(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散体、バインダー樹脂含有カーボンナノチューブ分散組成物、電極用合材スラリー、電極膜、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20240827BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240827BHJP
C08K 5/19 20060101ALI20240827BHJP
C08K 5/36 20060101ALI20240827BHJP
C08K 13/02 20060101ALI20240827BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240827BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240827BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C08L101/02
C08K3/04
C08K5/19
C08K5/36
C08K13/02
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2020187068
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル モニック波美
(72)【発明者】
【氏名】平林 穂波
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-522803(JP,A)
【文献】特開2015-128012(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1831562(KR,B1)
【文献】特表2013-534897(JP,A)
【文献】特開2013-256430(JP,A)
【文献】特開2015-188774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/02
C08K 3/04
C08K 5/05
C08K 5/3415
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)と、有機水酸化物(B)と、カーボンナノチューブ(C)と、N‐メチル‐2‐ピロリドンを含み、
前記カーボンナノチューブ(C)の含有量は、カーボンナノチューブ分散体の質量を100質量%として0.05~10質量%であり、
前記共重合体(A)の含有量は、カーボンナノチューブ(C)の質量を100質量%として0.1~200質量%であり、
前記有機水酸化物(B)の含有量は、カーボンナノチューブ(C)の質量を100質量%として10質量%未満であり、
共重合体(A)は、脂肪族炭化水素構造単位(A1)と、ニトリル基含有構造単位(A2)とを含み、
前記構造単位(A2)の含有量は共重合体(A)の質量を基準として15~50質量%であり、重量平均分子量5,000~400,000であるカーボンナノチューブ分散体。
【請求項2】
有機水酸化物(B)が、第四級アンモニウムヒドロキシドもしくは第三級スルホニウムヒドロキシドである請求項
1記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項3】
請求項1
または2記載のカーボンナノチューブ分散体と、バインダー樹脂とを含むバインダー樹脂含有カーボンナノチューブ分散組成物。
【請求項4】
請求項1
または2記載のカーボンナノチューブ分散体、または、請求項
3記載のカーボンナノチューブ分散組成物と、活物質とを含む電極用合材スラリー。
【請求項5】
少なくとも請求項1
または2記載のカーボンナノチューブ分散体の塗工膜、請求項
3記載のバインダー樹脂含有カーボンナノチューブ分散体組成物の塗工膜、または請求項
4記載の電極用合材スラリーの塗工膜を含む電極膜。
【請求項6】
正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池であって、前記正極および前記負極からなる群から選択される少なくとも一つが、請求項
5記載の電極膜を含む非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、カーボンナノチューブ分散体、バインダー樹脂含有カーボンナノチューブ分散組成物、電極用合材スラリー、電極膜、及び、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、電気自動車及び携帯機器等のバッテリーとして広く用いられている。電気自動車及び携帯機器等の高性能化に伴い、リチウムイオン二次電池には、高容量、高出力、及び小型軽量化といった要求が年々高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質及び負極活物質に大きく依存することから、これらの電極活物質に用いるための各種材料が盛んに研究されている。しかし、実用化されている電極活物質を使用した場合の充電容量は、いずれも理論値に近いところまで到達しており、改良は限界に近い。そこで、電極膜内の電極活物質の充填量が増加すれば、単純に充電容量を増加させることができるため、充電容量には直接寄与しない導電材及びバインダー樹脂の添加量を削減することが試みられている。
【0004】
導電材は、電極膜内部で導電パスを形成したり、電極活物質の粒子間を繋いだりする役割を担っており、導電パス及び繋がりは、電極膜の膨張収縮によって切断が生じにくいことが求められる。少ない添加量で導電パス及び繋がりを維持するためには、導電材として比表面積が大きいナノカーボン、特にカーボンナノチューブ(CNT)を使用することで、効率的な導電ネットワークを形成することが有効である。しかし、比表面積が大きいナノカーボンは凝集力が強いため、ナノカーボンを電極用スラリー中及び/又は電極膜中に良好に分散させることが難しいという問題があった。
【0005】
こうした背景から、各種分散剤を用いて導電材分散体を作製し、CNT分散体を経由して電極用スラリーを製造する方法が多く提案されている(例えば、特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-162877号公報
【文献】特開2014-193986号公報
【文献】特表2018-522803号公報
【文献】特開2015-128012号公報
【文献】韓国登録特許第10-1831562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献1及び特許文献2では、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールといった重合体を分散剤として用い、導電材を予め溶媒に分散することで電池の初期特性及びサイクル寿命を向上させることが提案されている。しかし、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールは、良好な分散状態のCNT分散体を製造することができるものの、電極膜形成の過程において分散状態が不良となり、導電性が悪化することが課題であった。
【0008】
特許文献3及び特許文献4では、水素化ニトリルゴムを分散剤として用いたCNT分散体が提案されている。しかし、これらの水素化ニトリルゴムは分散性に乏しいため、良好な導電ネットワークを形成するには不十分であった。また、粘度が高いため、CNT分散体の製造に長時間を要する、又は、流動性が乏しくハンドリングが悪い導電材分散体になってしまうといった問題があり、工業的に実用化が困難であった。
【0009】
特許文献5では、水素化ニトリルゴムにアミノエタノール等を添加することで分散性を改善したCNT分散体が提案されている。このCNT分散体では、溶媒の極性を変化させることにより分散体の粘性及び分散剤の作用が改善したものと思われる。しかし、やはり良好な導電ネットワークを形成するにはまだ不十分であった。
【0010】
本発明者らは、少ない導電材の添加量で電池の出力及びサイクル寿命を向上させるために、導電材を導電材分散体中に良好に分散させ、かつ、電極膜中でも良好な導電ネットワークを維持させる方法を、鋭意検討した。その結果、前述の特許文献1及び2において提案された方法では、確かに良好な分散状態の導電材分散体を製造することができるものの、電極活物質と混合して電極用合材スラリーを調製する段階で分散不良が起きていることが判明した。これによって電極膜中で良好な導電ネットワークを形成できなくなり、電池の特性が不良となるものと思われる。電極膜中で良好な導電ネットワークを形成させ、CNTの添加量が少なくても電池の出力及びサイクル寿命を向上させるためには、CNTをCNT分散体中に分散させる段階での良好な分散性と、電極用合材スラリーを調製する段階での安定性とを両立させることが求められる。
【0011】
そこで、本発明の実施形態は、良好な分散性と安定性とを両立できるCNT分散体及びバインダー樹脂含有CNT分散組成物を提供することを課題とする。また、本発明の実施形態は、良好な分散性を有する電極用合材スラリーを提供することを課題とする。さらに、本発明の実施形態は、非水電解質二次電池の出力及びサイクル寿命を向上できる電極膜、及び、高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討したところ、特定の構造を有する共重合体と、有機水酸化物と、カーボンナノチューブと、N-メチル-2-ピロリドンとを含有することで、CNTを良好に分散させ、かつ、電極用合材スラリーを調整する際及び電極膜を製造する際にもその良好な分散状態を維持して、電極中で良好な導電ネットワークを形成することが可能になった。これにより、CNTの添加量が少なくても電池のレート特性、サイクル特性を向上させることが可能となった。
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。
〔1〕共重合体(A)と、有機水酸化物(B)と、カーボンナノチューブと、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を含み、共重合体(A)は、脂肪族炭化水素構造単位(A1)と、ニトリル基含有構造単位(A2)とを含み、前記構造単位(A2)の含有量は共重合体(A)の質量を基準として15~50質量%であり、重量平均分子量5,000~400,000である。
〔2〕前記有機水酸化物(B)の含有量は、カーボンナノチューブの質量を100質量部として10質量部未満である請求項1記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔3〕有機水酸化物(B)が、第四級アンモニウムヒドロキシドもしくは第三級スルホニウムヒドロキシドである〔1〕記載のカーボンナノチューブ分散体。
〔4〕複素弾性率が20Pa未満であり、かつ位相角が19°以上である、〔1〕または〔2〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散体。
【0013】
〔5〕上記〔1〕~〔4〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散体と、バインダー樹脂とを含むバインダー樹脂含有カーボンナノチューブ分散組成物。
【0014】
〔6〕上記〔1〕~〔4〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散体、または、〔5〕記載のカーボンナノチューブ分散組成物と、活物質とを含有する電極用合材スラリー。
【0015】
〔7〕少なくとも上記〔1〕~〔4〕いずれか記載のカーボンナノチューブ分散体の塗工膜、少なくとも上記〔5〕記載のバインダー樹脂含有カーボンナノチューブ分散組成物の塗工膜、または上記〔6〕記載の電極用合材スラリーの塗工膜を含む電極膜。
【0016】
〔8〕正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池であって、前記正極および前記負極からなる群から選択される少なくとも一つが、〔7〕記載の電極膜を含む非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態によれば、良好な分散性と良好な安定性と良好なハンドリング性、全てを共立できるカーボンナノチューブ分散体およびバインダー樹脂を含有するカーボンナノチューブ分散組成物を提供することが可能である。また、本発明の実施形態によれば、良好な分散性を有する電極用合材スラリーを提供することが可能である。さらに、本発明の実施形態によれば、非水電解質二次電池の出力及びサイクル寿命を向上できる電極膜、及び、高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する非水電解質二次電池を提供することが可能である。
【0018】
以下、本発明の実施形態である共重合体(A)、有機水酸化物(B)、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブ分散体、バインダー樹脂含有カーボンナノチューブ分散組成物、電極用合材スラリー、電極膜、および非水二次電池等について詳しく説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。また、本明細書において、「カーボンナノチューブ」を「CNT」、「カーボンナノチューブ分散体」を「CNT分散体」、「バインダー樹脂を含有するカーボンナノチューブ分散組成物」を「バインダー樹脂含有CNT分散組成物」という場合がある。
【0019】
<共重合体(A)>
共重合体(A)は、脂肪族炭化水素構造単位(A1)と、ニトリル基含有構造単位(A2)とを含むことを特徴とする。共重合体(A)は、脂肪族炭化水素構造単位(A1)と、ニトリル基含構造有単位(A2)とを含有しているため、優れた柔軟性及び結着力による安定性を発揮することができる。従って、CNT分散体を活物質と混合して電極用スラリーを膜状に形成する電極膜中でも良好な導電ネットワークを維持させることができる。
【0020】
脂肪族炭化水素構造単位(A1)は、脂肪族炭化水素構造を含む構造単位であり、好ましくは脂肪族炭化水素構造のみからなる構造単位であり、好ましくは脂肪族炭化水素構造を含む単量体由来の構造単位である。脂肪族炭化水素構造は、飽和脂肪族炭化水素構造を少なくとも含み、不飽和脂肪族炭化水素構造を更に含んでもよい。脂肪族炭化水素構造は、直鎖状脂肪族炭化水素構造を少なくとも含むことが好ましく、分岐状脂肪族炭化水素構造を更に含んでもよい。
【0021】
脂肪族炭化水素構造単位(A1)の例として、アルキレン構造単位、アルケニレン構造単位、アルキル構造単位、アルカントリイル構造単位、アルカンテトライル構造単位等が挙げられる。脂肪族炭化水素構造単位は、少なくともアルキレン構造単位を含む。
【0022】
アルキレン構造単位は、アルキレン構造を含む構造単位であり、好ましくはアルキレン構造のみからなる構造単位である。アルキレン構造は、直鎖状アルキレン構造又は分岐状アルキレン構造であることが好ましい。
【0023】
アルキレン構造単位は、下記一般式(1A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0024】
【0025】
一般式(1A)中、nは、1以上の整数を表す。nは、2以上の整数であることが好ましく、3以上の整数であることがより好ましく、4以上の整数であることが特に好ましい。nは、6以下の整数であることが好ましく、5以下の整数であることがより好ましい。特に、nは、4であることが好ましい。
本明細書において「*」は、他の構造との結合部を表す。
【0026】
アルキレン構造単位は、下記一般式(1B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0027】
【0028】
一般式(1B)中、nは、1以上の整数を表す。nは、2以上の整数であることが好ましく、3以上の整数であることがより好ましい。nは、5以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましい。特に、nは、3であることが好ましい。
【0029】
アルキレン構造単位は、下記一般式(1C)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0030】
【0031】
一般式(1C)中、nは、1以上の整数を表す。nは、4以下の整数であることが好ましく、3以下の整数であることがより好ましく、2以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。
【0032】
共重合体Aへのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1a)又は(1b)の方法が挙げられる。
【0033】
(1a)の方法では、共役ジエン単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、共役ジエン単量体に由来する単量体単位を含む。本発明において、「共役ジエン単量体に由来する単量体単位」を「共役ジエン単量体単位」という場合があり、他の単量体に由来する単量体単位についても同様に省略する場合がある。次いで、共役ジエン単量体単位に水素添加することで、共役ジエン単量体単位の少なくとも一部をアルキレン構造単位に変換する。以下、「水素添加」を「水素化」という場合がある。最終的に得られる共重合体Aは、共役ジエン単量体単位を水素化した単位をアルキレン構造単位として含む。
【0034】
なお、共役ジエン単量体単位は、炭素-炭素二重結合を1つ持つ単量体単位を少なくとも含む。例えば、共役ジエン単量体単位である1,3-ブタジエン単量体単位は、cis-1,4構造を持つ単量体単位、trans-1,4構造を持つ単量体単位、及び1,2構造を持つ単量体単位からなる群から選択される少なくとも1種の単量体単位を含み、2種以上の単量体単位を含んでいてもよい。また、共役ジエン単量体単位は、炭素-炭素二重結合を持たない単量体単位であって、分岐点を含む単量体単位を更に含んでいてもよい。本明細書において、「分岐点」とは分岐ポリマーにおける分岐点をいい、共役ジエン単量体単位が分岐点を含む単量体単位を含む場合、上記の調製した共重合体及び共重合体Aは分岐ポリマーである。
【0035】
(1b)の方法では、α-オレフィン単量体を含む単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、α-オレフィン単量体単位を含む。最終的に得られる共重合体Aは、α-オレフィン単量体単位をアルキレン構造単位として含む。
【0036】
これらの中でも、共重合体の製造が容易であることから(1a)の方法が好ましい。共役ジエン単量体の炭素数は、4以上であり、好ましくは4以上6以下である。共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの共役ジエン化合物が挙げられる。中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。アルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(水素化共役ジエン単量体単位)を含むことが好ましく、1,3-ブタジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(水素化1,3-ブタジエン単量体単位)を含むことがより好ましい。共役ジエン単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
水素化は、共役ジエン単量体単位を選択的に水素化できる方法であることが好ましい。水素化の方法として、例えば、油層水素添加法又は水層水素添加法などの公知の方法が挙げられる。
【0038】
水素化は、通常の方法により行うことができる。水素化は、例えば、共役ジエン単量体単位を有する共重合体を、適切な溶媒に溶解させた状態において、水素化触媒の存在下で水素ガスで処理することにより行うことができる。水素化触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、銅等が挙げられる。
【0039】
(1b)の方法において、α-オレフィン単量体の炭素数は、2以上であり、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上である。α-オレフィン単量体の炭素数は、6以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。α-オレフィン単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンなどのα-オレフィン化合物が挙げられる。α-オレフィン単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
アルキレン構造単位は、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位、及び、分岐状アルキレン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、直鎖状アルキレン構造のみからなる構造単位、及び、分岐状アルキレン構造のみからなる構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、上記式(1B)で表される構造単位、及び、上記式(1C)で表される構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが更に好ましい。
【0041】
アルキレン構造単位は、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位と、分岐状アルキレン構造を含む構造単位とを含んでもよい。アルキレン構造単位が、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位と、分岐状アルキレン構造を含む構造単位とを含む場合、分岐状アルキレン構造の含有量は、アルキレン構造単位の質量を基準として(すなわち、アルキレン構造単位の質量を100質量%とした場合に)、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。特に、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。共重合体Aが、直鎖状アルキレン構造を含む構造単位と、分岐状アルキレン構造を含む構造単位とを含む場合、分岐状アルキレン構造の含有量は、アルキレン構造単位の質量を基準として(すなわち、アルキレン構造単位の質量を100質量%とした場合に)、例えば、1質量%以上であり、5質量%以上あってもよく、更に10質量%以上であってもよい。
【0042】
脂肪族炭化水素構造単位において、アルキレン構造単位の含有量は、脂肪族炭化水素構造単位の合計の質量を基準として(すなわち、脂肪族炭化水素構造単位の質量を100質量%とした場合に)、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。アルキレン構造単位の含有量は、脂肪族炭化水素構造単位の合計の質量を基準として(すなわち、脂肪族炭化水素構造単位の質量を100質量%とした場合に)、例えば、100質量%未満であり、99.5質量%以下、99質量%以下、又は98質量%以下であってもよい。アルキレン構造単位の含有量は、100質量%であってもよい。
【0043】
脂肪族炭化水素構造単位の含有量は、共重合体(A)の質量を基準として(すなわち、共重合体Aの質量を100質量%とした場合に)、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。脂肪族炭化水素構造単位の含有量は、共重合体(A)の質量を基準として(すなわち、共重合体(A)の質量を100質量%とした場合に)、85質量%未満であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。脂肪族炭化水素構造単位の含有量を上記範囲とすることで、CNTへの吸着性及び溶媒への親和性をコントロールすることができ、CNTを溶媒中に安定に存在させることができる。また、共重合体(A)の電解液への親和性もコントロールでき、電池内で共重合体(A)が電解液に溶解して電解液の抵抗を増大させるなどの不具合を防ぐことができる。
【0044】
ニトリル基含有構造単位(A2)は、ニトリル基を含む構造単位であり、好ましくはニトリル基を含む単量体由来の構造単位である。また、好ましくはニトリル基により置換されたアルキレン構造を含む構造単位を含み、より好ましくはニトリル基により置換されたアルキレン構造のみからなる構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。ニトリル基含有構造単位は、ニトリル基により置換されたアルキル構造を含む(又はのみからなる)構造単位を更に含んでもよい。ニトリル基含有構造単位に含まれるニトリル基の数は、1つであることが好ましい。
【0045】
ニトリル基含有構造単位は、下記一般式(2A)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0046】
【0047】
一般式(2A)中、nは、2以上の整数を表す。nは、6以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることが更に好ましい。特に、nは、2であることが好ましい。
【0048】
ニトリル基含有構造単位は、下記一般式(2B)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0049】
【0050】
一般式(2B)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子であることが好ましい。
【0051】
共重合体(A)へのニトリル基含有構造単位の導入方法は、特に限定されないが、ニトリル基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する方法((2a)の方法)を好ましく用いることができる。最終的に得られる共重合体(A)は、ニトリル基含有単量体単位をニトリル基含有構造単位として含む。ニトリル基含有構造単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、重合性炭素-炭素二重結合とニトリル基とを含む単量体が挙げられる。例えば、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和基含有化合物が挙げられ、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。特に、共重合体(A)同士及び/又は共重合体(A)と被分散物(被吸着物)との分子間力を高める観点から、ニトリル基含有単量体は、アクリロニトリルを含むことが好ましい。ニトリル基含有単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
ニトリル基含有構造単位の含有量は、共重合体(A)の質量を基準として(すなわち、共重合体(A)の質量を100質量%とした場合に)、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。ニトリル基含有構造単位の含有量は、共重合体(A)の質量を基準として(すなわち、共重合体(A)の質量を100質量%とした場合に)、50質量%以下であることが好ましく、46質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。ニトリル基含有構造単位の含有量を上記範囲にすることで、CNTへの吸着性及び溶媒への親和性をコントロールすることができ、CNTを溶媒中に安定に存在させることができる。また、共重合体(A)の電解液への親和性もコントロールでき、電池内で共重合体(A)が電解液に溶解して電解液の抵抗を増大させるなどの不具合を防ぐことができる。
【0053】
また、脂肪族炭化水素構造単位およびニトリル基含有構造単位の含有量の合計は、共重合体(A)の質量を基準として(すなわち、共重合体(A)の質量を100質量%とした場合に)、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0054】
さらに、共重合体(A)は、任意の構造単位を含んでもよい。任意の構造単位として、アミド基含有構造単位;カルボキシル基含有構造単位;アルケニレン構造単位;アルキル構造単位;アルカントリイル構造単位、アルカンテトライル構造単位等の分岐点を含む構造単位などが挙げられる。分岐点を含む構造単位は、分岐状アルキレン構造を含む構造単位及び分岐状アルキル構造を含む構造単位とは異なる構造単位である。
【0055】
アミド基含有構造単位は、アミド基を含む構造単位であり、好ましくはアミド基により置換されたアルキレン構造を含む構造単位を含み、より好ましくはアミド基により置換されたアルキレン構造のみからなる構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。アミド基含有構造単位は、アミド基により置換されたアルキル構造を含む(又は、のみからなる)構造単位を更に含んでもよい。アミド基含有構造単位に含まれるアミド基の数は、1つであることが好ましい。
【0056】
共重合体(A)へのアミド基含有構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば、アミド基含有単量体を含有する単量体組成物を用いて重合反応により共重合体を調製することができる。調製した共重合体は、アミド基含有単量体単位を含む。最終的に得られる共重合体(A)は、アミド基含有単量体単位をアミド基含有構造単位として含む。
【0057】
アミド基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドなどのモノアルキル(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等などのジアルキル(メタ)アクリルアミド類;N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミドなどのN-(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド;ダイアセトン(メタ)アクリルアミド;アクリロイルモルホリン等が挙げられる。本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを表す。特に、アミド基含有単量体は、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びN,N-ジメチルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。アミド基含有単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
アミド基含有構造単位の含有量は、共重合体(A)の質量を基準として(すなわち、共重合体(A)の質量を100質量%とした場合に)、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましい。アミド基含有構造単位の含有量が上記範囲以下であると、共重合体(A)同士の水素結合が強くなりすぎることによって起こり得る、導電材分散体が貯蔵中にゲル化するという問題を防ぐことができる。
【0059】
カルボキシル基含有構造単位は、カルボキシル基を含む構造単位であり、好ましくはカルボキシル基により置換されたアルキレン構造を含む構造単位を含み、より好ましくはカルボキシル基により置換されたアルキレン構造のみからなる構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。カルボキシル基含有構造単位は、カルボキシル基により置換されたアルキル構造を含む(又は、のみからなる)構造単位を更に含んでもよい。カルボキシル基含有構造単位に含まれるカルボキシル基の数は、1つ又は2つであることが好ましい。共重合体(A)にカルボキシル基含有構造単位を含ませることで、被分散物への吸着力を向上させるとともに、導電材分散体の粘性を低下させ、分散効率を向上させることができる。
【0060】
カルボキシル基含有構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば、以下の(3a)又は(3b)の方法が挙げられる。
【0061】
(3a)の方法では、カルボキシル基含有単量体を含有する組成物を用いて重合反応により共重合体を調製する。調製した共重合体は、カルボキシル基含有単量体単位を含む。最終的に得られる共重合体(A)は、カルボキシル基含有単量体単位をカルボキシル基含有構造単位として含む。
【0062】
(3b)の方法では、まずアミド基含有構造単位を含有する単量体組成物を用いることにより、アミド基含有構造単位を含む共重合体を調製する。次いで、アミド基含有構造単位に含まれるアミド基を、酸性雰囲気下で加水分解することで、アミド基含有構造単位をカルボキシル基含有構造単位に変換する。最終的に得られる共重合体(A)は、アミド基含有構造単位に含まれるアミド基を加水分解により変性した単位をカルボキシル基含有構造単位として含む。
【0063】
(3a)の方法において、カルボキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。特に、カルボキシル基含有単量体は、アクリル酸及びマレイン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むこと好ましい。カルボキシル基含有単量体は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
(3b)の方法において、酸性雰囲気下にするために、無機酸及び有機酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸を用いることができる。
【0065】
無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、コハク酸及びクエン酸が好ましい。
【0066】
酸の用量は、共重合体の質量を基準として0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましい。酸の使用量は、共重合体の質量を基準として10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。使用量が少なすぎると、加水分解によるアミド基の変性が起こりにくい傾向がある。使用量が多すぎると、分散装置及び/又は電池内部の腐食の原因となり得る。
【0067】
カルボキシル基含有構造単位の含有量は、共重合体(A)の質量を基準として(すなわち、共重合体(A)の質量を100質量%とした場合に)、1質量%未満が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。カルボキシル基含有構造単位の含有量が上記範囲未満(又は以下)であると、共重合体(A)同士の水素結合が強くなりすぎることによって起こり得る、後述する導電材分散体が貯蔵中にゲル化するという問題を防ぐことができる。
【0068】
アルケニレン構造単位は、アルケニレン構造を含む構造単位であり、好ましくはアルケニレン構造のみからなる構造単位である。アルケニレン構造は、直鎖状アルケニレン構造又は分岐状アルケニレン構造であることが好ましい。
【0069】
アルケニレン構造単位は、直鎖状アルケニレン構造を含む構造単位、及び、分岐状アルケニレン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、直鎖状アルケニレン構造のみからなる構造単位、及び、分岐状アルケニレン構造のみからなる構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0070】
例えば、上記(2a)の方法を経て共重合体(A)を得る場合、共重合体(A)には、単位内に炭素-炭素二重結合を持つ共役ジエン単量体単位が、水素添加されることなく分子内に残ることがある。最終的に得られる共重合体(A)は、単位内に炭素-炭素二重結合を持つ共役ジエン単量体単位をアルケニレン構造単位として含んでもよい。
【0071】
アルキル構造単位は、アルキル構造を含む構造単位(但し、分岐状アルキレン構造単位等の他の脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、アミド基含有構造単位、及びカルボキシル基含有構造単位には該当しない構造単位である。)であり、好ましくはアルキル構造のみからなる構造単位である。アルキル構造は、直鎖状アルキル構造又は分岐状アルキル構造であることが好ましい。
【0072】
アルキル構造単位は、直鎖状アルキル構造を含む構造単位、及び、分岐状アルキル構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、直鎖状アルキル構造のみからなる構造単位、及び、分岐状アルキル構造のみからなる構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0073】
例えば、上記(2a)又は(2b)の方法を経て共重合体(A)を得る場合、共重合体(A)には、共重合体(A)の末端基として、好ましくは、水素化共役ジエン単量体単位又はα-オレフィン単量体単位が少なくとも導入されることが好ましい。最終的に得られる共重合体(A)は、これらの単量体単位をアルキル構造単位として含んでもよい。
【0074】
アルカントリイル構造単位は、アルカントリイル構造を含む構造単位であり、好ましくはアルカントリイル構造のみからなる構造単位である。アルカンテトライル構造単位は、アルカンテトライル構造を含む構造単位であり、好ましくはアルカンテトライル構造のみからなる構造単位である。
【0075】
例えば、上記(2a)の方法を経て共重合体(A)を得る場合、共重合体(A)には、共役ジエン単量体単位が、単位内に炭素-炭素二重結合を持たない単量体単位であって、分岐点を含む単量体単位として分子内に導入されることがある。この場合、最終的に得られる共重合体(A)は分岐ポリマーであり、共役ジエン単量体単位をアルカントリイル構造単位、アルカンテトライル構造単位等の分岐点を含む脂肪族炭化水素構造単位として含んでもよい。脂肪族炭化水素構造単位が分岐点を含む構造単位を含む場合、共重合体(A)は分岐ポリマーである。分岐ポリマーは、網目ポリマーであってもよい。分岐点を含む構造単位を含む共重合体(A)は、被分散物に三次元的に吸着することができるため、分散性と安定性をより向上させることができる。
【0076】
共重合体(A)の好ましい態様として、以下が挙げられる。
・共重合体(A)に含まれる脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位の合計の含有量が、共重合体(A)の質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体(A)。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
・共重合体(A)に含まれる脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、アミド基含有構造単位の合計の含有量が、共重合体(A)の質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体(A)。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
・共重合体(A)に含まれる脂肪族炭化水素構造単位、ニトリル基含有構造単位、アミド基含有構造単位、及びカルボキシル基含有構造単位の合計の含有量が、共重合体(A)の質量を基準として80質量%以上100質量%以下である共重合体(A)。合計の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
【0077】
本明細書において、構造単位の含有量は、単量体の使用量、NMR(核磁気共鳴)及び/又はIR(赤外分光法)測定を利用して求めることができる。
【0078】
共重合体の調製に用いられる重合反応は、乳化重合反応であることが好ましく、通常の乳化重合の方法を用いることができる。乳化重合に使用する乳化剤(界面活性剤)、重合開始剤、キレート剤、酸素捕捉剤、分子量調整剤等の重合薬剤は、従来公知のそれぞれの薬剤が使用でき、特に限定されない。例えば、乳化剤としては、通常、アニオン系又はアニオン系とノニオン(非イオン)系の乳化剤が使用される。
【0079】
アニオン系乳化剤としては、例えば、牛脂脂肪酸カリウム、部分水添牛脂脂肪酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウム、水添ロジン酸カリウム、水添ロジン酸ナトリウム等の樹脂酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリエチレングリコールエステル型、ポリプロピレングリコールエステル型、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体等のプルロニック(登録商標)型等の乳化剤が挙げられる。
【0080】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等の熱分解型開始剤;t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;これらと二価の鉄イオン等の還元剤とからなるレドックス系開始剤等が挙げられる。これらの中でもレドックス系開始剤が好ましい。開始剤の使用量は、例えば、単量体の全量に対して0.01~10質量%の範囲である。
【0081】
乳化重合反応は、連続式又は回分式のいずれでもよい。重合温度は、低温~高温重合のいずれでもよいが、好ましくは0~50℃、更に好ましくは0~35℃である。また、単量体の添加方法(一括添加、分割添加等)、重合時間、重合転化率等も特に限定されない。転化率は85質量%以上が好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0082】
共重合体(A)の重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、50,000以上が更に好ましい。共重合体(A)の重量平均分子量は、400,000以下が好ましく、350,000以下がより好ましく、300,000以下が更に好ましい。共重合体(A)の重量平均分子量が、上記範囲である場合、被分散物への吸着性及び分散媒への親和性が良好となり、分散体の安定性が向上する傾向がある。重量平均分子量は、ポリスチレン換算の重量平均分子量であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定できる。具体的には実施例に記載の方法により測定すればよい。
【0083】
本発明のCNT分散体は、少なくとも共重合体(A)を含有し、任意の重合体、任意の共重合体等をさらに含んでもよい。CNT分散体に含まれる共重合体の内、共重合体(A)の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、100質量%であってもよい。
【0084】
<有機水酸化物(B)>
有機水酸化物は、有機カチオンと水酸化物イオンとを含む塩であれば特に限定されず、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0085】
有機水酸化物は、下記一般式(1)で表されるアンモニウムヒドロキシドおよびスルホニウムヒドロキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0086】
【0087】
【化7】
(式中、R
1~R
7は、それぞれ独立に水素原子、無置換もしくは置換基を有するアルキル基、無置換もしくは置換基を有するアルコキシ基、無置換もしくは置換基を有するアリール基、無置換もしくは置換基を有するアルキルカルボニル基、無置換もしくは置換基を有するアダマンチル基構造を表す。)
【0088】
アンモニウムヒドロキシドとしては、例えば、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、セチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、3-トリフルオロメチル-フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。スルホニウムヒドロキシドとしては、トリメチルスルホニウムヒドロキシド、ジエチルメチルスルホニウムヒドロキシド、ジメチルベンジルスルホニウムヒドロキシド等が挙げられる。これらの中でも、人体への安全性と共重合体(A)との親和性の観点から、疎水性の脂肪族炭化水素部位と親水性の水酸基を両方有するものが好ましく、トリアルキル-ヒドロキシアルキルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。なかでも、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシドが特に好ましい。
【0089】
有機水酸化物の使用量は、CNTの質量を基準として(CNTの質量を100質量%として)、10質量部未満であることが好ましく、5質量部未満であることがより好ましく、2質量部未満であることが更に好ましい。使用量が少なすぎると、本発明における良好な分散性と安定性とハンドリング性とを共立できる優れた効果が得られない。使用量が多すぎると、分散装置及び/又は電池内部の腐食の原因となり得る。
【0090】
上述の有機水酸化物を使用することは、以下の要因で好ましいと考えられる。
(1)有機水酸化物を使用することで安定的に水酸化物イオンが系中に存在し、この水酸化物イオンが共重合体(A)中のニトリル基を攻撃することで加水分解が進行しアミド基の形成が引き起こされる。共重合体(A)にアミド基が含まれることで分子内に水素結合による架橋構造が生まれ、三次元的にCNTに吸着することで分散液の分散性と安定性の向上が期待される。
(2)有機水酸化物の有する脂肪族炭化水素置換基が、共重合体(A)の脂肪族炭化水素部位と相互作用すると共に、水酸基物イオンが共重合体(A)のニトリル基と相互作用を示すことで、系全体で安定的に有機水酸化物と共重合体(A)が存在することができると推察される。
(3)共重合体(A)とともに存在せしめることで共重合体(A)の粘度低下が引き起こされる。粘度低下した共重合体(A)は、凝集力が強く難分散なCNT繊維内に入りやすくなり、均一な分散体を得ることが期待される。
(4)有機水酸化物が有するカチオンは構造的に安定であり、分解や揮発が起きにくく、投入した有機水酸化物が効果的に作用することが期待される。
【0091】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブ(CNT)は、平面的なグラファイトが円筒状に巻かれた構造を有している。CNTは、多層CNTを含むことが好ましく、多層CNTと単層CNTを含んでもよい。多層CNTは、二または三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。単層CNTは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。CNTの側壁はグラファイト構造でなくともよい。例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるCNTを導電材として用いることもできる。
【0092】
CNTの形状は限定されない。CNTの形状としては、例えば、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)、及びコイル状などの様々な形状が挙げられる。CNTの形状は、中でも、針状、または、円筒チューブ状であることが好ましい。CNTは、同じ形状を有するCNTのみで用いても、異なる形状を有する2種類以上のCNTを組み合わせて用いてもよい。
【0093】
CNTの形態としては、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ、及びカーボンナノファイバーを挙げることができるが、これらに限定されない。CNTは、同じ形態を有するCNTのみで用いても、または、異なる形態を有する2種類以上のCNTを組み合わせて用いてもよい。
【0094】
CNTの外径は、1~30nmであることが好ましく、1~20nmであることがより好ましい。
【0095】
CNTのBET比表面積は、20~1,000m2/gであることが好ましく、30~500m2/gであることがより好ましい。
【0096】
CNTの炭素純度は一般的なCHN元素分析により求めることができ、CNT中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度は、CNTの質量を基準として(CNTの質量を100質量%として)、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましい。炭素純度を上記範囲にすることにより、二次電池に用いる際に不純物によってデンドライトが形成されショートが起こる等の不具合を防ぐことができる。
【0097】
導電材として、さらに、リチウムイオンを不可逆的にドーピング又はインターカレーション可能な材料を1種以上含んでもよい。導電材は、後述する活物質とは異なる物質(材料)である。例えば、金、銀、銅、銀メッキ銅粉、銀-銅複合粉、銀-銅合金、アモルファス銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、白金等の金属粉;これらの金属で被覆した無機物粉体;及び、CNT以外の炭素系導電材などを用いることができる。CNT以外の炭素系導電材としては、市販のアセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックなど各種のカーボンブラックを用いることができる。また、炭素系導電材として、通常行われている、酸化処理されたカーボンブラック、黒鉛化処理されたカーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック;ソフトカーボン、ハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料なども使用できる。導電材としてCNT以外の炭素系導電材を含む場合、カーボンブラックが好ましく、特にアセチレンブラックが好ましい。
【0098】
<溶媒>
本実施形態の溶媒は、少なくともN-メチル-2-ピロリドンを含み、N-メチル-2-ピロリドンと相溶する溶媒1種以上をさらに含んでもよい。
【0099】
N-メチル-2-ピロリドンと相溶する溶媒としては、水、アミド系(N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなど)、複素環系(シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど)、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。この中でも、水またはアミド系有機溶媒であることがより好ましく、アミド系有機溶媒の中でもN-エチル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0100】
<カーボンナノチューブ分散体>
カーボンナノチューブ(CNT)分散体は、少なくとも共重合体(A)と有機水酸化物(B)と、NMPとを含有する。
すなわち、CNT分散体は、共重合体(A)と有機水酸化物(B)と溶媒とCNTとを少なくとも含有し、又は、塩基、酸等の二次電池電極に配合され得る任意の成分を更に含有してもよい。
【0101】
CNT分散体に含まれる共重合体(A)の含有量は、CNTの質量を基準として(CNTの質量を100質量%として)、0.1~200質量%が好ましく、1~100質量%がより好ましく、2~50質量%が更に好ましい。
【0102】
CNT分散体に含まれるCNTの含有量は、バインダー樹脂を含有するCNT分散組成物や合材スラリーを調整する際の配合の自由度の観点から、CNT分散体の質量を基準として(CNT分散体の質量を100質量%として)、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。CNTの含有量は、良好な分散性とロバスト性との両立の観点から、CNT分散体の質量を基準として(CNT分散体の質量を100質量%として)、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下がさらに好ましい。
【0103】
CNT分散体の製造方法は特に限定されないが好ましい製造方法の態様として、共重合体(A)と、有機水酸化物(B)と、NMPと、CNTとを混合し、CNTをNMP中に分散させる方法が挙げられる。さらに、任意に分散剤または溶媒、その他の成分を混合してもよい。容器に共重合体(A)と、有機水酸化物(B)と、NMPと、CNTとを加える順序は、特に限定されない。CNTを分散する過程のいずれかの時点で、CNTと共に共重合体(A)および有機水酸化物(B)が存在していることが好ましい。特に、共重合体(A)、有機水酸化物(B)、およびNMPを混合してから、CNTを加えて分散させる方法が好ましい。さらに、CNTを湿式又は乾式の分散方法により分散させてから、共重合体(A)と、有機水酸化物(B)と、NMPとを混合し、さらに分散させてもよい。
【0104】
分散方法としては、ディスパー(分散機)、ホモジナイザー、シルバーソンミキサー、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、プラネタリーミキサー、又は高圧ホモジナイザー等の各種の分散手段を用いる方法が挙げられる。
【0105】
<バインダー樹脂含有カーボンナノチューブ分散組成物>
バインダー樹脂含有カーボンナノチューブ分散組成物(バインダー樹脂含有CNT分散組成物)は、溶媒を含む。溶媒は特に限定されないが、例えば、CNT分散体の説明において例示した溶媒を用いることができる。
【0106】
バインダー樹脂は、活物質、CNT等の物質間を結合することができる樹脂である。本明細書において、バインダー樹脂は共重合体(A)とは異なる。つまり、バインダー樹脂は、共重合体(A)を除く樹脂から選択される。バインダー樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構造単位として含む重合体又は共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの変性体、混合物、又は共重合体でもよい。これらの中でも、正極膜のバインダー樹脂として使用する場合は、耐性面から分子内にフッ素原子を有する重合体又は共重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等が好ましい。また、負極膜のバインダー樹脂として使用する場合は、密着性が良好なカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。
【0107】
バインダー樹脂の重量平均分子量は、10,000~2,000,000が好ましく、100,000~1,000,000がより好ましく、200,000~1,000,000が更に好ましい。
【0108】
バインダー樹脂含有CNT分散組成物に含まれる共重合体(A)の含有量は、CNTの質量を基準として(導電材の質量を100質量%として)、0.1~200質量%が好ましく、1~100質量%がより好ましく、2~50質量%が更に好ましい。
【0109】
バインダー樹脂含有CNT分散組成物に含まれるCNTの含有量は、CNTの質量を基準として(CNTの質量を100質量%として)、0.05~30質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましい。
【0110】
バインダー樹脂含有CNT分散組成物に含まれるバインダー樹脂の含有量は、CNT分散体の質量を基準として(CNT分散体の質量を100質量%として)、0.05~25質量%が好ましく、0.1~15質量%がより好ましい。
【0111】
<電極膜用スラリー>
本実施形態の電極膜用スラリーは、上記CNT分散体またはバインダー樹脂含有CNT分散組成物にさらに、少なくとも活物質を含むものである。すなわち、電極膜用スラリーは、前記CNT分散体と活物質とを少なくとも含有するか、又は、前記バインダー樹脂含有CNT分散組成物と活物質とを少なくとも含有する。更に換言すると、電極膜用スラリーは、共重合体(A)と、炭素繊維と、溶媒と、活物質とを少なくとも含有し、バインダー樹脂、塩基、酸等の任意の成分を更に含有してもよい。
【0112】
<活物質>
本実施形態の活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は起電力から正極活物質と負極活物質に分けられる。
【0113】
正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンを可逆的にドーピング又はインターカレーション可能な材料を用いることができる。例えば、金属酸化物、金属硫化物の金属化合物等が挙げられる。具体的には、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V2O5、V6O13、TiO2等の遷移金属酸化物粉末;層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末;オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料;TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。正極活物質は、少なくともNiを含有する物質であることが好ましい。正極活物質は、1種又は複数を組み合わせて使用することもできる。
【0114】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドーピング又はインターカレーション可能な材料を用いることができる。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系;LixFe2O3、LixFe3O4、LixWO2(xは0<x<1の数である。)チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種又は複数を組み合わせて使用することもできる。
【0115】
本実施形態の電極膜用スラリー中のCNTの量は活物質100質量%に対して、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%であることが好ましく0.03~3質量%であることが好ましい。
【0116】
本実施形態の電極膜用スラリー中のバインダー樹脂の量は活物質100質量%に対して、0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましく、1~10質量%であることが特に好ましい。
【0117】
本実施形態の電極膜用スラリーの固形分の量は、電極膜用スラリー100質量%に対して、30~90質量%であることが好ましく、30~80質量%であることが好ましく、40~75質量%であることが好ましい。
【0118】
本実施形態の電極膜用スラリーは従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、CNT分散体に活物質を添加して作製する方法、CNT分散体に活物質を添加した後、バインダー樹脂を添加して作製する方法が挙げられる。
【0119】
本実施形態の電極膜用スラリーを得るには、CNT分散体にバインダー樹脂を添加した後、活物質をさらに加えて分散させる処理を行うことが好ましい。かかる処理を行うために使用される分散装置は特に限定されない。電極膜用スラリーは前記CNT分散体で説明した分散手段を用いて、電極膜用スラリーを得ることができる。また、本実施形態の共重合体(A)はバインダーとしての機能も有するため、共重合体(A)と異なるバインダー樹脂を改めて加えなくとも電極膜用スラリーを得ることができる。
【0120】
<電極膜>
本実施形態の電極膜とは、CNT分散体、バインダー樹脂含有CNT分散組成物、または電極膜用スラリーを膜上に形成してなるものである。例えば、集電体上に電極膜用スラリーを塗工乾燥することで、電極合材層を形成した塗膜である。
【0121】
本実施形態の電極膜に使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。
【0122】
集電体上に電極膜用スラリーを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコーティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0123】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0124】
本実施形態のCNT分散体またはバインダー樹脂含有CNT分散組成物を塗工乾燥して得た電極膜は、電極合材の基材との密着性や導電性を向上させるために、下地層として用いることも可能である。
【0125】
<非水電解質二次電池>
本実施形態の非水電解質二次電池とは正極と、負極と、電解質とを含むものである。
【0126】
正極としては、集電体上に正極活物質を含む電極膜用スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。
【0127】
負極としては、集電体上に負極活物質を含む電極膜用スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。
【0128】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0129】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0130】
本実施形態の非水電解質二次電池には、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0131】
本実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0132】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。また、実施例中、「共重合体(A)」を「共重合体」または「分散剤」という場合がある。さらに、実施例中、「分散剤」と溶媒とを含む「分散剤含有液」を「分散剤溶液」という場合がある。また、本発明では、CNT分散体の金属含有量の測定対象を鉄としているが、これに限定されるものではない。
【0133】
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。装置としてHLC-8320GPC(東ソー株式会社製)を用い、分離カラムを3本直列に繋ぎ、充填剤には順に東ソー株式会社製「TSK-GEL SUPER AW-4000」、「AW-3000」、及び「AW-2500」を用い、オーブン温度40℃、溶離液として30mMトリエチルアミン及び10mM LiBrのN、N-ジメチルホルムアミド溶液を用い、流速0.6ml/minで測定した。サンプルは上記溶離液からなる溶剤に1質量%の濃度で調製し、20マイクロリットル注入した。分子量はポリスチレン換算値である。
【0134】
<正極合材層の導電性評価>
正極電極膜用スラリーを、ギャップ175μmのアプリケーターを用いてPETフィルム(厚さ100μm)に塗工し、70℃の熱風オーブンで10分、120℃の熱風オーブンで15分乾燥させて、導電性評価用の正極膜を得た。正極合材層の表面抵抗率(Ω/□)は、株式会社三菱化学アナリテック製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて測定した。測定後、PETフィルム上に形成した正極合材層の厚みを乗じて、体積抵抗率(Ω・cm)とした。正極合材層の厚みは、膜厚計(株式会社NIKON製、DIGIMICRO MH-15M)を用いて、正極膜中の3点を測定して正極膜の平均値を求め、正極膜の平均値とPETフィルムの膜厚との差として求めた。
判定基準
◎:正極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が10未満(優良)
〇:正極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が10以上20未満(良)
×:正極合材層の体積抵抗率(Ω・cm)が20以上(不良)
【0135】
<非水電解質二次電池のレート特性評価>
非水電解質二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工株式会社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1mA(0.02C))を行い、放電電流0.2C及び3Cで放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の式1で表すことができる。
(式1)
レート特性 = 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量 ×100 (%)
判定基準
◎:レート特性が80%以上(優良)
〇:レート特性が60%以上80%未満(良)
×:レート特性が30%以上60%未満(不良)
××:レート特性が30%未満(極めて不良)
【0136】
<非水電解質二次電池のサイクル特性評価方法>
非水電解質二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工株式会社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比、以下の式2で表すことができる。
(式2)
サイクル特性 = 3回目の0.5C放電容量/200回目の0.5C放電容量 ×100(%)
判定基準
◎:サイクル特性が85%以上(優良)
〇:サイクル特性が80%以上85%未満(良)
×:サイクル特性が60%以上80%未満(不良)
××:サイクル特性が60%未満(極めて不良)
【0137】
<合成例1-1 共重合体(A-1)の製造>
ステンレス製重合反応器に、アクリロニトリル40部、1,3-ブタジエン60部、オレイン酸カリ石ケン3部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.6部、イオン交換水200部を装入して、窒素雰囲気下において、撹拌下、45℃で20時間重合を行い、転化率90%で重合を終了した。未反応の単量体を減圧ストリッピングにより除き、固形分濃度約30%の(メタ)アクリロニトリル-共役ジエン系ゴムラテックスを得た。続いて、ラテックスより固形分を回収し、共重合体(A-1)を得た。乾燥後、元素分析により共重合体(A-1)の1,3-ブタジエン及びアクリロニトリル単位の含有量を求めたところ、1,3-ブタジエン単位が59%、アクリロニトリル単位が41%であった。共重合体(A-1)の重量平均分子量(Mw)は20,000であった。
【0138】
<合成例1-2~1-10 共重合体(A-2)~(A-10)の製造>
使用するモノマーを表1に従って変更した以外は、合成例1-1と同様にして、それぞれ共重合体(A-2)~(A-10)を作製した。各共重合体の重量平均分子量(Mw)は表1に示す通りであった。
【0139】
【0140】
<合成例1-11 共重合体(A-11)の製造>
共重合体(A-1)の二重結合をTi系水素添加触媒で水素化して、共重合体(A-11)を得た。共重合体(A-11)の水素添加率は99.5%であり、重量平均分子量(Mw)は共重合体(A-1)と変わらなかった。
【0141】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
【0142】
<共重合体の水素添加率の測定>
水素添加率は、前述の全反射測定法による赤外分光分析と同様の方法でIR測定を行い求めた。共役ジエン単量体単位に由来する二重結合は970cm-1にピークが表れ、水素添加した単結合は723cm-1にピークが表れることから、この二つのピークの比率を比較することで水素添加率が計算した。
【0143】
<CNT分散体の初期粘度測定>
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、分散液温度25℃にて、分散液をヘラで充分に攪拌した後、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度計が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000以上10000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた分散体が明らかに分離や沈降しているものは分散性不良とした。
判定基準
◎:500mPa・s未満(優良)
〇:500mPa・s以上2000mPa・s未満(良)
△:2000mPa・s以上10000mPa・s未満(可)
×:10000mPa・s以上、沈降または分離(不良)
【0144】
<CNT分散体の安定性評価方法>
貯蔵安定性の評価は、分散体を50℃にて7日間静置して保存した後の、液性状の変化から評価した。液性状の変化は、ヘラで攪拌した際の攪拌しやすさから判断した。
判定基準
〇:問題なし(良好)
△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(可)
×:ゲル化している(極めて不良)
【0145】
<正極膜の導電性評価方法>
正極用合材スラリーを、ギャップ175μmのアプリケータを用いてPETフィルム(厚さ100μm)に塗工し、70℃の熱風オーブンで10分、120℃の熱風オーブンで15分乾燥させて、導電性評価用正極膜を得た。正極膜の表面抵抗率(Ω/□)は、(株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて測定した。測定後、PETフィルム上に形成した正極合材層の厚みを掛けて、体積抵抗率(Ω・cm)とし、下記基準で判定した。正極合材層の厚みは、膜厚計(NIKON社製、DIGIMICRO MH-15M)を用いて、正極膜中の3点を測定した平均値から、PETフィルムの膜厚を引き算した。
判定基準
◎:10Ω・cm未満(優良)
〇:10Ω・cm以上20Ω・cm未満を(良)
×:20Ω・cm以上(不良)
【0146】
【0147】
<実施例1-1 分散体1-1の作製>
表3に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)にNMPおよび共重合体(A-1)と有機水酸化物(B-1)を仕込み、NMPを追加して濃度を調製した後、導電材8Sを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで混合して、CNT分散体(分散体1-1)を得た。
【0148】
<実施例1-2~1-11 分散体1-2~1-11の作製>
表3に従って変更した以外は、実施例1-1と同様にして、NMPおよび共重合体(A)と有機水酸化物(B)と導電材8Sから各CNT分散体(分散体1-2~1-11)を作製した。
【0149】
<実施例1-12 分散体1-12の作製>
表3に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)にNMPおよびH-NBR1(LANXESS株式会社製H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)Therban(R)3406、アクリロニトリル含有量34%、Mw200000)、有機水酸化物(B-1)を仕込み、NMPを追加して濃度を調製した後、導電材8Sを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで混合して、CNT分散体(分散体1-12)を得た。
【0150】
<実施例1-13 分散体1-13の作製>
表3に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)にNMPおよびH-NBR2(日本ゼオン株式会社製H-NBR(水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム)Zetpol(R)3300、アクリロニトリル含有量23.6%、Mw270000)、有機水酸化物(B-1)を仕込み、NMPを追加して濃度を調製した後、導電材8Sを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで混合して、CNT分散体(分散体1-13)を得た。
【0151】
<実施例1-14~1-17 分散体1-14~1-17の作製>
表3に従って変更した以外は、実施例1-1と同様にして、NMPおよび共重合体(A)と有機水酸化物(B)と導電材8Sから各CNT分散体(分散体1-14~1-17)を作製した。
【0152】
<実施例1-18 分散体1-18の作製>
表3に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)にNMPおよび共重合体(A-2)と有機水酸化物(B-1)を仕込み、NMPを追加して濃度を調製した後、導電材100Tを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで混合して、CNT分散体(分散体1-18)を得た。
【0153】
<実施例1-19~1-25 分散体1-19~1-25の作製>
表3に従って変更した以外は、実施例1-1と同様にして、NMPおよび共重合体(A)と有機水酸化物(B)と導電材8Sまたは100Tから各CNT分散体(分散体1-19~1-25)を作製した。
【0154】
<比較例1-1~1-5 比較分散体1-1~1-5の作製>
表3に示す組成と分散時間に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に分散剤、および記載のある場合は添加剤(アミノエタノールまたは有機水酸化物(B-1)を仕込み、NMPを追加して溶解混合させた後、CNT8Sを加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで混合して、CNT分散体(比較分散体1-1~1-5)を得た。
【0155】
【0156】
なお、上記に記した略号は、以下を意味する。
・8S:JENOTUBE8S(JEIO社製、多層CNT、外径6~9nm)
・100T:K-Nanos 100T(Kumho Petrochemical社製、多層CNT、外径10~15nm)
・PVP:ポリビニルピロリドンK-30(日本触媒社製、固形分100%)
・PVA:Kuraray POVAL PVA403(クラレ社製、固形分100%)
【0157】
表4に示す通り、本発明のCNT分散体(分散体1-1~1-37)はいずれも低粘度かつ貯蔵安定性が良好であった。比較分散体3~5も低粘度かつ貯蔵安定性が比較的良好であったが、比較分散体1は高粘度かつ貯蔵安定性が不良であり、比較分散体2は貯蔵安定性が不良であった。
【0158】
【0159】
本発明の共重合体は、有機水酸化物と混ぜ合わせることでCNTへの濡れ性および吸着量が向上したものと考えられる。これにより、より高濃度で分散性良好なCNT分散体が容易に製造できるようになった。
【0160】
<正極電極膜用スラリーおよび正極の作製>
<実施例2-1>
表5に示す組成に従い、容量150mlのプラスチック容器に導電材分散体(分散体1-1)と、8質量%PVDFを溶解したNMPとを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー社製泡とり練太郎、ARE-310)を用いて、2000rpmで30秒間撹拌し、バインダー樹脂含有導電材分散体を得た。その後、活物質としてNMCを添加し、自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30分間間撹拌した。さらにその後、NMPを添加し、自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌して、正極電極膜用スラリーを得た。正極電極膜用スラリーの固形分は75質量%とした。正極電極膜用スラリー中の活物質:導電材:PVDFの固形分比率は98.2:0.3:1.5とした。
【0161】
上述の正極電極膜用スラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cm2となるように調整した。さらにロールプレス(株式会社サンクメタル社製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が3.1g/cm3となる正極1-1aを作製した。
【0162】
<実施例2-2~2-25 比較例2-1~2-5>
表5に示す通り、CNT分散体の種類を変更した以外は実施例2-1と同様の方法により、正極1-2a~1-25a、比較正極1a~5aを作製した。
【0163】
<実施例3-1~3-6 比較例3-1~3-5>
表5に示す通り、活物質をNCAに変更した以外は実施例2-1と同様の方法により、正極1-1b~1-6b、比較正極1b~5bを作製した。
【0164】
なお、上記に記した略号は、以下を意味する。
・NMC:NCM523(日本化学工業社製、組成:LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、固形分100%)
・NCA:HED(登録商標)NAT-7050(BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社製、組成:LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)、固形分100%
・PVDF:Solef#5130(Solvey社製)、固形分100%
【0165】
【0166】
ニトリルゴムは、1,3-ブタジエン単量体単位の重合において分岐を生じる場合があり、多数の分岐を有する網目状の分子構造であることが知られている。本発明の分散剤は、添加材を加えていないニトリルゴムと比較して導電材や活物質に対する吸着力や分散力が高いことに加え、この網目状の分子構造がCNTに対して三次元的に吸着するため、吸脱着の平衡状態にある分散体中において、分散剤分子の一部が脱着しても、CNT粒子の近傍に溜まって再吸着できるものと推察され、さらに導電材に吸着しながら活物質にも吸着できるものと推察される。
【0167】
一方、有機水酸化物を使用していない比較例2-1、2-2や比較例3-1、3-2は、CNT分散体が分散不良であり、電極内でも良好な導電ネットワークが形成できなかったものと思われる。比較例1-3~1-5で用いたような直線状高分子分散剤は、CNTのみならず活物質にもよく吸着し作用するため、電極用スラリー中の大部分を占める活物質に分散剤を奪われ、安定な分散状態を保てなくなったものと思われる。比較例2-2、3-2に用いられているアミノエタノールは、少量では分散性・ハンドリング性の向上が見られないのに対し、本発明の有機水酸化物使用した実施例2-1~2-15や2-18~2-25は少量の添加でも効果の発現が見られた。
【0168】
表6に、電極の評価結果を示す。
【0169】
【0170】
<非水電解質二次電池の作製>
<実施例4-1~4-25 比較例4-1~4-5>
<実施例5-1~5-6 比較例5-1~5-5>
下記の標準負極と表6に示す正極膜とを各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥させた。続いて、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液を2mL注入し、アルミ製ラミネート袋を封口して電池1-1a~1-25a、比較電池1a~5a、及び電池1-1b~1-6a、比較電池1b~5bを作製した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを1:1:1(体積比)の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、VC(ビニレンカーボネート)を電解液100部に対して1部加えた後、LiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液である。
【0171】
<製造例1 標準負極用合材スラリーの作製>
容量150mLのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカ株式会社製、デンカブラック(登録商標)HS-100)と、CMCと、水とを加えた後、自転及び公転ミキサー(株式会社シンキー製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに負極活物質として人造黒鉛を添加し、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBRを加えて、自転及び公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極用合材スラリーを得た。標準負極用合材スラリーの固形分は48質量%とした。標準負極用合材スラリー中の負極活物質:導電材:CMC:SBRの固形分比率は97:0.5:1:1.5とした。
【0172】
なお、上記に記した略号は、以下を意味する。
・HS-100:デンカブラックHS-100(デンカ株式会社製、アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m2/g)
・人造黒鉛:CGB-20(日本黒鉛工業株式会社製)、固形分100%
・CMC:#1190(ダイセルファインケム株式会社製)、固形分100%
・SBR:TRD2001(JSR株式会社製)、固形分48%
【0173】
<製造例2 標準負極の作製>
負極電極膜用スラリーを集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間にわたり乾燥させて電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cm2となるように調整した。さらにロールプレス(株式会社サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、負極合材層の密度が1.6g/cm3となる負極を作製した。
【0174】
<レート試験及びサイクル試験の結果及び考察>
表6に示す通り、分散性・安定性が良好なCNT分散体を正極膜に備えた電池はレート特性及びサイクル特性が良好であり、分散不良であるCNT分散体を正極膜に備えた電池はいずれの特性も悪かった。低抵抗な正極膜は、電池としても抵抗が低く、レート特性が良化するものと思われる。また、比較的に低抵抗である活物質粒子にサイクルの負荷が集中するため、劣化が促進されてしまうのに対し、全体に良好な導電ネットワークが形成されている場合、負荷が分散されるため劣化しにくくなると思われる。使用するアンモニウムヒドロキシド化合物またはスルホニウムヒドロキシド化合物も少量で効果が発現するため、電池特性への悪影響も殆どないと考えられる。
【0175】
以上のように、分散性と安定性とを両立することで、電極膜中で良好な分散状態を維持して効率的な導電ネットワークを形成することができ、レート特性及びサイクル特性が良好な電池を製造することができた。
【0176】
実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記によって限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。