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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】イオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/08 20060101AFI20240827BHJP
   H01J 27/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01J37/08
H01J27/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021072980
(22)【出願日】2021-04-23
(65)【公開番号】P2022167278
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井内 裕
(72)【発明者】
【氏名】土肥 正二郎
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-073534(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147232(WO,A1)
【文献】特開平08-167397(JP,A)
【文献】実開平05-017912(JP,U)
【文献】実開平03-058861(JP,U)
【文献】特開平08-236061(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0101834(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ容器と、
前記プラズマ容器からイオンビームが引き出される方向に並べられた複数枚の平板状電極と、を備え、
前記平板状電極は、接地電極を有しておらず、イオンビーム引出方向の最下流側に電子を追い返すための負の電圧が印加された抑制電極を有し、
前記イオンビーム引出方向で、前記抑制電極の下流側に筒状部材を備えているイオン源。
【請求項2】
前記筒状部材は直方体であり、
その内部に、イオンビーム引出方向から視たとき長方形となる開口を有している請求項1記載のイオン源。
【請求項3】
前記平板状電極には炭素繊維強化炭素複合材料が使用されている請求項1又は2に記載のイオン源。
【請求項4】
前記平板状電極は、位置合わせ用の孔を有している請求項1乃至3のいずれか1項に記載のイオン源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
複数枚の電極を用いてイオンビームの引出を行うイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)の製造用イオン注入装置では、イオン源から複数枚の多孔電極を用いてイオンビームの引出しが行われている。
具体的には、特許文献1に述べられる高周波イオン源が利用されている。図6は、このイオン源の模式的断面図である。
【0003】
イオン源IS1は、概略すると導入されたガスからプラズマの生成が行われるプラズマ容器1と容器内で生成されたプラズマからイオンビームを引き出すための4枚の電極で構成されている。
【0004】
各電極は、プラズマ容器1側から順番に加速電極2、引出電極3、抑制電極4、接地電極5と呼ばれる平板状の多孔電極である。所定エネルギーでのイオンビームの引出を可能にするために、加速電源V1、引出電源V2を用いて加速電極2と引出電極3に所定電圧が印加され、接地電極5はグランド電位に固定されている。イオン源下流側から電子がプラズマ容器1側へ流入するのを防止するため、抑制電極4にはグランド電位を基準にして抑制電源V3で負の電圧が印加されている。
【0005】
引出電極3と抑制電極4の支持構造についての図示は省略されているが、加速電極2と引出電極3はHフランジ11に支持され、抑制電極4と接地電極5はGフランジ12に支持されている。また、Gフランジ12上での接地電極5の支持は筒状部材6を介して行われている。
【0006】
このイオン源から引き出されるイオンビームは、Y方向に長いリボンビームである。Z方向はイオンビームの進行方向で、X方向はY方向とZ方向に直交する方向である。
【0007】
このイオンビームをZ方向に垂直な断面で切断したときの切断面は略長方形であり、切断面でみたときのイオンビームの長辺方向がY方向であり、短辺方向がX方向である。
【0008】
イオン源IS1の下流側には図示されない処理室があり、同処理室にイオン源IS1から引き出されたイオンビームが輸送される。
【0009】
処理室では、Y方向におけるイオンビームの寸法がガラス基板の寸法よりも長く、X方向へガラス基板を走査することでガラス基板の全面にイオンビームが照射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平9-259779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
パネルの大型化や生産性向上を目的とした多面取りの要望から、ガラス基板寸法の大型化が進んでいる。
【0012】
特許文献1のイオン注入装置では、ガラス基板の寸法が大型になればイオン源の寸法も大型になる。イオン源が大型になれば、イオン源の材料費も増加する。そこで、より構成が簡素で安価なイオン源が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
イオン源は、
プラズマ容器と、
前記プラズマ容器からイオンビームが引き出される方向に並べられた複数枚の平板状電極と、
前記抑制電極の下流側に筒状部材を有し、
前記平板状電極は、イオンビーム引出方向の最下流側に電子を追い返すための負の電圧が印加される抑制電極を有している。
【0014】
従来のイオン源で使用されていた平板状の接地電極を排除したので、イオン源の構成が簡素となり、イオン源を大型化した場合でも比較的材料費を安価におさえることができる。
【0015】
前記筒状部材は直方体であり、
その内部に、イオンビーム引出方向から視たとき長方形となる開口を有していることが望ましい。
【0016】
前記平板状電極には炭素繊維強化炭素複合材料が使用されていることが望ましい。
【0017】
前記平板状電極は、位置合わせ用の孔を有していることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
従来のイオン源が有していた平板状の接地電極を排除したので、イオン源の構成が簡素になり、大型化した場合でも材料費が比較的安価におさえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】発明のイオン源の構成を示す模式的断面図
図2】接地電位位置の説明図
図3】筒状部材の一例を示す斜視図
図4】電極周りの位置調整についての説明図
図5図4に記載のE部分についての要部拡大図
図6】従来のイオン源の構成を示す模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明のイオン源IS2の模式的断面図である。同図に付記される符号で、図6と同一の符号は従来のイオン源IS1と同等の構成であるため、共通する構成についての説明は省略する。
【0021】
以下、本発明のイオン源IS2と従来のイオン源IS1との相違点について説明する。
【0022】
図1の本発明のイオン源IS2では図6で接地電極5と呼んでいた平板状の電極が存在していない。
【0023】
このイオン源IS2では、Z方向(イオンビームの引き出し方向)での筒状部材6の寸法L1を20cm、筒状部材6と抑制電極4間の寸法L2を1cmとし、抑制電極4に-1kVの電圧を印加している。
【0024】
Z方向で最下流にある平板状電極は抑制電極4である。抑制電極4の下流側には、電極から引き出されたイオンビームと残留ガスが衝突することによるプラズマが生成されている。具体的には、図1の構成のイオン源IS2で、抑制電極4の下流側で筒状部材6の内部にプラズマが生成される。
抑制電極4の下流に生成されたプラズマと抑制電極4との間には、イオンシースが形成される。このイオンシースによって、プラズマ内の正の電荷を有するイオンが抑制電極4方向に引き寄せられる。プラズマ内のイオン電流密度(A/m)は引き出されるイオンビームのビーム電流や残留ガスの濃度によって変化する。また、イオン電流密度はプラズマ濃度とほぼ比例関係にある。
【0025】
図2(A)~(C)には、抑制電極4の下流で生成されたプラズマの濃度変化に伴い、筒状部材6の内部で接地電位位置が移動する様子が描かれている。
【0026】
筒状部材6は接地電位にあり、抑制電極4には-1kVの電圧が印加されている。両部材間には電界が生成されていて、両部材間に描かれている線は等電位線を表している。図示される等電位線のうち、最も左側に描かれているものが接地電位にあたる。
【0027】
各図の横軸は筒状部材6のZ方向の下流側端部の位置を基準(0)にして、抑制電極4までの距離を表している。単位はm(メートル)である。
各図の電界分布は上下で対称形になるため、筒状部材6の上側の断面のみが図示されている。
【0028】
プラズマ濃度は、図2(B)のプラズマ濃度(D)を基準にしている。図2(A)では、図2(B)のプラズマ濃度に対して5倍の濃度のプラズマが生成されている。図2(C)では、図2(B)のプラズマ濃度に対して0.2倍の濃度のプラズマが生成されている。
【0029】
図2(A)、図2(B)、図2(C)の順にプラズマ濃度が薄くなるにつれて、接地電位の位置が図の左側へと移動していくが、筒状部材6の内部に留まっている。
筒状部材6の寸法L1は、抑制電極4への印加電圧、イオン電流密度の値に応じて、適切な値を選択することになるが、従来のイオン源IS1で用いられていた平板状の接地電極5を排除した場合でも、図2(A)~(C)の結果から接地電位を筒状部材6の内部に設定できることが判明した。
【0030】
図1のイオン源IS2では平板状の接地電極5が不要となるので、従来の構成に比べて構成を簡素にすることができ、ひいてはイオン源の材料費を低減することが可能となる。
【0031】
筒状部材6の典型例としては、図3の斜視図に描かれているような直方体であり、Z方向に向けてイオンビームを通過させるための開口Hを有する部材である。
【0032】
本発明の筒状部材6の形状は図3に示す形状に限らず、種々の変形が可能である。例えば、Z方向から観たときの形状が、円形や多角形であっても構わない。また、図1において筒状部材6とGフランジ12とを一体化した形状の部材でもよい。
【0033】
ただし、イオンビームをその進行方向に垂直な平面で切断したときの切断面が略長方形である場合、筒状部材6をZ方向から視たときの開口Hの形状は長方形とし、筒状部材6の外形は直方体であることが望ましい。
【0034】
プラズマ容器1内のプラズマやプラズマから引き出されたイオンビームが電極に照射されることによって、電極温度は高温になる。電極温度が高温となり、電極が熱変形すると、引き出されるイオンビームの品質が劣化する。
【0035】
そこで電極の熱変形を防止するために、一般には冷媒流路が電極に形成されているが、イオン源の大型化に伴って電極が大型となれば、冷媒流路へ流す冷媒流量の増加や流路での圧力損失の増加が懸念される。また、温度が同じでも熱膨張の絶対量は大型化に伴って大きくなる。さらに、複数枚電極でそれぞれの電極の温度が異なる場合には、電極間の位置ずれの問題も大きくなる。
【0036】
上述した懸念事項を踏まえ、本発明では熱変形に強く、熱膨張係数が0(ゼロ)に近い炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット材料)を電極に採用している。C/Cコンポジット材料を用いることで、電極内に冷媒流路を形成することや冷媒そのものが不要となる。
【0037】
図4は電極周りの位置調整についての説明図である。図示される引出電極3にはイオンビームを引き出すための多数のスリットが形成されている。このような電極はスリット電極と呼ばれている。スリット部分は、X方向に長い複数の電極棒PをY方向に並設することで形成されている。
不図示の加速電極2、抑制電極4にも、イオンビームを引き出すための多数のスリットが形成されている。
【0038】
電極棒Pは、各電極に形成された電極棒支持部(不図示)に配置されている。その上方には電極棒Pの抜け落ちを防止するための蓋体Cが取り付けられている。
【0039】
蓋体CはY方向に長い1枚の板であってもいいが、蓋体Cの熱変形量を抑えるために、図4ではY方向に複数に分割した蓋体Cを採用している。
【0040】
上述したC/Cコンポジット材料は、図4の電極において電極棒Pや蓋体Cを除く電極部位、具体的には電極の枠組みを構成している電極枠体に使用されている。
【0041】
一方、電極を構成するすべての部材をC/Cコンポジット材料にしてもいい。
ただし、電極が大型化された場合でもそれほど部材自体の大きさが変化しない部材やイオンビームやプラズマによるスパッタリングの影響で交換頻度が高い部材等については、C/Cコンポジット材料を用いるメリットは少ない。これらの部材については、従来のモリブデンやタングステン等の高融点材料を採用して、C/Cコンポジット材料の使用量を低減してもよい。
【0042】
各電極を各フランジに取り付けるときに、電極間に位置ずれがあれば所望のイオンビームの引出が困難となる。そこで図4に描かれている傾き調整器具A1と位置調整器具A2等を用いて電極間の位置調整が行われる。
傾き調整器具A1と位置調整器具A2は、図のZ方向に向けて貫通孔が形成された部材と貫通孔に挿入されるピンから構成されている。
貫通孔が形成された部材は、ボルトなどで各フランジに取り付けられるものが想定されているが、フランジに直接貫通孔を形成するようにしてもよい。
また、ピン全体の径は貫通孔の径よりも細いものでもいいが、図4に図示されるようにピン端部の径を太くしたものであってもよい。
【0043】
まずは各電極が取り付けられるフランジ間での位置ずれを防止する。具体的には、傾き調整器具A1を取り付けて、Hフランジ11とGフランジ12のZ方向の軸周りでの位置ずれがおきないようにする。次に、位置調整器具A2を取り付けて、Hフランジ11とGフランジ12のY方向での位置ずれを防止する。
【0044】
上述したフランジ間での位置決めを行い、各フランジをボルトなどで固定した後、各電極のフランジへの取り付けを実施する。
各電極には図4に見られる水平性補正孔S2と位置決め孔S1が形成されている。
図5図4に破線で描かれるE部分を拡大した平面図である。この図では、位置決め孔S1の説明を行うために、蓋体Cと電極棒Pの一部図示を省略している。図4図5を用いて、各電極の調整について説明する。
【0045】
最初に抑制電極4と引出電極3を各フランジに取り付ける。この際、水平性補正孔S2にピン(不図示)を挿入する。これにより、両電極がZ方向の軸周りに回転し位置ずれすることが防止できる。次に、位置決め孔S1に板状部材21を挿入して、両電極のY方向での位置ずれを防止する。
図示される板状部材21は矩形状の部材であるが、平面視で円形や三角形といった形状の部材であってもよい。
【0046】
抑制電極4と引出電極3の位置調整を行い、各電極をフランジにボルトなどで固定した後、加速電極2の組付けを行う。
加速電極2の組付けにあたっても、水平性補正孔S2と位置決め孔S1を用いて、固定済みの電極との間で位置調整を行ってからフランジに固定する。
【0047】
各電極に形成された位置決め孔S1については、最終的には蓋体Cで覆われるので、位置決め孔S1がイオンビームの引き出しに悪影響を及ぼすことはない。また、プラズマに曝される加速電極2に形成された水平性補正孔S2については、加速電極2をHフランジ11に固定した後で、不図示の部材を用いて孔を塞いでいる。
【0048】
上記実施形態では、図1のイオン源IS2の構成として高周波型イオン源が例示されているが、本発明が適用されるイオン源の種類はこれに限られるものではない。例えば、フィラメントを用いたアーク放電によりプラズマ容器内にプラズマを生成し、生成されたプラズマを容器内部に閉じ込めるカスプ磁場を具備したバケット型イオン源であってもいい。
【0049】
さらに、本発明のイオン源IS2が適用されるイオン注入装置は非質量分析型、質量分析型のいずれの構成であってもよい。
【0050】
その他、前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0051】
1 プラズマ容器
4 抑制電極
6 筒状部材
11 Hフランジ
12 Gフランジ
IS1、IS2 イオン源
A1 傾き調整器具
A2 位置調整器具
図1
図2
図3
図4
図5
図6