(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】車両用還元液タンク配設構造
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20240827BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20240827BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240827BHJP
F01N 5/02 20060101ALI20240827BHJP
B60K 13/04 20060101ALI20240827BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
F01N3/08 B ZAB
F01N3/24 J
F01N3/24 L
F01N3/28 N
F01N5/02 C
F01N5/02 A
B60K13/04 A
B01D53/94 222
B01D53/94 400
(21)【出願番号】P 2020191083
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】堤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】國井 一人
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0010858(US,A1)
【文献】実開昭62-018322(JP,U)
【文献】特開2011-033011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
F01N 3/24
F01N 3/28
F01N 5/02
B60K 13/04
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用還元液タンク配設構造において、
車両の下部に搭載された、内燃機関の排気を大気に排出するための排気管と、
前記車両の下部に搭載された、前記排気中の窒素酸化物の浄化に用いる還元液を貯める還元液タンクと、
車幅方向における前記還元液タンクと前記熱供給部の間の中間位置よりも前記還元液タンク側に設けられる金属製の熱拡散板と、
を備えており、
前記還元液タンクは、その長手方向に縦長の形状を有しており、
前記排気管は、前記還元液タンクの近傍で前記長手方向に延設された熱供給部を備えている、車両用還元液タンク配設構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用還元液タンク配設構造であって、
前記熱拡散板は、前記還元液タンクの前記長手方向の長さにほぼ等しい長さを有する、車両用還元液タンク配設構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用還元液タンク配設構造であって、
前記熱供給部は、当該熱供給部の前後の前記排気管の内径よりもその内径が拡径された消音器である、車両用還元液タンク配設構造。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用還元液タンク配設構造であって、
前記消音器の内部に、排気浄化触媒が担持された触媒エレメントが内蔵されている、車両用還元液タンク配設構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される還元液タンクの配設構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、車両(ディーゼル車)に搭載される還元液(ディーゼル排気液:DEF/Diesel Exhaust Fluid)を貯める還元液タンクを開示している。DEFは、SCR(選択触媒還元:Selective Catalytic Reduction)システムによって、排気に含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化するために用いられる。車両に用いられるDEFは、規格化されており、32.5%の尿素水である。DEFは排気管内に噴霧されてアンモニア(NH3)を生成し、NOxはSCR触媒によってNH3と反応して窒素(N2)と水蒸気(H2O)とに還元される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DEFは、マイナス11度で凍結するため、寒冷地などでは冷間始動時には凍結状態である場合がある。従って、内燃機関(ディーゼルエンジン)の冷間始動後には凍結したDEFをより早期に溶かすことが求められる。特許文献1に開示された還元液タンク(DEFタンク)は、車両の後部に設けられており、その隣には排気管上に設けられた消音器が配置されているが、排気の有する熱を効果的に利用できていない。
【0005】
本発明の目的は、内燃機関の排熱を効果的に利用して、車両に搭載された還元液タンク内の還元液をより早期に溶かすことのできる車両用還元液タンク配設構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用還元液タンク配設構造は、内燃機関の排気を大気に排出するための排気管と、排気中の窒素酸化物の浄化に用いる還元液を貯める還元液タンクとを車両の下部に備えている。還元液タンクは、その長手方向に縦長の形状を有している。排気管は、還元液タンクの近傍で上述した長手方向に延設された熱供給部を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、内燃機関の排気の熱を効果的に利用して、車両に搭載された還元液タンク内の還元液をより早期に溶かすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る車両用還元液タンク配設構造を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態に係る車両用還元液タンク配設構造を、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の車両に搭載された内燃機関は、ディーセルエンジンである(図示せず)。また、本実施形態の還元液は、上述したDEFであり、車両に搭載されたSCRシステムで利用される。DEFは、排気管1上に設けられたSCR触媒エレメント10aよりも上流で排気管1内に噴霧されてNH
3を生成し、このNH
3がSCR触媒によるNOxの還元に用いられる。また、本実施形態の車両は、車両内部の後部空間が荷室として広く利用できるようにされている。このため、荷室の床面はフラット化されていると共に、スペアタイヤ8も床下に取り付けられている。
【0010】
還元液タンク配設構造は、内燃機関の排気を大気に放出する排気管1を備えている。なお、排気中の排出規制物質が規定値以下となるように、排気は排気管1を通る間に浄化され、その後に大気に排出される。排気管1とは、排気マニュフォールドから排気を大気に排出する末端までの部分を指す。排気管1の一部は、車両の下部(車室や荷室/荷台のフロア下)に延設される。また、還元液タンク配設構造は、排気中のNOxの浄化に用いるDEF(還元液)を貯める樹脂製の還元液タンク2も備えている。還元液タンク2も、車両の下部(フロア下)に搭載されている。
【0011】
本実施形態の車両は、四輪駆動車であり、フロア下の車幅方向中央にはプロペラシャフト3が前後に延設されている。排気管1は、プロペラシャフト3の左側(
図1の底面図における上側)で前後に延設されている。ただし、
図1に示されるように、排気管1の前側部分は、プロペラシャフト3とトランスファー4との接続部近傍でプロペラシャフト3の前端の下をくぐって内燃機関へと延びている(この部分は
図2には示されていない)。なお、
図1及び
図2には、排気管1上に設けられた消音器10(排気管1の一部)も示されている。
【0012】
消音器10は、車両の前後方向に長い形状を有しており、追って詳しく説明するが、排気の持つ熱を還元液タンク2内の(凍結した)DEFに供給する熱供給部として機能する。また、プロペラシャフト3を挟んで消音器10(排気管1)とは反対側に、上述した還元液タンク2が配設されている。還元液タンク2も、車両の前後方向に長い形状を有しており、その長手方向が上述した消音器10(排気管1の一部である熱供給部)とほぼ平行となるように配置されている。
【0013】
なお、上述したように、プロペラシャフト3の左側に消音器10(排気管1)及び還元液タンク2が搭載されているが、プロペラシャフト3の右側には金属製の燃料タンク5が搭載されている。燃料タンク5は、その下部をほぼ覆うチッピング対策のためのロアカバー50を備えると共に、燃料タンク5及びロアカバー50の後部(リアサスペンション近傍)を保護するための保護カバー51を備えている。これらの還元液タンク2、消音器10(排気管1)、プロペラシャフト3及び燃料タンク5は、平面(底面)視において、一対のサイドメンバ7の間に搭載されている。
【0014】
上述したように、本実施形態の車両は内部後部空間が荷室として広く利用できるように荷室床面がフラット化されていると共に、スペアタイヤ8も床下に取り付けられている。このため、車両の後部のフロア下に体積の大きな還元液タンク2や燃料タンク5を配置することが難しい。また、車両の前部には内燃機関や上述したトランスファー4が配置される。このため、本実施形態では、還元液タンク2や燃料タンク5は、排気管1やプロペラシャフト3と並ぶように、車両中央部のフロア下に配置されている。
【0015】
還元液タンク2とは、DEFを貯める容器部分を指す。還元液タンク2には、DEFを排気管1の内部に噴射するためにDEFを送出するポンプ20が統合されている。ポンプ20の上部は還元液タンク2の内部に位置しているが、その下部は還元液タンク2から下方に突出されている。ポンプ20の還元液タンク2から下方に突出している部分は還元液タンク2ではない。さらに、ポンプ20及び還元液タンク2の前部を保護するための保護カバー21が、ポンプ20及び還元液タンク2の前部の下面を覆うように還元液タンク2に取り付けられている。保護カバー21も、還元液タンク2ではない。
【0016】
上述した熱供給部としての消音器10は、還元液タンク2の近傍で還元液タンク2の長手方向に延設されている。このため、内燃機関の排気が持つ熱は、消音器10の表面から放射され、還元液タンク2内部の凍結したDEFを温めて溶かす。消音器10は、その前後の排気管1の内径よりもその内径が拡径され(即ち、前後の排気管1の外径よりもその外径が拡径され)ている。このため、消音器10は、容積的に多くの排気を蓄え、かつ、その表面積も広いので、効果的に排気の熱を還元液タンク2内のDEFに供給することができる。
【0017】
なお、本実施形態では、ポンプ20に電気ヒータも統合されており、電気エネルギーによって凍結したDEFを溶かすこともできる。冷間始動直後の排気がまだ温まらない状態では、電気ヒータを用いて凍結したDEFを溶かすことができる。電気ヒータによる電力消費は燃費の悪化をもたらすため、本実施形態のように排気の熱を利用して凍結したDEFを溶かすことができれば、電力消費を抑制して燃費の悪化を低減できる。
【0018】
また、本実施形態では、還元液タンク2と消音器10(熱供給部)との間に、熱を拡散する金属製(アルミ製)の熱拡散板6が設けられている。熱拡散板6は、還元液タンク2の長手方向の長さにほぼ等しい長さを有している。このため、消音器10から放射された熱は、熱拡散板6によって拡散されて、効率よく還元液タンク2内のDEFを温める。本実施形態では、熱拡散板6は還元液タンク2に固定されている。また、還元液タンク2は樹脂製であるため、温度が高すぎると溶けてしまうので、局所的に加熱されないように熱拡散板6が熱を拡散する。また、還元液タンク2の過熱防止のために、熱拡散板6の還元液タンク2側の表面には、耐熱性繊維部材等によって形成されたヒートインシュレータ60が貼り付けられている。
【0019】
ヒートインシュレータ60は、熱拡散板6の還元液タンク2側の表面の全てに設けられているのではなく、特に消音器10との距離が近い部分のみに貼り付けられている。具体的には、熱拡散板6の還元液タンク2側の表面の上部にはヒートインシュレータ60は貼られていない。なお、このヒートインシュレータ60は、上述した熱拡散にも寄与しており、熱拡散板6の温度を均一化するようにも作用する。
【0020】
本実施形態では、
図2に示されるように、還元液タンク2に対して、消音器10(排気管1の熱供給部)は、ほんの僅か下方に位置している。なお、消音器10(排気管1の熱供給部)は、還元液タンク2の近傍で縦長形状の還元液タンク2の長手方向に延設されるので、その内部の排気の熱を還元液タンク2の内部のDEFに効率よく供給できる。即ち、熱供給部(消音器10)から還元液タンク2内のDEFへと熱供給を行う長さ(距離)を長く確保でき、より広範囲で熱供給を行える。
【0021】
上述したように、還元液タンク2及び排気管1(消音器10)は、双方とも車両の下部(フロア下)に搭載される。従って、還元液タンク2及び排気管1(消音器10)を上下に配置するのは難しく、還元液タンク2及び排気管1(消音器10)は横に並べて配置される。この際、本実施形態のように、側方から見て、還元液タンク2と消音器10(排気管1の熱供給部)とが高さ方向で少なくとも一部が互いに重複することが好ましい。このような配置とすれば、還元液タンク2及び排気管1(消音器10)の設置高さを抑えつつ、効率よく排気の熱を還元液タンク2内のDEFに供給することができる。
【0022】
なお、(車両が走行していない状態では)排気管1(消音器10)の熱によって温められた周囲の空気は上方に流れるため、排気管1(消音器10)に対して還元液タンク2が上方に位置する方が、熱を還元液タンク2内のDEFに供給する上では好ましい。即ち、側方から見て、少なくとも、還元液タンク2の下部と排気管1(消音器10)の上部とが重複するのが好ましい。ただし、還元液タンク2の高さの範囲内に排気管1(消音器10)が収まるようであってもよい。
【0023】
また、熱供給部としての消音器10や熱拡散板6は、車両の内燃機関が停止された後もしばらくは熱を蓄えるので、還元液タンク2内のDEFを保温して凍結しにくくする。この結果、本実施形態の還元液タンク配設構造によれば、冷間始動時により早期に凍結したDEFを溶かすことができることに加えて、内燃機関停止後にDEFを凍結しにくくすることもできる。
【0024】
さらに、本実施形態では、消音器10の内部に、SCR触媒エレメント10a及びASC(Ammonia Slip Catalyst)触媒エレメント(図示せず)が収納されている。SCR触媒エレメント10aは、セラミックなどで形成されたハニカム基材にSCR触媒を担持させたものである。ASC触媒エレメントは、セラミックなどで形成されたハニカム基材に酸化触媒を担持させたものであり、SCR触媒エレメント10aを通過(スリップ)した余剰のNH3を酸化してN2とH2Oとに分解する。SCR触媒エレメント10a及びASC触媒エレメントは排気浄化触媒が担持されたエレメントである。即ち、本実施形態では、消音器10は排気浄化触媒コンバータとしても機能する。消音器10の内部での上述した排気浄化反応によって反応熱が生成されるため、この反応熱もDEFへの熱の供給に寄与する。また、これらのエレメントも熱を蓄えることができるため、内燃機関停止後にDEFを凍結しにくくすることにも寄与する。
【0025】
本実施形態に係る還元液タンク配設構造では、還元液タンク2は、その長手方向に縦長の形状を有しており、排気管1は、還元液タンク2の近傍で上記長手方向に延設された熱供給部(本実施形態では消音器10)を備えている。従って、還元液タンク2に貯められた還元液(DEF)は、熱供給部(消音器10)から排気の熱の供給を受けることができる。この際、熱供給部(消音器10)は還元液タンク2の長手方向に沿って還元液タンク2の近傍に延設される。従って、熱供給部(消音器10)から還元液タンク2内の還元液へと熱供給を行う長さ(距離)を長く確保でき、より広範囲で熱供給を行える。この結果、冷間始動時などに還元液が凍結していても、内燃機関の排熱を効果的に利用して還元液をより早期に溶かすことができる。また、熱供給部(消音器10)は、内燃機関が停止された後もしばらくは熱を蓄えるので、還元液タンク2内の還元液を保温して凍結しにくくする。
【0026】
また、本実施形態に係る還元液タンク配設構造では、還元液タンク2と熱供給部(消音器10)との間に、熱供給部からの熱を拡散する、還元液タンク2の長手方向の長さにほぼ等しい長さを有する金属製の熱拡散板6設けられている。このため、熱供給部(消音器10)からの熱が熱拡散板6によって還元液タンク2の全体に拡散され、還元液タンク2内の還元液を効率よく温めることができる。また、熱拡散板6も熱を蓄えることができるため、内燃機関停止後の還元液の保温にも寄与する。
【0027】
さらに、本実施形態に係る還元液タンク配設構造では、熱供給部(消音器10)が、その前後の排気管の内径よりもその内径が拡径された消音器10である。消音器10は、表面積も大きくなるため、より効果的に排気の熱を還元液タンク2内の還元液に供給することができる。また、内径が拡径された消音器10は、体積が増えるためより多くの排気をためてより多くの熱を蓄えることができるので、内燃機関停止後の還元液の保温にも寄与する。
【0028】
ここで、本実施形態では、さらに、消音器10の内部に、排気浄化触媒が担持された触媒エレメント(本実施形態ではSCR触媒エレメント10a及びASC触媒エレメント)が内蔵されている。このため、排気浄化触媒での排気浄化反応によって生成される反応熱も還元液への熱の供給に寄与する。さらに、エレメントが熱を蓄えることができるため、内燃機関停止後の還元液の保温にも寄与する。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、消音器10を熱供給部として説明したが、単なる排気管1の一部であっても、還元液タンク2内の還元液に熱を供給する熱供給部として機能し得る。また、上記実施形態では、SCR触媒エレメント10a及びASC触媒エレメントを排気浄化触媒が担持されたエレメントとして説明した。しかし、排気浄化のための単なる酸化触媒が担持されたエレメントや排気浄化のための触媒が担持されたDPF(DieselPaticulate Filter)も排気浄化触媒が担持されたエレメントであると言える。
【符号の説明】
【0030】
1 排気管
2 還元液タンク
6 熱拡散板
10 消音器(熱供給部)
10a SCR触媒エレメント