(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】泥濘化防止材及び遮水層の施工方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/18 20060101AFI20240827BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240827BHJP
C09K 17/34 20060101ALI20240827BHJP
B09B 1/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C09K17/18 P
E02D3/12 102
E02D3/12 103
C09K17/34 P
B09B1/00 F
(21)【出願番号】P 2020083696
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 志照
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】井出 一貫
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-212932(JP,A)
【文献】特開2000-328544(JP,A)
【文献】特開2004-358297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
E02D 3/12
B09B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に撒き出したベントナイト混合土を転圧締固めて敷設したベントナイト層の泥濘化を防止する泥濘化防止材であって、
アスファルト乳剤と、該アスファルト乳剤を希釈する乳剤希釈溶液と、を備え、
前記アスファルト乳剤は、カオチン系乳剤であり、
前記乳剤希釈溶液が、
グァーガムを水に添加し、溶解したものであることを特徴とする泥濘化防止材。
【請求項2】
請求項1に記載の泥濘防止材において、
前記アスファルト乳剤を希釈する前の前記乳剤希釈溶液の溶液濃度が、0.3重量%以上2.0重量%以下
であることを特徴とする泥濘化防止材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の泥濘化防止材を用いた遮水層の施工方法であって、
地盤上にベントナイト混合土を撒き出し、転圧締固めてベントナイト層を敷設する工程と、
前記ベントナイト層の表面を、前記泥濘化防止材により形成される泥濘化防止膜で皮膜する工程と、を備えることを特徴とする遮水層の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤上で層状に敷設されるベントナイト混合土の泥濘化を防止する泥濘化防止材、及び泥濘化防止材を利用した遮水層の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地盤中に構築される廃棄物処分場には、降雨が廃棄物層を介して有害物質を含んだ浸出水となり、周辺地盤に拡散して土壌を汚染することを防止するため、周辺地盤との間に遮水層が設けられている。なかでも、廃棄物処分場の底盤部には、土質遮水が採用される場合が多い。
【0003】
土質遮水とは、ベントナイト混合土を用いた遮水工であり、ベントナイト混合土は、現地発生土もしくは購入砂を母材とし、この母材に室内試験等の結果に基づいて設計した配合量のベントナイトを混合し加水調整したものである。そして、ベントナイト混合土は、地盤上に撒き出して転圧・締固めを行って層状に敷設することで、前述した有害物質を含んだ浸出水を封じ込める程度の高い遮水性能が得られる。
【0004】
このような遮水層は一般に、次のような手順で施工されている。まず、所望の遮水性能が確保できるよう設計したベントナイト混合土を製造し、地盤上の対象領域に対して層状に敷設する。敷設が完了したのち、層状に敷設されたベントナイト混合土の表面を、土木シートやビニールシート等の防水シート等を用いて被覆し、養生する。
【0005】
防水シートによる養生は、ベントナイト混合土の表面に遮水シートが敷設されるまでの期間中、ベントナイト混合土が降雨等の水と接触することにより膨潤して泥濘化を生じるといった、品質低下を抑制するために行う。しかし、防水シートを用いた被覆作業は煩雑であるだけでなく、雨水が防水シートの隙間から漏水しやすい。漏水した場合には泥濘化した部分を剥ぎ取って、再度ベントナイト混合土を敷設するなど、多大な手間を要していた。
【0006】
このような中、例えば特許文献1では、層状に敷設されたベントナイト混合土の表面を、防水シートで被覆し養生する作業に変えて、アスファルト皮膜を形成する方法が開示されている。具体的には、ベントナイト混合土を所定の厚さに敷き均し、フィニッシャーを用いてほぼ均一な厚さに敷設したのち、アスファルト乳剤等の遮水シート形成材をベントナイト混合土の表面に吹き付けて、アスファルト皮膜よりなる遮水シートを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法によれば、ベントナイト混合土の表面に遮水シート形成材を直接散布するのみで、アスファルト皮膜よりなる遮水シートを形成できるため、防水シートで被覆養生する場合と比較して作業性を大幅に向上できる。
【0009】
このような遮水シート形成材として採用するアスファルト乳剤は、ベントナイト混合土の表面に吹き付ける際、水で希釈して使用する。ところが、水で希釈したアスファルト乳剤は一部が沈降するなど、水中で均質に分散されない場合が多い。
【0010】
すると、ベントナイト混合土の表面に散布することにより形成されるアスファルト皮膜は、膜厚が一様にならずに薄い部分が発生するから、この薄い部分を介してベントナイト混合土に降雨が漏出し、泥濘化を招くことになりかねない。このような現象を防止するには、水に対するアスファルト乳剤の添加量を増量せざるを得ず、経済性に劣っていた。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、地盤上で層状に敷設されるベントナイト混合土の泥濘化を、経済的に防止することの可能な、泥濘化防止材、及び泥濘化防止材を用いた遮水層の施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、本発明の泥濘化防止材は、地盤上に撒き出したベントナイト混合土を転圧締固めて敷設したベントナイト層の泥濘化を防止する泥濘化防止材であって、アスファルト乳剤と、該アスファルト乳剤を希釈する乳剤希釈溶液と、を備え、前記アスファルト乳剤は、カオチン系乳剤であり、前記乳剤希釈溶液が、グァーガムを水に添加し、溶解したものであることを特徴とする。
【0014】
本発明の泥濘化防止材は、前記アスファルト乳剤を希釈する前の前記乳剤希釈溶液の溶液濃度が、0.3重量%以上2.0重量%以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明の泥濘化防止材によれば、非イオン性の沈降抑制材を水に添加し溶解した乳剤希釈溶液で、アスファルト乳剤を希釈することにより作成される。これにより、アスファルト乳剤にカチオン系乳剤を採用した場合にも、アスファルト分が分解されて固化する、といった現象を生じることがなく、アスファルト乳剤が一様に分散された均質な状態を維持することが可能となる。
【0016】
このため、泥濘化防止材をベントナイト層の表面に散布すると、ムラのない略均一のな層厚を有する高品質な泥濘化防止膜を形成できる。したがって、施工対象領域1m2当たりの散布量を少量に抑えながら、ベントナイト層に対して高い泥濘防止効果を発揮することが可能となる。
【0017】
また、沈降抑制材が水に粘性を付与する性質を有することから、アスファルト乳剤の沈降を抑制できるだけでなく、泥濘化防止材に粘性を付与できる。これにより、泥濘化防止材をベントナイト層の表面に散布した際、ベントナイト層となじみよく密着し、両者の隙間に漏水を生じる現象を抑制することが可能となる。
【0018】
さらに、沈降抑制材に、増粘材として一般に使用されているグァーガムを使用すれば、安価かつ少ない添加量で泥濘化防止膜を形成でき、工費を大幅に低減することが可能となる。
【0019】
本発明の遮水層の施工方法は、本発明の泥濘化防止材を用いた遮水層の施工方法であって、地盤上にベントナイト混合土を撒き出し、転圧締固めてベントナイト層を敷設する工程と、前記ベントナイト層の表面を、前記泥濘化防止材により形成される泥濘化防止膜で皮膜する工程と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の泥濘化遮水層の施工方法によれば、特別な装置を必要とせず、また煩雑な作業も発生しないため、施工性を向上し工期短縮及び工費削減を図りながら、ベントナイト層の泥濘化を防止し、高品質な遮水層を設けることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、地盤上で層状に敷設されるベントナイト混合土の泥濘化を、経済的に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態における遮水層の概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における遮水層の施工手順を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態におけるアスファルト乳剤の安定性に関する評価実験の結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における模擬ベントナイト混合土の配合を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における泥濘化防止効果の確認実験の手順を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態における泥濘化防止効果の確認実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の泥濘化防止材及び遮水層の施工方法について、廃棄物処分場と地盤との間に設ける遮水層を事例に挙げ、以下に
図1~
図6を参照しつつその詳細を説明する。これに先立ち、まず、廃棄物処分場及び遮水層について説明する。
【0024】
図1で示すように、地盤中に構築される廃棄物処分場1は、地盤Gの掘削部における底盤と側面に土質遮水を採用した遮水層2が構築され、この遮水層2に囲まれた内側に廃棄物3が収納されている。
【0025】
土質遮水を採用した遮水層2は、地盤G上に敷設したベントナイト混合土層21と、ベントナイト混合土層21の表面を被覆する泥濘化防止膜22とを有し、ベントナイト混合土層21は、
図2(a)(b)で示すように、地盤上に撒き出したベントナイト混合土211を、均一な厚さとなるよう、転圧し締め固めたものである。
【0026】
ベントナイト混合土211は、例えば施工現場で、現地発生土等の土砂にベントナイトを添加し混合することにより製造される。また、ベントナイトの配合量は、遮水層2に求められる遮水性能を実現可能な量を、室内試験で確認したうえで設計される。なお、ベントナイト混合土211を製造する際には、この設計値を超える配合量のベントナイトを添加している。
【0027】
泥濘化防止膜22は、ベントナイト混合土層21が例えば、降雨等により給水を生じて泥濘化することを防止するために設けるものであり、アスファルト皮膜よりなる。アスファルト皮膜は、
図2(c)で示すように、ベントナイト混合土層21の表面に散布した泥濘化防止材221のアスファルト乳剤Asが分解してアスファルト分が固化することにより形成される。
【0028】
≪泥濘化防止材≫
泥濘化防止材221は、
図1で示すように、アスファルト乳剤Asを乳剤希釈溶液4で希釈することにより作成される。
【0029】
アスファルト乳剤Asは、乳剤を含む水中にアスファルトを微粒子状に分散させて乳化させたもので、様々な種類があるが本実施の形態では、カチオン系乳剤を採用している。カチオン系乳剤は、例えば、アスファルト舗装の各層を接着するタックコート等に使用されるもので、散布すると水分が蒸発する前に水分とアスファルト分とに分解し、速やかにアスファルト皮膜を形成することで知られている。
【0030】
このようなカチオン系乳剤は、水で希釈することも可能であるが、水中では沈降しやすく一様に分散されない場合が多い。このため、泥濘化防止材221ではアスファルト乳剤Asを希釈するにあたり、水ではなく乳剤希釈溶液4を用いている。
【0031】
乳剤希釈溶液4は、アスファルト乳剤Asの沈降を抑制できるだけでなく、泥濘化防止材221に対して、ベントナイト混合土層21の表面に散布もしくは噴射した際になじみよく密着させるよう、粘性を付与できるものが好ましい。また、アスファルト乳剤Asにカチオン系乳剤を採用した場合にも、これを沈降させることなく均一に分散することのできるものが好ましい。
【0032】
そして、アスファルト乳剤Asとして採用するカチオン系乳剤は、プラスイオン(カチオン)性である。したがって、乳剤希釈溶液4は、水に溶解して粘性を付与することが可能であり、かつ、水に溶解したときにイオン化しない非イオン性の材料を沈降抑制材5として採用し、これを水に添加し溶解することにより作液している。
【0033】
沈降抑制材5としては、例えば、エチレングリコール、ポリビニルアルコール、グアガム等が挙げられる。なお、グァーガムは、一年生植物グアーの種子から得られる非イオン性の中性多糖類であり、様々な分野で増粘材として使用されている。
【0034】
これら3種類の材料を沈降抑制材5に採用して泥濘化防止材221を作成した場合の、アスファルト乳剤Asの安定性を評価するべく、以下の実験を行った。
【0035】
<アスファルト乳剤の安定性に関する評価実験>
まず、上記の3種類の材料をそれぞれ沈降抑制材5として採用し、水に溶解混合して乳剤希釈溶液4を作液した。この乳剤希釈溶液4とアスファルト乳剤Asとを、アスファルト乳剤Asが16倍相当で希釈されるよう、100mlの共栓付きメスシリンダーに投入して上下に攪拌し、泥濘化防止材221を作成した。
【0036】
本実験では
図3で示すように、乳剤希釈溶液4の溶液濃度を変えて作成した泥濘化防止材221を、エチレングリコールで2種類、ポリビニルアルコールで4種類、グアガムで5種類、それぞれ用意し、合計11種類の乳剤希釈溶液4を作成した。
【0037】
また、比較例として、沈降抑制材5に替えて、アニオン系の材料であるキサンタンガム、CMC(Carboxy Methyl Cellulose)を採用し、これを水に添加して比較用乳剤希釈溶液を作液した。また、この比較用乳剤希釈溶液にアスファルト乳剤Asを投入して攪拌し、比較用泥濘化防止材を作成した。
【0038】
これら比較用泥濘化防止材も、
図3で示すように、比較用乳剤希釈溶液の溶液濃度を変えて作成したものを、CMCで3種類、キサンタンガムで3種類それぞれ用意し、合計6種類作成した。こうして作成した11種類の泥濘化防止材221及び6種類の比較用泥濘化防止材をそれぞれ7日間静置し、アスファルト分の分離状態や上澄水の様子を目視で観察した。
【0039】
図3を見ると、比較用泥濘化防止材ではいずれも沈降物が存在している。これは、キサンタンガム及びCMCがいずれもアニオン系の材料であるため、水に溶解したときに疎水基のついている部分がマイナス(負)イオンに電離する。これが、アスファルト乳剤Asとして採用したカチオン系乳剤のプラス(陽)イオンと反応し、アスファルト分が分解されて固化し、沈降したものと推定できる。
【0040】
一方、沈降抑制材5としてエチレングリコールを採用した場合には溶液濃度20体積%以上、ポリビニルアルコールでは溶液濃度0.1重量%以上、グアァーガムでは溶液濃度0.3重量%以上の場合に、アスファルト乳剤Asが乳剤希釈溶液4中で安定して分散している。したがって、エチレングリコール、ポリビニルアルコール、及びグアガムはいずれも、沈降抑制材5として採用可能な材料であるといえる。
【0041】
しかし、ポリビニルアルコールは、水に溶解する作業時に加熱する必要があるため、施工性の面で劣る。また、エチレングリコールを使用する場合には、乳剤希釈溶液4の溶液濃度を20体積%以上としなければならず、材料費の観点から経済性に劣る。
【0042】
したがって、沈降抑制材5に採用する材料としては、冷水での完全溶解が可能であり、溶液濃度が少なくとも0.3重量%と少量でも乳剤希釈溶液4中でアスファルト乳剤Asを分散させることの可能な、グァーガムが好適である。そこで、沈降抑制材5にグァーガムを採用して作成した泥濘化防止材221の泥濘化防止効果を確認するべく、次のようなの実験を行った。
【0043】
<泥濘化防止効果の確認実験>
実験は、まず、グァーガムを採用した沈降抑制材5を水に添加し、溶液濃度が0.5重量%の乳剤希釈溶液4を作液する。次に、この乳剤希釈溶液4とアスファルト乳剤Asとを混合攪拌し、アスファルト乳剤Asの希釈率が2倍の泥濘化防止材221を作成しておく。
【0044】
その一方で、模擬母材を作製し、ベントナイトと模擬母材が乾燥重量比で15:85となるように混合攪拌して模擬ベントナイト混合土211’を作製する。模擬母材には珪砂を採用することとし、
図4で示す配合で3号珪砂から9号珪砂までを混合し、粒度調整を行った。作成した模擬ベントナイト混合土211’に対して、最適含水比12%となるように加水を行い、均質になるまで混合した。
【0045】
この加水した模擬ベントナイト混合土211’を、
図5(a)で示すように、円筒状のアクリルモールド6内に投下し、締固め度が90%相当(乾燥密度1.619g/cm
3)となるように突き固めた。模擬ベントナイト混合土211’をアクリルモールド6に投下し突き固める作業は複数回に分けて行い、模擬ベントナイト混合土211’の高さが、アクリルモールド6の上面高さと一致するよう調整した。
【0046】
こうして作成したアクリルモールド6を充填する模擬ベントナイト混合土211’の表面に、
図5(b)で示すように、あらかじめ作成した泥濘化防止材221を均一に塗布し、供試体を作成した。本実験では、
図6で示すように、泥濘化防止材221の塗布量が異なる3種類の供試体を作成した。
【0047】
また、比較例として、水でアスファルト乳剤Asを2倍に希釈した比較用泥濘化防止材を作成した。これを上記の要領で作成した模擬ベントナイト混合土211’の表面に均一に塗布した供試体を作成した。この場合も
図6で示すように、比較用泥濘化防止材の塗布量が異なる3種類の供試体を作成した。
【0048】
上記のとおり作成した合計6種類の供試体に各々について、
図5(c)で示すように、アクリルモールド6と同一の内径を有し、底部が設けられていない筒状の水槽7をアクリルモールド6の上部に設置し、水槽7内に水道水W’を注入した。これにより、泥濘化防止材221及び比較用泥濘化防止材の表面はそれぞれ、水槽7内の水道水W’が接触する状態となる。
【0049】
この状態で2週間静置養生したのち、
図5(d)で示すように、水槽7内の水道水w’を排水するとともに水槽7を撤去し、アクリルモールド6内の模擬ベントナイト混合土211’の膨潤量hを測定した。膨潤量hは、アクリルモールド6の上面から模擬ベントナイト混合土211’が盛り上がった高さhを計測することにより把握した。
【0050】
図6をみると、水でアスファルト乳剤Asを希釈した比較用泥濘化防止材を塗布したすべての供試体で、模擬ベントナイト混合土211’に膨潤が見られた。特に、塗布量の最も少ない0.65L/m
2(比較例1)では、2mm程度の膨潤が見られる。
【0051】
これは、水による希釈では、アスファルト乳剤Asが均質に分散されず、
図6のイメージで示すように、比較用泥濘化防止材の塗布後に形成される比較用泥濘化防止膜22’の層厚にムラを生じやすい。このため、層厚の薄い部分から水道水w’の漏れが生じて、模擬ベントナイト混合土211’に膨潤を生じさせたものと推定できる。
【0052】
一方、沈降抑制材5にグァーガムを採用して作成した泥濘化防止材221は、塗布量にかかわらず模擬ベントナイト混合土211’の膨潤が生じていない。特に、0.6L/m2程度の少ない塗布量(実施例1)であっても高い遮水性能を発揮し、模擬ベントナイト混合土211’の泥濘化を防止している様子がわかる。
【0053】
これは、乳剤希釈溶液4を採用して希釈することにより、アスファルト乳剤Asが均質に分散された一様な状態となり、
図6のイメージで示すように、泥濘化防止材221を塗布することで形成された泥濘化防止膜22は、凹凸の少ない一様な層厚が形成されたことによるものと推定できる。
【0054】
≪遮水層の施工方法≫
上記の沈降抑制材5にグァーガムを採用した泥濘化防止材221を用いた遮水層2の施工方法を、
図2を参照しつつ以下に説明する。
【0055】
まず、施工現場で現地発生土等の土砂に、遮水層2に求められる遮水性能を実現可能な量のベントナイトを添加して混合し、ベントナイト混合土211を製造しておく。また、沈降抑制材5にグァーガムを採用して乳剤希釈溶液4を作液するとともに、この乳剤希釈溶液4でアスファルト乳剤Asを希釈し、泥濘化防止材221を作成しておく。
【0056】
このとき、乳剤希釈溶液4の溶液濃度は、0.3~2.0重量%程度が好ましく、アスファルト乳剤Asの希釈率は、2~4倍程度が好ましい。なお、乳剤希釈溶液4の溶液濃度は、0.3重量%未満では、アスファルト乳剤Asの沈降を生じる恐れがあり、2.0重量%を超えるとグァーガムの溶解性が劣るとともに、粘性が過剰となり泥濘化防止材221を散布する際の施工性に影響を及ぼす恐れが生じる。
【0057】
次に、
図2(a)で示すように、施工対象領域の地盤G上にベントナイト混合土211を撒き出したのち、
図2(b)で示すように、ベントナイト混合土211の転圧・締固めを行う。これにより、ベントナイト混合土211は、均一な層厚を有する透水係数の小さい緻密なベントナイト混合土層21を形成する。
【0058】
こののち、
図2(c)で示すように、ベントナイト混合土層21の表面に泥濘化防止材221を散布もしくは噴射し、所定期間にわたり養生する。すると、泥濘化防止材221から分離したアスファルト分が固化し、ベントナイト混合土層21の表面にアスファルト皮膜である泥濘化防止膜22を形成する。これにより、地盤G上にベントナイト混合土層21と泥濘化防止膜22よりなる遮水層2が構築される。
【0059】
このとき、泥濘化防止材221のアスファルト乳剤Asとして、カチオン系乳剤を採用すると、散布後には水分の蒸発を待たずにアスファルト分が速やかに分離し、半日程度の短期間で泥濘化防止膜22が形成することができる。
【0060】
上記のとおり、泥濘化防止材221を用いた遮水層2の施工方法は、特別な装置を必要とせず、また煩雑な作業も発生しないため、施工性を向上し工期短縮及び工費削減を図りながら、ベントナイト混合土層21の泥濘化を防止し、高品質な遮水層2を設けることが可能となる。
【0061】
また、遮水層2の泥濘化防止膜22を形成する泥濘化防止材221は、非イオン性の沈降抑制材5を水に添加し溶解した乳剤希釈溶液4で、アスファルト乳剤Asを希釈することにより作成される。したがって、アスファルト乳剤Asにカチオン系乳剤を採用した場合にも、アスファルト分が分解されされて固化する、といった現象を生じることがなく、泥濘化防止材221にアスファルト乳剤Asが均質に分散された一様な状態を維持できる。
【0062】
このため、泥濘化防止材221をベントナイト混合土層21の表面に散布した際、ムラのない略均一な層厚を有する高品質な泥濘化防止膜22を形成できる。これにより、施工対象領域1m2当たりの散布量を少量に抑えながら、高い遮水性能を発揮してベントナイト混合土層21の泥濘化を防止することができる。
【0063】
また、沈降抑制材5が水に粘性を付与する性質を有することから、アスファルト乳剤Asの沈降を抑制できるだけでなく、泥濘化防止材221に粘性を付与できる。したがって、泥濘化防止材221をベントナイト混合土層21の表面に散布すると、ベントナイト混合土層21となじみよく密着する泥濘化防止膜22が形成されるため、両者の隙間にから漏水を生じる現象を抑制することが可能となる。
【0064】
本発明の泥濘化防止材221および遮水層2の施工方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0065】
例えば、本実施の形態では、廃棄物処分場1と地盤Gとの間に設ける遮水層2を事例に挙げたが、必ずしもこれに限定するものではなく、地盤G上に設ける遮水層2であれば、いずれの施設に採用してもよい。
【0066】
また、泥濘化防止材221は、ベントナイト混合土層21の表面で泥濘化防止膜22を形成できれば、その施工方法は、散布、噴射、塗布等、いずれの手段を採用してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 廃棄物処分場
2 遮水層
21 ベントナイト混合土層
211 ベントナイト混合土
211' 模擬ベントナイト混合土
22 泥濘化防止膜
22’ 比較用泥濘化防止膜
221 泥濘化防止材
3 廃棄物
4 乳剤希釈溶液
5 沈降抑制材
6 アクリルモールド
7 水槽
G 地盤
W 水
W’ 水道水
As アスファルト乳剤