(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー、その製造方法及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20240827BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G03G9/087 325
G03G9/08
G03G9/08 381
(21)【出願番号】P 2020142191
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2019202838
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】茂木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】門馬 実乃里
(72)【発明者】
【氏名】白井 亜弥
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-198692(JP,A)
【文献】特開2017-203850(JP,A)
【文献】特開2006-084836(JP,A)
【文献】特開2004-151638(JP,A)
【文献】特開2003-280241(JP,A)
【文献】特開2000-221783(JP,A)
【文献】特開平10-097098(JP,A)
【文献】特開2019-152830(JP,A)
【文献】特開2012-108485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
G03G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともバインダー樹脂を含有するトナー粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記静電荷像現像用トナーの粘弾性を測定したとき、下記温度又は下記温度範囲内での貯蔵弾性率G′と損失正接tanδとが、下記式1及び式2並びに下記式3及び式4で表される関係を満た
し、
前記バインダー樹脂が、少なくとも、2官能ビニル系モノマー由来の構造を含み、
前記温度140~180℃の範囲内における前記貯蔵弾性率G′の最大値と最小値の差が、0~5×10
3
Paの範囲内であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
温度70℃:
1×10
5Pa≦G′≦1×10
7Pa (式1)
0.5≦tanδ≦2.5 (式2)
温度140~180℃:
1×10
3Pa≦G′≦1×10
4Pa (式3)
0.2≦tanδ≦1.2 (式4)
【請求項2】
前記静電荷像現像用トナーの粘弾性を測定したとき、温度70℃における損失正接tanδが、下記式5で表される関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
1.0≦tanδ≦2.5 (式5)
【請求項3】
前記2官能ビニル系モノマー由来の構造は繰り返し構造単位を含み、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造における前記繰り返し構造単位を含む直鎖の長さが、2500~16000pmの範囲内であり、かつ、前記2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgが-60~30℃の範囲内であることを特徴とする請求項
1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記2官能ビニル系モノマー由来の構造は繰り返し構造単位を含み、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造における前記繰り返し構造単位を含む直鎖の長さが、2500~12000pmの範囲内であり、かつ、前記2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgが-60~30℃の範囲内であることを特徴とする請求項
1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記2官能ビニル系モノマー由来の構造が含む前記繰り返し構造単位が、アルキレン基、オキシエチレン基、又はオキシプロピレン基であることを特徴とする請求項
3又は請求項
4に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
前記2官能ビニル系モノマー由来の構造の含有量が、前記バインダー樹脂総量に対して0.10~1.1mol%の範囲内であることを特徴とする請求項
1から請求項
5までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項7】
前記バインダー樹脂は、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′
Iが下記式6で表される関係を満たす樹脂Iと、前記樹脂Iと異なる樹脂IIを含有することを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
1×10
3Pa≦G′
I≦2×10
8Pa (式6)
【請求項8】
前記樹脂Iが2官能ビニル系モノマー由来の構造を含むことを特徴とする請求項
7に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項9】
前記樹脂Iの総量に対する、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造の含有量が、3.0~25.0mol%の範囲内であることを特徴とする請求項
8に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項10】
前記樹脂Iの含有量が、前記バインダー樹脂の総量に対して4~20質量%の範囲内であることを特徴とする請求項
7から請求項
9までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項11】
前記2官能ビニル系モノマーが、2官能アクリレート又は2官能メタクリレートを含むことを特徴とする請求項
1から請求項
6まで、請求項
8及び請求項
9のいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項12】
前記静電荷像現像用トナーのガラス転移温度Tgが、45~60℃の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項
11までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項13】
前記バインダー樹脂として、スチレン・アクリル樹脂を含有することを特徴とする請求項1から請求項
12までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項14】
請求項1から請求項
13までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを製造する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、トナー粒子を構成するバインダー樹脂として、少なくとも2官能ビニル系モノマー由来の構造を含む樹脂を用いることを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項15】
請求項1から請求項
13までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを用いることを特徴とする画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナー、その製造方法及び画像形成方法に関する。より詳しくは、低温定着性と耐熱性のバランスに優れ、画像濃度ムラの少ない静電荷像現像用トナー等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置においては、画像形成の高速化や環境負荷の低減等を目的として省エネルギー化を図るため、より低い温度で熱定着できる静電荷像現像用トナー(以下、単にトナーともいう。)が求められている。
【0003】
一方で、トナーを低温定着化させると、連続印刷によって定着器の温度が高くなりすぎた場合に画像上のトナーが過剰に溶融し、特に用紙の繊維上に存在するトナーが繊維間に流れ込むことで繊維の白地部が浮き出た画像になり、画像濃度ムラが発生することが問題になっている。
特に、繊維上のトナーは定着ベルトと直接接触するため、過剰に熱がかかりやすくトナーが溶け広がりやすい。このため、定着性を向上させるためにトナーの溶融性を向上させつつ、過剰に熱がかかる温度では溶け広がらせない技術が必要である。
【0004】
特許文献1では、トナーの低温定着性と非オフセット性(特にホットオフセット性)とのバランスをとるために、バインダー樹脂に2官能以上のビニル系モノマー単位を含むスチレン-アクリル系共重合体を含み、175~177℃での貯蔵弾性率及び損失弾性率をコントロールする方法が提案されている。この樹脂の構成では貯蔵弾性率が高くなるため画像濃度ムラの抑制が期待できるが、用紙とトナーが熱により接着する最低温度の温度領域においても貯蔵弾性率が高くなりすぎてしまい、用紙とトナーの接着が不十分になりアンダーオフセット性が問題であった。
【0005】
なお、本明細書において、「アンダーオフセット」とは、記録紙等の記録媒体(「転写材」ともいう。)が定着機を通過する際に与えられた熱によるトナー画像層の溶融が不十分であるために記録媒体から剥離してしまう画像欠陥を生じる現象をいう。
また、「ホットオフセット」とは、定着部材によりトナー層を加熱及び加圧して記録媒体に定着させる際に、過剰に加熱・溶融されたトナーの凝集力が、トナーと定着部材との接着力を下回ることによってトナー画像層が分断され、トナーの一部が定着部材に付着して取去られる現象をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、低温定着性と耐熱性のバランスに優れ、画像濃度ムラの少ない静電荷像現像用トナー、その製造方法及び当該静電荷像現像用トナーを用いる画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、用紙とトナーが熱により接着する最低温度の温度領域と、トナーが十分に溶融し流動化する温度領域での貯蔵弾性率G′および損失正接tanδをコントロールすることで上記課題を解決できることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.少なくともバインダー樹脂を含有するトナー粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、
前記静電荷像現像用トナーの粘弾性を測定したとき、下記温度又は下記温度範囲内での貯蔵弾性率G′と損失正接tanδとが、下記式1及び式2並びに下記式3及び式4で表される関係を満たし、
前記バインダー樹脂が、少なくとも、2官能ビニル系モノマー由来の構造を含み、
前記温度140~180℃の範囲内における前記貯蔵弾性率G′の最大値と最小値の差が、0~5×10
3
Paの範囲内であることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
温度70℃:
1×105Pa≦G′≦1×107Pa (式1)
0.5≦tanδ≦2.5 (式2)
温度140~180℃:
1×103Pa≦G′≦1×104Pa (式3)
0.2≦tanδ≦1.2 (式4)
【0010】
2.前記静電荷像現像用トナーの粘弾性を測定したとき、温度70℃における損失正接tanδが、下記式5で表される関係を満たすことを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
1.0≦tanδ≦2.5 (式5)
【0012】
3.前記2官能ビニル系モノマー由来の構造は繰り返し構造単位を含み、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造における前記繰り返し構造単位を含む直鎖の長さが、2500~16000pmの範囲内であり、かつ、前記2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgが-60~30℃の範囲内であることを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0013】
4.前記2官能ビニル系モノマー由来の構造は繰り返し構造単位を含み、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造における前記繰り返し構造単位を含む直鎖の長さが、2500~12000pmの範囲内であり、かつ、前記2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgが-60~30℃の範囲内であることを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0014】
5.前記2官能ビニル系モノマー由来の構造が含む前記繰り返し構造単位が、アルキレン基、オキシエチレン基、又はオキシプロピレン基であることを特徴とする第3項又は第4項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0015】
6.前記2官能ビニル系モノマー由来の構造の含有量が、前記バインダー樹脂総量に対して0.10~1.1mol%の範囲内であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0016】
7.前記バインダー樹脂は、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iが下記式6で表される関係を満たす樹脂Iと、前記樹脂Iと異なる樹脂IIを含有することを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
1×103Pa≦G′I≦2×108Pa (式6)
【0017】
8.前記樹脂Iが2官能ビニル系モノマー由来の構造を含むことを特徴とする第7項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0018】
9.前記樹脂Iの総量に対する、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造の含有量が、3.0~25.0mol%の範囲内であることを特徴とする第8項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0019】
10.前記樹脂Iの含有量が、前記バインダー樹脂の総量に対して4~20質量%の範囲内であることを特徴とする第7項から第9項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0020】
11.前記2官能ビニル系モノマーが、2官能アクリレート又は2官能メタクリレートを含むことを特徴とする第1項から第6項まで、第8項及び第9項のいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0022】
12.前記静電荷像現像用トナーのガラス転移温度Tgが、45~60℃の範囲内であることを特徴とする第1項から第11項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0023】
13.前記バインダー樹脂として、スチレン・アクリル樹脂を含有することを特徴とする第1項から第12項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0024】
14.第1項から第13項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを製造する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、トナー粒子を構成するバインダー樹脂として、少なくとも2官能ビニル系モノマー由来の構造を含む樹脂を用いることを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
【0025】
15.第1項から第13項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナーを用いることを特徴とする画像形成方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の上記手段により、低温定着性と耐熱性のバランスに優れ、画像濃度ムラの少ない静電荷像現像用トナー、その製造方法及び当該静電荷像現像用トナーを用いる画像形成方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0027】
画像濃度ムラ、耐熱性及びアンダーオフセット性の悪化の原因及び改善手段の作用機構については、それぞれ次のように考えらえる。
まず、画像濃度ムラの悪化の原因については、低温定着化させたトナーが、粘弾性測定での高温領域(140℃以上)で貯蔵弾性率が低下することで、紙の繊維のすき間にトナーが流れ込んでしまい、紙の繊維が浮き出て白地部が露出し、画像濃度ムラが発生すると考えられる。
【0028】
すなわち、140~180℃における貯蔵弾性率G′が1×103Paより小さい場合、又は損失正接tanδが1.2よりも大きい場合、トナーが過剰に溶融する温度領域でトナー中の弾性成分が少なく、粘性成分が多くなるため、トナーが流動化し、紙の繊維間にトナーが流れ込みやすくなることで繊維の白地部が露出し、画像濃度ムラが発生すると考えられる。
【0029】
したがって、低温定着性を向上しつつ画像濃度ムラを抑制するため、粘弾性測定においてトナーの定着性に影響する低温側(70℃付近)の貯蔵弾性率の値は低い値を維持しつつ、かつ、画像濃度ムラに影響する高温側(140~180℃)の貯蔵弾性率は高い値に維持する必要があると考えられる。
【0030】
次に、耐熱性が悪化する原因については、70℃におけるトナーの貯蔵弾性率G′が1×105Paより小さい場合、又は損失正接tanδが2.5よりも大きい場合、トナーが熱により溶け始める温度でトナー中の弾性成分が少なく、粘性成分が多くなるため、トナー同士が熱により凝集しやすくなり、耐熱性が悪化すると考えられる。
【0031】
さらに、アンダーオフセット性の悪化の原因については、70℃における貯蔵弾性率G′が1×107Paより大きい場合、又は損失正接tanδが0.5よりも小さい場合、トナーが熱により溶け始める温度でトナー中の弾性成分が多く、粘性成分が少なくなるため、トナーが用紙と接着しにくくなり、アンダーオフセット性が悪化すると考えられる。
【0032】
また、140~180℃における貯蔵弾性率G′が1×104Paより大きい場合、又は損失正接tanδが0.2よりも小さい場合、トナーが過剰に溶融する温度領域でトナー中の弾性成分が多く、粘性成分が少なくなるため、トナーが流動化しにくくなり、トナー同士での融着が不完全になることで画像強度が低下し、定着性が悪化する。
【0033】
以上のことより、140~180℃における貯蔵弾性率G′が、1×103~1×104Paの範囲内で変化し、かつ損失正接tanδが0.2~1.2の範囲内で変化することで、定着ベルトが接触して熱がかかりやすい用紙の繊維上に存在するトナーと、定着ベルトが接触せずに熱がかかりにくい繊維間に存在するトナーの溶融状態が均一になり、画像濃度ムラが抑制されると推察される。
【0034】
また、70℃における貯蔵弾性率G′が1×105~1×107Paの範囲内で変化し、かつ損失正接tanδが0.5~2.5の範囲内で変化することで、トナー同士が熱により凝集しにくくなり、耐熱性が改善し、トナーが用紙と接着しやすくなり、アンダーオフセット性も改善すると推察される。
【0035】
上記改善のための条件を満たすための具体的手段としては、種々の態様の手段が採用可能であるが、本発明では、後で詳述するように、トナー粒子に用いられるバインダー樹脂を構成するモノマーの構造の選択及びモノマーの組成等の調整をすることにより、課題を解決できたものと考えている。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくともバインダー樹脂を含有するトナー粒子を含む静電荷像現像用トナー(以下において、単に「トナー」ともいう。)であって、前記静電荷像現像用トナーの粘弾性を測定したとき、前記温度又は前記温度範囲内での貯蔵弾性率G′と損失正接tanδとが、前記式1及び式2並びに前記式3及び式4で表される関係を満たすことを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0037】
本発明のトナーの実施形態としては、前記静電荷像現像用トナーの粘弾性を測定したとき、温度70℃における損失正接tanδが、前記式5で表される関係を満たすことが好ましい。
【0038】
本発明のトナーの実施形態としては、前記バインダー樹脂が、少なくとも、2官能ビニル系モノマー由来の構造を含むことが、本発明の効果発現の観点から好ましい。特に、トナーが所望の粘弾性挙動を得ることができ、さらに画像濃度ムラを改善することができる点で好ましい。
【0039】
また、上記実施形態における、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造は、繰り返し構造単位を含み、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造における前記繰り返し構造単位を含む直鎖の長さが、2500~16000pmの範囲内であり、かつ、前記2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgが-60~30℃の範囲内であることが、画像強度の低下及びトナーの定着性の悪化を抑制し、画像濃度ムラをなくし、耐熱性及びアンダーオフセット性の悪化を抑制することができる点で好ましい。
【0040】
また、上記実施形態における、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造は、繰り返し構造単位を含み、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造における前記繰り返し構造単位を含む直鎖の長さが、2500~12000pmの範囲内であり、かつ、前記2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgが-60~30℃の範囲内である態様においても、画像強度の低下及びトナーの定着性の悪化を抑制し、画像濃度ムラをなくし、耐熱性及びアンダーオフセット性の悪化を抑制することができる点で好ましい。
【0041】
さらに、上記実施形態における、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造が含む前記繰り返し構造単位が、アルキレン基、オキシエチレン基、又はオキシプロピレン基であることが、上記効果をより高めることができる点で好ましい。
【0042】
本発明のトナーの上記実施形態としては、更に前記2官能ビニル系モノマー由来の構造の含有量が、前記バインダー樹脂総量に対して0.10~1.1mol%の範囲内であることが、本発明の効果をより高める点で好ましい。特に、トナーに所望の粘弾性挙動を付与できる観点から好ましい。
【0043】
本発明のトナーにおける別の実施形態としては、前記バインダー樹脂が、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iが前記式6で表される関係を満たす樹脂Iと、前記樹脂Iと異なる樹脂IIを含有することが、本発明の効果発現の観点から好ましい。特に、トナーが所望の粘弾性挙動を得ることで本発明の効果が発現でき、さらに、擦り定着性を向上させることができる点で好ましい。
【0044】
本発明のトナーにおける別の実施形態において、前記樹脂Iが2官能ビニル系モノマー由来の構造を含むことが、前記樹脂Iに所望の粘弾性挙動を付与できる観点から好ましい。
【0045】
本発明のトナーにおける別の実施形態において、前記樹脂Iの総量に対する、前記2官能ビニル系モノマー由来の構造の含有量が、3.0~25.0mol%の範囲内であることが、前記樹脂Iに所望の粘弾性挙動を付与できる観点から好ましい。
【0046】
本発明のトナーにおける別の実施形態において、前記樹脂Iの含有量が、前記バインダー樹脂の総量に対して4~20質量%の範囲内であることが、トナーに所望の粘弾性挙動を付与できる観点から好ましい。
【0047】
また、同様の理由により、本発明のトナーにおいて前記バインダー樹脂が2官能ビニル系モノマー由来の構造を含む実施形態においては、前記2官能ビニル系モノマーが、2官能アクリレート又は2官能メタクリレートを含むことが好ましい。
【0048】
さらに、本発明のトナーにおいて、前記温度140~180℃の範囲内における前記貯蔵弾性率G′の最大値と最小値の差が、0~5×103Paの範囲内であることが好ましい。
【0049】
さらに、前記静電荷像現像用トナーのガラス転移温度Tgが、45~60℃の範囲内であることが好ましい。また、前記バインダー樹脂として、スチレン・アクリル樹脂を含有することが、本発明の効果を高める点で好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーは、画像形成方法に好適に用いることができる。
【0050】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0051】
また、静電荷像現像用トナー(単に「トナー」ともいう。)とは、「トナー粒子」の集合体のことをいい、トナー粒子とは、トナー母体粒子に任意に外添剤を添加したものをいう。また、以下の説明においては、トナー母体粒子とトナー粒子とを特に区別する必要がない場合、単に「トナー粒子」又は「トナー」ともいう。
【0052】
[本発明の静電荷像現像用トナーの概要]
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくともバインダー樹脂を含有するトナー粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、前記静電荷像現像用トナーの粘弾性を測定したとき、上記温度又は上記温度範囲内での貯蔵弾性率G′と損失正接tanδとが、上記式1及び式2並びに上記式3及び式4で表される関係を満たすことを特徴とする。
【0053】
なお、本発明のトナーにおいて、バインダー樹脂はトナー母体粒子に含有される。本発明に係るトナーは必要に応じて、トナー母体粒子の表面に付着される外添剤を有してもよい。本発明に係るトナー母体粒子は、バインダー樹脂の他に、例えば、着色剤、離型剤、荷電制御剤等の内添剤を含有してもよい。
【0054】
本発明に係るトナーの一実施形態おいて、前記バインダー樹脂が、少なくとも、2官能ビニル系モノマー由来の構造を含むことが好ましい。本明細書において、2官能ビニル系モノマー由来の構造とは、バインダー樹脂中の2官能ビニル系モノマーに由来する重合単位を意味する。以下、2官能ビニル系モノマー由来の構造を「2官能ビニル系モノマー由来の重合単位」ともいう。また、前記2官能ビニル系モノマー由来の重合単位は、繰り返し構造単位を含み、前記2官能ビニル系モノマー由来の重合単位における前記繰り返し構造単位を含む直鎖の長さが、2500~16000pmの範囲内であり、かつ、前記2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgが-60~30℃の範囲内であること等が好ましい。また、上記において、前記2官能ビニル系モノマー由来の重合単位における前記繰り返し構造単位を含む直鎖の長さは、2500~12000pmの範囲内であってもよい。
【0055】
本発明のトナーにおける別の実施形態としては、前記バインダー樹脂が、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iが上記式6で表される関係を満たす樹脂Iと、前記樹脂Iと異なる樹脂IIを含有することが好ましい。樹脂Iは、2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を含むこと等が好ましい。
以下において、静電荷像現像用トナーの各構成要素について詳細な説明をする。
【0056】
1.静電荷像現像用トナーの粘弾性及びガラス転移温度
本発明の静電荷像現像用トナーの動的粘弾性を測定したとき、下記温度又は下記温度範囲内での貯蔵弾性率G′と損失正接tanδとが、下記式1及び式2並びに下記式3及び式4で表される関係を満たすことを特徴とする。
【0057】
温度70℃:
1×105Pa≦G′≦1×107Pa (式1)
0.5≦tanδ≦2.5 (式2)
温度140~180℃:
1×103Pa≦G′≦1×104Pa (式3)
0.2≦tanδ≦1.2 (式4)
【0058】
また、本発明のトナーの動的粘弾性を測定したとき、温度70℃における損失正接tanδは、下記式5で表される関係を満たすことが好ましい。
1.0≦tanδ≦2.5 (式5)
【0059】
ここで、「損失正接tanδ」とは、損失弾性率G′′と貯蔵弾性率G′の比(G′′/G′)で表される物性である。
一般的に、貯蔵弾性率G′(単位Pa)は弾性を表し、外部から受けた力で変形した時に戻ろうと貯蔵する力の指標である。すなわち、G′は、変形するとき、歪みに対して発生する応力の関係における弾性率の弾性応答成分であり、変形仕事に対するエネルギーは貯蔵される。
一方、「損失弾性率G′′(単位Pa))は粘性を表し、外部から受けた力で変形した時に受けた力に追従し熱として損失する力の指標である。
また、「損失正接tanδ」は、粘性と弾性のバランスを表す指標である。すなわち、tanδは、変形仕事に対するエネルギーの損失と貯蔵の割合の尺度となる。
【0060】
70℃における貯蔵弾性率G′が1×105Paより小さい場合、又は損失正接tanδが2.5よりも大きい場合、トナーが熱により溶け始める温度でトナー中の弾性成分が少なく、粘性成分が多くなるため、トナー同士が熱により凝集しやすくなり、耐熱性が悪化する。
【0061】
70℃における貯蔵弾性率G′が1×107Paより大きい場合、又は損失正接tanδが0.5よりも小さい場合、トナーが熱により溶け始める温度でトナー中の弾性成分が多く、粘性成分が少なくなるため、トナーが用紙と接着しにくくなり、アンダーオフセット性が悪化する。アンダーオフセット性の観点からは、70℃における損失正接tanδは、1.0以上であることが好ましい。
【0062】
140~180℃における貯蔵弾性率G′が1×103Paより小さい場合、又は損失正接tanδが1.2よりも大きい場合、トナーが過剰に溶融する温度領域でトナー中の弾性成分が少なく、粘性成分が多くなるため、トナーが流動化し、紙の繊維間にトナーが流れ込みやすくなることで繊維の白地部が露出し、画像濃度ムラが発生する。
【0063】
140~180℃における貯蔵弾性率G′が1×104Paより大きい場合、又は損失正接tanδが0.2よりも小さい場合、トナーが過剰に溶融する温度領域でトナー中の弾性成分が多く、粘性成分が少なくなるため、トナーが変形しにくくなり、トナー同士での融着が不完全になることで画像強度が低下し、定着性が悪化する。
【0064】
また、140~180℃における貯蔵弾性率G′と損失正接tanδが、上記式3及び式4を満たす範囲内で変化することで、定着ベルトが接触して熱がかかりやすい用紙の繊維上に存在するトナーと、定着ベルトが接触せずに熱がかかりにくい繊維間に存在するトナーの溶融状態が均一になり、画像濃度ムラが抑制される。
【0065】
なお、前記140~180℃の範囲内における前記貯蔵弾性率G′の最大値と最小値の差が、0~5×103Paの範囲内であると、定着ベルトが接触して熱がかかりやすい用紙の繊維上に存在するトナーと、定着ベルトが接触せずに熱がかかりにくい繊維間に存在するトナーの溶融状態が均一になり、画像濃度ムラがさらに抑制される点で好ましい。140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′の最大値と最小値の差は、0~4×103Paの範囲内であるとより好ましく、0~1.5×103Paの範囲内であるとさらに好ましい。
【0066】
上記式1~式4で表される条件を満たすための手段としては、種々の態様の手段が採用可能であるが、後で詳述するように、トナー母体粒子に用いられるバインダー樹脂の粘弾性特性を調整することが好ましい。バインダー樹脂の粘弾性特性を調整する方法としては、用いるバインダー樹脂の構造を調整する、バインダー樹脂の組み合わせを選択する及びこれらの両方の組み合わせ等が挙げられる。バインダー樹脂の構造を調整する方法として、具体的には、バインダー樹脂を構成するモノマーの構造の選択及びモノマーの組成等の調整による手段が好ましい。
【0067】
<貯蔵弾性率G′と損失正接tanδの測定方法>
動的粘弾性の測定方法については、トナーについて、従来一般的に用いられている方法及び測定条件を用いることが好ましい。例えば、下記方法によって測定することが好ましい。
【0068】
測定サンプルとして、トナー母体粒子に外添剤が任意に添加されたトナーを一定量(例えば0.2g)計量し、圧縮成形機で一定の圧力(例えば、25MPa)を印加して加圧成型を行い、上記トナーからなる一定形状(例えば、直径10mmの円柱状)のペレットを作製する。
【0069】
次に、レオメーター(例えば、TA instrument製:ARES G2)を使用し、上に一定直径(例えば8mm)のパラレルプレートを、下に一定直径(例えば20mm)のパラレルプレートのセットで用いて、一定周波数(例えば1Hz)の条件で昇温測定を行う。
【0070】
次に、サンプルセットを一定温度(例えば100℃)にて行い、プレート間距離(ギャップ)を一度1.4mmにセットした後にプレート間からはみ出したサンプルのかきとりを行った後に一定距離(例えば1.2mm)にプレート間距離をセットし、アキシャルフォースをかけつつ測定開始温度(例えばの30℃)まで降温し、アキシャルフォースを止め前記測定開始温度(30℃)から一定温度(例えば190℃)まで一定の昇温速度(例えば3℃/min)にて貯蔵弾性率G′とtanδの昇温測定を行う。詳細な測定条件は、[実施例]の欄において説明する。
【0071】
なお、本発明のトナーのガラス転移温度Tgとしては、45~60℃の範囲内であることが好ましい。トナーのガラス転移温度Tgが上記範囲内にあれば、定着性、特にアンダーオフセット性と耐熱性をより両立できるため好ましい。トナーのガラス転移温度Tgは、49~55℃の範囲内がより好ましい。トナーのガラス転移温度Tgは、例えば、以下の方法で測定できる。トナーのガラス転移温度は、バインダー樹脂の種類、具体的には、原料モノマーの組成、分子量等により調整できる。
【0072】
<トナーのガラス転移温度の測定条件>
トナーのガラス転移温度(Tg)は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定する。まず、測定試料(トナー)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用する。そして、昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/分で200℃から0℃まで冷却する冷却過程、及び昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によってDSC曲線を得る。この測定によって得られたDSC曲線に基づいて、その第2昇温過程における第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移温度(Tg)とする。
【0073】
2.バインダー樹脂
本発明に係るトナー母体粒子を構成するバインダー樹脂としては、トナーに付与する性能に応じて、種々のモノマーからなる(種々のモノマーを重合単位として構成される)樹脂を用いることができる。結晶性の観点からは、結晶性樹脂又は非晶性樹脂を用いることができる。また、異種の樹脂を結合させた樹脂の構造的観点からは、グラフトポリマーやブロックポリマー等を用いることができる。
さらに、複数の樹脂等の材料を複合化したいわゆるハイブリッド樹脂等を用いることができる。
【0074】
ここで、「結晶性樹脂」とは、結晶性を示す樹脂をいう。「結晶性を示す」とは、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により得られる吸熱曲線において、融点すなわち昇温時に明確な吸熱ピークを有することをいう。
「明確な吸熱ピーク」とは、10℃/minの昇温速度で昇温したときの吸熱曲線において半値幅が15℃以内のピークをいう。
【0075】
一方、「非晶性樹脂」とは、非晶性を示す樹脂をいう。「非晶性を示す」とは、上述した吸熱曲線において融点すなわち昇温時に明確な吸熱ピークを有しないことをいう。
【0076】
結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂を用いることができる。また、非晶性樹脂としては、非晶性ポリエステル樹脂、ビニル樹脂等を使用することができる。ビニル樹脂は、ビニルモノマーの重合体であり、具体的なビニル樹脂としては、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン・アクリル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0077】
耐熱性及び低温定着性を両立する観点からは、トナー母体粒子は、耐熱性に優れた非晶性樹脂をマトリクスとして、マトリクス中に低温定着性を付与する結晶性樹脂をドメインとして分散させた、マトリクス・ドメイン構造を有することが好ましい。
【0078】
上記のとおり本発明のトナーが上記式1~式4で表される条件を満たすためには、バインダー樹脂を適宜選択することが好ましい。バインダー樹脂は単独で用いてトナーが上記条件を満たすものであってもよく、組み合わせて用いてトナーが上記条件を満たすものであってもよい。
【0079】
トナーが上記条件を満たすために、例えば、バインダー樹脂として架橋により網目構造が形成された樹脂を用いる方法が挙げられる。具体的には、バインダー樹脂が、架橋性モノマー由来の重合単位、好ましくは、2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を含む構成(以下、「第1の構成」ともいう)が挙げられる。バインダー樹脂においては、樹脂を構成する主鎖に、主鎖同士を架橋する架橋基(架橋性モノマー由来の重合単位)を導入することで網目構造を有する構成とすることができる。この網目構造の量やサイズを調整することで、バインダー樹脂の粘弾性特性を調整できる。
【0080】
また、トナーが上記条件を満たすために、例えば、バインダー樹脂として互いに異なる樹脂を少なくとも2種用いて、樹脂間に発生するファンデルワールス力、水素結合力、又はその他の分子鎖の絡み合い等の相互作用を利用する方法が挙げられる。互いに異なる少なくとも2種の樹脂を用いることで、トナーが上記条件を満足した場合、さらに、擦り定着性を向上させることができ好ましい。
【0081】
互いに異なる樹脂を少なくとも2種用いる方法として、具体的には、バインダー樹脂が、高温域での貯蔵弾性率が得られるトナーより高い樹脂と、そうではない樹脂を組み合わせる構成が挙げられる。好ましくは、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iが上記式6で表される関係を満たす樹脂Iと、樹脂Iと異なる樹脂IIを含有する構成(以下、「第2の構成」ともいう。)が挙げられる。第2の構成において、樹脂Iは、2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を含むこと等が好ましい。
【0082】
以下、まず、バインダー樹脂の第1の構成について説明する。
【0083】
〔バインダー樹脂を構成するモノマー〕
本発明のトナーのバインダー樹脂を構成する重合単位となるモノマーとしては、バインダー樹脂の種類に応じて種々の公知のモノマーを用いることができる。
【0084】
上記バインダー樹脂の重合に用いるモノマーは、含有される樹脂の種類に応じた、架橋性モノマーを含むこと(第1の構成)が好ましい。架橋性モノマーとしては、重合性官能基を2個以上有するモノマーが挙げられる。ここで、「重合性官能基」とは、重合性官能基を有する分子間で反応を起こした場合に、共有結合を形成することができる官能基をいう。重合性官能基としては、例えば、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、スチリル基、メチロール化フェノール基を含む重合性官能基が好ましい。
【0085】
本発明では、特に2官能ビニル系モノマーを上記モノマーの構成成分として含むこと、すなわち、バインダー樹脂は2官能ビニル系モノマーに由来する重合単位を含むことが、所望の粘弾性挙動を得ることができ、さらに、画像濃度ムラ等を改善することができる点で好ましい。2官能ビニル系モノマー由来の重合単位は、例えば、ビニル樹脂に導入される。2官能ビニル系モノマー由来の重合単位は、ビニル樹脂の主鎖同士を架橋することができる。
【0086】
(2官能ビニル系モノマー)
本発明に係るバインダー樹脂(第1の構成)は、少なくとも、2官能ビニル系モノマー由来の構造(重合単位)を含むことが、前記粘弾性挙動を制御するための手段として好ましい。
本願において、「2官能ビニル系モノマー」とは、ビニル基を含有する重合性官能基を2つ有するビニル系モノマーをいう。
【0087】
ビニル基を含有する重合性官能基としては、例えば、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基及びスチリル基が好ましい。また、重合性、重合速度等の観点から、連鎖重合性官能基であるアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0088】
本発明において用いられる好ましい2官能ビニル系モノマーは、分子の化学構造における両末端に、ビニル基を含有する重合性官能基を有するモノマーである。
なお、「2官能ビニル系モノマー由来の構造(重合単位)」とは、当該2官能ビニル系モノマー分子の化学構造が、樹脂(ポリマー)を形成するための重合反応などにより一部変化した構造をいう。
【0089】
本発明で用いることができる2官能ビニル系モノマーとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールA-ジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタリン、両末端アクリル変性シリコーン、及び両末端メタクリル変性シリコーン等があげられる。本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。同様に、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタアクリル酸の少なくとも一方を意味する。
【0090】
さらに、本発明で用いることができる2官能ビニル系モノマーとしては、例えば、ジエン(ノルボルナジエン、ブタジエン、1,4-ペンタジエン等)、ビスフェノールAジ(メタ)アクリル酸グリシジル、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等も挙げられる。
【0091】
また、2官能ビニル系モノマーとしては、以下の化合物も挙げられる。
CH2=CHOCH2CH=CH2、
CH2=CHOCH2CH2CH=CH2、
CH2=CHOCH(CH3)CH2CH=CH2、
CH2=CHOCH2OCH=CH2、
CH2=CHCH2C(OH)(CH3)CH2CH=CH2、
CH2=CHCH2C(OH)(CH3)CH=CH2、
CH2=CHCOO-(C2H4O)2-COCH=CH2、
CH2=CHCOO-(C2H4O)4-COCH=CH2、
CH2=CHCOO-CH2CH(OH)CH2-OCOC(CH3)=CH2等。
【0092】
バインダー樹脂の第1の構成において、バインダー樹脂に2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を導入する場合、例えば、2官能ビニル系モノマーとして、繰り返し構造単位を有する2官能ビニル系モノマーを用いる態様が好ましい。また、2官能ビニル系モノマーとして、2官能アクリレート及び2官能メタクリレートが好ましい。
【0093】
上記態様においては、上記2官能ビニル系モノマーのうち、特に、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールA-ジ(メタ)アクリレート等が好ましい。これらの2官能ビニル系モノマー場合、2官能ビニル系モノマーとして、2官能アクリレート及び2官能メタクリレートから選ばれるエステル基を有し、当該2官エステル基が用紙のセルロースのヒドロキシ基と水素結合を形成し、用紙との接着性が向上すると考えられる点で好ましい。また、これらの2官能ビニル系モノマー場合、オキシアルキレン基の繰り返し構造を含有する点で、後述のとおり好ましい。
【0094】
バインダー樹脂における2官能ビニル系モノマー由来の構造(重合単位)の含有量は、第1の構成においては、バインダー樹脂総量(バインダー樹脂を構成する全重合単位)に対して0.10~1.1mol%の範囲内であることが、トナーの定着性と画像濃度ムラをより両立できるため好ましい。なお、第2の構成におけるバインダー樹脂中の2官能ビニル系モノマー由来の重合単位の含有量は後述するとおりである。
【0095】
2官能ビニル系モノマー由来の重合単位が導入されるバインダー樹脂としては、ビニル樹脂が好ましく、スチレン・アクリル樹脂が特に好ましい。後述のスチレン・アクリル樹脂に2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を導入する場合、導入されるスチレン・アクリル樹脂における原料モノマー同士の比率を変更することなく、追加のモノマーとして2官能ビニル系モノマーが上記割合となるように原料モノマーに追加すればよい。
【0096】
なお、バインダー樹脂を構成する全重合単位中の2官能ビニル系モノマー由来の重合単位の含有量は、バインダー樹脂の重合に用いるモノマー全量に対する2官能ビニル系モノマーの含有量と同じである。例えば、後述する実施例のトナー母体粒子の作製を例に説明すると、バインダー樹脂は、スチレン・アクリル樹脂が3段階で重合されて構成される。これらの例においては、第1段~第3段重合に含まれるモノマーの物質量(単位:mol)の総量に対する、2官能ビニル系モノマーの物質量(単位:mol)の割合(百分率)を、バインダー樹脂総量に対する2官能ビニル系モノマー由来の構造(重合単位)の含有量(単位:mol%)とすることができる。
【0097】
本発明において、バインダー樹脂を作製する際に、2官能ビニル系モノマーとして、繰り返し構造単位を有する2官能ビニル系モノマーを用いる態様について以下に説明する。
【0098】
(2官能ビニル系モノマー由来の繰返し構造単位)
本発明において、「2官能ビニル系モノマー由来の繰返し構造単位」とは、当該2官能ビニル系モノマー分子自体の化学構造において、重合性官能基を除いた内部側部分に有している連結基の繰返し構造の単位をいう。
【0099】
当該2官能ビニル系モノマー由来の繰返し構造単位としては、炭素数(n)が1~10のアルキレン基:-((CH2)n)-、オキシエチレン基:-(OCH2CH2)-、オキシプロピレン基:-(OCH(CH3)CH2)-等であることが好ましい。2官能ビニル系モノマーは、上記繰り返し構造単位の1種を含有してもよく、2種以上を含有してもよい。具体的には、上記繰り返し構造単位を含有し両末端に(メタ)アクリロイルオキシ基を有する、後述の構造A~構造Dのいずれかで示される化合物が好ましい。構造A~構造Dにおいて、上記繰り返し構造単位の繰り返し数を示すn及びmは、両末端のビニル基の間の長さが、2500~16000pmの範囲内となる数であることが好ましい。
【0100】
上記繰り返し構造単位の場合、炭素、又は炭素と酸素から構成される直鎖構造のため、分子鎖が動きやすくなるので、定着性を向上できる点で好ましい。
【0101】
(繰り返し構造単位を含む直鎖の長さとホモポリマーのガラス転移温度)
本発明に係る2官能ビニル系モノマー由来の構造における上記繰り返し構造単位を含む直鎖の長さは、2500~16000pmの範囲内であり、2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgが-60~30℃の範囲内であることが好ましい。
上記条件を満たす場合、画像強度の低下及びトナーの定着性の悪化を抑制し、画像濃度ムラをなくし、耐熱性及びアンダーオフセット性の悪化を抑制することができる点で好ましい。
【0102】
ここで、「2官能ビニル系モノマーの繰り返し構造単位を含む直鎖の長さ」とは、モノマーの両末端の重合性官能基のビニル基を構成する原子間の結合の長さを除く、当該両末端の重合性官能基が有するビニル基間の直鎖の長さをいう。すなわち、2官能ビニル系モノマーにおける両末端のビニル基の間の長さをいう。当該直鎖の長さは、3500~16000pmの範囲内がより好ましい。また、当該直鎖の長さは、必要に応じて、2500~12000pmの範囲内であってもよい。
【0103】
なお、当該直鎖の長さを計算する際には、モノマーの分子中の直鎖(主鎖)を構成する原子間の結合距離は、それぞれ、C-C:154pm、C-O:143pm、芳香環C=C:140pm、芳香環1,4間:383pmとする。
また、「ホモポリマー」とは、単一モノマーだけからなるポリマー(「単独重合体」)をいう。
【0104】
バインダー樹脂を作製する際に、モノマー中に2官能ビニル系モノマーを含有させることで、得られるバインダー樹脂は2官能ビニル系モノマーにより架橋した網目構造をとることができる。2官能ビニル系モノマーの繰り返し構造単位を含む直鎖の長さを長くすると、バインダー樹脂の分子鎖の網目構造の1つの網目の大きさが大きくなって自由体積が大きくなり、網目部分の分子鎖が動きやすくなると考えられる。
したがって、定着時に樹脂(トナー)が熱で溶融し始める温度においては分子鎖が動きやすく、一方で、樹脂(トナー)が流動化する高温領域においては網目構造によって分子鎖が束縛されて溶け広がりにくくなると考えられる。
【0105】
また、2官能のビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度が低いことで、バインダー樹脂の網目部分(架橋部)を構成する分子鎖のガラス転移温度が低くなるため、定着時に樹脂(トナー)が熱で溶融し始める温度において分子鎖が動きやすくなると考えられる。2官能のビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は-60~0℃の範囲内がより好ましい。
上記の効果によって、低温定着性と画像濃度ムラの両方の品質を満足できるトナーを提供できる。
【0106】
2官能ビニル系モノマーの繰り返し構造単位を含む直鎖の長さを上記範囲内にすると、トナーが過剰に溶融する温度領域でバインダー樹脂の分子鎖が動き、その影響によるトナーの変形、トナー同士での融着、紙の繊維間へのトナーの流れ込み防止性等が好ましい状態になり、画像強度、定着性及び画像濃度ムラが悪化することはない。
【0107】
(2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのTgの測定方法)
2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度の測定は、従来一般的にトナーについて使用されている示差走査熱量測定(Differential scanning calorimeter:DSC)によって行うことができる。
本発明においては、2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgは、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定される値である。
測定手順としては、測定試料3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。
【0108】
測定条件としては、測定温度0~200℃、昇温速度10℃/min、降温速度10℃/minでHeat-cool-Heatの温度制御で行い、その1st.Heatにおけるデータを基に解析を行い、第1の融解ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点を2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgとする。
【0109】
2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのガラス転移温度が低い(上記範囲内とする)ことで、バインダー樹脂の網目部分(架橋部)を構成する分子鎖のガラス転移温度が低くなるため、定着時に樹脂(トナー)が熱で溶融し始める温度において分子鎖が動きやすくなると考えられる。
上記の効果によって、低温定着性と画像濃度ムラの両方の品質を満足できるトナーを提供できる。
【0110】
[実施例]の欄等において記載する各種モノマーのホモポリマーのTgは、「Polymer Hand book」(第3版、John Wiley & Sons, Inc., 1989年)に記載の数値である。
上記Polymer Handbookに複数の数値が記載されている場合には、conventionalの値を採用する。
上記Polymer Handbookに記載のないモノマーについては、モノマー製造企業のカタログ値を採用する。
上記Polymer Handbookに記載がなく、モノマー製造企業のカタログ値も提供されていないモノマーのホモポリマーのTgとしては、以下の測定方法により得られる値を用いる。
【0111】
すなわち、温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却管を備えた反応器に、測定対象のモノマー100質量部、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.1重量部及び重合溶媒として酢酸エチル200質量部を投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌する。
【0112】
このようにして重合系内の酸素を除去した後、60℃に昇温し12時間反応させる。
【0113】
次いで、室温まで冷却し、このホモポリマー溶液を剥離ライナー上に流延塗布し、乾燥して厚さ約50μmの試験サンプル(シート状のホモポリマー)を作製する。得られた試験サンプルを「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)にかけて、上記方法によりホモポリマーのガラス転移温度Tgを測定する。
【0114】
(スチレン・アクリル樹脂)
本発明のトナーは、バインダー樹脂として、スチレン・アクリル樹脂を含有することが、優れた耐熱保管性を得る観点で好ましい。また、上記2官能ビニル系モノマー由来の重合単位はスチレン・アクリル樹脂に含有されることが好ましい。
【0115】
トナー中のスチレン・アクリル樹脂の含有量が5質量%以上であることが好ましい。また、耐熱保管性と低温定着性を両立する観点からは、トナー中のスチレン・アクリル樹脂の含有量は、80質量%以下であることが好ましい。バインダー樹脂中のスチレン・アクリル樹脂の含有量は80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、バインダー樹脂の全てがスチレン・アクリル樹脂であることが特に好ましい。
【0116】
以下では、バインダー樹脂に含まれるスチレン・アクリル樹脂及びポリエステル樹脂について説明する。
【0117】
本発明でいう「スチレン・アクリル樹脂」とは、少なくともスチレンモノマーと(メタ)アクリル酸エステルモノマーとを用いて、重合を行うことにより形成される樹脂である。ここで、スチレンモノマーとは、CH2=CH-C6H5の構造式で表されるスチレンの他、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものも含まれる。
【0118】
また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとは、エステル結合を有する官能基を側鎖に有するものである。具体的には、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステルモノマーの他、CH2=C(CH3)COOR(Rはアルキル基)で表されるメタクリル酸エステルモノマー等のビニル系エステル化合物が含まれる。
【0119】
以下に、スチレン・アクリル樹脂を形成することが可能なスチレンモノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーの具体例を示すが、以下に示すものに限定されるものではない。
【0120】
スチレンモノマーとしては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン等が挙げられる。
【0121】
また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、以下に示すアクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーが代表的なもので、アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレート等が挙げられる。メタクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0122】
これらのスチレンモノマー、アクリル酸エステルモノマー、又はメタクリル酸エステルモノマーは、単独でも又は2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0123】
また、スチレン-アクリル共重合体には、上述したスチレンモノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーのみで形成された共重合体の他に、これらスチレンモノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーに加え、一般のビニルモノマーを併用して形成されるものもある。以下に、本発明でいうスチレン-アクリル共重合体を形成する際に併用可能なビニルモノマーを例示するが、本発明で併用可能なビニルモノマーは、以下に示すものに限定されるものではない。
【0124】
(1)オレフィン類:エチレン、プロピレン、イソブチレン等
(2)ビニルエステル類:プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等
(3)ビニルエーテル類:ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等
(4)ビニルケトン類:ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等
(5)N-ビニル化合物類:N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドン等
(6)その他:ビニルナフタレン、ビニルピリジン等のビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体等。
【0125】
また、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、上に説明した2官能ビニル系モノマーに加えて、3官能以上の多官能性ビニルモノマーを使用することも可能である。
【0126】
さらに、側鎖にイオン性解離基を有するビニルモノマーを使用することも可能である。イオン性解離基の具体例としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。以下に、これらイオン性解離基を有するビニルモノマーの具体例を示す。
【0127】
カルボキシ基を有するビニルモノマーの具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
【0128】
スチレン・アクリル樹脂の形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用してモノマーを重合する方法が挙げられる。必要に応じて例えば、n-オクチルメルカプタン、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート等の公知の連鎖移動剤を使用してもよい。
【0129】
本発明に使用されるスチレン・アクリル樹脂を形成する場合、スチレンモノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量は特に限定されるものではなく、バインダー樹脂の軟化点温度やガラス転移温度を制御する観点から適宜調整することが可能である。具体的には、スチレンモノマーの含有量は、モノマー全体に対し40~95質量%が好ましく、56~80質量%がより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量は、モノマー全体に対し5~60質量%が好ましく、10~32質量%がより好ましい。
【0130】
第1の構成において、スチレン・アクリル樹脂は、単独のスチレン・アクリル樹脂からなってもよく、分子量又は組成の異なる2種以上のスチレン・アクリル樹脂からなってもよい。2種以上のスチレン・アクリル樹脂からなる場合、2官能ビニル系モノマーは、いずれのスチレン・アクリル樹脂に含まれてもよい。2官能ビニル系モノマーは、バインダー樹脂全体が適度な粘弾性特性を有することで、トナーが式1~式4の条件を満たすように、好ましくは、繰り返し構造単位を有する2官能ビニル系モノマーであって、上記特定の長さや、ホモポリマーのTgが上記特定の範囲の2官能ビニル系モノマーが適宜選択され、上記割合でスチレン・アクリル樹脂に含有される。
【0131】
スチレン・アクリル樹脂の形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用してモノマーを重合する方法が挙げられる。油溶性の重合開始剤としては、具体的には、以下に示すアゾ系又はジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤がある。
【0132】
アゾ系又はジアゾ系重合開始剤としては、2,2′-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、1,1′-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2′-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0133】
過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2-ビス-(4,4-tert-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス-(tert-ブチルパーオキシ)トリアジン等が挙げられる。
【0134】
また、乳化重合法でスチレン・アクリル樹脂粒子を形成する場合は水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸及びその塩、過酸化水素等が挙げられる。
【0135】
重合温度は、用いるモノマーや重合開始剤の種類によっても異なるが、50~100℃であることが好ましく、55~90℃であることがより好ましい。また、重合時間は、用いるモノマーや重合開始剤の種類によっても異なるが、例えば、2~12時間であることが好ましい。
【0136】
乳化重合法により形成されるスチレン・アクリル樹脂粒子は、異なる樹脂、具体的には分子量や組成の異なる樹脂よりなる2層以上の構成とすることもできる。この場合の製造方法としては、常法に従った乳化重合処理(第1段重合)により調製した樹脂粒子の分散液に、重合開始剤と重合性モノマーとを添加し、この系を重合処理(第2段重合)する処理を所望の段数行う多段重合法を採用することができる。
【0137】
例えば、多段階で重合されるスチレン・アクリル樹脂粒子に、2官能ビニル系モノマー、好ましくは、繰り返し構造単位を有する2官能ビニル系モノマーであって、上記特定の長さや、ホモポリマーのTgが上記特定の範囲の2官能ビニル系モノマーを導入する場合、第2段以降の重合に2官能ビニル系モノマーを導入することが好ましく、3段重合では、第3段重合に2官能ビニル系モノマーを導入することが好ましい。この際の2官能ビニル系モノマーの導入量は、好ましくは、バインダー樹脂がスチレン・アクリル樹脂のみで構成される場合、スチレン・アクリル樹脂粒子の原料モノマーの全量(第1段~第3段重合の合計mol量)に対して上記mol%の範囲内である。
【0138】
多段重合における各段のスチレン・アクリル樹脂の特性を、3段重合を例に説明する。3段重合の場合、第1段重合は高分子量体の樹脂でスチレン・アクリル樹脂粒子の総樹脂量に対する一般的な含有量は4~10質量%程度であり、主に、140℃付近の弾性率を保持させることでドキュメントオフセット性、分離性、ホットオフセット性を抑制する機能を有する。
【0139】
第2段重合は、例えば、任意成分である離型剤を含むスチレン・アクリル樹脂層とすることができる。2層目に離型剤を含ませる場合、離型剤と接触するため樹脂の極性によって離型剤の染み出し量が変わる、具体的には極性が高いと離型剤が染み出しやすいため、定着時の離型剤染み出し量を制御する組成及び量とすることができる。第3段重合はスチレン・アクリル樹脂粒子を主として構成する樹脂、具体的には、スチレン・アクリル樹脂粒子の総樹脂量に対する一般的な含有量が5~15質量%程度を占める樹脂であり、定着性を向上させる組成とすることができる。
【0140】
スチレン・アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、定着性や耐熱保管性等の観点から、35~70℃の範囲が好ましく、40~60℃の範囲がより好ましい。スチレン・アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)により、上記トナーのガラス転移温度の測定と同様の方法で測定することができる。
【0141】
〔その他の樹脂〕
本発明においては、前記樹脂以外の樹脂も併用することができる。例えば、下記結晶性又は非晶性ポリエステル樹脂を併用することも好ましい。
本発明に係るトナー母体粒子は、より優れた低温定着性を得る観点から、結晶性樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
【0142】
(非晶性ポリエステル樹脂)
非晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸モノマーと、多価アルコールモノマーとの重合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、非晶性を示す樹脂をいう。
非晶性ポリエステル樹脂は、エステル化触媒を使用し、多価カルボン酸モノマーと多価アルコールモノマーを重合することにより、合成することができる。
【0143】
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価カルボン酸モノマーとしては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、マロン酸、メサコニン酸、イソフタル酸ジメチル、フマル酸、ドデセニルコハク酸、1,10-デカンジカルボン酸等を挙げることができる。これらの中では、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸、ドデセニルコハク酸又はトリメリット酸が好ましい。
【0144】
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価アルコールモノマーとしては、例えば、2価又は3価のアルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物(BPA-EO)、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(BPA-PO)、グリセリン、ソルビトール、1,4-ソルビタン、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらの中ではビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物が好ましい。
【0145】
中でも、非晶性ポリエステル樹脂は、トリメリット酸由来の構造を有することが好ましい。
このような非晶性ポリエステル樹脂は多くのイオン架橋を形成することができ、イオン架橋が多いほどトナーが溶融しにくくなるため、イオン架橋の度合いを調整することによりトナーの溶融性を容易に調整することができる。
【0146】
(結晶性ポリエステル樹脂)
結晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸モノマーと、多価アルコールモノマーとの重合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、結晶性を示す樹脂をいう。結晶性ポリエステル樹脂は、上述した非晶性ポリエステル樹脂と同様に、エステル化触媒を使用し、多価カルボン酸モノマーと多価アルコールモノマーを重合することにより、合成することができる。結晶性ポリエステル樹脂の重合に用いる多価カルボン酸モノマーと多価アルコールモノマーとしては、非晶性ポリエステル樹脂で例示したのと同様のモノマーが挙げられる。
【0147】
次に、バインダー樹脂の第2の構成について説明する。
〔バインダー樹脂を構成する樹脂〕
バインダー樹脂の第2の構成とは、バインダー樹脂として互いに異なる樹脂を少なくとも2種用いて、樹脂間に発生するファンデルワールス力、水素結合力、又はその他の分子鎖の絡み合い等の相互作用を利用する方法であり、具体的には、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iが上記式6で表される関係を満たす樹脂Iと、樹脂Iと異なる樹脂IIを含有する構成である。なお、樹脂IIは、樹脂Iと組み合わせて用いてバインダー樹脂とした際に、トナーの粘弾性特性が上記式1~式4で表される条件を満たすことができる特性を有する樹脂である。樹脂I及び樹脂IIは、それぞれ1種からなってもよく、2種以上からなってもよい。
【0148】
なお、バインダー樹脂が第2の構成である場合、トナーは、70℃における貯蔵弾性率G′と損失正接tanδが、3×105Pa≦G′≦3×106Pa、かつ、0.7≦tanδ≦1.8の範囲内であることがアンダーオフセット性と耐熱性の両立の観点で好ましく、1×106Pa≦G′≦2×106Pa、かつ、1.0≦tanδ≦1.2の範囲内であることがより好ましい。また、この場合、トナーは、140~180℃における貯蔵弾性率G′と損失正接tanδが、1×103Pa≦G′≦5×103Pa、かつ、0.40≦tanδ≦1.00の範囲内であることが画像濃度ムラと擦り定着性の両立の観点で好ましい。
【0149】
(樹脂I)
樹脂Iは、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iが下記式6で表される関係を満たす。
1×103Pa≦G′I≦2×108Pa (式6)
【0150】
樹脂Iにおける、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iは、下記式7を満たすことがより好ましい。
3×104Pa≦G′I≦1×108Pa (式7)
【0151】
樹脂Iは、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iが、トナーの温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′と同等以上の高い粘弾性特性を有する。樹脂IIは、例えば、140~180℃の高温域において流動性を有する樹脂である。樹脂Iが上記式6の条件、好ましくは式7の条件を満足することで、140~180℃の高温域において、樹脂Iが樹脂IIの流動化を抑制し、記録媒体の繊維間にトナーが流れ込みにくくなり画像濃度ムラが抑制されると考えられる。
【0152】
また、樹脂Iにおける、温度140~180℃における損失正接tanδIは、0.1~2.0の範囲内にあることが好ましい。樹脂Iにおける、温度70℃における貯蔵弾性率G′Iは、1×105~1×109Paの範囲内にあることが好ましく、損失正接tanδIは、0.01~3.0の範囲内にあることが好ましい。
【0153】
樹脂Iはトナー母体粒子中において微分散状態であることがアンダーオフセット性、擦り定着性、耐熱性、画像濃度ムラの両立の観点で好ましく、樹脂IIのマトリクス中にドメインの状態で存在していることが好ましい。この場合のドメインの平均フェレ径は10~300nmが好ましい。なお、後述のとおり、トナー母体粒子の体積平均粒径は、例えば、4.5~8μmの範囲であることが好ましい。
【0154】
ドメインの平均フェレ径は、トナー母体粒子の断面を透過型電子顕微鏡により撮影し、写真画像をスキャナーにより取り込み、画像処理解析装置、例えば、Image-Pro Plus(Media Cybernetics社製)を用いて、10個のドメインの平均として測定することができる。
【0155】
樹脂Iは、式6を満足する限り、樹脂の種類は問わない。樹脂Iとして具体的には、上記バインダー樹脂として例示した各種樹脂のうち、式6を満たす樹脂が挙げられる。樹脂Iとしては、式6を満足する非晶性ポリエステル樹脂、ビニル樹脂等を使用することができる。ビニル樹脂としては、スチレン・アクリル樹脂が好ましい。樹脂Iは、式7を満たすことが好ましい。樹脂Iは、式6を満足する限り、1種からなってもよく2種以上からなってもよい。
【0156】
樹脂Iは、式6の条件、特には式7の条件を満たすために、例えば、架橋により網目構造が形成された樹脂Iを用いる方法が挙げられる。具体的には、樹脂Iが、架橋性モノマー由来の重合単位、好ましくは、2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を含む構成が挙げられる。樹脂Iが、2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を含む場合、樹脂Iは、例えば、ビニル樹脂であり、スチレン・アクリル樹脂であることが好ましい。2官能ビニル系モノマー由来の重合単位が導入された樹脂Iは、分子鎖に架橋による網目構造を有することで、特に140~180℃の貯蔵弾性率G′Iを式6の範囲、特には式7の範囲にコントロールしやすい。また、樹脂Iに架橋による網目構造を持たせることで、樹脂IIの分子鎖との絡みやすさを制御できるため、トナーの70℃の貯蔵弾性率G′を式1の範囲にコントロールしやすいと考えられる。
【0157】
なお、上記のとおり樹脂Iは、式6を満たす限り分子構造は特に制限されない。例えば、スチレン・アクリル樹脂において、架橋構造を有することなく、すなわち、2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を有することなく、式6を達成できれば、樹脂Iとしての使用が可能である。その場合の、原料モノマーの組成として、例えば、スチレンモノマーの含有量が、原料モノマーの全量に対して60~80質量%であり、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量が、原料モノマーの全量に対して10~30質量%であるもの挙げられる。スチレンモノマーの含有量が、原料モノマーの全量に対して65~75質量%であり、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量が、原料モノマーの全量に対して15~25質量%であるものがより好ましい。この場合、樹脂Iはさらにカルボキシ基を有するビニルモノマーとして、(メタ)アクリル酸を原料モノマー全量に対して5~15質量%質量%含有することが好ましい。
【0158】
また、樹脂Iが非晶性ポリエステル樹脂の場合の多価カルボン酸モノマーと、多価アルコールモノマーの組み合わせ及びモノマー組成としては、式6を満たすように、好ましくは式7を満たすように適宜選択する。
【0159】
樹脂Iは、上記のとおり、式6、特には式7を達成するために、2官能ビニル系モノマーの重合単位を含む樹脂であることが好ましい。2官能ビニル系モノマーとしては、上記第1の構成において例示したのと同様の2官能ビニル系モノマーが使用可能である。なお、第1の構成においては、2官能ビニル系モノマー由来の重合単位が繰り返し構造単位を有し、上記特定の長さを有し、2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのTgが上記の範囲であることが好ましいとされる。しかしながら、樹脂Iに導入される2官能ビニル系モノマー由来の重合単位は、第1の構成おけるような特定の長さやホモポリマーの特定のTgを有することは効果に大きな影響はない。
【0160】
樹脂Iに用いられる2官能ビニル系モノマーとしては、2官能アクリレート及び2官能メタクリレートが好ましい。2官能ビニル系モノマーが、2官能アクリレート及び2官能メタクリレートから選ばれるエステル基を有する2官能ビニル系モノマーの場合、当該エステル基が用紙のセルロースのヒドロキシ基と水素結合を形成し、用紙との接着性が向上すると考えられる点で好ましい。
【0161】
樹脂Iに用いられる2官能ビニル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等が好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートにおけるオキシエチレン基の数は、特に限定されないが、例えば、2~23が挙げられ、オキシエチレン基の数が2のジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0162】
樹脂Iにおける、2官能ビニル系モノマー由来の構造の含有量は、樹脂Iが上記式6を満たす、特には式7を満たす範囲が好ましく、具体的には、樹脂Iを構成する全モノマーの重合単位の総量に対して、3.0~25.0mol%の範囲内が好ましく、8.0~20.0mol%の範囲内がより好ましい。
【0163】
樹脂Iにおける、2官能ビニル系モノマー由来の構造の含有量が樹脂Iを構成する全モノマーの重合単位の総量に対して、3.0mol%以上の場合、分子鎖に架橋による網目構造が適度に存在することで、樹脂Iは樹脂IIと相溶しにくくなる。これにより、樹脂IIと共にバインダー樹脂を構成した際に、樹脂Iが作用して生じる樹脂IIの分子鎖の動きにくさを解消すると考えられ、バインダー樹脂としての低温域、具体的には70℃の貯蔵弾性率が調整される。結果として、トナーの粘弾性特性が式1~式4の条件を満たすことができ、定着性、特にアンダーオフセット性が向上すると考えられる。
【0164】
樹脂Iにおける、2官能ビニル系モノマー由来の構造の含有量が樹脂Iを構成する全モノマーの重合単位の総量に対して、25mol%以下の場合、分子鎖に上記網目構造と共に直鎖構造が適度に存在することで、樹脂Iの分子鎖は樹脂IIの分子鎖と絡みやすくなる。これにより、樹脂IIと共にバインダー樹脂を構成した際に、樹脂Iは樹脂IIの粘弾性特性を制御できる、例えば、高温域、具体的には140℃以上、で樹脂IIが流動化しようとする動きを樹脂Iが束縛できると考えられる。結果として、トナーの粘弾性特性が式1~式4の条件を満たすことができ、記録媒体の繊維間にトナーが流れ込みにくくなり画像濃度ムラが抑制されると考えられる。
【0165】
2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を導入するビニル樹脂としては、上記のとおりスチレン・アクリル樹脂が好ましい。その場合のスチレン・アクリル樹脂としては、例えば、第1の構成で説明した上記スチレン・アクリル樹脂が挙げられる。スチレン・アクリル樹脂に2官能ビニル系モノマー由来の重合単位を導入する場合、スチレン・アクリル樹脂の原料モノマーに、追加のモノマーとして2官能ビニル系モノマーが上記割合となるように追加すればよい。この場合、導入されるスチレン・アクリル樹脂における原料モノマー同士の比率を変更することなく、2官能ビニル系モノマーを追加することができる。
【0166】
2官能ビニル系モノマー由来の重合単位が導入された、樹脂Iとしてのスチレン・アクリル樹脂におけるスチレンモノマー及び(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量は特に限定されるものではなく、樹脂Iの粘弾性特性を制御する観点から適宜調整することが可能である。
【0167】
樹脂Iがスチレン・アクリル樹脂の場合、原料モノマー全量に対する2官能ビニル系モノマーの割合は、上記のとおり、3.0~25.0mol%が好ましい。2官能ビニル系モノマーが、(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーである場合、スチレンモノマーの含有量は、原料モノマー全量に対して43.0~69.0mol%が好ましく、47.0~62.0mol%がより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量は、2官能ビニル系モノマーとの合計量として、原料モノマー全量に対して17.0~21.0mol%が好ましく、18.0~20.0mol%がより好ましい。
【0168】
2官能ビニル系モノマーが、ジビニルベンゼンのような芳香環を有するモノマーである場合、スチレンモノマーと2官能ビニル系モノマーの合計含有量は、原料モノマー全量に対して69.0~73.0mol%が好ましく、70.0~72.0mol%がより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量は、原料モノマー全量に対して17.0~19.0mol%が好ましく、17.5~18.5mol%がより好ましい。
【0169】
樹脂Iはさらにカルボキシ基を有するビニルモノマーとして、(メタ)アクリル酸を原料モノマー全量に対して0.1~25.0mol%含有してもよい。
【0170】
なお、バインダー樹脂が上記樹脂Iと樹脂IIを含有し、樹脂Iが2官能ビニル系モノマーの重合単位を含有する場合には、2官能ビニル系モノマー由来の構造(重合単位)の含有量は、バインダー樹脂総量に対して0.10~3.3mol%の範囲が好ましく、0.80~2.6mol%の範囲がより好ましい。
【0171】
(樹脂II)
樹脂IIは、式6を満足する、好ましくは式7を満足する樹脂Iと共にバインダー樹脂を構成する樹脂であり、樹脂Iと共に用いて、得られるトナーが式1~式4を満足できる樹脂であれば、樹脂の種類は問わない。
【0172】
樹脂IIとして具体的には、上記バインダー樹脂として例示した各種樹脂が挙げられる。樹脂IIとしては、例えば、非晶性ポリエステル樹脂、ビニル樹脂等を使用することができる。ビニル樹脂としては、スチレン・アクリル樹脂が好ましい。樹脂IIは、樹脂Iと共に用いて、得られるトナーが式1~式4を満足できる樹脂であれば、1種からなってもよく2種以上からなってもよい。
【0173】
樹脂Iにおいて説明したとおり、本発明の第2の構成におけるバインダー樹脂は、樹脂IIがマトリクスを構成し、樹脂Iが当該マトリクス中にドメインとして微分散していることが好ましい。樹脂IIは、高温域、例えば、140℃以上で流動化する性質、具体的には、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′IIが、樹脂Iの温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iよりも小さい粘弾性特性を有することが好ましい。樹脂IIがこのような性質を有することで、樹脂Iと樹脂IIを組み合わせてバインダー樹脂としてトナーを構成した際に、トナーの粘弾性特性が、式1~式4を満足することが可能となる。これにより、本発明の効果をより発揮することが可能となる。
【0174】
樹脂IIを作製する際に用いられる原料モノマーは、樹脂Iを作製する際に用いられる原料モノマーと少なくとも1種が共通していることが好ましい。例えば、樹脂I及び樹脂IIが共にスチレン・アクリル樹脂であって、原料モノマーとして同じスチレンモノマー又は同じ(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含有する場合が上記に相当する。なお、樹脂IIは、上記、高温域、例えば、140℃以上で流動化する性質とするために、架橋による網目構造を有しないか、有してもその割合が僅かであることが好ましい。樹脂IIの原料モノマーは、架橋性モノマーを含有しないか、含有しても僅かであることが好ましく、架橋性モノマー、例えば、2官能ビニル系モノマーを含有しないことが特に好ましい。
【0175】
樹脂Iと樹脂IIの原料モノマーが共通したモノマーを有することで、樹脂Iと樹脂IIのΔSP値が小さくなり、樹脂Iと樹脂IIが互いに馴染みやすくなる。これにより、高温域、具体的には140℃以上、で樹脂IIが流動化しようとする動きを樹脂Iが束縛しやすくなると考えられ、記録媒体の繊維間にトナーが流れ込みにくくなり画像濃度ムラが抑制されると考えられる。
【0176】
樹脂IIとしては、2官能ビニル系モノマーの重合単位を含有しないスチレン・アクリル樹脂が好ましい。スチレン・アクリル樹脂としては、例えば、第1の構成で説明した上記スチレン・アクリル樹脂のうち2官能ビニル系モノマーの重合単位を含有しない樹脂が挙げられる。樹脂IIとしては、例えば、スチレンモノマーの含有量が、原料モノマーの全量に対して40~95質量%であるものが好ましく、50~80質量%がより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの含有量が、原料モノマーの全量に対して5~60質量%であるものが好ましく、10~50質量%がより好ましい。樹脂IIはさらにカルボキシ基を有するビニルモノマーとして、(メタ)アクリル酸を原料モノマー全量に対して1~15質量%含有してもよい。
【0177】
(バインダー樹脂における樹脂Iと樹脂IIの含有量)
樹脂Iの含有量は、バインダー樹脂の総量に対して4~20質量%の範囲内であることが、トナーに所望の粘弾性挙動を付与できる観点から好ましい。樹脂Iの含有量は、9~15質量%がより好ましい。樹脂Iと共に用いる樹脂IIはバインダー樹脂の総量に対して80~96質量%の範囲内にあることが好ましく、85~91質量%がより好ましい。
【0178】
樹脂Iの含有量が、バインダー樹脂の総量に対して4質量%以上であることで、樹脂IIと共にバインダー樹脂を構成した際に、樹脂Iは樹脂IIの粘弾性特性を制御できる、例えば、高温域、具体的には、140℃以上で樹脂IIが流動化しようとする動きを樹脂Iが束縛できると考えられる。結果として、トナーの粘弾性特性が式1~式4の条件を満たすことができ、記録媒体の繊維間にトナーが流れ込みにくくなり画像濃度ムラが抑制されると考えられる。
【0179】
樹脂Iの含有量が、バインダー樹脂の総量に対して20質量%以下であることで、樹脂IIと共にバインダー樹脂を構成した際に、樹脂Iが作用して生じる樹脂IIの分子鎖の動きにくさを解消すると考えられ、バインダー樹脂としての、低温域、例えば70℃の貯蔵弾性率が調整される。結果として、トナーの粘弾性特性が式1~式4の条件を満たすことができ、定着性、特にアンダーオフセット性が向上すると考えられる。
【0180】
樹脂Iがスチレン・アクリル樹脂の場合、樹脂IIはスチレン・アクリル樹脂であることが好ましく、さらに、これらの原料モノマーは共通したモノマーを含有することが好ましい。バインダー樹脂中のスチレン・アクリル樹脂の含有量は80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、バインダー樹脂の全てがスチレン・アクリル樹脂であることが特に好ましい。
【0181】
樹脂Iと樹脂IIは別々に重合、例えば、乳化重合してそれぞれの樹脂粒子の分散液として調製して、トナー母体粒子の製造に用いてもよい。本発明の第2の構成のバインダー樹脂としては、樹脂Iと樹脂IIを上記多段重合により重合して作製した、多層の樹脂粒子であってもよい。この場合、樹脂Iを第1段重合で重合させて、その上に樹脂IIを第2段以降に重合させて得られる多層樹脂粒子が好ましい。
【0182】
樹脂I及び樹脂IIが共にスチレン・アクリル樹脂の場合、例えば、第1段で樹脂Iが重合され、第2段及び第3段で樹脂IIが重合された3層樹脂粒子がバインダー樹脂として好ましく用いられる。第2段重合は、上記第1の構成と同様、例えば、任意成分である離型剤を含むスチレン・アクリル樹脂層とすることができる。2層目に離型剤を含ませる場合、離型剤と接触するため樹脂の極性によって離型剤の染み出し量が変わる、具体的には極性が高いと離型剤が染み出しやすいため、定着時の離型剤染み出し量を制御する組成及び量とすることができる。なお、2層目のスチレン・アクリル樹脂は、樹脂IIに分類される樹脂である。第3段重合により形成される3層目の樹脂は、上記樹脂IIとして説明した典型的な組成で構成される。
【0183】
上記3段重合で得られるバインダー樹脂となるスチレン・アクリル樹脂の樹脂粒子において、1層目のスチレン・アクリル樹脂が樹脂Iであり、式6、特には式7を満足し、好ましくは、樹脂粒子の離型剤以外のスチレン・アクリル樹脂全量に対して、4~20質量%の割合で含有される。2層目のスチレン・アクリル樹脂と3層目のスチレン・アクリル樹脂は、樹脂IIであり、その合計量は、樹脂粒子の離型剤以外のスチレン・アクリル樹脂全量に対して、80~96質量%が好ましい。
【0184】
(トナー母体粒子を構成するバインダー樹脂の分子量とその測定)
以下は、特に断りのない限り、第1の構成及び第2の構成に共通する事項である。本発明のトナーに係る、トナー母体粒子中のバインダー樹脂のピークトップ分子量(Mp)は、14000~21000の範囲内にあることが好ましい。
なお、「ピークトップ分子量(Mp)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)により測定して得られる樹脂の分子量分布において、ピーク面積が最大の極大ピークのピークトップに対応する分子量をいう。
【0185】
バインダー樹脂のピークトップ分子量(Mp)は、バインダー樹脂として使用する各樹脂の組成を選択する、後述するブロックポリマーを使用する、バインダー樹脂を合成する際に使用する重合開始剤や連鎖移動剤の含有量を調整する等の方法により調整することができる。
【0186】
より優れた低温定着性と濃度ムラの減少を両立する観点からは、トナー母体粒子中のバインダー樹脂のピークトップ分子量(Mp)は、15000~19000の範囲内にあることがより好ましく、16000~18000の範囲内がさらに好ましい。
【0187】
本発明において、バインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)によって測定した分子量分布から求めることができる。
【0188】
バインダー樹脂がスチレン・アクリル樹脂の場合、第1の構成においてはバインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20000~40000が好ましく、25000~35000がより好ましい。また、数平均分子量(Mn)は、5000~15000が好ましく、8000~12000がより好ましい。バインダー樹脂がスチレン・アクリル樹脂の場合、第2の構成においては、バインダー樹脂の重量平均分子量(Mw)は、13000~33000が好ましく、16000~26000がより好ましい。また、数平均分子量(Mn)は、3000~13000が好ましく、6000~10000がより好ましい。スチレン・アクリル樹脂として多段重合で重合された樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子全体としての、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)が上記範囲にあることが好ましい。
【0189】
分子量分布の測定において、具体的には、まず、測定試料を濃度1mg/mLとなるようにテトラヒドロフラン中に添加し、室温において超音波分散機を用いて5分間分散処理した後、ポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルターで処理して、試料液を調製する。
【0190】
例えば、GPC装置HLC-8120GPC(東ソー社製)及びカラム(「TSKgel guardcolumn SuperHZ-L」及び「TSKgel SuperHZM-M」(東ソー社製))を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフランを流速0.2mL/minで流す。キャリア溶媒とともに、調製した試料液10μLをGPC装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて試料を検出し、単分散のポリスチレン標準粒子を用いて測定した検量線を用いて、試料の分子量分布を算出する。
【0191】
検量線は、分子量がそれぞれ6×102、2.1×103、4×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2×106、4.48×106である10点のポリスチレン標準粒子(Pressure Chemical社製)を測定することにより、作成する。
【0192】
3.その他トナー母体粒子を構成する添加剤等
トナー母体粒子は、必要に応じて、着色剤、離型剤、荷電制御剤等の添加剤を含有することができる。以下において、各種添加剤について説明する。
【0193】
〔着色剤〕
本発明に係るトナー母体粒子は、任意成分として着色剤を含有してもよい。トナー母体粒子の形成においては、着色剤についても上記バインダー樹脂と同様に微粒子、より具体的には微粒子分散液の形態で用いられる。着色剤としては、一般に知られている染料及び顔料を用いることができる。
【0194】
ブラックの着色剤としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、マグネタイト、フェライト等の磁性体、染料、非磁性酸化鉄を含む無機顔料等の公知の種々のものを任意に使用することができる。
【0195】
上記ブラックの着色剤に、他の色の着色剤を併用してもよく、他の色の着色剤のみを用いてもよい。
【0196】
他の色の着色剤としては、染料、有機顔料等の公知のもの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントブルー15:3、同60、同76等を挙げることができる。染料としては、例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同68、同11、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同69、同70、同93、同95等を挙げることができる。
【0197】
着色剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、1~10質量部の範囲内とすることができ、好ましくは2~8質量部の範囲内である。
【0198】
〔離型剤〕
離型剤としては、特に限定されるものではなく公知の種々のワックスを用いることができる。使用できる離型剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の分枝鎖状炭化水素ワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス等の長鎖炭化水素系ワックス、ジステアリルケトン等のジアルキルケトン系ワックス、カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘネート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエート等のエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミド等のアミド系ワックス等が挙げられる。
【0199】
トナー母体粒子中の離型剤の含有量は、十分な定着分離性を得る観点から、バインダー樹脂100質量部に対して、3~15質量部の範囲内にあることが好ましい。
【0200】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤としては、ニグロシン系染料、ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩等の公知の化合物を用いることができる。荷電制御剤の添加により、帯電特性に優れたトナーを得ることができる。
荷電制御剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、通常0.1~5.0質量部の範囲内とすることができる。
【0201】
〔外添剤〕
トナー母体粒子は、そのままトナーとして用いることができるが、流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するため、その表面に流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤が添加されていてもよい。
【0202】
外添剤としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子等の無機酸化物微粒子や、ステアリン酸アルミニウム微粒子、ステアリン酸亜鉛微粒子等の無機ステアリン酸化合物微粒子、チタン酸ストロンチウム、チタン酸亜鉛等の無機チタン酸化合物微粒子等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの無機粒子は、耐熱保管性及び環境安定性の向上の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイル等によって、光沢処理が行われていることが好ましい。
【0203】
外添剤の添加量(複数の外添剤を用いる場合はその合計の添加量)は、トナー母体粒子100質量部に対して0.05~5質量部の範囲内であることが好ましく、0.1~3質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0204】
4.トナー粒子の形状及び構造
[トナー母体粒子の粒径]
本発明に係るトナー母体粒子の体積平均粒径は、4.5~8μmの範囲であることが好ましい。トナー母体粒子の体積平均粒径が前記範囲内であれば、出力画像の画質とクリーニング性の両方の観点を満たし、かつ帯電、現像、転写などの機能も両立させることができる。
なお、トナー母体粒子の粒径は、5~6.2μmの範囲であれば、上記観点においてより好ましく、ドット再現性も高まるためより高画質な画像が得られる。
【0205】
トナー母体粒子の体積平均粒径は、体積基準メディアン径(D50%径)として、例えば、「マルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)」に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステム(ベックマン・コールター製)を接続した装置を用いて、測定、算出することができる。
【0206】
測定手順としては、例えば、トナー母体粒子0.02gを、界面活性剤溶液20mlに分散させ、馴染ませた後超音波分散を1分間行い、トナー粒子分散液を作製する。
前記界面活性剤溶液としては、例えば、界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈したものを用いるとよい。このトナー母体粒子分散液を、ISOTONII(ベックマン・コールター社製)のビーカーに測定濃度5~10%になるまで滴下していき、測定機カウントを25000個に設定して測定する。ここで、マルチサイザー3のアパチャー径は100μmのものを使用する。測定は、2~60μmの範囲を256分割しての頻度数を算出し、体積積算分率が大きい方から50%の粒子径を体積基準メディアン径(D50%径)として得て、トナー母体粒子の体積平均粒径とする。
【0207】
[トナー母体粒子の平均円形度]
トナー母体粒子の平均円形度は0.920~1.000の範囲内であることが好ましく、0.955~0.985の範囲内であることがより好ましい。
【0208】
ここで、上記平均円形度の測定は、例えば、トナー母体粒子を走査型電子顕微鏡「JSM-7401(JEOL社製)」を用いて10万倍写真を撮影し、この写真画像をスキャナーに取り込む。画像処理解析装置「LUZEX(登録商標) AP」((株)ニレコ製)ソフトウェアバージョン Ver.1.32を用いて、当該写真画像から無作為に抽出した粒子100個についての粒子の投影面積及び粒子の周長から、円形度を下記式算出し、その平均値を粒子の平均円形度とする。
円形度=(投影面積の等しい円の周長)/(粒子の周長)
【0209】
[トナー母体粒子の構造:コア・シェル構造]
上述したトナー母体粒子をそのままトナー母体粒子として用いることができるが、これをコア粒子としてその表面を被覆するシェルを備えてコア・シェル構造のトナー母体粒子としてもよい。
シェルは、コア粒子の少なくとも一部を被覆していればよく、部分的にコア粒子が露出していてもよい。コア・シェル構造の断面は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)等の公知の観察手段によって、確認することができる。
【0210】
コア・シェル構造の場合は、コア粒子とシェルでガラス転移点、融点、弾性率等の特性を異ならせることができ、目的に応じたトナー母体粒子の設計が可能である。例えば、バインダー樹脂、着色剤、離型剤等を含有し、ガラス転移点(Tg)が比較的低いコア粒子の表面に、ガラス転移点(Tg)が比較的高い樹脂を凝集、融着させて、シェルを形成することができる。
【0211】
コア・シェル構造の場合、シェル層が、トリメリット酸由来の構造を有するポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
これにより、トナー母体粒子の表層のイオン架橋を増やして、全体としての弾性率を変えることなく、表層のみトナーの弾性率を高めることができる。定着部材に当接する用紙の凸部では溶けにくく、当接しない用紙の凹部では溶けやすくなるように、トナーの溶融性を容易に調整できる。
【0212】
シェル層が含有する樹脂中のトリメリット酸由来の構造を有するポリエステル樹脂の含有量は、3~15質量%の範囲内にあることが好ましく、5~10質量%の範囲内にあることがより好ましい。
この範囲内であれば、定着部材に当接する用紙の凸部では溶けにくく、当接しない用紙の凹部では溶けやすい溶融性のトナーが得られやすい。
【0213】
5.静電荷像現像用トナーの製造方法
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法においては、トナー母体粒子を構成するバインダー樹脂として、得られるトナーが式1~式4の条件を満たすことが可能な種々のバインダー樹脂を用いることができる。バインダー樹脂としては、上記少なくとも2官能ビニル系モノマー由来の構造単位を含む樹脂を用いること(第1の構成)が好ましい。または、バインダー樹脂としては、バインダー樹脂として互いに異なる樹脂を少なくとも2種用いて、樹脂間に発生する相互作用を利用する構成、具体的には、温度140~180℃の範囲内における貯蔵弾性率G′Iが式6で表される関係を満たす樹脂Iと、樹脂Iと異なる樹脂IIを含有すること(第2の構成)が好ましい。
【0214】
なお、本発明においては、前述のように、「トナー」とは、「トナー粒子」の集合体のことをいい、トナー粒子とは、トナー母体粒子に任意に外添剤を添加したものをいう。また、以下の説明においては、トナー母体粒子とトナー粒子とを特に区別する必要がない場合、単に「トナー粒子」又は「トナー」ともいう。
【0215】
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法としては、例えば、懸濁重合法、乳化凝集法、その他の公知の方法等を挙げることができる。製造コスト及び製造安定性の観点から、トナー粒子の小粒径化が容易な乳化凝集法を用いることが好ましい。
【0216】
乳化凝集法によるトナー母体粒子の製造方法は、バインダー樹脂粒子の水系分散液と、任意の着色剤粒子の水系分散液と、を混合し、バインダー樹脂粒子及び着色剤粒子を凝集・融着させることにより、トナー母体粒子を形成する方法である。
【0217】
ここで、水系分散液は、水系媒体中に粒子が分散しているものをいい、水系媒体とは、水系媒体中の50質量%以上の主成分が水からなるものをいう。
水系媒体中の水以外の成分としては、水に溶解する有機溶媒を挙げることができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。中でも、樹脂を溶解しない有機溶媒であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶媒が好ましい。
【0218】
以下、乳化凝集法によるトナーの製造方法の工程の一例(着色剤を含有する例)を説明する。
工程(1):バインダー樹脂粒子の分散液の調製工程
工程(1)では、結晶性樹脂、ブロックポリマー、非晶性樹脂等のバインダー樹脂粒子の分散液をそれぞれ調製する。
【0219】
例えば、結晶性樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を使用する場合、結晶性ポリエステル樹脂を合成し、有機溶媒中に溶解又は分散させて油相液を調製して、この油相液を転相乳化して水系媒体中にポリエステル樹脂粒子を分散させる。油滴の粒径を所望の粒径に制御した後、有機溶媒を除去することにより、結晶性ポリエステル樹脂の水系分散液を得ることができる。
【0220】
油相液に使用する有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ水への溶解性が低いものが好ましい。具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機溶媒の使用量は、結晶性ポリエステル樹脂100質量部に対して、通常1~300質量部の範囲内である。
油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。
【0221】
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50~2000質量部の範囲内であることが好ましく、100~1000質量部の範囲内であることがより好ましい。
水系媒体中には、油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤等が添加されていてもよい。
【0222】
結晶性ポリエステル樹脂粒子の平均粒径は、体積基準のメディアン径(D50)で100~400nmの範囲内にあることが好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂粒子の体積基準のメディアン径(D50)は、マイクロトラックUPA-150(日機装社製)を用いて測定することができる。
【0223】
ブロックポリマーは、結晶部及び非晶部として用いる複数種の樹脂の末端官能基を反応させるか、結合剤と反応させることにより得ることができる。結合剤としては、多価カルボン酸、多価アルコール、多価イソシアネート、多官能エポキシ、多酸無水物等を用いることができる。
結合剤を使用しない場合、例えば、ポリエステル樹脂同士の場合は、加熱減圧して縮合反応を進めることにより、重合させることができる。ポリエステル樹脂以外でも、各樹脂の末端が酸とアルコールの官能基を有する場合は同様の方法により合成できる。
【0224】
また、バインダー樹脂としてスチレン・アクリル樹脂等のビニル樹脂を使用する場合、ミニエマルション重合法によりビニル樹脂粒子の水系分散液を調製することができる。具体的には、界面活性剤を含有する水系媒体中に、例えば、第1の構成又は第2の構成に応じたビニルモノマーと水溶性のラジカル重合開始剤を添加し、機械的エネルギーを加えて液滴を形成する。ラジカル重合開始剤からのラジカルにより、液滴中において重合反応が進行する。なお、液滴中に油溶性の重合開始剤が含有されていてもよい。
【0225】
ビニル樹脂粒子は、各層の組成が異なる2層以上の多層構造を有していてもよい。多層構造を有するビニル樹脂粒子の分散液は、多段階の重合反応によって得ることができる。
例えば、2層構造を有するビニル樹脂粒子の分散液は、ビニルモノマーを重合(第1段重合)させてビニル樹脂粒子の分散液を調製した後、さらに重合開始剤とビニルモノマーを添加し、重合(第2段重合)させることにより得ることができる。
【0226】
第1の構成又は第2の構成のバインダー樹脂として、それぞれ上に示した、3層構造を有するビニル樹脂粒子、好ましくはスチレン・アクリル樹脂粒子の分散液は、それぞれ所望のビニルモノマーを重合(第1段重合)させてビニル樹脂粒子の分散液を調製した後、さらに重合開始剤とそれぞれ所望のビニルモノマーを添加し、重合(第2段重合)させ、さらに重合開始剤とそれぞれ所望のビニルモノマーを添加し、重合(第3段重合)させることにより得ることができる。
【0227】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等のカチオン性界面活性剤、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ノリルフェニルポリキオシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル等のアニオン性界面活性剤、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム等のノニオン性界面活性剤等の公知の界面活性剤を使用できる。
【0228】
(重合開始剤)
重合開始剤としては、従来公知の種々のものを用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等)を好ましく使用できるが、4,4′-アゾビス4-シアノ吉草酸及びその塩、2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)塩等のアゾ系化合物、パーオキシド化合物、アゾビスイソブチロニトリル等を用いてもよい。
【0229】
(連鎖移動剤)
ビニル樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を水系媒体中に添加することができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えば、2-クロロエタノール、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート等のメルカプタンや、スチレンダイマー等を挙げることができる。
【0230】
離型剤や荷電制御剤等の添加剤を含有するトナー母体粒子を製造する場合、当該添加剤をあらかじめビニルモノマーの溶液に溶解又は分散させておくことによって、トナー母体粒子中に添加剤を導入することができる。
このように、添加剤をあらかじめビニル樹脂粒子と分散させておくことが好ましいが、ビニル樹脂とは別に添加剤粒子の分散液を調製し、ポリエステル樹脂粒子等の他の分散液とともに混合して、ポリエステル樹脂粒子等とともに当該添加剤粒子を凝集させることにより、トナー母体粒子中に導入することもできる。
【0231】
分散液中のビニル樹脂粒子、好ましくはスチレン・アクリル樹脂粒子の平均粒径は、体積基準のメディアン径(D50)で100~400nmの範囲内であることが好ましい。
上記ビニル樹脂粒子の体積基準のメディアン径(D50)は、マイクロトラックUPA-150(日機装社製)を用いて測定することができる。
【0232】
工程(2):着色剤粒子の水系分散液の調製工程
工程(2)では、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて、着色剤粒子の水系分散液を調製する。
【0233】
着色剤粒子の水系分散液は、界面活性剤を臨界ミセル濃度(CMC)以上に添加した水系媒体中に着色剤を分散させることにより得ることができる。
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、使用する分散機としては特に限定されないが、好ましくは、超音波分散機、機械的ホモジナイザー、マントンゴーリンや圧力式ホモジナイザー等の加圧分散機、サンドグラインダー、ゲッツマンミルやダイヤモンドファインミル等の媒体型分散機が挙げられる。
【0234】
水系分散液中の着色剤粒子は、体積基準のメディアン径(D50)が10~300nmの範囲内であることが好ましく、100~200nmの範囲内であることがより好ましく、100~150nmの範囲内であることが特に好ましい。
着色剤粒子の体積基準のメディアン径(D50)は、電気泳動光散乱光度計ELS-800(大塚電子社製)を用いて測定することができる。
【0235】
工程(3):トナー母体粒子形成工程
工程(3)では、凝集剤の存在下で、ビニル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子等のバインダー樹脂粒子、着色剤粒子及びその他のトナー構成成分の粒子を凝集・融着させて、トナー母体粒子を形成する。
具体的には、水系媒体と各粒子の水系分散液を混合した系に、臨界凝集濃度以上の凝集剤を加え、ビニル樹脂のガラス転移点(Tg)以上の温度にすることによって、凝集・融着させる。
【0236】
(凝集剤)
凝集剤としては特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩等の金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等の1価の金属塩、カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅等の2価の金属塩、鉄、アルミニウム等の3価の金属塩等が挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン等を挙げることができる。
【0237】
これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、2価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0238】
工程(4A):トナー母体粒子の熟成・形状調整する工程
工程(4A)では、工程(3)により形成したトナー母体粒子の熟成処理を行い、所望の形状に制御する。工程(4A)は、必要に応じて行うことができる。
具体的には、工程(3)において得られたトナー母体粒子の分散液を加熱撹拌し、トナー母体粒子が所望の円形度になるように、加熱温度、撹拌速度、加熱時間等を調整する。
【0239】
工程(4B):コア・シェル構造の粒子を形成する工程
コア・シェル構造の粒子を形成する場合、工程(4B)では、上記工程(3)又は(4)で得られた樹脂粒子をコア粒子として、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆するシェルを形成する。工程(4B)は、コア・シェル構造のトナー母体粒子を形成する場合に行えばよい。
【0240】
コア・シェル構造のトナー母体粒子を形成する場合、シェルを構成する樹脂を水系媒体中に分散させて、シェルの樹脂粒子の分散液を調製し、上記工程(4)又は(5)により得られたコア粒子の分散液に添加して、コア粒子の表面にシェルの樹脂粒子を凝集、融着させる。これにより、コア・シェル構造を有するトナー母体粒子の分散液を得ることができる。
コア粒子にシェルの樹脂粒子をより強固に凝集、融着させるため、シェル化工程に続いて加熱処理を行うことができる。加熱処理は、目的の円形度のトナー粒子が得られるまで行えばよい。
【0241】
工程(5):トナー母体粒子を乾燥する工程
工程(5)では、トナー母体粒子の分散液を冷却し、トナー母体粒子の分散液から当該トナー母体粒子を固液分離する。固液分離によって得られたトナーケーキ(ケーキ状に成形されたウェット状態にあるトナー母体粒子)から界面活性剤や凝集剤等の付着物を除去して洗浄し、洗浄後のトナーケーキを乾燥する。
【0242】
工程(6):トナー母体粒子に対して外添剤を添加する工程
工程(6)では、上記工程(5)までの工程で作製したトナー母体粒子に対して外添剤を添加する。工程(6)は、必要に応じて行うことができる。外添剤の添加には、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル等の機械式の混合装置を使用することができる。
【0243】
6.現像剤
本発明のトナーは、磁性又は非磁性の1成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して2成分現像剤として使用してもよい
【0244】
(2成分現像剤)
2成分現像剤は、トナー粒子の含有量(トナー濃度)が4.0~8.0質量%となるように、トナー粒子とキャリア粒子とを適宜に混合することによって、二成分現像剤を構成することができる。当該混合に用いられる混合装置の例には、ナウターミキサー、WコーンおよびV型混合機が含まれる。
【0245】
(キャリア粒子)
キャリア粒子は、磁性体により構成される。当該キャリア粒子の例には、当該磁性体からなる芯材粒子と、その表面を被覆する被覆材の層とを有する被覆型キャリア粒子、および、樹脂中に磁性体の微粉末が分散されてなる樹脂分散型のキャリア粒子が含まれる。当該キャリア粒子は、感光体へのキャリア粒子の付着を抑制する観点から、被覆型キャリア粒子であることが好ましい。
【0246】
(キャリアコア(芯材粒子))
芯材粒子は、磁性体、例えば、磁場によってその方向に強く磁化する物質、によって構成される。当該磁性体は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、鉄、ニッケルおよびコバルトなどの強磁性を示す金属、これらの金属を含む合金もしくは化合物、および、熱処理することにより強磁性を示す合金、が含まれる。
【0247】
上記強磁性を示す金属またはそれを含む化合物の例には、鉄、下記式(a)で表わされるフェライト、および、下記式(b)で表わされるマグネタイト、が含まれる。式(a)、式(b)中のMは、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Mg、Zn、CdおよびLiの群から選ばれる一以上の1価または2価の金属を表す。
【0248】
式(a):MO・Fe2O3
式(b):MFe2O4
また、上記熱処理することにより強磁性を示す合金の例には、マンガン-銅-アルミニウム及びマンガン-銅-錫などのホイスラー合金、および、二酸化クロム、が含まれる。
【0249】
上記芯材粒子は、各種のフェライトであることが好ましい。これは、被覆型キャリア粒子の比重は、芯材粒子を構成する金属の比重よりも小さくなることから、現像器内における撹拌の衝撃力をより小さくすることができるためである。
【0250】
(キャリアコート樹脂(被覆材))
当該被覆材には、キャリア粒子の芯材粒子の被覆に利用される公知の樹脂を用いることができる。当該被覆材は、シクロアルキル基を有する樹脂であることが、キャリア粒子の水分吸着性を低減させる観点、および、被覆層の芯材粒子との密着性を高める観点から好ましい。当該シクロアルキル基の例には、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、および、シクロデシル基が含まれる。中でも、シクロヘキシル基またはシクロペンチル基が好ましく、被覆層とフェライト粒子との密着性の観点からシクロへキシル基がより好ましい。樹脂の重量平均分子量Mwは、例えば10,000~800,000であり、より好ましくは100,000~750,000である。当該樹脂における上記シクロアルキル基の含有量は、例えば、10質量%~90質量%である。上記樹脂中の当該シクロアルキル基の含有量は、例えば、熱分解-ガスクロマトグラフ/質量分析(P-GC/MS)や1H-NMR等によって求めることが可能である。
【0251】
7.画像形成方法
本発明の静電荷像現像用トナーは、感光体に接触するように設けられた帯電ローラーによって感光体表面を帯電させる工程を有する画像形成方法に、好適に適用することができる。本発明の静電荷像現像用トナーを用いれば、低温定着性と耐熱性のバランスに優れ、濃度ムラの少ない画像をえることができる。
【0252】
当該画像形成方法は、本発明の静電荷像現像用トナーを用いて、基材(記録媒体ともいう。)に画像を形成する。具体的には、少なくとも帯電工程、露光工程、現像工程及び転写工程を有する電子写真画像形成方法であって、前記転写工程では、静電荷像担持体(感光体ドラム)上から中間転写体(中間転写ベルト)上にトナー像を転写する一次転写工程と、当該中間転写体上の前記トナー像を転写材(用紙)上に転写する二次転写工程を有す態様の方法であることが好ましい。
【実施例】
【0253】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0254】
1.トナー(1)~(20)の作製;第1の構成のバインダー樹脂に相当するバインダー樹脂を用いたトナーの作製
〔スチレン・アクリル樹脂粒子の分散液の調製〕
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた反応容器に、あらかじめイオン交換水2900質量部にラウリル硫酸ナトリウム2.0質量部を溶解させたアニオン性界面活性剤溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
その後、この界面活性剤溶液に重合開始剤である過硫酸カリウム(KPS)9.0質量部を添加し、内温を78℃にした。
【0255】
次に、下記組成のモノマー溶液を3時間かけて滴下し、滴下終了後78℃において1時間にわたって加熱、撹拌することで重合(第1段重合)を行い、スチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(1)を調製した。
スチレン 540質量部
n-ブチルアクリレート 270質量部
メタクリル酸 65質量部
n-オクチルメルカプタン 17質量部
【0256】
(第2段重合)
撹拌装置を取り付けたフラスコ内において、下記組成のモノマー溶液に、離型剤として炭化水素系ワックス(融点:78℃)50質量部を添加し、85℃に加温して溶解させてワックス溶解液を調製した。
【0257】
スチレン 94質量部
n-ブチルアクリレート 30質量部
2-エチルヘキシルアクリレート 30質量部
メタクリル酸 11質量部
n-オクチルメルカプタン 5質量部
【0258】
一方、アニオン性界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム2質量部をイオン交換水1100質量部に溶解させた界面活性剤溶液を90℃に加温した。
この界面活性剤溶液に、スチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(1)を、スチレン・アクリル樹脂の固形分換算で28質量部添加した。
【0259】
その後、循環経路を有する機械式分散機クレアミックス(エム・テクニック社製)により、上記界面活性剤溶液で希釈されたスチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(1)に、上記ワックス溶解液を1時間かけて混合して分散させ、分散粒子径350nmの乳化粒子を含有する分散液を調製した。
この分散液に、重合開始剤である過硫酸カリウム(KPS)2.5質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた重合開始剤水溶液を添加し、90℃において2時間にわたって加熱及び撹拌することによって重合(第2段重合)を行って、スチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(2)を調製した。
【0260】
(第3段重合)
調製したスチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(2)に、重合開始剤である過硫酸カリウム(KPS)2.5質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた重合開始剤水溶液を添加し、80℃の温度条件下において、下記組成のモノマー溶液を1時間かけて滴下した。
【0261】
滴下終了後、3時間にわたって加熱及び撹拌することによって重合(第3段重合)を行った。
スチレン 226質量部
n-ブチルアクリレート 98質量部
メタクリル酸 19質量部
ポリエチレングリコールジアクリレートn=14(新中村化学工業社製 A-600)
19質量部
n-オクチルメルカプタン 5質量部
【0262】
その後、28℃まで冷却し、3段重合で作製されたスチレン・アクリル樹脂粒子(A1)の分散液を得た。この分散液中のスチレン・アクリル樹脂粒子(A1)を構成するスチレン・アクリル樹脂(A1)(離型剤を含まない)の重量平均分子量(Mw)は32800であり、数平均分子量(Mn)は10700であった。
【0263】
〔着色剤粒子の分散液(1)の調製〕
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に撹拌溶解し、この溶液を撹拌しながら、カーボンブラックであるモーガルL(キャボット社製)420質量部を徐々に添加した。
次いで、撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子の分散液(1)を調製した。分散液中の着色剤粒子の平均粒径は、体積基準のメディアン径で110nmであった。
【0264】
〔トナー(1)の作製〕
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、上記スチレン・アクリル樹脂粒子(A1)の分散液を固形分換算で280質量部、イオン交換水2000質量部を投入した。
5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10(測定温度25℃)に調整した後、上記着色剤粒子の分散液(1)を固形分換算で40質量部投入した。
【0265】
次に、塩化マグネシウム60質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。
3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて80℃まで昇温した。
その後、80℃を保持したままトナー母体粒子の成長反応を継続した。
【0266】
この状態でコールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)にてトナー母体粒子の粒径を測定し、体積基準のメディアン径(D50)が6.0μmになった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。
【0267】
その後、昇温し、90℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、測定装置FPIA-3000(Sysmex社製)を用いてトナー母体粒子の平均円形度を測定(HPF検出数を4000個として測定)し、平均円形度が0.960になった時点で30℃に冷却し、トナー母体粒子の水系分散液を得た。
【0268】
得られたトナー母体粒子の水系分散液を遠心分離機で固液分離し、トナー母体粒子のウェットケーキを形成し、これを遠心分離機により濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄した。
洗浄後、フラッシュジェットドライヤー(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥させたトナー母体粒子(1)を得た。
【0269】
100質量部の上記トナー母体粒子(1)及び下記第1混合材料をヘンシェルミキサー型式「FM20C/I」(日本コークス工業株式会社製)に添加し、羽根先端周速が38m/秒となるように回転数を設定して19分間撹拌した。
続いて、下記第2混合材料をヘンシェルミキサーに添加し、回転数は変更せずにさらに2分間撹拌した。
撹拌時における粉体混合物の温度は、40℃±1℃となるように設定した。
当該温度が41℃になった場合は、ヘンシェルミキサーの外浴に冷却水を5L/minの流量で流し、39℃になった場合は1L/minの流量で冷却水を流すことによりヘンシェルミキサー内部の温度を制御した。
こうして、トナー(1)を得た。
【0270】
<第1混合材料>
疎水性シリカ粒子1 0.3質量部
疎水性シリカ粒子2 0.9質量部
疎水性シリカ粒子3 0.4質量部
チタン酸カルシウム粒子 0.3質量部
ステアリン酸亜鉛粒子 0.1質量部
【0271】
<第2混合材料>
疎水性酸化アルミニウム粒子 0.5質量部
【0272】
なお、「疎水性シリカ粒子1」は、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)で表面修飾されたシリカ粒子であり、疎水化度は72%であり、個数平均一次粒子径は80nmである。
【0273】
「疎水性シリカ粒子2」は、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)で表面修飾されたシリカ粒子であり、疎水化度は58%であり、個数平均一次粒子径は30nmである。
【0274】
「疎水性シリカ粒子3」は、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)で表面修飾されたシリカ粒子であり、疎水化度は67%であり、個数平均一次粒子径は16nmである。
【0275】
「チタン酸カルシウム粒子」は、シリコーンオイルで表面修飾されたチタン酸カルシウム粒子であり、個数平均一次粒子径は100nmである。
【0276】
「疎水性酸化アルミニウム粒子」は、アルキルシラン(炭素数4)で表面修飾された酸化アルミニウム粒子であり、疎水化度は67%であり、個数平均一次粒子径は13nmである。
また、「ステアリン酸亜鉛粒子」は個数平均一次粒子径が1.5μm以下である。
【0277】
〔トナー(2)~(8)、及び(15)~(19)の作製〕
トナー(1)の製造において、表Iに示すように、2官能ビニル系モノマーの種類を変更したこと以外は同様にして、トナー(2)~(8)、(15)~(19)を得た。
【0278】
〔トナー(9)~(12)の作製〕
トナー(1)の製造において、表Iに示すように、2官能ビニル系モノマーの樹脂中の含有量を変更したこと以外は同様にして、トナー(9)~(12)を得た。
【0279】
〔トナー(13)及び(14)の作製〕
トナー(1)の製造において、表Iに示すように、スチレン・アクリル樹脂の種類を変更したこと以外は同様にして、トナー(2)~(8)を得た。
【0280】
〔トナー(20)の作製〕
トナー(1)の製造において、表Iに示すように、2官能ビニル系モノマーを導入しなかったこと以外は同様にして、トナー(20)を得た。
【0281】
〔二成分現像剤の作製〕
(芯材被覆用樹脂(被覆材1)の作製)
0.3質量%のベンゼンスルホン酸ナトリウムの水溶液中に、メタクリル酸シクロヘキシル及びメタクリル酸メチルを1:1のモル比で添加し、単量体総量の0.5質量%にあたる量の過硫酸カリウムを添加して乳化重合を行い、得られた分散液中の樹脂粒子を当該分散液のスプレードライによって乾燥することで、芯材被覆用樹脂である被覆材1を作製した。
【0282】
(キャリア粒子1の作製)
体積平均径(体積基準のメディアン径)が30μmであるMn-Mg系のフェライト粒子を芯材粒子として準備した。水平撹拌羽根付き高速撹拌混合機に、上記フェライト粒子(芯材粒子)の100質量部と、被覆材1の4.5質量部とを投入し、水平回転翼の周速が8m/secとなる条件で、22℃で15分間混合撹拌した。その後、120℃で50分間混合して、機械的衝撃力(メカノケミカル法)の作用で上記芯材粒子の表面に被覆材1を被覆させて、キャリア粒子1を作製した。キャリア粒子1の体積(分布)基準のメディアン径は30μmであった。
【0283】
(二成分現像剤(1)~(20)の作製)
上記トナー(1)~(20)と、キャリア粒子1とを、それぞれ、二成分現像剤におけるトナー(粒子)の含有量(トナー濃度)が6.5質量%となるようにして、V型混合機にて30分混合して、トナー(1)~(20)にそれぞれ対応する二成分現像剤(1)~(20)を作製し、評価に使用した。
【0284】
上記トナーを作製する際に用いた表Iに示す2官能ビニル系モノマーの製品名と構造を以下に示す。
【0285】
・NKエステルA-600(新中村化学工業社製);ポリエチレングリコールジアクリレート、以下の構造Aにおいて、X=H、n=14の化合物
・NKエステル4G(新中村化学工業社製);ポリエチレングリコールジアクリレート、以下の構造Aにおいて、X=H、n=4の化合物
・NKエステル9G(新中村化学工業社製);ポリエチレングリコールジアクリレート、以下の構造Aにおいて、X=H、n=9の化合物
・NKエステル2G(新中村化学工業社製);ジエチレングリコールジアクリレート、以下の構造Aにおいて、X=H、n=2の化合物
・NKエステル3G(新中村化学工業社製);トリエチレングリコールジアクリレート、以下の構造Aにおいて、X=H、n=3の化合物
・NKエステルAPG-400(新中村化学工業社製);ポリプロピレングリコールジアクリレート、以下の構造Dにおいて、X=H、n=7の化合物
・NKエステルAPG-700(新中村化学工業社製);ポリプロピレングリコールジアクリレート、以下の構造Dにおいて、X=H、n=12の化合物
【0286】
・NKエステルA-BPE-10(新中村化学工業社製);エトキシ化ビスフェノールA-ジアクリレート、以下の構造Bにおいて、X=H、n+m=10の化合物
・PDBE-1300(日油社製);エトキシ化ビスフェノールA-ジメタクリレート、以下の構造Bにおいて、X=CH3、n+m=30の化合物
・NKエステルBPE-200(新中村化学工業社製);エトキシ化ビスフェノールA-ジアクリレート、以下の構造Bにおいて、X=H、n+m=4の化合物
【0287】
以下の構造Cにおいて、X=H、n=6の化合物である1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、X=H、n=9の化合物である1,9-ノナンンジオールジアクリレート、及び構造Eのジビニルベンゼンは、一般の市販品を用いた。
【0288】
【0289】
2.トナー(1)~(20)の評価
〔トナーの貯蔵弾性率G′と損失正接tanδの測定〕
貯蔵弾性率G′と損失正接tanδの測定を次のように行った。
測定サンプルとして、トナーを0.2g計量し、圧縮成形機で25MPaの圧力を印加して加圧成型を行い、上記トナーからなる直径10mmの円柱状ペレットを作製した。
【0290】
レオメーター(TA instrument製:ARES G2)を使用し、上に直径8mmのパラレルプレートを下に直径20mmのパラレルプレートのセットで用いて、周波数1Hzの条件で昇温測定を行った。
サンプルセットを100℃にて行い、プレート間距離を一度1.4mmにセットした後にプレート間からはみ出したサンプルのかきとりを行った後に1.2mmにプレート間距離をセットし、アキシャルフォースをかけつつ測定開始温度の30℃まで降温し、アキシャルフォースを止め、30℃から190℃まで昇温速度3℃/minにて貯蔵弾性率G′と損失正接tanδの昇温測定を行った。
【0291】
以下に詳細な測定条件を示す。
・周波数:1Hz
・昇温速度:3℃/min
・アキシャルフォース:0g、 感度:10g
・印加歪初期値:3.0%、 歪み調整:30.0%、 最小歪み:0.01%
最大歪み: 100%
・最小トルク:1g・cm、 最大トルク:80g・cm
・サンプリング間隔:1.0℃/pt
【0292】
なお、表IIIに示す140℃の貯蔵弾性率G′が、温度140~180℃における貯蔵弾性率G′の最大値であり、180℃の貯蔵弾性率G′が、温度140~180℃における貯蔵弾性率G′の最小値である。
【0293】
〔トナーのTgの測定〕
前記トナーのTgの測定方法の説明において詳述した方法に従って測定した。
【0294】
〔2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのTgの測定〕
前記「2官能ビニル系モノマーのホモポリマーのTgの測定方法」の説明において詳述した方法に従って測定した。
【0295】
〔低温定着性の評価〕
市販のカラー複写機bizhub PRO C6500(コニカミノルタ社製)を、定着温度、トナー付着量、システム速度を自由に設定できるように改造した。
この改造機に各トナーとそれに対応する二成分現像剤を順次装填して定着試験を行った。
具体的には、改造機においてトナー付着量が11.3g/m2のベタ画像をNPi上質紙128g/m2(日本製紙製)上に形成した。
定着上ベルトの温度を150~200℃の範囲内で5℃ごとに変化させ、定着下ローラーの温度を定着上ベルトより20℃低く設定して、定着速度300mm/secで定着処理を行った。
コールドオフセットが発生しなかった定着上ベルトの温度のうち、最も低い温度を定着下限温度として決定した。
【0296】
表IIIに示すように、得られたベタ画像の濃度ムラを、目視により低温定着性を下記のようにランク評価した。ランク評価に示すように、定着下限温度が低いほど、低温定着性に優れている。
この定着下限温度が165℃未満であれば実用上問題なく、合格と判断される。
◎:定着下限温度が150℃未満
○:定着下限温度が150℃以上160℃未満
△:定着下限温度が160℃以上165℃未満
×:定着下限温度が165℃以上
【0297】
〔濃度ムラ及び光沢ムラの評価〕
市販のカラー複合機bizhub PRESS C1100(コニカミノルタ社製)において、定着上ベルトの表面温度を140~220℃の範囲で、定着下ローラーの表面温度を120~200℃の範囲で変更することができるように定着装置を改造した。
この改造機に各現像剤を順次装填して、ラフ紙Hammermill tidal(Hammermill社製)にトナー付着量が8.0g/m2のベタ画像を形成し定着処理した。
定着処理時の定着速度は460mm/sec、定着温度(定着上ベルトの表面温度)はアンダーオフセット温度+15℃とした。
【0298】
表IIIに示すように、得られたベタ画像の濃度ムラを、目視により下記のようにランク評価した。
◎:濃度ムラが全く確認されない
○:濃度ムラがわずかに確認されるが、品質には問題ないレベル
△:濃度ムラがベタ画像の一部で確認され、実用の下限レベル
×:濃度ムラがベタ画像一面に確認され、実用できないレベル
【0299】
〔耐熱性の評価〕
トナー0.5gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り蓋を閉めて、振とう機「タップデンサーKYT-2000」(セイシン企業社製)を用い、トナー0.5gを室温で600回振とうした。
その後蓋を取った状態で、温度55℃、湿度35%RHの環境下に2時間放置した。
【0300】
次いで、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないようにトナーを注意しながらのせて「パウダーテスター」(ホソカワミクロン社製)にセットした。
押さえバー、ノブナットで固定し、送り幅1mmとなる振動強度に調整し、10秒間振動を加えた。
【0301】
その後篩上の残存したトナー量の比率(質量%)を測定し、下記式によりトナー凝集率を算出した。
トナー凝集率(質量%)=(篩上の残存トナー質量(g)/0.5(g))×100
【0302】
この試験を、湿度は35%RHのまま試験温度を0.1℃ずつ上げながら、トナー凝集率が50質量%を超えるまで繰り返し行った。
表IIIに示すように、トナー凝集率が50質量%を超えない最大の試験温度(限界耐熱保管温度)を、耐熱性の指標とした。
【0303】
(評価基準)
◎:限界耐熱保管温度が60℃以上
○:限界耐熱保管温度が57℃以上60℃未満
△:限界耐熱保管温度が56℃以上57℃未満
×:限界耐熱保管温度が56℃未満
なお、限界耐熱保管温度は、56℃以上である場合を合格と判定する。
【0304】
トナー(1)~(20)の作製条件、粘弾性等の特性及び画像評価結果等を表I~IIIにまとめて示す。なお、表Iに示したスチレン・アクリル樹脂種(A~C)のモノマー組成に関するデータをまとめて、表IIに示した。スチレン・アクリル樹脂種(A~C)は、2官能ビニル系モノマーを除く組成を示すものであり、第1段重合のモノマー組成は全てトナー(1)と同じであるので、表IIへの記載は省略した。
【0305】
【0306】
【0307】
【0308】
3.トナー(21)~(38)の作製;第2の構成のバインダー樹脂に相当するバインダー樹脂を用いたトナーの作製
【0309】
〔スチレン・アクリル樹脂粒子の分散液の調製〕
(第1段重合(樹脂I-1))
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた反応容器に、あらかじめイオン交換水2900質量部にラウリル硫酸ナトリウム2.0質量部を溶解させたアニオン性界面活性剤溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
その後、この界面活性剤溶液に重合開始剤である過硫酸カリウム(KPS)9.0質量部を添加し、内温を78℃にした。
【0310】
次に、下記組成のモノマー溶液を3時間かけて滴下し、滴下終了後78℃において1時間にわたって加熱、撹拌することで重合(第1段重合)を行い、スチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(I-1)を調製した。
【0311】
スチレン 478質量部
n-ブチルアクリレート 184質量部
メタクリル酸 79質量部
エチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製 NKエステル 1G)
135質量部
【0312】
(第2段重合(樹脂II-1))
撹拌装置を取り付けたフラスコ内において、下記組成のモノマー溶液に、離型剤として炭化水素系ワックス(融点:78℃)50質量部を添加し、85℃に加温して溶解させてワックス溶解液を調製した。
【0313】
スチレン 104質量部
n-ブチルアクリレート 25質量部
2-エチルヘキシルアクリレート 25質量部
メタクリル酸 11質量部
n-オクチルメルカプタン 5質量部
【0314】
一方、アニオン性界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム2質量部をイオン交換水1100質量部に溶解させた界面活性剤溶液を80℃に加温した。
この界面活性剤溶液に、スチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(I-1)を、スチレン・アクリル樹脂の固形分換算で70質量部添加した。
【0315】
その後、循環経路を有する機械式分散機クレアミックス(エム・テクニック社製)により、上記界面活性剤溶液で希釈されたスチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(I-1)に、上記ワックス溶解液を1時間かけて混合して分散させ、分散粒子径350nmの乳化粒子を含有する分散液を調製した。
この分散液に、重合開始剤である過硫酸カリウム(KPS)2.5質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた重合開始剤水溶液を添加し、80℃において2時間にわたって加熱及び撹拌することによって重合(第2段重合)を行って、スチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(2)を調製した。
【0316】
(第3段重合(樹脂II-2))
調製したスチレン・アクリル樹脂粒子の分散液(2)に、重合開始剤である過硫酸カリウム(KPS)2.5質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた重合開始剤水溶液を添加し、80℃の温度条件下において、下記組成のモノマー溶液を1時間かけて滴下した。
滴下終了後、3時間にわたって加熱及び撹拌することによって重合(第3段重合)を行った。
【0317】
スチレン 214質量部
n-ブチルアクリレート 115質量部
メタクリル酸 20質量部
n-オクチルメルカプタン 5質量部
【0318】
その後、28℃まで冷却し、3段重合で作製されたスチレン・アクリル樹脂粒子(X1)を含む分散液を得た。スチレン・アクリル樹脂粒子(X1)を構成するスチレン・アクリル樹脂(X1)は、1層目が上記バインダー樹脂の第2の構成の樹脂Iに相当するスチレン・アクリル樹脂(I-1)からなり、2層目及び3層目が上記バインダー樹脂の第2の構成の樹脂IIに相当するスチレン・アクリル樹脂(II-1)、(II-2)からなる。スチレン・アクリル樹脂(II-1)、(II-2)からなる樹脂IIを樹脂IIAとした。なお、スチレン・アクリル樹脂粒子(X1)の2層目には離型剤が含まれるが、スチレン・アクリル樹脂(X1)という場合には、離型剤を含まないバインダー樹脂のみをいう。この分散液中のスチレン・アクリル樹脂(X1)の重量平均分子量(Mw)は20000であり、数平均分子量(Mn)は8800であった。
【0319】
〔着色剤粒子の分散液(2)の調製〕
ドデシル硫酸ナトリウム90質量部をイオン交換水1600質量部に撹拌溶解し、この溶液を撹拌しながらカーボンブラックであるモーガルL(キャボット社製)420質量部を徐々に添加した。
次いで、撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子の分散液(2)を調製した。分散液中の着色剤粒子の平均粒径は、体積基準のメディアン径で150nmであった。
【0320】
〔トナー(21)の作製〕
トナー(1)の製造において、スチレン・アクリル樹脂粒子(A1)の分散液を、スチレン・アクリル樹脂粒子(X1)の分散液に、着色剤粒子の分散液(1)を着色剤粒子の分散液(2)にそれぞれ変更した以外は同様にして、トナー(21)を作製した。
【0321】
〔トナー(22)~(34)、(36)~(37)〕
トナー(21)の製造において、樹脂I及び樹脂IIを、それぞれ表IVに示す樹脂(各樹脂のモノマー組成は表V及び表VIに示す。)に変更したこと以外は同様にして、トナー(22)~(34)、(36)~(37)を得た。なお、樹脂Iの重合に用いた表Vに示す2官能ビニル系モノマーのうち、ポリエチレングリコールジアクリレートn=14としては、NKエステルA-600(新中村化学工業社製)を用いた。
【0322】
〔トナー(35)〕
トナー(21)の製造において、樹脂Iを下記の非晶性ポリエステル樹脂(I-14)粒子分散液に変更したこと以外は同様にして、トナー(35)を得た。
【0323】
〔非晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液(I-14)〕
窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した容量10リットルの四つ口フラスコに、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物500質量部、テレフタル酸108質量部、フマル酸80質量部、トリメリット酸12質量部、ドデセニルコハク酸無水物15質量部及びエステル化触媒(オクチル酸スズ)2質量部を入れ、230℃で8時間縮重合反応させ、さらに8kPaで1時間反応させることにより、非晶性ポリエステル樹脂を得た。この非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は58℃、軟化点(Tsp)は101℃、重量平均分子量(Mw)は27000であった。
【0324】
次に、コンデンサー、温度計、水滴下装置及びアンカー翼を備えたジャケット付き3リットル反応槽(東京理化器械株式会社製:BJ-30N)を水循環式恒温槽にて40℃に維持しながら、該反応槽に酢酸エチル160質量部とイソプロピルアルコール100質量部との混合溶剤を投入した。さらに、上記非晶性ポリエステル樹脂を300質量部投入して、スリーワンモーターにより150rpmで撹拌し、溶解させて油相を得た。この撹拌されている油相に10質量%アンモニア水溶液を、滴下時間5分間で14質量部滴下し、10分間混合した後、イオン交換水900質量部を毎分7質量部の速度で滴下して転相させて、乳化液を得た。
【0325】
すぐに、得られた乳化液800質量部とイオン交換水700質量部とを2リットルのナスフラスコに入れ、トラップ球を介して真空制御ユニットを備えたエバポレーター(東京理化器械株式会社製)にセットした。ナスフラスコを回転させながら、60℃の湯バスで加温し、突沸に注意しつつ7kPaまで減圧し溶剤を除去した。溶剤回収量が1100質量部になった時点で常圧に戻し、ナスフラスコを水冷して分散液を得た。得られた分散液に溶剤臭は無かった。この分散液における樹脂粒子の体積基準のメディアン径(D50)は140nmであった。その後、固形分濃度が20質量%になるようにイオン交換水を加えて、非晶性ポリエステル樹脂(I-14)粒子の分散液(I-14)を得た。
【0326】
〔トナー(38)〕
トナー(21)の製造において、樹脂Iを導入しなかったこと以外は同様にして、トナー(38)を得た。
【0327】
(二成分現像剤(21)~(38)の作製)
上記トナー(21)~(38)と、上記二成分現像剤(1)で用いたのと同様のキャリア粒子1とを、それぞれ、二成分現像剤におけるトナー(粒子)の含有量(トナー濃度)が6.5質量%となるようにして、V型混合機にて30分混合して、トナー(21)~(38)にそれぞれ対応する二成分現像剤(21)~(38)を作製し、評価に使用した。
【0328】
4.トナー(21)~(38)の評価
〔トナーの貯蔵弾性率G′と損失正接tanδの測定〕
トナー(21)~(38)について、トナー(1)と同様にして、70℃の貯蔵弾性率G′と損失正接tanδ及び温度140~180℃の貯蔵弾性率G′と損失正接tanδを測定した。
【0329】
〔トナーのTgの測定〕
前記トナーのTgの測定方法の説明において詳述した方法に従って測定した。
【0330】
〔樹脂Iの貯蔵弾性率G′Iの測定〕
樹脂I-1~I-14について、トナー(1)と同様にして、温度140~180℃の貯蔵弾性率G′Iを測定した。
【0331】
〔低温定着性の評価〕
トナー(21)~(38)について、トナー(1)と同様にして、低温定着性の評価を行った。
【0332】
〔濃度ムラ及び光沢ムラの評価〕
トナー(21)~(38)について、トナー(1)と同様にして、濃度ムラ及び光沢ムラの評価を行った。
【0333】
〔耐熱性の評価〕
トナー(21)~(38)について、トナー(1)と同様にして、耐熱性の評価を行った。
【0334】
〔擦り定着性の評価〕
市販のカラー複写機bizhub PRESS C1070(コニカミノルタ社製)の現像装置に、上記で作製した各トナーとそれに対応する二成分現像剤を順次装填して評価を行った。なお、定着温度、トナー付着量、システム速度および定着装置の冷却装置を自由に設定・取り外しできるように改造した。評価紙として坪量75g紙を用い、全面ハーフトーン画像を定着速度300mm/secで定着させる定着実験を、定着上ベルト180~210℃の範囲内、定着下ローラーは上ベルトより20℃低く設定し10℃毎の水準に変更しながら行った。
【0335】
次いで、得られた定着画像を「JKワイパー」(株式会社クレシア製)で3kgfの荷重をかけて擦り、その前後のJKワイパーの明度を測定し、その差分値から擦り定着性を評価した。いずれの温度範囲においても、擦り前後の明度の差分値が5未満であれば合格とした(評価基準で◎~△)。なお、明度の測定には、分光光度計「Gretag Macbeth Spectrolino」(Gretag Macbeth社製)を使用した。
【0336】
(評価基準)
◎:擦り前後の明度の差分値が1未満
○:擦り前後の明度の差分値が1以上~3未満
△:擦り前後の明度の差分値が3以上~5未満
×:擦り前後の明度の差分値が5以上
【0337】
トナー(21)~(38)の作製条件、粘弾性等の特性及び画像評価結果等を表IVにまとめて示す。なお、表IVに示した樹脂Iのモノマー組成及び粘弾性に関するデータをまとめて、表Vに示した。樹脂I-1~I-13はスチレン・アクリル樹脂であり、モノマー投入量の内訳において、上段にモノマーの分類を下段にモノマーの種類を記載した。表V中、「-」は、当該モノマーの投入量が「0」であることを示す。また、表IVに示した樹脂IIのモノマー組成に関するデータをまとめて、表VIに示した。樹脂IIA~樹脂IICはスチレン・アクリル樹脂である。樹脂IIAは、樹脂II-1と樹脂II-2からなり、樹脂IIBは、樹脂II-3と樹脂II-4からなり、樹脂IICは、樹脂II-5と樹脂II-6からなる。以下、表IVにおける実施例34~35を、参考例34~35と読み替える。
【0338】
【0339】
【0340】
【0341】
表III及び表IVに示した結果から明らかなように、本発明のトナーを用いた実施例は、比較例に比べ、総合的に性能が優れていることが分かる。