(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】正極活物質の製造方法、正極活物質およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240827BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240827BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2021142971
(22)【出願日】2021-09-02
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】大澤 良輔
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-047584(JP,A)
【文献】特開2016-081800(JP,A)
【文献】特開2013-089454(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104882599(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102751485(CN,A)
【文献】特開2016-031854(JP,A)
【文献】特開2019-164981(JP,A)
【文献】特開2020-113429(JP,A)
【文献】特開2020-145189(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101355149(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104157835(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1982207(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103996829(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0119947(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
C01G 53/00
C01G 45/02
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記複合酸化物は、Li、および、Me(Meは、Ni、Co、Mn、AlおよびFeの少なくとも一種である)を含有し、
前記複合酸化物において、体積基準の累積粒度分布における微粒側から累積10%の粒子径をD
10とし、累積50%の粒子径をD
50とし、累積90%の粒子径をD
90とした場合に、D
50が0.3μm以上1.2μm以下であり、(D
90-D
10)/D
50が0.9以上1.7以下であり、
前記複合酸化物における残留Na濃度が、0.010重量%以上、0.134重量%以下である、正極活物質。
【請求項2】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置された電解質層と、を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極層が、
請求項1に記載の正極活物質を含有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質の製造方法、正極活物質およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話等の電子機器の急速な普及に伴い、その電源として用いられる電池の開発が進められている。また、自動車産業界においても、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)に用いられる電池の開発が進められている。種々の電池の中でも、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという利点を有する。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、通常、正極層と、負極層と、正極層および負極層の間に配置された電解質層とを有する。正極層に用いられる正極活物質として、Liを含有する複合酸化物が知られている。例えば、特許文献1には、リチウムニッケル複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法が開示されている。また、特許文献1には、有機化合物粒子を用いて、焼成体の解砕性を向上させることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、一般式LiNiaCobMncO2(a+b+c=1、0<a<1、0<b<1、0<c<1)で表わされる複合酸化物粒子からなる非水系二次電池用正極活物質が開示されている。また、特許文献3には、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体が開示されている。また、特許文献4には、一次粒子が凝集した二次粒子により構成されたリチウムイオン二次電池用正極活物質が開示されている。また、特許文献5には、ニッケル複合水酸化物がリチウム化合物と焼成された、非水電解質二次電池の正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-113429号公報
【文献】特開2016-081800号公報
【文献】特開2020-177860号公報
【文献】特開2021-048071号公報
【文献】特開2021-024764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池抵抗を低減させる観点から、正極活物質の粒子径を小さくすることが望まれている。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、粒子径が小さい正極活物質を得ることが可能な正極活物質の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示においては、複合酸化物を含む正極活物質の製造方法であって、Li、および、Me(Meは、Ni、Co、Mn、AlおよびFeの少なくとも一種である)を含有する前駆体を準備する準備工程と、上記前駆体を焼成し、上記複合酸化物を得る焼成工程と、を有し、上記準備工程において、水溶性高分子を溶解させた高分子含有水溶液を用いて、上記前駆体を構成する二次粒子の内部に、上記水溶性高分子を導入する、正極活物質の製造方法を提供する。
【0008】
本開示によれば、二次粒子の内部に水溶性高分子が導入された前駆体を用いることで、粒子径が小さい正極活物質を得ることができる。
【0009】
上記開示において、上記前駆体は、上記Meを含有するMe化合物と、上記Liを含有するLi化合物とを有する混合物であり、上記Me化合物および上記Li化合物の少なくとも一方が、上記二次粒子であってもよい。
【0010】
上記開示において、上記準備工程は、上記Meを含有するMe原料を、溶媒に溶解させて原料溶液を作製する原料溶液作製処理と、上記原料溶液から、上記Meを含有するMe化合物を、沈殿物として作製する沈殿物作製処理と、上記Me化合物を洗浄する洗浄処理と、上記洗浄された上記Me化合物と、上記Li化合物とを混合する混合処理と、を有し、上記原料溶液作製処理、上記沈殿物作製処理、上記洗浄処理および上記混合処理の少なくとも一つの処理において、上記高分子含有水溶液を用いて、上記二次粒子の内部に、上記水溶性高分子を導入してもよい。
【0011】
上記開示では、上記洗浄処理において、上記高分子含有水溶液を用いて、上記Me化合物を洗浄することにより、上記二次粒子の内部に上記水溶性高分子を導入してもよい。
【0012】
上記開示においては、上記水溶性高分子が、セルロース誘導体、(メタ)アクリル系ポリマーおよびポリビニルアルコール系ポリマーの少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0013】
上記開示においては、上記水溶性高分子が、カルボキシメチルセルロースを含み、上記高分子含有水溶液における上記カルボキシメチルセルロースの濃度が、0.5重量%以上、2.0重量%以下であってもよい。
【0014】
上記開示において、上記正極活物質の製造方法は、上記焼成工程の後に、上記複合酸化物を解砕する解砕工程を有していてもよい。
【0015】
また、本開示においては、複合酸化物を含む正極活物質であって、上記複合酸化物は、Li、および、Me(Meは、Ni、Co、Mn、AlおよびFeの少なくとも一種である)を含有し、上記複合酸化物において、体積基準の累積粒度分布における微粒側から累積10%の粒子径をD10とし、累積50%の粒子径をD50とし、累積90%の粒子径をD90とした場合に、D50が0.3μm以上1.2μm以下であり、(D90-D10)/D50が0.9以上1.7以下であり、上記複合酸化物における残留Na濃度が、0.010重量%以上、0.134重量%以下である、正極活物質を提供する。
【0016】
本開示によれば、所定の粒子径を有することで、抵抗が低い電池を得ることが可能な正極活物質となる。
【0017】
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に配置された電解質層と、を有するリチウムイオン二次電池であって、上記正極層が、上述した正極活物質を含有する、リチウムイオン二次電池を提供する。
【0018】
本開示によれば、所定の正極活物質を用いることで、抵抗が低いリチウムイオン二次電池となる。
【発明の効果】
【0019】
本開示における正極活物質の製造方法においては、粒子径が小さい正極活物質を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示における正極活物質の製造方法を例示するフローチャートである。
【
図2】本開示における焼成工程を例示する概略側面図である。
【
図3】本開示における準備工程を例示するフローチャートである。
【
図4】本開示におけるリチウムイオン二次電池を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示における正極活物質の製造方法、正極活物質およびリチウムイオン二次電池について、詳細に説明する。
【0022】
A.正極活物質の製造方法
図1は、本開示における正極活物質の製造方法を例示するフローチャートである。
図1においては、まず、Li、および、Me(Meは、Ni、Co、Mn、AlおよびFeの少なくとも一種である)を含有する前駆体を準備する(準備工程)。準備工程において、水溶性高分子を溶解させた高分子含有水溶液を用いて、前駆体を構成する二次粒子の内部に、水溶性高分子を導入する。次に、前駆体を焼成し、複合酸化物を得る(焼成工程)。次に、焼成した複合酸化物を解砕する(解砕工程)。これにより、正極活物質が得られる。
【0023】
本開示によれば、二次粒子の内部に水溶性高分子が導入された前駆体を用いることで、粒子径が小さい正極活物質を得ることができる。また、粒子径が小さい正極活物質を用いることで、電池抵抗が低減される。
図2は、本開示における焼成工程を例示する概略側面図である。
図2に示すように、焼成前の前駆体は、二次粒子を有し、その二次粒子の内部に水溶性高分子(例えば、カルボキシメチルセルロース、CMC)が導入されている。焼成時に、CMCが分解することにより、二次粒子の構造が崩壊する。その結果、粒子径が小さい正極活物質(複合酸化物)が得られる。なお、
図2では、便宜上、一次粒子の断面を矩形で表現しているが、矩形には限定されず、円形等の他の形状も含まれる。一次粒子の形状は、例えば、棒状であってもよく、球状であってもよい。
【0024】
上述したように、特許文献1には、有機化合物粒子を用いて、焼成体の解砕性を向上させることが開示されている。しかしながら、固体である有機化合物粒子は、二次粒子の内部に侵入することができない。そのため、二次粒子の構造は崩壊せず、維持される。特に、特許文献1の[0089]には、二次粒子自体が破壊されない旨が明記されている。これに対して、本開示においては、二次粒子の内部に、水溶性高分子を積極的に導入することで、焼成時に、二次粒子の構造を崩壊させる。これにより、粒子径が小さい正極活物質が得られる。
【0025】
1.準備工程
本開示における準備工程は、Li、および、Me(Meは、Ni、Co、Mn、AlおよびFeの少なくとも一種である)を含有する前駆体を準備する工程である。また、準備工程において、水溶性高分子を溶解させた高分子含有水溶液を用いて、前駆体を構成する二次粒子の内部に、水溶性高分子を導入する。すなわち、前駆体を構成する二次粒子の内部には、水溶性高分子が導入されている。
【0026】
本開示において、「前駆体を構成する二次粒子」とは、前駆体全体を構成する一または二以上の化合物のうち、少なくとも一つの化合物に該当する二次粒子をいう。また、「二次粒子」とは、一次粒子が凝集した粒子をいう。また、「二次粒子の内部」とは、凝集した一次粒子間に存在する空隙をいう。
【0027】
また、前駆体は、Meを含有するMe化合物と、Liを含有するLi化合物とを有する混合物であってもよい。この場合、Me化合物およびLi化合物の少なくとも一方が、二次粒子であることが好ましい。二次粒子であるMe化合物の内部に、水溶性高分子が導入されていてもよい。また、二次粒子であるLi化合物の内部に、水溶性高分子が導入されていてもよい。
【0028】
Me化合物は、Meを含有し、かつ、焼成により所望の複合酸化物を合成可能な化合物であれば、特に限定されない。Me化合物としては、例えば、Meを含有する水酸化物、Meを含有する酸化物が挙げられる。また、前駆体は、1種のMe化合物のみを含有していてもよく、2種以上のMe化合物を含有していてもよい。例えば、前駆体が、MeとしてNi、CoおよびMnを含有する場合、1種のMe化合物としては、Ni、CoおよびMnを含有する単一の化合物が挙げられる。一方、2種以上のMe化合物としては、例えば、Ni化合物と、Co化合物と、Mn化合物との混合物が挙げられる。
【0029】
Li化合物は、Liを含有し、かつ、焼成により所望の複合酸化物を合成可能な化合物であれば、特に限定されない。Li化合物としては、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウムが挙げられる。
【0030】
また、準備工程においては、水溶性高分子を溶解させた高分子含有水溶液を用いて、前駆体を構成する二次粒子の内部に、水溶性高分子を導入する。高分子含有水溶液は、水溶性高分子および水を含有する。水溶性高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等の(メタ)アクリル系ポリマー;ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体等のポリビニルアルコール系ポリマーが挙げられる。水溶性高分子の分解温度は、例えば600℃以下であり、500℃以下であってもよい。一方、水溶性高分子の分解温度は、例えば120℃以上であり、200℃以上であってもよい。なお、水溶性高分子の分解温度とは、水溶性高分子が熱分解する温度をいう。また、水溶性高分子の重量平均分子量は、例えば1000以上であり、10,000以上であってもよい。
【0031】
高分子含有水溶液における水溶性高分子の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1重量%以上、5重量%以下である。また、高分子含有水溶液が、水溶性高分子としてカルボキシメチルセルロースを含む場合、高分子含有水溶液におけるカルボキシメチルセルロースの濃度は、例えば0.5重量%以上である。また、上記濃度は、例えば2.0重量%以下であり、1.5重量%以下であってもよい。高分子含有水溶液の粘度は、例えば100Pa・s以下であり、80Pa・s以下であることが好ましい。
【0032】
高分子含有水溶液を用いて、前駆体を構成する二次粒子の内部に、水溶性高分子を導入する方法は、特に限定されない。例えば、高分子含有水溶液と、前駆体を構成する二次粒子とを接触させることにより、高分子含有水溶液を、前駆体を構成する二次粒子の内部に浸透させ、その後、乾燥することで、高分子含有水溶液に含まれる水分を除去する方法が挙げられる。また、水溶性高分子を導入するタイミングは、特に限定されない。例えば、Me化合物およびLi化合物を混合した後に、高分子含有水溶液を添加し、その後、乾燥することで、混合物に水溶性高分子を導入してもよい。また、Me化合物およびLi化合物を混合する前に、Me化合物およびLi化合物の少なくとも一方に、水溶性高分子を導入してもよい。また、Me化合物の作製中に、水溶性高分子を導入してもよい。
【0033】
図3は、本開示における準備工程を例示するフローチャートである。
図3においては、まず、Meを含有するMe原料を、溶媒に溶解させて原料溶液を作製する(原料溶液作製処理)。例えば、Niを含有する無機塩、Coを含有する無機塩、および、Mnを含有する無機塩を、水に溶解させて、原料溶液を得る。次に、原料溶液から、Me化合物を、沈殿物として作製する(沈殿物作製処理)。例えば、原料溶液を中和することで、Me化合物の沈殿物を得る。次に、Me化合物をろ過して、洗浄する(洗浄処理)。次に、洗浄されたMe化合物と、Li化合物とを混合する(混合処理)。これにより、前駆体が得られる。
【0034】
原料溶液作製処理では、Meを含有するMe原料を、溶媒に溶解させて原料溶液を作製する。Me原料としては、例えば、Meを含有する塩が挙げられる。このような塩としては、例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩化物が挙げられる。溶媒としては、例えば水が挙げられる。本開示では、原料溶液作製処理において、水溶性高分子を導入してもよい。例えば、Me原料を溶媒に溶解させる際に、水溶性高分子を同時に添加したり、水溶性高分子を溶解させた高分子含有水溶液を添加したりしてもよい。
【0035】
沈殿物作製処理では、原料溶液から、Meを含有するMe化合物を、沈殿物として作製する。Me化合物の沈殿物を得る方法は、特に限定されず、一般的な晶析方法を用いることができる。晶析方法としては、例えば、中和、濃縮が挙げられる。例えば、原料溶液が酸性である場合は、アルカリ性の溶液を添加することで、Me化合物が得られる。アルカリ性の溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化カリウム溶液が挙げられる。Me化合物は、水酸化物であることが好ましい。一方、原料溶液がアルカリ性である場合は、酸性の溶液を添加することで、Me化合物が得られる。また、原料溶液に錯化材を添加してもよい。錯化材としては、例えば、アンモニア水溶液が挙げられる。本開示では、沈殿物作製処理において、水溶性高分子を導入してもよい。例えば、原料溶液を中和する前または後に、水溶性高分子を添加したり、原料溶液を中和する際に、水溶性高分子を溶解させた高分子含有水溶液を同時に添加したりしてもよい。
【0036】
洗浄処理では、Me化合物を、洗浄液を用いて洗浄する。洗浄液としては、例えば、水が挙げられる。本開示では、洗浄処理において、水溶性高分子を導入してもよい。例えば、洗浄液として、水溶性高分子を溶解させた高分子含有水溶液を用いてもよい。
【0037】
混合処理では、洗浄されたMe化合物と、Li化合物とを混合する。Li化合物については、上述した通りである。本開示においては、混合処理において、水溶性高分子を導入してもよい。例えば、Me化合物およびLi化合物を混合する際に、水溶性高分子を溶解させた高分子含有水溶液を添加してもよい。
【0038】
前駆体の形状は、特に限定されず、粉末であってもよく、成形体であってもよい。
【0039】
2.焼成工程
本開示における焼成工程は、上記前駆体を焼成し、上記複合酸化物を得る工程である。焼成工程における焼成温度は、所望の複合酸化物が得られる温度であれば特に限定されない。また、焼成温度は、水溶性高分子の分解温度以上の温度であることが好ましい。焼成温度は、例えば500℃以上であり、700℃以上であってもよく、900℃以上であってもよい。一方、焼成温度は、例えば1500℃以下である。焼成時間は、例えば、1時間以上であり、5時間以上であってもよい。一方、焼成時間は、例えば30時間以下である。
【0040】
焼成時の雰囲気としては、例えば、酸素含有雰囲気が挙げられる。酸素含有雰囲気としては、例えば、大気圧雰囲気、および、不活性ガスに酸素ガスを添加した雰囲気が挙げられる。焼成方法としては、例えば、マッフル炉等の炉を用いる方法が挙げられる。
【0041】
3.解砕工程
本開示における解砕工程は、上記焼成工程の後に、上記複合酸化物を解砕する工程である。解砕工程を行うことで、二次粒子間の焼結ネッキングが解砕される。解砕工程では、通常、二次粒子自体の構造は破壊されない。複合酸化物を解砕する方法としては、例えば、機械的エネルギーを付与する方法が挙げられ、具体例としてジェットミルが挙げられる。また、解砕条件は、後述する正極活物質が得られるように、適宜調整する。
【0042】
4.正極活物質
本開示における正極活物質は、Li、および、Me(Meは、Ni、Co、Mn、AlおよびFeの少なくとも一種である)を含有する複合酸化物を含む。
【0043】
複合酸化物は、Meとして、少なくともNiを含有していてもよい。同様に、複合酸化物は、Meとして、少なくともCoを含有していてもよい。同様に、複合酸化物は、Meとして、少なくともMnを含有していてもよい。また、複合酸化物は、Meとして、Ni、Co、Mnの少なくとも一種を含有していてもよい。同様に、複合酸化物は、Meとして、Ni、Co、Alの少なくとも一種を含有していてもよい。また、複合酸化物は、Meとして、Ni、Co、Mnの少なくとも一種であるMeXを含有し、MeXの一部が、AlおよびFeの少なくとも一方であるMeYで置換されていてもよい。
【0044】
複合酸化物において、体積基準の累積粒度分布における微粒側から累積10%の粒子径をD10とし、累積50%の粒子径をD50とし、累積90%の粒子径をD90とする。D50は、例えば0.3μm以上であり、0.4μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよい。D50が小さすぎると、粒子の凝集が生じやすくなる。一方、D50は、例えば1.2μm以下であり、1.1μm以下であってもよい。
【0045】
また、(D90-D10)/D50は、粒度分布の広がりを示す指標である。(D90-D10)/D50は、例えば0.9以上であり、1.0以上であってもよい。一方、(D90-D10)/D50は、例えば1.7以下であり、1.5以下であってもよい。(D90-D10)/D50が所定の範囲にあることで、正極層における正極活物質の充填率が向上する。
【0046】
複合酸化物は、かさ密度が高いことが好ましい。体積当たりのエネルギー密度が向上するからである。複合酸化物のかさ密度は、例えば1.8g/cm3以上であり、2.1g/cm3以上であってもよい。複合酸化物のかさ密度は、例えば3.0g/cm3以下であり、2.5g/cm3以下であってもよい。
【0047】
複合酸化物は、Na残渣を含有していてもよい。例えば、水溶性高分子として、ポリマーのナトリウム塩を用いた場合、焼成後の複合酸化物に、Na残渣が生じる。複合酸化物における残留Na濃度は、例えば0.010重量%以上であり、0.020重量%以上であってもよく、0.030重量%以上であってもよい。一方、複合酸化物における残留Na濃度は、例えば0.134重量%以下であり、0.100重量%以下であってもよい。
【0048】
本開示における複合酸化物は、結晶相を有することが好ましい。上記結晶相としては、例えば、層状岩塩型結晶相、スピネル型結晶相が挙げられる。また、本開示においては、上述した正極活物質の製造方法により得られる、正極活物質を提供することもできる。
【0049】
B.正極活物質
本開示における正極活物質は、複合酸化物を含む正極活物質であって、上記複合酸化物は、Li、および、Me(Meは、Ni、Co、Mn、AlおよびFeの少なくとも一種である)を含有し、上記複合酸化物において、体積基準の累積粒度分布における微粒側から累積10%の粒子径をD10とし、累積50%の粒子径をD50とし、累積90%の粒子径をD90とした場合に、D50が0.3以上1.2以下であり、(D90-D10)/D50が0.9以上1.7以下であり、上記複合酸化物における残留Na濃度が、0.01重量%以上、0.1重量%以下である。
【0050】
本開示によれば、所定の粒子径を有することで、抵抗が低い電池を得ることが可能な正極活物質となる。本開示における正極活物質の詳細については、上記「A.正極活物質」に記載した内容と同様である。また、本開示における正極活物質は、電池に用いられる。
【0051】
C.リチウムイオン二次電池
図4は、本開示におけるリチウムイオン二次電池を例示する概略断面図である。
図4に示すリチウムイオン二次電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層20の間に配置された電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、を有する。正極層1は、上記「B.正極活物質」に記載した正極活物質を含有する。
【0052】
本開示によれば、所定の正極活物質を用いることで、抵抗が低いリチウムイオン二次電池となる。
【0053】
正極層は、少なくとも正極活物質を含有する。正極活物質については、上記「B.正極活物質」に記載した内容と同様である。正極層は、必要に応じて、電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。電解質の詳細については後述する。導電材としては、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有バインダーが挙げられる。また、正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0054】
負極層は、少なくとも負極活物質を含有する。負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金等のLi系活物質;グラファイト、ハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の酸化物系活物質;Si単体、Si合金、酸化ケイ素等のSi系活物質が挙げられる。負極層は、必要に応じて、電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。これらの材料については、上述した通りである。また、負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0055】
電解質層は、少なくとも電解質を含む。電解質としては、例えば、液体電解質(電解液)、ゲル電解質、固体電解質が挙げられる。電解液は、例えば、リチウム塩および溶媒を有する。リチウム塩としては、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6等の無機リチウム塩;LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiC(SO2CF3)3等の有機リチウム塩が挙げられる。溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)が挙げられる。
【0056】
ゲル電解質は、通常、電解液にポリマーを添加することにより得られる。ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドが挙げられる。固体電解質としては、例えば、ポリマー電解質等の有機固体電解質;硫化物固体電解質、酸化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。また、電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。電解質層は、セパレータを有していてもよい。
【0057】
本開示におけるリチウムイオン二次電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。また、本開示におけるリチウムイオン二次電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0058】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0059】
[実施例1]
Me原料として、NiSO4、CoSO4およびMnSO4を準備し、これらをイオン交換水に溶解させて、原料溶液(濃度:30重量%)を作製した。原料溶液におけるNi、CoおよびMnのモル比は、Ni:Co:Mn=1:1:1とした。
【0060】
次に、反応容器中にNH3水溶液(錯化材)を一定量入れ、スターラーで撹拌しながら窒素置換した。その反応容器内に、NaOHを加えpHをアルカリ性に調整した。NaOHにより反応容器内を一定のpHに制御しながら、原料溶液およびNH3水溶液を滴下し、Me化合物(水酸化物の二次粒子)を沈殿させた。
【0061】
次に、Me化合物を含む溶液をろ過し、ろ紙上に残った残渣(Me化合物)を、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩(CMC-Na)を0.5重量%の濃度で溶解させた高分子含有水溶液で洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥させ、水分を蒸発させた。これにより、Me化合物の内部に、CMCを導入した。
【0062】
次に、CMCを導入したMe化合物と、Li化合物(Li2CO3)とを乳鉢で混合した。得られた混合物を、マッフル炉を用いて、1000℃で10時間焼成し、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を、ジェットミルを用いて解砕し、正極活物質を得た。
【0063】
[実施例2]
高分子含有水溶液におけるCMC濃度を、1.0重量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を得た。
【0064】
[実施例3]
高分子含有水溶液におけるCMC濃度を、1.5重量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を得た。
【0065】
[実施例4]
高分子含有水溶液におけるCMC濃度を、2.0重量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を得た。
【0066】
[比較例1]
高分子含有水溶液におけるCMC濃度を、0重量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を得た。
【0067】
[評価]
(粒度分布測定)
実施例1~4および比較例1で得られた正極活物質に対して、粒度分布測定を行った。測定には、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(MT3000、マイクロトラック・ベル株式会社)を用い、体積基準の累積粒度分布における微粒側から累積10%の粒子径D10、累積50%の粒子径D50、および累積90%の粒子径D90を求めた。その結果を表1に示す。
【0068】
(かさ密度測定)
実施例1~4および比較例1で得られた正極活物質に対して、かさ密度測定を行った。測定には、粉体特性評価装置(パウダテスタPT-X、ホソカワミクロン株式会社)を用い、タップのストロークを3mmとし、回数を200回とし、速度を100回/分とした。その結果を表1に示す。
【0069】
(残留Na量測定)
実施例1~4および比較例1で得られた正極活物質に対して、残留Na量測定を行った。測定には、ICP発光分光分析装置(ICPE-9800、株式会社島津製作所)を用いた。その結果を表1に示す。
【0070】
(初期抵抗測定)
実施例1~4および比較例1で得られた正極活物質を用いて電池を作製し、電池の初期抵抗を測定した。電池の作製方法は、以下の通りである。まず、得られた正極活物質と、導電材(アセチレンブラック)およびバインダー(ポリフッ化ビニリデン)とを、重量比で、正極活物質:導電材:バインダー=88:10:2の割合で秤量し、これらを混合した。得られた混合物に分散媒を添加し、撹拌することで、正極スラリーを得た。得られた正極スラリーを、フィルムアプリケーター(膜厚調整機能付き、オールグッド株式会社)にて、正極集電体上に塗工し、その後、80℃で5分間乾燥させた。これにより、正極集電体および正極層を有する正極構造体を得た。
【0071】
次に、負極活物質(天然黒鉛)およびバインダー(SBRおよびCMC)を混合し、得られた混合物に分散媒を添加し、撹拌することで、負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを、フィルムアプリケーターにて、負極集電体上に塗工し、その後、80℃で5分間乾燥させた。これにより、負極集電体および負極層を有する負極構造体を得た。
【0072】
正極構造体における正極層と、負極構造体における負極層とを、セパレータを介して対向させ、捲回し、電解液を注入することで、電池を得た。電解液として、EC、DMCおよびEMCを、EC:DMC:EMC=3:4:3の体積比で含有した混合溶媒に、LiPF6を1Mとなるように溶解させたものを用いた。
【0073】
得られた電池を、4.1Vまで充電し、その後、3.0Vまで放電した。その後、3.7Vまで充電し、60℃で9時間静置した。その後、-10℃で、3.7V、1Cにおける10秒間の充電抵抗を測定し、初期抵抗とした。その結果を表1に示す。なお、初期抵抗は、比較例1を100%とした場合の相対値として求めた。
【0074】
(活物質の分散性)
実施例1~4および比較例1で得られた正極活物質を用いて、上記と同様にして、正極層を作製した。得られた正極層の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、正極層における正極活物質の分散性を評価した。正極活物質の分散性は、正極層の断面画像(1000倍、20μm×100μm)を、20に分割した画像(1μm×1μm)を用い、以下の式により算出した。
【0075】
【0076】
上記の式において、σ2は、正極活物質の分散性であり、nは分割数(n=20)であり、Xiは、i番目の画像における正極活物質の体積であり、Xaveは、正極活物質の各体積の平均である。
【0077】
【0078】
表1に示すように、実施例1~4は、比較例1に比べて、正極活物質のD50を小さくすることができた。特に、実施例2、3では、D50が顕著に小さくなった。また、実施例1~4は、比較例1に比べて、(D90-D10)/D50が高く、正極層における正極活物質の充填率向上に寄与することが示唆された。特に、実施例1~3は、(D90-D10)/D50が顕著に高かった。また、実施例1~4は、比較例1に比べて、かさ密度が高く、体積当たりのエネルギー密度向上に寄与することが確認された。特に、実施例1~3では、かさ密度が顕著に高かった。また、実施例1~4では、CMC-Naに起因するNa残渣が確認された。また、実施例3では、正極活物質の分散性が顕著に高かった。また、実施例1~4は、比較例1に比べて、初期抵抗が低く、電池性能の向上が確認された。特に、実施例1~3は、初期抵抗が顕著に低かった。
【符号の説明】
【0079】
1 …正極層
2 …負極層
3 …電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
10 …リチウムイオン二次電池