(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】分解が抑制されたチアミン含有液状組成物、及び、液状組成物中でのチアミンの分解を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/15 20160101AFI20240827BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240827BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240827BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20240827BHJP
A61K 31/51 20060101ALI20240827BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240827BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A23L33/15
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L29/00
A23L29/256
A61K31/51
A61K47/10
A61K47/36
(21)【出願番号】P 2020058475
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜田 香織
(72)【発明者】
【氏名】朝武 宗明
(72)【発明者】
【氏名】石田 亮介
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108244446(CN,A)
【文献】特開平09-012458(JP,A)
【文献】特開平11-035467(JP,A)
【文献】特開平11-060486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A61K 31/51
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミン又はその塩と、
ラムダカラギーナンとを含有することを特徴とする液状組成物
であって、クロロゲン酸を更に含有する液状組成物。
【請求項2】
チアミン又はその塩を含有する液状組成物に、
ラムダカラギーナンを配合することを含む、液状組成物中でのチアミン又はその塩の分解を抑制する方法
であって、前記液状組成物にクロロゲン酸を配合することを更に含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアミン又はその塩を含有し、その分解が抑制された液状組成物に関する。
本発明はまた、液状組成物中でのチアミン又はその塩の分解を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チアミン又はその塩はビタミンB1として様々な生理作用を有することが知られており、食品等に有用成分として配合されている。一方で、チアミン又はその塩は溶液中において固有の不快臭を発生させるため、不快臭を抑制するための手段が従来から開発されている。
【0003】
例えば特許文献1では、没食子酸等の多価フェノール化合物を、ビタミンB1等の水溶性ビタミン含有水溶液剤に配合することで、異臭の生成を抑制することが記載されている。
【0004】
特許文献2では、チアミン又はその塩を含む飲料組成物において経時的に発生する不快臭を軽減するために、多価フェノール化合物及びパイナップルフレーバーを配合することが記載されている。
【0005】
特許文献3では、チアミン又はその塩及びポリフェノール類を含む水溶液では、ポリフェノール類によりチアミン又はその塩に由来する不快臭は低減されるものの、ビタミン感、ボリューム感も消失してしまうという課題を解決するために、更にさとうきび抽出物を配合することが記載されている。
特許文献4では、ビタミン臭抑制剤としてキナ酸が記載されている。
特許文献5では、不快臭、不快味をマスキングするためにスクラロースを配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-155756号公報
【文献】特開2004-321178号公報
【文献】特開2016-10401号公報
【文献】特開2001-316295号公報
【文献】国際公開WO2000/024273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、液状組成物に配合されたチアミン又はその塩(ビタミンB1)が経時的に分解されるという課題を新たに見出した。更に本発明者らは、液状組成物に配合されたチアミン又はその塩に由来する不快臭の発生と、液状組成物中でのチアミン又はその塩の分解とは必ずしも相関しておらず、特許文献1~5に記載されているような既知の方法による不快臭の抑制とは別に、チアミン又はその塩の分解を抑制することが必要であることを見出した。
【0008】
そこで本発明は、液状組成物中でのチアミン又はその塩(ビタミンB1)の分解を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、チアミン又はその塩を含有する液状組成物に、カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物を配合することにより、チアミン又はその塩の分解を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の特徴を有する。
【0010】
(1)チアミン又はその塩と、カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物とを含有することを特徴とする液状組成物。
(2)ポリフェノールを更に含有する、(1)に記載の液状組成物。
(3)チアミン又はその塩を含有する液状組成物に、カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物を配合することを含む、液状組成物中でのチアミン又はその塩の分解を抑制する方法。
(4)前記液状組成物にポリフェノールを配合することを更に含む、(3)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液状組成物では、カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物の作用により、チアミン又はその塩の分解が抑制されている。
【0012】
本発明の方法では、チアミン又はその塩を含有する液状組成物に、カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物を配合することにより、液状組成物中でのチアミン又はその塩の分解を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実験1での、90℃での保存開始時(0日)、保存3日後、保存8日後の各水溶液試料中のビタミンB1濃度の測定結果を示す。
【
図2】
図2は、実験1にて各水溶液試料中の保存開始時のビタミンB1濃度を100%としたときの、保存3日後、保存8日後のビタミンB1濃度の割合を算出した結果を示す。
【
図3】
図3は、実験2での、50℃での保存開始時(0日)、保存7日後、保存14日後の各水溶液試料中のビタミンB1濃度の測定結果を示す。
【
図4】
図4は、実験2にて各水溶液試料中の保存開始時のビタミンB1濃度を100%としたときの、保存7日後、保存14日後のビタミンB1濃度の割合を算出した結果を示す。
【
図5】
図5は、実験3での、90℃での保存開始時(0日)、保存7日後、保存14日後の各水溶液試料中のビタミンB1濃度の測定結果を示す。
【
図6】
図6は、実験3にて各水溶液試料中の保存開始時のビタミンB1濃度を100%としたときの、保存7日後、保存14日後のビタミンB1濃度の割合を算出した結果を示す。
【
図7】
図7は、実験5での、pH3.5のラムダカラギーナン添加ビタミンB1水溶液試料及び無添加ビタミンB1水溶液試料のビタミンB1残存率の測定結果を示す。
【
図8】
図8は、実験5での、pH7.0のラムダカラギーナン添加ビタミンB1水溶液試料及び無添加ビタミンB1水溶液試料のビタミンB1残存率の測定結果を示す。
【
図9】
図9は、実験5での、pH11.0のラムダカラギーナン添加ビタミンB1水溶液試料及び無添加ビタミンB1水溶液試料のビタミンB1残存率の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<液状組成物>
本発明において液状組成物とは、好ましくは、飲食品又は医薬品として用いられる液状組成物である。飲食品として用いられる液状組成物としては、飲料組成物、ゼリー状の飲食品組成物等が例示できる。医薬品として用いられる液状組成物としては、液状の経口摂取される医薬品組成物、ゼリー状の経口摂取される医薬品組成物、輸液製剤、注射剤等が例示できる。
【0015】
本発明の液状組成物は、水中に一以上の成分が溶解又は分散した組成物である。前記一以上の成分としては、後述するチアミン又はその塩、並びに、カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物や、必要に応じて添加されるポリフェノールや、その他の成分が含まれ得る。
【0016】
「その他の成分」としては、甘味料、増粘剤、香料、酸化防止剤、ビタミンB1以外のビタミン類等が挙げられる。
【0017】
甘味料としては、果糖、ブドウ糖、液糖等の糖類、はちみつ、スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム等の高甘味度甘味料が挙げられる。
【0018】
増粘剤としては、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム等の増粘多糖類が挙げられる。
【0019】
酸化防止剤としては、ビタミンC、酵素処理ルチン、トコフェロール(ビタミンE)、カテキン等が挙げられる。
【0020】
ビタミンB1以外のビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンE、ナイアシン、イノシトール等が挙げられる。
【0021】
甘味料、増粘剤、香料、酸化防止剤、ビタミン類等は、当業者が飲料に通常採用する範囲内の量で適宜配合することができる。
【0022】
本発明の液状組成物は、容器に収容された形態とすることができる。
【0023】
本発明の液状組成物を収容するための容器は、飲食品又は医薬品の容器として使用される容器を適宜用いることができる。容器の形態は特に限定されない。また、容器の容量は特に限定されないが、例えば50~500ml(典型的には50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml又は500ml)、好ましくは100~200mlとすることができる。
【0024】
本発明の液状組成物は、後述するチアミン又はその塩、並びに、カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物や、必要に応じてポリフェノールや、その他の成分、並びに水を混合して製造することができる。各成分の配合量は上記したとおりである。
【0025】
本発明の液状組成物のpH値は特に限定されない。本発明の液状組成物のpH値は、加えられる酸味料の量を適宜調節することにより調節することができる。酸味料としては飲料の製造に一般的に利用されるものが挙げられ、例えばクエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、又はこれらの塩などがあり、これらのうちの1種又は2種以上の混合物を加えることができる。
【0026】
<チアミン又はその塩>
本発明の液状組成物はチアミン又はその塩を含むことを特徴とする。
【0027】
チアミン又はその塩としては、チアミン、塩酸チアミン、硝酸チアミン等を挙げることができ、硝酸ビスチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、塩酸ジセチアミン、フルスルチアミン、塩酸フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン等のチアミン誘導体又はその塩(塩酸塩、硝酸塩等)であってもよい。チアミン又はその塩の含有量は特に限定されないが、液状組成物全量に対して、通常は10~5,000μg/mlであり、好ましくは10~1,200μg/mlである。
【0028】
<カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物>
本発明の液状組成物は、カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物を更に含むことを特徴とする。
【0029】
チアミン又はその塩を含有する液状組成物では、チアミン又はその塩の経時的な分解が認められるのに対して、前記液状組成物に前記化合物を更に配合した場合には、チアミン又はその塩の経時的な分解が抑制されるという予想外の効果を本発明者らは見出した。
【0030】
カラギーナンは紅藻類から抽出される多糖類であり、硫酸基の数とアンヒドロ結合の有無によりカッパ(κ)、イオタ(ι)、ラムダ(λ)の3タイプに分類できる。カッパカラギーナン及びイオタカラギーナンはゲル形成能を有する、ラムダカラギーナンはゲル形成能を有していない。本発明で用いるカラギーナンは、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン及びラムダカラギーナンから選択される1種又は2種以上の混合物であってよく、イオタカラギーナン及びラムダカラギーナンから選択される1種又は2種の混合物であることがより好ましい。
【0031】
L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールは、それぞれ、飲食品又は医薬品として許容される塩の形態であってもよい。
【0032】
本発明の液状組成物中でのカラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物の含有量は、チアミン又はその塩の経時的な分解を抑制する作用を奏することができる有効量であればよく、特に限定されない。
【0033】
本発明の一以上の実施形態に係る液状組成物はチアミン又はその塩とカラギーナンとを含み、チアミン又はその塩100質量部あたり、カラギーナンが、例えば20~20,000質量部、好ましくは200~10,000質量部、より好ましくは1,000~10,000質量部であることができる。
【0034】
本発明の別の一以上の実施形態に係る液状組成物はチアミン又はその塩とL-ヒスチジンとを含み、チアミン又はその塩100質量部あたり、L-ヒスチジンが、例えば200~200,000質量部、好ましくは2,000~100,000質量部であることができる。
【0035】
本発明の別の一以上の実施形態に係る液状組成物はチアミン又はその塩とタウリンとを含み、チアミン又はその塩100質量部あたり、タウリンが、例えば200~200,000質量部、好ましくは2,000~100,000質量部であることができる。
【0036】
本発明の別の一以上の実施形態に係る液状組成物はチアミン又はその塩とイミダゾールとを含み、チアミン又はその塩100質量部あたり、イミダゾールが、例えば100~100,000質量部、好ましくは1,000~50,000質量部であることができる。
【0037】
<ポリフェノール>
本発明の液状組成物は必要に応じてポリフェノールを更に含んでいてもよい。
【0038】
既述の通り、特許文献1~5には、液状組成物に配合されたチアミン又はその塩に由来する不快臭の発生を抑制するために、ポリフェノールを更に配合することが記載されている。本発明者らは、チアミン又はその塩を含有する液状組成物の不快臭は確かにポリフェノールを更に配合することにより抑制することができるが、ポリフェノール単独ではチアミン又はその塩の分解を抑制することはできないことを見出した。本発明者らはさらに、チアミン又はその塩を含有する液状組成物に、カラギーナン、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールから選ばれる1種以上の化合物とポリフェノールとを組み合わせて配合することにより、チアミン又はその塩の分解を抑制することができると共に、チアミン又はその塩に由来する不快臭を抑制することができることを見出した。
【0039】
ポリフェノールとは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ植物成分の総称である。ポリフェノールの具体例としては、没食子酸、その誘導体(例えば没食子酸メチル、エチル、プロピル、ブチルエステル及び没食子酸のナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩)、クロロゲン酸、エラグ酸、タンニン類(例えばタンニン酸、プロアントシアニジン、ガロタンニン、エラグタンニン)、フラボノイド類(例えばフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、イソフラボン、アントシアニン、ヘスペリジン、ルチン、フラバノール(カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等))、カルコン、オーロンが挙げられる。液状組成物全体の風味の面から、好ましくは没食子酸又はその誘導体或いはクロロゲン酸である。
【0040】
ポリフェノールは一種又は二種以上を任意組み合わせて用いることができ、チアミン又はその塩100質量部に対して、通常10~100,000質量部、好ましくは20~20,000質量部が添加される。
【0041】
本発明に用いるポリフェノールは、合成品だけでなく、植物抽出物、果汁等及びそれらの由来物として添加してもよく、具体的にはコーヒーポリフェノール、緑茶ポリフェノール、赤ワインポリフェノール、リンゴポリフェノール、ブドウ種子ポリフェノール、ブドウ葉ポリフェノール、ウーロン茶ポリフェノール、シソポリフェノール、ソバポリフェノール、カカオポリフェノール、甜茶ポリフェノール、コーヒー抽出物、シソ抽出物、カカオ抽出物、ソバ抽出物、柑橘果皮抽出物、ブルーベリー抽出物、緑茶抽出物、リンゴ抽出物、月見草抽出物、ウーロン茶抽出物、ブドウ種子抽出物、ブドウ葉抽出物、ユーカリ抽出物、グァバ抽出物、甜茶抽出物、ライチ種子抽出物、クランベリー抽出物、大豆イソフラボン等の形態であってもよい。
【実施例】
【0042】
以下の実験ではビタミンB1としてチアミン塩酸塩を用いた。以下の説明ではチアミン塩酸塩を「ビタミンB1」と称する場合がある。
【0043】
<実験1:カラギーナンがビタミンB1の分解抑制作用を有することの確認>
水中に、50μg/mlのチアミン塩酸塩と、5mg/mlの、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のラムダカラギーナン(CSL-2(F))、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のイオタカラギーナン(CSI-1(F))(「イオタカラギーナン1」と称する)、三菱商事ライフサイエンス株式会社製のイオタカラギーナン(NEWGELIN)(「イオタカラギーナン2」と称する)、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の複数種のカラギーナンの混合物(「カラギーナン混合物」と称する)、ローカストビーンガム、キサンタンガム又はジェランガムを添加した水溶液を用意した。別途、水中にチアミン塩酸塩のみを添加した水溶液を「無添加」の試験区として用意した。いずれの水溶液も、水酸化ナトリウム溶液および塩酸溶液を用いてpH3.5に調整した。
【0044】
上記の各水溶液を90℃で8日間保存し、保存開始時(0日)、3日後、8日後のビタミンB1濃度を測定した。
【0045】
I.ビタミンB1濃度の測定方法・材料
1.標準原液
チアミン塩酸塩(和光純薬)100mgを200mLビーカーに精秤した後、200mLメスフラスコと超純水を用いて所定量に定容し、HPLC測定における検量線作成のための標準原液とし、適宜希釈して用いた。
【0046】
2.HPLC測定
ビタミンB1を含む各水溶液試料をろ過し(AS ONE製0.45μmフィルター(SY25TF))、得られたろ液をHPLC測定に付した。HPLC測定は、以下の条件にて実施した。
装置:Waters ACQUITY H-Classシステム
カラム:InertSustain C18(5μm,150×3.0mmI,D)
温度:40℃
流量:0.6ml/min
吸光度:242nm
移動相:
A;20mМリン酸水素二ナトリウム(和光純薬)、10mМオクタスルホン酸ナトリウム溶液を混合し、リン酸(和光純薬)を用いてpH2.2に調整した溶液
B;アセトニトリル(和光純薬)
A/B=82/18で混合
【0047】
3.水溶液試料
イオン交換水にビタミンB1、ポリフェノール、増粘剤等を適宜添加した後、1.0N塩酸(和光純薬)、及び1.0N水酸化ナトリウム(和光純薬)を添加し、pH3.5に調整した。
【0048】
II.結果
90℃での保存開始時(0日)、保存3日後、保存8日後の各水溶液試料中のビタミンB1濃度の測定結果を
図1に示す。また、各水溶液試料中の保存開始時のビタミンB1濃度を100%としたときの、保存3日後、保存8日後のビタミンB1濃度の割合を「残存率」として算出した結果を
図2に示す。
【0049】
図1及び
図2は、無添加試験区ではビタミンB1は水中で分解するのに対して、ラムダカラギーナン、イオタカラギーナン又はカラギーナン混合物を配合することでビタミンB1の分解が抑制されたことを示す。ローカストビーンガム、キサンタンガム又はジェランガムは、ビタミンB1の分解を抑制する作用は有していなかった。
【0050】
<実験2:ビタミンB1の分解抑制作用を有する他の化合物>
水中に、50μg/mlのチアミン塩酸塩と、5mg/mlの三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のラムダカラギーナン(CSL-2(F))、5mg/mlの三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のイオタカラギーナン(CSI-1(F))、5mg/mlの三菱ケミカルフーズ株式会社製の複数種のカラギーナンの混合物、50mg/mlのL-ヒスチジン、50mg/mlのタウリン、25mg/mlのイミダゾール、50mg/mlのプロリン、又は、100mg/mlの1-オクタンスルホン酸ナトリウムを添加した水溶液を用意した。別途、水中にチアミン塩酸塩のみを添加した水溶液を「無添加」の試験区として用意した。いずれの水溶液も、水酸化ナトリウム溶液および塩酸溶液を用いてpH3.5に調整した。
【0051】
上記の各水溶液を50℃で14日間保存し、保存開始時(0日)、7日後、14日後のビタミンB1濃度を実験1の方法で測定した。
【0052】
50℃での保存開始時(0日)、保存7日後、保存14日後の各水溶液試料中のビタミンB1濃度の測定結果を
図3に示す。また、各水溶液試料中の保存開始時のビタミンB1濃度を100%としたときの、保存7日後、保存14日後のビタミンB1濃度の割合を「残存率」として算出した結果を
図4に示す。
【0053】
図3及び
図4は、ラムダカラギーナン、イオタカラギーナン、カラギーナン混合物、L-ヒスチジン、タウリン及びイミダゾールを配合することでビタミンB1の分解が抑制されたことを示す。プロリン及び1-オクタンスルホン酸ナトリウムは、ビタミンB1の分解を抑制する作用は有していなかった。
【0054】
<実験3:ポリフェノールがビタミンB1の分解抑制作用を有していないことの確認>
水中に、50μg/mlのチアミン塩酸塩と、1mg/mlのクロロゲン酸、0.5mg/mlの没食子酸、或いは、1mg/mlのクロロゲン酸及び5mg/mlのラムダカラギーナンを主成分とするカラギーナン混合物(ソアギーナML-200(三菱ケミカルフーズ株式会社製))、を添加した水溶液を用意した。別途、水中にビタミンB1のみを添加した水溶液を「無添加」の試験区として用意した。水溶液はいずれもpH3.5に調整した。
【0055】
上記の各水溶液を90℃で14日間保存し、保存開始時(0日)、7日後、14日後のビタミンB1濃度を測定した。ビタミンB1濃度の測定は実験1に記載の通りである。
【0056】
90℃での保存開始時(0日)、保存7日後、保存14日後の各水溶液試料中のビタミンB1濃度の測定結果を
図5に示す。また、各水溶液試料中の保存開始時のビタミンB1濃度を100%としたときの、保存7日後、保存14日後のビタミンB1濃度の割合を「残存率」として算出した結果を
図6に示す。
【0057】
ポリフェノールであるクロロゲン酸及び没食子酸は単独ではビタミンB1の分解を抑制する作用を有していないのに対して、クロロゲン酸に加えてラムダカラギーナンを配合したときにビタミンB1の分解を抑制することができることが
図5及び
図6に示す結果から明らかとなった。
【0058】
<実験4:ビタミンB1の不快臭の抑制作用>
水中に、50μg/mlのチアミン塩酸塩と、1mg/mlのクロロゲン酸、0.5mg/ml、或いは、1mg/mlのクロロゲン酸及び5mg/mlの三菱ケミカルフーズ株式会社製のラムダカラギーナンを主成分とするカラギーナン混合物とを添加した水溶液を用意した。別途、水中に同濃度のビタミンB1のみを添加した水溶液を「無添加」の試験区として用意した。
【0059】
上記の各水溶液を40℃又は60℃で保存し、保存14日後、43日後及び90日後に、二名の評価者(評価者1及び評価者2)が、それぞれ、各水溶液の臭いを3段階で評価した。「3」は「飲食品製品として許容されない強い不快臭が感じられる」、「2」は「飲食品製品として許容されるが、不快臭がやや感じられる」、「1」は「不快臭が感じられない」を示す。
評価結果を下記の表1及び表2に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
表1、2に示す結果は、ポリフェノールであるクロロゲン酸及び没食子酸は単独でビタミンB1の不快臭を抑制することができること、並びに、クロロゲン酸に加えてラムダカラギーナンを配合した場合も、クロロゲン酸による不快臭の抑制作用は阻害されないことを裏付ける。
【0063】
<実験5:異なるpH条件でのカラギーナンによるビタミンB1の分解抑制作用>
水中に、50μg/mlのチアミン塩酸塩と、5mg/mlの三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のラムダカラギーナン(CSL-2(F))を添加した水溶液を用意した。別途、水中にチアミン塩酸塩のみを添加した水溶液を「無添加」の試験区として用意した。
【0064】
ラムダカラギーナン添加水溶液試料及び無添加水溶液試料のpHを、水酸化ナトリウム溶液および塩酸溶液を用いて3.5、7.0及び11.0に調整した。
【0065】
上記の各水溶液試料を90℃で7日間保存し、保存開始時(0日)、4日後、7日後のビタミンB1濃度を実験1と同じ方法で測定し、実験1と同様の方法でビタミンB1残存率を求めた。
【0066】
pH3.5のラムダカラギーナン添加ビタミンB1水溶液試料及び無添加ビタミンB1水溶液試料のビタミンB1残存率の測定結果を
図7に示す。
【0067】
pH7.0のラムダカラギーナン添加ビタミンB1水溶液試料及び無添加ビタミンB1水溶液試料のビタミンB1残存率の測定結果を
図8に示す。
【0068】
pH11.0のラムダカラギーナン添加ビタミンB1水溶液試料及び無添加ビタミンB1水溶液試料のビタミンB1残存率の測定結果を
図9に示す。
【0069】
いずれのpH条件でもラムダカラギーナンの存在下でビタミンB1の分解が抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、飲食品又は医薬品の分野において有用である。