(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】無線通信装置及び無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
H04B7/06 150
(21)【出願番号】P 2020211422
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-06-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、「5G基地局共用技術に関する研究開発」研究開発委託契約に基づく開発項目「5G基地局の共用を実現する広帯域な無線通信システム構成技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロズキン アレクサンダー ニコラビッチ
(72)【発明者】
【氏名】大田 智也
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183881(JP,A)
【文献】特開平07-202548(JP,A)
【文献】特開2003-060424(JP,A)
【文献】国際公開第2011/077617(WO,A1)
【文献】特開平10-270929(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0246863(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を送信する複数のアンテナ素子と
、
前記複数のアンテナ素子それぞれに
対応する複数の直交変調器と
、
前記複数の直交変調器へ供給さ
れ周波数変換に用いられる第1の発振信号に、送信ビーム方向に応じた第1の周波数シフトを付与
するように制御を行い、
送信データ
にデジタル変調
を行い、第1の同相信号及び
第1の直交信号を生成し、
生成された
前記第1の同相信号及び
前記第1の直交信号に、前記第1の周波数シフトとは逆の第2の周波数シフトが付与された第2の発振信号を複素乗算する
ことで、第2の同相信号及び第2の直交信号を生成し、
前記第2の同相信号及び前記第2の直交信号を出力するプロセッサと、
前記第2の同相信号を前記複数の直交変調器へ分配する第1の分配器と、
前記第2の直交信号を前記複数の直交変調器へ分配する第2の分配器と、を有し、
前記複数の直交変調器は、
前記第1の分配器によって分配された第3の同相信号と、前記第2の分配器によって分配された第3の直交信号と、に直交変調を行い、前記送信信号を生成する、
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記複数の直交変調器へ供給される前記第1の発振信号に、所定の遅延を付与する遅延器をさらに有することを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記複数の直交変調器へ供給される前記第1の発振信号を生成する発振器をさらに有し、
前記付与する処理は、
前記発振器が生成する前記第1の発振信号に第1の周波数シフトを付与する
ことを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記複素乗算する処理は、
前記
第1の同相信号及び
前記第1の直交信号の周波数をベースバンド周波数から中間周波数に周波数変換する
ことを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項5】
複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子それぞれに設けられ、受信信号の直交復調により中間周波数の同相信号及び直交信号を生成する複数の直交復調器と、
前記複数の直交復調器によって生成される同相信号を合成するとともに、前記複数の直交復調器によって生成される直交信号を合成する合成器と、
前記合成器によって合成された同相信号及び直交信号が入力されるプロセッサとを有し、
前記プロセッサは、
前記複数の直交復調器へ供給され中間周波数への周波数変換に用いられる第1の発振信号に、受信ビーム方向に応じた第1の周波数シフトを付与し、
前記合成器から入力される同相信号及び直交信号に、前記第1の周波数シフトとは逆の第2の周波数シフトが付与された第2の発振信号を複素乗算し、
複素乗算により得られるベースバンド周波数の同相信号及び直交信号をデジタル復調する
処理を実行することを特徴とする無線通信装置。
【請求項6】
前記複数の直交復調器へ供給される前記第1の発振信号に、所定の遅延を付与する遅延器をさらに有することを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記複数の直交復調器へ供給される前記第1の発振信号を生成する発振器をさらに有し、
前記付与する処理は、
前記発振器が生成する前記第1の発振信号に第1の周波数シフトを付与する
ことを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記複素乗算する処理は、
同相信号及び直交信号の周波数を中間周波数からベースバンド周波数に周波数変換する
ことを特徴とする請求項5記載の無線通信装置。
【請求項9】
送信信号を送信する複数のアンテナ素子
と、前記複数のアンテナ素子それぞれに対応する複数の直交変調器と、プロセッサと、第1の分配器と、第2の分配器とを有する無線通信装置が実行する無線通信方法であって、
前記プロセッサは、
前記複数の直交変調器へ供給され周波数変換に用いられる第1の発振信号に、送信ビーム方向に応じた第1の周波数シフトを付与するように制御し、
送信データにデジタル変調を行い、第1の同相信号及び第1の直交信号を生成し、
生成された前記第1の同相信号及び前記第1の直交信号に、前記第1の周波数シフトとは逆の第2の周波数シフトが付与された第2の発振信号を複素乗算することで、第2の同相信号及び第2の直交信号を生成し、
前記第2の同相信号及び前記第2の直交信号を出力し、
前記第1の分配器は、前記第2の同相信号を前記複数の直交変調器へ分配し、
前記第2の分配器は、前記第2の直交信号を前記複数の直交変調器へ分配し、
前記複数の直交変調器は、前記第1の分配器によって分配された第3の同相信号と、前記第2の分配器によって分配された第3の直交信号と、に直交変調を行い、前記送信信号を生成する、
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項10】
複数のアンテナ素子を有する無線通信装置が実行する無線通信方法であって、
前記複数のアンテナ素子それぞれにおいて、受信信号の直交復調により中間周波数の同相信号及び直交信号を生成し、
前記複数のアンテナ素子それぞれにおいて生成された同相信号を合成するとともに、前記複数のアンテナ素子それぞれにおいて生成された直交信号を合成し、
合成された同相信号及び直交信号から受信データを取得する処理を有し、
前記同相信号及び直交信号を生成する処理は、
中間周波数への周波数変換に用いられる第1の発振信号に、受信ビーム方向に応じた第1の周波数シフトを付与する処理を含み、
前記受信データを取得する処理は、
合成された同相信号及び直交信号に、前記第1の周波数シフトとは逆の第2の周波数シフトが付与された第2の発振信号を複素乗算し、
複素乗算により得られるベースバンド周波数の同相信号及び直交信号をデジタル復調する処理を含む
ことを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代移動通信システム(5G)においては、例えば波長が1~10mmのミリ波をデータ通信に用いることが検討されている。ミリ波を用いることにより、広い周波数帯域幅によってデータ通信を行うことが可能となり、データレートが向上することが期待されている。一方で、ミリ波には、空間を伝搬する際の減衰が大きいという特性があることから、ミリ波を用いる通信においては、例えば多数のアンテナ素子を備えるアレイアンテナを用いてビームフォーミングが行われることがある。
【0003】
ビームフォーミングは、複数のアンテナ素子にそれぞれフェーズシフタを設け、各アンテナ素子から送信される信号に位相差を設定することで、所望の方向に利得が高いビームを形成するものである。フェーズシフタを用いるビームフォーミングにおいては、比較的高価な可変フェーズシフタが各アンテナ素子に設けられるため、アレイアンテナの高コスト化が生じる。そこで、アレイアンテナを用いる例えばレーダーなどには、周波数シフトにより各アンテナ素子の信号に位相差を与えてビームを形成する周波数走査(frequency scanning)方式のビームフォーミングを行うものがある。周波数走査方式のビームフォーミングによれば、アップコンバート又はダウンコンバートのためのミキサをそれぞれのアンテナ素子に設け、例えばローカルVCO(Voltage Controlled Oscillator)などの発振器からミキサへ供給される発振信号の周波数を調整することにより、所望の方向へビームを形成することが可能となる。
【0004】
ただし、周波数走査方式のビームフォーミングでは、各アンテナ素子において送受信される信号に、ビーム方向に応じた周波数シフトが付与されるため、送受信される信号の周波数がビームの方向によって異なる。このため、通信に用いられる信号の周波数が規定されている無線通信装置においては、各アンテナ素子にミキサを設けるのみでは、所望の方向へビームを切り替えることが困難である。そこで、各アンテナ素子にミキサを設けると同時に、複数のアンテナ素子が分岐する前段の回路にも中間周波数(IF:Intermediate Frequency)のミキサを設ける構成の無線通信装置が考えられている。このような構成によれば、中間周波数のミキサにおいて、各アンテナ素子のミキサにおける周波数シフトとは逆の周波数シフトを信号に付与することができ、ビームの方向によらず送受信される信号の周波数を一定にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような周波数走査方式によってビームフォーミングを行う無線通信装置においては、回路規模が増大するという問題がある。具体的には、中間周波数のミキサ及び各アンテナ素子のミキサからの出力においては、希望周波数とは異なるイメージ周波数を有するイメージ成分が発生するため、このイメージ成分を除去するバンドパスフィルタ(BPF:Band Pass Filter)が備えられ、回路規模が増大する。
【0007】
例えば、中間周波数f
IFの信号がアンテナ素子のミキサによってアップコンバートされる場合について考える。アンテナ素子のミキサには、例えばローカルVCOからローカル周波数f
LOの発振信号が供給されるものとする。このとき、中間周波数f
IFの信号IFがミキサへ入力されてアップコンバートされると、例えば
図5に示すように、発振信号LOのローカル周波数f
LOを中心周波数として、希望周波数である無線周波数f
RF2(=f
LO+f
IF)の信号RF2と、イメージ周波数である無線周波数f
RF1(=f
LO-f
IF)のイメージ成分RF1とが出力される。
【0008】
このような場合、アンテナ素子からイメージ成分RF1が放射されないように、無線周波数fRF2の信号RF2を透過してイメージ成分RF1を除去するBPFがミキサの後段に設けられる。つまり、複数のアンテナ素子それぞれにイメージ成分を除去するBPFが設けられる。
【0009】
さらに、各アンテナ素子のミキサにおける周波数シフトを打ち消すために、中間周波数のミキサが設けられる場合には、中間周波数のミキサの出力にもイメージ成分が現れる。このため、複数のアンテナ素子が分岐する前段にも、中間周波数のミキサの出力からイメージ成分を除去するBPFが設けられる。そして、ビームの方向によって各アンテナ素子のミキサにおける周波数シフトが変化することから、この周波数シフトを打ち消すための信号の周波数は変化し得る。結果として、中間周波数のミキサの出力からイメージ成分を除去するBPFとしては、透過帯域が可変のBPFが用いられることになる。したがって、BPFの追加による回路規模の増大は、さらに顕著になる。
【0010】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、回路規模の増大を抑制することができる無線通信装置及び無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願が開示する無線通信装置は、1つの態様において、複数のアンテナ素子と、同相信号及び直交信号を出力するプロセッサと、前記プロセッサから出力される同相信号を前記複数のアンテナ素子へ分配するとともに、前記プロセッサから出力される直交信号を前記複数のアンテナ素子へ分配する分配器と、前記複数のアンテナ素子それぞれに設けられ、前記分配器によって分配される同相信号及び直交信号の直交変調により各アンテナ素子から送信される無線周波数の送信信号を生成する複数の直交変調器とを有し、前記プロセッサは、前記複数の直交変調器へ供給され無線周波数への周波数変換に用いられる第1の発振信号に、送信ビーム方向に応じた第1の周波数シフトを付与し、送信データをデジタル変調して同相信号及び直交信号を生成し、生成された同相信号及び直交信号に、前記第1の周波数シフトとは逆の第2の周波数シフトが付与された第2の発振信号を複素乗算する処理を実行する。
【発明の効果】
【0012】
本願が開示する無線通信装置及び無線通信方法の1つの態様によれば、回路規模の増大を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る無線送信装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係る無線通信方法を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、実施の形態2に係る無線受信装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施の形態2に係る無線通信方法を示すフロー図である。
【
図5】
図5は、アップコンバートの具体例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本願が開示する無線通信装置及び無線通信方法の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る無線送信装置100の構成を示すブロック図である。
図1に示す無線送信装置100は、プロセッサ110、I-DAC(Digital/Analog Converter)120、Q-DAC125、I-分配器130、Q-分配器135、ローカルVCO(Voltage Controlled Oscillator)140、遅延器150及びIQ変調器160を有する。
【0016】
プロセッサ110は、例えばCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はDSP(Digital Signal Processor)などを備え、無線送信装置100の全体を統括制御する。具体的には、プロセッサ110は、送信データ生成部111、デジタル変調部112、周波数制御部113、NCO(Numerically Controlled Oscillator)114及び複素ミキサ部115を有する。
【0017】
送信データ生成部111は、送信される情報の符号化などを実行し、送信データを生成する。
【0018】
デジタル変調部112は、送信データをデジタル変調し、同相成分のI(In-phase)信号及び直交成分のQ(Quadrature)信号を生成する。デジタル変調部112は、生成したI信号及びQ信号を複素ミキサ部115へ出力する。
【0019】
周波数制御部113は、NCO114及びローカルVCO140から出力される発振信号の周波数を制御する。具体的には、周波数制御部113は、無線送信装置100が形成するビームの方向に応じた周波数シフト量を決定し、決定した周波数シフト量だけローカルVCO140から出力される発振信号の周波数を増減させる。また、周波数制御部113は、ローカルVCO140における周波数シフトとは逆方向に周波数シフトするように、NCO114から出力される発振信号の周波数を増減させる。すなわち、周波数制御部113は、ローカルVCO140から出力される発振信号の周波数を例えばΔf(θ)増加させる場合、NCO114から出力される発振信号の周波数をΔf(θ)減少させる。同様に、周波数制御部113は、ローカルVCO140から出力される発振信号の周波数を例えばΔf(θ)減少させる場合、NCO114から出力される発振信号の周波数をΔf(θ)増加させる。
【0020】
NCO114は、ベースバンド周波数と中間周波数を相互変換するための複素正弦波からなる発振信号を生成する発振器である。すなわち、NCO114は、ベースバンド周波数と中間周波数の変換用の発振信号を生成し、この発振信号の実部及び虚部を複素ミキサ部115へ出力する。このとき、NCO114は、周波数制御部113からの指示に従って、周波数シフトした発振信号を出力する。
【0021】
複素ミキサ部115は、デジタル変調部112から出力されるベースバンド周波数のI信号及びQ信号と、NCO114から出力される発振信号の実部及び虚部とを複素乗算し、中間周波数のI信号及びQ信号を出力する。複素ミキサ部115は、I信号及びQ信号に対してデジタル処理である複素乗算を実行するため、複素ミキサ部115から出力されるのは中間周波数のI信号及びQ信号のみであり、イメージ成分は出力されない。
【0022】
I-DAC120は、複素ミキサ部115から出力されるI信号に対してDA変換を施し、得られたアナログのI信号をI-分配器130へ出力する。
【0023】
Q-DAC125は、複素ミキサ部115から出力されるQ信号に対してDA変換を施し、得られたアナログのQ信号をQ-分配器135へ出力する。
【0024】
I-分配器130は、I信号を分岐して、アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子に分配する。
【0025】
Q-分配器135は、Q信号を分岐して、アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子に分配する。
【0026】
ローカルVCO140は、中間周波数と無線周波数を相互変換するための発振信号を生成する発振器である。すなわち、ローカルVCO140は、中間周波数と無線周波数の変換用の発振信号を生成し、この発振信号を各アンテナ素子のIQ変調器160へ出力する。このとき、ローカルVCO140は、周波数制御部113からの指示に従って、周波数シフトした発振信号を出力する。
【0027】
遅延器150は、ローカルVCO140から出力される発振信号にそれぞれ所定の遅延を付与する。遅延器150は、ビームの方向に応じた周波数シフトが付与された発振信号に、隣接するアンテナ素子間において順次遅延を付与することで、隣接するアンテナ素子のIQ変調器160へ供給される発振信号にビーム方向に対応する位相差を設定する。
【0028】
IQ変調器160は、I-分配器130から出力されるI信号とQ-分配器135から出力されるQ信号とを用いてIQ変調を実行する。このとき、IQ変調器160は、ローカルVCO140から出力され遅延器150において遅延が付与された発振信号をキャリア(搬送波)生成に用いて、中間周波数のI信号及びQ信号から無線周波数の送信信号を生成する。IQ変調器160は、I信号及びQ信号を用いたIQ変調を実行するため、IQ変調器160から出力されるのは送信される高周波信号のみであり、イメージ成分は出力されない。
【0029】
このように、各アンテナ素子のIQ変調器160は、それぞれビーム方向に対応する位相差が設定された発振信号をキャリア生成に用いるため、無線送信装置100は、所望の方向へビームを形成して信号を送信することができる。また、IQ変調器160によって用いられる発振信号の周波数シフトとは逆の周波数シフトがNCO114からの発振信号に付与されているため、複素ミキサ部115は、NCO114からの発振信号に応じてI信号及びQ信号を周波数シフトする。この結果、IQ変調器160における周波数シフトが複素ミキサ部115における周波数シフトによって打ち消され、無線送信装置100から送信される高周波信号の周波数は、所定の無線周波数で一定である。
【0030】
次いで、上記のように構成された無線送信装置100による無線通信方法について、
図2に示すフロー図を参照しながら説明する。
【0031】
まず、送信データ生成部111によって、送信される情報の符号化などが実行され、送信データが生成される(ステップS101)。生成された送信データは、デジタル変調部112によってデジタル変調され(ステップS102)、I信号及びQ信号が複素ミキサ部115へ入力される。
【0032】
複素ミキサ部115には、中間周波数に変換用の発振信号がNCO114から供給される。この発振信号は、複素正弦波からなり実部及び虚部を有する。また、発振信号の周波数は、周波数制御部113によって、ビームの方向に応じたローカルVCO140の周波数シフトを打ち消すように増減されている。すなわち、ビームの方向に対応するローカルVCO140における周波数シフトが例えばΔf(θ)である場合、NCO114における周波数シフトは-Δf(θ)である。
【0033】
このとき、NCO114がデジタル領域において発振信号を供給するため、0Hzを中心とした正負の周波数シフトを発振信号に付与することが可能である。したがって、アナログ領域において発振信号に周波数シフトを付与する場合に比べて、周波数シフトの絶対値を2分の1にすることができる。例えば、アナログ領域において2GHzの幅の周波数シフトを付与する場合には、0~2GHzの周波数シフトを付与することになるが、デジタル領域において2GHzの幅の周波数シフトを付与する場合には、-1~+1GHzの周波数シフトを付与すれば良く、周波数シフトの絶対値は最大でも1GHzで済む。
【0034】
このような周波数シフトが付与された発振信号が複素ミキサ部115へ供給されると、ベースバンド周波数のI信号及びQ信号と発振信号との複素乗算が実行される(ステップS103)。すなわち、I信号及びQ信号がデジタル処理によって中間周波数のI信号及びQ信号に変換される。このとき、複素乗算がデジタル処理であるため、I信号及びQ信号の周波数が変換されてもイメージ成分は発生しない。したがって、複素ミキサ部115の出力からイメージ成分を除去する必要がなく、BPFなどのフィルタを設ける必要がない。結果として、無線送信装置100の回路規模の増大を抑制することができる。
【0035】
中間周波数のI信号は、I-DAC120へ入力され、中間周波数のQ信号は、Q-DAC125へ入力される。そして、I信号及びQ信号は、それぞれDA変換され(ステップS104)、I-分配器130及びQ-分配器135へ入力される。I-分配器130においては、I信号が複数のアンテナ素子へ分配され、Q-分配器135においては、Q信号が複数のアンテナ素子へ分配される。そして、各アンテナ素子においては、それぞれI信号及びQ信号がIQ変調器160へ入力される。
【0036】
IQ変調器160には、無線周波数に変換用の発振信号がローカルVCO140から供給される。この発振信号は、隣接するアンテナ素子間に設けられる遅延器150によって、それぞれ所定の時間ずつ遅延が付与されて各アンテナ素子のIQ変調器160へ入力される。また、発振信号の周波数は、周波数制御部113によって、ビームの方向に応じて周波数シフトされている。すなわち、ローカルVCO140から出力される発振信号に、ビームの方向に対応する例えばΔf(θ)の周波数シフトが付与されている。
【0037】
このような無線周波数に変換用の発振信号が供給されるIQ変調器160によって、中間周波数のI信号及びQ信号がIQ変調される(ステップS105)。すなわち、無線周波数に変換用の発振信号がキャリア生成に用いられ、I信号及びQ信号による直交変調が実行されることにより、無線周波数の送信信号が得られる。このとき、IQ変調が実行されてもイメージ成分は発生しないため、IQ変調器160の出力からイメージ成分を除去する必要はない。したがって、各アンテナ素子のIQ変調器160の出力段に、BPFなどのフィルタを設ける必要がない。結果として、無線送信装置100の回路規模の増大を抑制することができる。
【0038】
また、IQ変調器160へ供給される発振信号には、ビームの方向に応じた周波数シフトが付与され、この発振信号は、隣接するアンテナ素子間において順次所定の遅延が付与されてIQ変調器160へ供給されている。このため、複数のアンテナ素子それぞれのIQ変調器160から出力される信号には位相差が設定され、所望の方向を向く送信ビームが形成される。さらに、あらかじめ複素ミキサ部115へ供給される発振信号に、無線周波数における周波数シフトΔf(θ)を打ち消すための周波数シフト-Δf(θ)が付与されているため、IQ変調器160から出力される信号の周波数が無線通信システムにおいて規定された無線周波数を逸脱することがない。
【0039】
このようにしてIQ変調器160から出力される送信信号は、それぞれのアンテナ素子から送信される(ステップS106)。すなわち、周波数シフトに応じたビームの方向へ、無線通信システムにおいて規定された無線周波数の信号が送信される。
【0040】
以上のように、本実施の形態によれば、デジタル処理である複素乗算によって、I信号及びQ信号の周波数を周波数シフトした中間周波数に変換し、I信号及びQ信号をそれぞれDA変換する。そして、各アンテナ素子において、ビーム方向に応じて周波数シフトした発振信号を用いてI信号及びQ信号のIQ変調を実行することにより、無線周波数の送信信号を生成する。このため、複素乗算及びIQ変調によって周波数変換が行われることから、周波数変換時にイメージ成分が発生することがなく、イメージ成分を除去するための例えばBPFなどのフィルタが不要となる。結果として、無線送信装置の回路規模の増大を抑制することができる。また、ビーム方向に応じた周波数シフトが中間周波数への変換の際の周波数シフトによってキャンセルされるため、アンテナ素子から放射される高周波信号の周波数を一定にすることができる。
【0041】
(実施の形態2)
上記実施の形態1においては、周波数走査方式によって送信ビームを形成する場合について説明したが、周波数走査方式によって受信ビームを形成する場合にも、回路規模の増大を抑制することが可能である。そこで、実施の形態2においては、周波数走査方式によって受信ビームを形成する場合について説明する。
【0042】
図3は、実施の形態2に係る無線受信装置200の構成を示すブロック図である。
図3において、
図1と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。
図3に示す無線受信装置200は、ローカルVCO140、遅延器150、IQ復調器210、I-合成器220、Q-合成器225、I-ADC(Analog/Digital Converter)230、Q-ADC235及びプロセッサ240を有する。
【0043】
IQ復調器210は、複数のアンテナ素子それぞれに備えられ、各アンテナ素子によって受信された受信信号をIQ復調する。このとき、IQ復調器210は、ローカルVCO140から出力され遅延器150において遅延が付与された発振信号をキャリア(搬送波)除去に用いて、無線周波数の受信信号から中間周波数のI信号及びQ信号を生成する。IQ復調器210は、受信信号をIQ復調するため、IQ復調器210から出力されるのはI信号及びQ信号のみであり、イメージ成分は出力されない。
【0044】
各アンテナ素子のIQ復調器210は、それぞれビーム方向に対応する周波数シフトによって位相差が設定された発振信号をキャリア除去に用いるため、無線受信装置200は、所望の方向へビームを形成して信号を受信することができる。
【0045】
I-合成器220は、各アンテナ素子のIQ復調器210から出力されるI信号を合成して、合成により得られる1つのI信号をI-ADC230へ出力する。
【0046】
Q-合成器225は、各アンテナ素子のIQ復調器210から出力されるQ信号を合成して、合成により得られる1つのQ信号をQ-ADC235へ出力する。
【0047】
I-ADC230は、I-合成器220から出力されるI信号に対してAD変換を施し、得られたデジタルのI信号をプロセッサ240へ出力する。
【0048】
Q-ADC235は、Q-合成器225から出力されるQ信号に対してAD変換を施し、得られたデジタルのQ信号をプロセッサ240へ出力する。
【0049】
プロセッサ240は、例えばCPU、FPGA又はDSPなどを備え、無線受信装置200の全体を統括制御する。具体的には、プロセッサ240は、周波数制御部113、NCO114、複素ミキサ部241及びデジタル復調部242を有する。
【0050】
複素ミキサ部241は、I-ADC230及びQ-ADC235から出力される中間周波数のI信号及びQ信号と、NCO114から出力される発振信号の実部及び虚部とを複素乗算し、ベースバンド周波数のI信号及びQ信号を出力する。複素ミキサ部241は、I信号及びQ信号に対してデジタル処理である複素乗算を実行するため、複素ミキサ部241から出力されるのはベースバンド周波数のI信号及びQ信号のみであり、イメージ成分は出力されない。
【0051】
また、IQ復調器210によって用いられる発振信号の周波数シフトとは逆の周波数シフトがNCO114からの発振信号に付与されているため、複素ミキサ部241は、NCO114からの発振信号に応じてI信号及びQ信号を周波数シフトする。この結果、IQ復調器210における周波数シフトが複素ミキサ部241における周波数シフトによって打ち消され、プロセッサ240において処理されるI信号及びQ信号の周波数は、所定のベースバンド周波数で一定である。
【0052】
デジタル復調部242は、I信号及びQ信号をデジタル復調し、得られた受信データを出力する。
【0053】
次いで、上記のように構成された無線受信装置200による無線通信方法について、
図4に示すフロー図を参照しながら説明する。
【0054】
IQ復調器210には、中間周波数に変換用の発振信号がローカルVCO140から供給される。この発振信号は、隣接するアンテナ素子間に設けられる遅延器150によって、それぞれ所定の時間ずつ遅延が付与されて各アンテナ素子のIQ復調器210へ入力される。また、発振信号の周波数は、周波数制御部113によって、ビームの方向に応じて周波数シフトされている。すなわち、ローカルVCO140から出力される発振信号に、ビームの方向に対応する例えばΔf(θ)の周波数シフトが付与されている。
【0055】
このように、周波数シフトが付与された発振信号に遅延が付与されてIQ復調器210へ供給されるため、所望の方向に複数のアンテナ素子の利得が大きい受信ビームが形成される。この受信ビームによって信号が受信されると(ステップS201)、各アンテナ素子のIQ復調器210によって、受信信号のIQ復調が実行される(ステップS202)。すなわち、中間周波数に変換用の発振信号がキャリア除去に用いられ、受信信号の直交復調が実行されることにより、中間周波数のI信号及びQ信号が得られる。このとき、IQ復調が実行されてもイメージ成分は発生しないため、IQ復調器210の出力からイメージ成分を除去する必要はない。したがって、各アンテナ素子のIQ復調器210の出力段に、BPFなどのフィルタを設ける必要がない。結果として、無線受信装置200の回路規模の増大を抑制することができる。
【0056】
各アンテナ素子のI信号は、I-合成器220へ入力され、各アンテナ素子のQ信号は、Q-合成器225へ入力される。そして、I信号及びQ信号は、それぞれ合成され、I-ADC230によってI信号がAD変換され、Q-ADC235によってQ信号がAD変換される(ステップS203)。そして、デジタルのI信号及びQ信号は、プロセッサ240の複素ミキサ部241へ入力される。
【0057】
複素ミキサ部241には、ベースバンド周波数に変換用の発振信号がNCO114から供給される。この発振信号は、複素正弦波からなり実部及び虚部を有する。また、発振信号の周波数は、周波数制御部113によって、ビームの方向に応じたローカルVCO140の周波数シフトを打ち消すように増減されている。すなわち、ビームの方向に対応するローカルVCO140における周波数シフトが例えばΔf(θ)である場合、NCO114における周波数シフトは-Δf(θ)である。
【0058】
このとき、NCO114がデジタル領域において発振信号を供給するため、0Hzを中心とした正負の周波数シフトを発振信号に付与することが可能である。したがって、アナログ領域において発振信号に周波数シフトを付与する場合に比べて、周波数シフトの絶対値を2分の1にすることができる。例えば、アナログ領域において2GHzの幅の周波数シフトを付与する場合には、0~2GHzの周波数シフトを付与することになるが、デジタル領域において2GHzの幅の周波数シフトを付与する場合には、-1~+1GHzの周波数シフトを付与すれば良く、周波数シフトの絶対値は最大でも1GHzで済む。
【0059】
このような周波数シフトが付与された発振信号が複素ミキサ部241へ供給されると、中間周波数のI信号及びQ信号と発振信号との複素乗算が実行される(ステップS204)。すなわち、I信号及びQ信号がデジタル処理によってベースバンド周波数のI信号及びQ信号に変換される。このとき、複素乗算がデジタル処理であるため、I信号及びQ信号の周波数が変換されてもイメージ成分は発生しない。したがって、複素ミキサ部241の出力からイメージ成分を除去する必要がなく、BPFなどのフィルタを設ける必要がない。結果として、無線受信装置200の回路規模の増大を抑制することができる。
【0060】
また、複素ミキサ部241へ供給される発振信号に、無線周波数における周波数シフトを打ち消すための周波数シフトが付与されているため、複素ミキサ部241から出力される信号のベースバンド周波数が周波数シフトによって変化することがない。
【0061】
このようにしてベースバンド周波数に周波数変換されたI信号及びQ信号は、デジタル復調部242によって、デジタル復調され(ステップS205)、受信データが得られる。
【0062】
以上のように、本実施の形態によれば、各アンテナ素子において、ビーム方向に応じて周波数シフトした発振信号を用いてI信号及びQ信号のIQ復調を実行することにより、受信信号から中間周波数のI信号及びQ信号を生成する。そして、I信号及びQ信号をAD変換し、デジタル処理である複素乗算によって、I信号及びQ信号の周波数をベースバンド周波数に変換する。このため、IQ復調及び複素乗算によって周波数変換が行われることから、周波数変換時にイメージ成分が発生することがなく、イメージ成分を除去するための例えばBPFなどのフィルタが不要となる。結果として、無線受信装置の回路規模の増大を抑制することができる。また、ビーム方向に応じた周波数シフトがベースバンド周波数への変換の際の周波数シフトによってキャンセルされるため、ビーム形成のための周波数シフトの影響を受けることなくベースバンド周波数を一定にすることができる。
【0063】
なお、上記実施の形態1、2を組み合わせて、無線通信装置が周波数走査方式によって送信ビーム及び受信ビームの双方を形成するようにすることも可能である。また、実施の形態1に係る無線送信装置100又は実施の形態2に係る無線受信装置200を、CU(Central Unit)に接続されるDU(Distributed Unit)に適用したり、CU/DUに接続されるRU(Radio Unit)に適用したりすることも可能である。この場合、CU又はDUによって生成されるベースバンド周波数のI信号及びQ信号がDU又はRUへ入力され、DU又はRUにおいてI信号及びQ信号が発振信号との複素乗算により周波数変換されても良い。
【符号の説明】
【0064】
110、240 プロセッサ
111 送信データ生成部
112 デジタル変調部
113 周波数制御部
114 NCO
115、241 複素ミキサ部
120 I-DAC
125 Q-DAC
130 I-分配器
135 Q-分配器
140 ローカルVCO
150 遅延器
160 IQ変調器
210 IQ復調器
220 I-合成器
225 Q-合成器
230 I-ADC
235 Q-ADC
242 デジタル復調部