IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オートネットワーク技術研究所の特許一覧 ▶ 住友電装株式会社の特許一覧 ▶ 住友電気工業株式会社の特許一覧

特許7543765絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法
<>
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図1
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図2
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図3
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図4
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図5
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図6
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図7
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図8
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図9
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図10
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図11
  • 特許-絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/285 20060101AFI20240827BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20240827BHJP
   H01B 13/32 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01B7/285
H01B7/00 301
H01B13/32
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020133409
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2022029860
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-084407(JP,A)
【文献】実開平06-086221(JP,U)
【文献】特開2000-011771(JP,A)
【文献】特開2013-097922(JP,A)
【文献】国際公開第2012/053275(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/285
H01B 7/00
H01B 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、
前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を長手軸方向に沿って隣接して有し、
さらに、前記露出部と、前記被覆部のうち前記露出部に隣接する領域とにわたって、止水剤が配置された止水部を有し、
前記止水部は、
前記止水剤が、前記露出部における前記素線の間の空間に充填された素線間充填域と、
前記止水剤が、前記露出部において、前記導体の外周を被覆する露出部外周域と、
前記止水剤が、前記被覆部のうち前記露出部に隣接する領域において、前記絶縁被覆の外周を被覆する被覆部外周域と、を連続して有しており、
前記露出部外周域のうち、前記絶縁被覆の厚さによって外径が大きくなっている前記被覆部外周域側の領域を除いた対象域において、最大外径と最小外径の差が、前記最小外径の12%以下となっており、
前記露出部においては、単位長さあたりの前記金属材料の密度が、前記被覆部のうち、前記露出部に隣接する領域を除いた遠隔域における密度よりも高くなっており、前記素線の撚りピッチが、前記被覆部の前記遠隔域における撚りピッチよりも小さくなっている、絶縁電線。
【請求項2】
前記対象域において、前記最大外径と前記最小外径の差が、前記最小外径の1%以上である、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁電線は、前記長手軸方向に沿って、前記露出部の両側に、前記被覆部および前記被覆部外周域を有しており、
前記最大外径は、前記対象域を前記長手軸方向に沿って4等分したうち、中央2つの領域のいずれかにおいて得られる、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記止水部は、前記被覆部のうち前記止水剤が配置されていない箇所の外径よりも、外径が小さくなった部位を有さない、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記止水剤の層の厚さは、前記被覆部外周域よりも、前記露出部外周域において、大きくなっている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記止水部は、前記長手軸方向の端部を除いて、外周面に、前記被覆部外周域における前記止水剤の層の厚さ以上の高低差を有していない、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記止水部は、前記長手軸方向の端部を除いて、外周面に、前記被覆部外周域における前記止水剤の層の厚さの20%以上の高低差を有していない、請求項6に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記被覆部外周域における前記止水剤の層の厚さが、前記絶縁被覆の厚さよりも小さい、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項9】
前記止水部は、前記長手軸方向に沿った全体の端部に相当する、前記被覆部外周域の端部において、前記長手軸方向に沿って外側に向かうほど前記止水剤の層が薄くなったテーパ構造を有している、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の絶縁電線を有する、ワイヤーハーネス。
【請求項11】
導電性材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線において、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を前記絶縁電線の長手軸方向に沿って隣接させて設ける部分露出工程と、
前記露出部における単位長さあたりの前記導電性材料の密度を高めながら、前記露出部における前記素線の間隔を広げる密度変調工程と、
前記絶縁電線の前記露出部を含む領域を、絶縁性材料よりなる止水剤の液に浸漬し、前記素線の間の空間に、前記止水剤を充填する充填工程と、
前記絶縁電線を前記止水剤の液から引き上げる引き上げ工程と、
前記露出部における前記素線の間隔を狭めて前記素線の撚りピッチを小さくする再緊密化工程と、
をこの順に実行し、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の絶縁電線を製造する、絶縁電線の製造方法。
【請求項12】
前記引き上げ工程の後、前記再緊密化工程の前または途中に、前記絶縁電線を軸回転させて、垂下した前記止水剤を、前記絶縁電線の外周に巻き取る巻き取り工程を実行する、請求項11に記載の絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線において、長手軸方向の一部の部位に止水処理が施される場合がある。例えば、特許文献1に、撚線導体と絶縁被覆とを有し、撚線導体は長さ方向に連続しているが絶縁被覆は適当な長さ毎に切断されて長さ方向に不連続になっており、絶縁被覆が切断されて撚線導体が露出した箇所では、撚線導体の素線間の隙間、撚線導体の外周面および絶縁被覆の切断面間の隙間が止水用樹脂で埋められて止水部が形成され、かつ止水用樹脂が絶縁被覆の切断面に接着している止水部付き電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-11771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された形態においては、止水部を形成するに際し、撚線導体が露出した箇所の両側の絶縁被覆の切断面に、止水用樹脂を接着させており、止水部は、撚線導体が露出した箇所にしか形成されていない。この場合には、止水部の機械的強度が弱くなり、止水部またはその近傍において、電線の曲げ等、力学的負荷を受けた際に、十分な止水性能を維持できなくなる可能性がある。例えば、電線を曲げた際に、絶縁被覆との接着界面の近傍において、止水用樹脂に亀裂や折れ等の損傷が発生し、止水性能が低下する可能性がある。特に、特許文献1に図示された形態では、止水部が、ごく短い領域にしか形成されていないが、さらに長い領域にわたって形成される場合には、その長い領域のいずれかの箇所で、力学的負荷の影響を受ける可能性が高まる。
【0005】
そこで、力学的負荷に対して高い耐性を有する止水部を備えた絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネス、またそのような絶縁電線を製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の絶縁電線は、金属材料の素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を長手軸方向に沿って隣接して有し、さらに、前記露出部と、前記被覆部のうち前記露出部に隣接する領域とにわたって、止水剤が配置された止水部を有し、前記止水部は、前記止水剤が、前記露出部における前記素線の間の空間に充填された素線間充填域と、前記止水剤が、前記露出部において、前記導体の外周を被覆する露出部外周域と、前記止水剤が、前記被覆部のうち前記露出部に隣接する領域において、前記絶縁被覆の外周を被覆する被覆部外周域と、を連続して有しており、前記露出部外周域のうち、前記絶縁被覆の厚さによって外径が大きくなっている前記被覆部外周域側の領域を除いた対象域において、最大外径と最小外径の差が、前記最小外径の12%以下となっている。
【0007】
本開示のワイヤーハーネスは、前記絶縁電線を有するものである。
【0008】
本開示の絶縁電線の製造方法は、導電性材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線において、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を前記絶縁電線の長手軸方向に沿って隣接させて設ける部分露出工程と、前記露出部における単位長さあたりの前記導電性材料の密度を高めながら、前記露出部における前記素線の間隔を広げる密度変調工程と、前記絶縁電線の前記露出部を含む領域を、絶縁性材料よりなる止水剤の液に浸漬し、前記素線の間の空間に、前記止水剤を充填する充填工程と、前記絶縁電線を前記止水剤の液から引き上げる引き上げ工程と、前記露出部における前記素線の間隔を狭めて前記素線の撚りピッチを小さくする再緊密化工程と、をこの順に実行し、前記絶縁電線を製造するものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示にかかる絶縁電線、ワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法は、力学的負荷に対して高い耐性を有する止水部を備えた絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネス、またそのような絶縁電線を製造できる方法となっている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線を示す透視側面図である。
図2図2は、止水部の外径に分布のない理想的な形態を強調して示す透視側面図である。ここでは、導体を構成する素線については、図示を省略している。
図3図3は、止水部の外径に分布を有する形態を強調して示す、露出部近傍を拡大した透視側面図である。ここでは、導体を構成する素線については、図示を省略している。
図4図4は、止水部の断面状態の一例を示す断面図である。
図5図5は、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを、両端に接続される機器とともに示す概略側面図である。
図6図6は、上記実施形態にかかる絶縁電線を製造するための各工程を示すフロー図である。
図7図7A~7Cは、上記絶縁電線を製造するための各工程を説明する絶縁電線の断面図であり、図7Aは止水部を形成する前の状態、図7Bは部分露出工程、図7Cは緊密化工程を示している。
図8図8A~8Cは、上記絶縁電線を製造するための各工程を説明する絶縁電線の断面図であり、図8Aは弛緩工程、図8Bは充填工程、図8Cは引き上げ工程を示している。
図9図9A~9Cは、上記絶縁電線を製造するための各工程を説明する絶縁電線の断面図であり、図9Aは巻き取り工程、図9Bは再緊密化工程、図9Cは被覆移動工程を示している。
図10図10は、上記絶縁電線を製造するための工程である硬化工程を示している。
図11図11A,11Bは、絶縁電線を止水剤の液中から引き上げた状態について、導体および止水剤を模式的に示す図であり、図11Aは導体径を太く維持している場合、図11Bは導体径を小さく絞っている場合を示している。
図12図12A,12Bは、止水部の状態を示す写真であり、図12Aは、引き上げ工程の後に再緊密化工程を実施した試料A、図12Bは、引き上げ工程の前に再緊密化工程を実施した試料Bを示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示にかかる絶縁電線は、金属材料の素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、前記絶縁電線は、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を長手軸方向に沿って隣接して有し、さらに、前記露出部と、前記被覆部のうち前記露出部に隣接する領域とにわたって、止水剤が配置された止水部を有し、前記止水部は、前記止水剤が、前記露出部における前記素線の間の空間に充填された素線間充填域と、前記止水剤が、前記露出部において、前記導体の外周を被覆する露出部外周域と、前記止水剤が、前記被覆部のうち前記露出部に隣接する領域において、前記絶縁被覆の外周を被覆する被覆部外周域と、を連続して有しており、前記露出部外周域のうち、前記絶縁被覆の厚さによって外径が大きくなっている前記被覆部外周域側の領域を除いた対象域において、最大外径と最小外径の差が、前記最小外径の12%以下となっている。
【0012】
上記絶縁電線においては、露出部にて露出された導体の素線間の空間に止水剤が充填された素線間充填域、露出部において導体の外周を止水剤が被覆する露出部外周域、被覆部の端部域を止水剤が被覆する被覆部外周域の3つの領域を、連続した止水部として有している。被覆部外周域において、止水剤が、絶縁被覆の外周面に接触して被覆しているため、止水部が素線間充填域と露出部外周域のみを有する場合と比較して、止水部が被覆電線において強固に保持されやすくなり、電線が曲げ等の力学的負荷を受けても、止水部の止水性能が維持されやすい。さらに、露出部外周域のうち、対象域において、最大外径と最小外径の差が、最小外径の12%以下に抑えられていることで、止水部の外径が、長手軸方向に沿って、大きな変化を有さず、均一性の高いものとなっている。そのため、止水部全体において、止水剤が本来示す材料強度を、均一性高く発揮させやすくなっており、曲げ等によって生じる力学的負荷も、止水部全体に均一性高く分散されやすい。その結果、止水部において、外径が小さくなっている箇所等に力学的負荷が集中し、止水性能が低下する事態が起こりにくくなっている。止水部が長い領域にわたって形成される場合にも、その長い領域の中で、外径の均一性が高く保たれていることにより、力学的負荷による止水性能の低下が起こりにくい。
【0013】
ここで、前記対象域において、前記最大外径と前記最小外径の差が、前記最小外径の1%以上であるとよい。この場合には、止水部の外径の均一性を高めるために、過剰な労力を投じることなく、十分に力学的負荷の影響を受けにくい止水部を形成することができる。
【0014】
前記絶縁電線は、前記長手軸方向に沿って、前記露出部の両側に、前記被覆部および前記被覆部外周域を有しており、前記最大外径は、前記対象域を前記長手軸方向に沿って4等分したうち、中央2つの領域のいずれかにおいて得られるとよい。液状の止水剤を用いて止水部を形成する場合に、止水剤の垂下に起因して、止水部の外径の不均一性として、対象域の中央部およびその近傍に、両側の領域よりも、外径の小さい部位が生じやすい。しかし、止水剤の垂下に起因する外径の不均一性の発生を抑制することができれば、対象域の中央部近傍の領域において、両側の領域よりも、外径が大きくなった止水部を形成することができる。つまり、対象域において、最大外径を与える箇所が、長さ方向中部央近傍に存在することは、止水部において、外径の均一性が高くなっていることを示す良い指標となり、その止水部は、長手軸方向に沿った各位置において、力学的負荷に対して、高い耐性を有するものとなる。
【0015】
前記止水部は、前記被覆部のうち前記止水剤が配置されていない箇所の外径よりも、外径が小さくなった部位を有さないとよい。このことは、止水部に、極端に外径が小さくなった部位が設けられていないことを示し、長手方向に沿って外径の均一性が高い止水部となっていることの良い指標となる。
【0016】
前記止水剤の層の厚さは、前記被覆部外周域よりも、前記露出部外周域において、大きくなっているとよい。すると、露出部外周域を構成する止水剤の層が高い強度を示し、力学的負荷が印加された際にも、露出部外周域や素線間充填域に、その負荷が伝わりにくく、露出部において高い止水性能が維持されやすい。例えば、絶縁電線を曲げた際にも、露出部外周域に厚い止水剤の層が存在することにより、露出部の位置に曲げが加えられにくくなる。
【0017】
前記止水部は、前記長手軸方向の端部を除いて、外周面に、前記被覆部外周域における前記止水剤の層の厚さ以上の高低差を有していないとよい。さらには、前記止水部は、前記長手軸方向の端部を除いて、外周面に、前記被覆部外周域における前記止水剤の層の厚さの20%以上の高低差を有していないとよい。すると、対象域を含め、止水部の全域にわたって、外周面が、大きな傾斜構造や凹凸構造を有しておらず、直線的な構造を有していることになる。その結果、止水部が力学的負荷を受けることがあっても、大きな負荷が特定の箇所に集中せず、止水部全体として、高い止水性能を維持しやすい。
【0018】
前記被覆部外周域における前記止水剤の層の厚さが、前記絶縁被覆の厚さよりも小さいとよい。すると、被覆部が、止水剤の層に妨げられずに、曲がりやすい状態に保たれるので、止水部またはその近傍において絶縁電線に曲げが加えられた際に、被覆部が曲げを吸収し、露出部を曲げが加えられない状態に維持しやすい。その結果、露出部における止水性を、高度に維持することができる。
【0019】
前記止水部は、前記長手軸方向に沿った全体の端部に相当する、前記被覆部外周域の端部において、前記長手軸方向に沿って外側に向かうほど前記止水剤の層が薄くなったテーパ構造を有しているとよい。すると、絶縁電線が曲げ等の力学的負荷を受けた際にも、止水部の端部に応力が集中しにくく、止水剤が絶縁被覆に密着した状態が維持されやすい。その結果、高い止水性能が保たれやすくなる。
【0020】
本開示のワイヤーハーネスは、前記絶縁電線を有するものである。本開示のワイヤーハーネスは、上記のように、力学的負荷によって止水性能を損なわれにくい絶縁電線を含んでおり、ワイヤーハーネス全体として、曲げ等の力学的負荷が印加される状況でも、高い止水性能を維持することができる。
【0021】
本開示の絶縁電線の製造方法は、導電性材料よりなる素線が複数撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線において、前記絶縁被覆が前記導体の外周から除去された露出部と、前記絶縁被覆が前記導体の外周を被覆した状態にある被覆部と、を前記絶縁電線の長手軸方向に沿って隣接させて設ける部分露出工程と、前記露出部における単位長さあたりの前記導電性材料の密度を高めながら、前記露出部における前記素線の間隔を広げる密度変調工程と、前記絶縁電線の前記露出部を含む領域を、絶縁性材料よりなる止水剤の液に浸漬し、前記素線の間の空間に、前記止水剤を充填する充填工程と、前記絶縁電線を前記止水剤の液から引き上げる引き上げ工程と、前記露出部における前記素線の間隔を狭めて前記素線の撚りピッチを小さくする再緊密化工程と、をこの順に実行し、前記絶縁電線を製造するものである。
【0022】
上記製造方法においては、充填工程において、絶縁電線の露出部を含む領域を止水剤の液に浸漬した後、引き上げ工程において絶縁電線を止水剤の液から引き上げると、素線間の領域のみならず、露出部を含む領域の外周部にも、止水剤が配置された状態が得られる。素線の間の領域に止水剤を保持しやすくするために、素線の撚りピッチを小さくする再緊密化工程を、引き上げ工程の後に実施することで、引き上げ工程の前に、止水剤の液中で再緊密化工程を完了する場合と比較して、導体径が太い状態で、引き上げ工程を実施することになる。それにより、露出部の外周部に、多量の止水剤が配置された状態を維持したまま、引き上げ工程を実施することができる。すると、引き上げ工程の途中または後の状態において、止水剤が、露出部の中央部をはじめとして、特定の箇所で集中的に垂下するのではなく、長手軸方向に沿って、均一性高く垂下する状態となりやすい。その結果、形成される止水部において、長手軸方向に沿って、外径の均一性が高くなり、各位置で曲げ等の力学的負荷に対して高い耐性を示す止水部を形成しやすい。
【0023】
ここで、前記引き上げ工程の後、前記再緊密化工程の前または途中に、前記絶縁電線を軸回転させて、垂下した前記止水剤を、前記絶縁電線の外周に巻き取る巻き取り工程を実行するとよい。すると、垂下した止水剤を、露出部外周域の表面に残存させ、十分な厚みを有する止水部を形成しやすい。上記のように、再緊密化工程を引き上げ工程の後に実施することで、長手軸方向に沿って、均一性高く止水剤の垂下が起こるため、巻き取り工程によって形成される止水剤の厚みの均一性が、高くなりやすい。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネス、絶縁電線の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
<絶縁電線の構成>
(絶縁電線の概略)
図1に、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線1の概略を示す。また、絶縁電線1の止水部4について、図2に、止水部4の外径に分布を有さない形態を、図3に、止水部4の外径に分布を有する形態を、それぞれ強調して表示している。さらに、図4に、止水部4を絶縁電線1の軸線方向に垂直に切断した断面の一例を示している。
【0026】
本開示の一実施形態にかかる絶縁電線1は、金属材料よりなる素線2aが複数撚り合わせられた導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆3と、を有している。そして、絶縁電線1の長手軸方向の中途部に、止水部4が形成されている。
【0027】
導体2を構成する素線2aは、いかなる金属材料よりなってもよく、銅、アルミニウム、マグネシウム、鉄などの金属材料を用いることもできる。これらの金属材料は、合金であってもよい。合金とするための添加金属元素としては、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン、これらの組み合わせなどが挙げられる。全ての素線2aが同じ金属材料よりなっても、複数の金属材料よりなる素線2aが混合されてもよい。
【0028】
導体2における素線2aの撚り合わせ構造は、特に指定されないが、止水部4を形成する際に、素線2aの間隔を広げやすい等の観点からは、単純な撚り合わせ構造を有していることが好ましい。例えば、複数の素線2aを撚り合わせてなる撚線を複数集合させて、さらに撚り合わせる親子撚構造よりも、全ての素線2aを一括して撚り合わせた構造とする方が良い。また、導体2全体や各素線2aの径も特に指定されるものではないが、導体2全体および各素線2aの径が小さい場合ほど、止水部4において、素線2aの間の微細な隙間に止水剤5を充填して止水の信頼性を高めることの効果および意義が大きくなるので、おおむね、導体断面積を8mm以下、素線径を0.45mm以下とするとよい。
【0029】
絶縁被覆3を構成する材料も、絶縁性の高分子材料であれば、特に指定されるものではなく、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、オレフィン系樹脂等を挙げることができる。また、高分子材料に加えて、適宜フィラーや添加剤を含有してもよい。さらに、高分子材料は架橋されていてもよい。
【0030】
止水部4には、絶縁被覆3が導体2の外周から除去された露出部10が含まれている。そして、露出部10において、導体2を構成する素線2aの間の空間に、止水剤5が充填され、素線間充填域41を構成している。
【0031】
さらに、止水部4は、止水剤5が露出部10の素線2aの間の空間に充填された素線間充填域41と連続して、止水剤5が露出部10の導体2の外周を被覆した露出部外周域42を有している。加えて、止水部4は、それら素線間充填域41および露出部外周域42と連続して、被覆部外周域43を有している。被覆部外周域43は、露出部10の両側に隣接する被覆部20の端部の外周、つまり絶縁被覆3が導体2の外周を被覆したままの状態にある領域のうち、露出部10に隣接する領域において、絶縁被覆3の外周を、止水剤5が被覆してなっている。つまり、止水部4において、止水剤5は、露出部10の一方側に位置する被覆部20の端部の一部分から、他方側に位置する被覆部20の端部の一部分までにわたる領域の外周、好ましくは全周を連続して被覆するとともに、それら外周部と連続して、露出部10の素線2aの間の領域に充填された状態にある。止水部4の構造の詳細については、後述する。
【0032】
止水剤5を構成する材料は、水等の流体を容易に透過させず、止水性を発揮することのできる絶縁性材料であれば、特に限定されないが、絶縁性樹脂組成物、特に、流動性の高い状態で素線2aの間の空間に均一に充填しやすい等の理由で、熱可塑性樹脂組成物、または硬化性樹脂組成物よりなることが好ましい。それらの樹脂組成物を流動性の高い状態で素線2aの間や露出部10と被覆部20の端部の外周に配置した後、流動性の低い状態とすることで、止水性能の高い止水部4を安定して形成することができる。止水剤5の構成材料の好ましい形態については、後述する。
【0033】
上記のように、止水剤5が露出部10の素線2aの間の空間に充填され、素線間充填域41を構成していることで、素線2aの間の領域が止水され、素線2aの間の領域に、水等の流体が外部から侵入するのが抑制される。また、絶縁電線1のある部位において、素線2aの間に水が侵入することがあっても、素線2aを伝って、その水が絶縁電線1の他の部位に移動するのが、抑制される。例えば、絶縁電線1の一端に付着した水が、素線2aの間の空間を、絶縁電線1の他端に向かって移動するのを、抑制することができる。
【0034】
止水剤5が露出部10の導体2の外周部を被覆する露出部外周域42は、露出部10を物理的に保護する役割を果たす。加えて、止水剤5が絶縁性材料よりなる場合には、露出部外周域42は、露出部10の導体2を外部に対して絶縁する役割を果たす。さらに、止水部4が、露出部10に隣接する被覆部20の端部の外周も止水剤5で一体に被覆する被覆部外周域43を有することで、絶縁被覆3と導体2の間の止水も行うことができる。つまり絶縁被覆3と導体2の間の空間に水等の流体が外部から侵入するのが抑制される。また、絶縁電線1のある部位において、絶縁被覆3と導体2の間に水が侵入することがあっても、絶縁被覆3と導体2の間の空間を伝って、その水が絶縁電線1の他の部位に移動するのが、抑制される。例えば、絶縁電線1の一端に付着した水が、絶縁被覆3と導体2の間の空間を、絶縁電線1の他端に向かって移動するのを、抑制することができる。止水部4が、素線間充填域41および露出部外周域42と連続して被覆部外周域43を備えることにより、止水部4全体として、高い機械的強度が得られ、止水部4による止水構造を、絶縁電線1において安定に保持しやすくなる。その結果、絶縁電線1に曲げ等の力学的負荷が印加された場合にも、止水部4における止水構造を強固に維持することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、需要の大きさや、素線2aの間隔の広げやすさ等の観点から、止水部4を、絶縁電線1の長手軸方向中途部に設けており、長手軸方向に沿って、露出部10の両側に、被覆部20および被覆部外周域43を有しているが、同様の止水部4を、絶縁電線1の長手軸方向端部に設けてもよい。その場合、絶縁電線1の端部は、端子金具等、別の部材を接続した状態にあっても、何も接続していない状態にあってもよい。また、止水剤5に被覆された止水部4の中に、導体2および絶縁被覆3に加えて、接続部材等、別の部材を含んでもよい。別の部材を含む場合の例として、複数の絶縁電線1を接合したスプライス部を含んで、止水部4を設ける形態を挙げることができる。
【0036】
止水部4の外周には、樹脂材料等よりなるチューブやテープ等の保護材を設けてもよい。保護材の設置により、外部の物体との接触等、物理的刺激から、止水部4を保護することができる。また、止水剤5が硬化性樹脂より構成される場合等に、止水剤5が経年劣化を起こすことで、止水部4が屈曲や振動を印加された際に、止水剤5に損傷が生じる可能性があるが、止水部4の外周に保護材を設けておくことにより、そのような損傷の発生を低減することが可能となる。止水部4への曲げや振動の影響を効果的に低減する観点から、保護材は、少なくとも、止水部4を構成する止水剤5よりも、剛性の高い材料よりなることが好ましい。保護材は、例えば、接着層を有するテープ材を、止水部4を含む絶縁電線1の外周に螺旋状に巻き付けることで、配置することができる。
【0037】
(止水剤の構成材料)
上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1において、止水部4を構成する止水剤5は、硬化性樹脂組成物よりなることが好ましい。硬化性樹脂としては、熱硬化性、光硬化性、湿気硬化性、二液反応硬化性、嫌気硬化性等の硬化性をいずれか1つまたは複数有するものであるとよい。好ましくは、止水剤5は、短時間での硬化性に優れる等の観点から、光硬化性または嫌気硬化性を有するものであることが好ましく、さらには、それらの硬化性を両方有しているとよい。
【0038】
止水剤5を構成する具体的な樹脂種は、特に限定されるものではない。シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等を例示することができる。これらの樹脂材料には、適宜、止水剤としての樹脂材料の特性を損なわない限りにおいて、各種添加剤を添加してもよい。また、構成の簡素性の観点からは、止水剤5を1種のみ用いることが好ましいが、必要に応じて、2種以上を混合または積層等して用いてもよい。
【0039】
止水剤5としては、充填時の状態において、4000mPa・s以上、さらには5000mPa・s以上の粘度を有する樹脂組成物を用いることが好ましい。素線2aの間の領域や外周域、特に外周域に、止水剤5を配置した際に、流出や垂下等を起こさずに、それらの領域に均一性の高い状態で保持されやすいからである。一方、止水剤5の充填時の粘度は、200,000mPa・s以下、さらには10,000mPa・s以下に抑えられていることが好ましい。粘度が高すぎると、止水剤5を素線2aの間の領域に十分に浸透させることが難しくなるからである。また、上記の下限と上限の間の粘度を有する樹脂組成物は、止水部4の形成工程において、露出部10を止水剤5の液に浸漬して引き上げる際に、図11A,11Bに図示されるように、導体2の下方に、先細り形状で連続した形状の垂下部5bを形成しやすい。このような先細り形状の垂下部5bが形成されやすいほど、後に説明するように、本開示の実施形態にかかる絶縁電線の製造方法において、引き上げ工程の後に再緊密化工程を実施するという順序を経ることによって、長手軸方向に沿って外径の均一性の高い止水部4を形成する効果が高くなる。
【0040】
また、止水剤5は、硬化後の状態で、絶縁被覆3よりも、高い弾性率を有するものであることが好ましい。止水剤5が高い弾性率を有することは、止水剤5が硬く、力学的に変形を起こしにくいことを意味する。よって、止水剤5が絶縁被覆3よりも高い弾性率を有することで、絶縁電線1に力学的負荷が印加された際に、止水部4にその負荷が及びにくくなり、止水部4の止水性能を維持しやすくなる。例えば、絶縁電線1が止水部4の近傍で曲げられる際に、曲げが止水部4には形成されず、止水剤5に被覆されていない被覆部20に形成されやすくなる。ここで、止水剤5および絶縁被覆3の弾性率は、曲げ弾性率として評価することができ、例えば、JIS K 7171:2016に準拠した曲げ試験によって実測することができる。
【0041】
さらに好ましくは、止水剤5の弾性率が、絶縁被覆の弾性率の1.2倍以上であるとよい。止水剤5の具体的な弾性率は、特に限定されるものではないが、室温における曲げ弾性率で、200MPa以上、さらには220MPa以上であるとよい。
【0042】
止水剤5が硬いほど、力学的負荷による止水性能への影響を低減しやすくなるので、止水剤5の弾性率に、特に上限は設けられない。しかし、止水剤5が硬すぎても、絶縁被覆3全体として、曲げを伴う配策等における取り扱い性が低くなるうえ、絶縁被覆3との界面またはその近傍において、かえって、亀裂や折れ等の損傷を生じやすくなる可能性があるので、止水剤5の弾性率は、絶縁被覆3の弾性率の2倍以下に抑えておくことが好ましい。また、止水剤5の弾性率を、室温における曲げ弾性率で300MPa以下程度に抑えておくとよい。
【0043】
(止水部の構造)
ここで、止水部4の構造について、好ましい形態を挙げて説明する。
【0044】
(1)外形および外周域の厚さ
まず、図2,3を参照しながら、止水部4全体としての外形、そして露出部外周域42および被覆部外周域43における止水剤5の層の厚さについて、好ましい形態を説明する。
【0045】
本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4は、理想的には、図2に示すように、外周面が、傾斜構造や凹凸構造を有しておらず、直線的な構造を有していることが好ましい。しかし、実際に止水部4を形成する場合に、そのように直線的な止水部4を形成することは難しく、図3に強調して示すように、止水部4の表面に凹凸構造が形成され、止水部4の外径に不均一な分布が生じる場合が多い。本実施形態にかかる絶縁電線1においては、止水部4の露出部外周域42のうち、両端部を除いた対象域Rにおいて、外径の最大値である最大外径D1と、外径の最小値である最小外径D2の差ΔD(=D1-D2)の、最小外径D2に対する割合として定義される差分率が、12%以下となっている(ΔD/D2≦0.12)。
【0046】
ここで、対象域Rは、露出部外周域42のうち、絶縁被覆3の厚さによって外径が大きくなっている被覆部外周域43側の領域を除いた領域を指す。つまり、被覆部外周域43においては、絶縁被覆3の外周を止水剤5が被覆していることにより、導体2のみの外周を止水剤5が被覆している露出部外周域42よりも、止水部4の外径が大きくなっており、それら外径の異なる領域42,43の連続性から、露出部外周域42のうち、被覆部外周域43に隣接する端部の領域においては、他の領域に比べて外径が大きくなっている場合が多い。このように、露出部外周域42のうち、被覆部外周域43の影響を受けて外径が大きくなっている箇所を除いた領域を、対象域Rとして考慮する。露出部外周域42のうち、絶縁被覆3の厚さによって外径が大きくなっており、対象域Rから除かれる被覆部外周域43側の領域の長さは、露出部外周域42の全体の長さの10%以上、また40%以下程度である。また、おおむね、被覆部20の露出部10側の端縁において絶縁被覆3が占める径方向位置よりも、止水部4の表面の径方向位置の方が外側となっている領域を、露出部被覆域42の両端において、対象域Rから除くようにすればよい。図示した形態のように、露出部外周域42の両側に被覆部外周域43が存在する場合には、露出部外周域42の両側のそれぞれから、露出部外周域42の全体の長さの10~40%等、被覆部外周域43の存在の影響を受けている箇所を除外して、対象域Rが設定される。なお、止水部4の外径は、着目している箇所の断面を横切る直線のうち、最長の直線の長さを指すものとする(以降においても同様)。
【0047】
本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、露出部外周域42の対象域Rにおいて、差分率ΔD/D2が、12%以下となっており、そのことは、露出部外周域42において、外径の不均一な分布が小さく、表面に凹凸が少ないことが示す指標となる。つまり、露出部外周域42の形状が、図2に示したように、直線的な形状に近いことになる。このように、露出部外周域42において、外径の不均一な分布が小さくなっていることは、露出部外周域42における止水剤5の層の厚さの不均一性が小さいことを意味しており、露出部外周域42の全域において、止水剤5の構成材料が本来有する材料強度を、十分に発揮させやすくなる。もし、止水剤5の層の厚さに、大きな不均一性が存在すると、絶縁電線1を止水部4において曲げた際に、止水剤5の層の薄い箇所、つまり、最小外径D2を与える箇所をはじめとして、外径の小さい箇所に、力学的負荷が集中してしまう。すると、曲げが行いにくくなるうえ、その力学的負荷が集中する箇所において、止水剤5の層に、折損や亀裂等の損傷が発生し、止水性能が低下してしまう可能性がある。しかし、露出部外周域42において、差分率ΔD/D2を12%以下に維持し、外径の不均一性を低減しておくことで、特定の箇所に曲げ等による力学的負荷が集中する事態を、抑制することができる。その結果、均一な曲げを実行しやしくなるとともに、曲げに伴う損傷の発生および止水性能の低下が起こりにくくなる。差分率ΔD/D2が、10%以下、さらには6%以下であると、それらの効果に特に優れる。露出部外周域42における差分率ΔD/D2が小さく抑えられた止水部4は、後に本開示の実施形態にかかる絶縁電線の製造方法として詳しく説明するように、露出部10を含む領域を止水剤5の液中に浸漬して引き上げたうえで、露出部10における導体2の撚りを緊密化するという工程を経ることで、好適に製造することができる。
【0048】
露出部外周域42の特定箇所への外力による負荷の集中を避け、高い止水性能を確保する観点からは、差分率ΔD/D2に特に限は設けられず、小さいほど好ましい。つまり、図2に示したように、露出部外周域42が理想的な直筒形状である場合が、最も好ましいことになる。しかし、実際の絶縁電線1において、止水部4を形成する場合に、そのように理想的な形状の止水部4を形成することは、実質的に不可能である。差分率ΔD/D2が、1%以上、さらには3%以上程度の止水部4であれば、過剰な労力を要さずに、形成することができ、外力の影響を効果的に低減することができる。
【0049】
止水部4において、最小外径D2を与える箇所等、外径が細くなった箇所は、露出部外周域42のうち、中央部(およびその近傍;以下においても同様)に形成されやすい。その理由は以下のとおりである。止水部4を形成する際に、後に説明する製造方法でも採用しているように、止水剤5の液中に露出部10を含む領域を浸漬した後、止水剤5からそれらの領域を引き上げる工程をはじめ、液状の止水剤5を露出部10を含む領域に配置した状態において、止水剤5の垂下が起こりやすいが、その垂下は、露出部10の中央部にて大きく起こりやすい(図11A,11B参照)。すると、露出部10の中央部において、露出部10の外周に留まり、露出部外周域42となる止水剤5の量が、垂下によって減少してしまう。その結果として、露出部外周域42の中央部において、端部と比較して、止水剤5の層が薄くなり、外径が小さくなってしまう。このように、露出部外周域42の中央部において、外径が小さくなると、差分率ΔD/D2が大きくなりやすい。
【0050】
このように、露出部外周域42の中央部の小径化により、差分率ΔD/D2が大きくなるのを避ける観点から、本実施形態にかかる絶縁電線1においては、対象域Rを長手軸方向に沿って4等分した4つの領域R1~R4のうち、中央の領域R2,R3のいずれかにおいて、最大外径D1が得られることが好ましい。このことは、対象域Rの両端部に比べて、中央部が膨らんでいることを意味する。最小外径D2が、両側の領域R1,R4のいずれかにおいて得られると、さらに好ましい。止水部4において、中央の領域R2,R3の外径を大きくし維持し、最大外径D1を与える箇所を、それらの領域R2,R3に配置する方法としては、後に詳しく説明するように、露出部10を止水剤5の液中に浸漬して引き上げたうえで、露出部10における導体2の撚りを緊密化するという順序で操作を行う方法を、好適に採用することができる。さらに、止水剤5から引き上げた絶縁電線1を軸回転させて、垂下している止水剤5を絶縁電線1の外周に巻き取る操作を行えば、露出部外周域42の中央部の外径を大きくしやすい。さらには、露出部外周域42を3等分した3つの領域のうち、中央の領域において、最大外径D1が得られ、また、両側のいずれかの領域において、最大外径D2が得られるとよい。また、最大外径D1を与える位置が、対象域Rを4等分したうち中央の2つの領域R2,R3のいずれか、また3等分したうち中央の領域に存在することの代わりに、あるいはそれに加えて、外径の平均値が、対象域Rを4等分したうち中央の2つの領域R2,R3のそれぞれ、また3等分したうち中央の領域において、両側の領域(4等分した場合には領域R1,R4)よりも大きくなっていることを、止水部4の中央部が膨らんでいることの指標としてもよい、
【0051】
さらに、露出部外周域42の中央部の小径化により、差分率ΔD/D2が大きくなるのを避けるための別の指標として、絶縁電線1の被覆部20のうち、止水部4が配置されていない箇所の外径よりも、外径が小さくなった箇所を、止水部4が有さないことが、好ましい。止水部4は、被覆部20の端部の外周域を含んで形成されるため、まっすぐな形状を有していれば、止水部4の全域において、被覆部20のうち止水部4が配置されていない箇所の外径よりも、外径が大きくなっているはずである。しかし、最小外径D2を与える箇所等において、止水部4の外径が、その被覆部20の外径よりも小さくなっているとすれば、止水部4がまっすぐな形状を有しておらず、外径に大きな不均一性が生じていることになる。そこで、止水部4が、被覆部20のうち止水部4が配置されていない箇所の外径よりも、外径が小さくなった部位を有していないことが、止水部4全体において外径の均一性が高くなっていることの、良い指標となる。
【0052】
以上のように、止水部4の露出部外周域42において、差分率ΔD/D2を小さくすること、また中央の領域R2,R3における外径を大きくすることで、力学的負荷の影響を低減し、止水性能を高く保つ効果は、長い露出部10を止水部4で被覆し、露出部外周域42を形成している場合の方が、高く得られる。例えば、長手軸方向に沿った露出部10の長さが、露出部10における導体2の外径の3倍以上、さらには5倍以上であるとよい。
【0053】
さらに、本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、図2に示すように、露出部外周域42における止水剤5の層の厚さLaが、被覆部外周域43における止水剤5の層の厚さLbよりも大きくなっているとよい(La>Lb)。止水剤5の層が厚いほど、止水剤5の層が高い材料強度を示すため、止水部4に、曲げ等の力学的負荷が印加されにくくなり、また、力学的負荷が印加されたとしても、その影響が小さく抑えられる。よって、止水剤5の層の厚さが、被覆部外周域43よりも露出部外周域42で大きくなっていることにより、止水部4が、露出部10の箇所において、力学的負荷による止水性能への影響を受けにくくなる。例えば、止水部4またはその近傍の領域に曲げが加えられる際に、止水部4のうち、露出部10に相当する箇所には、曲げが形成されにくくなる。なお、露出部外周域42および被覆部外周域43における止水剤5の層の厚さLa,Lbが、長手軸方向に分布を有している場合には、それぞれの平均値が、上記所定の関係を満たすようにすればよい。以下においても同様である。
【0054】
La>Lbの関係を満たす結果、素線間充填域41や露出部外周域42を構成する止水剤5に、曲げによる負荷に起因する亀裂等の損傷が生じにくくなり、高い止水性能を維持する効果に優れる。止水部4の中でも、被覆部20に相当する領域であれば、曲げを受けて、止水剤5の損傷が発生したとしても、止水部4の止水性能にそれほど大きな影響を与えない可能性が高いが、露出部10の箇所で曲げを受けて、素線間充填域41や露出部外周域42を構成する止水剤5に損傷が発生すると、素線2aの間の空間への水の侵入を十分に抑制することが難しくなり、止水部4の止水性能に大きな影響を与えやすい。そこで、止水剤5の層の厚さを、被覆部外周域43よりも露出部外周域42で大きくしておくことで、曲げ等の力学的負荷による止水性能への影響がより深刻になる露出部10の箇所を、力学的負荷の印加から、優先的に保護することができる。露出部外周域42における止水剤5の層の厚さLaが、被覆部外周域43における止水剤5の層の厚さLbの、1.5倍以上であると、さらに好ましい。
【0055】
さらに、被覆部外周域43における止水剤5の層の厚さLbは、絶縁被覆3の厚さLcよりも小さいことが好ましい(Lb<Lc)。止水剤5の層が薄いほど、その箇所で絶縁電線1が曲がりやすくなるため、被覆部外周域43において、絶縁被覆3の外周に設けられた止水剤5の層が、絶縁被覆3の層よりも薄く形成されていることで、止水剤5の層が絶縁被覆3の可撓性を妨げにくいため、止水部4が被覆部20の領域で曲がりやすくなる。上記のように、止水剤5の層の厚さが、被覆部外周域43よりも露出部外周域42で大きくなっていること(La>Lb)の効果と合わせて、止水部4の箇所で絶縁電線1に曲げが加えられる際に、露出部10ではなく、被覆部20の領域で、止水部4が曲がりやすくなる。このように、止水部4に加えられる曲げを、被覆部外周域43で吸収し、素線間充填域41や露出部外周域42に曲げが加えられにくくしておくことで、導体2の止水において特に重要な役割を果たす素線間充填域41や露出部外周域42の止水剤5に、曲げに起因して亀裂等の損傷が発生し、十分な止水性能を維持できなくなる事態を、抑制しやすくなる。被覆部外周域43における止水剤5の層の厚さLbが、絶縁被覆3の厚さLcの80%以下であると、さらに好ましい。
【0056】
止水部4の全体形状として、止水部4は、長手軸方向両端部にテーパ部44を有することが好ましい。つまり、止水部4は、全体としての端部に相当する被覆部外周域43の端部において、長手軸方向に沿って外側(露出部10と反対側)に向かうほど、止水剤5の層が薄くなったテーパ構造を有しているとよい。このようなテーパ部44が形成されることで、止水部4を構成する止水剤5を、絶縁被覆3の外周面に、強固に密着させやすくなる。すると、止水部4が高い止水性を発揮する状態を維持しやすくなる。特に、止水部4やその近傍で、絶縁電線1に曲げ等の力学的負荷が加えられた際にも、テーパ部44の存在により、応力が止水部4の端部に集中しにくく、被覆部外周域43の層が、絶縁被覆3の表面から剥離しにくい。その結果、負荷の影響による止水性能の低下を抑制することができる。
【0057】
さらに、止水部4は、テーパ部44等、長手軸方向の端部の一部領域を除いて、長手軸方向に沿ってまっすぐな形状、つまり、直筒に近似できる外面形状を有していることが好ましい。これは、上記で説明したように、対象域Rにおける差分率ΔD/D2の小ささを指標として示される、露出部外周域42における止水剤5の層の厚さ分布の小ささに加え、被覆部外周域43まで含む止水部4全体としても、止水剤5の層の厚さ分布が小さく、止水部4が全体としてまっすぐな形状を有することを意味する。止水部4がまっすぐな形状を有していることで、止水部4の特定の箇所に力学的負荷が集中し、その箇所において亀裂等の損傷が進行する事態を避けやすくなる。すると、止水部4全体として、高い止水性能を維持しやすくなる。止水部4がまっすぐな形状を有していることの指標として、例えば、止水部4の外周面に、被覆部外周域43における止水剤5の層の厚さLb以上の高低差を有する構造が形成されていないことが好ましい。止水部4の外周面に高低差を生じうる構造としては、凹凸構造や傾斜面構造を挙げることができるが、それらの構造がいずれも形成されていないか、高低差が小さく抑えられていることで、力学的負荷の集中印加を避けやすくなる。好ましくは、被覆部外周域43における止水剤5の層の厚さLbの20%以上の高低差が、形成されていないとよい。止水部4の外周面の高低差は、止水部4の外径の差に対応づけることができ、高低差そのものの代わりに、止水部4の外径の分布によって評価してもよい。つまり、止水部4の外径の分布として、被覆部外周域43における止水剤5の層の厚さLb以上の差を有する分布が形成されていないこと、さらには、その厚さLbの20%以上の差を有する分布が形成されていないことが好ましい。
【0058】
(2)止水部における導体の状態
次に、止水部4において、止水剤5に囲まれた導体2について、好ましい形態を説明する。上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、露出部10として露出している導体2の素線2aの間に、止水剤5を浸透させて硬化させている。露出部10を構成する導体2の状態は、絶縁被覆3に被覆された被覆部20における導体2の状態と同じであっても構わないが、異なる状態を有している方が、素線2aの間の空間への止水剤5の浸透および保持において、有利である。
【0059】
まず、絶縁電線1において、金属材料の単位長さあたり(絶縁電線1の長手軸方向における単位長さあたり)の金属材料の密度が、均一になっておらず、不均一な分布を有しているとよい。なお、絶縁電線1の長手軸方向全域にわたって、各素線2aは連続した略均一な径の線材として設けられており、本明細書において、金属材料の単位長さあたりの密度が領域間で異なる状態とは、素線2aの径や本数は一定であるが、撚り合わせの状態等、素線2aの集合状態が変化している状態を指す。
【0060】
具体的には、導体2における単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部10において、被覆部20よりも高くなっているとよい。ただし、被覆部20において、露出部10にすぐ隣接する隣接域21においては、部分的に、露出部10よりも単位長さあたりの金属材料の密度が低くなっている可能性がある。つまり、単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部10において、被覆部20全体のうち、少なくとも、そのような隣接域21を除いた遠隔域22よりも高くなっている。遠隔域22においては、単位長さあたりの金属材料の密度をはじめとする導体2の状態は、止水部4を設けないままの絶縁電線1における状態と実質的に等しい。なお、隣接域21において、単位長さあたりの金属材料の密度が低くなりうる理由としては、露出部10への金属材料の充当、露出部10と被覆部20の間の連続性確保のための導体2の変形等を挙げることができる。
【0061】
例えば図10に、上記のような金属材料の密度の分布を含む導体2の状態を模式的に示している。図7A図10においては、導体2が占める領域の内部に斜線を付しているが、その斜線の密度が高いほど、素線2aの撚りピッチが小さい、つまり素線2aの間隔が狭いことを示している。また、導体2として示している領域の幅(上下の寸法)が広いほど、導体2の径が大きく広がっていることを示している。ただし、それら図示したパラメータは、素線2aの撚りピッチおよび導体径に比例するものではなく、領域ごとの相対的な大小関係を模式的に示すものである。また、図示したパラメータは、各領域の間で不連続になっているが、実際の絶縁電線1においては、導体2の状態が領域間で連続的に変化している。
【0062】
露出部10において、単位長さあたりの金属材料の密度を高め、単位長さあたりに含まれる素線2aの実長を長くすることで、絶縁電線1の製造方法として後に詳しく説明するように、素線2aを撓ませて、素線2aの間隔を広く取り、素線2aの間に大きな空間を確保した状態で、素線2aの間の空間への止水剤5の浸透を行うことができる。その結果、素線2aの間の空間に止水剤5を浸透させやすくなり、露出部10の各部に、止水剤5を、高い均一性をもって充填しやすくなる。なお、図10では、金属材料の密度の変化が分かりやすいように、露出部10において、被覆部20の遠隔域22よりも、導体2の径が大きく広がった状態を表示しているが、そのように露出部10の導体径が広がっている必要はなく、むしろ、止水部4の小型化の観点から、図2に示すように、露出部10における導体径も、被覆部20の導体径と同程度であることが好ましい。
【0063】
さらに、露出部10においては、単位長さあたりの金属材料の密度が、被覆部20の遠隔域22における密度よりも高くなっていることに加え、素線2aの撚りピッチが、被覆部20の遠隔域22における撚りピッチよりも小さくなっていることが好ましい。露出部10において、素線2aの撚りピッチが小さくなり、素線2aの間隔が狭くなっていることも、止水性能の向上に効果を有するからである。つまり、止水剤5が液状のまま素線2aの間の空間に充填された、止水部4の形成途中の状態において、素線2aの間隔を狭めておくことで、止水剤5を、垂下したり流出したりすることなく、素線2aの間の空間に均一に留まらせやすい。その状態から、止水剤5を硬化させると、露出部10において、高い止水性能が得られる。また、露出部10において、撚りピッチが遠隔域22よりも小さくなっていることで、単位長さあたりの金属材料の密度が遠隔域22よりも高くなっていても、露出部10における導体径を、遠隔域22における導体径との比較において、過度に大きくならないように、抑えることができる。すると、止水部4全体としての外径が、遠隔域22における絶縁電線1の外径に比べて、同程度、あるいは著しくは大きくならないように抑えることが可能となる。
【0064】
(3)露出部における止水部の断面の状態
次に、止水部4のうち、露出部10にあたる領域の断面構造の好ましい形態について説明する。上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1の止水部4においては、露出部10の導体2を構成する素線2aの間の空間に、止水剤5が配置された素線間充填部41が形成されるとともに、導体2の外周を止水剤5で被覆した露出部外周域42が形成されていることにより、露出部10において、高い止水性能が発揮されるが、露出部10における止水部4の断面の状態を制御することで、さらに止水性能を高めることが可能となる。以下、露出部10における止水部4の断面の好ましい状態について説明する。
【0065】
図4に示すように、止水部4においては、止水剤5の表面5aに囲まれた領域において、素線2aの表面が、止水剤5または他の素線2aに接触していることが好ましい。換言すると、導体2に含まれる素線2aの表面の各領域が、止水剤5か、その素線2aに隣接する他の素線2aのいずれかと接触しており、止水剤5が欠損した箇所に空気が満たされた気泡Bや、その気泡Bに水等の液体が侵入して形成された液胞等、止水剤5および素線2aの構成材料以外の物質には接触していないことが好ましい。止水剤5は、素線2aの間の空間に、密に充填され、気泡B等を介さずに、素線2aの表面に密着しているとよい。
【0066】
当該構成とすると、気泡Bを介して素線2aの間の領域に止水部4の外から水が侵入する事態や、外力が印加された際等に、気泡Bが原因で水の侵入経路となりうる損傷が発生する事態が、起こりにくくなる。よって、止水部4において、素線2aの間の領域に水が侵入するのを、各素線2aの表面に密着した止水剤5により、特に効果的に抑制することが可能となる。また、電線端末等、絶縁電線1のある部位において素線2aの間に侵入した水が、素線2aを伝って、被覆部20等、絶縁電線1の他の部位に移動するのも、効果的に抑制することができる。このように、素線2aに接触した気泡Bを排除することで、露出部外周域42の層の厚さLaを被覆部外周域43の層の厚さLbよりも大きくしていること等の効果と合わせて、力学的負荷の印加による止水性能の低下を抑制しやすくなる。
【0067】
ここで、素線2aの表面の各領域は、止水剤5と他の素線2aのいずれに接触していてもよいが、止水剤5に接触している方が、素線2aに止水剤5が直接密着することで、その素線2aへの水の接触を、特に効果的に抑制し、高い止水性能を発揮することができる。しかし、素線2aの表面が他の素線2aに接触する場合でも、隣接する2本の素線2aが接触した接触界面に、水が侵入することができず、十分に高い止水性能を確保することができる。素線2aに接触する気泡Bが形成されていないことで、隣接する素線2aの位置関係のずれも起こりにくく、隣接する素線2aの間の接触界面に水が侵入できない状態が、維持される。
【0068】
止水部4の断面には、素線2aに接触した気泡B以外に、素線2aには接触せず、全周を止水剤5に囲まれた気泡Bが形成される場合がある。理想的は、止水剤5の表面5aに囲まれた領域に、どのような種類の気泡Bも含まれていない形態が好ましいが、素線2aに接触した気泡Bでなければ、気泡Bが存在していても、止水部4の止水性能を大きく低下させるものとはならない。例えば、導体2が占める領域よりも外側に、全周を止水剤5に囲まれた気泡Bが存在していてもよい。図4に示した形態でも、全周を止水剤5に囲まれた気泡Bが、導体2の外側の領域に存在している。
【0069】
なお、上記のように、素線2aに接触した気泡Bは、止水性能の低下の要因となるが、要求される止水性能の水準が低い場合等には、素線2aに接触した気泡Bが、少量であれば、また小さいものであれば、存在していても、絶縁電線1の止水性能および防水性能に大きな影響を与えない場合もある。例えば、止水部4の断面において、素線2aに接触した気泡Bの断面積の合計が、素線2aの断面積の合計に対して、5%以下であるとよい。また、素線2aに接触した気泡Bのそれぞれの断面積が、1本の素線2aの断面積に対して、80%以下であるとよい。一方、止水剤5に全周を囲まれ、素線2aには接触していない気泡Bであっても、素線2aに近接していると、止水部4の止水性能に影響を及ぼす場合がある。そこで、気泡Bと素線2aの間には、素線2aの線径の30%以上の間隔が保持され、その間隔の間に、止水剤5が充填されているとよい。
【0070】
さらに、止水部4の断面においては、導体2の外周部に位置する素線2aが、それよりも内側に位置する素線2aよりも、扁平な形状を有していることが好ましい。図4でも、導体2の外周部に位置する素線2a1が、略楕円径の扁平な断面を有している。それら導体2の外周部に位置する素線2a1よりも内側に位置する素線2a2は、扁平度の低い断面を有している。なお、各素線2a自体の軸線方向に垂直な断面は、略円形であり、止水部4における扁平な断面形状は、素線2a自体の断面形状ではなく、下に説明するように、導体2中での素線2aの配置によって生じるものである。
【0071】
導体2を構成する素線2aが、比較的傾斜角の小さい緩やかな螺旋状に撚り合わせられている場合には、各素線2aの軸線方向が、絶縁電線1の長手軸方向に近い方向に延びているので、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面において、素線2aの断面は、円形に近い扁平度の低いものとなる。しかし、導体2を構成する素線2aが、比較的傾斜角の大きい急な螺旋状に撚り合わせられている場合には、各素線2aの軸線方向が、絶縁電線1の長手軸方向に対して、大きく傾斜した方向に延びているので、絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した際に、各素線2aの軸線方向に対して斜めに切断することになる。よって、素線2aの断面は、楕円形に近似できる扁平なものとなる。これらのことから、上記のように、止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1が、それよりも内側に位置する素線2a2よりも扁平な形状を有しているということは、導体2の外周部に位置する素線2a1の方が、内側の素線2a2よりも、傾斜角の大きい急な螺旋状に撚られていることを意味する。
【0072】
上記のように、止水剤5を流動性の高い状態で素線2aの間の領域に充填した後、流動性を下げることで、止水部4を形成することができるが、流動性の高い状態の止水剤5を素線2aの間の空間に充填した状態で、導体2の外周部に位置する素線2a1を、傾斜角の大きい急な螺旋状に撚った状態としておくことで、充填された止水剤5が、導体2の外部への流出や漏出を起こしにくくなり、素線2aの間の領域に均一性高く充填された状態に留まりやすい。その結果、素線2aの間に十分な量の止水剤5が充填され、高い止水性能を示す止水部4を形成しやすくなる。特に、後に絶縁電線1の製造方法として説明するように、被覆部20から露出部10へと素線2aを繰り出しながら、露出部10における素線2aの間隔を広げた状態で、素線2aの間の空間に止水剤5を充填するとともに、充填後に露出部10における素線2aの間隔を狭めて撚りピッチを小さくする(再緊密化)、という製造方法をとる場合には、導体2の外周部の素線2a1の断面形状が扁平になりやすく、素線2aの間の空間に止水剤5を保持しやすくする効果に優れる。このように、導体2の外周部に位置する素線2a1の断面形状が扁平になっていることは、高い止水性能を示す止水部4を形成するうえで、指標の1つとなる。
【0073】
素線2aの断面形状が扁平となっている程度を評価する具体的な指標として、楕円率を用いることができる。楕円率は、断面形状において、短軸の長さ(短径)を長軸の長さ(長径)で除したものである(短径/長径)。楕円率の値が小さいほど、断面形状が扁平であることを示す。止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率が、それよりも内側に位置する素線2a2の楕円率よりも小さな値をとることが好ましい。さらに、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率は、0.95以下であることが好ましい。すると、上記のように、素線2aの間に十分な量の止水剤5を保持し、高い止水性能を有する止水部4を構成する効果に優れる。一方、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率は、0.50以上であることが好ましい。すると、上記のような止水性能向上の効果を飽和させない範囲で、導体2の外周部の素線2a1と内側部分の素線2a2の間での実長の差を、小さく抑えることができる。
【0074】
止水部4の断面において、導体2の外周部に位置する素線2a1の楕円率が、それよりも内側に位置する素線2a2の楕円率よりも小さくなっていることに加え、それら止水部4の断面における素線2a1,2a2の楕円率、特に外周部に位置する素線2a1の楕円率が、被覆部20(特に遠隔域22)を絶縁電線1の長手軸方向に垂直に切断した断面における素線2aの楕円率よりも小さくなっていることが好ましい。このことは、素線2aの撚りピッチが、止水部4を構成する露出部10において、被覆部20におけるよりも小さくなっていることを示すものとなる。上記のように、露出部10における素線2aの間隔を広げた状態で、素線2aの間の空間に止水剤5を充填するとともに、充填後に露出部10における素線2aの間隔を狭めて撚りピッチを小さくする(再緊密化)、という製造方法をとる場合に、素線2aの間の空間に止水剤5を保持しやすくする効果に優れるが、再緊密化工程において、露出部10における素線2aの撚りピッチを、被覆部20における撚りピッチよりも狭めることで、止水剤5を素線2aの間の空間に保持する効果が、特に高くなる。よって、断面における素線2aの楕円率が、露出部10において、被覆部20よりも小さくなっていることも、高い止水性能を示す止水部4を形成するうえで、良い指標となる。
【0075】
さらに、止水部4の素線間充填域41において、素線2aの間の空間に十分な量の止水剤5が充填されているかを評価する指標として、止水剤充填率を用いることができる。止水剤充填率は、止水部4の断面において、導体2が占める領域および導体2に囲まれた領域の面積の合計(A0)のうち、素線2aの間に止水剤5が充填された領域の面積(A1)の割合として定義される(A1/A0×100%)。例えば、止水部4の断面において、導体2の外周部の素線2a1の中心を結んだ多角形の領域の面積(A0)を基準として、その領域の中で止水剤5が充填された領域の面積(A1)の割合として、止水剤充填率を求めることができる。例えば、この止水剤充填率が5%以上、さらには10%以上であれば、止水性能の確保に十分な量の止水剤5が素線2aの間の空間に充填されていると言える。一方、過剰量の止水剤5の使用を避ける観点から、止水剤充填率は、90%以下に抑えておくことが好ましい。
【0076】
また、上記のように、素線2aの表面は、気泡Bに接触していないことが好ましく、止水剤5に接触していても、他の素線2aに接触していてもよいが、止水剤5に接触している方が、高い止水性能を確保しやすい。この観点から、止水部4の断面で、素線2aの周において、気泡Bや隣接する素線2aではなく止水剤5に接触している部位の長さの合計が、全素線2aの周長の合計のうち、80%以上であることが好ましい。また、隣接する素線2aの間隔が十分に空いている方が、素線2aの間の空間に止水剤5を充填しやすいため、止水部4の断面において、止水剤5に占められ、かつ隣接する素線2aとの間隔が、素線2aの外径の30%以上である箇所が、存在しているとよい。
【0077】
<ワイヤーハーネスの構成>
本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネス6は、上記本開示の一実施形態にかかる止水部4を備えた絶縁電線1を有している。図5に、本実施形態にかかるワイヤーハーネス6の一例を示す。ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1の両端には、それぞれ、コネクタ等、他の機器U1,U2に接続可能な電気接続部61,63が設けられている。ワイヤーハーネス6は、上記実施形態にかかる絶縁電線1に加えて、他種の絶縁電線をともに含むものであってもよい(不図示)。
【0078】
ワイヤーハーネス6において、絶縁電線1の両端に設けられる電気接続部61,63、およびそれら電気接続部61,63が接続される機器U1,U2の種類は、どのようなものであってもよいが、止水部4による止水性能を有効に利用する観点から、絶縁電線1の一端が防水されており、他端が防水されていない形態を、好適な例として挙げることができる。
【0079】
そのような形態として、図5に示すように、絶縁電線1の一端に設けられた第一の電気接続部61には、防水構造62が形成されている。防水構造62としては、例えば、第一の電気接続部61を構成するコネクタにおいて、コネクタハウジングとコネクタ端子の間の空間を封止するゴム栓が設けられている。防水構造62が設けられていることにより、第一の電気接続部61の表面等に水が付着することがあっても、その水は、第一の電気接続部61の内部に侵入しにくい。
【0080】
一方、絶縁電線1の他端に設けられた第二の電気接続部63には、第一の電気接続部61に設けられているような防水構造が、形成されていない。よって、第二の電気接続部63の表面等に水が付着すると、その水が第二の電気接続部63の内部に侵入できる可能性がある。
【0081】
ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1の中途部、つまり第一の電気接続部61と第二の電気接続部63の間の位置には、導体2が露出された露出部10が形成され、さらにその露出部10を含む領域に、止水剤5が充填された止水部4が形成されている。止水部4の具体的な位置および数は、特に限定されるものではないが、防水構造62が形成された第一の電気接続部61への水の影響を効果的に抑制する観点から、第二の電気接続部63よりも第一の電気接続部61に近い位置に、少なくとも1つの止水部4が設けられることが好ましい。
【0082】
絶縁電線1の両端に電気接続部61,63を有するワイヤーハーネス6は、2つの機器U1,U2の間を電気的に接続するのに用いることができる。例えば、防水構造62を有する第一の電気接続部61が接続される第一の機器U1として、電気制御装置(ECU)等、防水が要求される機器を適用すればよい。一方、防水構造を有さない第二の電気接続部63が接続される第二の機器U2として、防水の必要のない機器を適用すればよい。
【0083】
ワイヤーハーネス6を構成する絶縁電線1が止水部4を有することにより、ワイヤーハーネス6の外部から侵入した水が、導体2を構成する素線2aを伝って移動することがあっても、絶縁電線1に沿った水の移動が、止水部4を超えて進行するのを、抑制することができる。つまり、外部から侵入した水が、止水部4を超えて移動して、両端の電気接続部61,63に達し、さらには電気接続部61,63に接続された機器U1,U2に侵入するのを、抑制することができる。例えば、防水構造を有していない第二の電気接続部63の表面に付着した水が、第二の電気接続部63の内部に侵入し、導体2を構成する素線2aを伝って、絶縁電線1に沿って移動することがあっても、その水の移動は、止水部4に充填された止水剤5によって、阻止される。その結果、水は、止水部4を超えて、第一の電気接続部61が設けられた方に移動することができず、第一の電気接続部61の位置まで達し、第一の電気接続部61および第一の機器U1に侵入することができない。このように、止水部4によって水の移動を抑制することで、防水構造62による第一の電気接続部61および機器U1に対する防水性を、有効に利用することが可能となる。
【0084】
絶縁電線1に設けられた止水部4によって、水の移動を抑制する効果は、水が付着した箇所や水が付着した原因、また水の付着が起こった時やその後の環境を問わず、発揮される。例えば、ワイヤーハーネス6を自動車に設けた場合等に、非防水の第二の電気接続部63から、素線2aの間の空間等、絶縁電線1の内部に侵入した水が、毛管現象や冷熱呼吸現象によって、防水構造62を有する第一の電気接続部61および第一の機器U1に侵入するのを、効果的に抑制することができる。冷熱呼吸現象とは、自動車の走行等に伴って、防水構造62を有する第一の電気接続部61および第一の機器U1が加熱された後、放冷された際に、絶縁電線1に沿って、第一の電気接続部61側が低圧で、第二の電気接続部63側が相対的に高圧となった圧力差が生じることで、第二の電気接続部63に付着した水が、第一の電気接続部61および第一の機器U1の方へと引き上げられる現象である。
【0085】
<絶縁電線の製造方法>
次に、上記実施形態にかかる絶縁電線1を好適に製造することができる、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線の製造方法を説明する。
【0086】
図6に、本製造方法の概略を示す。ここでは、(1)部分露出工程、(2)密度変調工程、(3)充填工程、(4)引き上げ工程、(5)巻き取り工程、(6)再緊密化工程、(7)被覆移動工程、(8)硬化工程をこの順に実行することで、絶縁電線1の長手軸方向の一部の領域に、止水部4を形成する。(2)密度変調工程は、(2-1)緊密化工程と、それに続く(2-2)弛緩工程より構成することができる。以下、各工程について説明する。なお、ここでは、絶縁電線1の中途部に止水部4を形成する場合を扱うが、各工程における具体的な操作や、各工程の順序は、止水部4を形成する位置等、形成すべき止水部4の構成の詳細に応じて、適宜調整すればよい。
【0087】
(1)部分露出工程
まず、部分露出工程において、図7Aに示したような連続した線状の絶縁電線1を用いて、図7Bのように、露出部10を形成する。露出部10の長手軸方向両側には、被覆部20が隣接して存在する。
【0088】
このような露出部10を形成する方法の一例として、まず、露出部10を形成すべき領域の略中央に当たる位置において、絶縁被覆3の外周に、略円環状の切込みを形成する。そして、切込みの両側において絶縁被覆3を外周から把持し、相互に離間させるように、絶縁電線1の軸方向に沿って移動させる(運動M1)。移動に伴って、両側の絶縁被覆3の間に、導体2が露出されるようになる。このようにして、被覆部20に隣接した状態で、露出部10を形成することができる。
【0089】
(2)密度変調工程
上記部分露出工程において、導体2が露出した露出部10を形成した後、そのまま充填工程を実施し、露出部10の導体2を構成する素線2aの間の空間に、止水剤5を充填してもよいが、素線2aの間の空隙を広げ、止水剤5を均一性高く充填できるように、充填工程の前に、密度変調工程を実施することが好ましい。
【0090】
密度変調工程においては、露出部10、および被覆部20の隣接域21および遠隔域22の間で、金属材料の密度に不均一な分布を形成するとともに、露出部10における導体2の素線2aの間隔を広げる。金属材料の密度の不均一な分布としては、具体的には、単位長さあたりの金属材料の密度が、露出部10において、遠隔域22よりも高くなった状態を形成する。そのような密度の分布の形成は、例えば、緊密化工程と、それに続く弛緩工程によって、露出部10における素線2aの間隔の拡大と同時に達成することができる。
【0091】
(2-1)緊密化工程
緊密化工程においては、図7Cに示すように、一旦、露出部10における撚りを、元の状態よりも緊密にする。具体的には、絶縁電線1を、素線2aが撚り合わせられている方向に捩るように回転させ、さらに撚りを強くかけるようにする(運動M2)。これにより、露出部10における素線2aの撚りピッチが小さくなり、素線2aの間隔が小さくなる。
【0092】
この際、露出部10の両側の被覆部20において、露出部10に隣接する部位を外側から把持して、把持した部位(把持部30)を相互に対して逆向きに回転させるようにして、導体2に捻りを加えれば、把持部30から露出部10へと導体2を繰り出すことができる。導体2の繰り出しにより、図7Cに示すように、把持部30において、当初よりも、素線2aの撚りピッチが大きくなり、単位長さあたりの金属材料の密度が低くなる。その分、当初把持部30に存在していた金属材料の一部が露出部10に充当され、露出部10における素線2aの撚りピッチが小さくなる。そして、露出部10における単位長さあたりの金属材料の密度が高くなる。なお、把持部30から露出部10に円滑に導体2を繰り出させるために、把持部30において絶縁電線1を外周から挟み込む力は、絶縁被覆3に対して導体2が相対移動できる程度に抑えておくことが好ましい。
【0093】
(2-2)弛緩工程
その後、弛緩工程において、図8Aに示すように、露出部10における素線2aの撚りを、緊密化工程において緊密化した状態から、再度緩める。撚りの弛緩は、単に把持部30における把持を解放することにより、あるいは、把持部30を把持して、緊密化工程と反対方向に、つまり導体2が撚り合わせられている方向と逆方向に、捻るように回転させることにより(運動M3)、行うことができる。
【0094】
この際、導体2の剛性により、緊密化工程において露出部10の両側の把持部30から繰り出された導体2が、再度、絶縁被覆3に被覆された領域の中に完全に戻ることはなく、少なくとも一部は露出部10に留まる。その結果、導体2が露出部10に繰り出された状態のままで、その導体2における素線2aの撚りが緩むので、露出部10において、緊密化工程実施前に比べて実長として長い素線2aが、撓んで配置された状態となる。つまり、図8Aに示すように、露出部10において、緊密化工程実施前の状態(図7B)に比べて、導体2が全体として占める領域の径が大きくなり、単位長さ当たりの金属材料の密度が高くなる。露出部10における撚りピッチは、少なくとも、緊密化工程によって撚りを緊密化した状態よりも大きくなり、弛緩の程度によっては、緊密化工程実施前よりも大きくなる。素線2aの間隔を大きく広げる観点からは、緊密化工程実施前よりも撚りピッチを大きくする方がよい。
【0095】
被覆部20において、緊密化工程で絶縁被覆3を外側から把持していた把持部30は、弛緩工程を経て、単位長さあたりの金属材料の密度が露出部10よりも低く、さらには緊密化工程実施前の状態よりも低くなった隣接域21となる。被覆部20において、緊密化工程で把持部30としていなかった領域、つまり、露出部10から離間した領域は、遠隔域22となる。遠隔域22においては、単位長さあたりの金属材料の密度、素線2aの撚りピッチ等、導体2の状態が、緊密化工程実施前から実質的に変化していない。隣接域21において単位長さあたりの密度が低くなった分の金属材料は、露出部10に充当され、露出部10における単位長さあたりの金属材料の密度を高めるのに寄与する。その結果、単位長さあたりの金属材料の密度は、露出部10において最も高く、遠隔域22において次に高く、隣接域21において最も低い状態となる。
【0096】
(3)充填工程
次に、充填工程において、図8Bのように、露出部10における素線2aの間の空間に、未硬化の止水剤5を充填する。止水剤5の充填操作は、容器に収容した止水剤5や、噴流装置から噴出される止水剤5等、止水剤5の液中に、絶縁電線1のうち、露出部10を含む領域を浸漬することによって行う。この操作により、素線2aの間の空間に、液状の樹脂組成物が導入される。
【0097】
充填工程においては、止水剤5が素線2aの間の空間に充填されるとともに、露出部10の導体2の外周にも、止水剤5が配置される。この際、止水剤5を、露出部10の外周に加えて、さらに被覆部20の端部の絶縁被覆3の外周部にも配置してもよいが、充填工程よりも後に被覆移動工程を実施する場合には、被覆移動工程において、露出部10に導入された止水剤5の一部を、被覆部20の絶縁被覆3の外周部に移動させることができる。よって、充填工程では、素線2aの間の空間に加えて、露出部10の外周に止水剤5を配置しておくだけでも、十分である。
【0098】
上記密度変調工程で、露出部10の素線2aの間隔を広げたうえで、充填工程において、露出部10に止水剤5を導入することで、広げられた素線2aの間の部位に、止水剤5が浸透しやすい。そのため、止水剤5を、露出部10の各部において、高い均一性をもって、ムラなく浸透させやすい。その結果、止水剤5の硬化を経て、優れた止水性能を有する信頼性の高い止水部4を形成することができる。また、止水剤5が、4000mPa・s以上のような比較的高い粘度を有している場合でも、素線2aの間隔を十分に広げておくことで、素線2aの間の空間に、止水剤5を高い均一性をもって浸透させることができる。止水剤5を均一性高く充填するために、絶縁電線1を軸回転させながら、止水剤5の液中への絶縁電線の浸漬を行ってもよい。
【0099】
充填工程においては、絶縁電線1の露出部10を含む領域を止水剤5の液に浸漬することで、素線2aの間の空間に加え、露出部10を含む領域の外周にも、止水剤5が配置される。この際、露出部10全体としての外径が大きい状態で、浸漬を行う方が、露出部10全体としての表面積が大きいことにより、露出部10の外周部に多量の止水剤5が配置され、次の引き上げ工程を経た後に、露出部10の外周を、多量(大体積)の止水剤5が被覆した状態となりやすい。すると、最終的に形成される止水部4において、止水剤5の層が厚く、かつ厚さの均一性の高い露出部外周域42が形成されやすくなる。よって、充填工程および次の引き上げ工程を実施する間は、露出部10全体をなるべく径の大きい状態に保っておく方が好ましい。つまり、止水剤5に浸漬した状態で、露出部10に対して、導体2を構成する素線2aの撚りを緊密化する方向に捻る操作は、行わない方が好ましい。あるいは、素線間の領域への止水剤5の保持性の向上等を目的として、止水剤5に浸漬した状態でそのような操作を行うとしても、後の再緊密化工程よりは、緊密化の程度、つまり素線2aの撚りピッチの減少率を、小さく留めておくことが好ましい。
【0100】
(4)引き上げ工程
充填工程において、露出部10を十分に止水剤5に接触させた後、引き上げ工程を実施する。つまり、止水剤5に浸漬していた絶縁電線1の露出部10を含む部位を、止水剤5の液面から上方へと引き上げ、貯留等された止水剤5の液に接触しない状態とする。この際、止水剤5の少なくとも一部が、露出部10の素線2aの間の領域、および露出部10を含む領域の外周部に留まる。また、図8Cに示すように、露出部10を含む領域の外周域にとどまった止水剤5のうちの一部が、重力に従い、下方に垂下し、垂下部5bを形成する。この際、垂下部5bは、図8Cに示すとおり、露出部10の中央の領域ほど下方に垂れ下がった、先細りの形状となりやすい。
【0101】
本実施形態においては、引き上げ工程の前の充填工程を実施する際に、止水剤5の液中で、露出部10に対して、素線2aの撚りを緊密化する方向に捻る操作は行っていないか、程度の低い緊密化しか行っておらず、露出部10が外径の大きい状態に保たれており、露出部10全体として、大きな表面積を有している。よって、その後に引き上げ工程を実施した際に、図11Aに導体2の外形と止水剤5の分布を模式的に示すように、多量の止水剤5が露出部10の外周に保持されている。そして、その多量に保持された止水剤5が垂下を起こすので、露出部10の長手軸方向全域にわたって、止水剤5の垂下が、比較的均一性高く起こり、垂下部5bの形状として、先細りの程度が小さくなる。このように、露出部10の全域で、止水剤5の垂下の程度における差が小さくなることで、後の各工程を経て形成される止水部4の露出部外周域42において、長手軸方向の各位置で、導体2の外周に保持される止水剤5の量の均一性が高くなる。つまり、露出部外周域42において、外径に不均一な分布が生じにくく、平滑な表面を有するまっすぐな止水部4が形成されやすくなる。
【0102】
これに対し、充填工程を実施する間に、止水剤5中で、露出部10を構成する導体2に捻りを加え、素線2aの撚りを高度に緊密化し、導体2の外径を小さく絞っているとすれば、図11Bに示すように、引き上げ工程を経て、露出部10の外周に留まる止水剤5の量が少なくなる。そして、その少量しか保持されていない止水剤5が垂下を起こすので、露出部10のうち、長手軸方向に沿って外側に当たる部位においては、止水剤5の垂下があまり起こらず、相対的に、露出部10の中央部で集中的に止水剤5の垂下が起こることになる。つまり、垂下部5bの形状として、先細りの程度が大きくなり、中央部が鋭く尖った垂下形状となる。すると、後の各工程を経て形成される止水部4の露出部外周域42において、長手軸方向に沿って、垂下量が比較的少なかった外側の領域では、相対的に多くの止水剤5が導体2の外周に残存する一方、中央部では、相対的に多くの止水剤5が、垂下によって導体2の外周部から失われることになり、導体2の外周に保持される止水剤5の量が、少なくなってしまう。その結果、露出部外周域42の外径が、長手軸方向に沿って、中央部において、外側の領域に比べて小さくなり、外径に不均一な分布が生じてしまう。止水部4の表面には、大きな凹凸構造が形成されることとなる。
【0103】
(5)巻き取り工程
引き上げ工程を完了した後、つまり止水剤5に浸漬していた絶縁電線1の全体が、止水剤5の液の外まで引き上げられた後に、巻き取り工程を実施することが好ましい。巻き取り工程においては、絶縁電線1(主に露出部10)から下方に止水剤5が垂下した垂下部5bを、絶縁電線1の外周に巻き取り、垂下のない状態、または垂下の程度が小さくなった状態とする。具体的には、図9Aに示すように、絶縁電線1全体を軸回転させて(運動M’)、液膜状に垂下した垂下部5bを、絶縁電線1の外周に巻き上げるようにすればよい。
【0104】
巻き取り工程を実施することで、垂下による止水剤5の損失量を低減できる。つまり、露出部10の外周部に留まり、露出部外周域42となる止水剤5の量を多くすることができる。これにより、露出部外周域42における止水剤5の層の厚さを、十分に大きく確保しやすくなる。また、垂下部5bは、先細り形状をとっており、露出部10の長手軸方向中央部において、垂下する止水剤5の量が相対的に多くなっているが、長手軸方向に沿った各位置において、その位置で垂下している止水剤5を巻き取ることで、巻き取りを行わない場合と比較して、露出部10の外周に保持される止水剤5の量における位置ごとの差を、小さくすることができる。本実施形態にかかる製造方法においては、図11Aのように、露出部10の外径を大きく保ったまま、充填工程および引き上げ工程を実施していることにより、上記で引き上げ工程について説明したように、露出部10の長手軸方向に沿って、止水剤5の垂下量の均一性が高くなっており、さらに巻き取り工程を実施することで、止水剤5の層の厚さおよび露出部外周域42の外径における均一性を、さらに高めることができる。なお、巻き取り工程を完了してから、次の再緊密化工程を実施しても、再緊密化工程の途中に巻き取り工程を実施してもよい。後者の場合には、絶縁電線1を軸回転させる動作(運動M’)と、捻る動作(運動M4)を、同時に、または連続して行えばよい。
【0105】
(6)再緊密化工程
引き上げ工程が完了し、さらに任意に巻き取り工程を行ったうえで、次に、再緊密化工程を実施する。再緊密化工程においては、図9Bに示すように、素線2aの間の空間に止水剤5が充填された状態の露出部10において、素線2aの間隔を狭める。この工程は、例えば、先の密度変調工程における緊密化工程と同様に、露出部10の両側の被覆部20を、隣接域21において絶縁被覆3の外側から把持して、導体2を素線2aの撚り合わせ方向に、捻るように回転させ、素線2aの撚りを緊密化することによって、実行することができる(運動M4)。なお、再緊密化工程においては、緊密化工程とは異なり、露出部10へと導体2を繰り出す操作は行わない。
【0106】
再緊密化工程により、露出部10の素線2aの間の空間が狭められると、その狭い空間に止水剤5が閉じ込められることになるので、硬化等によって止水剤5の流動性が十分に低下するまでの間に、止水剤5が、流出や垂下等を起こさずに素線2aの間の空間に留まりやすい。それにより、止水剤5の硬化等を経て、優れた止水性能を有する信頼性の高い止水部4を形成しやすくなる。そのような効果を高く得るため、再緊密化工程において、露出部10における素線2aの撚りピッチを小さくすることが好ましく、例えば、再緊密化工程を経た後の状態で、隣接域21、さらには遠隔域22よりも露出部10の撚りピッチが小さくなるようにすればよい。また、再緊密化工程を経て、露出部10が、被覆部20と同程度の外径を有するようにすることが好ましい。
【0107】
再緊密化工程は、素線2aの間に充填した止水剤5が流動性を有する間、つまり、止水剤5が硬化する前、あるいは硬化の途中で行うことが好ましい。すると、再緊密化の操作が、止水剤5の存在によって妨げられにくい。充填工程を行う間に、止水剤5の液中で導体2を捻って、程度の低い緊密化を既に行っている場合には、再緊密化工程においては、その緊密化よりも程度の高い緊密化を実施すればよい。つまり、撚りピッチの変化率を、先の液中での緊密化の際よりも大きくすればよい。
【0108】
(7)被覆移動工程
次に、被覆移動工程において、図9Cに示すように、露出部10の両側の被覆部20に配置された絶縁被覆3を、相互に接近させるようにして、露出部10に向かって移動させるとよい(運動M5)。被覆移動工程も、再緊密化工程と同様、露出部10に充填した止水剤5が流動性を有する間、つまり、止水剤5が硬化する前、あるいは硬化の途中で行うことが好ましい。被覆移動工程は、再緊密化工程と合わせて、実質的に一度の操作で行うようにすることもできる。
【0109】
露出部10の端部等において、充填工程によって、十分な量の止水剤5を素線2aの間の空間に配置できていない領域が存在していたとしても、被覆移動工程によって、そのような領域にも止水剤5が行き渡るようになり、露出部10において導体2が露出した部位の全域で、素線2aの間に止水剤5が充填された状態となる。さらに、露出部10の導体2の外周に配置されていた止水剤5の一部を、被覆部20の絶縁被覆3の外周に移動させることができる。これにより、露出部10の素線2aの間の空間、露出部10の導体2の外周、被覆部20の端部の絶縁被覆3の外周の3つの領域に、止水剤5が連続して配置された状態となる。
【0110】
上記3つの領域に止水剤5が配置されることで、次の硬化工程を経て、素線間充填域41、露出部外周域42、被覆部外周域43を連続して有する止水部4を形成できる。つまり、素線2aの間の領域における止水性能に優れるとともに、外周が物理的に保護および電気的に絶縁され、さらに導体2と絶縁被覆3の間の止水性能にも優れた止水部4を、共通の材料から、同時に形成することができる。なお、充填工程において、露出部10の端から端まで、さらには両側の被覆部20の端部まで含む領域に、十分に止水剤5を導入できる場合等には、被覆移動工程を省略してもよい。
【0111】
(8)硬化工程
最後に、硬化工程において、止水剤5を硬化させる。この際、止水剤5が有する硬化性の種類に応じた硬化方法を適用すればよい。例えば、止水剤5が熱硬化性を有する場合は加熱により、光硬化性を有する場合は光照射により、湿気硬化性を有する場合には大気中での放置等による加湿により、止水剤5の硬化を行えばよい。
【0112】
硬化工程において、止水剤5が十分に硬化するまでの間、図10に示すように、絶縁電線1を、軸回転させるとよい(運動M6)。絶縁電線1を回転させることなく、静止させたままで、止水剤5の硬化を行うとすれば、未硬化の止水剤5が重力に従って垂下することで、重力方向下方となっていた位置に、上方となっていた位置よりも厚い止水剤5の層が形成された状態で、止水剤5が硬化することになる。すると、止水剤5の硬化後に得られる止水部4において、導体2が偏芯した状態となり、絶縁電線1の周方向に沿って、止水性能や物理的特性に不均一性が生じる可能性がある。例えば、止水剤5の層が薄くなった箇所においては、止水剤5の材料強度や止水性能の不足が起こる可能性がある一方、止水剤5の層が厚くなった箇所では、外部の物体への接触による止水剤5の損傷が起こりやすくなる。
【0113】
そこで、絶縁電線1を軸回転させながら、硬化工程を実施することで、未硬化の止水剤5が、絶縁電線1の周方向に沿って1か所に留まりにくくなり、全周にわたって、厚さの均一性の高い止水剤5の層が形成されやすくなる。すると、まっすぐな形状を有する止水部4が得られやすくなるとともに、止水部4における導体2の偏芯が軽減され、全周において、止水性能や物理的特性の均一性が高い止水部4を形成することができる。さらに、止水剤5が、光硬化性を有する場合には、絶縁電線1を軸回転させながら硬化工程を実施することで、絶縁電線1の周方向に沿って、全域に、光源80からの光Lを照射することができ、全周の止水剤5の光硬化を、均一性高く進行させることができる。なお、充填工程や引き上げ工程、巻き取り工程、再緊密化工程、被覆移動工程を行った後、硬化工程を開始するまでの間に、加工装置間での絶縁電線1の移動等により、時間を要する場合には、その時間の間も、絶縁電線1を軸回転させ、周方向に沿った特定位置での止水剤5の垂下を抑制しておくことが好ましい。
【実施例
【0114】
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0115】
(試験方法)
(1)試料の作製
導体断面積0.5mm(素線径0.32mm、素線数7)の銅撚線導体の外周に、PVCよりなる厚さ0.3mmの絶縁被覆を形成した絶縁電線の中途部に、長さ13mmの露出部を形成した。そして、止水剤を用いて、露出部に対して、止水部を形成した。止水剤としては、嫌気硬化性を有する樹脂である、スリーボンド社製「3065E」(粘度:7000mPa・s)を使用した。
【0116】
試料としては、止水部の形成方法を異ならせて、試料Aと試料Bの2種類を用意した。試料Aは、図6にフロー図を示したとおりの各工程を順に実施して、止水部を形成した。つまり、充填工程において、導体の撚りを緊密化する操作は行わず、引き上げ工程を行ってから、巻き取り工程を経て、再緊密化工程を実施した。一方、試料Bは、図6のフロー図において、再緊密化工程を引き上げ工程および巻き取り工程の後に行う代わりに、充填工程において、露出部を含む領域を止水剤の液に浸漬した状態で、導体に捻りを加え、再緊密化工程を実施した。その後に引き上げ工程と巻き取り工程を実施した。試料A、試料Bとも、10個体の試料を作製した。
【0117】
(2)止水部の外径の評価
試料A,試料Bのそれぞれ10個体について、止水部の露出部外周域のうち、絶縁被覆の厚さによって外径が大きくなっている領域を除いた領域を対象域とし、対象域の中で外径を計測した。そして、最大外径と最小外径を記録した。なお、対象域から除外した領域は、露出部外周域の両端部において、それぞれ長さにして約15%を占める領域であった。
【0118】
(結果)
図12A図12Bに、試料Aと試料Bの代表的な個体について、それぞれ止水部を撮影した写真を示す。また、下の表1に、試料Aおよび試料Bのそれぞれ10個体について計測した最大外径D1および最小外径D2の値を示す。合わせて、各個体における差分率ΔD/D2の計算値、および全個体における差分率の最大値、最小値、平均値も示している。
【0119】
【表1】
【0120】
図12Aの試料A、図12Bの試料Bの止水部の写真を見比べると、試料Aでは、露出部外周域の外径に、顕著な不均一分布は見られず、比較的まっすぐで平滑な表面を有する露出部が形成されている。一方、試料Bでは、露出部外周域において、外径が大きい部分と小さい部分が、明らかに生じており、止水部が、くびれ状の凹凸構造を表面に有するものとなっている。試料Aでは、対象域Rを4等分した領域R1~R4のうち、中央側の領域に当たるR2に、符号D1で表示した最大外径を与える箇所が位置している。符号D2で表示した最小外径を与える箇所は、端の領域R1に位置している。また、被覆部のうち、止水部が配置されていない箇所の外径を、白い破線で表示しているが、止水部の全域において、それよりも外径が太くなっている。
【0121】
表1によると、試料Aにおいては、試料Bよりも、最大外径、最小外径とも大きくなっているが、差分率は、顕著に小さくなっている。これは、図12A,12Bの比較において、試料Aの方が、露出部外周域の外径における不均一な分布が小さくなっていることと、対応している。試料Aでは、いずれの個体においても、差分率が12%以下となっており、最も小さい個体では、1.9%と非常に小さくなっている。一方、試料Bでは、いずれの個体においても、差分率は13%以上となっており、最も大きい個体では、60%以上に及んでいる。以上の結果から、試料Aのように、導体の径が大きい状態のまま充填工程を実施し、止水剤から露出部を引き上げた後に、再緊密化工程を実施することで、差分率が12%以下に抑えられ、外径および止水剤の層の厚さの均一性に優れた止水剤を形成できることが確認される。
【0122】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0123】
1 絶縁電線
2 導体
2a 素線
2a1 導体の外周部に位置する素線
2a2 素線2a1よりも内側に位置する素線
3 絶縁被覆
4 止水部
5 止水剤
5a 止水剤の表面
5b 垂下部
6 ワイヤーハーネス
10 露出部
20 被覆部
21 隣接域
22 遠隔域
30 把持部
41 素線間充填域
42 露出部外周域
43 被覆部外周域
44 テーパ部
61 第一の電気接続部
62 防水構造
63 第二の電気接続部
80 光源
B 気泡
D1 最大外径
D2 最小外径
L 光
La 露出部外周域における止水剤の層の厚さ
Lb 被覆部外周域における止水剤の層の厚さ
Lc 絶縁被覆の厚さ
M1~M6,M’ 運動
R 対象域
R1,R4 対象域を4等分したうちの両側の領域
R2,R3 対象域を4等分したうちの中央の領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12