(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】トウプレグ
(51)【国際特許分類】
   C08J   5/24        20060101AFI20240827BHJP        
   C08K   3/34        20060101ALI20240827BHJP        
   C08K   7/02        20060101ALI20240827BHJP        
   C08L  63/00        20060101ALI20240827BHJP        
   C08L  91/06        20060101ALI20240827BHJP        
【FI】
C08J5/24 CFC
C08K3/34 
C08K7/02 
C08L63/00 
C08L91/06 
(21)【出願番号】P 2020529665
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020693
(87)【国際公開番号】W WO2020241623
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019099945
 
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019099946
 
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】都築  正博
(72)【発明者】
【氏名】土田  紘也
(72)【発明者】
【氏名】吉崎  聡一
(72)【発明者】
【氏名】荒井  信之
【審査官】大村  博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第97/28210(WO,A1)    
【文献】国際公開第2017/110919(WO,A1)    
【文献】特開2015-028147(JP,A)      
【文献】国際公開第2013/183667(WO,A1)    
【文献】特開2015-048453(JP,A)      
【文献】特開平06-025446(JP,A)      
【文献】特開平08-283435(JP,A)      
【文献】特開平06-345884(JP,A)      
【文献】特開2014-141632(JP,A)      
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B    11/16;15/08-15/14
C08J      5/04-5/10;5/24
C08K      3/00-13/08
C08L      1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分[A]、[B]を含み、かつ条件(I)を満たし、さらに条件(X)または(Y)のいずれか1つを満たすエポキシ樹脂組成物が強化繊維束に含浸されてなるトウプレグ。
[A]エポキシ樹脂
[B][A]に相溶しているエポキシ樹脂硬化剤
(I)(i)成分[A]、[B]および下記成分[C]、または、(ii)成分[A]、[B]および下記成分[C1]を含む前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後に、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η
0
            .1)が40~300Pa・sである。
(X)(i)成分[A]、[B]および下記成分[C]を含み、かつ、条件(II)および(III)を満たす。
[C]揺変性付与剤
(II)成分[A]、[B]および[C]を含む前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後に、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η
10)が50Pa・s以下である。
(III)平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η
0.1)の、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η
10)に対する比(η
0.1/η
10)が1.5以上である。
(Y)(ii)成分[A]、[B]および下記成分[C1]を含み、かつ、条件(IV)および(V)を満たす。
[C1]疎水性揺変性付与剤
(IV)成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物のチキソトロピーインデックス(TI
4=η’
0.1/η’
10)が1.5以上である。(ここで、η’
0.1は、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度であり、η’
10は、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度である。)
(V)成分[C1]の含有量が、成分[A]100質量部に対して1.0~7.0質量部である。
【請求項10】
成分[D]として、コアシェルゴムおよび/または液状ゴムを含む、請求項1~9のいずれかに記載のトウプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、特に、繊維強化複合材料で構成された中空の容器や円筒の製造に好適に用いられるトウプレグに関するものである。より詳しくは、取り扱い性に優れ、空隙が少なく品質の良い成形品を得ることができるトウプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
  炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維を用いた繊維強化複合材料は、その優れた軽量性から、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に適用されている。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が、そして熱硬化性樹脂としては、炭素繊維との接着性に優れたエポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
  近年の炭素繊維の用途拡大を受け、成形法も広がりを見せている。このうち、フィラメントワインディングは、圧力容器などの中空の容器や円筒の製造に好適に用いられる方法である。ボビンから巻きだした強化繊維束を液状の熱可塑性樹脂に浸漬した後、型の上に巻き上げる従来のウェット法に代わって、熱硬化性樹脂が強化繊維束にあらかじめ含浸されたトウプリプレグ、ヤーンプリプレグあるいはストランドプリプレグなどと呼ばれる細幅の中間基材(以下、トウプレグと記載する)を供給して型の上に巻き上げて用いる手法が、生産性および品質の観点から、注目されている。
【0004】
  トウプレグは、通常、数百から数千メートルを紙管に巻き取ったボビン形状で供給され、繊維強化複合材料の成形工程において高速で解舒される。このとき、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないことや、解舒時の巻き締まりが少なくボビンの形状安定性が良いことに加え、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいことも求められている。また、品質の安定したトウプレグを提供するため、トウに含浸する前のエポキシ樹脂を長期間保管した際に、エポキシ樹脂の変質が少ないことも求められている。
【0005】
  特許文献1は、固形硬化剤であるジシアンジアミドを分散させたエポキシ樹脂組成物を強化繊維束に含浸させてなるトウプレグを開示しているが、このようなトウプレグでは、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないものの、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が悪く、隙間ができやすいという課題があった。
【0006】
  特許文献2には、硬化剤としてハロゲン化ホウ素アミン錯体を溶解させたエポキシ樹脂組成物を強化繊維束に含浸させてなるトウプレグを開示しているが、このようなトウプレグでは、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいものの、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
               【文献】特開2016-190920号公報
               【文献】国際公開WO2013/183667号
             
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
  本発明は、かかる背景に鑑み、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないこと、解舒時の巻き締まりが少なくボビンの形状安定性が良いこと、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいことをすべて満たすトウプレグを提供することを課題とする。
【0009】
  また、本発明は、長期間保管したエポキシ樹脂を用いた場合でも、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないこと、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいことを両立するトウプレグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
  本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のトウプレグは、下記成分[A]、[B]を含み、かつ条件(I)を満たし、さらに条件(X)または(Y)のいずれか1つを満たすエポキシ樹脂組成物が強化繊維束に含浸されてなるトウプレグ。
[A]エポキシ樹脂
[B][A]に相溶しているエポキシ樹脂硬化剤
(I)(i)成分[A]、[B]および下記成分[C]、または、(ii)成分[A]、[B]および下記成分[C1]を含む前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後に、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η0
               .1)が40~300Pa・sである。
(X)(i)成分[A]、[B]および下記成分[C]を含み、かつ、条件(II)および(III)を満たす。
[C]揺変性付与剤
(II)成分[A]、[B]および[C]を含む前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後に、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η10)が50Pa・s以下である。
(III)平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η0.1)の、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η10)に対する比(η0.1/η10)が1.5以上である。
(Y)(ii)成分[A]、[B]および下記成分[C1]を含み、かつ、条件(IV)および(V)を満たす。
[C1]疎水性揺変性付与剤
(IV)成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物のチキソトロピーインデックス(TI4=η’0.1/η’10)が1.5以上である。(ここで、η’0.1は、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度であり、η’10は、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度である。)
(V)成分[C1]の含有量が、成分[A]100質量部に対して1.0~7.0質量部である。
【発明の効果】
【0011】
  本発明のトウプレグは、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないこと、解舒時の巻き締まりが少なくボビンの形状安定性が良いこと、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいことをすべて満たすため、フィラメントワインディング法による圧力容器などの中空の容器や円筒の製造時の取り扱い性に優れ、かつ、空隙が少なく品質の良い成形品を得ることができる。
【0012】
  また、本発明のトウプレグは、長期間保管したエポキシ樹脂を用いた場合でも、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないこと、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいことを両立できるため、フィラメントワインディング法による圧力容器などの中空の容器や円筒の製造時の取り扱い性に優れ、かつ、空隙が少なく品質の良い成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
            【
図1】トウプレグボビンの紙管からのずり落ち現象を表した模式図である。
 
            【
図2】トウプレグボビンの解舒時の巻き締まり現象を表した模式図である。
 
            【
図3】揺変性付与剤の疎水性表面処理の化学構造の例を表した図である。
 
          
【発明を実施するための形態】
【0014】
  本発明は、次の構成を有するものである。すなわち、本発明のトウプレグは、下記成分[A]、[B]を含み、かつ条件(I)を満たし、さらに条件(X)または(Y)のいずれか1つを満たすエポキシ樹脂組成物が強化繊維束に含浸されてなるトウプレグである。[A]エポキシ樹脂
[B][A]に相溶しているエポキシ樹脂硬化剤
(I)(i)成分[A]、[B]および下記成分[C]、または、(ii)成分[A]、[B]および下記成分[C1]を含む前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後に、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η0
            .1)が40~300Pa・sである。
(X)(i)成分[A]、[B]および下記成分[C]を含み、かつ、条件(II)および(III)を満たす。
[C]揺変性付与剤
(II)成分[A]、[B]および[C]を含む前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後に、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η10)が50Pa・s以下である。
(III)平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η0.1)の、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η10)に対する比(η0.1/η10)が1.5以上である。
(Y)(ii)成分[A]、[B]および下記成分[C1]を含み、かつ、条件(IV)および(V)を満たす。
[C1]疎水性揺変性付与剤
(IV)成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物のチキソトロピーインデックス(TI4=η’0.1/η’10)が1.5以上である。(ここで、η’0.1は、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度であり、η’10は、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度である。)
(V)成分[C1]の含有量が、成分[A]100質量部に対して1.0~7.0質量部である。
【0015】
  (成分[A]について)
  本発明における成分[A]は、エポキシ樹脂である。かかるエポキシ樹脂としては、特に制限はなく、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型などのビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアニリン型、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型、ヒダントイン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエンノボラック型、ビフェニル型、トリスヒドロキシフェニルメタン型およびテトラフェニロールエタン型のエポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0016】
  これらのエポキシ樹脂の中でも、エポキシ樹脂組成物に安定性を付与し、エポキシ樹脂組成物の調製工程、トウプレグの製造工程、トウプレグの保存期間でのエポキシ樹脂組成物の増粘を防ぐ効果があることから、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。かかる工程・期間でのエポキシ樹脂組成物の増粘を防ぐことにより、トウプレグにおけるエポキシ樹脂組成物の含浸状態を良好にでき、成形時の解舒性を良好に保つことができる。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、グリシジルアニリン型、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン型などが挙げられる。また、かかるグリシジルアミン型エポキシ樹脂の市販品としては、GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、日本化薬(株)製)、GOT(N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、日本化薬株式会社製)、“スミエポキシ(登録商標)”ELM-434(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、住友化学株式会社製)、“Araldite(登録商標)”MY721(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ハンツマン・ジャパン株式会社製)、“ARALDITE(登録商標)”MY0510(テトラグリシジル-p-アミノフェノール、ハンツマン・ジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0017】
  グリシジルアミン型エポキシ樹脂の含有量は、成分[A]100質量部中、10質量部以上であることが好ましく、10~80質量部であることがより好ましく、20~60質量部であることが特に好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂の含有量を、成分[A]100質量部中、10質量部以上とすることで、エポキシ樹脂組成物の増粘を防ぐ効果が得られる。また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂の含有量を、成分[A]100質量部中、80質量部以下とすることで、力学特性のバランスに優れた繊維強化複合材料を与えるトウプレグ用エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0018】
  (成分[B]について)
  本発明における成分[B]は、本発明のトウプレグにおいてエポキシ樹脂組成物に含まれる成分[A]に相溶しているエポキシ樹脂硬化剤である。ここで、成分[A]に相溶しているとは、トウプレグに含浸させるエポキシ樹脂組成物中において、実質的に固形のエポキシ樹脂硬化剤を含まないことを意味し、光学顕微鏡による観察や、光散乱法による粒度分布測定などの手法で、原料の硬化剤に由来する粒子成分が検出されなければ、相溶していることを確認できる。このため成分[B]は、成分[A]との急激な反応が開始しない温度範囲において成分[A]に溶解でき、25℃において相溶状態を保つことのできる固形硬化剤、または25℃において相溶状態を保つことのできる液状硬化剤である必要があり、固形分を残さない観点から、液状であることがより好ましい。成分[B]を用いることで、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいトウプレグを得ることができる。かかる成分[B]としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、ポリフェノール、イミダゾール、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸アミド、メルカプタン、ハロゲン化ホウ素アミン錯体のようなルイス酸などが挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂硬化剤は、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0019】
  これらのエポキシ樹脂硬化剤の中でも、力学特性のバランスに優れた繊維強化複合材料を与えるトウプレグ用エポキシ樹脂組成物を得ることができることから、芳香族アミンが特に好ましく用いられる。また、固形分を残さない観点から、25℃で液状の芳香族アミンがより好ましい。ここで、芳香族アミンとは、芳香環と直接結合したアミノ基を有する化合物の総称である。かかる25℃で液状の芳香族アミンとしては、アミノベンジルアミン、ジエチルトルエンジアミンなどの、芳香環を1つ有する化合物、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンなどの、芳香環を2つ有する化合物などが挙げられる。
【0020】
  また、かかる芳香族アミンの市販品としては、ABAm(アミノベンジルアミン、三井化学ファイン株式会社)、“jERキュア(登録商標)”WA(ジエチルトルエンジアミン、三菱ケミカル株式会社製)、“LONZACURE(登録商標)”DETDA80(ジエチルトルエンジアミン、ロンザジャパン株式会社製)、“KAYAHARD(登録商標)”A-A(3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、日本化薬株式会社製)などが挙げられる。
【0021】
  かかる25℃で液状の芳香族アミンの含有量は、成分[A]に含まれる各エポキシ樹脂成分のエポキシ基に対し、活性水素が0.7~2.0当量となる量であることが好ましく、0.7~1.8当量の範囲となる量であることがより好ましい。25℃で液状の芳香族アミンの含有量をかかる範囲とすることで、力学特性のバランスに優れた繊維強化複合材料を与えるトウプレグ用エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0022】
  (条件(I)について)
  本発明のトウプレグに含浸されるエポキシ樹脂組成物は、(i)成分[A]、[B]および後述する成分[C]、または、(ii)成分[A]、[B]および後述する成分[C1]を含む前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後に、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η0.1)が40~300Pa・sであることが必要であり、100~300Pa・sであるとより好ましい。η0.1が40Pa・s以上であると、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ち、および解舒時の巻き締まりを抑制することができる。また、η0.1が300Pa・s以下であると、トウプレグ製造工程での送液不良や、キスロール上での樹脂塗膜の形成不良を防ぐことができる。
【0023】
  条件(I)において、エポキシ樹脂組成物を調製した直後とは、エポキシ樹脂組成物が(i)成分[A]、[B]および後述する成分[C]を含むものである場合には、成分[A]および[C]を含む、主剤を調製した1時間後に、さらに成分[B]を混合してエポキシ樹脂組成物の調製を完了した30分後であることを意味し、同様に、エポキシ樹脂組成物が(ii)成分[A]、[B]および後述する成分[C1]を含むものである場合には、成分[A]、および[C1]を含む、主剤を調製した1時間後に、さらに成分[B]を混合してエポキシ樹脂組成物の調製を完了した30分後であることを意味する。
【0024】
  (条件(X)について)
  本発明の一つの態様において、条件(X)を満たすことが必要である。条件(X)とは、エポキシ樹脂組成物が(i)成分[A]、[B]および後述する成分[C]を含み、かつ条件(II)および(III)を満たすことである。
[C]揺変性付与剤
(II)成分[A]、[B]および[C]を含む前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後に、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η10)が50Pa・s以下である。
(III)平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η0.1)の、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η10)に対する比(η0.1/η10)が1.5以上である。
【0025】
  (成分[C]について)
  本発明における成分[C]は、本発明のトウプレグにおいてエポキシ樹脂組成物に含まれる揺変性付与剤である。ここで、揺変性とは、剪断応力を加えることによって、みかけの粘度が低下し、静置して時間が経過するともとのみかけの粘度に戻る現象を意味するものである。すなわち、低周波数条件下では粘度が高く、高周波数条件では粘度が低くなる現象である。エポキシ樹脂組成物に揺変性を付与することで、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないこと、解舒時の巻き締まりが少なくボビンの形状安定性が良いこと、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいことをすべて満たすトウプレグを得ることができる。
【0026】
  ここで、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちとは、数百から数千メートルのトウプレグを紙管に巻き取った、ボビン形状のトウプレグを、紙管長手方向が作業台の面に対して垂直となるように設置して静置した際に、トウプレグが滑り落ち、ボビン形状が崩れる現象である。ずり落ち現象を表した模式図を
図1に示す。一旦ずり落ち現象が発生すると、形状が崩れたボビン端部で糸が外れる綾落ち現象が発生するため、トウの解舒ができなくなる。ずり落ち現象は比較的長時間の間に発生する変形であるため、強化繊維束に含浸させるエポキシ樹脂組成物の低周波数条件下での粘度が高ければ、発生を抑制することができる。
 
【0027】
  また、解舒時の巻き締まりとは、数百から数千メートルのトウプレグを紙管に巻き取ったボビン形状のトウプレグを、フィラメントワインディング装置のクリールに取り付け、張力を付与して成形を行った際に、付与した張力によってボビンが絞られて変形し、ボビン表面の凹凸や、ボビン端面のふくれだしが生じる現象である。巻き締まり現象を表した模式図を
図2に示す。巻き締まり現象が生じると、ふくれだしたボビン端部で糸が外れる綾落ち現象が発生するため、トウプレグの解舒ができなくなる。巻き締まり現象は比較的長時間の間に発生する変形であるため、強化繊維束に含浸させるエポキシ樹脂組成物の低周波数条件下での粘度が高ければ、発生を抑制することができる。
 
【0028】
  また、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅とは、圧力容器のライナーや、円筒の成形に用いるマンドレルに巻き付けた際の圧力で、トウプレグの幅が広がる現象である。トウプレグの拡幅性が不足すると、成形品中、特に圧力容器を製造する際には口金近くに空隙が発生し、破裂強度を低下させる原因となる。拡幅現象は比較的短時間の間に発生する変形であるため、強化繊維束に含浸させるエポキシ樹脂組成物の高周波数条件下での粘度が低ければ、良好な拡幅性を得られる。
【0029】
  このように、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないこと、解舒時の巻き締まりが少なくボビンの形状安定性が良いこと、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいことをすべて満たすためには、強化繊維束に含浸させるエポキシ樹脂組成物の低周波数条件下での粘度が高く、高周波数条件下での粘度が低いことが必要であり、揺変性付与剤の含有によってこれを達成できる。
【0030】
  かかる揺変性付与剤としては、アマイドワックス、水添ひまし油などの有機系のものと、シリカ、アルミナ、アルミニウムとケイ素の混合酸化物、酸化チタン、軽質炭酸カルシウム、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、バイデライト、ベントナイト、ヘクトライト、サポナイトなど)、セピオライト、カーボンブラックなどの無機系のものが挙げられる。これらの揺変性付与剤の中でも、揺変性付与効果が大きいものが望ましい。かかる観点から、ベントナイト、微粒子状シリカおよびアマイドワックスからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましく、疎水性微粒子状シリカを含むことがより好ましい。また、これらの揺変性付与剤は、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0031】
  アマイドワックス系揺変性付与剤とは、脂肪酸とアミンを縮合させたアミド構造を有する揺変性付与剤である。かかるアマイドワックス系揺変性付与剤の市販品としては“ディスパロン(登録商標)”6500(楠本化成株式会社製)、“ターレン(登録商標)”VA-750B(共栄社化学株式会社製)などが挙げられる。
【0032】
  ベントナイト系揺変性付与剤とは、層状構造を有する鉱物を原料とする揺変性付与剤である。本発明においては、エポキシ樹脂中で揺変性付与効果が大きくなるよう有機化合物で変性したものが好ましい。また、層状構造以外の構造を有する鉱物との混合物であっても良い。かかるベントナイト系揺変性付与剤の市販品としては“TIXOGEL(登録商標)”MPZ(ビックケミ-・ジャパン株式会社製)、“GARAMITE(登録商標)”7305(ビックケミ-・ジャパン株式会社製)などが挙げられる。
【0033】
  微粒子状シリカ系揺変性付与剤とは、一次粒子径が数ナノメートルから数十ナノメートルである微粒子状シリカであり、燃焼加熱分解法などにより得られる、フュームドシリカが好ましく用いられる。かかる微粒子状シリカ系揺変性付与剤の市販品としては“AEROSIL(登録商標)”130(日本アエロジル株式会社製)、“AEROSIL(登録商標)”300(日本アエロジル株式会社製)などが挙げられる。微粒子状シリカ系揺変性付与剤の中でも、疎水性表面処理を施した疎水性微粒子状シリカを用いた揺変性付与剤は、揺変性付与効果が大きいため、より好ましい。疎水性表面処理とは、微粒子状シリカ表面のシラノール基に対して、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基などのアルキルシリル基、ジメチルポリシロキサン等の疎水性置換基を結合させる処理である。かかる疎水性微粒子状シリカを用いた揺変性付与剤の市販品としては、“AEROSIL(登録商標)”R972(日本アエロジル株式会社製)、“AEROSIL(登録商標)”R812(日本アエロジル株式会社製)、“AEROSIL(登録商標)”RY200S(日本アエロジル株式会社製)、“AEROSIL(登録商標)”R805(日本アエロジル株式会社製)などが挙げられる。
【0034】
  かかる揺変性付与剤の含有量は、成分[A]100質量部に対して、1.0~20質量部であることが好ましく、3.0~7質量部であることがより好ましい。揺変性付与剤の含有量をかかる範囲とすることで、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないこと、解舒時の巻き締まりが少なくボビンの形状安定性が良いこと、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいことを、より高いレベルで満たすトウプレグを得ることができる。
【0035】
  なお、ここでは一般的な特性としての「粘度」を用いて説明したが、本願では、かかる粘度を「複素せん断粘度」を指標として評価している。
【0036】
  (条件(II)について)
  本発明のトウプレグに含浸させるエポキシ樹脂組成物は、成分[A]、[B]および[C]を含む前記エポキシ樹脂組成物を調製した直後に、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η10)が50Pa・s以下であることが必要であり、好ましくは1.0~50Pa・s、より好ましくは4~50Pa・sである。η10が50Pa・s以下であると、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性を良好にすることができ、η10が低いほど良好な拡幅性が得られる。また、η10を1.0以上とすることで、樹脂の飛散抑制と良好なトウの拡幅性を両立できる。
【0037】
  条件(II)において、エポキシ樹脂組成物を調製した直後とは、成分[A]および[C]を含むエポキシ樹脂組成物の主剤を調製した1時間後に、さらに成分[B]を混合してエポキシ樹脂組成物の調製を完了した30分後であることを意味する。
【0038】
  (条件(III)について)
  本発明のトウプレグに含浸させるエポキシ樹脂組成物は、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η0.1)の、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η10)に対する比(η0.1/η10)が1.5以上であることが必要であり、好ましくは3.0以上である。η0.1/η10が1.5以上であると、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちが発生しないこと、解舒時の巻き締まりが少なくボビンの形状安定性が良いこと、フィラメントワインディング成形時のトウの拡幅性が良く、隙間ができにくいことをすべて満たすトウプレグを得ることができ、η0.1/η10が大きいほど、これらのバランスを良好にできる。なお上限については特に限定されないが、通常300以下である。
【0039】
  ここで、条件(III)における複素せん断粘度(η0.1)は、条件(I)により得た複素せん断粘度(η0.1)であり、η10は、条件(II)により得た複素せん断粘度(η10)を意味し、エポキシ樹脂組成物が(i)成分[A]、[B]および下記成分[C]を含む場合において、条件(I)により得た複素せん断粘度(η0.1)の条件(II)により得た複素せん断粘度(η10)に対する比を特定するものである。
【0040】
  (条件(Y)について)
  本発明のもう一つの態様において、条件(Y)を満たすことが必要である。条件(Y)とは、(ii)成分[A]、[B]および下記成分[C1]を含み、かつ条件(IV)および(V)を満たすことである。
[C1]疎水性揺変性付与剤
(IV)成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物のチキソトロピーインデックス(TI4=η’0.1/η’10)が1.5以上である。(ここで、η’0.1は、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度であり、η’10は、成分[A]、[C1]を混合した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度である。)
(V)成分[C1]の含有量が、成分[A]100質量部に対して1.0~7.0質量部。
【0041】
  (成分[C1]について)
  本発明のもう一つの態様における成分[C1]は、本発明のトウプレグにおいてエポキシ樹脂組成物に含まれる疎水性揺変性付与剤である。
【0042】
  本発明のもう一つの態様における揺変性付与剤は、揺変性付与剤表面に疎水性表面処理を施した、疎水性揺変性付与剤である。揺変性付与剤表面を疎水性表面処理することで、揺変性の経時的な減衰によるエポキシ樹脂の変質を抑制し、エポキシ樹脂組成物の品質を長期間維持できる。ここで、疎水性表面処理とは、揺変性付与剤表面の反応性官能基に対して、疎水性官能基を結合させる処理である。疎水性官能基とは、電気的に中性で、水素結合による水和が生じにくい官能基である。疎水性官能基の例としては、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、ブチルシリル基、オクチルシリル基などのアルキルシリル基、ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
図3に、揺変性付与剤表面に疎水性表面処理を施した場合の化学構造を例示する。
 
【0043】
  これらの疎水性官能基の中でも、揺変性の経時的な減衰をより抑制できる観点から、炭素原子を4つ以上含む疎水性官能基を揺変性付与剤表面の反応性官能基に結合させることが好ましい。結合させる疎水性官能基の具体例としては、ブチルシリル基、オクチルシリル基などのアルキルシリル基、ジメチルポリシロキサンなどが挙げられる。
【0044】
  疎水性表面処理には、炭化水素骨格を含む官能基が一般に用いられるため、揺変性付与剤の炭素含有率を、揺変性付与剤の疎水性の指標とすることができる。揺変性付与剤の炭素含有率が0.6%以上であれば揺変性付与剤は疎水性を有するため、エポキシ樹脂組成物中での揺変性の経時変化を抑制することができる。ここで、炭素含有率が2.0%以上であると揺変性の経時変化の抑制効果が大きいためより好ましく、炭素含有率が3.0%以上であるとさらに好ましい。また、市販されている揺変性付与剤の炭素含有率は10%以下であり、この範囲のものを用いることが好ましい。
【0045】
  かかる疎水性揺変性付与剤としては、シリカや軽質炭酸カルシウムなどが挙げられる。これらの疎水性揺変性付与剤の中でも、トウプレグボビン作製直後のずり落ちを抑制するため、揺変性付与効果が大きいものが望ましい。かかる観点から、シリカが好ましい。また、揺変性の経時的な減衰が特に少なく、エポキシ樹脂組成物の揺変性を長期間維持できる観点から、微粒子状シリカがより好ましい。かかる微粒子状シリカの市販品としては、“AEROSIL(登録商標)”R972(ジメチルシリル処理フュームドシリカ、疎水性官能基の炭素原子数:2、日本アエロジル株式会社製)、“AEROSIL(登録商標)”R812(トリメチルシリル処理フュームドシリカ、疎水性官能基の炭素原子数:3、日本アエロジル株式会社製)、“AEROSIL(登録商標)”RY200S(ジメチルポリシロキサン処理フュームドシリカ、疎水性官能基の炭素原子数:400~700、日本アエロジル株式会社製)、“AEROSIL(登録商標)”R805(オクチルシリル処理フュームドシリカ、疎水性官能基の炭素原子数:8、日本アエロジル株式会社製)などが挙げられる。これら微粒子状シリカの中でも、揺変性付与剤表面の疎水性が高く、揺変性の経時的な減衰をより抑制できる観点から、“AEROSIL(登録商標)”RY200S(疎水性官能基の炭素原子数400~700)、“AEROSIL(登録商標)”R805(疎水性官能基の炭素原子数8)などがさらに好ましい。
【0046】
  (条件(IV)について)
  本発明のトウプレグに含浸させるエポキシ樹脂組成物は、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物のチキソトロピーインデックス(TI4=η’0.1/η’10)が1.5以上であることが必要であり、好ましくは3.0以上である。なお上限については特に限定されないが、通常300以下である。(ここで、η’0.1は、成分[A]、[C1]を含有する主剤を調製した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度であり、η’10は、成分[A]、[C1]を混合した4日後に成分[B]を混合し、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度である。)。
【0047】
  ここで、チキソトロピーインデックス(TI)を計算するベースとなるη’0.1、およびη’10は、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した4日後に成分[B]を混合してエポキシ樹脂組成物を調製した30分後に測定した値をそれぞれ用いるものとする。かかる、チキソトロピーインデックス(TI)は、エポキシ樹脂組成物の揺変性の大小の指標である。TIは、「エポキシ樹脂組成物の25℃、周波数0.1Hzでの粘度」を「エポキシ樹脂組成物の25℃、周波数10Hzでの粘度」で除することで得られる。揺変性付与剤の含有により、エポキシ樹脂組成物の周波数0.1Hzでの粘度が大きく上昇する。しかし、揺変性の経時的な減衰が生じると、周波数0.1Hzでの粘度もそれに伴い経時的に低下する。その結果、TIが経時的に低下する。TIがある一定以上の値を維持することは、周波数0.1Hzでの粘度の経時的な減衰が小さいことを意味しており、周波数0.1Hzでの粘度が条件(I)を満たす場合、TI4が1.5以上であれば、4日間保管したエポキシ樹脂を用いて作製したトウプレグにおいてもずり落ちを抑制することができる。
【0048】
  (条件(V)について)
  成分[C1]の疎水性揺変性付与剤の含有量は、成分[A]100質量部に対して、1.0~7.0質量部であることが必要であり、2.5~7.0質量部であると好ましい。疎水性揺変性付与剤の含有量を1.0質量部以上とすることで、ボビンを立てた際の紙管からのずり落ちを抑制できる。また、配合量が7.0質量部以下であると、トウプレグ製造工程での送液不良や、キスロール上での樹脂塗膜の形成不良を防ぐことができる。
【0049】
  (条件(VI)について)
  本発明のトウプレグに含浸させるエポキシ樹脂組成物は、成分[A]、[B]および成分[C1]を含むエポキシ樹脂組成物を調製した直後に、E型粘度計を用いて測定した40℃における粘度が40Pa・s以下であることが好ましく、0.5~40Pa・sであるとより好ましい。
【0050】
  条件(VI)においてエポキシ樹脂組成物を調製した直後とは、成分[A]、および[C1]を含む、エポキシ樹脂組成物の主剤を調製した1時間後に、さらに成分[B]を混合してエポキシ樹脂組成物の調製を完了した30分後である。
【0051】
  トウプレグの製造は、エポキシ樹脂組成物を40℃程度に加温して行うことができるが、エポキシ樹脂組成物の40℃における粘度が高い場合、送液のために比較的高い温度に加温して粘度を下げる必要が生じる。温度が高いほどエポキシ樹脂組成物が早く増粘し、送液不能となるまでの可使時間が短く、トウプレグの生産性が低下する。40℃における粘度が40Pa・s以下であれば、エポキシ樹脂組成物を高い温度に加温する必要がないため増粘しにくく、トウプレグの生産性が向上するため好ましい。
【0052】
  (成分[D]について)
  本発明のトウプレグに用いるエポキシ樹脂組成物は、成分[D]としてコアシェルゴムおよび/または液状ゴムを強靱化剤として含むことが好ましい。ここで、強靱化剤とは、樹脂硬化物の靱性を高めるために一般的に用いられる添加剤のことを指す。成分[D]を含むことで、樹脂硬化物の変形能力を高めることができ、繰り返しの使用による性能低下が少ない圧力容器を得ることができる。かかる成分[D]としては、例えば、アクリルゴム微粒子、ブタジエンゴム微粒子、ブタジエン-スチレンゴム微粒子、シリコーンゴム微粒子などのゴム微粒子を異種ポリマーで被覆したコアシェル構造をもつコアシェルゴム微粒子、液状NBR(ニトリル-ブタジエンゴム)、CTBN(末端カルボキシ基変性NBR)、ATBN(末端アミノ基変性NBR)、主鎖内カルボキシ基変性NBRなどの液状ゴムから選択することが好ましい。かかる成分[D]の市販品としては、“カネエース(登録商標)”MX-125(スチレンブタジエンゴム型コアシェルゴム粒子25%の液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂マスターバッチ、株式会社カネカ製)、“カネエース(登録商標)”MX-150(ポリブタジエンゴム型コアシェルゴム粒子40%の液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂マスターバッチ、株式会社カネカ製)、“カネエース(登録商標)”MX-267(ポリブタジエンゴム型コアシェルゴム粒子37%の液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂マスターバッチ、株式会社カネカ製)、“Hypro(登録商標)”1300X13NA(末端カルボキシル基変性ブタジエンニトリルゴム、CVC  Thermoset  Specialties社製)などが挙げられる。これらの強靱化剤は、単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよい。
【0053】
  かかる成分[D]の中でも、未硬化の樹脂組成物の高い揺変性を維持したまま樹脂硬化物の変形能力を向上させることが可能であることから、コアシェルゴム粒子を含むことがより好ましい。コアシェルゴム粒子とは、架橋されたゴム状ポリマーまたはエラストマーを主成分とする粒子状コア成分の表面に、コア成分とは異種のシェル成分ポリマーをグラフト重合することで、粒子状コア成分の表面の一部あるいは全体をシェル成分で被覆したものである。
【0054】
  また、かかる成分[D]の配合量は、成分[A]100質量部に対して、3~30質量部であることが好ましい。成分[D]の配合量をかかる範囲とすることで、エポキシ樹脂組成物の粘度と力学特性のバランスに優れた繊維強化複合材料を与えるトウプレグ用エポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0055】
  (その他添加剤等)
  本発明のトウプレグに用いるエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を失わない範囲において、熱可塑性樹脂やゴム成分、消泡剤、安定剤、難燃剤、顔料などの各種添加剤を含有することができる。熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂であることが好ましい。エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂としては、例えばポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドン、ポリスルホンを挙げることができる。
【0056】
  (エポキシ樹脂組成物の調製方法について)
  本発明のトウプレグに用いるエポキシ樹脂組成物の調製には、様々な公知の方法を用いることができる。例えばニーダー、プラネタリーミキサー、メカニカルスターラー、ディゾルバー、三本ロールといった機械を用いて混練してもよいし、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜてもよい。但し、本発明の成分[C]である揺変性付与剤(成分[C1]である疎水性揺変性付与剤も含む)は、用いる製品ごとに揺変性を発現するための適切な混練方法が指定されている場合があるため、適宜、最適な手法を適用することが好ましい。
【0057】
  (トウプレグの製造方法について)
  本発明のトウプレグは、本発明のトウプレグに用いるエポキシ樹脂組成物を、強化繊維束に含浸したものである。ここで、強化繊維束としては、直径が3~100μmのフィラメントが1,000~70,000本束ねられて構成される強化繊維束が通常用いられる。
【0058】
  本発明のトウプレグに用いる強化繊維束としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などからなる繊維束が挙げられる。これらの繊維束を2種以上混合して用いても構わない。この中で、軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られるため、炭素繊維束を用いることが好ましい。かかる炭素繊維束としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維束が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維束が好ましく用いられる。
【0059】
  本発明のトウプレグにおける、エポキシ樹脂組成物の質量含有率(Rc)は、目的に応じて特に制限なく設定することができるが、好ましくは20~40%であり、20~30%がさらに好ましく、22~28%が最も好ましい。エポキシ樹脂組成物と強化繊維束との質量比率が20%以上であれば、得られる繊維強化複合材料の内部の未含浸部分やボイドのような欠陥が発生することを抑制できる。また、40%以下であれば強化繊維束の体積含有率を高めることができるため、繊維強化複合材料の力学特性を効果的に発現でき、軽量化に寄与できる。
【0060】
  本発明のトウプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。すなわち、本発明のトウプレグに用いるエポキシ樹脂組成物を、有機溶媒を用いずに加熱により低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させる方法、加熱して低粘度化した該エポキシ樹脂組成物を回転ロールや離型紙上に塗膜化し、次いで強化繊維束の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールあるいは圧力ロールを通すことで加圧して含浸させる方法などで製造できる。高品位なトウプレグが製造できることから、本発明のトウプレグの製造方法は、エポキシ樹脂組成物で被覆された回転ロールを、強化繊維束の少なくとも片面に接触させる工程を含むことが好ましい。トウプレグは、通常、数百から数千メートルを紙管に巻き取ったボビン形状で供給される。
【0061】
  本発明のトウプレグは航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に使用することができ、特に、圧力容器などの中空の容器や、円筒の製造に好適に使用することができる。
【実施例】
【0062】
  以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で、測定n数=1で行った。
【0063】
  <実施例および比較例で用いた材料>
  (1)強化繊維束
・“トレカ(登録商標)”T720SC-36K(引張強度5880MPa、フィラメント数36000本、総繊度1650tex、密度1.8g/cm3、東レ株式会社製)。
【0064】
  (2)成分[A]:エポキシ樹脂
・“jER(登録商標)”807(液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)
・GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、日本化薬株式会社製)
・“スミエポキシ(登録商標)”ELM-434(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン)。
【0065】
  (3)成分[B]:[A]に相溶しているエポキシ樹脂硬化剤
・“jERキュア(登録商標)”WA(ジエチルトルエンジアミン、三菱ケミカル株式会社製)
・“DYHARD(登録商標)”Fluid  111(シアナミド、AlzChem社製)
・“KAYAHARD(登録商標)”MCD(メチルナジック酸無水物、日本化薬株式会社製)
・Accelerator  DY  9577(三塩化ホウ素アミン錯体、ハンツマン・ジャパン株式会社製)。
【0066】
  (4)成分[C]:揺変性付与剤
・“AEROSIL(登録商標)”RY200S(ジメチルポリシロキサン処理フュームドシリカ(微粒子状シリカ)、炭素含有率:3.5~5.0%、疎水性官能基の炭素原子数:400~700、一次粒径16ナノメートル、日本アエロジル株式会社製)
・“AEROSIL(登録商標)”300(親水性フュームドシリカ(微粒子状シリカ)、一次粒径7ナノメートル、日本アエロジル株式会社製)
・“ディスパロン(登録商標)”6500(脂肪酸アマイドワックス、楠本化成株式会社製)
・“GARAMITE(登録商標)”7305(鉱物および有機変性ベントナイトの混合物、ビックケミ-・ジャパン株式会社製)。
【0067】
  (5)成分[C1]:疎水性揺変性付与剤
・“AEROSIL(登録商標)”RY200S(ジメチルポリシロキサン処理フュームドシリカ(微粒子状シリカ)、炭素含有率:3.5~5.0%、疎水性官能基の炭素原子数:400~700、一次粒径16ナノメートル、日本アエロジル株式会社製)
・“AEROSIL(登録商標)”R805(オクチルシリル処理フュームドシリカ(微粒子状シリカ)、炭素含有率:4.5~6.5%、疎水性官能基の炭素原子数:8、一次粒径12ナノメートル、日本アエロジル株式会社製)
・“AEROSIL(登録商標)”R812(トリメチルシリル処理フュームドシリカ(微粒子状シリカ)、炭素含有率:2.0~3.0%、疎水性官能基の炭素原子数:3、一次粒径7ナノメートル、日本アエロジル株式会社製)
  (6)成分[D]
・“カネエース(登録商標)”MX-150(ポリブタジエンゴム型コアシェルゴム粒子40%の液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂マスターバッチ、株式会社カネカ製)
・“カネエース(登録商標)”MX-267(ポリブタジエンゴム型コアシェルゴム粒子37%の液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂マスターバッチ、株式会社カネカ製)、
・“Hypro(登録商標)”1300X13NA(末端カルボキシル基変性ブタジエンニトリルゴム(液状ゴム)、CVC  Thermoset  Specialties社製)
  (7)その他の成分
・“jERキュア(登録商標)”DICY7(エポキシ樹脂硬化剤、ジシアンジアミド、三菱ケミカル株式会社製)
・DCMU99(エポキシ樹脂硬化促進剤、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、保土谷化学工業株式会社製)
・“U-CAT”SA  102(エポキシ樹脂硬化促進剤、DBUのオクチル酸塩、サンアプロ株式会社製)
・“ビニレック”K(添加剤、ポリビニルホルマール樹脂、JNC株式会社製)。
・“エスレック”(登録商標)KS(添加剤、ポリビニルアセタール樹脂、積水化学工業株式会社製)
・“BYK”(登録商標)1790(非シリコン系消泡剤、ビックケミ-・ジャパン株式会社製)
・“DOWSIL”(登録商標)SH200Fluid(シリコン系消泡剤、ダウ・東レ株式会社製)
  <エポキシ樹脂組成物の調製方法>
  ビーカー中に、成分[A]、および必要に応じてその他成分を投入して、加熱、撹拌を行ったのち、成分[C]を加え撹拌を行い主剤を調製した。次に成分[B]を投入し、25℃~65℃にて、成分[B](硬化剤)が主剤に相溶するまで撹拌し、エポキシ樹脂組成物を得た。成分[B]が成分[A]に相溶したことは、固形成分がないことを、光学顕微鏡による観察で確認した。また、成分[B]投入後の撹拌温度は、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の反応性を考慮し、急激な反応が開始しない温度範囲にて行った。実施例および比較例の成分含有比について表1~7に示した。
【0068】
  <エポキシ樹脂組成物の粘度の測定方法>
  JIS  K  7244-10(2005)に従い、以下に示す条件にて、エポキシ樹脂組成物の粘度の周波数依存性を測定した。この測定で得られた、成分[A]および成分[C]または[C1]を含む主剤を調製し、1時間後に、成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物の0.1Hzの複素粘度値をη0.1とし、10Hzの複素粘度値をη10とした。また、成分[A]、[C1]を含む主剤を調製した後、23℃、50%RHで4日静置した後に、成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物の25℃、周波数0.1Hzにおける複素せん断粘度をη’0.1、25℃、周波数10Hzにおける複素せん断粘度をη’10と表記した。なお、測定は、主剤に成分[B]を混合してエポキシ樹脂組成物とした後30分のタイミングで行った。
装置:ARES-G2(TA  Instruments社製)
プレート構成:アルミ製φ40mmディスポプレート
              アルミ製φ42mmディスポーザプルカップ
ギャップ:1.0mm
温度:25℃
測定周波数:0.1~10Hz
歪:10%。
【0069】
  <チキソトロピーインデックス(TI)の計算方法>
  上記<エポキシ樹脂組成物の25℃粘度の測定方法>に従い測定した、η0.1、η1
               0、η’0.1、η’10を用いてTIを以下の定義に従って計算した。
【0070】
          TI0=η0.1/η10
               
          TI4=η’0.1/η’10
               
ここで、主剤を調製し1時間後に、硬化剤と混合した際のTIをTI0と表記し、主剤を調製した後、23℃、50%RHで4日静置した後に硬化剤を混合した場合のTIをTI4と表記した。
【0071】
  <エポキシ樹脂組成物の40℃粘度の測定方法>
  JIS  Z  8803(2011)に従い、以下に示す条件にて、成分[A]および成分[C1]を含む主剤を調製後1日以内に 、成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物の、40℃におけるエポキシ樹脂組成物の粘度を測定した。なお、エポキシ樹脂組成物の粘度は、測定開始から5分後の値を採用した。
装置:E型粘度計  TVE-22H(東機産業株式会社製)
コーンローター:ローターNo.  3°×R9.7
ローター回転速度:50rpm
せん断速度:100sec-1
               
サンプル量:0.3mL
温度:40℃。
【0072】
  <エポキシ樹脂組成物の安定性評価方法>
  本発明のトウプレグにおける、エポキシ樹脂組成物の安定性の評価手法としては、主剤と硬化剤を混合して調製したエポキシ樹脂組成物を25℃、50%RHにて24時間静置した後の粘度を、調製した直後(主剤と硬化剤を混合して調製した30分後)の粘度で除して得られる、増粘倍率を指標にした。なお、エポキシ樹脂組成物の粘度としては、平行平板振動レオメータを用いて、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η1
               0)を用い、結果を示す表中では、「25℃×24h後の増粘倍率」と表記した。
【0073】
  <トウプレグの作製方法>
  クリール、キスロール、ニップロール、ワインダーを備えたトウプレグ製造装置を用いて、炭素繊維“トレカ(登録商標)”T720SC-36Kの片面に、20~60℃の温度に調整したエポキシ樹脂組成物を塗工した後、ニップロールを通過させることで該エポキシ樹脂組成物を強化繊維束内部まで含浸してトウプレグを得た。トウプレグのボビンは、初期張力を600~1000gf、ワインド比を6~10として、巻き幅が230~260mmの円筒型となるよう、2300mを紙管に巻き取った。
【0074】
  <トウプレグのRcの測定方法>
  トウプレグのRcは、トウプレグのボビン質量(WA)、紙管の質量(WB)、炭素繊維の単位長さあたりの質量(WC)、ボビンに巻き取ったトウプレグの長さ(WD)から、式(1)に従ってもとめた。実施例および比較例のRcについて表1、2,5,6に示した。
【0075】
【0076】
  <トウプレグのずり落ち現象の評価方法>
  2300mを巻き取ったトウプレグのボビンを25℃に温調したのち、紙管長手方向が作業台の面に対して垂直となるように設置して10分静置し、円筒状のボビン下端の移動量を計測した。移動量が0mm以上3mm未満である時をA、3mm以上10mm未満である時をB、10mm以上である時をCとしてランク付けした。評価順位としてはAが最も良く、Cが最も悪い。
【0077】
  <圧力容器の作製方法>
  フィラメントワインディング成形装置に、7.5Lのポリエチレン製ライナーを設置し、本発明のトウプレグをライナー全体に巻きつけた。第1層として、ライナーの軸方向に対して±89°をなすフープ層を、その厚みが1.4mmとなるように巻き付けた。次に、第2層として、ライナーの軸方向に対して±20°をなすヘリカル層を、その厚みが2.2mmとなるように巻き付けた。さらに、第3層として、ライナーの軸方向に対して±89°をなすフープ層を、その厚みが0.6mmとなるように巻き付け、中間体を得た。なお、各層の厚みは、ノギスで外径を測定することによりもとめた。当該中間体を硬化炉中で回転させながら、110℃にて6時間硬化させ、圧力容器を得た。
【0078】
  <トウプレグの巻き締まり現象の評価方法>
  圧力容器のフィラメントワインディング成形後、用いたボビンに巻き締まりが生じたかを目視で判定した。巻き締まり現象が発生した場合をB評価、発生しない場合をA評価とした。
【0079】
  <トウプレグの拡幅性の評価方法>
  トウプレグの拡幅性が不足すると、圧力容器の口金周辺に空隙を生じるため破壊の起点になりやすく、破裂強度の低下を招く。そこで、作製した圧力容器を切断して口金周辺の繊維強化複合材料層の断面を観察した際に発見された最も大きな空隙の大きさを拡幅性の指標とした。空隙が小さく品位が良好であるものをA評価、空隙が大きく品位が悪いものをC評価、空隙がA評価のものよりは大きいがC評価のものよりは小さく、実用上許容されるレベルであるものをB評価とした。
【0080】
  (実施例1)
  成分[A]として“jER(登録商標)”807を100質量部、成分[B]として“jERキュア(登録商標)”WAを25.5質量部、成分[C](成分[C1]にも該当)として“AEROSIL”RY200Sを2.5質量部用いて、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。成分[C]の混練は、ニーダーを用いて予備混練を行った後に、三本ロールにて行った。このエポキシ樹脂組成物の、25℃、周波数0.1Hzで測定した複素せん断粘度(η0.1)は43Pa・s、25℃、周波数10Hzで測定した複素せん断粘度(η10)は2.4Pa・sであり、混合直後のチキソトロピーインデックス(以下、TIと略記する:TI0=η0.1/η10)は、18であった。また、40℃における粘度は3.3Pa・sであり、25℃、50%RHにて24時間静置した後の増粘倍率は2.0であった。
【0081】
  次に、このエポキシ樹脂組成物を用いて、上記<トウプレグの作製方法>に従って、トウプレグを得た。このトウプレグについてずり落ち現象の評価を行うと、トウプレグの円筒状のボビン下端の移動量は9mmであり、B評価とした。
【0082】
  続いて、成分[A]、[C1]を混合した4日後に成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物についてもTIを計算し、上記<トウプレグの作製方法>に従って、トウプレグを作製した。その結果、混合4日後のTI(TI4)は17であり、トウプレグの円筒状のボビン下端の移動量は9mmであった。トウプレグのずり落ちの程度は、エポキシ樹脂の保管前後で変化しなかった。疎水性揺変性付与剤を用いたことで、エポキシ樹脂の変質を抑制し、トウプレグボビンのずり落ちを抑制できていた。
【0083】
  さらに、得られたトウプレグを用いて圧力容器の成形、巻き締まり現象の評価、拡幅性の評価を行った結果、巻き締まり、拡幅性ともにA評価であった。
【0084】
  (実施例2~3)
  表1および表3に示したように、成分[C](成分[C1]にも該当)である“AEROSIL(登録商標)”RY200Sの含有量を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表1および表3に示したように、すべての項目で良好な結果が得られた。
【0085】
  (実施例4~9)
  表1および表4に示したように、成分[A]として、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含むように組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表1および表4に示したように、すべての項目で良好な結果が得られた。特に、25℃、50%RHにて24時間静置した後の増粘倍率の評価結果が良好であり、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含むこれらの組成では、エポキシ樹脂組成物の安定性が優れることが分かる。
【0086】
  (実施例10~11)
  表2に示したように、成分[C]として、“ディスパロン(登録商標)”6500を用い、該成分の混練をニーダーを用いて、90℃にて30分間行い、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表2に示したように、すべての項目で良好な結果が得られた。
【0087】
  (実施例12)
  表2に示したように、成分[C]として、“GARAMITE(登録商標)”7305を用い、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表2に示したように、すべての項目で良好な結果が得られた。
【0088】
  (実施例13)
  表2および表4に示したように、成分[B]として、“DYHARD(登録商標)”Fluid  111を用い、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表2および表4に示したように、すべての項目で良好な結果が得られた。
【0089】
  (実施例14)
  表2に示したように、成分[B]として、“DYHARD(登録商標)”Fluid  111を用い、成分[C]として、“AEROSIL(登録商標)”300を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表2に示したように、すべての項目で良好な結果が得られた。
【0090】
  (実施例15)
  表2および表4に示したように、成分[B]として、“KAYAHARD(登録商標)”MCDを用い、硬化促進剤として“U-CAT(登録商標)”SA  102を用い、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表2および表4に示したように、すべての項目で良好な結果が得られた。
【0091】
  (実施例16)
  表2および表4に示したように、成分[B]として、Accelerator  DY  9577を用い、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表2および表4に示したように、すべての項目で良好な結果が得られた。
【0092】
  (実施例17)
  表3に示したように、成分[C1]として“AEROSIL(登録商標)”RY200Sを“AEROSIL(登録商標)”R805に変更した以外は実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。その結果、η0.1が110Pa・sであり、成分[A]~[C1]を混合した直後に作製したトウプレグボビンでは、ボビンのずり落ち現象は生じなかった。次に、成分[A]、[C1]を混合した4日後に成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物を評価したところ、TI4が38(TI0=41)であり、エポキシ樹脂組成物の揺変性の経時的な減衰が抑制されていた。この樹脂を用いてトウプレグを作製、評価したところ、ずり落ち現象は生じず、拡幅性も良好だった。
【0093】
  (実施例18)
  表3に示したように、成分[C1]として“AEROSIL(登録商標)”RY200Sを “AEROSIL(登録商標)”R812に変更した以外は実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。その結果、η0.1が145Pa・sであり、成分[A]~[C1]を混合した直後に作製したトウプレグボビンでは、トウプレグボビンのずり落ち現象は生じなかった。
次に、成分[A]、[C1]を混合した4日後に成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物を評価したところ、TI4が32(TI0=45)であり、エポキシ樹脂組成物の揺変性の経時的な減衰が生じていた。この樹脂を用いてトウプレグを作製、評価したところ、ずり落ち現象の評価はAからBへと変化した。“AEROSIL(登録商標)”R812は、“AEROSIL(登録商標)”RY200Sおよび“AEROSIL(登録商標)”R805と比較して揺変性付与剤の表面に結合している疎水性官能基の炭素数が少なく、エポキシ樹脂組成物の揺変性の経時的な減衰を抑制する効果が小さいことが分かる。
【0094】
  (実施例19)
  表5に示したように、成分[A]として、グリシジルアミン型エポキシ樹脂を含むように組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表5に示したように、すべての項目で良好な結果が得られた。
【0095】
  (実施例20~23)
  表5に示したように、成分[D]として、コアシェルゴム粒子を含むように組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表5に示したように、すべての項目で良好であり、成分[D]を含むこれらの組成では、樹脂硬化物の曲げ破壊伸度が優れることが分かる。
【0096】
  (実施例24~26)
  表5に示したように、成分[D]として、液状ゴムである末端カルボキシル基変性ブタジエンニトリルゴムを含むように組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表5に示したように、すべての項目で良好であり、成分[D]を含むこれらの組成では、樹脂硬化物の曲げ破壊伸度が優れることが分かる。しかしながら、液状ゴムを用いた場合は、コアシェルゴム粒子を用いた場合と比較して、チキソトロピーインデックスが小さくなる傾向がみられた。
【0097】
  (実施例27)
  表7に示したように、成分[C]である“AEROSIL(登録商標)”RY200Sを“AEROSIL(登録商標)”300に変更し、その含有量を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、η0.1、η10、TI0、η40、増粘倍率、拡幅性で良好な結果が得られた。しかしながら、成分[A]、[C]を混合した4日後に成分[B]を混合して調製したエポキシ樹脂組成物を評価したところ、TI4が1.0(TI0=2.0)であり、エポキシ樹脂組成物の揺変性の経時的な減衰が生じ、ずり落ち現象の評価はBからCへと変化した。“AEROSIL(登録商標)”300は親水性揺変性付与剤であるため、エポキシ樹脂組成物の揺変性の経時的な減衰を抑制できず、ずり落ち現象が生じたことが分かる。本実施例は、条件(X)を満たすが、条件(Y)を満たさない実施例であり、条件(Y)の効果の説明においては十分な効果を奏さない例として扱われる。
【0098】
  (比較例1)
  表6に示したように、成分[C]を用いず、3本ロールによる混練を行わなかったほか、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表6に示したように、η0.1が低く、ずり落ち現象、および、巻き締まり現象が生じた。
【0099】
  (比較例2)
  表6に示したように、成分[C]である“AEROSIL(登録商標)”RY200Sの含有量を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表6に示したように、η0.1が25Pa・s、かつ、η0.1/η10が1.2と低く、ずり落ち現象、および、巻き締まり現象が生じた。
【0100】
  (比較例3)
  表6に示したように、成分[C]である“AEROSIL(登録商標)”RY200Sの含有量を変更し、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表6に示したように、η0.1/η10が1.7ながら、η0.1が32Pa・sと低く、ずり落ち現象、および、巻き締まり現象が生じた。
【0101】
  (比較例4)
  表6に示したように、成分[C]である“AEROSIL(登録商標)”RY200Sの含有量を変更し、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表6に示したように、η0.1が500Pa・sと高いため、トウプレグ製造装置にてエポキシ樹脂組成物の送液ができず、トウプレグを作製することができなかった。
【0102】
  (比較例5)
  表6に示したように、成分[C]を用いず、添加剤である“ビニレック(登録商標)”Kを用い、3本ロールによる混練を行わなかったほか、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表6に示したように、成分[C]を含まないためη0.1が88Pa・sと高いにもかかわらず、ずり落ち現象および、巻き締まり現象が生じた。
【0103】
  (比較例6)
  表6に示したように、エポキシ樹脂硬化剤として“jERキュア(登録商標)”DICY7を用い、硬化促進剤としてDCMU99を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表6に示したように、η0.1が5.7Pa・s、かつ、η0.1/η10が1.0と低いが、ずり落ち現象、および、巻き締まり現象が生じなかった。しかしながら、拡幅性はC評価であり、“jERキュア(登録商標)”DICY7のような、成分[A]に相溶していない、固形のエポキシ樹脂硬化剤を用いた場合にはトウプレグの拡幅性が不十分となることがわかる。
【0104】
  (比較例7~8)
  表7に示したように、成分[C1]を用いず、3本ロールによる混練を行わなかったほか、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表7に示したように、η0.1が低く、ずり落ち現象が生じた。
【0105】
  (比較例9)
  表7に示したように、成分[C1]である“AEROSIL(登録商標)”RY200Sの含有量とその他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表7に示したように、η0.1が24Pa・sと低く、ずり落ち現象が生じた。
【0106】
  (比較例10)
  表7に示したように、成分[C1]である“AEROSIL(登録商標)”RY200Sの含有量を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。評価結果は、表7に示したように、η0.1が776Pa・sと高くなり、トウプレグ製造装置にてエポキシ樹脂組成物の送液不良が生じ、トウプレグを作製することができなかった。
【0107】
  (比較例11)
  表7に示したように、成分[C1]を用いず、3本ロールによる混練を行わなかったほか、添加剤として“エスレック”(登録商標)KSを用い、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物を作製、評価した。その結果、40℃粘度が49Pa・sと高く、トウプレグの製造工程にて40℃での送液ができなかった。60℃まで加温したところ、送液が可能であったが、エポキシ樹脂組成物の増粘が早く、トウプレグの生産性が低下した。また、得られたトウプレグのずり落ち現象を評価した結果、成分[C1]を含まないためη0.1が236Pa・sと高いにもかかわらず、ずり落ち現象が生じた。
【0108】
  (比較例12)
  表7に示したように、エポキシ樹脂硬化剤として“jERキュア(登録商標)”DICY7を用い、硬化促進剤としてDCMU99を用い、その他組成を変更した以外は、実施例1と同じ方法で、エポキシ樹脂組成物、トウプレグ、圧力容器を作製、評価した。その結果、η0.1が24Pa・s、かつ、η0.1/η10が1.0と低いが、ずり落ち現象は生じなかった。しかしながら、拡幅性はC評価であり、“jERキュア(登録商標)”DICY7のような、成分[A]に相溶していない、固形のエポキシ樹脂硬化剤を用いた場合にはトウプレグの拡幅性が不十分となることがわかる。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【符号の説明】
【0116】
1:トウプレグ
2:紙管