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特許7543949タイヤのシミュレーション方法、コンピュータプログラム及びシミュレーション装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】タイヤのシミュレーション方法、コンピュータプログラム及びシミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240827BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240827BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20240827BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20240827BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 Z
G06F30/15
G06F30/23
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021034671
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2022135085
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】依田 崚平
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-67636(JP,A)
【文献】特開2006-298005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
B60C 19/00
G06F 30/15
G06F 30/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのシミュレーション方法であって、
前記タイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデルを、コンピュータに入力する工程と、
前記タイヤの特性及び前記タイヤの車両装着条件の少なくとも一方を含む第1条件を、前記コンピュータに入力する工程と、
前記タイヤが前記第1条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第1車両モデルを、前記コンピュータに入力する工程とを含み、
前記コンピュータが、
前記第1車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態を時系列的に特定した第1時系列データを取得する第1計算工程と、
前記タイヤモデルを用いた計算により、前記タイヤモデルを前記第1時系列データに基づいて転動させて、前記タイヤモデルに作用する物理量の第2時系列データを取得する第1シミュレーション工程と、
前記第1時系列データと前記第2時系列データとに基づいて、前記タイヤモデルの前記物理量と前記タイヤの前記走行状態との関係を示す関数を取得する工程と、
前記第1条件の少なくとも一部を異ならせた第2条件を設定する工程と、
前記タイヤが前記第2条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第2車両モデルを設定する工程と、
前記第2車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態の少なくとも1つを特定する第2計算工程と、
前記第2車両モデルでの前記走行状態を、前記関数に代入して、前記第2条件で転動中の前記タイヤに作用する前記物理量を計算する第2シミュレーション工程とを実行する、
タイヤのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記走行状態は、前記タイヤに作用する縦荷重、キャンバー角、横力、内圧及び速度を含み、
前記関数は、下記式(1)で定義される、請求項1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
Q=a×CA+b×Fz+c×Fy+d×P+e×V+f …(1)
Q:物理量
CA:キャンバー角
Fz:縦荷重
Fy:横力
P:内圧
V:速度
a~f:係数
【請求項3】
前記物理量は、前記タイヤに作用する歪及び応力の少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記第2条件での前記物理量が、予め定められた範囲内に収束するまで、前記第2条件を設定する工程、前記第2車両モデルを設定する工程、前記第2計算工程、及び、前記第2シミュレーション工程を繰り返し実施する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記物理量が予め定められた範囲内に収束した第2条件に基づいて、前記タイヤを製造する工程をさらに含む、請求項4に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項6】
前記特性は、前記タイヤの縦バネ定数、横バネ定数、負荷荷重、負荷半径及び転がり抵抗の少なくとも1つを含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項7】
前記車両装着条件は、トー角、キャンバー角及び車高の少なくとも1つを含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項8】
タイヤのシミュレーションを実行するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
前記タイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデルを入力する手段と、
前記タイヤの特性及び前記タイヤの車両装着条件の少なくとも一方を含む第1条件を入力する手段と、
前記タイヤが前記第1条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第1車両モデルを入力する手段と、
前記第1車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態を時系列的に特定した第1時系列データを取得する手段と、
前記タイヤモデルを用いた計算により、前記タイヤモデルを前記第1時系列データに基づいて転動させて、前記タイヤモデルに作用する物理量の第2時系列データを取得する手段と、
前記第1時系列データと前記第2時系列データとに基づいて、前記タイヤモデルの前記物理量と前記タイヤの前記走行状態との関係を示す関数を取得する手段と、
前記第1条件の少なくとも一部を異ならせた第2条件を設定する手段と、
前記タイヤが前記第2条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第2車両モデルを設定する手段と、
前記第2車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態の少なくとも1つを特定する手段と、
前記第2車両モデルでの前記走行状態を、前記関数に代入して、前記第2条件で転動中の前記タイヤに作用する前記物理量を計算する手段として機能させる、
コンピュータプログラム。
【請求項9】
タイヤのシミュレーションを実行するための演算処理装置を有する装置であって、
前記演算処理装置は、
前記タイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデルを入力するタイヤモデル入力部と、
前記タイヤの特性及び前記タイヤの車両装着条件の少なくとも一方を含む第1条件を入力する第1条件入力部と、
前記タイヤが前記第1条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第1車両モデルを入力する第1車両モデル入力部と、
前記第1車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態を時系列的に特定した第1時系列データを取得する第1計算部と、
前記タイヤモデルを用いた計算により、前記タイヤモデルを前記第1時系列データに基づいて転動させて、前記タイヤモデルに作用する物理量の第2時系列データを取得する第1シミュレーション部と、
前記第1時系列データと前記第2時系列データとに基づいて、前記タイヤモデルの前記物理量と前記タイヤの前記走行状態との関係を示す関数を取得する関数取得部と、
前記第1条件の少なくとも一部を異ならせた第2条件を設定する第2条件設定部と、
前記タイヤが前記第2条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第2車両モデルを第2車両モデル設定部と、
前記第2車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態の少なくとも1つを特定する第2計算部と、
前記第2車両モデルでの前記走行状態を、前記関数に代入して、前記第2条件で転動中の前記タイヤに作用する前記物理量を計算する第2シミュレーション部とを含む、
タイヤのシミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのシミュレーション方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤのシミュレーション方法が記載されている。この方法では、先ず、タイヤを有限個の要素に分割したタイヤ有限要素モデルと、自動車の主要構成部材を剛体又は弾性体の集合とみなす多体連結モデルとが設定される。次に、多体連結モデルに基づいて自動車の運動が解析されることにより、タイヤに生じる外的条件が求められる。そして、求められた外的条件に基づいて、タイヤ有限要素モデルを用いたシミュレーションが実施されることにより、タイヤの物理量が獲得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-28912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法では、多体連結モデルを用いて求められた外的条件ごとに、タイヤ有限要素モデルを用いたシミュレーションを実施する必要があるため、タイヤの物理量の計算に、多くの時間を要するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤに作用する物理量を短時間で計算することが可能なシミュレーション方法等を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤのシミュレーション方法であって、前記タイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデルを、コンピュータに入力する工程と、前記タイヤの特性及び前記タイヤの車両装着条件の少なくとも一方を含む第1条件を、前記コンピュータに入力する工程と、前記タイヤが前記第1条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第1車両モデルを、前記コンピュータに入力する工程とを含み、前記コンピュータが、前記第1車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態を時系列的に特定した第1時系列データを取得する第1計算工程と、前記タイヤモデルを用いた計算により、前記タイヤモデルを前記第1時系列データに基づいて転動させて、前記タイヤモデルに作用する物理量の第2時系列データを取得する第1シミュレーション工程と、前記第1時系列データと前記第2時系列データとに基づいて、前記タイヤモデルの前記物理量と前記タイヤの前記走行状態との関係を示す関数を取得する工程と、前記第1条件の少なくとも一部を異ならせた第2条件を設定する工程と、前記タイヤが前記第2条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第2車両モデルを設定する工程と、前記第2車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態の少なくとも1つを特定する第2計算工程と、前記第2車両モデルでの前記走行状態を、前記関数に代入して、前記第2条件で転動中の前記タイヤに作用する前記物理量を計算する第2シミュレーション工程とを実行することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記走行状態は、前記タイヤに作用する縦荷重、キャンバー角、横力、内圧及び速度を含み、前記関数は、下記式(1)で定義されてもよい。
Q=a×CA+b×Fz+c×Fy+d×P+e×V+f …(1)
Q:物理量
CA:キャンバー角
Fz:縦荷重
Fy:横力
P:内圧
V:速度
a~f:係数
【0008】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記物理量は、前記タイヤに作用する歪及び応力の少なくとも一方を含んでもよい。
【0009】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記第2条件での前記物理量が、予め定められた範囲内に収束するまで、前記第2条件を設定する工程、前記第2車両モデルを設定する工程、前記第2計算工程、及び、前記第2シミュレーション工程を繰り返し実施してもよい。
【0010】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記物理量が予め定められた範囲内に収束した第2条件に基づいて、前記タイヤを製造する工程をさらに含んでもよい。
【0011】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記特性は、前記タイヤの縦バネ定数、横バネ定数、負荷荷重、負荷半径及び転がり抵抗の少なくとも1つを含んでもよい。
【0012】
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記車両装着条件は、トー角、キャンバー角及び車高の少なくとも1つを含んでもよい。
【0013】
本発明は、タイヤのシミュレーションを実行するためのコンピュータプログラムであって、コンピュータを、前記タイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデルを入力する手段と、前記タイヤの特性及び前記タイヤの車両装着条件の少なくとも一方を含む第1条件を入力する手段と、前記タイヤが前記第1条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第1車両モデルを入力する手段と、前記第1車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態を時系列的に特定した第1時系列データを取得する手段と、前記タイヤモデルを用いた計算により、前記タイヤモデルを前記第1時系列データに基づいて転動させて、前記タイヤモデルに作用する物理量の第2時系列データを取得する手段と、前記第1時系列データと前記第2時系列データとに基づいて、前記タイヤモデルの前記物理量と前記タイヤの前記走行状態との関係を示す関数を取得する手段と、前記第1条件の少なくとも一部を異ならせた第2条件を設定する手段と、前記タイヤが前記第2条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第2車両モデルを設定する手段と、前記第2車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態の少なくとも1つを特定する手段と、前記第2車両モデルでの前記走行状態を、前記関数に代入して、前記第2条件で転動中の前記タイヤに作用する前記物理量を計算する手段として機能させることを特徴とする。
【0014】
本発明は、タイヤのシミュレーションを実行するための演算処理装置を有する装置であって、前記演算処理装置は、前記タイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデルを入力するタイヤモデル入力部と、前記タイヤの特性及び前記タイヤの車両装着条件の少なくとも一方を含む第1条件を入力する第1条件入力部と、前記タイヤが前記第1条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第1車両モデルを入力する第1車両モデル入力部と、前記第1車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態を時系列的に特定した第1時系列データを取得する第1計算部と、前記タイヤモデルを用いた計算により、前記タイヤモデルを前記第1時系列データに基づいて転動させて、前記タイヤモデルに作用する物理量の第2時系列データを取得する第1シミュレーション部と、前記第1時系列データと前記第2時系列データとに基づいて、前記タイヤモデルの前記物理量と前記タイヤの前記走行状態との関係を示す関数を取得する関数取得部と、前記第1条件の少なくとも一部を異ならせた第2条件を設定する第2条件設定部と、前記タイヤが前記第2条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第2車両モデルを第2車両モデル設定部と、前記第2車両モデルを用いた計算により、前記タイヤの走行状態の少なくとも1つを特定する第2計算部と、前記第2車両モデルでの前記走行状態を、前記関数に代入して、前記第2条件で転動中の前記タイヤに作用する前記物理量を計算する第2シミュレーション部とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のタイヤのシミュレーション方法は、上記の工程を採用することにより、タイヤに作用する物理量を短時間で計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のタイヤのシミュレーション装置を示すブロック図である。
図2】本実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
図3】タイヤモデル及び路面モデルの一例を示す斜視図である。
図4】タイヤモデルの一例を示す断面図である。
図5】本実施形態の第1車両モデル及び路面モデルを示す概念図である。
図6】本実施形態の第1時系列データ及び第2時系列データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0018】
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、コンピュータを用いて、タイヤに作用する物理量が計算される。そして、計算された物理量に基づいて、タイヤの性能(例えば、耐久性など)が評価される。本実施形態のコンピュータは、タイヤのシミュレーション装置(以下、単に「シミュレーション装置」ということがある。)1Aとして構成される。
【0019】
[シミュレーション装置]
図1は、本実施形態のタイヤのシミュレーション装置1A(コンピュータ1)を示すブロック図である。本実施形態のシミュレーション装置1Aは、入力デバイスとしての入力部2と、出力デバイスとしての出力部3と、タイヤの物理量等を計算する演算処理装置4とを含んで構成されている。
【0020】
入力部2としては、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部3としては、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置4は、各種の演算を行う演算部(CPU)4A、データやプログラム等が記憶される記憶部4B、及び、作業用メモリ4Cを含んで構成されている。
【0021】
記憶部4Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部4Bには、データ部5、及び、プログラム部6が設けられている。
【0022】
本実施形態のデータ部5には、初期データ部5A、タイヤモデル入力部5B、路面モデル入力部5C、第1車両モデル入力部5D、及び、第2車両モデル入力部5Eが含まれる。さらに、データ部5には、第1時系列データ入力部5F、第2時系列データ入力部5G、関数入力部5H、第1条件入力部5I、第2条件入力部5J、物理量入力部5K、及び走行状態入力部5Lが含まれる。
【0023】
初期データ部5Aには、評価対象のタイヤ、路面及び車両に関する情報(例えば、輪郭データ等)が入力されている。その他の入力部に記憶されるデータ等は、シミュレーション方法の後述の各工程において説明される。
【0024】
本実施形態のプログラム部6は、コンピュータプログラムとして構成されている。このプログラム部6は、例えば、WAN(Wide Area Network)等の通信ネットワーク(図示省略)を介して、図示しないサーバ(クラウドサーバ)からダウンロード可能であってもよい。
【0025】
本実施形態のプログラム部6には、タイヤモデル設定部6A、路面モデル設定部6B、第1車両モデル設定部6C及び第2車両モデル設定部6Dが含まれる。さらに、本実施形態のプログラム部6には、第1計算部6E、第2計算部6F、第1シミュレーション部6G、第2シミュレーション部6H、関数取得部6I、第2条件設定部6J及び判断部6Kが含まれる。これらの機能は、シミュレーション方法の後述の各工程において説明される。
【0026】
[タイヤのシミュレーション方法]
次に、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順が説明される。図2は、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0027】
[タイヤモデルを入力]
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、タイヤモデルが、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(工程S1)。工程S1では、先ず、図1に示されるように、初期データ部5Aに入力されているタイヤに関する情報(例えば、輪郭データ等)が、作業用メモリ4Cに入力される。さらに、タイヤモデル設定部6Aが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。このタイヤモデル設定部6Aは、タイヤモデルをモデリングするためのプログラムである。そして、タイヤモデル設定部6Aが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、タイヤモデルを入力するための手段として機能させることができる。
【0028】
図3は、タイヤモデル11及び路面モデル12の一例を示す斜視図である。図4は、タイヤモデル11の一例を示す断面図である。なお、図3では、タイヤモデル11が簡略化して示されており、トレッド部11aのトレッドパターンや、図4に示した要素F(i)などが省略されている。
【0029】
本実施形態の工程S1では、図4に示されるように、評価対象のタイヤ(図示省略)が、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化(モデリング)される。これにより、工程S1では、タイヤモデル11が設定される。評価対象のタイヤは、実在するか否かについては問われない。また、解析対象のタイヤとしては、乗用車用の空気入りタイヤが例示されるが、トラック・バスなどの重荷重用タイヤ、及び、エアレスタイヤ等、他のカテゴリーのタイヤであってもよい。
【0030】
要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法(本実施形態では、有限要素法)が適宜採用されうる。要素F(i)には、例えば、三次元の4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。
【0031】
各要素F(i)は、複数の節点13を含んで構成されている。各要素F(i)には、要素番号、節点13の番号、節点13の座標値、及び、材料特性(例えば密度、ヤング率、減衰係数、熱伝導率、及び、熱伝達率等)などの数値データが定義される。
【0032】
本実施形態の工程S1では、例えば、評価対象のタイヤ(図示省略)のトレッドゴム等を含むゴム部分、タイヤの骨格をなすカーカスプライ、及び、カーカスプライのタイヤ半径方向外側に配されるベルトプライが、要素F(i)でそれぞれ離散化される。これにより、タイヤモデル11には、ゴム部材モデル(例えば、トレッドゴムモデルなど)15、カーカスプライモデル16、及び、ベルトプライモデル17が設定される。タイヤモデル11は、図1に示したタイヤモデル入力部5B(コンピュータ1)に入力される。
【0033】
[路面モデルを入力]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、路面モデル12が、コンピュータ1に入力される(工程S2)。工程S2では、先ず、図1に示されるように、初期データ部5Aに入力されている路面に関する情報(例えば、輪郭データ等)が、作業用メモリ4Cに入力される。さらに、路面モデル設定部6Bが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。この路面モデル設定部6Bは、路面モデル12(図3に示す)をモデリングするためのプログラムである。そして、路面モデル設定部6Bが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、路面モデル12を入力するための手段として機能させることができる。
【0034】
図3に示されるように、本実施形態の工程S2では、路面(図示省略)に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、工程S2では、路面をモデリングした路面モデル12が設定される。
【0035】
要素G(i)は、変形不能に定義された剛平面要素として定義される。要素G(i)には、複数の節点18が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点18の座標値等の数値データが定義される。
【0036】
本実施形態では、平滑な表面を有する路面モデル12が定義されているが、このような態様に限定されない。例えば、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられた路面モデル(図示省略)が定義されてもよい。路面モデル12は、図1に示した路面モデル入力部5C(コンピュータ1)に入力される。
【0037】
[第1条件を入力]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤの特性、及び、タイヤの車両装着条件の少なくとも一方を含む第1条件が、コンピュータ1に入力される(工程S3)。本実施形態の第1条件は、評価対象のタイヤの特性や、車両に装着するための条件を特定するためのものである。
【0038】
タイヤの特性は、タイヤの性質を特定するためのものである。本実施形態の特性には、タイヤの縦バネ定数、横バネ定数、負荷荷重、負荷半径、及び、転がり抵抗の少なくとも1つが含まれている。本実施形態では、これらの全ての特性が含まれているが、特に限定されるものではない。さらに、特性には、タイヤの外径、縦バネダンピング係数、摩擦係数、横方向摩耗係数、コーナリングフォース、及び、セルフアライニングトルクが含まれてもよい。
【0039】
タイヤの特性は、例えば、評価対象のタイヤについて、公知の方法(例えば、フラットベルト試験機などの台上試験装置を用いた試験方法)に基づいて適宜取得されうる。なお、タイヤの特性は、評価対象のタイヤの仕様に応じて、任意の値(例えば予測値など)が設定されてもよい。
【0040】
タイヤの車両装着条件は、タイヤを車両に装着するための条件である。本実施形態の車両装着条件には、トー角、キャンバー角、及び、車高(車軸と路面との距離)の少なくとも1つが含まれる。本実施形態では、これらの全ての車両装着条件が含まれているが、特に限定されるものではない。車両装着条件は、評価対象のタイヤの仕様や、タイヤが装着される車両の仕様等に応じて、適宜設定される。第1条件は、図1に示した第1条件入力部5I(コンピュータ1)に入力される。
【0041】
[第1車両モデルを入力]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、第1車両モデルが、コンピュータ1に入力される(工程S4)。
【0042】
本実施形態の工程S4では、先ず、図1に示されるように、初期データ部5Aに入力されている車両に関する情報、及び、第1条件入力部5Iに入力されている第1条件が、作業用メモリ4Cに入力される。さらに、第1車両モデル設定部6Cが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。この第1車両モデル設定部6Cは、第1車両モデルをモデリングするためのプログラムである。そして、第1車両モデル設定部6Cが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第1車両モデルを入力するための手段として機能させることができる。
【0043】
図5は、本実施形態の第1車両モデル21及び路面モデル12を示す概念図である。図5には、各要素G(i)を省略した路面モデル12が示されている。本実施形態の第1車両モデル21は、タイヤが第1条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングされたものである。
【0044】
マルチボディダイナミクスは、剛体や弾性体等の質量のある要素が、継手要素によって結合されたボディシステムである。第1車両モデル21は、例えば、上記の特許文献1や、特許文献(特開2008-094241号公報)等の従来の手順に基づいて、適宜設定されうる。
【0045】
本実施形態の第1車両モデル21には、タイヤをモデリングしたタイヤモデル23、ホイールリムをモデリングしたホイールリムモデル24、及び、サスペンションをモデリングしたサスペンションモデル25が含まれている。
【0046】
本実施形態のタイヤモデル23は、マジックフォーミュラに基づく理論式で定義されているが、特に限定されるわけではない。タイヤモデル23は、例えば、Fialaモデルとして定義されてもよい。このようなタイヤモデル23は、タイヤの各部材(例えば、カーカスなど)が考慮されないため、上述の有限要素法に基づくタイヤモデル23(図4に示す)に比べて、容易かつ短時間でモデリングすることができる。本実施形態のタイヤモデル23は、例えば、上記の特許文献1や、特許文献(特開2004-217185号公報)などに記載の公知の方法に基づいて、適宜定義されうる。
【0047】
本実施形態では、マジックフォーミュラに基づく理論式に、第1条件に含まれるタイヤの特性(例えば、タイヤの縦バネ定数、横バネ定数など)が適用される。これにより、工程S4では、評価対象のタイヤ(図示省略)をモデリングしたタイヤモデル23が設定される。
【0048】
ホイールリムモデル24及びサスペンションモデル25は、車両に関する情報(サスペンション特性(例えば、ばね定数)等)に基づいて適宜定義される。さらに、本実施形態の第1車両モデル21は、第1条件に含まれるタイヤの車両装着条件(例えば、トー角や、キャンバー角など)に基づいて、ホイールリムモデル24にリム組みされたタイヤモデル23が、サスペンションモデル25に装着される。
【0049】
本実施形態の工程S4では、第1車両モデル21に、車両の特性(例えば、重心位置、エンジン特性、空力特性、及び、パワートレイン等)が定義される。これらの車両の特性は、実測値であってもよいし、予測値等であってもよい。これにより、工程S4では、タイヤが第1条件で装着された車両をモデリングした第1車両モデル21が定義される。
【0050】
第1車両モデル21のモデリングには、例えば、市販の機構解析ソフトウェア(例えば、エムエスシーソフトウェア株式会社製の「Adams」や、株式会社バーチャルメカニクス製の「CarSim」)等が用いられることによって、容易に実施することができる。第1車両モデル21は、図1に示した第1車両モデル入力部5D(コンピュータ1)に入力される。
【0051】
[第1計算工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、第1車両モデル21を用いた計算により、タイヤの走行状態を時系列的に特定した第1時系列データを取得する(第1計算工程S5)。
【0052】
本実施形態の第1計算工程S5では、先ず、図1に示されるように、第1車両モデル入力部5Dに入力されている第1車両モデル21、路面モデル入力部5Cに入力されている路面モデル12、及び、第1計算部6Eが、作業用メモリ4Cに入力される。この第1計算部6Eは、第1時系列データを取得するためのプログラムである。そして、第1計算部6Eが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第1時系列データを取得するための手段として機能させることができる。
【0053】
本実施形態の第1計算工程S5では、図5に示されるように、第1車両モデル21を路面モデル12に走行させることにより、第1車両モデル21のタイヤモデル23の走行状態が、時系列的に特定される。本実施形態の路面モデル12には、工程S2で入力された路面モデル12が用いられているが、特に限定されるものではなく、他の路面モデル(図示省略)が用いられてもよい。
【0054】
本実施形態の第1計算工程S5では、予め定められた走行条件に基づいて、路面モデル12に、第1車両モデル21が走行している状態が計算されている。本実施形態の走行条件は、例えば、ステアリングの角度、アクセル開度及びブレーキ開度が、予め定められた間隔(例えば、第1時系列データの走行状態を取得する間隔など)で定義されている。間隔は、例えば、物理量の予測精度等に基づいて、適宜設定されうる。本実施形態の間隔は、0.01~0.1秒に設定されている。
【0055】
走行条件は、適宜設定することができる。本実施形態の走行条件は、実際のドライバーの走行データ(走行状態の時系列データ)に基づいて設定されている。これにより、第1計算工程S5では、実際の車両の走行状態を、第1車両モデル21を用いて擬似的に計算することができる。なお、このような走行条件に限定されるわけではなく、例えば、複数のドライバーの走行データを教師データとして、人工知能(AI:Artificial Intelligence)に繰り返し学習させることにより、実際のドライバーの振る舞いに近似させた走行状態が設定されてもよい。
【0056】
走行状態は、走行中のタイヤに作用する物理量であれば、特に限定されない。本実施形態の走行状態は、タイヤ(タイヤモデル23)に作用する縦荷重、キャンバー角、横力、内圧及び速度が含まれる。なお、走行状態には、例えば、タイヤの発熱、放熱、荷重変動量、及び、荷重変動の周波数が含まれてもよい。
【0057】
本実施形態の第1計算工程S5では、走行条件(本例では、ステアリングの角度や、アクセル開度など)に基づく第1車両モデル21の走行が計算されることにより、タイヤモデル23の走行状態(本例では、縦荷重や、横力など)が、上記間隔で計算される。これにより、第1計算工程S5では、タイヤの走行状態を時系列的に特定した第1時系列データD1が取得される。このようなタイヤの走行状態の計算(第1車両モデル21の走行計算を含む)は、上記機構解析ソフトウェアが用いられることによって、容易に計算することができる。
【0058】
図6は、本実施形態の第1時系列データD1及び第2時系列データD2を示す図である。図6において、具体的な数値が省略されている。第1時系列データD1では、複数の時刻(間隔)ごとに、走行状態(本例では、タイヤに作用する縦荷重Fz、キャンバー角CA、横力Fy、内圧P及び速度V)が取得されている。第1時系列データD1は、図1に示した第1時系列データ入力部5F(コンピュータ1)に記憶される。
【0059】
[第1シミュレーション工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、タイヤモデル11(図3に示す)に作用する物理量の第2時系列データを取得する(第1シミュレーション工程S6)。本実施形態の第1シミュレーション工程S6では、図3に示したタイヤモデル11を用いた計算により、タイヤモデル11を第1時系列データD1(図6に示す)に基づいて転動させて、タイヤモデル11に作用する物理量の第2時系列データが取得される。
【0060】
本実施形態の第1シミュレーション工程S6では、先ず、タイヤモデル入力部5Bに入力されているタイヤモデル11、及び、路面モデル入力部5Cに入力されている路面モデル12が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、本実施形態の第1シミュレーション工程S6では、第1時系列データ入力部5Fに入力されている第1時系列データD1、及び、第1シミュレーション部6Gが作業用メモリ4Cに読み込まれる。この第1シミュレーション部6Gは、第2時系列データを取得するためのプログラムである。そして、第1シミュレーション部6Gが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第2時系列データを取得するための手段として機能させることができる。
【0061】
図4に示されるように、本実施形態の第1シミュレーション工程S6では、先ず、タイヤのリム(図示省略)をモデリングしたリムモデル15によって、タイヤモデル11のビード部11c、11cが拘束される。そして、タイヤの内圧Pに相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル11の変形が計算される。タイヤモデル11の内圧充填計算に用いられる内圧Pには、任意の値が設定されうる。例えば、図6に示した第1時系列データD1に含まれる任意の時刻の内圧Pが用いられてもよいし、全ての時刻の内圧Pの平均値が用いられてもよい。
【0062】
タイヤモデル11の変形計算(後述の転動計算を含む)は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらが微小時間(単位時間)T(x)(x=0、1、…)毎に計算される。これにより、タイヤモデル11の変形計算が行われる。このような変形計算には、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフト等が用いられることにより、容易に実行することができる。微小時間T(x)は、求められるシミュレーション精度に基づいて、適宜設定(例えば、1μ秒)される。
【0063】
次に、本実施形態の第1シミュレーション工程S6では、図3に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル11が、路面モデル12に接地させられる。タイヤモデル11と路面モデル12との接地状態は、キャンバー角CA、縦荷重Fz、及び、タイヤと路面との間の摩擦係数に基づいて計算される。タイヤモデル11と路面モデル12との接地計算に用いられるキャンバー角CA及び縦荷重Fzには、任意の値が設定されうる。例えば、図6に示した第1時系列データD1に含まれる任意の時刻のキャンバー角CA及び縦荷重Fzが用いられてもよいし、全ての時刻のキャンバー角CAの平均値、及び、縦荷重Fzの平均値が用いられてもよい。
【0064】
次に、本実施形態の第1シミュレーション工程S6では、図6に示した第1時系列データD1に含まれる走行状態(本例では、縦荷重Fzや、キャンバー角CAなど)に基づいて、タイヤモデル11が転動する状態が計算される。本実施形態では、図3に示されるように、第1時系列データD1の時刻毎に、縦荷重Fz、キャンバー角CA(図示省略)、横力Fy(図示省略)、内圧P、及び、速度Vに対応する角速度Vaが、タイヤモデル11に設定される。これにより、第1シミュレーション工程S6では、第1時系列データD1の時刻ごとに、走行状態に基づいて転動しているタイヤモデル11が計算され、そのタイヤモデル11に作用する物理量が計算される。これにより、第1シミュレーション工程S6では、タイヤモデル11に作用する物理量Qの第2時系列データD2(図6に示す)が取得される。この物理量Qは、第1条件で車両を走行させたときのタイヤに作用する物理量として取り扱うことができる。
【0065】
第2時系列データD2は、図4に示したタイヤモデル11の任意の要素F(i)の物理量で構成されてもよいし、全ての要素F(i)の物理量で計算されてもよい。本実施形態の第2時系列データD2は、タイヤの耐久性能の評価において重要な要素F(i)(例えば、タイヤモデル11のショルダー部に位置する要素19)の物理量で構成されている。
【0066】
タイヤモデル11の物理量は、適宜計算されうる。本実施形態では、タイヤの耐久性の評価に用いられる物理量が計算される。このような物理量には、タイヤに作用する歪及び応力の少なくとも一方が含まれるのが望ましい。本実施形態では、歪が計算される。第2時系列データD2は、図1に示した第2時系列データ入力部5G(コンピュータ1)に入力される。
【0067】
[関数の取得]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、図6に示した第1時系列データD1と第2時系列データD2とに基づいて、タイヤモデル11の物理量と、タイヤの走行状態との関係を示す関数を取得する(工程S7)。
【0068】
本実施形態の工程S7では、先ず、図1に示されるように、第1時系列データ入力部5Fに入力されている第1時系列データD1、第2時系列データ入力部5Gに入力されている第2時系列データD2、及び、関数取得部6Iが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。この関数取得部6Iは、関数を取得するためのプログラムである。そして、関数取得部6Iが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、関数を取得するための手段として機能させることができる。
【0069】
関数は、タイヤモデル11の物理量と、タイヤの走行状態との関係を示すことができれば、適宜設定されうる。本実施形態の関数は、下記式(1)で定義される。本実施形態の関数は、縦荷重Fz、キャンバー角CA、横力Fy、内圧P及び速度Vを含む走行状態を用いて定義されたものであり、計算された走行状態に応じて、適宜変更することができる。
Q=a×CA+b×Fz+c×Fy+d×P+e×V+f …(1)
Q:物理量
CA:キャンバー角
Fz:縦荷重
Fy:横力
P:内圧
V:速度
a~f:係数
【0070】
関数では、係数(フィッティングパラメータ)a~fが特定される必要がある。本実施形態の工程S7では、図6に示した第1時系列データD1の走行状態(本例では、キャンバー角CA等)と、図6に示した第2時系列データD2の物理量Q(本例では、歪(歪量))とを用いた重回帰分析の実施により、係数a~fがフィッティングされる。
【0071】
本実施形態の関数は、任意の走行状態(本例では、キャンバー角CAなど)が代入されることにより、図3に示したタイヤモデル11の転動計算が実施されなくても、その走行状態で転動中のタイヤに作用する物理量Q(本例では、歪)を計算することができる。関数は、図1に示した関数入力部5H(コンピュータ1)に入力される。
【0072】
[第2条件の設定]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、第1条件の少なくとも一部を異ならせた第2条件を設定する(工程S8)。
【0073】
本実施形態の工程S8では、先ず、図1に示されるように、第1条件入力部5Iに入力されている第1条件、及び、第2条件設定部6Jが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。この第2条件設定部6Jは、第2条件を設定するためのプログラムである。そして、第2条件設定部6Jが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第2条件を設定するための手段として機能させることができる。
【0074】
本実施形態の第2条件は、第1条件のタイヤの特性(縦バネ定数、横バネ定数、負荷荷重、負荷半径及び転がり抵抗)、及び、タイヤの車両装着条件(トー角、キャンバー角及び車高)の少なくとも一部を変更した条件として設定される。変更されるタイヤの特性及び車両装着条件は、一つでもよいし複数でもよい。
【0075】
本実施形態の工程S8では、タイヤが第1条件で装着された車両よりも、タイヤに作用する物理量Q(図6に示す)が良好となる(本例では、歪が小さくなる)ように、第1条件の少なくとも一部を異ならせた第2条件が設定される。第2条件の設定は、オペレータの経験等に基づいて設定されてもよい。この場合、先ず、第1時系列データD1の各時刻の走行状態(縦荷重Fz、キャンバー角CA、横力Fy、内圧P及び速度V)と、その時刻に対応する第2時系列データD2の物理量Q(歪)とが比較される。そして、物理量(歪)が小さくなるように、第1条件のタイヤの特性及びタイヤの車両装着条件が微調整される。例えば、横力Fyが大きくなっている走行状態において、物理量Q(歪)が大きくなっている場合には、タイヤの横滑りが小さくなるように、第1条件のタイヤの特性及び車両装着条件が変更(微調整)されうる。
【0076】
また、第2条件の設定は、公知の最適化アルゴリズムに基づいて設定されてもよい。最適化アルゴリズムには、例えば、生態を模擬した最適化法(ニューラルネットワーク及び遺伝的アルゴリズム等)、統計的最適化法(実験計画法及びタグチ法等)、物理現象を模擬した最適化法(焼きなまし法等)、及び、人工知能を用いた最適化法が含まれる。第2条件は、図1に示した第2条件入力部5J(コンピュータ)に入力される。
【0077】
[第2車両モデルを設定]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、タイヤが第2条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第2車両モデルを設定する(工程S9)。
【0078】
本実施形態の工程S9では、先ず、図1に示されるように、第1車両モデル入力部5Dに入力されている第1車両モデル21(図5に示す)、及び、第2条件入力部5Jに入力されている第2条件が、作業用メモリ4Cに入力される。さらに、第2車両モデル設定部6Dが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。この第2車両モデル設定部6Dは、第2車両モデル22をモデリングするためのプログラムである。そして、第2車両モデル設定部6Dが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第2車両モデルを設定するための手段として機能させることができる。
【0079】
本実施形態の工程S9では、先ず、図5に示した第1車両モデル21のタイヤモデル23を定義するマジックフォーミュラに基づく理論式に、第2条件に含まれるタイヤの特性(例えば、タイヤの縦バネ定数、横バネ定数など)が適用される。さらに、本実施形態の工程S9では、第2条件に含まれるタイヤの車両装着条件(例えば、トー角や、キャンバー角など)に基づいて、ホイールリムモデル24にリム組みされたタイヤモデル23が、サスペンションモデル25に装着される。これにより、工程S9では、タイヤが第2条件で装着された車両をモデリングした第2車両モデル22(図5に示す)が定義される。第2車両モデル22は、図1に示した第2車両モデル入力部5E(コンピュータ1)に入力される。
【0080】
[第2計算工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、第2車両モデル22を用いた計算により、タイヤの走行状態の少なくとも1つを特定する(第2計算工程S10)。
【0081】
本実施形態の第2計算工程S10では、先ず、図1に示されるように、第2車両モデル入力部5Eに入力されている第2車両モデル22、路面モデル入力部5Cに入力されている路面モデル12、及び、第2計算部6Fが、作業用メモリ4Cに入力される。この第2計算部6Fは、第2車両モデル22を用いた計算によって、タイヤの走行状態を特定するためのプログラムである。そして、第2計算部6Fが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第2車両モデル22を用いた計算により、タイヤの走行状態の少なくとも1つを特定するための手段として機能させることができる。
【0082】
本実施形態の第2計算工程S10では、第1計算工程S5と同様に、予め定められた走行条件(例えば、ステアリングの角度や、アクセル開度など)に基づいて、図5に示されるように、路面モデル12に第2車両モデル22が走行している状態が計算されている。これにより、第2計算工程S10では、第2車両モデル22での走行状態が計算される。
【0083】
本実施形態の第2計算工程S10では、第1計算工程S5と同様に、タイヤの走行状態(例えば、縦荷重Fzなど)が時系列的に特定され、それらの走行状態の少なくとも1つが特定される。本実施形態では、第1計算工程S5と同様に、全ての走行状態が特定される。特定された第2車両モデル22での走行状態は、図1に示した走行状態入力部5Lに入力される。
【0084】
[第2シミュレーション工程]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、第2条件で転動中のタイヤに作用する物理量を計算する(第2シミュレーション工程S11)。本実施形態の第2シミュレーション工程S11では、第2車両モデル22での走行状態(本例では、タイヤに作用する縦荷重Fzなど)が、上記式(1)の関数に代入されることにより、第2条件での物理量が計算される。
【0085】
本実施形態の第2シミュレーション工程S11では、先ず、図1に示されるように、走行状態入力部5Lに入力されている第2車両モデル22での走行状態、関数入力部5Hに入力されている関数が、作業用メモリ4Cに入力される。さらに、第2シミュレーション工程S11では、第2シミュレーション部6Hが、作業用メモリ4Cに入力される。この第2シミュレーション部6Hは、第2条件で転動中のタイヤに作用する物理量を計算するためのプログラムである。そして、第2シミュレーション部6Hが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第2条件で転動中のタイヤに作用する物理量を計算するための手段として機能させることができる。
【0086】
本実施形態の第2シミュレーション工程S11では、第2車両モデル22での走行状態の少なくとも1つ(本例では、1つの時刻の走行状態)が、上記の式(1)で定義される関数に代入される。これにより、第2シミュレーション工程S11では、代入された走行状態で転動中のタイヤに作用する物理量が計算されうる。
【0087】
本実施形態では、時系列的に取得された第2車両モデル22での走行状態の全て(全ての時刻の走行状態)が、関数にそれぞれ代入される。これにより、本実施形態の第2シミュレーション工程S11では、第2車両モデル22での各走行状態に基づいて、タイヤに作用する物理量Qを時系列的に計算することができる。第2条件での物理量Qは、図1に示した物理量入力部5K(コンピュータ1)に入力される。
【0088】
このように、本実施形態のシミュレーション方法(プログラム及びシミュレーション装置1A)では、第2車両モデル22(図5に示す)を用いた計算によって特定された走行条件が、関数に代入されることによって、第2条件での物理量を計算できる。このため、本実施形態では、第2条件での物理量を計算する際に、多くの計算時間を要する傾向があるタイヤモデル11の転動計算(図3に示す)を行う必要がない。したがって、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤに作用する物理量を短時間で計算することが可能となる。
【0089】
[物理量の収束を判断]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、第2条件での物理量Qが、予め定められた範囲内に収束したか否かが判断される(工程S12)。本実施形態の工程S12では、第2条件での物理量Qと、第1条件での物理量Qとの差が、予め定められた閾値の範囲内であるか否かが判断される。
【0090】
本実施形態の工程S12では、先ず、図1に示されるように、物理量入力部5Kに入力されている第2条件での物理量、第2時系列データ入力部5Gに入力されている第2時系列データ(第1条件での物理量)、及び、判断部6Kが、作業用メモリ4Cに入力される。この判断部6Kは、第2条件での物理量が、予め定められた範囲内に収束したか否かを判断するためのプログラムである。そして、判断部6Kが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、第2条件での物理量が、予め定められた範囲内に収束したか否かを判断するための手段として機能させることができる。
【0091】
本実施形態の工程S12では、時系列的に取得された第2条件での物理量Qの平均値(本例では、平均歪値)、及び、合計値(本例では、積算歪値)が求められる。さらに、工程S12では、図6に示した第2時系列データD2に含まれる第1条件での物理量Qの平均値、及び、合計値が求められる。そして、第2条件と第1条件との平均値の差、及び、第2条件と第1条件との合計値の差がそれぞれ求められる。
【0092】
閾値は、例えば、タイヤに求められる性能(耐久性能)などに応じて、適宜設定されうる。本実施形態の閾値は、平均値の差、及び、合計値の差のそれぞれに設定されるのが望ましい。
【0093】
工程S12において、第2条件での物理量Q(平均値の差、及び、合計値の差)が収束したと判断された場合(工程S12で「Yes」)、その第2条件に基づいて、タイヤが製造される(工程S13)。一方、第2条件での物理量Qが収束していないと判断された場合(工程S12で「No」)、第2条件を設定する工程S8、第2車両モデル22を設定する工程S9、第2計算工程S10、及び、第2シミュレーション工程S11が繰り返し実施される。なお、工程S12では、更新前の第2条件での物理量Qと、更新後の第2条件での物理量Qとの差に基づいて、物理量Qが収束したか否かが判断される。
【0094】
このように、本実施形態のシミュレーション方法(プログラム及びシミュレーション装置1A)では、第2条件での物理量が収束するまで、第2条件が更新されるため、所望の性能(本例では、耐久性能)を有するタイヤを確実に製造することができる。
【0095】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0096】
図2に示した処理手順に基づいて、タイヤに作用する物理量が、図1に示したタイヤのシミュレーション装置(プログラム)を用いて計算された(実施例)。
【0097】
実施例では、先ず、タイヤを有限個の要素で離散化したタイヤモデル(図3に示す)、タイヤの特性、及び、タイヤの車両装着条件を含む第1条件が、コンピュータに入力された。タイヤの特性として、評価対象のタイヤの縦バネ定数、横バネ定数、負荷荷重、負荷半径、及び、転がり抵抗がそれぞれ測定され、それらの値が設定された。また、車両装着条件は、評価対象のタイヤの仕様に基づいて、トー角、キャンバー角、及び、車高が設定された。
【0098】
次に、実施例では、タイヤが第1条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第1車両モデル(図5に示す)が、コンピュータに入力された。そして、第1車両モデルを用いた計算により、タイヤの走行状態を時系列的に特定した第1時系列データ(図6に示す)が取得された。第1車両モデルの走行条件は、実際のドライバーの走行データ(走行状態の時系列データ)に基づいて設定された。
【0099】
次に、実施例では、タイヤモデルを用いた計算により、タイヤモデルを第1時系列データに基づいて転動させて、タイヤモデルに作用する物理量(歪)の第2時系列データ(図6に示す)が取得された。そして、第1時系列データと第2時系列データとに基づいて、タイヤモデルの物理量とタイヤの走行状態との関係を示す関数(上記の式(1))が取得された。
【0100】
次に、実施例では、第1条件の少なくとも一部を異ならせた第2条件が設定され、タイヤが第2条件で装着された車両について、マルチボディダイナミクスに基づいてモデリングした第2車両モデル(図5に示す)が設定された。第2条件は、オペレータによる経験に基づいて、物理量が良好に(歪が小さく)なるように、タイヤの特性及び車両装着条件の少なくとも一方が変更された。
【0101】
次に、実施例では、第2車両モデルを用いた計算により、タイヤの走行状態の少なくとも1つが特定された。そして、第2車両モデルでの走行状態を、関数(上記の式(1))に代入して、第2条件で転動中のタイヤに作用する物理量を計算する第2シミュレーション工程が実行された。
【0102】
比較のために、第2シミュレーション工程において、上記の式(1)の関数を用いずに、特許文献1と同様に、第2車両モデルでの走行状態に基づいて、タイヤモデルの転動が計算され、タイヤモデルに作用する物理量が計算された。
【0103】
テストの結果、実施例及び比較例では、物理量が良好な第2条件を特定することができた。一方、実施例の第2条件での物理量の計算時間は、比較例の第2条件での物理量の計算時間の30%であった。したがって、実施例は、比較例に比べて、タイヤに作用する物理量を短時間で計算することができた。
【符号の説明】
【0104】
S1 タイヤモデルを入力する工程
S3 第1条件を入力する工程
S4 第1車両モデルを入力する工程
S5 第1時系列データを取得する工程
S6 第2時系列データを取得する工程
S7 関数を取得する工程
S8 第2条件を設定する工程
S9 第2車両モデルを設定する工程
S10 第2車両モデルでの走行状態を特定する工程
S11 第2条件での物理量を計算する工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6