(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240827BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240827BHJP
H01M 50/557 20210101ALI20240827BHJP
H01M 50/559 20210101ALI20240827BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20240827BHJP
H01M 50/198 20210101ALI20240827BHJP
H01M 50/50 20210101ALI20240827BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/66 A
H01M50/557
H01M50/559
H01M50/193
H01M50/198
H01M50/50 201Z
H01M50/548 101
H01M50/548 201
(21)【出願番号】P 2020201739
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】栗田 幹也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友哉
(72)【発明者】
【氏名】神谷 亮太
(72)【発明者】
【氏名】衣川 達哉
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】山路 智也
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-209819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/39
H01M 4/00- 4/84
H01M50/10-50/198
H01M50/50-50/598
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の第1面に正極活物質層が接着された正極と、
負極集電体の第1面に負極活物質層が接着されてなり、前記負極活物質層が前記正極の前記正極活物質層と対向するように配置された負極と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に配置されたセパレータと、
前記正極と前記負極との間において、前記正極活物質層及び前記負極活物質層の周囲を囲むように配置されるとともに、前記正極集電体及び前記負極集電体の各第1面に接着されることにより、前記正極と前記負極との間に液体電解質を収容する密閉空間を形成するシール部とを備える
蓄電セルが、複数、積層されているセルスタックを備え、
前記セルスタックにおいて、複数の前記蓄電セルは、前記正極集電体における第1面の反対側の第2面と、前記負極集電体における第1面の反対側の第2面とが重ね合わされることにより直列に接続されているリチウムイオン二次電池であって、
前記正極集電体及び前記負極集電体は、前記正極活物質層と前記負極活物質層とが対向している部分と、前記シール部が接着している部分との間に段差を有し、
前記正極集電体及び前記負極集電体の一方は、アルミニウム箔により構成され、
前記正極集電体及び前記負極集電体の他方は、アルミニウム箔又は銅箔により構成され、
前記シール部は、接着強度が最大となる溶着温度であるピークトップ温度が135℃以下である熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成され、
積層方向における前記正極集電体の第1面と前記負極集電体の第1面との間の距離に関して、前記正極活物質層と前記負極活物質層とが対向している部分の距離を第1距離とし、前記シール部が接着している部分における距離を第2距離としたとき、前記第1距離は、前記第2距離よりも長く、前記第1距離と前記第2距離との差が
10μm以上400μm以下であることを特徴とする
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記第1距離と前記第2距離との差が265μm以下である請求項1に記載の
リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記セパレータの周縁部分は、前記シール部に埋まっており、
前記正極活物質層、前記負極活物質層、及び前記セパレータの積層方向から見た平面視において、前記負極活物質層は、前記正極活物質層よりも大きく形成されており、
前記正極活物質層の厚さと、前記負極活物質層の厚さの合計が
650μm以上である請求項1又は請求項2に記載の
リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記シール部により接着された前記正極集電体と前記負極集電体との間の接着強度は、1.0N/mm以上である請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記セルスタックを構成している複数の前記蓄電セルは、前記シール部同士が接着されて一体化している請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、個々に作製された複数の蓄電セルを直列に積層することにより構成される扁平型の蓄電装置が開示されている。上記蓄電セルは、樹脂により構成される正極集電体の片面の中央部に正極活物質層が形成されてなる正極と、樹脂により構成される負極集電体の片面の中央部に負極活物質層が形成されてなり、負極活物質層が正極の正極活物質層と対向するように配置された負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータとを備えている。
【0003】
さらに、上記蓄電セルは、正極と負極との間かつ正極活物質層及び負極活物質層よりも外周側に配置された熱可塑性樹脂からなるシール部を備えている。シール部は、正極集電体と負極集電体との間隔を保持して集電体間の短絡を防止するとともに、正極集電体と負極集電体との間を液密に封止して、正極集電体と負極集電体との間に液体電解質を収容する密閉空間を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の正極と負極とをセパレータを介して積層した積層型の蓄電セルのエネルギー密度を大きくする方法の一つとして、活物質層を厚く形成することにより、積層方向における活物質層の割合を増加させる方法が考えられる。この場合、充放電時において、液体電解質が収容される密閉空間内に発生するガス量が増加するとともに、密閉空間内の温度変化が大きくなることによって密閉空間の内圧が高くなる。そのため、密閉空間の内圧の増大に耐え得るように、蓄電セルの耐圧性能を向上させる必要がある。
【0006】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、積層方向に隣り合う集電体と、それら集電体の間に配置されたシール部とによって液体電解質を収容する密閉空間が形成されている蓄電装置に関して、液体電解質が収容される密閉空間の内圧の増大に対する耐圧性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する蓄電装置は、正極集電体の第1面に正極活物質層が接着された正極と、負極集電体の第1面に負極活物質層が接着されてなり、前記負極活物質層が前記正極の前記正極活物質層と対向するように配置された負極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に配置されたセパレータと、前記正極と前記負極との間において、前記正極活物質層及び前記負極活物質層の周囲を囲むように配置されるとともに、前記正極集電体及び前記負極集電体の各第1面に接着されることにより、前記正極と前記負極との間に液体電解質を収容する密閉空間を形成するシール部とを備える蓄電装置であって、前記正極集電体及び前記負極集電体の一方は、アルミニウム箔により構成され、前記正極集電体及び前記負極集電体の他方は、アルミニウム箔又は銅箔により構成され、前記シール部は、接着強度が最大となる溶着温度であるピークトップ温度が135℃以下である熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成され、積層方向における前記正極集電体の第1面と前記負極集電体の第1面との間の距離に関して、前記正極活物質層と前記負極活物質層とが対向している部分の距離を第1距離とし、前記シール部が接着している部分における距離を第2距離としたとき、前記第1距離は、前記第2距離よりも長く、前記第1距離と前記第2距離との差が400μm以下である。
【0008】
前記第1距離と前記第2距離との差が265μm以下であることが好ましい。
前記正極活物質層の厚さと、前記負極活物質層の厚さの合計が400μm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体電解質が収容される密閉空間の内圧の増大に対する耐圧性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1に示す蓄電装置10は、例えば、フォークリフト、ハイブリッド自動車、電気自動車等の各種車両のバッテリに用いられる蓄電モジュールである。蓄電装置10は、例えば、ニッケル水素二次電池又はリチウムイオン二次電池等の二次電池である。蓄電装置10は、電気二重層キャパシタであってもよい。本実施形態では、蓄電装置10がリチウムイオン二次電池である場合を例示する。
【0012】
図1に示すように、蓄電装置10は、複数の蓄電セル20が積層方向にスタック(積層)されたセルスタック30(積層体)を含んで構成されている。以下では、複数の蓄電セル20の積層方向を単に積層方向という。各蓄電セル20は、正極21と、負極22と、セパレータ23と、シール部24とを備える。
【0013】
正極21は、正極集電体21aと、正極集電体21aの第1面21a1に設けられた正極活物質層21bとを備える。積層方向から見た平面視(以下、単に平面視という。)において、正極活物質層21bは、正極集電体21aの第1面21a1の中央部に形成されている。平面視における正極集電体21aの第1面21a1の周縁部は、正極活物質層21bが設けられていない正極未塗工部21cとなっている。正極未塗工部21cは、平面視において正極活物質層21bの周囲を囲むように配置されている。
【0014】
負極22は、負極集電体22aと、負極集電体22aの第1面22a1に設けられた負極活物質層22bとを備える。平面視において、負極活物質層22bは、負極集電体22aの第1面22a1の中央部に形成されている。平面視における負極集電体22aの第1面22a1の周縁部は、負極活物質層22bが設けられていない負極未塗工部22cとなっている。負極未塗工部22cは、平面視において負極活物質層22bの周囲を囲むように配置されている。
【0015】
正極21及び負極22は、正極活物質層21b及び負極活物質層22bが積層方向において互いに対向するように配置されている。つまり、正極21及び負極22の対向する方向は積層方向と一致している。負極活物質層22bは、正極活物質層21bよりも一回り大きく形成されており、積層方向から見た平面視において、正極活物質層21bの形成領域の全体が負極活物質層22bの形成領域内に位置している。
【0016】
正極集電体21aは、第1面21a1とは反対側の面である第2面21a2を有する。正極21は、正極集電体21aの第2面21a2に正極活物質層21b及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。負極集電体22aは、第1面22a1とは反対側の面である第2面22a2を有する。負極22は、負極集電体22aの第2面21a2に正極活物質層21b及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。
【0017】
セパレータ23は、正極21と負極22との間に配置されて、正極21と負極22とを隔離することで両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオン等の電荷担体を通過させる部材である。
【0018】
セパレータ23は、例えば、液体電解質を吸収保持するポリマーを含む多孔性シート又は不織布である。セパレータ23を構成する材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリエステルなどが挙げられる。セパレータ23は、単層構造又は多層構造を有してもよい。多層構造は、例えば、接着層、耐熱層としてのセラミック層等を有してもよい。
【0019】
シール部24は、正極21の正極集電体21aの第1面22a1と、負極22の負極集電体22aの第1面22a1との間、かつ正極活物質層21b及び負極活物質層22bよりも外周側に配置され、正極集電体21a及び負極集電体22aの両方に接着されている。シール部24は、正極集電体21aと負極集電体22aとの間を絶縁することによって、集電体間の短絡を防止する。
【0020】
シール部24は、平面視において、正極集電体21a及び負極集電体22aの周縁部に沿って延在するとともに、正極集電体21a及び負極集電体22aの周囲を取り囲む枠状に形成されている。シール部24は、正極集電体21aの第1面21a1の正極未塗工部21cと、負極集電体22aの第1面22a1の負極未塗工部22cとの間に配置されている。
【0021】
蓄電セル20の内部には、枠状のシール部24、正極21及び負極22によって囲まれた密閉空間Sが形成されている。密閉空間Sには、セパレータ23及び液体電解質が収容されている。なお、セパレータ23の周縁部分は、シール部24に埋まった状態とされている。
【0022】
シール部24は、正極21及び負極22との間の密閉空間Sを封止することにより、密閉空間Sに収容された液体電解質の外部への透過を抑制し得る。また、シール部24は、蓄電装置10の外部から密閉空間S内への水分の侵入を抑制し得る。さらに、シール部24は、例えば、充放電反応等により正極21又は負極22から発生したガスが蓄電装置10の外部に漏れることを抑制し得る。
【0023】
図2に示すように、積層方向において、正極活物質層21bと負極活物質層22bとが対向している部分における正極集電体21aの第1面21a1と負極集電体22aの第1面22a1との間の距離を第1距離D1とする。第1距離D1は、正極活物質層21bの厚さ、負極活物質層22bの厚さ、及びセパレータ23の厚さの合計に相当する。また、積層方向において、シール部24が接着している部分における正極集電体21aの第1面21a1と負極集電体22aの第1面22a1との間の距離を第2距離D2とする。第2距離D2は、シール部24の厚さに相当する。
【0024】
蓄電セル20は、第1距離D1が第2距離D2よりも長く、かつ第1距離D1と第2距離D2との差が特定値以下となるように構成されている。第1距離D1と第2距離D2との差は、400μm以下であり、265μm以下であることが好ましい。また、第1距離D1と第2距離D2との差は、例えば、5μm以上であり、10μm以上であることが好ましい。
【0025】
換言すると、正極集電体21aの第1面21a1及び負極集電体22aの第1面22a1の一方又は両方は、正極活物質層21bと負極活物質層22bとが対向している部分と、シール部24が接着している部分との間に特定値以下の段差を有している。上記段差は、正極集電体21aの第1面21a1の正極未塗工部21cにおけるシール部24が接着していない部分、及び負極集電体22aの第1面22a1の負極未塗工部22cにおけるシール部24が接着していない部分に位置している。以下では、正極未塗工部21cにおけるシール部24が接着していない部分を正極未接着部21c1と記載し、負極未塗工部22cにおけるシール部24が接着していない部分を負極未接着部22c1と記載する。
【0026】
なお、上記段差は、正極集電体21aの第1面21a1及び負極集電体22aの第1面22a1の一方のみに設けられていてもよい。この場合、正極集電体21aの第1面21a1及び負極集電体22aの第1面22a1の一方のみに段差が設けられ、他方は段差のない平面状になる。図面においては、一例として、正極集電体21aの第1面21a1及び負極集電体22aの第1面22a1の両方に段差が設けられている場合を図示している。
【0027】
第1距離D1と第2距離D2との差は、正極活物質層21bの厚さ、負極活物質層22bの厚さ、及びセパレータ23の厚さの合計に基づいて、シール部24の厚さを設定することにより調整できる。
【0028】
正極活物質層21bの厚さは、例えば、250~600μmであり、300μm以上であることが好ましく、400μm以上であることがより好ましい。負極活物質層22bの厚さは、例えば、150~400μmであり、200μm以上であることが好ましく、250μm以上であることがより好ましい。正極活物質層21bの厚さと負極活物質層22bの厚さの合計は、例えば、400μm以上であり、500μm以上であることが好ましく、650μm以上であることがより好ましい。また、正極活物質層21bの厚さと負極活物質層22bの厚さの合計は、例えば、1000μm以下である。セパレータ23の厚さは、例えば、10~20μmである。シール部24の厚さは、例えば、300~900μmである。
【0029】
また、正極集電体21aの第1面21a1に上記段差が設けられている場合、積層方向に直交する面方向において、正極集電体21aにおける正極活物質層21bが接着されている部分とシール部24が接着されている部分との間の距離L1は、例えば、15~60mmであり、25mm以上であることが好ましい。なお、距離L1が一定でない場合、距離L1の平均値を上記数値とすることが好ましい。
【0030】
負極集電体22aの第1面22a1に上記段差が設けられている場合、積層方向に直交する面方向において、負極集電体22aにおける負極活物質層22bが接着されている部分とシール部24が接着されている部分との間の距離L2は、例えば、10~50mmであり、20mm以上であることが好ましい。なお、距離L2が一定でない場合、距離L2の平均値を上記数値とすることが好ましい。
【0031】
図1に示すように、セルスタック30は、複数の蓄電セル20が、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とが接触するように重ね合わされた構造を有する。これにより、セルスタック30を構成する複数の蓄電セル20が直列に接続されている。
【0032】
ここで、セルスタック30においては、積層方向に隣り合う二つの蓄電セル20により、互いに接する正極集電体21a及び負極集電体22aを一つの集電体とみなした疑似的なバイポーラ電極25が形成される。疑似的なバイポーラ電極25は、正極集電体21a及び負極集電体22aが重ね合わされた構造の集電体と、その集電体の一方側の面に形成された正極活物質層21bと、他方側の面に形成された負極活物質層22bとを含む。
【0033】
蓄電装置10は、セルスタック30の積層方向においてセルスタック30を挟むように配置された、正極通電板40及び負極通電板50からなる一対の通電体を備える。正極通電板40及び負極通電板50は、それぞれ、導電性に優れた材料で構成される。
【0034】
正極通電板40は、積層方向の一端において最も外側に配置された正極21の正極集電体21aの第2面21a2に電気的に接続される。負極通電板50は、積層方向の他端において最も外側に配置された負極22の負極集電体22aの第2面22a2に電気的に接続される。
【0035】
正極通電板40及び負極通電板50のそれぞれに設けられた端子を通じて蓄電装置10の充放電が行われる。正極通電板40を構成する材料としては、例えば、正極集電体21aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。正極通電板40は、セルスタック30に用いられた正極集電体21aよりも厚い金属板で構成してもよい。負極通電板50を構成する材料としては、例えば、負極集電体22aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。負極通電板50は、セルスタック30に用いられた負極集電体22aよりも厚い金属板で構成してもよい。
【0036】
蓄電装置10は、セルスタック30を拘束する拘束部材60を備えている。拘束部材60は、セルスタック30の積層方向において、蓄電セル20同士が対向する領域、特に、平面視において、正極活物質層21bが設けられている範囲と負極活物質層22bが設けられている範囲とが重なる領域に拘束加重を付与する。
【0037】
セルスタック30に対して拘束加重を付与することのできる構成であれば、拘束部材60の具体的構成は特に限定されない。
図1においては、一例として、セルスタック30を挟み込むようにセルスタック30の積層方向の両端に配置される板状の拘束板61と、拘束板61同士を締結するボルト及びナットからなる締結部材62とを備える拘束部材60を図示している。締結部材62によって、拘束板61同士が互いに接近する方向に付勢されることにより、セルスタック30に対して積層方向の拘束加重が付与される。
【0038】
次に、正極集電体21a、負極集電体22a、正極活物質層21b、負極活物質層22b、液体電解質、及びシール部24の詳細について説明する。
<正極集電体及び負極集電体>
正極集電体21a及び負極集電体22aは、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、正極活物質層21b及び負極活物質層22bに電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。
【0039】
正極集電体21a及び負極集電体22aの一方は、アルミニウム箔であり、正極集電体21a及び負極集電体22aの他方は、アルミニウム箔又は銅箔である。正極集電体21a及び負極集電体22aの好ましい一例としては、正極集電体21aをアルミニウム箔により構成するとともに、負極集電体22aを銅箔により構成した場合が挙げられる。
【0040】
上記アルミニウム箔の厚さは、例えば、1μm以上50μm以下であり、1μm以上20μm以下であることが好ましい。薄いアルミニウム箔を用いることにより、蓄電セル20のエネルギー密度を大きくできる。また、蓄電装置10の積層方向の高さを低くできる。
【0041】
上記アルミニウム箔は、ヤング率と箔の厚さの積として算出される耐力が、例えば、70MPa・mm以上であることが好ましく、1050MPa・mm以下であることが好ましい。
【0042】
上記銅箔の厚さは、例えば、1μm以上25μm以下μmであり、1μm以上15μm以下であることが好ましい。薄い銅箔を用いることにより、蓄電セル20のエネルギー密度を大きくできる。また、蓄電装置10の積層方向の高さを低くできる。
【0043】
上記銅箔は、ヤング率と箔の厚さの積として算出される耐力が、例えば、120MPa・mm以上であることが好ましく、1800MPa・mm以下であることが好ましい。
上記アルミニウム箔及び上記銅箔の表面は、公知の保護層により被覆されてもよいし、メッキ処理等の公知の方法により処理されていてもよい。上記表面処理としては、例えば、クロメート処理、リン酸クロメート処理が挙げられる。
【0044】
なお、以下では、正極集電体21a及び負極集電体22aを特定しない場合に、単に集電体と記載することがある。
<正極活物質層及び負極活物質層>
正極活物質層21bは、リチウムイオンなどの電荷担体を吸蔵及び放出し得る正極活物質を含む。正極活物質としては、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物、ポリアニオン系化合物など、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なものを採用すればよい。また、2種以上の正極活物質を併用してもよい。本実施形態において、正極活物質層21bはポリアニオン系化合物としてのオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を含む。
【0045】
負極活物質層22bは、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はなく使用可能である。例えば、負極活物質としてLi、又は、炭素、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素としては天然黒鉛、人造黒鉛、あるいはハードカーボン(難黒鉛化性炭素)又はソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)を挙げることができる。人造黒鉛としては、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ等が挙げられる。リチウムと合金化可能な元素の例としては、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。本実施形態において、負極活物質層22bは炭素系材料としての黒鉛を含む。
【0046】
正極活物質層21b及び負極活物質層22b(以下、単に活物質層ともいう。)はそれぞれ、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、液体電解質等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等をさらに含み得る。活物質層に含まれる成分又は当該成分の配合比及び活物質層の厚さは特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。
【0047】
導電助剤は、正極21又は負極22の導電性を高めるために添加される。導電助剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等である。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体を例示することができる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒又は分散媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。
【0048】
正極集電体21a及び負極集電体22aの表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法等の従来から公知の方法を用いてもよい。
正極21又は負極22の熱安定性を向上させるために、活物質層の表面に上記の耐熱層を設けてもよい。
【0049】
活物質層の目付量は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。ただし、蓄電セル20のエネルギー密度を大きくする観点から、活物質層の目付量を大きくすることが好ましい。
【0050】
正極活物質層21bの目付量は、例えば、55~90mg/cm2であり、60mg/cm2以上であることが好ましく、70mg/cm2以上であることがより好ましい。負極活物質層22bの目付量は、例えば、25~45mg/cm2であり、30mg/cm2以上であることが好ましい。
【0051】
<シール部>
シール部24は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成される。熱可塑性ポリオレフィン系樹脂の種類としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、変性ポリエチレン(変性PE)、変性ポリプロピレン(変性PP)、イソプレン、変性イソプレン、ポリブテン、変性ポリブテン、ポリブタジエンが挙げられる。変性ポリエチレンとしては、例えば、酸変性ポリエチレン、エポキシ変性ポリエチレンが挙げられる。変性ポリプロピレンとしては、例えば、酸変性ポリプロピレン、エポキシ変性ポリプロピレンが挙げられる。なお、上記のポリオレフィン系樹脂を二種以上組合せて用いてもよい。
【0052】
上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂は、ピークトップ温度が135℃以下である。熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度は、熱可塑性ポリオレフィン系樹脂を用いた熱溶着によりアルミニウム箔同士又はアルミニウム箔と銅箔とを接着した積層体の接着強度と、熱溶着時の温度である熱溶着温度との関係において、接着強度が最大となるときの熱溶着温度を意味する。接着強度は、180°ピール試験により得られる剥離強度を接着幅で除した値である。
【0053】
なお、シール部24により接着された正極集電体21aと負極集電体22aとの間の接着強度は、例えば、0.8N/mm以上であることが好ましく、1.0N/mm以上であることがより好ましい。
【0054】
上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂の融点は、例えば、70℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。
上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂の線膨張率は、例えば、25×10-5/℃以下であることが好ましく、15×10-5/℃以下であることがより好ましい。上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂の線膨張率が15×10-5/℃以下である場合には、集電体にシール部24を接着させた際に集電体に生じる皺を抑制する効果が得られる。
【0055】
<液体電解質>
液体電解質としては、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む液体電解質が挙げられる。電解質塩として、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2等の公知のリチウム塩を使用できる。また、非水溶媒として、環状カーボネート類、環状エステル類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類等の公知の溶媒を使用できる。なお、これら公知の溶媒材料を二種以上組合せて用いてもよい。
【0056】
次に、本実施形態の蓄電装置10の製造方法について説明する。
蓄電装置10は、電極形成工程と、蓄電セル形成工程と、セルスタック形成工程と順に経ることにより製造される。
【0057】
<電極形成工程>
電極形成工程は、正極21を形成する正極形成工程と、負極22を形成する負極形成工程とを有する。
【0058】
正極形成工程は特に限定されるものではなく、正極集電体21a及び正極活物質層21bを備える正極21の形成に適用される公知の方法を用いることができる。例えば、正極集電体21aとしてのアルミニウム箔の第1面21a1に対して、固化することにより正極活物質層21bとなる正極合材を所定厚みとなるように付着させた後、正極合材に応じた固化処理を行うことにより正極21を形成することができる。
【0059】
負極形成工程は特に限定されるものではなく、負極集電体22a及び負極活物質層22bを備える負極22の形成に適用される公知の方法を用いることができる。例えば、負極集電体22aとしての銅箔の第1面22a1に対して、固化することにより負極活物質層22bとなる負極合材を所定厚みとなるように付着させた後、負極合材に応じた固化処理を行うことにより負極22を形成することができる。
【0060】
<蓄電セル形成工程>
蓄電セル形成工程では、まず、セパレータ23を間に挟んで正極活物質層21b及び負極活物質層22bが互いに積層方向に対向するように正極21及び負極22を配置するとともに、正極21と負極22の間、かつ正極集電体21a及び負極集電体22aよりも外周側にシール部24となるシール材を配置する。シール材としては、例えば、上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂からなる樹脂シートを、シール部24の平面視形状と同形状に切り出したものを用いる。
【0061】
その後、シール材を135℃以下の温度、好ましくは、シール材を構成する上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度となるように加熱して、正極21、負極22、及びセパレータ23とシール材とを熱溶着により接着する。これにより、正極21、負極22、セパレータ23、及びシール部24が一体化された組立体が形成される。
【0062】
次に、シール部24の一部に設けられた注入口を通じて組立体の内部の密閉空間Sに液体電解質を注入した後、注入口を封止する。これにより、蓄電セル20が形成される。
<セルスタック形成工程>
セルスタック形成工程では、まず、複数の蓄電セル20を、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とを向い合せるように重ねて積層する。
【0063】
次に、積層方向の一端において最も外側に配置された正極21の正極集電体21aの第2面21a2に対して、正極通電板40を重ねて電気的に接続した状態にて固定する。同様に、積層方向の他端において最も外側に配置された負極22の負極集電体22aの第2面22a2に対して、負極通電板50を重ねて電気的に接続した状態にて固定する。これにより、セルスタック30が形成される。その後、セルスタック30に対して拘束部材60を取り付ける。例えば、セルスタック30の積層方向の両端に拘束板61を配置した後、締結部材62にて拘束板61同士を締結する。
【0064】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の蓄電装置10では、集電体の構成材料と、シール部24の構成材料の組み合わせとして、アルミニウム箔と、ピークトップ温度が135℃以下である熱可塑性ポリオレフィン系樹脂とを用いている。これにより、アルミニウム箔により構成される集電体とシール部24との間の剥離強度が向上する。
【0065】
また、積層方向における正極集電体21aの第1面21a1と負極集電体22aの第1面21a1との間の距離に関して、正極活物質層21bと負極活物質層22bとが対向している部分の距離である第1距離D1が、シール部24が接着している部分における距離である第2距離D2よりも長く、かつ第1距離D1と第2距離D2との差が400μm以下となるように構成している。
【0066】
図3に示すように、密閉空間Sの周縁部分において、密閉空間Sの内圧Fは、正極集電体21aの第1面21a1の正極未接着部21c1、負極集電体22aの第1面22a1の負極未接着部22c1、及びシール部24の内周面に作用する。ここで、第1距離D1が第2距離D2よりも長い場合、正極未接着部21c1及び負極未接着部22c1の一部又は全部は、正極集電体21aの第1面21a1及び負極集電体22aの第1面22a1とシール部24との接着面A1に対して交差する交差面A2となる。交差面A2に作用する密閉空間Sの内圧は、接着面A1に対して垂直方向の成分を含む力となり、当該力は、接着面A1から正極集電体21aの第1面21a1及び負極集電体22aの第1面22a1を引き剥がす力として強く働く。
【0067】
本実施形態では、第1距離D1と第2距離D2との差を小さくすることによって、接着面A1に対する交差面A2の傾斜角度を小さくしている、又は交差面A2の面積を小さくしている。これにより、密閉空間Sの内圧に基づいて正極未接着部21c1及び負極未接着部22c1に作用する上記垂直方向の成分の力を小さくできる。その結果、密閉空間Sの内圧が増大した際における接着面A1の剥離を抑制できる。
【0068】
本実施形態によれば、以下に記載する効果を得ることができる。
(1)蓄電装置10は、正極集電体21a及び正極活物質層21bを有する正極21と、負極集電体22a及び負極活物質層22bを有する負極22と、正極活物質層21bと負極活物質層22bとの間に配置されたセパレータ23と、正極21と負極22との間に液体電解質を収容する密閉空間Sを形成するシール部24とを備える。正極集電体21a及び負極集電体22aの一方は、アルミニウム箔により構成されるとともに、正極集電体21a及び負極集電体22aの他方は、アルミニウム箔又は銅箔により構成される。シール部24は、接着強度が最大となる溶着温度であるピークトップ温度が135℃以下である熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成される。積層方向における正極集電体21aの第1面21a1と負極集電体22aの第1面22a1との間の距離に関して、正極活物質層21bと負極活物質層22bとが対向している部分の距離である第1距離D1は、シール部24が接着している部分における距離である第2距離D2よりも長く、第1距離D1と第2距離D2との差が400μm以下である。
【0069】
上記構成では、集電体の構成材料と、シール部24の構成材料の組み合わせとして、アルミニウム箔と、ピークトップ温度が135℃以下である熱可塑性ポリオレフィン系樹脂とを用いるとともに、第1距離D1及び第2距離D2が特定の関係を満たすように構成している。これにより、液体電解質が収容される密閉空間Sの内圧に対する耐圧性能が向上する。
【0070】
(2)第1距離D1及び第2距離D2が265μm以下である。
上記構成によれば、特に、密閉空間Sの内圧変動の繰り返しに対する耐久性能を向上させることができる。
【0071】
(3)正極活物質層21bの厚さと、負極活物質層22bの厚さの合計が400μm以上である。
活物質層を大きく形成するほど、密閉空間Sの内圧上昇及び内圧変化が大きくなる。そのため、上記の構成のように、正極活物質層21b及び負極活物質層22bを大きく形成した場合には、上記(1)及び上記(2)の効果がより顕著に得られる。
【0072】
(4)蓄電セル形成工程において、正極21と負極22の間に熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成されるシール材を配置し、シール材を構成する上記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度以下の温度でシール材を熱溶着させることによりシール部24を形成する。
【0073】
上記構成によれば、耐力の小さい箔状の集電体を採用した場合に、シール部24の体積変化に起因して集電体に生じる皺を抑制できる。
(5)蓄電装置10は拘束部材60を備え、積層方向における正極集電体21aの第1面21a1と負極集電体22aの第1面22a1との間の距離に関して、正極活物質層21bと負極活物質層22bとが対向している部分の距離である第1距離D1は、シール部24が接着している部分における距離である第2距離D2よりも長い。
【0074】
第1距離D1が第2距離D2以下となる場合、拘束部材60による拘束加重が、シール部24が位置している部分に集中して付与されて、正極活物質層21bと負極活物質層22bとが対向している部分にうまく付与されない虞がある。この場合、蓄電セル20の充放電時の膨張収縮により、正極活物質層21bと負極活物質層22bとの積層方向の距離が広がることで蓄電セル20の抵抗増大の虞がある。また、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2との接触面積が小さくなることで、正極集電体21aと負極集電体22aとの接触抵抗増大の虞がある。そのため、第1距離D1を第2距離D2より長くすることで、蓄電セル20の抵抗増大を抑制することができる。
【0075】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○セルスタック30において、積層される各蓄電セル20の隣り合うシール部24同士を接着して一体化した構成としてもよい。例えば、シール部24に対して、正極集電体21aと負極集電体22aの各縁部よりも外側に延びる外周部分を設ける。この外周部分は、積層方向から見て正極集電体21aと負極集電体22aの各縁部よりも積層方向に直交する方向に突出している。積層方向に隣り合う各蓄電セル20のシール部24の外周部分同士を接着することにより、シール部24を一体化する。隣り合うシール部24同士を接着する方法としては、例えば、熱溶着、超音波溶着又は赤外線溶着など、公知の溶着方法が挙げられる。また、シール部24同士を接着する際に、必要に応じて、熱可塑性樹脂等のシール材料を追加及び充填してもよい。
【0076】
〇正極集電体21a及び正極活物質層21bの平面視形状は特に限定されるものではない。矩形状等の多角形状であってもよいし、円形や楕円形であってもよい。負極集電体22a及び負極活物質層22bについても同様である。
【0077】
〇シール部24の平面視形状は特に限定されるものではなく、矩形状等の多角形状であってもよいし、円形や楕円形であってもよい。
○正極通電板40と正極集電体21aとの間に、両部材間の導電接触を良好にするために、正極集電体21aに密着する導電層を配置してもよい。導電層としては、例えば、アセチレンブラック又はグラファイト等のカーボンを含む層、Au等を含むメッキ層などの正極集電体21aよりも低い硬度を有する層が挙げられる。また、負極通電板50と負極集電体22aとの間に同様の導電層を配置してもよい。
【0078】
〇蓄電装置10を構成する蓄電セル20の数は特に限定されない。蓄電装置10を構成する蓄電セル20の数は、1であってもよい。
〇正極集電体21aの第2面21a2に、正極活物質層21b又は負極活物質層22bが設けられていてもよい。また、負極集電体22aの第2面22a2に、正極活物質層21b又は負極活物質層22bが設けられていてもよい。
【0079】
○電極は、積層方向に正極活物質層21bと負極活物質層22bとが対向している部分において、正極集電体21aと負極集電体22aとがそれぞれの第2面側において部分的に一体化された集電体を用いたバイポーラ電極でもよい。このとき、正極集電体21aと負極集電体22aのシール部24が接着している部分と、正極未接着部21c1及び負極未接着部22c1におけるシール部24が接着している部分に繋がる外周側の部分を含む少なくとも一部は、正極集電体21aと負極集電体22aとが一体化されていない。換言すると、正極集電体21aと負極集電体22aのシール部24が接着している部分、並びに正極未接着部21c1及び負極未接着部22c1におけるシール部24が接着している部分に繋がる外周側の部分を含む少なくとも一部において、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2は接触しておらず積層方向に離間している。上記の構成とすることで、上記実施形態と同様の第1距離D1と第2距離D2の関係を満たす蓄電装置10を構成することができる。
【0080】
上記のバイポーラ電極の集電体としては、例えば、アルミニウム箔同士を貼り合せた集電体、アルミニウム箔と銅箔とを貼り合せた集電体が挙げられる。
○セルスタック30において、積層方向に隣接する蓄電セル20同士の接触部分である正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とを接着させた構成としてもよい。正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とを接着する方法としては、例えば、導電性を有する接着剤を用いる方法が挙げられる。
【0081】
〇上記実施形態では、セルスタック30に対して拘束部材60を設けていたが、拘束部材60は省略してもよい。
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
【0082】
(イ)前記正極集電体の第1面及び前記負極集電体の第1面の少なくとも一方は、前記正極活物質層及び前記負極活物質層のいずれかの活物質層が接着されている部分と前記シール部が接着されている部分との間に、前記活物質層及び前記シール部が接着されていない未接着部を備えている前記蓄電装置。
【0083】
(ロ)前記蓄電装置の製造方法であって、前記セパレータを間に挟んで前記正極活物質層及び前記負極活物質層が互いに積層方向に対向するように前記正極及び前記負極を配置するとともに、前記正極と前記負極の間、かつ前記正極集電体及び前記負極集電体よりも外周側に、前記熱可塑性ポリオレフィン系樹脂により構成されるシール材を配置し、135℃以下の温度で前記シール材を熱溶着させることにより前記シール部を形成する前記蓄電装置の製造方法。
【実施例】
【0084】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度の測定)
縦150mm×横90mmの長方形状に切り出した厚さ15μmのアルミニウム箔、及び同形状の厚さ10μmの銅箔を用意した。アルミニウム箔の上に、縦150mm×横15mm×厚さ100μmの長方形状のシール材をアルミニウム箔の端部に揃えるように配置した後、更にその上に、アルミニウム箔の端部に揃えるように銅箔を配置することにより積層体を得た。シール材としては、下記の酸変性ポリエチレン樹脂(PE)及び酸変性ポリプロピレン樹脂(PP)のいずれかからなる樹脂シートを用いた。
【0085】
PE:融点95℃、線膨張率22×10-5/℃の酸変性ポリエチレン樹脂
PP:融点160℃、線膨張率10×10-5/℃の酸変性ポリプロピレン樹脂
次に、インパルス式シーラーを用いてシール材を加熱することにより、アルミニウム箔と銅箔とをシール材により接着した。インパルス式シーラーによる加熱は、表1に示す溶着温度となるように電流を設定し、9.9秒間、0.5Mpaの圧力で行った。
【0086】
接着された積層体を、接着された端部から直交する方向に15mmの幅で切断して得られた断片を測定サンプルとした。測定サンプルのアルミニウム箔と銅箔とを引き剥がす形式にて、180°ピール試験を室温で行うことにより、剥離強度を測定した。そして、下記式(1)に基づいて接着強度を算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0087】
接着強度(N/mm)=剥離強度(N)÷15mm …(1)
次に、算出した接着強度と溶着温度とをプロットしたグラフ(図示略)から、各熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度Tpを算出した。その結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
(試験サンプルの作製)
図4に示す試験サンプル100を作製した。まず、縦140mm×横140mmの正方形状に切り出した箔状の正極集電体101及び負極集電体102を用意した。負極集電体102の上面の中央部に縦60mm×横60mmの正方形状のスペーサ104を接着するとともに、負極集電体102の上面に、縦140mm×横140mm×幅13.5mmの長方形枠状のシール材103を負極集電体102の外周縁に沿って配置した。シール材103は、上記実施形態のシール部に相当する。
【0089】
次に、シール材103及びスペーサ104の上に正極集電体101を積層するとともに、正極集電体101とスペーサ104とを接着させることにより積層体を得た。スペーサ104と正極集電体101及び負極集電体102の接着には接着剤を用いた。
【0090】
次に、ベルトシーラーを用いて、シール材103を構成する熱可塑性ポリオレフィン系樹脂のピークトップ温度となるように積層体のシール材103を加熱することにより、正極集電体101及び負極集電体102とシール材103とを接着した。その後、正極集電体101の中央部に開口部105を設けることにより、試験例1~4の試験サンプル100を得た。試験サンプル100の正極集電体101及び負極集電体102におけるスペーサ104が接着されている部分とシール材103が接着されている部分との間の距離L3は、28.5mmである。
【0091】
正極集電体101及び負極集電体102としては、厚さ10μm又は15μmのアルミニウム箔、及び厚さ10μmの銅箔を用いた。シール材103としては、上記PE又は上記PPを用いた。スペーサ104としては、アルミニウムにより構成される金属プレートを用いた。また、シール材103及びスペーサ104の厚さを変更することにより、スペーサ104が接着されている部分における正極集電体101と負極集電体102との間の距離である第1距離D1、及びシール材103が接着されている部分における正極集電体101と負極集電体102との間の距離である第2距離D2を調整した。試験例1~4の試験サンプル100に用いた各部材の種類、並びに試験例1~4の試験サンプル100の第1距離D1及び第2距離D2は表2に示すとおりである。
【0092】
(耐圧試験)
図4に示すように、試験サンプル100を平板状の2枚の第1治具106aの間に挟み込み、2枚の第1治具106aを第2治具106bにて固定した。また、正極集電体101と第1治具106aとの間には、開口部105を囲むようにOリング107を配置した。次に、第1治具106aに設けられた孔106a1を通じて正極集電体101の開口部105から試験サンプル100の内部に加圧媒体としての水又は窒素を充填することにより、試験サンプル100の内圧を徐々に上昇させた。そして、シール材103と正極集電体101又は負極集電体102との接着部分が開裂したタイミングにおける試験サンプル100の内圧を開裂圧として測定した。その結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
試験例1及び試験例2の結果に示されるように、シール材を構成する樹脂として、ピークトップ温度Tpが135℃以下の樹脂であるPEを用いた場合には、第1距離D1と第2距離D2との差を小さくすることにより、開裂圧が大きく上昇した。一方、試験例3及び試験例4の結果に示されるように、シール材を構成する樹脂として、ピークトップ温度Tpが135℃を超える樹脂であるPPを用いた場合には、第1距離D1と第2距離D2との差を小さくすることにより、開裂圧が上昇したものの、その上昇度合は僅かであった。これらの結果から、第1距離D1と第2距離D2との差を小さくする構成は、ピークトップ温度Tpが135℃以下の樹脂により構成されるシール材と組み合わせた場合に、耐圧性能を顕著に向上させる効果が得られることが分かる。
【0094】
(内圧変動試験)
上記PEからなるシール材103を用いて試験例5~13の試験サンプル100を上記と同様にして作製した。試験例5~13の試験サンプル100に用いた各部材の種類、並びに試験例5~13の試験サンプル100の第1距離D1及び第2距離D2は表3に示すとおりである。
【0095】
試験サンプル100に対して上記と同様に第1治具106a及び第2治具106bを固定した。次に、第1治具106aに設けられた孔106a1を通じて正極集電体101の開口部105から試験サンプル100の内部に加圧媒体としての水を充填した。そして、試験サンプル100の内部への加圧媒体の充填量を周期的に変化させることにより、試験サンプル100の内圧を変動させた。具体的には、内圧0MPaの基準状態にある試験サンプル100に対して、予め設定された規定量の加圧媒体を充填して高圧状態とした後、規定量の加圧媒体を排出して基準状態に戻す操作を1サイクルとし、1サイクル3秒にて20000サイクル、試験サンプル100の内圧を変動させた。上記規定量は、初期状態の試験サンプル100に対して、圧力0MPaの基準状態から圧力0.2MPaの高圧状態とするために必要な充填量である。そして、20000サイクル後の試験サンプル100を観察して、シール材103と正極集電体101及び負極集電体102との接着部分の開裂の有無を確認した。その結果を表3に示す。
【0096】
【表3】
試験例5~13の結果から、第1距離D1と第2距離D2との差を小さくすることにより、内圧変動による開裂を抑制できることが分かる。また、銅箔により構成される集電体を用いた場合と比較して、アルミニウム箔により構成される集電体を用いた場合の方が内圧変動による開裂が生じやすい結果であった。したがって、正極集電体及び負極集電体の一方又は両方にアルミニウム箔により構成される集電体を用いる場合、アルミニウムにより構成される集電体を用いた結果に基づいて、第1距離D1と第2距離D2の差を設定する必要がある。具体的には、正極集電体及び負極集電体の一方又は両方にアルミニウムにより構成される集電体を用いた場合には、第1距離D1と第2距離D2の差を265μm以下とすると、内圧変動による開裂を効果的に抑制できる。
【符号の説明】
【0097】
S…密閉空間、10…蓄電装置、20…蓄電セル、21…正極、21a…正極集電体、21b…正極活物質層、22…負極、22a…負極集電体、22b…負極活物質層、23…セパレータ、24…シール部、30…セルスタック、40…正極通電板、50…負極通電板。