(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】成形機、成形品の押し出し方法
(51)【国際特許分類】
B22D 17/22 20060101AFI20240827BHJP
B22D 17/32 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B22D17/22 K
B22D17/32 Z
(21)【出願番号】P 2020214747
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 幸生
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-100157(JP,A)
【文献】特開2018-079485(JP,A)
【文献】特開2000-061607(JP,A)
【文献】特開2002-144383(JP,A)
【文献】特開2020-146713(JP,A)
【文献】特開2015-128874(JP,A)
【文献】特開2003-236898(JP,A)
【文献】特開昭61-020654(JP,A)
【文献】特開昭60-190829(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0055228(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102527988(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 15/00-17/32
B22D 46/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形機であって、
成形材料を用いて、凝固した成形品を形成するための金型と、
前記金型に挿通され、前記成形品を前記金型から離型させるための押出力を前記成形品に伝達する押出ピンと、
前記押出ピンの前記押出力を制御可能な制御装置であって、予め設定される開始点からの経過期間が第一経過期間である場合には、前記開始点からの経過期間が前記第一経過期間より短い第二経過期間である場合よりも大きな前記押出力で前記押出ピンを動作させる制御装置と、を備え、
前記経過期間は、少なくとも前記成形材料が前記金型に流入されるタイミング以降で設定される前記開始点から、前記成形品を前記成形機から取り出すための搬出装置に前記成形品が固定される時点までの期間であり、
前記経過期間の終了タイミングは、前記金型または前記金型内に備えられる温度センサによって取得される前記成形材料の温度または温度の変化量を用いて設定される、
成形機。
【請求項2】
前記開始点は、前記温度センサによって取得される取得される前記成形材料の温度または温度の変化量を用いて設定される、請求項1に記載の成形機。
【請求項3】
前記開始点は、前記金型に前記成形材料の充填が完了した時点である、請求項1に記載の成形機。
【請求項4】
前記制御装置は、前記経過期間が長くなるにしたがって、前記押出力が段階的に大きくなるように前記押出ピンを動作させる、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の成形機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記経過期間と、前記押出力との関係を示すマップを備える、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の成形機。
【請求項6】
前記制御装置は、さらに、前記金型と、前記成形材料とが接触する面積が大きい場合には、前記面積が小さい場合に比べて大きな前記押出力で前記押出ピンを動作させる、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の成形機。
【請求項7】
成形品の押し出し方法であって、
金型に前記成形品を形成するための成形材料を充填し、
前記成形品を前記金型から離型する際に、予め設定される開始点から第一経過期間が経過した場合には、前記開始点から前記第一経過期間より短い第二経過期間が経過した場合よりも大きな押出力を前記成形品に伝達し、
前記第一経過期間および前記第二経過期間は、少なくとも前記成形材料が前記金型に流入されるタイミング以降で設定される前記開始点から、前記成形品
を成形機から取り出すための搬出装置に前記成形品が固定される時点までの期間であり、
前記第一経過期間および前記第二経過期間の終了タイミングは、前記金型または前記金型内に備えられる温度センサによって取得される前記成形材料の温度または温度の変化量を用いて設定される、
成形品の押し出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成形機、成形品の押し出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
押出ピンによる成形品の押し出しが開始された後、可動側金型から成形品が剥離されるまでの所定期間だけ、電動サーボモータを定格トルク以上の出力トルクで駆動し、その他の期間では電動サーボモータをそれよりも小さな出力トルクで駆動するダイカストマシンが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動サーボモータが押出ピンに過剰な押出力を付与すると、押出ピンや成形品の品質を低下させることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、成形機が提供される。この成形機は、成形材料を用いて、凝固した成形品を形成するための金型と、前記金型に挿通され、前記成形品を前記金型から離型させるための押出力を前記成形品に伝達する押出ピンと、前記押出ピンの前記押出力を制御可能な制御装置であって、予め設定される開始点からの経過期間が第一経過期間である場合には、前記開始点からの経過期間が前記第一経過期間より短い第二経過期間である場合よりも大きな前記押出力で前記押出ピンを動作させる制御装置と、を備え、前記経過期間は、少なくとも前記成形材料が前記金型に流入されるタイミング以降で設定される前記開始点から、前記成形品を前記成形機から取り出すための搬出装置に前記成形品が固定される時点までの期間であり、前記経過期間の終了タイミングは、前記金型または前記金型内に備えられる温度センサによって取得される前記成形材料の温度または温度の変化量を用いて設定される。
この形態の成形機によれば、開始点からの経過期間が長くなる場合には、経過期間が短い場合に比較して成形品を離型させるための押出力が大きくなる。そのため、経過期間が長くなるにしたがって増加する成形品の金型への付着力に対応するように押出力を大きくさせることができる。したがって、経過期間によらず一定の押出力で成形品を押し出す成形機に比べて、押出ピンや成形品に過剰な押出力が付与されることを低減または防止することができる。
また、この形態の成形機によれば、搬出装置の異常などによって発生する成形品の冷却期間のばらつきに起因する付着力のばらつきに対して適正な押出力を設定することができる。
(2)上記形態の成形機において、前記開始点は、前記温度センサによって取得される取得される前記成形材料の温度または温度の変化量を用いて設定されてもよい。
(3)上記形態の成形機において、前記開始点は、前記金型に前記成形材料の充填が完了した時点であってよい。
この形態の成形機によれば、成形材料の充填が完了した時点を経過期間の開始点とすることにより、制御装置による時間計測が容易になる。
(4)上記形態の成形機において、前記制御装置は、前記経過期間が長くなるにしたがって、前記押出力が段階的に大きくなるように前記押出ピンを動作させてよい。
この形態の成形機によれば、押出力を段階的に調節することにより、押出力を無段階に調節する場合に比較して、制御装置による処理負担を軽減することができる。
(5)上記形態の成形機において、前記制御装置は、前記経過期間と、前記押出力との関係を示すマップを備えてよい。
この形態の成形機によれば、演算により押出力を決定する場合に比較して、制御装置による処理負担を軽減することができる。
(6)上記形態の成形機において、前記制御装置は、さらに、前記金型と、前記成形材料とが接触する面積が大きい場合には、前記面積が小さい場合に比べて大きな前記押出力で前記押出ピンを動作させてよい。
この形態の成形機によれば、成形材料と金型との付着力に影響を与える要因である金型と成形材料との接触面積を考慮することにより、押出力をより精度良く決定することができる。
本開示は、成形機以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、成形品の製造方法や成形機の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】型締めされた状態のダイカストマシンを示す説明図。
【
図2】型開きされた状態のダイカストマシンを示す説明図。
【
図3】成形品の押出しを行う状態のダイカストマシンを示す説明図。
【
図4】制御装置が実行する成形品の押出制御を示すフローチャート。
【
図6】第2実施形態のダイカストマシンが備えるトルクマップを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1から
図3を用いて、本開示の第1実施形態のダイカストマシン500の構成について説明する。
図1は、型締めされた状態のダイカストマシン500の構成を示す説明図である。
図2は、型開きされた状態のダイカストマシン500を示す説明図である。
図3は、成形品の押出しを行う状態のダイカストマシン500を示す説明図である。ダイカストマシン500は、成形材料を金型50内の空間に射出し、成形材料を金型50内で凝固させることにより、成形品を製造する成形機である。成形材料とは、例えば、液状または固液共存状態である凝固前の金属材料である。凝固前の金属材料は、溶湯とも呼ばれる。金属材料には、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金、亜鉛合金やマグネシウム合金、銅合金などの種々の材料が含まれる。成形機には、ダイカストマシン500のほか、樹脂材料を成形材料とする射出成形機などの種々の成形機が含まれる。
【0009】
金型50は、固定金型51と、移動金型52とを含んでいる。金型50は、成形品PDを形成するために用いられる。金型50は、直彫り加工であってもよく、入れ子加工であってもよい。固定金型51及び移動金型52には、中子などが組み合わされてもよい。金型50は、内部に冷媒を流通させる冷媒流路を備えてもよい。
【0010】
ダイカストマシン500は、型締装置200と、射出装置300と、押出装置100と、制御装置90とを有している。型締装置200は、制御装置90による制御のもとで、油圧シリンダ220の駆動力を利用して、金型50の開閉および型締めを行う。金型50の型締めとは、金型50の型閉じ後に、型閉じ時の圧力よりも大きい圧力で、金型50を閉じる向きに金型50を加圧する工程を意味する。本実施形態において、型締装置200は、油圧シリンダ220と図示しないトグル機構を組み合わせた構造を有している。型締装置200は、トグル機構を備えず、油圧シリンダを用いた直圧式であってもよい。
【0011】
射出装置300は、制御装置90による制御のもとで、金型50内に凝固前の金属材料を圧入する。
図1に示すように、型締めされた状態の金型50内には成形品PDと略同一形状の空間SPが形成されている。空間SPは、キャビティとも呼ばれる。射出装置300は、空間SPへ凝固前の金属材料を射出し、充填する。
【0012】
射出装置300は、金型50内に通じるスリーブ340と、スリーブ340内を摺動可能なプランジャ320と、プランジャ320を駆動する射出駆動部310とを有している。型締装置200による金型50の型締めが完了すると、図示しない供給装置が1ショット分の成形材料を、スリーブ340の上面の図示しない供給口からスリーブ340内へと供給する。プランジャ320がスリーブ340内を空間SP側へ摺動することにより、スリーブ340内の成形材料が金型50内に押し出される。空間SPに充填された凝固前の成形材料は、金型50に熱を奪われることにより冷却され、凝固する。この結果、成形品PDが形成される。
【0013】
型締装置200は、リンクハウジング210と、油圧シリンダ220と、タイバー230と、移動ダイプレート240と、固定ダイプレート250とを備えている。固定ダイプレート250には、固定金型51が固定されている。移動ダイプレート240には、移動金型52が固定されている。移動ダイプレート240は、固定ダイプレート250に対向している。移動ダイプレート240は、タイバー230に沿って、固定ダイプレート250に対して近接する方向と、固定ダイプレート250から離間する方向とに移動可能である。型締装置200は、油圧シリンダ220の駆動力によって移動ダイプレート240を移動させることによって、金型50を開閉するための型閉じおよび型開きと、金型50の型締めとを行う。
【0014】
図2に示すように、空間SP内に射出された金属材料が凝固して成形品PDが形成されると、型締装置200は、油圧シリンダ220の駆動力により、移動ダイプレート240を固定ダイプレート250から離間する方向に移動させて、金型50の型開きを行う。
【0015】
図3に示すように、押出装置100は、型開きされた状態の移動金型52から成形品を押し出す。押出装置100は、成形品を押し出すための押出ピン62と、押出ピン62を保持する押出板60と、押出板60に押出力を伝達する押出ロッド72と、押出駆動部80と、変換機構87とを有している。
【0016】
押出ピン62は、軸状部材である。本実施形態では、押出ピン62は、複数備えられる。押出ピン62は、その軸方向が金型50の開閉方向に沿った向きとなるように移動金型52に挿通されている。これにより、押出ピン62は、移動金型52に対して金型50の開閉方向に沿って移動することができる。押出ピン62は、1本でもよく、空間SPを含む金型50内の形状等に応じて適宜な位置及び本数で設けられてよい。
【0017】
押出板60は、押出ピン62を固定する板状部材である。押出板60は、移動金型52内の空間に収容されている。複数の押出ピン62は、押出板60の移動に伴って移動金型52内を金型50の開閉方向に沿って移動する。
【0018】
押出ピン62および押出板60は、例えば、押出板60が移動ダイプレート240に当接する位置まで退避することができる。押出板60の退避位置を規制するために、移動ダイプレート240や移動金型52に適宜なストッパ部材が設けられていてもよい。押出板60が退避位置に配置されているとき、押出ピン62の先端面は、移動金型52の内壁面に一致している。
【0019】
押出ロッド72は、その軸方向が金型50の開閉方向に沿った向きとなるように移動ダイプレート240に挿通されている。これにより、押出ロッド72は、移動ダイプレート240に対して金型50の開閉方向に沿って移動することができる。押出ロッド72の一端は、押出板60に固定されている。押出ロッド72に駆動力を付与することによって、押出板60および押出ピン62を金型50の開閉方向に沿って移動させることができる。押出ロッド72は、1本でも複数でもよく、押出板60の形状及び大きさ等に応じて適宜な位置および本数で設けられてよい。
【0020】
押出駆動部80は、制御装置90による制御のもとで、成形品を移動金型52から離型させるための押出力を押出ピン62に付与する。押出駆動部80は、ステータと、ステータに対して回転するロータとを有する電動モータである。制御装置90は、図示しないモータドライバ回路を制御してモータの駆動電流の供給量を調節することによって、押出駆動部80の出力トルクを調節することができる。押出駆動部80は、複数の電動モータを備えてもよく、複数の電動モータを用いて出力トルクを調節してもよい。押出装置100は、モータドライバ回路を備えなくてもよい。この場合には、制御装置90は、押出駆動部80のモータのタップの切り換えや電圧を調節することによって、直接的に押出駆動部80の出力トルクを調節してもよい。本開示において、「制御装置90が押出ピンの押出力を制御する」とは、直接的に押出ピン62による押出力を調節する場合のみには限定されず、例えば、押出ピン62による押出力を得るために必要な押出駆動部80の出力トルクを調節する場合など、押出力を直接的または間接的に制御する場合が含まれる。
【0021】
押出駆動部80は、移動ダイプレート240に対して固定されている。押出駆動部80の出力トルクは、後述するように、ねじ軸82に伝達される。押出駆動部80は、例えば、直流電動機、交流電動機、同期電動機、ならびに誘導電動機などの種々の形式であってもよい。押出駆動部80の配置位置や向きは適宜に設定されてよい。
【0022】
変換機構87は、押出駆動部80から伝達された回転を直線運動に変換する。変換機構87は、例えば、ねじ機構により構成されている。ねじ機構は、ボールねじ機構であってもよく、すべりねじ機構であってもよい。変換機構87は、ねじ軸82と、ナット板70とを備えている。ねじ軸82は、移動ダイプレート240に対して軸回りに回転可能に支持されている。ナット板70は、ねじ軸82に螺合され、軸回りの回転が規制されている。
【0023】
ナット板70には、押出ロッド72が固定されている。変換機構87におけるナット板70の移動方向は、押出ロッド72の軸方向と平行であり、金型50の開閉方向と平行である。押出駆動部80の回転がねじ軸82に伝達されると、ナット板70は、ねじ軸82の軸方向に沿って移動する。
図3に示すように、ナット板70が軸方向に沿って移動することにより、押出ロッド72は、金型50の開閉方向に沿って移動し、押出ロッド72に固定されている押出板60が金型50の開閉方向に沿って移動する。押出板60が金型50に向かって移動すると、押出板60に固定される押出ピン62は、型開きされた状態の移動金型52から成形品を押し出す。
【0024】
図3には、押出装置100によって金型50から離型された状態の成形品PDを搬出装置600が把持する状態が示されている。搬出装置600は、制御装置90による制御のもとで、成形品PDをダイカストマシン500の外部へと搬出し、後工程へと搬送する装置である。搬出装置600は、例えば、成形品PDを吸着もしくは把持することによって成形品PDを固定する。搬出装置600は、吸着圧、把持力の計測結果、触覚センサなどを用いて成形品PDの固定が完了したことを検出し、制御装置90に通知する。
【0025】
搬出装置600は、固定した成形品PDをダイカストマシン500の外へと搬出し、例えば、冷却工程や、成形品PDからランナ等を除去する工程などを含む後工程へと搬送する。搬出装置600は、成形品PDを後工程へ払い出すと、次に製造された成形品PDを搬出するために再びダイカストマシン500近傍の待機位置まで移動する。例えば、搬出装置600による後工程への払い出しの遅れなどの搬出装置600の異常が発生する場合には、搬出装置600が待機位置やダイカストマシン500内の成形品PDを受け取るための位置に移動することができない、もしくは遅れることがある。この場合には、ダイカストマシン500は、例えば、金型50を型開きさせた状態で、押出装置100による成形品PDの押し出しを行うことなく待機する。その結果、ダイカストマシン500による成形品PDを形成するための経過期間が通常時に比べて長くなることがある。「成形品PDを形成するための経過期間」は、ダイカストマシン500を用いて一の成形品PDの形成が開始されてから、その成形品PDが金型50から離型されるまでの間に含まれる期間を意味する。
【0026】
図1から
図3に示すように、制御装置90は、論理演算を実行するマイクロプロセッサと、ROM、RAM等のメモリとを備えるマイクロコンピュータである。マイクロプロセッサは、メモリに予め格納されるプログラムを実行することでダイカストマシン500の押出装置100、型締装置200、射出装置300などの各部の動作、ならびに搬出装置600の動作を制御する。搬出装置600やダイカストマシン500の各部の機能の一部又は全部は、ハードウェア回路で実現されてもよい。
【0027】
本実施形態では、制御装置90は、トルクマップTMと、経過期間をカウントするためのタイマ92とを備えている。タイマ92は、ハードウェアまたはソフトウェアのいずれで構成されてもよい。制御装置90は、タイマ92に代えて、タイムサーバから経過期間を取得してもよい。
【0028】
トルクマップTMは、制御装置90のメモリ内に予め格納されている。本実施形態において、トルクマップTMには、後述するように、開始点としての金型50に成形材料の充填が完了した時点からの経過期間と、押出駆動部80が押出ピン62に付与する押出力との対応関係が規定されている。この経過期間と、押出力との対応関係は、経過期間と押出力との対応関係のみには限定されず、例えば、押出ピン62による押出力を得るために必要な押出駆動部80の出力トルクなど、押出力を直接的または間接的に発生させる項目と、経過期間との対応関係が含まれる。制御装置90は、トルクマップTMを備えず、演算によって押出力を決定してもよい。
【0029】
図4および
図5を用いて、本実施形態のダイカストマシン500の制御装置90が実行する成形品の押出制御について説明する。
図4は、制御装置90が実行する成形品の押出制御を示すフローチャートである。本フローは、例えば、型締装置200による金型50の型閉じが完了した時点に開始される。
【0030】
ステップS10では、制御装置90は、型締装置200を制御して金型50の型締めを行う。制御装置90は、型締装置200の油圧シリンダ220を駆動させて、金型50に所定の型締力を付与することによって型締めを実行する。ステップS20では、制御装置90は、射出装置300を制御して、型締めされた状態の金型50内の空間SPに凝固前の成形材料を充填する。
【0031】
ステップS30では、制御装置90は、タイマ92により時間計測を開始する。押出駆動部80の出力トルクを決定するための時間計測を制御装置90が開始する時点を「開始点」とも呼ぶ。開始点は、押出駆動部80の出力トルクを精度良く決定するために、成形材料が金型50に熱が奪われ始める時点以降であることが好ましく、例えば、射出装置300により成形材料が金型50に流入されるタイミング以降で設定されることが好ましい。本実施形態では、開始点は、成形材料の充填が完了した時点で設定されている。成形材料の充填が完了した時点とは、例えば、プランジャ320が押し込み完了位置に到達した時点、もしくは射出装置300に備えられる図示しない射出シリンダの内圧が充填完了に対応する所定値に到達した時点である。プランジャ320が押し込み完了位置に到達したことは、リミットスイッチなどを用いることにより検出できる。射出装置300に備えられる図示しない射出シリンダの内圧が充填完了に対応する所定値に到達したことは、射出シリンダの内圧を検出する圧力センサなどを用いることにより検出できる。また、成形材料の充填が完了した時点は、これら以外であっても、成形材料の充填のタイミングに対応付けられた種々の信号を検出することによって特定されてもよい。開始点は、成形材料の充填が完了した時点のほか、例えば、成形材料の充填を開始する時点、成形材料の冷却を開始する時点、成形材料の冷却を完了する時点、金型50の型開きを開始する時点、金型50の型開きが完了する時点などで設定されてよく、これらの工程を実行している間の任意のタイミングで設定してもよい。開始点は、金型50もしくは金型50内に備えられる温度センサによって取得される成形材料の温度や温度の変化量などを用いて設定されてもよい。
【0032】
ステップS40では、制御装置90は、成形材料の冷却を行う。具体的には、制御装置90は、開始点から予め定められる冷却期間が経過するまで、金型50を型締めした状態で保持することによって、成形材料の冷却を行う。冷却期間は、例えば、数十秒など、成形材料が充分に凝固するための時間を用いて設定することができる。冷却期間としては、例えば、成形品PDの大きさや形状、成形材料、ならびに金型の材料に応じて任意に設定してよい。
【0033】
ステップS50では、制御装置90は、金型50の型開きを行う。具体的には、制御装置90は、油圧シリンダ220を駆動して、移動ダイプレート240を固定ダイプレート250から離間する方向に移動させることによって、金型50の型開きを行う。ステップS60では、制御装置90は、成形品PDの取り出し準備を行う。本実施形態では、制御装置90が搬出装置600を駆動させて、移動金型52に付着した成形品PDを搬出装置600に固定することで取り出し準備が完了する。
【0034】
ステップS70では、制御装置90は、開始点からの時間計測を終了する。本実施形態では、制御装置90は、ステップS60が完了して、成形品PDの取り出し準備が完了した時点で時間計測を終了する。制御装置90は、例えば、搬出装置600が出力する成形品PDの固定が完了した旨の通知を受信することによって、成形品PDの取り出し準備が完了したことを認識する。時間計測を終了するタイミングは、成形品PDの取り出し準備が完了した時点のほか、例えば、成形材料の冷却を完了する時点、金型50の型開きを開始する時点、金型50の型開きが完了する時点などで設定されてよく、これらの工程を実行している間の任意のタイミングで設定してもよい。時間計測を終了するタイミングは、金型50もしくは金型50内に備えられる温度センサによって取得される成形材料の温度や温度の変化量などを用いて設定されてもよい。
【0035】
ステップS80では、制御装置90は、計測した開始点からの経過期間に対応する押出力を決定する。本実施形態では、制御装置90は、メモリ内に格納されているトルクマップTMを用いて、経過期間に対応する押出力を得るために必要な押出駆動部80の出力トルクを決定する。ステップS90では、押出駆動部80は、決定したトルクで押出駆動部80を駆動させる。本実施形態では、制御装置90は、図示しないモータドライバ回路の制御により押出駆動部80のモータに対する駆動電流の供給量を調節することによって、押出駆動部80の出力トルクを調節する。この結果、移動金型52に付着する成形品PDが押出ピン62により押し出されて離型される。成形品PDの押し出しが完了すると、本フローは終了する。搬出装置600は、固定した成形品PDを後工程に搬出する。
【0036】
図5を用いて、ステップS80で制御装置90が実行する押出駆動部80の出力トルクの決定方法について説明する。
図5は、制御装置90のメモリに格納されているトルクマップTMの一例を示す説明図である。トルクマップTMには、
図5に実線FT1で示すように、金型50に成形材料の充填が完了した開始点からの経過期間と、押出駆動部80の出力トルクとの対応関係が規定されている。
【0037】
図5に示すように、押出駆動部80の出力トルクは、例えば、開始点から経過期間T2が経過した場合には、開始点から経過期間T2より短い経過期間T1が経過した場合よりも大きい。同様に、押出駆動部80の出力トルクは、例えば、開始点から経過期間T3が経過した場合には、開始点から経過期間T1や経過期間T2が経過した場合よりも大きい。換言すれば、押出駆動部80の出力トルクは、開始点からの経過期間が長い場合には、経過期間が短い場合よりも大きくなるように設定されている。本開示において、開始点からの一の経過期間を、「第一経過期間」としたとき、第一経過期間より短い経過期間を、「第二経過期間」とも呼ぶ。
図5の例では、経過期間T2を第一経過期間としたとき、経過期間T1は、第二経過期間である。経過期間T3が第一経過期間であるとき、経過期間T1または経過期間T2の少なくともいずれかが第二経過期間に該当する。開始点からの経過期間は、例えば、成形品PDを受け取るための搬出装置600の異常による成形品PDの受け取りタイミングの遅延や、ダイカストマシン500での異常による成形品PDの冷却時の非常停止などによりばらつくことがある。「出力トルクは、開始点からの経過期間が長い場合には、経過期間が短い場合よりも大きくなる」とは、経過期間が長くなるにしたがって出力トルクが巨視的に大きくなることを意味し、例えば、経過期間に含まれるわずかな期間において出力トルクが一時的に減少し、一時的な減少が発生した後の出力トルクが一時的な減少が発生する前の出力トルクよりも大きくなる場合を含む。
【0038】
図5には、技術の理解を容易にするために、経過期間と、移動金型52に対する成形品PDの付着力との対応関係が曲線TSにより概念的に示されている。成形材料は、凝固時の冷却による熱収縮によって移動金型52に付着する。そのため、移動金型52から成形品PDを離型するためには、移動金型52に対する成形品PDの付着力よりも大きい押出力を付与する必要がある。発明者は、曲線TSで示すように、成形品PDの冷却期間が長いほど成形品PDの熱収縮量は大きくなり、移動金型52への付着力は大きくなることを見出した。移動金型52から成形品PDを離型するために必要な押出力は、曲線TSで示すように、成形品PDの冷却期間が長いほど大きくなる。トルクマップTMでは、実線FT1で示すように、開始点からの経過期間ごとの出力トルクは、押出駆動部80が出力可能なトルクの最大値を上限として、曲線TSで示す移動金型52への付着力以上となるように設定されている。実線FT1で示す経過期間ごとの出力トルクは、例えば、成形品PDを離型可能な押出力を得られる押出駆動部80の出力トルクを、開始点からの経過期間ごとに計測することによって実験的に求めることができる。
【0039】
本実施形態では、押出駆動部80の出力トルクは、さらに、開始点からの経過期間が長くなるにしたがって段階的に大きくなるように設定されている。具体的には、押出駆動部80が出力可能なトルクの最大値を100%とするとき、開始点から経過期間T1までは、押出駆動部80による出力トルクは60%で設定されている。経過期間T1から経過期間T2までは、出力トルクは80%で設定され、経過期間T2から経過期間T3までは、出力トルクは100%で設定されている。本実施形態では、出力トルクは、最小値を60%とし、最大値を100%とする範囲で20%ごとに3段階で設定されているが、出力トルクは、2段階や4段階以上の複数の段階で段階的に大きくなるように設定されていてもよい。出力トルクの最小値は60%には限らず10%や20%であってよく、50%や75%などの任意の数値で設定されてよい。出力トルクの最大値は、100%には限定されず、90%や75%であってよく、50%や25%などの任意の数値で設定されてよい。
【0040】
本実施形態において、100%の出力トルクによって得られる押出力は、数十トン程度で設定されている。ここで、油圧シリンダを用いて押出力を得るダイカストマシンでは、押出力は、段階的に調節されることなく、開始点からの経過期間にかかわらず、成形品PDを離型することができる最大値のみで設定されることがある。本実施形態のダイカストマシン500が押出駆動部80による100%の出力トルクによって得られる押出力は、生産性を向上させる観点から、この油圧シリンダを用いて押出力を得るダイカストマシンで設定される押出力よりも小さく設定されることが好ましく、例えば、80トン未満であることが好ましい。
【0041】
経過期間T3を超えると、押出駆動部80によって得られる押出力よりも成形品PDの付着力の方が大きくなり、成形品PDの離型はできなくなる。制御装置90は、計測する経過期間が経過期間T3に到達した時点もしくは経過期間T3に到達する前に、ダイカストマシン500の使用者や管理者に異常を報知してもよい。
【0042】
以上、説明したように、本実施形態のダイカストマシン500によれば、押出駆動部80の出力トルクは、開始点からの経過期間が長い場合には、経過期間が短い場合よりも大きくなるように設定されている。本実施形態のダイカストマシン500は、成形品PDを形成するための経過期間が長くなるに従って増加する付着力に対応するように、成形品PDの押出力が大きくなるように押出駆動部80の出力トルクを調節する。そのため、例えば、開始点からの経過期間が短く成形品PDの金型50への付着力が小さいような場合には、押出駆動部80の出力トルクを、経過期間によらず一定の押出力で成形品PDを離型する場合に比べて小さくすることができる。したがって、押出ピン62や成形品PDに過剰な押出力が付与されることを低減または防止することができ、押出装置100の各部の品質や成形品PDの品質が低下することを低減または防止することができる。出力トルクを小さくすることにより、押出駆動部80の消費電力を低減することができる。
【0043】
本実施形態のダイカストマシン500によれば、制御装置90が計測する経過期間は、搬出装置600に成形品PDが固定される時点までの期間で設定される。したがって、搬出装置600の異常などによって発生する成形品PDの冷却期間のばらつきに起因する付着力のばらつきに対して適正な出力トルクを設定することができる。
【0044】
本実施形態のダイカストマシン500によれば、経過期間の開始点は、金型50に成形材料の充填が完了した時点で設定される。成形材料の充填が完了した時点を開始点とすることにより、制御装置90による時間計測が容易になる。また、成形材料の充填が完了した時点を開始点とすることにより、成形品PDを形成するための成形材料が充填された時点、すなわち成形品PDとしての冷却が開始されるタイミングを開始点とすることにより、冷却期間のばらつきの影響を低減し、押出駆動部80の出力トルクを精度良く決定することができる。
【0045】
本実施形態のダイカストマシン500によれば、制御装置90は、経過期間が長くなるに従って、押出力が段階的に大きくなるように押出駆動部80を駆動する。押出駆動部80の出力トルクを段階的に調節することにより、無段階に調節する場合に比較して、制御装置90の処理負担を軽減することができる。
【0046】
本実施形態のダイカストマシン500は、金型50に成形材料の充填が完了した時点からの経過期間と、押出駆動部80が押出ピン62に付与する押出力との対応関係が規定されているトルクマップTMを備えている。したがって、演算により押出力を決定する場合に比較して、制御装置90の処理負担を軽減することができる。
【0047】
B.第2実施形態:
図6は、本開示の第2実施形態としてのダイカストマシン500が備えるトルクマップTMを示す説明図である。本実施形態では、トルクマップTMは、
図6に実線FT2で示すように、金型50に成形材料の充填が完了した開始点からの経過期間と、押出駆動部80の出力トルクとの対応関係が規定されている。破線による曲線TSは、
図5に示す第1実施形態でのトルクマップTMに示す曲線TSと同じである。
【0048】
図6には、破線による曲線TS2が示されている。曲線TS2は、曲線TSに、空間SPを形成する移動金型52の内壁の表面積に基づく補正値を加えた曲線である。成形材料の金型50への付着力は、成形材料と、金型50との接触面積が大きくなるにしたがって大きくなる。本実施形態では、曲線TS2は、例えば、1.1倍のように、曲線TSを実験的に得るために用いた金型50の内表面の面積に対して、実際に使用する金型50の内表面の面積の比率を曲線TSに乗じることによって得られる。このように構成することにより、成形品PDの種類ごとにトルクマップTMを実験的に生成する必要がなくなる。
【0049】
曲線TS2は、金型50と、成形材料とが接触する面積が大きい場合に、接触面積が小さい場合に比べて大きな押出力で押出ピン62を動作させるように設定されていればよい。曲線TS2は、曲線TSに押出力の比率を乗じることによって得られてもよい。曲線TS2は、例えば、金型の内表面の凹凸などの空間SPの形状や、離型剤の塗布量などの成形材料と金型50との付着力に影響を与える種々の因子を用いて、求められてもよい。なお、接触面積が大きい場合に、接触面積が小さい場合に比べて大きな押出力で押出ピン62を動作させるように設定されているか否かは、2台のダイカストマシン500を用いることによって検証することができる。具体的には、2台のダイカストマシン500の開始点から押し出し開始までの経過期間を同じとした場合に、接触面積が大きい金型50での離型を行っているダイカストマシン500の方の押出力が大きければ、接触面積が小さい場合に比べて大きな押出力で押出ピン62を動作させていると検証できる。
【0050】
本実施形態では、押出駆動部80の出力トルクは、曲線TS2に沿って大きくなるように設定されている。換言すれば、本実施形態では、押出駆動部80の出力トルクは、開始点からの経過期間が長くなるにしたがって無段階で大きくなるように設定されている。このように構成することにより、出力トルクが段階的に大きくなるトルクマップTMを用いる場合に比較して、押出ピン62や成形品PDに過剰な押出力が付与されることをより低減または防止することができる。
【0051】
本実施形態のダイカストマシン500によれば、制御装置90は、さらに、金型50と、成形材料とが接触する面積が大きい場合に、接触面積が小さい場合に比べて大きな押出力で押出ピン62を動作させるように押出駆動部80を駆動する。成形材料と金型50との付着力に影響を与える要因である金型50と成形材料との接触面積を考慮したトルクマップTMを用いることにより、トルクマップTMにおける押出駆動部80の出力トルクの精度を向上させることができる。
【0052】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
50…金型、51…固定金型、52…移動金型、60…押出板、62…押出ピン、70…ナット板、72…押出ロッド、80…押出駆動部、82…ねじ軸、87…変換機構、90…制御装置、92…タイマ、100…押出装置、200…型締装置、210…リンクハウジング、220…油圧シリンダ、230…タイバー、240…移動ダイプレート、250…固定ダイプレート、300…射出装置、310…射出駆動部、320…プランジャ、340…スリーブ、500…ダイカストマシン、600…搬出装置、PD…成形品、SP…空間、TM…トルクマップ