(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】内燃機関用点火コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 38/12 20060101AFI20240827BHJP
F02P 15/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01F38/12 E
H01F38/12 H
F02P15/00 303A
(21)【出願番号】P 2020114587
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 健大
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0104863(US,A1)
【文献】特開2017-045760(JP,A)
【文献】特開2016-051788(JP,A)
【文献】特開2000-188224(JP,A)
【文献】特開2006-278379(JP,A)
【文献】特開2014-225544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/32、38/12
F02P 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング回路によって通電及び通電の遮断が行われる一次コイル(2)と、
前記一次コイルの外周側に配置され、前記一次コイルへの通電の遮断を受けて誘導起電力を発生させる二次コイル(3)と、
前記一次コイルの内周側に配置された中心コア(41)と、
前記一次コイルと前記中心コアとを絶縁する一次スプール(21)と、
前記一次コイル、前記二次コイル、前記中心コア及び前記一次スプールを、絶縁して固着する絶縁固着樹脂(6)と、を備え、
前記一次スプールは、前記中心コアがインサートされた状態で樹脂のインサート成形が行われたものであり、かつ、前記中心コアの側面を覆うとともに前記一次コイルが外側面(223)に配置される筒状部(22)を有しており、
前記筒状部の周方向(C)の一部には、前記筒状部の軸線方向(L)に平行な状態又は傾斜する状態でスリット孔(23)が形成されており、
前記スリット孔には、前記絶縁固着樹脂が充填されている、内燃機関用点火コイル(1)。
【請求項2】
前記スリット孔の前記軸線方向に直交する断面の形状は、前記中心コアに近い内側部位(231)と、前記内側部位の外側に位置して前記内側部位の幅よりも幅が広い外側部位(232)と、前記内側部位と前記外側部位との間に形成された段差面(233)とを有する、請求項1に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項3】
前記中心コアは、前記軸線方向に直交する方向に互いに積層された複数の電磁鋼板(411)によって形成されるとともに、前記軸線方向に直交する断面が四角形状を有しており、
前記筒状部における、前記電磁鋼板の積層方向の一方側に位置する辺部位は、残りの辺部位としての薄肉部(t1)の厚みよりも厚い厚肉部(t2)として形成されており、
前記スリット孔は、前記厚肉部、及び前記厚肉部に隣接する一対の前記薄肉部における前記厚肉部側の部位の少なくとも一方に形成されている、請求項1又は2に記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項4】
前記スリット孔は、前記中心コアの中心軸線を通って前記筒状部を2つに分断する仮想分断面(F)に対して対称な位置に、前記軸線方向に平行な状態又は傾斜する状態でそれぞれ形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関用点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用点火コイル(点火コイルという。)は、内燃機関としてのエンジンの燃焼室において、燃料と燃焼用空気との混合気に点火するために用いられる。点火コイルは、一次コイル、一次コイルに磁気的に結合される二次コイル、一次コイルへの通電を断続するスイッチング素子が内蔵されたイグナイタ等を備えている。
【0003】
一次コイルは、樹脂製の一次スプールの外周に配置されており、二次コイルは、樹脂製の二次スプールの外周に配置されている。また、一次コイル及び一次スプールの内周側には、軟磁性材料からなる中心コアが配置されており、二次コイル及び二次スプールの外周側には、軟磁性材料からなる外周コアが配置されている。一次スプールは、一次コイルを保持する機能の他に、一次コイルと中心コアとの絶縁を確保する機能を有する。
【0004】
例えば、特許文献1に開示された点火コイルにおいては、一次スプールの筒状部に、筒状部の軸方向に沿ったスリット孔を形成している。そして、点火コイルを組み付ける際に、一次スプールの外周に一次コイルを巻き付けるときには、スリット孔を介して一次スプールの外径が縮小できるようになっている。この一次スプールの外径の縮小により、一次コイルと、二次コイルが外周側に配置された二次スプールとの間の環状空間を広げて、この環状空間に空隙を生じさせずに電気的絶縁材料が注入されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
点火コイルにおいては、エンジンの燃焼を受けて加熱・冷却が繰り返される。このとき、一次コイルを構成する導体材料、一次スプールを構成する樹脂材料及び中心コアを構成する軟磁性材料の間には、線膨張係数の違いによる熱応力が作用する。特に、点火コイルが冷却される過程においては、一次コイルと中心コアとの間に配置された一次スプールに熱応力が集中し、一次スプールが損傷するおそれがある。このとき、一次スプールによって、一次コイルと中心コアとの間の絶縁状態を維持できなくなるおそれがある。
【0007】
特許文献1の点火コイルにおいては、一次スプールの外径が縮小できるように、一次スプールにスリット孔を形成している。つまり、特許文献1の点火コイルにおいては、一次スプールの損傷を防止する工夫はなされていない。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、一次スプールに損傷が生じにくくし、一次スプールによって、一次コイルと中心コアとの間の絶縁状態を維持することができる内燃機関用点火コイルを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
スイッチング回路によって通電及び通電の遮断が行われる一次コイル(2)と、
前記一次コイルの外周側に配置され、前記一次コイルへの通電の遮断を受けて誘導起電力を発生させる二次コイル(3)と、
前記一次コイルの内周側に配置された中心コア(41)と、
前記一次コイルと前記中心コアとを絶縁する一次スプール(21)と、
前記一次コイル、前記二次コイル、前記中心コア及び前記一次スプールを、絶縁して固着する絶縁固着樹脂(6)と、を備え、
前記一次スプールは、前記中心コアがインサートされた状態で樹脂のインサート成形が行われたものであり、かつ、前記中心コアの側面を覆うとともに前記一次コイルが外側面(223)に配置される筒状部(22)を有しており、
前記筒状部の周方向(C)の一部には、前記筒状部の軸線方向(L)に平行な状態又は傾斜する状態でスリット孔(23)が形成されており、
前記スリット孔には、前記絶縁固着樹脂が充填されている、内燃機関用点火コイル(1)にある。
【発明の効果】
【0010】
前記一態様の内燃機関用点火コイル(点火コイルという。)においては、一次スプールの筒状部の周方向の一部にスリット孔が形成されており、このスリット孔には、絶縁固着樹脂が充填されている。この絶縁固着樹脂が充填されたスリット孔により、点火コイルが冷却される過程において、一次スプールの筒状部に生じる熱応力を緩和することができる。
【0011】
それ故、前記一態様の点火コイルによれば、一次スプールに損傷が生じにくくし、一次スプールによって、一次コイルと中心コアとの間の絶縁状態を維持することができる。
【0012】
なお、本発明の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態1にかかる、点火コイルの全体を、軸線方向に沿った断面によって示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態1にかかる、中心コアがインサートされた一次スプールの一部を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1にかかる、中心コアがインサートされた一次スプールを示す側面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1にかかる、一次コイル、一次スプール、中心コア等の周辺を、軸線方向に直交する断面によって示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態1にかかる、
図4の一部を拡大して示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態2にかかる、一次スプールの周辺を、軸線方向に直交する断面によって示す説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態2にかかる、他の一次スプールの周辺を、軸線方向に直交する断面によって示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態2にかかる、他の一次スプールの周辺を、軸線方向に直交する断面によって示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前述した内燃機関用点火コイルにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態の内燃機関用点火コイル1(点火コイル1という。)は、
図1に示すように、一次コイル2、二次コイル3、中心コア41、一次スプール21及び絶縁固着樹脂6を備える。一次コイル2は、スイッチング回路によって通電及び通電の遮断が行われるものである。二次コイル3は、一次コイル2の外周側に配置されており、一次コイル2への通電の遮断を受けて誘導起電力を発生させるものである。中心コア41は、一次コイル2の内周側に配置されている。一次スプール21は、一次コイル2と中心コア41とを絶縁するものである。絶縁固着樹脂6は、一次コイル2、二次コイル3、中心コア41及び一次スプール21を、絶縁して固着するものである。
【0015】
図2~
図4に示すように、一次スプール21は、中心コア41がインサートされた状態で樹脂のインサート成形が行われたものであり、かつ、中心コア41の側面を覆うとともに一次コイル2が外側面223に配置される筒状部22を有している。筒状部22の周方向Cの一部には、筒状部22の軸線方向Lに平行な状態でスリット孔23が形成されている。スリット孔23には、絶縁固着樹脂6が充填されている。
【0016】
以下に、本形態の点火コイル1について詳説する。
(点火コイル1)
図1に示すように、点火コイル1は、車両の内燃機関としてのエンジンにおいて、シリンダヘッドカバー7に配置され、シリンダヘッドに配置されたスパークプラグから、シリンダヘッドの燃焼室内に火花放電を発生させるために用いられる。本形態の点火コイル1は、車載用のものである。点火コイル1は、一次コイル2、二次コイル3、中心コア41、外周コア42、イグナイタ43等によって構成されたコイル本体部11と、コイル本体部11から突出して、二次コイル3とスパークプラグとを高圧端子32及びバネ33を介して電気的に接続するためのジョイント部12とを有する。コイル本体部11は、シリンダヘッドカバー7に配置され、ジョイント部12は、シリンダヘッドカバー7のプラグホール71に配置される。
【0017】
図1~
図5に示すように、本形態における軸線方向Lとは、一次コイル2、一次スプール21、二次コイル3、中心コア41の断面の中心(図心)を通る仮想線のことをいう。軸線方向Lの周りの方向を周方向Cという。周方向Cには、円形の周方向Cだけでなく、四角形等の多角形の周方向Cも含まれる。また、軸線方向Lに直交する断面において、コイル本体部11とジョイント部12とが並ぶ方向を第1方向D1といい、第1方向D1に直交する方向を第2方向D2という。
【0018】
(一次コイル2)
図1及び
図4に示すように、一次コイル2は、一次スプール21の筒状部22の外側面223に巻かれている。一次コイル2は、マグネットワイヤの巻線によって形成されている。一次コイル2は、イグナイタ43のスイッチング素子によって、通電及び通電の遮断が繰り返されるものである。
【0019】
一次コイル2は、一次スプール21の筒状部22の外側面223に巻かれていることにより、筒状部22と一次コイル2の各マグネットワイヤとの間、一次コイル2のマグネットワイヤ同士の間には微小な隙間が形成されている。そして、コイルケース5内に絶縁固着樹脂6を充填するときには、この微小な隙間を介して、一次スプール21の筒状部22におけるスリット孔23に液状の絶縁固着樹脂6が流れ込み、その後、絶縁固着樹脂6が硬化する。
【0020】
(二次コイル3)
図1及び
図4に示すように、二次コイル3は、一次コイル2の外周側において、一次コイル2と同軸状に配置されている。二次コイル3は、二次スプール31の外側面に巻かれている。二次コイル3は、一次コイル2のマグネットワイヤよりも細いマグネットワイヤが、一次コイル2よりも多く巻線されて形成されている。二次コイル3は、一次コイル2への通電が遮断されたときに、相互誘導作用による誘導起電力を発生させるものである。
【0021】
(中心コア41)
図1~
図4に示すように、本形態の中心コア41は、軟磁性材料からなる板状の電磁鋼板411が複数積層されて形成されている。中心コア41は、直方体形状に形成されている。中心コア41の軸線方向Lに直交する断面は、四角形状を有している。中心コア41の軸線方向Lに直交する断面が四角形状であることにより、中心コア41を構成する複数の電磁鋼板411の幅を同じにして、中心コア41の形成を容易にすることができる。
【0022】
中心コア41を構成する複数の電磁鋼板411は、軸線方向Lに直交する方向に互いに積層されている。本形態の中心コア41を構成する複数の電磁鋼板411は、コイル本体部11とジョイント部12とが並ぶ第1方向D1に積層されている。中心コア41の、軸線方向Lに直交する断面においては、4つの角部が形成されている。中心コア41は、一次スプール21の筒状部22内にインサートされて、一次スプール21と一体化されている。なお、中心コア41は、軟磁性材料からなる粉末が圧縮成形されて形成されたものであってもよい。
【0023】
(外周コア42)
図1に示すように、本形態の外周コア42は、軟磁性材料からなる板状の電磁鋼板が複数積層されて形成されている。外周コア42は、第1方向D1から見た断面において、中心コア41を内側に配置する四角環形状に形成されている。外周コア42を構成する複数の電磁鋼板は、軸線方向Lに直交する方向に互いに積層されている。外周コア42を構成する複数の電磁鋼板の積層方向は、中心コア41を構成する複数の電磁鋼板411の積層方向と同じである。なお、外周コア42は、軟磁性材料からなる粉末が圧縮成形されて形成されたものであってもよい。
【0024】
中心コア41と外周コア42とによって、磁束が通過する閉磁路が形成されている。中心コア41と外周コア42との間には、磁気飽和を防止するための永久磁石44が配置されている。一次スプール21を構成する樹脂のインサート成形を行うときには、中心コア41及び永久磁石44を一次スプール21内にインサートしてもよい。
【0025】
(イグナイタ43)
図1に示すように、イグナイタ43における電子回路としてのスイッチング回路には、一次コイル2への通電及び通電の遮断を行うスイッチング素子が配置されている。イグナイタ43は、点火コイル1の外部に配置された電子制御装置による指令を受けて、一次コイル2への通電及び通電の遮断を行う。イグナイタ43は、外周コア42の側方に配置されている。
【0026】
(コイルケース5)
図1に示すように、コイル本体部11は、樹脂製のコイルケース5を有する。コイルケース5は、一次コイル2、二次コイル3、中心コア41、外周コア42、イグナイタ43等を収容する凹部51を有する。凹部51の第1方向D1の端部には、絶縁固着樹脂6を注入可能な開口部52が形成されている。コイルケース5内に、一次コイル2、二次コイル3、中心コア41、外周コア42、イグナイタ43等が配置されて形成された隙間には、絶縁固着樹脂6が充填されている。
【0027】
コイルケース5の一部には、イグナイタ43を外部の電子制御装置と電気接続するためのコネクタ部24が配置されている。本形態のコネクタ部24は、スプール成形体210として、一次スプール21とともに一体成形されている。スプール成形体210は、一次スプール21の筒状部22に中心コア41を配置するとともに、コネクタ部24にコネクタピン241を配置した、樹脂のインサート成形を行って形成されている。
【0028】
また、コイルケース5の一方側には、ジョイント部12を構成するタワー部53が形成されている。タワー部53には、点火コイル1とプラグホール71との間を封止するためのシールラバー54が装着されている。
【0029】
(絶縁固着樹脂6)
図1に示すように、絶縁固着樹脂6は、熱硬化性樹脂によって構成されている。コイルケース5内に、一次コイル2、一次スプール21、二次コイル3、二次スプール31、中心コア41、外周コア42、イグナイタ43等が組み付けられた組付体が配置された後に、このコイルケース5内に液状の熱硬化性樹脂が注入され、この液状の熱硬化性樹脂が硬化される。液状の熱硬化性樹脂は、コイルケース5内に注入されるときに、一次スプール21と一次コイル2との隙間から一次スプール21のスリット孔23内にも充填される。そして、液状の熱硬化性樹脂が硬化されて、スリット孔23内に充填された部分も含めて絶縁固着樹脂6が形成される。絶縁固着樹脂6によって、コイルケース5内の一次コイル2、一次スプール21、二次コイル3、二次スプール31、中心コア41、外周コア42、イグナイタ43等が絶縁された状態で互いに固着される。
【0030】
(一次スプール21)
図1~
図3に示すように、一次スプール21は、射出成形によって所定の形状に形成された熱可塑性樹脂によって構成されている。一次スプール21は、中心コア41を配置したインサート成形によって形成されている。一次スプール21の筒状部22は、中心コア41の軸線方向Lに直交する四角形状の断面に倣って、四角筒形状に形成されている。筒状部22の軸線方向Lの両端部には、筒状部22の外周に巻かれた一次コイル2を掛止するための鍔部224が形成されている。
【0031】
図4に示すように、四角筒形状の筒状部22は、コイル本体部11とジョイント部12とが並ぶ第1方向D1の両側に位置する一対の第1辺部位221と、第1辺部位221に直交して第1辺部位221同士を接続する一対の第2辺部位222とを有する。本形態の筒状部22においては、一対の第1辺部位221のうちのジョイント部12側に位置する第1辺部位221の厚みが、残りの第1辺部位221の厚み及び一対の第2辺部位222の厚みより大きい。換言すれば、四角筒形状の筒状部22における、中心コア41の電磁鋼板411の積層方向である第1方向D1の一方側に位置する第1辺部位221は、残りの第1辺部位221及び一対の第2辺部位222としての薄肉部t1の厚みよりも厚い厚肉部t2として形成されている。
【0032】
厚肉部t2は、成形型に中心コア41を配置したインサート成形によって一次スプール21を成形する際に、中心コア41に生じる寸法公差を吸収するために、他の薄肉部t1の厚みに比べて厚く形成されている。中心コア41がインサート成形によって筒状部22内に埋め込まれていることにより、一次スプール21の筒状部22と中心コア41との間には、隙間が形成されていない。換言すれば、一次スプール21の筒状部22と中心コア41とは互いに密着している。
【0033】
樹脂材料によって構成された一次スプール21の線膨張係数は、金属材料によって構成された一次コイル2及び中心コア41の線膨張係数に比べて大きい。そして、点火コイル1の使用時において、エンジンの燃焼運転を受けて点火コイル1が加熱される際には、一次スプール21が一次コイル2及び中心コア41に比べて大きく膨張する。このとき、一次スプール21の筒状部22の膨張は、一次コイル2及び中心コア41によって制限される。
【0034】
一方、点火コイル1が冷却されるときには、一次スプール21の筒状部22は、一次コイル2及び中心コア41に比べて大きく収縮しようとする。このとき、筒状部22の軸線方向Lに直交する断面において、スリット孔23によって筒状部22が周方向Cに分断されていることにより、筒状部22の周方向Cに作用する熱応力を緩和することができる。従来の点火コイル1において、筒状部22にスリット孔23が形成されていない場合には、筒状部22の周方向Cに作用する熱応力によって、筒状部22の軸線方向Lに直交する断面における角部にクラックが生じるおそれがあった。
【0035】
(スリット孔23)
図4及び
図5に示すように、本形態のスリット孔23は、一次スプール21の筒状部22の周方向Cの一部として、筒状部22の軸線方向Lに沿って、厚肉部t2に隣接する一対の薄肉部t1における厚肉部t2側の部位に形成されている。換言すれば、スリット孔23は、一対の第2辺部位222における厚肉部t2側の部位に形成されている。ここで、厚肉部t2側の部位とは、厚肉部t2に隣接する一対の薄肉部t1(一対の第2辺部位222)における、第1方向D1の中間位置よりも厚肉部t2側の部位のことをいう。また、本形態のスリット孔23は、一対の第2辺部位222を構成する一対の薄肉部t1における、厚肉部t2に隣接する位置に形成されている。
【0036】
スリット孔23が一次スプール21の筒状部22の周方向Cの一部にのみ形成されていることにより、一次スプール21の成形性の低下を防止できる。また、スリット孔23は、中心コア41の中心軸線を通って筒状部22を第2方向D2に2つに分断する仮想分断面Fに対して対称な位置に、軸線方向Lに平行な状態でそれぞれ形成されている。換言すれば、スリット孔23は、筒状部22における中心軸線を対称軸として、一対の薄肉部t1における第2方向D2の対称な位置に形成されている。この構成により、筒状部22の周方向Cに作用する熱応力をより効果的に緩和することができる。なお、中心軸線とは、中心コア41の軸線方向Lに直交する断面における図心を通る軸線のことをいう。
【0037】
図2及び
図3に示すように、本形態のスリット孔23は、筒状部22における、軸線方向Lの両側の鍔部224を除く、ほぼ全体に形成されている。スリット孔23は、薄肉部t1を第2方向D2に向けて貫通する一方、軸線方向Lには貫通しない形状に形成されている。なお、スリット孔23は、
図3の二点鎖線Nで示すように、筒状部22における、軸線方向Lの一方側の鍔部224を軸線方向Lに貫通して形成されていてもよい。
【0038】
図4及び
図5に示すように、スリット孔23の軸線方向Lに直交する断面の形状は、中心コア41に近い内側部位231と、内側部位231の外側に位置して内側部位231の幅よりも幅が広い外側部位232と、内側部位231と外側部位232との間に形成された段差面233とを有する。換言すれば、スリット孔23は、段差面233を有する段付きスリット孔として形成されている。
【0039】
点火コイル1の使用時に、点火コイル1が冷却されるときには、中心コア41と一次コイル2との間に配置された、一次スプール21の筒状部22においては、中心コア41及び一次コイル2が収縮しようとする力が熱応力として作用する。このとき、筒状部22を構成する厚肉部t2及び薄肉部t1には、軸線方向Lに直交する周方向Cに引っ張られるように熱応力が作用すると考えられる。そして、筒状部22における、中心コア41の角部に対向する部分にクラックが生じようとする。
【0040】
また、厚肉部t2の厚みは薄肉部t1の厚みよりも大きいことにより、厚肉部t2には、薄肉部t1に比べて大きな熱応力が作用する。そこで、一対の薄肉部t1における、厚肉部t2に近い部位にスリット孔23が形成され、スリット孔23に絶縁固着樹脂6が充填されていることにより、筒状部22に生じる熱応力を効果的に緩和することができる。
【0041】
筒状部22の周方向Cに熱応力が作用するときには、スリット孔23と、スリット孔23内に充填された絶縁固着樹脂6との間に剥離が生じる場合が想定される。この場合に、スリット孔23が段差面233を持たない形状に形成されているときには、スリット孔23と絶縁固着樹脂6との間に生じた剥離が、筒状部22の内周側から外周側へ貫通して生じやすい。このとき、剥離が、一次コイル2を損傷させるように作用することが懸念される。
【0042】
この懸念に対して、スリット孔23が、段差面233を有する段付きスリット孔として形成されていることにより、スリット孔23と絶縁固着樹脂6との間に生じた剥離の伸展が、段差面233において留まり、この剥離が筒状部22の内周側から外周側へ貫通して生じにくくすることができる。これにより、剥離が一次コイル2を損傷させないようにすることができる。
【0043】
また、仮に、スリット孔23と絶縁固着樹脂6との間に生じた剥離が筒状部22の厚み方向に貫通したときであっても、段差面233があることにより、スリット孔23と絶縁固着樹脂6との境界部の、筒状部22の内周側と外周側とを結ぶ厚み方向の沿面距離を長くすることができる。これにより、剥離が厚み方向に貫通したときであっても、中心コア41と一次コイル2との間の絶縁状態を維持しやすくすることができる。
【0044】
スリット孔23の軸線方向Lに直交する断面におけるスリット孔23の内側部位231の表面、外側部位232の表面及び段差面233の最小幅は、0.2mm以上確保されている。一次スプール21の成形型は放電加工によって作製され、内側部位231、外側部位232及び段差面233を平面状に加工するためには、0.2mm以上の最小幅を確保することが好ましい。
【0045】
(作用効果)
本形態の点火コイル1においては、一次スプール21の筒状部22の一対の薄肉部t1に複数のスリット孔23が形成されており、この各スリット孔23には、絶縁固着樹脂6が充填されている。この絶縁固着樹脂6が充填された各スリット孔23により、点火コイル1が冷却される過程において、一次スプール21の筒状部22に生じる熱応力を緩和することができる。
【0046】
それ故、本形態の点火コイル1によれば、一次スプール21に損傷が生じにくくし、一次スプール21によって、一次コイル2と中心コア41との間の絶縁状態を維持することができる。
【0047】
<実施形態2>
本形態は、一次スプール21の筒状部22に形成するスリット孔23の種々の態様を示す。
図6に示すように、スリット孔23は、筒状部22の厚肉部t2において、軸線方向Lに沿って形成してもよい。この場合には、スリット孔23は、筒状部22における中心軸線を対称軸として、厚肉部t2における第2方向D2の対称な位置に一対に形成してもよい。また、この場合には、一対のスリット孔23は、厚肉部t2における、一対の薄肉部t1に隣接する第2方向D2の外側の部位に形成してもよい。
【0048】
また、
図7に示すように、スリット孔23は、筒状部22の厚肉部t2における第2方向D2の中心部位において、軸線方向Lに沿って形成してもよい。この場合には、スリット孔23は、厚肉部t2の厚みよりも大きな幅に形成してもよい。換言すれば、スリット孔23は、厚肉部t2の第2方向D2の最大幅のうちの半分以上の幅の範囲に形成してもよい。
【0049】
また、
図8に示すように、スリット孔23は、筒状部22の厚肉部t2と、筒状部22における、厚肉部t2の反対側に位置する薄肉部t1とにおいて、軸線方向Lに沿って形成してもよい。この場合には、スリット孔23は、筒状部22における中心軸線を対称軸として、厚肉部t2、及び第1辺部位221を構成する薄肉部t1における、第2方向D2の対称な位置にそれぞれ一対に形成してもよい。
【0050】
スリット孔23は、厚肉部t2、及び厚肉部t2に隣接する一対の薄肉部t1における厚肉部t2側の部位に少なくとも形成されていることにより、筒状部22に作用する熱効力を効果的に緩和することができる。
【0051】
本形態においても、厚肉部t2は、第1方向D1において、コイル本体部11に対してジョイント部12が位置する側の第1辺部位221に形成されている。なお、厚肉部t2は、ジョイント部12に対してコイル本体部11が位置する側の第1辺部位221に形成されていてもよい。
【0052】
スリット孔23の軸線方向Lに直交する断面において、スリット孔23を形成する段差面233は、2段階以上に形成してもよい。段差面233は、中心コア41の側面に平行に形成するだけでなく、中心コア41の側面に対して傾斜状に形成してもよい。また、スリット孔23は、筒状部22における、中心軸線を対称軸とする第2方向D2の対称ではない位置に、軸線方向Lに平行な状態又は傾斜する状態で複数形成してもよい。
【0053】
スリット孔23は、一次スプール21の筒状部22における、成形型から成形後の一次スプール21を離型するときの離型方向に位置する辺部位に形成してもよい。また、スリット孔23は、固定された成形型に対して可動する可動コアによって形成してもよい。また、スリット孔23は、筒状部22の軸線方向Lに対して、例えば15°以内の角度の範囲内で傾斜して形成してもよい。
【0054】
本形態の点火コイル1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の構成要素と同様である。
【0055】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本発明から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 内燃機関用点火コイル
2 一次コイル
21 一次スプール
22 筒状部
23 スリット孔
3 二次コイル
41 中心コア
6 絶縁固着樹脂