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特許7543887潜熱蓄熱装置およびそれに用いる過冷却防止媒体の製造方法
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  • 特許-潜熱蓄熱装置およびそれに用いる過冷却防止媒体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱装置およびそれに用いる過冷却防止媒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/02 20060101AFI20240827BHJP
   C09K 5/06 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
F28D20/02 F
C09K5/06 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020203453
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022090880
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋臣
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-068418(JP,A)
【文献】特開昭60-155285(JP,A)
【文献】特開2013-194970(JP,A)
【文献】特開昭63-189789(JP,A)
【文献】特開平09-077517(JP,A)
【文献】特開2013-067720(JP,A)
【文献】特開2010-138047(JP,A)
【文献】特開2002-228377(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0167079(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0105727(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/02
F28D 20/00
C09K 5/06
B60H 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属の陽イオンを含有する水溶液と、前記アルカリ土類金属の陽イオンと反応して水に不溶性又は難溶性の塩を生成する陰イオンを含有する水溶液とを混合し、過冷却防止剤として水に不溶性又は難溶性の塩を生成する、潜熱蓄熱装置に用いる過冷却防止媒体の製造方法であって、
前記陽イオンを含有する水溶液および前記陰イオンを含有する水溶液の一方の水溶液に、多孔質体を浸漬する工程と、
前記陽イオンを含有する水溶液および前記陰イオンを含有する水溶液の他方の水溶液を、前記多孔質体が浸漬されている水溶液に添加し、水に不溶性又は難溶性の塩を前記多孔質体に担持させる工程と
を含む潜熱蓄熱装置に用いる過冷却防止媒体の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質体に予め加熱真空脱気処理を施す工程を更に含む請求項1に記載の潜熱蓄熱装置に用いる過冷却防止媒体の製造方法。
【請求項3】
前記陽イオンがストロンチウムイオンであり、前記陰イオンが硫酸イオンである請求項1又は2に記載の潜熱蓄熱装置に用いる過冷却防止媒体の製造方法。
【請求項4】
水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩を多孔質体に担持させた過冷却防止媒体を収納した種結晶部と、
前記種結晶部と断続可能に連通する潜熱蓄熱材を収容した蓄熱部と、
前記潜熱蓄熱材への伝熱部と
を備えた潜熱蓄熱装置であって、前記種結晶部と前記蓄熱部とが一つの容器に備わっている潜熱蓄熱装置
【請求項5】
水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩を多孔質体に担持させた過冷却防止媒体を収納した種結晶部と、
前記種結晶部と断続可能に連通する潜熱蓄熱材を収容した蓄熱部と、
前記潜熱蓄熱材への伝熱部と
を備えた潜熱蓄熱装置であって、前記過冷却防止媒体が、前記種結晶部の内面の表面コーティング層である潜熱蓄熱装置。
【請求項6】
前記水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩が、硫酸ストロンチウムであり、前記潜熱蓄熱材が塩化カルシウム水和物である請求項4又は5に記載の潜熱蓄熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱装置およびそれに用いる過冷却防止媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両等の移動体のエンジンを始動する際に、暖機を促進して燃費向上や排ガスの浄化を行ったり、暖房性能を向上するために、移動体から排出される熱エネルギを蓄熱材に一時的に蓄えて使用する蓄熱装置が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、加熱溶融後の放冷時に過冷却状態を生じさせる潜熱型蓄熱物質を納めた蓄熱容器と、蓄熱物質への伝熱手段と、過冷却状態を崩壊させる結晶核形成物質を納めた種結晶容器と、蓄熱容器と種結晶容器との各内部を連通させる連通手段と、この連通手段の連通断続手段とを備えた蓄熱装置が記載されている。この蓄熱装置は、種結晶容器内の、連通手段から最も隔った個所に結晶核形成物質を充填すると共に、残余の空間に潜熱型蓄熱物質を満したことを特徴とするものである。
【0004】
特許文献1に記載されているような過冷却タイプの潜熱型蓄熱物質の蓄熱原理は、固相の状態でその融点以上に加熱されると、液相に変態する。この液相は融点以下に冷却しても再結晶化することなく、過冷却状態として液相を保ちつづけ、加熱時の吸収熱が潜熱として蓄えられる。この吸収熱を利用したい時に、過冷却状態を崩壊させる働きをもった結晶核形成物質を蓄熱物質に触れさせることによって、再結晶化することから、蓄積潜熱は液相から固相への状態変化に伴う放散熱として、極く短時間で取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-68418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、過冷却状態にある液相の蓄熱物質を任意のタイミングで発核させて、固相に相変化させるためには、種結晶が必要である。その種結晶を安定して保持するために、融点以下では蓄熱物質を強制的に固体へと相変化させる過冷却防止剤を用いることが知られている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている蓄熱装置において、種結晶容器に過冷却防止剤を用いると、放熱時に蓄熱容器と種結晶容器を連通させ、蓄熱容器内の蓄熱物質が種結晶容器側に流れる際、蓄熱物質に過冷却防止剤が溶出すると、蓄熱容器内へ過冷却防止剤が混入し、蓄熱容器での蓄熱ができなくなるという問題がある。
【0008】
特に、蓄熱物質への伝熱時に蓄熱容器だけでなく種結晶容器までも温度が上昇してしまうと、過冷却防止剤の溶出が大きくなるため、過冷却防止剤を収容する種結晶容器を蓄熱容器から遠ざけて配置する必要があり、よって、蓄熱装置をコンパクトにできないという課題があった。
【0009】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、過冷却防止剤が潜熱蓄熱材へ溶出することによる蓄熱の不具合を抑止できるとともに、過冷却防止剤を伝熱手段の近傍に配置することが可能で、潜熱蓄熱装置をコンパクトにできる潜熱蓄熱装置およびそれに用いる過冷却防止媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、アルカリ土類金属の陽イオンを含有する水溶液と、前記アルカリ土類金属の陽イオンと反応して水に不溶性又は難溶性の塩を生成する陰イオンを含有する水溶液とを混合し、過冷却防止剤として水に不溶性又は難溶性の塩を生成する、潜熱蓄熱装置に用いる過冷却防止媒体の製造方法であって、この方法は、前記陽イオンを含有する水溶液および前記陰イオンを含有する水溶液の一方の水溶液に、多孔質体を浸漬する工程と、前記陽イオンを含有する水溶液および前記陰イオンを含有する水溶液の他方の水溶液を、前記多孔質体が浸漬されている水溶液に添加し、水に不溶性又は難溶性の塩を前記多孔質体に担持させる工程とを含む。
【0011】
また、本発明は、別の態様として、潜熱蓄熱装置であって、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩を多孔質体に担持させた過冷却防止媒体を収納した種結晶部と、前記種結晶部と断続可能に連通する潜熱蓄熱材を収容した蓄熱部と、前記潜熱蓄熱材への伝熱部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明よれば、多孔質体の細孔中に、アルカリ土類金属の陽イオン又はそれと反応して水に不溶性又は難溶性の塩を生成する陰イオンが十分に含浸した状態で、水に不溶性又は難溶性の塩の生成反応が起こるため、過冷却防止剤である水に不溶性又は難溶性の塩を多孔質体に確実に担持させることができる。そして、過冷却防止剤を多孔質体に担持させた過冷却防止媒体を潜熱蓄熱装置の種結晶部に収納することで、過冷却防止剤が潜熱蓄熱材へ溶出することによる蓄熱の不具合を抑止できるとともに、この過冷却防止媒体は伝熱部の近傍に配置することが可能で、よって、潜熱蓄熱装置をコンパクトにできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る過冷却防止媒体の製造方法の一実施の形態を模式的に説明するフロー図である。
図2】本発明に係る潜熱蓄熱装置の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
図3図2に示す潜熱蓄熱装置の蓄熱および放熱を模式的に説明するフロー図である。
図4】従来の潜熱蓄熱装置の蓄熱時の課題を模式的に示す断面図である。
図5】本発明に係る潜熱蓄熱装置の別の実施の形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る潜熱蓄熱装置およびそれに用いる過冷却防止媒体の製造方法の一実施の形態について説明する。
【0015】
本実施の形態の過冷却防止媒体の製造方法は、図1に示すように、アルカリ土類金属の陽イオンを含有する水溶液1(単に「陽イオン含有水溶液」とも呼ぶ)に、多孔質体2を浸漬する浸漬工程(図1(a))と、アルカリ土類金属の陽イオンと反応して水に不溶性又は難溶性の塩を生成する陰イオンを含有する水溶液3(単に「陰イオン含有水溶液」とも呼ぶ)を、多孔質体2が浸漬されている陽イオン含有水溶液1に添加し、水に不溶性又は難溶性の塩(過冷却防止剤)を多孔質体に担持させる担持工程(図1(c))とを主に含むものである。これによって、多孔質体に過冷却防止剤が担持された過冷却防止媒体5を得ることができる(図1(d))。各工程について更に詳細に説明する。
【0016】
浸漬工程では、図1(a)に示すように、スクリュー瓶等の容器10に、アルカリ土類金属の陽イオンを含有する水溶液1を入れる。アルカリ土類金属としては、過冷却防止剤ないし過冷却防止媒体として優れた過冷却防止効果を奏するとともに、水に不溶性又は難溶性の塩を生成するという観点から、ストロンチウムやバリウムなどが好ましい。また、その水溶液としては、多孔質体を浸漬するとともに、水に不溶性又は難溶性の塩を生成するという観点から、塩化アルカリ土類金属水溶液や、水酸化アルカリ土類金属水溶液、硝酸アルカリ土類金属水溶液などが好ましい。陽イオン含有水溶液1の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1~1.5mol/Lが好ましく、1~1.2mol/Lがより好ましい。
【0017】
多孔質体2としては、過冷却防止剤が担持される細孔を有するものであれば特に限定されないが、例えば、活性炭を用いてもよいし、樹脂多孔質膜などの有機多孔体を用いてもよいし、多孔質セラミック、ゼオライト、シリカゲルなどの無機多孔体を用いてもよい。活性炭は、原料の種類で大別されることがあるが、木質系でも石炭系でもよく、例えば、椰子殻、石炭、石油ピッチなどでよい。多孔質体2の形状として、特に限定されず、例えば、粒状、直方体状、板状、ペレット状であってもよいし、蓄熱装置内の部材の表面コーティングなどでもよい。
【0018】
なお、多孔質体2は、水分等が吸着していると、過冷却防止剤の担持の妨げとなる可能性があるため、容器10に投入する前に、多孔質体2を加熱真空脱気する工程を行い、予め水分等を飛ばしておいてもよい。加熱温度は、特に限定されないが、例えば、80~100℃とすることが好ましい。加熱真空脱気は、例えば、真空乾燥機などで行うことができる。
【0019】
容器10に多孔質体2を入れて、陽イオン含有水溶液1に多孔質体2を浸漬させる。この時、アルカリ土類金属の陽イオンが多孔質体2の細孔内に十分に浸透するように、図1(b)に示すように、陽イオン含有水溶液1に多孔質体2を浸漬させた状態で保温する工程を行ってもよい。保温工程では、容器10の開口は蓋11で閉じるとともに、容器10を恒温槽12内の温水に浸す。保温の温度は、例えば、60~70℃とすることが好ましい。保温の時間は、例えば、5~30分間とすることが好ましい。これより、多孔質体2へのアルカリ土類金属の陽イオンの含浸を促進することができる。また、含浸を促進するために、蓋11を閉じた容器10全体を振動させる等してもよい。
【0020】
担持工程では、図1(c)に示すように、アルカリ土類金属の陽イオンと反応して水に不溶性又は難溶性の塩を生成する陰イオンを含有する水溶液3を容器10に入れる。このような陰イオンとしては、アルカリ土類金属の陽イオンを含有する水溶液1の種類によって異なるが、例えば、硫酸イオンや、炭酸イオン、酸化物イオンなどが好ましい。また、陰イオン含有水溶液3の濃度は、陽イオン含有水溶液1の濃度に合わせて、水に不溶性又は難溶性の塩が生成するのに必要な理論量でよい。
【0021】
これにより、陽イオン含有水溶液1中のアルカリ土類金属の陽イオンと、陰イオン含有水溶液3中の陰イオンとが反応し、水に不溶性又は難溶性の塩が生成する。この水に不溶性又は難溶性の塩が、過冷却防止剤として機能する。この反応の一例として、陽イオン含有水溶液1が塩化ストロンチウム水溶液、陰イオン含有水溶液3が希硫酸である場合の反応式を、以下に示す。この反応では、硫酸ストロンチウムが過冷却防止剤として生成する。
SrCl+HSO→SrSOHCl
【0022】
また、多孔質体2の細孔に浸透している陽イオンが反応して過冷却防止剤が生成することから、この過冷却防止剤は多孔質体2に担持されることとなる。よって、図1(d)に示すように、多孔質体に過冷却防止剤が担持された過冷却防止媒体5を得ることができる。
【0023】
過冷却防止剤としては、上記の硫酸ストロンチウムの他、例えば、炭酸ストロンチウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム等が挙げられる。そして、この過冷却防止剤が水に不溶性又は難溶性の塩であることから、過冷却防止剤が多孔質体から流出することを防ぐことができる。
【0024】
なお、本明細書において、「水に不溶性」とは、常温(25℃)で水100gに対する溶解度が0.01g以下のものをいう。また、「水に難溶性」とは、常温(25℃)で水100gに対する溶解度が0.1g以下で0.01g超のものをいう。硫酸ストロンチウムの溶解度は0.014g/水100mlであり、水に難溶性である。炭酸ストロンチウムの溶解度は0.0011g/水100mlであり、水に不溶性である。硫酸バリウムの溶解度は、2.5×10-4g/水100mlであり、水に不溶性である。
【0025】
なお、図1に示す実施の形態では、浸漬工程において、陽イオン含有水溶液1と多孔質体2を容器10に入れて浸漬を行ったが、本発明はこれに限定されず、陽イオン含有水溶液1ではなく、陰イオン含有水溶液3を容器10に入れて、多孔質体2を浸漬させてもよい。この場合、担持工程では、陰イオン含有水溶液3ではなく、陽イオン含有水溶液1を容器10に入れることで、水に不溶性又は難溶性の塩を多孔質体に担持させることができる。但し、陰イオン含有水溶液として、濃度の高い希硫酸などを用いる場合、担持工程で、陽イオン含有水溶液を添加する際に、水溶液が発熱して希硫酸などが飛び跳ねる可能性があることから取り扱いに注意を要する。また、濃度の高い希硫酸などを用いる場合、多孔質体への硫酸イオン等の陰イオンの含浸を促進するために保温や振動など行う際にも、取り扱いに注意を要する。更に、多孔質体の種類によっては、希硫酸などに浸漬すると腐食することもある。
【0026】
次に、本発明に係る潜熱蓄熱装置の一実施の形態について説明する。
【0027】
本実施の形態の潜熱蓄熱装置20は、図2に示すように、水に不溶性又は難溶性のアルカリ土類金属の塩を多孔質体に担持させた過冷却防止媒体25を収納した種結晶容器22と、種結晶容器と断続可能に連通する潜熱蓄熱材26を収容した蓄熱容器21とを主に備える。なお、種結晶容器22にも、潜熱蓄熱材26が収容されている。
【0028】
潜熱蓄熱材26としては、固相の状態でその融点以上に加熱されると、液相に状態変化し、その後、融点以下に冷却しても過冷却状態として液相を保ちつづけ、加熱時の吸収熱を潜熱として蓄えることができる物質であれば、特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム水和物や、酢酸ナトリウム水和物、硫酸ナトリウム水和物などが好ましい。
【0029】
蓄熱容器21および種結晶容器22は、潜熱蓄熱材26を固相および液相の間で状態変化させるための加熱および冷却に耐え得るものでよく、従来の潜熱蓄熱装置における潜熱蓄熱材を収容する容器の素材や構造を用いてもよい。例えば、素材としては、熱伝導性が良好なことから、ステンレス鋼や、アルミニウム合金、真鍮等が挙げられ、構造としては、直方体や、その他の任意の立体形状でよい。また、潜熱蓄熱装置20の外周面には、潜熱蓄熱材26への伝熱手段として、例えば、伝熱面積増大用フィンなどの伝熱部(図示省略)が取り付けである。フィンとしては、ヒレ状フィンや、コルゲートフィンなどを採用してよい。
【0030】
蓄熱容器21と種結晶容器22と間には、ソレノイドバルブ等の開閉バルブ23を備え、これによって、蓄熱容器21と種結晶容器22との間を液相の潜熱蓄熱材26が断続可能に連通することができる。開閉バルブ23の開閉は、潜熱蓄熱装置20の制御回路(図示省略)によって制御される。
【0031】
また、種結晶容器22内には、容器内を2つの区画に仕切るフィルター部24を備える。2つの区画のうちの一方は、開閉バルブ23の流路とは接しない区画であり、この開閉バルブ23の流路とは接しない区画に、上述した製造方法で得た過冷却防止媒体25が配置されている。フィルター部24は、潜熱蓄熱材26が自由に通過できるものの、過冷却防止媒体25が通過できないものであれば特に限定されず、例えば、スポンジや、金属メッシュ、不織布等を用いることができる。フィルター部24によって、過冷却防止媒体25が、開閉バルブ23の流路と接する種結晶容器22内の他方の区画に移動するのを防ぐことができ、よって、過冷却防止媒体25を種結晶容器22に収納することができる。
【0032】
このような構成を有する潜熱蓄熱装置20の蓄熱および放熱について、図3を参照して説明する。先ず、蓄熱が完了しており、放熱を行う前の状態の潜熱蓄熱装置20は、図3(a)に示すように、開閉バルブ23が閉じられ、蓄熱容器21内には液相の潜熱蓄熱材26Lが収容されている。種結晶容器22内には過冷却防止媒体25が配置されていることから、種結晶容器22内は、固相の潜熱蓄熱材26S、すなわち、種結晶となっている。
【0033】
次に、潜熱蓄熱装置20の放熱を行う場合、潜熱蓄熱装置20は、図3(b)に示すように、開閉バルブ23を開くと、蓄熱容器21内の液相の潜熱蓄熱材26Lが、種結晶容器22内に流れ、種結晶容器22内の種結晶となっている固相の潜熱蓄熱材26Sと接触する。これによって、液相の潜熱蓄熱材26Lが発核して固相となり、放熱が起こる。
【0034】
放熱が完了すると、図3(c)に示すように、蓄熱容器21内は固相の潜熱蓄熱材26Sとなる。この状態で、潜熱蓄熱装置20の蓄熱を開始する。蓄熱容器21内も種結晶容器22内も全て固相の潜熱蓄熱材26Sであるため、開閉バルブ23を閉じることはできない。
【0035】
蓄熱が完了すると、図3(d)に示すように、蓄熱容器21内および種結晶容器22内の潜熱蓄熱材26は、融点以上に加熱されているため、いずれも液相の潜熱蓄熱材26Lとなっている。この状態になったら、開閉バルブ23を閉める。
【0036】
その後、潜熱蓄熱装置20が融点以下に冷却されると、種結晶容器22内の潜熱蓄熱材26は、過冷却防止媒体25が配置されているため、固相に状態変化する。よって、再び、図3(a)に示すように、放熱を行う準備状態となる。このように本実施の形態の潜熱蓄熱装置20は放熱と蓄熱を繰り返し行うことができる。
【0037】
一方、過冷却防止剤が多孔質体に担持されておらず、過冷却防止剤が潜熱蓄熱材に混入してしまうような図4に示す潜熱蓄熱装置40では、蓄熱完了時、種結晶容器42内の液相の潜熱蓄熱材46Lに、潜熱蓄熱材と過冷却防止剤からなる種結晶47が残り、この種結晶47が、開閉バルブ43の流路を通って、蓄熱容器41内の液相の潜熱蓄熱材46Lにまで流れてくるおそれがある。蓄熱容器41内に過冷却防止剤が混入してしまうと、蓄熱容器41内の液相の潜熱蓄熱材46Lが過冷却状態にならず、蓄熱できなくなってしまうという問題が発生する。
【0038】
本実施の形態の潜熱蓄熱装置20では、過冷却防止剤が多孔質体に担持された過冷却防止媒体25として種結晶容器22内に存在し、また、水に不溶性または難溶性の塩であることから、多孔質体から潜熱蓄熱材へ流出することがなく、よって、過冷却防止剤が蓄熱容器21内に混入することを防ぐことができる。なお、過冷却防止媒体25は、多孔質体のような固体形状であることから、フィルター部24などによって容易に蓄熱容器21への移動を防ぐことができる。
【0039】
なお、図2図3に示す実施の形態では、蓄熱容器21と種結晶容器22とが同じ容積の容器であるが、本発明はこれに限定されず、例えば、種結晶容器22は蓄熱容器21よりも容積を小さくしてよい。また、図2図3に示す実施の形態では、過冷却防止媒体25として、粒状のものを示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、図5に示すように、過冷却防止媒体50を、潜熱蓄熱装置20Aの種結晶容器22の内面を覆う表面コーティングにしてもよい。この場合、種結晶容器22の内面を多孔質体で覆い、この多孔質に過冷却防止剤を担持させることで、表面コーティング層としての過冷却防止媒体50を得ることができる。
【0040】
また、図2図3に示す実施の形態では、過冷却防止媒体を収納した種結晶容器22と潜熱蓄熱材26を収容する蓄熱容器21との2つの容器を備える潜熱蓄熱装置20を示したが、本発明はこれに限定されず、一つの容器に、過冷却防止媒体を収納した種結晶部と、種結晶部と断続可能に連通する潜熱蓄熱材を収容する蓄熱部とを備えてもよい。
【実施例
【0041】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0042】
[過冷却防止媒体の調製:過冷却防止剤の多孔質体への担持]
先ず、多孔質体として用いる椰子殻活性炭に水分等が吸着していると、担持の妨げとなる可能性があるため、真空乾燥機(ETTAS社製)を使用して、椰子殻活性炭を100℃で加熱真空脱気して水分等を飛ばした。次に、塩化ストロンチウム(SrCl)水溶液をスクリュー瓶に入れ、更に予め加熱真空脱気した椰子殻活性炭(約1cm角)を入れて、塩化ストロンチウム水溶液に椰子殻活性炭を浸漬し、保持した。この際、過冷却防止剤が椰子殻活性炭の細孔内に十分に浸透するように、約65℃で保温した。
【0043】
そして、この椰子殻活性炭が浸漬している塩化ストロンチウム水溶液に、10wt%希硫酸を加えることで、椰子殻活性炭に担持する硫酸ストロンチウム(SrSO)を生成させた。そして、硫酸ストロンチウムが担持した椰子殻活性炭(すなわち、過冷却防止媒体)をスクリュー瓶から取り出した。
【0044】
同様の手順で、炭酸ストロンチウム(SrCO)を椰子殻活性炭に担持させた。なお、炭酸ストロンチウムの担持では、水酸化ストロンチウム水溶液に二酸化炭素を添加した。
【0045】
また、以下の手順で酢酸ナトリウム3水和物(CNaO・3HO)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化ストロンチウム6水和物(SrCl・6HO)をそれぞれ椰子殻活性炭に担持させた。先ず、酢酸ナトリウム3水和物、塩化ナトリウム、塩化ストロンチウム6水和物の各水溶液に椰子殻活性炭を浸漬し、保持した。この際にも約65℃で保温した。そして各水溶液から椰子殻活性炭を取り出し、真空乾燥機に入れて乾燥させた。
【0046】
[過冷却防止効果の評価試験(発核試験)]
過冷却防止剤の候補である上記の5種類の物質について、過冷却防止効果の評価試験を行った。これら物質をそれぞれ担持した椰子殻活性炭(約0.03g)と、潜熱蓄熱材として塩化カルシウム6水和物(CaCl・6HO)(約20g)とをスクリュー瓶に入れ、塩化カルシウム6水和物の融点である30℃以上に加熱した。その後、チラーを用いて2~5℃に設定された冷却プレート上にスクリュー瓶を設置し、発核するかを調査した。冷却プレートは、冷却プレートとスクリュー瓶との伝熱を促進するために、水に浸し、設置したスクリュー瓶の底付近は水に浸り、効率よく冷却させた。この加熱と冷却の操作を、5回繰り返し(n=5)、発核回数を調べた。その結果を表1に示す。また、試験を通して潜熱蓄熱材の発核の様子や、椰子殻活性炭の形状変化なども観察した。
【0047】
[過冷却防止剤の流出確認試験(流出試験)]
潜熱蓄熱材の加熱と冷却の繰り返し操作によって、椰子殻活性炭から過冷却防止剤の候補物質が流出しているかを確認する試験を行った。上記の過冷却防止効果の評価試験が終わった後のスクリュー瓶から、上澄み液だけを分離し、この上澄み液について、加熱と冷却の繰り返し操作(n=5)をして発核するか調べた。そして、5回発核した場合、過冷却防止剤の候補物質が椰子殻活性炭から流出していると推測され、「×」と評価した。1~4回発核した場合、一部流出していると推測され、「△」と評価した。1回も発核しなかった場合、流出が無いと推測され、「○」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、酢酸ナトリウム3水和物は、過冷却防止効果があることは認められたものの、椰子殻活性炭から流出してしまったことから、本発明の過冷却防止媒体としては使用することはできず、総合評価としては「×」とした。また、塩化ナトリウムも、過冷却防止効果があることは認められたものの、椰子殻活性炭から一部流出してしまったことから、本発明の過冷却防止媒体としては不適当であり、総合評価としては「×」とした。塩化ストロンチウム6水和物は、速やかに発核し、優れた過冷却防止効果があったものの、椰子殻活性炭から一部流出が認められ、本発明の過冷却防止媒体としては使用することはできず、総合評価としては「×」とした。
【0050】
一方、炭酸ストロンチウムは、椰子殻活性炭から流出が認められなかったものの、発核に数分から数時間の時間がかかり、総合評価としては「○」とした。硫酸ストロンチウムは、速やかに発核し、優れた過冷却防止効果が認められ、且つ椰子殻活性炭からの流出は認められず、よって、総合評価を「◎」とした。
【0051】
なお、流出試験の結果から、流出試験で「×」や「△」と評価された多孔質体担持の酢酸ナトリウム3水和物、塩化ナトリウム、塩化ストロンチウム6水和物はいずれも水に可溶性の物質であった。一方、流出試験で「○」と評価された炭酸ストロンチウムと硫酸ストロンチウムは、水に不溶性または難溶性であり、よって、水に不溶性または難溶性の塩であれば、加熱と冷却を繰り返しても、多孔質体から潜熱蓄熱材へ流出しないと推測される。
【0052】
また、上記の5種類の他の物質として、硫酸バリウムや炭酸バリウムは、硫酸ストロンチウムや炭酸ストロンチウムと結晶構造が斜方晶で共通し、単位格子も非常に近いことから、発核試験において、硫酸ストロンチウムや炭酸ストロンチウムと同等の評価のものと推測される。また、硫酸バリウムや炭酸バリウムは、水に不溶性である。よって、硫酸バリウムと炭酸バリウムも、本発明の過冷却防止媒体として硫酸ストロンチウムや炭酸ストロンチウムと同等の効果が得られるものと推測される。
【符号の説明】
【0053】
1 アルカリ土類金属の陽イオンを含有する水溶液
2 多孔質体
3 水に不溶性又は難溶性の塩を生成する陰イオンを含有する水溶液
10 スクリュー瓶
11 蓋
12 恒温槽
20 潜熱蓄熱装置
21 蓄熱容器
22 種結晶容器
23 開閉バルブ
24 フィルター部
25 過冷却防止媒体
26 潜熱蓄熱材
47 種結晶
50 過冷却防止媒体
図1
図2
図3
図4
図5