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特許7543689封止用樹脂組成物、当該組成物を用いた車載用電子制御ユニットの製造方法
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  • 特許-封止用樹脂組成物、当該組成物を用いた車載用電子制御ユニットの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物、当該組成物を用いた車載用電子制御ユニットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20240827BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20240827BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240827BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240827BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240827BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C08G59/40
C08G59/20
C08L63/00 C
C08K7/14
B29C45/14
H01L21/56 T
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020070833
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167378
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】望月 俊佑
(72)【発明者】
【氏名】小出 航
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋史
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-135288(JP,A)
【文献】特開2004-256644(JP,A)
【文献】特開2007-009188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59
C08K
C08L
B29C45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板と、前記配線基板上に搭載された複数の電子部品と、前記電子部品を封止する封止樹脂と、を備える車載用電子制御ユニットの前記封止樹脂を形成するために用いられる封止用樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂(A)と、
硬化剤(B)と、
活性温度領域が155℃以上175℃以下である、下記一般式(1)で表される硬化触媒(C)と、
繊維フィラー(D)と、
無機充填材(E)(繊維フィラー(D)を除く)と、
前記封止用樹脂組成物100重量%中に0重量%、または0.5重量%以下の量で含まれるカップリング剤(F)と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂(A)はエポキシ樹脂を含み、
当該エポキシ樹脂は、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、およびビスフェノールA型エポキシ樹脂から選択される1種または2種以上であり、
以下の試験条件1で測定されたスパイラルフローの変化率が-10%以内であり、かつ
以下の試験条件2で測定された硬化物のガラス転移温度(Tg)が150℃以上である、封止用樹脂組成物。
(試験条件1)
低圧トランスファー成形機を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定することにより行う。保管前の封止用樹脂組成物の流動長a(cm)と、当該組成物を30℃7日間保管した後の流動長b(cm)とから以下の式により計算する。
式:[(b-a)/a]×100
(式中、流動長aは20cm以上90cm以下)
(試験条件2)
インジェクション成形機を用いて、160℃、120秒の成形条件で金型成形して、後硬化なしで縦×横×厚み:10mm×80mm×4mmtのアズモールド試験片を作成する。得られた前記アズモールド試験片に対して、熱機械分析装置を用いて、昇温速度5℃/分、測定温度範囲0℃~320℃の条件で測定を行って得た測定結果から算出する。
【化1】
(一般式(1)中、R、Rは、各々同一でも異なっていてもよく、ハロゲン原子;水酸基;カルボキシル基;アミノ基;ハロゲン原子、水酸基、およびアミノ基から選択される少なくとも1種で置換された炭素数1~6のアルキル基;またはハロゲン原子、水酸基、およびアミノ基から選択される少なくとも1種で置換された炭素数1~6のアルコキシ基を示す。)
【請求項2】
ラボプラストミルを用いて回転数30rpm、測定温度130℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値aの2倍以下である時間T1が85秒以上200秒以下であり、
回転数30rpm、測定温度150℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値bの2倍以下である時間T1'が40秒以上150秒以下である、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項3】
最低トルク値aが0.5N・m以上3.5N・m以下であり、
最低トルク値bが0.1N・m以上2.5N・m以下である、請求項2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
前記封止用樹脂組成物を試験条件2で加熱硬化して得られる硬化物の、40℃から150℃の範囲において算出した平均線膨張係数が、15ppm/℃以上22ppm/℃以下である、請求項1~3のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬化触媒(C)が、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールである、請求項1~4のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂100質量部に対する、前記硬化触媒(C)の量が0.35質量部以上1.2質量部以下である、請求項1~5のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂は3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含む、請求項1~6のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項8】
前記繊維フィラー(D)はガラス繊維である、請求項1~のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項9】
前記硬化剤(B)は、ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノール、多官能型フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂、およびビスフェノール化合物から選択される1種または2種以上である、請求項1~のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項10】
前記無機充填材(E)は、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、窒化珪素、および窒化アルミから選択される1種または2種以上である、請求項1~のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項11】
前記カップリング剤(F)はシランカップリング剤である、請求項1~10のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項12】
前記車載用電子制御ユニットの前記封止樹脂を射出成形により形成するために用いられる、請求項1~11のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項13】
配線基板の少なくとも一方の面上に複数の電子部品を搭載する工程と、
前記複数の電子部品を、請求項1~11のいずれかに記載の封止用樹脂組成物を用いて160℃以上180℃以下の加熱温度で封止成形する工程と、
を含み、
前記封止成形工程において得られた成形体を後熱硬化する工程を含まない、車載用電子制御ユニットの製造方法。
【請求項14】
前記封止成形工程は、前記封止用樹脂組成物を用いて金型温度160℃以上180℃以下で射出成形する工程を含む、請求項13に記載の車載用電子制御ユニットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物、当該組成物を用いた車載用電子制御ユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載用電子制御ユニットとして、電子部品等を搭載した基板を封止樹脂により封止したものが検討されている。このような封止樹脂を形成するために用いられる封止用樹脂組成物としては、たとえば特許文献1~2に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、エポキシ樹脂、硬化剤、融点100℃以上のイミダゾール化合物を含有する所定の硬化促進剤、および無機充填材を必須成分とする封止用エポキシ樹脂組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、熱硬化性樹脂と、イミダゾール類とを含み、ラボプラストミルを用いて経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間が所定の範囲にある封止用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-149821号公報
【文献】国際公開第2016/139985号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、封止用樹脂組成物のハンドリング性(ポットライフ)の観点から、当該封止用樹脂組成物に常温での保管性に優れることが求められてきている。さらに、車載用電子制御ユニットのように、複数の電子部品を搭載する大面積の配線基板を用いる場合には、未充填箇所の発生がさらに顕著となることが懸念されている。
また、車載用電子制御ユニットの生産効率の改善の観点から、成形時にのみ加熱硬化を行うことで封止樹脂が得られ、当該封止樹脂の後熱硬化工程(アフターキュア工程)が不要な、硬化性の改善された封止用樹脂組成物が求められてきている。さらに、封止樹脂に対しては、接続信頼性の観点から半田クラック等の硬化物特性の改善も要求されている。
しかしながら、常温保管性の改善および未充填箇所の発生抑制と、硬化性および硬化物特性の改善とは、トレードオフの関係にあった。
特許文献1~2に記載の封止用樹脂組成物は、これらの点において改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
配線基板と、前記配線基板上に搭載された複数の電子部品と、前記電子部品を封止する封止樹脂と、を備える車載用電子制御ユニットの前記封止樹脂を形成するために用いられる封止用樹脂組成物であって、
熱硬化性樹脂と、
活性温度領域が155℃以上175℃以下である硬化触媒と、
を含み、
以下の試験条件1で測定されたスパイラルフローの変化率が-10%以内であり、かつ
以下の試験条件2で測定された硬化物のガラス転移温度(Tg)が150℃以上である、封止用樹脂組成物、を提供することができる。
(試験条件1)
低圧トランスファー成形機を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定することにより行う。保管前の封止用樹脂組成物の流動長a(cm)と、当該組成物を30℃7日間保管した後の流動長b(cm)とから以下の式により計算する。
式:[(b-a)/a]×100
(式中、流動長aは20cm以上90cm以下)
(試験条件2)
インジェクション成形機を用いて、160℃、120秒の成形条件で金型成形して、後硬化なしで縦×横×厚み:10mm×80mm×4mmtのアズモールド試験片を作成する。得られた前記アズモールド試験片に対して、熱機械分析装置を用いて、昇温速度5℃/分、測定温度範囲0℃~320℃の条件で測定を行って得た測定結果から算出する。
【0008】
本発明によれば、
配線基板の少なくとも一方の面上に複数の電子部品を搭載する工程と、
前記複数の電子部品を、前記封止用樹脂組成物を用いて160℃以上180℃以下の加熱温度で封止成形する工程と、
を含み、
前記封止成形工程において得られた成形体を後熱硬化する工程を含まない、車載用電子制御ユニットの製造方法、を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の封止用樹脂組成物は、常温(15~30℃)での保管性に優れ、封止成形において未充填箇所の発生を抑制することができ、成形時にのみ加熱硬化することで成形することができ(硬化性の改善)、さらに、半田クラックの発生が抑制され接続信頼性に優れた車載用電子制御ユニットの封止樹脂を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る車載用電子制御ユニットの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
【0012】
図1は、本実施形態に係る車載用電子制御ユニット10の一例を示す断面模式図である。
本実施形態に係る封止用樹脂組成物は、配線基板12と、配線基板12上に搭載された複数の電子部品16と、電子部品16を封止する封止樹脂14と、を備える車載用電子制御ユニット10の封止樹脂14を形成するために用いられるものである。
【0013】
封止用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、活性温度領域が155℃以上175℃以下である硬化触媒と、を含む。そして、本実施形態の封止用樹脂組成物は、下記特性(1)および(2)を満たす。
【0014】
特性(1):以下の試験条件1で測定されたスパイラルフローの変化率が-10%以内、好ましくは-9%以内、さらに好ましくは-8%以内である。
(試験条件1)
低圧トランスファー成形機を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定することにより行う。保管前の封止用樹脂組成物の流動長a(cm)と、当該組成物を30℃7日間保管した後の流動長b(cm)とから以下の式により計算する。
式:[(b-a)/a]×100
式中、流動長aは20cm以上90cm以下、好ましくは30cm以上85cm以下、さらに好ましくは40cm以上80cm以下、特に好ましくは50cm以上75cm以下である。
【0015】
特性(2):以下の試験条件2で測定された硬化物のガラス転移温度(Tg)が150℃以上である。
(試験条件2)
インジェクション成形機を用いて、160℃、120秒の成形条件で金型成形して、後硬化なしで縦×横×厚み:10mm×80mm×4mmtのアズモールド試験片を作成する。得られた前記アズモールド試験片に対して、熱機械分析装置を用いて、昇温速度5℃/分、測定温度範囲0℃~320℃の条件で測定を行って得た測定結果から算出する。
【0016】
上述のように、車載用電子制御ユニットは、たとえば封止用樹脂組成物を用いて電子部品を封止成形することにより形成される。封止用樹脂組成物を成形する工程においては、流動性不足、場所に応じた流動特性の違いに起因して生じるウェルドボイド等のような未充填箇所が生じるおそれがあった。とくに、車載用電子制御ユニットのように、複数の電子部品を搭載する大面積の配線基板を用いる場合には、このような未充填箇所の発生がさらに顕著となることが懸念されている。
一方、封止成形は連続的に行われることから、封止用樹脂組成物が常温での保管性に優れていれば、封止用樹脂組成物のハンドリング性(ポットライフ)が改善される。しかしながら、常温保管性が不十分な場合、連続生産時に流動性が低下し、前述のような封入性不具合が発生しやすくなる。このように、車載用電子制御ユニットの封止樹脂として用いる場合、封止用樹脂組成物がどのような特性を満たせば、常温で保管することができ、ひいては未充填箇所の発生を抑制することができるのか明らかでなかった。
【0017】
また、車載用電子制御ユニットの生産効率の改善の観点から、成形時にのみ加熱硬化を行うことで封止樹脂を得ることができ、当該封止樹脂のアフターキュアが不要であれば車載用電子制御ユニットの生産性が向上する。
一方、封止樹脂に対しては、接続信頼性の観点から、半田クラック等の硬化物特性の改善も要求されている。しかしながら、アフターキュアを行っていないアズモールド品がどのような特性を満たせば、車載用電子制御ユニットの封止樹脂として用いることができ、さらに半田クラック等の硬化物特性を改善できるのか明らかでなかった。
なお、封止用樹脂組成物の反応性が高ければ硬化性および硬化物特性に優れるものの、反応性を上げるために硬化触媒を多く配合しなければならず、それにより、常温保管性が低下したり未充填箇所が発生する。すなわち、常温での保管性および封止成形における未充填箇所の発生と、硬化性および硬化物特性の改善とは、トレードオフの関係にあった。
【0018】
本発明者らは検討したところ、熱硬化性樹脂と、活性温度領域が155℃以上175℃以下である硬化触媒と、を含む封止用樹脂組成物において、上記した特性(1)および(2)を何れも満たすことにより、常温での保管性に優れ、封止成形において未充填箇所の発生が抑制され、さらに、成形時にのみ加熱硬化することで成形することができ(硬化性の改善)、半田クラックの発生が抑制され接続信頼性に優れた車載用電子制御ユニットの封止樹脂を提供することができることを見出して本発明を完成させた。
【0019】
以下、本実施形態に係る車載用電子制御ユニット、封止用樹脂組成物、および車載用電子制御ユニットの製造方法について詳細に説明する。
まず、車載用電子制御ユニット10について説明する。
【0020】
[車載用電子制御ユニット]
車載用電子制御ユニット10は、エンジンや各種車載機器等を制御するために用いられる。図1に示すように、車載用電子制御ユニット10は、たとえば配線基板12と、配線基板12の少なくとも一面に搭載された複数の電子部品16と、電子部品16を封止する封止樹脂14と、を備えている。配線基板12は、少なくとも一辺において、外部と接続するための接続端子18を有している。本実施形態の一例に係る車載用電子制御ユニット10は、接続端子18と相手方コネクタを嵌合することによって、接続端子18を介して上記相手方コネクタに電気的に接続されることとなる。
【0021】
配線基板12は、たとえば一面および当該一面とは反対の他面のうちの一方または双方に回路配線が設けられた配線基板である。図1に示すように、配線基板12は、たとえば平板状の形状を有している。本実施形態においては、たとえばポリイミド等の有機材料により形成された有機基板を配線基板12として採用することができる。配線基板12は、たとえば配線基板12を貫通して一面と他面を接続するスルーホール120を有していてもよい。この場合、配線基板12のうちの一面に設けられた配線と、他面に設けられた配線と、がスルーホール120内に設けられた導体パターンを介して電気的に接続される。
【0022】
配線基板12は、たとえば電子部品16を搭載する一面においてソルダーレジスト層を有している。上記ソルダーレジスト層は、半導体装置の分野において通常使用されるソルダーレジスト形成用樹脂組成物を用いて形成することができる。本実施形態においては、たとえば配線基板12の一面および他面にソルダーレジスト層を設けることができる。
【0023】
配線基板12の一面に、または一面および他面の双方に設けられた上記ソルダーレジスト層は、たとえばシリコーン化合物を含む樹脂組成物により形成される。これにより、表面平滑性に優れたソルダーレジスト層を実現することができる。
【0024】
車載用電子制御ユニット10の製造において、シリコーン化合物等を含むソルダーレジスト層が最上層に形成された配線基板に対する封止樹脂の密着性を向上させることは困難となる場合がある。本実施形態においては、熱硬化性樹脂とイミダゾール類を含ませつつ、ラボプラストミルを用いて特定の条件下で測定されるトルク変化の挙動が制御された封止用樹脂組成物を用いる。このため、上述のように、シリコーン化合物等を含むソルダーレジスト層が配線基板12の最上層に設けられた場合においても、封止用樹脂組成物の充填性と、封止樹脂14の配線基板12に対する密着性と、のバランスを向上させることが可能となる。
【0025】
複数の電子部品16は、図1に示すように、たとえば配線基板12の一面と他面のそれぞれに搭載される。一方で、電子部品16は、配線基板12の一面のみに設けられ、配線基板12の他面には設けられていなくともよい。電子部品16としては、車載用電子制御ユニットに搭載され得るものであればとくに限定されないが、たとえばマイクロコンピュータが挙げられる。
【0026】
封止樹脂14は、電子部品16を封止するように封止用樹脂組成物を成形し、硬化することにより形成される。本実施形態において、封止樹脂14は、たとえば電子部品16とともに配線基板12を封止するように形成される。図1に示す例では、配線基板12の一面および他面、ならびに配線基板12に搭載された電子部品16を封止するように封止樹脂14が設けられている。また、封止樹脂14は、たとえば配線基板12の一部または全部を封止するように形成される。図1においては、接続端子18が露出するように、配線基板12のうちの接続端子18を封止せずに他の部分全体を封止するように封止樹脂14が設けられる場合が例示されている。
【0027】
本実施形態に係る車載用電子制御ユニット10において、配線基板12は、たとえば金属ベース上に搭載されていてもよい。金属ベースは、たとえば電子部品16から発生する熱を放熱するためのヒートシンクとして機能することができる。本実施形態においては、たとえば金属ベースと、金属ベース上に搭載された配線基板12と、を封止用樹脂組成物により一体的に封止成形することにより車載用電子制御ユニット10を形成することができる。金属ベースを構成する金属材料としては、とくに限定されないが、たとえば鉄、銅、およびアルミ、ならびにこれらの一種または二種以上を含む合金等を含むことができる。なお、車載用電子制御ユニット10は、金属ベースを有していなくともよい。
次に、封止用樹脂組成物について説明する。
【0028】
[封止用樹脂組成物]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、本発明の効果の観点から、
ラボプラストミルを用いて回転数30rpm、測定温度130℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値aの2倍以下である時間T1が85秒以上200秒以下、好ましくは100秒以上180秒以下、さらに好ましくは110秒以上170秒以下であり、かつ
回転数30rpm、測定温度150℃の条件でトルク値を経時的に測定した際に、トルク値が最低トルク値bの2倍以下である時間T1'が40秒以上150秒以下、好ましくは40秒以上120秒以下、さらに好ましくは45秒以上100秒以下である。
【0029】
ラボプラストミルを用いて特定の条件下で測定されるトルク変化の挙動を制御することにより、常温での保管性および充填性と、硬化性および接続信頼性と、のバランスをより改善することができる。
【0030】
本実施形態においては、本発明の効果の観点から、前記最低トルク値aが0.5N・m以上3.5N・m以下、好ましくは0.8N・m以上3.0N・m以下、さらに好ましくは1.0N・m以上2.8N・m以下であり、かつ
前記最低トルク値bが0.1N・m以上2.5N・m以下、好ましくは0.2N・m以上2.0N・m以下、さらに好ましくは0.5N・m以上1.5N・m以下である。
【0031】
本実施形態の封止用樹脂組成物を試験条件2で加熱硬化して得られる硬化物の、40℃から150℃の範囲において算出した平面方向(XY方向)の平均線膨張係数が、15ppm/℃以上22ppm/℃以下、好ましくは16ppm/℃以上22ppm/℃以下、さらに好ましくは17ppm/℃以上21ppm/℃以下である。
平均線膨張係数が当該範囲にあることにより、封止用樹脂組成物の硬化物特性をより改善することができる。
【0032】
本実施形態に係る封止用樹脂組成物は、上述したように、熱硬化性樹脂と、活性温度領域が155℃以上175℃以下である硬化触媒と、を含む。これにより、封止用樹脂組成物について、常温での保管性と、成形時にのみ加熱硬化を行いアフターキュアが不要となる優れた硬化性と、のバランスを向上させることができる。とくに、活性温度領域が155℃以上175℃以下である硬化触媒を含むことによって、これらのバランスをより効果的に発現させることができる。このため、車載用電子制御ユニット10の信頼性向上に寄与することが可能となる。
以下、封止用樹脂組成物を構成する各成分について詳述する。
【0033】
[熱硬化性樹脂(A)]
熱硬化性樹脂(A)は、たとえばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、およびマレイミド樹脂からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。これらの中でも、硬化性、保存性、耐熱性、耐湿性、および耐薬品性を向上させる観点から、エポキシ樹脂を含むことがとくに好ましい。
【0034】
熱硬化性樹脂(A)に含まれるエポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。本実施形態において、エポキシ樹脂は、たとえばビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等に例示されるトリスフェノール型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。
【0035】
これらのうち、本発明の効果の観点から、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、およびビスフェノールA型エポキシ樹脂から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0036】
前記エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂骨格の繰り返し構造に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含むことも好ましい。
多官能エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、2-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-2-[4-[1,1-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]エチル]フェニル]プロパン、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、α-2,3-エポキシプロポキシフェニル-ω-ヒドロポリ(n=1~7){2-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンジリデン-2,3-エポキシプロポキシフェニレン}等が挙げられる。これらは単独で用いても複数組み合わせて用いてもよい。
【0037】
封止用樹脂組成物中における熱硬化性樹脂(A)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して2重量%以上であることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましく、4重量%以上であることがとくに好ましい。熱硬化性樹脂(A)の含有量を上記下限値以上とすることにより、成形時における流動性を向上させることができる。このため、常温保管性により優れ、さらに充填性や成形安定性の向上も図ることができる。一方で、封止用樹脂組成物中における熱硬化性樹脂(A)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることがとくに好ましい。熱硬化性樹脂(A)の含有量を上記上限値以下とすることにより、車載用電子制御ユニット10について、耐湿信頼性や耐リフロー性を向上させることができる。
【0038】
[硬化剤(B)]
封止用樹脂組成物は、硬化剤(B)を含むことができる。硬化剤(B)としては、たとえば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、および縮合型の硬化剤の3タイプに大別することができる。
【0039】
硬化剤(B)として用いられる重付加型の硬化剤は、たとえばジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノール、アラルキル型フェノール樹脂などのフェノール樹脂系硬化剤;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。
【0040】
硬化剤(B)として用いられる触媒型の硬化剤は、たとえばベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP-30)などの3級アミン化合物;BF3錯体などのルイス酸からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。
【0041】
硬化剤(B)として用いられる縮合型の硬化剤は、たとえばレゾール型フェノール樹脂;メチロール基含有尿素樹脂などの尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂などのメラミン樹脂からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。
【0042】
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、および保存安定性等についてのバランスを向上させる観点から、フェノール樹脂系硬化剤を含むことがより好ましい。フェノール樹脂系硬化剤としては、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量、分子構造は特に限定されない。硬化剤(B)として用いられるフェノール樹脂系硬化剤は、たとえばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂;ポリビニルフェノール;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のフェノールアラルキル型フェノール樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。これらの中でも、封止用樹脂組成物の硬化性を向上させる観点からは、ノボラック型フェノール樹脂、およびフェノールアラルキル型フェノール樹脂のうちの少なくとも一方を含むことがより好ましい。
【0043】
封止用樹脂組成物中における硬化剤(B)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して1重量%以上であることが好ましく、2重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることがとくに好ましい。硬化剤(B)の含有量を上記下限値以上とすることにより、常温保管性により優れるとともに、成形時において、優れた流動性を実現し、充填性や成形性の向上を図ることができる。一方で、封止用樹脂組成物中における硬化剤(B)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して40重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがとくに好ましい。硬化剤(B)の含有量を上記上限値以下とすることにより、車載用電子制御ユニット10の耐湿信頼性や耐リフロー性を向上させることができる。
【0044】
[硬化触媒(C)]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、活性温度領域が155℃以上175℃以下である硬化触媒(C)を含む。
硬化触媒(C)は活性温度領域が上記範囲にあることから、硬化触媒(C)を含む本実施形態の封止用樹脂組成物は常温保管性に優れる。さらに、160℃程度の成形温度である射出成形に好適に用いることができる。
硬化触媒(C)の活性温度領域は、液状ビスA型エポキシ樹脂エピコート828(三菱化学社製)と硬化触媒(C)とを、無溶剤下で混合し、昇温したときの硬化発熱の温度領域である。硬化触媒(C)の添加量は5.0phrである。
【0045】
また、硬化触媒(C)の融点は、150℃以上300℃以下、好ましくは200℃以上250℃以下である。これにより硬化触媒(C)と熱硬化性樹脂(A)との相溶性が調整され、封止用樹脂組成物の常温保管性がより優れることとなる。
【0046】
硬化触媒(C)としては、活性温度領域が上記範囲である公知の硬化触媒を用いることができるが、フェニルイミダゾール骨格、フェニルピリジン骨格、またはフェニルキノリン骨格を備える化合物であることが好ましい。これらの骨格を備えることにより、熱硬化性樹脂(A)との相溶性が調整され、本発明の効果をより発揮することができる。
これらの中でも、フェニルイミダゾール骨格を備える硬化触媒が好ましく、下記一般式(1)で表される硬化触媒がより好ましい。
【0047】
【化1】
【0048】
一般式(1)中、R、Rは、各々同一でも異なっていてもよく、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、置換された炭素数1~6のアルキル基、置換された炭素数1~6のアルコキシ基を示し、これらの置換された基の置換基は、ハロゲン原子、水酸基、またはアミノ基から選択される少なくとも1種である。本実施形態においては、RおよびRがいずれも、水酸基で置換された炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、水酸基で置換された炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
およびRがこれらの基であることにより、熱硬化性樹脂(A)との相溶性が調整され、本発明の効果をより発揮することができる。
【0049】
硬化触媒(C)としては、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等を挙げることができる。
【0050】
本実施形態において用いられる硬化触媒(C)は、活性温度領域が高く、常温保管性に優れることから、本実施形態の封止用樹脂組成物に多く含有させることができる。具体的には、熱硬化性樹脂(A)100質量部に対し、前記硬化触媒を0.35質量部以上1.2質量部以下、好ましくは0.4質量部以上1.1質量部以下、さらに好ましくは0.45質量部以上1.0質量部以下の量で含むことができる。
このような量で硬化触媒(C)を含むことより、本実施形態の封止用樹脂組成物の硬化性をより改善することができ、アフターキュアを不要とすることができる。
【0051】
[繊維フィラー(D)]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、さらに繊維フィラー(D)を含むことができる。
繊維フィラー(D)としては、例えば、アラミド繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリエステルアミド繊維、全芳香族ポリエーテル繊維、全芳香族ポリカーボネート繊維、全芳香族ポリアゾメチン繊維、ポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維、ポリ(パラ-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリベンゾイミダゾール(PBI)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維、ポリアミドイミド(PAI)繊維、ポリイミド繊維、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維、ポリ(パラ-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)(PBO)繊維が挙げられる。これらの繊維フィラーBは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0052】
本実施形態においては、軽量性と強度とのバランス向上を図る観点から、繊維フィラー(D)としてガラス繊維を用いることがより好ましい。なお、ガラス繊維は、封止用樹脂組成物の常温保管性の観点から、アミノシラン処理を施さないものを用いることが好ましい。
【0053】
封止用樹脂組成物中における繊維フィラー(D)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して2重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。繊維フィラー(D)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止樹脂の強度を向上させ、車載用電子制御ユニット10の製品信頼性を向上させることができる。一方で、封止用樹脂組成物中における繊維フィラー(D)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して25重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましい。
繊維フィラー(D)の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0054】
[無機充填剤(E)]
本実施形態の封止用樹脂組成物は、無機充填剤(E)を含むことができる。
【0055】
無機充填剤(E)としては、たとえば溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、窒化珪素、および窒化アルミからなる群から選択される一種類または二種類以上を含むことができる。これらの中でも、汎用性に優れている観点から、シリカ、炭酸カルシウムを含むことがより好ましい。
【0056】
無機充填剤(E)は、たとえば破砕シリカを含むことができる。これにより、車載用電子制御ユニット10の製造コストを低減することが可能となる。無機充填剤(E)が破砕シリカを含む場合、破砕シリカの含有量は、たとえば無機充填剤(E)全体に対して10重量%以上100重量%以下とすることができ、15重量%以上95重量%以下とすることがより好ましい。
【0057】
無機充填剤(E)がシリカを含む場合、たとえば平均粒径D50が3μm以上50μm以下であるシリカを含むことが好ましい。これにより、充填性や、密着性、耐湿性、耐熱性等のバランスをより効果的に向上させることができる。なお、シリカの平均粒径D50は、たとえば市販のレーザー式粒度分布計(たとえば、(株)島津製作所製、SALD-7000等)を用いて測定することができる。
【0058】
封止用樹脂組成物中における無機充填剤(E)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。無機充填剤(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、低吸湿性および低熱膨張性を向上させ、車載用電子制御ユニット10の耐湿信頼性や耐リフロー性をより効果的に向上させることができる。一方で、封止用樹脂組成物中における無機充填剤(E)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して90重量%以下であることが好ましく、85重量%以下であることがより好ましい。無機充填剤(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0059】
(その他の成分)
本実施形態の封止用樹脂組成物には、必要に応じて、たとえば離型性付与剤、着色剤、イオン捕捉剤、オイル、低応力剤、難燃剤および酸化防止剤等の各種添加剤のうち1種以上を適宜配合することができる。
【0060】
離型性付与剤は、たとえばカルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックスや酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、ならびにパラフィンから選択される一種類または二種類以上を含むことができる。着色剤は、たとえばカーボンブラックおよび黒色酸化チタンのうちのいずれか一方または双方を含むことができる。
【0061】
イオン捕捉剤は、たとえばハイドロタルサイトを含むことができる。オイルは、たとえばシリコーンオイルを含むことができる。低応力剤は、たとえばシリコーンゴムを含むことができる。難燃剤は、たとえば水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、およびホスファゼンから選択される一種類または二種類以上を含むことができる。酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤およびチオエーテル系酸化防止剤から選択される一種類または二種類以上を含むことができる。
【0062】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、カップリング剤を実質的に含まない。これにより、封止用樹脂組成物の常温保管性をさらに改善することができる。「カップリング剤を実質的に含まない」とは、全く含まないか、含んでいたとしても常温保管性に影響を与えない範囲で含むことを許容する意味であり、例えば封止用樹脂組成物100質量%中に0.5質量%以下程度である。
次に、車載用電子制御ユニット10製造方法について説明する。
【0063】
[車載用電子制御ユニットの製造方法]
本実施形態に係る車載用電子制御ユニット10の製造方法は、たとえば以下のように行われる。まず、配線基板12の少なくとも一面上に複数の電子部品16を搭載する。次いで、複数の電子部品16を、封止用樹脂組成物を用いて封止成形する。封止用樹脂組成物としては、上記に例示したものを用いることができる。
【0064】
まず、配線基板12の少なくとも一面上に複数の電子部品16を搭載する。本実施形態においては、たとえば複数の電子部品16を、配線基板12の一面と、当該一面とは反対の他面と、のそれぞれに搭載することができる。これにより、図1に示すような、配線基板12の両面に電子部品16が搭載された車載用電子制御ユニット10を形成することが可能となる。一方で、配線基板12の一面のみに電子部品16を搭載し、他面には電子部品16が搭載されなくともよい。なお、配線基板12および電子部品16としては、上記に例示したものを適用することができる。
【0065】
次に、複数の電子部品16を、封止用樹脂組成物を用いて封止成形する。これにより、電子部品16を封止する封止樹脂14が形成されることとなる。本実施形態においては、たとえば電子部品16とともに配線基板12を封止するように封止用樹脂組成物の成形が行われる。図1に例示される車載用電子制御ユニット10は、たとえば配線基板12の一面および他面、ならびに配線基板12に搭載された電子部品16を封止用樹脂組成物によって封止成形することにより得ることができる。また、本実施形態においては、複数の電子部品16とともに配線基板12の一部または全部が封止用樹脂組成物を用いて封止される。本実施形態においては、160℃以上180℃以下の加熱温度で封止成形することができる。なお、本実施形態においては、成形体を後熱硬化する工程(アフターキュア工程)を含まないことから、車載用電子制御ユニットの生産性が向上する。
【0066】
図1に例示される車載用電子制御ユニット10は、たとえば接続端子18が露出するように、配線基板12のうちの接続端子18を封止せずに他の部分全体を封止するように封止用樹脂組成物の成形を行うことにより得られる。
【0067】
本実施形態においては、射出成形により、複数の電子部品16を封止用樹脂組成物で封止成形することが好ましい。
具体的には、まず金型のキャビティー内に、複数の電子部品16が搭載された配線基板12を配置する。そして、内部にスクリューを備えるシリンダー内に、ホッパーを介して本実施形態の封止用樹脂組成物を投入し、シリンダー温度80℃以上100℃で封止用樹脂組成物を溶融させる。溶融樹脂をスクリューでシリンダー内を移動させ、ゲートを介して金型のキャビティー内に射出注入し、複数の電子部品16を封止する。本実施形態の封止用樹脂組成物は活性温度領域が155℃以上175℃以下である硬化触媒(C)を含むことから前記シリンダー温度において安定であり、粘度を最適化することができることから、ホッパーに逆流するバックフロー現象を抑制することができる。
【0068】
金型温度は160℃以上180℃以下とすることができる。本実施形態の封止用樹脂組成物は所定の活性温度領域である硬化触媒(C)を含むことから、当該金型温度において硬化して封止成形することができる。本実施形態においては、成形体を後熱硬化する工程(アフターキュア工程)を含まないことから、車載用電子制御ユニットの生産性が向上する。
【0069】
上記のようにして得られる本実施形態の封止用樹脂組成物からなる封止樹脂は、曲げ強度120MPa以上、曲げ弾性率13GPa以上とすることができ、機械強度に優れる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例
【0071】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
(封止用樹脂組成物)
実施例1~5および比較例1~12のそれぞれについて、以下のように封止用樹脂組成物を調製した。
まず、表1に示す配合に従って、各成分を、室温状態に設定したヘンシェルミキサー(容量200リットル、回転数900rpm)で20分間予備混合した。次いで、得られた混合物を、連続式回転ボールミル(日本コークス工業(株)製ダイナミックミルMYD25、スクリュー回転数500rpm、アルミナ製ボール径10mm、装置容積に対するボールの体積充填率50%)を用いて、材料供給量200kg/hrで材料温度を30℃以下に保ちながら微粉砕した。次いで、微粉砕された混合物を、単軸押出混練機(スクリュー径D=46mm、押出機長さ=500mm、溶融混練部長さ=7D、スクリュー回転数200rpm、吐出量30kg/hr)を用いて溶融混練した。次いで、混練後の混合物を冷却し、粉砕して封止用樹脂組成物を得た。なお、ヘンシェルミキサーによる予備混合から、封止用樹脂組成物を得るまでの各工程は、連続的に行った。なお、表1中における各成分の詳細は下記のとおりである。また、表1中の単位は、重量%である。
【0073】
(A)熱硬化性樹脂
・熱硬化性樹脂1:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EPICLON N-670、DIC(株)製)
・熱硬化性樹脂2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER1001、三菱化学社製)
・熱硬化性樹脂3:トリフェニルメタン(TPM)型エポキシ樹脂(JER1032H60、三菱化学社製)
・熱硬化性樹脂4:テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂(JER 1031S、三菱化学社製)
【0074】
(B)硬化剤
・硬化剤1:ノボラック型フェノール樹脂(A-1082G、住友ベークライト社製)
【0075】
(C)硬化触媒
・硬化触媒1:下記化学式で表される2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(融点225~235℃、分子量204、活性温度領域155~175℃、(2PHZ-PW、四国化成社製、微粉末))
本実施例において、活性温度領域は、上述の方法で測定された。
【化2】
・硬化触媒2:下記化学式で表される2-フェニル-4-メチルイミダゾール(融点174~184℃、分子量172、活性温度領域110~125℃(2P4MZ、四国化成社製))
【化3】
・硬化触媒3:下記化学式で表される2-フェニルイミダゾール(融点137~147℃、分子量144、活性温度領域105~125℃(2PZ、四国化成社製))
【化4】
・硬化触媒4:下記化学式で表される2,4-ジアミノ-6-(2'メチルイミダゾリル-(1'))-エチル-s-トリアジン(融点248~258℃、分子量219、活性温度領域130~155℃(2MZ-A、四国化成社製))
【化5】
・硬化触媒5:トリフェニルホスフィン(融点75~85℃、分子量262、活性温度領域90~170℃(PP360、ケイ・アイ化成社製))
・硬化触媒6:下記化学式で表される2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール(融点191~195℃、分子量188、活性温度領域140~150℃(2P4MHZ、四国化成社製))
【化6】
【0076】
(D)ガラス繊維
・ガラス繊維1:CS3E479、日東紡社製
【0077】
(E)無機充填剤
・無機充填剤1:破砕シリカ(RD-8、龍森社製、平均粒径D50=15μm)
・無機充填剤2:破砕シリカ(F-207、フミテック社製、平均粒径D50=7μm)
・無機充填剤3:炭酸カルシウム(エスカロン#2000、三共製粉社製)
【0078】
(F)その他の成分
・低応力剤:シリコーンゴム(CF2152、東レ・ダウコーニング(株)製)
・離型性付与剤:ステアリン酸カルシウム(東京化成社製)
・シランカップリング剤1:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE-903、信越化学工業社製)
・シランカップリング剤2:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBE-403、信越化学工業社製)
・着色剤:カーボンブラック(#5、三菱化学社製)
【0079】
(30℃7日間保管後のスパイラルフローの流動長の変化率)
低圧トランスファー成形機を用いて、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定することにより行った。保管前の封止用樹脂組成物の流動長a(cm)と、当該組成物を30℃7日間保管した後の流動長b(cm)とから以下の式により計算した。
式:[(b-a)/a]×100
【0080】
(ガラス転移温度(Tg)、平均線膨張係数(α))
インジェクション成形機を用いて、160℃、120秒の成形条件で金型成形して、後硬化なしで縦×横×厚み:10mm×80mm×4mmtのアズモールド試験片を作成した。得られた前記アズモールド試験片に対して、熱機械分析装置を用いて、昇温速度5℃/分、測定温度範囲0℃~320℃の条件で測定を行って得た測定結果からガラス転移温度(Tg)を算出した。
また、40℃から150℃の範囲において平均線膨張係数(α)を算出した。
【0081】
(ラボプラストミル試験機における時間T1、T1'、最低トルク値a、bの測定)
各実施例および各比較例について、得られた封止用樹脂組成物について時間T1、T1'、および最低トルク値の測定を次のように行った。まず、ラボプラストミル試験機((株)東洋精機製作所製、4C150)を用いて、回転数30rpm、測定温度130℃の条件で封止用樹脂組成物の溶融トルクを経時的に測定した。次いで、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間T1を測定結果に基づいて算出した。測定開始点は、ラボプラストミル試験機に材料を投入し、急激にトルクが立ち上がった後、トルクが下がり始める点とした。また、測定結果から、最低トルク値aを算出した。
同様に、回転数30rpm、測定温度150℃の条件で封止用樹脂組成物の溶融トルクを経時的に測定し、トルク値が最低トルク値の2倍以下である時間T1'、最低トルク値bを測定結果に基づいて算出した。結果を表1に示す。表1における時間T1、T1'の単位は秒であり、最低トルク値a、bの単位はN・mである。
【0082】
(充填性評価)
ガラスエポキシ銅張積層板(パナソニック(株)製、R-1705、基板厚み1.6mm)にソルダーレジスト((株)タムラ製作所製、DSR-2200S66-11)を印刷、エッチング、硬化して得た基板(縦130mm、幅80mm)上に積層セラミックコンデンサを1ケはんだ付けする、上記で得られた封止用樹脂組成物を用いてTOWA(株)製YPS-120tonマニュアルプレスにより金型温度175℃、注入時間20秒、注入圧力8.4MPa、硬化時間120秒の条件にて封止成形し、成形物を得た。成形物の封止樹脂部は縦120mm、幅90mm、厚さ9.6mmであり、基板の縦115mmまでが封止樹脂中に封入され、一辺から基板の縦15mmが露出していた。また、基板上面側・下面側の樹脂厚みはともに4mmであった。得られた成形体の外観を目視で観察し、ウェルドによる未充填の有無から以下に基準で充填性を評価した。
(基準)
◎:未充填部分が観察されない。
○:未充填部分が1mm未満
×:未充填部分が1mm以上
【0083】
(半田クラック)
上記基板を封止した封止体に対し、温度サイクル試験(温度-40~150℃、2000サイクル)を行った。温度サイクル試験後、ユニットを取り出して、積層セラミックコンデンサのはんだ接合部を断面研磨し、クラック有無を確認し、以下に基準で評価した。
(基準)
〇:クラック無
×:クラックあり
【0084】
(曲げ弾性率および曲げ強度)
ISO178に準拠して、曲げ弾性率(GPa)と曲げ強度(MPa)とを測定した。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、実施例の封止用樹脂組成物は、常温での保管性に優れ、封止成形において未充填箇所の発生を抑制することができ、成形時にのみ加熱硬化することで成形することができ、硬化性が改善されていた。さらに、実施例の封止用樹脂組成物は、半田クラックの発生が抑制されており接続信頼性に優れた車載用電子制御ユニットの封止樹脂を形成することができた。
【符号の説明】
【0087】
10 車載用電子制御ユニット
12 配線基板
14 封止樹脂
16 電子部品
18 接続端子
120 スルーホール
図1