IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許7543921多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器
<>
  • 特許-多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器 図1
  • 特許-多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器 図2
  • 特許-多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器 図3
  • 特許-多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器 図4
  • 特許-多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器 図5
  • 特許-多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器 図6
  • 特許-多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20240827BHJP
   B65H 54/10 20060101ALI20240827BHJP
   B65H 75/02 20060101ALI20240827BHJP
   B65H 75/38 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61M1/18 511
B65H54/10
B65H75/02 Z
B65H75/38 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021003231
(22)【出願日】2021-01-13
(65)【公開番号】P2022108325
(43)【公開日】2022-07-26
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 紘平
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】阪上 正信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 久士
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-178982(JP,A)
【文献】特開2020-033112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
B65H 54/00-88
B65H 75/00-50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部と、複数の延伸部と、複数の連結部と、複数の巻取部と、支持部と、フィルムを固着する機能を有する固着部と、を備え、
前記複数の延伸部は、それぞれが同一平面上に位置するように、前記中心部から延伸しており、
前記複数の連結部は、隣接する前記延伸部同士をそれぞれ連結しており、
前記複数の巻取部は、前記延伸部の先端部にそれぞれ配置されており、
前記支持部は、その長手方向が前記連結部の長手方向と略平行になるように前記連結部の表面に配置されており、
前記支持部の長手方向に対し垂直に交わる面における前記支持部の断面が、U字型の部位を有し、
前記固着部が、前記支持部の表面に配置されている、糸の巻き取り用の多角形状巻枠体。
【請求項2】
前記固着部が、多孔質体である、請求項1記載の糸の巻き取り用の多角形状巻枠体。
【請求項3】
前記固着部が、自己吸着型シート状体である、請求項1記載の糸の巻き取り用の多角形状巻枠体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の糸の巻き取り用の多角形状巻枠体を用いて糸を巻き取り、糸束を得る、巻き取り工程を備える、糸束の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の糸束を内蔵する、血液浄化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多角形状巻枠体、糸束の製造方法及び血液浄化器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者の血液を血液浄化器に体外循環させ、血液を浄化する療法は広く知られている。血液浄化器には、例えばケース内に複数本の中空糸からなる中空糸束を内蔵した中空糸型や、複数本の中実糸からなる中実糸束を内蔵した中実糸型等がある。
【0003】
血液中の除去対象物質の吸着・分離機能を果たす、糸束が内蔵された血液浄化器について、血液の浄化性能を向上させるには、例えばケース内に内蔵される糸束の糸の本数を増やすことが考えられる。しかし、単純に糸の本数を増やすのみだと、血液浄化器のケース直径が大きくなり、病院施設内での取扱性の悪化や、患者の身体的負担が大きくなるといった懸念がある。
【0004】
ケース直径の拡大を抑制するためには、例えば内蔵される糸束の高密度化(糸束の長手方向に対し垂直に交わる面における糸束の断面を観察した場合の、単位面積当たりの糸本数増加)が有効となる。そのような高密度な糸束を得る方法としては、例えば、張力を付与した状態で糸を巻き取ることができる、巻枠体を用いた集束が知られている(特許文献1~4)。また集束後の糸束は、巻枠体から切り出された後に、その形態(巻姿)の保持や、異物付着や乾燥の回避といった表面の保護を目的として、フィルムが巻き付けられ、被覆がされることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-189305号公報
【文献】特開昭63-84563号公報
【文献】特開2006-175394号公報
【文献】特開2009-234680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来から知られる、様々な形状又は構造の巻枠体を用いた糸の集束方法は、いずれも、得られた糸束の弛みや変形が生じて所望の形態や密度を保持することが困難であるか(特許文献1、2及び4)、あるいは、巻き取り後の糸束の回収作業が極めて煩雑になる(特許文献3)という問題を抱えるものであった。
【0007】
加えて、いずれの集束方法においても、得られた糸束の切り出し作業の際に糸束の形態が崩れることを回避しようとした場合、その以前にフィルムで表面を被覆することが要求されるため、工程の複雑化が避けられないのが現状であった。
【0008】
そこで本発明は、簡易な構造でありながら、高精度かつ高密度に糸を巻き取って、得られた直線的な糸束の形態を容易に保持することを可能とする、多角形状巻枠体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、中心部と、複数の延伸部と、複数の連結部と、複数の巻取部と、支持部と、固着部と、を備え、上記複数の延伸部は、それぞれが同一平面上に位置するように、上記中心部から延伸しており、上記複数の連結部は、隣接する上記延伸部同士をそれぞれ連結しており、上記複数の巻取部は、上記延伸部の先端部にそれぞれ配置されており、上記支持部は、その長手方向が上記連結部の長手方向と略平行になるように上記連結部の表面に配置されており、上記支持部の長手方向に対し垂直に交わる面における上記支持部の断面が、U字型の部位を有し、上記固着部が、上記支持部の表面に配置されている、多角形状巻枠体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低コストで製造可能な簡易な構造の巻枠体を用いることで、直線性の高い高密度な糸束を高精度に巻き取ることが可能となる。さらには、得られた糸束に極めて簡便にフィルムを巻き付けることが可能となり、得られた糸束の形態をはじめとする品質の保持が、極めて容易に達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の多角形状巻枠体の一実施形態を例示する概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は斜視図である。
図2】本発明の多角形状巻枠体が備える巻取部の一実施形態を例示する概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は断面図である。
図3】本発明の多角形状巻枠体が備える支持部の一実施形態を例示する概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は矢視図、(c)は斜視図である。
図4】本発明の多角形状巻枠体の一実施形態を例示する概略構成図であり、(a)は糸を巻き取る前の状態を示す斜視図、(b)は糸を巻き取った後の状態を示す斜視図、(c)は巻き取った糸束にフィルムを巻き付けた状態を示す斜視図、(d)は多角形状巻枠体から糸束を切り出した状態を示す斜視図である。
図5】本発明の多角形状巻枠体を用いた糸の巻き取り装置を例示する概略構成正面図である。
図6】本発明の多角形状巻枠体の別実施形態を例示する概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は斜視図である。
図7】従来の多角形状巻枠体の一例の概略構成図であり、(a)は正面図、(b)は斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図7は、従来の多角形状巻枠体の一例の概略構成図を示す。多角形状巻枠体100は、それぞれが同一平面上に位置するように、中心部110から延伸する複数の延伸部120を備え、延伸部120の先端部には、巻取部140がそれぞれ配置されており、隣接する延伸部同士は、連結部130でそれぞれ連結されている。
【0013】
本発明の多角形状巻枠体は、中心部と、複数の延伸部と、複数の連結部と、複数の巻取部と、を備え、上記複数の延伸部は、それぞれが同一平面上に位置するように、上記中心部から延伸しており、上記複数の連結部は、隣接する上記延伸部同士をそれぞれ連結しており、上記複数の巻取部は、上記延伸部の先端部にそれぞれ配置されていることに加えて、支持部と、固着部と、を備え、上記支持部は、その長手方向が上記連結部の長手方向と略平行になるように上記連結部の表面に配置されており、上記固着部が、上記支持部の表面に配置されていることを特徴とする。
【0014】
図1は、本発明の第一の実施形態に係る多角形状巻枠体の概略構成図を示す。本実施形態においては、多角形状巻枠体は延伸部120、連結部130及び巻取部140を、それぞれ6つずつ備える、六角形状である。本発明の多角形状巻枠体は角形の角数は特に限定されず、角数が多くなるほど、取得可能な直線的な糸束の本数は多くなるが、糸束の所望の長さが決まっている場合、多角形状巻枠体全体のサイズは大きくなる。一方で、角数が少なくなるほど、取得可能な直線的な糸束の本数は少なくなるが、多角形状巻枠体全体のサイズは小さくなる。多角形状巻枠体の角数は、生産タクトや設備の大きさ等により、適宜選定されればよい。
【0015】
また本実施形態においては、連結部130のそれぞれに支持部150が二つずつ配置されており、支持部150のそれぞれに固着部151が二つずつ配置されている。
【0016】
図1において、多角形状巻枠体100は、それぞれが同一平面上に位置するように、中心部110から延伸する複数の延伸部120を備え、延伸部120の先端には巻取部140がそれぞれ配置されており、隣接する延伸部同士は、連結部130でそれぞれ連結されている。さらに連結部130の表面には、その長手方向が上記連結部130の長手方向と略平行になるように、支持部150がそれぞれ配置されている。
【0017】
巻取部と支持部とは、図1に示す巻取部140及び支持部150のように、それぞれ独立して構成されていることが好ましい。ここで「独立して構成されている」とは、図1に示すように巻取部140と支持部150とが接触する状態で連続的に配置されておらず、それぞれの巻取部140と支持部150との間に、多角形状巻枠体100から糸束を切り出すための空隙101が存在することをいう。
【0018】
中心部110は、複数の延伸部120を固定するための部材であり、延伸部120と連結部130とは、それぞれ巻取部140及び支持部150を固定するための部材である。これらの部材の材質としては、防錆の観点から、樹脂、ステンレス又はアルミニウムが好ましい。樹脂としては、機械加工性や強度の観点から、ポリアセタール樹脂又はポリアミド樹脂が好ましい。
【0019】
複数の巻取部は、巻き取る糸を直接的に保持するための部材である。複数の巻取部は、図1に示すように、多角形状巻枠体100の中心部110を中心として、等間隔になるように配置されることが好ましい。複数の巻取部が等間隔で配置されることで、切り出し後に得られる糸束の長さが均一になるばかりでなく、巻き取り中に多角形状巻枠体に作用する力のバランスがつり合い、多角形状巻枠体が破損しにくくなる。図1に示す多角形状巻枠体100の場合には、中心部110を中心として、隣接する巻取部140がいずれも等間隔で配置されている。この結果、中心部110を頂点として、隣接する巻取部140との間で形成される角度(すなわち、隣接する延伸部同士により形成される角度)は、いずれも60度となる。
【0020】
本発明の多角形状巻枠体が備える巻取部の一実施形態を、図2(a)に示す。図2(a)に例示された巻取部140は、巻取枠141を有する。巻取枠141に代表されるような部材が、多角形状の角をなす位置にそれぞれ備えられていることで、糸を多角形状に安定的に巻き取ることができ、最終的に多角形状の糸束を形成することができる。
【0021】
巻取枠の形状は、所望する糸束の断面と形状に応じて適宜変更することができるが、血液浄化器用途においては、断面(糸束の長手方向に対し垂直に交わる面における糸束の断面)の形状は通常円形であるため、巻取枠141の形状は図2(b)に示すようなU字型形状とされている。
【0022】
本発明の多角形状巻枠体が備える支持部は、巻き取られた糸が多角形状巻枠体の中心方向に、又は、糸束の長手方向に対して垂直な方向に、弛むことを抑制することを主な目的とする部材である。
【0023】
巻取部及び支持部において(後述するフィルムを介して)巻き取った糸が接触する部位の表面は、巻き取った糸の損傷を防止するために、鏡面状に仕上げられていることが好ましく、適宜表面処理を実施しても構わない。またこれら部材の材質としては、防錆の観点から、樹脂、ステンレス又はアルミニウムが好ましく、強度を考慮すると、ステンレスがより好ましい。
【0024】
本発明の多角形状巻枠体が備える支持部は、支持部の長手方向に対し垂直に交わる面における上記支持部の断面が、U字型の部位を有することを必要とする。断面が図3(b)に示すようなU字型の部位を有することで、糸束の長手方向に対し垂直に交わる面における糸束の断面を、円形にすることができる。
【0025】
支持部は、その長手方向が連結部の長手方向と略平行になるように連結部の表面に配置されていることが必要であるが、隣接する巻取部同士を結ぶ直線に対しても、略平行になるように配置されることが好ましい。そのように配置されることにより、巻き取られた糸束の糸束径のばらつきを小さくすることができる。さらに、糸の巻き取り開始後に、隣接する巻取部同士の間に直線的に存在する糸が、その全長に亘って支持部(あるいは後述するフィルムの表面)に接触するように配置されることがより好ましい。そのように配置されることにより、支持部が、巻き取られた糸を弛ませることなく支持することができる。また同様の観点から、隣接する巻取部同士の間に配置される支持部の長さは、より長い方が好ましい。
【0026】
一方で、図1等に示すように、隣接する巻取部同士の間に複数の支持部が配置され、それら支持部同士の間に空隙が存在する場合、巻き取り後の糸束を切り出すことなく、糸束の外径を測定することが可能になる。
【0027】
支持部の表面には、固着部が配置されている。図3(c)に例示された支持部150の両端部の表面には、固着部151がそれぞれ配置されている。フィルムを固着する機能を有する固着部の存在により、糸の巻き取りを開始する前に、予めフィルムを支持部の所望の位置に固着させて、確実に固定することが可能になる。
【0028】
固着部としては、例えば、粘着テープ、多孔質体又は自己吸着型シート状体が挙げられる。ここで「多孔質体」とは、その内部から表面を陰圧にすることが可能な構造(外部の真空ポンプに接続可能な、内部連通経路等)を備え、その表面の陰圧状態を利用してフィルムを固着させることが可能な固着部をいう。固着部が多孔質体である場合、その表面積や陰圧の程度によって固着の度合いを容易に調整できるばかりでなく、その陰圧状態を開放して常圧に戻すことで、表面に固着したフィルムを容易に剥離することができ、さらには、繰り返し使用をしても多孔質体自身が劣化をしないことから、好ましい。また「自己吸着型シート状体」とは、フィルムを押し付けると多数の微小細孔が一旦収縮した後に膨張して、その内部から表面を陰圧にすることが可能な吸盤層を備え、その表面の陰圧状態を利用してフィルムを固着させることが可能な固着部をいう。固着部が自己吸着型シート状体である場合、その表面積や微小細孔分布の程度によって固着の度合いを容易に調整できるばかりでなく、表面に固着したフィルムを容易に剥離することができ、さらには、繰り返し使用をしても自己吸着型シート状体自身が劣化をしないことから、好ましい。
【0029】
糸の巻き取りを開始する前に、予めフィルムを支持部の所望の位置に、すなわち固着部に固着させて確実に固定しておき、かつ、糸束の集束後にフィルムを固着部から剥離することで、得られた糸束の切り出し作業の前に糸束の表面にフィルムを巻き付けることが極めて容易となる。フィルムの長さは、切り出し後の糸束の表面全体を被覆するのに十分な長さであることが好ましい。なお固着部へのフィルムの固着の強度は、糸を巻き取っている間にフィルムが確実に固定されていることと、糸束の集束後にフィルムを容易に剥離できることと、のバランスを勘案して、適宜決定されればよい。
【0030】
図4は、図1に例示された多角形状巻枠体100を用いて糸を巻き取り、巻き取った糸束を切り出すまでの各過程における概略図である。図4(a)は、糸を巻き取る前の状態であり、多角形巻枠体100が備えるそれぞれの固着部151に、フィルム160が固着されている。図4(b)は、多角形状巻枠体100を用いて糸を巻き取った後の状態である。図4(c)は、巻き取った糸束230にフィルム160を巻き付けた状態である。この状態において、フィルム160の一端を例えば粘着テープ(図示しない)でフィルム表面に貼り付けて固定することで、糸束230の表面をフィルム160で被覆することが可能となる。
【0031】
図4(d)は、多角形状巻枠体100からフィルム160で被覆された糸束230を切り出し、直線的な切出糸束231を得た状態である。糸束230を切り出す方法としては、例えば、裁ちばさみ又は円形刃を装着したロータリーカッターの使用が挙げられる。なお糸束230を切り出して切出糸束231を得る際は、糸束230に巻き付けられたフィルム160ごと切断をしても構わない。
【0032】
図5は、図1に例示された多角形状巻枠体100を用いて糸を巻き取る、巻き取り装置を例示する概略図である。巻き取り装置250に多角形状巻枠体100が取り付けられており、多角形状巻枠体100は中心部を軸に、図5に示す矢印220の方向(時計回り方向)に回転する。多角形状巻枠体100に供給される糸200は、図示しない紡糸装置から紡糸され、トラバース装置240を経て巻取枠141に案内され、回転する多角形状巻枠体100に巻き取られる。
【0033】
次いで、所望の糸本数の糸束になるまで多角形状巻枠体100を回転させて糸束を得る。ここで巻き取られる糸200は、予めボビンに巻き取られた糸でも構わない。一度に供給される糸200の本数は、一本でも複数本でも構わない。なおトラバース装置が担う「トラバース」とは、図5で示すY方向に、巻き取り中の糸を一定長往復させ続ける機能をいう。
【0034】
図6に例示される多角形状巻枠体100では、巻取部140と支持部150とが一体的に形成されており、多角形状巻枠体100の角をなす部位である、隣接する巻取部140同士の間に、それぞれ溝部102が設けられている。ここで「一体的に形成」とは、図6に示すように巻取部140と支持部150とが、連続的に形成されていることをいう。巻取部と支持部とを一体的に形成する方法としては、例えば、ねじ止め等による機械的な方法、金属の支持部と金属の巻取部との溶接、又は、樹脂の支持部と樹脂の巻取部140との接着、溶着若しくは射出成形が挙げられる。また溝部とは、多角形状巻枠体から糸束を切り出すために、刃物を侵入させることが可能な凹形状をいう。なお、このような実施形態の多角形状巻枠体においては、固着部は、一体的に形成されている支持部の表面に加えて、巻取部の表面に配置されていても構わない。
【実施例
【0035】
以下、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
図5と同様の構成の糸の巻き取り装置、及び、図1と同様の多角形状巻取体を用いた。多角形状巻取体が備える支持部の長手方向の長さは、それぞれ255mmであった。それぞれの支持部には、固着部として図4(a)に示すのと同様に自己吸着シート(東京タック株式会社製、型式:KSノン両面)を配置した。それぞれの自己吸着シートのサイズは幅20mm、長さ160mmであり、いずれも吸盤層すなわち自己吸着面が露出するように、支持部の両端に側に粘着させた。
【0037】
ポリエチレンテレフタレート製の厚み50μm、長さ255mm、幅240mmのフィルムを、その長さ方向が支持部の長手方向と一致するようにして、支持部の両端の固着部に固着させた。
【0038】
紡糸装置から紡糸された糸径100μmの中実糸を複数本同時に巻取部に供給し、トラバースさせながら多角形状巻枠体を回転させて、211,200本の中実糸から構成される、図4(b)と同様の状態の糸束を得た。隣接する巻取部同士の間の糸束の略全長は、それぞれ320mmであった。
【0039】
糸束を得た後、固着部からフィルムを剥離して糸束に巻き付け、図4(c)と同様の状態にした。隣接する巻取部同士の中央で、フィルムを巻き付けた糸束の外径を測定したところ、73.6mmであった。
【0040】
糸束の外径は、パイメータ(日本度器株式会社製、型式:πM-100)を用いて測定した。より具体的には、糸束の外周部に沿ってパイメータを一周させた後、パイメータの一端にプルゲージを取り付け、他端を手で持ちながら、プルゲージの値が3Nになるまで手で引き、読み取った糸束外周長さを円周率πで除した値を、糸束の外径とした。
【0041】
その後、図4(d)に示すのと同様に、糸束を切り出すための空隙に裁ちばさみ(株式会社庄三郎製、型式:A-280)を挿入して、手作業で糸束を切り出し、略全長が290mmの直線的な糸束を得た。このとき糸束の断面を観察したところ、裂け目は一切なく、高品位な断面であった。
【0042】
[比較例1]
多角形状巻枠体を、図7と同様の多角形状巻枠体に変更した以外は、実施例1と同様の条件で糸を巻き取り、糸束を得た。得られた糸束の外径は、77.0mmであった。その後、実施例1と同様の長さになるように糸束を切り出し、その断面を観察したところ、一部が裂けていた。
【0043】
これらの結果を表1にまとめた。表1から明らかなように、同一条件で巻き取ったにも関わらず、本発明の多角形状巻枠体で巻き取った糸束は従来の方法よりも、小さな糸束外径であり、高密度な糸束を得ることができた。加えて、得られた糸束に極めて簡便にフィルムを巻き付けることが可能であり、糸束の形態の保持が達成されたことから、断面に裂けのない、高品質な糸束を得ることができた。
【0044】
【表1】
【符号の説明】
【0045】
100 多角形状巻枠体
101 空隙
102 溝部
110 中心部
120 延伸部
130 連結部
140 巻取部
141 巻取枠
150 支持部
151 固着部
160 フィルム
200 紡糸装置から紡糸された糸
210 糸が引き出される方向
220 巻枠体の回転方向
230 糸束
230a 糸束径
231 切出糸束
240 トラバース装置
250 巻き取り装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7