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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】スライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/07 20060101AFI20240827BHJP
   B60N 2/06 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B60N2/07
B60N2/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020051342
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021146988
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-09-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久米 将
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-119386(JP,A)
【文献】特開2018-95152(JP,A)
【文献】特開2005-22475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/07
B60N 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物に設置されたシートに取り付けられるように構成された第1可動レール及び第2可動レールと、
前記第1可動レールをスライド可能に支持する第1固定レールと、
前記第2可動レールをスライド可能に支持する第2固定レールと、
前記第1可動レール及び前記第2可動レールを同じ方向にスライドさせるように構成された駆動ユニットと、
停止している前記第1可動レール及び前記第2可動レールを制動するように構成された制動ユニットと、
を備え、
前記第1固定レール及び前記第2固定レールは、それぞれ、前記第1可動レール及び前記第2可動レールのスライド方向に並んで配置された複数の駆動用開口を有し、
前記駆動ユニットは、
前記第1可動レールを前記第1固定レールに対して送るように構成された第1送り機構と、
前記第2可動レールを前記第2固定レールに対して送るように構成された第2送り機構と、
を有し、
前記第1送り機構及び前記第2送り機構は、それぞれ、複数の突起部を有すると共に、前記複数の突起部が前記複数の駆動用開口への嵌まり込みと前記複数の駆動用開口からの離脱とを順に行うように回転するように構成された回転体を有し、
前記制動ユニットは、
解除状態と、前記第1可動レールと前記第1固定レールとの間の摩擦力を前記解除状態よりも大きくする制動状態とに変位するように構成された第1制動機構と、
解除状態と、前記第2可動レールと前記第2固定レールとの間の摩擦力を前記解除状態よりも大きくする制動状態とに変位するように構成された第2制動機構と、
を有し、
前記第1制動機構及び前記第2制動機構は、それぞれ、
前記第1可動レール又は前記第2可動レールと共にスライドすると共に、前記スライド方向と交差する方向に対向するように配置された第1シュー及び第2シューと、
前記制動状態において前記第1シューと前記第2シューとの間隔を広げて前記第1シュー及び前記第2シューをそれぞれ前記第1固定レール又は前記第2固定レールに向けて押圧するように構成された押圧部材と、
を有し、
前記押圧部材は、前記第1固定レール又は前記第2固定レールの内面を挟まずに、前記第1固定レール又は前記第2固定レールの外面同士に挟まれた領域において前記第1シュー及び前記第2シューを押圧する、スライド装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスライド装置であって、
前記制動ユニットは、前記第1制動機構及び前記第2制動機構を前記解除状態と前記制動状態との間で変位させるように構成された1つの駆動部を有する、スライド装置。
【請求項3】
請求項1に記載のスライド装置であって、
前記第1制動機構及び前記第2制動機構は、それぞれ、第1方向への揺動によって前記押圧部材を前記第1シューと前記第2シューとの間隔を広げる方向に変位させると共に、前記第1方向とは反対の第2方向への揺動によって前記押圧部材を前記第1シューと前記第2シューとの間隔を狭める方向に変位させるように構成された作動リンクを有する、スライド装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のスライド装置であって、
前記第1固定レール及び前記第2固定レールは、それぞれ、レール幅方向において前記第1可動レール又は前記第2可動レールと対向する内壁を有し、
前記第1制動機構の前記第1シュー及び前記第2シューは、前記制動状態において前記第1固定レールの前記内壁に押し当てられ、
前記第2制動機構の前記第1シュー及び前記第2シューは、前記制動状態において前記第2固定レールの前記内壁に押し当てられる、スライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に設置される乗物用シートをスライドさせるためのスライド装置において、スライド速度を調整するための抵抗力を付加する構造が公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-249055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乗物用シートのスライド装置において、固定レールに設けられた複数の開口に、回転体に設けられた突起を着脱自在に嵌まり込ませることで可動レールをスライドさせる送り機構が考案されている。この送り機構では、開口にロック用の爪を挿入することで可動レールのスライドを規制する。
【0005】
しかし、固定レールの開口の大きさ及びピッチには制限があるため、可動レールの停止位置によっては、可動レールにスライド方向のガタツキが生じる。このような送り機構に対し、上記公報に記載された抵抗付加構造では、ガタツキを抑える機能は発揮されない。
【0006】
本開示の一局面は、停止している可動レールのガタツキを抑制できるスライド装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、乗物に設置されたシート(11)に取り付けられるように構成された第1可動レール(2A)及び第2可動レール(2B)と、第1可動レール(2A)をスライド可能に支持する第1固定レール(3A)と、第2可動レール(2B)をスライド可能に支持する第2固定レール(3B)と、第1可動レール(2A)及び第2可動レール(2B)を同じ方向にスライドさせるように構成された駆動ユニット(4)と、停止している第1可動レール(2A)及び第2可動レール(2B)を制動するように構成された制動ユニット(5)と、を備えるスライド装置(1)である。
【0008】
第1固定レール(3A)及び第2固定レール(3B)は、それぞれ、第1可動レール(2A)及び第2可動レール(2B)のスライド方向に並んで配置された複数の駆動用開口(36)を有する。駆動ユニット(4)は、第1可動レール(2A)を第1固定レール(3A)に対して送るように構成された第1送り機構(41A)と、第2可動レール(2B)を第2固定レール(3B)に対して送るように構成された第2送り機構(41B)と、を有する。第1送り機構(41A)及び第2送り機構(41B)は、それぞれ、複数の突起部(411C)を有すると共に、複数の突起部(411C)が複数の駆動用開口(36)への嵌まり込みと複数の駆動用開口(36)からの離脱とを順に行うように回転するように構成された回転体(411)を有する。
【0009】
制動ユニット(5)は、解除状態と、第1可動レール(2A)と第1固定レール(3A)との間の摩擦力を解除状態よりも大きくする制動状態とに変位するように構成された第1制動機構(51A)と、解除状態と、第2可動レール(2B)と第2固定レール(3B)との間の摩擦力を解除状態よりも大きくする制動状態とに変位するように構成された第2制動機構(51B)と、を有する。
【0010】
このような構成によれば、回転体(411)を用いた駆動ユニット(4)を備えるスライド装置(1)において、第1制動機構(51A)及び第2制動機構(51B)を可動レール(2A,2B)と固定レール(3A,3B)との間の摩擦力を増大させる制動状態とすることで、スライド方向の位置に関わらず、停止している可動レール(2A,2B)のガタツキを抑制できる。
【0011】
本開示の一態様では、制動ユニット(5)は、第1制動機構(51A)及び第2制動機構(51B)を解除状態と制動状態との間で変位させるように構成された1つの駆動部(52)を有してもよい。このような構成によれば、第1制動機構(51A)と第2制動機構(51B)との同期が容易となる。また、部品点数を減らすことができる。
【0012】
本開示の一態様では、第1制動機構(51A)及び第2制動機構(51B)は、それぞれ、第1可動レール(2A)又は第2可動レール(2B)と共にスライドすると共に、スライド方向と交差する方向に対向するように配置された第1シュー(511)及び第2シュー(512)と、制動状態において第1シュー(511)と第2シュー(512)との間隔を広げて第1シュー(511)及び第2シュー(512)をそれぞれ第1固定レール(3A)又は第2固定レール(3B)に向けて押圧するように構成された押圧部材(513)と、を有してもよい。このような構成によれば、比較的簡潔な構成で、可動レール(2A,2B)と固定レール(3A,3B)との間の摩擦力を増減することができる。その結果、制動ユニット(5)の信頼性が向上する。また、レール幅方向のガタツキも抑制できる。
【0013】
本開示の一態様では、第1制動機構(51A)及び第2制動機構(51B)は、それぞれ、第1方向への揺動によって押圧部材(513)を第1シュー(511)と第2シュー(512)との間隔を広げる方向に変位させると共に、第1方向とは反対の第2方向への揺動によって押圧部材(513)を第1シュー(511)と第2シュー(512)との間隔を狭める方向に変位させるように構成された作動リンク(514)を有してもよい。このような構成によれば、第1シュー(511)及び第2シュー(512)を的確に固定レール(3A,3B)から離脱させることができるため、可動レール(2A,2B)のスライド時の不必要な抵抗を低減できる。
【0014】
本開示の一態様では、第1固定レール(3A)及び第2固定レール(3B)は、それぞれ、レール幅方向において第1可動レール(2A)又は第2可動レール(2B)と対向する内壁(34A,34B)を有してもよい。第1制動機構(51A)の第1シュー(511)及び第2シュー(512)は、制動状態において第1固定レール(3A)の内壁(34A,34B)に押し当てられてもよい。第2制動機構(51B)の第1シュー(511)及び第2シュー(512)は、制動状態において第2固定レール(3B)の内壁(34A,34B)に押し当てられてもよい。このような構成によれば、第1シュー(511)及び第2シュー(512)と、固定レール(3A,3B)に取り付けられる他の部品との干渉を低減することができる。
【0015】
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本開示は上記括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態における乗物用シートの模式的な斜視図である。
図2図2は、図1のスライド装置の模式的な斜視図である。
図3図3Aは、図2のIIIA-IIIA線での模式的な切断部端面図であり、図3Bは、図2の第1固定レールの模式的な斜視図である。
図4図4Aは、図2のスライド装置における第1送り機構の模式的な分解斜視図であり、図4Bは、第1送り機構のギアの位置関係を示す模式的な斜視図である。
図5図5は、図2のスライド装置における第1送り機構の動作を説明する模式図である。
図6図6は、図2のスライド装置における第1制動機構の模式的な分解斜視図である。
図7図7Aは、図2のスライド装置における第1制動機構の解除状態を説明する模式図であり、図7Bは、第1制動機構の制動状態を説明する模式図である。
図8図8Aは、第1制動機構における作動リンクの第1方向への動作を説明する模式図であり、図8Bは、第1制動機構における作動リンクの第2方向への動作を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す乗物用シート10は、シート11と、スライド装置1とを備える。
【0018】
本実施形態のシート11は、乗用車の座席シートとして使用される。なお、以下の説明及び各図面における方向は、シート11を乗物(つまり乗用車)に組み付けた状態における方向を意味する。また、本実施形態では、シート幅方向は、乗物の左右方向に一致し、シート前方は、乗物の前方に一致する。
【0019】
スライド装置1は、シート11をシート前後方向にスライド可能に支持している。スライド装置1は、図2に示すように、第1可動レール2A及び第2可動レール2Bと、第1固定レール3A及び第2固定レール3Bと、駆動ユニット4と、制動ユニット5とを備える。
【0020】
<可動レール>
第1可動レール2A及び第2可動レール2Bは、いわゆるアッパレールであり、それぞれ、シート11に図示しないブラケット等によって取り付けられている。第1可動レール2Aと第2可動レール2Bとは、シート幅方向に互いに離間して配置されている。第1可動レール2Aは、第2可動レール2Bよりも左側に配置されている。
【0021】
第1可動レール2Aは、シート前後方向に延伸し、第1固定レール3Aに対しシート前後方向にスライド可能に構成されている。図3Aに示すように、第1可動レール2Aは、中央部21と、第1内壁22Aと、第2内壁22Bとを有する。
【0022】
中央部21は、下部が第1固定レール3Aの内部に配置されると共に、上部が第1固定レール3Aよりも上方に突出している。中央部21には、後述する駆動ユニット4の第1送り機構41A及び制動ユニット5の第1制動機構51Aが取り付けられている。
【0023】
第1内壁22Aは、中央部21の下端部からレール幅方向外側(つまり右側)かつ上方に向かって折り返すように延伸している。第1内壁22Aは、第1固定レール3A内に配置されている。
【0024】
ここで、「レール幅方向」とは、上下方向と第1可動レール2Aのスライド方向とに直交する方向を意味する。なお、本実施形態では、レール幅方向はシート幅方向に一致している。
【0025】
第2内壁22Bは、中央部21の下端部からレール幅方向外側(つまり左側)かつ上方に向かって折り返すように延伸している。第2内壁22Bは、第1固定レール3A内に配置されている。
【0026】
図2に示す第2可動レール2Bは、シート前後方向に延伸し、第2固定レール3Bに対しシート前後方向にスライド可能に構成されている。第2可動レール2Bは、レール幅方向と垂直な面に対して第1可動レール2Aと対称な形状である。
【0027】
<固定レール>
第1固定レール3A及び第2固定レール3Bは、いわゆるロアレールであり、それぞれ、乗物用シート10が配置された乗物のフロアに直接又は間接的に固定されている。
【0028】
第1固定レール3Aは、シート前後方向に延伸し、第1可動レール2Aを上下方向と直交する方向にスライド可能に支持している。第1固定レール3Aは、図3A,3Bに示すように、底壁31と、第1外側壁32Aと、第2外側壁32Bと、第1天壁33Aと、第2天壁33Bと、第1内壁34Aと、第2内壁34Bと、複数の駆動用開口36とを有する。
【0029】
底壁31は、第1可動レール2Aのスライド方向に延伸している。第1外側壁32Aは、底壁31の右端部から上方に延伸している。第2外側壁32Bは、底壁31の左端部から上方に延伸している。
【0030】
第1天壁33Aは、第1外側壁32Aの上端部からレール幅方向外側(つまり左側)に延伸している。第1天壁33Aは、第1可動レール2Aの第1内壁22Aを上方から覆っている。
【0031】
第2天壁33Bは、第2外側壁32Bの上端部からレール幅方向内側(つまり右側)に延伸している。第2天壁33Bは、第1可動レール2Aの第2内壁22Bを上方から覆っている。
【0032】
第1内壁34Aは、第1天壁33Aの左端部から下方に延伸している。第1内壁34Aは、レール幅方向において第1可動レール2Aの中央部21の下部と第1内壁22Aとの間に配置されている。第1内壁34Aは、第1可動レール2Aの中央部21と対向している。
【0033】
第2内壁34Bは、第2天壁33Bの右端部から下方に延伸している。第2内壁34Bは、レール幅方向において第1可動レール2Aの中央部21の下部と第2内壁22Bとの間に配置されている。第2内壁34Bは、第1可動レール2Aの中央部21と対向している。
【0034】
外側壁32A,32Bと天壁33A,33Bと内壁34A,34Bとにより、下側が開放され、かつスライド方向に延伸する溝状の2つの空間が形成されている。第1可動レール2Aにおける内壁22A,22Bの上端部は、第1固定レール3Aに形成された上記溝状の空間に挿入されている。
【0035】
複数の駆動用開口36は、第2内壁34Bに、第1可動レール2Aのスライド方向に並んで配置されている。本実施形態では、複数の駆動用開口36のスライド方向の長さ、間隔、及び、上下方向の位置は全て等しい。
【0036】
図2に示す第2固定レール3Bは、シート前後方向に延伸し、第2可動レール2Bを上下方向と直交する方向にスライド可能に支持している。第2固定レール3Bは、レール幅方向と垂直な面に対して第1固定レール3Aと対称な形状である。
【0037】
つまり、第2固定レール3Bは、第1固定レール3Aと同様に、底壁31と、第1外側壁32Aと、第2外側壁32Bと、第1天壁33Aと、第2天壁33Bと、第1内壁34Aと、第2内壁34Bと、複数の駆動用開口36とを有する。
【0038】
<駆動ユニット>
駆動ユニット4は、第1可動レール2A及び第2可動レール2Bを同じ方向にスライドさせるように構成されている。駆動ユニット4は、第1送り機構41Aと、第2送り機構41Bと、第1アクチュエータ42Aと、第2アクチュエータ42Bとを有する。
【0039】
(送り機構)
第1送り機構41Aは、第1可動レール2Aを第1固定レール3Aに対して送るように構成されている。
【0040】
第1送り機構41Aは、第1可動レール2Aに取り付けられている。第1送り機構41Aは、図4A,4Bに示すように、回転体411と、第1連結ギア412と、第2連結ギア413とを有する。
【0041】
回転体411は、上下方向と平行な軸を中心に回転する複合歯車である。回転体411は、第1ハウジング414Aと第2ハウジング414Bとで構成されるケーシング内に収納されている。
【0042】
回転体411は、ピニオン411Aと、第1ヘリカルギア411Bとを有する。ピニオン411Aと第1ヘリカルギア411Bとは軸方向に連結されている。ピニオン411Aの中心軸と第1ヘリカルギア411Bの中心軸とは一致する。
【0043】
ピニオン411Aは、複数の突起部411Cを有する。複数の突起部411Cは、ピニオン411Aの歯を構成しており、ピニオン411Aの周方向に等間隔で配置されている。また、複数の突起部411Cの形状は同一である。なお、本実施形態では、回転体411は7つの突起部411Cを有しているが、突起部411Cの数は7に限定されない。
【0044】
回転体411は、複数の突起部411Cが第1固定レール3Aの複数の駆動用開口36への嵌まり込みと複数の駆動用開口36からの離脱とを順に行うように回転する。図5に示すように、突起部411Cは、ピニオン411Aの回転に伴って、シート幅方向内側(つまり右側)から駆動用開口36に着脱自在に嵌まり込んだ後、駆動用開口36から離脱する。
【0045】
回転体411は、常に少なくとも1つの突起部411Cが少なくとも1つの駆動用開口36の縁に当接するように回転する。これにより、第1送り機構41Aは、少なくとも1つの突起部411Cを介して、第1固定レール3Aから反力を受ける。その結果、回転体411の回転によって、第1送り機構41Aが取り付けられた第1可動レール2Aが第1固定レール3Aに対して送られる。
【0046】
回転体411は、第1可動レール2Aをシート前方にスライドさせる際に上方から視て時計回りに回転し、第1可動レール2Aをシート後方にスライドさせる際に上方から視て反時計回りに回転する。
【0047】
図4Bに示すように、第1ヘリカルギア411Bは、第1連結ギア412と噛み合っており、第1連結ギア412から伝達される回転をピニオン411Aに伝達する。
【0048】
第1連結ギア412は、スライド方向と平行な軸を中心に回転する複合歯車である。第1連結ギア412は、図4Aに示す第1ベアリング415A、第2ベアリング415B及びカバー416によって軸回転可能に支持されている。第1連結ギア412は、回転体411と共に、第1ハウジング414Aと第2ハウジング414Bとで構成されるケーシング内に収納されている。
【0049】
第1連結ギア412は、第2ヘリカルギア412Aと、ウォームギア412Bとを有する。第2ヘリカルギア412Aとウォームギア412Bとは、軸方向に連結されている。第2ヘリカルギア412Aの中心軸とウォームギア412Bの中心軸とは一致する。
【0050】
第2ヘリカルギア412Aは、第2連結ギア413と噛み合っている。ウォームギア412Bは、第1ヘリカルギア411Bと噛み合っている。第1連結ギア412は、第2連結ギア413から伝達される回転を回転体411に伝達する。
【0051】
第2連結ギア413は、レール幅方向と平行な軸を中心に回転するヘリカルギアである。第2連結ギア413は、ブッシュ417及びカバー418によって軸回転可能に支持されている。第2連結ギア413は、回転体411と共に、第1ハウジング414Aと第2ハウジング414Bとで構成されるケーシング内に収納されている。
【0052】
第2連結ギア413には、第1アクチュエータ42Aの回転を伝達するロッド(図示省略)が軸方向に連結される。第2連結ギア413は、第1アクチュエータ42Aが発生させた回転を第1連結ギア412に伝達する。
【0053】
第2送り機構41Bは、第2可動レール2Bを第2固定レール3Bに対して送るように構成されている。第2送り機構41Bは、第1送り機構41Aと同様の回転体411と、第1連結ギア412と、第2連結ギア413とを有する。第2送り機構41Bは、レール幅方向と垂直な面に対して第1送り機構41Aと対称な形状である。
【0054】
第2送り機構41Bの回転体411の突起部411Cは、ピニオン411Aの回転に伴って、左側から第2固定レール3Bの駆動用開口36に着脱自在に嵌まり込んだ後、駆動用開口36から離脱する。また、第2送り機構41Bの回転体411は、第2可動レール2Bをシート前方にスライドさせる際に上方から視て反時計回りに回転し、第2可動レール2Bをシート後方にスライドさせる際に上方から視て時計回りに回転する。
【0055】
(アクチュエータ)
図2に示す第1アクチュエータ42Aは、第1送り機構41Aを駆動させる。第1アクチュエータ42Aは、第1可動レール2Aに取り付けられている。第2アクチュエータ42Bは、第2送り機構41Bを駆動させる。第2アクチュエータ42Bは、第2可動レール2Bに取り付けられている。
【0056】
第1アクチュエータ42A及び第2アクチュエータ42Bは、それぞれ、電動式、空気式及び油圧式のいずれであってもよい。なお、1つのアクチュエータによって、第1送り機構41Aと第2送り機構41Bとが同時に駆動されてもよい。
【0057】
<制動ユニット>
制動ユニット5は、停止している第1可動レール2A及び第2可動レール2Bを制動するように構成されている。
【0058】
制動ユニット5は、第1制動機構51Aと、第2制動機構51Bと、1つの駆動部52と、連結ロッド53とを有する。
【0059】
(制動機構)
第1制動機構51Aは、解除状態と、第1可動レール2Aと第1固定レール3Aとの間の摩擦力を解除状態よりも大きくする制動状態とに変位するように構成されている。
【0060】
第1制動機構51Aは、図6に示すように、第1シュー511と、第2シュー512と、押圧部材513と、作動リンク514と、第1バネ515Aと、第2バネ515Bと、第1ハウジング516Aと、第2ハウジング516Bとを有する。
【0061】
第1シュー511及び第2シュー512は、それぞれ、第1ハウジング516Aと第2ハウジング516Bとによって保持されることで、第1可動レール2Aと共にスライドする。
【0062】
第1シュー511と第2シュー512とは、スライド方向と交差する方向(つまりレール幅方向)に対向するように配置されている。第1シュー511は、第2シュー512よりもシート幅方向内側(つまり右側)に配置されている。
【0063】
第1シュー511は、制動状態において第1固定レール3Aの第1内壁34Aに左側から押し当てられる制動面511Aと、後述する押圧部材513が当接する楔面511Bとを有する。制動面511Aは、第1シュー511の右側面を構成し、レール幅方向と直交する。楔面511Bは、第1シュー511の左側面を構成し、スライド方向と平行かつ、下方に向かうに連れて第2シュー512に近づくように傾斜している。
【0064】
第2シュー512は、制動状態において第1固定レール3Aの第2内壁34Bに右側から押し当てられる制動面512Aと、押圧部材513が当接する楔面512Bとを有する。第2シュー512は、レール幅方向と垂直な面に対して第1シュー511と対称な形状である。
【0065】
第1シュー511の楔面511Bと第2シュー512の楔面512Bとは、レール幅方向に対向し、下方に向かうに連れて間隔が狭くなる楔溝を構成している。また、第1シュー511及び第2シュー512は、レール幅方向に変位可能に保持されている。
【0066】
押圧部材513は、制動状態において第1シュー511と第2シュー512との間隔を広げて第1シュー511及び第2シュー512をそれぞれ第1固定レール3Aに向けて押圧するように構成されている。
【0067】
押圧部材513は、第1ハウジング516Aと第2ハウジング516Bとによって保持されることで、第1可動レール2Aと共にスライドする。また、押圧部材513は、上下方向に変位可能に保持されている。押圧部材513は、挿入部513Aと、受圧部513Bとを有する。
【0068】
挿入部513Aは、第1シュー511と第2シュー512との間に挿入される棒状の部位である。受圧部513Bは、後述する作動リンク514が当接する部位である。挿入部513Aは、受圧部513Bから下方に突出している。
【0069】
図7Aに示すように、第1制動機構51Aが解除状態にあるとき、押圧部材513は、解除位置に存在する。この解除位置から、図7Bに示す制動位置に押圧部材513が変位することで、第1制動機構51Aが制動状態に移行する。
【0070】
制動位置は、解除位置よりも押圧部材513の挿入部513Aの先端が下方に存在する位置である。つまり、押圧部材513は、下方に移動することで、解除位置から制動位置に変位する。
【0071】
制動位置における第1シュー511と第2シュー512との間の楔溝への挿入部513Aの挿入量は、解除位置における挿入量よりも大きい。そのため、押圧部材513が制動位置にあるとき、第1シュー511と第2シュー512とのレール幅方向の間隔が解除位置よりも押し広げられる。
【0072】
これにより、制動状態では、第1シュー511及び第2シュー512の第1固定レール3Aに対する押圧力が解除状態よりも大きくなる。その結果、第1シュー511と第1固定レール3Aとの間の摩擦力と、第2シュー512と第1固定レール3Aとの間の摩擦力とが増大する。
【0073】
押圧部材513が制動位置から解除位置に変位すると、付勢力によって第1シュー511と第2シュー512とは、間隔が小さくなるように互いに近づくように変位する。その結果、第1シュー511及び第2シュー512と第1固定レール3Aとの間の摩擦力が減少する。
【0074】
なお、解除状態では、第1シュー511と第2シュー512とは、第1固定レール3Aから離れていてもよいし、当接していてもよい。つまり、解除状態において、スライドに支障しない摩擦力が第1シュー511及び第2シュー512と第1固定レール3Aとの間に発生してもよい。
【0075】
図8Aに示すように、作動リンク514は、第1方向D1への揺動によって押圧部材513を第1シュー511と第2シュー512との間隔を広げる方向に(つまり制動位置に向かって下方に)変位させるように構成されている。
【0076】
また、図8Bに示すように、作動リンク514は、第1方向D1とは反対の第2方向D2への揺動によって押圧部材513を第1シュー511と第2シュー512との間隔を狭める方向に(つまり解除位置に向かって上方に)変位させるように構成されている。
【0077】
作動リンク514は、押し下げ部514Aと、持ち上げ部514Bと、軸受部514Cとを有する。作動リンク514は、軸受部514Cの中心軸O周りに揺動する。軸受部514Cの中心軸Oは、スライド方向と平行である。
【0078】
押し下げ部514Aは、作動リンク514が第1方向D1に揺動した際に、下方に変位することで、押圧部材513の受圧部513Bに上方から当接する位置に設けられている。押し下げ部514Aは、作動リンク514の第1方向D1への揺動により、押圧部材513の全体を下方に押し下げる。
【0079】
持ち上げ部514Bは、作動リンク514が第2方向D2に揺動した際に、上方に変位することで、押圧部材513の受圧部513Bに下方から当接する位置に設けられている。持ち上げ部514Bは、作動リンク514の第2方向D2への揺動により、押圧部材513の全体を上方に持ち上げる。
【0080】
図6に示す第1バネ515A及び第2バネ515Bは、第1シュー511と第2シュー512とを互いに近づく向きにレール幅方向に付勢する。具体的には、第1バネ515A及び第2バネ515Bは、それぞれ、少なくとも制動状態において自然長よりも伸びるように、第1シュー511と第2シュー512とにレール幅方向に架け渡されている。
【0081】
第1バネ515A及び第2バネ515Bは、第1ハウジング516Aと第2ハウジング516Bとで構成されるケーシング内に格納されている。第1バネ515Aは、第2バネ515Bよりも上方に配置されている。
【0082】
第2制動機構51Bは、解除状態と、第2可動レール2Bと第2固定レール3Bとの間の摩擦力を解除状態よりも大きくする制動状態とに変位するように構成されている。第2制動機構51Bは、第1制動機構51Aと同様の第1シュー511と、第2シュー512と、押圧部材513と、作動リンク514と、第1バネ515Aと、第2バネ515Bと、第1ハウジング516Aと、第2ハウジング516Bとを有する。第2制動機構51Bは、レール幅方向と垂直な面に対して第1制動機構51Aと対称な形状である。
【0083】
(駆動部)
図2に示す駆動部52は、第1制動機構51A及び第2制動機構51Bを解除状態と制動状態との間で変位させるように構成されている。駆動部52は、図示しないブラケットによってシート11に取り付けられている。駆動部52は、電動式、空気式及び油圧式のアクチュエータである。
【0084】
駆動部52は、連結ロッド53を介して、第1制動機構51Aの作動リンク514と、第2制動機構51Bの作動リンク514とを同期して(つまり同じタイミングかつ同じ方向に)揺動させる。
【0085】
(連結ロッド)
連結ロッド53は、第1制動機構51Aにおける作動リンク514の軸受部514Cと、第2制動機構51Bにおける作動リンク514の軸受部514Cとに挿通されている。
【0086】
連結ロッド53には、駆動部52と2つの作動リンク514とが連結されている。連結ロッド53は、駆動部52が発生させた回転を第1制動機構51A及び第2制動機構51Bに同時に伝達する。
【0087】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)回転体411を用いた駆動ユニット4を備えるスライド装置1において、第1制動機構51A及び第2制動機構51Bを可動レール2A,2Bと固定レール3A,3Bとの間の摩擦力を増大させる制動状態とすることで、スライド方向の位置に関わらず、停止している可動レール2A,2Bのガタツキを抑制できる。
【0088】
(1b)制動ユニット5が1つの駆動部52で第1制動機構51Aと第2制動機構51Bとを駆動させることで、第1制動機構51Aと第2制動機構51Bとの同期が容易となる。また、部品点数を減らすことができる。
【0089】
(1c)第1制動機構51A及び第2制動機構51Bがそれぞれ第1シュー511と第2シュー512と押圧部材513とを有することで、比較的簡潔な構成で、可動レール2A,2Bと固定レール3A,3Bとの間の摩擦力を増減することができる。その結果、制動ユニット5の信頼性が向上する。また、レール幅方向のガタツキも抑制できる。
【0090】
(1d)作動リンク514の第2方向への揺動によって第1シュー511及び第2シュー512を的確に固定レール3A,3Bから離脱させることができるため、可動レール2A,2Bのスライド時の不必要な抵抗を低減できる。
【0091】
(1e)第1シュー511及び第2シュー512がそれぞれ固定レール3A,3Bの内壁34A,34Bに押し当てられることで、第1シュー511及び第2シュー512と、固定レール3A,3Bに取り付けられる他の部品との干渉を低減することができる。
【0092】
(1f)ウォームギアと複数のヘリカルギアとを組み合わせて回転体411を回転させることで、回転体411の逆転が防止される。そのため、可動レール2A,3Aの停止時に回転体411が回転することによるガタツキが抑制される。
【0093】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0094】
(2a)上記実施形態のスライド装置1において、制動ユニット5は、複数の駆動部52を有してもよい。例えば、制動ユニット5は、第1制動機構51Aを駆動させる第1駆動部と、第2制動機構51Bを駆動させる第2駆動部とを有してもよい。
【0095】
(2b)上記実施形態のスライド装置1において、押圧部材513は、スライド方向に変位することで、第1シュー511及び第2シュー512を固定レール3A,3Bに向けて押圧してもよい。つまり、第1シュー511及び第2シュー512によって形成される楔溝は、スライド方向に沿って幅が小さくなるように構成されてもよい。
【0096】
(2c)上記実施形態のスライド装置1において、第1シュー511及び第2シュー512は、固定レール3A,3Bのうち内壁34A,34B以外の部位に押し当てられてもよい。
【0097】
(2d)上記実施形態のスライド装置1において、作動リンク514は、必ずしも第2方向への揺動によって押圧部材513を第1シュー511と第2シュー512との間隔を狭める方向に変位させなくてもよい。つまり、作動リンク514は、持ち上げ部514Bを有しなくてもよい。
【0098】
(2e)上記実施形態の乗物用シート10は、乗用車以外の自動車に用いられるシートや、自動車以外の例えば鉄道車両、船舶、航空機等の乗物に用いられるシートにも適用することができる。
【0099】
(2f)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0100】
1…スライド装置、2A…第1可動レール、2B…第2可動レール、
3A…第1固定レール、3B…第2固定レール、4…駆動ユニット、
5…制動ユニット、10…乗物用シート、11…シート、34A…第1内壁、
34B…第2内壁、36…駆動用開口、41A…第1送り機構、
41B…第2送り機構、42A…第1アクチュエータ、42B…第2アクチュエータ、
51A…第1制動機構、51B…第2制動機構、52…駆動部、53…連結ロッド、
411…回転体、411A…ピニオン、411B…第1ヘリカルギア、
411C…突起部、412…第1連結ギア、413…第2連結ギア、
511…第1シュー、512…第2シュー、513…押圧部材、514…作動リンク、
514A…押し下げ部、514B…持ち上げ部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8