(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20240827BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C08J5/04
C08J5/24
(21)【出願番号】P 2020053947
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】吉弘 一貴
(72)【発明者】
【氏名】平田 慎
(72)【発明者】
【氏名】濱口 美都繁
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049816(WO,A1)
【文献】特開2017-082215(JP,A)
【文献】特開平08-150616(JP,A)
【文献】特開2014-054764(JP,A)
【文献】特開2012-184286(JP,A)
【文献】特開2016-20421(JP,A)
【文献】特開2021-28383(JP,A)
【文献】国際公開第2023/100820(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0241735(US,A1)
【文献】国際公開第2013/105340(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/108811(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08-15/14
C08J5/04-5/10
5/24
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、重量平均繊維長L
wIが1mm以上である無機繊維(A)を5~45重量部、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20~94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品であって、有機繊維(B)は少なくとも1500~7000MPaの強度の繊維を含み、かつ、下記(I)~(IV)を満たす繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品。
(I) ασ
oV
fo≧σ
c
(α、σ
o、V
fo、およびσ
cはそれぞれ配向係数α[-]、有機繊維の強度σ
o[MPa]、有機繊維の繊維含有体積分率V
fo[-]、および繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品の曲げ強度σ
c[MPa]を示す。)
(II) 2≦L
wo/L
wI
(L
wo、およびL
wIはそれぞれ有機繊維の
重量平均繊維長L
wo[mm]および無機繊維の
重量平均繊維長L
wI[mm]を示す。)
(III) 0.5≦τ
I/τ
m≦1
(IV) 0.5≧τ
o/τ
m≧0.1
(τ
o、τ
m、およびτ
Iはそれぞれ有機繊維の界面せん断強度τ
o[MPa]、マトリックス樹脂のせん断降伏応力τ
m[MPa]、および無機繊維の界面せん断強度τ
I[MPa]を示す。)
【請求項2】
有機繊維(B)の重量平均繊維長L
woが12mm以下である請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品。
【請求項3】
無機繊維(A)の重量平均繊維長L
wIが6mm以下である請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品。
【請求項4】
式(V)を満たす請求項1~3のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品。
(V) 2≧d
o/d
I
(d
o、およびd
Iはそれぞれ有機繊維の直径d
o[μm]および無機繊維の直径d
I[μm]を示す。)
【請求項5】
式(VI)を満たす請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品。
(VI) 4≦τ
I-τ
o≦10
【請求項6】
無機繊維(A)が炭素繊維である請求項1~5のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品。
【請求項7】
有機繊維(B)がポリエステル繊維、ポリアラミド繊維より選択される少なくとも1種である請求項1~6のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(C)がポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびポリアリーレンスルフィド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~7のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂
プリプレグ成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなる成形品は、軽量で優れた力学特性を有するために、スポーツ用品用途、航空宇宙用途および一般産業用途などに広く用いられている。これらの成形品に使用される強化繊維としては、アルミニウム繊維やステンレス繊維などの金属繊維、シリコンカーバイド繊維、炭素繊維などの無機繊維、アラミド繊維やポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維などの有機繊維などが挙げられる。比強度、比剛性および軽量性のバランスの観点から無機繊維が好適である。
【0003】
無機繊維が優れた比強度および比剛性を有することから、無機繊維で強化された成形品は、優れた軽量性と力学特性を有する。このため、電子機器筐体や自動車部材などの様々な分野で広く用いられている。しかしながら、前述した用途においては、より一層の軽量化や薄型化が要求されており、特に筐体などの成形品においては、更なる力学特性(特に曲げ強度と衝撃特性)が求められている。
【0004】
無機繊維強化熱可塑性樹脂成形品の衝撃特性を高める手段としては、例えば、オレフィン系樹脂、有機長繊維、無機繊維を含有してなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、耐衝撃性能に優れた繊維強化プラスチックとして、強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる繊維強化プラスチックであって、強化繊維が無機繊維および耐熱有機繊維からなる繊維強化プラスチックが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、衝撃強度および低温衝撃強度に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品として、無機繊維、有機繊維および熱可塑性樹脂を含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、無機繊維と有機繊維の平均繊維長がそれぞれ特定の範囲にあり、さらに、無機繊維と有機繊維の平均繊維端部間距離と平均繊維長が特定の関係にある繊維強化熱可塑性樹脂成形品が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-114332号公報
【文献】特開2014-62143号公報
【文献】国際公開第2014/098103号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載される技術では、依然として力学特性、特に曲げ強度および衝撃強度が不十分であった。このように、従来技術では、熱可塑性樹脂をマトリックスとした繊維強化熱可塑性樹脂成形品において、高い力学特性、特に曲げ強度と衝撃強度を両立した繊維強化熱可塑性樹脂成形品は得られておらず、かかる繊維強化熱可塑性樹脂成形品の開発が望まれていた。本発明は、従来技術の有する上記課題に鑑み、力学特性(特に衝撃強度と曲げ強度)に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、主として以下の構成からなる。
無機繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、重量平均繊維長LwIが1mm以上である無機繊維(A)を5~45重量部、有機繊維(B)を1~45重量部、熱可塑性樹脂(C)を20~94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ成形品であって、有機繊維(B)は少なくとも1500~7000MPaの強度の繊維を含み、かつ、下記(I)~(IV)を満たす繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ成形品。
(I) ασoVfo≧σc
(α、σo、Vfo、およびσcはそれぞれ配向係数α[-]、有機繊維の強度σo[MPa]、有機繊維の繊維含有体積分率Vfo[-]、および繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ成形品の曲げ強度σc[MPa]を示す。)
(II) 2≦Lwo/LwI
(Lwo、およびLwIはそれぞれ有機繊維の平均繊維長Lwo[mm]および無機繊維の平均繊維長LwI[mm]を示す。)
(III) 0.5≦τI/τm≦1
(IV) 0.5≧τo/τm≧0.1
(τo、τm、およびτIはそれぞれ有機繊維の界面せん断強度τo[MPa]、マトリックス樹脂のせん断降伏応力τm[MPa]、および無機繊維の界面せん断強度τI[MPa]を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、無機繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)を含み、有機繊維(B)の強度、含有量、平均繊維長、界面せん断強度、および無機繊維(B)の平均繊維長、界面せん断強度を特定の関係を満たす範囲にすることにより成形品が衝撃を受けた際に、有機繊維(B)の引抜けに伴うエネルギー吸収が大きくなり、高い曲げ強度および衝撃強度を有する成形品を得ることができる。かかる成形品は、電気・電子機器、OA機器、家電機器、筐体および自動車の部品などに極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例および比較例における、接着性評価の、単糸を固定ジグに真直に貼る第1工程の一例を示す概略図である。
【
図2】実施例および比較例における、接着性評価の、固定ジグ付き単糸の一例を示す概略図である。
【
図3】実施例及び比較例における、接着性評価サンプルとして、樹脂に単糸を埋め込んだ一例を示す概略図である。
【
図4】実施例及び比較例における、接着性評価サンプルの単糸の埋め込み深さを測定する、第2工程の一例を示す概略図である。
【
図5】実施例及び比較例における、接着性評価の、第3工程の単糸引抜試験の一例を示す概略図である。
【
図6】実施例及び比較例の引抜け率測定における引抜け繊維の一例である。
【
図7】実施例及び比較例の引抜け率測定における破断繊維の一例である。
【
図8】実施例及び比較例の(工程2)および(工程3)で用いた繊維マットを作製する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品(以下、「成形品」と略すことがある。)は、少なくとも無機繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)を含む。
【0011】
繊維強化熱可塑性樹脂成形品が衝撃を受ける場合、衝撃エネルギーの吸収に寄与する因子の一つとして繊維引抜け時の摩擦抵抗がある。より具体的に説明すると、成形品が衝撃を受けると、生じたクラックが、繊維を破断して直線的に進行して脆性的な破壊を導くことがある。このとき、繊維の破断面は、凹凸が激しい断面を有する。一方で、生じたクラックが繊維との界面で方向を変え、界面はく離が生じることがあり、その場合には、熱可塑性樹脂からの繊維の引抜けが生じやすく、引抜ける際の摩擦抵抗が衝撃エネルギーに寄与する。その衝撃エネルギーは、同種同量の繊維の脆性破壊による衝撃エネルギーより大きい。このように繊維の引抜けが生じたとき、繊維の破断面は、平滑な断面を有する。
【0012】
本発明者らは、成形品の衝撃破壊時にかかる曲げ応力σc[MPa]が、成形品に含まれる見かけの有機繊維の強度(ασoVfo)よりも小さい場合、有機繊維の繊維破断が抑制され、引抜ける繊維割合が増加することを見出した。ここで、α、σo、およびVfoはそれぞれ配向係数α[-]、有機繊維の強度σo[MPa]、および有機繊維の繊維含有体積分率Vfo[-]を示す。
【0013】
さらに、本発明者らは、繊無機繊維(A)と有機繊維(B)の重量平均繊維長LwI,Lwo、界面せん断強度τI,τoと熱可塑性樹脂(C)のせん断降伏応力τmを特定の関係を満たす範囲にすることにより、繊維引抜けに寄与する衝撃エネルギーが向上することを見出し、引抜け繊維割合が増加する上記条件と組み合わせることで、衝撃強度が飛躍的に向上することを見い出し、本発明に至った。
【0014】
以上のように、本発明者らは、有機繊維の強度、含有量、平均繊維長、界面せん断強度、および無機繊維の平均繊維長、界面せん断強度、並びに熱可塑性樹脂のせん断降伏応力を特定の関係を満たす範囲にすることにより高い曲げ強度、衝撃強度を両立することを見出した。
【0015】
<無機繊維(A)について>
無機繊維とは、無機物からなる繊維であり、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、セラミック繊維などが挙げられる。
【0016】
本発明における無機繊維(A)は、熱可塑性樹脂(C)に対する繊維補強効果により、力学特性を向上し得るものである。さらに、無機繊維が導電性や熱伝導性など、固有の特性を有する場合、熱可塑性樹脂(C)単体では為し得ない、それらの性質も付与することができる。
【0017】
本発明の成形品における無機繊維(A)の含有量は、無機繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、5~45重量部(5重量部以上45重量部以下)である。無機繊維(A)の含有量が5重量部未満であると、成形品の衝撃強度が低下する。無機繊維(A)の含有量は、10重量部以上が好ましく、20重量部以上がさらに好ましい。一方、無機繊維(A)の含有量が45重量部を超えると、繊維の分散性が低下するため、繊維同士の絡み合いが増加する。その結果、繊維折損が起きるため、繊維長が短くなり、衝撃強度が低下する。無機繊維(A)の含有量は30重量部以下が好ましい。
【0018】
本発明の成形品中における無機繊維(A)の重量平均繊維長(LwI)は、0.3mm以上6mm以下であることが好ましい。LwIが0.3mm以上の場合、成形品の曲げ強度および衝撃強度向上するため好ましい。1.0mm以上がより好ましく、1.5mm以上がさらに好ましく。3.0mm以上がさらにより好ましい。LwIが6mm以下の場合、剛性の高い無機繊維への樹脂の含浸性が向上し、成形性が良好になるため好ましい。LwIは4mm以下がより好ましい。
無機繊維(A)の平均繊維径は、成形品の力学特性と表面外観の観点から、1~20μmが好ましく、3~10μmがより好ましい。
【0019】
無機繊維(A)としては、繊維補強効果を発現するため、比強度、比剛性に優れる炭素繊維またはガラス繊維が好ましい。力学特性のさらなる向上、成形品の軽量化の観点から、無機繊維の中でも炭素繊維が好ましい。また、導電性を付与する目的においては、ニッケル、銅、またはイッテルビウムなどの金属を被覆した無機繊維(A)も好ましく用いられる。
【0020】
本発明で用いるガラス繊維の種類としては、特に制限はなく、公知のガラス繊維を使用することができる。ガラス繊維の具体例としては、日本電気硝子(株)社製T-120、T-187、T-187H、T-243Nなどが挙げられる。
一般的に、ガラス繊維には、使用時の毛羽や静電気の発生を抑えてハンドリング性を改善するためや、マトリックスである熱可塑性樹脂(C)との接着性を改善するために、種々のバインダーが付与されている。本発明においても、これらのバインダーが付与されたガラス繊維を用いることができる。バインダーの種類は、マトリックスである熱可塑性樹脂(C)の種類に応じて選択すればよい。また、バインダーのガラス繊維への付与量は、バインダー付与後のガラス繊維全体の質量を基準にして、固形分として0.1~3.0質量%が好ましい。バインダー付与量が0.1質量%以上であれば、ハンドリング性および接着性を十分に改善することができる。一方、バインダー付与量が3.0質量%以下であれば、熱可塑性樹脂(C)のガラス繊維への含浸をより効果的に進めることができる。
【0021】
バインダーとしては、例えば、アミノシラン、エポキシシラン、アクリルシラン等のシラン系カップリング剤に代表されるカップリング剤、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等のポリマーまたはその変性物、ポリオレフィン系ワックスに代表されるワックス類等のオリゴマーを含むものが挙げられる。なお、上記のポリマーやオリゴマーは、界面活性剤による水分散化によって得られる水分散体、あるいは、ポリマーやオリゴマーの骨格中に存在するカルボキシル基やアミド基の中和や水和による水溶化によって得られる水溶液の形態で使用されることが一般的である。上記バインダーは、上記の成分に加えて、塩化リチウム、ヨウ化カリウム等の無機塩や、アンモニウムクロライド型やアンモニウムエトサルフェート型等の4級アンモニウム塩に代表される帯電防止剤、脂肪族エステル系、脂肪族エーテル系、芳香族エステル系、芳香族エーテル系の界面活性剤に代表される潤滑剤などを含んでいてもよい。
【0022】
炭素繊維としては、特に制限はないが、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが例示される。PAN系炭素繊維はポリアクリロニトリル繊維を原料とする炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維は石油タールや石油ピッチを原料とする炭素繊維である。セルロース系炭素繊維はビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とする炭素繊維である。気相成長系炭素繊維は炭化水素などを原料とする炭素繊維である。
【0023】
さらに、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が、0.05~0.5であるものが好ましい。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面に十分な官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂(C)とより強固な接着性を得ることができることから、成形品の曲げ強度および引張り強度がより向上する。表面酸素濃度比は、0.08以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましい。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取り扱い性、生産性のバランスから、一般的に0.5以下が好ましい。表面酸素濃度比は、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0024】
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、炭素繊維表面にサイジング剤などが付着している場合には、溶剤でそのサイジング剤などを除去する。炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積を、K.E.として1191~1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積を、K.E.として947~959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
【0025】
ここで、表面酸素濃度比[O/C]は、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光装置として、国際電気社製モデルES-200を用い、感度補正値を1.74とする。
【0026】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05~0.5に調整する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法を挙げることができる。中でも電解酸化処理が好ましい。
【0027】
炭素繊維と熱可塑性樹脂(C)の接着性を向上する等の目的で、炭素繊維は表面処理されたものであってもかまわない。表面処理の方法としては、例えば、電解処理、オゾン処理、紫外線処理等を挙げることができる。
【0028】
炭素繊維の毛羽立ちを防止したり、炭素繊維と熱可塑性樹脂(C)との接着性を向上する等の目的で、炭素繊維はサイジング剤が付与されたものであってもかまわない。サイジング剤を付与することにより、炭素繊維表面の官能基等の表面特性を向上させ、接着性およびコンポジット総合特性を向上させることができる。サイジング剤としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。サイジング剤は、水溶性もしくは水分散性であることが好ましい。炭素繊維との濡れ性に優れるエポキシ樹脂が好ましく、多官能エポキシ樹脂がより好ましい。より具体的には、後述する有機繊維の表面処理剤として例示されたものを用いてもよい。
【0029】
サイジング剤の付着量は、サイジング剤と炭素繊維の合計100重量%中、0.01~10重量%が好ましい。サイジング剤付着量が0.01重量%以上であれば、熱可塑性樹脂(C)との接着性をより向上させることができる。サイジング剤付着量は、0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。一方、サイジング剤付着量が10重量%以下であれば、熱可塑性樹脂(C)の物性をより高いレベルで維持することができる。サイジング剤付着量は、5重量%以下がより好ましく、2重量%以下がさらに好ましい。
【0030】
サイジング剤の付与手段としては特に限定されるものではないが、例えば、サイジング剤を溶媒(分散させる場合の分散媒を含む)中に溶解(分散も含む)したサイジング処理液を調製し、該サイジング処理液を炭素繊維に付与した後に、溶媒を乾燥・気化させ、除去する方法が挙げられる。サイジング処理液を炭素繊維に付与する方法としては、例えば、ローラーを介して炭素繊維をサイジング処理液に浸漬する方法、サイジング処理液の付着したローラーに炭素繊維を接する方法、サイジング処理液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などが挙げられる。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式および連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、炭素繊維に対するサイジング剤の付着量が適正範囲内で均一になるように、サイジング処理液濃度、温度、糸条張力などを調整することが好ましい。また、サイジング処理剤付与時に炭素繊維を超音波で加振させることがより好ましい。
【0031】
乾燥温度と乾燥時間は、化合物の付着量によって調整すべきであるが、サイジング処理液に用いる溶媒を完全に除去し、乾燥に要する時間を短くし、かつ、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された炭素繊維が固くなって拡がり性が悪化することを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下が好ましく、180℃以上250℃以下がより好ましい。
【0032】
<有機繊維(B)について>
本発明の成形品は、前述した無機繊維(A)に加えて、有機繊維(B)を含有する。炭素繊維などの無機繊維(A)は剛直で脆いため、絡まりにくく折れやすい。そのため、無機繊維(A)だけからなる繊維束は、成形品の製造中に切れ易かったり、成形品から脱落しやすいという課題がある。そこで、柔軟で折れにくい有機繊維(B)を含むことにより、成形品の衝撃強度を大幅に向上させることができる。
【0033】
本発明の成形品は強度が1500~7000MPa以上の有機繊維(B)を含有する。強度が1500MPa未満の有機繊維を用いる場合、衝撃試験での有機繊維の破断が起こりやすくなり、引抜けが起こりにくくなるため、得られる成形品の耐衝撃性は不十分になる。3000MPa以上がより好ましく、5000MPa以上がさらに好ましい。7000MPa未満が好ましい。強度が7000MPaを超えると、成形品が衝撃を受けた場合であっても、実質的に繊維破断が起こらないため、成形品の衝撃強度が向上することはない。有機繊維(B)の強度は、式(I)中の有機繊維の強度σo[MPa]である。
【0034】
有機繊維(B)としては、例えば、セルロース樹脂、芳香族ポリアミド、アラミド等のポリアミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレン・プロペンコポリマー、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーなどのフッ素樹脂、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミドなどの液晶ポリマー、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール等の樹脂を紡糸して得られる繊維が挙げられる。有機繊維(B)として、ポリエステル繊維、ポリアラミド繊維がより好ましい。さらに、液晶ポリエステル繊維、パラ系アラミド繊維が好ましい。
【0035】
有機繊維(B)の強度はJIS L1013:1999記載の方法に準じて、試料長100mm、引張速度10mm/分の条件で測定した引張り強さ[mN/tex]に繊維密度[g/cm3]を掛け合わすことで求めることができる。成形品中に含まれる有機繊維(B)を100mm以上連続した状態で取り出すことが困難な場合には、成形品中から単繊維を3mm以上抜き出し、試料長を3mmに変更すること以外は、JIS L1013:1999記載の方法に準じて、引張速度10mm/分の条件で、強度を測定することができる。
【0036】
本発明の成形品中における有機繊維(B)の重量平均繊維長(Lwo)は、1mm以上12mm以下であることが好ましい。Lwoが1mm以上の場合、成形品の衝撃強度向上するため好ましい。3.0mm以上がより好ましく、7mm以上がより好ましい。Lwoが12mm以下の場合、繊維が成形品中に均一に分散することで、衝撃強度が向上するため好ましい。
【0037】
本発明において、有機繊維(B)の単糸強力は、50cN以上であることが好ましい。有機繊維(B)の単糸強力が50cN以上の場合、成形品作製工程での繊維折損が小さくなり、成形品中の平均繊維長が増大するため衝撃強度が向上する。70cN以上が好ましく、120cN以上がさらに好ましい。特に上限はないが、250cN以下が好ましい。
【0038】
有機繊維(B)の平均繊維径は、成形品の力学特性と表面外観の観点から、10μm以上が好ましく、有機繊維の単糸強力が高くなり、繊維破断が起こりにくくなり、衝撃強度が向上する。20μm以上が好ましい。上限は特にないが、100μm以下であれば、繊維分散性を良好にして外観を均一にすることができるため好ましい。
【0039】
本発明において、成形品における有機繊維(B)の含有量は、無機繊維(A)、有機繊維(B)、および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、1~45重量部である。有機繊維(B)の含有量が1重量部未満である場合、成形品の衝撃強度が低下する。有機繊維(B)の含有量は3重量部以上が好ましく、5重量部以上がさらに好ましい。一方、有機繊維(B)の含有量が45重量部を超える場合、繊維同士の絡み合いが増加し、成形品中における有機繊維(B)の分散性が低下し、成形品の衝撃強度の低下を引き起こすことが多い。有機繊維(B)の含有量は20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましい。
【0040】
<熱可塑性樹脂(C)について>
本発明において熱可塑性樹脂(C)は、成形品を構成するマトリックス樹脂である。熱可塑性樹脂(C)としては、成形温度(溶融温度)が200~450℃であるものが好ましく、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリールスルホン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリーレンスルフィドスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらを2種以上用いることもできる。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0041】
前記熱可塑性樹脂(C)の中でも、軽量、かつ、力学特性や成形性のバランスに優れるポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、汎用性に優れることから、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂がさらに好ましい。
【0042】
ポリプロピレン樹脂は、単量体としてプロピレンを含有する重合体である。無機繊維(A)との接着向上による力学強度向上の観点から、変性されたポリプロピレン樹脂を単独で用いる、または無変性ポリプロピレン樹脂と変性されたポリプロピレン樹脂を共に用いることが好ましい。
【0043】
無変性のポリプロピレン樹脂としては、具体的には、プロピレンの単独重合体や、プロピレンとオレフィン、共役ジエン、非共役ジエンおよび他の熱可塑性単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体との共重合体などが挙げられる。共重合体としては、ランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-オクテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等の、プロピレンを除く炭素数2~12のオレフィンなどが挙げられる。共役ジエンまたは非共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。プロピレンの単独重合体は、成形品の剛性を向上させる観点から好ましい。プロピレンとオレフィン、共役ジエンおよび非共役ジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体とのランダムまたはブロック共重合体は、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から好ましい。
【0044】
また、変性ポリプロピレン樹脂としては、酸変性ポリプロピレン樹脂が好ましく、重合体鎖に結合したカルボン酸を有する、酸変性ポリプロピレン樹脂がより好ましい。上記酸変性ポリプロピレン樹脂は、種々の方法で得ることができる。例えば、無変性のポリプロピレン樹脂に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。
【0045】
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物、エチレン系不飽和カルボン酸エステルなどが挙げられる。これらを2種以上用いることもできる。これらの中でも、エチレン系不飽和カルボン酸無水物類が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
また、ポリプロピレン樹脂は無変性ポリプロピレンおよび酸変性ポリプロピレンから選ばれるポリプロピレン樹脂を2種以上用いることもできる。
【0046】
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびこれらの共重合体が挙げられる。
【0047】
ポリアミド樹脂は、アミド結合を骨格に有する高分子である。その主要原料の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0048】
本発明においては、耐熱性や強度に優れるという点から、200℃以上の融点を有するポリアミド樹脂が特に有用である。その具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ナイロン6、ナイロン66がより好ましい。
【0049】
ポリアミド樹脂の重合度には特に制限がないが、成形時の流動性に優れ、薄肉の成形品が容易に得られることから、98%濃硫酸25mlにポリアミド樹脂0.25gを溶解した溶液の25℃で測定した相対粘度が1.5~5.0の範囲であることが好ましく、2.0~3.5の範囲であることがより好ましい。
【0050】
ポリカーボネート樹脂とは、カーボネート基を骨格に有する高分子である。二価フェノール類とカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。2種以上の二価フェノール類または2種以上のカーボネート前駆体を用いて得られる共重合体であってもよい。反応方法の一例として、界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。かかるポリカーボネート樹脂はそれ自体公知であり、例えば、特開2002-129027号公報に記載のポリカーボネート樹脂を使用できる。
【0051】
また、ポリカーボネート樹脂は、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であってもよいし、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよいし、二官能性脂肪族アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂であってもよいし、二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、これらのポリカーボネート樹脂を2種以上用いてもよい。
【0052】
ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、限定されないが、200℃における溶融粘度が10~25000Pa・sであることが好ましい。200℃における溶融粘度が10Pa・s以上であれば、成形品の強度をより向上させることができる。溶融粘度は20Pa・s以上がより好ましく、50Pa・s以上がさらに好ましい。一方、200℃における溶融粘度が25,000Pa・s以下であれば、成形加工性が向上する。溶融粘度は20,000Pa・s以下がより好ましく、15,000Pa・s以下がさらに好ましい。
【0053】
ポリカーボネート樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”(登録商標)、“ノバレックス”(登録商標)、帝人化成(株)製“パンライト”(登録商標)、出光石油化学(株)製“タフロン”(登録商標)などとして上市されているものを用いることもできる。
【0054】
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂、これらのランダムまたはブロック共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。中でもポリフェニレンスルフィド樹脂が特に好ましく使用される。
【0055】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、例えば、特公昭45-3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、特公昭52-12240号公報や特開昭61-7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法など、任意の方法によって製造することができる。
【0056】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/秒の条件下で80Pa・s以下であることが好ましく、20Pa・s以下であることがより好ましい。溶融粘度の下限については特に制限はないが、5Pa・s以上であることが好ましい。溶融粘度の異なる2種以上のポリアリーレンスルフィド樹脂を併用してもよい。なお、溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用い、ダイス長10mm、ダイス孔直径0.5~1.0mmの条件により測定することができる。
【0057】
ポリアリーレンスルフィド樹脂として、東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)、DIC(株)製“DIC.PPS”(登録商標)、ポリプラスチックス(株)製“ジュラファイド”(登録商標)などとして上市されているものを用いることもできる。
【0058】
本発明の成形品における熱可塑性樹脂(C)の含有量は、無機繊維(A)、有機繊維(B)、および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、20~94重量部(20重量部以上94重量部以下)である。熱可塑性樹脂(C)の含有量が20重量部未満の場合、成形品における無機繊維(A)および有機繊維(B)の繊維分散性が低下し、衝撃強度が低下する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は30重量部以上が好ましい。一方、熱可塑性樹脂(C)の含有量が94重量部を超える場合、相対的に無機繊維(A)、有機繊維(B)の含有量が少なくなるため、繊維による補強効果が低くなり、衝撃強度が低下する。熱可塑性樹脂(C)の含有量は85重量部以下が好ましく、75重量部以下がより好ましい。
【0059】
<他の成分について>
本発明の成形品は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記(A)~(C)に加えて他の成分を含んでもよい。他の成分の例としては、熱硬化性樹脂、無機繊維以外の無機充填材、難燃剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤などが挙げられる。また、例えば後述する成形材料に用いられる成分(D)を含んでいてもよい。
【0060】
<本発明の成形品の特性について>
本発明の成形品は、式(I)を満たす。
(I) ασoVfo≧σc
ここで、α、σo、Vfo、およびσcはそれぞれ配向係数α[-]、有機繊維の強度σo[MPa]、有機繊維の繊維含有体積分率Vfo[-]、および成形品の曲げ強度σc[MPa]を示す。
【0061】
(ασoVfo)は成形品中に含まれる有機繊維(B)の見かけの強度である。衝撃時に曲げ破壊を起こした成形品はσcの応力が負荷されており、有機繊維にも応力が負荷される。この応力よりも有機繊維の見かけの強度が高い場合には、成形品が衝撃を受けた場合であっても、有機繊維の破断が抑制され、有機繊維の引抜けが優先で起こるため、繊維引抜けに伴う衝撃エネルギー吸収が大きくなり、高い曲げ強度と衝撃性を有する成形品を得ることができる。
【0062】
配向係数α[-]は、曲げ方向の法線に対する繊維の配向角θ(0~π)から、以下の式を用いて算出する。
α=(Σ|cosθ|)/N
Nは測定繊維数であり、50以上が好ましい。曲げ方向に繊維が完全配列(θ=π/4)の場合にはαは0、曲げ方向の法線に繊維が完全配列(θ=0またはπ/2)した場合にはαは1、または2次元方向に完全ランダム(θ=π/8)の場合にはαは0.64である。配向係数αは、0以上1以下の実数である。配向角θは直接的にはX線CTや表面の画像解析により、繊維の配向を測定して求めることが可能である。成形品中の繊維が屈曲している場合、または繊維の一部しか観察できない場合には、観察可能な末端間を結んだ直線からθを算出することができる。
【0063】
有機繊維の強度σo[MPa]は、ストランド強度を用いることができ、JIS R7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、求めることができる。成形品中に含まれる有機繊維(B)をストランドの状態で取り出すことが困難な場合には、成形品中から単繊維を3mm以上抜き出し、JIS R7606:2000記載の方法に準じて、試料長3mm、引張速度1mm/分の条件で、強度を測定することができる。
【0064】
成形品に含まれる有機繊維の繊維含有体積分率Vfo[-]は、含有成分の重量分率と比重から算出することができる。製造工程による重量変化が小さい場合には、原料の重量分率から算出することができる。また原料の重量分率が不明な場合には、X線CT、断面に現れる有機繊維の面積比、または比重測定などから測定することができる。繊維含有体積分率Vfoは、0より大きく1より小さい実数である。
【0065】
成形品の曲げ強度σc[MPa]は、衝撃破壊時の形状の成形品の曲げ強度を示す。成形品の曲げ強度は、3点曲げ試験冶具を用いて測定することができる。成形品形状が直方体の場合には、ISO 178に準拠した3点曲げにより得られた荷重Fを用いて、次式からσcを算出することができる。
σc=(3FL)/(2bh2)
ここで、F、L、b、hはそれぞれ、曲げ荷重F[N]、支点間距離L[mm]、試験片幅b[mm]、試験片厚さh[mm]を示す。
3点曲げ試験において成形品形状が直方体とは異なり、ISO 178に準拠した測定が困難な場合には、次式からσcを算出することができる。
σc=M/Z
ここで、MおよびZはそれぞれ曲げ破壊時の曲げモーメントM[Nmm]および試験片の断面係数[mm3]を示し、支点間距離は衝撃破壊時の支点となる点の距離に合わせることが好ましい。
【0066】
本発明の成形品は、式(II)を満たす。
(II)2≦Lwo/LwI
ここで、Lwo、およびLwIはそれぞれ有機繊維の重量平均繊維長Lwo[mm]および無機繊維の重量平均繊維長LwI[mm]を示す。
上記、式(II)は、無機繊維(A)および有機繊維(B)の重量平均繊維長の比率を表しており、特定の関係を満たす範囲にすることで、効率的に衝撃強度を向上させることができる。Lwo/LwIが、2未満であると成形品内における有機繊維(B)の繊維長が無機繊維(A)の繊維長に対し、相対的に短くなるため、成形品破壊時の有機繊維(B)の引抜け距離が短くなる。そのため、成形品としての吸収エネルギーが低下し、成形品の衝撃強度が劣る。Lwo/LwIは、4以上が好ましい。一方で、Lwo/LwIが40を超えると、成形品内における有機繊維(B)の繊維長が無機繊維(A)の繊維長に対し、相対的に長くなるため、成形品の破断時に有機繊維(B)の引抜けが支配的となり、無機繊維(A)の繊維補強効果が低下するため、成形品の曲げ強度や衝撃強度が劣る。Lwo/LwIは、30以下が好ましい。
【0067】
ここで、本発明における「重量平均繊維長」とは、重量平均分子量の算出方法を繊維長の算出に適用し、下記の式から算出される平均繊維長を指す。ただし、下記の式は、無機繊維(A)や有機繊維(B)の繊維直径および密度が略一定の場合に適用される。
重量平均繊維長=Σ(Mi
2Ni)/Σ(MiNi)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの繊維の本数
【0068】
ここで、繊維長の測定方法は特に限定するものではないが、例えば、溶解法、あるいは焼き飛ばし法により、成形品に含まれる樹脂成分を除去し、残った繊維を濾別した後、顕微鏡観察により測定する方法が挙げられる。焼き飛ばし法の場合には、測定する繊維が残留し、熱可塑性樹脂(C)が焼却除去できる温度を選択することが必要である。例えば、無機繊維(A)として炭素繊維を用いる場合には、600℃以下、ガラス繊維を用いる場合には500℃以下で熱可塑性樹脂(C)を焼却除去できる温度を選択することが好ましい。有機繊維(B)は、繊維の融点以下の温度で熱可塑性樹脂(C)を焼却除去できる温度を選択することが好ましい。
【0069】
溶解法の場合には、成形品を浸漬する溶媒は特に限定されないが、測定する繊維の非溶媒または貧溶媒であり、且つ、熱可塑性樹脂(C)の良溶媒である溶媒を選択することが好ましい。用いる溶媒として熱可塑性樹脂(C)がポリプロピレン樹脂の場合には、キシレン、シクロヘキサン、1,2,4-トリクロロベンゼン等、ポリアミド樹脂の場合にはヘキサフルオロイソプロパノール等、ポリカーボネート樹脂の場合にはクロロホルム、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0070】
本発明の成形品は、式(III)および式(IV)を満たす。
(III) 0.5≦τI/τm≦1
(IV) 0.5≧τo/τm≧0.1
ここで、τo、τm、およびτIはそれぞれ有機繊維の界面せん断強度τo[MPa]、マトリックス樹脂のせん断降伏応力τm[MPa]、および無機繊維の界面せん断強度τI[MPa]を示す。
【0071】
τI/τmは0.5以上である。τI/τmが0.5未満であると無機繊維(A)と熱可塑性樹脂(C)の接着性が不十分であり、成型品の曲げ強度が低下する。τI/τmに上限はないが理論的に1.0を超える場合には、マトリックス樹脂のせん断破壊が生じるため、曲げ強度、衝撃強度が飽和する。なお、本発明において、マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂(C)である。
【0072】
τo/τmは0.5以下である。0.5を超えると衝撃試験での成形品が最大荷重到達する前、すなわち成形品が破壊するより先に有機繊維に荷重が負荷され、繊維破断が起こりやすくなり、成形品の衝撃強度が低下する。0.3以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。τI/τmに下限はないが0.1未満の場合には、衝撃強度が飽和する。
【0073】
本発明の成形品は、式(V)を満たすことが好ましい。
(V) 2≧do/dI
ここで、do、およびdIはそれぞれ有機繊維の直径do[μm]および無機繊維の直径dI[μm]を示す。
【0074】
繊維径の比(do/dI)が2以上であると、有機繊維の単糸強力が高くなり、繊維破断が起こりにくくなり、衝撃強度が向上するため、好ましい。5以上がより好ましい。do/dIが10以下であると衝撃強度に対する曲げ強度が向上するため好ましい。8以下がより好ましい。なお、doおよびdIは、無機繊維(A)および有機繊維(B)を約10mmに切断し、走査型電子顕微鏡(1000~5000倍)にて繊維径を観察した。無作為に選んだ10本の無機繊維(A)および有機繊維(B)について、それぞれ繊維径を計測し平均値を求め、doおよびdIとすることができる。
【0075】
本発明の成形品は、式(VI)を満たすことが好ましい。
(VI) 4≦τI-τo≦10
(τI-τo)は無機繊維(A)と有機繊維(B)の界面せん断強度の差を示しており、4以上であると、高接着に近いため、曲げ強度が向上する。6以上がより好ましい。10以下であると低接着になるため、衝撃強度が向上する。
【0076】
なお、τo、τm、およびτIを求める場合は、無機繊維と有機繊維は同一のマトリックス樹脂を用いて界面せん断強度を測定することが好ましい。
マトリックス樹脂のせん断降伏応力τmはマトリックス樹脂の引張降伏応力を1.73で割返した値を用いることができる。
【0077】
界面せん断強度(τo、τI)の算出方法について説明する。
τo、τIは繊維表面とマトリックス樹脂界面の界面せん断強度を示し、次の方法により測定することができる。なお、表面処理剤を塗布した繊維を用いる場合の界面せん断強度は、表面処理剤を含む繊維表面とマトリックス樹脂の界面のせん断強度をいう。
【0078】
まず、ヒーター上で加熱した熱可塑性樹脂の上部から繊維単糸を下降させて繊維が直線になるように樹脂中に埋め込む。この際、直線方向の繊維埋め込み深さをHとする。
繊維単糸を埋め込んだ樹脂を常温まで冷却した後、埋め込まれていない繊維端を引抜試験機に固定し、繊維の直線方向かつ繊維が引抜ける方向に0.1~100μm/秒の速度で引抜き、荷重の最大値F[N]を求める。
【0079】
F[N]を以下の式に基づき、埋め込み深さH[mm]および繊維周長(π・df)[mm]で除することで、界面せん断強度τ[MPa]を求めることができる。
τ=F/(π・df・H)
ここでπは円周率を示し、繊維直径df[mm](以下、単繊維直径ということもある)は引抜き測定前の繊維を走査型電子顕微鏡(1000~5000倍)にて観察した繊維直径を用いることができる。
【0080】
また、2種以上の繊維を用いた成形品では、それぞれの繊維成分について、τを求めた後、以下の式に基づき算出できる。
τ=τ1・w1+τ2・w2+τ3・w3・・・
ここで、τ1、τ2、τ3・・・、およびw1、w2、w3・・・、はそれぞれ、1成分目のτ、2成分目のτ、3成分目のτ・・・、および成型品中における全繊維の重量を1とした場合の1成分目の繊維重量割合、2成分目の繊維重量割合、3成分目の繊維重量割合・・・である。
【0081】
df:繊維直径
繊維直径dfは、前述の走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0082】
次にτの調整方法について説明する。
繊維/マトリックス樹脂界面の界面せん断強度は、先述した方法により測定することができる。界面せん断強度を調整する方法としては、例えば、繊維表面に付着する、表面処理剤の量や種類を調整することが挙げられる。
【0083】
無機繊維(A)の表面処理剤(いわゆる、サイジング剤)は、先述したものを用いることができる。有機繊維(B)の表面処理剤は以下のものが例示される。なお、無機繊維の表面処理剤として、下記の有機繊維の表面処理剤として例示したものを用いることもできるが、無機繊維と有機繊維の表面処理剤は同一のものを使用してもよいし、異なるものを使用してもよい。
【0084】
例えば、有機繊維(B)の表面処理剤として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン等の改質剤を用いることで界面せん断強度を向上させ、曲げ強度を向上させることができる。中でも、有機繊維(B)との濡れ性に優れるエポキシ樹脂が好ましく、多官能エポキシ樹脂がより好ましい。
【0085】
多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂(C)との接着性を発揮しやすい脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすい。また、脂肪族エポキシ樹脂は、繊維/熱可塑性樹脂間に存在させた場合、柔軟で剥離しにくくさせるため、成形品の強度をより向上させることができる。
【0086】
多官能の脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエーテル化合物などを含むものが挙げられる。ジグリシジルエーテル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル類、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物としては、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパングリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0087】
上記脂肪族エポキシ樹脂の中でも、3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂が好ましく、反応性の高いグリシジル基を3個以上有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物がより好ましい。脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物は、柔軟性、架橋密度、熱可塑性樹脂(C)との相溶性のバランスがよく、無機繊維(A)に用いた場合には、τIをより向上させることができ、成形品の力学強度を向上させることができる。この中でも、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類がさらに好ましい。
【0088】
シリコン油剤等の改質剤を用いることで、有機繊維(B)のτoが低下し、成形品の衝撃強度を向上させることができる。
【0089】
また、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤などを用いてもよく、上記これらを2種以上用いてもよい。表面処理剤は、水溶性もしくは水分散性であることが好ましい。
【0090】
上記表面処理剤の付着量は、有機繊維100重量部に対して0.1重量部以上、5.0重量部以下が好ましい。0.1重量部以上であると成形品中での有機繊維の分散性が向上するため、衝撃強度、曲げ強度が向上する。0.3重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がさらに好ましい。過剰に表面処理剤が付着した場合にも有機繊維の分散を阻害するため、5.0重量部以下であると成形品中での有機繊維の分散性が向上するため、曲げ強度が向上する。3.0重量部以下が好ましく、1.5重量部以下がさらに好ましい。
【0091】
無機繊維(A)の界面せん断強度の測定方法は、有機繊維(B)の測定方法を用いることができる。また、無機繊維(A)の界面せん断強度の調整方法としては、サイジング剤の量や種類を調整することが挙げられる。
【0092】
また、界面せん断強度は、繊維とマトリックス樹脂界面の接着強度の指標であるため、マトリックス樹脂の変性度および、その変性度に応じた有機繊維の選択によっても調整することができる。
【0093】
アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維などの低接着繊維を使用するとき、成形品の曲げ強度を向上させるため、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂など、低接着繊維に対する高接着樹脂に組み合わせるのが衝撃強度および曲げ強度向上の観点から好ましい。中でも、ポリプロピレン樹脂および/またはポリエステル樹脂が好ましい。特に、マトリックス樹脂として、ポリオレフィン樹脂の中でも、ポリプロピレン樹脂を用いる場合は、無変性ポリプロピレン樹脂でも変性ポリプロピレン樹脂であってもよいが、界面せん断強度向上のためには、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂を共に用いることが好ましい。特に、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維などの低接着繊維では、界面せん断強度向上のために、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂の重量比が99/1~90/10となるように用いることが好ましい。より好ましくは97/3~95/5、さらに好ましくは97/3~96/4である。
【0094】
一方、液晶ポリエステル(LCP)繊維などの高接着繊維を使用するとき、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアリールスルホン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリーレンスルフィドスルフォン樹脂など、高接着繊維に対する低接着樹脂に組み合わせるのが衝撃強度および曲げ強度向上の観点から好ましい。中でも、ポリオレフィン樹脂および/またはポリアリーレンスルフィド樹脂が好ましい。特に、マトリックス樹脂として、ポリオレフィン樹脂の中でも、ポリプロピレン樹脂を用いる場合は、無変性ポリプロピレン樹脂でも変性ポリプロピレン樹脂であってもよいが、界面せん断強度向上のためには、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂を共に用いることが好ましい。より具体的には、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂の重量比が99/1~80/20となるように用いることが好ましい。衝撃強度と曲げ強度のバランスから、97/3~85/15がより好ましい。
【0095】
本発明の成形品は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物かならる成形材料(以下、「成形材料」という。)を成形して得ることができる。成形材料としては、ペレット状成形材料、シート状成形材料、プリプレグなどを好適に用いることができる。成形材料の態様は様々であり、成形性、力学特性および取り扱い性などの観点から選択することができる。特にペレット状成形材料は、連続的に安定した成形品を得ることができる点で好ましく、不連続繊維プリプレグは賦形性および力学特性とのバランスに優れており好ましい。
【0096】
本発明の成形品に用いるペレット状成形材料は、無機繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)に加えて成形工程における成形品の繊維分散を良好にするために成分(D)含んでもよい。
【0097】
成分(D)は、低分子量である場合が多く、常温においては通常比較的脆く破砕しやすい固体や液体であることが多い。成分(D)は低分子量であるため、高流動性であり、無機繊維(A)と有機繊維(B)の熱可塑性樹脂(C)内への分散効果を高めることができる。成分(D)としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、テルペン樹脂、環状ポリアリーレンスルフィド樹脂などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。成分(D)としては、熱可塑性樹脂(C)との親和性の高いものが好ましい。熱可塑性樹脂(C)との親和性の高い成分(D)を選択することにより、成形材料の製造時や成形時に、熱可塑性樹脂(C)と効率良く相溶するため、無機繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。
【0098】
成分(D)は、熱可塑性樹脂(C)との組み合わせに応じて適宜選択される。例えば、成形温度が150℃~270℃の範囲であれば、テルペン樹脂が好適に用いられる。成形温度が270℃~320℃の範囲であれば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、環状ポリアリーレンスルフィド樹脂が好適に用いられる。具体的には、熱可塑性樹脂(C)がポリプロピレン樹脂である場合は、成分(D)はテルペン樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂(C)がポリカーボネート樹脂やポリアリーレンスルフィド樹脂である場合は、成分(D)はエポキシ樹脂、フェノール樹脂、環状ポリアリーレンスルフィド樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂(C)がポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂である場合は、成分(D)はテルペンフェノール樹脂が好ましい。
【0099】
成分(D)の200℃における溶融粘度は、0.01~10Pa・sが好ましい。200℃における溶融粘度が0.01Pa・s以上であれば、無機繊維(A)および有機繊維(B)の内部に含浸させた成分(D)の凝集を防ぐことができ、成分(D)を均一に付着できる。このため成形材料を成形する際、無機繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。溶融粘度は、0.05Pa・s以上がより好ましく、0.1Pa・s以上がさらに好ましい。一方、200℃における溶融粘度が10Pa・s以下であれば、成分(D)の含浸速度があがるため、成分(D)を無機繊維(A)および有機繊維(B)に均一に付着できる。溶融粘度は、5Pa・s以下がより好ましく、2Pa・s以下がさらに好ましい。ここで、熱可塑性樹脂(C)および成分(D)の200℃における溶融粘度は、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により測定することができる。
【0100】
なお、成形材料を製造するにあたっては、後述のとおり、無機繊維(A)および有機繊維(B)に成分(D)を付着させて一旦複合繊維束(E)を得ることが好ましいが、成分(D)を供給する際の溶融温度(溶融バス内の温度)は100~300℃が好ましい。そこで、成分(D)の無機繊維(A)および有機繊維(B)への含浸性の指標として、成分(D)の200℃における溶融粘度に着目した。200℃における溶融粘度が上記の好ましい範囲であれば、かかる好ましい溶融温度範囲において、無機繊維(A)および有機繊維(B)への含浸性に優れるため、成形品における無機繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させ、成形品の力学特性、特に衝撃強度をより向上させることができる。
【0101】
成分(D)の重量平均分子量は、200~50,000が好ましい。重量平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性、特に衝撃強度をより向上させることができる。重量平均分子量は1,000以上がより好ましい。また、重量平均分子量が50,000以下であれば、成分(D)の粘度が適度に低いことから、成形品中に含まれる無機繊維(A)および有機繊維(B)への含浸性に優れ、成形品中における無機繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。重量平均分子量は3,000以下がより好ましい。なお、かかる化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0102】
成分(D)は、10℃/分昇温(空気中)における成形温度での加熱減量が5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは3重量%以下である。かかる加熱減量が5重量%以下の場合、無機繊維(A)および有機繊維(B)へ含浸した際に分解ガスの発生を抑制することができ、成形した際にボイドの発生を抑制することができる。また、特に高温における成形において、発生ガスを抑制することができる。
【0103】
なお、本発明における加熱減量とは、加熱前の成分(D)の重量を100%とし、前記加熱条件における加熱前後での成分(D)の重量減量率を表し、下記式により求めることができる。加熱前後の重量は、白金サンプルパンを用いて、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件にて、成形温度における重量を熱重量分析(TGA)により測定することにより求めることができる。
加熱減量[重量%]={(加熱前重量-加熱後重量)/加熱前重量}×100 。
【0104】
本発明において、成分(D)として好ましく用いられるエポキシ樹脂とは、2つ以上のエポキシ基を有する化合物であって、実質的に硬化剤が含まれておらず、加熱しても、いわゆる三次元架橋による硬化をしないものをいう。エポキシ樹脂は、エポキシ基を有することにより、無機繊維(A)および有機繊維(B)と相互作用しやすくなる。そのため、含浸時に複合繊維束(E)を構成する無機繊維(A)および有機繊維(B)と馴染みやすい。また、成形加工時の無機繊維(A)および有機繊維(B)の分散性がより向上する。
【0105】
ここで、成分(D)として好ましく用いられるエポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0106】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エーテル結合を有する脂肪族エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0107】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0108】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0109】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等が挙げられる。
【0110】
中でも、粘度と耐熱性のバランスに優れるため、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0111】
また、成分(D)として用いられるエポキシ樹脂の重量平均分子量は、200~5000であることが好ましい。エポキシ樹脂の重量平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性をより向上させることができる。800以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましい。一方、エポキシ樹脂の重量平均分子量が5000以下であれば、複合繊維束(E)を構成する無機繊維(A)および有機繊維(B)への含浸性に優れ、成形品における無機繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。重量平均分子量は、4000以下がより好ましく、3000以下がさらに好ましい。なお、エポキシ樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0112】
また、テルペン樹脂としては、例えば、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体を、必要に応じて芳香族単量体等と重合して得られる重合体または共重合体などが挙げられる。
【0113】
テルペン単量体としては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類などが挙げられる。また、芳香族単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。中でも、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネンが熱可塑性樹脂(C)との相溶性に優れるため好ましく、さらに、これらのテルペン単量体の単独重合体がより好ましい。
【0114】
また、これらテルペン樹脂を水素添加処理して得られる水素化テルペン樹脂や、テルペン単量体とフェノール類を、触媒存在下で反応させて得られるテルペンフェノール樹脂を用いることもできる。ここで、フェノール類としては、フェノールのベンゼン環上に、アルキル基、ハロゲン原子および水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を1~3個有するものが好ましく用いられる。その具体例としては、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、t-ブチルフェノール、ノニルフェノール、3,4,5-トリメチルフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、クロロクレゾール、ヒドロキノン、レゾルシノール、オルシノールなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、フェノールおよびクレゾールが好ましい。これらの中でも、水素化テルペン樹脂が、熱可塑性樹脂(C)、特にポリプロピレン樹脂との相溶性により優れるため好ましい。
【0115】
また、テルペン樹脂のガラス転移温度は、特に限定しないが、30~100℃であることが好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であると、成形加工時に成分(D)の取扱性に優れる。また、ガラス転移温度が100℃以下であると、成形加工時の成分(D)の流動性を適度に抑制し、成形性を向上させることができる。ガラス転移温度は、JIS K7121に従い、DSCにより、昇温速度20℃/分で測定した値を指す。
【0116】
また、テルペン樹脂の重量平均分子量は、200~5000であることが好ましい。重量平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性、特に衝撃強度をより向上させることができる。また、重量平均分子量が5000以下であれば、テルペン樹脂の粘度が適度に低いことから無機繊維(A)および有機繊維(B)の含浸性に優れ、成形品中における無機繊維(A)および有機繊維(B)の分散性をより向上させることができる。なお、テルペン樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0117】
成形材料における成分(D)の含有量は、無機繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)ならびに成分(D)の合計100重量部に対して、1~20重量部が好ましい。成分(D)の含有量が1重量部以上であれば、成形品製造時における無機繊維(A)および有機繊維(B)の流動性がより向上し、分散性がより向上する。成分(D)の含有量は、2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましく、7重量部以上がさらにより好ましい。一方、成分(D)の含有量が20重量部以下であれば、成形品の曲げ強度、引張り強度および衝撃強度をより向上させることができる。15重量部以下がより好ましく、12重量部以下がさらに好ましく、10重量部以下がさらにより好ましい。
【0118】
成形材料は、無機繊維(A)、有機繊維(B)が、軸方向にほぼ平行に整列されており、かつ無機繊維(A)、有機繊維(B)の長さと成形材料の長さが実質的に同じであることが好ましい。
【0119】
続いて、成形材料の製造方法について説明する。成形材料は、例えば、次の方法により得ることができる。
まず、無機繊維(A)のロービングおよび有機繊維(B)のロービングを繊維長手方向に対して並列に合糸し、無機繊維(A)と有機繊維(B)を有する繊維束を作製する。次いで、溶融させた成分(D)を該繊維束に含浸させて複合繊維束(E)を作製する。さらに、溶融した熱可塑性樹脂(C)を含む組成物で満たした含浸ダイに複合繊維束(E)を導き、熱可塑性樹脂(C)を含む組成物を複合繊維束(E)の外側に被覆させ、ノズルを通して引抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法が挙げられる(態様I)。熱可塑性樹脂(C)は、少なくとも複合繊維束(E)の外側に含まれていれば、繊維束中に含浸されていてもよい。
【0120】
また、前記方法により作製した複合繊維束(E)を、熱可塑性樹脂(C)を含む組成物で被覆した成形材料と、熱可塑性樹脂(C)を含むペレット(無機繊維(A)および有機繊維(B)を含まないペレット)をペレットブレンドして、成形材料混合物を得てもよい(態様II)。この場合、成形品中における無機繊維(A)、有機繊維(B)の含有量を容易に調整することができる。
【0121】
また、無機繊維(A)を、熱可塑性樹脂(C)を含む組成物で被覆した成形材料と、有機繊維(B)を、熱可塑性樹脂(C)を含む組成物で被覆した成形材料とを、ペレットブレンドして成形材料混合物を得てもよい(態様III)。成分(D)は、無機繊維(A)および/または有機繊維(B)に含浸させることが好ましい。また成分(D)は無機繊維(A)に、後述する成分(G)を有機繊維(B)に含浸させることがより好ましい。ここで、ペレットブレンドとは、溶融混練とは異なり、複数の材料を樹脂成分が溶融しない温度で撹拌・混合し、実質的に均一な状態とすることを指し、主に射出成形や押出成形など、ペレット形状の成形材料を用いる場合に好ましく用いられる。
【0122】
態様IIIの成形材料混合物について、更に詳細に説明する。成形材料混合物としては、少なくとも熱可塑性樹脂(C)、無機繊維(A)、および成分(D)を含む無機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)(以下、「無機繊維強化成形材料(X)」という場合がある。)と、少なくとも熱可塑性樹脂(F)、有機繊維(B)、および、成分(G)(以下、「成分(G)」という場合がある。)を含む有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)(以下、「有機繊維強化成形材料(Y)」という場合がある。)とに分けて準備し、これらをペレットブレンドすることが好ましい。
【0123】
無機繊維強化成形材料(X)は、無機繊維(A)に成分(D)を含浸させてなる複合繊維束(H)を含み、複合繊維束(H)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含む構成を有することが好ましい。無機繊維(A)の長さと無機繊維強化成形材料(X)の長さが実質的に同じであることが好ましい。無機繊維(A)は無機繊維強化成形材料(X)の軸芯方向にほぼ平行に配列されていることが好ましい。無機繊維強化成形材料(X)の長さは、3mm以上が好ましく、7mm以上が更に好ましい。30mm以下が好ましい。
【0124】
また、有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)に成分(G)を含浸させてなる複合繊維束(I)を含み、複合繊維束(I)の外側に熱可塑性樹脂(F)を含む構成を有することが好ましい。有機繊維(B)の長さと有機繊維強化成形材料(Y)の長さが実質的に同じであることが好ましい。有機繊維(B)は有機繊維強化成形材料(Y)の軸芯方向にほぼ平行に配列されていることが好ましい。有機繊維強化成形材料(Y)の長さは、3mm以上が好ましく、7mm以上が更に好ましい。30mm以下が好ましい。なお、成分(G)は、先に説明した成分(D)において例示した化合物を用いることができ、成分(D)と成分(G)は同一の化合物であっても、異なる化合物であってもよい。熱可塑性樹脂(F)は、先に説明した熱可塑性樹脂(C)において例示した樹脂を用いることができ、熱可塑性樹脂(C)と熱可塑性樹脂(F)は同一の樹脂であっても、異なる樹脂であってもよい。
【0125】
次にペレット状成形材料を用いた本発明の成形品の製造方法について説明する。前述の成形材料を用いて成形することにより、無機繊維(A)および有機繊維(B)の分散性に優れ、曲げ強度、衝撃強度に優れる成形品を得ることができる。成形方法としては、金型を用いた成形方法が好ましく、射出成形、押出成形、プレス成形、3次元造形法など、種々の成形方法を用いることができる。特に射出成形機を用いた成形方法により、連続的に安定した成形品を得ることができる。射出成形の条件としては、特に規定はないが、例えば、射出時間:0.5秒~10秒、より好ましくは2秒~10秒、背圧:0.1MPa~10MPa、より好ましくは2MPa~8MPa、保圧力:1MPa~50MPa、より好ましくは1MPa~30MPa、保圧時間:1秒~20秒、より好ましくは5秒~20秒、シリンダー温度:200℃~320℃、金型温度:20℃~100℃の条件が好ましい。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。これらの条件、特に射出時間、背圧および金型温度を適宜選択することにより、成形品中の無機繊維および有機繊維の繊維長を容易に調整することができる。
【0126】
不連続繊維プリプレグは、無機繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)を含有するプリプレグであって、無機繊維(A)および有機繊維(B)は強化繊維基材として含有され、プリプレグ中の無機繊維(A)および/または有機繊維(B)が不連続であることを特徴とするプリプレグである。
【0127】
不連続繊維プリプレグは、無機繊維(A)および/または有機繊維(B)が不連続繊維であることが、プレス成形において、複雑形状への賦形性を得るために重要である。
【0128】
不連続繊維を用いたプリプレグにおける成形材料の好ましい形態としては、連続繊維からなる布帛に多数の切り込みを入れ、樹脂の含浸を容易にした基材や、チョップドストランドをマット状に加工したチョップドストランドマット、繊維を実質的に単繊維分散させ、マット状にした繊維マットなどが挙げられ、繊維の二次元配向を容易にする観点から、乾式法や湿式法で得られるマット形態で、繊維が十分に開繊され、かつ繊維同士が有機化合物で目留めされた基材が好ましい形状として例示できる。
【0129】
また、プリプレグの嵩密度は、プリプレグの23℃での体積と、質量から求めることができる。プリプレグの好ましい嵩密度は0.8~1.5であり、より好ましくは0.9~1.4、さらに好ましくは1.0~1.3である。嵩密度が好ましい範囲であれば、プリプレグを用いた成形品が十分な軽量性を確保することができる。同様に、プリプレグの目付としては好ましくは10~500g/m2であり、より好ましくは30~400g/m2であり、さらに好ましくは100~300g/m2である。
【0130】
プリプレグは、繊維が不連続繊維であれば、面内方向に配向していても、ランダム分散していても良いが、成形品の力学特性のバラツキを抑える観点から、ランダム分散していることが好ましい。
【0131】
また、繊維が面内方向にランダム分散している場合、繊維はチョップドストランドマットのように束で分散していても、単繊維分散していても良いが、成形品の等方性をより高める観点から、実質的に単繊維分散していることが好ましい。
【0132】
プリプレグに含まれる繊維の配向角の平均値は10~80度が好ましく、より好ましくは20~70度であり、さらに好ましくは30~60度であり、理想的な角度である45度に近づくほど好ましい。配向角の平均値が10度未満または80度より大きいと、繊維が束状のまま多く存在していることを意味しており、単繊維分散したプリプレグと比較すると、配向角の等方性に劣る場合がある。
【0133】
配向角を理想的な角度に近づけるには、不連続プリプレグを製造する際に、繊維を分散させ、かつ平面的に配置することで達成できる。繊維の分散を高めるために、乾式法では、開繊バーを設ける方法やさらに開繊バーを振動させる方法、さらにカードの目をファインにする方法や、カードの回転速度を調整する方法などが例示できる。湿式法でも、繊維を分散させる際の攪拌条件を調整する方法、濃度を希薄化する方法、溶液粘度を調整する方法、分散液を移送させる際に渦流を抑制する方法などが例示できる。また平面的に配置するために、乾式法では、繊維を集積する際に、静電気を用いる方法、整流化したエアを用いる方法、コンベアの引取速度を調整する方法などが例示できる。
【0134】
湿式法でも、超音波などで分散した繊維の再凝集を防止する方法、濾過速度を調整する方法、コンベアのメッシュ径を調整する方法、コンベアの引取速度を調整する方法などが例示できる。これらの方法は、特に限定されるものではなく、繊維の状態を確認しながら、その他の製造条件を制御することでも達成できる。
【0135】
プリプレグの製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
例えば、熱可塑樹脂のフィルムを介在させた無機繊維マットおよび/または有機繊維マットを加熱した後、加圧し、熱可塑樹脂を無機繊維マットおよび/または有機繊維マットに含浸・一体化させる方法が挙げられる。
【0136】
加熱・加圧方法としては、例えば、金型プレスやオートクレーブ中で高温高圧をかける方法が挙げられる。また、ダブルベルトプレスまたはカレンダーロールなどの装置を用い、シート材料を所望の温度および圧力にかけられる圧着帯域に送り込む方法も挙げられる。このようにして、連続的または半連続的な工程を操作して、プリプレグを製造することができる。
【0137】
プリプレグを用いた成形品は加熱・加圧して成形することで得ることができる。上述のプリプレグの製造における加圧・加熱工程を利用して、同工程での成形品を成形することができ、またプリプレグを製造した後、再度プリプレグを加熱・加圧して成形することもできる。加圧・加熱方法については特に制限は無く公知の方法を用いることができ、例えばプレス成形が挙げられる。プレス成形の種類は成形品の形状に応じ選択が可能である。ここで、プレス成形とは、加工機械および型、工具その他成形用の治具や副資材等を用いて、プリプレグの積層体に曲げ、せん断、圧縮等の変形を与えて成形品を得る方法である。成形形態としては、絞り、深絞り、フランジ、コールゲート、エッジカーリング、型打ちなどが例示される。また、プレス成形の方法としては、設備や成形工程でのエネルギー使用量、使用する成形用の治具や副資材等の簡略化、成形圧力、温度の自由度の観点から、金属製の型を用いて成形をおこなう金型プレス法を用いることがより好ましい。
【0138】
金型プレス法としては、プリプレグおよび/または、熱可塑樹脂のフィルムを介在させた無機繊維マットおよび/または有機繊維マットを型内に予め配置しておき、型締とともに加圧、加熱をおこない、次いで型締をおこなったまま、金型の冷却によりプリプレグの冷却をおこない成形品を得るヒートアンドクール法や、予めプリプレグおよび/または、熱可塑樹脂のフィルムを介在させた無機繊維マットおよび/または有機繊維マットを、マトリックス樹脂の溶融温度以上に、遠赤外線ヒーター、加熱板、高温オーブン、誘電加熱などに例示される加熱装置で加熱し、熱可塑樹脂を溶融、軟化させた状態で、前記成形型の下面となる型の上に配置し、次いで型を閉じて型締を行い、その後加圧冷却する方法であるスタンピング法を採用することができる。
【0139】
プリプレグの厚みは、積層してプリフォーム化する工程での取扱い性の観点から、23℃での厚みで0.03~1mmであることが好ましく、より好ましくは0.05~0.8mmであり、さらに好ましくは0.1~0.6mmである。0.03mm未満ではプリプレグが破ける場合があり、1mmを越えると賦形性を損なう場合がある。
【0140】
厚みの測定部位については、プリプレグにおいて2点x,yを、該プリプレグの面内において直線距離xyが最も長くなるように決定する。次に該直線xyを10等分以上した際の両端xyを除く各分割点を厚みの測定点とする。各測定点における厚みの平均値をプリプレグの厚みとする。
【0141】
本発明の成形品および成形材料の用途としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、スペアタイヤカバー、フロントエンド、構造用部材、内部部品などの自動車部品や、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク(登録商標)、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品、パーソナルコンピューター、携帯電話などに使用される筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持するキーボード支持体に代表される電気・電子機器用部材、自転車のサドルやペダル、ゴルフシャフトなどのスポーツ用品用途などが挙げられる。
【実施例】
【0142】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。まず、本実施例で用いる各種特性の評価方法について説明する。
【0143】
(1)無機繊維の重量平均繊維長(LwI)
幅10mm、長さ80mmの成形品を、電気炉を用いて空気中において、500℃の温度で30分間加熱して熱可塑性樹脂(C)および有機繊維(B)を十分に焼却除去して無機繊維(A)を分離した。分離した無機繊維(A)を、無作為に少なくとも400本以上抽出し、光学顕微鏡にてその長さを測定して、下記式から重量平均繊維長を算出した。
Σ(Mi
2Ni)/Σ(MiNi)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの繊維の本数。
【0144】
(2)有機繊維(B)の重量平均繊維長(Lwo)
20mm×20mmの成形品を沸点(約140℃)のキシレンに浸漬し、12時間以上、成形品から熱可塑性樹脂(C)を除去できるまで環流した。その後、濾別した有機繊維(B)を含む集合体から有機繊維(B)のみを無作為に少なくとも20本以上採取し、光学顕微鏡にてその長さを測定して、下記式から重量平均繊維長を算出した。
Σ(Mi
2Ni)/Σ(MiNi)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの繊維の本数。
【0145】
(3)繊維径の測定(dI,dO)
連続繊維の形態の無機繊維(A)または有機繊維(B)を約10mmに切断し、走査型電子顕微鏡(1000~5000倍)にて繊維径を観察した。無作為に選んだ10本の無機繊維(A)または、有機繊維(B)について、それぞれ繊維径[μm]を計測して、平均値を求めた。
【0146】
(4)配向係数
成形材料の形態がプリプレグである成形品における有機繊維(B)の配向角は、マットの状態での繊維配向から、2次元方向に完全ランダムと確認できたため、配向係数αを0.64とした。成形材料の形態がペレットの場合には、厚さ10mm、長さ80mm、幅4mmの成形品の厚さとの幅との面の表面を光学顕微鏡で観察し、確認できる繊維の端部をつなぎ、曲げ方向の法線に対する配向角θ(0~π)を測定した。以下の式を用いて配向係数αを算出した。なお、Nは50以上の測定繊維数である。
α=(Σ|cosθ|)/N
【0147】
(5)有機繊維(B)の強度(σo)
有機繊維(B)の強度は、JIS L1013:1999記載の方法に準じて、試料長100mm、引張速度10mm/分の条件で測定した引張り強さ[mN/tex]に繊維密度[g/cm3]を掛け合わすことで引張り強度[MPa]を測定した。
【0148】
(6)有機繊維の繊維含有体積分率(Vfo)
成形品における有機繊維の繊維含有体積分率は原料の配合量から算出した。成形材料がマットの場合には、使用した原料成分の目付を比重で割り返すことで、単位面積当たりの成形品に含まれる各原料成分の体積を算出し、有機繊維の体積割合を算出した。成形材料がペレットの場合には、原料の投入重量を比重で割り返すことにより、単位重量当たりの各成分の体積を算出し、全体積に対する有機繊維の体積割合を算出した。
【0149】
(7)成形品のシャルピー衝撃強度測定
各実施例および比較例により得られた厚さ10mm、長さ80mm、幅3mmまたは4mmの成形品を用いて、株式会社東京試験機製C1-4-01型試験機を用い、幅の規格以外は、ISO179に準拠してVノッチ付きシャルピー衝撃試験を実施し、衝撃強度(kJ/m2)を算出した。ノッチ深さは2mmとした。
【0150】
(8)成形品の曲げ強度測定
(7)と同形状のVノッチ付きシャルピー衝撃試験片を3点曲げ試験冶具(圧子半径5mm、支点距離62mm)に設置し、Vノッチの背面から試験速度10mm/分の試験条件にて応力を加え、曲げ強度を測定した。試験機として、“インストロン(登録商標)”万能試験機5566型(インストロン社製)を用いた。曲げ強度σcの算出式は以下を用いた。
σc=(3FL)/(2bh2)
ここで、F、L、b、hはそれぞれ、曲げ荷重F[N]、支点間距離L[mm]、試験片幅b[mm]、試験片厚さh[mm]を示し、厚さhは成形品の厚さからノッチ深さを引いた8mmとした。
【0151】
(9)接着性評価(界面せん断強度τの測定)
無機繊維(A)および有機繊維(B)と、熱可塑性樹脂(C)との接着性を以下の第1工程~第3工程により評価し、界面せん断強度τ
Iおよびτ
Oを求めた。
<第1工程>
取り扱いやすい長さに切断した単糸を準備した。
図1に示すように、固定ジグ1に抽出した単糸2を中央線4に合わせ、接着剤3で真直に貼り付けた。接着剤硬化後、固定ジグ1の両端からはみ出す単糸長さが最大となるよう、単糸を切断した。上記の工程にて、
図2に示すような、固定ジグ1の両端から単糸が真直にはみ出した固定ジグ付き単糸を得た。
【0152】
<第2工程>
予め、台座5をヒーター上に配置し、台座5の表面に対する垂直方向の距離を測定するマイクロメータを備えたZステージに、第1工程で得られた固定ジグ付き単糸を、単糸2の長手方向を台座5の表面に垂直にするように取り付けた。ヒーター上の台座5の表面と単糸2の先端が接触する位置をマイクロメータの0点に合わせた後、0点から単糸2を上昇させ、その下方の台座5に熱可塑性樹脂6を置き210℃に加熱した。溶融した熱可塑性樹脂6の上部から単糸2を下降させて、単糸2の端部を溶融樹脂6中に埋め込んだ。この際、マイクロメータを用いて埋め込み深さが約300μmになるように制御し、マイクロメータの値から台座5の表面から単糸先端までの距離H
Xを測定した。単糸2を埋め込んだ樹脂6を常温まで冷却、固化した後、台座5の表面から熱収縮後の樹脂6の頂部までの高さH
Yを測定した。その後、単糸2が樹脂6から数mmはみ出した位置で単糸2を切断し、台座5ごと取りだし、
図3に示すようなサンプルを得た。
埋め込み深さHは、
図4に示すように埋め込み時の台座5の表面から単糸2の先端までの距離H
Xおよび埋め込み完了後の台座5の表面から樹脂6の高さH
Yを用いて、次式を用いて求めた。
H=H
Y-H
X
【0153】
<第3工程>
第2工程にて作製したサンプルを、
図5に示すように、縦型の引抜試験機のXYステージ8に固定し、単糸2の先端を上下可動部7の引抜試験機単糸接着ジグ9に接着剤3を用いて固定し、1μm/秒の速度で繊維全体が樹脂から引抜かれる変位まで試験を行った。その際の荷重をロードセルにて測定し、荷重の最大値をFとした。
界面せん断強度τは次式を用いて取得した。
τ=F/(π・d
f・H)
ここで、τ、π、およびd
fは、それぞれ、繊維/マトリックス樹脂界面での界面せん断強度τ[MPa]、円周率π、および繊維直径(単繊維直径)d
f[mm]を示し、繊維直径d
fは前述(3)繊維径の測定に記載の方法を用いて算出した。
【0154】
(6)引抜け率
シャルピー衝撃強度測定後の成形品の破断面を走査型電子顕微鏡(1000~5000倍)にて観察した。無作為に選んだ100本の有機繊維(B)の破断面について、
図6の様な平滑な断面を有する繊維を引抜け繊維、
図7の様な凹凸が激しい断面を有する繊維を破断繊維として判定し、引抜け繊維の割合を求め、引抜け率とした。また、引抜け繊維の割合が50本以上の破断面を「引抜け」、50本以下の破断面を「破断」と評価した。
【0155】
(参考例1)炭素繊維の作製
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、電解酸化処理を行い、総単糸数24,000本、単繊維径7μm、単位長さ当たりの質量1.6g/m、比重1.8g/cm3の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維のストランド引張強度は4,880MPa、ストランド引張弾性率は225GPaであった。表面酸素濃度比(O/C)は電解酸化処理における電流密度により制御し、O/C=0.10であった。
【0156】
サイジング剤を水に溶解、または界面活性剤を用いて分散させたサイジング剤母液を調製し、浸漬法により前述の連続炭素繊維にサイジング剤を付与し、220℃で乾燥を行った。サイジング剤の付着量は母液の濃度を調整することにより連続炭素繊維100重量部に対して1.0重量部に制御した。
【0157】
実施例では以下の原料を用いた。
無機繊維(A)
(A-1)および(A-2)は前述の参考例1に記載の方法により炭素繊維を製造した。
(A-1)サイジング剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(“レオックス”(登録商標)CC-50、Lion(株)製)を付与した炭素繊維(比重1.8)
(A-2)サイジング剤として、グリセロールポリグリシジルエーテルを付与した炭素繊維(比重1.8)
(A-3)ガラス繊維(日本電気硝子(株)製T-423N、比重2.53)
【0158】
有機繊維(B)
(B-1)液晶ポリエステル繊維(東レ(株)製“シベラス”(登録商標)1700T-288f、単繊維繊度5.7dtex、融点330℃、単繊維直径:23μm、比重1.38)を用いた。
(B-2)パラ系アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製“ケブラー”(登録商標)29、単繊維繊度1.6dtex、融点なし、単繊維直径:12μm、比重1.44)を用いた。
(B-3)ポリエステル繊維(東レ(株)製、“テトロン(登録商標)”1680T-288-702C、単繊維繊度5.7dtex、融点約250℃、単繊維直径:23μm、比重1.40)。
【0159】
熱可塑性樹脂(C)
(C-1)ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J137G)/マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”(登録商標)QE840)を、重量比90/10でブレンド、比重0.9
(C-2)ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J137G)/マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”(登録商標)QE840)を、重量比97/3でブレンド、比重0.9
(C-3)ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J137G、比重0.9)
【0160】
成分(D)
(D-1) 固体の水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製“クリアロン”(登録商標)P125、軟化点125℃、比重1.0)。
【0161】
(実施例1)
(工程1) 樹脂フィルムの作製
220℃の温度に加熱された上下の熱盤面から構成される油圧式プレス機の熱盤面間に、離型シートとしてテフロン(登録商標)シート(厚さ1mm)を用い、マトリックス樹脂を挟み込むように配置した。上記(C-1)を投入し、偏りが無いように配置した。
ついで、3MPaでプレスした。次に、30℃の温度に温度制御された、上下の熱盤面から構成される油圧式プレス機の冷却盤間に移し、3MPaで冷却プレスし、長さ1000mm、幅1000mm、目付330g/m2の樹脂フィルムを得た。目付はマトリックス樹脂の投入量により調整した。樹脂フィルムは長さ210mmの正方形に切り分けた。
【0162】
(工程2)無機繊維マットの作製
上記(A-1)の繊維連続束をカートリッジカッターで2mmの長さにカットし、チョップドストランドを得た。
図8に示すアクリル製円筒容器10をとめ具(11および12)を用いて固定した。円筒容器10に、水2000ccを投入し、濃度0.1重量%となるように界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ナカライテクス社製)を投入した。この界面活性剤水溶液を、攪拌機を使用し、1400rpmで空気の微小気泡が発生するまで撹拌した。その後、チョップドストランドを、円筒容器10中の空気の微小気泡が分散した界面活性剤水溶液中に投入し、単繊維分散するまで撹拌した。コック13を開き、得られた分散液を、多孔支持体15を介して脱水口14から脱水することにより、多孔支持体15上に均一なウエブを得た。得られたウエブを長さ240mmの正方形にカットし、熱風乾燥機にて140℃、1h乾燥を行い、目付は200g/m
2のマットを得た。目付はチョップドストランドの投入量により調整した。
【0163】
(工程3)有機繊維マットの作製
(B-1)の繊維連続束をカートリッジカッターで13mmの長さにカットし、チョップドストランドを得た。上記(工程2)と同様に、
図8に示すアクリル製円筒容器10を、とめ具(11および12)を用いて固定し、円筒容器10に水2000ccを投入し、濃度0.1重量%となるように界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ナカライテクス社製)を投入した。この界面活性剤水溶液を、攪拌機を使用し、1400rpmで空気の微小気泡が発生するまで撹拌した。その後、チョップドストランドを、円筒容器10中の空気の微小気泡が分散した界面活性剤水溶液中に投入し、単繊維分散するまで撹拌した。その後、コック13を開き、得られた分散液を脱水口14から脱水し、多孔支持体15の上に均一なウエブを得た。得られたウエブを長さ240mmの正方形にカットし、熱風乾燥機にて120℃、1h乾燥を行い、目付は210g/m
2のマットを得た。目付はチョップドストランドの投入量により調整した。
【0164】
(工程4)
上記(工程2)および(工程3)で得られた無機繊維および有機繊維からなるマットと、(工程1)で得られた樹脂フィルムを[フィルム/無機繊維/フィルム/有機繊維/フィルム/無機繊維/フィルム/有機繊維/フィルム/無機繊維/フィルム]の順に積層した。また、離型シートとしてテフロン(登録商標)シート(厚さ1mm)を用い、該シートで上記積層物を挟み込むように配置した。続いて、200℃の温度に加熱された上下の熱盤面から構成される油圧式プレス機の熱盤面間に配置し、3MPaでプレスした。次に、30℃の温度に温度制御された冷却盤間に配置し、3MPaで冷却プレスし、長さ240mm、幅240mmの成形品を得た。得られた成形品は所定のサイズに裁断機を用いて、前述の各試験片サイズにカットした。厚みは3mmであった。
得られた試験片(成形品)を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置後に特性評価に供した。前述の測定方法に従い、用いた原料および成形品の特性を評価した。評価結果はまとめて表1に示した。
【0165】
(実施例2~8、比較例1~9)
表1または表2に記載のように、原料の種類、目付を変更した以外は、実施例1と同様にして接着性評価および成形品評価を行った。評価結果は表1または表2に示した。
【0166】
(実施例9)
(工程3)における(B-1)のチョップドストランドの長さを25mmに変更した以外は実施例1と同様にして接着性評価および成形品評価を行った。評価結果は表2に示した。
【0167】
(比較例10)
(工程3)における(B-1)のチョップドストランドの長さを3mmに変更した以外は実施例1と同様にして接着性評価および成形品評価を行った。評価結果は表2に示した。
【0168】
(比較例11)
(工程2)における(A-1)のチョップドストランドの長さを13mmに変更した以外は実施例1と同様にして成形品を作製したが、工程4のプレス後の成形品において、(A-1)の内部に樹脂が含浸せず、層が剥がれ、成形品を作製できなかった。
【0169】
(比較例12)
(株)日本製鋼所製TEX-30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイを設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、押出機シリンダー温度を220℃に設定し、上記に示した熱可塑性樹脂(C-1)をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練した。200℃にて加熱溶融させた成分(D)を、(A)~(C)の合計100重量部に対し、8.7重量部となるように吐出量を調整し、無機繊維(A-2)および有機繊維(B-1)からなる繊維束に付与して複合繊維束(E)とした後、溶融した熱可塑性樹脂(C-1)を含む組成物を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、無機繊維(A-2)および有機繊維(B-1)の周囲を被覆するように連続的に配置した。得られたストランドを冷却後、カッターでペレット長8mmに切断し、長繊維ペレットとした。この時、(A)~(C)の合計100重量部に対し、(A-2)が20重量部、有機繊維(B-1)が14重量部となるように、引取速度を調整した。
【0170】
こうして得られた長繊維ペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所製J110AD)を用いて、射出時間:2秒、背圧5MPa、保圧力:20MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:60℃の条件で射出成形することにより、成形品としての試験片(厚さ10mm、長さ80mm、幅4mm)を作製した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。得られた試験片(成形品)を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置後に特性評価に供した。前述の方法により評価した評価結果をまとめて表2に示した。なお、射出成形で作製した成形品に含まれる有機繊維の破断面は凹凸が多いものが優勢であったが、射出成形過程でせん断破壊を起こすため、衝撃試験時に破断したものか、成形時に破断したものか判別できず、引抜け率を測定することができなかった。
【0171】
(比較例13、14)
表2に記載のように原料の種類と組成等を変更した以外は、比較例12と同様にして接着性評価および成形品評価を行った。評価結果はまとめて表2に示した。
【0172】
(比較例15)
(A-2)の連続繊維束をカートリッジカッターで2mmの長さにカットし、チョップドストランドを得た。(B-1)の連続繊維束をカートリッジカッターで2mmの長さにカットし、チョップドストランドを得た。
JSW製TEX-30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、ダイス直径5mm、バレル温度200℃、スクリュー回転数150rpm)を使用し、(C-1)と(D-1)をドライブレンドしたものをメインホッパーから供給し、前述のチョップドストランドである(A-2)および(B-1)をサイドフィーダーから投入し、下流の真空ベントより脱気を行いながら、溶融樹脂をダイス口から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで2mmに切断してペレットを得た。
【0173】
こうして得られたペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所製J110AD)を用いて、射出時間:2秒、背圧5MPa、保圧力:20MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:60℃の条件で射出成形することにより、成形品としての試験片(厚さ10mm、長さ80mm、幅4mm)を作製した。得られた試験片(成形品)を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置後に特性評価に供した。前述の方法により評価した評価結果をまとめて表2に示した。
【0174】
【0175】
【0176】
実施例1~9のいずれの成形品も、(I)~(IV)式をみたし、かつ、有機繊維のストランド強度が特定の範囲であるため、成形品は高い曲げ強度および衝撃強度を示した。
【符号の説明】
【0177】
1:固定ジグ
2:単糸
3:接着剤
4:中央線
5:台座
6:熱可塑性樹脂
7:上下可動部
8:XYステージ
9:引抜試験機単糸接着ジグ
10:アクリル製円筒容器
11:とめ具(上)
12:とめ具(下) 兼脱水用コック付きカバー
13:コック
14:脱水口
15:多孔支持体