(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
G01D5/353 B
(21)【出願番号】P 2021101108
(22)【出願日】2021-06-17
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】小泉 健吾
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-051941(JP,A)
【文献】特開2019-178976(JP,A)
【文献】特開2017-156289(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0067118(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/353
G01K 11/322
G01L 1/24
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブ光を生成する光源部と、
前記プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する分岐部と、
前記第1光路及び前記第2光路のいずれか一方に設けられ、ビート周波数の周波数シフトを与える光周波数シフタ部と、
前記第1光路及び前記第2光路のいずれか一方に設けられ、伝播する光に遅延時間τの遅延を与える遅延部と、
前記第1光路及び前記第2光路を伝播する光を合波して合波光を生成する合波部と、
前記合波光をヘテロダイン検波して差周波を測定信号として出力するコヒーレント検波部と、
前記測定信号と同じ周波数を持つ局発信号を生成する電気信号生成部と、
前記測定信号と前記局発信号とをホモダイン検波して、前記測定信号と前記局発信号の位相差、及び、前記測定信号の強度に基づいて周波数シフト量を取得するブリルアン周波数シフト取得部と
を備え、
前記ブリルアン周波数シフト取得部は、第1ブリルアン周波数シフト算出部、第2ブリルアン周波数シフト算出部、合成部、90°位相シフト部及び有限性解消部を備え、
前記ブリルアン周波数シフト取得部に送られた測定信号は2分岐され、2分岐された一方の第1測定信号は前記第1ブリルアン周波数シフト算出部に送られ、他方の第2測定信号は前記第2ブリルアン周波数シフト算出部に送られ、
前記ブリルアン周波数シフト取得部に送られた局発信号は2分岐され、2分岐された一方の第1局発信号は前記第1ブリルアン周波数シフト算出部に送られ、他方の第2局発信号は、前記90°位相シフト部で90°の位相シフトを受けた後、前記第2ブリルアン周波数シフト算出部に送られ、
前記第1ブリルアン周波数シフト算出部は、前記第1測定信号と、前記第1局発信号に基づいて、第1ブリルアン周波数シフトBFS1と、前記第1ブリルアン周波数シフトを反転させた第2ブリルアン周波数シフトBFS2を取得し、
前記第2ブリルアン周波数シフト算出部は、前記第2測定信号と、前記第2局発信号に基づいて、第3ブリルアン周波数シフトBFS3を取得し、
前記合成部は、第1~第3ブリルアン周波数シフトBFS1~BFS3からブリルアン周波数シフト波形を合成し、
前記有限性解消部は、
前記光ファイバに歪みが印加されていない場合、又は、前記光ファイバの温度変化がない場合、前記測定信号の強度に基づいて、前記測定信号と前記局発信号の位相差の位相回転数Nを算出し、前記位相回転数Nに応じたオフセットを、前記合成されたブリルアン周波数シフト波形に与える
ことを特徴とする光ファイバ歪み及び温度測定装置。
【請求項2】
前記合成部は、ブリルアン周波数シフトオフセット量BFS
offsetに対し、
BFS1<1/(8×τ)-BFS
offsetを満たすとき、-BFS3-2×BFS
offsetを、
1/(8×τ)-BFS
offset≦BFS1≦3/(8×τ)-BFS
offsetを満たすとき、BFS1を、
3/(8×τ)-BFS
offset<BFS1かつ、BFS2<5/(8×τ)-BFS
offsetを満たすとき、BFS3+1/(2×τ)を、
5/(8×τ)-BFS
offset≦BFS2≦7/(8×τ)-BFS
offsetを満たすとき、BFS2を、
7/(8×τ)-BFS
offset<BFS2を満たすとき、-BFS3-2×BF
S
offset+1/τを、
ブリルアン周波数シフト波形として合成する
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ歪み及び温度測定装置。
【請求項3】
前記有限性解消部は、ブリルアン周波数シフトオフセット量BFS
offsetに対し、 前記光ファイバに歪みが印加されていない場合は、以下の式(1a)を用い、前記光ファイバの温度変化がない場合は、以下の式(1b)を用いて、前記測定信号の強度変化P
change(%)から、前記位相回転数Nを算出し、
合成されたブリルアン周波数シフト波形が、1/2τ-BFS
offset以上である場合は、N/τをオフセットとして与え、1/2τ-BFS
offset未満である場合は、(N+1)/τをオフセットとして与える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ歪み及び温度測定装置。
【数1】
【請求項4】
前記有限性解消部は、
前記光ファイバに歪みが印加されていない場合は、以下の式(2a)を用い、前記光ファイバの温度変化がない場合は、以下の式(2b)を用いて、前記測定信号の強度変化P
change(%)から、前記位相回転数Nを算出し、
合成されたブリルアン周波数シフト波形に、N/τをオフセットとして与える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ歪み及び温度測定装置。
【数2】
【請求項5】
プローブ光を生成する過程と、
前記プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する過程と、
前記第1光路及び前記第2光路のいずれか一方を伝播する光に、ビート周波数の周波数シフトを与える過程と、
前記第1光路及び前記第2光路のいずれか一方を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える過程と、
前記第1光路及び前記第2光路を伝播する光を合波して合波光を生成する過程と、
前記合波光をヘテロダイン検波して差周波を測定信号として出力する過程と、
前記測定信号と同じ周波数を持つ局発信号を生成する過程と、
前記測定信号と前記局発信号とをホモダイン検波して、周波数シフト量を取得する過程と
を備え、
前記周波数シフト量を取得する過程は、
前記測定信号を、第1測定信号と第2測定信号に2分岐する過程と、
前記局発信号を、第1局発信号と第2局発信号に2分岐する過程と、
前記第1測定信号と、前記第1局発信号に基づいて、第1ブリルアン周波数シフトBFS1と、前記第1ブリルアン周波数シフトを反転させた第2ブリルアン周波数シフトBFS2を取得する過程と、
前記第2局発信号に90°の位相シフトを与えた後、前記第2測定信号と、前記第2局発信号に基づいて、第3ブリルアン周波数シフトBFS3を取得する過程と、
第1~第3ブリルアン周波数シフトBFS1~BFS3からブリルアン周波数シフト波形を合成する過程と、
前記光ファイバに歪みが印加されていない場合、又は、前記光ファイバの温度変化がない場合、前記測定信号の強度に基づいて、前記測定信号と前記局発信号の位相差の位相回転数Nを算出し、前記位相回転数Nに応じたオフセットを、前記合成されたブリルアン周波数シフト波形に与える過程と
を備えることを特徴とする光ファイバ歪み及び温度測定方法。
【請求項6】
前記ブリルアン周波数シフト波形を合成する過程は、
ブリルアン周波数シフトオフセット量BFS
offsetに対し、
BFS1<1/(8×τ)-BFS
offsetを満たすとき、-BFS3-2×BF
S
offsetを、
1/(8×τ)-BFS
offset≦BFS1≦3/(8×τ)-BFS
offsetを満たすとき、BFS1を、
3/(8×τ)-BFS
offset<BFS1かつ、BFS2<5/(8×τ)-BFS
offsetを満たすとき、BFS3+1/(2×τ)を、
5/(8×τ)-BFS
offset≦BFS2≦7/(8×τ)-BFS
offsetを満たすとき、BFS2を、
7/(8×τ)-BFS
offset<BFS2を満たすとき、-BFS3-2×BFS
offset+1/(8×τ)を、
ブリルアン周波数シフト波形として合成する
ことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ歪み及び温度測定方法。
【請求項7】
前記ブリルアン周波数シフト波形を合成する過程は、
BFS3>-BFS
offsetを満たすか否かを判定する第1判定過程と、
前記第1判定過程における判定の結果、満たすと判定される場合に行われる、5/(8×τ)-BFS
offset≦BFS2≦7/(8×τ)-BFS
offsetを満たすか否かを判定する第2判定過程と、
前記第1判定過程における判定の結果、満たさないと判定される場合に行われる、1/(8×τ)-BFS
offset≦BFS1≦3/(8×τ)-BFS
offsetを満たすか否かを判定する第3判定過程と、
前記第2判定過程における判定の結果、満たさないと判定される場合に行われる、7/(8×τ)-BFS
offset<BFS2を満たすか否かを判定する第4判定過程と、
前記第3判定過程における判定の結果、満たさないと判定される場合に行われる、3/(8×τ)-BFS
offset<BFS1を満たすか否かを判定する第5判定過程と、
前記第2判定過程における判定の結果、満たすと判定される場合にBFS2を、
前記第4判定過程における判定の結果、満たすと判定される場合に、-BFS3-2×BFS
offset+1/τを、
前記第4判定過程における判定の結果、満たさないと判定される場合に、BFS3+1/(2×τ)を、
前記第3判定過程における判定の結果、満たすと判定される場合にBFS1を、
前記第5判定過程における判定の結果、満たすと判定される場合に、BFS3+1/(2×τ)を、
前記第5判定過程における判定の結果、満たさないと判定される場合に、-BFS3-2×BFS
offsetを、
ブリルアン周波数シフト波形として合成する過程と、
を備えることを特徴とする請求項6に記載の光ファイバ歪み及び温度測定方法。
【請求項8】
前記合成されたブリルアン周波数シフト波形に与える過程は、
ブリルアン周波数シフトオフセット量BFS
offsetに対し、
前記測定信号の信号強度を取得する過程と、
取得された前記信号強度と、予め記憶されている信号強度の初期値を用いて、強度変化P
change(%)を計算する過程と、
前記光ファイバに歪みが印加されていない場合は、以下の式(1a)を用い、前記光ファイバの温度変化がない場合は、以下の式(1b)を用いて、前記測定信号の強度変化P
change(%)から、前記位相回転数Nを算出し、
合成されたブリルアン周波数シフト波形が、1/2τ-BFS
offset以上である場合は、N/τをオフセットとして与え、1/2τ-BFS
offset未満である場合は、(N+1)/τをオフセットとして与える
ことを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載の光ファイバ歪み及び温度測定方法。
【数3】
【請求項9】
前記合成されたブリルアン周波数シフト波形に与える過程は、
前記測定信号の信号強度を取得する過程と、
取得された前記信号強度と、予め記憶されている信号強度の初期値を用いて、強度変化P
change(%)を計算する過程と、
前記光ファイバに歪みが印加されていない場合は、以下の式(2a)を用い、前記光ファイバの温度変化がない場合は、以下の式(2b)を用いて、前記測定信号の強度変化P
change(%)から、前記位相回転数Nを算出し、
合成されたブリルアン周波数シフト波形に、N/τをオフセットとして与える
ことを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載の光ファイバ歪み及び温度測定方法。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブリルアン散乱光を用いた、光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信の発展とともに、光ファイバ自体をセンシング媒体とする分布型光ファイバセンシングが盛んに研究されている。特に、散乱光を利用する光ファイバセンシングは、点ごとに計測する電気センサとは異なり、長距離の分布としての計測が可能であるため、被測定対象全体の物理量を計測することができる。
【0003】
分布型光ファイバセンシングでは、光ファイバの片端から光パルスを入射し、光ファイバ中で後方散乱された光を時間に対して測定する時間領域リフレクトメトリ(OTDR:Optical Time Domain Reflectometry)が代表的である。光ファイバ中の後方散乱には、レイリー散乱、ブリルアン散乱及びラマン散乱がある。この中で自然ブリルアン散乱を測定するものはBOTDR(Brillouin OTDR)と呼ばれる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
ブリルアン散乱は、光ファイバに入射される光パルスの中心周波数に対して、ストークス側及び反ストークス側にGHz程度周波数シフトした位置に観測され、そのスペクトルはブリルアン利得スペクトル(BGS:Brillouin Gain Spectrum)と呼ばれる。BGSの周波数シフト及びスペクトル線幅は、それぞれブリルアン周波数シフト(BFS:Brillouin Frequency Shift)及びブリルアン線幅と呼ばれる。BFS及びブリルアン線幅は、光ファイバの材質および入射光波長によって異なる。例えば、石英系のシングルモード光ファイバの場合、波長1.55μmにおけるBFSの大きさ及びブリルアン線幅は、それぞれ約11GHz及び約30MHzとなることが報告されている。また、非特許文献1からシングルモードファイバ中の歪み、温度の変化に伴うBFSの大きさは波長1.55μmにおいて、それぞれ0.049MHz/με、1.0MHz/℃である。
【0005】
このように、BFSは歪みと温度に対して依存性を持つ。このため、BOTDRは橋梁やトンネルなどに代表される大型建造物の劣化診断、プラントの温度モニタリング、及び、地滑りが発生する恐れのある箇所の監視などの目的で利用可能であり、注目されている。
【0006】
BOTDRでは、光ファイバ中で発生する自然ブリルアン散乱光のスペクトル波形を測定するため、別途用意した参照光とのヘテロダイン検波を行うのが一般的である。自然ブリルアン散乱光の強度はレイリー散乱光の強度に比べて2~3桁小さい。このため、ヘテロダイン検波は最小受光感度を向上させる上でも有用となる。
【0007】
ここで、自然ブリルアン散乱光は非常に微弱なため、ヘテロダイン検波を適用しても十分な信号雑音比(S/N)を確保できない。その結果、S/N改善のための平均化処理が必要となる。BOTDRを行う従来の光ファイバ歪み測定装置では、時間、振幅及び周波数の3次元の情報を取得しているが、平均化処理とこの3次元情報の取得のため、測定時間の短縮が難しい。
【0008】
これに対し、この出願に係る発明者らにより、自己遅延ヘテロダイン型のBOTDR(SDH-BOTDR:Self-delayed heterodyne BOTDR)
を利用する、光ファイバ歪み測定装置及び光ファイバ歪み測定方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。SDH-BOTDRでは、受信されるビート信号と局発信号の位相比較をすることで、BFSの変化が、ビート信号中の位相変化として観測される。このように、SDH-BOTDRは、周波数掃引を必要とせずに直接BFSを算出できるため、高速かつ安価な測定を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-191659号公報
【文献】特開2020-051941号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】T.Kurashima et al.,“Brillouin Optical-fiber time domain reflectometry”,IEICE Trans. Commun., vol.E76-B, no.4, pp.382-390 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の通り、特許文献1に記載されているSDH-BOTDRは、位相変化を観測するが、0~2πの位相変化に対し、測定範囲は、0~πに制限されてしまい、π~2πでは測定結果が反転してしまう。
【0012】
これに対し、位相変化を抽出するための局発信号として、余弦(cos)波だけでなく、正弦(sin)波を用いることで、測定範囲を0~2πに拡大する提案もなされている(例えば、特許文献2参照)。しかし、測定範囲の拡大は、0~2πまでであるので、さらなる測定範囲の拡大が望まれる。
【0013】
この発明は、上述の状況に鑑みてなされたものである。この発明の目的は、SDH-BOTDRにおいて、測定範囲を拡大する、光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するために、この発明の光ファイバ歪み及び温度測定装置は、プローブ光を生成する光源部と、プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する分岐部と、第1光路及び第2光路のいずれか一方に設けられ、ビート周波数の周波数シフトを与える光周波数シフタ部と、第1光路及び第2光路のいずれか一方に設けられ、伝播する光に遅延時間τの遅延を与える遅延部と、第1光路及び第2光路を伝播する光を合波して合波光を生成する合波部と、合波光をヘテロダイン検波して差周波を測定信号として出力するコヒーレント検波部と、測定信号と同じ周波数を持つ局発信号を生成する電気信号生成部と、測定信号と局発信号とをホモダイン検波して、周波数シフト量を取得するブリルアン周波数シフト取得部とを備えて構成される。
【0015】
ブリルアン周波数シフト取得部は、第1ブリルアン周波数シフト算出部、第2ブリルアン周波数シフト算出部、合成部、90°位相シフト部及び有限性解消部を備え、ブリルアン周波数シフト取得部に送られた測定信号は2分岐され、2分岐された一方の第1測定信号は第1ブリルアン周波数シフト算出部に送られ、他方の第2測定信号は第2ブリルアン周波数シフト算出部に送られる。ブリルアン周波数シフト取得部に送られた局発信号は2分岐され、2分岐された一方の第1局発信号は第1ブリルアン周波数シフト算出部に送ら
れ、他方の第2局発信号は、90°位相シフト部で90°の位相シフトを受けた後、第2ブリルアン周波数シフト算出部に送られる。
【0016】
第1ブリルアン周波数シフト算出部は、第1測定信号と、余弦波である第1局発信号に基づいて、第1ブリルアン周波数シフトBFS1と、第1ブリルアン周波数シフトを反転させた第2ブリルアン周波数シフトBFS2を取得する。第2ブリルアン周波数シフト算出部は、第2測定信号と、正弦波である第2局発信号に基づいて、第3ブリルアン周波数シフトBFS3を取得する。
【0017】
合成部は、第1~第3ブリルアン周波数シフトBFS1~BFS3からブリルアン周波数シフト波形を合成する。有限性解消部は、光ファイバに歪みが印加されていない場合、又は、光ファイバの温度変化がない場合、測定信号の強度に基づいて、測定信号と局発信号の位相差の位相回転数Nを算出し、位相回転数Nに応じたオフセットを、合成されたブリルアン周波数シフト波形に与える。
【0018】
この発明の光ファイバ歪み及び温度測定方法は、以下の過程を備えて構成される。先ず、プローブ光を生成する。次に、プローブ光により測定対象となる光ファイバで発生する後方ブリルアン散乱光を、第1光路及び第2光路に2分岐する。次に、第1光路及び第2光路のいずれか一方を伝播する光に、ビート周波数の周波数シフトを与える。次に、第1光路及び第2光路のいずれか一方を伝搬する光に遅延時間τの遅延を与える。次に、第1光路及び第2光路を伝播する光を合波して合波光を生成する。次に、合波光をヘテロダイン検波して差周波を測定信号として出力する。また、測定信号と同じ周波数を持つ局発信号を生成する。次に、測定信号と局発信号とをホモダイン検波して、周波数シフト量を取得する。周波数シフト量を取得する過程は、さらに、以下の過程を備える。先ず、測定信号を、第1測定信号と第2測定信号に2分岐する。また、局発信号を、第1局発信号と第2局発信号に2分岐する。次に、第1測定信号と、第1局発信号に基づいて、第1ブリルアン周波数シフトBFS1と、第1ブリルアン周波数シフトを反転させた第2ブリルアン周波数シフトBFS2を取得する。次に、第2測定信号と、第2局発信号に基づいて、第3ブリルアン周波数シフトBFS3を取得する。次に、第1~第3ブリルアン周波数シフトBFS1~BFS3からブリルアン周波数シフト波形を合成する。次に、光ファイバに歪みが印加されていない場合、又は、光ファイバの温度変化がない場合、測定信号の強度に基づいて、測定信号と局発信号の位相差の位相回転数Nを算出し、位相回転数Nに応じたオフセットを、合成されたブリルアン周波数シフト波形に与える。
【発明の効果】
【0019】
この発明の光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法によれば、従来技術に比べて、測定範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】測定装置の構成例を示す模式的なブロック図である。
【
図3】測定装置が備えるBFS取得部の模式的なブロック図である。
【
図4】規格化された強度とBFS
cosの関係を示す図である。
【
図5】規格化された強度とBFS
sinの関係を示す図である。
【
図6】BFS真値とBFS測定値の関係を示す図(1)である。
【
図7】BFS真値とBFS測定値の関係を示す図(2)である。
【
図9】BFS真値とBFS測定値の関係を示す図(3)である。
【
図10】有限性解消部の処理フローを示す図である。
【
図11】他の実施形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各図は、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0022】
(原理の説明)
先ず、
図1を参照して、この発明の、SDH-BOTDRを利用する、光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法の原理を説明する。
図1は、発明の原理を説明するための模式図である。
図1は、横軸に発生したBFSの値であるBFS真値[単位:MHz]を取って示し、左軸に後述する合成部で取得されるBFSの値であるBFS測定値[単位:MHz]を取って示し、右軸に、測定信号の強度変化[単位:%]を取って示している。ここでは、光ファイバの温度が一定であり、光ファイバの歪みにより測定信号の強度が変化する例を示している。
【0023】
SDH-BOTDRを利用する、光ファイバ歪み及び温度測定装置並びに光ファイバ歪み及び温度測定方法は、受信されるビート信号と局発信号の位相比較をすることで観測されるビート信号中の位相変化に基づいて、BFSを算出する。このため、BFSは、2πの位相変化ごとに回転する。したがって、SDH-BOTDRでは、原理的に0~2πが測定範囲の限界となる。
【0024】
後方ブリルアン散乱では、周波数シフトだけでなく、その散乱係数も温度、歪み依存性を有することが報告されている。BFSの歪み依存係数及び温度依存係数をそれぞれCνε[単位:MHz/με]及びCνT[単位:MHz/℃]とし、ブリルアン散乱係数の歪み依存係数及び温度依存係数をそれぞれCPε[単位:%/με]及びCPT[単位:%/℃]とすると、以下の式(1)に示す関係が成り立つ。
【0025】
【0026】
ここで、δPB/PBは、ブリルアン散乱強度の相対変化(強度変化)Pchange[単位:%]を与える。これら、BFS及びPchangeは、SDH-BOTDRで測定可能な値である。また、δε及びδTは、それぞれ、歪み及び温度の変化量である。
【0027】
上記式(1)から、歪みがない場合は、Pchange=(CPT/CνT)×BFSとなり、温度変化がない場合は、Pchange=(CPε/Cνε)×BFSとなる。すなわち、歪み及び温度のいずれか一方が一定である場合、強度変化Pchangeは、BFSに対して線形に変化する。
【0028】
そこで、Pchangeを用いてBFSの位相回転数を取得し、位相回転数に基づいて、BFSを算出することにより、測定範囲の0~2πの有限性を解消させ、測定範囲を0~2πから拡大できる。
【0029】
(構成の説明)
図2及び
図3を参照して、この発明の、光ファイバ歪み及び温度測定装置を説明する。
図2は、この発明の、光ファイバ歪み及び温度測定装置(以下、単に測定装置とも称する。)の構成例を示す模式的なブロック図である。また、
図3は、測定装置が備えるBFS取得部の模式的なブロック図である。
【0030】
測定装置は、光源部10、サーキュレータ20、光増幅器30、光バンドパスフィルタ32、自己遅延ヘテロダイン干渉計41、信号強度取得部91及びタイミング制御器90を備えて構成される。
【0031】
光源部10は、プローブ光を生成する。光源部10は、連続光を生成する光源12と、連続光から光パルスを生成する光パルス発生器14を備えて構成される。
【0032】
ここで、この測定装置は、周波数変化に応じた位相差を測定する。このため、光源12の周波数揺らぎ及び周波数スペクトル線幅(以下、単に線幅とも称する。)は、ブリルアン周波数シフトよりも十分に小さくなければならない。そこで、光源12として周波数安定化狭線幅光源が用いられる。例えば、測定対象となる光ファイバ(以下、被測定光ファイバとも称する。)100の歪みを0.008%としたとき、ブリルアン周波数シフトは4MHzに相当する。このため、0.008%程度の歪みを測定するには、光源12の周波数揺らぎ及び線幅は4MHzより十分に小さく、数10kHz以下であることが望ましい。なお、周波数揺らぎ及び線幅が10kHz程度若しくはそれ以下の狭線幅レーザが、既製品として一般に入手可能である。
【0033】
光パルス発生器14は、任意好適な従来周知の、音響光学(AO:Acoust Optical)変調器又は電気光学(EO:Electric Optical)変調器を用いて構成される。光パルス発生器14は、タイミング制御器90で生成された電気パルスに応じて、連続光から光パルスを生成する。この光パルスの繰り返し周期は、被測定光ファイバ100を光パルスが往復するのに要する時間よりも長く設定される。この光パルスが、プローブ光として、光源部10から出力される。
【0034】
この光源部10から出力されたプローブ光は、サーキュレータ20を経て、被測定光ファイバ100に入射される。なお、サーキュレータ20に換えて、光カプラを用いても良い。
【0035】
被測定光ファイバ100からの後方散乱光は、サーキュレータ20を経て、例えば、エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)などで構成される光増幅器30に送られる。光増幅器30で増幅された後方散乱光は、光バンドパスフィルタ32に送られる。光バンドパスフィルタ32は、10GHz程度の透過帯域を有しており、自然ブリルアン散乱光のみを透過する。この自然ブリルアン散乱光は、自己遅延ヘテロダイン干渉計41に送られる。この光バンドパスフィルタ32から出射される自然ブリルアン散乱光の時刻tにおける信号E0(t)は、以下の式(2)で表される。
【0036】
【0037】
ここで、A0は振幅、ηB(t)はブリルアン散乱係数、fB(t)はブリルアン散乱光の光周波数、φ0は初期位相を示している。なお、ブリルアン散乱係数ηB(t)及び
ブリルアン散乱光の光周波数fB(t)は、光ファイバ中での局所的な歪みや温度変化により変化するため、時間tの関数としている。
【0038】
自己遅延ヘテロダイン干渉計41は、分岐部42、光周波数シフタ部43、遅延部48、合波部50、コヒーレント検波部60、電気信号生成部としての局発電気信号源83及びBFS取得部71を備えて構成される。
【0039】
局発電気信号源83は、周波数fAOMの電気信号を生成する。
【0040】
分岐部42は、プローブ光により被測定光ファイバ100で発生する後方ブリルアン散乱光を、光バンドパスフィルタ32を経て受け取り、第1光路及び第2光路に2分岐する。
【0041】
光周波数シフタ部43は、第1光路及び第2光路のいずれか一方に設けられるが、この構成例では、第1光路に設けられている。光周波数シフタ部43は、局発電気信号源83で生成された周波数fAOMの電気信号を用いて、第1光路を伝播する光に対して、周波数fAOMの周波数シフトを与える。
【0042】
また、遅延部48は、第1光路及び第2光路のいずれか一方に設けられるが、この構成例では、第2光路に設けられている。遅延部48は、第2光路を伝播する光に時間τの遅延を与える。
【0043】
合波部50は、第1光路及び第2光路を伝播する光を合波して合波光を生成する。合波部50に入射される、第1光路を伝播する光信号E1(t)及び第2光路を伝播する光信号E2(t-τ)は、それぞれ、以下の式(3a)及び(3b)で表される。
【0044】
【0045】
ここで、A1及びA2は、それぞれE1(t)及びE2(t-τ)の振幅であり、φ1及びφ2は、それぞれE1(t)及びE2(t-τ)の初期位相である。
【0046】
コヒーレント検波部60は、合波光をヘテロダイン検波してビート信号を生成する。コヒーレント検波部60は、例えば、バランス型フォトダイオード(PD)62、FET増幅器64及びアナログ-ディジタル変換器(A/D)66を備えて構成される。ヘテロダイン検波により与えられるビート信号I12は、以下の式(4)で表される。ビート信号I12の周波数fAOMをビート周波数とも称する。
【0047】
【0048】
コヒーレント検波部60で生成されたビート信号I12は2分岐される。2分岐されたビート信号I12の一方は測定信号としてBFS取得部71に送られる。また、局発電気信号源83で生成された電気信号は局発信号としてBFS取得部71に送られる。一方、
2分岐されたビート信号I12の他方は強度取得部91に送られる。
【0049】
BFS取得部71は、第1ブリルアン周波数シフト(BFS)算出部170、第2ブリルアン周波数シフト(BFS)算出部270、合成部80、有限性解消部81及び90°位相シフト部78を備えて構成されている。BFS取得部71は、例えば、以下説明する処理を実行させるソフトウェアが搭載された、市販のパーソナルコンピュータを用いて構成することができる。また、BFS取得部71を、FPGA(Field-Programmable Gate Array)で構成することもできる。なお、BFS取得部71には、任意好適な記憶手段(図示せず。)が設けられ、測定結果などが適宜記憶される。
【0050】
なお、上記式(4)で与えられるビート信号は、非常に微弱である。従って、信号雑音比(S/N)を向上させるために、平均化処理を行う必要がある。この平均化処理は、高速化のために、FPGAで実施することが望ましい。
【0051】
BFS取得部71に送られた測定信号は2分岐される。2分岐された一方の第1測定信号は第1BFS算出部170に送られる。他方の第2測定信号は第2BFS算出部270に送られる。
【0052】
また、BFS取得部71に送られた局発信号は2分岐される。2分岐された一方の第1局発信号は第1BFS算出部170に送られる。他方の第2局発信号は、90°位相シフト部78で90°の位相シフトを受けた後、第2BFS算出部270に送られる。局発信号が余弦波(cos波)である場合、第1局発信号はcos波として第1BFS算出部170に送られ、第2局発信号は正弦波(sin波)として第2BFS算出部270に送られる。
【0053】
第1BFS算出部170は、第1ミキサ172、第1LPF174及び第1BFS算出手段176を備えて構成されている。同様に、第2BFS算出部270は、第2ミキサ272、第2LPF274及び第2BFS算出手段276を備えて構成されている。
【0054】
先ず、第1BFS算出部170について説明する。第1ミキサ172は、第1測定信号と第1局発信号とをホモダイン検波して、ホモダイン信号を生成する。局発電気信号源83で生成された局発信号Icosを以下の式(5)で表す。
【0055】
【0056】
第1ミキサ172で生成されたホモダイン信号は、上記式(4)及び式(5)を乗算して得られる、以下の式(6)で表される。
【0057】
【0058】
ここで、φoffset=φ1-φ2-φcosであり、ビート信号と局発信号の位相差を表している。上記式(6)中の和周波成分、すなわち、上記式(6)の第1項を第1LPF174で除去すると、以下の式(7)で表される信号が得られる。
【0059】
【0060】
上記式(7)に示されるように、ブリルアン周波数の変化fB(t)とブリルアン散乱係数の変化ηB(t)が時間の関数になっているため、これらの変化が出力強度の変化として出力される。ここで、観測したい成分はブリルアン周波数の変化fB(t)であるため、ブリルアン散乱係数の変化ηB(t)を除去する。ブリルアン散乱係数の変化ηB(t)は、上記式(4)を包絡線検波して得られる強度変化の情報から除去できる。従って、上記式(7)は、以下の式(8)で書き直せる。
【0061】
【0062】
上記式(8)より、ブリルアン周波数の変化fB(t)のみが強度変化として出力される。第1BFS算出手段176は、上記式(8)の振幅値から第1ブリルアン周波数シフトBFS1を算出する。なお、BFS1は、cos波を用いて得られたBFSであるためBFScosと記載することもある。また、第1BFS算出手段176は、BFScosを反転させたBFScos_inverseを、第2ブリルアン周波数シフトBFS2として算出する。
【0063】
上記式(8)では、位相シフト2πfB(t)τが振幅値に換算されている。このため、以下の式(9)のように規格化を行って、BFS1への換算を容易にする。
【0064】
【0065】
上記式(9)からBFS1は以下の式(10)で算出される。
【0066】
【0067】
上記式(9)のように規格化された強度Ia.u.cosとBFS1の関係について説明する。
【0068】
BFSの周波数範囲は、遅延時間τにより決定され、1/τで与えられる。例えば、遅延時間τを1n秒とすると、位相0~πで、BFSの周波数範囲は0~500MHzと計
算される。また、φoffset(=2πBFSoffset)は位相の初期値である。設定したBFSoffsetを0MHzの基準として、-BFSoffset~1/2τ-BFSoffsetを測定範囲に指定する。このBFSoffsetの設定により、基準となる位相から負の方向の位相変化も測定できるようになる。
【0069】
図4は、上記式(10)で与えられる、規格化された強度とBFS
cosの関係を示す図である。
図4は、横軸にBFS[MHz]を取って示し、縦軸に強度[a.u.]を取って示す。ここでは、遅延時間τを1n秒、BFS
offsetを125MHzとする例を説明する。この場合、周波数測定範囲は、-125MHz~375MHzとなる。BFS1は、周波数測定範囲の375MHzを超えると強度が反転してしまう。この結果、実際のBFS値が400MHzであっても、測定されるBFS1は350MHzと算出される。
【0070】
次に、第2BFS算出部270について説明する。第2ミキサ272は、第2測定信号と第2局発信号とをホモダイン検波して、ホモダイン信号を生成する。第2局発信号は、局発電気信号源83で生成された、cos波である局発信号Icosを90°の位相シフトさせたsin波であり、以下の式(11)で表される。
【0071】
【0072】
第2ミキサ272及び第2LPF274は、第1局発信号がcos波である場合に、第2局発信号がsin波であることを除けば、第1ミキサ172及び第1LPF174と同様に動作するので、詳細な説明を省略する。上記式(5)に換えて上記式(11)を用いて、上記式(6)~(10)を書き直せば、以下の式(12)が得られる。
【0073】
【0074】
第2BFS算出手段276は、第2ブリルアン周波数シフトBFS3を算出する。なお、BFS3は、sin波を用いて得られたBFSであるためBFSsinとも記載する。
【0075】
図5は、上記式(11)で与えられる、規格化された強度とBFS
sinの関係を示す図である。
図4は、横軸にBFS[MHz]を取って示し、縦軸に強度[a.u.]を取って示す。上記BFS
cosと同様に、遅延時間τは1n秒、BFS
offsetは125MHzである。この場合、周波数測定範囲は、-375MHz~125MHzとなる。BFS
cosは、周波数測定範囲の125MHzを超えると強度が反転してしまう。
【0076】
上記式(10)及び(12)によって算出される、BFS1(=BFS
cos)、BFS2(=BFS
cos_inverse)、BFS3(=BFS
sin)を
図6に示す。
【0077】
図6は、横軸に実際のBFS値(BFS真値)[MHz]を取って示し、縦軸に測定されたBFS値(BFS測定値)[MHz]を取って示す。
【0078】
BFS測定値が反転する値は、BFS1及びBFS2では375MHzであり、BFS3では、125MHz及び625MHzとなる。
【0079】
合成部80は、第1BFS算出部170及び第2BFS算出部270で算出された、BFS1、BFS2及びBFS3を用いて、ブリルアン周波数シフト波形を合成する。
【0080】
ここで、BFS測定値がそれぞれ反転する点を基準として、BFS1、BFS2及びBFS3のいずれかを選択すると、このBFS測定値が反転する点付近の領域での線形性が問題になることが懸念される。
【0081】
ヘテロダイン受信で得られた信号I12にノイズが含まれない場合は、BFSが正しく算出されるが、ノイズが重畳されていると、反転した結果も含めて重畳されるため、BFSは若干小さく算出される。
【0082】
図7は、ノイズ信号が重畳された場合の、BFS真値とBFS測定値の関係の一例を示す図である。
図7は、横軸にBFS真値[MHz]を取って示し、縦軸にBFS測定値[MHz]を取って示す。ここでは、BFS測定値は、375MHzで反転する例を示している。
【0083】
図7では、BFS真値を丸で示し、BFS1を四角で示している。
図7に示されるように、BFS真値が375MHz付近の場合、BFS1がBFS真値に比べて若干小さく測定され、線形性が劣化している。そこで、この測定装置では、合成部80は、線形な領域にあるBFS測定値を利用して、ブリルアン周波数シフト波形を合成する。
【0084】
合成部80は、選択されたBFS1、BFS2及びBFS3を、ブリルアン周波数シフト波形として合成する。合成部80からの出力、及び、強度取得部91で取得された信号強度は、有限性解消部81に送られる。
【0085】
信号強度取得部91は、2乗回路92、LPF94、及び1/2乗回路96を備えて構成され、コヒーレント検波部60の出力であるビート信号の包絡線検波の機能を実現する。この結果、ビート信号が、2乗回路92、LPF94、及び1/2乗回路96を順に通過すると、ビート信号の強度情報のみが得られる。なお、合成部80が、初期状態のビート信号の強度情報を格納していれば、初期状態の強度情報と、新たに測定された強度情報から、上記式(1)におけるδPB/PBが得られる。なお、δPB/PBを得るための構成は、これに限定されず、任意好適な構成にすることができる。
【0086】
(処理の説明)
図8を参照して合成部80の処理を説明する。
図8は、合成部80の処理フローを示す図である。
【0087】
先ず、第1判定過程S10において、BFS3>-BFS
offsetを満たすか否かを判定する。
図6に示されるように、BFS1が反転している領域は、BFS3が-BFS
offset(この例では、-125MHz)より大きいことがわかる。従って、BFS3>-BFS
offsetを満たすか否かにより、BFS1が反転しているか否かを判定する。BFS1が反転していない領域であって、BFS1が線形となる領域では、BFS1を選択する。一方、BFS1が反転している領域であって、BFS2が線形となる領域では、BFS2を選択する。
【0088】
そこで、第1判定過程S10に引き続いて、BFS1及びBFS2が線形であるか否か
を判定する。
【0089】
第1判定過程S10における判定の結果、満たす(Yes)と判定される場合、すなわち、BFS1が反転している場合、第2判定過程S20において、5/(8×τ)-BFSoffset≦BFS2≦7/(8×τ)-BFSoffsetを満たすか否か、すなわち、BFS2が線形となる領域であるか否かを判定する。ここでは、BFS2が線形となる領域は、500MHz~750MHzである。
【0090】
一方、第1判定過程S10における判定の結果、満たさない(No)と判定される場合、すなわち、BFS1が反転していない場合、第3判定過程S30において、1/(8×τ)-BFSoffset≦BFS1≦3/(8×τ)-BFSoffsetを満たすか否か、すなわち、BFS1が線形となる領域であるか否かを判定する。ここでは、BFS1が線形となる領域は、0MHz~250MHzである。
【0091】
第2判定過程S20及び第3判定過程S30における判定の結果、満たさない、すなわち、BFS1及びBFS2が線形ではない、と判定される場合は、BFS3を利用する。BFS3は、1/(4×τ)-BFSoffset、及び、3/(4×τ)-BFSoffset付近、この例では、125MHz及び625MHz付近で反転するので、BFS3<1/(4×τ)-BFSoffset、1/(4×τ)-BFSoffset≦BFS3≦3/(4×τ)-BFSoffset、BFS3<3/(4×τ)-BFSoffsetに場合分けが必要となる。
【0092】
そこで、第2判定過程S20における判定の結果、満たさない(No)と判定される場合、第4判定過程S40において、7/(8×τ)-BFSoffset<BFS2を満たすか否かを判定する。また、第3判定過程S30における判定の結果、満たさない(No)と判定される場合に、第5判定過程S50において、3/(8×τ)-BFSoffset<BFS1を満たすか否かを判定する。
【0093】
第2判定過程S20における判定の結果、満たす(Yes)と判定される場合、BFS2が選択される(S61)。
【0094】
第4判定過程S40における判定の結果、満たす(Yes)と判定される場合、BFSoffsetを中心にBFS3を反転した後、1/τのオフセットを重畳したもの、すなわち、-BFS3-2×BFSoffset+1/τが選択される(S62)。
【0095】
第4判定過程S40における判定の結果、満たさない(No)と判定される場合、BFS3に1/(2×τ)を重畳したもの、すなわち、BFS3+1/(2×τ)が選択される(S63)。
【0096】
第3判定過程S30における判定の結果、満たす(Yes)と判定される場合、BFS1が選択される(S64)。
【0097】
第5判定過程S50における判定の結果、満たす(Yes)と判定される場合、BFS3に1/(2×τ)を重畳したもの、すなわち、BFS3+1/(2×τ)が選択される(S65)。
【0098】
第5判定過程S50における判定の結果、満たさない(No)と判定される場合、BFSoffsetを中心にBFS3を反転したもの、すなわち、-BFS3-2×offsetが選択される(S66)。
【0099】
合成過程S70では、合成部80が、S61~S66で選択されたBFSからBFS波形を合成する。すなわち、合成部80は、BFS1<1/(8×τ)-BFSoffsetを満たすとき、-BFS3-2×BFSoffsetを、1/(8×τ)-BFSoffset≦BFS1≦3/(8×τ)-BFSoffsetを満たすとき、BFS1を、3/(8×τ)-BFSoffset<BFS1かつ、BFS2<5/(8×τ)-BFSoffsetを満たすとき、BFS3+1/(2×τ)を、5/(8×τ)-BFSoffset≦BFS2≦7/(8×τ)-BFSoffsetを満たすとき、BFS2を、7/(8×τ)-BFSoffset<BFS2を満たすとき、-BFS3-2×BFSoffset+1/τを、BFS波形として合成する。
【0100】
図9は、ノイズ信号が重畳された場合の、BFS真値とBFS測定値の関係の一例を示す図である。
図8は、横軸にBFS真値[MHz]を取って示し、縦軸にBFS測定値[MHz]を取って示す。ここでは、BFS測定値は、375MHzで反転する例を示している。
図9では、BFS真値を丸で示し、BFS1を四角で示し、合成部80で合成されたBFS(BFS合成)を三角で示している。
図9に示されるように、合成部80で合成されたBFSは、BFS真値と近い値となっており、線形性が保たれることを示している。
【0101】
合成過程S70に続いて、有限性解消過程が行われる。
図10を参照して、有限性解消過程S80aを説明する。
図10は、有限性解消過程の一実施形態の処理フローを示す図である。
【0102】
有限性解消過程S80aは、2πの位相変化ごとに、測定されるBFSが回転する影響を除去する処理である。有限性解消過程S80aは、例えば、順に行われる、強度信号取得過程S81、強度変化計算過程S83、位相回転数計算過程S85、BFS選択過程S87及びBFS決定過程S89を備えて構成される。
【0103】
強度信号取得過程S81では、有限性解消部81は、強度情報取得部91から信号強度を取得する。なお、有限性解消部81は、光ファイバの設置時などに得られた、歪みがない状態の信号強度を初期値として、任意好適な記憶手段に格納しておくことができる。初期値が得られたときの光ファイバの温度、又は、光ファイバが設置された環境の温度も格納されるのが良い。
【0104】
強度変化計算過程S83では、有限性解消部81は、強度情報取得部91から取得した信号強度と、予め記憶されている強度信号の初期値を用いて、強度変化Pchange(%)を計算する。
【0105】
位相回転数計算過程S85では、有限性解消部81は、強度変化計算過程S83で計算された強度変化Pchange(%)を用いて、位相回転数Nを計算する。位相回転数計算過程S85では、以下の式(13a)又は式(13b)が用いられる。
【0106】
【0107】
光ファイバに引っ張り応力などが印加されておらず、光ファイバに歪みが生じていない場合は、上記式(13a)が用いられる。一方、光ファイバの温度変化がない場合は、上記式(13b)が用いられる。
【0108】
BFS選択過程S87では、S70で得られたBFS(BFS合成)が1/2τ-BFSoffset以上であるか否かを判定する。BFS合成が1/2τ-BFSoffset以上である場合(Yes)は、BFS合成にN/τをオフセットとして与えることにより、BFS合成+N/τを測定結果として決定する(S89a)。一方、BFS選択過程S87における判定の結果、S70で得られたBFS合成が1/2τ-BFSoffset未満である場合(No)は、BFS合成に(N+1)/τをオフセットとして与えることにより、BFS合成+(N+1)/τを測定結果として決定する(S85b)。
【0109】
ここでは、ある位相回転数Nで与えられるBFSの範囲に対して、その中心で、BFS合成の位相が回転するように設定された例を説明したが、これに限定されない。例えば、ある位相回転数Nで与えられるBFSの範囲の境界で、BFS合成の位相が回転するように設定してもよい。
【0110】
図11を参照して、この発明の他の実施形態として、ある位相回転数Nで与えられるBFSの範囲の境界で、BFS合成の位相が回転する例を説明する。この他の実施形態では、
図11(A)に示すように、ある位相回転数Nで与えられるBFSの範囲が設定される。また、
図11(B)は、有限性解消過程の他の実施形態の処理フローを示す図である。
図1では、位相回転数Nで定まる領域の中心で位相が回転するのに対し、
図11(A)では、位相回転数Nで定まる領域の両端で位相が回転する点が異なる。それ以外の点は、
図1と
図11(A)とは共通するので、重複する説明を省略する。
【0111】
有限性解消過程S80aは、2πの位相変化ごとに、測定されるBFSが回転する影響を除去する処理である。有限性解消過程は、例えば、順に行われる、強度信号取得過程S81、強度変化計算過程S83、位相回転数計算過程S86、及びBFS決定過程S88を備えて構成される。
【0112】
強度信号取得過程S81及び強度変化計算過程S83は、
図10を参照して説明した実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0113】
位相回転数計算過程S86では、有限性解消部81は、強度変化計算過程S83で計算された強度変化Pchange(%)を用いて、位相回転数Nを計算する。位相回転数計算過程S85では、以下の式(14a)又は式(14b)が用いられる。
【0114】
【0115】
光ファイバに引っ張り応力などが印加されていない場合は、上記式(14a)が用いられる。一方、光ファイバの温度変化がない場合は、上記式(14b)が用いられる。
【0116】
BFS選択過程S88では、BFS合成にN/τをオフセットとして与えることにより、BFS合成+N/τを測定結果として決定する(S88)。
【0117】
決定されたBFSの波形が得られた後、被測定光ファイバ100の温度又は歪みが取得される。BFS波形から、温度又は歪みの取得は、任意好適な従来公知の手段で行うことができるので、ここでは、説明を省略する。
【0118】
この測定装置では、第1及び第2BFS算出部から得られた3つの値からBFSを得るとともに、信号強度の変化を用いて位相回転数Nを取得し、これを用いてBFSを決定する。この結果、光ファイバに歪みが印加されていない場合、又は、光ファイバの温度変化がない場合は、従来の、有限の位相シフト0~2πに対応する1~1000MHzである測定範囲に対して有限性を解消し、測定範囲を拡げることができる。
【0119】
なお、ここでは、合成部80で合成されたBFS(BFS合成)が線形性を保つ構成にしているが、測定範囲の拡大が主目的であり、厳密な線形性が要求されない場合は、合成部80において、BFS3を用いてBFS1が反転するか否かを判定し、反転していない領域ではBFS1を用い、反転した領域ではBFS2を用いてBFSを合成してBFS合成を得る構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0120】
10 光源部
12 光源
14 光パルス発生器
20 サーキュレータ
30 光増幅器
32 光バンドパスフィルタ
41 自己遅延ヘテロダイン干渉計
42 分岐部
43 光周波数シフタ部
48 遅延部
50 合波部
60 コヒーレント検波部
62 バランス型PD
64 FET増幅器
66 A/D
71 BFS取得部
78 90°位相シフト部
80 合成部
81 有限性解消部
83 局発電気信号源
90 タイミング制御器
91 強度取得部
92 2乗回路
94、174、274 ローパスフィルタ(LPF)
96 1/2乗回路
100 被測定光ファイバ
170、270 ブリルアン周波数シフト(BFS)算出部
172、272 ミキサ
176、276 BFS算出手段