(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ロービングのテンション装置、ロービングパッケージ製造装置及びロービングパッケージ製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 51/015 20060101AFI20240827BHJP
B65H 59/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B65H51/015
B65H59/16
(21)【出願番号】P 2020176163
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-219647(JP,A)
【文献】特開2016-098102(JP,A)
【文献】米国特許第08116899(US,B1)
【文献】実開昭48-089911(JP,U)
【文献】特開昭50-070627(JP,A)
【文献】特開2014-069949(JP,A)
【文献】特開平09-202533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 51/015
B65H 59/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストランドを複数本まとめてなるロービングを製造する際に当該ロービングにテンションを付与するロービングのテンション装置であって、
前記ロービングのテンションの調整を行う調整ローラーと、
前記調整ローラーに前記ロービングを押圧して、前記ロービングにテンションを付与する外周面が樹脂で形成された押さえローラーと、
前記押さえローラーの外周面を冷却する冷却手段と、を備える、
ことを特徴とするロービングのテンション装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、前記押さえローラーの外周面に向かって冷却エアを噴出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のロービングのテンション装置。
【請求項3】
前記冷却手段は、前記押さえローラーの下方から前記押さえローラーの外周面に向かって冷却エアを局所的に噴出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のロービングのテンション装置。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか一項に記載のロービングのテンション装置を備える、
ことを特徴とするロービングパッケージ製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のロービングパッケージ製造装置により、前記ストランドからロービングパッケージを製造する、
ことを特徴とするロービングパッケージ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロービングのテンション装置、及び当該テンション装置を備えるロービングパッケージ製造装置及びロービングパッケージ製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ガラス繊維ロービング(以下、単に「ロービング」と記載する)は、数μmの繊維径からなる数百本~数千本のガラス繊維(モノフィラメント)を、集束剤を用いて集束させることによりストランドを形成し、その後、形成された所定本数のストランドを、引き揃えながら合糸することによって製造される。
ここで、ロービングを製造するためのロービング工程は、従来から、以下に示すロービング製造装置を用いて、複数本のストランドを引き揃えながら円筒形状に巻き取ることによって行われる(例えば、「特許文献1」を参照)。
【0003】
即ち、ロービング製造装置は、主に、クリールスタンド、テンション装置、および巻取り装置等により構成されるとともに、クリールスタンドには、所望番手のストランドが巻き取られて形成された複数個のケーキが装着される。
これら複数個のケーキの各々の内周面より、巻き取られていたストランドは引き出され、引き出された複数本のストランドが、集束ガイドを通過することにより合糸され、一本に纏められる。
これにより、複数本のストランドの束からなる一本のロービングが形成される。
【0004】
形成されたロービングは、集束ガイドを通過した後、糸道案内装置へと導かれ、所定の糸道方向へと案内される。こうして、ロービングは、クリールスタンドの外部へと搬送される。
クリールスタンドの外部へと搬送されたロービングは、複数個の糸道ガイドホイールを介しつつ、糸道方向を転換させてテンション装置に導かれ、所定の張力が付加される。
その後、ロービングは、例えば自動ターレット方式のロービングワインダーからなる巻取り装置に導かれ、所定の長さ分だけ円筒形状に巻き取られる。こうして、ロービングパッケージが製造される。
【0005】
ここで、このような構成からなる従来のロービング製造装置のテンション装置は、主にパウダーブレーキ式の調整ローラー、測長ローラー及び押さえローラーを有している。
前記押さえローラーは、パウダーブレーキ式の調整ローラーにロービングを押圧して所定のテンションを付与するものであり、その外周面は例えばウレタン樹脂で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、押さえローラーは、外周表面(外周面)がウレタン樹脂で形成されているため、このウレタン樹脂からなる外周面が常時ガラス繊維であるロービングと接触することで、摩擦熱により押さえローラーの外周面に集束剤による汚れや粘着性の帯状付着物が蓄積される、いわゆるガムアップが発生する(
図2(b)参照)。ガムアップにより押さえローラーの外周面の状態が凸凹状になって悪化すると、ロービングの糸切れが発生して稼働ロスが発生する。そのため、作業者が定期的に新品の押さえローラー(
図2(a)参照)に交換している。
【0008】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、押さえローラーの外周面のガムアップの発生を抑えることが可能なロービングのテンション装置、当該テンション装置を備えるロービングパッケージ製造装置及びロービングパッケージ製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、本発明のロービングのテンション装置は、ストランドを複数本まとめてなるロービングを製造する際に当該ロービングにテンションを付与するロービングのテンション装置であって、前記ロービングのテンションの調整を行う調整ローラーと、前記調整ローラーに前記ロービングを押圧して、前記ロービングにテンションを付与する外周面が樹脂で形成された押さえローラーと、前記押さえローラーの外周面を冷却する冷却手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
このような構成からなる、本発明におけるロービングのテンション装置によれば、冷却手段により押さえローラーの外周面を冷却して、押さえローラーの外周面の温度上昇を抑制しガムアップの発生を抑えることができる。これにより、ガムアップによるロービングの糸切れの発生を抑えて、押さえローラーの寿命を延ばすとともに装置の稼働率を向上させることができる。
【0012】
また、本発明のロービングのテンション装置において、前記冷却手段は、前記押さえローラーの外周面に向かって冷却エアを噴出することを特徴とする。
【0013】
このような構成からなる、本発明におけるロービングのテンション装置によれば、押さえローラーの外周面を効率的に冷却することができる。
【0014】
また、本発明のロービングのテンション装置において、前記押さえローラーの下方から前記押さえローラーの外周面に向かって冷却エアを局所的に噴出することを特徴とする。
【0015】
このような構成からなる、本発明におけるロービングのテンション装置によれば、冷却エアを周囲に飛散させずにより効率的に押さえローラーの外周面を冷却することができる。
【0016】
また、本発明のロービングパッケージ製造装置は、上記記載のテンション装置を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のロービングパッケージ製造方法は、上記記載のロービングパッケージ製造装置により、前記ストランドからロービングパッケージを製造することを特徴とする。
【0018】
このような構成からなる、本発明におけるロービングパッケージ製造装置及び製造方法によれば、冷却手段により押さえローラーの外周面を冷却して、押さえローラーの外周面の温度上昇を抑制しガムアップの発生を抑えることができる。これにより、ガムアップによるロービングの糸切れの発生を抑えて、押さえローラーの寿命を延ばすとともに装置の稼働率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のロービングのテンション装置、ロービングパッケージ製造装置及び製造方法によれば、冷却手段により押さえローラーの外周面を冷却して、押さえローラーの外周面の温度上昇を抑制しガムアップの発生を抑えることができる。これにより、ガムアップによるロービングの糸切れの発生を抑えて、押さえローラーの寿命を延ばすとともに装置の稼働率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るテンション装置を備えた、ロービングパッケージ製造装置の全体的な構成を示した概略側面図。
【
図2】(a)は使用前(外周面が良好な状態)の押さえローラーを示す写真、(b)はガムアップ時(外周面に付着物が発生し、表面に凹凸のある状態)の押さえローラーを示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0022】
[ロービングパッケージ製造装置1]
先ず、本発明を具現化するテンション装置40を備えたロービングパッケージ製造装置1の全体構成について、
図1を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては便宜上、
図1に示した矢印の方向によって、ロービングパッケージ製造装置1の上下方向および前後方向を規定して記述する。
また、
図1においては、矢印Aの方向をストランドS(または、ロービングR)の搬送方向と規定して説明する。
【0023】
本実施形態におけるロービングパッケージ製造装置1は、複数個のケーキ100・100・・・より各々引き出された所望番手のストランドS・S・・・を、互いに引き揃えながら一本に纏めて糸状物品のロービングR(ガラス繊維ロービング)を形成し、その後、円筒形状に巻取ることによってロービングRのパッケージを製造する装置である。
ここで、ケーキ100は、ガラス溶融炉にて溶融させた約1200[℃]のガラス融液を、多数のブッシングノズルから引き出すことによって数μmの繊維径からなるガラス繊維(モノフィラメント)を生成(紡糸)し、こうして生成された数百本~数千本のガラス繊維を、集束剤を用いて集束させてストランドSを形成し、形成されたストランドSを円筒形状に巻取ることによって形成される。
【0024】
ロービングパッケージ製造装置1は、主に、クリールスタンド10、糸道案内装置20、糸道ガイドホイール30、テンション装置40、および巻取り装置50などにより構成される。
クリールスタンド10は、複数個のケーキ100・100・・・を纏めて保持し、これらのケーキ100・100・・・よりストランドS・S・・・を同時に引き出すとともに、引き出された複数本のストランドS・S・・・を、一本にまとめて合糸するためのものである。糸道ガイドホイール30は、天井ローラーとも呼ばれる。
【0025】
クリールスタンド10には、基体となる枠体フレーム11が備えられ、枠体フレーム11の内部には、複数段の棚12・12・・・が配設される。
各棚12は、複数個のケーキ100・100・・・を纏めて保持しつつ、各々のケーキ100・100・・・よりストランドS・S・・・を同時に引き出すことが可能な構成となっている。
また、棚12の一端側(本実施形態においては、後端側)には、複数本のストランドS・S・・・を合糸するための糸道ガイド13が配設される。
【0026】
そして、各棚12に保持された複数のケーキ100・100・・・の、各々の内周面より引き出された複数本のストランドS・S・・・は、糸道ガイド13を通過することにより互いに引き揃えられて合糸され、ストランドS・S・・・の束からなる一本のロービングRに纏められる。
【0027】
形成されたロービングRは、その後、糸道案内装置20に導かれ、糸道案内装置20に回転可能に備えられるガイドローラー21を介して、糸道方向を所定の方向(
図1中の矢印Aの方向であって、ロービングRの搬送方向)に転換させつつ、クリールスタンド10の外部へと送り出される。
そして、ロービングRは、複数個(本実施形態においては、二個)の糸道ガイドホイール30・30によって、さらに糸道方向を転換させながら、テンション装置40へと導かれる。
【0028】
テンション装置40は、搬送されるロービングRの長さを逐次計測するとともに、ロービングRに加わるテンションを調整するものである。
テンション装置40は、ロービングRに加わるテンションの調整を行うパウダーブレーキ式の金属製(例えばステンレス製)の調整ローラーであるパウダーブレーキローラー41と、ロービングRの長さを計測する測長ローラー42と、パウダーブレーキローラー41にロービングRを押圧する押さえローラー43と、押さえローラー43の外周面を冷却する冷却手段44とを有している。
【0029】
パウダーブレーキローラー41は、ロービングRの搬送速度を、ブレーキにより調整することによりロービングRに加わるテンションを調整する。
【0030】
押さえローラー43は、パウダーブレーキローラー41の側方(後方)に配置されている。押さえローラー43は、パウダーブレーキローラー41よりも小径の従動ローラーである。押さえローラー43は、少なくともロービングR及びパウダーブレーキローラー41の外周面に接触する外周面部分が、例えばゴム又は樹脂(本実施形態ではウレタン樹脂)などのパウダーブレーキローラー41の外周面よりも軟質の材料により形成されている。本実施形態の押さえローラー43は、その外周面にウレタン樹脂がライニングされている。押さえローラー43は、ロービングRをパウダーブレーキローラー41に押圧することでロービングRに所定のテンション(張力)を付与するものである。
【0031】
冷却手段44は、押さえローラー43の外周面を冷却するものである。冷却手段44は、押さえローラー43の下方に図示しない支持部材により支持されている。冷却手段44は、例えば圧縮空気を供給することで冷却エア(冷風)を噴出するジェットクーラーであり、冷却手段44の上端に設けられた冷風噴出口44aが押さえローラー43の外周面に向くように近接配置されている。
また、本実施形態では、冷却手段44の冷風噴出口44aの先端と押さえローラー43の間の距離を約30mmに設定している。冷却手段44は、冷風噴出口44aから所定温度の冷却エアを押さえローラー43の外周面に吹き付けて当該外周面の表面温度を下げるためのものである。
なお、冷却手段44の冷風噴出口44aの先端と押さえローラー43の間の距離は、1~50mmであることが好ましい。当該距離が1mm未満であると、冷却手段44と押さえローラー43とが接触する可能性があり、当該距離が50mmを超えると冷却エアが周囲に拡散してしまい、冷却効率が低下するからである。冷却手段44による押さえローラー43の外周面の冷却効果については後述する。
【0032】
そして、テンション装置40に導かれたロービングRは、パウダーブレーキローラー41、測長ローラー42と順に巻回された後、再び装置外へと送り出され、巻取り装置50へと導かれる。
【0033】
巻取り装置50は、ロービングRを円筒形状に巻取ることでロービングパッケージを製造するためのものであり、例えば、本実施形態においては、AT(自動ターレット)方式のロービングワインダーによって構成される。
【0034】
以上のような構成からなるロービングパッケージ製造装置1において、クリールスタンド10にて合糸された糸状物品のロービングRは、糸道案内装置20、糸道ガイドホイール30、テンション装置40と順に搬送され、巻取り装置50によって円筒形状のロービングパッケージとして巻取られる。このようにして、ロービングパッケージが製造される。
【0035】
次に、本発明を更に具体的に説明するために実施例を述べるが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲内において各種の応用が行えるものである。
【0036】
[冷却手段44の有無によるガムアップ性の評価]
上述したテンション装置40を備えたロービングパッケージ製造装置1を用いて糸状物品のロービングRを巻き取って円筒形状のパッケージを製造した。その際に冷却手段44の有無による押さえローラーの外周面に付着した固形物(以下では、単にガムアップともいう)の量、及び、その表面状態を目視及び手触りにて観察し、各種条件におけるガムアップ性を以下の判定基準により評価した。
なお、テンション装置40は、供給される3本のロービングRのそれぞれに対応する押さえローラー43が
図1の紙面鉛直方向に3つ並列に配置されており、以下では便宜的に手前から順に前、中、奥のポジションに配置されたローラーを、前ローラー、中ローラー、奥ローラーと呼ぶ。
また、以下の各テストに関するガムアップ性は、新品の押さえローラー(
図2(a)参照)をテンション装置40にセットしてからテンション装置40の稼働を開始し、各時間経過後に観察を行ったものである。各ポジション毎の押さえローラーの外周面の温度及びガムアップ性の評価結果を表1に示す。
なお、押さえローラーの外周面の平均温度は、非接触温度計であるレーザー温度計を用いて測定した。当該レーザー温度計により回転している押さえローラーを測定するため、レーザー温度計にて取得される温度が押さえローラーの外周面の平均温度となる。
【0037】
(判定基準:ガムアップ性)
○ :付着固形物ほとんど無し
△ :付着固形物少しあり
× :付着固形物非常に多い
【0038】
【0039】
先ず、冷却手段44を備えない従来のテンション装置(冷却手段44を備えていない以外はテンション装置40と同様の構成)について、押さえローラーの使用時間65.6時間後におけるガムアップ性の評価を行った。
前ローラーと奥ローラーの間に配置された中ローラーは雰囲気温度が高くなるため、前ローラーと奥ローラーよりも平均温度が高くなっていた。前ローラー、中ローラー、奥ローラーの温度は、それぞれ49.5℃、53.6℃、47.2℃であった。前、中、奥の各ポジションの各ローラーでは、ガムアップが非常に多く、それぞれのガムアップ性は同程度であった。
【0040】
次に、本実施形態に係るテンション装置40において、前、中、奥の各ポジションの押さえローラーのうち前ローラーのみ冷却手段44を設ける構成(実施例)とし、中ローラー及び奥ローラーには冷却手段44を設けない構成(比較例)として、冷却手段44の有無によってガムアップ性に違いが出るかどうかの比較実験を3回行った。
【0041】
(テスト1)
押さえローラーの使用時間44.1時間後におけるガムアップ性の評価を行った。前ローラーの外周面の平均温度は43.3℃であり、中ローラー、奥ローラーよりも若干低くなっていた。前ローラーは、中ローラー、奥ローラーより付着固形物が少なく、かつガムアップの側端部のギザギザが少なく、表面の凹凸も少なかった。
【0042】
(テスト2)
押さえローラーの使用時間50.8時間後におけるガムアップ性の評価を行った。前ローラーの外周面の平均温度は40℃であり、中ローラーよりも11度程度低くなっていた。前ローラーは、中ローラー、奥ローラーより付着固形物が少なく、表面の凹凸も少なかった。中ローラーの付着固形物は非常に多く、かつガムアップの側端部のギザギザ及び表面の凹凸も非常に大きかった。奥ローラーも付着固形物が多く、表面の凹凸が大きかった。
【0043】
(テスト3)
押さえローラーの使用時間51.2時間後におけるガムアップ性の評価を行った。前ローラーの外周面の平均温度は37.6℃であり、中ローラーよりも13℃程度低くなっていた。前ローラーは、中ローラー、奥ローラーより付着固形物が少なく、表面の凹凸も少なかった。中ローラー、奥ローラーの付着固形物は非常に多く、汚れも発生していた。本テストの前ローラーは、使用時間が最も長いローラーにもかかわらず、外部影響により雰囲気温度がテスト1、テスト2の時よりも低く、テスト1、テスト2における各前ローラーと比較してガムアップが少なく、比較的きれいな外周面を保っていた。
【0044】
[実験結果まとめ]
表1に示すように、3回のテストの評価結果から冷却手段44により冷却エアが供給された前ローラーの外周面の平均温度が低い。また、各テストにおいて、冷却手段44を有する前ローラーは、冷却手段44を有しない中ローラー及び奥ローラーに比べてガムアップが軽度であることが確認できた。また、ローラーの外周面の平均温度が3回のテストのなかで最も低いテスト3の前ローラーが3回のテストのうちガムアップが最も軽度であった。これらの結果により、ローラーの外周面の平均温度とガムアップ性には相関があり、押さえローラーの外周面を冷却手段44により冷却することでガムアップの発生を軽減する効果があることが確認できた。
【0045】
以上のことから、本発明の一実施形態に係るテンション装置40によれば、押さえローラー43の外周面を冷却する冷却手段44を設けたことにより押さえローラー43の外周面の温度上昇を抑制しガムアップの発生を抑えることができる。これにより、ガムアップによる走行状態(搬送状態)のロービングRの糸切れの発生を抑えて、押さえローラー43の寿命を延ばすとともに装置の稼働率を向上させることができる。
ひいては、押さえローラー43の寿命向上及び装置の稼働率向上により、製品のコストダウンを図ることができる。
【0046】
また、冷却手段44は、押さえローラー43の外周面に向かって冷却エアを噴出するものが好ましい。
これにより、押さえローラー43の外周面を効率的に冷却することができる。
【0047】
また、冷却手段44は、例えば、ジェットクーラーのように、押さえローラー43の下方から押さえローラー43の外周面に向かって冷却エアを局所的に噴出するものが好ましい。
これにより、押さえローラー43が発熱している場合であっても、冷却エアを周囲に飛散させずにピンポイントで冷却可能であり、より効率的に押さえローラー43の外周面を冷却することができる。
また、冷却手段44は、押さえローラー43の温度を43.5℃以下まで下げることが可能な冷却エアを噴出するものが好ましい。具体的には、40℃以下の冷却エアを噴出するものが好ましい。なお、冷却エアの下限温度は特に限定されないが、冷却コスト等から5℃以上であることが好ましい。
【0048】
また、押さえローラー43の外周面を冷却する冷却手段については、本実施形態に限定するものではない。例えば、押さえローラー43の外周面を水冷方式で冷却する冷却手段を設ける構成であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 ロービングパッケージ製造装置
40 テンション装置
41 パウダーブレーキローラー(調整ローラー)
43 押さえローラー
44 冷却手段
R ロービング
S ストランド