(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/06 20060101AFI20240827BHJP
F02D 41/30 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
F02D41/06
F02D41/30
(21)【出願番号】P 2020206867
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井下 憲二
(72)【発明者】
【氏名】井戸側 正直
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-166933(JP,A)
【文献】特開平08-004579(JP,A)
【文献】特開2000-257479(JP,A)
【文献】特開2006-152905(JP,A)
【文献】特開2015-222046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-41/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁を有する内燃機関と、
前記内燃機関の排気系に取り付けられ、酸素を吸蔵可能な浄化触媒と、
を備える内燃機関装置に用いられ、
前記内燃機関を運転する際には、目標空燃比に対してリッチ側の空燃比とするリッチ補正とリーン側の空燃比とするリーン補正とを交互に施した空燃比を
第1制御用空燃比に設定し、前記目標空燃比に基づく基本燃料噴射量に対して、前記燃料噴射弁の燃料噴射量を増量するための増量補正と、前記排気系の前記浄化触媒より上流側の上流側空燃比を前記
第1制御用空燃比とするための
第1フィードバック補正と、を施した燃料噴射量の燃料が噴射されるよう前記燃料噴射弁を制御する
内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関を始動してから前記浄化触媒が所定温度以上になるまでは、理論空燃比よりリッチ側の所定空燃比から前記理論空燃比に向かって変化する空燃比を
第2制御用空燃比に設定し、前記基本燃料噴射量に対して、前記増量補正と、
前記上流側空燃比を前記第2制御用空燃比とするための第2フィードバック補正と、を施した燃料噴射量の燃料が噴射されるよう前記燃料噴射弁を制御する始動後制御を実行し、
前記始動後制御を実行している最中に前記
第2制御用空燃比から前記上流側空燃比を減じた値が所定値以上になったときには、前記
第2制御用空燃比から前記上流側空燃比を減じた値が前記所定値未満のときに比して、前記増量補正における増量を少なくする
内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内燃機関の制御装置としては、内燃機関(エンジン)を始動する際に、ストイキな空燃比を得るための基本燃料噴射量(基本噴射量)に値1より大きな増量係数を乗じることにより、基本燃料噴射量を増量補正するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、こうした増量補正により、内燃機関を適切に制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の内燃機関の制御装置では、内燃機関を始動した後、暖機が十分でないときなどには、噴射した燃料のうち燃焼室の内壁に付着するなど燃焼に寄与しない未寄与燃料が多くなり、内燃機関がエンジンストールしてしまう場合がある。こうしたエンジンストールを抑制する手法として、燃料噴射量を目標空燃比に基づく基本燃料噴射量に対して未寄与燃料分増量させる手法が考えられる。しかしながら、未寄与燃料量の予測は難しく、燃料の性状によっては空燃比が過剰にリッチ側となる場合がある。また、内燃機関を運転する際に、排気系の浄化触媒の酸素吸蔵量を調節するために、空燃比にリッチ補正とリーン補正とを交互に施すことがあるが、こうした補正と燃料の増量とが競合すると、燃料噴射量を適正に制御できないことがある。
【0005】
本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関を始動した後の燃料噴射量を適正に制御することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関の制御装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の内燃機関の制御装置は、
燃料噴射弁を有する内燃機関と、
前記内燃機関の排気系に取り付けられ、酸素を吸蔵可能な浄化触媒と、
を備える内燃機関装置に用いられ、
前記内燃機関を運転する際には、目標空燃比に対してリッチ側の空燃比とするリッチ補正とリーン側の空燃比とするリーン補正とを交互に施した空燃比を制御用空燃比に設定し、前記目標空燃比に基づく基本燃料噴射量に対して、前記燃料噴射弁の燃料噴射量を増量するための増量補正と、前記排気系の前記浄化触媒より上流側の上流側空燃比を前記制御用空燃比とするためのフィードバック補正と、を施した燃料噴射量の燃料が噴射されるよう前記燃料噴射弁を制御する
内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関を始動してから前記浄化触媒が所定温度以上になるまでは、理論空燃比よりリッチ側の所定空燃比から前記理論空燃比に向かって変化する空燃比を前記制御用空燃比に設定し、前記基本燃料噴射量に対して、前記増量補正と、前記フィードバック補正と、を施した燃料噴射量の燃料が噴射されるよう前記燃料噴射弁を制御する始動後制御を実行し、
前記始動後制御を実行している最中に前記制御用空燃比から前記上流側空燃比を減じた値が所定値以上になったときには、前記制御用空燃比から前記上流側空燃比を減じた値が前記所定値未満のときに比して、前記増量補正における増量を少なくする
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の内燃機関の制御装置では、内燃機関を始動してから浄化触媒が所定温度以上になるまでは、理論空燃比よりリッチ側の所定空燃比から理論空燃比に向かって変化する空燃比を制御用空燃比に設定し、基本燃料噴射量に対して、増量補正と、フィードバック補正と、を施した燃料噴射量の燃料が噴射されるよう前記燃料噴射弁を制御する始動後制御を実行する。内燃機関を始動したときの内燃機関の状態は、外気温等により変化しやすい。したがって、内燃機関の目標空燃比に対するリッチ補正やリーン補正と、増量補正と、が競合することを抑制でき、燃料噴射量を適正に定めることができる。そして、始動後制御を実行している最中に制御用空燃比から上流側空燃比を減じた値が所定値以上になったときには、制御用空燃比から上流側空燃比を減じた値が所定値未満のときに比して、増量補正における増量を少なくする。これにより、上流側空燃比が制御用空燃比に対して過度にリッチ側になることを抑制できる。この結果、内燃機関を始動した後における燃料噴射量を適正に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例としての内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【
図2】エンジン22の構成の概略を示す構成図である。
【
図3】エンジンECU24によりエンジン22の燃料噴射制御を行なう際の制御ブロックの一例を示す制御ブロック図である。
【
図4】サブフィードバック部92により実行されるサブフィードバック補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図5】検出空燃比AFdや、サブフィードバック補正の様子の一例を示す説明図である。
【
図6】エンジンECU24の目標噴射量設定部93による実行される始動時設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図7】フラグFm、フラグFs、各種空燃比、補正係数Kaf、反映率R、補正係数Kicの時間変化の一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の実施例としての内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、
図2は、エンジン22の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、
図1に示すように、エンジン22と、プラネタリギヤ30と、モータMG1,MG2と、インバータ41,42と、バッテリ50と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70とを備える。
【0012】
エンジン22は、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力する内燃機関として構成されている。
図2に示すように、エンジン22は、エアクリーナ122により清浄された空気を吸気管123に吸入してスロットルバルブ124やサージタンク125を通過させると共に、吸気管123のサージタンク125よりも下流側で燃料噴射弁126から燃料を噴射し、空気と燃料とを混合する。そして、エンジン22は、この混合気を吸気バルブ128を介して燃焼室129に吸入し、吸入した混合気を点火プラグ130による電気火花により爆発燃焼させる。この爆発燃焼のエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動がクランクシャフト26の回転運動に変換される。燃焼室129から排気バルブ133を介して排気管134に排出される排気は、浄化装置136,138を介して外気に排出される。浄化装置136,138は、それぞれ、排気中の一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化触媒(三元触媒)136a,138aを有する。浄化触媒136a,138aは、それぞれ酸素の吸蔵と脱離が可能に構成されている。
【0013】
エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24により運転制御されている。エンジンECU24は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。
【0014】
エンジンECU24には、エンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力される。エンジンECU24に入力される信号としては、例えば、エンジン22のクランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランク角θcrや、エンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温Twを挙げることができる。また、吸気バルブ128を開閉するインテークカムシャフトや排気バルブ133を開閉するエキゾーストカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカムポジションθcaも挙げることができる。さらに、スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ124aからのスロットル開度THや、吸気管123に取り付けられたエアフローメータ148からの吸入空気量Qa、吸気管123に取り付けられた温度センサ149からの吸気温Ta、サージタンク125に取り付けられた圧力センサ150からのサージ圧Psも挙げることができる。加えて、排気管134の浄化装置136よりも上流側に取り付けられた上流側空燃比センサ152からの検出空燃比AFuや、排気管134の浄化装置136よりも下流側で且つ浄化装置138の上流側に取り付けられた下流側空燃比センサ154からの検出空燃比AFdも挙げることができる。
【0015】
エンジンECU24からは、エンジン22を運転制御するための各種制御信号が出力ポートを介して出力される。エンジンECU24から出力される信号としては、例えば、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ124bへの駆動制御信号、燃料噴射弁126への駆動制御信号や、点火プラグ130への制御信号を挙げることができる。
【0016】
エンジンECU24は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。エンジンECU24は、クランクポジションセンサ140からのエンジン22のクランク角θcrに基づいてエンジン22の回転数Neを演算する。また、エアフローメータ148からの吸入空気量Qaとエンジン22の回転数Neとに基づいて体積効率(エンジン22の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の比)KLを演算する。
【0017】
プラネタリギヤ30は、シングルピニオンタイプの遊星歯車機構として構成されている。プラネタリギヤ30のサンギヤには、モータMG1の回転子が接続されている。プラネタリギヤ30のリングギヤには、駆動輪39a,39bにデファレンシャルギヤ38を介して連結された駆動軸36が接続されている。プラネタリギヤ30のキャリヤには、ダンパ28を介してエンジン22のクランクシャフト26が接続されている。
【0018】
モータMG1は、例えば同期発電電動機として構成されており、上述したように、回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されている。モータMG2は、例えば同期発電電動機として構成されており、回転子が駆動軸36に接続されている。インバータ41,42は、モータMG1,MG2の駆動に用いられると共に電力ライン54を介してバッテリ50に接続されている。モータMG1,MG2は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40によって、インバータ41,42の図示しない複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0019】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力される。モータECU40に入力される信号としては、例えば、モータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2や、モータMG1,MG2の各相に流れる相電流を検出する電流センサからのモータMG1,MG2の各相の相電流Iu1,Iv1,Iu2,Iv2を挙げることができる。モータECU40からは、インバータ41,42の図示しない複数のスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力される。モータECU40は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。モータECU40は、回転位置センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいてモータMG1,MG2の電気角θe1,θe2や回転数Nm1,Nm2を演算する。
【0020】
バッテリ50は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、上述したように、電力ライン54を介してインバータ41,42に接続されている。このバッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52により管理されている。
【0021】
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力される。バッテリECU52に入力される信号としては、例えば、バッテリ50の端子間に取り付けられた電圧センサ51aからのバッテリ50の電圧Vbや、バッテリ50の出力端子に取り付けられた電流センサ51bからのバッテリ50の電池電流Ib、バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからのバッテリ50の温度Tbを挙げることができる。バッテリECU52は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。バッテリECU52は、電流センサ51bからの電池電流Ibの積算値に基づいて蓄電割合SOCを演算する。蓄電割合SOCは、バッテリ50の全容量に対するバッテリ50から放電可能な電力の容量の割合である。
【0022】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。HVECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力される。HVECU70に入力される信号としては、例えば、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPを挙げることができる。また、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ88からの車速Vも挙げることができる。HVECU70は、上述したように、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52と通信ポートを介して接続されている。
【0023】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、エンジン22の運転を伴わずに走行する電動走行モード(EV走行モード)や、エンジン22の運転を伴って走行するハイブリッド走行モード(HV走行モード)で走行する。
【0024】
EV走行モードでは、HVECU70は、最初に、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて走行に要求される(駆動軸36に要求される)要求トルクTd*を設定する。続いて、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共に要求トルクTd*が駆動軸36に出力されるようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定したモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。モータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようにインバータ41,42の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0025】
HV走行モードでは、HVECU70は、最初に、EV走行モードと同様に、要求トルクTd*を設定する。続いて、要求トルクTd*に駆動軸36の回転数Ndを乗じて走行に要求される要求パワーPd*を演算し、要求パワーPd*からバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22に要求される要求パワーPe*を演算する。ここで、駆動軸36の回転数Ndとしては、例えば、モータMG2の回転数Nm2や、車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数が用いられる。そして、エンジン22から要求パワーPe*が出力されると共に要求トルクTd*が駆動軸36に出力されるようにエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定し、エンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共にモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。エンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*および目標トルクTe*に基づいて運転されるようにエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火制御などを行なう。モータECU40によるモータMG1,MG2(インバータ41,42)の制御については上述した。
【0026】
ここで、エンジンECU24によるエンジン22の燃料噴射制御について説明する。
図3は、エンジンECU24によりエンジン22の燃料噴射制御を行なう際の制御ブロックの一例を示す制御ブロック図である。図示するように、エンジンECU24は、エンジン22の燃料噴射制御についての制御ブロックとして、ベース噴射量設定部90と、メインフィードバック部91と、サブフィードバック部92と、目標噴射量設定部93と、噴射弁制御部94と、を備える。
【0027】
ベース噴射量設定部90は、体積効率KLに基づいて、燃焼室129内の混合気の空燃比を目標空燃比AF*とするための燃料噴射弁126の目標噴射量Qf*のベース値であるベース噴射量(基本噴射量)Qfbを設定する。ここで、目標空燃比AF*としては、実施例では、理論空燃比(ストイキ)が用いられる。ベース噴射量Qfbは、例えば、燃焼室129内の混合気の空燃比を目標空燃比AF*とするための単位噴射量(体積効率KLの1%あたりの噴射量)Qfpuに体積効率KLを乗じて演算される。体積効率KLは、上述したように、エアフローメータ148からの吸入空気量Qaと、クランクポジションセンサ140からのエンジン22のクランク角θcrに基づいて演算されるエンジン22の回転数Neと、に基づいて演算される。
【0028】
メインフィードバック部91は、上流側空燃比センサ152からの検出空燃比AFuを制御用空燃比AFu*にするためのフィードバック制御により補正値δafを演算し、値1に演算した補正値δafに値(-1)を乗じた値を加えた値を補正係数Kafに設定する。ここで、制御用空燃比AFu*は、サブフィードバック部92により設定される。補正値δafは、次式(1)に示すように、検出空燃比AFuと制御用空燃比AFu*と比例項のゲインKpと積分項のゲインKiとを用いたフィードバック制御の関係式を用いて演算される。補正係数Kafは、次式(2)により演算される。次式(2)により補正係数Kafを演算する理由については後述する。
【0029】
δaf=Kp・(AFu*-AFu)+Ki・∫(AFu*-AFu)dt (1)
Kaf=1+(-1)・δaf (2)
【0030】
サブフィードバック部92は、下流側空燃比センサ154からの検出空燃比AFdに基づいて、制御用空燃比AFu*にリッチ側の値を設定するリッチ補正と、制御用空燃比AFu*にリーン側の値を設定するリーン補正と、を交互に行なう。以下、この処理を「サブフィードバック補正」という。リッチ補正やリーン補正は、浄化触媒136aの酸素吸蔵量を調節するために行なわれる。サブフィードバック部92の詳細については後述する。
【0031】
目標噴射量設定部93は、ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと補正係数Kicとを乗じた値を燃料噴射弁126の目標噴射量Qf*に設定する。補正係数Kicは、増量率Kaddに反映率Rを乗じた値に設定される。増量率Kaddは、燃料噴射弁126から噴射される燃料のうち燃焼に寄与しない燃料分、燃料噴射弁126から噴射される燃料を増量するための補正係数であり、値1より大きな値に設定される。反映率Rは、ベース噴射量Qfbに対して増量率Kaddを反映させる比率である。反映率Rは、エンジン22の始動後浄化触媒136aの温度が浄化触媒136aが十分に活性化する温度としての所定温度Tref以上のときには、値1に設定される。エンジン22が始動後浄化触媒136aの温度が所定温度Tref未満のときの反映率Rの設定については、後述する。ベース噴射量Qfbに補正係数Kicを乗じてベース噴射量Qfbを増量する処理を「増量補正」と称することがある。噴射弁制御部94は、燃料噴射弁126から目標噴射量Qf*の燃料噴射が行なわれるように燃料噴射弁126を制御する。
【0032】
ここで、メインフィードバック部91において、補正値δafに値(-1)を乗じてから値1を加えた値を補正係数Kafに設定する理由について説明する。リーン補正の実行中には、検出空燃比AFuが制御用空燃比AFu*よりも小さく(リッチ側であり)、式(1)により、基本的に、補正値δafが正の値になる。このため、補正係数Kafを値1よりも小さくして目標噴射量Qf*をベース噴射量Qfbよりも少なくし、検出空燃比AFuを現在値よりも大きくする(リーン側にする)必要がある。これに対して、リッチ補正の実行中には、検出空燃比AFuが制御用空燃比AFu*よりも大きく(リーン側であり)、式(1)により、基本的に、補正値δafが負の値になる。このため、補正係数Kafを値1よりも大きくして目標噴射量Qf*をベース噴射量Qfbよりも多くし、検出空燃比AFuを現在値よりも小さくする(リッチ側にする)必要がある。こうした理由により、補正値δafに値(-1)を乗じてから値1を加えた値を補正係数Kafに設定するのである。
【0033】
次に、サブフィードバック部92の詳細について説明する。
図4は、サブフィードバック部92により実行されるサブフィードバック補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、繰り返し実行される。なお、実施例では、本ルーチンの繰り返しの実行が開始されるとき(初回の実行が開始されるとき)に、後述のリッチ補正フラグFrに値1が設定される。
【0034】
図4のサブフィードバック補正ルーチンでは、サブフィードバック部92は、最初に、下流側空燃比センサ154からの検出空燃比AFdを入力すると共に(ステップS100)、リッチ補正フラグFrの値を調べる(ステップS110)。ここで、リッチ補正フラグFrは、リッチ補正およびリーン補正のうちの何れの実行中であるかを示すフラグである。
【0035】
ステップS110でリッチ補正フラグFrが値1のときには、リッチ補正の実行中であると判断し、検出空燃比AFdを、ストイキ基準値AFsからサブオフセット量εRを減じたリッチ側閾値(AFs-εR)と比較する(ステップS120)。この処理は、検出空燃比AFdがある程度リッチ側の値になったか否か、即ち、浄化触媒136aの下流側の排気中の未燃焼燃料量がある程度増加したか否かを判定する処理である。
【0036】
ステップS120で検出空燃比AFdがリッチ側閾値(AFs-εR)よりも大きいときには、未だ検出空燃比AFdがある程度リッチ側の値になっていないと判断し、ストイキ基準値AFsからメインオフセット量δRを減じた値(AFs-δR)を制御用空燃比AFu*に設定して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。ここで、メインオフセット量δRは、サブオフセット量εR以上の範囲内で設定される。例えば、メインオフセット量δRには、サブオフセット量εRにマージンを加えた値が設定される。この場合、リッチ補正の実行を継続することになる。
【0037】
ステップS120で検出空燃比AFdがリッチ側閾値(AFs-εR)以下のときには、検出空燃比AFdがある程度リッチ側の値になったと判断し、リッチ補正フラグFrに値0を設定し(ステップS130)、ストイキ基準値AFsにメインオフセット量δLを加えた値(AFs+δL)を制御用空燃比AFu*に設定して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。ここで、メインオフセット量δLは、後述のサブオフセット量εL以上の範囲内で設定される。例えば、メインオフセット量δLには、サブオフセット量εLにマージンを加えた値が設定される。このようにして、リッチ補正の実行からリーン補正の実行に切り換えるのである。
【0038】
ステップS110でリッチ補正フラグFrが値0のときには、リーン補正の実行中であると判断し、検出空燃比AFdを、ストイキ基準値AFsにサブオフセット量εLを加えたリーン側閾値(AFs+εL)と比較する(ステップS150)。この処理は、検出空燃比AFdがある程度リーン側の値になったか否か、即ち、浄化触媒136aの下流側の排気中の酸素量がある程度増加したか否かを判定する処理である。
【0039】
ステップS150で検出空燃比AFdがリーン側閾値(AFs+εL)未満のときには、未だ検出空燃比AFdがある程度リーン側の値になっていないと判断し、上述のステップS140の処理により、値(AFs+δL)を制御用空燃比AFu*に設定して、本ルーチンを終了する。この場合、リーン補正の実行を継続することになる。
【0040】
ステップS150で検出空燃比AFdがリーン側閾値(AFs+εL)以上のときには、検出空燃比AFdがある程度リーン側の値になったと判断し、リッチ補正フラグFrに値1を設定し(ステップS160)、上述のステップS170の処理により、値(AFs-δR)を制御用空燃比AFu*に設定して、本ルーチンを終了する。このようにして、リーン補正の実行からリッチ補正の実行に切り換えるのである。
【0041】
図5は、検出空燃比AFdや、サブフィードバック補正の様子の一例を示す説明図である。図示するように、リーン補正の実行中に検出空燃比AFdがリーン側閾値(AFs+εL)以上に至ると(時刻t1,t3)、リッチ補正の実行に切り換える。また、リッチ補正の実行中に検出空燃比AFdがリッチ側閾値(AFs-εR)以下に至ると(時刻t2)、リーン補正の実行に切り換える。以下、リーン補正およびリッチ補正のうちの一方の開始から他方の終了まで(例えば、時刻t1~t3)を「サブフィードバック補正の1周期」という。
【0042】
なお、リッチ補正の実行中には、ベース噴射量Qfbよりも多い値を目標噴射量Qf*に設定して燃料噴射弁126を制御するから、浄化触媒136aに流入する排気には、その排気中の酸素と過不足なく反応する未燃焼燃料量よりも多量の未燃焼燃料が含まれる。この多量の未燃焼燃料は、排気中の酸素や浄化触媒136aに吸蔵されている酸素により酸化されるから、浄化触媒136aの下流側の排気中の酸素量や未燃焼燃料量は十分に少なくなる。これにより、図示するように、検出空燃比AFdがストイキ基準値AFs付近のときに、検出空燃比AFdの単位時間あたりの変化量である検出空燃比変化率ΔAFdの絶対値が小さくなっている。
【0043】
次に、こうして構成された実施例の内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20の動作、特に、エンジン22を始動してから浄化触媒136aが暖機されて活性化するまでの期間において反映率Rを設定する際の動作について説明する。
図6は、エンジンECU24の目標噴射量設定部93による実行される始動時設定ルーチンの一例を示すフローチャートである。始動時設定ルーチンは、エンジン22が始動されてから浄化触媒136aの温度が所定温度Tref未満のときに、所定時間(例えば、数msecなど)毎に繰り返し実行される。なお、始動時設定ルーチンが実行されているときには、サブフィードバック部92によるサブフィードバック補正は実行されない。これにより、エンジン22を始動してから浄化触媒136aが活性化までの期間において、後述するエンジン22の始動後における増量補正とサブフィードバック補正とが競合して、燃料噴射量を適正に設定できなくなることを回避できる。
【0044】
始動時設定ルーチンが実行されると、目標噴射量設定部93は、検出空燃比AFuと、フラグFとを入力する処理を実行する(ステップS300)。検出空燃比AFuは、上流側空燃比センサ152により検出されたものを入力している。フラグFは、初期値として値0が設定され、後述するステップS360で値0に設定され、後述するステップS38で値1に設定され、後述するステップS400で反映率Rに応じて値0または値1に設定される。
【0045】
次に、目標空燃比AF*よりリッチ側の始動時空燃比AFrを制御用空燃比AFu*に設定する(ステップS310)。始動時空燃比AFrは、エンジン22を始動した直後は、目標空燃比AF*よりリッチ側の始動時空燃比AFrに設定され、エンジン22を始動してからの時間tの経過と共に目標空燃比AF*に向かって徐々に増加するよう設定されている。
【0046】
続いて、制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1以上であるか否かを判定する(ステップS320)。閾値DAF1は、検出空燃比AFuが制御用空燃比AFu*に対してリッチ側に大きく離れており、メインフィードバック部91のフィードバック制御で検出空燃比AFuを制御用空燃比AFu*にするのが困難であるか否かを判定するための閾値である。
【0047】
ステップS320で制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1未満のときには、続いて、フラグFが値0であるか否かを判定する(ステップS330)。フラグFが値0のときには、反映率Rを値1に設定し(ステップS350)、フラグFを値0に設定して(ステップS360)、始動時設定ルーチンを終了する。こうして反映率Rを設定すると、目標噴射量設定部93は、ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと増量率Kaddに反映率Rを乗じた値としての補正係数Kicとを乗じた値(=Qfb・Kaf・Kic)を燃料噴射弁126の目標噴射量Qf*に設定する。噴射弁制御部94は、燃料噴射弁126から目標噴射量Qf*の燃料噴射が行なわれるように燃料噴射弁126を制御する。
【0048】
ステップS320で制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1以上のときには、前回本ルーチンを実行したときの反映率R(前回R)から変化量ΔRを減じた値と最小値Rminとのうち大きいほうの値を反映率Rに設定し(ステップS370)、フラグFを値1に設定して(ステップS380)、始動時設定ルーチンを終了する。最小値Rminは、反映率Rの最小値として予め定めた値1より小さく値0より大きい値である。こうして反映率Rを設定すると、目標噴射量設定部93は、ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと増量率Kaddに反映率Rを乗じた値としての補正係数Kicとを乗じた値(=Qfb・Kaf・Kic)を燃料噴射弁126の目標噴射量Qf*に設定する。噴射弁制御部94は、燃料噴射弁126から目標噴射量Qf*の燃料噴射が行なわれるように燃料噴射弁126を制御する。制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1以上のときには、検出空燃比AFuが制御用空燃比AFu*からリッチ側に大きく離れていることから、検出空燃比AFuが制御用空燃比AFu*に近づくのに比較的時間を要する。実施例では、補正係数Kicは、最小値Rminを下回らない範囲で徐々に減少する値となり、ステップS350で設定した反映率Rを用いて補正係数Kicを設定する場合に比して増量補正で増量する燃料が少なくなる。これにより、検出空燃比AFuが過度にリッチ側になることを抑制でき、検出空燃比AFuを制御用空燃比AFu*により迅速に近づけることができる。これにより、燃料噴射弁126からの燃料噴射量を適正に制御できる。
【0049】
ステップS320で制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1未満で、且つ、ステップS330でフラグFが値1であるときには、続いて、制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF2以上であるか否かを判定する(ステップS340)。閾値DAF2は、値0より大きく閾値DAF1より小さい値であり、検出空燃比AFuと制御用空燃比AFu*との差が小さく、メインフィードバック部91のフィードバック制御で検出空燃比AFuを制御用空燃比AFu*にすることが比較的容易であるか否かを判定するための閾値である。
【0050】
ステップS340で制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF2以上であるときには、検出空燃比AFuと制御用空燃比AFu*との差が大きいことから、ステップS370に進み、前回Rから変化量ΔRを減じた値と最小値Rminとのうち大きいほうの値を反映率Rに設定し(ステップS370)、フラグFを値1に設定して(ステップS380)、始動時設定ルーチンを終了する。こうして反映率Rを設定すると、目標噴射量設定部93は、ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと増量率Kaddに反映率Rを乗じた値としての補正係数Kicとを乗じた値(=Qfb・Kaf・Kic)を燃料噴射弁126の目標噴射量Qf*に設定する。噴射弁制御部94は、燃料噴射弁126から目標噴射量Qf*の燃料噴射が行なわれるように燃料噴射弁126を制御する。
【0051】
そして、ステップS340で制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF2未満であるときには、検出空燃比AFuと制御用空燃比AFu*との差が小さいと判断して、前回Rに変化量ΔRを加えた値と値1とのうち小さいほうの値を反映率Rに設定する(ステップS390)。
【0052】
そして、ステップS390で反映率Rが値1でないときにはフラグFを値1に設定し、ステップS390で反映率Rが値1であるときにはフラグFを値0に設定して(ステップS400)、始動時設定ルーチンを終了する。 こうして反映率Rを設定すると、目標噴射量設定部93は、ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと増量率Kaddに反映率Rを乗じた値としての補正係数Kicとを乗じた値(=Qfb・Kaf・Kic)を燃料噴射弁126の目標噴射量Qf*に設定する。噴射弁制御部94は、燃料噴射弁126から目標噴射量Qf*の燃料噴射が行なわれるように燃料噴射弁126を制御する。
【0053】
図7は、フラグFm、フラグFs、各種空燃比、補正係数Kaf、反映率R、補正係数Kicの時間変化の一例を説明するための説明図である。フラグFmは、メインフィードバック部91が作動しているときに、メインフィードバック部91の停止しているときに値0に設定されるフラグである。フラグFsは、サブフィードバック部92が作動しているときに値1が設定され、サブフィードバック部92が停止しているときに値0に設定されるフラグである。空燃比において、細実線は、制御用空燃比AFu*である。太実線は、実施例の検出空燃比AFuである。太破線は、反映率Rを常に値1とする比較例の検出空燃比AFuである。また、細破線は、制御用空燃比AFu*から値DAF1を減じて得られる空燃比である。細一点鎖線は、制御用空燃比AFu*から値DAF2を減じて得られる空燃比である。
図7において、エンジン22が始動されたときには、浄化触媒136aの温度が所定温度Tref未満であり、サブフィードバック部92が停止しているものとしている。
【0054】
図7では、エンジン22が始動されてフラグFmが値1になったとき(メインフィードバック部91が作動を開始した)ときには(時刻t0)、制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1未満であり、フラグFは値0であることから、
図6のステップS350で反映率Rを値1に設定する。これにより、制御用空燃比AFu*に理論空燃比よりリッチ側の始動時空燃比AFrから理論空燃比に向かって変化するように設定し、ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと増量率Kaddに反映率Rを乗じた値としての補正係数Kicとを乗じた値(=Qfb・Kaf・Kic)を目標噴射量Qf*に設定し、目標噴射量Qf*が噴射されるように燃料噴射弁126を制御する。
【0055】
こうした制御を実行しているときに制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1以上になったときには(時刻t1)、
図6のステップS370、S380で反映率Rを最小値Rminを下回らない範囲で値1から徐々に小さくすると共に、フラグFを値1にする。これにより、補正係数Kicによる燃料の増量が小さくなり、検出空燃比AFuが、反映率Rを値1に保持する比較例の検出空燃比AFuに比してリーン側の値となる。これにより、検出空燃比AFuが過度にリッチ側となることを抑制できる。そして、その後、制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1未満になるまで、ステップS370、S380で反映率Rを最小値Rminを下回らない範囲で値1から徐々に小さくすると共に、フラグFを値1にする。
【0056】
そして、制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1未満になったときには(時刻t2)、制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF2未満になるまで、ステップS370で反映率Rを徐々に小さくすることにより、検出空燃比AFuがリーン方向に変化し制御用空燃比AFu*に近づいていく。
【0057】
検出空燃比AFuに近づき、制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF2未満になったときには(時刻t3)、ステップS390で反映率Rを値1を上回らない範囲で徐々に増加させる。これにより、検出空燃比AFuが過度にリーン方向に変化することが抑制される。
【0058】
そして、ステップS390で反映率Rが値1に達すると、ステップS400でフラグFを値0に設定するから、次に、始動時設定ルーチンを実行すると、制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1未満で、フラグFが値0であることから、ステップS350で反映率Rを値1に設定する。これにより、エンジン22の燃料噴射制御として、燃料噴射弁126からの燃料噴射量に燃焼に寄与しない未燃焼分の燃料を増量させつつ、検出空燃比AFuを制御用空燃比AFu*に近づけるよう制御するから、燃料噴射弁126からの燃料噴射量を適正に制御できる。
【0059】
なお、浄化触媒136aが所定温度Tref以上となったときには(時刻t4)、
図6の始動時設定ルーチンは実行されずに、サブフィードバック部92が作動し、目標空燃比AF*にリーン補正とリッチ補正とを交互に施した空燃比を制御用空燃比AFu*に設定して、エンジン22の燃料噴射制御が実行される。
【0060】
以上説明した実施例の内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20によれば、エンジン22を始動してから浄化触媒136aが所定温度Tref以上になるまでは、理論空燃比よりリッチ側の始動時空燃比AFrから理論空燃比に向かって変化する空燃比を制御用空燃比AFu*に設定し、ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと増量率Kaddに反映率Rを乗じた値としての補正係数Kicとを乗じた値の燃料が噴射されるように燃料噴射弁126を制御し、こうした制御を実行している最中に制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1以上になったときには、制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1未満のときに比して、増量補正における増量を少なくすることにより、エンジン22を始動した後の燃料噴射量を適正に制御できる。
【0061】
実施例の内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20では、
図6の始動時設定ルーチンのステップS370で、前回Rから変化量ΔRを減じた値と最小値Rminとのうち大きいほうの値を反映率Rに設定している。しかしながら、前回Rから変化量ΔRを減じた値を反映率Rに設定してもよい。
【0062】
実施例の内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20では、
図6の始動時設定ルーチンのステップS390で、前回Rに変化量ΔRを加えた値と値1とのうち小さいほうの値を反映率Rに設定している。しかしながら、前回Rに変化量ΔRを加えた値を反映率Rに設定してもよい。
【0063】
実施例の内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20では、
図6の始動時設定ルーチンにおいて、検出空燃比AFuが制御用空燃比AFu*より閾値DAF1以上リッチ側(制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF1以上)になった後において、検出空燃比AFuが制御用空燃比AFu*より閾値DAF2未満(制御用空燃比AFu*から検出空燃比AFuを減じた値が閾値DAF2未満)になったときに、反映率Rを増加させている。しかしながら、検出空燃比AFuが制御用空燃比AFu*より閾値DAF1以上リッチ側になった後において、検出空燃比AFuが制御用空燃比AFu*より閾値DAF1未満になったときに反映率Rを増加させてもよい。
【0064】
実施例の内燃機関の制御装置を搭載するハイブリッド自動車20では ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと補正係数Kicとを乗じた値(=Qfb・Kaf・Kic)を燃料噴射弁126の目標噴射量Qf*に設定している。しかしながら、ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと補正係数Kicと燃料噴射弁126の先端に付着する燃料分噴射量を増量するための学習値Qflとを乗じた値を目標噴射量Qf*に設定してもよいし、ベース噴射量Qfbに補正係数Kafと補正係数Kicと学習値Qflとを乗じた値に吸気管123の壁面に付着する燃料分噴射量を増量するための補正量を加えたものを目標噴射量Qf*に設定してもよい。
【0065】
実施例では、エンジン22とプラネタリギヤ30とモータMG1,MG2とを備えるハイブリッド自動車20に搭載される内燃機関の制御装置の形態とした。しかしながら、内燃機関と1つのモータとを備えるいわゆる1モータハイブリッド自動車に搭載される内燃機関の制御装置の形態としてもよい。また、内燃機関からの動力だけを用いて走行する自動車に搭載される内燃機関の制御装置の形態としてもよい。さらに、建設設備などの自動車とは異なる設備に搭載される内燃機関の制御装置の形態としてもよい。
【0066】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、浄化触媒136aが「浄化触媒」に相当し、エンジンECU24が「内燃機関の制御装置」に相当する。
【0067】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0068】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、内燃機関の制御装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジンECU、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータECU、41,42 インバータ、43,44 回転位置センサ、50 バッテリ、51a 電圧センサ、51b 電流センサ、51c 温度センサ、52 バッテリECU、54 電力ライン、70 HVECU、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 ベース噴射量設定部、91 メインフィードバック部、92 サブフィードバック部、93 目標噴射量設定部、94 噴射弁制御部、122 エアクリーナ、123 吸気管、124 スロットルバルブ、124a スロットルバルブポジションセンサ、124b スロットルモータ、125 サージタンク、126 燃料噴射弁、128 吸気バルブ、129 燃焼室、130 点火プラグ、132 ピストン、133 排気バルブ、134 排気管、136,138 浄化装置、136a,138a 浄化触媒、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、144 カムポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、150 圧力センサ、152 上流側空燃比センサ、154 下流側空燃比センサ、MG1,MG2 モータ。