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特許7543955スパークプラグ、スパークプラグの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】スパークプラグ、スパークプラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/32 20060101AFI20240827BHJP
   H01T 13/20 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01T13/32
H01T13/20 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021042332
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142231
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 健一
【審査官】片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-220194(JP,A)
【文献】特開2002-343533(JP,A)
【文献】特開2006-222023(JP,A)
【文献】特開平08-298177(JP,A)
【文献】特開2013-114754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/32
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の絶縁体(12)に挿入される中心電極(13)と、
前記中心電極の外周に設けられる筒状のハウジング(11)と、
前記ハウジングに固定される接地電極(14)と、を備え、
前記接地電極は、
前記ハウジングに接合されるとともに、前記ハウジングから離間する方向に延びるように形成される基端部(41)と、
前記基端部の先端から前記中心電極に向かって屈曲するように形成される屈曲部(42)と、
前記屈曲部から前記中心電極に対向する位置まで延びるように形成される先端部(43)と、を有し、
前記接地電極において前記屈曲部の曲率が零よりも大きい値になる位置のうち最もハウジングに近い部分から、前記ハウジングに接合される端面までの部分を前記基端部とするとき、
前記基端部の表面硬度は、前記屈曲部の表面硬度よりも大きい
スパークプラグ。
【請求項2】
前記基端部において前記中心電極に対向する内面の表面硬度は、前記屈曲部において前記中心電極に対向する内面の表面硬度よりも大きい
請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記基端部において前記中心電極に対向する内面とは反対側の外面の表面硬度は、前記屈曲部において前記中心電極に対向する内面とは反対側の外面の表面硬度よりも大きい
請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記基端部の表面硬度は、190[HV]以上である
請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記接地電極の端面を前記ハウジングに接合した後、前記接地電極の先端部を前記中心電極に向かって曲げる曲げ工程と、
前記接地電極の先端部において前記中心電極に対向する内面とは反対側の外面を叩いて、前記接地電極の先端部と前記中心電極との間に形成される隙間である火花ギャップの大きさを調整するギャップ調整工程と、
前記ギャップ調整工程の後に、前記接地電極の前記基端部の表面を硬化させる工程と、を備える
スパークプラグの製造方法。
【請求項6】
前記接地電極の前記基端部の表面を硬化させる工程では、前記基端部に対してショットブラスト処理が行われる
請求項5に記載のスパークプラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグ、及びスパークプラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1に記載のスパークプラグがある。このスパークプラグは、筒状の絶縁碍子の内部に挿入される中心電極と、絶縁碍子の外周に設けられるハウジングと、ハウジングに固定される接地電極とを備えている。接地電極は、その基端部がハウジングに固定されるとともに、屈曲部にて中心電極側に曲げられて、その先端部が中心電極との間で隙間を形成するように配置されている。接地電極の屈曲部では、接地電極の中心軸に直交する断面において接地電極の断面重心よりも中心電極側に位置する部位の強度が、中心電極とは反対側に位置する部位の強度よりも大きくなっている。これにより、車両の内燃機関等の動作に伴う振動がスパークプラグに加わる環境下であっても、接地電極の先端が中心電極から離間する方向に起き上がる現象、換言すれば中心電極と接地電極との間に形成される火花ギャップが拡大する現象が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-114754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパークプラグの製造の際には、接地電極の基端部をハウジングの端面に接合させる接合工程と、接合工程の後に接地電極の先端部が中心電極に対向するように接地電極を曲げる曲げ工程と、曲げ工程の後に接地電極の先端を外側から叩いて火花ギャップの大きさを調整するギャップ調整工程とが行われる。このような工程を経て接地電極が製造されるため、接地電極の基端部には内部応力が残留している。
【0005】
一方、近年、熱効率の向上を図った内燃機関では、その燃焼温度が従来よりも高温となっている。このような内燃機関では高温の燃焼熱を接地電極の基端部が継続して受けることにより、接地電極の基端部に時間の経過に伴って残留応力に応じた変形が生じる、いわゆるクリープ現象が発生する可能性がある。
【0006】
接地電極の基端部に発生するクリープ現象は、接地電極の先端部が中心電極に近づく現象、換言すれば火花ギャップが縮小する現象を生じさせる要因となる。仮に火花ギャップが縮小すると、中心電極と接地電極との間に形成される火花放電により混合気が着火した際に、生成される火炎が接地電極等に接触し易くなるため、火炎の熱が接地電極等に奪われることにより着火性が悪化する懸念がある。
【0007】
また、上記のような接地電極の基端部に発生するクリープ現象は、接地電極の先端部が中心電極から離間する現象、換言すれば火花ギャップが拡大する現象を生じさせる要因にもなる。仮に火花ギャップが拡大すると、中心電極と接地電極との間に火花放電を形成するために、より高い電圧をスパークプラグに印加する必要がある。これはスパークプラグの寿命を短くする要因となるため、その部品の交換サイクルが短くなる懸念がある。
【0008】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、基端部のクリープ現象に起因する接地電極の変形を抑制することが可能なスパークプラグ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するスパークプラグは、筒状の絶縁体(12)に挿入される中心電極(13)と、中心電極の外周に設けられる筒状のハウジング(11)と、ハウジングに固定される接地電極(14)と、を備える。接地電極は、ハウジングに接合されるとともに、ハウジングから離間する方向に延びるように形成される基端部(41)と、基端部の先端から中心電極に向かって屈曲するように形成される屈曲部(42)と、屈曲部から中心電極に対向する位置まで延びるように形成される先端部(43)と、を有する。接地電極において屈曲部の曲率が零よりも大きい値になる位置のうち最もハウジングに近い部分から、ハウジングに接合される端面までの部分を基端部とするとき、基端部の表面硬度は、屈曲部の表面硬度よりも大きい。
【0010】
また、上記課題を解決するスパークプラグの製造方法は、上記のスパークプラグの製造方法であって、接地電極の端面をハウジングに接合した後、接地電極の先端部を中心電極に向かって曲げる曲げ工程と、接地電極の先端部において中心電極に対向する内面とは反対側の外面を叩いて、接地電極の先端部と中心電極との間に形成される隙間である火花ギャップの大きさを調整するギャップ調整工程と、ギャップ調整工程の後に、接地電極の基端部の表面を硬化させる工程と、を備える。
【0011】
この構成及び製造方法によれば、基端部の表面硬度が屈曲部の表面硬度よりも大きくなっているため、高温の燃焼熱を接地電極が継続して受けるような環境下であっても、基端部のクリープ現象に起因する接地電極の変形を抑制することができる。
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0012】
本開示のスパークプラグ及びその製造方法によれば、クリープ現象に起因する接地電極の基端部の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態のスパークプラグの破断断面構造を示す断面図である。
図2図2は、実施形態のスパークプラグの接地電極周辺の拡大構造を示す拡大図である。
図3図3は、発明者の実験により得られた接地電極の基端部の倒れ角度θと火花ギャップの変動量ΔGの関係を示すグラフである。
図4図4は、発明者の実験により得られた接地電極の基端部の硬度、基端部の倒れ角度θ、及び着火性の良否の判定結果を示す図表である。
図5図5は、実施形態のスパークプラグの製造工程の一部を示す図である。
図6図6は、実施形態のスパークプラグの製造工程の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、スパークプラグの一実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
はじめに、図1に示される本実施形態のスパークプラグ10の概略構成について説明する。このスパークプラグ10は例えば内燃機関のシリンダヘッドに設けられる。スパークプラグ10は、電圧の印加に基づき火花放電を形成することにより内燃機関のシリンダ内の混合気を着火する。スパークプラグ10は、ハウジング11と、絶縁碍子12と、中心電極13と、接地電極14とを備えている。
【0015】
ハウジング11はスパークプラグ10の中心軸m10を中心に円筒状に形成されている。ハウジング11は例えば炭素鋼等の金属材料により形成されている。ハウジング11の内部には絶縁碍子12の下端部が同軸上に挿入されている。
絶縁碍子12は中心軸m10を中心に円筒状に形成されている。絶縁碍子12はアルミナ等の絶縁材料により形成されている。絶縁碍子12の外周部分にはハウジング11が一体的に組み付けられている。絶縁碍子12の下部に形成される貫通孔120には中心電極13が挿入されて保持されている。本実施形態では絶縁碍子12が絶縁体に相当する。
【0016】
中心電極13は電極母材20と電極チップ30とを有している。電極母材20は中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。電極母材20は、耐熱性に優れるニッケル(Ni)合金等により形成されている。具体的には、電極母材20の内材は銅により形成され、その外材はニッケル合金により形成されている。電極チップ30は電極母材20の先端部に接合されている。電極チップ30は、中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。電極チップ30は、高融点で耐消耗性に優れたイリジウム(Ir)を主材料として、イリジウムの高温揮発性を抑制するためにロジウム(Rh)を含むイリジウム合金等により形成されている。
【0017】
接地電極14は電極母材40と電極チップ50とを有している。電極母材40はニッケル合金等により形成されている。電極母材40は、ハウジング11の下端面に固定されるとともに、その下端面から中心電極13の電極チップ30に対向する位置まで延びるように形成されている。電極チップ50は電極母材40の先端部に接合されている。電極チップ50は、イリジウム合金や白金合金等の貴金属合金、例えばPt-20Ir材等により形成されている。電極チップ50は、所定の隙間18を有して中心電極13の電極チップ30に対向して配置されている。以下では、中心電極13の電極チップ30と接地電極14の電極チップ50との間に形成される隙間18を「火花ギャップ18」と称する。
【0018】
このスパークプラグ10では、中心電極13の上部に中心軸部材15及び端子部16が電気的に接続されている。端子部16には、高電圧を印加する外部回路が接続される。外部回路により端子部16に高電圧が印加されると、中心電極13の電極チップ30と接地電極14の電極チップ50との間に火花放電が形成される。このスパークプラグ10が形成する火花放電により内燃機関の気筒内の混合気が着火して火炎が形成されることにより混合気が燃焼する。
【0019】
次に、接地電極14の構造について詳しく説明する。
図2に示されるように、接地電極14の電極母材40は、基端部41と、屈曲部42と、先端部43とを有している。基端部41は、ハウジング11の下端面110に接合されるとともに、この下端面110から離間する方向に直線状に延びるように形成されている部分である。屈曲部42は、基端部41の先端から中心電極13の電極チップ30に向かって屈曲するように形成される部分である。先端部43は、屈曲部42から中心電極13の電極チップ30に対向する位置まで延びるように形成される部分である。
【0020】
図2には、電極母材40の外周面において屈曲部42の曲率が零よりも大きい値になる位置のうちハウジング11に最も近い部分を結んだ線が二点鎖線P11で示されている。本実施形態では、基端部41が、電極母材40において、ハウジング11に接合される端面44から二点鎖線P11までの領域に位置する部分として定義されている。
【0021】
また、以下では、基端部41において中心電極13に対向する面を「内面411」と称し、内面411とは反対側の面を「外面412」と称する。また、屈曲部42において中心電極13に対向する面を「内面421」と称し、内面421の反対側の面を「外面422」と称する。
【0022】
図2には、ハウジング11の端面44からスパークプラグ10の中心軸m10に平行な方向に延びる線を基準線m11とするとき、基準線m11に対して基端部41の外面412がなす角度が「θ」で表されている。以下では、この角度θを「倒れ角度θ」と称する。
なお、倒れ角度θに関しては、基端部41の外面412が基準線m11に平行であるときの角度を「0[deg]」とし、基端部41の外面412が基準線m11に対して中心電極13に近づく方向に倒れているときの角度を正の角度で表し、基端部41の外面412が基準線m11に対して中心電極13から離間する方向に倒れているときの角度を負の角度で表す。したがって、図2に示される接地電極14では倒れ角度θが正の値である。
【0023】
図2に示される接地電極14では、基端部41の内面411の表面硬度が屈曲部42の内面421の表面硬度よりも大きくなっている。具体的には、スパークプラグ10の製造の際に、基端部41の内面411に対してショットブラスト処理を施すことにより、屈曲部42の内面421の表面硬度よりも基端部41の内面411の表面硬度を大きくしている。
【0024】
ところで、このような接地電極14では、その製造の際に基端部41に内部応力が残留する。そのため、内燃機関の燃焼温度が高温である場合には、基端部41にクリープ現象が発生する可能性がある。基端部41にクリープ現象が発生すると、火花ギャップ18の大きさが変化する。この火花ギャップ18の変動量は倒れ角度θの値により変化することが発明者により確認されている。
【0025】
発明者は、基端部41のクリープ現象に伴う接地電極14の倒れ角度θと火花ギャップ18の変動量ΔGとの関係を実験的に求めた。具体的には、接地電極14の雰囲気温度を、基端部41にクリープ現象が発生する温度以上に設定することで接地電極14に熱ストレスを与えつつ、その際の倒れ角度θと火花ギャップ18の変動量ΔGとの関係を測定した。
【0026】
なお、火花ギャップ18の変動量ΔGとは、予め定められた火花ギャップ18の基準値と火花ギャップ18の実際の値との偏差である。例えば火花ギャップ18の変動量ΔGが零である場合、火花ギャップ18の実際の大きさが基準値に等しいことになる。これに対し、火花ギャップ18の変動量ΔGが正の値である場合、火花ギャップ18の実際の大きさが基準値よりも拡大していることになる。一方、火花ギャップ18の変動量ΔGが負の値である場合、火花ギャップ18の実際の大きさが基準値よりも縮小していることになる。
【0027】
図3は、このようにして行われた発明者の実験結果を示したグラフである。図3に示されるように、倒れ角度θが正の値である場合、すなわち接地電極14が中心電極13に近づく方向に倒れている場合、基端部41のクリープ現象により接地電極14が中心電極13に近づく方向に更に変形するため、火花ギャップ18の変動量ΔGが負の方向に変化する。すなわち、火花ギャップ18が小さくなる方向に変化する。また、倒れ角度θの絶対値が大きくなるほど、火花ギャップ18がより小さくなる。すなわち、接地電極14が中心電極13に近づく方向に更に変形する。
【0028】
一方、倒れ角度θが負の値である場合、すなわち接地電極14が中心電極13から離間する方向に倒れている場合、基端部41のクリープ現象により接地電極14が中心電極13から離間する方向に更に変形するため、火花ギャップ18の変動量ΔGが正の方向に変化する。すなわち、火花ギャップ18が大きくなる方向に変化する。また、倒れ角度θの絶対値が大きくなるほど、火花ギャップ18がより大きくなる。すなわち、接地電極14が中心電極13から離間する方向に更に変形する。
【0029】
以上のような実験結果を考慮すると、図2に示されるように倒れ角度θが正の値である場合には、基端部41のクリープ現象により接地電極14が中心電極13に近づく方向に変化することになる。これを抑制するために、本実施形態のスパークプラグ10では、上述の通り、基端部41の内面411の表面硬度が屈曲部42の内面421の表面硬度よりも大きくなっている。これにより、基端部41が中心電極13に近づく方向に変化することを抑制できるため、すなわち基端部41のクリープ現象を抑制できるため、火花ギャップ18が狭くなることを回避できる。
【0030】
また、発明者は、基端部41の硬度及び倒れ角度θを変化させつつ、接地電極14の基端部41にクリープ現象が発生した際に火花ギャップ18が適正値に維持されるか否かを実験的に更に求めた。具体的には、所定の硬度及び所定の倒れ角度θを有する接地電極14の雰囲気温度を、基端部41にクリープ現象が発生する温度以上の温度に設定することで接地電極14に熱ストレスを与えた際の火花ギャップ18の変動量ΔGを測定した。そして、火花ギャップ18の変動量の絶対値|ΔG|が「|ΔG|≦0.03[mm]」を満たしている場合には着火性良好と判定するとともに、「|ΔG|>0.03[mm]」である場合には着火性不良と判定することとした。
【0031】
図4は、このようにして行われた発明者の実験結果を示した図表である。なお、図4では、接地電極14の基端部41の硬度がビッカース硬さ(単位は[HV])で示されている。また、初期の倒れ角度θに関しては、量産品の良品の倒れ角度θが概ね「-6[deg]≦θ≦6[deg]」であることに鑑みて、「-6[deg]」、「-3[deg]」、「0[deg]」、「3[deg]」、及び「6[deg]」を用いることとした。
【0032】
図4に示されるように、接地電極14の基端部41の硬度が「115[HV]」及び「140[HV]」である場合には、初期の倒れ角度θが「0[deg]である場合には着火性良好という判定が得られたものの、「-6[deg]」、「-3[deg]」、「3[deg]」、及び「6[deg]」である場合に着火性不良という判定となった。
【0033】
また、接地電極14の基端部41の硬度が「165[HV]」である場合には、初期の倒れ角度θが「-3[deg]」、「0[deg]」、「3[deg]」である場合には着火性良好という判定が得られたものの、「-6[deg]」、及び「6[deg]」である場合には着火性不良という判定となった。
【0034】
さらに、接地電極14の基端部41の硬度が「190[HV]」及び「215[HV]」である場合には、初期の倒れ角度θが「-6[deg]」、「-3[deg]」、「0[deg]」、「3[deg]」、及び「6[deg]」のいずれの場合であっても着火性良好という判定が得られた。
【0035】
以上の実験結果を考慮すると、接地電極14の基端部41の硬度が「190[HV]」以上であれば、「-6[deg]≦θ≦6[deg]」を満たす量産品の良品のほぼ全てについて良好な着火性を確保することができる。そのため、図2に示されるスパークプラグ10では、接地電極14の基端部41の内面411の表面硬度が「190[HV]」以上に設定されている。
【0036】
次に、本実施形態のスパークプラグ10の製造方法、特にハウジング11に対する接地電極14の取り付け方法について説明する。
ハウジング11に接地電極14を取り付ける際には、まず、図5に示されるように、接地電極14をハウジング11の下端面110に接合する工程が行われる。この接合工程の後、接地電極14の屈曲部42の内面421を曲げサーチャ60で押さえつつ、曲げローラ61により接地電極14の先端部43の外面432を押圧することにより、接地電極14の先端部43を中心電極13に向かって曲げる曲げ工程が行われる。なお、接地電極14の先端部43の外面432とは、接地電極14の先端部43において中心電極13に対向する内面431とは反対側の面である。
【0037】
曲げ工程に続いてギャップ調整工程が行われる。ギャップ調整工程では、図6に示されるように、接地電極14の先端部43の外面432を調整治具62により叩くことにより、接地電極14の先端部43と中心電極13との間に形成される隙間である火花ギャップ18の大きさが調整される。
【0038】
ギャップ調整に続いて硬化工程が行われる。硬化工程では、接地電極14の基端部41の内側の表面である内面411に対してショットブラスト処理が行われる。これにより、接地電極14の基端部41の内面411が硬化するとともに、その基端部41の内面411の残留応力が除去される。
【0039】
以上説明した本実施形態のスパークプラグ10によれば、以下の(1)~(3)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)接地電極14の基端部41の内面411の表面硬度は屈曲部42の内面421の表面硬度よりも大きい。この構成によれば、図2に示されるように接地電極14の基端部41が中心電極13に向かって傾いている場合に、高温の燃焼熱を接地電極14が継続して受けるような環境下であっても、基端部41のクリープ現象に伴う接地電極14の変形、より詳細には火花ギャップ18が縮小する方向への接地電極14の変形を抑制できる。
【0040】
(2)接地電極14の基端部41の内面411の表面硬度は「190[HV]」以上に設定されている。この構成によれば、図4の実験結果に示されるように、基端部41のクリープ現象に起因する火花ギャップ18の変動量ΔGを小さくすることができる。
(3)スパークプラグ10を製造する際に、接地電極14の先端部43を中心電極13に向かって曲げる曲げ工程、及び火花ギャップ18の大きさを調整するギャップ調整工程を行った後に、接地電極14の基端部41の表面を硬化させる硬化工程を行うこととした。硬化工程は、接地電極14の基端部41にショットブラスト処理を施す工程である。この方法によれば、接地電極14の基端部41を容易に硬化させることができる。また、接地電極14の基端部41の残留応力を除去することができるため、より的確に基端部41のクリープ現象に起因する接地電極14の変形を抑制することができる。
【0041】
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
・接地電極14の基端部41が、図2に示される角度とは逆の方向に傾いている場合、すなわち倒れ角度θが負の値である場合には、接地電極14の基端部41の外面412の表面硬度を屈曲部42の外面422の表面硬度よりも大きくすることが有効である。これにより、基端部41のクリープ現象に起因して、倒れ角度θが負の方向に更に拡大することを抑制できる。
【0042】
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0043】
10:スパークプラグ
11:ハウジング
12:絶縁碍子(絶縁体)
13:中心電極
14:接地電極
41:基端部
42:屈曲部
43:先端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6