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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/12 20060101AFI20240827BHJP
   H05K 3/26 20060101ALI20240827BHJP
   C23F 1/18 20060101ALI20240827BHJP
   C23G 1/10 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01L23/12 D
H05K3/26
C23F1/18
C23G1/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020159337
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022052848
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】西川 仁人
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/054294(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/029478(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12
H05K 3/26
C23F 1/18
C23G 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と銅又は銅合金からなる銅板とをAgを含むろう材を介して接合してセラミックス基板の表面に銅層を形成する接合工程と、接合工程後に前記銅層の表面を塩化鉄又は塩化銅を含む水溶液によってエッチングするエッチング工程と、該エッチング工程後に前記銅層の表面を、塩化鉄及び塩化銅以外の塩化物、アンモニア、シアン化物、チオ硫酸塩のいずれか一つ以上を含む水溶液で洗浄する塩化物洗浄工程と、前記塩化物洗浄工程の後に、硫酸、過硫酸塩、硫酸と過酸化水素の混合液のいずれか一つ以上を含む水溶液で前記銅板の表面を洗浄する化学研磨工程と、前記化学研磨工程後にカルボン酸と過酸化水素の混合液で前記銅板の表面を洗浄するAg洗浄工程と、を有することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記化学研磨工程の前に、カルボン酸と過酸化水素の混合液で洗浄する事前Ag洗浄工程を有することを特徴とする請求項1記載の絶縁回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記塩化物洗浄工程の前に、硫酸、過硫酸塩、硫酸と過酸化水素の混合液のいずれか一つ以上を含む水溶液で洗浄する事前化学研磨工程を有することを特徴とする請求項1又は2記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御するパワーモジュール等に用いられる絶縁回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワーモジュール等に用いられる絶縁回路基板は、例えば、AlN(窒化アルミニウム)、Al(アルミナ)、Si(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、セラミックス基板の他方の面に形成された放熱層と、を備えている。また、これらセラミックス基板とこれら回路層又は放熱層となる金属板との接合には一般にろう材が用いられる。金属板が銅又は銅合金板である場合、ろう材には活性金属を含むものが用いられる。
【0003】
特許文献1に記載の回路基板では、セラミックス基板の一方の面に銅からなる回路層(銅回路)が形成され、セラミックス基板の他方の面に銅からなる放熱層(放熱銅板)が形成されている。この場合、これら回路層や放熱層の銅層を形成する方法として、セラミック基板と銅板を接合した後に銅板の周囲をエッチングする方法、回路層等の形状に打ち抜かれた銅板をセラミック基板に接合する方法が挙げられている。また、その接合には、Ag-Cu-Ti系のろう材を用いた活性金属ろう付け法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-139420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エッチングすることなく、あらかじめ、所望の形状に成形した回路層等用の銅板をセラミックス基板に接合して銅層が接合された回路基板を作製する場合、接合時に銅板からはみ出したろう材が銅板の側面を伝って表面に這い上がる現象が生じ、銅層の表面にろう染みが発生することが問題になっている。銅層が回路層である場合、その表面にろう染みが生じると、回路層表面にめっきする場合にめっき膜の密着性が損なわれ、はんだ濡れ性、ボンディングワイヤや封止樹脂の密着性が阻害されるおそれがある。
このため、接合後に回路層の表面を過硫酸や塩化鉄水溶液等でエッチングすることが行われるが、ろう染みを十分に除去することは難しい。
特に、ろう材にAg-CuやAg-Cu-Tiなど、Agが含まれている場合、エッチングしてもAgが残ってしまい、Agが黒変して表面が汚くなる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、Agを含むろう材により接合する場合に、ろう染みを除去して良好なはんだ濡れ性等を確保するとともに、Agによる表面汚れを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、セラミックス基板と銅又は銅合金からなる銅板とをAgを含むろう材を介して接合してセラミックス基板の表面に銅層を形成する接合工程と、接合工程後に前記銅層の表面を塩化鉄又は塩化銅を含む水溶液によってエッチングするエッチング工程と、該エッチング工程後に前記銅層の表面を、塩化鉄及び塩化銅以外の塩化物、アンモニア、シアン化物、チオ硫酸塩のいずれか一つ以上を含む水溶液で洗浄する塩化物洗浄工程と、前記塩化物洗浄工程の後に、硫酸、過硫酸塩、硫酸と過酸化水素の混合液のいずれか一つ以上を含む水溶液で洗浄する化学研磨工程と、前記化学研磨工程後にカルボン酸と過酸化水素の混合液で洗浄するAg洗浄工程と、を有する。
【0008】
ろう材を用いた接合後、銅のエッチング液として広く用いられている塩化鉄又は塩化銅を含む水溶液によってエッチングすることにより、ろう染みを除去することができる。ところが、このエッチングだけでは、塩化鉄や塩化銅により銅が腐食する際に、腐食の過程で生成する塩化銅や一次洗浄に利用した塩化銅が銅層の表面に残存し易い。この塩化銅が残存していると、高温環境下等において表面に変色が生じ易い。この塩化銅は水に溶けにくいため、単に水洗浄しただけでは除去しきれない。そこで、塩化物洗浄工程により、塩化鉄及び塩化銅以外の塩化物、アンモニア、シアン化物、チオ硫酸塩のいずれか一つ以上を含む水溶液で洗浄する。これら塩化物等に含まれる塩化物イオン等により塩化銅を錯体化し、溶けやすくする。
この塩化物洗浄工程で塩化銅を洗浄した後、表面を硫酸、過硫酸塩、硫酸と過酸化水素の混合液のいずれか一つ以上を含む水溶液で洗浄することにより、銅層を平滑な表面に形成することができる。
そして、これら工程の最後にカルボン酸と過酸化水素の混合液で洗浄することにより、表面に残るAgを除去して表面の汚れを清浄にすることができる。
【0009】
本発明の絶縁回路基板の製造方法において、前記化学研磨工程の前に、カルボン酸と過酸化水素の混合液で洗浄する事前Ag洗浄工程を有するとよい。
【0010】
最後に行うAg洗浄工程より前に事前Ag洗浄工程を設けることにより、最後のAg洗浄工程までの間に残存するAgの量を減らして、Ag洗浄工程での負荷を低減することができる。この場合、Agは化学研磨工程において過酸化水素と反応してAgOとなって黒変し易いため、事前洗浄工程でAgの量を少なくしておくことにより、表面汚れも低減し、Ag洗浄工程後の表面をより清浄化することができる。
この事前Ag洗浄工程は、塩化物洗浄工程と化学研磨工程との間に実施しなければならないわけではなく、エッチング工程の前、エッチング工程と塩化物洗浄工程との間など、化学研磨工程の前に実施できればよい。
【0011】
本発明の絶縁回路基板の製造方法において、前記塩化物洗浄工程の前に、硫酸、過硫酸塩、硫酸と過酸化水素の混合液のいずれか一つ以上を含む水溶液で洗浄する事前化学研磨工程を有するとよい。
【0012】
事前化学研磨工程を備えることにより、異物が付着していた場合にこれを除去することができる。特に銅板をプレス加工により形成する場合に異物が付着する可能性があるため、有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ろう染みを除去して、めっき膜の密着性、はんだ濡れ性等の良好で、しかも表面汚れも少ない絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の絶縁回路基板の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図2】一実施形態の絶縁回路基板の縦断面図である。
図3図2の絶縁回路基板の製造途中の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の絶縁回路基板及びその製造方法の実施形態について説明する。
本実施形態の絶縁回路基板は電源回路に用いられるパワーモジュール用基板である。このパワーモジュール用基板10は、図2に示すように、セラミックス基板11と、そのセラミックス基板11の一方の面に形成された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に形成された放熱層13と、を有している。
【0016】
セラミックス基板11は、回路層12と放熱層13との間の電気的接続を防止するものであって、窒化アルミニウム(AlN),窒化ケイ素(Si),酸化アルミニウム(Al)等を用いることができるが、そのうち、窒化ケイ素が高強度であるため、好適である。このセラミックス基板11の厚さは0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定される。
【0017】
回路層12は、電気特性に優れる銅又は銅合金から構成される。また、放熱層13も銅又は銅合金から構成される。これら回路層12及び放熱層13としては、例えば、純度99.96質量%以上の無酸素銅の銅板がセラミックス基板11に例えば活性金属ろう材にてろう付け接合されることにより形成される。この回路層12及び放熱層13の厚さは0.1mm以上5mm以下の範囲内に設定される。
【0018】
ここで、回路層12及び放熱層13のろう染みは、回路層12及び放熱層13の端部からの幅が50μm以下とされている。ろう染みの幅が50μm以下とされているので、例えば、回路層12にNiめっきなどのめっきが施された場合において、めっき膜の密着性が損なわれることがない。また、はんだ濡れ性が低下することなく、また、ボンディングワイヤや封止樹脂の密着性が阻害されることがない。さらに、例えば、放熱層13とヒートシンクがはんだ付けされる場合においても、ろう染みの幅が50μm以下とされているので、はんだの濡れ性が低下せず、はんだ接合性が低下しない。
【0019】
さらに、回路層12及び放熱層13の表面の塩素/銅濃度比が0.45以下に設定される。この塩素/銅濃度比は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscop)により、
回路層12又は放熱層13の銅層(以下、回路層及び放熱層を特に区別しない場合は銅層と称す)表面から放出される特性X線を元素分析して測定する。この塩素/銅濃度比は、銅層の表面に残存する塩化銅に起因しており、0.45を超えると、残存する塩化銅が多くなり、高温環境下等において変色が生じ易くなる。
【0020】
このように構成されるパワーモジュール用基板10の製造方法について説明する。
このパワーモジュール用基板10は、図1に示すように、銅板等作製工程S1、接合工程S2、エッチング工程S3、塩化物洗浄工程S4、化学研磨工程S5、Ag洗浄工程S6の順に製造される。以下、工程順に説明する。
【0021】
(銅板等作製工程S1)
回路層12及び放熱層13を形成するための銅板12´,13´をプレス加工等によって打抜き形成する。この場合、回路層12となる銅板12´は、回路層12としての所定のパターン形状を有している。
また、これら回路層12及び放熱層13が形成されるセラミックス基板11を用意する。または、複数のセラミックス基板11に分割可能なスクライブラインを形成したセラミックス板を用意する。この複数のセラミックス基板11に分割可能なセラミックス板を用いる場合、最終的には、回路層12及び放熱層13を有する個々のセラミックス基板11に分割されるが、後述の接合工程及び各洗浄工程は単独のセラミックス基板11に対するものと同様であるので、以下では、セラミックス基板11に回路層12及び放熱層13を形成するものとして説明する。
【0022】
(接合工程S2)
図3に示すように、セラミックス基板11の両面にろう材21,22を介して銅板12´,13´を配置し、これらを積層する。ろう材21,22としては、Ag-Ti又はAg-Cu-Tiからなるろう材が用いられる。このろう材21,22は、箔の形態で供給されるが、スクリーン印刷法等によってセラミックス基板11にろう材のペーストを塗布することによって形成してもよい。
この場合、各ろう材21,22とも、接合する銅板12´,13´の外形と同じか、それよりわずかに大きい外形に形成されることが好ましい。これらろう材21,22の厚さは10μm以上300μm以下とされる。
【0023】
これらろう材21,22を介して積層したセラミックス基板11と銅板12´,13´との積層体を加圧状態で加熱炉内に設置し、真空雰囲気下で接合温度に加熱した後冷却することにより、セラミックス基板11の一方の面に回路層12、他方の面に放熱層13を形成する。この場合の接合条件としては、例えば0.1MPa以上3.5MPa以下の加圧力で積層体を加圧し、10-6Pa以上10-3Pa以下の真空雰囲気下で、例えば790℃以上850℃以下の接合温度で、1分~60分の加熱とする。
【0024】
このようにして製造されたパワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と回路層12及び放熱層13との間がろう付けによって接合されている。
前述したろう染みは、パワーモジュール用基板11と銅板12´,13´との接合時に、溶融状態のろう材がセラミックス基板11と銅板12´,13´との間からはみ出して銅板12´,13´の側面を伝って這い上がることにより回路層12及び放熱層13の表面に形成され、後述の洗浄工程によって大部分が除去される。
【0025】
(エッチング工程S3)
接合工程後のパワーモジュール用基板10の銅層(回路層12及び放熱層13)表面をエッチング液でエッチングする。
エッチング液としては、塩化鉄又は塩化銅の水溶液が用いられる。塩化鉄としては、塩化鉄(III)(FeCl)を用いることが好ましい。塩化銅としては塩化銅(II)(CuCl)を用いることが好ましい。
また、容量比率等が限定されるものではないが、塩化鉄水溶液としては、例えば30質量%以上45質量%以下のFeCl水溶液、塩化銅水溶液としては、例えば15質量%以上25質量%以下のCuClと3質量%以上15質量%以下のHClとの混合水溶液が用いられる。
このエッチング液を30℃以上60℃以下の温度に保持して、パワーモジュール用基板10を0.5分以上10分以下の時間浸漬する。
このエッチング工程により、銅層の表面が洗浄され、回路層12及び放熱層13の表面に形成されていたろう染みは、その全部または大部分が除去される。なお、回路層12及び放熱層13の側面には、固化したろう材が存在しているが、固化したろう材は厚く形成されているため、エッチング工程後もその一部が残存している場合もあるが、影響はない。
【0026】
(塩化物洗浄工程S4)
エッチング工程後に、銅層の表面を塩化物洗浄液で洗浄する。
塩化物洗浄液としては、塩化鉄及び塩化銅以外の塩化物、アンモニア、シアン化物、チオ硫酸塩のいずれか一つ以上を含む水溶液が用いられる。
塩化鉄及び塩化銅以外の塩化物としては、金属元素の塩化物や塩酸を用いることができる。金属元素の塩化物としては、例えば、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Alの塩化物を用いることができる。
シアン化物としては、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化カルシウム、シアン化マグネシウム等があげられる。
チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム等があげられる。
なお、容量比率等が限定されるものではないが、例えば1質量%以上35質量%以下の塩酸、1質量%以上30質量%以下の塩化カリウム水溶液、1質量%以上30質量%以下のアンモニア水溶液等が用いられる。
この塩化物洗浄液を15℃以上40℃以下の温度に保持して、パワーモジュール用基板10を0.5分以上10分以下の時間浸漬する。
塩化物洗浄後に、その洗浄液である塩化鉄又は塩化銅により、銅層表面の銅が酸化される過程で発生した塩化銅、特に塩化銅(I)が銅層の表面に残存する場合があり、この塩化銅は水に溶けにくい。このため、塩化物洗浄工程により、銅層表面に残存した塩化銅を錯体化し、溶けやすくする。
【0027】
(化学研磨工程S5)
塩化物洗浄工程後に、銅層の表面を化学研磨液で化学研磨する。
化学研磨液としては、硫酸、過硫酸塩、硫酸と過酸化水素の混合液のいずれか一つ以上を含む水溶液が用いられる。過硫酸塩としては過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。容量比率等が限定されるものではないが、3質量%以上30質量%以下の硫酸水溶液、3質量%以上30質量%以下の過硫酸塩水溶液、1質量%以上15質量%以下の過酸化水素と3質量%以上20質量%以下の硫酸との混合水溶液が用いられる。
この化学研磨液を15℃以上40℃以下の温度に保持して、パワーモジュール用基板10を0.5分以上10分以下の時間浸漬する。
この化学研磨工程により、銅層(回路層12及び放熱層13)が平滑な表面に形成される。
【0028】
(Ag洗浄工程S6)
化学研磨工程後に、残存するAgの除去を目的としてAg洗浄工程を施す。
このAg洗浄工程では、Ag洗浄液を用いる。Ag洗浄液としては、酢酸、蟻酸等のカルボン酸と過酸化水素と残部の水とからなる薬液を使用するのが好ましく、市販の銀めっき剥離剤(例えば、佐々木化学薬品株式会社製のエスバックAG-601)と過酸化水素と残部の水とからなるAg洗浄液を使用することもできる。容量比率等は限定されるものではないが、例えば、カルボン酸と過酸化水素と残部の水とからなる薬液を用いる場合には、0.5質量%以上20質量%以下の酢酸と、30質量%以上60質量%以下の35%過酸化水素水と、残部:水の混合液とするとよい。市販の銀めっき剥離剤を用いる場合、5質量%以上30質量%以下の銀めっき剥離剤と、30質量%以上60質量%以下の35%過酸化水素水と、残部:水の混合液とするとよい。
このAg洗浄液を10℃以上40℃以下の温度に保持して、パワーモジュール用基板10を0.1分以上5分以下の時間浸漬する。
前述の接合工程で用いられるろう材中にはAgが含まれており、このAgは、前工程のエッチング工程等では十分に除去できずに残存し易い。このAgが残存していると、化学研磨工程で過酸化水素と反応して黒変したAgOになり、表面汚れの原因となる。そこで、このAg洗浄工程により、Ag又はAgOを除去して表面を清浄化することができる。
【0029】
なお、各工程の後には、各工程で使用した薬液(エッチング液、塩化物洗浄液、化学研磨液、Ag洗浄液)を洗い落とすため、パワーモジュール用基板10を水洗する。
このようにして化学研磨工程まで終了したパワーモジュール用基板10は、回路層12及び放熱層13とも表面にろう染みがなく、ろう染みの除去に用いた洗浄液に起因する塩化物も残存していないため、表面にめっき膜を形成する場合のめっき膜の密着性に優れたものとなる。また、はんだ濡れ性、ボンディングワイヤや封止樹脂の密着性も良好となる。
さらに、エッチング工程、塩化物洗浄工程、化学研磨工程でも除去できなかったAgを最後のAg洗浄工程により除去できるので、表面の汚れを清浄にすることができる。
【0030】
本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
先の実施形態ではAg洗浄工程を最後に1回設けたが、化学研磨工程の前にも設けてもよい。化学研磨工程の前のAg洗浄工程を事前Ag洗浄工程とする。洗浄方法は化学研磨工程後のAg洗浄工程の場合と同様、酢酸等のカルボン酸と過酸化水素の混合液で洗浄する方法であるが、化学研磨工程の前後で洗浄時間を調整するとよい。例えば、事前Ag洗浄工程を1分以上10分以下とする。
このAg事前洗浄工程を設けることにより、最後のAg洗浄工程までの間に残存するAgの量を減らして、Ag洗浄工程での負荷を低減することができる。Agは前述したように化学研磨工程において過酸化水素と反応して酸化Agとなって黒変するため、事前洗浄工程でAgの量を少なくしておくことにより、表面汚れも低減し、Ag洗浄工程後の表面をより清浄化することができる。
この事前Ag洗浄工程は、塩化物洗浄工程と化学研磨工程との間でなくても、化学研磨工程の前に実施できればよい。
【0031】
また、化学研磨工程においても1回のみ実施した例としたが、事前化学研磨工程として、
また、実施形態ではセラミックス基板の両面に銅層が形成されているものとしたが、少なくとも回路層としての銅層が形成されていればよい。
また、各薬液にパワーモジュール用基板を浸漬するものとしたが、薬液を銅層にスプレー等で供給する場合も含むものとする。
実施形態ではパワーモジュール用基板として説明したが、パワーモジュール用基板以外の絶縁回路基板に適用可能である。
【実施例
【0032】
Siからなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.32mmt)の一方の面に、純度99.99質量%以上の無酸素銅(OFC)からなる銅板(37mm×37mm×0.3mmt)をAg-28質量%Cu-2質量%Tiろう材箔(37mm×37mm×0.1mmt)を介して積層し、0.6MPaの加圧力で加圧状態に保持し、真空雰囲気下、加熱温度820℃で30分間保持し、セラミックス基板の上に銅層を形成した。
【0033】
得られた接合体について、エッチング工程、塩化物洗浄工程、化学研磨工程、Ag洗浄工程を順に行った。化学研磨工程及びAg洗浄工程について、事前工程を加えて、2回行ったものも作製した。各工程で用いた薬液は表1に示す通りである。
表中、エッチング工程及び化学研磨工程の訳液は以下の通りとした。
「塩化鉄」:42質量%FeCl水溶液
「塩化銅」:21質量%CuClと9質量%HClとの混合水溶液
「硫酸+過酸化水素」:15質量%硫酸と2質量%の過酸化水素との混合水溶液
「硫酸」:10質量%の硫酸水溶液
「過硫酸ナトリウム」:15質量%過硫酸ナトリウム水溶液
「Ag洗浄液」:10質量%佐々木化学薬品株式会社製エスバックAG-601と50質量%の35%過酸化水素水と残部:水の混合水溶液
また、塩化物洗浄工程には、表1の各欄に記載の薬液とした。各工程の後には接合体を純水で洗浄した。
この洗浄工程においては、エッチング工程を42℃の温度で2分、塩化物洗浄工程を常温(25℃)で1分、化学研磨工程を常温(25℃)で1分、Ag洗浄工程を30℃で1分施した。事前化学研磨工程を加えたものは、事前化学研磨工程を30℃で2分、2回目の化学研磨工程を25℃で1分とした。事前Ag洗浄工程を加えたものは、事前Ag洗浄工程を30℃で1分、2回目のAg洗浄工程を30℃で1分とした。表1中「-」は、その工程を行わなかったことを示す。
【0034】
【表1】
【0035】
得られた接合体の銅層の表面について、残存塩素濃度を測定するとともに、ろう染み、変色の程度を評価した。
銅層表面の塩素及び銅の濃度の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いたエネルギー分散型X線分光法(EDX)により、銅層表面から放出される特性X線を元素分析して測定した。銅層の表面の任意の15か所について、CuとClの定量値(at%)の比(Cl/Cu)を測定し、その平均を求めた。各条件ごとに15枚の接合体の銅層についてそれぞれ測定し、その平均値を求め、その値を表面の塩素/銅濃度比とした。
【0036】
ろう染みの幅Wは以下の通り、測定した。
銅層表面を上から目視し、黒色となっている領域(黒色部)をろう染みとみなし、銅層の端部から、黒色部と黒色部以外の領域との境までの距離を各辺について測定した。最も距離の大きかった箇所をろう染みの幅Wとし、各条件ごとに15枚の接合体について測定し平均値を求めた。その幅が50μm以下の場合に「A」、50μmを超えていた場合に「B」と評価した。
変色については、接合体を温度60℃、湿度30%の恒温恒湿環境下に100時間放置し、銅層表面に銅層よりも濃い茶色の領域が観察されるか、または、白色のムラが観測された場合を「B」、それ以外の場合を「A」と評価した。
これらの結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2に示されるように、エッチング工程、塩化物洗浄工程、化学研磨工程、Ag洗浄工程を順に施した実施例では、銅層表面の塩素/銅濃度比が0.45以下で、ろう染みもなく、変色も生じなかった。
これに対して、比較例1は塩化物洗浄工程を施さなかったため、銅層表面の塩素/銅濃度比が0.45を超えており、変色が生じた。比較例2はエッチング工程を施さなかったため、ろう染みが生じた。比較例3はAg洗浄工程を施さなかったため、ろう染みが生じた。
【符号の説明】
【0039】
10 パワーモジュール用基板(絶縁回路基板)
11 セラミックス基板
12 回路層(銅層)
13 放熱層(銅層)
12´,13´ 銅板
21,22 ろう材層
図1
図2
図3