(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】コイル部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20240827BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240827BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F17/04 F
H01F41/04 C
(21)【出願番号】P 2020167098
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】生石 正之
(72)【発明者】
【氏名】小田原 充
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2008/004633(JP,A1)
【文献】特開2013-125819(JP,A)
【文献】特開2019-102691(JP,A)
【文献】特開平11-154618(JP,A)
【文献】特開2019-125605(JP,A)
【文献】特開2019-186525(JP,A)
【文献】特開2019-186371(JP,A)
【文献】特開2019-110170(JP,A)
【文献】特開2014-139981(JP,A)
【文献】特開2014-116396(JP,A)
【文献】特開平04-174505(JP,A)
【文献】特開2013-254811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
H01F 17/04
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素体と、
前記素体内に設けられたコイルと
を備え、
前記素体は、第1方向に積層された複数の磁性層を有し、
前記コイルは、前記第1方向に積層された複数のコイル配線を有し、
前記素体は、さらに、前記第1方向からみて、前記コイル配線の少なくとも一部に重なるヒビ発生層を有し、
前記ヒビ発生層の内部にヒビが存在
し、
前記ヒビ発生層は、ガラスから構成され、前記磁性層よりも靭性が低い層である、コイル部品。
【請求項2】
前記ヒビ発生層は、前記第1方向において隣り合う前記磁性層と前記コイル配線の間に存在する、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記ヒビ発生層は、前記第1方向において隣り合う2つの前記コイル配線の間に存在する、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記ヒビ発生層は、前記第1方向において隣り合う2つの前記磁性層の間に存在する、請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記ヒビ発生層は、さらに、前記第1方向に直交する方向において隣り合う前記磁性層と前記コイル配線の間に存在する、請求項1から4の何れか一つに記載のコイル部品。
【請求項6】
前記コイル配線は、前記第1方向に直交する平面に沿って延在し、
前記コイル配線は、前記コイル配線の延在方向に直交する断面において、前記第1方向に直交する方向の両側の2つの側面を有し、
前記ヒビ発生層は、前記磁性層と前記コイル配線の側面の間に存在する、請求項5に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記ヒビ発生層の平均厚みは、10μm以下である、請求項1から6の何れか一つに記載のコイル部品。
【請求項8】
前記ヒビ発生層の透磁率は、1より大きい、請求項1から
7の何れか一つに記載のコイル部品。
【請求項9】
前記ヒビ発生層の透磁率は、前記磁性層の透磁率と同じまたはそれよりも低い、請求項
8に記載のコイル部品。
【請求項10】
未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線を準備する準備工程と、
前記未焼成磁性層、前記未焼成ヒビ発生層および前記未焼成コイル配線を第1方向に積層し、前記未焼成ヒビ発生層を前記第1方向からみて前記未焼成コイル配線の少なくとも一部と重なるようにする積層工程と、
前記未焼成磁性層、前記未焼成ヒビ発生層および前記未焼成コイル配線を焼成して、磁性層と、前記第1方向からみてコイル配線の少なくとも一部に重なるヒビ発生層とを有する素体を得るとともに、前記素体の内部に設けられ前記コイル配線を有するコイルを得る焼成工程と、
前記ヒビ発生層の内部にヒビを発生させるヒビ発生工程と
を備え
、前記ヒビ発生層は、ガラスから構成され、前記磁性層よりも靭性が低い層である、コイル部品の製造方法。
【請求項11】
前記ヒビ発生工程は、前記素体に対して、温度差120℃以上となるような熱衝撃処理を一回以上行う工程である、請求項
10に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項12】
前記熱衝撃処理は、前記素体を液体窒素に一回以上浸漬する処理である、請求項
11に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項13】
未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線を準備する準備工程と、
前記未焼成磁性層、前記未焼成ヒビ発生層および前記未焼成コイル配線を第1方向に積層し、前記未焼成ヒビ発生層を前記第1方向からみて前記未焼成コイル配線の少なくとも一部と重なるようにする積層工程と、
前記未焼成磁性層、前記未焼成ヒビ発生層および前記未焼成コイル配線を焼成して、磁性層と、前記第1方向からみてコイル配線の少なくとも一部に重なるヒビ発生層とを有する素体を得るとともに、前記素体の内部に設けられ前記コイル配線を有するコイルを得る焼成工程と
を備え、
前記焼成工程は、さらに、焼成温度が300℃となった際に大気開放する熱衝撃処理を行って、前記ヒビ発生層の内部にヒビを発生させる工程を含む、コイル部品の製造方法。
【請求項14】
前記ヒビ発生層の透磁率は、1より大きい、請求項10から13の何れか一つに記載のコイル部品の製造方法。
【請求項15】
前記未焼成ヒビ発生層は、導体ペーストおよびガラスを含み、
前記焼成工程において、前記導体ペーストは、前記未焼成コイル配線と共に焼成されて前記コイル配線を形成し、前記ガラスは焼成されて前記ヒビ発生層を形成する、請求項10から14の何れか一つに記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコイル部品としては、特開平11-219821号公報(特許文献1)に記載されたものがある。このコイル部品は、積層体と、積層体内に設けられたコイルとを備え、積層体は、積層された複数の磁性体層を有し、コイルは、積層された複数の導体層を有する。そして、磁性体層と導体層の間に空隙部を設け、磁性体層と導体層とが接触しないようにすることで、磁性体層と導体層の間に発生する応力を緩和している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来のコイル部品では、空隙部は、導体層の全周に設けられているため、導体層は、磁性体層に直接に接触しておらず、導体層の位置、つまり、コイルの位置が安定しないおそれがあった。
【0005】
そこで、本開示は、コイル配線と磁性層の間に発生する応力を緩和しつつ、かつ、コイルの位置を安定できるコイル部品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明のコイル部品は、
素体と、
素体内に設けられたコイルと
を備え、
素体は、第1方向に積層された複数の磁性層を有し、
コイルは、第1方向に積層された複数のコイル配線を有し、
素体は、さらに、第1方向からみて、コイル配線の少なくとも一部に重なるヒビ発生層を有し、
ヒビ発生層の内部にヒビが存在する。
【0007】
本発明のコイル部品によれば、ヒビ発生層の内部にヒビが存在するので、コイル配線と磁性層の間に発生する応力を緩和できる。また、コイル配線は、磁性層またはヒビ発生層に積層しているので、コイル配線の位置、つまり、コイルの位置が安定する。
【0008】
また、コイル部品の一実施形態では、ヒビ発生層は、第1方向において隣り合う磁性層とコイル配線の間に存在する。
【0009】
前記実施形態によれば、第1方向において隣り合う磁性層とコイル配線の境界部分に強い応力が発生するが、この境界部分にヒビ発生層を設けることで、応力を効果的に緩和できる。
【0010】
また、コイル部品の一実施形態では、ヒビ発生層は、第1方向において隣り合う2つのコイル配線の間に存在する。
【0011】
前記実施形態によれば、第1方向において隣り合う2つのコイル配線の間に発生する応力を効果的に緩和することができる。
【0012】
また、コイル部品の一実施形態では、ヒビ発生層は、第1方向において隣り合う2つの磁性層の間に存在する。
【0013】
前記実施形態によれば、ヒビ発生層をコイル配線に直接に設ける場合に比べて、ヒビ発生層を容易に設けることができる。
【0014】
また、コイル部品の一実施形態では、ヒビ発生層は、さらに、第1方向に直交する方向において隣り合う磁性層とコイル配線の間に存在する。
【0015】
前記実施形態によれば、第1方向に直交する方向における応力を緩和できる。
【0016】
また、コイル部品の一実施形態では、
コイル配線は、第1方向に直交する平面に沿って延在し、
コイル配線は、コイル配線の延在方向に直交する断面において、第1方向に直交する方向の両側の2つの側面を有し、
ヒビ発生層は、磁性層とコイル配線の側面の間に存在する。
【0017】
前記実施形態によれば、磁性層とコイル配線の側面の間に発生する応力を緩和できる。
【0018】
また、コイル部品の一実施形態では、ヒビ発生層の平均厚みは、10μm以下である。
【0019】
ここで、ヒビ発生層の平均厚みとは、コイル配線の延在方向に直交する断面におけるヒビ発生層の平均厚みをいう。
【0020】
前記実施形態によれば、ヒビ発生層は薄いので、ヒビ発生層が磁性を有さない場合、コイル部品として良好な特性(高インダクタンス値または高インピーダンス値)が得られる。
【0021】
また、コイル部品の一実施形態では、ヒビ発生層は、低靭性なガラスを含む。
【0022】
ここで、低靭性とは、「低靭性とは材料の粘りが低いこと」「外力に抗して破壊されやすい。すなわち,亀裂の進展が早く,極限強さが低く塑性,延性が低い状態」を言う。
【0023】
前記実施形態によれば、ヒビ発生層に確実にヒビを発生させることができる。
【0024】
また、コイル部品の一実施形態では、ヒビ発生層の透磁率は、1より大きい。
【0025】
前記実施形態によれば、コイル部品として良好な特性(高インダクタンス値または高インピーダンス値)が得られる。
また、コイル部品の一実施形態では、ヒビ発生層の透磁率は、磁性層の透磁率と同じまたはそれよりも低い。
【0026】
前記実施形態によれば、コイル部品として所望の特性が得られる。
【0027】
また、コイル部品の製造方法の一実施形態では、
未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線を準備する準備工程と、
未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線を第1方向に積層し、未焼成ヒビ発生層を第1方向からみて未焼成コイル配線の少なくとも一部と重なるようにする積層工程と、
未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線を焼成して、磁性層と、第1方向からみてコイル配線の少なくとも一部に重なるヒビ発生層とを有する素体を得るとともに、素体の内部に設けられコイル配線を有するコイルを得る焼成工程と、
ヒビ発生層の内部にヒビを発生させるヒビ発生工程と
を備える。
【0028】
ここで、未焼成磁性層は、例えば、磁性シートまたは磁性ペーストから構成される。未焼成コイル配線は、例えば、導体ペーストから構成される。未焼成ヒビ発生層は、例えば、ガラスを含有させた導体ペーストから構成される。
【0029】
前記実施形態によれば、ヒビ発生層の内部にヒビを発生させるので、コイル配線と磁性層の間に発生する応力を緩和できる。また、コイル配線は、磁性層またはヒビ発生層に積層しているので、コイル配線の位置、つまり、コイルの位置が安定する。
【0030】
また、コイル部品の製造方法の一実施形態では、ヒビ発生工程は、素体に対して、温度差120℃以上となるような熱衝撃処理を一回以上行う工程である。
【0031】
前記実施形態によれば、ヒビ発生層の内部に確実にヒビを発生できる。
【0032】
また、コイル部品の製造方法の一実施形態では、熱衝撃処理は、素体を液体窒素に一回以上浸漬する処理である。
【0033】
前記実施形態によれば、浸漬という簡便な方法で、ヒビ発生層の内部にヒビを発生できる。
【0034】
また、コイル部品の製造方法の一実施形態では、
未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線を準備する準備工程と、
未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線を第1方向に積層し、未焼成ヒビ発生層を第1方向からみて未焼成コイル配線の少なくとも一部と重なるようにする積層工程と、
未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線を焼成して、磁性層と、第1方向からみてコイル配線の少なくとも一部に重なるヒビ発生層とを有する素体を得るとともに、素体の内部に設けられコイル配線を有するコイルを得る焼成工程と
を備え、
焼成工程は、さらに、焼成温度が300℃となった際に大気開放する熱衝撃処理を行って、ヒビ発生層の内部にヒビを発生させる工程を含む。
【0035】
ここで、未焼成磁性層は、例えば、磁性シートまたは磁性ペーストから構成される。未焼成コイル配線は、例えば、導体ペーストから構成される。未焼成ヒビ発生層は、例えば、ガラスを含有させた導体ペーストから構成される。
【0036】
前記実施形態によれば、ヒビ発生層の内部にヒビを発生させるので、コイル配線と磁性層の間に発生する応力を緩和できる。また、コイル配線は、磁性層またはヒビ発生層に積層しているので、コイル配線の位置、つまり、コイルの位置が安定する。
【発明の効果】
【0037】
本発明のコイル部品およびその製造方法によれば、コイル配線と磁性層との間の応力を緩和しつつ、かつ、コイルの位置を安定できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明のコイル部品の第1実施形態を示す斜視図である。
【
図5A】コイル部品の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図5B】コイル部品の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図5C】コイル部品の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図5D】コイル部品の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図5E】コイル部品の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図5F】コイル部品の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図6】本発明のコイル部品の第2実施形態を示す断面図である。
【
図7】コイル部品の製造方法の一例を説明する断面図である。
【
図8】本発明のコイル部品の第3実施形態を示す断面図である。
【
図9】コイル部品の製造方法の一例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本開示の一態様であるコイル部品およびその製造方法を図示の実施の形態により詳細に説明する。なお、図面は一部模式的なものを含み、実際の寸法や比率を反映していない場合がある。
【0040】
(第1実施形態)
図1は、コイル部品の第1実施形態を示す斜視図である。
図2は、
図1のX-X断面図であり、コイル部品のW方向の中心を通るLT断面図である。
図3は、コイル部品の分解平面図であり、下図から上図にわたってT方向に沿った図を表している。なお、L方向は、コイル部品1の長さ方向であり、W方向は、コイル部品1の幅方向であり、T方向は、コイル部品1の高さ方向である。T方向は、特許請求の範囲に記載の「第1方向」の一実施形態である。以下、T方向の順方向を上側といい、T方向の逆方向を下側ともいう。
【0041】
図1と
図2と
図3に示すように、コイル部品1は、素体10と、素体10の内部に設けられたコイル20と、素体10の表面に設けられコイル20に電気的に接続された第1外部電極31および第2外部電極32とを有する。
【0042】
コイル部品1は、第1、第2外部電極31、32を介して、図示しない回路基板の配線に電気的に接続される。コイル部品1は、例えば、ノイズ除去フィルタとして用いられ、パソコン、DVDプレーヤー、デジタルカメラ、TV、携帯電話、カーエレクトロニクスなどの電子機器に用いられる。
【0043】
素体10は、略直方体状に形成されている。素体10の表面は、第1端面15と、第1端面15の反対側に位置する第2端面16と、第1端面15と第2端面16の間に位置する4つの側面17とを有する。第1端面15および第2端面16は、L方向に対向している。
【0044】
素体10は、複数の磁性層11を含む。複数の磁性層11は、T方向に交互に積層される。磁性層11は、例えば、Ni-Cu-Zn系のフェライト材料などの磁性材料からなる。磁性層11の厚みは、例えば、5μm以上でかつ30μm以下である。なお、素体10は、部分的に非磁性層を含んでいてもよい。
【0045】
第1外部電極31は、素体10の第1端面15の全面と、素体10の側面17の第1端面15側の端部とを覆う。第2外部電極32は、素体10の第2端面16の全面と、素体10の側面17の第2端面16側の端部とを覆う。第1外部電極31は、コイル20の第1端に電気的に接続され、第2外部電極32は、コイル20の第2端に電気的に接続される。なお、第1外部電極31は、第1端面15と1つの側面17に渡って形成されるL字形状であってもよく、第2外部電極32は、第2端面16と1つの側面17に渡って形成されるL字形状であってもよい。
【0046】
コイル20は、T方向に沿って、螺旋状に巻回されている。コイル20は、例えば、AgまたはCuなどの導電性材料からなる。コイル20は、複数のコイル配線21と複数の引出導体層61,62とを有する。
【0047】
2層の第1引出導体層61と、複数のコイル配線21と、2層の第2引出導体層62とは、T方向に順に積層され、接続部25を介して電気的に順に接続される。接続部25は、磁性層11を積層方向に貫通して設けられる。
【0048】
具体的に述べると、4層のコイル配線21は、T方向に順に接続されて、T方向に沿った螺旋を形成する。コイル配線21は、T方向に直交する平面に沿って延在する。コイル配線21は、1ターン未満に巻回された形状に形成されている。第1引出導体層61は、素体10の第1端面15から露出して第1外部電極31に接続され、第2引出導体層62は、素体10の第2端面16から露出して第2外部電極32に接続される。
【0049】
コイル配線21は、1層のコイル導体層から構成される。コイル導体層の厚みは、例えば、10μm以上40μm以下である。コイル導体層は、例えば、導体ペーストを印刷し乾燥して形成される。なお、コイル配線21は、複数層のコイル導体層から構成されていてもよい。このとき、複数層のコイル導体層は、T方向に積層され、T方向に隣り合うコイル導体層は、互いに面接触する。
【0050】
図4は、
図2のA部の拡大断面図である。つまり、
図4は、コイル配線21の延在方向に直交する断面を示す。
図4に示すように、素体10は、さらに、T方向からみて、コイル配線21の少なくとも一部に重なるヒビ発生層40を有する。ヒビ発生層40の内部にヒビ40aが存在する。
【0051】
ヒビ発生層40は、磁性層11に比べて、ヒビ40aが発生しやすい層である。具体的に述べると、ヒビ発生層40は、靭性が低い層であり、脆性破壊が起こりやすい層である。例えば、ヒビ発生層40は、磁性層11と比べて強度が低い。ヒビ発生層40は、例えば、ガラスから構成される。好ましくは、ヒビ発生層40は、磁性を有する。
【0052】
ヒビ発生層40の内部のヒビ40aは、ヒビ発生層40の内部に収まっており磁性層11の内部にまで連続して延在しない。このヒビ40aは、従来の空隙部よりも小さく、所謂クラックである。
【0053】
これによれば、ヒビ発生層40の内部にヒビ40aが存在するので、このヒビ40aによりコイル配線21と磁性層11の間に発生する応力を緩和できる。また、コイル配線21は、磁性層11またはヒビ発生層40に積層しているので、コイル配線21の周囲は従来のような空隙部に囲まれておらず、コイル配線21の位置、つまり、コイル20の位置が安定する。
【0054】
また、ヒビ40aは、従来の空隙部と比べて厚みがほとんどないため、コイル部品1としての良好な特性(高インダクタンス値または高インピーダンス値)が得られる。また、ヒビ40aは、ヒビ発生層40の内部に収まっているので、ヒビ40aが素体10の外面に到達せず、耐候性に優れる。また、ヒビ40aは、ヒビ発生層40の内部に設けられるので、ヒビ40aが発生する位置や、ヒビ40aの大きさを制御でき、さらに、ヒビ40aの形状も安定し、この結果、コイル部品1の特性のばらつきを低減できる。
【0055】
なお、ヒビ発生層40は、T方向からみて、コイル配線21の全てに重なっていれば、応力をより緩和できるが、ヒビ発生層40は、T方向からみて、コイル配線21の少なくとも一部に重なっていればよい。
【0056】
本開示のコイル部品1では、磁性層11において、本願の応力緩和の目的以外で、前記ヒビ40aとは異なるヒビが設けられていてもよい。言い換えると、応力緩和の目的で設けられたヒビ40aは、ヒビ発生層40の内部に存在する。
【0057】
好ましくは、ヒビ発生層40は、T方向において隣り合う磁性層11とコイル配線21の間に存在する。これによれば、T方向において隣り合う磁性層11とコイル配線21の境界部分に強い応力が発生するが、この境界部分にヒビ発生層40を設けることで、応力を効果的に緩和できる。
【0058】
好ましくは、ヒビ発生層40は、複数設けられ、複数のヒビ発生層40は、全てのコイル配線21のそれぞれに接触して設けられる。好ましくは、全てのヒビ発生層40の内部にヒビ40aが存在している。これによれば、応力をより緩和できる。
【0059】
なお、全てのコイル配線21の内の少なくとも一つのコイル配線21に接触するように、少なくとも一つのヒビ発生層40を設けてもよい。また、全てのヒビ発生層40の内の少なくとも一つのヒビ発生層40の内部に、ヒビ40aが発生していればよい。つまり、複数のヒビ発生層40の内、ヒビ40aのないヒビ発生層40が存在していてもよい。
【0060】
好ましくは、ヒビ発生層40は、さらに、T方向に直交する方向において隣り合う磁性層11とコイル配線21の間に存在する。これによれば、T方向に直交する方向における応力を緩和できる。
【0061】
具体的に述べると、コイル配線21は、コイル配線21の延在方向に直交する断面において、T方向の両側の2つの面21a,21bと、T方向に直交する方向(幅方向)の両側の2つの側面21c,21dとを有する。つまり、コイル配線21は、T方向の上側の上面21aと、T方向の下側の下面21bと、幅方向のコイル20の内磁路側(コイル20の中心軸側)の内側面21cと、幅方向のコイル20の外磁路側(素体10のサイドギャップ側)の外側面21dとを有する。上面21aは、下面21bよりも短く、コイル配線21の断面形状は、台形である。コイル配線21の断面において、コイル配線21のT方向の厚みtは、コイル配線21のL方向の最大幅wよりも小さい。
【0062】
そして、ヒビ発生層40は、磁性層11とコイル配線21の上面21aの間に存在し、さらに、磁性層11とコイル配線21の内側面21cおよび外側面21dの間にも存在する。これによれば、磁性層11とコイル配線21の上面21aの間に発生する応力を緩和し、さらに、磁性層11とコイル配線21の内側面21cおよび外側面21dの間に発生する応力をも緩和できる。
【0063】
なお、コイル配線21の断面形状は、矩形でなくてもよく、四角形以外の多角形であってもよく、長円形や楕円形であってもよい。この場合であっても、ヒビ発生層40は、T方向において隣り合う磁性層11とコイル配線21の間に存在し、さらに、T方向に直交する方向において隣り合う磁性層11とコイル配線21の間にも存在する。
【0064】
また、ヒビ発生層40は、下面21b、内側面21cおよび外側面21dに接触するように設けられていてもよく、または、上面21aまたは下面21bのみに接触するように設けられていてもよい。つまり、ヒビ発生層40は、上面21aまたは下面21bに接触している。したがって、ヒビ発生層40は、内側面21cおよび外側面21dに比べて面積が大きく応力の発生し易い上面21aまたは下面21bに接触するため、効果的に応力を緩和できる。
【0065】
好ましくは、ヒビ発生層40の平均厚みは、10μm以下である。これによれば、ヒビ発生層40は薄いので、ヒビ発生層40が磁性を有さない場合、コイル部品1として良好な特性(高インダクタンス値または高インピーダンス値)が得られる。
【0066】
ここで、ヒビ発生層40の平均厚みとは、コイル配線21の延在方向に直交する断面におけるヒビ発生層40の平均厚みをいう。例えば、コイル部品1のW方向の中心を通るLT断面で、かつ、コイル配線21の延在方向に直交する断面において、ヒビ発生層40の複数個所の厚みを測定し、その平均値を求める。
【0067】
好ましくは、ヒビ発生層40は、低靭性なガラスを含む。これによれば、ヒビ発生層40に確実にヒビを発生させることができる。ここで、低靭性とは、「低靭性とは材料の粘りが低いこと」「外力に抗して破壊されやすい。すなわち,亀裂の進展が早く,極限強さが低く塑性,延性が低い状態」を言う。
【0068】
好ましくは、ヒビ発生層40の透磁率は、1より大きい。これによれば、コイル部品1として良好な特性(高インダクタンス値または高インピーダンス値)が得られる。 好ましくは、ヒビ発生層40の透磁率は、磁性層の透磁率と同じまたはそれよりも低い。これによれば、コイル部品1として所望の特性が得られる。
【0069】
次に、
図5Aから
図5Fを用いて、コイル部品1の製造方法を説明する。
図5Aから
図5Fは、コイル配線21の延在方向に直交するLT断面を示す。
【0070】
まず、未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線を準備する。これを、準備工程という。未焼成磁性層は、磁性ペーストから構成される。未焼成コイル配線は、導体ペーストから構成される。未焼成ヒビ発生層は、ガラスを含有させた導体ペーストから構成される。なお、未焼成ヒビ発生層は、導体ペーストを含まないで、ガラスから構成してもよいが、導体ペーストを含むことで、均一に薄く形成できる。
【0071】
続いて、未焼成磁性層、未焼成ヒビ発生層および未焼成コイル配線をT方向に積層し、未焼成ヒビ発生層をT方向からみて未焼成コイル配線の少なくとも一部と重なるようにする。これを、積層工程という。
【0072】
具体的に述べると、
図5Aに示すように、第1未焼成磁性層111上に未焼成コイル配線211を積層する。未焼成コイル配線211の下面211bは、第1未焼成磁性層111に接触する。
【0073】
図5Bに示すように、未焼成コイル配線211の上面211a、内側面211cおよび外側面211dに、未焼成ヒビ発生層400を設ける。
【0074】
図5Cに示すように、未焼成ヒビ発生層400における未焼成コイル配線211の上面211aに対向する部分を露出し、未焼成ヒビ発生層400における未焼成コイル配線211の内側面211cおよび外側面211dに対向する部分を覆うように、第1未焼成磁性層111上に第2未焼成磁性層112を積層する。
【0075】
図5Dに示すように、未焼成ヒビ発生層400における未焼成コイル配線211の上面211aに対向する部分を覆うように、第2未焼成磁性層112上に第3未焼成磁性層113を積層する。以上の積層工程を複数回繰り返して積層体を形成する。
【0076】
続いて、未焼成磁性層111~113、未焼成ヒビ発生層400および未焼成コイル配線211、つまり、積層体を焼成して、
図5Eに示すように、磁性層11とヒビ発生層40とを有する素体10を得るとともに、素体10の内部に設けられコイル配線21を有するコイル20を得る。ヒビ発生層40は、T方向からみてコイル配線21の少なくとも一部に重なる。これを、焼成工程という。
【0077】
焼成工程において、未焼成磁性層111~113は、焼成されて、磁性層11を形成する。また、未焼成ヒビ発生層400の一部である導体ペーストは、未焼成コイル配線211と共に焼成されて、コイル配線21を形成する。また、未焼成ヒビ発生層400の一部であるガラスは、焼成されて、ヒビ発生層40を形成する。
【0078】
続いて、
図5Fに示すように、ヒビ発生層40の内部にヒビ40aを発生させる。これを、ヒビ発生工程という。そして、
図2に示すコイル部品1を製造する。
【0079】
このように、ヒビ発生層40の内部にヒビ40aを発生させるので、コイル配線21と磁性層11の間に発生する応力を緩和できる。また、コイル配線21は、磁性層11またはヒビ発生層40に積層しているので、コイル配線21の位置、つまり、コイル20の位置が安定する。
【0080】
好ましくは、ヒビ発生工程は、素体10に対して、温度差120℃以上となるような熱衝撃処理を一回以上行う工程である。これによれば、ヒビ発生層40の内部に確実にヒビ40aを発生できる。好ましくは、熱衝撃処理は、素体10を液体窒素に一回以上浸漬する処理である。これによれば、浸漬という簡便な方法で、ヒビ発生層40の内部にヒビ40aを発生できる。
【0081】
なお、前記ヒビ発生工程を設けないで、前記焼成工程において、ヒビ発生層40の内部にヒビ40aを発生してもよい。具体的に述べると、前記焼成工程は、さらに、焼成温度が300℃となった際に大気開放(炉空け)する熱衝撃処理を行って、ヒビ発生層40の内部にヒビ40aを発生させる工程を含む。これにより、前記ヒビ発生工程を設ける場合に比べて、ヒビ40aを形成する際の付加的な設備や工程を省くことができる。
【0082】
(第2実施形態)
図6は、本発明のコイル部品の第2実施形態を示す断面図である。第2実施形態は、第1実施形態とは、コイル配線の形状が相違する。この相違する構成を以下に説明する。その他の構成は、第1実施形態と同じ構成であり、その説明を省略する。
【0083】
図6に示すように、第2実施形態のコイル部品1Aでは、コイル20Aのコイル配線21Aの形状は、コイル配線21Aの延在方向に直交する断面において、楕円形となっている。コイル配線21Aは、円弧状の上面21aと円弧状の下面21bとを有する。
【0084】
コイル配線21Aは、2層の磁性層11の間に挟まれている。具体的に述べると、コイル配線21Aの下面21bは、下側の磁性層11と接触する。コイル配線21Aの上面21aと上側の磁性層11との間には、ヒビ発生層40が存在する。つまり、ヒビ発生層40は、コイル配線21Aの上面21aに接触する。
【0085】
そして、ヒビ発生層40は、T方向において隣り合う磁性層11とコイル配線21Aの間に存在する。ヒビ発生層40は、さらに、T方向に直交するL方向において隣り合う磁性層11とコイル配線21Aの間にも存在する。
【0086】
次に、コイル部品1Aの製造方法を説明する。
【0087】
図7に示すように、T方向に沿って順に、第1未焼成磁性層111、未焼成コイル配線211、未焼成ヒビ発生層400および第2未焼成磁性層112を積層する。このとき、未焼成コイル配線211の下面211bは、第1未焼成磁性層111に接触し、未焼成コイル配線211の上面211aは、未焼成ヒビ発生層400に接触する。未焼成磁性層は、前記第1実施形態と異なり、磁性シートから構成される。
【0088】
その後、前記第1実施形態の焼成工程およびヒビ発生工程を経て、
図6に示すように、ヒビ発生層40の内部にヒビ40aを発生させて、コイル部品1Aを製造する。
【0089】
第2実施形態のコイル部品1Aでは、前記第1実施形態のコイル部品1と同様の効果を有する。
【0090】
(第3実施形態)
図8は、本発明のコイル部品の第3実施形態を示す断面図である。第3実施形態は、第1実施形態とは、コイル配線の形状およびヒビ発生層の位置が相違する。この相違する構成を以下に説明する。その他の構成は、第1実施形態と同じ構成であり、その説明を省略する。
【0091】
図8に示すように、第3実施形態のコイル部品1Bでは、コイル20Bのコイル配線21Bの形状は、コイル配線21Bの延在方向に直交する断面において、楕円形となっている。コイル配線21Bは、円弧状の上面21aと円弧状の下面21bとを有する。
【0092】
コイル配線21Bは、2層の磁性層11の間に挟まれている。具体的に述べると、コイル配線21Bの下面21bは、下側の磁性層11と接触する。コイル配線21Bの上面21aは、上側の磁性層11と接触する。
【0093】
ヒビ発生層40は、T方向において隣り合う2つのコイル配線21Bの間に存在する。これによれば、T方向において隣り合う2つのコイル配線21Bの間に発生する応力を効果的に緩和することができる。
【0094】
具体的に述べると、ヒビ発生層40は、T方向において隣り合う2つの磁性層11の間に存在する。つまり、ヒビ発生層40は、コイル配線21Bに接触していない。これによれば、ヒビ発生層40をコイル配線21Bに直接に設ける場合に比べて、ヒビ発生層40を容易に設けることができる。
【0095】
コイル配線21Bの延在方向に直交する断面において、T方向に直交するL方向の幅に関して、ヒビ発生層40の幅は、コイル配線21Bの幅と同じである。なお、ヒビ発生層40の幅は、コイル配線21Bの幅よりも広くてもよく、この場合、ヒビ発生層40の内部のヒビ40aにより、応力をより緩和できる。一方、ヒビ発生層40の幅は、コイル配線21Bの幅よりも狭くてもよく、この場合、ヒビ発生層40は、素体10の外磁路や内磁路まで延びず、また、ヒビ発生層40は、コイル20Bの磁束を邪魔しない。
【0096】
次に、コイル部品1Bの製造方法を説明する。
【0097】
図9に示すように、T方向に沿って順に、第1未焼成磁性層111、第1の未焼成コイル配線211、第2未焼成磁性層112、未焼成ヒビ発生層400、第3未焼成磁性層113、第2の未焼成コイル配線211、および、第4未焼成磁性層114を積層する。このとき、第1の未焼成コイル配線211の下面211bは、第1未焼成磁性層111に接触し、第1の未焼成コイル配線211の上面211aは、第2未焼成磁性層112に接触する。また、第2の未焼成コイル配線211の下面211bは、第3未焼成磁性層113に接触し、第2の未焼成コイル配線211の上面211aは、第4未焼成磁性層114に接触する。また、第2未焼成磁性層112と第3未焼成磁性層113の間の一部に未焼成ヒビ発生層400が存在する。未焼成磁性層は、前記第1実施形態と異なり、磁性シートから構成される。
【0098】
その後、前記第1実施形態の焼成工程およびヒビ発生工程を経て、
図8に示すように、ヒビ発生層40の内部にヒビ40aを発生させて、コイル部品1Bを製造する。
【0099】
第3実施形態のコイル部品1Bでは、前記第1実施形態のコイル部品1と同様の効果を有する。
【0100】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。例えば、第1から第3実施形態のそれぞれの特徴点を様々に組み合わせてもよい。コイル配線の数量やヒビ発生層の数量の増減は、設計変更可能である。
【符号の説明】
【0101】
1,1A,1B コイル部品
10 素体
11 磁性層
20,20A,20B コイル
21,21A,21B コイル配線
25 接続部
31 第1外部電極
32 第2外部電極
40 ヒビ発生層
40a ヒビ
111~114 第1~第4未焼成磁性層
211 未焼成コイル配線
400 未焼成ヒビ発生層