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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】構造物変位計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20240827BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01B11/16 Z
E01D22/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021090467
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182749
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕明
(72)【発明者】
【氏名】中村 信秀
(72)【発明者】
【氏名】木本 智美
(72)【発明者】
【氏名】高須賀 丈広
(72)【発明者】
【氏名】伊佐 和人
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-172309(JP,U)
【文献】国際公開第2008/123510(WO,A1)
【文献】特開2009-192503(JP,A)
【文献】国際公開第2019/054419(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の主桁上の部位の変位を計測する構造物変位計測システムであって、
レーザー光を出射するレーザー発振部を有し、前記主桁上に配置されたレーザー光照射手段と、前記レーザー光照射手段から出射されたレーザー光を受光するとともに、該レーザー光の受光位置を検出可能な受光部を有し、前記レーザー光照射手段から出射される前記レーザー光の出射方向に、前記レーザー光照射手段から所定距離離れて前記主桁上に配置されたターゲット部材とを、それぞれn個(n≧2)ずつ有し、
前記n個の前記レーザー光照射手段それぞれから出射されるレーザー光の出射角度を所定角度に調整するレーザー角度調整手段と、
前記n個の前記ターゲット部材の前記受光部それぞれで得られる受光位置についての位置情報に基づいて、前記n個の前記ターゲット部材それぞれが配置された前記主桁上の部位の鉛直方向の成分の変位量を算出可能な変位量算出手段と、
を備え、
前記n個の前記レーザー光照射手段は全て前記橋梁の前記主桁のうちの同一の一つの主桁に配置され、前記n個の前記ターゲット部材のそれぞれは、前記n個の前記レーザー光照射手段それぞれから前記同一の一つの主桁の長手方向に所定距離離れて前記同一の一つの主桁に配置されており、
前記n個の前記レーザー光照射手段と前記n個の前記ターゲット部材のうち、第k+1番目(1≦k≦n-1)の前記レーザー光照射手段と第k番目(1≦k≦n)の前記ターゲット部材とは、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離Miがほぼゼロとなるように、互いに前記同一の一つの主桁上で前記橋梁の橋軸方向と垂直な方向に並んで配置され、前記n個の前記レーザー光照射手段と前記n個のターゲット部材のうち、第k(1≦k≦n)番目の前記レーザー光照射手段から第k(1≦k≦n)番目の前記ターゲット部材へと向かう方向は、前記第k番目の前記レーザー光照射手段から出射されるレーザー光の出射方向であり、且つ第1番目の前記レーザー光照射手段と第n番目の前記ターゲット部材との間の、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離Snが、以下の関係式1、即ち、
【数1】
(前記関係式1中、
L1は、1番目のレーザー光照射手段の配置位置と1番目のターゲット部材の配置位置との間の、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離であり、
Liは、i番目のレーザー光照射手段の配置位置とi番目のターゲット部材の配置位置との間の、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離であり、
Miは、i番目のターゲット部材の配置位置とi+1番目のレーザー光照射手段の配置位置との間の、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離である)
を満たし、且つ、前記距離Snが前記同一の一つの主桁の長手方向全長にほぼ等しくなるように、前記n個の前記レーザー光照射手段と前記n個の前記ターゲット部材は配置され、
前記変位量算出手段は、第1の時間に第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から前記レーザー角度調整手段で所定角度に調整されて出射したレーザー光が前記第(n-1)番目の前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第1位置情報と、前記第1の時間後の第2の時間に前記第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から前記レーザー角度調整手段で前記所定角度に調整されて出射したレーザー光が前記第(n-1)番目の前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第2位置情報との差分情報に基づいて、前記第(n-1)番目の前記ターゲット部材が配置された前記主桁上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの第(n-1)構造変位量を算出可能であり、また、前記第1の時間に第n番目の前記レーザー光照射手段から前記レーザー角度調整手段で所定角度に調整されて出射したレーザー光が前記第n番目の前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第1位置情報と、前記第1の時間後の第2の時間に前記第n番目の前記レーザー照射手段から前記レーザー角度調整手段で前記所定角度に調整されて出射したレーザー光が前記第n番目の前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第2位置情報との差分情報に基づいて、前記第n番目の前記ターゲット部材が配置された前記主桁上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの第n構造変位量を算出可能であり、
前記変位量算出手段で算出可能な前記第(n-1)構造変位量と前記第n構造変位量は、前記ターゲット部材が配置された前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向成分の変位量であることを特徴とする構造物変位計測システム。
【請求項2】
橋梁の主桁上の部位の変位を計測する構造物変位計測システムであって、
レーザー光を出射するレーザー発振部を有し、前記主桁上に配置されたレーザー光照射手段、前記レーザー光照射手段から出射される前記レーザー光の出射方向に、前記レーザー光照射手段から所定距離離れて前記主桁上に配置された、前記レーザー光を反射する反射部材、及び前記主桁上の前記レーザー光照射手段それぞれに近接して配置され、前記反射部材で反射された前記レーザー光の反射光を受光するとともに、該反射光の受光位置を検出可能な反射光受光部を、それぞれn個(n≧2)ずつ有し、
前記n個の前記レーザー光照射手段それぞれから出射されるレーザー光の出射角度を検出するレーザー角度検出手段と、
前記レーザー角度検出手段で検出して得られる、前記n個の前記レーザー光照射手段から出射されるレーザー光それぞれの出射角度情報、および前記n個の前記反射光受光部それぞれで得られる前記反射光の受光位置についての位置情報に基づいて、前記n個の前記反射部材それぞれが配置された前記主桁上の部位の鉛直方向の成分の変位量を算出可能な変位量算出手段と、
を備え、
前記n個のレーザー光照射手段および前記n個の反射光受光部は全て前記橋梁の前記主桁のうちの同一の一つの主桁に配置され、前記n個の反射部材のそれぞれは、前記n個のレーザー光照射手段それぞれから前記同一の一つの主桁の長手方向に所定距離離れて前記同一の一つの主桁に配置されており、
前記n個の前記レーザー光照射手段と前記n個の前記反射部材のうち、第k+1番目(1≦k≦n-1)の前記レーザー光照射手段と第k番目(1≦k≦n)の前記反射部材とは、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離Miがほぼゼロとなるように、互いに前記同一の一つの主桁上で前記橋梁の橋軸方向と垂直な方向に並んで配置され、前記n個の前記レーザー光照射手段及び前記n個の前記反射部材のうち、第k番目(1≦k≦n)の前記レーザー光照射手段から第k番目(1≦k≦n)の前記反射部材へと向かう方向は、第k番目の前記レーザー光照射手段から出射されるレーザー光の出射方向であり、且つ第1番目の前記レーザー光照射手段と第n番目の前記反射部材との間の、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離Snが、以下の関係式2、即ち、
【数2】
(前記関係式2中、
L1は、1番目のレーザー光照射手段の配置位置と1番目の反射部材の配置位置との間の、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離であり、
Liは、i番目のレーザー光照射手段の配置位置とi番目の反射部材の配置位置との間の、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離であり、
Miは、i番目の反射部材の配置位置とi+1番目のレーザー光照射手段の配置位置との間の、前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向と直交する一定の方向における距離である)
を満たし、且つ、前記距離Snが前記同一の一つの主桁の長手方向全長にほぼ等しくなるように、前記n個の前記レーザー光照射手段と前記n個の前記反射部材は配置され、
前記変位量算出手段は、第1の時間に第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第1出射角度と、前記第1の時間後の第2の時間に前記第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第2出射角度との出射角度差分情報、および前記第2の時間に前記第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光が前記第(n-1)番目の前記反射部材で反射して前記第(n-1)番目の前記反射光受光部に受光されて得られる受光位置についての位置情報に基づいて、前記第(n-1)番目の前記反射部材が配置された前記主桁上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの第(n-1)構造変位量を算出可能であり、また、前記第1の時間に前記第n番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第1出射角度と、前記第1の時間後の第2の時間に前記第n番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第2出射角度との出射角度差分情報、および前記第2の時間に前記第n番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光が前記第n番目の前記反射部材で反射して前記第n番目の前記反射光受光部に受光されて得られる受光位置についての位置情報に基づいて、前記第n番目の前記反射部材が配置された前記主桁上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの第n構造変位量を算出可能であり、
前記変位量算出手段で算出可能な前記第(n-1)構造変位量と前記第n構造変位量は、前記反射部材が配置された前記同一の一つの主桁上の部位の鉛直方向成分の変位量であることを特徴とする構造物変位計測システム。
【請求項3】
前記n個の前記レーザー光照射手段のうち、第1番目の前記レーザー光照射手段は、橋梁の下部構造の支承付近に配置されていることを特徴とする請求項又はに記載の構造物変位計測システム。
【請求項4】
前記レーザー光照射手段および前記ターゲット部材は、前記同一の一つの主桁の下面に設置されていることを特徴とする請求項に記載の構造物変位計測システム。
【請求項5】
前記レーザー光照射手段および前記反射部材は、前記同一の一つの主桁の下面に設置されていることを特徴とする請求項に記載の構造物変位計測システム。
【請求項6】
前記変位量算出手段は、外部接続可能なコンピュータであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の構造物変位計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物変位計測システムに関し、詳細には、構造物の変位の検出に好適に用いることができる構造物変位計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工事中の橋梁の施工管理や供用開始後の橋梁の維持管理において、橋梁上部構造の鉛直変位の計測が行われており、その計測においては接触式変位計による計測だけでなく、レーザー照射装置を用いた非接触の計測も行われている(特許文献1)。
【0003】
また、橋梁などの構造物の変位を、加速度センサーで測定した測定データをモニタリングすることで行うモニタリングシステムが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-249548号公報
【文献】特開2019-215203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、レーザー光源を地面や橋梁に設置された足場など橋梁外に設置して外部から橋梁の変位を測定するものである。そのため、当該変位は、橋梁全体が地面に対して変位する変位量も含んで測定されることとなり、橋梁の特定箇所の変位を検出するには、それら変位量を考慮して補正を行うことが必要になるなど手間がかかる。また、測定対象が橋梁の中間部位などの局所的なたわみ変位などである場合にはレーザー光源設置のための特別な足場などが必要となったり、レーザー光源が橋梁外のため被測定箇所までの距離を長くとらざるを得なくなり、角度誤差など得られる変位データの精度誤差が大きくなるという問題もある。また、橋梁上部構造全体の変位性状を把握することについては考慮されていない。
【0006】
また、特許文献2に係る技術は加速度センサーから得られる加速度データに基づき構造物の変位をモニタリングするため、加速度データの経時変化を時間積分して取得することが必要であり、一定時間、ひいては常時、加速度データの取得動作を継続する必要があるため、計測をモニタしている時間的負担が大きい。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、構造物のたわみ変位を計測する時間的負担が小さく、且つ、精度高く計測することができる構造物変位計測システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記課題を解決する発明であり、例えば、以下の構造物変位計測システムである。
【0009】
即ち、本発明に係る構造物変位計測システムの第1の態様は、構造物上の部位の変位を計測する構造物変位計測システムであって、レーザー光を出射するレーザー発振部を有し、前記構造物上に配置されたレーザー光照射手段と、前記レーザー光照射手段から出射されるレーザー光の出射角度を所定角度に調整するレーザー角度調整手段と、前記レーザー光照射手段から出射されたレーザー光を受光するとともに、該レーザー光の受光位置を検出可能な受光部を有し、前記レーザー光照射手段から出射される前記レーザー光の出射方向に、前記レーザー光照射手段から所定距離離れて前記構造物上に配置されたターゲット部材と、第1の時間に前記レーザー光照射手段から出射され、前記レーザー角度調整手段で所定角度に調整されたレーザー光が前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第1位置情報と、前記第1の時間後の第2の時間に前記レーザー光照射手段から出射され、前記レーザー角度調整手段で前記所定角度に調整されたレーザー光が前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第2位置情報との差分情報から、前記ターゲット部材が配置された前記構造物上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの所定方向の変位量を算出可能な変位量算出手段と、を有することを特徴とする構造物変位計測システムである。
【0010】
また、本発明に係る構造物変位計測システムの第2の態様は、構造物上の部位の変位を計測する構造物変位計測システムであって、レーザー光を出射するレーザー発振部を有し、前記構造物上に配置されたレーザー光照射手段と、前記レーザー光照射手段から出射されるレーザー光の出射角度を検出するレーザー角度検出手段と、前記レーザー光照射手段から出射される前記レーザー光の出射方向に、前記レーザー光照射手段から所定距離離れて前記構造物上に配置された、前記レーザー光を反射する反射部材と、前記構造物上の前記レーザー光照射手段に近接して配置され、前記反射部材で反射された前記レーザー光の反射光を受光するとともに、該反射光の受光位置を検出可能な反射光受光部と、前記レーザー角度検出手段で検出して得られるレーザー光の出射角度情報、および前記反射光受光部で受光した前記反射光の受光位置についての位置情報に基づいて前記反射部材が配置された構造物上の部位の所定方向の変位量を算出可能な変位量算出手段と、を有し、前記変位量算出手段は、第1の時間に前記レーザー光照射手段から出射されたレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第1出射角度と、前記第1の時間後の第2の時間に前記レーザー光照射手段から出射されたレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第2出射角度との出射角度差分情報、および前記第2の時間に出射された前記レーザー光が前記反射部材で反射して前記反射光受光部に受光されて得られる受光位置についての位置情報に基づいて、前記反射部材が配置された構造物上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの所定方向の変位量を算出可能なことを特徴とする構造物変位計測システムである。
【0011】
また、本発明に係る構造物変位計測システムの第3の態様は、構造物上の部位の変位を計測する構造物変位計測システムであって、レーザー光を出射するレーザー発振部を有し、前記構造物上に配置されたレーザー光照射手段と、前記レーザー光照射手段から出射されたレーザー光を受光するとともに、該レーザー光の受光位置を検出可能な受光部を有し、前記レーザー光照射手段から出射される前記レーザー光の出射方向に、前記レーザー光照射手段から所定距離離れて前記構造物上に配置されたターゲット部材とを、それぞれn個(n≧2)ずつ有し、前記n個の前記レーザー光照射手段それぞれから出射されるレーザー光の出射角度を所定角度に調整するレーザー角度調整手段と、前記n個の前記ターゲット部材の前記受光部それぞれで得られる受光位置についての位置情報に基づいて、前記n個の前記ターゲット部材それぞれが配置された前記構造物上の部位の所定方向の変位量を算出可能な変位量算出手段と、を備え、前記n個の前記レーザー光照射手段と前記n個のターゲット部材のうち、第k番目(1≦k≦n)の前記レーザー光照射手段から第k(1≦k≦n)番目の前記ターゲット部材へと向かう方向は、前記第k番目の前記レーザー光照射手段から出射されるレーザー光の出射方向であり、且つ第1番目の前記レーザー光照射手段と第n番目の前記ターゲット部材との間の、前記所定方向と直交する一定の方向における距離Snが、以下の関係式1、即ち、
【数1】
(前記関係式1中、
L1は、1番目のレーザー光照射手段の配置位置と1番目のターゲット部材の配置位置との間の、前記所定方向と直交する一定の方向における距離であり、
Liは、i番目のレーザー光照射手段の配置位置とi番目のターゲット部材の配置位置との間の、前記所定方向と直交する一定の方向における距離であり、
Miは、i番目のターゲット部材の配置位置とi+1番目のレーザー光照射手段の配置位置との間の、前記所定方向と直交する一定の方向における距離である)
を満たすように配置され、前記変位量算出手段は、第1の時間に第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から前記レーザー角度調整手段で所定角度に調整されて出射したレーザー光が前記第(n-1)番目の前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第1位置情報と、前記第1の時間後の第2の時間に前記第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から前記レーザー角度調整手段で前記所定角度に調整されて出射したレーザー光が前記第(n-1)番目の前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第2位置情報との差分情報に基づいて、前記第(n-1)番目の前記ターゲット部材が配置された前記構造物上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの第(n-1)構造変位量を算出可能であり、また、前記第1の時間に第n番目の前記レーザー光照射手段から前記レーザー角度調整手段で所定角度に調整されて出射したレーザー光が前記第n番目の前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第1位置情報と、前記第1の時間後の第2の時間に前記第n番目の前記レーザー照射手段から前記レーザー角度調整手段で前記所定角度に調整されて出射したレーザー光が前記第n番目の前記ターゲット部材の前記受光部に受光されて得られる受光位置についての第2位置情報との差分情報に基づいて、前記第n番目の前記ターゲット部材が配置された前記構造物上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの第n構造変位量を算出可能であることを特徴とする構造物変位計測システムである。
【0012】
ここで、「前記所定方向と直交する一定の方向における距離Sn」とは、第1番目の前記レーザー光照射手段から第n番目のターゲット部材までの、変位測定する方向と直交する一定の方向における距離のことであり、例えば、橋梁の上部構造上の部位の鉛直方向の変位量を算出する場合には、鉛直方向と直交する一定の方向、つまり一定の水平方向における距離をいう。この場合、レーザー光照射手段と、レーザー光を受光するターゲット部材とが一定の水平方向から角度を以て配置されている場合でも、「所定方向と直交する一定の方向における距離Sn」は、当該一定の水平方向における距離をいう。
【0013】
また、橋梁の上部構造上の部位の鉛直方向の変位量を算出する場合、「前記所定方向と直交する一定の方向」となる一定の水平方向を、例えば、当該橋梁の橋軸方向とすることができ、この場合、当該橋梁の橋軸方向の所定の範囲について、当該橋梁の上部構造における鉛直方向の変位量の分布を算出することができる。
【0014】
また、前記関係式1を「満たすように配置され、」と記載しているが、レーザー照射手段やターゲット部材の多少の配置ずれ、誤差等により前記関係式1を満たさないものであっても、本願発明の効果を奏する範囲のものであれば、本発明に係る構造物変位計測システムの第3の態様の範囲内であることは言うまでもない。
【0015】
また、本発明に係る構造物変位計測システムの第4の態様は、構造物上の部位の変位を計測する構造物変位計測システムであって、レーザー光を出射するレーザー発振部を有し、前記構造物上に配置されたレーザー光照射手段、前記レーザー光照射手段から出射される前記レーザー光の出射方向に、前記レーザー光照射手段から所定距離離れて前記構造物上に配置された、前記レーザー光を反射する反射部材、及び前記構造物上の前記レーザー光照射手段それぞれに近接して配置され、前記反射部材で反射された前記レーザー光の反射光を受光するとともに、該反射光の受光位置を検出可能な反射光受光部を、それぞれn個(n≧2)ずつ有し、前記n個の前記レーザー光照射手段それぞれから出射されるレーザー光の出射角度を検出するレーザー角度検出手段と、前記レーザー角度検出手段で検出して得られる、前記n個の前記レーザー光照射手段から出射されるレーザー光それぞれの出射角度情報、および前記n個の前記反射光受光部それぞれで得られる前記反射光の受光位置についての位置情報に基づいて、前記n個の前記反射部材それぞれが配置された構造物上の部位の所定方向の変位量を算出可能な変位量算出手段と、を備え、前記n個の前記レーザー光照射手段及び前記n個の前記反射部材のうち、第k番目(1≦k≦n)の前記レーザー光照射手段から第k番目(1≦k≦n)の前記反射部材へと向かう方向は、第k番目の前記レーザー光照射手段から出射されるレーザー光の出射方向であり、且つ第1番目の前記レーザー光照射手段と第n番目の前記反射部材との間の、前記所定方向と直交する一定の方向における距離Snが、以下の関係式2、即ち、
【数2】
(前記関係式2中、
L1は、1番目のレーザー光照射手段の配置位置と1番目の反射部材の配置位置との間の、前記所定方向と直交する一定の方向における距離であり、
Liは、i番目のレーザー光照射手段の配置位置とi番目の反射部材の配置位置との間の、前記所定方向と直交する一定の方向における距離であり、
Miは、i番目の反射部材の配置位置とi+1番目のレーザー光照射手段の配置位置との間の、前記所定方向と直交する一定の方向における距離である)
を満たすように配置され、前記変位量算出手段は、第1の時間に第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第1出射角度と、前記第1の時間後の第2の時間に前記第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第2出射角度との出射角度差分情報、および前記第2の時間に前記第(n-1)番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光が前記第(n-1)番目の前記反射部材で反射して前記第(n-1)番目の前記反射光受光部に受光されて得られる受光位置についての位置情報に基づいて、前記第(n-1)番目の前記反射部材が配置された前記構造物上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの第(n-1)構造変位量を算出可能であり、また、前記第1の時間に前記第n番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第1出射角度と、前記第1の時間後の第2の時間に前記第n番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光の出射角度を前記レーザー角度検出手段で検出して得られる第2出射角度との出射角度差分情報、および前記第2の時間に前記第n番目の前記レーザー光照射手段から出射したレーザー光が前記第n番目の前記反射部材で反射して前記第n番目の前記反射光受光部に受光されて得られる受光位置についての位置情報に基づいて、前記第n番目の前記反射部材が配置された前記構造物上の部位の前記第1の時間から前記第2の時間までの第n構造変位量を算出可能であることを特徴とする構造物変位計測システムである。
【0016】
ここで、「所定方向と直交する一定の方向における距離Sn」とは、第1番目の前記レーザー光照射手段から第n番目の反射部材までの、変位測定する方向と直交する一定の方向における距離のことであり、例えば、橋梁の上部構造上の部位の鉛直方向の変位量を算出する場合には、鉛直方向と直交する一定の方向、つまり一定の水平方向における距離をいう。この場合、レーザー光照射手段と、レーザー光を反射する反射部材とが一定の水平方向から角度を以て配置されている場合でも、「所定方向と直交する一定の方向における距離Sn」は、当該一定の水平方向における距離をいう。
【0017】
また、橋梁の上部構造上の部位の鉛直方向の変位量を算出する場合、「前記所定方向と直交する一定の方向」となる一定の水平方向を、例えば、当該橋梁の橋軸方向とすることができ、この場合、当該橋梁の橋軸方向の所定の範囲について、当該橋梁の上部構造における鉛直方向の変位量の分布を算出することができる。
【0018】
また、前記関係式2を「満たすように配置され、」と記載しているが、レーザー照射手段や反射部材の多少の配置ずれ、誤差等により前記関係式2を満たさないものであっても、本願発明の効果を奏する範囲のものであれば、本発明に係る構造物変位計測システムの第4の態様の範囲内であることは言うまでもない。
【0019】
なお、第5の態様として、前記第1の態様の構造物変位計測システムの前記変位量算出手段で算出可能な前記所定方向の変位量は、前記ターゲット部材が配置された前記構造物上の部位の鉛直方向成分の変位量であってもよい。
【0020】
また、第6の態様として、前記第2の態様の構造物変位計測システムの前記変位量算出手段で算出可能な前記所定方向の変位量は、前記反射部材が配置された前記構造物上の部位の鉛直方向成分の変位量であってもよい。
【0021】
また、第7の態様として、前記第3の態様の構造物変位計測システムの前記変位量算出手段で算出可能な前記第(n-1)構造変位量と前記第n構造変位量は、前記ターゲット部材が配置された前記構造物上の部位の鉛直方向成分の変位量であってもよい。
【0022】
また、第8の態様として、前記第4の態様の構造物変位計測システムの前記変位量算出手段で算出可能な前記第(n-1)構造変位量と前記第n構造変位量は、前記反射部材が配置された前記構造物上の部位の鉛直方向成分の変位量であってもよい。
【0023】
また、第9の態様として、前記第5の態様の構造物変位計測システムにおいて、前記構造物は橋梁の上部構造であり、該上部構造は主桁を有し、前記レーザー光照射手段は前記上部構造の前記主桁に配置され、前記ターゲット部材は前記レーザー光照射手段から前記主桁の長手方向に所定距離離れて前記主桁と同一の一つの主桁に設置されており、前記変位量算出手段は、前記ターゲット部材が配置された前記主桁上の部位の鉛直方向成分の変位量を算出可能である、ように構成してもよい。
【0024】
ここで、本願において主桁とは、当該橋梁の上部構造の主要構造部材で、当該橋梁の橋軸方向に延びる部材であり、当該橋梁の上部構造に加わる鉛直荷重を支持して下部構造へ伝達する部材のことである。
【0025】
また、主桁の長手方向は、当該主桁がたわんでいる場合は、その接線方向のことを意味するものとする。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0026】
また、第10の態様として、前記第6の態様の構造物変位計測システムにおいて、前記構造物は橋梁の上部構造であり、該上部構造は主桁を有し、前記レーザー光照射手段は前記上部構造の前記主桁に配置され、前記反射部材は前記レーザー光照射手段から前記主桁の長手方向に所定距離離れて前記主桁と同一の一つの主桁に設置されており、前記変位量算出手段は、前記反射部材が配置された前記主桁上の部位の鉛直方向成分の変位量を算出可能である、ように構成してもよい。
【0027】
また、第11の態様として、前記第7の態様の構造物変位計測システムにおいて、前記構造物は橋梁の上部構造であり、該上部構造は主桁を有し、前記n個の前記レーザー光照射手段は全て前記上部構造の前記主桁のうちの同一の一つの主桁に配置され、前記n個の前記ターゲット部材のそれぞれは、前記n個の前記レーザー光照射手段それぞれから前記同一の一つの主桁の長手方向に所定距離離れて前記同一の一つの主桁に配置されており、前記変位量算出手段は、前記ターゲット部材が配置された前記主桁上の部位の鉛直方向成分の変位量を算出可能である、ように構成してもよい。
【0028】
また、第12の態様として、前記第8の態様の構造物変位計測システムにおいて、前記構造物は橋梁の上部構造であり、該上部構造は主桁を有し、前記n個の前記レーザー光照射手段は全て前記上部構造の前記主桁のうちの同一の一つの主桁に配置され、前記n個の前記反射部材のそれぞれは、前記n個の前記レーザー光照射手段それぞれから前記同一の一つの主桁の長手方向に所定距離離れて前記同一の一つの主桁に配置されており、前記変位量算出手段は、前記反射部材が配置された前記主桁上の部位の鉛直方向成分の変位量を算出可能である、ように構成してもよい。
【0029】
また、第13の態様として、前記第11又は第12の態様の構造物変位計測システムにおいて、前記n個の前記レーザー光照射手段のうち、第1番目の前記レーザー光照射手段は、橋梁の下部構造の支承付近に配置されていてもよい。
【0030】
このように第1番目のレーザー光照射手段を、比較的変位の少ない橋梁の下部構造の支承付近に配置することにより、当該第1番目のレーザー光照射手段の配置位置から、任意の距離にある橋梁の所定部位における絶対変位量を精度よく算出することが可能となる。
【0031】
また、第14の態様として、前記第9又は第11の態様の構造物変位計測システムにおいて、前記レーザー光照射手段および前記ターゲット部材は、前記同一の一つの主桁の下面に設置されていてもよい。
【0032】
また、第15の態様として、前記第10又は第12の態様の構造物変位計測システムにおいて、前記レーザー光照射手段および前記反射部材は、前記同一の一つの主桁の下面に設置されていてもよい。
【0033】
また、第16の態様として、前記第13の態様の構造物変位計測システムにおいて、前記距離Snは、前記同一の一つの主桁の長手方向全長にほぼ等しくてもよく、かかる構成により、当該システムが搭載される橋梁全長の変位分布を把握することができる。即ち、「前記距離Snは、前記同一の一つの主桁の長手方向全長にほぼ等しい」とは、前記同一の一つの主桁の長手方向全長の各部にわたって、鉛直方向成分の変位量を所定以上の精度で推定可能とするのに必要な長さを、前記距離Snが有しているということを意味する。
【0034】
また、第17の態様として、前記第1~16の態様の構造物変位計測システムにおいて、前記変位量算出手段は、外部接続可能なコンピュータであってもよい。
【0035】
なお、前記レーザー光照射手段は、出射するレーザー光の出射角度検出手段として、傾斜センサーを搭載するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、構造物のたわみ変位を計測する時間的負担が小さく、且つ、精度高く計測することができる構造物変位計測システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の第1実施形態に係る構造物変位計測システム10を模式的に示す側面図
図2】実際の計測を行う際に用いる一般的な機器類も追記した本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10のシステム概略構成図
図3】実際の計測を行う際に用いる一般的な機器類も追記した本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10のブロック図
図4】橋梁100の上部構造102の主桁104における反射部材14の設置地点である位置P2に、相対的な鉛直変位v(主桁104の下面へのレーザー光照射手段12の設置位置(位置P1)に対する、主桁104の下面への反射部材14の設置位置(位置P2)の鉛直方向の位置座標の差)が生じた状態を示す側面図
図5】本発明の第2実施形態に係る構造物変位計測システム20を模式的に示す側面図
図6】実際の計測を行う際に用いる一般的な機器類も追記した本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20のシステム概略構成図
図7】実際の計測を行う際に用いる一般的な機器類も追記した本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20のブロック図
図8】橋梁100の上部構造102の主桁104におけるターゲット24の設置地点である位置P2に、相対的な鉛直変位v(主桁104の下面へのレーザー光照射手段22の設置位置(位置P1)に対する、主桁104の下面へのターゲット24の設置位置(位置P2)の鉛直方向の位置座標の差)が生じた状態を示す側面図
図9】本発明の第3実施形態に係る構造物変位計測システム40を模式的に示す下面図
図10】本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40を適用した橋梁100の上部構造102の鉛直断面図(図9のX-X線で鉛直方向に切断した断面図)
図11図10のXI部を拡大して示す拡大鉛直断面図
図12】変位計測手段42が4組の場合(n=4の場合)についての側面図であり、橋梁100の上部構造102の主桁104におけるターゲット24の設置地点である位置P11、P12、P13、P14に、レーザー光Lhの発振点に対する相対的な鉛直変位v1、v2、v3、v4が生じた状態を示す側面図
図13】橋梁100の上部構造102の全体の鉛直方向の変形状態を模式的に示す側面図
図14】本発明の第4実施形態に係る構造物変位計測システム50を模式的に示す側面図
図15】本発明の第5実施形態に係る構造物変位計測システム60を模式的に示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して、本発明に係る構造物変位計測システムの実施形態を詳細に説明する。
【0039】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る構造物変位計測システム10を模式的に示す側面図であり、図2は、実際の計測を行う際に用いる一般的な機器類も追記した本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10のシステム概略構成図であり、図3は、実際の計測を行う際に用いる一般的な機器類も追記した本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10のブロック図である。図1は、主桁104に荷重が加わっていない状態を示しており、主桁104にたわみが生じていない状態を示している。
【0040】
本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10は、橋梁100の上部構造102の所定の2つの位置P1、P2についての位置座標の差を、鉛直方向について計測する構造物変位計測システムである。
【0041】
本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10は、図1に示すように、レーザー光照射手段12と、反射部材14と、を有してなる。レーザー光照射手段12と反射部材14は、どちらも、橋梁100の上部構造102の主桁104の下面に設置されており、レーザー光照射手段12は位置P1に、反射部材14は位置P2に設置されている。詳細には、図1では、レーザー光照射手段12から反射部材14の反射部14Aの中心部付近に当たるようにレーザー光Lを照射すると、そのレーザー光Lの方向が、主桁104の長手方向になるような位置に、レーザー光照射手段12と反射部材14は設置されている。
【0042】
レーザー光照射手段12は、レーザー光Lを発振して出射するレーザー発振部12Aを搭載している。また、レーザー光照射手段12は、出射したレーザー光Lの出射角度(例えば水平面に対する角度)を検出するレーザー光出射角度検出手段としての公知の傾斜センサー(図示せず)を搭載している。さらに、レーザー光照射手段12は、当該レーザー光照射手段のレーザー発振部12Aに近接して設けられたレーザー受光素子(図示せず)を搭載している。
【0043】
このレーザー受光素子と、レーザー光照射手段12と、反射部材14の一部である反射部14Aとで、いわゆるレーザー変位センサーを構成している。即ち、反射部材14に照射したレーザー光Lが反射部材14の反射部14Aで反射されて戻ってきた反射光Rを、前記レーザー受光素子で受光した受光スポットの強度等に基づいて受光位置を検出でき、それによってレーザー発振部12Aから反射部材14までの距離を計測できるものである。
【0044】
そのため、レーザー光出射角度検出手段である傾斜センサーで得たレーザー光出射角度情報と、レーザー変位センサーで得た、レーザー光照射手段12のレーザー発振部12Aから反射部14Aまでの距離情報により、三角測量の原理を利用して鉛直方向の変位量を計測することができる。
【0045】
つまり、例えば主桁に荷重がかかっていない状態時(第1の時間時)に前述したレーザー光出射角度情報と距離情報を計測しておき、その後、例えば主桁に荷重が掛かった状態時(第1の時間後の第2の時間時)に同じくレーザー光出射角度情報と距離情報を計測し、それらの差分情報に基づき、荷重がかかっていない状態から鉛直方向にどれだけ変位したかの変位量を算出することができる。
【0046】
なお、レーザー光照射手段12から照射されたレーザー光Lを反射する反射部材14の反射部14Aは、レーザー光照射手段12から照射されたレーザー光Lを十分に反射することができる素材を用いて、反射面が平面となるように構成されており、具体的には例えば、白色の反射シートを平面に貼り付けて構成されていてもよく、また、白色の反射板で構成されていてもよい。
【0047】
レーザー光照射手段12には、インターネット200に接続可能な通信機器16が外付けされており、現場から離れた事務所等から、コンピュータ18を用いて、レーザー光照射手段12と電気信号のやり取りをすることができるように構成している。コンピュータ18には変位量算出部18Aと指示部18Bが備えられており、変位量算出部18Aと指示部18Bは、コンピュータ18のハードウェアやソフトウェアによって実行されるように構成されている。レーザー光照射手段12に与える電気信号としては、レーザー光発振指令の電気信号、レーザー光照射手段12の電源の入り切りについての電気信号等があり、レーザー光照射手段12からコンピュータ18に送られる電気信号には、レーザー光照射手段12が計測した反射部材14までの距離についての電気信号、およびレーザー光照射手段12が計測したレーザー光Lの照射角度についての電気信号等がある。
【0048】
なお、通信機器16をモジュール化して、レーザー光照射手段12に組み込んで一体化させてもよい。
【0049】
次に、本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10による具体的な計測方法について説明する。図4は、橋梁100の上部構造102の主桁104における反射部材14の設置地点である位置P2に、例えば主桁に荷重がかかっていない状態の時点(第1の時間時)に対する、主桁に荷重がかかった状態となった時点(第2の時間時)の相対的な鉛直変位v(主桁104の下面へのレーザー光照射手段12の設置位置(位置P1)に対する、主桁104の下面への反射部材14の設置位置(位置P2)の鉛直方向の位置座標の差)が生じた状態を示す側面図である。この状態に対して構造物変位計測システム10による計測を行う場合について説明する。
【0050】
レーザー光照射手段12は反射部材14に向けてレーザー光Lを照射して、前述したレーザー変位センサーと前述したレーザー光出射角度検出手段としての傾斜センサーによりレーザー光照射手段12のレーザー光発振点12A1から反射部材14の受光点(反射点)14A1までの距離D、およびレーザー光照射手段12が照射するレーザー光Lの水平面に対する角度θを計測する。
【0051】
そして、計測した距離情報(レーザー光照射手段12のレーザー光発振点12A1から反射部材14の受光点(反射点)14A1までの距離D)と角度情報(レーザー光照射手段12が照射するレーザー光Lの水平面に対する角度θ)を変位量算出部18Aに入力し、変位量算出部18Aで、反射部材14が設置された位置P2における相対的な鉛直変位v(主桁104の下面へのレーザー光照射手段12の設置位置P1に対する、主桁104の下面への反射部材14の設置位置P2の鉛直方向の位置座標の差)を変位量として算出する。
【0052】
具体的には、まず、コンピュータ18の指示部18Bからレーザー光照射手段12へ、インターネット200および通信機器16を介して電気信号(レーザー光照射手段12の電源を入れる電気信号、レーザー光照射手段12からレーザー光Lを照射させる電気信号)を入力し、レーザー光照射手段12からレーザー光Lを反射部材14に照射させる。
【0053】
レーザー光照射手段12から反射部材14に照射したレーザー光Lは、反射部材14の反射部14Aで反射されて反射光Rとなってレーザー光照射手段12にもどり、レーザー光照射手段12のレーザー発振部12Aに近接して設けられた図示せぬ反射光受光部に受光される。反射光受光部で受光した反射光Rについてのデータを通信機器16により電気信号として発信する。発信された電気信号は、インターネット200を介して送られ、変位量算出部18Aが受信する。反射光Rについてのデータを受信した変位量算出部18Aは、反射光受光部で受光した反射光Rについてのデータに基づき、レーザー光照射手段12のレーザー光発振点12A1から反射部材14の受光点(反射点)14A1までの距離Dを算出し、距離情報データとして変位量算出部18Aに保持する。
【0054】
また、レーザー光照射手段12に搭載された傾斜センサーにより、反射部材14に照射したレーザー光Lの水平面に対する角度θデータを、電気信号として通信機器16により発信する。発信された電気信号は、インターネット200を介して送られ、コンピュータ18が受信する。レーザー光Lの水平面に対する角度θについてのデータを受信したコンピュータ18は、そのデータに基づき、レーザー光照射手段12が反射部材14に照射したレーザー光Lの水平面に対する角度θを算出し、この角度θを角度情報データとして変位量算出部18Aに出力する。
【0055】
変位量算出部18Aは、入力されるこれらの距離情報データと角度情報データとに基づいて反射部材14が設置された位置P2における、前述した相対的な鉛直変位vを算出する。具体的には、変位量算出部18Aは、例えば、距離情報データである距離Dと角度情報データである角度θを用いて、(前述した相対的な鉛直変位v)=D×tanθにより、前述した相対的な鉛直変位vを算出する。
【0056】
以上説明したように、本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10は、計測対象である橋梁100の主桁104自体に配置されているので、前述した相対的な鉛直変位vを精度高く計測することができる。また、前記第1の時間と前記第2の時間のみに計測すればよく、常時計測を継続する必要がないため、計測の時間的負担が小さい。
【0057】
なお、本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10においては、変位量算出部18Aを、橋梁の外側に配置されたコンピュータ18のハードウエアやソフトウエアで構成し、入力データを有線又は無線で変位量算出部18Aに入力できるように構成したが、前述した距離情報データや角度情報データが入力され、変位量を算出可能なものであれば変位量算出部18Aとして用いることができ、変位量算出部18Aは橋梁自体に設けられるものであってもよい。
【0058】
本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10についての以上の説明においては、図1、4に示すように、橋梁100の上部構造102の主桁104の下面に、構造物変位計測システム10を設置した場合について説明を行ったが、本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10の設置可能箇所は、橋梁上部構造の主桁下面に限定されるわけではない。また、計測対象が、橋梁100の上部構造102の所定の2つの位置P1、P2の間の鉛直方向についての位置座標の差に限定されるわけではない。
【0059】
なお、本第1実施形態に係る構造物変位計測システム10では、コンピュータ18の指示部18Bからレーザー光照射手段12へ、インターネット200および通信機器16を介して指示信号を入力するようにしたが、指示部18Bからレーザー光照射手段12へ有線又は無線接続にて指示信号を直接入力するようにしてもよい。
【0060】
(2)第2実施形態
図5は、本発明の第2実施形態に係る構造物変位計測システム20を模式的に示す側面図であり、図6は、実際の計測を行う際に用いる一般的な機器類も追記した本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20のシステム概略構成図であり、図7は、実際の計測を行う際に用いる一般的な機器類も追記した本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20のブロック図である。図5は、主桁104に荷重が加わっていない状態(主桁104にたわみが生じていない状態)を示しており、この状態を、以下、基準状態と記す。
【0061】
本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20は、橋梁100の上部構造102の所定の2つの位置P1、P2についての位置座標の差を、鉛直方向について計測する構造物変位計測システムであり、この点は第1実施形態に係る構造物変位計測システム10と同様である。
【0062】
本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20は、図5に示すように、レーザー光照射手段22と、ターゲット24と、を有してなる。レーザー光照射手段22とターゲット24は、どちらも、橋梁100の上部構造102の主桁104の下面に設置されており、レーザー光照射手段22は位置P1に、ターゲット24は位置P2に設置されている。詳細には、図5に示す基準状態(主桁104に荷重が加わっておらず、主桁104の下面が水平面である状態)において、レーザー光照射手段22からターゲット24の受光部24Aの中心部付近に当たるようにレーザー光Lhを照射すると、そのレーザー光Lhの方向が、主桁104の長手方向になるような位置に、レーザー光照射手段22とターゲット24は設置されている。
【0063】
レーザー光照射手段22は、レーザー光Lhを発振して対象物に照射するレーザー発振部22Aを搭載しており、対象物にレーザー光Lhを照射する機能を有している。また、レーザー光照射手段22は、傾斜センサー(図示せず)を搭載しているとともに、レーザー発振部22Aから照射したレーザー光Lhの照射方向が常に基準状態の照射方向と同方向となるように(図5および後述する図8において水平方向となるように)制御するサーボ機構(図示せず)も備えている。
【0064】
レーザー光照射手段22には、インターネット200に接続可能な通信機器26が外付けされており、現場から離れた事務所等から、コンピュータ30を用いて、レーザー光照射手段22と電気信号のやり取りをすることができるように構成している。コンピュータ30には変位量算出部30Aと指示部30Bが備えられており、変位量算出部30Aと指示部30Bは、コンピュータ30のハードウェアやソフトウェアによって実行されるように構成されている。レーザー光照射手段22に与える電気信号としては、レーザー光発振指令の電気信号、レーザー光照射手段22の電源の入り切りについての電気信号等がある。
【0065】
なお、通信機器26をモジュール化して、レーザー光照射手段22に組み込んで一体化させてもよい。
【0066】
ターゲット24は、レーザー光照射手段22から照射されたレーザー光Lhを受光してその受光した位置を検出する受光部24Aを備えている。レーザー光照射手段22から照射されたレーザー光Lhを受光して、その受光した位置を検出する機能を有している装置を、受光部24Aとして用いることができ、例えば、精密測光用2次元PSD(位置検出素子)を搭載したPSDモジュール(光点位置検出装置)を、受光部24Aとして用いることができる。このようなPSDモジュール(光点位置検出装置)は市販されており、容易に入手可能である。また、受光部24Aとして、例えば、1次元又は2次元イメージセンサを用いることもできる。
【0067】
ターゲット24には、インターネット200に接続可能な通信機器28が外付けされており、現場から離れた事務所等から、コンピュータ30を用いて、ターゲット24と電気信号のやり取りをすることができるように構成している。ターゲット24に与える電気信号としては、ターゲット24の受光部24Aの電源の入り切りについての電気信号等があり、ターゲット24からコンピュータ30に送られる電気信号には、ターゲット24の受光部24Aがレーザー光Lhを受光した位置(受光点24A1の位置)についての電気信号等がある。
【0068】
なお、通信機器28をモジュール化して、ターゲット24に組み込んで一体化させてもよい。
【0069】
次に、本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20による具体的な計測方法について説明する。図8は、橋梁100の上部構造102の主桁104におけるターゲット24の設置地点である位置P2に、相対的な鉛直変位v(主桁104の下面へのレーザー光照射手段22の設置位置(位置P1)に対する、主桁104の下面へのターゲット24の設置位置(位置P2)の鉛直方向の位置座標の差)が生じた状態を示す側面図である。この状態に対して構造物変位計測システム20による計測を行う場合について説明する。この状態において、主桁104の下面へのレーザー光照射手段22の設置位置P1に対する、主桁104の下面へのターゲット24の設置位置P2の鉛直方向の位置座標の差である相対的な鉛直変位vは、レーザー光Lhの発振点22A1に対する、ターゲット24の受光点24A0(第1の時間時である基準状態における受光点24A0)の鉛直方向の位置座標の差と同じである。
【0070】
構造物変位計測システム20による計測においては、相対的な鉛直変位vが生じた状態(第2の時間時である図8に示す状態)において、レーザー光照射手段22が照射したレーザー光Lhを受光部24Aが受光した受光位置(受光点24A1)の位置座標を計測し、基準状態における受光位置(受光点24A0)の位置座標との差から、ターゲット24が設置された位置P2における相対的な鉛直変位vを算出する。
【0071】
具体的には、まず、コンピュータ30の指示部30Bからレーザー光照射手段22へ、インターネット200および通信機器26を介して電気信号(レーザー光照射手段22の電源を入れる電気信号、レーザー光照射手段22からレーザー光Lhを照射させる電気信号)を入力し、レーザー光照射手段22からレーザー光Lhをターゲット24に照射させる。
【0072】
レーザー光照射手段22からターゲット24に照射したレーザー光Lhは、ターゲット24の受光部24Aで受光され、その受光点24A1は受光部24Aによって検出される。レーザー光Lhを受光したターゲット24は、レーザー光Lhを受光した位置(受光点24A1)についてのデータを通信機器28により電気信号として発信する。発信された電気信号は、インターネット200を介して送られ、コンピュータ30の変位量算出部30Aが受信する。
【0073】
変位量算出部30Aは、基準状態(第1の時間時)における受光部24Aの受光位置(受光点24A0)データと、変位計測時点(第2の時間時)における受光部24Aの受光位置(受光点24A1)データとから、ターゲット24が設置された位置P2における鉛直変位vを算出する。具体的には、変位量算出部30Aは、例えば、受光点24A0の鉛直方向の位置座標と、受光点24A1の鉛直方向の位置座標との差分を算出して、ターゲット24が設置された位置P2における鉛直変位vを算出する。
【0074】
以上説明したように、本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20は、計測対象である橋梁100の主桁104自体に配置されているので、前述した位置P2における鉛直変位vを精度高く計測することができる。また、前記第1の時間と前記第2の時間のみに計測すればよく、常時計測を継続する必要がないため、計測の時間的負担が小さい。
【0075】
本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20についての以上の説明においては、図5、8に示すように、橋梁100の上部構造102の主桁104の下面に、構造物変位計測システム20を設置した場合について説明を行ったが、本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20の設置可能箇所は、橋梁上部構造の主桁下面に限定されるわけではない。また、計測対象が、橋梁100の上部構造102の所定の2つの位置P1、P2の間の鉛直方向についての位置座標の差に限定されるわけではない。
【0076】
なお、本第2実施形態に係る構造物変位計測システム20では、コンピュータ30の指示部30Bからレーザー光照射手段22へ、インターネット200および通信機器26を介して指示信号を入力するようにしたが、指示部30Bからレーザー光照射手段22へ有線又は無線接続にて指示信号を直接入力するようにしてもよい。
【0077】
(3)第3実施形態
図9は、本発明の第3実施形態に係る構造物変位計測システム40を模式的に示す下面図であり、図10は、本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40を適用した橋梁100の上部構造102の鉛直断面図(図9のX-X線で鉛直方向に切断した断面図)であり、図11は、図10のXI部を拡大して示す拡大鉛直断面図である。
【0078】
本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40は、第2実施形態に係る構造物変位計測システム20を、橋梁100の橋軸直角方向から見て、橋梁100の橋軸方向に橋梁100の上部構造102の主桁104の下面に複数配置した構造物変位計測システムである。第1実施形態に係る構造物変位計測システム10では、レーザー光照射手段12および該レーザー光照射手段12からのレーザー光Lの照射を受ける反射部材14を一組の変位計測手段としたとき、一組の変位計測手段を備えるのみであり、また、第2実施形態に係る構造物変位計測システム20も、レーザー光照射手段22および該レーザー光照射手段22からのレーザー光Lhの照射を受けるターゲット24を一組の変位計測手段としたとき、一組の変位計測手段を備えるのみである。つまり、第1実施形態に係る構造物変位計測システム10および第2実施形態に係る構造物変位計測システム20は、少なくとも一組の変位計測手段のみによる限定された局所的な範囲における橋梁上部構造102内の所定の2つの位置の間の鉛直方向についての位置座標の差を計測する構造物変位計測システムであるが、本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40は、図9に示すように、レーザー光照射手段22とターゲット24とを有してなる第2実施形態に係る構造物変位計測システム20を、橋梁100の橋軸直角方向から見て、橋梁100の橋軸方向に橋梁100の上部構造102に複数配置した構造物変位計測システムであり、橋梁100の橋軸方向に広い範囲にわたって橋梁上部構造102内の所定の複数の位置の間の鉛直方向成分の変位量、即ち鉛直方向の位置座標の差を計測する構造物変位計測システムである。
【0079】
本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40の構成をより詳細に言えば、次のようになる。即ち、レーザー光照射手段22および該レーザー光照射手段22からのレーザー光Lhの照射を受けるターゲット24を一組の変位計測手段42とし、該一組の変位計測手段42に含まれるレーザー光照射手段22からターゲット24までの領域を一つの変位計測領域44としたとき、本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40においては、図9に示すように、橋梁100の上部構造102の主桁104の下面に複数組の変位計測手段42が設置されており、複数組の変位計測手段42のそれぞれの変位計測領域44のうち、最も近傍にある変位計測領域44同士の間には、レーザー光照射手段22から照射されるレーザー光Lhと直交する方向である橋梁100の橋軸直角方向から見て、所定の距離の間隔が空いている。
【0080】
より具体的には、本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40は、変位計測手段42をn組備え、変位計測手段42が図9の左上部から順に1組目からn組目まで配置されている。また、i組目(i=1、2、・・・、n)の変位計測手段42は、i番目(i=1、2、・・・、n)のレーザー光照射手段22とi番目(i=1、2、・・・、n)のターゲット24を備えている。
【0081】
そして、本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40においては、1番目のレーザー光照射手段22とn番目のターゲット24との間の、測定する変位量の方向と直交する一定の方向における距離、つまり図9では橋梁100の橋軸方向における距離をSnとしたとき、以下の関係式3が成り立っている。
【数3】
(前記関係式3中、
L1は、1番目のレーザー光照射手段22の配置位置と1番目のターゲット24の配置位置との間の、測定する変位量の方向と直交する一定の方向における距離(図9では橋梁100の橋軸方向における距離)であり、
Liは、i番目のレーザー光照射手段22の配置位置とi番目のターゲット24の配置位置との間の、測定する変位量の方向と直交する一定の方向における距離(図9では橋梁100の橋軸方向における距離)であり、
Miは、i番目のターゲット24の配置位置とi+1番目のレーザー光照射手段22の配置位置との間の、測定する変位量の方向と直交する一定の方向における距離(図9では橋梁100の橋軸方向における距離)である)
【0082】
したがって、複数組の変位計測手段42それぞれについて計測した相対的な鉛直変位vを、橋梁100の橋軸方向に組み合わせて解析することにより、橋梁100の橋軸方向に広い領域について、橋梁100の上部構造102の鉛直方向の変形状態を把握することができる。
【0083】
なお、図9では、n組の変位計測手段42(n個のレーザー光照射手段22とn個のターゲット24)は、橋梁100の橋軸方向にほぼ直線状に配置されているが、前記関係式3は必ずしもこのような配置状態でなくても成立し、測定する変位量の方向と直交する一定の方向について位置座標が異なるように、n組の変位計測手段42(n個のレーザー光照射手段22とn個のターゲット24)を配置すれば成立する。
【0084】
図12は、i番目のターゲット24とi+1番目のレーザー光照射手段22との橋梁100の橋軸方向における距離Miがほぼゼロとなるように隙間なく配置されている場合の、変位計測手段42が4組の場合(n=4の場合)についての側面図であり、橋梁100の上部構造102の主桁104におけるターゲット24の設置地点である位置P11、P12、P13、P14に、レーザー光Lhの発振点に対する相対的な鉛直変位v1、v2、v3、v4が生じた状態を示す側面図である。
【0085】
コンピュータ30は、図12の配置状態においては、基準状態における受光部24Aの受光位置データと、変位計測時点における受光部24Aの受光位置データとから、ターゲット24が設置された各位置における鉛直変位v1、v2、v3、v4を算出するとともに、算出した鉛直変位v1、v2、v3、v4を組み合わせて、4つの変位計測領域44(44a、44b、44c、44d)からなる領域についての橋梁100の上部構造102の鉛直方向の変形状態を算出する。
【0086】
また、例えば、1番目のレーザー光照射手段を橋梁主桁の橋軸方向の一端部(変位計測領域全体の一端部)の支承付近の部位に配置し、n番目のターゲット24を同じく橋梁主桁の橋軸方向の他端部(変位計測領域全体の他端部)の支承付近に配置して、橋梁主桁のほぼ全長を網羅するようにしてもよい。このように配置すれば、例えばk番目のターゲット24が配置された部位の鉛直変位量(基準状態からの鉛直変位量)は、各変位計測手段42(1番目からk番目の変位計測手段42)で算出される各鉛直変位の和(v1+v2+・・・+vk)で算出することが可能となる。
【0087】
本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40では、n組の変位計測手段42を設置して、n個の変位計測領域44からなる領域についての橋梁100の上部構造102の鉛直方向の変形状態を算出したが、橋梁100の上部構造102の支点106間の全範囲を網羅するように変位計測手段42をより多く設置して、全ての変位計測領域44について相対的な鉛直変位vを計測することにより、例えば図13に模式的に示すように、橋梁100の上部構造102の全体の鉛直方向の変形状態を把握することもできる。図13では、基準状態を破線で記し、変位計測時点の状態を実線で記している。
【0088】
なお、図12における配置状態では、i番目のターゲット24の配置位置とi+1番目のレーザー光照射手段22の配置位置との間の距離Miがほぼゼロであるように構成しているが、図9における配置状態のように、i番目のターゲット24とi+1番目のレーザー光照射手段22は、設置位置の寸法や状態によっては距離Mi(>0)を空けるように配置する場合もある。
【0089】
このような場合、Mi(>0)の間隔に応じて各部位で計測される鉛直変位に補正をする事により、上述と同様、各部位の橋梁主桁の端部からの変位量を算出することができる。
【0090】
例えば、i番目のレーザー光照射手段22設置位置の主桁104下面と橋梁100の橋軸方向とのなす角度θと、i+1番目のレーザー光照射手段22設置位置の主桁104下面と橋梁100の橋軸方向とのなす角度θi+1とから、i番目のターゲット設置位置の主桁104下面と橋梁100の橋軸方向とのなす角度θmiを推定して鉛直変位補正量(=Mi×tanθmi)を算出する方法がある。
【0091】
そしてこの場合、i番目のターゲット設置位置の主桁104下面と橋梁100の橋軸方向とのなす角度θmiは、LiとMiの距離の比率に応じて、例えば、
θmi=(Li×θi+1+Mi×θ)/(Li+Mi)
で算出することができる。
【0092】
また、本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40は、第2実施形態に係る構造物変位計測システム20を、橋梁100の上部構造102の主桁104の下面に複数配置した構造物変位計測システムであるので、第2実施形態に係る構造物変位計測システム20そのものについての説明は、前記「(2)第2実施形態」における説明で代えることとする(1組の変位計測手段42は、第2実施形態に係る構造物変位計測システム20と同じである)。
【0093】
また、本第3実施形態に係る構造物変位計測システム40は、第2実施形態に係る構造物変位計測システム20を複数用いた実施形態であったが、第2実施形態に係る構造物変位計測システム20に替えて、第1実施形態に係る構造物変位計測システム10を複数用いて構造物変位計測システムを構成してもよい。
【0094】
(4)第4実施形態
本発明の第1、第2実施形態に係る構造物変位計測システム10、20は、橋梁100の上部構造102の所定の2つの位置の間の鉛直方向についての位置座標の差を計測する構造物変位計測システムであり、本発明の第3実施形態に係る構造物変位計測システム40は、第2実施形態に係る構造物変位計測システム20を、橋梁100の橋軸直角方向から見て、橋梁100の橋軸方向に橋梁100の上部構造102に複数配置した構造物変位計測システムであり、本発明の第1、第2、第3実施形態に係る構造物変位計測システム10、20、40は、いずれも、橋梁100の上部構造102内の複数の位置の間の鉛直方向の位置座標の差を計測する構造物変位計測システムであるが、本発明の第4実施形態に係る構造物変位計測システム50は、地面300に立設する立設構造物302(例えば、橋梁の下部構造または建築物)内の複数の位置の間の水平方向の位置座標の差を計測する構造物変位計測システムである。
【0095】
図14は、本発明の第4実施形態に係る構造物変位計測システム50を模式的に示す側面図である。図14では、立設基準状態(立設構造物302に水平方向の変位が生じていない状態)を破線で記し、変位計測時点の状態を実線で記している。
【0096】
本第4実施形態に係る構造物変位計測システム50は、簡潔に言えば、第2、第3実施形態に係る構造物変位計測システム20、40を、地面300に立設する立設構造物302(例えば、橋梁の下部構造または建築物)に適用した実施形態である。本第4実施形態に係る構造物変位計測システム50では、レーザー光照射手段22および該レーザー光照射手段22からのレーザー光Lvの照射を受けるターゲット24を一体化したターゲット搭載レーザー光照射手段52を用いており、ターゲット搭載レーザー光照射手段52は鉛直方向にレーザー光Lvを照射する。したがって、本第4実施形態に係る構造物変位計測システム50では、地面300に立設する立設構造物302(例えば、橋梁の下部構造または建築物)内の複数の位置の間の水平方向の位置座標の差を計測する。
【0097】
前述したように、本第4実施形態に係る構造物変位計測システム50は、簡潔に言えば、第2、第3実施形態に係る構造物変位計測システム40を、地面300に立設する立設構造物302(例えば、橋梁の下部構造または建築物)に適用した実施形態であるので、上記以外の説明については、第2、第3実施形態に係る構造物変位計測システム20、40の説明をもって代えることとする。
【0098】
なお、図14では、ターゲット搭載レーザー光照射手段52を4つ描いており、変位計測領域は3つであるが、ターゲット搭載レーザー光照射手段52を5つ以上にして変位計測領域を4つ以上にしてもよく、また、ターゲット搭載レーザー光照射手段52を2つ、または3つにして、変位計測領域を1つ、または2つにしてもよい。
【0099】
また、本明細書において「地面に立設する」とは、地面の表面に立設している場合だけでなく、地面の表面から所定の長さだけ地中に埋め込んだ場合や、地中を掘り進んで支持地盤に立設させた場合や、杭を地中に打設して該杭の上に立設させた場合等も含む。
【0100】
(5)第5実施形態
図15は、本発明の第5実施形態に係る構造物変位計測システム60を模式的に示す側面図である。図15では、立設基準状態(立設構造物302に水平方向の変位が生じていない状態)を破線で記し、変位計測時点の状態を実線で記している。
【0101】
第4実施形態に係る構造物変位計測システム50では、第2、第3実施形態に係る構造物変位計測システム20、40で用いたレーザー光照射手段22およびターゲット24を一体化したターゲット搭載レーザー光照射手段52を用いたが、それに替えて、本第5実施形態に係る構造物変位計測システム60では、第1実施形態に係る構造物変位計測システム10で用いたレーザー光照射手段12および反射部材14を一体化した反射部材搭載レーザー光照射手段62を用いており、反射部材搭載レーザー光照射手段62は、傾斜センサー(図示せず)を搭載しており、照射したレーザー光Lの照射角度(例えば水平面に対する角度)を検出する機能も有している。さらに、反射部材搭載レーザー光照射手段62は、反射部材搭載レーザー光照射手段62の反射部材に照射したレーザー光Lが該反射部材の反射部で反射されて戻ってきた反射光Rを受光する受光部(図示せず)を搭載しており、戻ってきた反射光Rのデータから、前記反射部材までの距離を計測する機能も有している。
【0102】
本第5実施形態に係る構造物変位計測システム60では、レーザー光照射手段12および該レーザー光照射手段12からのレーザー光Lの照射を受ける反射部材14を一体化した反射部材搭載レーザー光照射手段62を用いており、反射部材搭載レーザー光照射手段62は立設基準状態において鉛直方向にレーザー光Lを照射する。したがって、本第5実施形態に係る構造物変位計測システム60では、地面300に立設する立設構造物302(例えば、橋梁の下部構造または建築物)内の水平方向の相対的な位置の変動を計測する。
【0103】
前述したように、本第5実施形態に係る構造物変位計測システム60では、第4実施形態に係る構造物変位計測システム50で用いたターゲット搭載レーザー光照射手段52に替えて反射部材搭載レーザー光照射手段62を用いている以外は、第4実施形態に係る構造物変位計測システム50と概ね同様であり、また前述したように、本第5実施形態に係る構造物変位計測システム60で用いる反射部材搭載レーザー光照射手段62は、第1実施形態に係る構造物変位計測システム10で用いたレーザー光照射手段12および反射部材14を一体化したものであるので、それらの説明をもって、この「(5)第5実施形態」で記載したこと以外のことについては、本第5実施形態に係る構造物変位計測システム60の説明に代えるものとする。
【0104】
なお、図15では、反射部材搭載レーザー光照射手段62を4つ描いており、変位計測領域は3つであるが、反射部材搭載レーザー光照射手段62を5つ以上にして変位計測領域を4つ以上にしてもよく、また、反射部材搭載レーザー光照射手段62を2つ、または3つにして、変位計測領域を1つ、または2つにしてもよい。
【0105】
(6)補足
本発明において、レーザー光照射手段がターゲットまたは反射部材に向けて照射するレーザー光の進行方向は、一つの構造物において想定される変位方向と所定角度で進行するように配置されるものであっても、直交する方向で進行するように配置されるものであってもよい。
【0106】
ここで「想定される変位方向」について具体的に説明すると、例えば、前記一つの構造物が橋梁の上部構造である場合、死荷重や活荷重によって当該上部構造に鉛直方向に変位が生じることが想定されるので、想定される変位方向を鉛直方向とすることができる。また、例えば、前記一つの構造物が地面に立設する橋梁の下部構造や建築物である場合、地震時に水平方向に変位が生じることが想定されるので、想定される変位方向を水平方向とすることができる。
【符号の説明】
【0107】
10、20、40、50、60…構造物変位計測システム
12、22…レーザー光照射手段
12A、22A…レーザー発振部
12A1、22A1…発振点
14…反射部材
14A…反射部
14A1…受光点(反射点)
16、26、28…通信機器
18、30…コンピュータ
18A、30A…変位量算出部
18B、30B…指示部
24…ターゲット
24A…受光部
24A0…基準状態における受光点
24A1…変位計測時点における受光点
42…変位計測手段
44、44a、44b、44c、44d…変位計測領域
52…ターゲット搭載レーザー光照射手段
62…反射部材搭載レーザー光照射手段
100…橋梁
102…上部構造
104…主桁
106…支点
200…インターネット
300…地面
302…立設構造物
D…距離
L、Lh、Lv…レーザー光
P1、P2、P11、P12、P13、P14…位置
R…反射光
v、v1、v2、v3、v4…鉛直変位
θ…レーザー光Lの水平面に対する角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15