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特許7543613バックルプリテンショナ及びシートベルト装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】バックルプリテンショナ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/195 20060101AFI20240827BHJP
   B60R 22/26 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B60R22/195 104
B60R22/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020180676
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071614
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】池本 一貴
(72)【発明者】
【氏名】井浦 裕介
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-025975(JP,A)
【文献】特開2005-349858(JP,A)
【文献】特開2005-225476(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0006973(US,A1)
【文献】特開2007-314243(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1789046(CN,A)
【文献】特開2019-172049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/195
B60R 22/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急時に作動して、バックルを引き込むことによりウェビングによる車両の乗員の拘束力を高めるバックルプリテンショナであって、
前記バックルの引き込み動作の初期において鉛直方向に対する前記バックルの車両前方側への傾斜角度を深くし、その後に前記傾斜角度を元に戻す傾斜調整部と、
イヤと、
前記ワイヤの一方の端部に接続されるピストンと、
前記ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、
前記ワイヤを引き込む方向に前記ピストンを作動させるためのガスを、前記ピストンに供給するガス発生器と、
を備え、
前記ワイヤは、他方の端部が、前記シリンダから出て前記バックル内の軸を車両後方側にまわり、並行かつ逆向きに進んで前記シリンダに固定され、
前記傾斜調整部は、前記引き込み動作の初期において前記ワイヤと前記軸との相対移動を規制し、その後に規制を解除する規制部を有する
ックルプリテンショナ。
【請求項2】
前記バックル内の前記軸は、前記ワイヤが巻回される滑車である、
請求項に記載のバックルプリテンショナ。
【請求項3】
前記規制部は、前記軸に対する前記ワイヤの移動を規制し、その後に規制を解除する、
請求項1または2に記載のバックルプリテンショナ。
【請求項4】
前記規制部は、前記滑車の回転を規制し、その後に規制を解除する、
請求項に記載のバックルプリテンショナ。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のバックルプリテンショナを備えるシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バックルプリテンショナ及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシートベルト装置において、車両衝突時などの緊急時に作動して、ワイヤを介してワイヤに連結されるバックルを引き込むことにより、ウェビングによる車両の乗員の拘束力を高めるバックルプリテンショナを設ける構成が提案されている。
【0003】
特許文献1には、バックルプリテンショナにおいて、緊急時にバックルが引き込まれた際、乗員がウェビングに対して潜り込んで前方へ抜け出す状態となること、所謂サブマリン現象の発生を防止すべく、バックルおよびワイヤを所定の傾斜方向よりも下方に向けて、鋭角の緊急時前の角度を小さくするように移動させるバックル引き込み方向変更手段を備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-172049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1に記載の従来技術では、プリテンショナ作動時のバックル引き込み動作中の全体に亘って徐々にバックルの傾斜角度が深くなるよう動作する。このような動作では、サブマリン現象抑制の点において改善の余地がある。
【0006】
本開示は、作動時に乗員のサブマリン現象を好適に抑制できるバックルプリテンショナ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の一観点に係るバックルプリテンショナは、緊急時に作動して、バックルを引き込むことによりウェビングによる車両の乗員の拘束力を高めるバックルプリテンショナであって、前記バックルの引き込み動作の初期において鉛直方向に対する前記バックルの車両前方側への傾斜角度を深くし、その後に前記傾斜角度を元に戻す傾斜調整部と、ワイヤと、前記ワイヤの一方の端部に接続されるピストンと、前記ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、前記ワイヤを引き込む方向に前記ピストンを作動させるためのガスを、前記ピストンに供給するガス発生器と、を備え、前記ワイヤは、他方の端部が、前記シリンダから出て前記バックル内の軸を車両後方側にまわり、並行かつ逆向きに進んで前記シリンダに固定され、前記傾斜調整部は、前記引き込み動作の初期において前記ワイヤと前記軸との相対移動を規制し、その後に規制を解除する規制部を有する

【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、作動時に乗員のサブマリン現象を好適に抑制できるバックルプリテンショナ及びシートベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るシートベルト装置の構成図
図2】実施形態に係るバックルプリテンショナの側面図
図3】バックルの滑車近傍の斜視図
図4図3中のA-A断面図
図5】実施形態における引き込み動作中のバックルの傾斜角度の推移を示す図
図6図5に示したバックルの傾斜角度の変化によるウェビングの位置変化を示す図
図7】本実施形態の効果を説明するための模式図
図8】規制部の第1変形例を示す斜視図
図9図8中のB-B断面図
図10】規制部の第2変形例を示す斜視図
図11図9中のC-C断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0011】
なお、以下の説明において、x方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。典型的には、x方向及びy方向は水平方向であり、z方向は鉛直方向である。x方向はピストンの摺動方向であり、バックル7を引き込む方向がx正方向である。また、x方向は、プリテンショナ1が車両に設置されたときの車両前後方向であり、x正方向側が車両前方、x負方向側が車両後方である。y方向は、プリテンショナ1が車両に設置されたときの車両幅方向である。
【0012】
図1は、実施形態に係るシートベルト装置10の構成図である。図1に示すように、シートベルト装置10は、リトラクタ12から繰り出される乗員拘束用のウェビング11(シートベルト)を備えている。リトラクタ12は、ウェビング11を巻き取る装置であり、車室内側のセンタピラー13の下部に固設されている。リトラクタ12から車体上方へと繰り出されたウェビング11は、センタピラー13の上部に取り付けられたスルーリング14を挿通して、車体下方に向けて折り返される。そして、ウェビング11の先端部は、センタピラー13と座席15との間に設けられたアンカープレートに固定されている。
【0013】
ウェビング11におけるスルーリング14とアンカープレートとの間の部分には、タング17がウェビング11を挿通させるように設けられている。タング17は、座席15を挟んでアンカープレート16の反対側に配置されたバックル7に着脱される。タング17がバックル7に装着されるとき、ウェビング11のうちスルーリング14とタング17との間の部分11Aは乗員Pの肩部や胸部を拘束する。また、このとき、ウェビング11のうちタング17よりアンカープレート側の部分11B(腰ベルト)は乗員Pの腰部分を拘束する。より詳細には、腰ベルト11Bは、乗員Pの腸骨Iを含む領域を通るように配置される(図6参照)。
【0014】
バックルプリテンショナ1は、車両のシートベルト装置10において、車両衝突時などの緊急時に作動して、ウェビング11やバックル7等の被引込部材を引き込むことにより、ウェビング11による車両の乗員の拘束力を高めるための装置である。バックルプリテンショナ1は、バックル7に連結され、シートベルト装置10のバックル7を引き込むタイプのプリテンショナである。
【0015】
バックルプリテンショナ1は、バックル7に接続されたワイヤ2と、ワイヤ2に配置されたピストン3(図2参照)と、ピストン3を摺動可能に収容するシリンダ4と、ピストン3に駆動力を付与するガス発生器5(図2参照)と、シリンダ4に接続されワイヤ2の位置決めを行うブラケット6と、を備える。
【0016】
バックルプリテンショナ1は、バックル7の基部としての機能も有しており、ブラケット6に形成された固定孔61にボルトを挿通することによって車体に固定される。
【0017】
図2は、実施形態に係るバックルプリテンショナ1の側面図であり、部分断面図である。バックルプリテンショナ1は、車両設置時には、シリンダ4の延在方向及びピストン3の摺動方向がx方向(車両前後方向)となるように設置される。さらに言えば、ブラケット6からシリンダがx正方向側(車両前方側)に延在し、プリテンショナ作動時にはピストン3がx正方向側に移動するよう配置される。また、ワイヤ2のうちシリンダ4から外部に露出する部分と、その先端のバックル7とは、鉛直方向(z方向)に対して車両前方側(x正方向側)に傾斜して設置されている。なお、ワイヤ2のうちシリンダ4から外部に露出する部分が、カバー部材などの部品で覆われる構成でもよい。
【0018】
図2に示すように、ワイヤ2の一端は、ブラケット6を介して、シリンダ4内に摺動可能に配置されているピストン3に挿通され、シリンダ4内のワイヤエンドに接続される。一方、ワイヤ2の他端は、シリンダ4からブラケット6を介して外部出て、バックル7内の滑車71(軸)に巻回されて車両後方側(x負方向側)にまわり、並行かつ逆向きに進んでブラケット6内に固定されているワイヤエンド62に接続される。滑車71は回転軸が車両幅方向(y方向)に沿って延在するよう設置される。また、滑車71の回転軸は、y方向から視たときに、バックル7の下部かつ幅方向の略中央部分に配置されている。ワイヤ2のうち、ピストン3からバックル7の滑車71までの間の部分を第1ワイヤ21とも呼び、バックル7の滑車71からワイヤエンド62までの部分を第2ワイヤ22とも呼ぶ。
【0019】
第1ワイヤ21と第2ワイヤ22とは、y方向から視たときに、滑車71(バックル7の幅方向中心)を挟んで所定幅をとって略平行に配置されている。第1ワイヤ21と第2ワイヤ22の延在方向は、鉛直方向(z方向)に対して車両前方側(x正方向側)に傾斜する方向である。
【0020】
なお、図2の例では、第2ワイヤ22の端部はワイヤエンド62を介してブラケット6に固定される構成を例示しているが、第2ワイヤ22は、少なくとも第1ワイヤ21や滑車71よりも車両後方側に固定されていればよく、例えばシリンダ4に直接固定される構成でもよい。
【0021】
図3は、バックル7の滑車71近傍の斜視図である。図4は、図3中のA-A断面図である。図3図4では、説明の便宜上、方向の定義は、バックル7の形状を基準として厚さ方向(y方向)と、幅方向(x正方向とz負方向の間)と、長手方向(x正方向とz正方向の間であり、幅方向と直交する方向)とする。
【0022】
滑車71は、バックル7内において厚さ方向に所定距離を取って対向配置される第1ハウジング72と第2ハウジング73とによって、厚さ方向(y方向)に沿った回転軸まわりに回転可能に支持されている。第1ハウジング72と第2ハウジング73との間では、滑車71の周面の周方向全体にローラ部材76が取り付けられ、このローラ部材76の外周面に沿ってワイヤ2が巻回されている。
【0023】
第1ハウジング72、第2ハウジング73、滑車71は、例えば樹脂や金属により形成される。ローラ部材76は、例えばゴム材や樹脂などで形成される。
【0024】
そして、特に本実施形態では、第1ハウジング72とワイヤ2との間に、リング部材75(規制部、傾斜調整部)が配置されている。リング部材75は例えば樹脂により形成されており、第1ハウジング72とワイヤ2との間の隙間を埋めると共に、ワイヤ2を第2ハウジング73へ押圧している。これにより、ワイヤ2は第1ハウジング72や第2ハウジング73に固定された状態となって、滑車71やバックル7に対するワイヤ2の相対移動が規制されている。リング部材75は、プリテンショナ1が作動してワイヤ2を介してバックル7をシリンダ4側に引き込む引き込み動作が生じると、引き込み動作の初期には、ワイヤ2から伝達される力をリング部材75が受けることで、ワイヤ2と滑車71との相対移動を規制することができる。その後に引き込み動作が進んでワイヤ2から伝達される引き込み力がある程度大きくなると、リング部材75が塑性変形することによって規制を解除し、この結果、ワイヤ2が滑車71に対して相対移動可能となる。
【0025】
なお、本実施形態で用いる「規制」とは、リング部材75のようにバックル7に対してワイヤ2を固定して、バックル7に対するワイヤ2の相対移動を完全に止める構成だけでなく、例えば摩擦抵抗や負荷を増やすなど、バックル7に対するワイヤ2の相対移動をし難くする構成も含む。
【0026】
図5は、実施形態におけるバックル7の引き込み動作中のバックル7の傾斜角度の推移を示す図である。リング部材75(規制部)の働きにより、図5に符号Aで示す引き込み初期には、滑車71が回動せず、ワイヤ2が滑車71に対して相対移動できない。このため、ピストン3に連結される第1ワイヤ21を介して下方への引っ張り力が伝わると、第1ワイヤ21が滑車71の回転軸の位置(バックル7の幅方向中央)より車両前方側でリング部材75を介してバックル7に固定されているので、バックル7には滑車71の回転軸を中心に車両前方側に傾く方向(図5では時計回り方向)に回転モーメントMがかかる。また、第1ワイヤ21がブラケット6の内部に引き込まれて外部に出ている部分が短くなる一方、第2ワイヤ22はピストン3側からの引張力を受けずに長さが変わらないので、バックル7が第1ワイヤ21によって偏って下方に引っ張られる。この結果、図5に示すように、引き込み動作の初期Aでは、鉛直方向(z方向)に対するバックル7の車両前方側(x正方向側)への傾斜角度が深くなるように遷移する。
【0027】
図5に符号Bで示す、引き込み動作の初期Aより後の期間(後期B)では、上述のようにリング部材75が塑性変形することによって滑車71が回動可能となる。これにより、初期Aに発生していた回転モーメントMは無くなる。また、第1ワイヤ21が引っ張られると、第2ワイヤ22の上部は滑車71を経て第1ワイヤ21側へまわり、第2ワイヤ22も第1ワイヤ21と同等に短くなる。この結果、図5に示すように、引き込み動作の後期Bでは、バックル7の傾斜角度が引き込み動作前の元の状態に戻り、バックル7は第1ワイヤ21及び第2ワイヤ22の延在方向に沿ってシリンダ4側に引き込まれる。
【0028】
図6は、図5に示したバックル7の傾斜角度の変化によるウェビング11(腰ベルト11B)の位置変化を示す図である。図6には、座席15に着座している乗員Pの概形が点線で示されている。上述のように、バックルプリテンショナ1が非作動の状態であり、ウェビング11が乗員Pに正常に装着されている状態では、ウェビング11の腰ベルト11Bは、乗員Pの腸骨Iを含む領域の上に配置されて、乗員Pの腰部を拘束している。
【0029】
一般に、交通事故などが原因で車両が前方から強い衝撃を受けると、乗員Pの身体が座席15の座面に押さえつけられるように潜り込んでしまうサブマリン現象が起きる。サブマリン現象が起きると、例えば図6に矢印Cで示すように、乗員Pの腸骨部分Iは腰ベルト11Bをすり抜けやすくなる。したがって、従来のシートベルト装置の場合、サブマリン現象が発生すると、乗員Pは座席15から離れ、座席15前の空間に潜り込むようなかたちとなるため、乗員Pを拘束保護するはずのウェビング11をすり抜け、エアバッグの効果も失ってしまう虞がある。
【0030】
これに対して本実施形態では、上述のとおりバックルプリテンショナ1の引き込み初期A、すなわち車両が衝撃を受けたときに、瞬時にバックル7が車両前方側に回動して傾斜角度が深くなるので、例えば図6に矢印Dで示すように、ウェビング11の腰ベルト11Bの位置を通常時より前方側かつ下方側に移動できる。これにより、車両衝撃時に乗員Pの身体が車両前方側に移動しようとしても、ウェビング11の腰ベルト11Bが乗員Pの腸骨Iの位置から外れるのを防止できるので、乗員Pの身体がウェビング11をすり抜けて前方へ移動するのを防止できる。
【0031】
また、本実施形態では、バックル7の引き込み動作の全体に亘ってバックル7の傾斜角度を深めるのではなく、引き込み動作の初期A(図5参照)のみでバックル7の傾斜角度を前方側に大きくする。一般的にサブマリン現象は、ウェビング11による拘束力が比較的小さく、乗員Pの身体がウェビング11に対して比較的相対移動しやすい状況で起こりやすい。このような状態は引き込み動作初期Aが該当する。一方、引き込み動作後期Bにはウェビング11による拘束力が充分に大きくなり、サブマリン現象は生じにくい。つまり、引き込み動作初期Aにサブマリン現象のための対策を取れることが重要である。
【0032】
本実施形態では、引き込み動作初期Aに絞ってバックル7の傾斜角度を変更するため、引き込み動作初期Aにおけるウェビング11の腰ベルト11Bの車両前方への移動量を増やすことが可能となる。これにより、本実施形態のバックルプリテンショナ1は、サブマリン現象が発生しやすい引き込み動作初期Aにおいて、より確実にウェビング11の腰ベルト11Bによる乗員Pの拘束位置を維持することが可能となり、乗員Pのサブマリン現象を好適に抑制できる。
【0033】
上述の引き込み動作初期Aの効果について図7を参照してさらに説明する。図7は、本実施形態の効果を説明するための模式図である。図7の(A)は本実施形態のバックルプリテンショナ1よるバックル7の傾斜角度変更構造を模式的に示す。一方図7の(B)は、比較例として、特許文献1などの従来手法のバックルプリテンショナ1Aにおける変更構造を模式的に示す。(A)ではバックル7のみが傾斜角度が増加される。一方、(B)ではバックル7だけでなくワイヤ2も一体的に傾斜角度が増加される。
【0034】
図7(A)では、引き込み動作初期Aにバックル7の傾斜角度が増加される。このときの傾斜角度の増加量をαとする。一方図7(B)では、引き込み動作の全体にわたってバックル7とワイヤの傾斜角度が増加される。このときの傾斜角度の増加量をβとする。傾斜角度増加量のαとβとは、概ね同一と考えることができる。
【0035】
ここで引き込み動作初期Aに注目すると、(A)では増加量がαであるのに対して、(B)では増加量はβの一部のγとなる。増加量γは、引き込み動作全体に対する初期Aの割合に依存するが、少なくともβの半分以下と考えられる。このため、確実に(A)の引き込み動作初期Aの傾斜角度の増加量αは、(B)の増加量γより大きいといえる。このように、本実施形態では、引き込み動作初期Aの傾斜角度の増加量が従来手法より大きくできるので、その分だけ引き込み動作初期Aのウェビング11の車両前方側への移動量も大きくできる。
【0036】
本実施形態では、リング部材75が、バックル7の滑車71に対するワイヤ2の相対移動を規制し、その後に規制を解除する規制部として機能する。また、規制部としてのリング部材75は、バックル7の引き込み動作の初期において鉛直方向に対するバックル7の車両前方側への傾斜角度を深くし、その後に傾斜角度を元に戻す傾斜調整部に含まれる。
【0037】
また、特許文献1などに記載される従来技術では、ループしたワイヤのなす角が大きく、さらに引き込みが進み引き込み力がより必要になる動作後半には、さらになす角が大きくなるため、引き込み方向の分力が小さくなりプリテンショナとしては効率が悪いという問題があった。これに対して本実施形態では、傾斜角度が変わるのはバックル7のみであり、ワイヤ2の傾斜角度は変わらない。このため、特許文献1などに記載の従来技術のように、バックルもワイヤも一体的に傾斜角度を変更する構成と比較して、ピストン3からワイヤ2に伝達される引っ張り力の損失が少なく、プリテンショナとしての動作効率を維持できる。特に、引き込みが進み引き込み力がより必要になる動作後半(引き込み動作後期B)には、特に効果的である。したがって、本実施形態に係るバックルプリテンショナ1は、車両衝突時にウェビング11による乗員Pの拘束位置を維持できると共に、効率を維持できる。
【0038】
また、特許文献1などに記載される従来技術では、バックルを前方に向けるために、ループしているワイヤの固定端をバックルの初期位置よりも車両前方側に配置しなければならず、ワイヤに囲まれた領域がデッドスペースとなるという問題があった。これに対して本実施形態では、第1ワイヤ21と第2ワイヤ22とはバックル7とブラケット6との間に平行に配置されるので、特許文献1などに記載の従来技術のようにデッドスペースが増えることを回避でき、省スペース化が可能となる。
【0039】
なお、上記実施形態では、滑車71に対するワイヤ2の移動を規制し、その後に規制を解除する規制部(傾斜調整部)の一例として、第1ハウジング72とワイヤ2との隙間にリング部材75を配置する構成を例示したが、このような規制部の構成はこれに限定されない。
【0040】
図8は、規制部の第1変形例を示す斜視図である。図9は、図8中のB-B断面図である。図8図9に示すように、リング部材75の代わりに、第2ハウジング73の一部を厚さ方向に屈曲させる屈曲部77を設け、この屈曲部77をワイヤ2の外周側と接触させる構成でもよい。屈曲部77は、図9に示すように、ワイヤ2をローラ76側に押圧し、これにより滑車71に対するワイヤ2の移動を規制することができる。
【0041】
なお、屈曲部77は例えば金属で形成され、金属製の屈曲部77でワイヤ2を押し付けることによって、静摩擦と動摩擦係数の差を利用し、動き出すまで押さえつける。
【0042】
図10は、規制部の第2変形例を示す斜視図である。図11は、図10中のC-C断面図である。図10図11に示すように、第1変形例の屈曲部77自体でワイヤ2を規制する構成の代わりに、屈曲部77とワイヤ2との隙間に、屈曲部77からワイヤ2側に突出する突出部78を設け、この突出部78をワイヤ2の外周側と接触させる構成でもよい。突出部78は、図11に示すように、ワイヤ2をローラ76側に押圧し、これにより滑車71に対するワイヤ2の移動を規制することができる。
【0043】
なお、突出部78は例えば樹脂で形成され、リング部材75と同様に突出部78の塑性変形によってワイヤ2の規制を解除する。
【0044】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0045】
上記実施形態では、バックル7に滑車71を設け、ワイヤ2が滑車71に沿って巻回される構成を例示したが、ワイヤ2が巻回できればよく、滑車71ではなく単なる軸でもよい。
【0046】
上記実施形態や変形例では、規制部としてリング部材75、屈曲部77、突出部78のように、引き込み動作の初期において滑車71(バックル7)に対するワイヤ2の相対移動を停止させる構成を例示したが、規制部は、引き込み動作の初期において、少なくともワイヤ2と滑車71との相対移動を規制できればよい。例えば、引き込み動作の初期において滑車71とワイヤ2との間の摩擦抵抗を増やしたり、ワイヤ2が移動するための負荷を増やすなど、バックル7に対するワイヤ2の相対移動をし難くする構成でもよい。このような構成としては、例えば、引き込み動作の初期において滑車71の回転を規制し、その後に規制を解除する構成が挙げられる。
【符号の説明】
【0047】
1 バックルプリテンショナ
2 ワイヤ
3 ピストン
4 シリンダ
7 バックル
10 シートベルト装置
11 ウェビング
71 滑車(軸)
75 リング部材(規制部、傾斜調整部)
77 屈曲部(規制部、傾斜調整部)
78 突出部(規制部、傾斜調整部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11