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特許7543841接着性樹脂組成物、該組成物を用いたシート、蓋材、部材セット、及び容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】接着性樹脂組成物、該組成物を用いたシート、蓋材、部材セット、及び容器
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/08 20060101AFI20240827BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20240827BHJP
   C09J 191/06 20060101ALI20240827BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20240827BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240827BHJP
   B65D 77/20 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C09J123/08
C09J11/08
C09J191/06
C09J7/35
C09J11/06
B32B27/18 Z
B32B27/32 Z
B65D77/20 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020178734
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069844
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】赤木 太亮
(72)【発明者】
【氏名】原 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山田 智紀
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044058(JP,A)
【文献】特開2020-015855(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0202847(US,A1)
【文献】国際公開第2018/221331(WO,A1)
【文献】特開2007-169531(JP,A)
【文献】特表2005-501938(JP,A)
【文献】特開2000-302922(JP,A)
【文献】特開2020-94144(JP,A)
【文献】特開2007-314716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
B65D67/00~ 85/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-αオレフィン共重合体(A)30~80質量%、粘着付与樹脂(C)15~35質量%、滴点が70~130℃であり酸価が30~160mgKOH/gである酸変性ワックス(D)1~15質量%、及び界面活性剤(E)0.3~1.5質量%を含有し、
前記界面活性剤(E)が、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物を含む、接着性樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸変性ワックス(D)の酸価が、40~160mgKOH/gである、請求項1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン-αオレフィン共重合体(A)のビカット軟化点が、50~100℃である、請求項1または2に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項4】
前記粘着付与樹脂(C)が、未水添若しくは部分水添された炭化水素樹脂、又は、未水添若しくは部分水添されたポリテルペンである、請求項1~いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項5】
JIS.K7210に準拠して測定した190℃、21.168Nにおけるメルトマスフローレートが、1~25g/10分である、請求項1~いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項6】
基材上に、請求項1~いずれか1項に記載の接着性樹脂組成物の塗膜を備えるシート。
【請求項7】
請求項に記載のシートにより形成された蓋材。
【請求項8】
容器本体と、請求項に記載の蓋材とからなる、開封可能な容器用部材セット。
【請求項9】
容器本体の開口部が、請求項に記載の蓋材により密封された、開封可能な容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理された容器に対し、防曇性と易開封性とに優れる接着性樹脂組成物、該組成物を用いたシート、蓋材、部材セット及び容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品包装の分野においては、従来、カップラーメン、ヨーグルト、ゼリー等の内容物は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の容器に充填し、容器の開口部に、シール性に優れた接着層を有する蓋材を接着するという包装形態が利用されていた。
しかし近年では、強度、透明性、耐熱性等に優れているという理由から、ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)樹脂からなる容器の利用が増大しており、用途の多様化により様々な機能が要求されている。
例えば、野菜スティックや氷等の水分を含む内容物をPET樹脂からなる容器に入れた場合、透明で親水性の高いPET容器は曇ることがなく内容物がクリアに見えるが、蓋剤は水滴が付着し内容物が見えなくなることから、蓋剤の最内層にあたる接着層には防曇性が求められている。
上記課題に対し、例えば特許文献1には、ポリエチレン系樹脂、粘着付与剤、非イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤と有機スルホン酸塩との混合物を含む界面活性剤の組み合わせにより、PET容器に対し易開封性と防曇性を両立したシール層を有するフィルムが記載されている。
【0003】
一方、環境保全の観点からリサイクルPETが普及し始めている。しかしながら、リサイクルPETは、リサイクル工程での加熱溶融や化学的処理により分子量(粘度)が低下するため、リサイクルPETシートには成形性を維持するためにシリコンが塗布されており、リサイクルPETシートから成形されたPET容器に付着したシリコンが、容器と蓋材との接着強度を低下させるという課題があり、特許文献1は当該課題を解決することができない。
【0004】
【文献】特開2020-40398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、防曇性を有し、さらに、リサイクルPET容器に対して適切な接着強度を有し易開封性に優れる、インフレ加工や押出しラミネーター塗工が可能な接着性樹脂組成物、及び、該組成物を用いてなる、防曇性を有し且つリサイクルPET容器に対して適切な接着強度を有し易開封性に優れるシート、蓋材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、エチレン-αオレフィン共重合体(A)30~80質量%、粘着付与樹脂(C)15~35質量%、滴点が70~130℃であり酸価が30~160mgKOH/gである酸変性ワックス(D)1~15%質量%、及び界面活性剤(E)0.3~1.5質量%を含有する接着性樹脂組成物に関する。
【0007】
本発明は、前記界面活性剤(E)が、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物を含む、上記接着性樹脂組成物に関する。
【0008】
本発明は、前記酸変性ワックス(D)の酸価が、40~160mgKOH/gである、上記接着性樹脂組成物に関する。
【0009】
本発明は、前記エチレン-αオレフィン共重合体(A)のビカット軟化点が、50~100℃である、上記接着性樹脂組成物に関する。
【0010】
本発明は、前記粘着付与樹脂(C)が、未水添若しくは部分水添された炭化水素樹脂、又は、未水添若しくは部分水添されたポリテルペンである、上記接着性樹脂組成物に関する。
【0011】
本発明は、メルトマスフローレートが、1~25g/10分である、上記接着性樹脂組成物に関する。
【0012】
本発明は、基材上に、上記接着性樹脂組成物の塗膜を備えるシートに関する。
【0013】
本発明は、上記シートにより形成された蓋材に関する。
【0014】
本発明は、容器本体と、上記蓋材とからなる、開封可能な容器用部材セットに関する。
【0015】
本発明は、容器本体の開口部が、上記蓋材により密封された、開封可能な容器に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、防曇性を有し、さらに、リサイクルPET容器に対して適切な接着強度を有し易開封性に優れる、インフレ加工や押出しラミネーター塗工が可能な接着性樹脂組成物、及び、該組成物を用いてなる、防曇性を有し且つリサイクルPET容器に対して適切な接着強度を有し易開封性に優れるシート、蓋材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の接着性樹脂組成物は、エチレン-αオレフィン共重合体(A)30~80質量%、粘着付与樹脂(C)15~35質量%、滴点が70~130℃であり酸価が30~160mgKOH/gである酸変性ワックス(D)1~15%質量%、及び界面活性剤(E)0.3~1.5質量%を含有することを特徴とする。
上記のような所定範囲の滴点及び酸価を有する酸変性ワックス(D)を、所定範囲量含むことで、当該酸変性ワックス(D)は、ヒートシール時に溶融して容器表面のシリコンに浸透していき、PET容器に達することができるため、接着阻害を緩和することができる。これにより、防曇性と接着強度との両立を達成できる。
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0018】
<エチレン-αオレフィン共重合体(A)>
本発明に用いられるエチレン-αオレフィン共重合体(A)は、特に制限されず公知のものから適宜選択できる。エチレンと共重合可能なαオレフィンとしては、炭素数が3~20であるものが好ましく、例えば、1-プロペン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンが挙げられる。これらαオレフィンの中でも、好ましくは1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンであり、PETへの接着性の観点から、より好ましくは1-オクテンである。
このようなエチレン-αオレフィン共重合体(A)を用いることで、ポリエステル系樹脂容器に対して接着性に優れるものとなる。エチレン-αオレフィン共重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
エチレン-αオレフィン共重合体(A)の含有量は、接着性樹脂組成物を基準として、30~80質量%であることが重要である。エチレン-αオレフィン共重合体(A)の含有量が30~80質量%の範囲内であることで、ポリエステル系樹脂容器に十分に接着することができる。エチレン-αオレフィン共重合体(A)の含有量は、ポリエステル系樹脂容器への密着性の観点から、より好ましくは35~80質量%であり、さらに好ましくは40~80質量%である。
【0020】
上記エチレン-αオレフィン共重合体(A)は、好ましくは、密度が0.87~0.91g/cm、メルトマスフローレート(以下、MFR)が0.1~30g/10分の範囲である。このようなエチレン-αオレフィン共重合体を用いることで、ポリエステル系樹脂容器に対して、より接着性に優れるものとなる。
なお、本明細書における密度とは、JIS.K7112にピクノメーター法に準拠して測定した値である。また、本明細書におけるメルトマスフローレートとは、JIS.K7210に準拠して測定した190℃、21.168Nにおける値である。
【0021】
また、エチレン-αオレフィン共重合体(A)は、示差走査型熱量分析において、吸熱ピークを2つ有するものが好ましく、該吸熱ピークより求められる融点(以下、DSC融点)は、高温域は105~115℃の範囲、低温域は85~95℃の範囲、であることが好ましい。上記の範囲内であると、ポリエステル系樹脂容器への密着性をより向上できる。
なお、本明細書におけるDSC融点とは、試料を170℃に10分間保持後、20℃/分の速さで測定を開始し0℃まで冷却する間に生じた吸熱ピークのトップの値である。
【0022】
また、エチレン-αオレフィン共重合体(A)の、ビカット軟化点は、加工性の観点から、好ましくは40~100℃であり、より好ましくは50~100℃である。
本明細書におけるビカット軟化点は、JIS.K7206:2016に準拠して測定した値である。
【0023】
<粘着付与樹脂(C)>
本発明における粘着付与樹脂(C)は特に制限されず、シーラント樹脂分野において公知の粘着付与樹脂から適宜選択することができる。
このような粘着付与樹脂としては、例えば、炭化水素樹脂、ポリテルペン樹脂、又はロジン類が挙げられる。
炭化水素樹脂としては、例えば、脂肪族炭化水素樹脂、脂環族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂を使用することができ、ポリテルペン樹脂としては、α-ピネン、β-ピネンなどの単独重合又は共重合体、及びそれらを水添した水添テルペン樹脂を使用することができる。
中でも、粘着付与樹脂(C)として好ましくは、炭化水素樹脂又はポリテルペンであり、より好ましくは、未水添若しくは部分水添された炭化水素樹脂、又は、未水添若しくは部分水添されたポリテルペンである。炭化水素樹脂は、脂環族炭化水素樹脂、及び芳香族炭化水素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、当該脂環族炭化水素樹脂、及び芳香族炭化水素樹脂は、未水添又は部分水添された樹脂であることが好ましい。
これらの粘着付与樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
粘着付与樹脂(C)の含有量は、接着性樹脂組成物を基準として、15~35質量%であることが重要である。粘着付与樹脂(C)の含有量が15~35質量%の範囲内であることで、塗工適性と接着強度とのバランスに優れ、両立可能なものとなる。
粘着付与樹脂(C)の含有量は、加工性の観点から、好ましくは15~30質量%であり、より好ましくは20~30質量%である。
【0025】
粘着付与樹脂(C)のビカット軟化点は、ヒートシール時の接着性、即ち易開封性の観点から、好ましくは140℃以下であり、より好ましくは80~130℃である。なお、本明細書におけるビカット軟化点とは、JIS.K 6863に準拠して求めることができる。
【0026】
<酸変性ワックス(D)>
本発明に用いられる酸変性ワックス(D)は、滴点が70~130℃であり、酸価が30~160mgKOH/gの範囲であるものであれば特に制限されない。
このような酸変性ワックス(D)としては、例えば、ベースワックスに不飽和カルボン酸又はその無水物を重合させた酸変性物;当該酸変性物をさらに他の化合物と反応させて、アミド化、イミド化若しくはキレート化したもの;空気若しくは酸素の存在下においてベースワックスを酸化させて分子内にカルボキシ基を導入したもの;が挙げられ、具体的には、ポリエチレンワックス、ポリプロピレン、ポリブテン、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス等の酸化物やマレイン酸変性物;エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体等のエチレン-不飽和モノカルボン酸共重合体及びその金属塩等が挙げられる。
中でも、シリコンを含むリサイクルPET容器への接着強度に優れる観点から、酸変性ワックス(D)として好ましくは、エチレン-アクリル酸共重合物である。
これらの酸変性ワックスは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
酸変性ワックス(D)の滴点は、70~130℃であることが重要であり、このような範囲内であると、常温では接着性樹脂組成物の表面のべたつきを抑制でき、ヒートシール時は液体化してシリコンに浸透しやすくなり、接着阻害を緩和することができる。酸変性ワックス(D)の滴点は、好ましくは80~130℃であり、より好ましくは90~120℃の範囲である。
なお、融点とはJIS K2220:2013に準じた測定方法により測定された温度である。
【0028】
酸変性ワックス(D)の酸価は、30~160mgKOH/gであることが重要であり、このような範囲内であると、シリコンとの親和性が向上し接着阻害を緩和することができる。酸変性ワックス(D)の酸価は、防曇性の観点から、好ましくは40~160mgKOH/gであり、より好ましくは50~120mgKOH/gである。
なお、本明細書における酸価とは、JIS K0070-1992に準じた測定方法により測定された値である。
【0029】
酸変性ワックス(D)の含有量は、接着性樹脂組成物を基準として、1~15質量%であることが重要であり、酸変性ワックス(D)の含有量が1~15質量%の範囲内であることで、塗工適性とシリコンの接着阻害の緩和とを両立でき、塗工適性と接着強度とを両立可能なものとなる。
酸変性ワックス(D)の含有量は、接着強度の観点から、好ましくは2~13質量%であり、より好ましくは3~10質量%である。
【0030】
<界面活性剤(E)>
本発明に用いられる界面活性剤(E)は、特に制限されず、シーラント樹脂分野において公知の界面活性剤から適宜選択することができ、好ましくは、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物を含むものであり、より好ましくは、3価又は4価の脂肪族アルコールと炭素数12~20の脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物を含むものである。
上記3価又は4価の脂肪族アルコールとしては、例えば、グリセリン等の3価の脂肪族アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン等の4価の脂肪族アルコール;が挙げられる。
上記炭素数12~20の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸モノカルボン酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸等の不飽和脂肪酸モノカルボン酸;が挙げられる。
中でも、界面活性剤(E)として好ましくは、グリセリン若しくはジグリセリンと、炭素数12~20の脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物を含むものであり、さらに好ましくは、グリセリン若しくはジグリセリンと、ステアリン酸とのエステル化合物を含むものである。
【0031】
界面活性剤(E)の含有量は、接着性樹脂組成物を基準として、0.3~1.5質量%であることが重要であり、界面活性剤(E)の含有量が0.3~1.5質量%の範囲内であることで、接着強度と防曇性とを両立できる。
界面活性剤(E)の含有量は、接着強度と防曇性の観点から、好ましくは0.5~1.3質量%であり、より好ましくは0.8~1.2質量%である。
【0032】
<ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)>
本発明の接着性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を含有することができる。ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を用いることで、接着性樹脂組成物のメルトマスフローレートを容易に調整できる。
ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)の含有量は、接着性樹脂組成物を基準として、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0033】
本発明の接着性樹脂組成物が、ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)を含む場合、ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のメルトマスフローレートは、塗工適性の観点から、好ましくは0.1~30g/10分である。
【0034】
本発明の接着性樹脂組成物が、エチレン-酢酸ビニル共重合体を含む場合、酢酸ビニル含有率は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは1~15質量%であり、さらに好ましくは1~10質量%の範囲である。上記範囲内であると、エチレン-αオレフィン共重合体(A)との相溶性に優れ、塗工適性の点で好ましい。
【0035】
ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のビカット軟化点は、好ましくは50~100℃、より好ましくは60~90℃の範囲である。上記範囲内であると、加工性及び接着強度の両立に優れるため好ましい。また、ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体(B)のDSC融点は、好ましくは80~120℃である。
【0036】
<接着性樹脂組成物>
本発明の接着性樹脂組成物は、上記(A)~(E)を公知の方法で混合し、製造することができる。このような製造方法としては、例えば、各成分をヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等の混合装置に投入し、ブレンド時間5~20分間で混合した後、押出機に入れ、加熱混練した後、押し出す方法が挙げられる。
押出工程は、通常150~200℃、好ましくは140~180℃で行われる。押出物は通常ペレット形状とされ、後の工程で利用される。押出機としては、二軸押出機が好適に用いられるが、これに限られるものではない。
【0037】
発明の接着性樹脂組成物における、上記(A)~(E)の合計量は、接着性樹脂組成物を基準として、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上であり、さらに好ましくは94質量%以上である。
【0038】
接着性樹脂組成物のメルトマスフローレートは、塗工適性の観点から、好ましくは0.1~50g/10分であり、より好ましくは1~30g/10分であり、さらに好ましくは1~25g/10分である。
【0039】
本発明の接着性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記(A)~(E)以外の樹脂を含有してもよい。また本発明の接着性樹脂組成物は、熱劣化、熱分解、ブロッキング等を防止し、フィルム加工、押出ラミネート加工等の加工適性を確保するために、添加剤等を含有してもよい。
上記添加剤としては、例えば、エルカ酸アミド等の有機滑剤、炭酸カルシウム等の無機滑剤、ヒンダードフェノール等の酸化防止剤、その他ブロッキング防止剤、帯電防止剤、充填剤、顔料等が挙げられる。これら添加剤は、上記(A)~(E)の配合時に配合してもよいし、予め上記(A)~(E)のいずれかに配合してもよい。
【0040】
<シート>
次に、基材上に、本発明の接着性樹脂組成物の塗膜(以下、接着剤層ともいう)を備えるシートについて説明する。
接着性樹脂組成物の基材への配置方法としては、特に制限されず、例えば、前述のようにペレット化された接着性樹脂組成物をインフレーション法又はキャスト法などによりフィルム化し、得られたフィルムと基材とを積層する方法、又は、混練された接着性樹脂組成物を直接基材塗工する方法が挙げられる。フィルムと基材とは、別の接着剤層を介して積層されていてもよい。
【0041】
基材としては、長尺及びカットされた短尺のフィルム、シートを包含し、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム等の延伸又は未延伸フィルムといった単層フィルムのほか、樹脂ラミネートされたような複数の層を有する積層物であってもよい。例えば、ポリエチレン系樹脂を予めラミネートされている基材を用いる場合、接着性樹脂組成物をダイレクトに押出しラミネートしてシートを製造することができる。また、接着性樹脂組成物を、ポリエチレンやポリプロピレン等との共押出しで多層フィルムとし、ドライラミネーション又はサンドラミネーションにより、基材フィルムと積層することでシートを得ることができる。
基材表面は、基材と接着性樹脂組成物の塗膜との接着性を向上させるために、火炎処理、オゾン処理、コロナ放電処理又はアンカーコート剤のような処理が行われていてもよい。
本発明の接着性樹脂組成物の塗膜の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上である。
【0042】
本発明のシートは、後述の蓋材として用いることができるだけでなく、シーラントフィルムとして接着性樹脂組成物の塗膜を内面としてシールする製袋品にも好適に使用できる。
【0043】
<蓋材>
本発明の接着性樹脂組成物の塗膜が配置された本発明のシートは、密封対象である容器本体の開口形状に合わせて裁断され、蓋材として好適に用いられる。本発明の蓋材は、各種容器に使用することができるが、特に密封面がポリエチレンテレフタレート樹脂である容器本体に使用した場合に、優れた接着強度(易開封性)、スリップスティック、及び耐容器付着性を発揮する。
【0044】
本発明のシートを蓋材として用いる場合、基材としては種々の基材を用いることができる。使用される基材としては、例えば、紙、アルミニウム、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アルミ蒸着ポリエステル、アルミ蒸着ポリプロピレン、又はシリカ蒸着ポリエステル挙げられる。このような基材は、単層である必要はなく、二層以上の積層体であってもよい。
また、本発明のシートにより蓋材を形成する場合、好ましい基材としては、例えば、厚み5~20μmのポリエチレンテレフタレートと、厚み5~30μmのポリエチレンとの積層フィルムが挙げられる。
また、蓋材としては、前記積層フィルムのポリエチレン面に、本発明の接着性樹脂組成物から形成される厚み5~40μmの塗膜を備えるものが好ましい。
【0045】
<容器用部材セット、容器>
容器本体と上記蓋材とを組み合わせたものが容器用部材セットであり、容器本体の開口部が、上記蓋材により密封されたものが容器であり、本発明における容器は開封可能なものである。
上記容器は、特に制限されないが、好ましくはプラスチック樹脂製の容器、若しくは内面がプラスチック樹脂で覆われた容器である。中でも、本発明の接着性樹脂組成物は、ポリエステル容器に対する接着強度(易開封性)に優れるため、ポリエステル樹脂製の容器本体、又は、内面がポリエステル樹脂で覆われた容器本体に対して、好適に用いられる。
すなわち、本発明の開封可能な容器として好ましくは、ポリエステル樹脂製の容器本体、又は、内面がポリエステル樹脂で覆われた容器本体の開口部が、上記蓋材により密封されたものである。
【0046】
本発明の開封可能な密封容器は、蓋材の一方の面に配設された本発明の接着性樹脂組成物からなる接着剤層と、密封容器の開口部の接着面(以下、フランジともいう)とを接触させ、加熱することによって、両者を接着する。容器本体として、ポリエステル樹脂製の容器本体、又は、内面がポリエステル樹脂で覆われた容器本体を用いる場合、容器本体と前記蓋材とを接着温度は、好ましくは120~180℃である。また、本発明の容器は、常温での開封強度が5~15Nの範囲であることが好ましく、剥離時に熱接着層が界面剥離することが好ましい。
このように、本発明の開封可能な容器は、防曇性を有し、さらに、透明性等の各種性能に優れるPET容器に対して適切な接着強度を有するため、乾燥菓子やカップ麺等だけでなく、ゼリー、プリン、ヨーグルトや冷菓といった水分を含む内容物の包装に適している。
【実施例
【0047】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中、「部」及び「%」は、各々「質量部」及び「質量%」を表す。
【0048】
[メルトマスフローレート(MFR)]
MFRは、JIS.K7210に準拠し、メルトインデクサーL244(宝工業株式会社製)の内径9.55mm、長さ162mmのシリンダにサンプルを充填し、190℃で溶融した後、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけ、シリンダの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間あたりに押出される樹脂量(g/10分)から求めた。
【0049】
<接着性樹脂組成物の製造方法>
[実施例1~18及び比較例1~9]
(接着性樹脂組成物(S-1)~(S-27)の製造)
表1及び表2に記載の原料及び配合比率(質量%)を、ヘンシェルミキサーで5分間プリブレンドした。ホッパーにプリブレンド物を投入し、スクリューフィーダーを用いて下記押出機に供給し、接着性樹脂組成物(S-1)~(S-27)を製造した。
【0050】
≪押出機条件≫
押出機:アイ・ケー・ジー社製同方向回転二軸押出機PMT32-40.5
バレル温度:180℃(供給口160℃)
スクリュー回転速度:200rmp
供給速度:10kg/hr
【0051】
<接着性樹脂組成物の評価>
得られた接着性樹脂組成物を用いて、下記インフレ加工法及び押出ラミネート法を用いてシート(蓋材)を作製し、加工性を評価した。また、得られたシートについて、防曇性、及び接着強度(易開封性)を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0052】
[蓋材の作製方法(インフレ加工法)]
まず、得られた接着性樹脂組成物を用いて、インフレ加工法により、PE25μm/接着性樹脂の塗膜20μmの構成であるフィルムを作製した。次いで、得られたフィルムのPE面と、厚み12μmのPETフィルムとを、東洋モートン社製ドライラミネート用接着剤「主剤:TM-320/硬化剤:CAT-13B」を用いて、乾燥後塗布量2g/mとなるようにドライラミネートして、PET/ドライラミ接着剤層/PE/接着剤層の構成であるフィルムを作製した。インフレ加工条件は以下に示す通りである。
≪インフレ加工条件≫
インフレ加工機:東洋精機製作所製
インフレ加工樹脂温度:120℃~180℃(接着性樹脂組成物のMFR等により適宜調整した)
【0053】
[蓋材の作製方法(押出ラミネート法)]
得られた接着性樹脂組成物を用いて、押出ラミネート法により、PET12μm/ポリエチレン(PE)25μm基材のPE面に塗膜20μmになるように、PET/PE/接着剤層の構成であるフィルムを作製した。
押出ラミネート加工条件は以下に示す通りである。
≪押出ラミネート加工条件≫
押出しラミネーター:ムサシノキカイ製400M/MテストEXT
ラミネーターダイ直下樹脂温度:200℃~300℃(接着性樹脂組成物のMFR等により適宜調整した)
加工速度:30m/分
Tダイ幅:400mm
冷却ロール表面温度:20℃
【0054】
[加工性(インフレ加工法)]
インフレ加工法でシートを作製した際の様子から、以下の基準で加工性を評価した。
○:接着性樹脂組成物がブロッキングせず、容易に口開きできる(良好)
△:接着性樹脂組成物がややブロッキングするが、口開きできる(使用可能)
×:接着性樹脂組成物がブロッキングして、口開きできない(不良)
【0055】
[加工性(押出ラミネート法)]
押出ラミネート法でシートを作製した際の様子から、以下の基準で加工性を評価した。
○:接着性樹脂組成物がロールから容易に剥がれる(良好)
△:接着性樹脂組成物がロールから剥がれるが、やや抵抗がある又は剥がす際のリリース音が大きい(使用可能)
×:接着性樹脂組成物がロールに巻き付く又はセパレーターが必要(不良)
【0056】
[防曇性]
インフレ加工法、及び押出ラミネート法により得られた各シート(蓋材)を90mm×90mmのサイズに断裁した後、ゲージ圧0.3MPa、150℃、1秒間の条件で、80℃の熱湯100ccを充填した再生率70~80%のリサイクルPET容器(71mmΦ)に、接着性樹脂組成物の塗工面を熱接着し、密封を行った。得られた容器を、常温で1時間静置後、蓋材の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:蓋材に水滴付着が見られなかった(良好)
△:蓋材にわずかに水滴付着が見られた(使用可能)
×:蓋材に水滴付着が見られた(不良)
【0057】
[接着強度(易開封性)]
インフレ加工法、及び押出ラミネート法により得られた各シート(蓋材)を90mm×90mmのサイズに断裁した後、ゲージ圧0.3MPa、150℃、1秒間の条件で、再生率70~80%のリサイクルPET容器(71mmΦ)に、接着性樹脂組成物の塗工面を熱接着し、密封を行なった。得られた容器を、温度23℃湿度65%の恒温恒湿室に24時間放置し、同恒温恒湿室にて、45°角剥離、引張速度200mm/分の条件で剥離強度の測定を行った。剥離強度の最大値を開封強度とし、下記基準で評価した。
○:剥離強度の最大値が、7N以上(良好)
△:剥離強度の最大値が、5N以上7N未満(使用可能)
×:剥離強度の最大値が、5N未満(不良)
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1及び表2の略称を以下に示す。
<エチレン-αオレフィン共重合体>
A1:エクセレンVL102(住友化学社製、エチレン-αオレフィン共重合体、ビカット軟化点83℃、DSC融点88℃/106℃、MFR0.8g/10分、密度0.908g/cm
A2:ルミタック12-1(東ソー社製、エチレン-αオレフィン共重合体、ビカット軟化点67℃、DSC融点88℃/109℃、MFR0.8g/10分、密度0.9g/cm
A3:エクセレンVL200(住友化学社製、エチレン-αオレフィン共重合体、ビカット軟化67℃、DSC融点87℃/107℃、MFR2g/10分、密度0.9g/cm
A4:ルミタック22-7(東ソー社製、エチレン-αオレフィン共重合体、ビカット軟化点68℃、DSC融点91℃/111℃、MFR2g/10分、密度0.9g/cm
A5:ルミタック43-1(東ソー社製、エチレン-αオレフィン共重合体、ビカット軟化点71℃、DSC融点91℃/110℃、MFR8g/10分、密度0.905g/cm
A6:エクセレンFX402(住友化学社製、エチレン-αオレフィン共重合体、ビカット軟化47℃、DSC融点56℃/73℃、MFR8g/10分、密度0.9g/cm
【0061】
<ポリエチレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体>
B1:ペトロセン212(東ソー社製、低密度ポリエチレン、ビカット軟化点85℃、DSC融点106℃、MFR13g/10分、密度919kg/m
B2:ウルトラセン540(東ソー社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ビカット軟化点72℃、DSC融点95℃、MFR2g/10分、密度929kg/m
B3:EVA2240(HanwhaJapan社製、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ビカット軟化点75℃、DSC融点96℃、MFR1.6g/10分、密度928kg/m
【0062】
<粘着付与樹脂>
C1:アルコンM-100(荒川化学工業社製、部分水添脂環族炭化水素樹脂、ビカット軟化点115℃)
【0063】
<酸変性ワックス>
D1:A-C617(HaneyWell社製、エチレンワックス、酸価0mgKOH/g、滴点101℃)
D2:ハイワックス4052E(三井化学社製、酸化ワックス、酸価20mgKOH/g、滴点110℃)
D3:A-C575(HaneyWell社製、エチレンマレイン酸変性ワックス、酸価33mgKOH/g、滴点106℃)
D4:セラマー1608(ベーカーペトロライト社製、マレイン酸変性αオレフィンワックス、酸価160mgKOH/g、滴点78℃)
D5:A-C580(HaneyWell社製、エチレンアクリル酸共重合体ワックス、酸価75mgKOH/g、滴点95℃)
D6:A-C5120(HaneyWell社製、エチレンアクリル酸共重合体ワックス、酸価120mgKOH/g、滴点92℃)
D7:A-C597(HaneyWell社製、プロピレンアクリル酸共重合体ワックス、酸価63mgKOH/g、滴点141℃)
【0064】
<界面活性剤>
E1:リケマールS-100A(理研ビタミン社製、グリセリンとステアリン酸のエステル化合物、DSC融点65℃)
E2:リケマールS-71-D(理研ビタミン社製、ジグリセリンとステアリン酸のエステル化合物、DSC融点58℃)
E3:リケマールS-300W(理研ビタミン社製、ソルビタンとステアリン酸のエステル化合物、DSC融点61℃)
【0065】
表1及び表2に示すように、エチレン-αオレフィン共重合体(A)、粘着付与樹脂(C)滴点が70~130℃であり酸価が30~160mgKOH/gである酸変性ワックス(D)、及び界面活性剤(E)を所定の配合比で含む本発明の接着性樹脂組成物は、インフレ加工や押出しラミネーター塗工が可能であり、さらに防曇性、リサイクルPET容器に対する接着強度に優れていた。