(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
B60T8/17 Z
(21)【出願番号】P 2020145520
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英志
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-029198(JP,A)
【文献】特開2011-068179(JP,A)
【文献】特開2008-137603(JP,A)
【文献】特開2015-058833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のホイールシリンダの制動液圧を調整して、車輪の制動力を制御する車両の制動制御装置であって、
電気モータによって駆動される流体ポンプと、
ソレノイド、前記ソレノイドによって駆動される弁体、及び、前記弁体と当接可能な弁座にて構成され、前記流体ポンプが吐出する制動液の流体力が前記弁体に作用するリニア型のインレット弁と、
前記ソレノイドの通電状態を調整して、前記インレット弁を制御するコントローラと、
を備え、
前記インレット弁は常開型であり、
前記コントローラは、
前記通電状態の基準を規範通電量として演算し、
前記規範通電量を、前記弁体が前記弁座に近づく方向に限って、周期的に増加して目標通電量を演算し、
前記目標通電量に基づいて前記通電状態を制御
し、
前記弁体と前記弁座との間の隙間の大きさを開弁量としたとき、
前記制動液圧を増加させる第1増圧モードと、前記第1増圧モードよりも小さい前記開弁量で前記制動液圧を増加させる第2増圧モードとによる前記インレット弁の制御を順に行い、
前記規範通電量を周期的に増加して前記目標通電量を演算する増加調整を、
前記制動液圧を前記第2増圧モードで増加する場合には許可し、
前記制動液圧を前記第1増圧モードで増加する場合には禁止する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、
前記制動液圧を減少させた後に増加させる場合、前記制動液圧を減少させた際の減少分に応じた目標液圧まで前記制動液圧を増加させる前記第1増圧モードと、前記第2増圧モードとによる前記インレット弁の制御を順に行い、
前記増加調整を、前記制動液圧を減少する場合には禁止する、車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の車両の制動制御装置において、
前記インレット弁は、
前記流体ポンプが吐出する制動液の流れにおいて、前記弁座に対して上流側の液圧である第1液圧と、前記弁座に対して下流側の液圧である第2液圧との液圧差を調整し、
前記コントローラは、
前記液圧差が大きいほど、前記規範通電量から前記目標通電量に増加する調整通電量を大きくする、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「液圧制御弁のスプールの作動状態を常時監視してディザを調整することにより、スプールの固着及び振動等を防止することができ、かつ、液圧制御弁の個体差に対処することができるブレーキ液圧制御装置を提供する」ことを目的に、「ブレーキペダル1の操作に応じてコントローラ6が液圧制御弁9を作動させてブレーキホイールシリンダ10へ供給されるブレーキ液圧を制御する。このブレーキ液圧の制御において、コントローラ6が、ブレーキ液圧センサ11から供給される液圧検出値によってブレーキホイールシリンダ10におけるブレーキ液圧の微小振動幅を求め、その微小振動幅と所定のしきい値とを比較してスプール9cの作動状態を推定する。そして、その推定結果に基づき、スプール9cの固着状態や振動状態を解消するようにディザを設定し、これを目標電流に重畳した駆動電流が比例ソレノイド9dへ供給されるように制御を行う。」ことが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載されるような「ディザ制御」では、電磁弁の目標電流に、ディザ波形(例えば、一定の勾配で右上がりの上昇ディザと右下がりの下降ディザとが所定のディザ周期毎に繰り返されるもの)が重畳されることによって、ホイールシリンダに供給される制動液圧が、微小振幅で振動される。これにより、電磁弁のスプールの固着・振動が抑制されるため、この固着等によって生じるブレーキ操作の応答性の低下、液圧制御弁のスプールの振動に起因するブレーキ液圧源の無用な液圧低下が回避される。
【0004】
特許文献2には、「電磁弁に発生しうる振動を抑制することができるブレーキ制御装置を提供する」ことを目的に、「ブレーキ制御装置は、ブレーキ液が供給されて車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、ホイールシリンダに流路を介して接続され、通電制御により開度が調整される電磁弁と、パルス幅変調制御されたパルス信号を電磁弁に通電する制御をする制御部と、を備える。そして制御部は、電磁弁における自励振動の発生が予測された場合に、電磁弁に通電するパルス信号の周波数を所定の通常周波数より高くする」ことが記載されている。特許文献2の装置のように、電磁弁に入力する制御信号の周波数を高くすると、同制御信号を生成する制御部(制御部が備える駆動回路)の発熱量が多くなるなどし、装置としての耐久性低下が懸念される。
【0005】
出願人は、特許文献2に記載の装置の課題を解決し、装置の耐久性の低下を抑制しつつ、電磁弁で発生する自励振動に起因する異音の発生を抑制するよう、特許文献3に記載されるような、車両の液圧制御装置を開発している。特許文献3の自励振動抑制処理では、圧力調整部の供給ポンプと差圧調整弁321との双方を作動させている状況下で所定の抑制制御許可条件が成立したときに、弁座から離れている弁体が同弁座が当接される。そして、同弁体が同弁座に当接したら、同弁体が同弁座から離間される。
【0006】
ところで、電磁弁では、スプールの固着・振動の課題(特許文献1の課題)の他に、液圧変動の課題(特許文献2、3の課題)が存在するが、この液圧変動には、上記の自励振動の他に、制動液BFの流体力(流体の流れによって引き起こされる力)Fbの変化によって引き起こされるものがある。特に、該液圧変動は、各ホイールシリンダCWにおいて、独立で実際の制動液圧Pwを調整するために設けられた常開型のインレット弁において、リニア型の電磁弁UI(「比例弁」ともいう)が採用された構成で生じる蓋然性が高い。
【0007】
以下、
図5の概略図を参照して、このことについて詳しく説明する。リニア型のインレット弁UIは、各車輪WHに設けられたホイールシリンダと加圧ユニットとの間に配置されている。ここで、「加圧ユニット」には、ブレーキ・バイ・ワイヤ型が採用されない構成ではマスタシリンダCMが該当し、ブレーキ・バイ・ワイヤ型が採用される構成では電気モータを動力源とした流体ユニットが該当する。リニア型インレット弁UIには、電気モータMTによって駆動される流体ポンプHPから、制動液BFが供給される(上向きの矢印にて図示される制動液BFの流れ)。そして、インレット弁UIが利用されて、アンチロックブレーキ制御、車両安定性制御、トラクション制御等において、各輪独立で制動液圧Pwが、静寂、且つ、円滑に制御(調整)される。
【0008】
インレット弁UIの中心軸線Jvの左図(a)は、常開型のインレット弁UIにフル通電(即ち、閉弁状態を維持するのに十分な通電)が行われ、弁体VTの球状先端部Vtが、保持部材HJに設けられた弁座Vz(円錐面)に当接して、インレット弁UIが閉弁されている状態を表している。一方、中心軸線Jvの右図(b)は、フル通電から通電量が減少され、先端部Vtと、弁座Vzとの隙間(「開弁量」という)Liが生じている状態を示している。右図(b)の状況では、制動液BFの流れが、開弁量Liによって絞られている。開弁量Liに応じたオリフィス効果によって、制動液BFの流れにおいて、弁座Vzの上流側の液圧(「第1液圧」という)Paと、弁座Vzの下流側の液圧(「第2液圧」という)Pbとの間には液圧差(「差圧」ともいう)Qaが生じる。なお、該状況は、「Pa≧Pb」であるため、「開弁量Li(即ち、オリフィス)によって、第1液圧Paは、第2液圧Pbよりも液圧差Qaだけ増加されている(即ち、「Pa=Pb+Qa」)」ということもできる。
【0009】
開弁量Liは、弁体VTに作用する制動液BFの流体力Fb(正確には、流体力Fbに弾性力Fsを加えた力「Fb+Fs」)と、ソレノイドSD(コイルCL+プランジャPL)によって発生される推力Fa(ソレノイドSDが発生する吸引力)との釣り合いによって定まる。流体力Fbは、流体ポンプHPの脈動等の外乱に起因して微小に変動するため、ソレノイドSDへの通電量が一定の場合には開弁量Liも微小に変化する。例えば、液圧差Qaが一定に維持されるためには、流体力Fbの変化に応じて、高応答で、ソレノイドSDの吸引力Faが調整され、弁体VTが要求される位置に戻され、開弁量Liが適切に調整される必要がある。特に、大流量で、且つ、高い液圧差Qa(目標差圧Qt)が要求されている場合には開弁量Liが小さいため、ソレノイドSDに対する高応答の要求度は高い。
【0010】
ソレノイドSDの応答性を高めるためには、その出力が増大される必要がある。しかしながら、ソレノイドSDの出力増加は、インレット弁UI(特に、ソレノイドSD)、及び、該インレット弁UIを駆動する駆動回路DRの大型化を招く。このため、車両の制動制御装置SCにおいては、インレット弁UI等が大型化されることなく、液圧差Qa(結果、制動液圧Pw)が好適に制御され得るものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平11-099918号
【文献】特開2011-084147号
【文献】特開2017-065664号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、車両の制動制御装置において、リニア型のインレット弁に係る装置が大型化されることなく、液圧変動が低減され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る車両の制動制御装置は、車両のホイールシリンダ(CW)の制動液圧(Pw)を調整して、車輪(WH)の制動力(Fx)を制御するものであって、「電気モータ(MT)によって駆動される流体ポンプ(HP)」と、「ソレノイド(SD)、前記ソレノイド(SD)によって駆動される弁体(VT)、及び、前記弁体(VT)と当接可能な弁座(Vz)にて構成され、前記流体ポンプ(HP)が吐出する制動液(BF)の流体力(Fb)が前記弁体(VT)に作用するリニア型のインレット弁(UI)」と、「前記ソレノイド(SD)の通電状態を調整して、前記インレット弁(UI)を制御するコントローラ(ECU)」と、を備える。
【0014】
本発明に係る車両の制動制御装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記通電状態の基準を規範通電量(Is)として演算し、前記規範通電量(Is)を、前記弁体(VT)が前記弁座(Vz)に近づく方向に限って、周期的に増加して目標通電量(It)を演算し、前記目標通電量(It)に基づいて前記通電状態を制御する。
【0015】
弁体VTには、流体ポンプHPが吐出する制動液BFの流体力Fbが作用する。流体ポンプHPの脈動に起因して流体力Fbが増加されると、弁体VTが弁座Vzから離れる方向(即ち、流体力Fb、及び、弾性力Fsの作用方向)に移動され、制動液圧Pwが増加される。この制動液圧Pwの増加を抑制するための1つの手段(即ち、流体力Fbに起因する液圧変動の低減手段)は、瞬時に、弁体VTを弁座Vzに近づけることである。しかしながら、該手段を実現するためには、ソレノイドSDの出力増加が必要となり、装置の大型化が懸念される。
【0016】
上記構成によれば、ソレノイドSDの通電状態の基準である規範通電量Isが、弁体VTが弁座Vzに近づく方向(即ち、弾性力Fs、流体力Fbに対抗する方向であり、吸引力Faが増加する方向)に限って、周期的に増加される。つまり、流体ポンプHPの脈動に起因して流体力Fbが増加される分が予め見込まれて、ソレノイドSDに通電が行われる。これにより、インレット弁UIに係る装置(ソレノイドSD、駆動回路DR等)が大型化されることなく、流体力Fbに起因する液圧変動が低減され得る。
【0017】
本発明に係る車両の制動制御装置では、前記インレット弁(UI)は、前記流体ポンプ(HP)が吐出する制動液(BF)の流れにおいて、前記弁座(Vz)に対して上流側の液圧である第1液圧(Pa)と、前記弁座(Vz)に対して下流側の液圧である第2液圧(Pb)との液圧差(Qt、Qa)を調整する。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記液圧差(Qt、Qa)が大きいほど、前記規範通電量(Is)から前記目標通電量(It)に増加する調整通電量(Ic)を大きくする。また、前記コントローラ(ECU)は、前記規範通電量(Is)を増加して前記目標通電量(It)を演算する増加調整を、前記制動液圧(Pw)を増加する場合には許可し、前記制動液圧(Pw)を減少する場合には禁止する。
【0018】
弁体VTに対して、流体力Fbの影響が大きい状況は、差圧が大きい場合である。また、インレット弁UIが閉弁されている状況では、流体力Fbの影響は無視できる。上記構成によれば、必要な場合に限って、流体力Fbに対抗する必要十分な、インレット弁UIの通電量の調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】車両の制動制御装置SCの実施形態を説明するための全体構成図である。
【
図2】インレット弁UIを説明するための断面図である。
【
図3】インレット弁UIへの通電制御を説明するための機能ブロック図である。
【
図4】アンチロックブレーキ制御におけるモード選択処理を説明するための時系列線図である。
【0020】
<構成部材等の記号、記号末尾の添字>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された構成部材、要素、信号、特性等は同一機能のものである。2つの制動系統に係る記号の末尾に付された添字「1」、「2」は、それが何れの系統に関するものであるかを示す包括記号であり、「1」は一方の制動系統(「第1制動系統BK1」ともいう)、「2」は他方の制動系統(「第2制動系統BK2」ともいう)を示す。例えば、タンデム型マスタシリンダCMの2つの圧力室(「液圧室」ともいう)において、第1制動系統BK1に接続されるものが第1液圧室Rm1であり、第2制動系統BK2に接続されるものが第2液圧室Rm2である。添字「1」、「2」は省略され得る。添字「1」、「2」が省略された場合には、その記号は総称を表す。例えば、「Rm」は液圧室を表す。
【0021】
接続路HSにおいて、マスタシリンダCMに近い側(又は、ホイールシリンダCWから遠い側)が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側が「下部」と称呼される。流体ポンプHPから吐出される制動液BFの流れにおいて、流体ポンプHP(特に、吐出部Ht)に近い側が上流側(上流部)、遠い側が下流側(下流部)と称呼される。
【0022】
<車両の制動制御装置SCの実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの実施形態について説明する。該実施形態では、2系統の流体路(第1、第2制動系統BK1、BK2)において、第1制動系統BK1では、第1液圧室Rm1は、右前輪、左後輪のホイールシリンダ(「第1ホイールシリンダCW1」という)に接続される。また、第2制動系統BK2では、第2液圧室Rm2は、左前輪、右後輪のホイールシリンダ(「第2ホイールシリンダCW2」という)に接続される。即ち、2系統の流体路として、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用される。ここで、「流体路」は、作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管、流体ユニットHUの流路、ホース等が該当する。
【0023】
制動制御装置SCを備える車両には、制動操作部材BP、回転部材KT、ホイールシリンダCW、マスタリザーバRV、マスタシリンダCM、制動操作量センサBA、車輪速度センサVW、操舵角センサSA、ヨーレイトセンサYR、減速度センサGX、及び、横加速度センサGYが設けられる。
【0024】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速されるために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクTqが調整され、車輪WHに制動力Fxが発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置される。
【0025】
ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCW内の制動液BFの圧力(「ホイールシリンダ液圧」であり、「制動液圧」ともいう)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体となって回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTqが発生される。そして、制動トルクTqによって、車輪WHに制動力Fxが発生される。
【0026】
マスタリザーバ(「大気圧リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタシリンダCMの内部は、2つのピストンPG、PHによって、2つの液圧室Rm1、Rm2(=Rm)に区画されている。つまり、マスタシリンダCMとして、タンデム型のものが採用されている。プライマリピストンPG、セカンダリピストンPHは、制動操作部材BPに連動して移動される。制動操作部材BPが操作されていない場合には、マスタシリンダCMの液圧室RmとマスタリザーバRVとは連通状態にある。第1、第2制動系統BK1、BK2(=BK)において、制動液BFが不足している場合には、マスタリザーバRVから液圧室Rmに、制動液BFが補給される。
【0027】
制動操作部材BPが操作されると、マスタシリンダCM内のピストンPG、PHが前進方向に移動され、液圧室RmとマスタリザーバRVとの連通は遮断される。更に、制動操作部材BPの操作が増加されると、ピストンPG、PHは、更に前進方向に移動され、液圧室Rmの体積は減少し、制動液(作動流体)BFは、マスタシリンダCMから排出(圧送)される。制動操作部材BPの操作が減少されると、ピストンPG、PHは、前進方向とは反対の後退方向に移動され、液圧室Rmの体積は増加し、制動液BFはマスタシリンダCMに向けて戻される。
【0028】
タンデム型マスタシリンダCMの第1、第2液圧室Rm1、Rm2(=Rm)と、第1、第2ホイールシリンダCW1、CW2(=CW)とは、第1、第2接続路HS1、HS2(=HS)によって接続されている。接続路HSは、マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとを接続する流体路である。第1、第2接続路HS1、HS2は、第1、第2調圧弁UM1、UM2(=UM)の下部にて2つに分岐され、第1、第2ホイールシリンダCW1、CW2に接続される。
【0029】
制動操作量センサBAによって、運転者による制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Baが検出される。具体的には、制動操作量センサBAとして、液圧室Rm内の液圧(「マスタシリンダ液圧」という)Pm(=Pm1、Pm2)を検出するマスタシリンダ液圧センサPM(=PM1、PM2)、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。つまり、操作量センサBAは、マスタシリンダ液圧センサPM、操作変位センサSP、及び、操作力センサFPの総称であり、制動操作量Baは、マスタシリンダ液圧Pm、操作変位Sp、及び、操作力Fpの総称である。
【0030】
車輪速度センサVWによって、各車輪WHの回転速度である、車輪速度Vwが検出される。例えば、車輪速度センサVWは、車輪WHに設けられる。車輪速度Vwは、車体速度Vxの演算に用いられる。
【0031】
操舵角センサSAによって、ステアリングホイールSWの操舵角Saが検出される。ステアリングホイールSWは、運転者が車両を旋回されるために操作する部材である。ステアリングホイールSWが操作されることによって、操向車輪(例えば、前輪)の舵角が調整され、操向車輪に旋回力Fyが発生される。例えば、操舵角センサSAは、ステアリングホイールSWに設けられる。
【0032】
ヨーレイトセンサYRによって、車両の実際のヨーレイトYrが検出される。減速度センサGXによって、車両の実際の減速度Gxが検出される。横加速度センサGYによって、車両の実際の横加速度Gyが検出される。
【0033】
各センサ(VW等)の検出値(Vw等)は、コントローラECUに入力される。コントローラECUにて、これらの信号に基づいて、各車輪WHのホイールシリンダCWにおいて、独立で制動液圧Pwが調整され、車輪WHのロック傾向を抑制するアンチロックブレーキ制御、車両の安定性を確保する車両安定性制御等が実行される。このような車輪WH毎での独立した制動液圧Pwの調整が、「独立液圧制御」と称呼される。換言すれば、独立液圧制御は、アンチロックブレーキ制御(所謂、「ABS」)、車両安定性制御(所謂、「ESC」であり、「横滑り防止制御」ともいう)、トラクション制御等の総称である。
【0034】
≪運転支援システム≫
車両には、運転者に代わって、或いは、運転者を補助して、制動制御装置SCを介して、車両を自動停止させるよう、運転支援システムが備えられる。該制御が、「自動制動制御」と称呼される。運転支援システムは、距離センサOB、及び、運転支援コントローラECJを含んで構成される。距離センサOBによって、自車両の前方に存在する物体(他車両、固定物、人、自転車、停止線、標識、信号、等)と、自車両との間の距離(相対距離)Obが検出される。例えば、距離センサOBとして、画像センサ、レーダセンサ、超音波センサ等が採用される。或いは、車載されたGPS(グローバル・ポジショニング・システム)の情報が、地図情報に参照され、相対距離Obが演算されてもよい。相対距離Obは、運転支援コントローラECJに入力される。
【0035】
運転支援コントローラECJでは、相対距離Obに基づいて、車両を自動停止させるための要求減速度Gsが演算される。要求減速度Gsは、自動制動制御を実行するための車両減速度の目標値である。要求減速度Gsは、通信バスBSを介して、制動制御装置SCの制動コントローラECUに送信される。
【0036】
≪制動制御装置SC≫
制動制御装置SCは、流体ユニットHU、及び、制動コントローラECU(単に、「コントローラ」ともいう)にて構成される。
【0037】
流体ユニットHUは、第1、第2接続路HS1、HS2(流体路)に設けられる。即ち、第1、第2液圧室Rm1、Rm2は、流体ユニットHUを介して、第1、第2ホイールシリンダCW1、CW2に接続される。流体ユニットHUは、第1、第2調圧弁UM1、UM2、第1、第2マスタシリンダ液圧センサPM1、PM2、第1、第2流体ポンプHP1、HP2、電気モータMT、第1、第2調圧リザーバRC1、RC2、第1、第2調整液圧センサPP1、PP2、第1、第2インレット弁UI1、UI2、及び、第1、第2アウトレット弁VO1、VO2を含んで構成される。
【0038】
第1、第2接続路HS1、HS2(=HS)には、第1、第2調圧弁UM1、UM2(=UM)が設けられる。調圧弁UMは、通電量(電流値)に応じて、その開弁量(リフト量)Lmが連続的に制御される常開型の比例弁である。比例弁は、流体路において、その前後での液圧差(差圧)を調整可能であるため、「差圧弁」とも称呼される。
【0039】
第1、第2調圧弁UM1、UM2(=UM)の上部には、第1、第2液圧室Rm1、Rm2の液圧(マスタシリンダ液圧)Pm1、Pm2(=Pm)を検出するよう、第1、第2マスタシリンダ液圧センサPM1、PM2(=PM)が設けられる。マスタシリンダ液圧センサPMは操作量センサBAに相当し、マスタシリンダ液圧Pmは操作量Baに相当する。なお、第1、第2マスタシリンダ液圧Pm1、Pm2は、実質的には同一であるため、第1、第2マスタシリンダ液圧センサPM1、PM2のうちの何れか1つは省略することができる。
【0040】
調圧弁UMの上部と、調圧弁UMの下部とを接続するように、第1、第2還流路HK1、HK2(=HK)が設けられる。還流路HK(流体路)には、第1、第2流体ポンプHP1、HP2(=HP)、及び、第1、第2調圧リザーバRC1、RC2(=RC)が設けられる。
【0041】
流体ポンプHPは、電気モータMTによって駆動される。具体的には、コントローラECUで駆動される電気モータMTによって、流体ポンプHPが回転される。流体ポンプHPは、調圧弁UMの上部(マスタシリンダCMと調圧弁UMとの間の接続路HSにおける部位)から制動液BFを吸込み、調圧弁UMの下部(調圧弁UMとホイールシリンダCWとの間の接続路HSにおける部位)に制動液BFを吐出する。電気モータMTが駆動されると、還流路HKでは、破線矢印で示すように、制動液BFの第1、第2還流KN1、KN2(=KN)が生じる(「HP→UM→RC→HP」の流れ)。「還流」とは、制動液BFが循環して、再び元の流れに戻ることである。還流路HKには、制動液BFが逆流しないよう、逆止弁(「チェック弁」ともいう)が設けられる。
【0042】
調圧弁UMによって、還流KNが絞られて、調圧弁UMの上部の液圧(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)と下部の液圧Ppとの間に差圧Qmが発生される。具体的には、コントローラECUによって、常開型の調圧弁UMに通電が行われることで、その開弁量Lmが減少され、調圧弁UMの下部の液圧Ppが、マスタシリンダ液圧Pmから増加するように調整される。ここで、調圧弁UMによって調節された液圧が、「第1、第2調整液圧Pp1、Pp2」と称呼される。
【0043】
接続路HSには、第1、第2調整液圧Pp1、Pp2(=Pp)を検出するよう、第1、第2調整液圧センサPP1、PP2(=PP)が設けられる。調圧弁UMの開弁量Lmと、供給電力との間には相関関係があるため、調整液圧Ppは、調圧弁UMへの通電量(例えば、電流値)に対して、所定の関係で調節可能である。従って、調整液圧センサPPは省略されてもよい。
【0044】
第1、第2接続路HS1、HS2の夫々が2つに分岐され、第1、第2ホイールシリンダCW1、CW2に接続される。接続路HSには、第1、第2インレット弁UI1、UI2(=UI)が設けられる。インレット弁UIとして、常開型の比例弁が採用される。即ち、インレット弁UIは、調圧弁UMと同様に、通電量(電流値)に応じて、その開弁量(リフト量)Liが連続的に制御可能な電磁弁である。
【0045】
接続路HSにおける分岐部から下部(ホイールシリンダCWに近い側)の構成は、各ホイールシリンダCWにおいて同じである。接続路HSは、インレット弁UIの下部(即ち、インレット弁UIとホイールシリンダCWとの間)にて、第1、第2減圧路HG1、HG2(=HG)に接続される。減圧路HG(流体路)は、第1、第2調圧リザーバRC1、RC2(=RC)に接続される。減圧路HGには、第1、第2アウトレット弁VO1、VO2(=VO)が設けられる。アウトレット弁VOとして、常閉型のオン・オフ弁が採用される。
【0046】
独立液圧制御(各車輪WHにおける独立した制動液圧Pwの調整)を実行するよう、各車輪WH(即ち、ホイールシリンダCW)には、インレット弁UIとアウトレット弁VOとの組(一点鎖線で示す)が設けられる。独立液圧制御によって、制動液圧Pwを減少する際には、インレット弁UIが閉位置にされ、アウトレット弁VOが開位置される。インレット弁UIからの制動液BFの流入が阻止され、ホイールシリンダCW内の制動液BFは、調圧リザーバRCに流出し、制動液圧Pwは減少される。また、制動液圧Pwを増加する際には、インレット弁UIが開位置にされ、アウトレット弁VOが閉位置される。調圧リザーバRCへの制動液BFの流出が阻止され、調整液圧Pp(又は、マスタシリンダ液圧Pm)が、ホイールシリンダCWに導入され、制動液圧Pwが増加される。制動液圧Pwを一定に保持する際には、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが、共に閉弁される。つまり、電磁弁UI、VOの制御によって、制動液圧Pwが、ホイールシリンダCW毎で独立に調整可能である。
【0047】
制動コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUは、マイクロプロセッサMP、駆動回路DR等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。コントローラECUは、車載の通信バスBSを介して、信号(検出値、演算値等)を共有するよう、他のコントローラ(ECJ等)とネットワーク接続されている。例えば、制動コントローラECUは、運転支援コントローラECJと、通信バスBSを通して接続される。制動コントローラECUから、運転支援コントローラECJには、車体速度Vxが送信される。一方、運転支援コントローラECJから、制動コントローラECUには、自動制動制御を実行するための要求減速度Gsが送信される。
【0048】
制動コントローラECU(電子制御ユニット)には、車輪速度Vw等が入力される。制動コントローラECUによって、電気モータMT、及び、電磁弁UM、UI、VOが制御される。具体的には、マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、各種電磁弁UM、UI、VOを制御するための駆動信号Ua、Ui、Voが演算される。同様に、電気モータMTを制御するための駆動信号Mtが演算される。
【0049】
<インレット弁UIの詳細>
図2の断面図を参照して、インレット弁UIの詳細について説明する。インレット弁UIは、常開型の比例弁である。インレット弁UIでは、制動コントローラECUによって、通電量が増加されるに従って、その開弁量(リフト量)Liが減少される。インレット弁UIは、ソレノイドSD、弁体VT、ガイド部材GD、保持部材HJ、及び、ばね部材SBにて構成される。
【0050】
ソレノイドSDは、固定コイルCL、及び、プランジャ(可動鉄心)PLにて構成される。固定コイルCLは、インレット弁UIのハウジング(例えば、ガイド部材GD)に固定される。プランジャPLには、弁体VTが固定される。弁体VTの先端部Vtは、球状に形成(加工)されている。インレット弁UIでは、球状先端部Vtと、後述の保持部材HJに円錐形状に形成(加工)された弁座Vzとの間の隙間(即ち、開弁量)Liが、固定コイルCLへの通電量(電流値)に応じてリニアに制御される。このリニア制御では、固定コイルCLに電流を流した際に、プランジャPLが固定コイルCL内に引き込まれる力Fa(図中で下向きの推力であり、「吸引力」という)が利用される。
【0051】
ガイド部材GDには、直径が異なる2つの孔が設けられる。2つの孔のうち直径が小さい方が「ガイド孔Ag」と称呼され、直径が大きい方が「封止孔Af」と称呼される。弁体VTが、その中心軸線Jvに沿って円滑に移動可能なように、ガイド部材GDのガイド孔Agに挿入される。ガイド部材GDにおいて、プランジャPLの側とは反対側に位置する封止孔Afは、保持部材HJによって封止される。具体的には、封止孔Afの円筒形状の内周部に保持部材HJが圧入される。
【0052】
ガイド部材GDの封止孔Afの内周部、保持部材HJの端面、及び、弁体VTにて、弁室Rzが形成される。保持部材HJにおいて、弁室Rzの側の端面には、円錐形状の弁座Vzが形成されている。保持部材HJにおいて、弁座Vzの中央部には、流入孔Aiが設けられる。流入孔Aiは、還流路HKを介して、流体ポンプHP(特に、吐出部Ht)に接続される。保持部材HJには、弁室Rzの側から、流体ポンプHPの側には、制動液BFが移動可能なように、逆止弁が設けられる。
【0053】
保持部材HJと弁体VTとの間には、弁体VTをプランジャPLの側に押圧するように、ばね部材SB(例えば、圧縮コイルばね)が設けられる。ばね部材SBによって、弁体VTは、プランジャPLの側に、弾性力Fs(図中で上向きの推力)にて押されている。ここで、プランジャPL、弁体VT(先端部Vt)、ばね部材SB、弁座Vz、及び、流入孔Aiは、中心軸線Jv上に同軸で配置されている。従って、吸引力Faと弾性力Fsとは、中心軸線Jv上で対抗している。
【0054】
弁室Rzを形成する封止孔Afの内周部には、流出孔Aoが設けられる。流出孔Aoは、接続路HSを介して、ホイールシリンダCWに接続されている。接続路HSにおいて、流出孔AoとホイールシリンダCWとの間は、減圧路HG、及び、アウトレット弁VOを介して、流体ポンプHP(特に、吸入部Hs)に接続される。減圧路HGにおいて、アウトレット弁VOと吸入部Hsとの間には、調圧リザーバRCが接続される。
【0055】
独立液圧制御が実行されない場合には、電気モータMT、及び、固定コイルCLへの通電は停止されている。従って、吸引力Faは発生されず、弁体VTは、弾性力Fsによって、ソレノイドSD(プランジャPL、固定コイルCL)の側に押圧されている。従って、弁体VTの先端部Vtは、弁座Vzから離れている(即ち、インレット弁UIは開弁している)。
【0056】
独立液圧制御の実行が開始されると、電気モータMTが駆動され、流体ポンプHPから制動液BFが吐出される。制動液圧Pwの減少、又は、保持が必要な場合には、固定コイルCLに通電が行われ、吸引力Faが増加される。吸引力Faによって、弁体VTの先端部Vtが、弁座Vzに当接され、インレット弁UIは閉弁される。このとき、弁体VTには、弾性力Fsに加え、制動液BFによる流体力Fb(図中で上向きの推力)が作用する。従って、インレット弁UIを閉弁する際には、弾性力Fs、及び、流体力Fbに対して、十分に対抗し得る吸引力Fa(>「Fb+Fs」)が発生されるのに必要な通電量が、固定コイルCLに供給される。
【0057】
制動液圧Pwの増加が必要な場合には、インレット弁UIが閉弁されている状態と比較して、固定コイルCLの通電量が小さくされる。これにより、吸引力Faが減少され、吸引力Faと、推力「Fb+Fs」とが釣り合った状態で、先端部Vtと弁座Vzとの隙間である開弁量Liが定まる。開弁量Liによるオリフィス効果によって、制動液BFの還流KNにおいて、上流側液圧Pa(第1液圧であって、流入孔Ai内の液圧)と下流側液圧Pb(第2液圧であって、弁室Rz内の液圧)との間に液圧差(差圧)Qaが発生される(即ち、「Qa=Pa-Pb」)。従って、差圧Qa(実際値)は、調整液圧Pp(又は、マスタシリンダ液圧Pm)(=Pa)と制動液圧Pw(=Pb)との間の液圧差である。なお、実差圧Qaは、独立液圧制御における目標差圧Qt(=Pt-Pp)に基づいて調整される。
【0058】
流体ポンプHPが吐出する制動液BFには、流体ポンプHPの脈動(液圧変動)が含まれる。このため、流体力Fbには、流体ポンプHPの脈動に起因する変動成分が含まれている。開弁量Liが一定に保たれるためには、この流体力Fbの変動成分が補償される必要がある。特に、インレット弁UIの流量が確保されるよう、弁座Vzの開口面積が大きく設定される場合には、その必要性が大きい。例えば、補償の方法の1つとして、ばね部材SBのばね定数が増加され、流体力Fbの変動成分の影響を相対的に小さくすることが考えられる。しかしながら、該方法では、弾性力Fsが増加されるため、これに対抗するための吸引力Faの増加が必要となる。結果、ソレノイドSD、及び、それに係る部材が大型化されるとともに、消費電力が増大される。本発明に係る制動制御装置SCでは、後述するような通電量の調整が採用され、上記補償が行われる。この調整によって、ソレノイドSDが大型化されることなく、流体力Fbの変動成分に起因する液圧変動が好適に減少され得る。
【0059】
≪インレット弁UIと調圧弁UMとの相違点≫
インレット弁UI、及び、調圧弁UMは、共に、常開型の比例弁(差圧弁)であるが、以下の点で相違する。インレット弁UIでは、保持部材HJの流入孔Aiと、流体ポンプHPの吐出部Htとが接続され、保持部材HJの弁座Vzに、弁体VTの先端部Vtが近づけられて、開弁量Liが調節される。従って、インレット弁UIの弁体VTには、流体力Fbが作用する。一方、調圧弁UMでは、流入孔には、マスタシリンダCMが接続され、流出孔に流体ポンプHPの吐出部Htが接続される(特許文献3の
図1、2を参照)。従って、調圧弁UMの弁体には、マスタシリンダCMから圧送された制動液BFの流体力は作用するが、流体ポンプHPが吐出する制動液BFの流体力は作用しない。マスタシリンダCMからの制動液BFには脈動の影響は含まれないため、調圧弁UMには、流体ポンプHPが吐出する制動液BFの流体力に起因する液圧変動の課題は生じない。
【0060】
<インレット弁UIの通電制御>
図3の機能ブロック図を参照して、インレット弁UIの通電制御について説明する。インレット弁UIは、接続路HSにおいて、調圧弁UMの下部(調圧弁UMとホイールシリンダCWとの間の接続路HS)に設けられる。インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOによって、ホイールシリンダCW毎に独立して、その液圧(制動液圧)Pwが調整される。換言すれば、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOによって、独立液圧制御の実行が可能にされる。インレット弁UIにおける通電制御は、独立液圧制御ブロックDC、規範通電量演算ブロックIS、調整通電量演算ブロックIC、及び、目標通電量演算ブロックITにて行われる。独立液圧制御ブロックDC乃至目標通電量演算ブロックITの演算処理は、マイクロプロセッサMPにプログラムされたアルゴリズム処理である。そして、目標通電量演算ブロックITからの出力である目標通電量Itに基づいて、駆動回路DRが制御される。なお、マイクロプロセッサMP、及び、駆動回路DRは、コントローラECUに含まれている。
【0061】
独立液圧制御ブロックDCにて、制動操作量Ba等に基づいて、独立液圧制御が実行されるよう、インレット弁UIの制御モードMdが決定されるとともに、インレット弁UIによって形成されるべき液圧差の目標値Qtが演算される。ここで、独立液圧制御には、公知のアンチロックブレーキ制御、トラクション制御、及び、車両安定性制御が含まれている。独立液圧制御ブロックDCには、これらの制御を実行するよう、車輪速度センサVWによって検出された車輪速度Vw、操舵角センサSAによって検出された操舵角Sa、ヨーレイトセンサYRによって検出されたヨーレイトYr、減速度センサGXによって検出された減速度Gx、及び、横加速度Gyによって検出された横加速度Gyが入力される。
【0062】
独立液圧制御ブロックDCは、車体速度演算ブロックVX、スリップ状態量演算ブロックSL、旋回状態量演算ブロックSJ、目標差圧演算ブロックQT、及び、制御モード選択ブロックMDにて構成される。
【0063】
車体速度演算ブロックVXにて、車両の4つの車輪WHの車輪速度Vw、及び、公知の方法に基づいて、車両の車体速度Vxが演算される。例えば、制動時には、4つの車輪の速度Vwのうちで、最速のものに基づいて車体速度Vxが演算される。また、惰性走行時を含む非制動時には、4つの車輪の速度Vwのうちで、最遅のものに基づいて車体速度Vxが演算される。
【0064】
スリップ状態量演算ブロックSLにて、車輪速度Vw、及び、車体速度Vxに基づいて、車輪WHのスリップ状態の程度を表すスリップ状態量Slが演算される。具体的には、スリップ状態量Slとして、「車輪速度Vwの時間変化量dV(車輪加速度であって、車輪速度Vwの時間微分値)」、及び、「車体速度Vxと車輪速度Vwとの偏差」が採用される。更に、該偏差として、アンチロックブレーキ制御用には減速スリップSgが、トラクション制御用には加速スリップSkが、夫々採用される。減速スリップSgは、車体速度Vxから車輪速度Vwが差し引かれた値として決定される(即ち、「Sg=Vx-Vw」)。減速スリップSgは、車輪WHのロック傾向を表すものであって、車輪WHが完全にロックした場合には、「Sg=Vx」となる。また、加速スリップSkは、車輪速度Vwから車体速度Vxが差し引かれた値として決定される(即ち、「Sk=Vw-Vx」)。加速スリップSkは車輪のスピン傾向(過回転)を表すものである。
【0065】
旋回状態量演算ブロックSJにて、車体速度Vx、ヨーレイトYr、横加速度Gy、操舵角Sa、及び、公知の演算方法に基づいて、車両(車体)の旋回安定性の程度を表す旋回状態量Sjが演算される。具体的には、旋回状態量Sjとして、ヨーレイト偏差hY、横滑り角β、及び、横滑り角速度dβが演算される。ここで、横滑り角βは、車両(車体)の向きと、その進行方向とのなす角度である。また、横滑り角速度dβは、横滑り角βの時間変化量(時間微分値)である。なお、ヨーレイト偏差hYは、操舵角Sa、及び、車体速度Vxに基づいて演算される規範ヨーレイトYsと、ヨーレイトセンサYRによって検出される実際のヨーレイトYrとの偏差として演算される。
【0066】
制御モード選択ブロックMD、及び、目標差圧演算ブロックQTにて、スリップ状態量演算ブロックSLの演算結果Sl(車輪加速度dV等)、及び、旋回状態量演算ブロックSJの演算結果Sj(ヨーレイト偏差hY等)のうちの少なくとも1つに基づいて、制御モードMd、及び、目標差圧Qtが演算される。制御モードMdは、制動液圧Pwの増減を指示するものであり、後述する減圧モードMg、保持モードMh、増圧モードMzの総称でもある。目標差圧Qtは、インレット弁UIによって発生される実差圧Qaの目標値である。具体的には、各ホイールシリンダCWの制動液圧Pwに対する目標液圧Ptが決定され、目標液圧Ptに基づいて、目標差圧Qtが決定される。これは、マスタシリンダ液圧Pm、調整液圧Ppが検出(又は、推定演算)されて、既知であることに基づく。
【0067】
車輪の減速スリップ(即ち、車輪WHのロック傾向)を抑制するアンチロックブレーキ制御では、減速スリップSg、及び、車輪加速度dVに基づいて、目標液圧Pt(結果、制動液圧Pw)の増減が実行される。具体的には、車輪加速度dVが所定加速度dx(負符号の定数であって、アンチロックブレーキ制御における車輪加速度dVに係るしきい値)未満、且つ、減速スリップSgが第1所定スリップsx(正符号の定数であって、減速スリップSgに係るしきい値)以上の条件にて、液圧Pt(目標値)、Pw(実際値)が減少される。該状況が、制御モードMdのうちで「減圧モードMg」と称呼される。目標液圧Ptが減少された後に、所定時間txに亘って、目標液圧Ptが一定に維持される。該状況が、制御モードMdのうちで「保持モードMh」と称呼される。所定時間txを経過した後に、減速スリップSgが第2所定スリップst(第1所定スリップsxよりも小さい値であって、予め設定された定数)に近づくように、目標液圧Ptが増加される。該状況が、制御モードMdのうちで「増圧モードMz」と称呼される。換言すれば、増圧モードMzでは、車輪速度Vwが、車体速度Vxに基づいて決定される目標速度Vs(「=Vx-st」であり、車輪速度Vwに係る目標値)に近づき、一致するように、液圧Pt(目標値)、Pw(実際値)が調整される。制御モード選択ブロックMDでは、目標液圧Ptに基づいて、制御モードMdの各種モードの中から、減圧モードMg、保持モードMh、及び、増圧モードMzの何れか1つが選択される。
【0068】
車輪の加速スリップ(即ち、車輪WHの過回転)を抑制するトラクション制御では、加速スリップSk、及び、車輪加速度dVに基づいて、車両の動力源(例えば、エンジン)の出力調整、及び、目標液圧Pt(結果、制動液圧Pw)の増減が実行される。車輪加速度dVが所定加速度dy(正符号の定数であって、トラクション制御における車輪加速度dVに係るしきい値)以上、且つ、加速スリップSkが所定スリップsk(正符号の定数であって、加速スリップSkに係るしきい値)以上の条件にて、液圧Pt、Pwが増加される。そして、車輪加速度dV、及び、加速スリップSkが、予め設定された所定範囲内に収まると、液圧Pt、Pwが保持され、その後、減少される。アンチロックブレーキ制御と同様に、トラクション制御でも、液圧Pt、Pwが増加される増圧モードMz、液圧Pt、Pwが保持される保持モードMh、及び、液圧Pt、Pwが減少される減圧モードMgが演算(決定)される。
【0069】
車両を安定化(即ち、過度のオーバステア、アンダステア挙動を抑制)する車両安定性制御では、旋回状態量Sjに基づいて、各々のホイールシリンダCWの目標液圧Ptが演算され、目標液圧Ptに基づいて、制動液圧Pwが制御される。例えば、オーバステア挙動が発生している場合において、車両の旋回方向に対して外側に位置する前輪の目標液圧Ptは、「Pt=Ka×β+Kb×dβ」にて演算される。ここで、「Ka、Kb」は、予め設定された所定の係数(定数)である。車両安定性制御でも、液圧Pt、Pwが増加される増圧モードMz、液圧Pt、Pwが保持される保持モードMh、及び、液圧Pt、Pwが減少される減圧モードMgが演算(決定)される。
【0070】
目標差圧演算ブロックQTにて、目標液圧Ptに基づき、目標差圧Qtが演算される。具体的には、目標差圧Qtは、目標液圧Ptから、調整液圧Pp(調圧弁UMによって調整された液圧)が減算されて決定される(即ち、「Qt=Pt-Pp」)。また、運転者の制動操作部材BPの操作に起因してアンチロックブレーキ制御が実行される際には、調圧弁UMには通電が行われず、調整液圧Ppとマスタシリンダ液圧Pmとは一致しているため、目標差圧Qtは、目標液圧Ptから、マスタシリンダ液圧Pmが減算されて決定される(即ち、「Qt=Pt-Pm」)。
【0071】
規範通電量演算ブロックISにて、目標差圧Qt(液圧差の目標値)、及び、予め設定された演算マップZisに基づいて、規範通電量Isが演算される。規範通電量Isは、インレット弁UI(特に、ソレノイドSD)の通電状態の基準である。換言すれば、規範通電量Isは、インレット弁UIの開弁量Liを定める、インレット弁UIへの通電量の目標値である。規範通電量Isは、演算マップZisに従って、目標差圧Qtの増加に応じて、単調増加するように演算される。そして、規範通電量Isには、上限値isが設けられる。上限値isは、予め設定された定数であり、常開型のインレット弁UIが確実に閉弁される通電量に相当する。
【0072】
調整通電量演算ブロックICにて、演算マップZicに基づいて、調整通電量Icが演算される。調整通電量Icは、流体ポンプHPから吐出される制動液BFの流体力Fbに起因する制動液圧Pwの変動を低減するための通電量の目標値である。演算マップZicでは、調整通電量Icが、弁体VTが弁座Vzに近づく方向に限って、周期的に増加されるように演算される。具体的には、演算マップZicでは、調整通電量Icが、時間Tの経過に伴い、周期的に繰り返される矩形波として演算される。「矩形波」とは、振動の時間的変化が、高低の2つの一定値(「0」、及び、値ip)で繰り返す波であって、「方形波」とも称呼される。矩形波の形状は、周期ts、値ip(「調整通電量Icの大きさ」ともいう)、及び、値ipを維持する時間tp(「維持時間」ともいう)にて定まる。ここで、調整通電量Ic(特に、「Ic=ip」)は、弁体VTが弁座Vzに近づく方向(即ち、弾性力Fs、流体力Fbに対抗する方向)の推力(吸引力)Faを増加するものである。従って、調整通電量Icは、「弁体VTが弁座Vzに近づく方向に限って、吸引力Faを増加する通電量」ということができる。
【0073】
調整通電量Icは、独立液圧制御に連動して演算され得る。例えば、独立液圧制御が実行されている場合に、調整通電量Icは演算されるが、独立液圧制御が実行されていない場合には、調整通電量Icは演算されない。これは、独立液圧制御が実行される際には、電気モータMTが駆動され、流体ポンプHPから制動液BFが吐出されるとともに、インレット弁UIが駆動されることに基づく。
【0074】
また、調整通電量Icの演算は、電気モータMTの駆動に連動されてもよい。例えば、電気モータMTが駆動されていない場合には、調整通電量Icは演算されず、電気モータMTが駆動されている場合に限って、調整通電量Icの演算が実行されるとよい。これは、制動液BFの流体力Fbによる制動液圧Pwの変動は、流体ポンプHPが吐出する制動液BFの液圧変動(脈動)に起因することに基づく。
【0075】
調整通電量Icの演算マップZicは、目標差圧Qtに基づいて調整され得る。例えば、吹き出し部(Z)の左図に示す、演算マップZipのように、目標差圧Qtが大きいほど、調整通電量Icの大きさipが大きくなるように演算される。また、吹き出し部(Z)の右図に示す、演算マップZtpのように、目標差圧Qtが大きいほど、維持時間tpが大きく(長く)なるように演算されてもよい。
【0076】
目標通電量演算ブロックITにて、規範通電量演算ブロックIS、及び、調整通電量Icに基づいて、目標通電量Itが演算される。目標通電量Itは、インレット弁UIの最終的な通電量の目標値である。具体的には、目標通電量演算ブロックITでは、規範通電量Is(インレット弁UIの通電状態の基準分)に、調整通電量Ic(流体力に起因する液圧変動の補償分)が重畳されて、目標通電量Itが演算される(即ち、「It=Is+Ic」)。目標通電量Itは、駆動回路DRに送信される。そして、駆動回路DRにて、目標通電量Itに基づいて、インレット弁UIの通電量Iaが実際に制御される。
【0077】
弁体VTには、ばね部材SBが発生する弾性力Fsに加え、流体ポンプHPが吐出する制動液BFの流体力Fbが作用する。固定コイルCLへの通電量Iaが一定に維持されている状態で、流体ポンプHPの脈動に起因して流体力Fbが増加されると、弁体VTが弁座Vzから離れる方向(即ち、流体力Fb、弾性力Fsの作用方向)に移動される。弁体VTの移動によって、開弁量Liが増加されるため、実差圧Qaが減少される。このとき、開弁量Liを一定に維持するよう、弁体VTを瞬時に弁座Vzに近づけるためには、其れ相当のパワーが要求され、大型のソレノイドSDが必要になってくる。逆に、流体ポンプHPの脈動に起因して流体力Fbが減少される状況は、ソレノイドSDへの通電量が減少されればよいため、応答性は然程要求はされない。
【0078】
制動制御装置SCでは、ソレノイドSDの通電状態の基準が、目標差圧Qtに応じて規範通電量Isとして演算される。そして、弁体VTが弁座Vzに近づく方向(即ち、弾性力Fs、流体力Fbに対抗する方向であり、吸引力Faが増加する方向)に限って、この規範通電量Isが、周期的に増加されるよう、目標通電量Itが演算される。つまり、流体ポンプHPの脈動に起因して流体力Fbが増加される分に相当する通電量Icが予測される。そして、これが予め見込まれることによって、目標通電量Itが演算される。このため、リニア型のインレット弁UIに係る装置(ソレノイドSD、駆動回路DR等)が大型化されることなく、流体力Fbに起因する液圧変動が低減され得る。なお、調整通電量Icは、弁体VTを弁座Vzに着座させるためのものではなく、流体力Fbに対抗して、弁体VTの移動量を抑制するためのものである。従って、調整通電量Icが重畳されても、インレット弁UIは閉弁されない。換言すれば、調整通電量Icの大きさipは、弁体VT(特に、先端部Vt)を弁座Vzに対して接触させない程度の通電量である。
【0079】
弁体VTに対して、流体力Fbの影響が最も及び易い状況は、開弁量Liが狭められ、目標差圧Qt(結果、実差圧Qa)が大きく調整される場合である。制動制御装置SCでは、インレット弁UIによって、流体ポンプHPが吐出する制動液BFの流れにおいて、弁座Vzに対して上流側の液圧である第1液圧Paと、弁座Vzに対して下流側の液圧である第2液圧Pbとの液圧差Qt(目標値)、Qa(実際値)に基づいて、調整通電量Icが調整される。具体的には、液圧差Qt(目標値)、Qa(実際値)が大きいほど、調整通電量Icが大きく演算される。これにより、調整通電量Icが、液圧差Qt、Qaに基づいて、好適に調整される。なお、調整通電量Icは、「調整通電量Icの大きさip(矩形における通電量軸方向の大きさ)」と「維持時間tp(矩形において、大きさipが保持される時間軸方向の大きさ)」とによって規定されている。従って、「調整通電量Icが大きく演算されること」は、「調整通電量Icの大きさipが大きくされること」、及び、「維持時間tpが大きくされること」のうちの少なくとも1つに該当する。
【0080】
例えば、目標通電量演算ブロックITにおける調整通電量Icの重畳は、独立液圧制御が実行されている場合に限って行われる(許可される)。即ち、独立液圧制御が実行されていない場合には、調整通電量Icの重畳は禁止される。或いは、調整通電量Icの重畳は、電気モータMTにて駆動される流体ポンプHPが、制動液BFを吐出している場合に限って行われてもよい(許可されてもよい)。つまり、電気モータMTが駆動されていない場合には、調整通電量Icの重畳が禁止される。調整通電量Icの重畳が、必要な場合に限定して行われるため、インレット弁UIの通電量制御の信頼度が向上され得る。
【0081】
目標通電量Itの演算においては、制御モードMdが参酌される。目標通電量演算ブロックITでは、制御モードMdが増圧モードMzである場合(即ち、制動液圧Pwが増加される場合)に限って、調整通電量Icが規範通電量Isに加算される。つまり、制御モードMdが、保持モードMh、及び、減圧モードMgである場合(即ち、制動液圧Pwが増加されない場合)には、調整通電量Icが、規範通電量Isには加算されず、目標通電量Itとして、規範通電量Isがそのまま出力される。これは、保持モードMh、及び、減圧モードMgでは、インレット弁UIが閉弁されているため、流体力Fbに起因する制動液圧Pwの変動が生じ得なことに基づく。保持モードMh、及び、減圧モードMgにおいて、調整通電量Icの演算(重畳)が禁止されることによって、それが不必要な場合には、調整通電量Icが重畳されないため、インレット弁UIの通電量制御の信頼度が向上され得る。
【0082】
上記の調整通電量Icの重畳の許可/禁止は、調整通電量演算ブロックICにて行われてもよい。即ち、調整通電量演算ブロックICでは、調整通電量Icの重畳が許可される場合(独立液圧制御の実行中、電気モータMTの駆動中、及び、増圧モードMzのうちの何れか1つ)に限って、演算マップZicに基づいて、調整通電量Icが演算される。一方、調整通電量Icの重畳が禁止される場合(独立液圧制御が非実行、電気モータMTが停止中、保持モードMh、及び、減圧モードMgのうちの何れか1つ)には、調整通電量演算ブロックICでは、調整通電量Icが「0」に演算される。そして、目標通電量演算ブロックITにて、規範通電量Isに調整通電量Icが重畳されて、目標通電量Itが決定される。何れの構成であっても、規範通電量Isを増加して目標通電量Itを演算する増加調整は、それが必要な場合には許可されるが、不要な場合には禁止される。これにより、上記効果を奏する。
【0083】
上記の実施形態では、制御モードMdとして、増圧モードMz、保持モードMh、減圧モードMgの3つのモードが採用された。制御モードMdにおいて、保持モードMhが省略されてもよい。この場合、独立液圧制御は、制動液圧Pwが増加される増圧モードMz、及び、制動液圧Pwが減少される減圧モードMgにて構成される。そして、調整通電量Icに応じた上記増加調整は、インレット弁UIが開弁されている増圧モードMzでは許可されるが、インレット弁UIが閉弁されている減圧モードMgでは禁止される。制御モードMdが2つのモードで構成される制動制御装置SCであっても、上記同様の効果を奏する。
【0084】
<アンチロックブレーキ制御での制御モードMdの選択処理>
図4の時系列線図(時間Tに対する状態量Pt、Pwの変化)を参照して、アンチロックブレーキ制御における制御モードMdの選択処理例について説明する。線図では、実際の制動液圧Pwは目標液圧Ptに一致するように制御されるため、制動液圧Pwの線図と目標液圧Ptの線図とは重なっている。また、線図では、上述したように、保持モードMhが省略されている。なお、例では、アンチロックブレーキ制御が実行されており、電気モータMTが駆動され、流体ポンプHPから制動液BFが吐出されている。
【0085】
時点t0までは、制御モードMdとしては、増圧モードMzであり、制動液圧Pwが増加されている。時点t0にて、車輪加速度dV、及び、減速スリップSgが、アンチロックブレーキ制御のしきい値dx(車輪加速度に係るしきい値)、sx(減速スリップに係るしきい値)に達し、制御モードMdが、増圧モードMzから減圧モードMgに遷移する。時点t0にて、インレット弁UIが閉弁され、アウトレット弁VOが開弁されることによって、制動液圧Pwが、値paから減少され、時点t1にて値pbになる。ここで、減圧モードMgが実行される時点t0から時点t1に至るまでの時間(「減圧時間」という)は、予め所定時間(定数)として設定されている。
【0086】
時点t1にて、減圧モードMgが終了され、増圧モードMzが開始される。増圧モードMzの前段部では、減圧モードMgによって減圧された分dpが所定の割合Gpだけ増圧される。該増圧モードMzが、「第1増圧モードMzf」と称呼される。具体的には、第1増圧モードMzfでは、減圧前の値paと減圧後の値pbとの差分(減圧分)dp(=pa-pb)に所定割合Gp(例えば、50%)が乗算されて、値pbからの目標増圧分upが演算される(即ち、「up=Gp×dp」)。そして、第1増圧モードMzfにおいて、制動液圧Pwが到達すべき目標液圧pcが決定される(即ち、「pb+up=pb+Gp×dp」)。制動液圧Pwが液圧勾配Kf(「第1勾配」という)で目標液圧pcに達するように、目標液圧Ptが演算される。ここで、第1勾配Kfは、予め設定された所定値(定数)である。
【0087】
時点t2にて、制動液圧Pwが目標液圧pcに達する。時点t2にて、第1増圧モードMzfが終了され、新たな増圧モードMzs(増圧モードMzの後段部)が開始される。増圧モードMzの後段部Mzsは、「第2増圧モード」と称呼される。第2増圧モードMzsでは、第1勾配Kfよりも小さい液圧勾配Ks(「第2勾配」という)にて、液圧Pt、Pwが増加される。具体的には、第2増圧モードMzsでは、車体速度Vxに基づいて設定された目標速度Vs(=Vx-st)に、車輪速度Vwが一致するよう、液圧Pt、Pwが増加される。ここで、第2増圧モードMzsにおける第2勾配Ksは、第1勾配Kfよりも小さい値であり、予め設定された所定値(定数)である。
【0088】
時点t3にて、車輪加速度dV、及び、減速スリップSgが、再び、アンチロックブレーキ制御のしきい値dx、sxに達し、制御モードMdが、増圧モードMzから減圧モードMgに遷移する。制御モードMdが、増圧モードMzから減圧モードMgに遷移し、制動液圧Pwが減少される。アンチロックブレーキ制御では、車輪WHのロック傾向(過大な減速スリップSg)が回避されるよう、このような制動液圧Pwの増減が繰り返される。第2増圧モードMzsでは、第1増圧モードMzfに比較して、緩やかに制動液圧Pwが増加される。
【0089】
上述した実施形態では、調整通電量Icによる増加調整は、減圧モードMgでは行われず、増圧モードMzに限って行われた。これに加え、増圧モードMzの第1モードMzf(増圧モードMzの前段部)では、調整通電量Icに応じた増加調整は禁止され、増圧モードMzの第2モードMzs(増圧モードMzの後段部)にて、該増加調整が許可されてもよい。これは、増圧モードMzの開始前の液圧Pt、Pwに基づく第1増圧モードMzfでは、ホイールシリンダCWへの制動液BFが重要であり、開弁量Liが大きいことに基づく。従って、第1増圧モードMzfでは、調整通電量Icは規範通電量Isに加算(重畳)されない、又は、調整通電量Icが「0」に演算される。一方、車体速度Vxに基づく第2増圧モードMzsでは、開弁量Liは、第1増圧モードMzfに比較して小さくなる。従って、第2増圧モードMzsでは、調整通電量Icが規範通電量Isに加算(重畳)されて、目標通電量Itが演算される。これにより、流体ポンプHPからの制動液BFの流体力Fbに起因する制動液圧Pwの変動が適切に抑制され得る。
【0090】
<他の実施形態>
上記の実施形態では、2系統の流体路として、ダイアゴナル型のものが採用された。これに代えて、2系統の流体路として、前後型(「II型」ともいう)のものが採用されてもよい。この場合、マスタシリンダCMの第1液圧室Rm1は、左右前輪のホイールシリンダCWに接続され、第2液圧室Rm2は、左右後輪のホイールシリンダCWに接続される。該構成でも、上記同様の効果を奏する。
【0091】
上記の実施形態では、摩擦部材MSとしてブレーキパッド、回転部材KTとしてブレーキディスクが採用される構成(所謂、ディスク型ブレーキの構成)が例示された。これに代えて、摩擦部材MSとしてブレーキライニング、回転部材KTとしてブレーキドラムが採用される構成(所謂、ドラム型ブレーキの構成)が採用されてもよい。ドラム型ブレーキであっても、ディスク型ブレーキと同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0092】
SC…制動制御装置、BP…制動操作部材、CM…マスタシリンダ、CW…ホイールシリンダ、HS…接続路、BA…操作量センサ、HU…流体ユニット、ECU…制動コントローラ(電子制御ユニット)、MT…電気モータ、HP…流体ポンプ、UM…調圧弁(比例弁)、UI…インレット弁(比例弁)、VO…アウトレット弁(オン・オフ弁)、SD…ソレノイド、CL…固定コイル、PL…プランジャ、VT…弁体、HJ…保持部材、GD…ガイド部材、Vz…弁座、Vt…先端部、SB…ばね部材、Pm…マスタシリンダ液圧、Pp…調整液圧、Pw…ホイールシリンダ液圧(制動液圧)、Pa…第1液圧、Pb…第2液圧、Qa…実際の差圧(調整液圧Ppとホイールシリンダ液圧Pwとの液圧差)、Qt…目標差圧(実差圧Qaの目標値)、Ia…通電量、Md…制御モード、Mz…増圧モード、Mh…保持モード、Mg…減圧モード、Is…規範通電量、Ic…調整通電量、It…目標通電量、Fa…吸引力(ソレノイドSDによる推力)、Fb…流体力(流体ポンプHPが吐出する制動液BFによる力)、Fs…弾性力(ばね部材SBによる推力)。