(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】積層構造および積層方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20240827BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20240827BHJP
B32B 21/12 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
E04B1/94 R
E04B5/02 E
B32B21/12
(21)【出願番号】P 2020131643
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 夏美
(72)【発明者】
【氏名】藤生 直人
(72)【発明者】
【氏名】榎本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】辻 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 博則
(72)【発明者】
【氏名】山木戸 勇也
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-027021(JP,A)
【文献】特開2012-219598(JP,A)
【文献】特開2007-126920(JP,A)
【文献】実開昭60-011920(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
E04B 5/00-5/48
E04C 2/26
B32B 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中高層の建築物を構成する床に対して適用される積層構造であって、
木質構造層と、
前記木質構造層に積層された防水シート層と、
前記防水シート層に積層された耐火層
である板状の耐火材と、
前記耐火層に積層されたセメント組成物層と、を有
し、
前記セメント組成物層は、厚さが30mm~100mmであり、
前記木質構造層は、前記積層構造に作用する荷重を単体で支えることのできる構造体として機能可能な厚さを有する木材で構成され、
前記耐火層の厚さは、前記セメント組成物層と合わせた耐火性が、要求される耐火性能を満たす厚さに設定される
積層構造。
【請求項2】
中高層の建築物を構成する床に対して適用される積層構造の積層方法であって、
木質構造層の上面を覆う防水シート層を形成する工程と、
前記防水シート層の上面を覆う耐火層
を板状の耐火材で形成する工程と、
セメントを打設して、前記耐火層の上面を覆うセメント組成物層を形成する工程と、を有
し、
前記セメント組成物層の厚さを30mm~100mmとし、
前記木質構造層を、前記積層構造に作用する荷重を単体で支えることのできる構造体として機能可能な厚さを有する木材で構成し、
前記耐火層の厚さを、前記セメント組成物層と合わせた耐火性が、要求される耐火性能を満たす厚さに設定する
積層方法。
【請求項3】
前記防水シート層を形成する工程は、前記木質構造層を設置する工程の前に行われる
請求項2に記載の積層方法。
【請求項4】
前記防水シート層を形成する工程は、前記木質構造層を設置する工程の後に行われる
請求項2に記載の積層方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質構造層を主材として用いた積層構造および積層方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質構造層を主材とする積層構造の床として、例えば特許文献1の積層構造を用いた床が知られている。特許文献1では、木質構造層であるCLT(Cross Laminated Timber)板に対して、木材からなる防火被覆材を積層している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中高層の建築物などを構成する床に対して特許文献1に記載の積層構造を適用した場合、要求される耐火性能を満たすためには、防火被覆材の厚さをかなり大きくしなければならない。そのため、床全体として厚くなったり重くなったりする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する積層構造は、木質構造層と、前記木質構造層に積層された防水シート層と、前記防水シート層に積層された耐火層と、前記耐火層に積層されたセメント組成物層と、を有する。
【0006】
上記課題を解決する積層方法は、木質構造層の上面を覆う防水シート層を形成する工程と、前記防水シート層の上面を覆う耐火層を形成する工程と、セメントを打設して、前記耐火層の上面を覆うセメント組成物層を形成する工程と、を有する。
【0007】
これにより、耐火層とセメント組成物層とで積層構造に耐火性を付与することができるため、要求される耐火性能を満たしつつ全体の厚さや重量を低減することができる。
上記構成の積層構造において、前記セメント組成物層は、厚さが30mm~100mmであることが好ましい。セメント組成物層の厚さが30mm以上であることにより、セメント組成物層におけるひび割れ等の発生を抑えることができる。セメント組成物層の厚さが100mm以下であることにより、積層構造の重量を抑えることができる。
【0008】
上記構成の積層構造において、前記セメント組成物層の比重は、前記耐火層の比重よりも大きいことが好ましい。これにより、木質構造層、防水シート層、耐火層の密着力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】積層構造の一実施形態を有する積層構造体の概略構成を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照して、積層構造および積層方法の一実施形態について説明する。
図1に示すように、積層構造の一実施形態を有する積層構造体10は、中高層の建築物の床に適用される。各階の床は、複数の積層構造体で構成される。積層構造体10は、木質構造層11を主材として構成されている。積層構造体10においては、木質構造層11に対して、防水シート層12、耐火層13、セメント組成物層14が積層されている。
【0011】
木質構造層11は、積層構造体10に作用する荷重を単体で支えることのできる構造体として機能可能な厚さを有する木材で構成される。木質構造層11は、建築物を構成する柱や梁などに支持されるように設置される。木質構造層11は、例えば、CLT(Cross Laminated Timber)板で構成される。木質構造層11がCLT板で構成される場合、その厚さの一例は、150mmである。
【0012】
防水シート層12は、木質構造層11の上面を覆っている。防水シート層12は、防水性を備える。防水シート層12は、防水性に加えて、透湿性を備えていることが好ましい。防水シート層12は、例えば、タイベックシートなどの防水性シートで構成される。防水シート層12を形成する工程では、木質構造層11の上面を覆うように防水性シートを拡げたのち、その防水性シートをタッカーなどを用いて木質構造層11に固定する。このようにして防水シート層12が形成されることにより、防水シート層12の形成に要する作業時間を短くすることができる。防水シート層12は、設置後の木質構造層11に対して積層される構成であってもよいし、設置前の木質構造層11に対して積層される構成であってもよい。
【0013】
耐火層13は、防水シート層12の上面を覆っている。耐火層13は、耐火性に加えて、耐水性を備えていることが好ましい。耐火層13は、例えば、ALC(Autoclaved Lightweight aerated Concrete)板、木繊セメント板、石膏ボードなど、板状の耐火材で構成される。耐火層13を形成する工程では、例えば、防水シート層12の上面に耐火材を載置したのち、その耐火材をねじ止めなどによって木質構造層11に固定する。耐火層13は、木質構造層11の上面と略同一形状の板面を有する1つの耐火材で構成されてもよいし、木質構造層11の上面に複数の耐火材を隙間なく並べることで構成されてもよい。耐火層13の厚さは、セメント組成物層14と合わせた耐火性が、要求される耐火性能(以下、要求耐火性能という。)を満たす厚さに設定される。耐火層13がALC板で構成される場合、その厚さの一例は36mmである。耐火層13が木繊セメント板で構成される場合、その厚さの一例は25mmである。
【0014】
セメント組成物層14は、耐火層13の上面を覆っている。セメント組成物層14は、耐火性を有している。セメント組成物層14の比重は、耐火層13の比重よりも大きい。セメント組成物層14を形成する工程では、耐火層13に対して、例えばモルタルやコンクリート、セルフレベリング材などのセメントを打設し、硬化させる。セメント組成物層14は、荷重を支える構造体としての機能は非常に小さく、30mm~100mmの厚さで形成される。セメント組成物層14の厚さが30mm以上であることにより、セメント組成物層14におけるひび割れ等の発生を抑えることができる。セメント組成物層14の厚さが100mm以下であることにより、セメント組成物層14の重量、ひいては積層構造体10の重量を抑えることができる。
【0015】
なお、セメント組成物層14には、化粧層が積層されることが好ましい。化粧層は、例えば、木目調の合板を含んで構成される。こうした化粧層が設けられることにより、積層構造体10の意匠性を向上させることができる。
【0016】
(作用)
上述した積層構造体10においては、耐火層13とセメント組成物層14とで要求耐火性能を満たすように構成される。これにより、要求耐火性能を満たす層を木材で構成した場合よりも厚さを低減することができる。また、要求耐火性能を満たす層をセメント組成物層14のみで構成した場合よりも積層構造体10の軽量化を図ることができる。
【0017】
本実施形態の効果について説明する。
(1)木質構造層11を主材とする積層構造体10において、要求耐火性能を満たしつつ、積層構造体10の厚さを低減することができる。
【0018】
(2)セメント組成物層14が30mm~100mmの厚さで形成される。これにより、積層構造体10のひび割れ等を抑制できるとともに、積層構造体10の重量を抑えつつ耐火性能を高めることができる。
【0019】
(3)セメント組成物層14の比重は、耐火層13の比重よりも大きい。これにより、木質構造層11全体に対する防水シート層12の密着力、および、防水シート層12全体に対する耐火層13の密着力を高めることができる。
【0020】
(4)一般的に、中高層の建築物は、下階側から柱や梁、床の設置が行われたのち、屋根が設置される。このため、屋根が設置されるまでは、屋外に晒された状態にある床が存在する。また、中高層の建築物は、施工期間が長期にわたるため、施工期間中に雨が降ることもある。雨天時、屋外に晒された状態にある床は、雨晒しとなる。木質構造層を用いた床においては、腐食防止等の観点から木質構造層への雨水の浸入を抑える必要がある。
【0021】
この点、上述した積層構造体10においては、木質構造層11に防水シート層12が積層されている。これにより、設置前の木質構造層11に防水シート層12が積層される場合には、設置直後から木質構造層11を防水シート層12で覆うことができる。また、木質構造層11の設置後に防水シート層12が積層される場合には、防水シート層12の積層に要する作業時間が短いため、設置後の木質構造層11をすぐに防水シート層12で覆うことができる。すなわち、積層構造体10においては、設置後の木質構造層11が雨水の影響を受けにくくなる状態を迅速、かつ、容易に実現することができる。また、木質構造層11の設置後に防水シート層12が積層される場合には、木質構造層11の設置時における防水シート層12の損傷を防止することもできる。
【0022】
(5)セメント組成物層14を形成するために打設されたセメントは、耐火層13に形成されている僅かな隙間を通じて木質構造層11に向かって移動する。こうしたセメントは、いずれは硬化するものの、硬化前にその一部が防水シート層12に到達する場合もある。このとき、防水シート層12は、セメントに含まれる水分の木質構造層11への浸入を抑える。すなわち、防水シート層12があることにより、セメントに含まれる水分に起因した木質構造層11の腐食等を抑えることができる。
【0023】
(6)耐火層13にセメント組成物層14が積層されることによって、耐火層13への雨水の浸入を防止することができる。これにより、雨水の影響を耐火層13が受けにくくなる。また、積層構造体10の不陸調整が容易になることで、積層構造体10の施工性を向上させることができる。
【0024】
(7)上述した積層構造体10においては、セメント組成物層14の形成後は、セメント組成物層14よりも下層への水分の浸入を防止することができる。
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0025】
・セメント組成物層14の比重は、耐火層13の比重と同じであってもよいし、耐火層13の比重より小さくともよい。
・セメント組成物層14は、積層構造体10の耐火性能が高められる厚さを有していればよい。このため、セメント組成物層14の厚さは、上述した厚さに限られない。
【0026】
・積層構造体10は、建築物における所定位置に設置された木質構造層11に防水シート層12、耐火層13、セメント組成物層14が積層される構成であってもよい。また、積層構造体10は、木質構造層11、防水シート層12,耐火層13、セメント組成物層14が積層された状態で建築物における所定位置に設置される構成であってもよい。
【0027】
・積層構造体10は、木質構造層11に対して、防水シート層12、耐火層13、セメント組成物層14が積層された状態で設置されてもよい。
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
【0028】
前記防水シート層を形成する工程は、前記木質構造層を設置する工程の前に行われる。これにより、設置直後から木質構造層を防水シート層で覆うことができる。
前記防水シート層を形成する工程は、前記木質構造層を設置する工程の後に行われる。これにより、木質構造層の設置時における防水シート層の損傷を防止することができる。
【符号の説明】
【0029】
10…積層構造体、11…木質構造層、12…防水シート層、13…耐火層、14…セメント組成物層。