(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】スキンケア用シート
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20240827BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20240827BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240827BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240827BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20240827BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/02
A61Q19/00
A61P17/00
A61K31/728
A61K9/70 401
(21)【出願番号】P 2020171536
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019207802
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】繁田 葉子
(72)【発明者】
【氏名】秋山 花子
(72)【発明者】
【氏名】永井 佐知
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 依里
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162234(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018066(WO,A1)
【文献】特開2016-175853(JP,A)
【文献】特開2022-059984(JP,A)
【文献】特開2011-126844(JP,A)
【文献】特開2008-050311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61P 17/00
A61K 9/00-9/72、31/33-33/44、47/00-47/69
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に貼付するためのスキンケア用シートであって、ヒアルロン酸
Naとアセチル化ヒアルロン酸
Naを
、マイクロニードル中に合計で5~85質量%含有し、ヒアルロン酸Naとアセチル化ヒアルロン酸Naの合計量に対する、アセチル化ヒアルロン酸Naの含有量が10~90質量%である、
マイクロニードルを担持してなるスキンケア用シート。
【請求項2】
スキンケア用シートあたりのマイクロニードル密度が50~500個/cm
2である請求項1に記載のスキンケア用シート。
【請求項3】
アセチル化ヒアルロン酸
Naのアセチル基置換数が、ヒアルロン酸構成単位あたり2~4である請求項
1又は2に記載のスキンケア用シート。
【請求項4】
アセチル化ヒアルロン酸
Naの分子量が、ヒアルロン酸換算で1万~100万である請求項1~
3のいずれかに記載のスキンケア用シート。
【請求項5】
請求項1に記載のマイクロニードルを担持してなるスキンケア用シートを皮膚に貼付することによって皮膚角層内に
ヒアルロン酸Naおよびアセチル化ヒアルロン酸
Naを供給する美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキンケア用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
健康で美しい肌を保つことが、老若男女を問わず、重大な関心事となっている。しかし、肌は、温湿度、紫外線、化粧品、加齢、疾病、ストレス、食習慣等により微妙な影響を受けており、これによって肌の諸機能、即ち生体のホメオスタシスに起因する生体からの水分等の損失が発生する。その結果、シワ、シミ、たるみ、くすみ、ニキビ、乾燥等の好ましくない肌状態が出現する。
【0003】
好ましくない肌状態とは主にシワ、シミ、たるみ、くすみ、ニキビ、乾燥等を指すが、皮膚のトラブルの1つであるシワは、老化現象や紫外線、ストレスなど様々な原因で出現する変化である。真皮の線維芽細胞が加齢等により減少するとともに、コラーゲンやエラスチンなどの結合組織産生能が低下することで皮膚の柔軟性、弾力性が低下することが1つの原因となる。シミは、周囲の皮膚より黒ずんで見える部分であり、皮膚に存在する色素細胞が、加齢や紫外線、ホルモン代謝等の影響によりメラニンを過剰に産生し続ける状態になっている部分である。たるみは、加齢に伴い重力方向に出現する皮膚のふくらみを指す。くすみは、メラニンやヘモグロビン、表面形態あるいは角層変化等により複合的におこる現象である。ニキビは、内分泌系のホルモンによる影響、毛穴の角化不全、アクネ菌による分解産物や遊離脂肪酸による影響により出現する。皮膚の乾燥は、角層に存在する天然保湿因子や皮脂膜、角層細胞間脂質のバランスが乱れ、皮膚から水分が逃げやすい状態になることである。
【0004】
また、日常的な皮膚状況の変化もシワ発生の原因となる。
この変化の主たるものは、皮膚からの水分損失であり、さらには皮膚の保水力の低下である。肌荒れや老化現象によるシワは、このような日常的な肌の保水力低下がきっかけとなって起こる場合がある。保水力の低下によって生じたシワが、大きく深いシワへと進行する。特に皮膚の薄い目じりや、目元などにおいて、保水力低下による小じわが出現しやすい。
このようなシワの出現を抑制したり、治療したりするために、種々の組成物や方法が提案されている。なかでも、保水能力の高いムコ多糖の一種であるヒアルロン酸は、皮膚の保水性を改善する目的で、乳液やクリームなどの化粧料に好んで配合されている。
例えば、特許文献1にはリン脂質及びグリコールエーテルとヒアルロン酸又はヒアルロン酸誘導体を含有する経皮吸収性に優れた皮膚外用剤が記載されている。この皮膚外用剤の効能については、ヒアルロン酸やヒアルロン酸誘導体が肌へ効率的に浸透し、高保湿効果や肌に張りや弾力を与えて、抗シワ効果を発揮することが記載されている。
【0005】
しかし、ヒアルロン酸は分子量が大きいため、このような吸収促進成分を併用して配合したとしても、効率的に吸収されにくいことが指摘されている。このため、マイクロニードルを備えたシート(マイクロニードルシート)のニードルの構成成分として、ヒアルロン酸又はヒアルロン酸誘導体を利用する技術が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、体内で容易に溶解、消失する皮膚刺通自在なパイル状物体に水膨潤性物質の乾燥した粉末を担持させて、体内に送達させるようにしたことを特徴とするシワ改善具及びシワ改善方法が記載されている。そして水膨潤性物質の乾燥した粉末の好ましい例として、ヒアルロン酸架橋体が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、皮膚に穿刺される微小針を備えたマイクロニードルシートであって、シートを構成する微小針がヒアルロン酸などの水溶性高分子と天然ヒト型セラミドとを含有するように構成した、保湿効果に優れたマイクロニードルシートが記載されている。特許文献3の実施例には、マイクロニードルシートを構成する微小針を、ヒアルロン酸ナトリウムを含む組成物で構成したものを一晩、目の下に貼付しておくと、深いシワが浅くなり、肌がしっとりと柔らかくなったことが記載されている。
【0008】
一方、ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとD-グルクロン酸(GlcNacβ1-4GlcAβ1-3)が直鎖上に連結している二糖単位が連結した構造をしている、極めて高分子を呈する物質で、分子量は80~200万に達する可能性がある超巨大分子である。保水性が高い、このヒアルロン酸を皮下に直接注入することで、シワの改善を図るなどの美容法が知られている。しかし、高分子であることから取り扱いが難しい。このため、低分子化したヒアルロン酸が開発されている(特許文献4、5、6)。さらにアセチル化ヒアルロン酸Naも開発され、これを主成分とする皮膚柔軟化剤の発明が提案されている(特許文献7)。
【0009】
また、多価アルコール又はベタインの少なくとも一種と水溶性高分子を含むマイクロニードルシートの技術が開示されている(特許文献8)。このマイクロニードルシートは比較的速やかに溶解し長時間皮膚に貼る必要がないため、消費者のストレスが軽減されている。しかしながら、テレビを見ている時間や、家事をしている時間(およそ3時間と言われている)に貼付して、速やかに溶解させるには十分ではない。さらなる溶解時間の短縮化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-191396号公報
【文献】特開2005-272398号公報
【文献】特開2018-162234号公報
【文献】特開2016-166133号公報
【文献】特許第4576583号公報
【文献】特開2017-031111号公報
【文献】特許第3557044号公報
【文献】国際公開第2017/018086号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、新たなスキンケア用のシートを提供することを課題とする。また本発明は、皮膚角層にヒアルロン酸を短時間で効果的に供給する美容方法を提供することを課題とする。
【0012】
本発明は、以下の構成である。
(1)皮膚に貼付するためのスキンケア用シートであって、ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を含有するマイクロニードルを担持してなるスキンケア用シート。
(2)スキンケア用シートあたりのマイクロニードル密度が50~500個/cm2である(1)に記載のスキンケア用シート。
(3)スキンケア用シート上のマイクロニードル中のヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の含有量が10~90質量%である(1)又は(2)に記載のスキンケア用シート。
(4)アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩のアセチル基置換数が、ヒアルロン酸構成単位あたり2~4である(1)~(3)のいずれかに記載のスキンケア用シート。
(5)アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の分子量が、ヒアルロン酸換算で1万~100万である(1)~(4)のいずれかに記載のスキンケア用シート。
(6)アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を含有するマイクロニードルを担持してなるスキンケア用シートを皮膚に貼付することによって皮膚角層内にアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を供給する美容方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、体内での溶解時間が短縮された、新たなスキンケア用のシートが提供される。本発明のスキンケア用シートを構成するマイクロニードルは、角層中において、短時間(2~4時間)で角層内の水分によって溶解して、角層中にヒアルロン酸を供給し、皮膚を柔軟化して保湿性を向上させ、皮膚状態を改善する効果を発揮する。
さらにまた、本発明により、皮膚角層にヒアルロン酸を供給するスキンケア方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のマイクロニードルを担持してなるスキンケア用シートを製造する場合の工程の模式図である。(a)で鋳型にマイクロニードルの原料溶液を充填し、(b)で加熱によってマイクロニードルが成型され、(c)で乾燥によってマイクロニードルシートが成型される3段階の工程を示す模式図である。
【
図2】ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の含有量が0~90質量%であるマイクロニードルシートを31℃ 80%の温湿度条件においたときのマイクロニードルの長さを測定した結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1、比較例1のスキンケア用シートを皮膚に貼付して3時間経過後のマイクロニードルの長さを測定した結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1、比較例1のスキンケア用シートを皮膚に貼付して3時間経過後のシワの深さの変化率を示すグラフである。
【
図5】実施例1、比較例1のスキンケア用シートを皮膚に貼付して3時間経過後のシワの面積の変化率を示すグラフである。
【
図6】アセチル化ヒアルロン酸Naの含有率を変えたスキンケア用シートを開封し、袋から取り出した直後に測定したスキンケア用シート上のニードルの長さ、及び開封後23℃湿度80%の環境試験室に30分スキンケア用シートを静置した後に測定したニードルの長さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のスキンケア用シートは、基材部と、該基材の片面から突出する複数の針部を備える貼付部からなる。また、本発明のスキンケア用シートは、皮膚に貼り付けるために粘着性を有している。
本願明細書において、針部とは、広い意味での針形状の微小凸状構造物(マイクロニードル)を意味し、鋭い先端を有する針形状のものに限定されず、先の尖っていない形状(例えば先端が丸められたコニーデ状あるいは円錐台状)をも包含する。本発明においては、マイクロニードルの先端が円錐台形の形状を呈するものが特に好ましい。また、マイクロニードルを構成する針の先端が、シートを皮膚に貼付したとき、貼付部の皮膚の角層中に侵入可能な硬さを有している。
【0016】
本発明において、マイクロニードルとは、針部の長さが10~500μm、好ましくは、50~200μmである針状物をいう。この針状物がシート上に密に担持されたものを、本発明にあってはマイクロニードルシートという。このマイクロニードルシートをスキンケア用とする場合をスキンケア用シート(以下「スキンケア用シート」)という。本発明のスキンケア用シート上のマイクロニードルには、保湿用マイクロニードル、美白用マイクロニードル、シワ改善用マイクロニードル、シミ改善用マイクロニードル、たるみ改善用マイクロニードル、くすみ改善用マイクロニードル、ニキビ改善用マイクロニードルが含まれる。
スキンケア用シート上のマイクロニードルの密度は、50~500個/cm2であり、好ましくは200~400個/cm2である。スキンケア用シートは皮膚に貼付可能なように粘着剤をシートに塗布しておくことができる。本発明のスキンケア用シートを皮膚に貼付する場合、マイクロニードルの針部の長さが上記上限値以下であれば、針部が真皮層の神経、又は毛細血管に接触しにくくなるため、痛みや出血を回避しやすい。
【0017】
本発明にあっては、スキンケア用シートを構成する針部(マイクロニードル)は、ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を必須で含有する。
(ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩)
ヒアルロン酸は、分子量1万~200万程度のものであれば本発明に使用可能である。またヒアルロン酸の塩であっても良い。
本発明において使用するヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩は、どのような由来のものであっても使用可能である。本発明において使用するヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸に限られず、ヒアルロン酸塩も使用可能であり、例えばヒアルロン酸ナトリウムが好ましい。本発明に使用可能なヒアルロン酸ナトリウムとして、「ヒアルロン酸 FCH-SU」(キッコーマンバイオケミファ株式会社製)を例示できる。
【0018】
(アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩)
本発明に使用されるアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の分子量は、ヒアルロン酸換算で1万~100万程度のものが好適である。特に分子量が5万~20万程度が好ましい。また、本発明に使用されるアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸の構成単位(最小繰り返し単位であるN-アセチルグルコサミンβ1-4D-グルクロン酸)あたり、アセチル基の置換数が2~4のものが好適である。
本発明にかかるアセチル化ヒアルロン酸の製法は次の通りである。
粉末状のヒアルロン酸を酢酸に分散し、触媒として無水トリフルオロ酢酸を加えて反応させる方法や、酢酸に分散しp-トルエンスルホン酸を加えさらに無水酢酸を加えて反応させる方法、無水酢酸溶媒に懸濁させ濃硫酸を加えて反応させる方法等が知られている(特開平6-009707、特開平8-053501)。かくして得られるアセチル化ヒアルロン酸をアルカリ金属塩とすることでアセチル化ヒアルロン酸の塩を得ることができる。
また市販されているアセチル化ヒアルロン酸あるいはアセチル化ヒアルロン酸の塩を使用してもよい。市販されているアセチル化ヒアルロン酸の塩として、「アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム」(株式会社資生堂製)を例示できる。
【0019】
本発明において、スキンケア用シート上のマイクロニードルに含まれるヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量は5~85質量%が好ましい。またマイクロニードルに含まれるヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の含有量が好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上とすることで、マイクロニードルが皮膚角層内ですみやかに溶解し、ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩が角層中の水分と結合して保水性を保ち、皮膚状態を改善する。
なお使用性の観点から、マイクロニードルに含まれるヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の含有量を90質量%以下にすると好ましい。
ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の含有量が90質量%を超えると、消費者の使い方によっては吸湿により製品の品質が損なわれる恐れが高まる。ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の含有量は10~90質量%が好ましく、20~90質量%がより好ましく、20~60質量%がさらに好ましい。
【0020】
本発明のスキンケア用シートは、スキンケア用シート上のマイクロニードル中にヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を含有する。ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩以外に、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を溶解するための水やエタノールなどの溶媒成分を製造時に含有する。さらにグリセリン、ソルビトール、マルチトールなどの可塑剤を含有すると好ましい。可塑剤の配合量は、スキンケア用シート全量に対し5~30質量%配合することが好ましく、特に10~17質量%配合するとより好ましい。
製造時の溶媒成分のうち水は、乾燥工程を経た後のマイクロニードル中に残存させることが好ましく、8~20質量%であるとより好ましい。
【0021】
ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を含む混合物でマイクロニードルの針を形成することにより、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を含まない場合と比べて、短時間で皮膚内の水分によってマイクロニードルが溶解する。このためヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩は、皮膚角層内の組織間隙にすみやかに分散し、水と結合して膨潤して皮膚に張りを与えてシワを改善する等の美容効果が早く得られる。なお本発明において短時間とは2~4時間程度のことである。例えば、化粧行動として3時間という長さは、消費者にとって長すぎたり短すぎたりといった不満を感じることがほぼない。化粧行動にかかる時間として2~4時間は、スキンケア用シートを肌上に貼り続ける時間として、まだ貼り続けなければならないのかといったイライラした感情を生じさせることなく美容のために自ら施術しているという満足感を与える時間として丁度良い。
【0022】
(任意成分)
本発明のスキンケア用シートは、水溶性高分子、低分子有機化合物、その他薬効成分を配合しても良い。
水溶性高分子は、生体内溶解性及び生体内分解性のうち少なくとも一方の性質を有していることが好ましい。マイクロニードルを構成する材料として好適な水溶性高分子としては、たとえば、プルラン、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、キサンタンガム、タマリンドガム、グリコーゲン、キチン、キトサン、アガロース、ペクチン、カルボキシビニルポリマーなどを挙げることができる。これらの水溶性高分子はそれぞれ単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
低分子有機化合物としてはグルコース、フルクトース、トレハロース等の糖類、ベタイン(別名トリメチルグリシン)、カルニチン、プロリン、セリン、アラニン等のアミノ酸類などを例示できる。低分子有機化合物はスキンケア用シートの、ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して0.01~20質量%配合することができ、より好ましくは0.01~15質量%配合することができる。ただし低分子有機化合物を、ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して20質量%以上配合すると、マイクロニードルを肌に貼付した時に一般的に好まれる「肌に貼付した時のチクチクとした感覚」(チクチク感)が得られなくなる恐れが高まる。一般的にマイクロニードルは、貼付後しばらくの間、チクチク感が生じるものとして消費者に認識されており、このチクチク感が得られないと、角層の深くまでヒアルロン酸等で構成される微小針が届いていないと認識されて効果の実感が得られ難くなる。本発明の構成では、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の配合量の多寡によりチクチク感が損なわれることはないが、糖類やベタインなどのアミノ酸類をさらに配合するときには、チクチク感が必要な場合、その配合量に注意する。
ベタインは肌に対して保湿性を与えるだけでなく、マイクロニードルの溶解時間の短縮化にも貢献し、比較的安価なため、配合する場合の選択として特に好ましい。一方、ベタインは、多く配合するとチクチク感が低下する。ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対してベタインの割合が20質量%以上になると、「肌に貼付したときのチクチクとした感覚」(チクチク感)が得られにくくなる恐れが高まるため、本発明の構成にベタインを配合する場合は20質量%未満とすることが好ましい。
【0024】
その他の薬効成分としては、化粧料や医薬部外品に配合される保湿剤、抗酸化剤、細胞賦活剤等から適宜選択して配合することができる。マイクロニードルの材料である混合物に、さらに他の薬効成分を組み合わせることで、様々な目的のスキンケア用シートを得ることができる。化粧料に通常配合される保湿剤、抗酸化剤、細胞賦活剤、ビタミン類、ソウハクヒエキスなどの植物抽出物、グリチルリチン酸ジカリウム、ニコチン酸アミドなどの薬効成分を、一種又は二種以上組み合わせて用いることができる。
次に、本実施形態のスキンケア用シートの製造方法の一例を説明する。
【0025】
マイクロニードルの原料溶液は、ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を必須成分として含有する。溶媒は、たとえば水、水とアルコール、水とグリセリンとの混合溶媒などを用いることができる。
【0026】
ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を含有するマイクロニードル用原料溶液を調製する。
次に、マイクロニードルを形成する型となる複数の微小凹部を有する樹脂シートを作成する。微小凹部は、樹脂シートの一方の面に、規則的(たとえば格子状、ハニカム状、千鳥状など)又は不規則的に配列する。微小凹部は、たとえば円錐形、角錐形、円錐台形、コニーデ形などの反転形状を呈するように形成する。微小凹部深さは、たとえば10μm以上500μm以下、好ましくは50μm以上200μm以下とすることができる。また、微小凹部は、たとえば50個/cm
2以上500個/cm
2以下の密度で設けることが好ましい。
原料溶液を、たとえばディスペンサ、分注機、スキージ、インクジェットなどを用いて前記の複数の微小凹部を備える型に注入し、型上面から一定の厚さとなるように供給する(
図1(a)参照)。
型に充填した原料溶液を乾燥する(
図1(b)参照)ことで、シート状基材と一体化したマイクロニードルを製造することができる(
図1(c)参照)。
次に、型からマイクロニードルを剥離して取り出すことで、微小針とシート状基材とが
一体的に形成されたマイクロニードルを得ることができる。
【0027】
マイクロニードルの基材部に、皮膚に貼付するため、粘着剤を塗布した基布(粘着シート)を接着させ、成型に際して形成された不要部を切断除去して、実用可能なシート形状に加工することもできる。シートの形状には特に制限はなく、適用箇所に応じて、円形、四角形、ソラマメ形など適宜形状を選択することができる。
【0028】
なお基布(粘着シート)を構成する材料としては特に制限はなく、ネルやスフモスのような編物、織物のほか種々の不織布類、紙、プラスチック等通常の化粧品や医薬品のシート状パックに用いられる材料であれば、いずれも使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、試験例、実施例、比較例を示して本発明を詳細に説明する。
<実施例1:スキンケア用シート上のマイクロニードルの溶解性試験>
1.スキンケア用シートの製造
本発明のスキンケア用シート上のマイクロニードルの溶解性を、従来技術で採用されているヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩単独の場合と比較試験するため、次のマイクロニードルを調製した。
マイクロニードルを作製するための鋳型として、微小凹部を有する樹脂シートを作製した。
マイクロニードルの乾燥後の組成が下記表1の組成となるように、各成分を水に溶解あるいは分散した液体組成物を得た。作製した微小凹部を有する樹脂シートの鋳型に、前記液体組成物を充填した。充填後、前記液体組成物を乾燥させ、試験用のスキンケア用シートを得た。表中の単位は質量%である。
【0030】
(使用原料)
・アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム(以下アセチル化ヒアルロン酸Naと表記);(「アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム」 株式会社資生堂製)
・ヒアルロン酸ナトリウム(以下ヒアルロン酸Naと表記);(「ヒアルロン酸 FCH-SU」キッコーマンバイオケミファ株式会社製)
・グリセリン(局方)
【0031】
【0032】
2.試験方法
マイクロニードルを備えたスキンケア用シートを2cm角に切断し、切断試料を各3枚ずつガラス板に貼り付け、31℃ 80%の温湿度に設定した小型環境機中に3時間静置した。その後ニードルの長さ(高さ)を200倍に拡大してマイクロスコープ(VHX-5000 株式会社キーエンス社製)で長さを測定した。測定は、各試験試料のサンプル中より、無作為に9本のニードルを選択して、ニードル長さを測定し、9本の平均長さを求めた。なお、溶解性試験の温湿度設定は、予め3名のヒト皮膚の表面温湿度測定を行い、その結果に基づき、この皮膚表面に最も近い温度及び湿度環境(31℃ 80%)に設定した。また3時間という静置時間は、目標とした化粧行動時間から設定した。
試験結果を評価するために、長さの有意差検定、溶解率、溶解率比を計算により求めた。溶解率比の計算式は、国際公開第2017/018086号に記載の試験方法であり、マイクロニードルの溶解速度の指標として一般的である。
<長さ(高さ)>
測定結果は、t検定によって、試験試料1(アセチル化ヒアルロン酸Naを含まない試験試料)の長さに対する試験試料2~11の各試験試料の長さを有意差検定した。有意水準は P<0.01:**、P<0.05:*とした。
<溶解率>
溶解率は次の式により求めた。
溶解率=溶解試験前のニードルの長さ÷溶解試験後のニードルの長さ
溶解率が大きいほど、マイクロニードルの溶解速度が速いことを示す。
<溶解率比>
溶解率比は次の式により求めた。
溶解率比=各試験試料の溶解率÷試験試料1の溶解率
試験試料1はアセチル化ヒアルロン酸Naを含まない組成であり、従来型のマイクロニードル組成である。溶解率比の値が1よりも大きくなるほど溶解速度が速いと評価する。
【0033】
【0034】
【0035】
表2、
図2に示すとおり、ヒト皮膚表面に近い温度及び湿度環境に3時間おいたとき、ヒアルロン酸Naとグリセリンで構成されたマイクロニードルはあまり溶解しなかったが、アセチル化ヒアルロン酸Na及びヒアルロン酸Naとグリセリンで構成されたマイクロニードルは、アセチル化ヒアルロン酸Na量が増加するに従って、マイクロニードルの長さ(高さ)が短くなった。アセチル化ヒアルロン酸Na量の比率が20質量%以上になると、3時間経過後のマイクロニードルの溶解性は、統計的有意に上昇した。アセチル化ヒアルロン酸Naの比率が70質量%では、マイクロニードルの長さは31μmにまで溶解した。なお、アセチル化ヒアルロン酸Naは、ヒアルロン酸Naと比べ、疎水性のアセチル基がついている為、ヒアルロン酸Naと比較すると水への溶解度は低い。その結果、溶解性マイクロニードルに配合すると、ヒアルロン酸Na単体のマイクロニードルに比して溶けにくいと予想される。しかし、驚くべきことに上記に示すとおり、ヒアルロン酸Na単体のマイクロニードルと比較して有意に溶解性が上がるという優れた効果が得られた。
ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩を10質量%配合することで無配合の時よりも溶解性が高くなる傾向がみられ、20質量%以上配合することで有意に溶解性が高くなることが確認された。
この試験結果から、比較的短時間に皮膚角層内にヒアルロン酸を供給するためには、マイクロニードル中のヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対して、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の含有量が10質量%、より好ましくは20質量%を超えるように組成を組むことが大切であり、そうすることでマイクロニードルの溶解性が早まり、肌に対して比較的短時間で効果が期待できるのではないかと考えられた。
次に目標とした3時間貼付後のマイクロニードルの長さの変化、及び肌の状態を確認するために、下記試験を行った。
【0036】
<実施例2:スキンケア用シートを用いたヒト効果試験>
1.試験方法
(1)試験試料
上記溶解性試験を行った試験試料から試験試料6を選択し、これに皮膚に貼付するためのパッチ加工を行い、これを試験試料(実施例1)としてヒト試験を行った。またアセチル化ヒアルロン酸Naを含まない試験試料1を同様にパッチ加工し、これを比較例1とした。なお実施例1のスキンケア用シートは、マイクロニードル中の、アセチル化ヒアルロン酸Na/(ヒアルロン酸Na+アセチル化ヒアルロン酸Na)×100の値は50%である。
【0037】
(2)被験者
33歳から50歳の女性5名(平均年齢42.8歳)を被験者とした。
【0038】
(3)評価方法
1)皮膚におけるマイクロニードルシートの溶解性
実施例1のスキンケア用シートを被験者の片方の目元に貼付し、もう片方の目元に、比較例1のシートを貼付した。貼付3時間後にシートを剥がし、マイクロスコープ(VHX-5000 株式会社キーエンス社製)を使用して、マイクロニードルの長さ(高さ)をシート1枚につき6か所測定した。
測定結果は、t検定によって、比較例1(アセチル化ヒアルロン酸Naを含まない試験試料)に対する実施例1のニードルの長さを有意差検定した。有意水準は P<0.01:**、P<0.05:*とした。
【0039】
2)シワの改善効果評価
被験者5名のうち目元に顕著なシワが認められる3名の被験者について、予めシート貼付部位のレプリカ(SkinCast アール・エス・アイ社製)を採取し、レプリカの表面に形成された凹凸を格子パターン投影法による三次元測定法(Primos GFM社製)でシワの深さ及びシワの面積率を測定した。同様にしてスキンケア用シート貼付3時間経過後に再度測定した。
測定結果は、実施例1及び比較例1のスキンケア用シート使用前の測定値を1とし、3時間経過後の値を変化率として求めた。
測定結果は、シワの深さ、シワの面積率とも、比較例1(アセチル化ヒアルロン酸Naを含まない試験試料)に対する実施例1の結果を有意差検定した。
有意水準は P<0.01:**、P<0.05:*とした。
なお、この測定方法は、「シワ解析パラメーター(新規効能取得のための抗シワ製品評価ガイドライン 日本香粧品学会誌 VOL.30,NO.4,316-332ページ(2006)」による方法である。
【0040】
2.試験結果
1)皮膚におけるスキンケア用シート上のマイクロニードルの溶解性
3時間経過後のスキンケア用シート上のマイクロニードルの長さを測定した結果を下記の表3及び
図3に示す。
【0041】
【0042】
表3及び
図3から明らかなように、実施例1は、比較例1のニードルの長さの半分以下であった。このことから、本発明の構成をとることで、マイクロニードルの溶解時間が短くなることが確認できた。
なお前記溶解性試験の結果を考慮して比較すると溶解性挙動が若干異なった。この要因としては、ヒトの皮膚状態(乾燥している、あるいは十分な保湿機能を有している)の違い(個人差)や、顔面形状により貼付時の密着が十分でなかった等のばらつきがあったことが考えられた。
【0043】
2)シワの改善効果評価
シワの深さの評価結果を
図4、シワの面積の評価結果を
図5に示す。
シワの深さ、シワの面積とも統計的な有意差は認められないものの、実施例1ではシワの深さ、シワの面積とも減少し改善の傾向が認められた。一方比較例1では、シワの深さ、シワの面積ともスキンケア用シート貼付前に比較して増加の傾向が認められた。実施例1は、継続して使用を続ければ、一層シワ改善効果が期待できると考えられた。したがって、実施例1のマイクロニードル組成は、目標とした3時間の貼付で肌状態を改善できるスキンケア用シートであると判断した。
【0044】
本発明の「ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩」を含有するマイクロニードルを担持したスキンケア用シートは、目標とした3時間で溶解し、肌状態を改善できるスキンケア用シートであることはすでに述べた。しかしながらアセチル化ヒアルロン酸は価格が高い。そこで組成の一部をベタインに置き換えたマイクロニードルを調製し、その溶解性を試験した。なお事前の試験により、ベタインはマイクロニードルの溶解性を高めたが、ヒアルロン酸及び/又はヒアルロン酸塩と、アセチル化ヒアルロン酸及び/又はアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対してベタインの割合が20質量%であると、「肌に貼付したときのチクチクとした感覚」(チクチク感)が得られなかったので、以下の試験ではベタインの割合を5質量%、10質量%、15質量%配合した組成で検討した。
【0045】
<実施例3:ベタインを配合したマイクロニードルの溶解性試験>
1.スキンケア用シートの製造
前記試験の製造方法と同様にして製造した。
マイクロニードルを作成するための鋳型として、微小凹部を有する樹脂シートを作成した。
マイクロニードルの乾燥後の組成が下記表4の組成となるように、各成分を水に溶解あるいは分散した液体組成物を得た。作製した微小凹部を有する樹脂シートの鋳型に、前記液体組成物を充填した。充填後、前記液体組成物を乾燥させ、マイクロニードルと基材が一体化した試験用のスキンケア用シートを得た。表4の下段に、ヒアルロン酸塩とアセチル化ヒアルロン酸塩の合計量に対する各成分(アセチル化ヒアルロン酸塩、グリセリン、ベタイン)が占める割合(%)を記載した。
なお表4には先の試験試料1、4、6の組成も載せている。
【0046】
(使用原料)
・アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム;(「アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム」株式会社資生堂製)
・ヒアルロン酸ナトリウム;「ヒアルロン酸 FCH-SU」キッコーマンバイオケミファ株式会社製
・グリセリン(局方)
・ベタイン;「アミノコート」旭化成ファインケム株式会社製
【0047】
【0048】
2.試験方法
前記の<スキンケア用シート上のマイクロニードルの溶解性試験>と同様に行った。 マイクロニードルを備えたスキンケア用シートを2cm角に切断し、切断試料を各3枚ずつガラス板に貼り付け、31℃ 80%の温湿度に設定した小型環境機中に3時間静置した。その後ニードルの長さ(高さ)を200倍に拡大してマイクロスコープ(VHX-5000 株式会社キーエンス製)で長さを測定した。測定は、各試験試料のサンプル中より、無作為に9本のニードルを選択して、ニードルの長さを測定し、9本の平均長さを求めた。
試験結果を評価するために、長さの有意差検定、溶解率、溶解率比を計算により求めた。
<長さ(高さ)>
測定結果は、t検定によって、試験試料1(アセチル化ヒアルロン酸Naを含まない試験試料1)の長さに対する試験試料12~17の各試験試料の長さを有意差検定した。有意水準は P<0.01:**、P<0.05:*とした。
<溶解率>
溶解率は次の式により求めた。
溶解率=溶解試験前のニードルの長さ÷溶解試験後のニードルの長さ
溶解試験前のニードルの長さは140として計算した。
<溶解率比>
溶解率比は次の式により求めた。
溶解率比=各試験試料の溶解率÷試験試料1の溶解率
【0049】
3.試験結果
試験結果を表5に示す。表5には、表2の試験例1、4、6の結果も載せている。試験試料1)の長さに対する試験試料12~17の各試験試料の長さは、P<0.01:**で有意差が認められた。表には長さを載せている。
【0050】
【0051】
表5の試験例12~17に示すとおり、本発明のスキンケア用シート上のマイクロニードルの組成に任意成分であるベタインを加えても、3時間で適切に溶解し、かつチクチク感が損なわれていないスキンケア用シートが得られることがわかった。
(溶解率比の考察)
試験試料6(溶解率比1.41)と試験試料13(溶解率比1.42)の結果から、アセチル化ヒアルロン酸Naの一部をベタインに置き換えても、溶解速度が同等レベルのスキンケア用シートが得られることがわかった。表5に記載の溶解率比から、特にベタイン/(アセチル化ヒアルロン酸Na+ヒアルロン酸Na)×100の計算値が10~15%の時に、溶解速度が高く3時間で適切に溶解し、かつチクチク感を兼ね備えたマイクロニードルが得られることが分かった。
【0052】
<実施例4:スキンケア用シートの使用環境での溶解性試験>
実使用を想定した場合、使用する前の安定性も重要である。通常スキンケア用シートは、吸湿を防ぐための包材に封入されているが、開封後にすぐに使用せずにしばらく放置する可能性が考えられる。袋から取り出したあとの外気温湿度でニードルが早く溶解してしまうと、品質上好ましくなく、スキンケアの効果を十分に得られなくなる恐れがある。そこで2018年6月における東京の平均温湿度(23℃、湿度80%)下で30分間放置した場合のスキンケア用シート上のニードルの高さを測定し、使用性を考慮した設計品質上も最適なスキンケア用シート中のアセチル化ヒアルロン酸Naの含有比率を検討した。
【0053】
1.試験方法
前記の<スキンケア用シート上のマイクロニードルの溶解性試験>と同様に、スキンケア用シート上のマイクロニードル中のアセチル化ヒアルロン酸Na/(ヒアルロン酸Na+アセチル化ヒアルロン酸Na)×100の値が0~100%になるように設計したスキンケア用シートを作製した。これを通気性のない袋に密封した。なおマイクロニードルの長さは140μmになるように製造した。
このスキンケア用シートを開封し、袋から取り出した直後にスキンケア用シート上のニードルの長さ(高さ)を200倍に拡大してマイクロスコープ(VHX-5000 株式会社キーエンス社製)で、その長さを測定した。
次いで、23℃ 湿度80%の環境試験室に30分スキンケア用シートを静置し、その後同様にスキンケア用シート上のニードルの長さを測定した。
【0054】
2.結果
開封直後、及び23℃ 湿度80%の環境試験室に30分静置した後の各時期において、それぞれスキンケア用シート上のマイクロニードルから無作為に3本のニードルを選択し測定した長さの平均値を
図6に示す。
図6から明らかなように、アセチル化ヒアルロン酸Naの比率が100質量%のマイクロニードルを備えたスキンケア用シートは、上記の環境下に30分静置すると、溶解し、使用前に必要とされるニードルの長さとして特に好ましいと考えられるニードル長さ(高さ)50μmを下回ることが確認された。
このようにアセチル化ヒアルロン酸塩の含有比率が高い場合は、使用前に溶解してマイクロニードルの長さが短くなってしまい、肌上でマイクロニードルの効果を十分に発揮できない可能性がある。したがって、実使用で問題とならない品質設計とするためには、スキンケア用シートに備えるマイクロニードル中の、(ヒアルロン酸塩+アセチル化ヒアルロン酸塩)に対する、アセチル化ヒアルロン酸塩の含有比率は90質量%を上限とすることが好ましいと考えられた。
以下にスキンケア用シート上のマイクロニードルの組成例(乾燥後)を示す。単位は質量%である。
【0055】
組成例1(保湿用スキンケアシート上のマイクロニードル組成)
1.アセチル化ヒアルロン酸Na 33
2.ヒアルロン酸Na 33
3.グリセリン 14
4.ベタイン 10
5.水 10
組成例1のマイクロニードルを備えた保湿用スキンケア用シートを常法により作製した。肌に貼付して3時間経過後にはがす化粧行動を週に2~3回行ったところ、肌に好ましい保湿効果が得られた。このシートは、1回目の使用直後から肌がとてもしっとりした。
【0056】
組成例2(美白用スキンケア用シート上のマイクロニードル組成)
1.アセチル化ヒアルロン酸Na 35
2.ヒアルロン酸Na 35
3.ソルビトール 14
4.ベタイン 7
5.水 8.9
6.ソウハクヒエキス 0.1
組成例2のマイクロニードルを備えた美白用スキンケア用シートを常法により作製した。肌に貼付して3時間経過後にはがす化粧行動を、週に2~3回行ったところ肌に好ましい美白効果が得られた。
【0057】
組成例3(ニキビ用スキンケア用シート上のマイクロニードル組成)
1.アセチル化ヒアルロン酸Na 20
2.ヒアルロン酸Na 46
3.グリセリン 14
4.ベタイン 9.8
5.水 10
6.グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
7.ニコチン酸アミド 0.1
【0058】
組成例3のマイクロニードルを備えたニキビ用スキンケア用シートを常法により作製した。ニキビのある肌に貼付して3時間経過後にはがす化粧行動を週に2~3回行ったところ、ニキビに改善の傾向が認められた。
【0059】
<実施例5:マイクロニードルを構成するヒアルロン酸の相違による皮膚貼付時の溶解性試験>
スキンケア用シートのマイクロニードルを構成するヒアルロン酸の相違によって生じる、皮膚貼付時の溶解性の相違を確認するため以下の試験を行った。
【0060】
1.試験に用いたマイクロニードルの組成
ヒアルロン酸として次の(1)~(5)を用いた。
(1)高分子ヒアルロン酸Na(INCI:SODIUM HYALURONATE,HMHA,分子量180-220万)
(2)加水分解ヒアルロン酸(HYDROLYZED HYALURONIC ACID,HHA,分子量0.5-1万)
(3)アセチル化ヒアルロン酸Na(INCI:SODIUM ACETYLATED HYALURONATE,AcHA,分子量10-15万)
(4)カチオン化ヒアルロン酸(INCI:HYDROXYPROPYLTRIMONIUM HYALURONATE,CHA,分子量50-80万)
(5)ヒアルロン酸Na(INCI:SODIUM HYALURONATE,HA,分子量4-11万)
【0061】
2.マイクロニードルの成型
上記の(5)のヒアルロン酸Na50質量%と(1)~(4)のヒアルロン酸を1:1で混合して溶解した溶液を用いて、実施例1に記載した成型方法に準じてマイクロニードルを備えたシートを作製した。なおマイクロニードルの形状を円錐台型とした。
【0062】
3.マイクロニードル溶解性評価方法
被験者の前腕内側部をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.5%溶液で洗浄し、各マイクロニードルを備えたシート及び対照として(5)のスキンケア用シート2枚を並べて3時間貼付した。その後剥がしたマイクロニードルのニードル高さを測定した。
【0063】
4.試験結果
測定結果は、9本のマイクロニードルの平均高さと標準偏差値のグラフとして
図7に示した。
貼付前のマイクロニードルの平均高さはおおよそ140μmであった。一方、貼付後3時間後のマイクロニードルの平均高さは、マイクロニードルに用いたヒアルロン酸によって異なった。なかでも(3)アセチル化ヒアルロン酸Naを配合すると皮膚に貼付したときマイクロニードルの高さは40μmにまで溶解することが確認された。
すなわちマイクロニードルを構成するヒアルロン酸としてアセチル化ヒアルロン酸ナトリウムを配合すると、皮膚に貼付したとき速やかに溶解して、皮膚に浸透することが明らかになった。
【0064】
<実施例6:シワ改善に対する効果試験(単回試験)>
ヒアルロン酸ナトリウム70質量%、アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム30質量%からなるマイクロニードルを備えたスキンケア用シートと、ヒアルロン酸ナトリウム80質量%、アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム20質量%からなるマイクロニードルを備えたスキンケアシートの効果試験を行った。
1.試験方法
(1)スキンケア用シート
本発明品1:ヒアルロン酸ナトリウム80質量%、アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム20質量%からなる針状マイクロニードルを備えたスキンケア用シート及び、本発明品2:ヒアルロン酸ナトリウム70質量%、アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム30質量%からなる円錐台形状マイクロニードルを備えたスキンケア用シートについて評価試験を行った。
【0065】
(2)被験者
平均年齢47.2歳、年齢範囲42-55歳 女性9名、男性2名の11名を対象に実施した。
【0066】
(3)評価方法
被験者の目尻にマイクロニードルを備えたスキンケア用シートを3時間貼付した。貼付前後の目尻の皮膚レプリカを採取し、評価を行った。皮膚レプリカの作成は、レプリカ剤(Skin-Cast(R.S.Ilimited))を目尻に塗布し、乾固するまで5分間放置した。乾固したレプリカは Primos lite(GFMesstechnik GmbH)により撮影し、評価を行った。評価項目は、平均シワ深さ(μm)、最大シワの深さの平均(μm)、最大シワの最大深さ(μm)、シワ体積(mm3)、シワ面積(%)、算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Ry)、十点平均粗さ(Rz)の8項目である。
【0067】
2.試験結果
下記表6に測定結果を示す。
【0068】
【0069】
本発明品2は、使用前後で表6に示す通り、平均シワ深さ、最大シワの深さの平均、最大シワの最大深さ、シワ体積、シワ面積、Ra、Rzの7項目において有効性を示した。また本発明品1はシワ面積に有効性を示した。
本試験結果から、マイクロニードルを備えたスキンケア用シートとしては、ヒアルロン酸ナトリウム70質量%、アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム30質量%からなる円錐台形状マイクロニードルを備えたスキンケア用シートが特に優れていることが明らかとなった。
【0070】
<実施例7:シワ改善に対する効果試験(連用試験)>
実施例6で特に優れた効果を示した組成を試験品として採用した。ヒアルロン酸ナトリウム70質量%、アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム30質量%が優れた効果を示したことから、次の組成によるマイクロニードルを備えたスキンケア用シートの連用による効果試験を行った。
1.試験方法
(1)スキンケア用シート
本発明品及び、従来品であるヒアルロン酸ナトリウム100%のマイクロニードルを備えたスキンケア用シートを対照品として用いて試験を行った。本発明品の組成は次の通りである。対象品の組成は、本発明品の組成のアセチル化ヒアルロン酸Naをヒアルロン酸Naに置き換えた以外は同じ組成とした。
【0071】
本発明品の組成(単位:質量%)
本発明品(アセチル化ヒアルロン酸Na30%処方)
ヒアルロン酸Na 47
アセチル化ヒアルロン酸Na 20
グリセリン 8
その他可塑剤 5
ベタイン 10
水 10
【0072】
本発明品のアセチル化ヒアルロン酸Na:ヒアルロン酸Na比は3:7である。
また対照品のアセチル化ヒアルロン酸Na:ヒアルロン酸Na比は0:10である。
【0073】
(2)被験者
目尻と鼻唇溝にシワを有する健康な女性25名(平均年齢47.8歳、年齢範囲34-59歳)を被験者とした。
【0074】
(3)評価方法
被験者の目尻及び鼻唇溝にマイクロニードルを備えたスキンケア用シートを3時間貼付した。マイクロニードルを備えたスキンケア用シートを3日に1回、1回あたり3時間貼付し、4週間に10~11回使用した。
全てのスキンケアシートの使用が終了したら、速やかに使用前後の目尻シワと鼻唇溝シワをレプリカ法によって評価した。なお、左右いずれかの指定された側に本発明品(アセチル化ヒアルロン酸ナトリウム30質量%含有品)を貼付し、反対側に対照品(ヒアルロン酸ナトリウム100質量%含有品)を貼付した。
レプリカの採取は、実施例6と同様にして貼付前後の目尻及び鼻唇溝の皮膚レプリカを作成した。このレプリカを実施例6と同様のシワの評価パラメータによって評価した。
【0075】
2.試験結果
下記表7に各シワパラメータの測定結果を示す。
【0076】
【0077】
(1)目尻のシワに対する連用の効果
表7上段、第2段に対照品と本発明品の評価結果を示す。
本発明品は、平均シワ深さ、最大シワの深さの平均、シワ体積、シワ面積、Ra、Ry、Rzの7項目に顕著な効果が観察された。一方対照品は、平均シワ深さ、最大シワの深さの平均、シワ体積、シワ面積、Ra、Rzの6項目に効果が認められた。本発明品は、目尻のシワに対して連用効果によってより大きな効果を発揮することが確認された。
【0078】
(2)鼻唇溝のシワに対する連用の効果
表7第3段、第4段に対照品と本発明品の評価結果を示す。本発明品と対照品の鼻唇溝のシワに対する連用の効果には大きな差が認められた。すなわち、本発明品は、使用前と比較してシワパラメータの平均シワ深さ、最大シワの深さの平均値、最大シワの最大深さ、シワ体積、シワ面積、Ra、Rzが有意に改善した。一方対照品は、シワ面積が改善したが、それ以外のパラメータについては、改善が認められなかった。
【0079】
(3)実施例7の試験結果の総括
目尻のシワは、本発明品が対照品と比べて多くの評価項目を使用前に比して顕著に改善した。
また、鼻唇溝は、本発明のスキンケアシートは、平均シワ深さ、最大シワの深さの平均値、最大シワの最大深さ、シワ体積、シワ面積、Ra、Rzが有意に改善したが、対照品はシワ面積が改善しただけであった。
このような鼻唇溝における効果の大きな相違は、目元の皮膚厚さが約1200μm、鼻唇溝の皮膚厚さは約1400μmであり、鼻唇溝の方が角層も厚いことによるものと考えられる。対照品のスキンケア用シートのマイクロニードルは、3時間の貼付では、マイクロニードルが十分に溶解しておらず、皮膚の厚い鼻唇溝ではシワ改善効果が出にくかったものと考えられた。また、本発明品に含有されるアセチル化ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸よりも角層中の結合水量を増加させ、その結果皮膚の厚い鼻唇溝に水分が貯留され、シワが改善したものと考えられる。
すなわち本発明のスキンケア用シートは、目尻のような皮膚の薄い個所に生じるシワだけでなく、皮膚の厚い個所に生じる深いシワに有効性を示した。