(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】IPMモータ用ロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240827BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2020060884
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】本田 武
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-078164(JP,A)
【文献】特開2004-289904(JP,A)
【文献】特開2011-259610(JP,A)
【文献】特開2007-68318(JP,A)
【文献】特開2018-125925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に積層されることにより、軸線方向に貫通する磁石挿入孔を有する円柱状のロータコアを構成する複数の円板状のロータコア部材と、
前記ロータコアを軸線方向に見て、前記ロータコアの周方向に並ぶ一対の周方向側面と、前記ロータコアの径方向に並ぶ一対の径方向側面と、を有する矩形状であり、前記磁石挿入孔内に挿入されるロータ磁石と、
を有し、
前記複数のロータコア部材の少なくとも一つは、
前記磁石挿入孔の内縁の一部を構成し、前記軸線方向に見て、前記周方向に並び、且つ、前記磁石挿入孔内に挿入された前記ロータ磁石と接触することにより前記ロータ磁石を前記径方向に固定する複数の接触部と、
前記軸線方向に見て、前記複数の接触部のそれぞれを挟んで前記磁石挿入孔とは反対側で前記周方向に並び、且つ、前記接触部の変形を許容する複数の変形許容部と、
前記磁石挿入孔の内縁の一部を構成し、前記軸線方向に見て、前記ロータ磁石の前記一対の周方向側面とそれぞれ対向する一対の周方向内縁部と、
を有し、
前記複数の変形許容部は、
前記ロータコア部材のうち前記磁石挿入孔と前記複数の変形許容部との間に位置する領域によって、前記軸線方向に見て、前記磁石挿入孔に対して
分離して位置し、
前記一対の周方向内縁部は、
前記ロータ磁石の前記一対の周方向側面における前記変形許容部側の角部とそれぞれ接触することにより、前記ロータ磁石を前記ロータコア部材に対して前記周方向に位置決めする周方向位置決め内縁部と、
前記一対の周方向側面に対してそれぞれ周方向に離れている非接触内縁部と、
を有する、IPMモータ用ロータ。
【請求項2】
請求項1に記載のIPMモータ用ロータにおいて、
前記接触部は、前記磁石挿入孔の内縁のうち、前記ロータコア部材の径方向における内側に位置する内縁の一部を構成し、
前記変形許容部は、前記ロータコア部材において、前記接触部よりも径方向内側に位置する、IPMモータ用ロータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のIPMモータ用ロータにおいて、
前記ロータ磁石は、前記ロータコア部材を平面で見て、長辺と短辺を有する矩形状であり、
前記ロータ磁石の前記一対の径方向側面は、前記長辺を構成し、
前記ロータ磁石の前記一対の周方向側面は、前記短辺を構成し、
前記接触部は、前記ロータコア部材の径方向において、前記ロータ磁石の径方向内側の長辺と接触し、
前記変形許容部は、前記ロータコア部材の径方向において、前記ロータ磁石の径方向内側の長辺を挟んで、前記ロータ磁石の径方向外側の長辺とは反対側に位置する、IPMモータ用ロータ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のIPMモータ用ロータにおいて、
前記接触部及び前記周方向位置決め内縁部は、前記磁石挿入孔の内縁の一部を構成し、前記ロータコア部材を前記軸線方向に見て、前記ロータ磁石の辺に対して傾斜する方向に延びる傾斜部である、IPMモータ用ロータ。
【請求項5】
請求項4に記載のIPMモータ用ロータにおいて、
前記傾斜部は、前記磁石挿入孔の内縁のうち、前記ロータコア部材の周方向の両側に位置する内縁の一部を構成する、IPMモータ用ロータ。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一つに記載のIPMモータ用ロータにおいて、
前記接触部は、前記磁石挿入孔の内縁の一部を構成し、前記ロータコア部材を前記軸線方向に見て、前記磁石挿入孔の内方に向かって突出する突起部である、IPMモータ用ロータ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載のIPMモータ用ロータにおいて、
前記変形許容部は、前記ロータコア部材を厚み方向に貫通する貫通孔である、IPMモータ用ロータ。
【請求項8】
請求項7に記載のIPMモータ用ロータにおいて、
前記ロータコア部材を前記軸線方向に見て、前記貫通孔の面積は、前記磁石挿入孔の面積よりも小さい、IPMモータ用ロータ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一つに記載のIPMモータ用ロータにおいて、
前記ロータコアを構成する全てのロータコア部材は、前記接触部及び前記変形許容部を有する、IPMモータ用ロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IPMモータ用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータに永久磁石を埋め込んだ構造を有するIPMモータ(Interior Permanet Magnet Motor)が知られている。特許文献1には、ロータのロータコアに、周方向に等角度間隔で磁石挿入孔が位置し、前記磁石挿入孔内に永久磁石が挿入されたIPMモータが開示されている。
【0003】
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔内の内壁面から突出する板ばね部と、前記磁石挿入孔の内壁面との間で挟持されることで、前記磁石挿入孔の内部で固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているIPMモータでは、永久磁石は、磁石挿入孔内に挿入される際に、板ばね部によって、前記磁石挿入孔内で固定される際の押圧力と同じ反力を受ける。そのため、特許文献1の構成では、前記永久磁石であるロータ磁石を前記磁石挿入孔内に挿入する際に大きな力が必要になる。
【0006】
また、ロータコア及びロータ磁石を樹脂で封止する場合、樹脂の流れによって、前記磁石挿入孔内に挿入された前記ロータ磁石は、位置ずれを生じやすい。
【0007】
本発明の目的は、磁石挿入孔内にロータ磁石を容易に挿入可能で且つ前記磁石挿入孔内でのロータ磁石の移動を抑制可能な構成を有するロータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係るIPMモータ用ロータは、厚み方向に積層されることにより、軸線方向に貫通する磁石挿入孔を有する円柱状のロータコアを構成する複数の円板状のロータコア部材と、前記磁石挿入孔内に挿入されるロータ磁石と、を有する。前記複数のロータコア部材の少なくとも一つは、前記磁石挿入孔の内縁の一部を構成し、前記磁石挿入孔内に挿入された前記ロータ磁石と接触する接触部と、前記ロータコア部材を厚み方向から見た平面視において、前記接触部の少なくとも一つを挟んで前記磁石挿入孔とは反対側に位置し、且つ、前記接触部の変形を許容する変形許容部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係るIPMモータ用ロータによれば、磁石挿入孔内にロータ磁石を容易に挿入可能で且つ前記磁石挿入孔内でのロータ磁石の移動を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るモータの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のロータコアの概略構成を示す図である。
【
図4】
図4は、磁石挿入孔内にロータ磁石を挿入した際にロータコアに生じる変形を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態2のロータコアの概略構成を示す図である。
【
図7】
図7は、磁石挿入孔内にロータ磁石を挿入した際にロータコアに生じる変形を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0012】
なお、以下では、モータ1の説明において、ロータ2の中心軸Pと平行な方向を「軸方向」、中心軸Pに直交する方向を「径方向」、中心軸Pを中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、この方向の定義により、モータ1の使用時の向きを限定する意図はない。
【0013】
また、以下の説明において、“固定”、“接続”及び“取り付ける”等(以下、固定等)の表現は、部材同士が直接、固定等されている場合だけでなく、他の部材を介して固定等されている場合も含む。すなわち、以下の説明において、固定等の表現には、部材同士の直接的及び間接的な固定等の意味が含まれる。
【0014】
[実施形態1]
(モータの構成)
図1に、本発明の実施形態に係るロータ2を有するIPMモータであるモータ1の概略構成を示す。モータ1は、ロータ2と、ステータ3と、ハウジング4とを備える。ロータ2は、磁石が内部に埋め込まれたIPMモータ用ロータである。ロータ2は、ステータ3に対して、中心軸Pを中心として回転する。本実施形態では、モータ1は、筒状のステータ3内に、ロータ2が中心軸Pを中心として回転可能に位置する、いわゆるインナーロータ型のモータである。
【0015】
ロータ2は、シャフト20と、ロータコア21と、ロータ磁石22とを備える。ロータ2は、ステータ3の径方向内方に位置し、ステータ3に対して回転可能である。
【0016】
ロータコア21は、中心軸Pに沿って延びる円柱状である。ロータコア21には、中心軸Pに沿って延びるシャフト20が軸方向に貫通した状態で固定される。これにより、ロータコア21は、シャフト20とともに回転する。
【0017】
ロータコア21は、複数の円板状のロータコア部材24が厚み方向に積層されることにより構成されている。複数のロータコア部材24は、電磁鋼板からなる。
【0018】
ロータコア21は、複数のロータコア部材24を積層した状態で軸方向に貫通する磁石挿入孔23を有する。磁石挿入孔23は、ロータコア21を軸方向から見て、矩形状である。
【0019】
ロータ磁石22は、角柱状であり、ロータ2の軸方向に見て長方形状である。すなわち、ロータ磁石22は、ロータコア部材24を平面で見て、長辺と短辺を有する矩形状である。ロータ磁石22の軸方向の長さは、ロータコア21の軸方向の長さと同等である。
【0020】
特に図示しないが、ロータ磁石22が磁石挿入孔23に収容された状態で、ロータコア21及びロータ磁石22は、樹脂で封止されている。これにより、ロータ磁石22は、ロータコア21に対して固定されている。なお、ロータコア21及びロータ磁石22は、樹脂で封止されていなくてもよい。
【0021】
以下では、説明のため、ロータ磁石22をロータ2の軸方向に見て、ロータ磁石22の長辺を構成する面をロータ磁石22の長辺側面と呼び、ロータ磁石22の短辺を構成する面をロータ磁石22の短辺側面と呼ぶ。
【0022】
ステータ3は、ハウジング4内に収容される。本実施形態では、ステータ3は、筒状である。ステータ3の径方向内方には、ロータ2が位置する。すなわち、ステータ3は、ロータ2に対して径方向に対向して位置する。ロータ2は、ステータ3の径方向内方に、中心軸Pを中心として回転可能に位置する。
【0023】
ステータ3は、ステータコア31と、ステータコイル36とを備える。ステータコア31は、軸方向に延びる円筒状である。ステータコイル36は、ステータコア31に巻線されている。
【0024】
(ロータコア部材)
次に、
図2及び
図3を用いて、ロータコア部材24について詳細に説明する。
図2及び
図3は、ロータコア部材24が積層されることにより構成されたロータコア21を軸方向から見た図である。ロータコア部材24は、複数の収容孔50と、複数の変形許容部60とを有する。ロータコア部材24の収容孔50の形状は、ロータコア部材24を平面で見て、ロータコア21の磁石挿入孔23の形状と同じである。
【0025】
収容孔50は、ロータコア21の磁石挿入孔23の内縁の一部を構成する。収容孔50は、ロータコア部材24を平面で見て、長方形状である。本実施形態では、収容孔50の長手方向は、ロータコア21の径方向に延びる線に対して傾斜している。前記径方向に延びる線の一例を、
図2に一点鎖線で示す。
【0026】
本実施形態では、ロータコア部材24は、16個の収容孔50を有する。16個の収容孔50のうち8個の収容孔50は、他の8個の収容孔50に対して周方向に対称である。ロータコア部材24は、周方向に対称な1対の収容孔50を、周方向に等間隔で8組、有する。
【0027】
各収容孔50内には、ロータ磁石22が収容されている。よって、ロータ磁石22は、各収容孔50内に収容された状態で、軸線方向に見て、ロータコア部材24の前記径方向に延びる線に対して傾斜している。
【0028】
図3に示すように、収容孔50の内縁は、ロータ磁石22の径方向外側に位置する長辺側面と対向する外側内縁部51と、ロータ磁石22の径方向内側に位置する長辺側面と対向する内側内縁部52と、ロータ磁石22の径方向外側に位置する短辺側面と対向する外側連結内縁部53と、ロータ磁石22の径方向内側に位置する短辺側面と対向する内側連結内縁部54とを含む。
【0029】
ロータコア部材24は、収容孔50の内方に向かって突出する2つの突起部55を有する。収容孔50内にロータ磁石22が挿入された状態で、2つの突起部55の少なくとも一方は、ロータ磁石22の径方向内側に位置する長辺側面と接触する。本実施形態では、突起部55が、接触部として機能する。
【0030】
外側内縁部51は、ロータコア部材24を平面で見て直線状である。収容孔50内にロータ磁石22が挿入された状態で、外側内縁部51は、ロータ磁石22の径方向外側に位置する長辺側面と接触する。
【0031】
外側連結内縁部53は、内側内縁部52側から外側内縁部51に向かって延びる直線部53aと、直線部53aから収容孔50の外方に湾曲する湾曲部53bとを有する。
【0032】
内側連結内縁部54は、内側内縁部52側から外側内縁部51に向かって延びる直線部54aと、直線部54aから収容孔50の外方に湾曲する湾曲部54bとを有する。
【0033】
直線部53a及び直線部54aによって、収容孔50に対するロータ磁石22の長手方向の位置が決められる。2つの突起部55及び外側内縁部51によって、収容孔50に対するロータ磁石22の短手方向の位置が決められる。これにより、ロータ磁石22は、ロータコア21の磁石挿入孔23内で、径方向及び周方向に所定の位置に位置付けられる。
【0034】
変形許容部60は、ロータコア部材24を厚み方向に貫通する貫通孔である。変形許容部60は、ロータコア部材24を平面で見て、矩形状である。本実施形態では、ロータコア部材24は、2つの変形許容部60を有する。2つの変形許容部60は、それぞれ、ロータコア部材24において、2つの突起部55を挟んで収容孔50とは反対側に位置する。すなわち、各変形許容部60は、各突起部55よりも径方向内側に位置する。なお、変形許容部60の数は、突起部55の数と同じが好ましい。
【0035】
なお、ロータコア21を構成する全てのロータコア部材24が、接触部である突起部55及び変形許容部60を有していてもよい。これにより、ロータコア部材24の形状を同じ形状にすることができる。よって、ロータコア部材24の金型の製作費用を低減できるとともに、ロータコア部材24を積層する作業を簡略化できる。よって、上述の構成により、ロータ2の生産性を向上し且つ生産コストを低減することができる。
【0036】
次に、
図4を用いて、突起部55と変形許容部60の関係について、説明する。
【0037】
ロータコア部材24は、突起部55と変形許容部60との間に変形可能な領域Rを有する。この領域Rは、ロータコア21の磁石挿入孔23内にロータ磁石22が挿入された際に、変形許容部60側に変形を生じる。
【0038】
図4は、磁石挿入孔23内にロータ磁石22を挿入した際に領域Rで生じる変形を模式的に示す図である。
図4に実線で示すように、ロータコア部材24の収容孔50内にロータ磁石22が挿入された際に、ロータコア部材24を平面で見て、突起部55及び領域Rが弾性変形を生じて、変形許容部60側に移動する。なお、
図4では、説明のために、領域Rの変形量を実際よりも誇張して記載している。
【0039】
したがって、ロータコア21の磁石挿入孔23内にロータ磁石22を挿入する際に、ロータ磁石22と接触する突起部55を変形許容部60側に容易に変位させることができる。したがって、磁石挿入孔23内にロータ磁石22を容易に挿入することができる。また、突起部55は、ロータコア21の磁石挿入孔23内にロータ磁石22を挿入した後に、領域Rの弾性復元力により、元の位置に戻る。
【0040】
なお、本実施形態では、ロータコア部材24を平面で見て、各変形許容部60の面積は、収容孔50の面積よりも小さい。これにより、突起部55を変形させる変形許容部60としての機能を確保しつつ、変形許容部60としての貫通孔の部分における磁気特性の低下を抑えることができる。
【0041】
本実施形態では、突起部55は、ロータコア21の磁石挿入孔23の内縁の一部を構成し、ロータコア部材24を平面で見て、磁石挿入孔23の内方に向かって突出する突起部である。これにより、ロータコア21の磁石挿入孔23の内縁の一部を構成する突起部55にロータ磁石22を接触させることができる。これにより、ロータ磁石22を、磁石挿入孔23内で径方向に位置決めできる。
【0042】
また、本実施形態では、ロータ磁石22は、ロータコア部材24を平面で見て、長辺と短辺を有する矩形状である。そして、突起部55は、ロータコア部材24の径方向において、ロータ磁石22の径方向内側の長辺と接触し、変形許容部60は、ロータコア部材24の径方向において、ロータ磁石22の径方向内側の長辺を挟んで、ロータ磁石22の径方向外側の長辺とは反対側に位置している。
【0043】
これにより、突起部55によって、ロータ磁石22の径方向外側の長辺を磁石挿入孔23の径方向外側の内縁に押し付けることができる。したがって、ロータ磁石22を、磁石挿入孔23内において、ロータ2でより大きな磁界を生じる位置に位置付けることができる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係るIPMモータであるモータ1用のロータ2は、厚み方向に積層されることにより、軸線方向に貫通する磁石挿入孔23を有する円柱状のロータコア21を構成する複数の円板状のロータコア部材24と、磁石挿入孔23内に挿入されるロータ磁石22とを有する。複数のロータコア部材24の少なくとも一つは、磁石挿入孔23の内縁の一部を構成し、磁石挿入孔23内に挿入されたロータ磁石22と接触する接触部と、ロータコア部材24を厚み方向から見た平面視において、前記接触部の少なくとも一つを挟んで磁石挿入孔23とは反対側に位置し、且つ、前記接触部の変形を許容する変形許容部60とを有する。
【0045】
これにより、複数のロータコア部材24が厚み方向に積層された円柱状のロータコア21の磁石挿入孔23内に、ロータ磁石22を位置決めした状態で収容できる。すなわち、磁石挿入孔23内では、ロータ磁石22に接触部である突起部55が接触するため、磁石挿入孔23内でロータ磁石22を所定位置に位置付けることができる。よって、ロータコア21及びロータ磁石22を樹脂で封止した場合でも、ロータ磁石22が磁石挿入孔23内で移動することを抑制できる。
【0046】
このように、磁石挿入孔23内でのロータ磁石22の位置決めを行うことにより、モータ1の振動発生及びトルクリップルの発生を抑制することができる。
【0047】
しかも、各ロータコア部材24には、ロータコア部材24を平面で見て、前記接触部を挟んでロータコア21の磁石挿入孔23とは反対側に変形許容部60が位置することで、磁石挿入孔23内にロータ磁石22を挿入する際に、前記接触部が容易に変形する。よって、磁石挿入孔23内にロータ磁石22を容易に挿入することができる。
【0048】
また、本実施形態では、前記接触部は、磁石挿入孔23の内縁のうち、ロータコア部材24の径方向の内側に位置する内縁の一部を構成し、変形許容部60は、ロータコア部材24において、前記接触部よりもロータコア部材24の径方向の内側に位置する。
【0049】
これにより、前記接触部によって、ロータ磁石22を磁石挿入孔23の径方向外側の内縁に押し付けることができる。したがって、ロータ磁石22を、磁石挿入孔23内において、ロータ2でより大きな磁界を生じる位置に位置付けることができる。
【0050】
[実施形態2]
次に、実施形態2に係るモータについて説明する。実施形態2に係るモータは、収容孔150及び変形許容部160の形状が、実施形態1に係る収容孔50及び変形許容部60の形状と異なる。
図5は、実施形態2に係るロータコア121の概略構成を示す図である。
【0051】
ロータコア121は、複数の円板状のロータコア部材124が厚み方向に積層されることにより構成されている。ロータコア121は、複数のロータコア部材124を積層した状態で軸方向に貫通する磁石挿入孔123を有する。
【0052】
ロータコア部材124は、収容孔150と、変形許容部160とを有する。収容孔150は、ロータコアの磁石挿入孔123の内縁の一部を構成する。なお、ロータコア121の磁石挿入孔123の形状は、以下で説明する収容孔150の形状と同じである。
【0053】
図6に示すように、収容孔150の内縁は、ロータ磁石22の径方向外側に位置する長辺側面と対向する外側内縁部151と、ロータ磁石22の径方向内側に位置する長辺側面と対向する内側内縁部152と、ロータ磁石22の径方向外側に位置する短辺側面と対向する外側連結内縁部153と、ロータ磁石22の径方向内側に位置する短辺側面と対向する内側連結内縁部154と、内側内縁部152の両端部と外側連結内縁部153及び内側連結内縁部154とをそれぞれ接続する2つの傾斜部155とを含む。
【0054】
2つの傾斜部155は、ロータコア121の磁石挿入孔123の内縁のうち、ロータコア部材124の周方向の両側に位置する内縁の一部を構成している。収容孔150内にロータ磁石22が挿入された状態で、2つの傾斜部155は、ロータ磁石22の内側に位置する長辺側面の両端の角部と接触する。
【0055】
外側内縁部151は、ロータコア部材124を平面で見て直線状である。収容孔150内にロータ磁石22が挿入された状態で、外側内縁部151は、ロータ磁石22の径方向外側に位置する長辺側面と接触する。
【0056】
外側内縁部151及び傾斜部155によって、ロータ磁石22の短手方向の位置が決まる。傾斜部155によって、ロータ磁石22は、長手方向の位置が決められる。これにより、ロータ磁石22は、ロータコア121の磁石挿入孔123内で、径方向及び周方向に所定の位置に位置付けられる。
【0057】
変形許容部160は、ロータコア部材124を厚み方向に貫通する貫通孔である。変形許容部160は、ロータコア部材124を平面で見て、三角形状である。本実施形態では、ロータコア部材124は、2つの変形許容部160を有する。2つの変形許容部160は、それぞれ、ロータコア部材124において、2つの傾斜部155を挟んで収容孔150とは反対側に位置する。ロータコア部材124を平面で見て、変形許容部160の2つの辺は、ロータ磁石22の長辺及び短辺に沿って延びている。変形許容部160の1つの辺は、傾斜部155に沿って延びている。
【0058】
ロータコア部材124は、傾斜部155と変形許容部160との間に変形可能な領域Rを有する。この領域Rは、ロータコア121の磁石挿入孔123内にロータ磁石22が挿入された際に、変形許容部160側に変形を生じる。
【0059】
図7は、磁石挿入孔123内にロータ磁石22を挿入した際に領域Rで生じる変形を模式的に示す図である。
図7に実線で示すように、ロータコア部材124の収容孔50内にロータ磁石22が挿入された際に、ロータコア部材124を平面で見て、傾斜部155及び領域Rが弾性変形を生じて、変形許容部160側に移動する。なお、
図7では、説明のために、領域Rの変形量を実際よりも誇張して記載している。
【0060】
したがって、本実施形態でも、実施形態1と同様、変形許容部160により、ロータコア121の磁石挿入孔123内にロータ磁石22を挿入する際に、ロータ磁石22と接触する傾斜部155を変形許容部160側に容易に変位させることができる。したがって、磁石挿入孔123内にロータ磁石22を容易に挿入することができる。
【0061】
また、本実施形態でも、実施形態1と同様、ロータコア121の磁石挿入孔123にロータ磁石22を挿入後に、傾斜部155は元の位置に戻る。本実施形態では、傾斜部155は、磁石挿入孔123の内縁の一部を構成し、ロータコア部材124を平面で見て、ロータ磁石22の辺に対して傾斜する方向に延びる。これにより、ロータコア121の磁石挿入孔123の内縁の一部を構成する傾斜部155にロータ磁石22の角部を接触させることができる。これにより、ロータ磁石22を、磁石挿入孔123内で径方向及び周方向に位置決めできる。
【0062】
また、本実施形態では、傾斜部155は、磁石挿入孔123の内縁のうち周方向の両側に位置する内縁の一部を構成する。このような傾斜部155にロータ磁石22の角部を接触させることにより、ロータ磁石22を、磁石挿入孔123内で径方向及び周方向により精度良く位置決めできる。よって、ロータ磁石22を、磁石挿入孔123内でより精度良く位置決めできる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係るロータにおいても、複数のロータコア部材124が厚み方向に積層された円柱状のロータコア121の磁石挿入孔123内に、ロータ磁石22を位置決めした状態で収容できる。すなわち、磁石挿入孔123内では、ロータ磁石22に接触部である傾斜部155が接触するため、磁石挿入孔123内でロータ磁石22を所定位置に位置付けることができる。また、変形許容部160が位置することで、磁石挿入孔123内にロータ磁石22を挿入する際に、前記接触部が容易に変形する。よって、磁石挿入孔123内にロータ磁石22を容易に挿入することができる。
【0064】
また、本実施形態でも、変形許容部160は、ロータコア部材124において、前記接触部よりもロータコア部材124の径方向の内側に位置する。これにより、前記接触部によって、ロータ磁石22を磁石挿入孔123の径方向外側の内縁に押し付けることができる。したがって、ロータ磁石22を、磁石挿入孔123内において、ロータでより大きな磁界を生じる位置に位置付けることができる。
【0065】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0066】
前記実施形態1、2では、変形許容部60,160は、貫通孔である。しかしながら、変形許容部は、薄肉部であってもよい。この場合、変形許容部は、ロータ磁石を磁石挿入孔内に挿入した際に、弾性変形して突起部または傾斜部の変位を許容可能な構成であれば、どのような構成であってもよい。
【0067】
また、貫通孔である変形許容部は、収容孔と繋がっているもよい。この場合、前記変形許容部は、前記収容孔の一部も構成する。
【0068】
また、前記実施形態1、2の構成を組み合わせてもよい。すなわち、ロータコア部材は、突起部及び傾斜部を有していてもよい。この場合でも、ロータコア部材は、突起部及び傾斜部の変形を許容する変形許容部を有する。
【0069】
各ロータコア部材24,124が有する16個の収容孔50,150は全て同じ形状であってもよいし、収容孔の一部が異なる形状であってもよい。
【0070】
前記実施形態1、2では、収容孔50,150の長手方向は、ロータコア部材24,124の径方向に延びる線に対して傾斜する方向に延びている。しかしながら、収容孔の長手方向は、径方向と直交する方向に延びていてもよい。
【0071】
前記実施形態1、2では、各ロータコア部材24,124が有する変形許容部60,160は、同じ形状であり、収容孔50,150に対して同じ位置に位置している。しかしながら、変形許容部は、異なる形状であってもよい。また、一部の変形許容部は、収容孔50,150に対して異なる位置に位置してもよい。
【0072】
ロータコアを構成する複数のロータコア部材は、軸方向から見て同じ位置に、突起部と、変形許容部とを有していてもよいし、軸方向から見て互いに異なる位置に突起部及び変形許容部を有してもよい。一部のロータコア部材は、突起部及び変形許容部を有さなくてもよい。
【0073】
ロータコアを構成する複数のロータコア部材は、軸方向から見て同じ位置に、傾斜部と、変形許容部とを有していてもよいし、互いに異なる位置に変形許容部を有してもよい。一部のロータコア部材は、傾斜部及び変形許容部を有さなくてもよい。
【0074】
前記実施形態1では、ロータコア部材24は、突起部55の数と同数の変形許容部60を有する。しかしながら、突起部の数と変形許容部の数は異なっていてもよい。
【0075】
前記実施形態1では、接触部である突起部55は、2つの突起部を含む。しかしながら、突起部の数は1つであってもよいし、3つまたは3つより多くてもよい。ロータ磁石の磁石挿入孔内での位置決め精度の観点から、突起部は、複数の突起部を含むことが好ましい。複数の突起部によって、前記ロータ磁石を、前記磁石挿入孔の内縁に、より確実に押し付けることができる。よって、前記ロータ磁石を前記磁石挿入孔内でより確実に位置決めできる。
【0076】
前記実施形態2では、ロータコア部材124は、ロータコア部材124の周方向の両側に位置する2つの傾斜部を有する。しかしながら、ロータコア部材は、該ロータコア部材の周方向の内側に位置する傾斜部だけを有していてもよい。なお、ロータ磁石の磁石挿入孔内での位置決め精度の観点から、前記ロータコア部材は、2つの傾斜部を有することが好ましい。
【0077】
前記実施形態1では、変形許容部60は矩形状である。前記実施形態2では、変形許容部160の形状は、三角形状である。しかしながら、ステータコア部材が収容孔と変形許容部の間に位置し且つ変形可能な領域を有していれば、変形許容部は、矩形または三角形以外の他の形状であってもよい。
【0078】
前記実施形態1、2では、収容孔50,150の数は16である。しかしながら、収容孔の数は15または15より少なくてもよいし、17または17より多くてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、IPMモータのロータに利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 モータ
2 ロータ
3 ステータ
4 ハウジング
20 シャフト
21、121 ロータコア
22 ロータ磁石
23、123 磁石挿入孔
24、124 ロータコア部材
31 ステータコア
36 ステータコイル
50、150 収容孔
51、151 外側内縁部
52、152 内側内縁部
53、153 外側連結内縁部
54、154 内側連結内縁部
55 突起部
60、160 変形許容部
155 傾斜部