(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】低風圧電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/18 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
H01B7/18 Z
(21)【出願番号】P 2021001086
(22)【出願日】2021-01-06
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】奥田 浩世
(72)【発明者】
【氏名】山崎 直哉
(72)【発明者】
【氏名】古沢 健一
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-056652(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025776(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周に設けられている絶縁層とを備える低風圧電線であって、
前記低風圧電線の外径は、23mm以上27mm以下であり、
前記絶縁層は、複数の山部と、複数の谷部と、複数の大フランク面とを備え、
前記絶縁層の外周面は、第一領域を備え、
前記第一領域の面粗さは、1.5μm以上3μm未満であ
り、
前記複数の山部の各々は、前記低風圧電線の径方向に突出しており、第一凸部と、第二凸部と、凹部と、第一小フランク面と、第二小フランク面とを備え、
前記複数の谷部の各々は、前記山部よりも相対的に前記低風圧電線の径方向に凹んでおり、
前記複数の山部と前記複数の谷部とは、前記低風圧電線の周方向に交互に周期的に並び、
前記第一凸部及び前記第二凸部は、前記山部における周方向の中心を挟んで配置され、
前記凹部は、前記第一凸部と前記第二凸部との間に配置され、前記第一凸部及び前記第二凸部よりも相対的に前記低風圧電線の径方向に凹んでおり、
前記第一小フランク面は、前記第一凸部と前記凹部とをつなぐ面であり、
前記第二小フランク面は、前記第二凸部と前記凹部とをつなぐ面であり、
前記複数の大フランク面の各々は、隣り合う前記山部と前記谷部とをつなぐ面であり、かつ前記第一領域を備え、
前記第一小フランク面及び前記第二小フランク面の少なくとも一方は、前記第一領域を備え、
下記の条件(A)から(G)を満たし、
(A)L1/D1≦107
(B)L2/D2≦107、D2>D1
(C)L2/L1<10
(D)0.2≦r1≦1.0、かつ0.2≦r2≦1.0
(E)12≦n
(F)0.001≦D1/R
(G)0.001≦D2/R
L1は、前記複数の山部の各々における前記第一凸部と前記第二凸部との間隔であり、
L2は、前記谷部を挟んで隣り合う前記第一凸部と前記第二凸部との間隔であり、
D1は、前記複数の山部の各々における前記第一凸部と前記第二凸部とを結ぶ直線から前記凹部の底部までの最大距離であり、
D2は、前記谷部を挟んで隣り合う前記第一凸部と前記第二凸部とを結ぶ直線から前記谷部の底部までの最大距離であり、
r1は、前記第一凸部における頂部の曲率半径であり、
r2は、前記第二凸部における頂部の曲率半径であり、
nは、前記複数の山部の一つと前記複数の谷部の一つの組数であり、
Rは、前記複数の谷部の各々における底部に接する内接円の直径である、
低風圧電線。
【請求項2】
前記導体は、アルミニウムを主体とする線材で構成されている、請求項1に記載の低風圧電線。
【請求項3】
前記絶縁層は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、又はエチレンプロピレンゴムから選択される絶縁材料で構成されている、請求項1又は請求項2に記載の低風圧電線。
【請求項4】
前記絶縁層の外周面は、エンボス表示を備える、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の低風圧電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低風圧電線に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、導体と、導体の外周に設けられる絶縁層とを備え、絶縁層の少なくとも一部の面粗さが3μm以上である低風圧電線を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大サイズの低風圧電線に対して、風圧荷重の低減が望まれている。特許文献1に記載の低風圧電線は、絶縁層の表面がある程度粗いことによって、吹き付けられた風に乱れを生じさせて、風圧荷重の低減を図っている。このような絶縁層の面粗さによる風圧荷重の低減は、導体の公称断面積が120mm2程度と比較的小さいサイズの低風圧電線に対して効果を発揮し易い。しかし、導体の公称断面積が200mm2以上と比較的大きいサイズの低風圧電線に対する風圧荷重の低減に関して、改善の余地がある。
【0005】
本開示は、大サイズで構成され、かつ風圧荷重を低減できる低風圧電線を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の低風圧電線は、導体と、前記導体の外周に設けられている絶縁層とを備える低風圧電線であって、前記低風圧電線の外径は、23mm以上27mm以下であり、前記絶縁層の外周面は、第一領域を備え、前記第一領域の面粗さは、1.5μm以上3μm未満である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の低風圧電線は、大サイズで構成され、かつ風圧荷重を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態の低風圧電線の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す低風圧電線について、絶縁層の外周面近傍を示す部分拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
(1)本開示の一態様に係る低風圧電線は、導体と、前記導体の外周に設けられている絶縁層とを備える低風圧電線であって、前記低風圧電線の外径は、23mm以上27mm以下であり、前記絶縁層の外周面は、第一領域を備え、前記第一領域の面粗さは、1.5μm以上3μm未満である。
【0011】
本開示の低風圧電線は、外径が23mm以上27mm以下であり、大サイズで構成されている。ここでの低風圧電線の外径は、最小外径である。低風圧電線では、絶縁層の外形が歯車のような凹凸形状で構成されることがある。絶縁層が凹凸形状で構成される場合、低風圧電線の外径は、低風圧電線の径方向の最も内側に位置する凹部の底部に接する円の直径である。例えば、後述するように、絶縁層が複数の山部と複数の谷部とを備える場合、低風圧電線の外径は、各谷部の底部に接する内接円の直径である。
【0012】
本開示の低風圧電線は、絶縁層に特定の面粗さの第一領域を備えることで、大サイズでありながら、吹き付けられた風に乱れを生じさせて、風圧荷重を低減できる。架空線では、代表的には、風速40m/sの高風速域における風圧荷重の低減と、風速28m/sの低風速域における風圧荷重の低減とが求められる。本開示の低風圧電線は、後述する試験例で示すように、高風速域及び低風速域のいずれにおいても、風圧荷重を低減できる。
【0013】
低風圧電線は、絶縁層の外周面にエンボス表示が施されることが多い。本開示の低風圧電線は、絶縁層の面粗さが3μm以上である場合に比較して、エンボス表示を加工し易い上に、エンボス表示の視認性に優れる。
【0014】
(2)本開示の低風圧電線の一例として、前記絶縁層は、複数の山部と、複数の谷部と、複数の大フランク面とを備え、前記複数の山部の各々は、前記低風圧電線の径方向に突出し、前記複数の谷部の各々は、前記山部よりも相対的に前記低風圧電線の径方向に凹んでおり、前記複数の山部と前記複数の谷部とは、前記低風圧電線の周方向に交互に周期的に並び、前記複数の大フランク面の各々は、隣り合う前記山部と前記谷部とをつなぐ面であり、かつ前記第一領域を備える形態が挙げられる。
【0015】
上記形態における絶縁層の外形は、複数の山部と複数の谷部とを交互に備える凹凸形状である。上記形態の低風圧電線は、この凹凸形状によって、風の剥離点を低風圧電線の風下側に移動させて、風圧荷重を低減できる。また、上記形態では、山部の頂部に比較して風が滞留し易いと考えられる大フランク面に第一領域を備える。上記形態の低風圧電線は、風の剥離点を風下側に移動させられることに加え、風に乱れを生じさせ易いと考えられる領域を大きく確保できるため、風圧荷重をより低減できる。
【0016】
(3)上記(2)の低風圧電線の一例として、前記複数の山部の各々は、第一凸部と、第二凸部と、凹部とを備え、前記第一凸部及び前記第二凸部は、前記山部における周方向の中心を挟んで配置され、前記凹部は、前記第一凸部と前記第二凸部との間に配置され、前記第一凸部及び前記第二凸部よりも相対的に前記低風圧電線の径方向に凹んでいる形態が挙げられる。
【0017】
上記形態における絶縁層の外形は、複数の山部と複数の谷部とによる凹凸に加えて、各山部に更に凹凸を有するという特定の凹凸形状である。上記形態の低風圧電線は、この特定の凹凸形状によって、風の剥離点を低風圧電線の風下側に移動させ易いと考えられ、風圧荷重をより低減できる。
【0018】
(4)上記(3)の低風圧電線の一例として、前記複数の山部の各々は、第一小フランク面と、第二小フランク面とを備え、前記第一小フランク面は、前記第一凸部と前記凹部とをつなぐ面であり、前記第二小フランク面は、前記第二凸部と前記凹部とをつなぐ面であり、前記第一小フランク面及び前記第二小フランク面の少なくとも一方は、前記第一領域を備える形態が挙げられる。
【0019】
上記形態では、第一凸部及び第二凸部の頂部に比較して風が滞留し易いと考えられる第一小フランク面及び第二小フランク面の少なくとも一方に第一領域を備える。従って、上記形態の低風圧電線は、風に乱れを生じさせ易いと考えられる領域を更に大きく確保できるため、風圧荷重を更に低減できる。
【0020】
(5)上記(3)又は上記(4)の低風圧電線の一例として、下記の条件(A)から(E)を満たす形態が挙げられる。
(A)L1/D1≦107
(B)L2/D2≦107、D2>D1
(C)L2/L1<10
(D)0.2≦r1≦1.0、かつ0.2≦r2≦1.0
(E)12≦n
L1は、前記複数の山部の各々における前記第一凸部と前記第二凸部との間隔であり、L2は、前記谷部を挟んで隣り合う前記第一凸部と前記第二凸部との間隔であり、D1は、前記複数の山部の各々における前記第一凸部と前記第二凸部とを結ぶ直線から前記凹部の底部までの最大距離であり、D2は、前記谷部を挟んで隣り合う前記第一凸部と前記第二凸部とを結ぶ直線から前記谷部の底部までの最大距離であり、r1は、前記第一凸部における頂部の曲率半径であり、r2は、前記第二凸部における頂部の曲率半径であり、nは、前記複数の山部の一つと前記複数の谷部の一つの組数である。
【0021】
上記形態の低風圧電線は、条件(A)から(E)の全てを満たすことで、大サイズでありながら、風圧荷重をより低減できる。各条件によって得られる効果は以下の通りである。条件(A)を満たすことで、凹部の深さをある程度確保でき、凹部によって風圧荷重が低減され易い。条件(B)を満たすことで、谷部の深さをある程度確保でき、谷部によって風圧荷重が低減され易い。条件(C)を満たすことで、凹部を大きく確保でき、凹部によって風圧荷重が低減され易い。条件(D)を満たすことで、第一凸部及び第二凸部が尖り過ぎることも緩やかになり過ぎることもなく、第一凸部及び第二凸部によって風圧荷重が低減され易い。条件(E)を満たすことで、山部及び谷部による起伏が緩やかになり過ぎず、山部及び谷部よって風圧荷重が低減され易い。
【0022】
(6)上記(5)の低風圧電線の一例として、下記の条件(F)及び(G)を満たす形態が挙げられる。
(F)0.001≦D1/R
(G)0.001≦D2/R
Rは、前記複数の谷部の各々における底部に接する内接円の直径である。
【0023】
上記形態の低風圧電線は、条件(A)から(E)に加えて、更に条件(F)及び(G)を満たすことで、大サイズでありながら、風圧荷重をより低減できる。条件(F)を満たすことで、凹部の深さをある程度確保でき、凹部によって風圧荷重が低減され易い。また、条件(G)を満たすことで、谷部の深さをある程度確保でき、谷部によって風圧荷重が低減され易い。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。
図1は、実施形態の低風圧電線において、低風圧電線の長手方向と直交する平面で切断した断面図である。
図1及び
図2では、分かり易いように山部、谷部等を誇張して示し、実際の大きさとは異なる。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0025】
<低風圧電線>
実施形態の低風圧電線1は、導体2と、導体2の外周に設けられている絶縁層3とを備える。低風圧電線1は、絶縁電線の一種であり、電柱等に架設されて利用される。実施形態の低風圧電線1の特徴の一つは、低風圧電線1の外径が23mm以上27mm以下である点にある。実施形態の低風圧電線1の別の特徴の一つは、絶縁層3の外周面が第一領域4を備える点にある。以下、詳細に説明する。
【0026】
〔導体〕
導体2は、代表的には、硬銅線、硬銅より線、硬アルミニウムより線、鋼心アルミニウムより線、アルミニウム覆鋼心アルミニウムより線等から選択される1種の線材から構成される。特に、導体2は、アルミニウムを主体とする線材で構成されることが挙げられる。アルミニウムを主体とする線材は、銅を主体とする線材に比較して、軽量である。しかし、アルミニウムは銅よりも導電率が低い。そのため、導体2がアルミニウムを主体とする線材で構成される場合、銅を主体とする線材と同程度の電流を流すためには、導体2のサイズが大きくなる。導体2のサイズが大きくなると、低風圧電線1のサイズが大きくなる。
図1では、単線又はより線にかかわらず、導体2を丸線で簡略して示す。
【0027】
導体2の断面積は、200mm2以上と比較的大きいサイズである。実施形態の低風圧電線1の公称電圧は、例えば、600V以上33kV以下であることが挙げられる。導体2の断面積は、この公称電圧に適した値を適宜選択できる。導体2の断面積は、200mm2以上500mm2以下、更に200mm2以上400mm2以下、特に200mm2以上240mm2以下であることが挙げられる。
【0028】
〔絶縁層〕
絶縁層3は、代表的には、複数の山部30と複数の谷部32とを備える。絶縁層3の外形は、複数の山部30及び複数の谷部32によって、凹凸形状である。ここでの凹凸形状は、代表的には、絶縁層3を構成するための押出機のダイスの孔形状に応じて成形された規則的な凹凸である。この凹凸は、例えば最大山高さや最大谷深さが50μm以上、更に100μm以上のある程度大きな凹凸である。絶縁層3は、凹凸形状を実質的に維持しながら、外周面に第一領域4を備える。第一領域4は、絶縁層3の外周面の少なくとも一部に設けられている。本例の第一領域4は、絶縁層3の外周面の全面に設けられている。第一領域4の面粗さは、1.5μm以上3μm未満である。低風圧電線1は、上記凹凸形状及び上記面粗さによって、風圧荷重の低減を図る。
図1に示す絶縁層3の外形は例示であり、適宜変更できる。以下、絶縁層3に関して、まず凹凸形状について説明し、その後に面粗さについて説明する。
【0029】
〈凹凸形状〉
図1に示す絶縁層3は、複数の山部30と複数の谷部32とを低風圧電線1の周方向に交互に備える。各山部30は、低風圧電線1の径方向に突出する部分である。各谷部32は、山部30よりも相対的に低風圧電線1の径方向に凹む部分である。低風圧電線1は、複数の山部30及び複数の谷部32による凹凸形状によって、吹き付けられた風の剥離点を風下側に移動させて、風圧荷重を低減する。
【0030】
本例の絶縁層3は、複数の山部30と複数の谷部32とによる大きな凹凸に加えて、各山部30に小さな凹凸を備える。具体的には、各山部30は、第一凸部301と第二凸部302と凹部303とを備える。第一凸部301及び第二凸部302は、
図2に示すように、山部30の中心線35を挟んで配置される。中心線35は、低風圧電線1の径方向に沿った直線のうち、山部30における周方向の中心を通る直線である。山部30における周方向の中心は、隣り合う谷部32間における周方向に沿った長さの中間点である。第一凸部301及び第二凸部302は、低風圧電線1の径方向に突出する部分である。第一凸部301及び第二凸部302の各突出高さは、略同じであることが挙げられる。第一凸部301及び第二凸部302は、中心線35を挟んで対称に設けられていることが挙げられる。凹部303は、第一凸部301と第二凸部302との間に配置される。凹部303は、第一凸部301及び第二凸部302よりも相対的に低風圧電線1の径方向に凹む部分である。凹部303の底部は、中心線35に設けられることが挙げられる。各山部30に小さな凹凸を備える低風圧電線1は、風の剥離点をより風下側に移動させ易く、風圧荷重を更に低減し易い。
【0031】
絶縁層3が、山部30、谷部32、第一凸部301、第二凸部302、凹部303を備える場合、低風圧電線1は、以下の条件(A)から(E)を満たすことが好ましい。低風圧電線1は、以下の条件(A)から(E)に加えて、更に以下の条件(F)及び(G)を満たすことが好ましい。
(A)L1/D1≦107
(B)L2/D2≦107、D2>D1
(C)L2/L1<10
(D)0.2≦r1≦1.0、かつ0.2≦r2≦1.0
(E)12≦n
(F)0.001≦D1/R
(G)0.001≦D2/R
【0032】
条件(A)から(G)に示す記号の意味は、以下の通りである(
図2参照)。
L1は、複数の山部30の各々における第一凸部301と第二凸部302との間隔である。L1の単位はmmである。
L2は、谷部32を挟んで隣り合う第一凸部301と第二凸部302との間隔である。L2の単位はmmである。
D1は、複数の山部30の各々における第一凸部301と第二凸部302とを結ぶ直線から凹部303の底部までの最大距離である。この最大距離は、凹部303の深さである。D1の単位はmmである。
D2は、谷部32を挟んで隣り合う第一凸部301と第二凸部302とを結ぶ直線から谷部32の底部までの最大距離である。この最大距離は、谷部32の深さである。D2の単位はmmである。
r1は、第一凸部301における頂部の曲率半径である。r1の単位はmmである。
r2は、第二凸部302における頂部の曲率半径である。r2の単位はmmである。
nは、複数の山部30の一つと複数の谷部32の一つの組数である。
Rは、複数の谷部32の各々における底部に接する内接円5の直径である。
図1及び
図2では、内接円5を二点鎖線で示す。Rの単位はmmである。
【0033】
≪条件(A)について≫
L1/D1が107以下であることで、凹部303の深さをある程度確保できる。凹部303が深いことで、風圧荷重が低減され易い。L1/D1は、小さいほど凹部303の深さを確保し易い。しかし、L1/D1は、小さ過ぎると絶縁層3の表面の起伏が急峻となる。絶縁層3の表面の起伏が急峻であると、絶縁層3の表面に図示しないエンボス表示を設ける場合、エンボス表示を加工し難い上に、エンボス表示の視認性が低下する。L1/D1が4以上であることで、絶縁層3の表面の起伏が緩やかとなり、エンボス表示を明確に刻印することができ、エンボス表示の視認性を向上できる。低風圧電線1は、4≦L1/D1≦107を満たすことが好ましい。低風圧電線1は、更に4≦L1/D1≦44、特に4≦L1/D1≦22を満たすことが好ましい。
【0034】
≪条件(B)について≫
D2>D1を満たすとき、L2/D2が107以下であることで、谷部32の深さをある程度確保できる。谷部32が深いことで、風圧荷重が低減され易い。L2/D2は、小さいほど谷部32の深さを確保し易い。しかし、L2/D2は、小さ過ぎると絶縁層3の表面の起伏が急峻となる。絶縁層3の表面の起伏が急峻であると、絶縁層3の表面にエンボス表示を設ける場合、エンボス表示を加工し難い上に、エンボス表示の視認性が低下する。L2/D2が4以上であることで、絶縁層3の表面の起伏が緩やかとなり、エンボス表示を明確に刻印することができ、エンボス表示の視認性を向上できる。低風圧電線1は、4≦L2/D2≦107を満たすことが好ましい。低風圧電線1は、更に4≦L2/D2≦88、特に4≦L2/D2≦44を満たすことが好ましい。
【0035】
≪条件(C)について≫
L2はL1よりも大きい。L2>L1を満たすとき、L2/L1が10未満であることで、凹部303を大きく確保できる。凹部303が大きいことで、風圧荷重が低減され易い。D1及びD2を一定とすると、L2/L1は、小さいほど凹部303を大きく確保し易い。しかし、L2/L1は、小さ過ぎると絶縁層3の表面の起伏が急峻となる。絶縁層3の表面の起伏が急峻であると、絶縁層3の表面にエンボス表示を設ける場合、エンボス表示を加工し難い上に、エンボス表示の視認性が低下する。D1及びD2を一定とすると、L2/L1が1.25以上であることで、絶縁層3の表面の起伏が緩やかとなり、エンボス表示を明確に刻印することができ、エンボス表示の視認性を向上できる。低風圧電線1は、1.25≦L2/L1<10を満たすことが好ましい。低風圧電線1は、更に1.25≦L2/L1≦5、特に1.25≦L2/L1≦2.5を満たすことが好ましい。
【0036】
≪条件(D)について≫
第一凸部301及び第二凸部302における各頂部は、低風圧電線1の軸方向から見て、円弧状となっている。r1が0.2以上であることで、第一凸部301が尖り過ぎない。一方、r1が1以下であることで、第一凸部301が緩やかになり過ぎない。第一凸部301が尖り過ぎることも緩やかになり過ぎることもないことで、風圧荷重が低減され易い。r2が0.2以上であることで、第二凸部302が尖り過ぎない。r2が1以下であることで、第二凸部302が緩やかになり過ぎない。第二凸部302が尖り過ぎることも緩やかになり過ぎることもないことで、風圧荷重が低減され易い。低風圧電線1は、更に0.2≦r1≦0.95、かつ0.2≦r2≦0.95、特に0.2≦r1≦0.9、かつ0.2≦r2≦0.9を満たすことが好ましい。
【0037】
本例では、凹部303の底部も、低風圧電線1の軸方向から見て、円弧状となっている。また、本例では、谷部32の底部も、低風圧電線1の軸方向から見て、円弧状となっている。
【0038】
≪条件(E)について≫
一つの山部30と一つの谷部32の組数nが12以上であることで、山部30及び谷部32による起伏、即ち絶縁層3の表面の起伏が緩やかになり過ぎない。絶縁層3の表面がある程度起伏していることで、風圧荷重が低減され易い。組数nは、大きいほど絶縁層3の表面に凹凸を構成し易い。しかし、組数nは、大き過ぎると山部30と谷部32との間隔が狭くなり過ぎる。上記間隔が狭過ぎると、絶縁層3の表面にエンボス表示を設ける場合、エンボス表示を加工し難い上に、エンボス表示の視認性が低下する。組数nが20以下であることで、山部30と谷部32との間隔をある程度確保でき、エンボス表示を明確に刻印することができ、エンボス表示の視認性を向上できる。低風圧電線1は、12≦n≦20を満たすことが好ましい。
【0039】
この例の絶縁層3は、組数nが奇数で構成されている。この例の絶縁層3の外形は、低風圧電線1の軸方向から見て、低風圧電線1の中心を通る直線を軸とする線対称な形状である。絶縁層3は、組数nが偶数で構成されていてもよい。
【0040】
この例の各山部30及び各谷部32は、低風圧電線1の軸方向に沿って直線状に連続して設けられている。各山部30及び各谷部32は、低風圧電線1の軸方向に対してらせん状に連続して設けられていてもよい。
【0041】
≪条件(F)について≫
D2はD1よりも大きい。D2>D1を満たすとき、D1/Rが0.001以上であることで、凹部303の深さをある程度確保できる。凹部303が深いことで、風圧荷重が低減され易い。D1/Rは、大きいほど凹部303の深さを確保し易い。しかし、D1/Rは、大き過ぎると絶縁層3の表面の起伏が急峻となる。絶縁層3の表面の起伏が急峻であると、絶縁層3の表面にエンボス表示を設ける場合、エンボス表示を加工し難い上に、エンボス表示の視認性が低下する。D1/Rが0.05以下であることで、絶縁層3の表面の起伏が緩やかとなり、エンボス表示を明確に刻印することができ、エンボス表示の視認性を向上できる。低風圧電線1は、0.001≦D1/R≦0.05を満たすことが好ましい。低風圧電線1は、更に0.001≦D1/R≦0.03、特に0.001≦D1/R≦0.02を満たすことが好ましい。
【0042】
≪条件(G)について≫
D2>D1を満たすとき、D2/Rが0.001以上であることで、谷部32の深さをある程度確保できる。谷部32が深いことで、風圧荷重が低減され易い。D2/Rは、大きいほど谷部32の深さを確保し易い。しかし、D2/Rは、大き過ぎると絶縁層3の表面の起伏が急峻となる。絶縁層3の表面の起伏が急峻であると、絶縁層3の表面にエンボス表示を設ける場合、エンボス表示を加工し難い上に、エンボス表示の視認性が低下する。D2/Rが0.05以下であることで、絶縁層3の表面の起伏が緩やかとなり、エンボス表示を明確に刻印することができ、エンボス表示の視認性を向上できる。低風圧電線1は、0.001≦D2/R≦0.05を満たすことが好ましい。低風圧電線1は、更に0.001≦D2/R≦0.03、特に0.001≦D2/R≦0.02を満たすことが好ましい。
【0043】
絶縁層3の厚さは、所定の絶縁特性を満たす範囲で適宜選択できる。例えば、低風圧電線1の公称電圧が600V以上33kV以下である場合、導体2の断面積が200mm2以上500mm2以下を満たし、かつ低風圧電線1の外径が23mm以上27mm以下を満たすように、絶縁層3の厚さを適宜選択できる。ここでの低風圧電線1の外径は、最小外径である。絶縁層3が上述した複数の山部30及び複数の谷部32による凹凸形状で構成される場合、低風圧電線1の外径は、各谷部32の底部に接する内接円5の直径Rである。
【0044】
その他の凹凸形状として、絶縁層3の外周面に低風圧電線1の周方向に所定の間隔をあけて逆三角形状の溝部が形成された形態等、種々の形状を利用できる。絶縁層3の外形は、公知の凹凸形状とすることもできる。
【0045】
〈面粗さ〉
絶縁層3は、第一領域4を備える。第一領域4の面粗さは、1.5μm以上3μm未満である。ここでの面粗さの測定対象となる凹凸は、代表的には不規則かつある程度微細なものである。ここでの面粗さの測定対象となる凹凸は、上述した複数の山部30及び複数の谷部32によって形成される規則的かつある程度大きな凹凸ではない。面粗さの具体的な測定方法は、後述する試験例にて詳述する。
【0046】
上記面粗さが1.5μm以上であることで、絶縁層3の表面で風の乱れを生じさせることができる。低風圧電線1が大サイズで構成される場合、低風圧電線1自体の摩擦抵抗が大きい。本明細書における摩擦抵抗は、空気の粘性によって生じる電線表面の摩擦のことである。この摩擦抵抗によっても、絶縁層3の表面で風の乱れを生じさせることができる。低風圧電線1は、大サイズで構成され、かつ絶縁層3が若干粗いことで、吹き付けられた風に乱れを生じさせて、風圧荷重を低減できる。大サイズで構成される低風圧電線1は、上記面粗さが1.5μm以上であることで、後述する試験例で示すように、風速40m/sの高風速域及び風速28m/sの低風速域のいずれにおいても、風圧荷重を低減できる。
【0047】
上記面粗さが3μm未満であることで、絶縁層3の表面が粗いといっても、その面粗さは若干である。上記面粗さが3μm未満であることで、低風圧電線1の外観に優れる。そのため、絶縁層3の表面にエンボス表示を設ける場合、エンボス表示を明確に刻印することができ、エンボス表示の視認性を向上できる。
【0048】
低風圧電線1は、電柱等に架け渡された状態において、任意の位置に風が吹き付けられる。そのため、第一領域4の範囲は広いことが好ましい。絶縁層3の外形が上述のように凹凸形状である場合、凹み箇所は、風が滞留し易く風を乱すことがより望まれる部分であると考えられる。絶縁層3の表面における少なくとも凹み箇所は第一領域4であることが好ましい。
【0049】
本例の絶縁層3は、複数の山部30と複数の谷部32とを交互に備える。隣り合う山部30と谷部32とをつなぐ面を大フランク面33と呼ぶ。大フランク面33は、第一領域4を備えることが好ましい。大フランク面33の実質的に全面が第一領域4であることがより好ましい。
【0050】
本例の絶縁層3は、各山部30に第一凸部301、第二凸部302、及び凹部303を備える。第一凸部301と凹部303とをつなぐ面を第一小フランク面341と呼ぶ。第二凸部302と凹部303とをつなぐ面を第二小フランク面342と呼ぶ。第一小フランク面341及び第二小フランク面342の少なくとも一方は、第一領域4を備えることが好ましい。第一小フランク面341及び第二小フランク面342の双方が第一領域4を備えることがより好ましい。第一小フランク面341及び第二小フランク面342の双方における実質的に全面が第一領域4であることがより好ましい。
【0051】
絶縁層3の外周面における全面が第一領域4である形態であれば、絶縁層3の任意の位置で受けた風を乱すことができると考えられる。この形態は、例えば、後述する低風圧電線の製造方法によって容易に製造でき、製造性にも優れて好ましい。
【0052】
〈構成材料〉
絶縁層3は、絶縁材料で構成される。絶縁材料は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、架橋ポリエチレン(PEX)、エチレンプロピレンゴム(EPR)等が挙げられる。
【0053】
〈その他〉
絶縁層3は、表面に図示しないエンボス表示を備えることができる。エンボス表示は、低風圧電線1の品名、サイズ、製造者名、製造年等を表示する。エンボス表示は、例えば、谷部32を挟んで隣り合う第一凸部301と第二凸部302との間に、低風圧電線1の長手方向に沿って設けられていることが挙げられる。また、エンボス表示は、凹部303を挟んで隣り合う第一凸部301と第二凸部302との間に、低風圧電線1の長手方向に沿って設けられていてもよい。
【0054】
<低風圧電線の製造方法>
上述した低風圧電線1は、押出工程と、粗面工程と、固化工程とを経て得られる。以下、各工程を詳細に説明する。
【0055】
〔押出工程〕
押出工程は、押出機から流動状態の絶縁材料を所定の形状に押し出して、導体2の外周を未固化状態にある絶縁材料で覆った押出材を形成する。押出工程を行うにあたり、導体2と、絶縁層3の原料となる絶縁材料と、押出機とを用意する。押出機は、流動状態にある絶縁材料を所定の形状に押し出し可能である。押出機には、所定の外形の絶縁層3を成形可能な孔を有するダイスを設置する。押出条件は、所定の外形を精度よく成形できるように、絶縁材料の種類等に応じて、適宜調整して設定するとよい。押出条件は、押出温度や押出圧力等である。本例では、上述の条件(A)から(E)、好ましくは条件(A)から(G)を満たすように、各種の押出条件を設定する。
【0056】
〔粗面工程〕
粗面工程は、押出工程と後述する固化工程との間に行う。粗面工程は、押出材における未固化状態の絶縁層の表層を冷却する。冷却は、押出温度未満である流体冷媒を接触させて行う。即ち、粗面工程は、押出温度未満である流体冷媒を用いた強制冷却を行う。強制冷却を行うと、自然冷却に比べてより粗い第一領域4が形成される傾向にある。冷却は、押出機の出口から排出された以降、固化工程において冷却槽に導入されるまでの押出材に行う。押出機の出口から排出されて、冷却槽に導入される前の押出材は、比較的柔らかい状態にある未固化状態の絶縁層を備える。この未固化状態の絶縁層は、押出温度に近い温度、例えばPEでは210℃程度である。粗面工程は、この未固化状態の絶縁層の表層を局所的に冷却する。この冷却によって、未固化状態の絶縁層の表層のみが局所的にある程度冷却されて皺ができる。この皺によって、所定の外形を実質的に損なうことなく、絶縁層3の外周面に第一領域4が構成されると考えられる。
【0057】
押出機の出口以降、冷却槽の導入口までの範囲における任意の位置に、流体冷媒との接触箇所を設けることができる。特に、押出機の出口近傍は、未固化状態の絶縁層の温度が最も高く、未固化状態の絶縁層が柔らかい状態にある。そのため、押出機の出口近傍を含む箇所に、流体冷媒との接触箇所を設けることが好ましいと考えられる。押出機の出口近傍であれば、未固化状態の絶縁層の表層を冷却し易い。押出機の出口以降、冷却槽の導入口までの範囲の全長にわたって、流体冷媒との接触箇所を設けることもできる。
【0058】
流体冷媒との接触箇所には、未固化状態の絶縁層におけるその周方向の少なくとも一部に流体冷媒が接触するように、流体冷媒の吹付機構を配置することが挙げられる。流体冷媒の吹付機構は、ノズル等で構成される。流体冷媒の吹付機構は、絶縁層3における粗くしたい所望の位置に対応して設けることができる。例えば、未固化状態の絶縁層におけるその周方向の一部にのみ、流体冷媒が接触するように吹付機構を設けることができる。この場合、絶縁層3におけるその周方向の一部を局所的に粗くすることができる。例えば、上述の大フランク面33のみを局所的に粗くすることができる。他に、未固化状態の絶縁層における実質的に全周にわたって万遍なく流体冷媒が接触するように吹付機構を設けることができる。この場合、絶縁層3の表面の実質的に全面にわたって粗くすることができる。また、この場合、吹付条件を制御し易く作業性に優れる。
【0059】
流体冷媒は、気体、気液混合体、及び液体からなる群より選択される1種以上の流体が挙げられる。気体は、液体よりも冷却能が低いものの、簡素な設備にできて利用し易い。気液混合体は気体よりも冷却能が高く、液体は更に冷却能が高い。押出機の出口以降、冷却槽の導入口までの範囲において、複数種の流体を利用することもできる。例えば、押出機の出口近傍では、より高い冷却能を有する液体を利用し、冷却槽の導入口近傍では気体を利用する構成等とすることができる。気体は、例えば空気を圧縮ガスとして使用することが挙げられる。液体は、例えば水を使用することが挙げられる。気液混合体は、例えば水滴を含む空気を気液混合の圧縮流体として使用することが挙げられる。
【0060】
流体冷媒の温度は、少なくとも押出温度未満とする。押出温度未満であることで、流体冷媒に接触した未固化状態の絶縁層を冷却できる。流体冷媒の温度は、低いほど未固化状態の絶縁層を冷却できる。しかし、流体冷媒の温度が低過ぎると、冷却槽に導入する前に未固化状態の絶縁層を固化し過ぎて、局所的な変形等を生じさせるおそれがある。そのため、流体冷媒の温度の下限は、室温、例えば20℃程度が挙げられる。流体冷媒の温度は、室温以上押出温度未満の範囲で、流体冷媒の種類や押出温度、周囲環境の温度等を考慮して選択するとよい。例えば、流体冷媒が気体であり、押出温度が150℃以上であれば、流体冷媒の温度を100℃以下程度とすることが挙げられる。他に、流体冷媒が気体であり、押出温度が130℃以上であれば、流体冷媒の温度を80℃以下程度とすることが挙げられる。
【0061】
流体冷媒の種類、温度等を調整することで、未固化状態の絶縁層の表面の冷却状態を調整できる。流体冷媒として圧縮ガスを用いる場合、押出温度よりも低温であって、比較的小さな圧力で圧縮ガスを押出材の表面に吹き付けることが挙げられる。流体冷媒を圧縮ガスとする場合、押出材に圧縮ガスを吹き付ける圧力を0.01MPa以上0.1MPa以下とすることが挙げられる。上記圧力を0.01MPa以上とすることで、未固化状態の絶縁層をある程度冷却できる。上記圧力を大きくするほど冷却能を高められる。上記圧力を0.1MPa以下とすることで、表層という局所的な冷却を可能にする。
【0062】
〔固化工程〕
固化工程は、押出材を冷却槽に導入して、未固化状態の絶縁層を固化して、所定の形状の絶縁層3を形成する。冷却槽は、代表的には水槽である。冷却槽は、押出材を浸漬可能な深さを有する。冷却槽は、未固化状態の絶縁層を冷却して固化できる程度の長さを有する。固化工程により、上述した絶縁層3を有する低風圧電線1を製造できる。絶縁層3は、ダイスの孔形状に応じた所定の外形を有すると共に、絶縁層3の外周面の少なくとも一部に第一領域4を備える。
【0063】
〔その他の工程〕
粗面加工と固化工程との間に、エンボス表示を施す加工工程を行うことができる。加工工程は、未固化状態の絶縁層に、エンボス印刷用のエンボスロールを当接させる。未固化状態の絶縁層へのエンボスロールの当接は、絶縁層3におけるエンボス表示を施したい所望の位置に対応して行うことができる。例えば、
図2に示す谷部32を挟んで隣り合う第一凸部301と第二凸部302との間に、低風圧電線1の長手方向に沿って、エンボス表示の少なくとも一部を加工することが挙げられる。
【0064】
<効果>
実施形態の低風圧電線1は、外径が23mm以上27mm以下であり、大サイズで構成される。低風圧電線1が大サイズで構成される場合、低風圧電線1自体の摩擦抵抗が大きい。また、実施形態の低風圧電線1は、面粗さが1.5μm以上3μm未満の若干粗い絶縁層3を備える。実施形態の低風圧電線1は、低風圧電線1自体の摩擦抵抗に加えて、絶縁層3における若干の面粗さによって、大サイズでありながら、吹き付けられた風に乱れを生じさせて、風圧荷重を低減できる。この効果を後述の試験例で具体的に説明する。
【0065】
実施形態の低風圧電線1は、絶縁層3の表面が粗いといっても、面粗さが1.5μm以上3μm未満と若干の面粗さである。よって、実施形態の低風圧電線1は、エンボス表示を加工し易い上に、エンボス表示の視認性に優れる。
【0066】
[試験例]
導体の外周に絶縁層を押出成形して絶縁電線を作製し、絶縁層の表面状態と、風圧荷重とを調べた。
【0067】
<試料の作製>
・試料No.1-1からNo.1-6
試料No.1-1からNo.1-6では、導体と、絶縁層の原料と、特定形状のダイスとを用意した。導体の公称断面積は、200mm
2である。絶縁層の原料は、ポリエチレン(PE)である。ダイスは、特定の凹凸形状の孔が設けられている。特定の凹凸形状は、
図1に示す山部30、谷部32、第一凸部301、第二凸部302、及び凹部303を備える特定の凹凸形状を有する絶縁層を押出成形可能な形状である。ダイスは、押出機に設置した。いずれの試料についても、上述の条件(A)から(G)を満たす同じ孔形状のダイスを用いた。
【0068】
用意したダイスを備える押出機によって、導体の外周にPEを押し出して、導体の外周を未固化状態にある絶縁層で覆った押出材を作製した。押出温度は210℃程度に設定した。全ての試料について、押出機の出口から排出された以降、冷却槽に導入されるまでの押出材に流体冷媒を接触させて冷却した。流体冷媒の温度、流体冷媒が押出材に接触する範囲、流体冷媒が押出材に接触する時間等を調整することで面粗さを異ならせた。試料No.1-5及びNo.1-6は、押出機の出口から冷却槽に向かう側の200mm以内の範囲において、押出材におけるその周方向の実質的に全面に圧縮ガスが接触するように、圧縮ガスの吹付を行った。圧縮ガスの温度は、室温以上押出温度未満とした。圧縮ガスを吹き付ける圧力は、0.01MPa以上0.1MPa以下とした。試料No.1-1からNo.1-4は、圧縮ガスの吹付を行っていない。
【0069】
絶縁層の表面状態を変化させた後、押出材を冷却槽に導入して未固化状態の絶縁層を固化し、凹凸形状に成形された絶縁層を備える各試料の絶縁電線を得た。得られた試料No.1-1からNo.1-6の絶縁電線の外径は、いずれも23mmであった。得られた試料No.1-1からNo.1-6の絶縁電線は、いずれも上述の条件(A)から(G)を満たすことを確認した。
【0070】
・試料No.1-7からNo.1-10
試料No.1-7からNo.1-10では、試料No.1-1からNo.1-6に対して、絶縁層の凹凸形状及び面粗さを異ならせた。試料No.1-7からNo.1-10は、ダイスの諸元以外の製造条件については、試料No.1-1からNo.1-4と同様とした。試料No.1-7からNo.1-10は、圧縮ガスの吹付を行っていない。
【0071】
得られた試料No.1-7からNo.1-10の絶縁電線の外径は、いずれも24mmであった。得られた試料No.1-7からNo.1-10の絶縁電線は、いずれも上述の条件(A)から(G)を満たすことを確認した。
【0072】
・試料No.1-11からNo.1-15
試料No.1-11からNo.1-15では、公称断面積が240mm2の導体を用意した。絶縁層の原料は、上記の各試料と同様にPEとした。試料No.1-11からNo.1-15は、上記の各試料と同様に、特定の凹凸形状を有する絶縁層を押出成形できるように、特定の凹凸形状の孔が設けられたダイスを用意し、押出機に設置した。いずれの試料についても、上述の条件(A)から(G)を満たす同じ孔形状のダイスを用いた。
【0073】
用意したダイスを備える押出機によって、導体の外周にPEを押し出して、導体の外周を未固化状態にある絶縁層で覆った押出材を作製した。押出条件は、上記の各試料と同様とした。その後、押出材に流体冷媒を接触させて冷却した。上記の各試料と同様に、流体冷媒の温度、流体冷媒が押出材に接触する範囲、流体冷媒が押出材に接触する時間等を調整することで面粗さを異ならせた。試料No.1-11は、圧縮ガスの吹付を行っていない。試料No.1-12からNo.1-15は、押出機の出口から冷却槽に向かう側の200mm以内の範囲において、押出材におけるその周方向の実質的に全面に圧縮ガスが接触するように、圧縮ガスの吹付を行った。圧縮ガスを吹き付ける圧力は、0.01MPa以上0.1MPa以下とした。
【0074】
得られた試料No.1-11からNo.1-15の絶縁電線の外径は、いずれも26mmであった。得られた試料No.1-11からNo.1-15の絶縁電線は、いずれも上述の条件(A)から(G)を満たすことを確認した。
【0075】
・試料No.1-16からNo.1-19
試料No.1-16からNo.1-19では、試料No.1-11からNo.1-15に対して、絶縁層の凹凸形状及び面粗さを異ならせた。試料No.1-16は、圧縮ガスの吹付を行っていない。試料No.1-17からNo.1-19は、押出機の出口から冷却槽に向かう側の200mm以内の範囲において、押出材におけるその周方向の実質的に全面に圧縮ガスが接触するように、圧縮ガスの吹付を行った。圧縮ガスを吹き付ける圧力は、0.01MPa以上0.1MPa以下とした。試料No.1-16からNo.1-19は、ダイスの諸元以外の製造条件については、試料No.1-11からNo.1-15と同様とした。
【0076】
得られた試料No.1-16からNo.1-19の絶縁電線の外径は、いずれも27mmであった。得られた試料No.1-16からNo.1-19の絶縁電線は、いずれも上述の条件(A)から(G)を満たすことを確認した。
【0077】
<面粗さ>
得られた各試料の絶縁電線について、市販の三次元測定装置を用いて、以下のようにして面粗さを測定した。三次元測定装置は、例えば、株式会社キーエンス製の非接触3D測定機、VR3000を用いることができる。三次元測定装置によって絶縁層の外形の三次元画像を取得し、この三次元画像において、測定領域を抽出する。ここでは、絶縁電線の周方向に2mm、絶縁電線の軸方向に4mmの長方形状の領域を測定対象範囲とし、
図2に示す大フランク面33から測定対象範囲に対応した大きさの測定領域を抽出する。絶縁電線の軸方向の同じ位置において、その周方向に存在するn個の大フランク面33に対してそれぞれ測定領域を抽出して、合計n個の測定対象を取得する。nは2以上とする。この取得箇所を(α)と呼ぶ。更に、取得箇所(β)と取得箇所(γ)を選択し、それぞれ同様に合計n個の測定領域を取得する。取得箇所(β)は、取得箇所(α)から絶縁電線の軸方向に1000mm以上離れた箇所である。取得箇所(γ)は、取得箇所(α)から絶縁電線の軸方向に2000mm以上離れた箇所である。即ち、合計3×n個の測定領域を取得する。各測定領域の画像に対して、Sフィルタを50μm、Lフィルタを1mmとして、各測定領域の算術平均高さSaを求める。算術平均高さSaは、線の算術平均高さRaを面に拡張したパラメータである。算術平均高さSaの単位はμmである。算術平均高さSaの測定は、三次元測定装置によって自動的に行うことができる。ここでの面粗さは、3×n個の算術平均高さSaの平均値とする。その結果を表1に示す。
【0078】
<抗力係数CD>
得られた各試料の絶縁電線について、風洞設備を用いて風圧荷重を測定し、風圧荷重から抗力係数CDを求めた。ここでは、各絶縁電線の軸方向に直交するように、絶縁電線の一側方から他側方に向かって風速28m/sの風を吹き付けたときの風圧荷重と、風速40m/sの風を吹き付けたときの風圧荷重とをそれぞれ測定し、以下の式から抗力係数CDを求めた。その結果を表1に示す。抗力係数CDが小さいほど、風圧荷重を低減できるといえる。
抗力係数CD=Fx/(0.5×ρ×V2×φ×X)
式に示す記号の意味は、以下の通りである。
Fxは風圧荷重であり、単位はNである。
ρは空気密度であり、単位はkg/m3である。
Vは風速であり、単位はm/sである。
φは絶縁電線の外径であり、単位はmである。
Xは絶縁電線の有効長さであり、単位はmである。
【0079】
【0080】
<風速が40m/sの高風速域の場合>
風速が40m/sの高風速域の場合、表1に示すように、面粗さが小さいほど、風圧荷重が小さくなる傾向にある。特に、絶縁層の面粗さが3μm未満であると、風圧荷重が効果的に小さくなることがわかる。具体的には、低風圧電線の外径によらず、絶縁層の面粗さが3μm未満であると、抗力係数が0.800未満、更に0.745未満を満たす。
【0081】
<風速が28m/sの低風速域の場合>
風速が28m/sの低風速域の場合、表1に示すように、面粗さが小さいほど、風圧荷重が大きくなる傾向にある。しかし、低風圧電線の外径が23mm以上と大サイズで構成される場合、絶縁層の面粗さが3μm未満であったとしても、抗力係数が1.000未満、更に0.950以下を満たす。
【0082】
試料No.1-1、No.1-7、No.1-11、No.1-16を比較すると、風速が28m/sの低風速域の場合、低風圧電線の外径が大きくなるほど、抗力係数が小さくなることがわかる。低風圧電線の外径が大きくなると、低風圧電線自体の摩擦抵抗が大きくなる。よって、低風圧電線の外径が大きくなるほど、低風圧電線自体の摩擦抵抗に加えて、絶縁層における若干の面粗さによって、大サイズでありながら、風圧荷重を低減できると考えられる。
【0083】
以上のことから、低風圧電線が大サイズで構成される場合、絶縁層の面粗さが1.5μm以上3μm未満であることで、28m/sの低風速域と40m/sの高風速域との双方において、風圧荷重が低減できるといえる。なお、低風圧電線が小サイズで構成される場合、例えば導体の公称断面積が120mm2である場合、特許文献1の表1に示されるように、絶縁層の面粗さが3μm未満だと、28m/sの低風速域において、抗力係数が1.000超となる。導体の公称断面積が120mm2である場合、一般的に、低風圧電線の外径は18.6mm程度である。
【0084】
絶縁層の面粗さが1.5μm以上3μm未満であることで、絶縁層の表面が粗いといっても、その面粗さは若干である。よって、絶縁層の面粗さが1.5μm以上3μm未満であることで、絶縁層にエンボス表示を加工し易い上に、エンボス表示の視認性を向上できると期待される。
【0085】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、試験例における絶縁層の凹凸形状、絶縁層の構成材料、粗面条件等を適宜変更できる。
【符号の説明】
【0086】
1 低風圧電線
2 導体
3 絶縁層
30 山部、32 谷部
301 第一凸部、302 第二凸部、303 凹部
33 大フランク面
341 第一小フランク面、342 第二小フランク面
35 中心線
4 第一領域
5 内接円
R 直径
L1、L2 間隔
D1、D2 距離
r1、r2 曲率半径