(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】癌の予防および/または治療のためのアミノ酸を含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20240827BHJP
A61K 31/194 20060101ALI20240827BHJP
A61K 31/4172 20060101ALI20240827BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20240827BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240827BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240827BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61K31/198
A61K31/194
A61K31/4172
A61K31/405
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2022540336
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 IB2020062301
(87)【国際公開番号】W WO2021144640
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】102020000000454
(32)【優先日】2020-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】517061897
【氏名又は名称】プロフェッショナル ダイエテティクス エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジェッティ、パオロ ルカ マリア
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/003013(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021137(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021135(WO,A1)
【文献】Xiao Wang et al.,Increases in mitochondrial biogenesis impair carcinogenesis at multiple levels,Molecular Oncology,Elsevier,2011年,vol.5,399-409
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の癌の予防および/または治療における使用のための組成物であって、前記組成物は、活性剤を備え、前記活性剤は、アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンと、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸とを含む、使用のための組成物。
【請求項2】
前記癌は、腺癌、黒色腫、大腸癌、および乳癌からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の合計と、分岐鎖アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリンにリシンおよびトレオニンを加えた合計との重量比は、0.05~0.3
に含まれる、請求項1または請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の総量と、分岐鎖アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリンの総量との重量比は、0.1~0.4
に含まれる、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
クエン酸と、リンゴ酸およびコハク酸の合計との重量比は、1.0~4.0
に含まれる、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
クエン酸:リンゴ酸:コハク酸の重量比は、10:1:1~2:1.5:1.5
に含まれる、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記活性剤は、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、システインからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を更に有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記活性剤は、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システインおよび任意にチロシンを更に有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の総モル量と、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジンおよびトリプトファンの総モル量との比は、1.35より高い、請求項1から8のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
クエン酸、コハク酸、リンゴ酸の3つの酸の総モル量と、リシンおよびトレオニンの総モル量との比は、0.10~0.70
に含まれる、請求項1から9のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
クエン酸の重量またはモル量は、リンゴ酸とコハク酸の両方の総重量またはモル量より高い、請求項1から10のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
ロイシンとクエン酸との重量比は、5~1
に含まれる、請求項1から11のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記組成物は、アルギニンを含まない、請求項1から12のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記組成物は、セリン、プロリン、アラニンを含まない、請求項1から13のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
対象の癌の予防および/または治療において同時に、別々に、または逐次使用するための、請求項1から14のいずれか1項に記載の組成物と、少なくとも1つの化学療法剤とを備える、複合製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、癌の予防および治療に使用するためのアミノ酸を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、正常組織に対して異なる代謝プロファイルを有し、癌細胞の増殖におけるミトコンドリア活性の役割に関する対照的な証拠が明らかになってきている。酸素の存在下でさえグルコースが優先的に使用される、いわゆるワールブルク効果は、腫瘍細胞の特質の1つである。当初「好気性解糖」と定義されたこの現象は、癌におけるミトコンドリア機能不全の最初期の仮説につながった。しかしながら、この状況はより複雑であることが示されており、現在は、癌ミトコンドリアが発癌において高分子生合成、アポトーシス抵抗性、および発癌性シグナル伝達の活性化などの多面的機能に関与するという一般的な意見の一致が得られている。それにもかかわらず、実際には、多くのミトコンドリア変異が腫瘍中に見出されており、活性酸素種(ROS)の低減に起因して酸化的リン酸化(OXPHOS)率が減少する結果、増殖が助長され、癌細胞増殖が増大することが示されている。更に、癌の成長における解糖経路の極めて重要な役割を所与とし、また、OXPHOSおよび解糖が相互に調節されることから、ミトコンドリア機能を高めると解糖の阻害および癌細胞の死につながり得るとの推測が導かれる。更に、抗癌療法における薬学的手法として解糖阻害剤を開発するために多くの関心および労力が費やされてきた。いくつかの第一世代薬および第二世代薬が開発されているが、それらの安全性プロファイルおよび抵抗性の発現により、いくつかの懸念が生じている。
【発明の概要】
【0003】
本明細書の目的は、癌の予防および/または治療において特に有効であり、安全な投与プロファイルをもつ新規組成物を提供することである。
【0004】
本明細書によれば、上記の目的は、本開示の不可欠な部分をなすものとして理解される後続の特許請求の範囲において具体的に想起される主題によって達成される。
【0005】
本明細書の一実施形態は、対象の癌の予防および/または治療における使用のための組成物を提供し、この組成物は、活性剤を備え、当該活性剤は、アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンと、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸とを含む。
【0006】
1または複数の実施形態において、癌は、黒色腫、腺癌、大腸癌、乳癌からなる群から選択され得る。
【0007】
1または複数の実施形態において、組成物の活性剤は、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システインおよびチロシンからなる群から選択される1または複数のアミノ酸を更に含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
これより、添付図面を参照し、本発明を単なる例として説明する。
【
図1】示されている時間にわたって正常培地(DMEM)または本願の組成物(α5)と共にインキュベートされた癌細胞および正常細胞におけるMTT生存率アッセイを示す。DMEMに対して*p<0.01、**p<0.05。
【
図2】0時間時点のB16F10黒色腫細胞と、24時間(hr)にわたってDMEM(NT)中またはα5組成物(α5)と共にインキュベートしたB16F10黒色腫細胞とにおける、掻創アッセイを示す。
【
図3】24時間にわたってDMEM(NT)またはα5組成物(α5)中でインキュベートしたHeLa細胞におけるコロニー形成アッセイを示す。
【
図4】24時間にわたってDMEM(NT)またはα5組成物(α5)中でインキュベートしたM14黒色腫細胞におけるシトクロムC(CytC)転座およびアポトーシスマーカーのウエスタンブロット分析の結果を示す。上部:α5は、処理された細胞の細胞基質(PMS)において特異的CytC転座を誘導するが、特異的COX4転座は誘導しない。下部:M14細胞におけるPARP-1およびカスパーゼ3による切断。
【
図5】5時間にわたってDMEM(NT)またはα5組成物(α5)中でインキュベートした細胞におけるmTOR経路およびHIF1αのウエスタンブロット分析の結果を示す。左:M14、Hela、B16F10、およびDetroit 573線維芽細胞中のmTOR活性のマーカーとしてのphospho-p70S6K(thr386)レベル。右:M14細胞およびHeLa細胞におけるHIF1α発現。GAPDHはローディングコントロールとして示されている。
【
図6】癌細胞および正常細胞における代謝活性を示す。DMEM(NT)またはα5組成物(α5)で1時間処理した後のHeLa、M14、およびHL-1細胞における解糖(左)およびOCR(右)。NTに対して*p<0.01。
【
図7】MCF7乳癌細胞増殖に関する。(A)酸性ホスファターゼアッセイ:細胞(96ウェルプレート中5,000~20,000個/ウェル)を1%のα5組成物で48時間処理し、1μMのドキソルビシン(DOX)で16時間処理した。(B)増殖アッセイ:細胞(12ウェルプレート中50,000個/ウェル)を(A)のように処理し、トリパンブルー排除アッセイを使用した。実験数n=3。未処理細胞に対して*p<0.05および**p<0.01。すべてのデータは平均±SDとして提示されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明には、実施形態の十分な理解をもたらすべく、多くの具体的な詳細が記載されている。実施形態は、具体的な詳細のうちの1または複数を用いずに実施することも、他の方法、成分、材料などを用いて実施することもできる。他の例では、よく知られた構造、材料または動作は、実施形態の態様を不明瞭にすることを避けるために、詳細に示されることも説明されることもない。
【0010】
本明細書の全体における「1つの実施形態」または「一実施形態」への言及は、その実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通して様々な箇所における「1つの実施形態において」または「一実施形態において」という表現の出現は、必ずしもすべてが同一の実施形態を指すとは限らない。更に、特定の特徴、構造、または特性は、1または複数の実施形態において任意の好適な方式で組み合わせてもよい。本明細書で提供される見出しは、便宜上のものに過ぎず、実施形態の範囲または意味を解釈するものではない。
【0011】
本明細書の一実施形態は、対象の癌の予防および/または治療における使用のための組成物を提供し、この組成物は、活性剤を備え、当該活性剤は、アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンと、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸とを含む。
【0012】
癌は、腺癌、黒色腫、大腸癌、乳癌からなる群から選択され得る。
【0013】
本開示は、更に、対象の癌の予防および/または治療において同時に、別々に、または逐次使用するための、本明細書で開示される組成物と、少なくとも1つの化学療法剤とを備える、複合製剤を提供する。
【0014】
本願の発明者は、驚いたことに、本明細書で開示される組成物が、子宮頸癌細胞、黒色腫細胞、結腸癌細胞、乳癌細胞などの癌細胞の増殖率を低減させるのに特に有効であり、正常細胞の増殖の率には影響しないことを見出した。本組成物はまた、癌細胞の運動性およびクローン形成能の阻害に有効であることが示された。非常に重要なことに、本組成物は、mTOR経路に対する阻害効果を及ぼし、この証拠は注目に値するが、なぜなら、mTOR活性の増大は腫瘍形成に関連付けられることが多く、必須アミノ酸ベースの組成物はmTOR経路を活性化することが知られているためである。
【0015】
更に、以下のセクションで示すように、本組成物は、単独または少なくとも1つの化学療法剤との組み合わせのいずれにおいても安全に投与され得る。化学療法剤は、例えば少なくとも1つのアントラサイクリン、例えばドキソルビシンであり得る。
【0016】
1または複数の実施形態において、本明細書で開示される組成物は、活性剤を備え、当該活性剤は、クエン酸、コハク酸およびリンゴ酸を、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンと組み合わせて含み、クエン酸、コハク酸およびリンゴ酸の総量と、アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンの総量との重量比は、0.05~0.3、好ましくは0.1~0.25に含まれる。
【0017】
1または複数の実施形態において、本組成物は、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシン、クエン酸、コハク酸およびリンゴ酸、ならびに任意にビタミンB1およびビタミンB6からなり得る。
【0018】
1または複数の実施形態において、活性剤は、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システイン、チロシンからなる群から選択される1または複数のアミノ酸を更に含み得る。
【0019】
1または複数の実施形態において、本組成物は、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システイン、および任意にチロシン、ならびにクエン酸、コハク酸、およびリンゴ酸からなる活性剤を備えてもよく、当該アミノ酸だけが組成物中に含まれるアミノ酸である。
【0020】
1または複数の実施形態において、本組成物は、任意の化学療法剤、すなわち、急速に成長する細胞の増殖を直接的または間接的に阻害し、抗腫瘍原性効果を及ぼす任意の薬剤のような、任意の他の活性剤を含まなくてもよい。
【0021】
1または複数の実施形態において、本組成物は、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システイン、チロシン、クエン酸、コハク酸、およびリンゴ酸、ならびに任意にビタミンB1および/またはビタミンB6からなり得る。
【0022】
本組成物は、アミノ酸のイソロイシン、ロイシン、およびバリンを、活性剤の重量に対して35重量%~65重量%、好ましくは42重量%~56重量%の量で含み得る。
【0023】
ロイシンとクエン酸との重量比は、5~1、好ましくは2.50~3.50に含まれ得る。
【0024】
更なる実施形態では、クエン酸の重量またはモル量は、リンゴ酸およびコハク酸の各々の重量またはモル量より高い。好ましくは、クエン酸の重量またはモル量は、リンゴ酸にコハク酸を加えた総重量または総モル量より高い。更なる実施形態では、クエン酸と、リンゴ酸およびコハク酸の合計との重量比は、1.0~4.0、好ましくは1.5~2.5に含まれる。好ましい実施形態では、クエン酸:リンゴ酸:コハク酸の重量比は、10:1:1~2:1.5:1.5、好ましくは7:1:1~1.5:1:1、より好ましくは5:1:1~3:1:1に含まれる。好ましい実施形態では、クエン酸:リンゴ酸:コハク酸の重量比は、4:1:1である。
【0025】
好ましいイソロイシン:ロイシンのモル比は、0.2~0.7の範囲内、好ましくは0.30~0.60の範囲内に含まれ、かつ/または、好ましいバリン:ロイシンの重量比は、0.2~0.70の範囲内、好ましくは0.30~0.65の範囲内に含まれる。
【0026】
更なる実施形態では、トレオニン:ロイシンのモル比は、0.10~0.90の範囲内、好ましくは0.20~0.70の範囲内に含まれ、かつ/または、リシン:ロイシンの重量比は、0.20~1.00の範囲内、好ましくは0.40~0.90の範囲内に含まれる。
【0027】
好ましい実施形態では、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の総モル量と、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジンおよびトリプトファンの総モル量との比は、1.35より高い。
【0028】
1または複数の実施形態において、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の合計と、分岐鎖アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリンの合計との重量比は、0.1~0.4、好ましくは0.15~0.35に含まれる。
【0029】
更なる実施形態では、分岐鎖アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリンにトレオニンおよびリシンを加えた総重量は、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の3つの酸の総重量より高い。好ましくは、単一酸(クエン酸、コハク酸またはリンゴ酸)の重量は、単一アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニンおよびリシンの各々の重量よりも少ない。
【0030】
更なる実施形態では、リシンおよびトレオニンの総モル量は、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸の3つの酸の総モル量より高い。好ましくは、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸の3つの酸の総モル量と、リシンおよびトレオニンの総モル量との比は、0.1~0.7、好ましくは0.15~0.55に含まれる。
【0031】
1または複数の実施形態において、本明細書で開示される組成物は、ビタミン類を更に含み、このビタミン類は、好ましくは、ビタミンB1および/またはビタミンB6などのビタミンB群から選択される。本組成物は、炭水化物、香味物質、天然甘味料および人工甘味料、賦形剤を含み得る。賦形剤は、マルトデキストリン、フルクトース、魚油、スクラロース、ショ糖エステル、ビタミンD3、ビタミンB群から選択され得る。
【0032】
1または複数の実施形態において、本組成物は、薬学的に許容されるビヒクルと、上記で開示したような少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを更に備える医薬組成物であり得る。
【0033】
本明細書で開示されるアミノ酸は、それぞれの薬学的に許容される誘導体、すなわち塩で置き換えられ得る。
【0034】
更に、特に本開示による組成物、具体的には活性剤を調製する際、アミノ酸のアルギニンは回避される。加えて、本明細書で開示される組成物によって具体的に除外される更なるアミノ酸は、セリン、プロリン、アラニンである。そのようなアミノ酸は、組成物中のある濃度または化学量論比では、逆効果または有害でさえあり得る。
【0035】
経口使用の場合、本明細書に記載の組成物は、錠剤、カプセル、顆粒、ゲル、ゼリー化粉末、粉末の形態をとり得る。
【0036】
本開示はまた、対象の癌を予防および/または治療する方法を提供し、本方法は、活性剤を有する組成物を選択する段階であって、当該活性剤は、アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシン、ならびにカルボン酸のクエン酸、コハク酸、およびリンゴ酸を含む、段階と、組成物を対象に投与する段階とを備える。活性剤は、本明細書で開示されるように、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システイン、チロシンからなる群から選択される1または複数のアミノ酸を更に含み得る。本組成物は単独で投与されてもよく、したがって本方法の本質は、組成物を選択する段階と、組成物を対象に投与する段階とにある。1または複数の実施形態において、本組成物は、少なくとも1つの化学療法剤、好ましくは少なくとも1つのアントラサイクリンと同時に、別々に、または順次投与されてもよく、より好ましくは、当該少なくとも1つのアントラサイクリンは、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピクサントロン、サバルビシン、バルルビシン、それらの誘導体からなる群から選択される。
【0037】
組成物により提供される様々なアミノ酸の量および比に関する更なる仕様は、本発明に関して本明細書で提供される技術的教示の不可欠な部分をなす添付の特許請求の範囲に含まれる。
【実施例】
【0038】
表1は、本願で開示される組成物(名称「α5」)を示す。この組成物は、クエン酸、コハク酸、およびリンゴ酸と組み合わせてアミノ酸を含む活性剤を備え、いかなる化学療法剤も含まない。
【表1】
上記の表1の組成物は、まず、0.8メッシュですべての成分を篩分けることにより調製することができる。予備混合物を得るには、各成分(総量の10重量%未満の量)をL-リシンHClの一部と共にポリエチレン袋にとり、組成物全体の重量の10%を得る。次に、袋を5分間手で振る。次に、予備混合物を残りの成分と共にミキサ(Planetaria)に入れ、120rpmで15分間混合して均一な最終組成物を得る。
[方法]
【0039】
[細胞および処理]
使用した細胞株は、B16F10(マウス黒色腫、ATCC#CRL-6475)、C2C12(マウス筋芽細胞、ATCC#CRL-1772)、HeLa(ヒト腺癌、ATCC#CCL-2)、Detroit 573(ヒト線維芽細胞、ATCC#CCL-117)、NIH3T3(マウス胎児線維芽細胞、ATCC#CRL-1658)、MCF-7(ヒト乳癌細胞株、ATCC#HTB-22)、HCT116(ヒト大腸癌細胞ATCC#CCL-247)、M14(ヒト黒色腫)[Chee DO et al. 1976 Cancer Res. 36(4):1503-9]、HCT116 TP53(-/-)(p53ヌルヒト大腸癌細胞)[Sur S et al. 2009 Proc Natl Acad Sci U S A. 10;106(10)]、HL-1(マウス心筋細胞)[Sigma-Aldrich(ミラノ、イタリア)(SCC065)]であった。
【0040】
4mMのグルタミン、10%のウシ胎児血清(FBS)、および100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(すべてSigma-Aldrich(ミラノ、イタリア)の試薬)を補った標準的なダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)において、細胞を定型的に80%コンフルエンシーまで成長させた。α5での処理のためには、示された期間にわたり、完全DMEM中で、または同じ培地に溶解させたα5混合物の1%溶液と共に、細胞をインキュベートした。
【0041】
MCF-7細胞を上記のようにDMEM中で培養し、1%のα5組成物で48時間処理し、1μMのドキソルビシン(DOX、Sigma-Aldrich、ミラノ、イタリア)で16時間処理した(
図7)。
【0042】
[生存率アッセイ]
標準的なMTT[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド]アッセイを使用し、細胞の生存率を決定した。すべての処理は、96ウェルプレートにて、100μLの培地中、2×104個の細胞/ウェルを使用して行った。紫色のホルマザン結晶を5% SDS/0.1M HCl(100μL/ウェル)に溶解させ、吸光度をマイクロプレートリーダーにて570nmの波長で記録した。
【0043】
[単一層創傷治癒アッセイ]
細胞を24ウェルプレート内の成長培地中でフルコンフルエンスまで成長させ、次に、コントロールまたはα5含有培地中で一晩インキュベートした。次に、細胞培養物を200μL滅菌ピペットチップで掻爬し、PBSで十分に洗浄して、分離した細胞および残骸を除去した。次に、遊走能の回復を評価するために、顕微鏡像を16~24時間後に収集した。
【0044】
[クローン原性生存率アッセイ]
コントロールDMEMまたはα5組成物で処理する1日前に、100~1000個の細胞を三連で6ウェルプレートに播種した。次に、約10日間、細胞がコロニーを形成するまで、DMEMまたはα5培地中で成長させた。生存したコロニーを100%メタノールで固定し、メタノール中のメチレンブルーで染色した。少なくとも3つの独立した生物学的実験を実行した。
【0045】
[ウエスタンブロット分析]
プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤を補った溶解緩衝液(20mM Tris-HCl pH8.0、400mM NaCl、5mM EDTA、1mM EGTA、1mMピロリン酸Na、1% Triton X-100、10%グリセロール)を使用し、全細胞抽出物を単離した。BCAタンパク質アッセイを使用し、単離されたタンパク質の濃度を決定した。15~20マイクログラムのタンパク質を4~20%のTris-グリシンゲル上で分離し、ニトロセルロース膜またはPVDF膜(Bio-Rad、セグラーテ(MI)、イタリア)に電気泳動で転写した。TBS-T(10mM Tris、pH8.0、150mM NaCl、0.1% Tween(登録商標) 20)中で5%の脱脂粉乳と60分インキュベーションした後、膜をTBS-Tで1回洗浄し、適切な抗体と4℃で12時間インキュベートした。膜を10分間にわたり3回洗浄し、抗マウス抗体または抗ウサギ抗体の西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートの1:3000希釈物と共に2時間インキュベートした。ブロットをTBS-Tで3回洗浄し、ECL系で展開した。使用した抗体は、p-p70S6K(Thr389)(Cell Signalingカタログ番号9205)、p70S6K(Cell Signalingカタログ番号9202)、HIF1-α(BD Biosciencesカタログ番号610958)、GAPDH(Cell Signalingカタログ番号2118)、CytC(Cell Signalingカタログ番号4280)、COXIV(Cell Signalingカタログ番号4844)、PARP(Trevigen #4338)、カスパーゼ3(Cell Signalingカタログ番号9662)であった。
[酸素消費率(OCR)および細胞外酸性化率(ECAR)の測定]
溶解したO2の変化率(酸素消費率、OCR)およびpHの変化率(細胞外酸性化率、ECAR)を、製造元の説明に従ってXF24 Analyzer(Seahorse Biosciences)で測定した。
【0046】
細胞(ウェル当たり2~4×103個)をXF24細胞培養マイクロプレート(Seahorse Biosciences、MA、USA)にプレーティングし、18時間後、CO2を含まないインキュベータにおいて、グルコースを補った重炭酸塩を含まないDMEM(Seahorse Biosciences)により、37℃で1時間にわたって平衡化した。基礎OCR測定の後、次に、化合物のオリゴマイシン(2μM)、脱共役剤のカルボニルシアニド-4-(トリフルオロメトキシ)-フェニルヒドラゾン(FCCP)(1μM)、ならびに電子伝達阻害剤のロテノンおよびアンチマイシンA(R/A)(いずれも0.5μM)をウェルに注入して、脱共役呼吸、最大呼吸、および非ミトコンドリア呼吸をそれぞれモニタリングした。化合物を示されている時間でウェルに注入した。
【0047】
[酸性ホスファターゼアッセイ]
MCF7細胞の成長を定量するために、[Yang TT et al. 1996 Anal Biochem. 241(1):103-8]に説明されているように、酸性ホスファターゼアッセイを使用した。簡単に述べると、MCF7細胞をウェル当たり細胞5,000個~20,000個の密度で96ウェルプレートに入れ、1%のα5(48時間)および1μMのDOX(16時間)で処理した。培養培地を除去し、各ウェルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)で1回洗浄し、0.1M酢酸ナトリウム(pH5.0)、0.1% Triton X-100、および5mM p-ニトロフェニルリン酸(pNPP)を含む緩衝液100μlを添加した。次に、プレートを37℃のインキュベータに2時間入れた。10μlの1N NaOHを添加して反応を停止させ、発色を405nmで評価した。細胞を含まないウェルにおいて、pNPPの非酵素加水分解を測定した。
【0048】
[統計分析]
スチューデントt検定(両側、独立、独立)を使用して、異なる群の平均のペアワイズ比較を実行した。データはp<0.05で有意とみなした。
[結果]
【0049】
[癌細胞の増殖、運動性、およびクローン形成能力に対するα5組成物の阻害効果]
α5組成物の投与の効果を、まず、in vitro癌細胞増殖について試験した。この目的のために、様々な癌細胞株をα5組成物(1%)と共にインキュベートした。
図1に示すように、α5組成物は、コントロール培地のみを用いる培養下で成長させた細胞に対して、癌細胞の成長を減少させた。最も重要なことに、α5による処理は、正常な非癌細胞の成長には影響を与えなかった。留意すべき点は、α5が、HCT116の野生型(WT)とp53-/-の両方の生存率を低減させたことであり、したがって、p53の非存在下でもその有効性が立証された。最も重要な腫瘍抑制遺伝子のうちの1つであるp53は、多くの腫瘍において変異しており不活性であるため、したがってこのデータは、α5の作用の範囲を大幅に拡大する。
【0050】
注目すべきことに、α5混合物は、早ければ処理の開始から24時間後には癌細胞の成長を阻害することができた。この迅速な効果は、WTとp53-/-の両方のHCT116細胞およびHelaにおいて特に顕著であった(それぞれ49%、44%、および46%の阻害)。次に、α5の成長阻害効果は48時間時点で更に増大し、72時間までには、74%、61%、および70%の阻害率に達した。しかしながら、この混合物は、ヒトとマウスの両方の黒色腫細胞にも有効であった。特に、72時間時点において、α5は、マウスB16F10マウス黒色腫の成長を87%阻害した。
【0051】
α5組成物の投与はまた、B16F10における掻創アッセイによって評価すると、癌細胞の運動性を低減させた。コンフルエント細胞を掻爬し(0時間)、次にコントロール培地またはα5組成物中でインキュベートした。
図2に示すように、掻爬の24時間後、コントロール培地中でインキュベートした細胞は、増殖および運動を再開し、一方、α5中でインキュベートしたものは、増殖および運動を再開せず、したがって、低減した遊走能を示した。
【0052】
更に、コロニー形成アッセイにおいて単細胞のクローン形成能を検証したとき、α5組成物はまた、HeLa細胞におけるクローン形成能力を完全にブロックした。
図3に示すように、コントロール培地中でインキュベートした細胞は、10日間の成長中に単細胞由来コロニーを効率的に形成した一方で、α5組成物でのインキュベーションは、HeLa細胞がコロニーを形成する能力を大幅に低減させ、したがって、α5が、癌細胞の複製能力および無制限に分裂する癌の能力をブロックすることが裏付けられた。
【0053】
[α5組成物は癌細胞のアポトーシス細胞死を促進する]
観察された細胞増殖の低減が細胞分裂のブロックに起因したのか細胞死の誘導に起因したのかを評価するために、M14黒色腫中で様々なアポトーシスマーカーを分析した。アポトーシス中、ミトコンドリアタンパク質であるシトクロムC(CytC)が細胞の細胞基質中に放出されることはよく知られている。この目的のために、M14細胞をコントロールまたはα5培地中で24時間インキュベートし、その後、ミトコンドリア(mito)を細胞質画分から分離させることにより(ミトコンドリアを除いた後の上清、Post-mitochondrial supernatant-PMS)、細胞分画を実行した。次に、ミトコンドリアとPMSの両方にウエスタンブロット分析を実行することにより、CytCの局在を評価した。PMSへのCytCの放出がアポトーシスに特有の結果であり、ミトコンドリア障害(すなわち、分画過程中の)の結果ではないことを検証することを目的としたコントロールとして、アポトーシス中に放出されないシトクロムオキシダーゼ4(Cox4)の局在も評価した。
【0054】
図4に示すように、イムノブロット分析は、α5中で24時間インキュベートしたM14細胞のPMSにおいて、特異的CytC転座を示したが、特異的Cox4転座は示さなかった。更に、M14黒色腫細胞において、α5組成物による処理の24時間後には、別のよく知られているアポトーシスマーカーである明らかなParp-1切断が明白であった。加えて、24時間のα5組成物は、M14黒色腫細胞におけるアポトーシス促進性カスパーゼ3の切断および形成も誘導した(
図4)。
【0055】
これらの結果は、α5組成物が癌細胞のアポトーシス細胞死を促進するという証拠を強く支持している。
【0056】
[phospho-p70S6kおよびHIF1αの発現に対するα5組成物の阻害効果]
細胞内アミノ酸の主要な標的の1つは、ラパマイシン機構的標的(mTOR)経路であり、これは、その下流エフェクターp70S6キナーゼをリン酸化することにより、栄養シグナルをタンパク質合成および細胞成長の誘導と統合する、細胞の成長および分裂の主要な調節因子である。
【0057】
mTOR経路は数種の癌で調節不全になり、その活性化は細胞の発癌過程と高頻度で関連しており、したがって腫瘍原性を高めるので、本願の発明者は、標準培養培地DMEMまたはα5組成物で処理した癌細胞におけるmTOR活性の読み出し情報として、p70S6のリン酸化状態についても調査した。
【0058】
図5に示すように、p70S6キナーゼリン酸化レベルは、α5で処理したM14細胞、HeLa細胞、およびB16F10細胞において、標準培養培地中でインキュベートした細胞(
図5の縦列「NT」または「未処理」)に対して低下した。これらの結果は、α5組成物が、驚いたことに、mTOR経路に阻害効果を及ぼし、したがってその活性化を阻止したことを示す。非常に興味深いことに、p70S6kのリン酸化は、正常なDetroit 573細胞では影響を受けなかった。
【0059】
最も重要なことに、α5組成物はまた、M14細胞とHeLa細胞の両方において、腫瘍形成に関わる最も重要な癌遺伝子のうちの1つである低酸素誘導因子1アルファ(HIF1α)の発現レベルを下方制御した(
図5)。
【0060】
主要な癌遺伝子として、HIF1αは、癌の解糖の極めて重要な調節因子でもあるため、未処理(NT)またはα5組成物と共に1時間インキュベートした癌細胞と正常細胞の両方で、解糖速度の測度として、細胞外酸性化率(ECAR)を分析した。
図6に示すように、α5組成物での処理は、癌細胞における基礎ECARを有意に下方制御し(NTに対してp<0.01)、一方で、コントロール(NS)の非腫瘍HL-1心筋細胞における解糖をわずかに減少させた。しかしながら、OCRは、M14およびHeLaでは上方制御されなかった一方で、HL-1コントロール心筋細胞では大幅に増大した(NTに対してp<0.01)。
【0061】
これらのデータは、急性のα5組成物が癌細胞における解糖をブロックする一方で、正常細胞のみにおいてOCRを同時に増大させることを立証する。
【0062】
[DOXの抗増殖効果はα5組成物の存在下のMCF7乳癌細胞で増強される]
単独またはドキソルビシン(DOX)と組み合わせたα5組成物にMCF7乳癌細胞株を曝露する効果を、2つの異なるアッセイで評価した(
図7)。MCF7細胞におけるDOXの抗増殖効果は、アミノ酸の存在に全く影響されなかった(
図7)。非常に興味深いことに、癌細胞に対する抗増殖効果は、DOXをα5組成物と共に投与すると増強される。
【0063】
まとめると、結果は、本明細書で開示される組成物が、癌細胞増殖をブロックできることを示している。注目すべきことに、正常細胞の増殖は、かなりの安全性プロファイルがあり有毒な副作用のないα5組成物に影響されなかったため、この効果は、癌細胞に特異的である。
【0064】
最も重要なことには、α5組成物は、その下流標的p70S6Kのリン酸化(活性)の低減によって評価すると、mTOR経路に対して阻害効果を及ぼす。繰り返しになるが、mTOR活性の増大は腫瘍形成に関連付けられることが多く、必須アミノ酸ベースの組成物はmTOR経路を活性化することが知られているため、これは注目に値する。
【0065】
本明細書で開示される組成物は、特定のアミノ酸およびトリカルボン酸(TCAサイクル中間体)を含む。本組成物の投与は、ミトコンドリア活性およびOCRを上昇させることができ、結果として、代謝活性が解糖から離れてアミノ酸およびTCAサイクル中間体の酸化に移り、解糖の下方制御につながる。
【0066】
非常に驚いたことに、そのような切り替えは、癌細胞における解糖を効果的に阻害するが、非癌細胞でのみ起こった(
図6に示すとおり)。この結果は、癌細胞の解糖に対する極めて高い感受性が原因であり得、α5組成物が及ぼすその急速な阻害は、OCRへの切り替えが起こり得る前にアポトーシスの発生を活性化する可能性が高い。
【0067】
したがって、本願の組成物は、副作用を呈することなく癌細胞の増殖率を低減させるのに有効であることが示された。
【0068】
本組成物は、単独で使用されても、少なくとも1つの化学療法剤との複合製剤で使用されてもよい。本明細書で提供される結果は、ドキソルビシンと共に投与した場合、癌細胞増殖率が更に低減することを示している。したがって、併用療法の効果は、化学療法薬の投与量を大幅に低減させることも可能にし、したがって、より効率的かつ安全な抗癌手法につながる。