングであり、第1の臓器モデルと第2の臓器モデルが、それぞれ膀胱を模擬した臓器モデルと尿道を模擬した臓器モデルであり、弾性部の引張応力及び引張りに対する収縮速度を、実際の膀胱の周辺組織に対する引張応力及び引張りに対する収縮速度に応じて調整でき、弾性部の弾性応力及び押圧に対する膨張速度を、実際の膀胱の周辺組織に対する弾性応力及び押圧に対する膨張速度に応じて調整できる調整機構をさらに備えることでもよい。これにより、ロボット手術による前立腺全摘除術のトレーニングを効果的に行うことができる。なお、ここでの周辺組織とは、例えば、脂肪や膜構造などのことである。
【0015】
本発明の臓器モデル固定具において、トレーニングは、胃全摘除術における消化管再建術トレーニングであり、第1の臓器モデルと第2の臓器モデルが、それぞれ食道を模擬した臓器モデルと空腸を模擬した臓器モデルで、各臓器モデルのそれぞれのチューブの長さが実物より短いことでもよい。これにより、臓器モデル全体を再現することなく、リアルなトレーニングが可能となり、コストを低減できる。
本発明の臓器モデル固定具において、弾性部の弾性力及び衝撃力は、医師の経験的な触感に応じて調整されたことが好ましい。医師の経験的な触感に応じた調整は、弾性部に当該臓器モデルを取り付けた状態で、複数の医師がそれぞれ鉗子等で臓器モデルの一部を把持する、引っ張る又は放すといった操作を繰り返し行った上で規定される。
本発明の臓器モデル固定具における臓器モデル固定部は、ヒンジを有する可動部を備え、可動部が臓器モデルの内面を係止して固定することでもよい。また、本発明の臓器モデル固定具における臓器モデル固定部は、棒状部材を備え、棒状部材に臓器モデルが挿通され臓器モデルを固定することでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の臓器モデル固定具によれば、臓器モデルの実際の臓器の周辺組織の構造から生じる引張応力又は弾性応力を正確に再現できるといった効果がある。また、使用する臓器モデルの作製コストを低減できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の臓器モデル固定具の外観斜視図(1)
図2】実施例1の臓器モデル固定具の外観斜視図(2)
図3】実施例1の臓器モデル固定具の平面図
図4】実施例1の臓器モデル固定具の底面図
図5】実施例1の膀胱モデルの外観図
図6】尿道モデルの外観図
図7】組立式腹腔シミュレータの外観斜視図
図8】実施例1の臓器モデル固定具の使用フロー図
図9】尿道モデルの取付イメージ図
図10】実施例1の膀胱モデルの取付イメージ図
図11】臓器モデルが取り付けられた臓器モデル固定具の外観斜視図
図12】実施例1の臓器モデル固定具の組立式腹腔シミュレータへの取付説明図
図13】実施例1の臓器モデル固定具の組立式腹腔シミュレータへの取付イメージ図
図14】実施例1の臓器モデル固定具の使用イメージ図(1)
図15】実施例1の臓器モデル固定具の使用イメージ図(2)
図16】実施例1の臓器モデル固定具の使用イメージ図(3)
図17】実施例1の弾性部の説明図
図18】実施例2の臓器モデル固定具の説明図
図19】その他の実施例の弾性部の説明図
図20】実施例3の臓器モデル固定具の外観斜視図(1)
図21】実施例3の臓器モデル固定具の外観斜視図(2)
図22】実施例3の臓器モデル固定具の平面図
図23】実施例3の膀胱モデルの外観図
図24】実施例3の膀胱モデルの取付イメージ図
図25】実施例3の膀胱モデルが取り付けられた臓器モデル固定具の外観斜視図
図26】実施例3の臓器モデル固定具の使用イメージ図(1)
図27】実施例3の臓器モデル固定具の使用イメージ図(2)
図28】実施例3の臓器モデル固定具の使用イメージ図(3)
図29】実施例3の弾性部の説明図
図30】調整機構の説明図(1)
図31】調整機構の説明図(2)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0019】
実施例1の臓器モデル固定具は、前立腺全摘除術を行った際の尿道膀胱吻合のトレーニングに使用される器具である。図1は、実施例1の臓器モデル固定具の外観斜視図であり、人体の頭側からの斜視図を示している。図1に示すように、実施例1の臓器モデル固定具1は、固定具本体2、膀胱モデル固定部3、尿道モデル固定部4、取付部6から成る。固定具本体2は、支持部21、恥骨部22及び把持部23で構成される。支持部21は、恥骨部22及び膀胱モデル固定部3を支持するものである。恥骨部22は、恥骨を再現するものであり、恥骨部22の足側には尿道モデル固定部4が設けられる。把持部23は、臓器モデル固定具1を組立式腹腔シミュレータ10(図7参照)に取り付ける際に把持して使用するものである。膀胱モデル固定部3は、膀胱モデル7(図5参照)を取り付けるものであり、尿道モデル固定部4は、尿道モデル8(図6参照)を取り付けるものである。取付部6は、組立式腹腔シミュレータ10の固定部への取付部位となるものである。
【0020】
図2は、実施例1の臓器モデル固定具の外観斜視図であり、足側からの斜視図を示している。図2に示すように、尿道モデル固定部4は、可動部41、ヒンジ部42及び留め具43を備える。尿道モデル固定部4に尿道モデル8を取り付ける際は、留め具43を外し、ヒンジ部42を軸中心に可動部41を開いて、尿道モデル8を取り付ける。
【0021】
図3は、実施例1の臓器モデル固定具の平面図を示している。図3に示すように、膀胱モデル固定部3は、可動部31、ヒンジ部32、非可動部33、弾性部材34、保持部35で構成される。膀胱モデル固定部3は、弾性部5と接続されている。
弾性部5は、尿道膀胱吻合において、膀胱が鉗子等で引っ張られた際に、膀胱の周囲の組織から生じる弾性力を再現するものである。
【0022】
図4は、実施例1の臓器モデル固定具の底面図を示している。図4に示すように、臓器モデル固定具1の底部には、取付部6が設けられる。取付部6は、可動部61、ヒンジ部62、留め具63及び凹部64で構成される。留め具63を外して、可動部61を開放することで、シミュレータの固定部への取付け又は取外しが可能である。
【0023】
図5は、実施例1の膀胱モデルの外観図であり、(1)は正面図、(2)は平面図、(3)は底面図を示している。図5(1)に示すように、膀胱モデル7は、膀胱モデル本体71及び縁部72から成る。膀胱モデル本体71の素材はPVA(ポリビニルアルコール)である。図5(2)に示すように、膀胱モデル本体71には5つの開口部(73a~73e)が設けられ、膀胱モデル固定部3に膀胱モデル7を取り付ける際に、固定する向きを変えることで、複数回数の吻合トレーニングが可能となっている。図5(3)に示すように、膀胱モデル本体71の内側には、中空部74が形成される。縁部72は、膀胱モデル本体71よりも厚みがあり、膀胱モデル固定部3に取り付ける際は、縁部72を拡張した上で、膀胱モデル固定部3に係合して取り付ける。
【0024】
図6は、尿道モデルの外観図であり、(1)は平面図、(2)は正面図を示している。図6(1)及び(2)に示すように、尿道モデル8は、チューブ状の部材であり、材質はPVA(ポリビニルアルコール)である。
尿道モデル8は、端部8aから胴部8cを経て端部8bに至るまで同じ径であり、端部8aと端部8bは同形状であるため、何れの端部も吻合トレーニングに利用可能である。
【0025】
臓器モデル固定具1は、腹腔シミュレータに取り付けて使用する。ここで、取付対象となる腹腔シミュレータについて、組立式腹腔シミュレータ10を例に説明する。図7は、組立式腹腔シミュレータの外観斜視図を示している。図7に示すように、組立式腹腔シミュレータ10は、台座11、側板部材(12a,12b)、気腹カバー13および留め具14から成る。図7に示す組立式腹腔シミュレータ10は、台座11上に側板部材(12a,12b)を取り付け、留め具14を用いて固定した後、側板部材(12a,12b)状に気腹カバー13を取り付けたものである。
台座11には、固定部(15a~15c)が設けられている。固定部(15a~15c)は、台座11の長手方向の一方に1つの固定部15a、他方に2つの固定部(15b,15c)が設けられているが、これは、多様な臓器モデル固定具の取付を可能としたものであり、本実施例の臓器モデル固定具1は、固定部15aに取り付けて使用する。台座11と側板部材(12a,12b)は、台座11に設けられた凹部(図示せず)と側板部材(12a,12b)に設けられた凸部(図示せず)を嵌合し、さらに4つの留め具14を用いて固定する。
【0026】
気腹カバー13は、気腹部13a及び枠部13bで構成される。気腹部13aは軟質の樹脂で形成されており、気腹状態の患者の腹部をリアルに再現している。また、枠部13bは硬質の樹脂で形成されている。気腹部13aには複数のポート孔13cが形成されており、多様な位置・角度から内視鏡や鉗子等を挿し込んで手技トレーニングを行うことが可能となっている。また、枠部13bの四隅の裏面には、凹部(図示せず)が形成されており、側板部材(12a,12b)に設けられた凸部(図示せず)と嵌合し得る構造となっている。
【0027】
次に、実施例1の臓器モデル固定具1の使用方法について説明する。図8は、実施例1の臓器モデル固定具の使用フロー図を示している。臓器モデル固定具1の使用に当たっては、まず、臓器モデル固定具1に臓器モデルを取り付ける。具体的には、図8に示すように、まず、尿道モデル固定部4に尿道モデル8を取り付ける(ステップS01)。次に、膀胱モデル固定部3に膀胱モデル7を取り付ける(ステップS02)。
臓器モデル固定具1に尿道モデル8及び膀胱モデル7を取り付けた状態で、臓器モデル固定具1を、組立式腹腔シミュレータ10の台座11に取り付ける(ステップS03)。組立式腹腔シミュレータ10は、臓器モデル固定具1の取付前に台座11に側板部材(12a,12b)を取り付けておいてもよいし、臓器モデル固定具1の取付後に側板部材(12a,12b)を取り付けてもよい。最後に、側板部材(12a,12b)に気腹カバー13を取り付ける(ステップS04)。かかる状態で、膀胱と尿道の吻合トレーニングを行う。
なお、ステップS01とステップS02の順序は逆でも構わない。また、臓器モデル固定具1を組立式腹腔シミュレータ10に取り付けた後に、膀胱モデル7や尿道モデル8の取付を行うことも可能である。
以下、各部材の取付方法や機能について詳細に説明する。
【0028】
図9は、尿道モデルの取付イメージ図であり、(1)は尿道モデルの配置前、(2)は尿道モデルの配置後の状態を示している。図9(1)に示すように、尿道モデル固定部4は、尿道モデル固定部本体44、可動部41、ヒンジ部42及び留め具43で構成される。尿道モデル固定部4に尿道モデル8を取り付ける際は、留め具43を外し、ヒンジ部42を軸中心に可動部41を開く。恥骨部22には、尿道モデル8を取り付けるための貫通孔22aが形成されており、貫通孔22aに尿道モデル8の何れか一方の端部(8a,8b)を挿通し、固定位置を微調整する。本実施例では、尿道モデル8の端部8aを貫通孔22aに挿通する(図14参照)。
配置する尿道モデル8の端部8aの位置を調整した状態で、胴部8cを、尿道モデル固定部本体44に設けられた凹部44aに配置する。その後、可動部41を閉じて、尿道モデル固定部本体44と可動部41により尿道モデル8を挟着し、留め具43を用いて固定する。
【0029】
図10は、実施例1の膀胱モデルの取付イメージ図であり、(1)は膀胱モデルの取付前、(2)は膀胱モデルの取付後の状態を示している。膀胱モデル固定部3は、図10(1)に示すように、可動部31、ヒンジ部32、非可動部33、弾性部材34及び保持部35で構成され、可動部31と非可動部33に、膀胱モデル7を係合させて取り付ける構造である。可動部31、ヒンジ部32、非可動部33及び弾性部材34は、保持部35上に設けられる。
可動部31は、ヒンジ部32により図10(1)の矢印の方向に可動する。ヒンジ部32は弾性機構を備え、可動部31に対して、矢印の方向に力を加えると可動するが、力が加えられなくなると、図10(1)の状態に戻る。したがって、膀胱モデル固定部3に膀胱モデル7を取り付ける際は、縁部72の一端を非可動部33に係止した上で、可動部31を矢印方向に移動させつつ、縁部72の他端を可動部31に係止する。可動部31を支える手を離すと、ヒンジ部32の弾性機構により、図10(2)に示すように、膀胱モデル7は膀胱モデル固定部3に安定的に固定される。図10(1)に示す弾性部材34は、スポンジ(EPDM発泡体)で形成され、膀胱モデル7の形状を保持する。
【0030】
図11は、臓器モデルが取り付けられた臓器モデル固定具の外観斜視図を示している。図11に示すように、臓器モデル固定具1に、膀胱モデル7及び尿道モデル8が取り付けられた状態で、組立式腹腔シミュレータ10への取付を行う。
【0031】
図12は、実施例1の臓器モデル固定具の組立式腹腔シミュレータへの取付説明図であり、(1)は取付け前の平面イメージ、(2)は取付け後の平面イメージを示している。図12(1)に示すように、臓器モデル固定具1の組立式腹腔シミュレータ10への取付けの際は、留め具63を外して、可動部61を開放する。かかる状態で、台座11の側方から臓器モデル固定具1の凹部64(図4参照)を固定部15aに嵌合する。凹部64を固定部15aに嵌合した後、図12(2)に示すように、可動部61を閉止し、留め具63を用いて固定する。なお、使用後に臓器モデル固定具1を組立式腹腔シミュレータ10から取外す場合は、留め具63を外して、可動部61を開放し、台座11の側方へ臓器モデル固定具1を摺動させて、凹部64と固定部15aの嵌合状態を解く。
【0032】
図13は、実施例1の臓器モデル固定具の組立式腹腔シミュレータへの取付イメージ図であり、(1)は気腹カバー取付前、(2)は気腹カバー取付後の状態を示している。本実施例では、図13(1)に示すように、台座11には既に側板部材(12a,12b)が取り付けられており、図13(2)に示すように、側板部材(12a,12b)に気腹カバー13を取り付けることでトレーニングの準備が整う。
【0033】
図14~16は、実施例1の臓器モデル固定具の使用イメージ図であり、図14は膀胱モデルを尿道モデルに接近させていない状態、図15は膀胱モデルを尿道モデルに接近させた状態を示している。図14(1)及び図15(1)は斜視図、図14(2)及び図15(2)は左側面図を示している。また、図16(1)は、膀胱モデルを尿道モデルに接近させた状態の平面図、図16(2)は、膀胱モデルを尿道モデルに接近させていない状態の平面図をそれぞれ示している。なお、図14~16においては、説明の都合上、恥骨部22の図示を一部省略している。
図14(1)又は(2)に示すように、膀胱モデル7に対して何も力を加えていない状態では、膀胱モデル7の開口部73aと尿道モデル8の端部8aは離れた状態となっている。膀胱モデル7の開口部73aと尿道モデル8の端部8aは、前立腺全摘除術において、前立腺が全て摘除されたことにより形成された膀胱の開口部と尿道の端部を模擬したものである。
【0034】
実際のトレーニングにおいては、図13(2)に示す気腹カバー13のポート孔13cから鉗子等の医療器具を挿通した上で、開口部73aを尿道モデル8側へ引っ張りながら吻合を行う。
図15(1)、(2)又は図16(1)は、膀胱モデル7が尿道モデル8側へ引っ張られることで、膀胱モデル7の開口部73aと尿道モデル8の端部8aが近接状態となったものである。吻合の途中で不意に開口部73aを放すと、膀胱モデル7は、弾性部5の弾性力により、図16(2)に示す元の位置まで移動する。
【0035】
ここで、弾性部5の構造について説明する。図17は、実施例1の弾性部の説明図であり、(1)は膀胱モデルを尿道モデルに接近させていない状態、(2)は膀胱モデルを尿道モデルに接近させた状態を示している。図17(1)又は(2)に示すように、弾性部5は、弾性部本体51、ダンパー機構としてのショックアブソーバ52及び弾性体としてのコイルスプリング53から成る。ショックアブソーバ52及びコイルスプリング53は、それぞれ公知のショックアブソーバとコイルスプリングを用いている。
膀胱モデル7は膀胱モデル固定部3に固定され、膀胱モデル固定部3は弾性部本体51と接続されているため、図17(1)に示す状態から、図17(2)に示すように、膀胱モデル7が尿道モデル8側へ引っ張られると、弾性部本体51は、左方から右方へ移動する。なお、鉗子などで膀胱モデル7を把持する方向によっては、必ずしも引張り動作ではなく、押圧動作となる場合も存在する。ここではショックアブソーバ52及びコイルスプリング53により、実際の膀胱の周辺組織による引張応力が再現されるが、特に、引く動作についてはコイルスプリング53が設けられることにより実際の膀胱の周辺組織による引張応力がリアルに再現される。図17(1)に示す基準位置からの弾性部本体51の最大可動範囲Rは35mmである。
【0036】
図17(2)に示す状態から膀胱モデル7の把持状態を解除すると、弾性部本体51は、右方から左方へ移動する。ここでは、弾性部本体51は、ショックアブソーバ52及びコイルスプリング53により、自動で図17(1)に示す位置へ戻るが、特に、戻る動作についてはショックアブソーバ52が設けられることにより、コイルスプリング53の弾性変形に伴う伸縮方向の振動の衝撃力をショックアブソーバ52が吸収する。これにより、コイルスプリング53の急激な拡張を防止でき、実際の膀胱に周辺組織が存在することによる収縮速度がリアルに再現される。
ここでの弾性力は、実際の膀胱の開口部を把持し、尿道の端部まで引っ張った状態に加えられる力に基づいて決定される。また、開口部73aを放した際に元の位置まで戻る速度についても、実際の膀胱の開口部を把持し、尿道の端部まで引っ張った状態から、開口部を放した際に元の位置まで戻る速度に基づいて決定される。具体的には、医師の経験的な触感に応じて調整される。これにより、膀胱の周囲の組織から生じる弾性力などを再現した、実際の手技に近いリアルなトレーニングが可能となる。
【実施例2】
【0037】
本発明の臓器モデル固定具は、臓器モデルの製造コストの削減にも役立つ。例えば、胃全摘除術の場合においては、食道と空腸の端部を繋ぐ手術が行われることがあるが、かかる場合に空腸の臓器モデルを正確に再現しようとすると、臓器モデルが長くなってしまい、製造コストが高額となるという問題がある。
図18は、実施例2の臓器モデル固定具の説明図であり、(1)は実施例2の臓器モデル固定具、(2)は従来技術の臓器モデル固定具の説明図を示している。なお、これらは何れも実際の固定具とは異なり、形状をデフォルメしたものである。
図18(2)に示すように、従来技術の臓器モデル固定具101は、台座11b上に、臓器モデル固定部(30b,40b)が設けられている。臓器モデル固定部30bには空腸モデル70b、臓器モデル固定部40bには食道モデル80bのそれぞれ一端が取り付けられている。食道と空腸の端部を繋ぐ消化管再建術のトレーニングを行うためには、空腸モデル70bの他端と、食道モデル80bの他端を吻合する必要がある。ここで、よりリアルな状態を再現するためには、従来技術では、空腸が伸縮する長さLを考慮して、空腸モデル70bの長さLを確保する必要があった。
【0038】
これに対して、実施例2の臓器モデル固定具100では、図18(1)に示すように、台座11a上に、臓器モデル固定部(30a,40a)が設けられ、臓器モデル固定部30aは、弾性部50に接続されている。臓器モデル固定部30aには空腸モデル70a、臓器モデル固定部40aには食道モデル80aのそれぞれ一端が取り付けられている。消化管再建術のトレーニングを行うためには、空腸モデル70aの他端と、食道モデル80aの他端を吻合する必要があるが、空腸が伸縮する長さLを考慮して、空腸モデル70aの長さLと、弾性部50の弾性力及び収縮速度が決定されているため、鉗子等を用いて空腸モデル70aの他端を把持した場合に、臓器モデル固定具101の空腸モデル70bの他端を把持した場合と同様の感触が得られる。また、空腸モデル70aの他端の把持状態を解除した場合の収縮速度についても略同等の速度で収縮するため、従来技術と比較して、空腸モデルの作製コストを大幅に低減できる。
【実施例3】
【0039】
実施例3の臓器モデル固定具は、前立腺全摘除術を行った際の尿道膀胱吻合のトレーニングに使用される器具である。図20は、実施例3の臓器モデル固定具の外観斜視図であり、人体の頭側からの斜視図を示している。図20に示すように、実施例3の臓器モデル固定具1aは、固定具本体2a、膀胱モデル固定部3a、尿道モデル固定部4a、取付部6から成る。固定具本体2aは、支持部21a、恥骨部22b及び把持部23aで構成される。支持部21aは、恥骨部22b及び膀胱モデル固定部3aを支持するものである。恥骨部22bは、恥骨を再現するものであり、恥骨部22bの足側には尿道モデル固定部4aが設けられる。恥骨部22bは、ヒンジ部24を介して尿道モデル固定部4a側に開閉可能となっている。把持部23aは、臓器モデル固定具1aを組立式腹腔シミュレータ10(図7参照)に取り付ける際に把持して使用するものである。膀胱モデル固定部3aは、膀胱モデル7a(図23参照)を取り付けるものであり、上方から膀胱モデル7を被せて取り付ける実施例1の膀胱モデル固定部3とは異なり、側方から挿し込んで取り付ける構造である。尿道モデル固定部4aは、尿道モデル8(図6参照)を取り付けるものである。取付部6は、組立式腹腔シミュレータ10の固定部への取付部位となるものである。取付部6の構造や腹腔シミュレータへの取付については、実施例1と同様であり、組立式腹腔シミュレータ10に取付可能である。
【0040】
図21は、実施例3の臓器モデル固定具の外観斜視図であり、足側からの斜視図を示している。図21に示すように、尿道モデル固定部4aは、可動部41a、ヒンジ部42a及び留め具43aを備える。尿道モデル固定部4aに尿道モデル8を取り付ける際は、留め具43aを外し、ヒンジ部42aを軸中心に可動部41aを開いて、尿道モデル8を取り付ける。かかる構造は実施例1の臓器モデル固定具1と同様である。
【0041】
図22は、実施例3の臓器モデル固定具の平面図を示している。図22に示すように、膀胱モデル固定部3aは、保持部35a及び係止部36で構成される。弾性部54は、尿道膀胱吻合において、膀胱が鉗子等で引っ張られた際に、膀胱の周囲の組織から生じる弾性力を再現するものである。
【0042】
図23は、実施例3の膀胱モデルの外観図であり、(1)は右側面図、(2)は正面図、(3)は斜視図を示している。図23(1)~(3)に示すように、膀胱モデル7aは、略楕円体形状を呈し、係止部36に取り付けるための2つの開口部(73f,73g)と、吻合トレーニングに利用される4つの開口部(73h~73k)が設けられている。膀胱モデル7aの素材はPVA(ポリビニルアルコール)である。
吻合トレーニング用に4つの開口部(73h~73k)が設けられているため、膀胱モデル固定部3aに膀胱モデル7aを取り付ける際に、開口部(73f,73g)を軸中心に略90°回転させて固定する向きを変えることで、複数回数の吻合トレーニングが可能となっている。図23(1)又は(3)に示すように、膀胱モデル本体71の内側には、中空部74aが形成される。膀胱モデル固定部3aに取り付ける際は、2つの開口部(73f,73g)を係止部36に挿し込んで取り付ける。
【0043】
図24は、実施例3の膀胱モデルの取付イメージ図であり、(1)は膀胱モデルの取付前、(2)は膀胱モデルの取付後の状態を示している。図24では、膀胱モデル7aの取付けを行うために、ヒンジ部24を用いて恥骨部22bを開いた状態としている。
図22に示す係止部36は、図24(1)に示すように、端部36aから湾曲して形成された棒状部材が、折り返し部36cにおいて内側に折り返され、折り返し前の湾曲形状に沿って、端部36bまで湾曲して設けられた形状を呈している。膀胱モデル7aを取り付ける際は、まず、端部36aと端部36bの間隙に開口部(73f,73g)を挿し込むようにして、開口部(73f,73g)の何れか一方を端部36bから折り返し部36まで嵌め込み取り付ける。ここでは図24(2)に示すように、開口部73fから挿し込んでいる。係止部36は、膀胱モデル7aを側方から挿し込む構造となっているため、膀胱モデル7aの取付け・取外しが容易であるだけではなく、実際の膀胱やその周辺組織による引張応力を安定的に再現できる。また、係止部36の湾曲形状は、膀胱モデル7aの楕円体形状に合わせて形成されているため、取付後は、足側から膀胱モデル7aを引っ張ったとしても容易には脱落しない構造である。
【0044】
図25は、実施例3の膀胱モデルが取り付けられた臓器モデル固定具の外観斜視図を示している。図25に示すように、臓器モデル固定具1aに、膀胱モデル7a及び尿道モデル8が取り付けられた状態で、組立式腹腔シミュレータ10への取付を行う。
【0045】
図26~28は、実施例3の臓器モデル固定具の使用イメージ図であり、図26は膀胱モデルを尿道モデルに接近させていない状態、図27は膀胱モデルを尿道モデルに接近させた状態を示している。図26(1)及び図27(1)は斜視図、図26(2)及び図27(2)は左側面図を示している。また、図28(1)は、膀胱モデルを尿道モデルに接近させた状態の平面図、図28(2)は、膀胱モデルを尿道モデルに接近させていない状態の平面図をそれぞれ示している。なお、図26~28においては、説明の都合上、恥骨部22bの図示を一部省略している。
図26(1)又は(2)に示すように、膀胱モデル7aに対して何も力を加えていない状態では、膀胱モデル7aの開口部73kと尿道モデル8の端部8aは離れた状態となっている。膀胱モデル7aの開口部73kと尿道モデル8の端部8aは、前立腺全摘除術において、前立腺が全て摘除されたことにより形成された膀胱の開口部と尿道の端部を模擬したものである。
【0046】
実際のトレーニングにおいては、図13(2)に示す気腹カバー13のポート孔13cから鉗子等の医療器具を挿通した上で、開口部73kを尿道モデル8側へ引っ張りながら吻合を行う。
図27(1)、(2)又は図28(1)は、膀胱モデル7aが尿道モデル8側へ引っ張られることで、膀胱モデル7aの開口部73kと尿道モデル8の端部8aが近接状態となったものである。吻合の途中で不意に開口部73kを放すと、膀胱モデル7aは、弾性部54の弾性力により、図28(2)に示す元の位置まで移動する。
【0047】
ここで、弾性部54の構造について説明する。図29は、実施例3の弾性部の説明図であり、(1)は膀胱モデルを尿道モデルに接近させていない状態、(2)は膀胱モデルを尿道モデルに接近させた状態を示している。図29(1)又は(2)に示すように、弾性部54は、弾性部本体55、調整部56、螺子57、ダンパー機構としてのショックアブソーバ52及び弾性体としてのコイルスプリング53から成る。調整部56は螺子57を用いて弾性部本体55に固定され、弾性部本体55が調整部56及び螺子57と一体となって左右に摺動する構造である。ショックアブソーバ52及びコイルスプリング53は、それぞれ公知のショックアブソーバとコイルスプリングを用いている。
膀胱モデル7aは膀胱モデル固定部3aに固定され、膀胱モデル固定部3aは弾性部本体55と接続されているため、図29(1)に示す状態から、図29(2)に示すように、膀胱モデル7aが尿道モデル8側へ引っ張られると、弾性部本体55は、左方から右方へ移動する。ここではショックアブソーバ52及びコイルスプリング53により、実際の膀胱の周辺組織による引張応力が再現されるが、特に、引く動作についてはコイルスプリング53が設けられることにより実際の膀胱の周辺組織による引張応力がリアルに再現される。
【0048】
図29(2)に示す状態から膀胱モデル7aの把持状態を解除すると、弾性部本体55は、右方から左方へ移動する。ここでは、弾性部本体55は、ショックアブソーバ52及びコイルスプリング53により、自動で図29(1)に示す位置へ戻るが、特に、戻る動作についてはショックアブソーバ52が設けられることにより、コイルスプリング53の弾性変形に伴う伸縮方向の振動の衝撃力をショックアブソーバ52が吸収する。これにより、コイルスプリング53の急激な拡張を防止でき、実際の膀胱に周辺組織が存在することによる収縮速度がリアルに再現される。
ここでの弾性力は、実際の膀胱の開口部を把持し、尿道の端部まで引っ張った状態に加えられる力に基づいて決定される。また、開口部73kを放した際に元の位置まで戻る速度についても、実際の膀胱の開口部を把持し、尿道の端部まで引っ張った状態から、開口部を放した際に元の位置まで戻る速度に基づいて決定される。具体的には、医師の経験的な触感に応じて調整される。これにより、膀胱の周囲の組織から生じる弾性力などを再現した、実際の手技に近いリアルなトレーニングが可能となる。
【0049】
また、弾性部54には、弾性力の調整が可能な機構が設けられている。図30及び図31は、調整機構の説明図であり、図30は基本位置に調整した場合、図31(1)は尿道モデルとの距離を近づけて調整した場合、図31(2)は尿道モデルとの距離を遠ざけて調整した場合を示している。なおここでは説明の便宜上、図22などの平面図と異なり上下を反転させ図示している。
図30に示すように、調整部56には長孔58が形成され、また、弾性部本体55には図示しないが雌螺子部が形成されている。調整部56の位置決めを行った上で、長孔58に螺子57を挿通し、雌螺子部に螺子57を螺合して、弾性部本体55に調整部56を固定する構造である。すなわち、弾性部本体55の一部と、調整部56、螺子57により調整機構が形成される。
図30では、基本位置となる位置Pに位置決めし、螺子57を固定している。基本位置となる位置Pとは、平均的なヒトを基準として、膀胱の周囲の組織から生じる引張応力又は弾性応力を再現した位置であり、貫通孔22aから膀胱モデル7aの開口部73kまでの距離は距離Dとなっている。そのため、トレーニングを行う際には基本的には位置Pに位置決めして螺子57を固定すればよい。
【0050】
しかしながら、ヒトの臓器には個人差があり、臓器の周囲の組織から生じる引張応力又は弾性応力についても個人差がある。そこで、弾性部本体55上において調整部56を固定する位置を変化させて固定できる構造としたものである。例えば、引張応力をより弱くしたい場合は、図31(1)に示すように、螺子57を固定する位置を、長孔58の位置P寄りに調整して固定すればよい。これにより、貫通孔22aから開口部73kまでの距離を、距離Dよりも短い距離Dに設定することができる。これに対して、引張応力をより強くしたい場合は、図31(2)に示すように、螺子57を固定する位置を、長孔58の位置P寄りに調整して固定すればよい。これにより、貫通孔22aから開口部73kまでの距離を、距離Dよりも長い距離Dに設定することができる。位置Pと位置P、又は位置Pと位置Pの間隔はそれぞれ略20mmであるため、位置Pから前後に略20mmの範囲で調整でき、貫通孔22aから開口部73kまでの距離についても距離Dに対して前後に略20mmの範囲で調整できる。このように、実施例3の弾性部54では、調整部56の固定位置を調整する機構が設けられることにより、ニーズに応じた多様なトレーニングが可能となっている。
【0051】
(その他の実施例)
図19は、その他の実施例の弾性部の説明図であり、(1)は膀胱モデルを尿道モデルに接近させていない状態、(2)は膀胱モデルを尿道モデルに接近させた状態を示している。図19(1)又は(2)に示すように、弾性部5aは、実施例1の弾性部5とは異なり、ショックアブソーバ52とコイルスプリング53が同軸上に設けられている。その他の構成は、実施例1と同様である。このように、ショックアブソーバ52及びコイルスプリング53は、弾性部本体(5,5a)に接続されていればよく、ショックアブソーバ52とコイルスプリング53の位置は、別軸上に設けられてもよいし、同軸上に設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、臓器モデルを用いたリアルな手技トレーニングを実現する技術として有用であり、特に、ロボット手術のトレーニングに有用である。
【符号の説明】
【0053】
1,1a,100,101 臓器モデル固定具
2,2a 固定具本体
3,3a 膀胱モデル固定部
4,4a 尿道モデル固定部
5,5a,50,54 弾性部
6 取付部
7,7a 膀胱モデル
8 尿道モデル
8a,8b 端部
8c 胴部
10 組立式腹腔シミュレータ
11,11a,11b 台座
12a,12b 側板部材
13 気腹カバー
13a 気腹部
13b 枠部
13c ポート孔
14,43,43a,63 留め具
15a~15c 固定部
21,21a 支持部
22,22b 恥骨部
22a 貫通孔
23,23a 把持部
24 ヒンジ部
30a,30b,40a,40b 臓器モデル固定部
31,41,41a,61 可動部
32,42,42a,62 ヒンジ部
33 非可動部
34 弾性部材
35,35a 保持部
36 係止部
36a,36b 端部
36c 折り返し部
44 尿道モデル固定部本体
44a,64 凹部
51,55 弾性部本体
52 ショックアブソーバ
53 コイルスプリング
56 調整部
57 螺子
58 長孔
70a,70b 空腸モデル
80a,80b 食道モデル
71 膀胱モデル本体
72 縁部
73a~73k 開口部
74,74a 中空部
~D 距離
~L 長さ
~P 位置
R 最大可動範囲
【要約】
臓器モデルの実際の臓器の周辺組織の構造から生じる引張応力又は弾性応力を再現した臓器モデル固定具を提供する。固定具本体2、膀胱モデル固定部3、尿道モデル固定部4、取付部6から成る。固定具本体2は、支持部21、恥骨部22及び把持部23で構成される。支持部21は、恥骨部22及び膀胱モデル固定部3を支持する。恥骨部22の足側には尿道モデル固定部4が設けられる。把持部23は、臓器モデル固定具1を組立式腹腔シミュレータに取り付ける際に把持して使用する。膀胱モデル固定部3は、膀胱モデルを取り付けるものであり、尿道モデル固定部4は、尿道モデルを取り付けるものである。取付部6は、組立式腹腔シミュレータの固定部への取付部位となる。弾性部5は、尿道膀胱吻合において、膀胱が鉗子等で引っ張られた際に、膀胱の周囲の組織から生じる弾性力を再現するものであり、膀胱モデル固定部3と接続されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31