(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/48 20060101AFI20240827BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20240827BHJP
B29C 39/42 20060101ALI20240827BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240827BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240827BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240827BHJP
B29L 22/00 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
B29C70/48
B29C39/10
B29C39/42
B29C70/16
F16J12/00 A
B29K105:08
B29L22:00
(21)【出願番号】P 2021138114
(22)【出願日】2021-08-26
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八田 健
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-152310(JP,A)
【文献】特開昭63-173625(JP,A)
【文献】特開2019-59176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/48
B29C 39/10
B29C 39/42
B29C 70/16
F16J 12/00
B29K 105/08
B29L 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のライナーの外表面に繊維を巻き付けて成る繊維層が形成されたプリフォームを金型内に配置するプリフォーム配置工程と、
前記金型の内表面に接着性を付与して、
前記金型の一部を前記プリフォームから相対的に離間させる、または、前記金型の一部を前記プリフォームに対して相対的に超音波振動させることによって、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成する接着性付与工程と、
前記金型内に樹脂を注入して前記繊維層に前記樹脂を含浸させる樹脂注入工程と、を含むことを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のタンクの製造方法において、
前記接着性付与工程において、前記金型内に液体窒素ガスを充填する、前記金型の内表面に樹脂を塗布する、または、前記金型の内表面に静電気を帯電させることによって、前記金型の内表面に接着性を付与することを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のタンクの製造方法において、
前記接着性付与工程において、前記金型の内表面に接着性を付与して、前記金型の一部を前記プリフォームから相対的に離間させながら、前記金型の一部を前記プリフォームに対して相対的に超音波振動させることによって、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成することを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項4】
請求項
3に記載のタンクの製造方法において、
前記金型の一部を前記プリフォームの長手方向に相対的に超音波振動させることによって、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成することを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項5】
請求項
1に記載のタンクの製造方法において、
前記接着性付与工程において、前記プリフォームの長手方向に向けて不活性ガスを吐出して、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成することを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のタンクの製造方法において、
前記接着性付与工程において、前記金型の内表面に接着性を付与して、前記金型の一部を前記プリフォームから相対的に離間させながら、前記金型の一部を前記プリフォームに対して相対的に超音波振動させるとともに、前記プリフォームの長手方向に向けて不活性ガスを吐出して、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成することを特徴とするタンクの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のタンクの製造方法において、
前記金型は、第1の型と第2の型とを含み、
前記プリフォーム配置工程において、前記第1の型と前記プリフォームとの間の第1の隙間よりも大きい第2の隙間を前記第2の型と前記プリフォームとの間に形成するように、前記プリフォームを前記第1の型と前記第2の型との間に配置し、
前記接着性付与工程において、
前記金型の内表面に前記プリフォームの前記繊維層に対する接着性を付与し、
前記第2の型を前記プリフォームに相対的に接近させることによって、前記第2の型の内表面に前記プリフォームの前記繊維層を接着させ、
前記第2の型の内表面に前記プリフォームの前記繊維層を接着させながら、前記第2の型を前記プリフォームから相対的に離間させつつ、前記第2の型を前記プリフォームに対して相対的に超音波振動させることによって、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成し、
前記樹脂注入工程において、前記第2の型を前記プリフォームに相対的に接近させた後、前記金型内に前記樹脂を注入することを特徴とするタンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維によって補強(強化)されたタンクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、FRP製タンク(以下、高圧タンクとも称する)の製造方法を開示している。この製造方法では、ライナーに繊維を巻き付けて被覆する被覆工程を実行した後、繊維に樹脂を含浸させる含浸工程を行い、その後、樹脂を含浸させた繊維を加熱することによって、樹脂を硬化させる。
【0003】
また、特許文献2は、かかるRTM(Resin Transfer Molding)法を利用した高圧タンクの製造方法を開示している。この製造方法では、高圧タンクの内部空間を形成するライナーの外表面に繊維層が形成されたプリフォームを金型内に配置し、前記金型内に配置された前記プリフォームに向けてゲートから樹脂を射出しながら、前記プリフォームの中心軸線を回転中心にして、前記プリフォームを前記金型内で周方向に回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-085199号公報
【文献】特開2019-056415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記RTM法を利用した製造方法では、高圧タンクの製造時に、繊維巻き付け工程と樹脂含浸工程とを分けて行う。しかし、高圧タンクの繊維巻き付け量は多く、繊維を巻き付けて成る繊維層(積層)の厚さが大きいため、繊維層の奥(最内層)まで樹脂を含浸させるまでに時間がかかり、未含浸が発生する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、短時間で繊維層の奥(最内層)まで樹脂を含浸させることのできるタンクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明の一態様は、中空のライナーの外表面に繊維を巻き付けて成る繊維層が形成されたプリフォームを金型内に配置するプリフォーム配置工程と、前記金型の内表面に接着性を付与して、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成する接着性付与工程と、前記金型内に樹脂を注入して前記繊維層に前記樹脂を含浸させる樹脂注入工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
他の態様では、前記接着性付与工程において、前記金型内に液体窒素ガスを充填する、前記金型の内表面に樹脂を塗布する、または、前記金型の内表面に静電気を帯電させることによって、前記金型の内表面に接着性を付与してもよい。
【0009】
他の態様では、前記接着性付与工程において、前記金型の内表面に接着性を付与して、前記金型の一部を前記プリフォームから相対的に離間させる、または、前記金型の一部を前記プリフォームに対して相対的に超音波振動させることによって、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成してもよい。
【0010】
他の態様では、前記接着性付与工程において、前記金型の内表面に接着性を付与して、前記金型の一部を前記プリフォームから相対的に離間させながら、前記金型の一部を前記プリフォームに対して相対的に超音波振動させることによって、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成してもよい。
【0011】
他の態様では、前記金型の一部を前記プリフォームの長手方向に相対的に超音波振動させることによって、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成してもよい。
【0012】
他の態様では、前記接着性付与工程において、前記プリフォームの長手方向に向けて不活性ガスを吐出して、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成してもよい。
【0013】
他の態様では、前記接着性付与工程において、前記金型の内表面に接着性を付与して、前記金型の一部を前記プリフォームから相対的に離間させながら、前記金型の一部を前記プリフォームに対して相対的に超音波振動させるとともに、前記プリフォームの長手方向に向けて不活性ガスを吐出して、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成してもよい。
【0014】
他の態様では、前記金型は、第1の型と第2の型とを含み、前記プリフォーム配置工程において、前記第1の型と前記プリフォームとの間の第1の隙間よりも大きい第2の隙間を前記第2の型と前記プリフォームとの間に形成するように、前記プリフォームを前記第1の型と前記第2の型との間に配置し、前記接着性付与工程において、前記金型の内表面に前記プリフォームの前記繊維層に対する接着性を付与し、前記第2の型を前記プリフォームに相対的に接近させることによって、前記第2の型の内表面に前記プリフォームの前記繊維層を接着させ、前記第2の型の内表面に前記プリフォームの前記繊維層を接着させながら、前記第2の型を前記プリフォームから相対的に離間させつつ、前記第2の型を前記プリフォームに対して相対的に超音波振動させることによって、前記プリフォームの前記繊維層に隙間を形成し、前記樹脂注入工程において、前記第2の型を前記プリフォームに相対的に接近させた後、前記金型内に前記樹脂を注入してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、繊維を浮かせて繊維層(の積層間)に隙間を形成した後に樹脂の注入・含浸を行うことで、短時間で繊維層の奥(最内層)まで樹脂を含浸させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る高圧タンクの製造装置を示す縦断面図である。
【
図2】実施形態に係る高圧タンクの製造方法を説明するフローチャートである。
【
図3】
図2の接着性付与工程を説明するフローチャートである。
【
図4】実施形態に係る高圧タンクの製造装置の、プリフォーム配置工程および真空脱気工程の状態を示す縦断面図である。
【
図5】実施形態に係る高圧タンクの製造装置の、接着性付与工程の液体窒素ガス充填工程の状態を示す縦断面図である。
【
図6】実施形態に係る高圧タンクの製造装置の、接着性付与工程の上型下降工程の状態を示す縦断面図である。
【
図7】実施形態に係る高圧タンクの製造装置の、接着性付与工程の上型上昇工程の状態を示す縦断面図である。
【
図8】実施形態に係る高圧タンクの製造装置の、本締め工程および樹脂注入工程の状態を示す縦断面図である。
【
図9】実施形態に係る高圧タンクの製造装置の、樹脂注入停止工程および樹脂硬化工程の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0018】
以下では、タンクの一例としての燃料電池車用高圧タンクを例に挙げて説明する。但し、本発明の適用対象となるタンクは、燃料電池車用高圧タンクに限定されるものではなく、タンクを構成するライナーないしプリフォームの形状、素材等も図示例に限られない。
【0019】
RTM法においては、ライナーに炭素繊維を幾重(幾層)にも巻き付ける(巻回する)ことによってライナーの外表面に繊維層が形成されたプリフォームを作成し、プリフォームの繊維層にエポキシ樹脂を含浸させて硬化させることによって、ライナーの外周に炭素繊維とエポキシ樹脂を含む繊維強化樹脂層が形成された燃料電池車用高圧タンクが製造される。ライナーは、高圧タンクの内部空間を形成する樹脂製(例えばナイロン樹脂製)の中空容器である。
【0020】
燃料電池車用高圧タンクは、炭素繊維が厚肉に積層されるため、炭素繊維の内層まで樹脂が含浸していかない。炭素繊維の内層まで樹脂を含浸させるために高圧で樹脂を注入すると、タンク自体の変形が発生するなど、品質、性能低下が発生する。また、タンク形状が円筒形であるため、樹脂を全体に均一に充填するのが困難で、樹脂含浸が均一にならない。また、ゲート付近に圧力が集中しやすく、そのゲート部が高圧になると共にゲート部と樹脂流動端末部(ゲート部とは反対側)の圧力差が大きい。
【0021】
つまり、燃料電池車用高圧タンクの炭素繊維の積層厚みは、強度確保のため、非常に厚く(通常のRTM成形ボデー部品の約10倍)、樹脂含浸が困難であるが、特許文献2のようなタンク回転では、炭素繊維の内層までの樹脂含浸効果は少ない。また、炭素繊維の内層まで樹脂を含浸させるために高圧で樹脂を注入すると、圧力分布が不均一になり、部分的に高圧になった部位では、タンク内側の樹脂製ライナーの変形が発生するなど、品質、性能低下が発生する。また、金型とタンクの隙間が狭く、ゲート部の反対側には樹脂が流れにくいため、樹脂が硬化する前に、全体へ樹脂を流動するためには、特許文献2のようにタンクを金型内で高速回転させる必要があるが、金型内のスペースは少なく、また、炭素繊維を損傷する可能性がある。
【0022】
そこで、本実施形態は、以下の構成が採用されている。
【0023】
[高圧タンクの製造装置]
図1は、実施形態に係る高圧タンクの製造装置を示す縦断面図である。
【0024】
本実施形態において製造される高圧タンクの中間体としてのプリフォーム2は、ライナー4と、ライナー4の外表面に形成され、ライナー4と一体になった繊維層5とを含む。ライナー4は、高圧タンクの内部空間を形成する、ガスバリア性を有する樹脂製の中空容器である。中空(換言すれば、筒状)のライナー4は、例えば、0.5mm~1mm程度の厚みを有する。繊維層5は、例えば、15mm~30mm程度の厚みを有する。繊維層5は、フィラメントワインディング法によって、ライナー4の外表面に繊維が幾重にも巻き付けられることによって形成される。
【0025】
ライナー4に巻回される繊維としては、例えば、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等を用いることができる。繊維は、連続繊維から構成されてもよく、長繊維や短繊維から構成されてもよい。後述するように、ライナー4に巻回された繊維(層)に樹脂を含浸させて硬化させることにより、ライナー4の周囲を被覆する繊維強化樹脂層が形成される。樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることが可能である。
【0026】
製造装置1は、RTM(Resin Transfer Molding)法を用いて、プリフォーム2を構成する繊維層5に樹脂6(符号は
図8に図示)を含浸させ、さらに、含浸させた樹脂6を硬化させることによって、高圧タンクを製造する。
【0027】
製造装置1は、複数の型、例えば、固定型である下型11と、可動型である上型12とからなる金型10を備える。下型11と上型12とを閉じる(型締めともいう)ことによって、繊維強化樹脂層のためのキャビティーが形成される。繊維を積層したプリフォーム2を金型10内に配置するため、例えば、金型10のキャビティーは、プリフォーム2の公差分だけ大きく作製される。
【0028】
なお、ここでは、下型11を固定型、上型12を可動型(固定型に対して可動する型)としているが、例えば、上型12を固定型、下型11を可動型としてもよいし、下型11および上型12の双方を可動型としてもよい。また、ここでは、金型10を、下型11および上型12の2個の型で構成しているが、3個以上の型で構成してもよい。
【0029】
プリフォーム2は、ライナー4の軸に沿って配置される中空のシャフト25により金型10内に軸支されている。つまり、シャフト25は、プリフォーム2を金型10内(キャビティー内)に支持する支持機構を構成している。
【0030】
金型10(図示例では下型11)には、真空脱気配管15が埋設されている。真空脱気配管15には真空ポンプ50が接続されている。真空ポンプ50を駆動することによって真空脱気配管15を介して金型10内(キャビティー内)を真空脱気(排気)することが可能である。
【0031】
また、金型10(図示例では上型12)には、キャビティーに開口するゲート(樹脂注入口)14を形成する樹脂注入配管16が埋設されている。ゲート14は、本例では、プリフォーム2の(軸方向の)中央部に対向する位置に配置されている。樹脂注入配管16には樹脂注入機60が接続されている。樹脂注入機60から樹脂注入配管16を介してゲート14から金型10内(キャビティー内)に樹脂6を注入(供給)することができる。樹脂6は、例えば、主剤と硬化剤とからなる2液系の熱硬化性のエポキシ樹脂である。樹脂注入機60は、加圧装置66と、主剤と硬化剤を混合した樹脂6を貯留する樹脂溜まり64と、樹脂6を樹脂注入配管16に供給する開閉バルブ62とを備える。
【0032】
本例では、金型10(図示例では上型12)に、液体窒素ガス供給配管18が埋設されている。液体窒素ガス供給配管18には、調圧バルブ82が付設された液体窒素ガスタンク84を備える液体窒素ガス供給装置80が接続されている。液体窒素ガス供給装置80から液体窒素ガス供給配管18を介して金型10内(つまり、金型10内に配置されたプリフォーム2の外側)に液体窒素ガスを加圧充填することができる。
【0033】
また、製造装置1は、プリフォーム2を所定位置まで搬送するための搬送機構20と、金型10(詳しくは、上型12)を開閉方向(上下方向)または軸方向(横方向)に駆動するための駆動機構30と、金型10(下型11、上型12)の温度を制御する温度制御装置40と、製造装置1全体の稼働状態(詳しくは、搬送機構20、駆動機構30、温度制御装置40、真空ポンプ50、樹脂注入機60の加圧装置66と開閉バルブ62、液体窒素ガス供給装置80の調圧バルブ82の稼働状態等)を制御するコントローラとしての制御装置90とを備える。
【0034】
[高圧タンクの製造方法]
図2は、実施形態に係る高圧タンクの製造方法を説明するフローチャートである。また、
図3は、
図2の接着性付与工程を説明するフローチャートである。また、
図4~
図9はそれぞれ、プリフォーム配置工程および真空脱気工程、接着性付与工程の液体窒素ガス充填工程、接着性付与工程の上型下降工程、接着性付与工程の上型上昇工程、本締め工程および樹脂注入工程、樹脂注入停止工程および樹脂硬化工程の状態を示す縦断面図である。
【0035】
(金型準備工程:S201)
まず、前述した構成の下型11と上型12とからなる金型10を用意する。
【0036】
(プリフォーム準備工程:S202)
また、前述したように、中空のライナー4の外表面に繊維を巻き付ける(巻回する)ことによって繊維層5を形成したプリフォーム2を予め用意する。
【0037】
(金型保温工程:S203)
次に、制御装置90が温度制御装置40を制御することによって、金型10(下型11、上型12)を所定温度に保温する。樹脂6が熱硬化性樹脂である場合、この所定温度は、樹脂6の硬化温度以上の温度である。
【0038】
なお、ここでは、最初に金型10を樹脂6の硬化温度以上に保温しているが、例えば、最初は金型10を樹脂6の硬化温度未満に保温しておき、後述する工程の適宜のタイミング(例えば樹脂6を注入して樹脂6が積層内に含浸完了した後等)において金型10を樹脂6の硬化温度以上に保温してもよい。
【0039】
(プリフォーム配置工程:S204)
続いて、制御装置90が搬送機構20と駆動機構30を制御することによって、プリフォーム2を金型10内(つまり、下型11と上型12との間)に配置する(
図1、
図4)。具体的には、上型12を開いた状態で、搬送機構20が、制御装置90の制御に従って、下型11にプリフォーム2を載置する。このとき、プリフォーム2がシャフト25により軸支される。その後、駆動機構30が、制御装置90の制御に従って、型締めを開始し、上型12を仮締めする。仮締めとは、上型12が開いた状態と本締めの状態との中間的な状態であって、下型11と上型12とが隙間を空けた状態として、
図4に示すように、上型12とプリフォーム2との間に数mmの隙間(第2の隙間)が空く位置に移動させることである。この上型12とプリフォーム2との間に形成される隙間(第2の隙間)は、下型11とプリフォーム2との隙間(第1の隙間)よりも大きい。
【0040】
(真空脱気工程:S205)
次に、上記の仮締めの状態において(言い換えれば、型締め完了前に)、制御装置90が真空ポンプ50を制御することによって、金型10内を真空脱気する(
図4)。
【0041】
(接着性付与工程:S206)
上記の真空脱気停止(完了)後、金型10の内表面(キャビティー面)に、プリフォーム2の繊維層5(を構成する繊維)に対する接着性を付与し、その接着性を利用して繊維層5(の積層間)に隙間を形成する。ここで、「繊維層5に隙間を形成する」ことには、繊維層5に介在する隙間を増大させることを含む。
【0042】
本例では、上記の接着性付与工程(S206)は、
図3に示すように、液体窒素ガス充填工程(S2061)、上型下降工程(S2062)、上型上昇工程(S2063)を含んで構成される。
【0043】
(液体窒素ガス充填工程:S2601)
上記の接着性付与工程(S206)において、まず、制御装置90が液体窒素ガス供給装置80の調圧バルブ82を開くことによって、液体窒素ガスタンク84から金型10内に液体窒素ガスを加圧充填する(
図5)。上型12が仮締めであるため、上型12とプリフォーム2(の上面)との間に形成された隙間(第2の隙間)に向けて液体窒素ガスが吐出(加圧充填)される。これによって、金型10の内表面に、プリフォーム2の繊維層5に対する接着性を付与する。
【0044】
(上型下降工程:S2062)
次に、制御装置90が駆動機構30を制御することによって、上型12を下降端まで下降して(プリフォーム2に相対的に接近させて)、金型10(上型12および下型11)を閉じる(
図6)。これによって、金型10の内表面に、プリフォーム2の繊維層5を接触させて接着する。
【0045】
(上型上昇工程:S2063)
続いて、制御装置90が駆動機構30を制御することによって、プリフォーム2の繊維層5を金型10の内表面に付着させながら、上型12を(例えば、仮締めの状態まで)上昇する(プリフォーム2から相対的に離間させる)。このとき、制御装置90が駆動機構30を制御することによって、上型12を軸方向(すなわち、プリフォーム2の長手方向)に超音波振動させる(
図7)。これによって、金型10の内表面に付着したプリフォーム2の繊維層5(の積層間)に隙間を形成する。
【0046】
なお、このとき、プリフォーム2の長手方向に加えて、もしくは、プリフォーム2の長手方向に代えて、プリフォーム2の短手方向(繊維層5の積層方向ないし厚さ方向)に上型12を超音波振動させてもよい。
【0047】
また、このとき、図示しない不活性ガス供給配管を設けることによって、プリフォーム2の長手方向に向けて窒素ガス等の不活性ガスを吐出して、金型10の内表面に付着したプリフォーム2の繊維層5(の積層間)に隙間を形成する(大きくする)ようにしてもよい。
【0048】
なお、上型12の上昇完了まで、プリフォーム2の繊維層5が金型10の内表面に付着し続けている必要は無く、繊維を浮かせてプリフォーム2の繊維層5(の積層間)に隙間を形成できれば、上型12が所定高さまで上昇するまで、プリフォーム2の繊維層5が金型10の内表面に付着していればよい(換言すると、上型12が所定高さまで上昇したときに、プリフォーム2の繊維層5が金型10の内表面から剥がれてもよい)。
【0049】
(本締め工程:S207)
続いて、制御装置90が駆動機構30を制御することによって、上型12を下降端まで下降して完全に閉じて(プリフォーム2に相対的に接近させて)、上型12および下型11を完全に型締め(本締め)する(
図8)。
【0050】
(樹脂注入工程:S208)
その後、樹脂6を金型10内に射出・注入する(
図8)。具体的には、制御装置90は、開閉バルブ62を開き、樹脂溜まり64に貯留されている樹脂6を加圧装置66によって加圧する。これによって、上型12に設けられた樹脂注入配管16内を(未硬化の)樹脂6が流れ、ゲート(図示例では、プリフォーム2の中央部に設けられたゲート)14から、プリフォーム2に向けて樹脂6が射出・注入され、プリフォーム2の繊維層5の積層内に含浸される。
【0051】
(樹脂注入停止工程:S209)
樹脂6がプリフォーム2の繊維層5の積層内に含浸完了し、樹脂6の硬化発熱終了後、樹脂6の注入を停止する(
図9)。
【0052】
(樹脂硬化工程:S210)
前述の樹脂6の注入停止後、樹脂6を硬化させる(
図9)。
【0053】
(脱型工程:S211)
樹脂6が硬化した後、制御装置90が駆動機構30を制御することによって、上型12を開く。樹脂6の硬化が完了することで、ライナーの外周に繊維強化樹脂層が形成された高圧タンク8が得られる。
【0054】
なお、上記の接着性付与工程(S206)において金型10の内表面に接着性を付与する方法は、上述した方法に限定されない。例えば、液体窒素ガスに代えて、金型10の内表面に、樹脂6と同種の樹脂(例えばエポキシ樹脂)を塗布して接着性を付与してもよいし、静電気を帯電させて接着性を付与してもよい。また、金型10の内表面に、静電気によって接着性を付与する場合、上型12を下降させたり上昇させたりする工程を省略してもよい。
【0055】
また、上記の方法では、上型12とプリフォーム2との間に数mmの隙間(第2の隙間)を設けた仮締めの状態において、金型10内に液体窒素ガスを加圧充填している。これによって、液体窒素ガスをプリフォーム2(の上面)の全体に略均一に供給しやすくなる。但し、液体窒素ガスの圧力を調整するなどして、液体窒素ガスをプリフォーム2(の表面)に供給できれば、上型12とプリフォーム2との間に数mmの隙間(第2の隙間)を予め設ける必要は無く、例えば金型10(下型11および上型12)を閉じた状態で、金型10内に液体窒素ガスを加圧充填してもよい。
【0056】
以上で説明したように、燃料電池車用高圧タンクにおいて、RTM含浸技術によるタンク製造時、エポキシ樹脂を、厚肉積層の(炭素繊維を厚肉に巻いた)大型タンク全体に、均一に樹脂圧力をかけて、充填、含浸、硬化させることは困難であり、生産性低下やタンク性能低下に繋がる。また、タンクは、炭素繊維を厚肉積層しているため、高圧充填しないと、積層の最内層まで含浸しないが、そのため、ゲート直下等の圧力が高くなりすぎて、タンク内部の樹脂製ライナーの変形や、繊維ズレ等、生産性低下やタンク性能低下に繋がる重要品質問題が発生する。
【0057】
本実施形態は、積層タンクの樹脂流動性の画期的向上のため、金型を閉じた後、樹脂注入前に金型表面に接着性を付与(液体窒素ガス充填、エポキシ樹脂塗布、静電気等)することで、プリフォーム2に巻回された炭素繊維を接着させて積層方向に持ち上げ、積層間の隙間を確保する。それと共に、上型12を超音波振動(タンク(プリフォーム2)の長手方向に垂直な方向、あるいは、平行な方向)させ、且つ、タンク(プリフォーム2)の長手方向に窒素ガス等の不活性ガスを吐出して、積層間に隙間を形成する。
【0058】
樹脂注入前に金型表面に炭素繊維を接着して隙間を形成することで、繊維層の内層に樹脂が浸透しやすくなる。また、上型12を超音波振動(タンク(プリフォーム2)の長手方向に垂直な方向、あるいは、平行な方向)させ、且つ、タンク(プリフォーム2)の長手方向に、窒素ガス等の不活性ガスを吐出して、積層間に隙間を形成することで、繊維層の内層に樹脂がより浸透しやすくなる。上型12を超音波振動させる際、タンクの長手方向に垂直な方向に振動する場合と比べて、タンクの長手方向に平行な方向に振動させる方が、RTM金型のシール性確保が容易である。
【0059】
したがって、本実施形態では、RTM含浸技術によりエポキシ樹脂を含浸させる際、タンク全体に均一に、且つ、低圧で積層延在方向(タンクの長手方向に平行な方向)及び板厚方向(タンクの長手方向に垂直な方向)に、エポキシ樹脂を含浸させることができるため、高圧タンクの性能向上と品質の安定化を図ることができる。すなわち、エポキシ樹脂注入時の低圧化と樹脂の均一含浸化を図ることができるため、高圧タンクにおいて、樹脂含浸性、および、タンク性能向上と良好な表面品質を得ることができる。それと共に、樹脂の高速充填も可能になり、大幅な成形サイクル短縮も図れる。
【0060】
このように、本実施形態によれば、繊維を浮かせて繊維層5(の積層間)に隙間を形成した後に樹脂6の注入・含浸を行うことで、短時間で繊維層5の奥(最内層)まで樹脂6を含浸させることが可能となる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
1 高圧タンク(タンク)の製造装置
2 プリフォーム
4 ライナー
5 繊維層
6 樹脂
8 高圧タンク(タンク)
10 金型
11 下型(第1の型)
12 上型(第2の型)
14 ゲート(樹脂注入口)
15 真空脱気配管
16 樹脂注入配管
18 液体窒素ガス供給配管
20 搬送機構
25 シャフト
30 駆動機構
40 温度制御装置
50 真空ポンプ
60 樹脂注入機
80 液体窒素ガス供給装置
90 制御装置