(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】電気電子部品封止用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240827BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240827BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20240827BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20240827BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240827BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240827BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L63/00 A
C08K5/20
C08L91/06
C08L23/00
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2020094843
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019102712
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古谷 至芸泉
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 亮
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステル樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、およびワックス(C)を含有
し、
前記結晶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は-100℃以上、0℃以下であり、
前記ワックス(C)の密度は0.88g/cm
3
以上、1.05g/cm
3
以下であり、
前記エポキシ樹脂(B)の含有量は、前記結晶性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部以上、50質量部以下であり、
前記ワックス(C)の含有量は、前記結晶性ポリエステル樹脂(A)と前記エポキシ樹脂(B)の合計100質量部に対して0.1質量部以上、12質量部以下である電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記結晶性ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量が8,000~50,000であることを特徴とする請求項1に記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項3】
前記結晶性ポリエステル樹脂(A)が
(1)全酸成分を100モル%としたときに、テレフタル酸またはナフタレンジカルボン酸成分を60モル%以上含有し
、
(3)融点が100℃~210℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項4】
さらにポリオレフィン樹脂(D)を含むことを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ワックス(C)がアマイド系ワックスである事を特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項6】
前記アマイド系ワックスが、ヒドロキシ基含有アマイドである事を特徴とする請求項
5に記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項7】
前記ワックス(C)の平均粒子径が100nm~20mmである事を特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の電気電子部品封止用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の電気電子部品封止用樹脂組成物で封止されている電気電子部品封止体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子部品封止用樹脂組成物に関する。より詳しくは、自動車、通信、コンピュータ、コネクター、ハーネス、スイッチ、センサー等の封止に用いられる電気電子部品封止用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電化製品などに使用されている電気電子部品の封止に用いられる絶縁性樹脂としては、二液硬化型エポキシ樹脂やシリコン樹脂が一般的に使用されてきたが、長時間の工程が必要となることや硬化時の収縮応力により電気電子部品を破壊してしまう可能性もあることから、近年、熱可塑性樹脂を用いた低圧成形による電気電子部品の封止が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
上記低圧成形による電気電子部品の封止においては、防水性の観点から、ガラスエポキシ基板(ガラエポ:ガラス繊維製の布(クロス)を重ねたものに、エポキシ樹脂を含浸したもの)やPETやPBTなどのポリエステル基材等への優れた接着性が求められている。
【0004】
上記の接着性に加え、電気絶縁性・耐水性、耐久性、溶融粘度の観点から、電気電子部品の封止樹脂としてポリエステル樹脂が好適な材料として使用されているが、電気電子部品へのダメージを低減するための低温、低圧成形においては電気電子部品と封止樹脂との接着性が不十分となり、目的とする電気絶縁性や防水性が十分に発揮されない場合が多い。そのため、接着性を底上げする観点から官能基を有する接着付与剤等を配合する試みが積極的に検討されている(例えば特許文献2)。
【0005】
一方で、接着性を付与するためにポリエステル樹脂に接着付与剤等を多量に配合し、成形封止を行った場合、スプールやランナー、ゲートの一部、バリ等が金型に付着したまま残存することが問題になっていた。
このような接着付与剤を含むポリエステル樹脂は型面に強固に接着しており、エアー等では除去できず、ヘラ等でかき取るか、ニッパーで都度抜き取らないと完全に除去することができない問題があった。そのため、残存樹脂の除去を人手に頼らなければならず、生産性の低下の要因となっていた。また、連続的に繰り返し成形を行う際に残存樹脂の除去が不完全であると、それが成形時に剥離してその剥離した残存樹脂が金型に挟まれ、型締めが充分にできずに不良品が生じる懸念があった。上記のように金型離型性が悪いと生産タクトを著しく損ねる他、封止体表面に肌荒れ等の現象が生じる等の外観上の問題点や、取り出す際に封止部分が破損する懸念もあるため、改善が求められていた。
【0006】
金型離型性不良を解決するための手段として、成形ごとに予め離型剤や金型の洗浄剤を金型面にスプレー噴射によりを塗布する方法が提案されている(特許文献3)。また、金型離型用シート(特許文献4)や、金型の表面処理を行う方法(特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-277640号公報
【文献】特開2010-150471号公報
【文献】特開平10-226799号公報
【文献】特開2010-149358号公報
【文献】特開2017-186616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3の方法では、生産タクトの低下の問題の他、塗布が不均一となることで、製品外観が安定しないという問題が生じる。さらには離型剤の影響で接着性を含む他の性能が低下する問題も生じる。また、特許文献4や特許文献5の方法では、いずれもコストアップにつながることに加え、耐久性の問題などから、定期的に離型処理を行う必要があった。
【0009】
以上のように従来の技術では、電気電子部品封止用樹脂組成物として、金型離型性と接着性をはじめとしたその他特性を充分満足する素材は提案されていなかった。
【0010】
本発明は、電気電子部品封止用樹脂組成物およびその封止体における上記問題点を解消するためになされたものであり、樹脂組成物の溶融特性(流動性)や基材への接着性を維持しつつ、金型離型性を向上することができ、生産性を改善する電気電子部品封止用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する為、本発明者等は鋭意検討し、以下の発明を提案するに至った。
【0012】
結晶性ポリエステル樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、およびワックス(C)を含有する電気電子部品封止用樹脂組成物。
【0013】
結晶性ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は8,000~50,000であることが好ましい。また、結晶性ポリエステル樹脂(A)は全酸成分を100モル%としたときに、テレフタル酸またはナフタレンジカルボン酸成分を60モル%以上含有し、ガラス転移温度が30℃以下であり、融点が100℃~210℃であることが好ましい。
【0014】
ワックス(C)の含有量は、結晶性ポリエステル樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の合計量を100質量部としたときに、0.1~12質量部であることが好ましい。ワックス(C)の平均粒子径は100nm~20mmであり、密度は0.85~1.05g/cm3の範囲であることが好ましい。ワックスはアマイド系ワックスが好ましく、ヒドロキシ基含有アマイドであることがより好ましい。さらにポリオレフィン樹脂(D)を含むことが好ましい。
【0015】
前記電気電子部品封止用樹脂組成物で封止されている電気電子部品封止体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物(以下、封止用樹脂組成物または樹脂組成物ともいう。)は、結晶性ポリエステル樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、およびワックス(C)を含有するため、樹脂組成物の溶融特性や、基材への接着性が良好であり、さらに金型離型性を改善することができるため、生産時のタクトタイムを著しく短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来の射出成形は、予め金型内にセットした基材に対して、高温で加熱溶融した樹脂を高圧で射出して成形する方法である(例えばPBTであれば260℃程度で60MPa程度の圧力が必要となる)。しかしながら、上記方法では少なくとも40MPa以上の圧力をかける必要があるため、耐熱性や耐圧性に乏しい電気電子部品などを金型内へセットした状態で成形すると、射出成形の際の高温、高圧の樹脂により電気電子部品が破壊されてしまうおそれがあった。
一方で、低圧成形においては、予め金型内にセットした電気電子部品に対し、加熱溶融した樹脂を120℃~240℃の低温かつ0.1~20MPa程度の低圧で成形することができる。そのため、電気電子部品へのダメージが低減されるだけでなく、低温であるため、電気電子部品基板取り出しまでのタクトタイムが短くなり、簡易な押出し成形やプランジャータイプの簡易の手動成形機等で成形できるといった、生産上のメリットがある。
但し、低温低圧成形の場合、低温かつ低圧での成形であるため、電気電子部品と封止用樹脂組成物との接着性が不十分で目的とする電気絶縁性や防水性が十分に発揮されない場合が多い。それらを改善するために粘着付与剤等を多量に配合した樹脂組成物を用いると、成形・封止後に金型から製品を取り外す場合に、製品の金型への貼り付き性が強くなり、低圧成形のメリットであった生産タクトを著しく損ねる他、取り出す際に封止部分が破損する懸念もあった。
そこで本発明者らが鋭意検討した結果、低温、低圧でのインサート成形でも良好な接着性を与えることができ、高度な防水性(密閉性)を発現させ、かつ金型離型性を著しく改善することができる電気電子部品用封止樹脂組成物を見い出した。以下に、発明を実施するための形態の詳細を順次説明していく。
【0018】
本発明の電気電子部品用樹脂は、少なくとも結晶性ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ワックスを含有することを必須とする。
結晶性ポリエステル樹脂を用いることで、優れた耐水性、耐久性を発現することができ、エポキシ樹脂を用いることで、ガラスエポキシ基板をはじめとする各種基材への接着性を向上させることができ、さらに上記結晶性ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂の組み合わせにワックスを配合することで、接着性を低下させることなく、金型離型性を改善することができる。
【0019】
<結晶性ポリエステル樹脂(A)>
本発明の結晶性ポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は8000以上であることが好ましく、より好ましくは9000以上、さらに好ましくは10000以上である。また、数平均分子量の上限は好ましくは50000以下、より好ましくは40000以下、さらに好ましくは30000以下である。数平均分子量が8000以上であると、封止用樹脂組成物の耐加水分解性や高温高湿下での強伸度保持が向上し、特にワックス(C)を配合した場合であっても電気電子部品封止樹脂組成物として優れた耐久性を発現することができる。50000以下とすることで、樹脂組成物の溶融粘度および成形圧力を低く抑えることができる。
【0020】
結晶性ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、30℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が30℃以下であることで、本発明の電気電子部品封止樹脂組成物で封止された封止体への接着性や強度、弾性率、伸度など良好な物理特性が良好となる。ガラス転移温度は好ましくは0℃以下であり、より好ましくは-15℃以下であり、さらに好ましくは-20℃以下であり、特に好ましくは-30℃以下である。下限は特に限定されないが、密着性や耐ブロッキング性を考慮すると-100℃以上が現実的である。
【0021】
結晶性ポリエステル樹脂(A)の融点は、常温での取り扱い性と耐熱性から、100℃以上であることが好ましい。より好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは120℃以上であり、一層好ましくは140℃以上であり、特に好ましくは150℃以上である。また、210℃以下であることが好ましく、より好ましくは205℃以下であり、さらに好ましくは200℃以下である。融点が210℃以下であることで、低温で樹脂を溶融・成形することができ、電気電子部品へのダメージを低減することができる。
【0022】
結晶性ポリエステル樹脂(A)は酸成分とグリコール成分からなる重合体であることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂(A)を構成する酸成分としては、テレフタル酸またはナフタレンジカルボン酸を含有することが好ましい。全酸成分を100モル%としたときに、テレフタル酸またはナフタレンジカルボン酸成分が60モル%以上共重合されていることが好ましい。より好ましくは80モル%以上であり、90モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%であることが一層好ましく、100モル%であっても差し支えない。60モル%以上であれば、電気電子部品の封止に必要な耐熱性を有することができる。またテレフタル酸とナフタレンジカルボン酸を併用しても、その合計量が60モル%以上であれば何ら問題は無い。
【0023】
ナフタレンジカルボン酸としては、例えば、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、およびそのジメチルエステル体、ジエチルエステル体等を挙げることができる。なかでも、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0024】
その他の酸としては、イソフタル酸、オルソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を挙げることができる。なかでも耐熱性の観点からは芳香族ジカルボン酸を共重合することが好ましく、密着性の観点からは脂肪族または脂環族ジカルボン酸が好ましい。その量としては、全酸成分を100モル%としたときに、40モル%以下であることが好ましく、より好ましくは20モル%以下であり、さらに好ましくは15モル%以下であり、一層好ましくは10モル%以下であり、特に好ましくは5モル%以下であり、0モル%であっても差し支えない。
【0025】
また、結晶性ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分としては、直鎖状の脂肪族グリコール成分を含有することが好ましい。直鎖状の脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等が挙げられ、中でも1,4-ブタンジオールが好ましい。直鎖状の脂肪族グリコール成分は、全グリコール成分を100モル%としたとき、40~99モル%含有することが好ましく、より好ましくは45モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上であり、一層好ましくは55モル%以上である。また、90モル%以下であることが好ましく、より好ましくは85モル%以下であり、さらに好ましくは80モル%以下である。直鎖状の脂肪族グリコールのグリコール成分の共重合量を前記範囲内とすることで、結晶性ポリエステル(A)の結晶化を促進させることができ、金型離型性が良好となる。さらに優れた耐熱性や耐久性を付与することができる。
【0026】
また、グリコール成分として、ポリアルキレングリコール成分を含有することが好ましい。ポリアルキレングリコール成分としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられ、中でもポリテトラメチレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコール成分は、全グリコール成分を100モル%としたとき、1~60モル%含有することが好ましい。より好ましくは10モル%以上であり、さらに好ましくは15モル%以上であり、一層好ましくは20モル%以上である。また、55モル%以下であることが好ましく、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは45モル%以下である。ポリアルキレングリコール成分の共重合量を前記範囲内にすることで、冷熱サイクル耐久性が向上し、さらにエステル基濃度が低下することにより耐加水分解性が向上する。
【0027】
グリコール成分として、前記直鎖状の脂肪族グリコール成分とポリアルキレングリコールの合計量が60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、一層好ましくは95モル%以上であり、特に好ましくは99モル%以上であり、100モル%であっても差し支えない。
【0028】
その他のグリコール成分としては、例えば、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステル、2-メチルオクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等の分岐状の脂肪族グリコールまたは脂環族グリコールを適宜共重合することができる。共重合量としては、全グリコール成分を100モル%としたとき、40モル%以下であることが好ましく、35モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがさらに好ましく、25モル%以下であることが特に好ましく、0モル%であっても差し支えない。40モル%以下とすることで、結晶性ポリエステル(A)の結晶化を促進させることができ、金型離型性が良好となる。さらに優れた耐熱性や耐久性を付与することができる。
【0029】
また、本発明の結晶性ポリエステル樹脂(A)は、必要に応じて無水トリメリット酸、トリメチロールプロパン等の三官能以上のポリカルボン酸やポリオールを共重合し、分岐を有するポリエステルとしても差し支えない。
【0030】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂(A)は、不飽和基を含有していない飽和ポリエステル樹脂であることが望ましい。飽和ポリエステル樹脂であることで、溶融時に架橋が生じることなく、溶融安定性に優れる。
【0031】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、公知の方法をとることができる。例えば、上記のジカルボン酸及びジオール成分を150~250℃でエステル化反応後、減圧しながら230~300℃で重縮合することにより、目的の結晶性ポリエステル樹脂(A)を得ることができる。あるいは、上記のジカルボン酸のジメチルエステル等の誘導体とジオール成分を用いて150℃~250℃でエステル交換反応後、減圧しながら230℃~300℃で重縮合することにより、目的の結晶性ポリエステル樹脂(A)を得ることができる。
【0032】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂(A)には結晶核剤を添加しても良い。結晶性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、結晶核剤0.01~5質量部を添加することで透明性を高めることができる。結晶核剤は結晶性ポリエステル樹脂(A)の結晶化速度を速め、速やかに結晶化を完了させると共に、結晶核の数を調節することにより球晶の大きさもコントロールできる効果がある。結晶核剤の具体例としてはタルク、シリカ、グラファイト、炭素粉、ピロフェライト、石膏、中性粘土等の無機質微粒子や、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン等の金属酸化物、ヘキサン酸塩、ラウリン酸塩、ステアリン酸塩、モンタン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、シュウ酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、モンタン酸ワックス塩、モンタン酸ワックスエステル塩、テレフタル酸塩、カルボン酸塩、α-オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸とからなるイオン性共重合体等が挙げられる。それらの中でも特にヘキサン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、モンタン酸等脂肪酸の亜鉛塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩等の金属塩は結晶化速度の調節がしやすく、好ましい。さらには特に脂肪酸のナトリウム塩を使用すると球晶サイズのコントロールが容易となり、透明な成形体を得やすい。
【0033】
結晶性ポリエステル樹脂(A)の組成及び組成比を決定する方法としては、例えば結晶性ポリエステル樹脂(A)を重クロロホルム等の溶媒に溶解して測定する1H-NMRや13C-NMR、結晶性ポリエステル樹脂(A)のメタノリシス後に測定するガスクロマトグラフィーによる定量(以下、メタノリシス-GC法と略記する場合がある)等が挙げられる。本発明においては、結晶性ポリエステル樹脂(A)を溶解でき、なおかつ1H-NMR測定に適する溶剤がある場合には、1H-NMRで組成及び組成比を決定することとする。適当な溶剤がない場合や1H-NMR測定だけでは組成比が特定できない場合には、13C-NMRやメタノリシス-GC法を採用または併用することとする。
【0034】
本発明でいう結晶性とは、示差走査熱量分析計(DSC)を用いて、一度250℃で5分ホールドした後、液体窒素で急冷して、その後-150℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した際に、明確な吸収ピーク(融解ピーク)を示すものをいう。
【0035】
<エポキシ樹脂(B)>
本発明においてはエポキシ樹脂(B)を封止用樹脂組成物に配合することにより、電気電子部品との良好な初期密着性が向上する。さらに、結晶性ポリエステル樹脂(A)とワックス(C)の相溶化剤としての効果、さらには官能基導入による基材への濡れ性向上の効果を得ることができる。
【0036】
本発明に用いるエポキシ樹脂(B)としては、分子中に平均で少なくとも1.1個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂が好ましい。分子量としては数平均分子量450~40000の範囲が好ましく、500~30000の範囲がより好ましい。数平均分子量が450以上であれば樹脂組成物の軟化を抑えることができ、良好な機械的物性を発現することができる。また40000以下であれば結晶性ポリエステル樹脂(A)との相溶性が良好となり、優れた接着性を発現することができる。エポキシ樹脂(B)の具体的にはビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテルタイプ、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ、トリグリシジルイソシアヌレート、グリシジルヒンダントイン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミン、あるいは3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイドなどが挙げられる。これらを単独で、または2種以上を併せて用いることができる。これらのうち、特に、高い接着力を発揮させるためには結晶性ポリエステル樹脂(A)に対して相溶性が良いものが好ましい。
【0037】
エポキシ樹脂(B)の含有量は、結晶性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上がさらに好ましく、5質量部以上が特に好ましい。また、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下が特に好ましい。エポキシ樹脂(B)の含有量を0.1質量部以上とすることで接着性の向上やワックス(C)との相溶化剤としての効果が期待できる。一方、エポキシ樹脂(B)の含有量を50質量部以下とすることで連続成形してもエポキシ基同士が凝集することを防ぎ、成形機のメンテナンス頻度を低減することができる。さらに結晶性ポリエステル樹脂(A)の有する耐水性、耐久性を損なうことがない。
【0038】
その他、エポキシ樹脂(B)以外にも本発明の効果を損ねることなく、接着性を付与する目的でテルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂(α-ピネン、β-ピネン、リモネンなどの重合体)、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、ロジン系樹脂(ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジン、ロジンエステル等)、石油樹脂(脂肪族系、脂環族系、芳香族系等)、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、フェノール樹脂(アルキルフェノール、フェノールキシレンホルムアルデヒド、ロジン変性フェノール樹脂等)、キシレン樹脂などを含有することができる。これらは単独あるいは2種以上をあわせて用いることができる。上記のうち、熱安定性の観点から、テルペンフェノール樹脂、テルペン樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、石油樹脂、ロジン系樹脂、水添石油樹脂などが特に好ましい。
【0039】
<ワックス(C)>
本発明においてはワックス(C)を封止用樹脂組成物に配合することにより、電気電子部品との接着性を損なわず、金型離型性を向上させることができる。さらには溶融特性(流動性)を改善することができ、電気電子部品の隙間に密に封止用樹脂組成物を充填させることができる他、成形温度を下げたり、射出時間を短くできる等の生産性を改善することができる。
【0040】
ワックス(C)としては例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタムなどの石油系ワックス、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油などの植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス、モンタンワックスやオゾケライトなどの鉱物系ワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックスなどの合成炭化水素系ワックス(オレフィン系ワックス)、12-ヒドロキシステアリン酸やステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、N,N'-ジステアリルアジピン酸アマイド、N-ヒドロキシエチル-12-ヒドロキシステアリルアミド、N.N'-エチレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド、N.N'-ヘキサメチレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミド、N.N'-キシリレン-ビス-12-ヒドロキシステアリルアミドなどの油脂系合成ワックス(アマイド系ワックス)、モンタンワックス誘導体やパラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体などの変性ワックス、その他、四フッ化エチレン(PTFE)系ワックスなどのフッ素変性ワックスやライスブランワックス、メタロセンワックス、部分ケン化ワックス、エステルワックス、高級脂肪酸ワックス、高級脂肪酸エステルワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等が挙げられる。これらの中でも合成炭化水素系ワックスや油脂系合成ワックス、フッ素変性ワックスが好ましく、アマイド系ワックスが特に好ましい。上記ワックスは単独で用いても、2種以上併用して用いても何ら問題はなく、併用する場合は、特に合成炭化水素系ワックスと油脂系合成ワックスの併用が好ましい。合成炭化水素系ワックス(オレフィン系ワックス)と油脂系合成ワックス(アマイド系ワックス)を併用する場合の比率(質量比)は、合成炭化水素系ワックス(オレフィン系ワックス)/油脂系合成ワックス(アマイド系ワックス)=1/9~9/1であることが好ましく、より好ましくは2/8~8/2であり、さらに好ましくは3/7~7/3であり、特に好ましくは4/6~6/4である。上記範囲内で併用することですべり性、耐傷付性および耐ブロッキング性を付与することができる。また、単独で使用する場合は、アマイド系ワックスの使用が好ましく、特にヒドロキシ基含有のアマイド系ワックスが好ましい。ヒドロキシ基含有のアマイド系ワックスを用いることで、ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂との相溶性を向上させることができ、接着性を損なわず、金型離型性を付与することができる。
【0041】
本発明のワックス(C)を結晶性ポリエステル樹脂(A)およびエポキシ樹脂(B)に配合する事で接着性を損なうことなく、金型離型性を向上させることができる。本発明におけるワックス(C)の配合量は金型離型性と接着性の観点から、結晶性ポリエステル樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の合計量を100質量部としたときに、0.1~12質量部であることが好ましく、0.2~11質量部であることがより好ましく、0.4~10質量部であることがさらに好ましく、0.5~9質量部が一層好ましく、1~8質量部が特に好ましい。ワックス(C)の配合量を12質量部以下とすることで電気電子部品への接着性や樹脂組成物の物性の低下を抑えることができる。また、0.1質量部以上とすることで優れた金型離型性を発現することができる。
【0042】
ワックス(C)の形状はパウダー状、粒状、または顆粒状のいずれかの形状あることが好ましい。パウダー状、粒状、または顆粒状であることで、結晶性ポリエステル樹脂(A)、およびエポキシ樹脂(B)に容易に分散させることができる。より好ましくはパウダー状である。板状等では投入しやすい形状に粉砕する必要があり、生産工程に時間を要する他、コストアップにもつながることがある。また、その平均粒子径としては、100nm~20mmが好ましい。より好ましくは200nm~10mmであり、さらに好ましくは500nm~1mmであり、一層好ましくは1μm~100μmであり、特に好ましくは2μm~50μmである。100nm以上であればワックス(C)投入時(仕込み時)に浮遊することがないため、生産工程上好ましい。また、20mm以下とすることで例えば二軸押出機で混錬する時に追加の粉砕が不要になり、生産工程上好ましい。
【0043】
ワックス(C)の密度は0.85~1.05g/cm3の範囲であることが好ましく、0.88~1.00g/cm3の範囲であることがより好ましく、0.90~0.98g/cm3の範囲であることがさらに好ましく、0.93~0.97g/cm3の範囲であることが特に好ましい。上記範囲にあることで、結晶性ポリエステル樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)に対して、ワックス(C)を容易に微分散・混合することができ、特別な混練設備を必要とすることなく、均質な樹脂組成物を得ることができる。
ワックス(C)の密度が0.85 g/cm3以上とすることで、結晶性ポリエステル樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)との相溶性が良好となり、均質な樹脂組成物を得ることができる。一方、1.05g/cm3以下とすることで混錬の際の供給時に均質に混合しやすくなり、相溶性が良好となり、均質な樹脂組成物を得ることができる。
【0044】
ワックス(C)の融点は、50℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上であり、さらに好ましくは110℃以上であり、特に好ましくは120℃以上である。また、150℃以下であることが好ましく、より好ましくは140℃以下であり、さらに好ましくは130℃以下である。前記範囲内とすることで優れた溶融特性、接着性および金型離型性を発現することができる。
【0045】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物には、さらにポリオレフィン樹脂(D)を配合しても良い。ポリオレフィン樹脂(D)を配合することで、ワックス(C)との相溶性が向上する他、さらに冷熱サイクルや高温高湿環境負荷時の応力を分散することができる。
【0046】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂(D)は、密度が0.75g/cm3以上0.91g/cm3未満であることが好ましい。このような超低密度のポリオレフィン樹脂を使用することによって、元来非相溶の結晶性ポリエステル樹脂(A)に対して、ポリオレフィン樹脂(D)を容易に微分散・混合することができ、特別な混練設備を必要とせず、均質な樹脂組成物を得ることができる。また、低密度で結晶性も低いことで、結晶性ポリエステル樹脂(A)に生じた射出成形時の残存応力の経時的な緩和にも適切に作用し、封止用樹脂組成物として長期密着耐久性付与や環境負荷による発生応力の軽減といった好ましい特性を発揮する。このような特性を有するポリオレフィン樹脂(D)としては、ポリエチレンおよびエチレン共重合体が、入手容易、安価、金属やフィルムへの接着性に悪影響しない点で、特に好ましい。具体的には低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンプロピレンエラストマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-無水マレイン酸三元共重合体、エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸三元共重合体、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-メタクリル酸グリシジル三元共重合体、エチレン-アクリル酸メチル-メタクリル酸グリシジル三元共重合体が挙げられる。ポリオレフィン樹脂(D)にはカルボキシル基、グリシジル基等の極性基を含んでいても何ら問題はない。
【0047】
上記ポリオレフィン樹脂(D)の配合量は、結晶性ポリエステル(A)、エポキシ樹脂(B)およびワックス(C)の合計量を100質量部としたときに、1~50質量部であることが好ましく、5~45質量部がより好ましく、8~40質量部がさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂(D)の配合量を1質量部以上とすることでワックス(C)と相溶化剤的な効果が得られ、発生応力を低下することができる。一方、50質量部以下とすることで基材への接着性や樹脂組成物の物性の低下を抑えることができる。
【0048】
本発明の封止用樹脂組成物には、密着性、柔軟性、耐久性等を改良する目的でポリエステル樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)、ワックス(C)、およびポリオレフィン樹脂(D)以外のポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、エポキシ、ポリカーボネート、アクリル、エチレンビニルアセテート、フェノール等の他の樹脂、イソシアネート化合物、メラミン等の硬化剤、タルクや雲母等の充填材、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料を本発明の効果を損ねない範囲で配合しても全く差し支えない。その際の結晶性ポリエステル樹脂(A)は、封止用樹脂組成物全体に対して50質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。結晶性ポリエステル樹脂(A)の含有量を50質量部%以上とすることで結晶性ポリエステル樹脂(A)自身が有する、電気電子部品基材に対する優れた密着性、密着耐久性、伸度保持性、耐加水分解性、耐水性を発現することができる。
【0049】
さらには本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物が高温高湿度環境に長期間曝される場合には、酸化防止剤を添加することが好ましい。例えば、ヒンダードフェノール系として、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,1,3-トリ(4-ヒドロキシ-2-メチル-5-t-ブチルフェニル)ブタン、1,1-ビス(3-t-ブチル-6-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタン、3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-ベンゼンプロパノイック酸、ペンタエリトリチルテトラキス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-5-メチル-ベンゼンプロパノイック酸、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニロキシ]エチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、リン系として、3,9-ビス(p-ノニルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(オクタデシロキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリ(モノノニルフェニル)フォスファイト、トリフェノキシフォスフィン、イソデシルフォスファイト、イソデシフェニルフォスファイト、ジフェニル2-エチルヘキシルフォスファイト、ジノニルフェニルビス(ノニルフェニル)エステルフォスフォラス酸、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジトリデシルフォスファイト-5-t-ブチルフェニル)ブタン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、ペンタエリスリトールビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルフォスファイト)、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)2-エチルヘキシルフォスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、チオエーテル系として4,4’-チオビス[2-t-ブチル-5-メチルフェノール]ビス[3-(ドデシルチオ)プロピオネート]、チオビス[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-メチル-4,1-フェニレン]ビス[3-(テトラデシルチオ)-プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス(3-n-ドデシルチオプロピオネート)、ビス(トリデシル) チオジプロピオネートが挙げられ、これらを単独に、または複合して使用できる。添加量は封止用樹脂組成物全体に対して0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。0.1質量%以上添加することで熱劣化防止効果を発現することができる。5質量%以下とすることで接着性等を低下させることがない。
【0050】
本発明の電気電子部品用封止用樹脂組成物においては、無機物を添加することができる。無機物としては炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化タングステン、炭化クロム、炭化モリブテン、炭化カルシウム、ダイヤモンドカーボンラクタム等の各種炭化物;窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム等の各種窒化物、ホウ化ジルコニウム等の各種ホウ化物;酸化チタン(チタニア)、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化アルミニウム等の各種酸化物;チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウム等の各種チタン酸化合物;二硫化モリブデン等の硫化物;フッ化マグネシウム、フッ化炭素等の各種フッ化物;ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の各種金属石鹸;その他、滑石、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム、ベントナイト、カオリン、ガラス繊維、雲母等を用いることができる。これらの無機物を添加することによって、耐熱性、さらには機械的強度を向上させることが可能となる場合がある。
【0051】
その他にも、本発明の効果を損ねない範囲でチキソ性付与剤、粘着付与剤、加水分解防止剤、レベリング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、染料を用いることができる。
【0052】
さらには樹脂分解抑制剤としてカルボジイミド等を適宜使用することもできる。これらは単独もしくは併用で用いることができる。
【0053】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物には難燃性を付与するために難燃剤を添加しても良い。難燃剤の種類としては特に限定されないが、臭素化ポリスチレン、リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハロゲン系化合物、三酸化アンチモン、熱膨張性黒鉛、赤燐などが挙げられる。難燃剤の含有量は、難燃性付与の観点から、封止用樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは10~80質量部、より好ましくは20~70質量部、更に好ましくは30~60質量部である。10質量部以上とすることで難燃性付与効果を発現することができ、80質量部以下とすることで封止用樹脂組成物の物性、流動性および成形性の低下を抑えることができる。
【0054】
さらに本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で公知の各種添加剤を使用することができる。添加剤としては、衝撃改良材、摺動性改良材、着色剤、可塑剤、結晶核剤、ポリエステル以外の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0055】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物の結晶性ポリエステル(A)、エポキシ樹脂(B)、ワックス(C)、ポリオレフィン(D)を含め、上記記載の各構成成分を配合する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、各成分をドライブレンドしたり、または、2軸スクリュー型の押出機を用いて各構成成分を溶融混練する方法を挙げることができる。
【0056】
本発明の封止用樹脂組成物は220℃での溶融粘度が5~4000dPa・sであることが望ましい。ここで220℃での溶融粘度は以下のようにして測定した値である。すなわち、封止用樹脂組成物を水分率0.1%以下に乾燥し、次いで島津製作所株式会社製フローテスター(型番CFT-500C)にて、220℃に加温安定した封止用樹脂組成物を、1.0mmの孔径を有する厚み10mmのダイを1MPaの圧力で通過させたときの粘度の測定値である。4000dPa・s超の高溶融粘度になると、高い樹脂凝集力や耐久性が得られるが、高圧の射出成形の際に圧力を高くすることが必要となるため、電気電子部品の位置ずれや破損を生じることがある。1000dPa・s以下の溶融粘度が好ましく、より好ましくは800dPa・s以下の溶融粘度を有する封止用樹脂組成物である。このような封止用樹脂組成物を使用することで、電気電子部品を金型内部にセットした金型の中に0.1~30MPaの比較的低い射出圧力で、防水性に優れた電気電子部品が得られると共に、電気特性も損ねない。
【0057】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物を用いた封止体は、電気電子部品を挿入した金型に本発明の封止用樹脂組成物を溶融して注入することによって製造することができる。より具体的には、スクリュータイプのホットメルト成形加工用アプリケーターを用いた場合において、120~240℃前後で加熱溶融し、射出ノズルを通じて金型へ注入され、その後一定の冷却時間を経た後、成形物を金型から取り外して電気電子部品用封止体を得ることができる。封止用樹脂組成物の注入時の温度および圧力は、温度130℃以上230℃以下かつ圧力0.1MPa以上20MPa以下であることが好ましい。このような条件で封止されることにより、封止される電気電子部品の破損が生じにくく、またショートショット、バリおよびひけのない形状良好な電気電子部品封止体を得やすい。
【0058】
本発明の電気電子部品封止用樹脂組成物を成形する際に用いる成形機、加工機としては、通常の射出成形機の他、押出し成形機やプランジャータイプの成形機のほか、ホットメルト成形加工用アプリケーターなどを用いることができる。
【実施例】
【0059】
<融点、ガラス転移温度の測定>
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、一度250℃で5分ホールドした後、液体窒素で急冷して、その後-150℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した。得られた曲線の変曲点をガラス転移温度、吸熱ピークを融点とした。
【0060】
<溶融特性試験>
封止用樹脂組成物の溶融粘度の評価方法
島津製作所製、フローテスター(CFT-500C型)にて、220℃に設定した加熱体中央のシリンダー中に水分率0.1%以下に乾燥した封止用樹脂組成物を充填し、充填1分経過後、プランジャーを介して試料に荷重を加え、圧力1MPa で、シリンダー底部のダイ(孔径:1.0mm、厚み:10mm)より溶融した試料を押し出し、プランジャーの降下距離と降下時間を記録し、溶融粘度を算出した。
【0061】
<接着性試験>
接着強度試験片の作製方法
1.6mm厚の片面銅張ガラスエポキシ基板を75mm×25mmの大きさに切断し、表面をアセトンで拭いて油分を取り除いた。次いで上記基板のガラスエポキシ面の一辺に幅10mmのセロハンテープを貼りつけ、ガラスエポキシ面が溶融樹脂(封止用樹脂組成物)と接触するように平板成型用金型(金型内面寸法:幅100mm×長さ100mm×厚み5mm)の内部に固定した。次いでスクリュー型ホットメルト成型加工用アプリケーター(井元製作所製竪型低圧押し出し成型機IMC-18F9)を用いて封止用樹脂組成物の成形を行った。成形条件は、成形樹脂温度230℃、成形圧力3.2MPa、保圧圧力3.5MPa、保圧時間20秒、吐出回転を80%設定(最大吐出を100%として)とした。成形物を離型し、接着強度試験片を得た。
【0062】
<接着性の評価> (ガラスエポキシ基板)
前記接着強度試験片を23℃、相対湿度50%の雰囲気下にて24時間静置した。次いで、オートグラフ(株式会社島津製作所社製AG-IS)を用いてセロハンテープ貼りつけ部よりガラスエポキシ基板と樹脂を剥離させ、90度剥離強度を測定した。引張速度は50mm/分とした。
評価基準 ◎:90度剥離強度15N/25mm以上
○:90度剥離強度10N/25mm以上、15N/25mm未満
△:90度剥離強度6N/25mmmm以上、10N/25mm未満
×:90度剥離強度6N/25mm未満
【0063】
<金型離型性の評価>
直径25mm、厚み2mmのコイン形状の金型をセットし、小型電動射出成形機(キャノン電子社製LS300i)を用いて樹脂組成物の連続成形を行い、成形品の金型離型性の評価を行った。成形条件は上記同様、成形温度220℃、充填速度10mm/s、圧力15MPa、冷却時間20秒とした。その後、金型を開き、下記評価基準に基づいて金型離型性の評価を行った。
評価基準
◎:連続成形101回を超えても成形物の上型への貼り付きはなく、容易に下型から成形物を取り出せる。
○:連続成形51回~100回の間に金型の上型へ成形物が貼り付く、もしくは成形物が破壊する。
△:連続成形11~50回の間に金型の上型へ成形物が貼り付く、もしくは成形物が破壊する。
×:連続成形10回以内に金型の上型へ成形物が貼り付く、もしくは成形物が破壊する。
【0064】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例、比較例を挙げるが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。
【0065】
結晶性ポリエステル樹脂(A)の製造例
結晶性ポリエステル樹脂(A1)の製造例
撹拌機、温度計、溜出用冷却器を装備した反応缶内にテレフタル酸166質量部、1,4-ブタンジオール180質量部、テトラブチルチタネート0.25質量部を加え、170~220℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール「PTMG1000」(三菱化学株式会社製)を300質量部とヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1330」(BASFジャパン株式会社製)を0.5質量部投入し、245℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて245℃で665Paとした。そしてさらに133Pa以下で60分間重縮合反応を行い、結晶性ポリエステル樹脂A1を得た。このポリエステル樹脂A1のガラス転移温度は-65℃、融点は160℃であった。
【0066】
結晶性ポリエステル樹脂A2~A4は、結晶性ポリエステル樹脂A1と同様な方法により合成した。それぞれの組成及び物性値を表1に示す。
【0067】
【0068】
表1中の略号は以下の通りである。
TPA:テレフタル酸、NDC:2,6-ナフタレンジカルボン酸、IPA:イソフタル酸、BD:1,4-ブタンジオール、PTMG1000:ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1000)、PTMG2000:ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量2000)
【0069】
実施例1
結晶性ポリエステル樹脂(A)として結晶性ポリエステル樹脂A1を100質量部、エポキシ樹脂(B)としてJER1007(三菱化学(株)製)を15質量部、ワックス(C)としてSuperdlip6515(Micropowder製)を2質量部、均一に混合した後、二軸押し出し機を用いてダイ温度220℃において溶融混練することによって電気電子部品封止用樹脂組成物1を得た。別記した方法により、電気電子部品封止用樹脂組成物1の溶融粘度、ガラスエポキシ基板接着性、金型離型性を評価した。溶融粘度は230dPa・s,であり、低圧成形性良好であった。また、ガラスエポキシ基板に対する接着性、金型離型性についても良好であった。
【0070】
実施例2~11
表2の組み合わせに従い、実施例1と同様に電気電子部品封止用樹脂組成物2~11を作製し、各項目の評価を行った。評価結果を表2に示した。実施例2~11は、低圧成形性をはじめ、ガラスエポキシ基板への接着性、金型離型性が良好であった。
【0071】
比較例1
結晶性ポリエステル樹脂(A)として結晶性ポリエステル樹脂A1を電気電子部品封止用樹脂組成物10とし、別記した方法により、電気電子部品封止用樹脂組成物10の溶融粘度、ガラスエポキシ基板接着性、金型離型性を評価した。溶融粘度は270dPa・s,であり、低圧成形性良好であった。しかしながら、比較例1はエポキシ樹脂(B)、ワックス(C)が含まれないため、ガラスエポキシ基板に対する接着性、金型離型性の両方は満足しなかった。
【0072】
比較例2
結晶性ポリエステル樹脂(A)として結晶性ポリエステル樹脂A4を電気電子部品封止用樹脂組成物11とし、別記した方法により、電気電子部品封止用樹脂組成物10の溶融粘度、ガラスエポキシ基板接着性、金型離型性を評価した。溶融粘度は120dPa・s,であり、低圧成形性良好であった。しかしながら、比較例2はエポキシ樹脂(B)、ワックス(C)が含まれないため、ガラスエポキシ基板に対する接着性、金型離型性の両方は満足しなかった。
【0073】
比較例3
結晶性ポリエステル樹脂(A)として結晶性ポリエステル樹脂A2を100質量部、エポキシ樹脂(B)としてJER1007(三菱化学(株)製)を20質量部均一に混合した後、二軸押し出し機を用いてダイ温度220℃において溶融混練することによって電気電子部品封止用樹脂組成物11を得た。別記した方法により、電気電子部品封止用樹脂組成物12の溶融粘度、ガラスエポキシ基板接着性、金型離型性を評価した。溶融粘度は230dPa・s,であり、低圧成形性とガラスエポキシ基板に対する接着性は良好であった。しかしながら、比較例3はワックス(C)が含まれないため、金型離型性については満足しなかった。
【0074】
比較例4~6
比較例3と同様にして、配合を表3のように変更し、電気電子部品封止用樹脂組成物13~15を作製し、評価した。評価結果を表3に示した。
【0075】
比較例4については、とガラスエポキシ基板に対する接着性は良好であったもののワックス(C)が含まれないため、溶融粘度が高く、低圧成形性も悪い他、金型離型性についても満足しなかった。
比較例5、6については、低圧成形性と金型離型性は良好であったもののエポキシ樹脂(B)が含まれないため、ガラスエポキシ基板に対する接着性は満足しなかった。
【0076】
【0077】
【0078】
表2、表3中の略号は以下の通りである。
エポキシ樹脂(B1):JER(登録商標)1007、ジャパンエポキシレジン(株)製、ビスフェノール型エポキシ樹脂。
エポキシ樹脂(B2):UG4070、東亞合成(株)製、多官能エポキシ樹脂。
ワックスC1:Superdlip6515、Micropowder製、オレフィン/アマイド系ワックス(オレフィン系ワックスとアマイド系ワックスの混合物)、パウダー状、平均粒子径5μm、融点124℃、密度0.95g/cm3
ワックスC2:MPP-635VF、Micropowder製、ポリエチレンワックス、パウダー状、平均粒子径9μm、融点124℃、密度0.96g/cm3
ワックスC3:FT115、日本精蝋社製、パラフィンワックス、粒状、平均粒子径7mm、融点60℃、密度0.90g/cm3
ワックスC4:流動パラフィン、富士フィルムWAKO純薬社製、パラフィン系ワックス、板状、融点60℃、密度0.82g/cm3
ワックスC5:スリパックスH、三菱ケミカル社製、ヒドロキシ基含有アマイド系ワックス、粒状、平均粒子径2mm、融点145℃、密度0.94g/cm3
ワックスC6:ITOHWAX J-700、伊藤製油社製、ヒドロキシ基含有アマイド系ワックス、板状、融点125℃、密度1.00g/cm3
ポリオレフィン樹脂(D1):エクセレン(登録商標)VL EUL731、住友化学(株)製、α-オレフィン共重合超低密度ポリエチレン、密度0.90cm3/g。
【0079】
本発明の電気電子部品用封止用樹脂組成物は、接着性、溶融特性を保持しながらも金型離型性を改善することができるため、電気電子部品の封止に好適に利用される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の樹脂組成物は、電気電子部品封止時の溶融粘度が低いため低圧成形性に優れ、かつガラスエポキシ基板への接着性に優れ、金型離型性が良好であることから、電気電子部品封止用樹脂組成物として極めて有用である。本発明の電気電子部品封止体は、例えば自動車、通信、コンピュータ、家電用途各種のコネクター、ハーネスやあるいは電子部品、プリント基板を有するスイッチ、センサーのモールド成形品として有用である。