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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】玉軸受用冠型保持器、及び玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20240827BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020035971
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021139410
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩永 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】下川 義統
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-240950(JP,A)
【文献】特表2009-536998(JP,A)
【文献】特開2004-019921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00
-19/56
F16C 33/30
-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の主部と、
該主部から周方向に所定の間隔で軸方向に突出し、先端部に互いに間隔をあけて配置される一対の爪部をそれぞれ有する複数の柱部と、
を備え、隣り合う前記柱部の間に、玉を保持可能な球面形状のポケットが形成される玉軸受用冠型保持器であって、
前記柱部は、前記一対の爪部を含む、先端部側の外周面が、前記主部の外周面よりも内径側に位置するように形成され、
前記保持器の内径側には、円周方向において前記各柱部の位置に、前記主部の軸方向側面から前記各柱部に亘って軸方向に切欠かれた複数の肉抜き部がそれぞれ離れて形成され、
前記各肉抜き部は、前記ポケットの表面、及び、前記一対の爪部間に形成された前記柱部の軸方向外側面から離れて形成され、
前記柱部の軸方向外側面と前記肉抜き部の内壁面との間に形成される壁部の軸方向寸法をT1、前記ポケットの底部における前記主部の軸方向寸法をT2としたとき、T2>T1であり、
前記柱部の先端部側の外周面は、径方向において、前記保持器の内周面から前記主部の径方向厚さTの1/2の位置と3/4の位置との間に位置する、
玉軸受用冠型保持器。
【請求項2】
前記主部の径方向厚さをTとしたとき、T2>T/4である、請求項1に記載の玉軸受用冠型保持器。
【請求項3】
前記柱部の先端部側の外周面と前記主部の外周面とは、凹状の曲面によって繋がっており、該曲面は、前記主部の径方向厚さTの25~55%の曲率半径を有する、請求項1又は2に記載の玉軸受用冠型保持器。
【請求項4】
前記肉抜き部が形成された前記柱部の径方向最小厚さT3は、前記壁部の軸方向寸法T1と略等しい、請求項1~のいずれか1項に記載の玉軸受用冠型保持器。
【請求項5】
前記ポケットの入り口径は、玉径の90~95%である、請求項1~のいずれか1項に記載の玉軸受用冠型保持器。
【請求項6】
周方向に垂直な断面において、前記ポケットの中心は、軸方向において、前記壁部を通過する、請求項1~のいずれか1項に記載の玉軸受用冠型保持器。
【請求項7】
外輪と、内輪と、前記外輪及び内輪の軌道面間に配置された複数の玉と、請求項1~のいずれか1項に記載の冠型保持器と、を備える、玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受用冠型保持器、及び玉軸受に関し、特に、高速モータに適用される玉軸受用冠型保持器、及び玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種回転機械の回転部分を支持するために、図11に示すような玉軸受1が使用されている。玉軸受1は、外周面に内輪軌道2を有する内輪3と、内輪3と同心に配置され、内周面に外輪軌道4を有する外輪5と、内輪軌道2と外輪軌道4との間に転動自在に配置される複数の玉6と、を備える。各玉6は、保持器100により転動自在に保持される。また、外輪5の両端部内周面には、それぞれ円輪状のシールド板7、7の外周縁が係止され、シールド板7,7によって、軸受空間に存在するグリース等の潤滑剤が外部に漏洩したり、或いは外部に浮遊する塵埃が軸受空間に進入するのを防止している。なお、密封装置として、非接触型のシールド板7,7に代えて、接触型のシールを使用してもよい。
【0003】
保持器100には、図12に示すように、プラスチック製で、冠型保持器が使用されており、円環状の主部109と、主部109から、周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部110と、を備え、隣り合う柱部110の間に、玉6を保持するための球面形状のポケット111が形成される。また、柱部110の先端部には、互いに間隔をあけて配置した一対の爪部112,112が形成され、玉6を保持することで、保持器100が外輪5と内輪3の間から軸方向に脱落するのを防止している。
【0004】
このような玉軸受に使用される保持器100は、高速で使用されると、遠心力により応力が作用して、爪部112,112が外径側に変形してしまう。その結果、保持器100が外輪5やシールド板7,7など他の部品と接触してしまい、保持器100が摩耗や破損することが懸念される。
【0005】
特許文献1に記載の保持器では、円環状主部と円環状主部から軸方向一方側へ突出する弾性片とを備え、弾性片の外径面に切欠を設けることによって、弾性片の外径を円環状主部の外径より小さくしている。これにより、弾性片が変形した際に、外輪やシールド板との接触を避けている。
【0006】
また、特許文献2に記載の保持器では、環状の基部と、基部から軸方向に延びるアキシャル部とを有し、アキシャル部の外径を基部の外径よりも小さくし、さらに、基部には、アキシャル部の凹部域と連通する、軸方向に貫通する孔が形成されている。これにより、材料の量を減少させ、高速回転時に誘発される半径方向での変形を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-329045号公報
【文献】特許第5436204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の保持器では、柱部である弾性片の変形が高速回転時に大きくなる可能性があり、さらなる改善が求められる。また、特許文献2に記載の保持器では、柱部であるアキシャル部の軽量化を図って、高速回転時の遠心力を小さくしているが、基部には、アキシャル部の凹部域と連通する軸方向に貫通する孔が形成されることで、該基部の剛性が低下し、保持器変形には不利になる。基部は、貫通する孔がなく繋がっている方が、保持器変形には有利になる。また、いずれの保持器においても、軽量化のため、主部(基部)をポケットの底部において薄くすることが考えられるが、高速回転時に保持器の応力が増大し、爪部の変形が大きくなるという課題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高速回転時に遠心力により変形した場合でも他の部品と接触し難く、且つ、軽量化により高速回転時の遠心力を小さくしつつ、所定の部位での剛性を確保して高速回転時の変形を抑制できる玉軸受用冠型保持器及び玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 円環状の主部と、
該主部から周方向に所定の間隔で軸方向に突出し、先端部に互いに間隔をあけて配置される一対の爪部をそれぞれ有する複数の柱部と、
を備え、隣り合う前記柱部の間に、玉を保持可能な球面形状のポケットが形成される玉軸受用冠型保持器であって、
前記柱部は、前記一対の爪部を含む、先端部側の外周面が、前記主部の外周面よりも内径側に位置するように形成され、
前記保持器の内径側には、円周方向において前記各柱部の位置に、前記主部の軸方向側面から前記各柱部に亘って軸方向に切欠かれた複数の肉抜き部がそれぞれ離れて形成され、
前記各肉抜き部は、前記ポケットの表面、及び、前記一対の爪部間に形成された前記柱部の軸方向外側面から離れて形成され、
前記柱部の軸方向外側面と前記肉抜き部の内壁面との間に形成される壁部の軸方向寸法をT1、前記ポケットの底部における前記主部の軸方向寸法をT2としたとき、T2>T1である、玉軸受用冠型保持器。
(2) 前記柱部の先端部側の外周面は、径方向において、前記保持器の内周面から前記主部の径方向厚さTの1/2の位置と3/4の位置との間に位置する、(1)に記載の玉軸受用冠型保持器。
(3) 前記主部の径方向厚さをTとしたとき、T2>T/4である、(1)又は(2)に記載の玉軸受用冠型保持器。
(4) 前記柱部の先端部側の外周面と前記主部の外周面とは、凹状の曲面によって繋がっており、該曲面は、前記主部の径方向厚さTの25~55%の曲率半径を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の玉軸受用冠型保持器。
(5) 前記肉抜き部が形成された前記柱部の径方向最小厚さT3は、前記壁部の軸方向寸法T1と略等しい、(1)~(4)のいずれかに記載の玉軸受用冠型保持器。
(6) 前記ポケットの入り口径は、玉径の90~95%である、(1)~(5)のいずれかに記載の玉軸受用冠型保持器。
(7) 前記ポケットの中心は、軸方向において、前記壁部を通過する、(1)~(6)のいずれかに記載の玉軸受用冠型保持器。
(8) 外輪と、内輪と、前記外輪及び内輪の軌道面間に配置された複数の玉と、(1)~(7)のいずれかに記載の冠型保持器と、を備える、玉軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明の玉軸受用冠型保持器及び玉軸受によれば、高速回転時に遠心力により変形した場合でも他の部品と接触し難く、且つ、軽量化により高速回転時の遠心力を小さくしつつ、所定の部位での剛性を確保して高速回転時の変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る玉軸受用冠型保持器の斜視図である。
図2図1の冠型保持器の正面図である。
図3図2の冠型保持器のIII-III線に沿った断面図である。
図4図2の冠型保持器のIV-IV線に沿った断面図である。
図5】本発明の変形例に係る玉軸受用冠型保持器の正面図である。
図6図5の冠型保持器のVI-VI線に沿った断面図である。
図7】(a)は、比較例1の冠型保持器のポケット中心を通る軸方向に沿った断面図であり、(b)は、比較例1の冠型保持器の柱部の円周方向中間位置を通る軸方向に沿った断面図である。
図8】(a)は、比較例2の冠型保持器のポケット中心を通る軸方向に沿った断面図であり、(b)は、比較例2の冠型保持器の柱部の円周方向中間位置を通る軸方向に沿った断面図である。
図9】実施例、比較例1、及び比較例2における、回転数と保持器応力比との関係を示すグラフである。
図10】実施例、比較例1、及び比較例2における、回転数と保持器爪部変形量比との関係を示すグラフである。
図11】保持器を組み込んだ玉軸受の一例を示す断面図である。
図12】保持器の従来構造の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る玉軸受用冠型保持器及び玉軸受について、図面を用いて説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の玉軸受用冠型保持器(以下、「冠型保持器」、又は単に「保持器」とも称す)10は、図12に示す従来構造の保持器と同様に、図11に示す玉軸受1に適用される。即ち、冠型保持器10は、円環状の主部11と、該主部11から周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部12と、を備える。隣り合う柱部12の間には、玉6(図4参照)を保持可能な球面形状のポケット13が形成される。また、柱部12の先端部には、互いに間隔をあけて配置され、ポケット13の開口部側を形成する一対の爪部14、14が設けられている。
【0015】
冠型保持器10は、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド等の合成樹脂材料からなり、射出成形によって製造される。なお、樹脂材料中に、強化材として、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等が添加されてもよい。
【0016】
また、図2図4に示すように、冠型保持器10では、柱部12は、一対の爪部14を含む、先端部側の外周面12aが、主部11の外周面11aよりも内径側に位置するように形成される。即ち、図2に示すように、各柱部12の先端部側の外周面12aを結ぶ仮想円Cの直径D2は、主部11の外周面11aの外径D1よりも小さい。
また、図4に示すように、柱部12では、先端部側の外周面12aが軸方向においてポケット13の中心Oよりも主部11側まで延び、主部11の外周面11aとの間を、凹状の曲面12bによって繋げている。この凹状の曲面12bは、主部11の径方向厚さTの25~55%の曲率半径を有している。このように、凹状の曲面12bが、主部11の径方向厚さTの55%以下の曲率半径を有することで、柱部12の体積を抑えることができ、遠心力による保持器10の変形を抑制する効果が高い。
【0017】
具体的には、柱部12の先端部側の外周面12aは、径方向において、保持器10の内周面から主部11の径方向厚さTの1/2の位置と3/4の位置との間に位置する。なお、本実施形態では、先端部側の外周面12aは、保持器10の内周面から主部11の径方向厚さTの1/2の位置、即ち、玉6のピッチ円径PCD上に位置する。
【0018】
また、冠型保持器10の内径側には、円周方向において各柱部12の位置に、主部11の軸方向外側面11bから各柱部12に亘って軸方向に切欠かれた複数の肉抜き部20がそれぞれ離れて形成されている。複数の肉抜き部20は、内径側、及び主部11の軸方向外側面11b側に開口する一方、ポケット13の表面、及び、一対の爪部14,14間に形成された柱部12の軸方向外側面12cから離れるように形成される。そして、ポケット13の表面と肉抜き部20の内壁面20aとの間、及び柱部12の先端部側の軸方向外側面12cと肉抜き部20の内壁面20aとの間には、壁部21,22がそれぞれ形成される。
【0019】
なお、壁部21,22を含む、肉抜き部20以外の主部11及び柱部12の内周面は、内径D3の保持器10の内周面を構成する(図2参照)。
【0020】
また、肉抜き部20は、円周方向幅が主部11の軸方向外側面11bから各柱部12に亘り徐々に小さくなるように、略扇形状に形成されている。さらに、肉抜き部20は、その内周面と、柱部12の先端部側の外周面12aとの間で規定される、柱部12の径方向最小厚さT3が、円周方向に亘って同じ厚さ寸法となるように、同じ深さで切欠かれている。
【0021】
ここで、図3及び図4を参照して、柱部12の先端部側の軸方向外側面12cと肉抜き部20の内壁面20aとの間に形成される壁部22の軸方向寸法(厚さ)をT1、ポケット13の底部における主部11の軸方向寸法(以下、「底厚さ」とも言う)をT2としたとき、T2>T1に設計されている。これにより、底厚さT2を十分に確保して、遠心力作用時における保持器応力を低減することができ、また、壁部22の軸方向寸法T1を、射出成形上問題が生じない厚さまで薄くして、軽量化を図りつつ、高速回転時の円周方向への変形を抑えることができる。
また、本実施形態では、底厚さT2は、主部11の径方向厚さTに対して、T2>T/4の関係を有するので、底厚さT2をさらに十分に確保して、遠心力作用時における保持器応力を低減することができる。
【0022】
また、肉抜き部20が形成された柱部12の径方向最小厚さT3は、射出成形上問題が生じないように、壁部22の軸方向寸法T1と略等しく設計されている。これにより、柱部12の径方向最小厚さT3を可能な限り薄くして、保持器10の軽量化を図っている。
【0023】
加えて、ポケット13の中心Oは、軸方向において、壁部22を通過するように形成されるので、高速回転時に、玉6から保持器10が抜けにくくなる。特に、本実施形態では、ポケット13の中心Oは、軸方向において、壁部22の軸方向外側面12cと一致している。
【0024】
また、玉6のピッチ円径PCDの位置における、ポケット13の入り口径eは、玉径の90~95%とし、該入り口径eを小さくして、保持器10の抜けによる、シールド板7やシール部材との接触を防止している。通常、爪部14の厚さは厚いため、入り口径eを小さくすると射出成形時の金型抜きや、玉6への組付け時に爪部14の白化や破損が懸念されるが、爪部14の厚さを薄くすることで、入り口径eを小さくしても、玉6をポケット13内に入れやすくなり、上記懸念が解消される。
【0025】
このように構成された、本実施形態の冠型保持器10によれば、柱部12は、一対の爪部14,14を含む、先端部側の外周面12aが、主部11の外周面11aよりも内径側に位置するように形成されるので、遠心力による変形を抑えることができ、高速回転時に遠心力により変形した場合でも他の部品と接触し難くなる。
また、保持器10の内径側には、円周方向において各柱部12の位置に、主部11の軸方向側面から各柱部12に亘って軸方向に切欠かれた複数の肉抜き部20がそれぞれ離れて形成されるので、軽量化により高速回転時の遠心力を小さくすることができる。
さらに、柱部12の先端部側の軸方向外側面12cと肉抜き部20の内壁面20aとの間に壁部22を形成し、また、ポケット13の底部における主部11の軸方向寸法T2を、壁部22の軸方向寸法T1より厚くしたので、ポケット13の底部を構成する主部11の部分での剛性を確保して高速回転時の変形を抑制できる。また、柱部12の先端部側の軸方向外側面12cと肉抜き部20の内壁面20aとの間に壁部22を残すことで、高速回転時の円周方向への変形を抑えることができる。
【0026】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更、改良等が可能である。
例えば、図5に示す変形例の冠型保持器10aは、外径側の形状において、第1実施形態のものと異ならせている。具体的には、柱部12の先端部側の外周面12aと主部11の外周面11aとの間に、径方向に沿って延びる主部11の軸方向側面11cが形成されており、柱部12の先端部側の外周面12aと主部11の軸方向側面11cとの間が、凹状の曲面12dによって繋がっている。なお、この変形例では、主部11の軸方向側面11cは、軸方向において、ポケット13の溝底から僅かに爪部側の位置に設けられている。
この場合、冠型保持器10aは、上記実施形態のものに比べてさらに軽量化することができる。
その他の構成は、上記実施形態の冠型保持器10のものと同様である。
【実施例
【0027】
ここで、図1に示す構成を有する実施例の冠型保持器10、図7に示す比較例1の冠型保持器10a、及び図8に示す比較例2の冠型保持器10bを用いて、回転数と保持器応力比との関係、及び、回転数と保持器爪部変形量比との関係について解析を行った。
【0028】
比較例1は、保持器10aの軽量化のために、ポケット13の底厚さを射出成形において問題ない厚さまで薄くした仕様である。比較例2は、比較例1に対して、保持器10bの剛性アップのために、ポケット13の底厚さをシール部材に接触しない厚さまで厚くした仕様である。また、比較例1及び2では、保持器10a、10bの径方向中間部で、円周方向において各柱部12の位置に、主部11の軸方向側面から各柱部12に亘って軸方向に切欠かれた肉抜き部23がそれぞれ形成されている。表1は、比較例1の底厚さT2及び重量を基準とした場合の、実施例1及び比較例2の底厚さT2及び重量を比でそれぞれ表している。
【0029】
また、図9及び図10は、各保持器における、回転数と保持器応力比との関係、及び、回転数と保持器爪部変形量比との関係をそれぞれ示す。なお、保持器応力比と保持器爪部変形量比とは、比較例1の保持器10aが10000rpm時の各値を1とした場合の比率で表している。
【0030】
【表1】
【0031】
比較例1では、高速回転時の保持器の応力が、比較例2及び実施例に対して著しく増加してしまうため、爪部の変形も大きくなっている。この結果、軽量化のため、底厚さを小さくすることは、高速回転には不利になってしまうことがわかる。
【0032】
一方、柱部12の先端部側に壁部22を残して、肉抜き部20を形成することで軽量化を図った実施例は、比較例1,2に対して、応力、変形量ともに大きく減少できることがわかる。また、壁部22の厚さT1を射出成形上問題が生じない程度まで小さくして軽量化を図り、ポケット13の底厚さを壁部22の厚さT1よりも厚くするという相乗効果によって、応力、変形量ともに大きく減少できることがわかる。
【符号の説明】
【0033】
10 玉軸受用冠型保持器
11 円環状の主部
12 柱部
13 ポケット
14 爪部
20 肉抜き部
21,22 壁部
T 主部の径方向厚さ
T1 壁部の軸方向寸法
T2 ポケットの底部における主部の軸方向寸法
T3 肉抜き部が形成された柱部の径方向最小厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12